特許第5965290号(P5965290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965290アナログ/デジタル変換器及びアナログ/デジタル変換器の自己診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965290
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】アナログ/デジタル変換器及びアナログ/デジタル変換器の自己診断方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/10 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   H03M1/10 C
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-240133(P2012-240133)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-90362(P2014-90362A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】新井 和幸
(72)【発明者】
【氏名】瀬崎 勲
【審査官】 白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−295097(JP,A)
【文献】 特開2011−223404(JP,A)
【文献】 特開平02−268520(JP,A)
【文献】 特開平05−175839(JP,A)
【文献】 特開2011−120011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナログ入力電圧が入力される入力端子と、
デジタル/アナログ変換部と、
前記アナログ入力電圧と前記デジタル/アナログ変換部の出力電圧とを比較するコンパレータと、
前記コンパレータから出力される変換結果を格納する逐次比較レジスタと、
前記逐次比較レジスタが保持する前記変換結果へ所定の値を加算及び減算した加算デジタルデータ及び減算デジタルデータを生成する生成部と、
前記デジタル/アナログ変換部が前記加算デジタルデータ及び減算デジタルデータを変換した各出力レベルと、前記アナログ入力電圧とを比較した結果を用いて故障が発生しているか否かを判定する判定部と、を備えるアナログ/デジタル変換器。
【請求項2】
前記判定部は、前記アナログ入力電圧が、前記加算デジタルデータを変換した第1出力レベルより低く、前記減算デジタルデータを変換した第2出力レベルより大きい場合には故障無と判定し、他の場合には故障有と判定する請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項3】
前記デジタル/アナログ変換部は、前記加算デジタルデータ及び前記減算デジタルデータを変換した前記第1出力レベル及び前記第2出力レベルを前記コンパレータへ出力し、
前記コンパレータは、前記アナログ入力電圧と、前記第1出力レベルとを比較した第1比較結果と、前記アナログ入力電圧と前記第2出力レベルとを比較した第2比較結果とを前記判定部へ出力し、
前記判定部は、前記第1比較結果及び前記第2比較結果に基づいて故障の有無を判定する請求項2記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項4】
前記所定の値を格納する設定部を、さらに備える請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項5】
前記所定の値は、当該A/D変換器の総合誤差以上のデジタル値である請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項6】
前記総合誤差は、ユーザの使用環境によって変化する値であり、アナログデジタル変換するビット数、供給される電圧、及び、アナログデジタル変換のオプション機能を使用するか否かのうちの少なくともいずれかに応じて変化する値である請求項5記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項7】
前記コンパレータは、アナログデータをデジタルデータへ変換するときに、変換するビット数に加え、さらに2回の比較を実施する請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項8】
前記コンパレータは、前記変換するビット数の回数の比較を繰り返した後、前記加算デジタルデータ及び減算デジタルデータを変換した出力レベルと前記アナログ入力電圧とを比較する請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項9】
前記デジタル/アナログ変換部は、
デジタル/アナログ変換器と、
前記デジタル/アナログ変換器へ、逐次比較レジスタが保持する前記変換結果、前記加算デジタルデータ、及び前記減算デジタルデータのうちの一つを出力する入力値制御回路と、を有する請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項10】
前記入力値制御回路は、変換するビットの回数、前記変換結果を出力した後、前記加算デジタルデータ及び前記減算デジタルデータを順番に出力するように構成されている請求項9記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項11】
前記判定部は、前記アナログ入力電圧をデジタルデータに変換する毎に、故障が発生しているか否かを判定する請求項1記載のアナログ/デジタル変換器。
【請求項12】
コンパレータと、デジタル/アナログ変換器とを少なくとも有するアナログ/デジタル変換器の自己診断方法であって、
前記アナログ/デジタル変換器がアナログ入力電圧をデジタルデータへ変換し、
前記変換されたデジタルデータへ、所定の値を加算した加算デジタルデータと、前記所定の値を減算した減算デジタルデータとを生成し、
前記コンパレータが、前記デジタル/アナログ変換器によって前記加算デジタルデータ及び前記減算デジタルデータをアナログデータに変換した各出力レベルと、前記アナログ入力電圧とを比較し、
比較した結果を用いて故障が発生しているか否かを判定する、アナログ/デジタル変換器の自己診断方法。
【請求項13】
前記故障が発生しているか否かの判定は、前記アナログ入力電圧が、前記加算デジタルデータを変換した第1出力レベルより低く、前記減算デジタルデータを変換した第2出力レベルより大きい場合には故障無と判定し、他の場合には故障有と判定する請求項12記載のアナログ/デジタル変換器の自己診断方法。
【請求項14】
前記デジタル/アナログ変換部が、前記変換結果、前記加算デジタルデータ、及び前記減算デジタルデータのうちの一つを出力するタイミングを制御する請求項12記載のアナログ/デジタル変換器の自己診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はA/D変換器(アナログデジタルコンバータ)に関し、例えば、車載制御を実施するような高い安全性を必要とするMicro Controller Unit(以降、MCUと記載)等に搭載するA/D変換器の自己診断の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車は、様々な機能を有しており、これらの機能を実現するための車載システムを搭載している。しかし、自動車における故障の発生は人命に関わってくるため、車載システムには高信頼性が強く求められている。
このような車載システムには、多数のアナログ出力センサが搭載されており、その出力値を利用して、システム制御を実施している。例えば、エアバッグでは加速度や圧力などをアナログ出力センサによりアナログ信号に変換しMCUに入力する。MCUは、入力されたアナログ信号を定期的にAD(アナログ‐デジタル)変換し、AD変換結果に応じて衝突事故が起こったかを判定する。
上述したエアバッグの例のように、アナログ出力センサが出力するアナログ電圧は、MCU搭載のA/D変換器を使用し、デジタルデータとして取得することが一般的である。ゆえに、車載システムにおいて、A/D変換器の故障は、システムに致命的なエラーを発生させる可能性があるため、A/D変換器に対して確実に故障検出を行うことが要求される。
【0003】
A/D変換器は、逐次比較型が広く用いられている。逐次比較型のA/D変換器は、D/A変換器を備えており、アナログ入力信号とD/A変換器のフィードバック信号を1bitずつ比較して変換を行うものである。すなわち、D/A変換器が故障していると、A/D変換器は正しいA/D変換結果を出力しないため、システム全体として正しく動作できない。
【0004】
特許文献1にD/A変換器の故障を検出する技術が開示されている。特許文献1の技術では、まず、D/A変換器から出力する所望のアナログ電圧に相当するデジタルデータを自己診断対象のD/A変換器に入力し、D/A変換器が出力するアナログ電圧を、MCUに搭載しているA/D変換器でAD変換する。そして、得られたデジタルデータを自己診断対象のD/A変換器に入力したデジタルデータと比較して差分が妥当であるかを確認する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−71459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、A/D変換器に内蔵するD/A変換器を故障診断に用いる。この場合、A/D変換器が通常のAD変換を実施している時にD/A変換器を用いて故障を診断することができない。加えて、A/D変換器が通常のAD変換を実施している時にD/A変換器を用いて故障を診断する場合、A/D変換器とは別の故障診断専用のA/D変換器が必要となるため、回路規模が増大する。
【0007】
発明者らは、回路規模を増大させることなく、A/D変換器の故障診断の精度を向上させる技術を発見した。
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によれば、アナログ/デジタル変換器及び、アナログ/デジタル変換器の自己診断方法は、アナログ入力電圧をデジタルデータへ変換し、変換されたデジタルデータへ、所定の値を加算した加算デジタルデータと、所定の値を減算した減算デジタルデータとを生成する。そして、デジタル/アナログ変換器がアナログデータに変換した各出力レベルと、アナログ入力電圧とを比較した結果を用いて故障が発生しているか否かを判定する。
【発明の効果】
【0009】
一実施形態によれば、回路規模を増大させることなく、A/D変換器の故障診断の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態のA/D変換器の構成例を示すブロック図である。
図2】実施形態1のA/D変換器の自己診断システムの構成例を示すブロック図である。
図3図2の実施形態1のA/D変換器自己診断システムにおける動作例を示すタイミングチャートである。
図4】実施形態1のD/A変換器が正常である場合の動作例を示すための動作説明図である。
図5】実施形態1のD/A変換器がOPEN故障しているスイッチを使用する場合の動作例を示すための動作説明図である。
図6】実施形態1のD/A変換器がOPEN故障しているがOPEN故障のスイッチを使用しない場合の動作例を示すための動作説明図である。
図7】特許文献1に記載のD/A変換器故障診断機能を搭載した半導体集積回路の構成を示すブロック図である。
図8】実施形態2のA/D変換器をコンピュータ装置に搭載する構成例を示すブロック図である。
図9】実施形態2のA/D変換器の自己診断システムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0012】
*発明の概要
一実施形態のA/D変換器は、アナログ入力電圧とD/A変換器の出力電圧とを比較するコンパレータを備える逐次比較型のA/D変換器である。A/D変換器は、コンパレータから出力される変換結果を逐次比較レジスタに格納し、変換結果に対して、所定の値(デジタルデータα、デジタルデータαの値はゼロ以上の数値)を加算及び減算したデジタルデータを生成する。コンパレータにて、デジタルデータαを加算及び減算したデジタルデータに応じたD/A変換器の出力レベルと、アナログ入力電圧とを比較した結果によって故障診断を行う。デジタルデータαは、あらかじめ設定し保持される値である。図1に、一実施形態のA/D変換器80の構成例を示す。
【0013】
A/D変換器80は、アナログ入力電圧が入力される入力端子81、デジタル/アナログ変換部(D/A変換部)82、コンパレータ83、逐次比較レジスタ(SAR)84、生成部85、及び判定部86を備える。
コンパレータ83は、アナログ入力電圧とD/A変換部の出力電圧とを比較する。
逐次比較レジスタ84は、コンパレータ83から出力される変換結果を格納する。逐次比較レジスタ84は、変換結果を、D/A変換部82及び生成部85へ出力するように構成される。
生成部85は、逐次比較レジスタ84が保持する変換結果へデジタルデータαを加算した加算デジタルデータ、及び変換結果からデジタルデータαを減算した減算デジタルデータを生成する。
【0014】
判定部86は、D/A変換部82が加算デジタルデータ及び減算デジタルデータを変換した出力レベルと、アナログ入力電圧とを比較し、比較結果を用いて故障が発生しているか否かを判定する。具体的には、判定部86は、D/A変換部82が加算デジタルデータを変換した第1出力レベルと、アナログ入力電圧とを比較した第1比較結果と、D/A変換部82が減算デジタルデータを変換した第2出力レベルと、アナログ入力電圧とを比較した第2比較結果とを用いて判定する。
A/D変換器80は、判定部86に第1及び第2比較結果を得られるように構成される。具体的には、まず、A/D変換器80は、生成部85が生成する加算デジタルデータ及び減算デジタルデータをD/A変換部82へ出力する。次に、D/A変換部82は、加算デジタルデータ及び減算デジタルデータを変換した第1出力レベル及び第2出力レベルを、所定のタイミングにおいてコンパレータ83へ出力する。そして、A/D変換器80は、コンパレータ83が、アナログ入力電圧と、第1出力レベルとを比較した第1比較結果と、アナログ入力電圧と第2出力レベルとを比較した第2比較結果とを、判定部86へ出力するように構成される。判定部86は、コンパレータ83から第1比較結果及び第2比較結果が出力されると、故障であるか否かを判定し結果を出力するように構成される。
【0015】
一実施形態の故障診断は、コンパレータ83の比較結果が、変換結果へデジタルデータαを加算した場合にアナログ入力電圧の方が小さい、且つ変換結果からデジタルデータαを減算した場合にアナログ入力電圧の方が大きいと、A/D変換器80が正常であると判定する。具体的には、判定部86は、アナログ入力電圧が、加算デジタルデータを変換した第1出力レベルより低く、減算デジタルデータを変換した第2出力レベルより大きい場合には故障無と判定する。一方、判定部86はその他の場合、即ち、アナログ入力電圧が、第1出力レベル以上と、第2出力レベル以下とのいずれかである場合には故障有と判定する。
上述した構成によって故障診断を実現するため、A/D変換器80自身で1回のA/D変換毎に常時故障診断が可能となる。
【0016】
なお、図1において、A/D変換器80は、デジタルデータαを生成部85が保持するように構成されていてもよいし、デジタルデータαを保持するレジスタを備えていてもよい。加えて、A/D変換器80は、デジタルデータαを外部から変更できるように構成されていてもよい。
また、デジタルデータαは、ユーザが可変設定する値である。デジタルデータαは、A/D変換器80の総合誤差に基づいて設定する必要がある。A/D変換器80の総合誤差は、ユーザの使用環境によって変化する値である。ユーザの使用環境に影響する要素には、AD変換ビット数(例えば、12bit変換モード/10bit変換モード)、A/D変換器80に供給される電圧(AD基準電圧:AnVREF)、AD変換のオプション機能(チャネルサンプルホールド機能)の使用有/無、などが含まれる。
図1を参照して一実施形態のA/D変換器80の概要を説明した。各実施形態では、A/D変換器80の具体的な回路構成等を含む構成例を説明する。
【0017】
実施形態1
* 実施形態1の構成
図2は、実施形態1の逐次比較型のA/D変換器の構成例を示すブロック図である。
A/D変換器100は、アナログ入力端子(以下適宜、「ANI」と記載する)1、D/A変換器2、コンパレータ3、SARレジスタ(SAR)4、α設定レジスタ5、入力値制御回路(D/A変換器入力値制御回路)6、SAR+α生成回路7、SAR−α生成回路8、SAR+α比較結果レジスタ9、SAR−α比較結果レジスタ10、及び期待値判定回路11を備える。
【0018】
コンパレータ3は、アナログ入力端子1に入力された電圧とD/A変換器2から出力されるアナログ電圧とを比較する。
SARレジスタ4は、逐次比較方式で行った結果を格納する。
α設定レジスタ5は、SARレジスタ4に格納されたデータに加算・減算するデジタルデータαを保持する。
入力値制御回路6は、D/A変換器2に出力するデジタルデータを選択する。
SAR+α生成回路7は、SARレジスタ4に格納されたデータにデジタルデータαを加算したデジタルデータSAR+α(加算デジタルデータ)を入力値制御回路6に出力する。
SAR−α生成回路8は、SARレジスタ4に格納されたデータからデジタルデータαを減算したデジタルデータSAR−α(減算デジタルデータ)を入力値制御回路6に出力する。
【0019】
SAR+α比較結果レジスタ9は、ANI1に入力された電圧とデジタルデータSAR+αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧をコンパレータ3で比較した結果(SAR+α比較結果、第1比較結果)を格納する。
SAR−α比較結果レジスタ10は、ANI1に入力された電圧とデジタルデータSAR−αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧をコンパレータ3で比較した結果(SAR−α比較結果、第2比較結果)を格納する。
期待値判定回路11は、SAR+α比較結果とSAR−α比較結果とが、期待値であるか否かを判定する。期待値は、SAR−α比較結果が「ANI1に入力された電圧はデジタルデータSAR+αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧よりも小さい」、SAR−α比較結果が「ANI1に入力された電圧はデジタルデータSAR−αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧よりも大きい」というものである。
デジタルデータαは、A/D変換器の特性である総合誤差以上の値で、ユーザが許容できる誤差として設定される。例えば、A/D変換器100の総合誤差が±1LSBの場合、α=2を設定する。
【0020】
また、A/D変換器100は、図1のA/D変換器80の構成要素と次のように対応づけられる。D/A変換器2及び入力値制御回路6がD/A変換部182を構成し、D/A変換部82に相当する。α設定レジスタ5、SAR+α生成回路7、及びSAR−α生成回路8が生成部185を構成し、生成部85に相当する。SAR+α比較結果レジスタ9、SAR−α比較結果レジスタ10、及び期待値判定回路11が判定部186を構成し、判定部86に相当する。
SAR+α生成回路7は、α加算生成回路、または第1生成回路ともいう。SAR−α生成回路8は、α減算生成回路、または第2生成回路ともいう。SAR+α比較結果レジスタ9は、SAR+α比較結果格納レジスタ、α加算比較結果レジスタ、または第1比較結果レジスタともいう。SAR−α比較結果レジスタ10は、SAR−α比較結果格納レジスタ、α減算比較結果レジスタ、または第2比較結果レジスタともいう。
【0021】
* 実施形態1の動作又は製造方法等
図3は、図2の本実施形態のA/D変換器100の動作例を示すタイミングチャートである。図3では、A/D変換器100が、アナログ入力の1回のサンプリング電圧に対してAD変換を実施し、その変換結果の故障診断を実施する動作例を示している。また、以下の説明において、A/D変換器100は、4bitの逐次比較型であるものとする。また更に、α設定レジスタ5のデジタルデータ値も説明の簡単化のためα=1としている。先ず、図2を参照しながら、図3を用いてA/D変換器100の基本動作について説明する。
【0022】
期間t1:
A/D変換器100は、AD変換トリガを受け付ける。ここでAD変換トリガとは、例えばMCUに内蔵するインターバルタイマからの定期的なAD変換要求信号である。
【0023】
期間t2:
逐次比較型のAD変換を行うため、A/D変換器100は、ANI1から入力するアナログ電圧のサンプリングを行う。
【0024】
期間t3:
A/D変換器100は、まず、入力値制御回路6が出力する出力データをD/A変換器2でDA変換する。次に、D/A変換器2から出力されるアナログ電圧と、期間t2でサンプリングしたANI1に印加されているアナログ電圧との比較をコンパレータ3で行う。このとき、A/D変換器100は、4bitの逐次変換型であるため、この動作を1回目の比較から4回目の比較まで4回繰り返す(4bit逐次比較型AD変換)。
A/D変換器100は、このAD変換によって得られたAD変換結果のデータをSARレジスタ4に格納する。
【0025】
期間t4:
A/D変換器100は、SAR+α生成回路7がSARレジスタ4に格納されているデータに対して、α設定レジスタ5で設定したデジタルデータαを加算したデジタルデータSAR+αを、入力値制御回路6に入力する。そして、コンパレータ3においてD/A変換器2から出力されたアナログ電圧と、ANI1に印加されている電圧との比較を行い、その結果をSAR+α比較結果レジスタ9に格納する。
【0026】
期間t5:
A/D変換器100は、SAR−α生成回路8がSARレジスタ4に格納されているデータに対して、α設定レジスタ5で設定したデジタルデータαを減算したデジタルデータSAR−αを、入力値制御回路6に入力する。そして、コンパレータ3においてD/A変換器2から出力されたアナログ電圧と、ANI1に印加されている電圧との比較を行い、その結果をSAR−α比較結果レジスタ10に格納する。
【0027】
期間t6:
A/D変換器100は、SAR+α比較結果レジスタ9及びSAR−α比較結果レジスタ10に期待値が格納されているかを期待値判定回路11で判定する。具体的には、期待値判定回路11は、SAR+α比較結果レジスタ9に「ANI1に入力された電圧はデジタルデータSAR+αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧よりも小さい」という結果が格納されているかを判定する。また、期待値判定回路11は、SAR−α比較結果レジスタ10に「ANI1に入力された電圧はデジタルデータSAR−αをD/A変換器2でDA変換したアナログ電圧よりも大きい」という結果が格納されているかを判定する。A/D変換器100は、期待どおりの結果が得られていなければSARレジスタ4に格納されているAD変換結果は正しくないと判定し、期待値判定回路11が故障検出信号を出力する。
【0028】
例えば、A/D変換器100は、AD変換トリガを受け付けた後、A/D変換器100のクロックに同期して期間をカウントするカウンタを有する。カウンタの値は、期間t1ではゼロ、期間t2では1、期間t3では2〜5、期間t4では6、期間t5では7、期間t6では8のように設定する。入力値制御回路6は、カウンタの値によって、SARレジスタ4、SAR+α生成回路7、及びSAR−α生成回路8のうちの一つのデータを選択し、選択したデータをD/A変換器2へ出力するように構成される。具体的には、入力値制御回路6は、カウンタの値が2〜5であると、期間t3であるため、A/D変換器100の逐次変換型のビット数(ここでは4回)SARレジスタ4が保持するデータを出力する。その後、入力値制御回路6は、カウンタの値が6になると、期間t4であるため、SAR+α生成回路7が保持するデータを出力し、続いて、カウンタの値が7になると、期間t5であるため、SAR−α生成回路8が保持するデータを出力する。
加えて、SAR+α比較結果レジスタ9及びSAR−α比較結果レジスタ10は、上述したカウンタの値に応じて、期間t4またはt5にコンパレータ3から出力される判定結果を適切に保持するように構成される。
【0029】
また、A/D変換器100は、AD変換開始からのクロック数をカウントして、動作を制御するように構成されていてもよい。例えば、A/D変換器100は、1回のAD変換にかかるクロック数(カウンタカウント数)が定められており、そのカウント数に応じて制御動作を決める。例えば、変換トリガ受付からサンプリングを、1〜18クロック目の期間に実施する。続いて、逐次比較を19〜40クロック目の期間で実施するというように動作する。
【0030】
図4図5図6はD/A変換器2に内蔵するラダー抵抗とスイッチ(以下SWと記載)群を示す回路図に、動作例を追加した動作説明図である。
D/A変換器2は、基準となる電圧を均等に16分割するための抵抗値の等しい16個の抵抗群(ラダー抵抗)抵抗28〜42と入力値制御回路6の出力に応じて、D/A変換器2から出力するアナログ電圧を設定するスイッチ群SW13〜27を備える。
A/D変換器100では、D/A変換器2が備えるSW群のON/OFFを入力値制御回路6から出力される出力データによって制御する。入力値制御回路6は、D/A変換器2へ出力するデジタルデータとして、期間t3ではSARレジスタ4に格納されたデジタルデータを、期間t4では、SAR+α生成回路7が出力するデジタルデータを、及び期間t5では、SAR−α生成回路8が出力するデジタルデータを出力するように構成される。言い換えると、入力値制御回路6は、SARレジスタ4、SAR+α生成回路7、及びSAR−α生成回路8のいずれかが出力するデジタルデータに基づいてSW群を制御する。
【0031】
図4乃至6では、説明を容易にするため、次の事項を前提とする。ANI1に印加される電圧レベルが「5」であること。デジタルデータαが「1」(α=1)であること。加えて、SAR+α比較結果レジスタ9及びSAR−α比較結果レジスタ10は、コンパレータ3が「ANI1に印加されている電圧がD/A変換器2が出力している電圧よりも"低い"」場合には、「0」(ゼロ)を格納すること。一方、SAR+α比較結果レジスタ9及びSAR−α比較結果レジスタ10は、コンパレータ3が「ANI1に印加されている電圧がD/A変換器2が出力している電圧よりも"高い"」場合には、「1」を格納すること。デジタルデータαが「1」(α=1)であること。
【0032】
図4に、D/A変換器2が正常である場合の動作例を示す。
図4を参照しながら、図3を用いてDA変換器2に故障が無い場合の正常動作を説明する。
期間t1:
A/D変換器100は、AD変換トリガを受け付ける。
期間t2:
逐次比較型のAD変換を行うため、A/D変換器100は、ANI1から入力するアナログ電圧のサンプリングを行う。
期間t3:
D/A変換器2は、入力値制御回路6から出力される出力データに応じて、上述した4回の比較においてSW20、SW24、SW22、SW23を順次閉じる。D/A変換器2が各SWを閉じる動作に応じて、コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12を逐次D/A変換器2のアナログ出力と比較し、AD変換結果をSARレジスタ4に格納する。ここでは、A/D変換器100は、このAD変換によって得られたAD変換結果のデータ「5」をSARレジスタ4に格納する。
【0033】
期間t4:
デジタルデータSAR+α(具体的には、5+1=6)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR+αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW22を閉じ、デジタルデータSAR+αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"低い"」と判定し、判定結果「0」がSAR+α比較結果レジスタ9に格納される。
【0034】
期間t5:
デジタルデータSAR−α(具体的には、5−1=4)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR−αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW24を閉じ、デジタルデータSAR−αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"高い"」と判定し、判定結果「1」がSAR−α比較結果レジスタ10に格納される。
【0035】
期間t6:
期待値判定回路11は、SAR+α比較結果レジスタ9とSAR−α比較結果レジスタ10に格納されている値を期待値(SAR+α比較結果レジスタ9に「0」、SAR−α比較結果レジスタ10に「1」が格納されていること)と比較する。期待値判定回路11は、比較した結果、期待値と一致しているため故障検出信号を出力しないことでSARレジスタ4に格納されているAD変換結果が正常であることを通知する。
【0036】
次に、図5を参照しながら、D/A変換器2の内部にOPEN故障しているSWが存在し、正常動作できないため故障検出される場合について説明する。図5に、D/A変換器2がOPEN故障しているSWを使用する場合の動作例を示す。ここでは、SW20がOPEN故障していた場合の動作例を以下に示す。なお、OPEN故障とは、ラダー抵抗のSWを閉じることができない故障のことである。
【0037】
期間t1:
A/D変換器100は、AD変換トリガを受け付ける。
期間t2:
逐次比較型のAD変換を行うため、A/D変換器100は、ANI1から入力するアナログ電圧のサンプリングを行う。
【0038】
期間t3:
D/A変換器2は、入力値制御回路6から出力される出力データに応じて、4回の比較においてSW20、SW16、SW18、SW19を順次閉じる。D/A変換器2が各SWを閉じる動作に応じて、コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12を逐次D/A変換器2のアナログ出力と比較し、AD変換結果をSARレジスタ4に格納(通常の逐次比較型AD変換)する。1回目の比較でSW20を閉じる時、SW20がOPEN故障しており、ほぼ0Vのアナログ電圧とANI1に印加されている入力電圧12とをコンパレータ3が比較する。このため、ANI1に印加されている入力電圧12は、D/A変換器2がSW20を閉じたときに出力するアナログ電圧よりも高いと誤判定される。2回目は入力値制御回路6によってSW16を閉じるデータがD/A変換器2に入力される。2回目以降、3回目の比較、4回目の比較全てANI1に印加されている入力電圧12は、コンパレータ3によって、D/A変換器2が出力するアナログ電圧よりも低いと判定される。ここでは、A/D変換器100は、このAD変換によって得られたAD変換結果のデータ「8」をSARレジスタ4に格納する。
【0039】
期間t4:
デジタルデータSAR+α(8+1=9)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR+αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW19を閉じ、デジタルデータSAR+αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"低い"」と判定し、判定結果(「0」)はSAR+α比較結果レジスタ9に格納される。
【0040】
期間t5:
デジタルデータSAR−α(8−1=7)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR−αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW21を閉じ、デジタルデータSAR−αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"低い"」と判定し、判定結果「0」がSAR−α比較結果レジスタ10に格納される。
【0041】
期間t6:
SAR+α比較結果レジスタ9とSAR−α比較結果レジスタ10に格納されている値を期待値判定回路11が期待値(SAR+α比較結果レジスタ9に「0」、SAR−α比較結果レジスタ10に「1」が格納されていること)と比較する。期待値判定回路11は、比較した結果、期待値と異なるため故障検出信号を出力することでSARレジスタ4に格納されているAD変換結果が異常であることを通知する。
【0042】
次に、図6を参照しながら、D/A変換器2にOPEN故障しているSWが存在するが、問題なく正常動作する場合について説明する。図6に、D/A変換器2がOPEN故障しているがOPEN故障のSWを使用しない場合の動作例を示す。ここでは、SW17がOPEN故障していた場合の動作例を以下に示す。
期間t1:
A/D変換器100は、AD変換トリガを受け付ける。
期間t2:
逐次比較型のAD変換を行うため、A/D変換器100は、ANI1から入力するアナログ電圧のサンプリングを行う。
【0043】
期間t3:
D/A変換器2は、入力値制御回路6から出力される出力データに応じて、4回の比較においてSW20、SW24、SW22、SW23を順次閉じる。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12を逐次D/A変換器2のアナログ出力と比較し、AD変換結果をSARレジスタ4に格納する。ここでは、A/D変換器100は、このAD変換によって得られたAD変換結果のデータ「5」をSARレジスタ4に格納する。
【0044】
期間t4:
デジタルデータSAR+α(5+1=6)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR+αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW22を閉じ、SAR+αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"低い"」と判定し、判定結果「0」がSAR+α比較結果レジスタ9に格納される。
【0045】
期間t5:
デジタルデータSAR−α(5−1=4)に相当する電圧をD/A変換器2から出力するために、入力値制御回路6はデジタルデータSAR−αをD/A変換器2に出力する。D/A変換器2はSW24を閉じ、SAR−αに相当するアナログ電圧を出力する。コンパレータ3はANI1に印加されている入力電圧12とD/A変換器2から出力されているアナログ電圧とを比較する。コンパレータ3は「ANI1に印加されている入力電圧12はD/A変換器2が出力している電圧よりも"高い"」と判定し、判定結果「1」がSAR−α比較結果レジスタ10に格納される。
【0046】
期間t6:
SAR+α比較結果レジスタ9とSAR−α比較結果レジスタ10に格納されている値を期待値判定回路11が期待値(SAR+α比較結果レジスタ9に「0」、SAR−α比較結果レジスタ10に「1」が格納されていること)と比較する。期待値判定回路11は、比較した結果、期待値と一致しているため故障検出信号を出力しないことでSARレジスタ4に格納されているAD変換結果が正常であることを通知する。ここでは、OPEN故障しているSW17は、上述したAD変換の動作において使用されないため、SARレジスタ4には正しい値が格納される。よって、AD変換結果は正しいため異常検出されない。
なお、本実施形態では、4bitA/D変換器の例で説明しているが、任意のbit数のA/D変換器についても同様である。
【0047】
実施形態1のメカニズムおよび効果
本実施形態は、A/D変換器100は、期間t3で得たA/D変換結果に、期間t4でデジタルデータαを加算したデジタルデータSAR+αをDA変換した電圧とアナログ入力電圧とを比較し、比較結果をSAR+α比較結果レジスタ9に格納する。加えて、A/D変換器100は、期間t5でデジタルデータαを減算したデジタルデータSAR−αをDA変換した電圧とアナログ入力電圧とを比較し、比較結果をSAR−α比較結果レジスタ10に格納する。そして、A/D変換器100は、期間t6でSAR+α比較結果レジスタ9とSAR−α比較結果レジスタ10に格納されている値が期待値と一致しているかを判定する。このような動作より、診断対象のA/D変換器自身でA/D変換結果に対して故障診断を行うことが可能となる。加えて、通常の逐次比較型のAD変換に対して、2回(2bit)の比較を追加して故障診断を行うため、常時故障診断が可能である。すなわち、故障診断専用のD/A変換器を追加することなく常時故障診断が可能という効果がある。
【0048】
ここで、一実施形態のA/D変換器80、100の有利な効果である、故障診断専用のD/A変換器を追加することなく常時故障診断が可能であることについて、特許文献1の技術を参照して説明する。
図7は、特許文献1に記載のD/A変換器故障診断機能を搭載した半導体集積回路の構成を示すブロック図である。
【0049】
図7において、CPU(Central Processing Unit)1Pはモータに出力したいアナログ電圧を出力するためにD/A変換器2Pに入力するデジタル値をD/A変換データ格納バッファ11Pに設定する。D/A変換指示後、D/A変換された変換後のアナログ電圧をモータへ出力するよう指示することで、モータの制御を行う。一方、センサ等からの入力とD/A変換器2Pの変換後アナログ電圧からの入力のいずれかをA/D変換器4Pに出力するようにCPU1Pが切り換えることができるアナログマルチプレクサ3Pを有する。故障診断を行う時、CPU1Pはアナログマルチプレクサ3Pに対してD/A変換器2Pの変換後アナログ電圧をA/D変換器4Pに入力するように指示する。変換後アナログ電圧が入力されたA/D変換器4PはA/D変換を連続して行い、変換終了後にA/D変換データ格納バッファ5Pに変換後のデジタル値を格納する。この連続して作成されるA/D変換データ格納バッファ5Pの値はD/A変換データ格納バッファ11Pの値との差分を常時出力することができる差分回路7Pに入力される。
【0050】
さらに、差分回路7Pの出力はあらかじめ許容誤差設定手段9Pに設定された許容誤差と差分回路7Pの出力を常時比較し、差分回路7Pの出力が許容誤差範囲内か範囲外かを判定した結果を出力する比較器8Pに入力される。D/A変換データ格納バッファ11Pに格納された入力デジタル値とA/D変換データ格納バッファ5Pに格納されたA/D変換後のデジタル値との開きが許容誤差範囲にあるかどうかを判定することにより、この時点でD/A変換器2Pの変換後アナログ電圧に異常が発生しているかを判断できる。ただし、比較器8PはCPU1Pから出力許可指示がないと、比較・判定した結果を出力することができない。出力許可指示はアナログマルチプレクサ3Pの入力をD/A変換器2Pの変換後アナログ電圧に切り換えた時点で行う。さらに、比較器8Pからの出力はD/A変換器2PのアナログSW6PのON/OFFを切り換える制御回路10Pに入力される。比較器8Pの比較・判定した結果が許容誤差範囲外であるときに、制御回路10PはD/A変換器2Pの出力を制御するアナログSW6PをOFFする。これにより、D/A変換器2Pの故障診断処理を常時実施できることで、ソフトウェアの処理タイミングに依存せず、D/A変換器2Pの故障診断をより早くより安全に行い、即時かつ安全に故障時のモータに対するD/A変換器2Pの出力を制限する。
【0051】
特許文献1の技術に対して、一実施形態のA/D変換器80、100は、AD変換の動作の一貫として故障診断を実施することが可能である。具体的には、図2に示すように、期間t1−3で通常のAD変換を実施した後、期間t4−t6で故障診断を実施する。言い換えると、故の実施のために、回路構成を切り替えることなく、通常のAD変換で用いるD/A変換器2を用いて実施することが可能な構成となっている。一実施形態のA/D変換器80、100がこのような構成を有していることから、特許文献1の技術で生じた問題を解決することが可能になる。
【0052】
実施形態2.
実施形態1では、A/D変換器100が実施する自己診断システムをハードウェアで実現する構成例を説明した。実施形態2では、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現する構成例を説明する。図8は、実施形態2のA/D変換器200をコンピュータ装置90に搭載する構成例を模式的に示すブロック図である。図8では、コンピュータ装置90が、CPUで構成される処理部91、記憶部92、及び、入出力部93で構成され、さらに、A/D変換器200を搭載する構成例を示す。説明を容易にするため、図8では、A/D変換器200の自己診断システムのうち、ソフトウェアで実現するプログラムもA/D変換器200として示している。しかし、プログラムはハードディスクやROMなどの記憶領域に格納され、実行時にはプログラムはRAMに読み出され、CPUの制御のもとで、プログラムを構成する命令群が実行される。そのため、プログラムは、処理部91が読み出し可能な記憶領域にプログラムが格納されていればよく、例えば記憶部92に格納される。図8は、A/D変換器200内にプログラムを格納する記憶領域を備えることを必須することを意図するものではない。
【0053】
処理部91は、記憶部92に記憶された自己診断システムの一部を実現するプログラムを読み込み、読み込んだプログラムを実行することによりコンピュータ装置90の機能を実現する。
記憶部92は、情報を記憶する記憶媒体(記憶領域)であり、ハードディスクやRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)といった記憶装置で構成される。
入出力部93は、コンピュータ装置90の使用者との入出力インターフェースであり、例えば、キーボードやマウスや、LCDで構成される。
コンピュータ装置90は、例えば、パーソナルコンピュータのような一般的な汎用コンピュータである。コンピュータ装置90は、本実施形態におけるA/D変換器200の自己診断システムを実現するためのプログラムやデータを取得し、記憶部92へ記録する。プログラムやデータは、コンピュータ装置90の入出力部93を介して記憶部92に書き込むことができる。あるいは、コンピュータ装置90がネットワークを介して外部から実行プログラムやデータを取得することも可能である。
コンピュータ装置90は、上述の構成により、取得したプログラムを読み込んでCPUの制御のもとで実行する。
【0054】
図9は、実施形態2のA/D変換器200の自己診断システムの構成例を示すブロック図である。A/D変換器200は、アナログ入力端子1、D/A変換器2、コンパレータ3、SARレジスタ4、α保持部205、SAR+αレジスタ(SAR+α)207、SAR−αレジスタ(SAR−α)208、データ生成部212、SAR+α比較結果レジスタ9、SAR−α比較結果レジスタ10、及び、期待値判定部211を備える。加えて、図9では、A/D変換器200に加え、処理部91及び記憶部92を示す。
図9は、α保持部205、データ生成部212、SAR+α比較結果レジスタ9、SAR−α比較結果レジスタ10、及び、期待値判定部211をプログラムによって実現する場合を示す。図9では、処理部91がこれらの機能を実現するプログラムの命令群を、記憶部92から読み出し、実行するように示している。
また、A/D変換器200は、図1のA/D変換器80の構成要素と次のように対応づけられる。α保持部205、SAR+αレジスタ(SAR+α)207、SAR−αレジスタ(SAR−α)208、及び、データ生成部212が生成部285を構成し、生成部85に相当する。また、SAR+α比較結果レジスタ9、SAR−α比較結果レジスタ10、及び、期待値判定部211が、判定部86に相当する。
図2と同じ符号の構成要素は同様であるため説明を省略し、データを保持するレジスタまたは保持部と、プログラムにより実転するデータ生成部212及び期待値判定部211の処理とを説明する。
【0055】
α保持部205は、デジタルデータαを保持する。
SAR+αレジスタ207は、デジタルデータSAR+αを入力値制御回路6に出力する。
SAR−αレジスタ208は、デジタルデータSAR−αを入力値制御回路6に出力する。
データ生成部212は、SARレジスタ4に格納されたデータにデジタルデータαを加算したデジタルデータSAR+αをSAR+αレジスタ207へ格納し、SARレジスタ4に格納されたデータからデジタルデータαを減算したデジタルデータSAR−αをSAR−αレジスタ208へ格納する。言い換えると、データ生成部212は、デジタルデータSAR+αをSAR+αレジスタ207へ格納する処理と、デジタルデータSAR−αをSAR−αレジスタ208へ格納する処理とを処理部91(コンピュータ装置90)に実行させるプログラムである。
デジタルデータαが固定値である場合には、α保持部205は予め設定された数値を保持する。一方、デジタルデータαが外部から設定される場合には、データ生成部212は、デジタルデータαを受け取ると、α保持部205へ格納する。
【0056】
期待値判定部211は、実施形態1で説明したカウンタの値を参照することができる。期待値判定部211は、期間t6において、SAR+α比較結果とSAR−α比較結果とが、期待値であるか否かを判定する。判定方法は、実施形態1と同様であるため説明を省略する。言い換えると、期待値判定部211は、期間t6でSAR+α比較結果とSAR−α比較結果とが、期待値であるか否かを判定する処理を処理部91に実行させるプログラムである。なお、SAR+α比較結果レジスタ9及びSAR−α比較結果レジスタ10を記憶領域で実現する態様を排除するものではない。例えば、期待値判定部211は、SAR+α比較結果及びSAR−α比較結果を保持する記憶領域を有し、期間t4で記憶領域にSAR+α比較結果を格納する処理、期間t5で記憶領域にSAR−α比較結果を格納する処理を実施するようにしてもよい。
【0057】
本実施形態のA/D変換器200は、図3に示す、変換受付トリガから期待値判定までの動作を実施する。動作の詳細については実施形態1と同様であるため省略する。加えて、実施形態2のA/D変換器200は、実施形態1のA/D変換器100と同様の効果を奏することができる。
【0058】
上述の例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0059】
実施形態3.
上記実施形態1、2では、SARレジスタ4は、コンパレータ3から出力される値が格納され、他の構成要素からは読み出し専用のレジスタとして構成する例を示したが、SARレジスタ4に他の構成要素から書き込みができるように構成することもできる。例えば、図2において、SAR+α生成回路7が、期間t3の4回目の比較終了後、期間t4が開始するときに、デジタルデータSAR+αをSARレジスタ4に書き込み、SAR−α生成回路8が、期間t5が開始するときに、デジタルデータSAR−αをSARレジスタ4に書き込むように構成する。入力値制御回路6は、SARレジスタ4からのみデータを受け取る。これにより、SAR+α生成回路7及びSAR−α生成回路8がデジタルデータを保持するために備えるレジスタを削減することができる。同様に、図9において、データ生成部212が、期間t3の4回目の比較終了後、期間t4が開始するときに、デジタルデータSAR+αをSARレジスタ4に書き込み、期間t5が開始するときに、デジタルデータSAR−αをSARレジスタ4に書き込むように構成してもよい。これにより、A/D変換器200からSAR+αレジスタ207及びSAR−αレジスタ208を削減することができる。
上述した変更に限らず、レジスタの使い方は様々であり、レジスタの書き込む要素、タイミングを工夫することにより、A/D変換器が備えるレジスタを削減することができる。
【0060】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
1 アナログ入力端子、ANI
2 D/A変換器
3 コンパレータ
4 AD変換結果格納レジスタ、SAR
5 SARに対する加算、減算用データαレジスタ
6 入力値制御回路
7 SAR+α生成回路
8 SAR−α生成回路
9 SAR+α比較結果レジスタ
10 SAR−α比較結果レジスタ
11 期待値判定回路
12 ANI1に印加されている電圧
13〜27 SW(スイッチ)
28〜43 抵抗
44 AD変換結果をDA変換した場合の電圧
80、100、200 A/D変換器
81 入力端子
82 デジタル/アナログ変換部(D/A変換部)
83 コンパレータ
84 逐次比較レジスタ
85 生成部
86 判定部
90 コンピュータ装置
91 処理部
92 記憶部
93 入出力部
205 α保持部
207 SAR+αレジスタ(SAR+α)
208 SAR−αレジスタ(SAR−α)
211 期待値判定部
212 データ生成部
状態0 A/D変換器100がAD変換トリガを受け付け、AD変換を開始する期間
状態1 10bitAD変換サンプリング期間
状態2 10bitAD変換逐次比較期間
状態3 SAR+αをDA変換した結果とANI1に印加されている電圧との比較する期間
状態4 SAR−αをDA変換した結果とANI1に印加されている電圧との比較する期間
状態5 状態3と状態4の結果の期待値判定をする期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9