(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記防曇被覆の前駆体被覆が、少なくとも1つの界面活性剤および/または表面活性特性を持たない親水性化合物を含む溶液の膜で被覆されていることを特徴とする、請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
前記表面にシラノール基を含む被覆が耐摩耗性被覆の上に蒸着されたシリカを主成分とする層であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
前記有機シラン化合物が[アルコキシ(ポリアルキレンオキシ)アルキル]トリアルコキシシランであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の眼鏡用レンズ。
厚みが5nm以下の付加された有機シラン化合物の層が、シラノール基を含む前記被覆の前記表面上で、前記堆積されたが、付加されていない余分な有機シラン化合物を除去することによって取得されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
その表面にシラノール基を含む被覆で被覆されている基材を含み、その表面にシラノール基を含む前記被覆の前記表面の1部が疎水性および/または疎油性の被覆に直接接触かつ接着されている光学物品であって、その表面にシラノール基を含む前記被覆の前記表面の別の1部が、請求項1〜15のいずれか1項に定義されたような防曇被覆の前駆体被覆と直接接触していることを特徴とする光学物品。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料およびガラス等の非常に多くの支持材が、その表面温度が周囲温度の露点を下回ると曇ってしまうという欠点を持つ。これは、運搬用車両や建物のグレージングを作成するために用いられるガラス、眼鏡のガラス、レンズ、鏡等の場合は特に顕著である。表面に曇りが発生し水滴を通る光を拡散するために透明度が低下し、実質的に不快感が引き起こされる。
【0003】
高湿度環境での曇りの形成、即ち支持材上での非常に小さい水滴の凝結を防ぐために、水との静止接触角が小さい、好ましくは50°未満、より好ましくは25°未満の親水性被覆をこの支持材の外面上に適用することが提案されてきた。このような永久的な防曇被覆は、曇りに対してスポンジとして機能し、非常に薄い膜を形成することによって水滴を支持材の表面に付着させ、それによって透明な感じを提供する。これらの被覆は、一般にスルホン酸塩またはポリウレタン等の高親水性の種で作成される。
【0004】
市販の製品は厚みが数マイクロメートルの親水性の層を含む。
概して被覆の厚みが厚くなると(数ミクロン)、その被覆は吸水の結果として膨張し、軟化し、および機械的抵抗性が低下する。
本明細書中に用いられる場合は、永久的防曇被覆とは、その親水性特性が、親水性の化合物が永久的に他の被覆または支持材に結合した結果得られたものである被覆を意味することを意図している。特許文献1には耐摩耗性被覆と、高屈折率層および低屈折率層を交互に含む多層構造の反射防止被覆とで被覆されているレンズが記載されている。その中の外側層は、厚みが5〜100nmの低屈折率層(1.42〜1.48)であり、有機化合物とシリカとの、またはシリカとアルミナとの両方同時の真空蒸着、即ちこれら種々の成分の同時蒸着によって取得される水との静止接触角が10°未満のハイブリッド層からなる防曇被覆を形成する。実施例によると、防曇被覆は、被覆の総重量に対して有機化合物を、好ましくは0.02〜70重量%、そして典型的には6〜15重量%、含有する。
【0005】
上述の有機化合物は1つの親水性の基および1つの反応基であり、例えば、3〜15炭素原子を持つ、好ましくは分子量が150〜1500g/molの範囲の、トリアルコキシシリル基である。幾つかの好ましい化合物は、ポリエーテル主鎖構造を持ち、特に分子の各端に1つのポリオキシエチレンおよび1つの反応基を有する。好適な化合物には、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、およびN−(3−トリメトキシシリルプロピル)グルコナミドがある。
【0006】
従って、防曇被覆は、1つの親水性の有機化合物を組み込んだ、シリカを主成分とする層(またはシリカ+アルミナを主成分とする層)である。しかしながら、その防曇特性は経時変化し防曇特性の段階的な低下が観察されることがある。低くなり過ぎたときは、防曇膜の「洗浄処理」、特にプラズマ媒介処理を介して復元しうる。
【0007】
実際には、特許文献1の同時蒸着法の実施は非常に複雑である。同時蒸着プロセスを実行しないで防曇被覆を作成する方法を得るのが好ましい。
【0008】
特許文献2および特許文献3では、ガラス基材を含む、自動車やレンズ用の反射防止性の防曇ガラスが記載されている。このガラス基材は厚み110〜250nm、表面粗度Raが約5〜10nmのシリカを主成分とする反射防止被覆が施され、次に8nmの厚みの永久的な防曇被覆が施されており、防雲被覆は化合物CH
3O−(CH
2CH
2O)
6−9−(CH
2)
3Si(OCH
3)
3またはその水解物の液相堆積または気相堆積を介して取得される。初期段階では、防曇被覆の水との静止接触角が3°である。
【0009】
反射防止特性および防曇特性を組み合わせるための他の解決法は、部分的に界面活性剤でできた薄い多孔質の低屈折率層を用いることである。これによって層が防曇特性を取得できる。この層は一般に親水性の表面の上に堆積される。
【0010】
このように、特許文献4には、金属酸化物(シリカビーズ)および相対的に水溶性のアニオン性の界面活性剤を主成分とする多孔質の反射防止および防曇被覆が記載されている。この界面活性剤は一般に、カルボン酸、スルホン酸またはリン酸型のイオン性の親水性頭部、およびフッ素鎖を有する。基材上で固定化するために、界面活性剤は金属酸化物に共結合可能であることが好ましい。特許文献5には類似の構成が記載されている。
【0011】
特許文献6には、反射防止および防曇システムが記載されている。このシステムは、ポリアクリル酸化合物の存在下で無機アルコキシド水解物の重縮合を介して得られる数マイクロメータの厚みの吸水層上に堆積された1つの無機酸化物を主成分とする多孔質層を含む。多孔質層は反射防止障壁として機能するが、この多孔質層によって、水が吸水層に到達できる。
【0012】
眼科用ガラスに反射防止被覆が施されている場合にしばしば必須要素としてみなされる防汚被覆(疎水性および疎油性)を外側層として含む眼鏡ガラス上に、スプレイまたはウエットティッシュタイプ(towelettes)として市販されている一時的な溶液を適用することによっても防曇特性は取得しうる。これらは短期間の防曇特性の取得を可能にする。防汚被覆に付与される汚れ除去の容易さという観点は温存されるが、数回の拭き作業の後防曇特性は有意に変化する。確かに一時的溶液は親水性材料を含むが、本来、防汚被覆の疎水性の表面とは相互作用が希薄であり、数回の拭き作業の後はこれら親水性材料が除去される。
【0013】
さらに興味深い解決策は、防曇被覆の前駆体被覆の表面上に親水性の一時的溶液を適用して防曇被覆を作成することである。これは永久的な防曇被覆の代替物に相当する。
【0014】
特許文献7では、金属酸化物およびケイ素酸化物を主成分とする硬質、無機、親水性の層で被覆されているレンズが記載されている。その親水性と、表面にナノサイズの凹み部分があることによって、界面活性剤を含浸させ、それを長期間に亘り吸着させることを可能にし、従って防曇効果を数日間維持することができる。しかしながら、いかなる界面活性剤も存在しない場合にも、防曇効果は認められる。
【0015】
特許文献8および特許文献9では、水との静止接触角が50°〜90°の、多層構造の反射防止被覆、および/または耐摩耗性被覆、ならびに防曇被覆の前駆体被覆で被覆されているレンズが記載されている。一時的な被覆の防曇被覆は前駆体被覆の表面上に界面活性剤を適用した後に取得される。
【0016】
防曇被覆の前駆体被覆は、ポリオキシエチレン性の親水性の基、反射防止被覆の外側層、特にシリカを主成分とする層と反応することが可能な反応基、例えばアルコキシシランSi(OR)
n、シラノールSiOH等、またはイソシアネート基、および所望によりフッ化疎水性の基、を含む有機化合物を含む組成物から取得される。防曇被覆の前駆体被覆の水との静止接触角が50°〜90°の範囲となるように、組成物は選択される。防曇被覆前駆体に用いられる有機化合物の分子量は、好ましくは700〜5000、または430〜3700g/molの範囲である。このような化合物の例として挙げられるのは、CH
3O(CH
2CH
2O)
22CONH(CH
2)
3Si(OCH
3)
3またはC
8F
17O(CH
2CH
2O)
2CONH(CH
2)
3Si(OCH
3)
3化合物である。前駆体被覆の厚みは、0.5〜20nmであると記載されている。これらの出願によると、水滴の乾燥の結果生成される汚れを容易に除去できるようにするため、前駆体被覆が比較的高い接触角を持つことが期待されている。
【0017】
しかしながら、容易に実施できる方法を介して層形成が可能であって、防曇特性がより効率よく、経時的に、および/または機械的応力下で耐久性が高く、一方では受容可能な清浄性を保持するような一時的防曇被覆組成物をいまだに科学者等は探求している。
【0018】
良好な機械的特性(耐磨耗性および耐擦傷性)を有する防曇被覆もいまだに探し求められている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、初めに熱蒸気に曝露された、本発明に係る光学物品および比較例の光学物品の防曇特性の、時間の関数としての、変化を示す添付の
図1を参照することにより、さらに詳細に説明される。
【0028】
本出願において、基材/被覆の「上(on)」の被覆、または基材/被覆の「上(onto)」に堆積された被覆は、次のように定義される:(i)基材/被覆より上に(above)配置される;(ii)基材/被覆に接触している必要はない、即ち、1つまたはそれ以上の中間被覆が基材/被覆とその被覆との間に配置されうる。(しかし、上述の基材/被覆と接触していることが好ましい。);および(iii)基材/被覆を完全に覆う必要はない。「層1が層2の下に配置される」場合、層2は、層1よりも、基材からの距離が遠いことを意味することを意図している。
【0029】
本明細書中に用いられる場合、「防曇被覆」は、次のような被覆を意味することを意図している。このような被覆で被覆されている透明なガラス基材を、上述の被覆が無ければ上述の基材の上に曇りが発生する条件下に配置するとき、この被覆は、5メートル離れて配置された視力計で、観察者が被覆されたガラスを通して検査した場合に、直ちに、視力>6/10(視力)を達成することを可能にする。実験の章では、被覆の防曇特性を評価するための幾つかの試験が記載される。曇り発生条件下では、防曇被覆は、それらの表面に曇りが存在しない(理想的には目視歪がまったくない、または上述の測定条件下で目視歪があるが、視力が>6/10である)か、またはそれらの表面にいくらかの曇りが存在しうるが、曇りの結果視界が乱れるにもかかわらず、上述の測定条件下で視力>6/10が可能である。非防曇被覆は、曇りを発生する条件にさらされている限り、視力>6/10は達成不能であり、また一般に上述の測定条件下で凝結による曇りが存在する。
【0030】
本明細書中で用いられる場合、「防曇ガラス」は、上記で定義された「防曇被覆」を施されたガラスを意味することを意図している。
【0031】
このように親水性の被覆である本発明に係る防曇被覆前駆体は、たとえ、実験の章で説明される呼気試験等の方法で観察される等の幾らかの防曇特性を有しているとしても、本発明に係る防曇被覆であるとみなされない。実際には後述する
図1に示すように、この防曇被覆前駆体は上述の測定条件下で視力>6/10を達成不能である。
【0032】
本明細書中に用いられる場合、一時的な防曇被覆は、上述の防曇被覆の前駆体被覆の表面上に少なくとも1つの界面活性剤を含む液体の溶液を適用した後に取得される防曇被覆を意味することを意図している。一時的な防曇被覆の耐久性は、一般にその表面で実施される拭き作業によって制限される。拭き作業によって、界面活性剤分子は永久的に被覆の表面に付着しているのではなく、多かれ少なかれ使用期間に亘ってただ吸着される。
【0033】
本発明に従って作成された光学物品は、基材を含み、基材は好ましくは透明で、前主面および後主面を有し、上述の主面の少なくとも1つ、好ましくは両主面にシラノール基を含む被覆が施される。本明細書中に用いられる場合、基材の後面(一般には凹面)は光学物品を用いるときに装着者の目に一番近い面を意味することを意図している。反対に基材の前面(一般に凸面)は装着者の目から一番遠い面である。
【0034】
本発明に係る物品は、例えばスクリーン、自動車業界またはビル業界用のグレージング、または鏡等の曇り形成という問題を持つ任意の光学物品であってよいが、好ましくは光学レンズ、より好ましくは眼鏡用の眼科用レンズ、または光学レンズや眼科用レンズのブランクである。
【0035】
これには生体組織に接触する眼内レンズ、または眼鏡用のガラスと異なり本質的に曇り形成の問題に直面しないコンタクトレンズ等の物品は含まれない。
【0036】
本発明によれば、その表面上にシラノール基を含む被覆は、剥き出しの基材、即ち被覆されていない基材の主面の少なくとも1つの上に、または1つもしくはそれ以上の機能被覆で既に被覆されている基材の主面の少なくとも1つの上に、形成されうる。
【0037】
本発明に係る光学物品のための基材は、例えば熱可塑性または熱硬化性プラスチック材料等の無機または有機ガラスであってよい。
【0038】
特に好ましい基材の種類には、ポリ(チオウレタン)ポリエピスルフィド、およびアルキレングリコールビスアリルカーボネートの重合または共重合から生成された樹脂が含まれる。これらは、例えば、PPG Industries社(ORMA
TMレンズ、エシロール社製)から商品名CR−39
TMとして市販されている。
【0039】
幾つかの出願では、基材の主面が1つまたはそれ以上の機能被覆で被覆された後に、その表面にシラノール基を含む被覆を堆積することが好ましい。従来から光学系において用いられてきたこれらの機能被覆は、耐衝撃性プライマー層、耐摩耗性被覆および/または耐引掻性被覆、偏光被覆、フォトクロミック被覆、または着色被覆、特に、耐摩耗性層および/または耐引掻性被覆で被覆された耐衝撃性プライマー層であってよいが、これらに限定されない。
【0040】
その表面にシラノール基を含む被覆は、好ましくは耐摩耗性および/または耐引掻性被覆の上に堆積される。耐摩耗性および/または耐引掻性被覆は、従来からのレンズ分野で耐摩耗性被覆および/または耐引掻性被覆として用いられてきた任意の層であってよい。
【0041】
耐摩耗性および/または耐引掻性被覆は、好ましくは、硬化後の被覆の硬度および/または屈折率の改善を意図して一般に1種またはそれ以上の無機充填剤を含むポリ(メト)アクリレートまたはシランを主成分とするハードコートである。本明細書中に用いられる場合、(メト)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートである。
【0042】
耐摩耗性被覆および/または耐引掻性ハードコートは、好ましくは、少なくとも1つのアルコキシシランおよび/またはそれらの水解物を含む組成物から作成される。これらは例えば塩酸溶液、および所望により縮合および/または硬化触媒および/または界面活性剤を用いて加水分解することにより得られる。
【0043】
本発明の推奨される被覆には、エポキシシラン水解物を主成分とする被覆、例えば、欧州特許出願公開第0614957号明細書、米国特許第4,211,823号明細書および米国特許第5,015,523号明細書に記載されたもの等が含まれる。
【0044】
耐摩耗性被覆および/または耐引掻性被覆の厚みは、一般に2〜10μm、好ましくは3〜5μmの範囲である。
【0045】
耐摩耗性被覆および/または耐引掻性被覆を堆積する前に、基材上にプライマー被覆を適用して、最終物品における次層の耐衝撃性および/または接着性を改善することが可能である。
【0046】
この被覆は、眼科用レンズ等の透明ポリマー材料の物品に従来から使用されている任意の耐衝撃性プライマー層であってよい。
【0047】
好ましいプライマー組成物には、特開昭63−141001号公報および特開昭63−87223号公報に記載されているもの等の、熱可塑性ポリウレタンを主成分とする組成物、米国特許第5,015,523号明細書に記載されているもの等の、ポリ(メト)アクリルのプライマー組成物、欧州特許出願公開第0404111号明細書に記載されているもの等の熱硬化性ポリウレタンを主成分とする組成物、および米国特許第5,316,791号明細書および欧州特許第0680492号明細書に記載されているもの等のポリ(メト)アクリルラテックスまたはポリウレタン型のラテックスを主成分とする組成物が含まれる。
【0048】
好ましいプライマー組成物は、ポリウレタンを主成分とする組成物、およびラテックス、特に、ポリウレタン型ラテックスおよびポリ(メト)アクリルラテックス、およびその組合せを主成分とする組成物である。プライマー層は、一般に、硬化後の厚みが0.2〜2.5μmの範囲、好ましくは0.5〜1.5μmの範囲である。
【0049】
その表面にシラノール基を含む被覆を以下で説明する。本明細書中に用いられる場合、その表面にシラノール基を含む被覆は、その表面に天然にシラノール基を含む被覆、または表面活性化処理を行った後にシラノール基が生成された被覆を意味することを意図している。従って、この被覆はシロキサンまたはシリカを主成分とする被覆である。それには例えば、シリカを主成分とする層、ゾルゲル被覆、アルコキシシラン等のオルガノシラン種を主成分とする層、またはシリカコロイドを主成分とする被覆等があるが、これらに限定されない。それは特に耐摩耗性被覆および/または耐引掻性被覆であってもよく、または好ましい実施形態によれば、単層構造の反射防止被覆もしくはその外側層が表面にシラノール基を含む多層構造の反射防止被覆であってもよい。本明細書中に用いられる場合、被覆の外側層は、基材から最も遠い層を意味することを意図する。
【0050】
シラノール基を生成する、または少なくとも被覆の表面上のシラノール基の比率を増大する表面活性化処理は、一般に真空下で行われる。それは高エネルギーおよび/または反応性種を用いる衝撃でありうる。それには例えば、イオンビーム(「イオン予備洗浄」または「IPC」)、または電子ビーム、コロナ放電処理、イオン破砕処理、紫外線処理、または、一般に酸素またはアルゴンプラズマを用いる真空下でのプラズマ媒介処理、を用いるものがあるが、これらに限定されない。また、酸性または塩基性の処理、および/または溶剤(水、過酸化水素、または任意の有機溶剤)を主成分とする処理であってもよい。これらの処理の多くは組み合わせても良い。
【0051】
本明細書中に用いられる場合、高エネルギー種(および/または反応性種)は、特にエネルギー範囲が1〜300eV、好ましくは1〜150eV、より好ましくは10〜150eV、さらにより好ましくは40〜150eVであるイオン種を意味することを意図している。高エネルギー種は、イオン、ラジカル等の化学種、またはフォトンまたはエレクトロン等の種であってもよい。
【0052】
活性化処理は、酸性または塩基性化学薬品の表面処理、好ましくは湿式処理または溶剤または溶剤の組合せを用いる処理であってもよい。
【0053】
その表面にシラノール基を含む被覆は、好ましくはシリカを主成分とする(シリカを含む)低屈折率層であり、最も好ましくはシリカを主成分とする層(SiO
2)からなり、一般に、気相堆積法を介して得られる。
【0054】
SiO
2を主成分とする上述の層は、シリカに加えて、薄層を作成するために従来から用いられている1種またはそれ以上の他の材料を含んでもよい。例えば本明細書中で説明する誘電材料から選択される1種またはそれ以上の材料である。SiO
2を主成分とするこの層は、好ましくはAl
2O
3を含まない。
【0055】
層がシリカを主成分とする層であるときは、特に、蒸着を介して取得したときは、表面処理の実施は必ずしも必須ではないことを発明者等は観察した。
【0056】
その表面にシラノール基を含む被覆は、好ましくは少なくとも70重量%のSiO
2、より好ましくは少なくとも80重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%のSiO
2を含む。既に記載されているように、最も好ましい実施形態において、この被覆は100重量%のシリカを含む。
【0057】
その表面にシラノール基を含む被覆は、アルコキシシラン等のシラン、例えばテトラエトキシシラン、またはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等有機シランを主成分とするゾルゲル被覆であってもよい。このような被覆はシランの水解物、および所望により、高屈折率(>1.55、好ましくは>1.60、より好ましくは>1.70まで)または低屈折率(≦1.55)のコロイド状材料を含む液体組成物を用いて湿式堆積を介して取得される。層がシランを主成分とする有機/無機のハイブリッドマトリックスを含み、コロイド状材料が分散されて各層の屈折率が調整されているような被覆については、例えば仏国特許出願公開第2858420号明細書に記載されている。
【0058】
本発明の1実施形態において、その表面にシラノール基を含む被覆は、耐摩耗性被覆の上に堆積された、好ましくはこの耐摩耗性被覆の上に直接堆積されたシリカを主成分とする層である。
【0059】
シリカを主成分とする(シリカを含む)上述の層は、好ましくは一般に化学気相堆積法を介して得られるシリカを主成分とする層である。その厚みは、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは5〜20nmの範囲であり、さらにより好ましくは10〜20nmの範囲である。
【0060】
好ましくは、シリカを主成分とする上述の層の堆積は、圧力を調整することによって行われる。即ち、非イオンの形態のガスを堆積チャンバに加えることによって行われる。好ましくは圧力範囲が典型的に5×10
−5〜5×10
−4ミリバールの酸素を加えることによって行われる。
【0061】
最も好ましい実施形態である本発明の別の実施形態において、本発明に係る光学物品は反射防止被覆を含む。このような被覆が存在するときは、それは一般に本発明の意味する範囲内の、その表面にシラノール基を含む被覆に相当する。この反射防止被覆は、その表面にシラノール基を含有するものであれば、従来から光学系特に眼科用光学系の分野で用いられている任意の反射防止被覆であってよい。
【0062】
反射防止被覆は光学物品の表面に堆積され最終光学物品の反射防止特性を改善する被覆として定義される。それは、可視スペクトルの比較的大きい範囲に亘って、物品と空気との界面における光の反射を低減することを可能にする。
【0063】
また周知のように、従来から反射防止被覆は誘電材料からなる単層構造または多層構造の積層を含む。これらは、好ましくは高屈折率(HI)の層および低屈折率(LI)の層を含む多層構造の被覆である。
【0064】
本出願において、反射防止被覆の層は、その屈折率が1.55より高いときに、好ましくは1.6以上のときに、より好ましくは1.8以上のときに、さらにより好ましくは2.0以上のときに、高屈折率の層という。反射防止被覆の層は、その屈折率が1.55以下のときに、好ましくは1.50以下のときに、より好ましくは1.45以下のときに、低屈折率層という。特に指定が無い場合は、本発明において参照される屈折率は、25℃、波長550nmにおけるものをいう。
【0065】
HI層は、当業者には公知の従来の高屈折率の層である。それらは、一般に1種またはそれ以上の金属酸化物を含む。例えば、ジルコニア(ZrO
2)、二酸化チタン(TiO
2)、五酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化ネオジム(Nd
2O
5)、酸化プラセオジム(Pr
2O
3)、プラセオジムチタネート(PrTiO
3)、La
2O
3、Dy
2O
5、Nb
2O
5、Y
2O
3等であるが、これらに限定されない。
【0066】
LI層も公知であり、SiO
2、MgF
2、ZrF
4、アルミナ(Al
2O
3)、AlF
3、 チオライト(Na
3Al
3F
14))、氷晶石(Na
3[AlF
6])、およびそれらの組合せ、好ましくはSiO
2またはアルミナでドープされたSiO
2を含むが、これらに限定されない。SiOF層(フッ素でドープされたSiO
2)も用いてもよい。
【0067】
SiO
2およびAl
2O
3の混合物を含むLI層を用いるときは、それは、この層中のSiO
2+Al
2O
3の総重量に対して、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜8重量%、さらにより好ましくは1〜5重量%のAl
2O
3を含む。
【0068】
概して、HI層の物理的厚みは10〜120nmの範囲であり、LI層の物理的厚みは10〜100nmの範囲である。
【0069】
好ましくは、反射防止被覆の厚みの合計は、1マイクロメートル未満であり、より好ましくは800nm以下であり、さらにより好ましくは500nm以下である。反射防止被覆の厚みの合計は、一般に100nm超、好ましくは150nm超である。
【0070】
さらにより好ましくは、反射防止被覆は低屈折率(LI)を有する少なくとも2層および、高屈折率(HI)を有する少なくとも2層を含む。好ましくは、反射防止被覆中の層の合計数は8以下であり、より好ましくは6以下である。
【0071】
本発明の1つの実施形態によれば、HIおよびLi層は、反射防止被覆中で交互になっているが、必ずしもその必要はない。2つの(またはそれ以上の)HI層が、互いの上に堆積されてもよいし、2つの(またはそれ以上の)LI層が互いの上に堆積されてもよい。
【0072】
反射防止被覆中の種々の層は、好ましくは、以下の方法の任意の1つに従って、真空下で気相堆積によって堆積されている:i)所望によりイオンビームアシストを用いる蒸着;ii)イオンビームスパッタリング;iii)陰極スパッタリング;iv)プラズマアシスト化学気相堆積。これらの種々の方法は、参照物「Thin Film Processes」および「Thin Film Processes II、」 Vossen & Kern、 Ed著、 Academic Press社、それぞれ1978および1991に発表されたもの、に説明されている。特に推奨される方法は真空蒸着である。
【0073】
その表面にシラノール基を含む被覆が反射防止被覆であるときは、このような反射防止被覆で被覆されている物品の光反射率(R
vで表される)が、物品の一面あたり2.5%未満、より好ましくは一面あたり2%未満、さらにより好ましくは一面あたり1%未満である。最も好ましい実施形態において、物品は、その両方の主面が本発明に係る反射防止被覆で被覆され、合計のR
v値(両面の反射率を足したもの)が1.5%未満である基材を含む。このようなR
v値に到達するための手段は当業者にとっては公知である。
【0074】
本出願において、「光反射率」は、ISO規格13666:1998に定義されているものとし、ISO8980−4規格に準拠して測定される。即ち、380〜780nmの範囲の可視スペクトル波長のすべてのスペクトルの反射率の加重平均である。
【0075】
その表面にシラノール基を含む被覆、例えば反射防止被覆の上に防曇被覆前駆体を形成する前に、この被覆の表面に防曇被覆前駆体の接着性を強化するための物理的または化学的活性化処理を行うのが通常である。これらの処理は、その表面にシラノール基を含む被覆の活性化に関して既に記載されたものから選択されてもよい。
【0076】
本発明によれば、その表面にシラノール基を含む被覆は、後述する防曇被覆の前駆体被覆と直接接触する。
【0077】
本明細書中に用いられる場合、「防曇被覆の前駆体」は、その表面に界面活性剤含有液体溶液を適用すると膜が形成される途膜であり、本発明の意味の範囲内の防曇被覆に相当する途膜を意味することを意図する。前駆体被覆+界面活性剤システムを主成分とする溶液の膜は、このような防曇被覆に相当する。
【0078】
防曇被覆の前駆体被覆は、その厚みが5nm以下、好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下、さらにより好ましくは2nm以下であり、その水との静止接触角が10°より大きく50°より小さい被覆である。この被覆は少なくとも1つの有機シラン化合物の永久的グラフトを介して取得される。有機シラン化合物は、ポリオキシアルキレン基および少なくとも1つの加水分解基を担持する少なくとも1つのケイ素原子を持つ。
【0079】
本発明の一実施形態において、ポリオキシアルキレン基および少なくとも1つの加水分解基を担持する少なくとも1つのケイ素原子を持つ、有機シラン化合物の水解物を含む組成物を適用することによって、被覆が堆積される。
【0080】
加水分解された有機シラン化合物のいかなる縮合も避けることが推奨され、それによってシアノール官能基をできるだけ自由に反応できるように維持し、これらの化合物の光学物品の表面へのグラフトを促進させ、グラフトの前にシロキサンプレポリマーの形成を制限する。これが堆積された有機シラン化合物の厚みが非常に薄い理由である。
【0081】
このように加水分解後比較的迅速に、即ち加水分解(典型的にはHClを主成分とする酸性水性溶液の適用による)を実行した後、典型的には2時間未満、好ましくは1時間未満、より好ましくは30分未満以内に、組成物を適用することが推奨される。
【0082】
最も好ましくは、加水分解の実行後10分未満に、さらにより好ましくは5分未満に、好ましくは1分未満に、組成物を適用する。
【0083】
加水分解は、熱の供給無しに、即ち典型的には温度が20〜25℃の温度で実行することが好ましい。
【0084】
一般に厚みが数ナノメートルの層を堆積するには、縮合反応速度を遅くするために、乾物含量が非常に低く高度希釈された組成物を用いる必要がある。
【0085】
用いられる有機シラン化合物は、そのケイ素含有反応基のおかげで、堆積される被覆の表面上に存在するシラノール基との共有結合の確立が可能となる。
【0086】
本発明の有機シラン化合物は、少なくとも1つの加水分解基を担持する少なくとも1つのケイ素原子を含む基によって、片方の末端または両方の末端、好ましくは片方の末端だけが官能基化されたポリオキシアルキレン鎖を含む。この有機シラン化合物は、好ましくは少なくとも2つの加水分解基、好ましくは3つの加水分解基を担持するケイ素原子を含む。好ましくは、それはいかなるウレタン基も含まない。好ましくは、それは次の化学式の化合物である:
【化1】
式中、Y基は同一または異なって、炭素原子を介してケイ素原子と結合した一価の有機基である。X基は同一または異なって、加水分解基であり、R
1はポリオキシアルキレン官能基を含む基であり、mは0、1または2の整数である。好ましくはm=0である。
【0087】
X基は、好ましくはアルコキシ基−O−R
3、特にC
1〜C
4アルコキシ基、アシルオキシ基−O−C(O)R
4から選択される。ここで、R
4は、好ましくはC
1〜C
6アルキルラジカル、好ましくはメチルまたはエチル、Cl、BrおよびIのようなハロゲン、またはトリメチルシリルオキシ(CH
3)
3SiO−、およびこれらの基の組合せである。好ましくはX基はアルコキシ基、および特にメトキシまたはエトキシ基、より好ましくはエトキシ基である。
【0088】
Y基はmがゼロでないときに存在するが、好ましくは飽和、または不飽和の炭化水素基であり、好ましくはC
1〜C
10、より好ましくはC
1〜C
4の基、例えばメチルまたはエチル基のようなアルキル基、ビニル基、およびアリール基、例えば所望により置換されたフェニル基、特に1種またはそれ以上のC
1〜C
4アルキル基によって置換されたものである。好ましくはYはメチル基を表す。
【0089】
好ましい実施形態において、化学式Iの化合物は、トリエトキシシリルまたはトリメトキシシリル基のようなトリアルコキシシリル基を含む。
【0090】
有機シラン化合物(R
1基)のポリオキシアルキレン基は好ましくは80個未満の炭素原子、より好ましくは60個未満の炭素原子、さらにより好ましくは50個未満の炭素原子を含む。R
1基は、好ましくは同様の条件を満足する。
【0091】
R
1基は一般に化学式−L−R
2に対応している。ここでLは化学式IまたはIIの化合物のケイ素原子に炭素原子を介して結合した2価基である。R
2はL基に酸素原子を介して結合する1種のポリオキシアルキレン基を含む基である。この酸素原子はR
2基中に含まれている。L基の非限定的な例は、線形または分岐し、所望により、置換されたアルキル、シクロアルキレン、アリーレン、カルボニル、アミド基または、シクロアルキレンアルキレン、ビスシクロアルキレン、ビスシクロアルキレンアルキレン、アリーレンアルキレン、ビスフェニレン、ビスフェニレンアルキレン、アミドアルキレン基のような、これらの基の組合せを含む。その中でも、例えば、CONH(CH
2)
3基、または−OCH
2CH(OH)CH
2−および−NHC(O)−基、好ましいL基は、好ましくは10以下の炭素原子、より好ましくは5以下の炭素原子を持つアルキル基(好ましくは線形)、例えばエチレンおよびプロピレン基である。
【0092】
好ましいR
2基は、ポリオキシエチレン基−(CH
2CH
2O)
n−、ポリオキシプロピレン基、またはこれらの基の組合せを含む。
【0093】
化学式Iの好ましい有機シランは、次の化学式IIの化合物である。
【化2】
式中R’は水素原子であり、線形または分岐したアシルまたはアルキル基であり、所望により1種またはそれ以上の官能基で置換されている。それは1種またはそれ以上の二重結合をさらに含む。Rは線形または分岐したアルキレン基、好ましくは線形であり、例えばエチレンまたはプロピレン基である。L’およびL”は二価基であり、X、Y、およびmは上記で定義したものである。n’は1〜10、好ましくは1〜5の範囲の整数である。nは2〜50、好ましくは5〜30、より好ましくは5〜15の範囲の整数である。m’は0または1、好ましくは0である。m”は0または1、好ましくは0である。
【0094】
L’基およびL”基は、存在するときは、上述した二価基Lから選択されうる。これは、好ましくは−OCH
2CH(OH)CH
2−基または−NHC(O)−基を表す。この場合、−OCH
2CH(OH)CH
2−基または−NHC(O)−基は、それらの酸素原子(−OCH
2CH(OH)CH
2−基の場合)を介して、またはそれらのチッ素原子(−NHC(O)−基の場合)を介して、隣接する基(CH
2)
n(L’基を持つ)およびR’(L”基を持つ)にリンクしている。
【0095】
1実施形態において、m=0、および加水分解基Xはメトキシまたはエトキシ基を表す。n’は好ましくは3である。別の実施形態において、R’は5個未満の炭素原子を持つアルキル基、好ましくはメチル基を表す。R’は脂肪族または芳香族アシル基、特にアセチル基を表す。
【0096】
R’は、トリアルコキシシリルアルキレン基、または−(CH
2)
n”Si(R
5)
3基のような、トリハロゲノシリルアルキレン基を表しうる。ここで、R
5は、既に定義されたX基のような加水分解基である。n”は、既に定義されたn’整数のような整数である。このようなR’基の例は、−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3基である。この実施形態において、有機シラン化合物は少なくとも1つの加水分解基を担持する2つのケイ素原子を含む。
【0097】
好ましい実施形態において、nは3、または6〜9、9〜12、21〜24、または25〜30の範囲であり、好ましくは6〜9の範囲である。
【0098】
化学式IIの適切な化合物としては次のものが挙げられる:例えば化学式が
【化3】
および
【化4】
であり、Gelest、Inc.社、またはABCR社から販売されている2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン化合物、化学式が
【化5】
の化合物、化学式が
【化6】
の化合物、ここで、n=21〜24であり、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリクロロシラン、化学式が
【化7】
である2−[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、化学式が
【化8】
である2−[アセトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、化学式が
【化9】
である2−[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、化学式が
【化10】
である2−[ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、化学式
【化11】
および
【化12】
の化合物、ポリプロピレン−ビス[(3−メチルジメトキシシリル)プロピル]酸化物、化学式(V)のポリエチレン−ビス[(3−トリエトキシシリルプロポキシ)−2−ヒドロキシプロポキシ]酸化物のような2つのシロキサンの頭部を持つ化合物、化学式(VI)のポリエチレン−ビス[(N、N’−トリエトキシシリルプロピル)−アミノカルボニル]酸化物、ここで、n=10〜15であり、および化学式(VII)のポリエチレン−ビス(トリエトキシシリルプロピル)酸化物:
【化13】
【0099】
化学式IIの好ましい化合物は、[アルコキシ(ポリアルキレンオキシ)アルキル]トリアルコキシシランまたはそれらのトリハロゲン化された類似物である(m=m’=m”=0、R’=アルコキシ)。
【0100】
好ましくは、本発明の有機シラン化合物はフッ素原子を含まない。典型的には防曇被覆の前駆体被覆に対するフッ素の重量比は、5重量%未満、好ましくは1重量%未満、より好ましくは0重量%未満である。
【0101】
好ましくは、本発明に係る有機シラン化合物の分子量は、400〜4000g/mol、好ましくは400〜1500g/mol、より好ましくは400〜1200g/mol、さらにより好ましくは400〜1000g/molの範囲である。
【0102】
いうまでもなく、化学式IまたはIIの化合物の混合物、例えばポリオキシアルキレンのRO鎖長の異なる化合物の混合物をグラフトすることは可能である。
【0103】
本発明の1実施形態において、防曇被覆前駆体は、防曇被覆前駆体の総重量に対して、80重量%超の、好ましくは90重量%超の、より好ましくは95重量%超の、最も好ましくは98重量%超の本発明に係る有機シラン化合物を含む。1実施形態において、防曇被覆前駆体は、上述の有機シラン化合物の層のからなる。
【0104】
好ましくは、本発明の防曇被覆前駆体は、被覆の総重量に対して5重量%未満の金属酸化物またはメタロイド(例えばシリカまたはアルミナ)を含み、より好ましくはそれらをまったく含まない。防曇被覆を作成するために用いられる有機シラン化合物が真空下で堆積されるときは、欧州特許出願公開第1324078号明細書に記載の「少なくとも1つの有機化合物および少なくとも1つの無機化合物の共蒸着方法」によれば、金属酸化物を共蒸着させないことが好ましい。
【0105】
好ましくは、防曇被覆の前駆体被覆は架橋剤を含まない、即ち、好ましくはそれは、例えばテトラエトキシシラン等の架橋剤を含む組成物から形成されない。
【0106】
本発明の防曇被覆前駆体は水との静止接触角が10°より大きく50°より小さい、好ましくは45°以下、より好ましくは≦40°、さらにより好ましくは≦30°、最も好ましくは≦25°である。この接触角は好ましくは15°〜40°、より好ましくは20°〜30°の範囲である。
【0107】
シラノール基を含む被覆の表面上に有機シラン化合物を堆積するのは、通常の手順に従って行う。好ましくは気相堆積、または液相堆積、最も好ましくは気相において、真空蒸着により行う。
【0108】
例えば真空蒸着等の、気相でグラフトが実施されるときは、その後必要であれば、堆積された有機シラン化合物の余分な部分を除去するステップを実施して、シラノール基含有被覆の表面に本当にグラフトされた有機シラン化合物のみを保持するようにする。グラフトされない分子は、このようにして除去される。このような除去ステップは、最初に堆積された防曇被覆前駆体の厚みが5nm以上である場合には、特に実施すべきであろう。
【0109】
しかしながら、余分な有機シラン化合物を除去するためのステップは、幾つかの例では省略することができる。即ち、堆積される厚みが数ナノメートルを超えないことを一旦確認してから、有機シラン化合物を堆積してグラフト層を形成することが可能であるような場合は、省略することができる。このような厚みを取得するために堆積パラメータを調整することは当業者にとっては通常の能力範囲である。
【0110】
それにもかかわらず、シラノール基を含む被覆の表面上に余剰なくらいの有機シラン化合物を堆積し、その後、堆積されたがグラフトされていない化合物の余分な部分を除去することによって防曇被覆の前駆体被覆を形成することが好ましい。実際、グラフトされた有機シラン化合物の層の厚みが余分な有機シラン化合物の除去が必要のない5nm以下で、直接形成される場合、得られる防曇被覆の前駆体被覆は、その表面が少なくとも1つの界面活性剤を含む液体溶液に対して充分な親和性を有していない可能性があることが多く、そのため目標とする防曇特性を持たない被覆が得られる結果となることを本発明者等は観察した。
【0111】
驚くべきことに、上述のように有機シラン化合物を余分に堆積し、その後その余分な部分を除去したときにはこれは観察されなかった。余分に堆積される有機シラン化合物層の実際の物理的厚みは好ましくは20nm以下である。
【0112】
余分に堆積された有機シラン化合物を除去することは、例えば、石鹸水を主成分とする溶液等を用いてすすぐこと(湿式プロセス)によって、および/または、拭くこと(乾式プロセス)によって行われる。好ましくは除去ステップはすすぎ作業の後、拭き作業を含む。
【0113】
好ましくはすすぎ作業は、スポンジを用いて幾らかの石鹸水(界面活性剤を含む)で、物品を洗浄することによって行われる。その後、脱イオン水ですすぎ作業が行われる。その後、所望により、レンズに、アルコール、通常はイソプロピルアルコールを含浸させたCEMOI
TMまたはSelvith
TM布を用いて、通常は20秒間未満の、好ましくは5〜20秒間の拭き作業を行う。その後、脱イオン水を用いてもう一度すすぎ作業を繰り返してから拭き布で拭き作業を行ってもよい。これらのステップは全て手動で行ってもよいし1部または全て自動で行ってもよい。
【0114】
余分な有機シラン化合物を除去するステップによって、5nm以下の厚みの有機シラン化合物層が得られる。光学物品の表面に堆積された有機シラン化合物は、これにより単分子のまたは準単分子の層を形成する。
【0115】
有機シラン化合物は、事前に溶剤中に溶解されてから蒸着されてもよい。それによって蒸着速度および堆積速度を良好に制御することができる。膜厚は、溶解させることと、蒸着させるべき溶液の量を調整することによって、このようにして制御されうる。
【0116】
例えば、ディッピング、スピンコート等の湿式プロセスを用いてグラフトを実施するときは、一般に余分に堆積された有機シラン化合物の除去のためのステップは必要ない。
【0117】
本発明に係る防曇被覆の前駆体被覆は粗度が低い。典型的に、気相によって堆積された有機シラン化合物に関しては、粗度Raは2nm未満、典型的には約1nmである。
【0118】
Ra(nm)は、測定した表面粗度の中間値である。
【数1】
LxおよびLyは、測定した表面のサイズである。f(x、y)は中心平面における表面である。
【0119】
本発明に係る一時的な防曇被覆は、少なくとも1つの界面活性剤を含む溶液の膜を防曇被覆の前駆体被覆の表面上に堆積するよって取得される。
【0120】
この溶液は、表面に均一な層を生成することによって、ガラスに防曇のための一時的な保護を提供する。この層はガラス表面上の水滴を分散させることに寄与し、それによって、目に見える曇りを形成しない。
【0121】
界面活性剤溶液を適用することは、公知の任意の方法、特にディッピングまたはスピンコートによって実施しうる。
【0122】
界面活性剤溶液は、好ましくはこの溶液の液滴を防曇被覆前駆体の表面に堆積することによって適用される。その後、前駆体被覆全体を覆うようにそれを拡散する。
【0123】
適用される界面活性剤溶液は、一般に、好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは2〜8重量%の界面活性剤を含む水溶液である。界面活性剤を含みスプレイまたはウエットティッシュタイプの形状である市販の洗浄溶液は有利に用いることができる。
【0124】
幅広く様々な界面活性剤を用いてもよい。これらの界面活性剤は、イオン性、(カチオン性、アニオン性、または両性)または非イオン性の界面活性剤であり、好ましくは非イオン性またはアニオン性の界面活性剤である。しかしながら、これらの種々のカテゴリに属する界面活性剤を混合したものも含まれる。これら界面活性剤の多くは市販されている。
【0125】
好ましくは、ポリ(オキシアルキレン)基を含む界面活性剤が用いられる。
【0126】
本発明に用いるための、非イオン性の界面活性剤の好適な例には次のものが含まれる:ポリ(アルキレンオキシ)アルキル−エーテル、特にポリ(エチレンオキシ)アルキル−エーテル、例えばICI社から商品名BRIJ
TMとして販売されているもの等、ポリ(アルキレンオキシ)アルキル−アミン、ポリ(アルキレンオキシ)アルキル−アミド、ポリエトキシル化された、ポリプロポキシル化された、またはポリグリセロール化された脂肪アルコール、ポリエトキシル化された、ポリプロポキシル化された、またはポリグリセロール化された脂肪アルファ−ジオール、ポリエトキシル化された、ポリプロポキシル化された、またはポリグリセロール化された脂肪アルキルフェノール、およびポリエトキシル化された、ポリプロポキシル化された、またはポリグリセロール化された脂肪酸、これらの全てが例えば8〜18の炭素原子を含む脂肪鎖を持ち、ここで酸化エチレンまたはプロピレン酸化物単位の数は特に2〜50の範囲であり、グリセロールモイエティの数は特に2〜30の範囲であり、エトキシル化されたアセチレンジオール、親水性のブロックおよび疎水性のブロック(例えばそれぞれ、ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンブロック)を同時に含むブロック共重合体型の化合物;ポリ(オキシエチレンの)およびポリ(ジメチルシロキサン)の共重合体、およびソルビタン基を組み込む界面活性剤。
【0127】
好ましいアニオン性の界面活性剤は、スルホン酸基を含むものであり、特に次のものが挙げられる:アルキルスルホサクシネート、アルキルエーテルスルホサクシネート、アルキルアミドスルホサクシネート、アルキルスルホサクシナメート、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸の二塩基の塩、アルキルスルホコハク酸の二塩基の塩、アルキルスルホ−アセテート、スルホコハク酸ヘミ−エステル塩、アルキルスルフェートおよびアリールスルフェート、例えば、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネートおよびナトリウムドデシルスルフェート等、エトキシル化された脂肪アルコールスルフェート、アルキルエーテルスルフェート、アルキルアミドエーテルスルフェート、アルキルアリールポリエーテルスルフェート、アルキルスルホネート、アルキルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルアミドスルホネート、アルキルアリールスルホネート、α−オレフィン−スルホネート、第2級アルコールエトキシスルフェート、ポリオキシアルキル化されたカルボン酸エーテル、モノグリセリドスルホネート、硫酸ポリオキシエチレンアルキルエーテル塩、硫酸エステル塩、N−アシルメチルタウリン塩等のN−アシルタウレート、モノスルホン酸ヒドロキシアルカン塩、またはアルケンモノスルホネート。これらすべての化合物のアルキルまたはアシルラジカルは好ましくは12〜20の炭素原子を含み、およびこれらの化合物の随意的なオキシアルキレン基は、好ましくは2〜50のモノマー単位を含む。本出願において適切に用いられる、これらのアニオン性の界面活性剤および他の多くのものは、欧州特許出願公開第1418211号明細書および米国特許第5,997,621号明細書の中に記載されている。
【0128】
本発明に用いるための、カチオン性の界面活性剤の好適な例には、第1級、第2級、または第3級脂肪アミン塩が含まれ、所望により、テトラアルキルアンモニウムのようなポリオキシアルキレン化された、第4アンモニウム塩、アルキルアミドアルキルトリアルキルアンモニウム、トリアルキルベンジルアンモニウム、トリアルキルヒドロキシアルキル−アンモニウムまたはアルキルピリジニウムクロリドまたはブロミド、イミダゾリン誘導体、またはカチオン性のアミン酸化物、が含まれる。
【0129】
1実施形態において、用いられる界面活性剤は、フッ化界面活性剤を含む。この場合、少なくとも1つのフルオロアルキルまたはポリフルオロアルキル基を含むものが好ましく用いられ、少なくとも1つのペルフルオロアルキル基を含むものがより好ましく用いられる。
【0130】
Nanofilm社製のClarity Defog it
TM溶液は、防曇特性を提供する市販の界面活性剤溶液である。
【0131】
界面活性剤溶液の代わりに親水性の化合物、特に少なくとも1つの親水性の基、好ましくはポリ(オキシアルキレン)基を含む界面活性特性を持たない化合物を用いることができるが、界面活性剤溶は好ましいものであり、かつ、非界面活性剤の親水性化合物を主成分とする溶液に比べてはるかに良好な防曇結果を提供する。本発明の防曇被覆は好ましくは水との静止接触角が10°以下であり、より好ましくは5°以下である。
【0132】
界面活性剤組成物を適用するとすぐに、直ちに使用可能な防曇被覆を得る。これは本発明の重要な利点の1つを表す。従って従来技術物品の場合のように防曇効果を得るために界面活性剤溶液を何回も適用する必要はない。
【0133】
さらに、この防曇被覆によって提供される防曇効果は長期に亘って継続する。その効果は、数日から数週間の範囲の間継続する。これは公知の防曇被覆に比べて有意な改善である。この耐久性は、実験の章に記載する手順で反復された拭き作業に相当する機械的応力を用いて試験されている。
【0134】
防曇被覆は一時的であるが、防曇被覆前駆体の表面に吸着された界面活性剤分子がもはや充分ではないという時点で界面活性剤の新たな適用を行うだけでよいので、容易に更新可能である。従っていつも「活性化可能(activable)」である。
【0135】
本発明に係る光学物品は、防汚被覆を持たない。特にフッ化シランを主成分とする防汚被覆を持たない。それにもかかわらず満足する清浄性を有することを示す。皮脂の跡を除去する容易さは、フッ化防汚被覆の場合ほど良好ではないが、剥き出しの反射防止被覆、即ちいかなる防汚被覆も無い場合よりは良好である。
【0136】
しかしながら、本発明に係る防曇被覆前駆体の上に一時的な防曇物品を適用する容易さは、一般に用いられているフッ化防汚被覆の上に適用することに比べて良好である。さらには、一時的な防曇物品によって得られる防汚効果の耐久性は、本発明の文脈におけるものの方が、防汚被覆の上にこの防曇物品が適用された場合より、さらに長い。
【0137】
本発明は、また、以上に説明されたような光学物品、好ましくは眼鏡用レンズを作成する方法に関する。該方法は:
a)表面にシラノール基を含む被覆が施された基材を準備するステップと、
b)前記被覆の上にポリオキシアルキレン基および少なくとも1つの加水分解基を担持する少なくとも1つのケイ素原子を有する少なくとも1つの有機シラン化合物を、好ましくは真空蒸着によって堆積して、所望によりシラノール基を含む途膜の表面に堆積されたがグラフトされていない余分な有機シラン化合物を除去して、厚みが5nm以下で、前記表面の水との静止接触角が10°より大きく50°より小さい、グラフトされた有機シラン化合物の層を得るステップとを含む。
【0138】
この方法は少なくとも1つの界面活性剤を含む溶液の膜を、ステップ(b)で形成した層の表面に堆積させ、それによって防曇被覆へのアクセスを得るようにする追加のステップをさらに含んでもよい。
【0139】
防曇被覆の前駆体被覆は、少なくとも1つの界面活性剤を含む上述の液体溶液を適用する前に、広範に加熱を行わないことが好ましい。前駆体被覆を50〜60℃で数時間加熱することは、光学物品に損傷を与える恐れがある。さらに、防曇被覆前駆体を堆積した後は、光学物品を加熱する必要はない。
【0140】
最後に本発明は光学物品、好ましくは表面にシラノール基を含む被覆が施された基材を含む眼鏡用レンズに関する。その表面にシラノール基を含む上述の被覆の表面の1部は、既に定義したような防曇被覆の前駆体被覆に直接接触する。その表面にシラノール基を含む上述の被覆の表面の別の1部、好ましくはその表面の残りの部分は、疎水性および/または疎油性の被覆に直接接触し、それに付着している。これらの部分は連続または不連続であってよい。
【0141】
このような光学物品は特に、防曇特性を示すデモンストレータとして用いることができる。少なくとも1つの界面活性剤および/または既に定義されたような表面活性特性を持たない親水性化合物を含む液体溶液をその表面に適用した後、その物品を曇り発生条件(呼気、冷蔵庫、熱湯、蒸気等)に晒す。または、その表面に1回またはそれ以上の拭き作業を行ってから曇り発生条件に暴露する。
【0142】
その表面が疎水性および/または疎油性の被覆で覆われている部分の光学物品は霞みがかかり、防曇被覆を含む部分は透明のままである。
【0143】
この光学物品において適切に用いられる疎水性および/または疎油性の被覆、または防汚トップコートは、特に国際公開出願第2010/055261号に記載されている。それらは、本発明の防曇被覆とは本質的に異なる。
【0144】
用いられる疎水性および/または疎油性の被覆の表面エネルギーは、国際公開番号第2010/055261の中に参照された文献に記載されるOwens Wendt法によれば、好ましくは、14mJ/m
2以下であり、好ましくは12mJ/m
2以下である。
【0145】
本発明はこの方法に限定されるものではないが、このような光学物品は表面にシラノール基を含む被覆を施された光学物品を用いて形成されてもよい。上述の被覆は表面の少なくとも1部は疎水性および/または疎油性の被覆で直接被覆されている。この疎水性のおよび/または疎油性の被覆の少なくとも1部に除去処理を行うことによって、その下に存在する、その表面にシラノール基を含む被覆をむき出しにし、次いで剥き出しにした表面上に、本発明に係る少なくとも1つの有機シラン化合物を堆積させ、既に記載したような防曇被覆の前駆体被覆を形成する。
【0146】
任意の化学的または物理的手段を用いて、疎水性および/または疎油性の被覆の1部を除去しうる。イオン銃を用いて被覆にアルゴンイオンを衝突させることも好ましいであろうが、当業者であれば誰でも容易に決定できる条件下で、真空下のプラズマ媒介処理、コロナ放電、電子ビーム衝突、または紫外線処理も適切に用いることもできる。光学物品が導電性の層を含む場合、特に反射防止被覆に静電特性を提供する導電層を含む場合は、物品に対する損傷を防止するためにイオン衝撃が好ましく用いられる。疎水性および/または疎油性の被覆の1部だけに除去処理を制限するために保護手段を用いることができる。例えば、イオンやフォトンまたはエレクトロン等の、高エネルギー種−仲介処理の場合に、処理する物品の表面に、または所望によりイオン源と処理する表面との間に、マスクや他の適切な手段を配置する。
【0147】
光学系においてマスクを用いるのは普通であり、特に米国特許第5,792,537号明細書に記載されている。
【0148】
代替法として、上述した光学物品は本発明に係る被覆で被覆されているレンズから製造してもよい。シラノール基を含むその表面は、上述した方法に従って部分的に剥き出しにされ、次いでその剥き出しの表面上に疎水性および/または疎油性の被覆を堆積する。
【0149】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に説明するためのものであり、これによって限定するものではない。
【実施例】
【0150】
実施例
1.使用される材料および光学物品
Optron社製の粒状のシリカが使用される。防曇被覆前駆体を形成するために、実施例において用いられる有機シラン化合物は、化学式(III)の6〜9の酸化エチレン単位を含む2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシランであり(実施例1〜4、6、7)、その分子量は450〜600g/mol(CAS No.:65994−07−2.Ref:SIM6492.7、Gelest社製)である。または化学式(VIII)の3酸化エチレン単位を含む2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン(実施例5)である。
【0151】
比較例C4〜C7において用いられる比較の有機シラン化合物は、化学式CH
3O−(CH
2CH
2O)
45−(CH
2)
3Si(OC
2H
5)
3(IX)の、45個の酸化エチレン単位を含む、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、Interchim社製、または化合物HO(CH
2CH
2O)
45CONH(CH
2)
3Si(OCH
2CH
3)
3(X)、ABCR社製、(CAS No.: 37251−86−8)である。化学式(X)の化合物は、特開2005−281143号公報の比較例3で用いられた化合物である。
【0152】
特に指定がない限り、本発明の実施例において用いられるレンズは、屈折率が1.60、直径が65mm、屈折力が−2.00ディオプター、厚みが1.2mmの、平面のポリチオウレタン(熱硬化性のPTU、三井東圧化学社製)のレンズ基材を含む。
【0153】
これらのガラスは、後述する方法によって、両面において処理され凸面は凹面よりも先に処理される。
【0154】
この基材は、屈折率が1.60の摩耗性および耐引掻性被覆で被覆され、同様に厚みが約100nmで、屈折率が1.40の、ゾルゲル法によって取得される単層の反射防止被覆(反射防止被覆Xと称する)(中空のコロイド状粒子を含むアルコキシシランを主成分とする組成物を堆積し、堆積後3時間100℃で加熱して取得する)で被覆し、または4層の市販の反射防止被覆ZrO
2/SiO
2/ZrO
2/SiO
2((反射防止被覆Zと称する)耐摩耗性被覆の上に真空蒸着によって、記載した順番に材料を堆積したもの(各層の厚みは、それぞれ、27、21、80および81nmである))で被覆する。
【0155】
防曇被覆前駆体の堆積の前に、反射防止被覆Xを含むレンズにプラズマアシスト表面活性化処理(0.2ミリバール、200mL O
2/分、500Wで2分間、次に0Wで5分間)を行う。
【0156】
反射防止被覆Zを含むレンズには、活性化処理を行わない。
【0157】
実施例4〜6では、用いられるレンズは、ORMA
TM材料のレンズ基材を含む。この材料は、厚みが約1ミクロンのポリウレタンを主成分とする耐衝撃性プライマーを含み、プライマーはそれ自体、欧州特許出願公開第0614957号明細書の実施例3に定義されたような組成物を堆積および硬化させることによって、厚みが約3ミクロンの耐摩耗性被覆を備える。次に(実施例4を除く)、5層の反射防止被覆ZrO
2/SiO
2/ZrO
2/ITO/SiO
2(反射防止被覆Yと称す)を材料が記載された順に真空蒸着によって耐摩耗性被覆の上に堆積し(各層の厚みはそれぞれ、29、23、68、7および85nmである)、被覆する。ITO層は導電性の層であり、スズでドープした酸化インジウム(In
2O
3:Sn)である。
【0158】
防曇被覆前駆体の堆積の前に、耐摩耗性被覆を含むレンズに、表面活性化処理を行う。表面活性化処理は、希ガスまたは酸素、この例では希ガスとしてアルゴンを用いて、真空下で典型的には3.5×10
−5ミリバールの圧力で、イオン衝撃を実行することからなる。
【0159】
実施例では、反射防止被覆は防曇被覆前駆体の堆積の前に活性化処理を行わない。
【0160】
防曇被覆前駆体は2つの異なる方法によって堆積されている:
2.防曇被覆前駆体の作成
a)湿式プロセスを用いる防曇被覆前駆体の堆積(実施例1)
1gの化学式IIIのシロキサンを9gのイソプロパノール中で希釈する。その結果生成された溶液4gを次に145gのイソプロパノール中で希釈する。溶液を2分間室温で攪拌し、その後0.2gのHCl 0.1Nを添加することによって僅かに酸性にし、最後にスピンコート(3000rpm/30秒/加速:2000rpm/s;湿度50%)によって、レンズの反射防止被覆Xの上に堆積させる。レンズの表面は上述のように活性化されている。次いで防曇被覆前駆体を75℃で15分間加熱し、次いで100℃で3時間加熱する。このステップの最後に楕円偏光計分析によって評価される厚みは、3〜5nmである。化学式IIIのシロキサン化合物は、余分に堆積されていないので、拭くことや洗浄による除去ステップは行われていない。
【0161】
b)防曇被覆前駆体の気相堆積(実施例2〜6)
実施例2では、レンズの反射防止被覆Zへの堆積は、ジュール効果に基づく加熱源を用いて、真空蒸着によって行われる。150μLの化学式IIIのシロキサン化合物を、銅カプセル中でニッケル泡に含浸させる(堆積厚み:10nm、堆積速度:0.25nm/s、堆積開始時の圧力:2×10
−5ミリバール)。
蒸着が完了すると、各レンズの表面をセモア
TM(Cemoi
TM)乾燥布で拭き、堆積された化学式IIIのシロキサン化合物の余分な部分を除去する。これで均質な被覆が得られる。実施例2の防曇被覆の厚みは1〜3nmである。
セモア
TM(Cemoi
TM)布は、Facol社から、マイクロファイバーM8405 30x40として提供されている布である。
【0162】
実施例4では、堆積は、レンズの耐摩耗性被覆の上にジュール効果に基づく加熱源を用いて、真空蒸着によって行われる。化学式IIIのシロキサン化合物を、銅カプセル(多孔質材料が存在しない)中に注ぎ、このカプセルを導電タンタルの加熱支持材の上に堆積する。蒸着装置はSATIS 1200 DLF装置である。化学式IIIのシロキサン化合物の蒸着圧力は、一般に5×10
−6〜8×10
−6ミリバールの範囲である。蒸着が完了すると、各レンズの表面を幾らかの石鹸水ですすぎ、所望によりイソプロピルアルコールですすぎ、その後脱イオン水ですすぎ、次いでセモア
TM乾燥布で拭き、堆積された化学式IIIのシロキサン化合物の余分な部分を除去する。
【0163】
実施例5〜6では、堆積が、化学式IIIまたはVIIIの有機シランを用いて、実施例4と同様のプロトコルに従って、真空蒸着によって、レンズの反射防止被覆Yの上に行われる。その際プログラムされた蒸着速度は、0.3nm/sである。約12nmの厚みの層(余分なシロキサン化合物を除去する前)を取得し、所望によりそれを60℃で1時間加熱する(比較例C6およびC7についてのみ)。次に実施例4で記載したように、余分なシロキサン化合物を除去する。
【0164】
c)比較例
比較例C1のレンズは防曇被覆前駆体を含んでいないという点で実施例1のレンズと異なる。
比較例C2のレンズは防曇被覆前駆体を含んでいないという点で実施例2のレンズと異なる。
比較例C3のレンズは組成物OPTOOL DSX
TMの真空蒸着によって2〜3nmの厚みの防汚被覆が反射防止被覆の上に形成されているという点で、比較例C2のレンズと異なる。この組成物はダイキン工業から販売されている(米国特許第6,183,872号明細書に記載された化学式に対応する、ペルフルオロプロピレン基を含むフッ化樹脂)。
比較例C4〜C7のレンズは有機シラン化合物から形成された防曇被覆の前駆体被覆を有する。それはポリオキシアルキレン基が80個を超える炭素原子を含んでいるので本発明に係るものではない。
【0165】
d)界面活性剤含有液体溶液(一時的な防曇溶液)の堆積
例1A、2A、C1A〜C7A、4A、5Anおよび6Aの物品は、例1、2、C1〜C3および4の物品の表面に界面活性剤(イソプロパノール中の溶液の中のポリエチレングリコール)を含む溶液Clarity
(R) Defog Itをそれぞれ一回だけ適用することによって取得されている。これはNanofilm社製であり、これ以降は単に「Defog It」と称する。この溶液を含む商品名「Defog It」の拭き布を用いてレンズの上に適用してもよいし、または、商品名「Defog It」の防曇液体を直接拡散させてもよい。
【0166】
e)試験および結果
作成した光学物品の性能とその構成を表1および2にまとめ、以下の段落で説明する。
【表1】
実施例4Aのレンズは、実施例1Aおよび2Aに比べて防曇特性を有する。
【0167】
e1)防曇特性の評価
防曇特性は、「呼気試験」(視力測定を用いない定性試験)、「熱蒸気試験」および「冷蔵庫試験」の3つの方法に従って評価しうる。呼気および冷蔵庫試験は低い曇り応力を発生すると考えられる。熱蒸気試験は高い曇り応力を発生すると考えられる。
【0168】
呼気試験
この試験のために、試験者は評価すべきレンズを試験者から約2cm離れたところに配置する。試験者は自分の呼気をガラスの露出した表面に3秒間吹きかける。試験者は、凝結による曇り/歪の有無を視覚的に観察できる。
有 曇りが存在する。
無 曇りが存在しない:このようなレンズは、呼気試験の終了時において防曇特性を有している、即ち、曇りによって生じる曇りの影響を防止しているとして考えられる(しかしそれは必ずしも本発明の意味における防曇ガラスに相当するものではない。視覚歪を示す可能性があり、それによって視力が<6/10しかない場合もある)。
【0169】
熱蒸気試験
この試験の前に、ガラスを湿度50%で温度調整(20〜25℃)された環境内に24時間配置する。
試験のためにガラスを55℃の水を含む加熱された容器の上に15秒間配置する。その後直ちに、試験すべきガラスを通して、5m離れたところに位置する視力計を観察する。観察者は以下の基準に従って、時間の関数として視力を以下のように評価する:
0 曇りが無く視覚的歪が無い(視力=10/10)
1 曇りおよび/または視覚的歪があり、視力は>6/10である。
2 曇りおよび/または視覚的歪があり、視力は<6/10である。
実施の問題として、スコア0または1を得るためには、装着者は視力が10/10あり、かつ、ガラスを目の前に配置して5メートル離れて配置されたスネレン視力表の6/10 のラインの「E」の文字の向きを差別化する能力があるものでなければならない。
この試験では、装着者が自分の顔を紅茶/コーヒーのカップの方へ傾けたり、熱湯がいっぱい入ったポットの方へ傾けたりするような通常の生活条件を模倣できる。
【0170】
冷蔵庫試験
この試験のために、デシカント(シリカゲル)を含む封止された箱の中にレンズを配置する。次にこの箱を4℃の冷蔵庫内に少なくとも24時間配置する。この時間周期の後、これらの箱を冷蔵庫から取り出し直ちにガラスを試験する。次にそれらを45〜50%の湿度雰囲気、および20〜25℃の中に配置する。4m離れたところに配置された視力計をこのガラスを通して観察する。観察者は、視力を時間の関数として、そして熱蒸気試験と同じ基準(スコアは0、1または2)に従って評価する。
この試験では、装着者が寒い乾燥した場所から温度も湿度も高い部屋に入るような通常の生活条件を模倣できる。
【0171】
防曇特性の評価試験の結果
熱蒸気試験の結果を
図1に示す。実施例1Aおよび2Aのガラスだけが、本発明の意味する範囲の防曇ガラスに相当することが観察できる。さらにそれらはすぐに使用可能である。親水性の表面被覆を持たないガラス(比較例C2およびC3)および防曇被覆の前駆体被覆が施されたガラスは、視覚的歪を生成し、それによって熱蒸気に暴露した後、視力>6/10に到達しないので、本発明の意味する範囲の防曇ガラスに相当しない。しかしながら、実施例1および2のガラスは、呼気試験において防曇特性を有する。
すべての非防曇ガラスはしばらくすると一旦水蒸気が蒸発して視力10/10になる。
【0172】
e2)汚れ除去容易性特性(清浄性)の評価
界面活性剤含有液体溶液の堆積の無い、レンズ表面の汚れ除去の容易性(清浄性)はガラスの表面に、ステンシル法により、指紋を堆積させ、ref.TWILLX1622のクロスを用いて、このマークを拭くことによって評価されている。ガラスを、黒の背景の上で観察し清浄が容易、から、清浄が容易でない、までの分類を試験者が行う。この分類は試験者が提供する0の清浄が困難から10の清浄が非常に容易までの範囲のスコアに関連付けられる。この試験は装着者が拭き布で装着者のガラス上に存在する指紋を清浄にするような通常の生活条件を模倣できる。
【0173】
試験されたガラスおよびその結果は、表1に示されており、清浄が最も容易であるガラスは、当然のことながらフッ化防汚被覆が施されているもの(比較例C3)であることを示している。本発明に係る防曇被覆前駆体を含むガラス(実施例1および2)は、被覆を持たないものに比べて清浄容易性が高く、または被覆されていない反射防止被覆を持つもの(比較例C1およびC2)に比べて同等である。
【0174】
e3)一時的な防曇製品の適用効果の評価
試験したガラス(例1、2、4、C1、C2、C3)の上に、一時的な防曇製品(溶液または拭き布)を連続堆積させ、上述の熱蒸気試験で曇りや歪が発生しなくなる(完全な防曇効果)まで行う。期待される効果は、ガラスが曇りや歪を発生させないような性能レベルである。このような性能レベルを達成するために必用な適用回数を表1に示す。
【0175】
拭き布のDefog Itの使用: 拭き布のDefog Itをそれぞれの面上に配置してガラスを中心から周辺に向かってらせん状に移動しながら、拭き布を用いて拭く。これが1回の適用に相当する。適用の回数は5回までに限られている。
溶液のDefog Itの使用: 溶液のDefog Itを2滴ガラスのそれぞれの面に堆積し、拭き布セモア
TMを用いてガラスを中心から周辺に向かってらせん状に移動しながら拭く。これが一回の適用に相当する。適用回数は3回までに制限されている。
【0176】
この結果は表1に示されている。防曇被覆を得るためには本発明に係る防曇被覆の前駆体被覆の上で一時的な防曇製品の必要な適用回数は1回だけであり、それによって一時的な防曇溶液の使用を簡略化できるということを結果から指摘することができる。他の表面は、同様の防曇特性レベルに到達することを期待するには、防曇溶液を数回適用する必要がある。本発明によれば、シラノール基を含む被覆の表面は、本発明に係る有機シラン化合物のグラフトのおかげで界面活性剤と適合するようになされている。
このような適用容易性は防曇被覆前駆体の表面の親水性の特性の結果のみならず、化学式IIIの有機シラン化合物の化学的特性の結果でもあると発明者等は考える。
【0177】
e4)機械的応力の後の防曇効果の耐久性(溶液のDefog Itの適用後)
拭き布のDefog Itを用いて適用した一時的な防曇溶液によって得た防曇効果の機械的応力(拭くこと)に対する耐久性は次のように評価されている。
上述の熱蒸気試験の終了時において、初期の瞬間はすべてのレンズが防曇レンズとみなされるために必用な回数だけ、一時的な防曇溶液の堆積を何回も行う。その後拭き布セモア
TMを用いてレンズを拭き、再び熱蒸気試験を行う(その際、曇りによって生成された水膜が消えたときにガラスを拭く。水膜がまだ存在するときにガラスを拭くと、防曇溶液は部分的に除去される。)。
【0178】
1回の拭き作業は、レンズの表面上で拭き布セモア
TMを2回しっかりと確実に回転させることに相当する。スコア(0、1または2)は、拭き作業を対応回数行った後の2回目の熱蒸気試験の最後における曇りのレベルに対応する。
耐久性試験の結果を表2に示す。
【表2】
【0179】
疎水性の表面(比較例C3)上では、一時的な溶液のDefog Itによって提供された防曇特性を完全に変化させるには、1回の拭き作業で充分である。
より親水性の表面(比較例C1の反射防止被覆の表面)上では、一時的な溶液Defog Itによって提供された防曇特性の劣化の開始を見るには、5回の拭き作業が必要である。
本発明に係る防曇被覆の表面上では、一時的な溶液Defog Itによって提供された防曇特性の劣化の開始を見るには、10回の拭き作業が必要である。
【0180】
従って、本発明に係る防曇被覆は一時的な防曇溶液によって提供された防曇特性の、機械的拭き作業に対する耐久性を有意に改善することを可能にする。
【0181】
e5)防曇効果の経時的耐久性(Defog It溶液の適用後)
一時的な溶液Defog Itを堆積した後の、防曇効果の経時的耐久性を評価した。この場合は、堆積の後、ガラスに機械的応力を加えずに行った。ガラスを室内の温度および湿度(〜20〜25℃、相対湿度〜30%)で保存する。防曇溶液の堆積は、呼気試験の終了時において、初期の瞬間はすべてのガラスが防曇ガラスであると考えられるために必要な回数だけ何回も行う。防曇効果の変化について、呼気試験を介して定期的に試験を行う。表1は呼気試験の終了時においてガラスがもはや防曇特性を有していないと考えられる、防曇溶液の適用後の時間を示す。試験は15日間後に停止した。
【0182】
本発明に係る防曇被覆前駆体の表面は、一時的な溶液によって提供された防曇効果の耐久性を15日間よりも長くするということに注目することができるであろう。それは、試験した他の表面よりもはるかに良好である。この耐久性は防曇被覆前駆体の表面の親水性特性の結果のみならず、化学式IIIの有機シラン化合物の化学的特性の結果でもあると発明者等は考える。
【0183】
e6)防曇被覆の前駆体被覆の接触角(表1および4)
堆積された有機シラン化合物の余分な部分が除去されている試料を用いて、GBX社のDigidrop角度計で測定を行う。分析する試料の表面に4μLの水を自動的に堆積させ、次に接触角を測定する。その結果を表1に示す。
【0184】
e7)反射防止特性
一時的な溶液のDefog Itの堆積の前と後に、ガラスの反射スペクトルを調査した。レンズのそれぞれは、この溶液の適用後の呼気試験の終了時において防曇特性を有している。
次の表3は、一時的な溶液のDefog Itの堆積の後の反射スペクトル上で観察された変化を示す。
【表3】
化学式IIIの有機シランのグラフトを介して表面を改質した結果の物品(表面活性溶液の堆積の前)は、眼科分野の基準に対応する反射防止特性を保持している。
さらに、試験したすべてのガラスは、一時的な防曇溶液の堆積後に反射防止特性を保持している。
【0185】
4.実施例3
この実施例では、堆積された層の厚みをより精密に測定するためにレンズの代わりにケイ素基材(ウェファ)を用いた。
この実施例で用いられる光学物品は、気相堆積(プログラムされた厚みは:140nm、プログラムされた堆積速度は:3nm/sである)によって、50nmの厚みのシリカを主成分とする層で被覆されているケイ素基材を含む。このシリカを主成分とする層の堆積から3日後の水との静止接触角は33°であり、2〜3ヶ月後には、43°に増加した。
防曇被覆前駆体は、実施例2と同じ条件下で、化学式IIIのシロキサン化合物の化学気相堆積によってこのシリカを主成分とする層上に堆積する。それによって、余分な有機シラン化合物の除去前に、t=3日において水との静止接触角が10°の10nmの厚みの層を得る。
【0186】
一旦蒸着が完了してから物品の表面を石鹸水で洗浄し、セモア
TM乾燥布で拭く。これによって厚みが1〜3nmで均質な表面を有して、水との静止接触角が39°の被覆を得る。
界面活性剤を含む一時的な溶液「Defog It」の適用後、水との静止接触角が5°未満の防曇被覆を得る。
拭き布セモアを用いて光学物品の表面の50回の乾燥拭き作業(50往復運動)を行い防曇被覆の耐久性を評価した。この作業後、物品の水との静止接触角が3°未満であり、これは一時的な溶液「Defog It」がその表面にまだ存在していることを表している。
この実施例では、シリカ/防曇被覆前駆体の二層の全体の屈折率は1.45であることを考慮して、単波長偏光解析法を介してこの厚みを分析した。
【0187】
5.実施例5〜6および比較例C4〜C7:試験および結果
これらの実施例において作成された光学物品の性能とその構成を表4に示し、以下の段落で説明する。
【表4】
【0188】
機械的応力の後の防曇効果の耐久性(溶液Defog Itの適用後)
この試験によって、レンズの表面を拭くことに対する一時的な防曇溶液の耐性を評価できる。各レンズにつき2つの試料で実施する。
一時的な防曇溶液の堆積は、上述の熱蒸気試験の終了時において、初期の時点ですべてのレンズが防曇ガラスとして考えられるように行った。
各熱蒸気試験の後、レンズを室温で乾燥させ、それによって、曇りによる水膜を消滅させた。実際にはまだ水膜が存在している間にガラスを拭くと、防曇溶液が部分的に除去される。
その後、レンズに、拭き布セモア
TMを用いて手で乾燥拭きを行う(2回の拭き作業)次いで第2回目の熱蒸気試験を行う。その後、上述のように乾燥させる。1回の拭き作業はレンズの表面上で拭き布セモア
TMを、2回しっかりと確実に回転させることに相当する。
【0189】
その後、レンズに、拭き布セモア
TMを用いて手で乾燥拭きを行う(3回の追加拭き作業)次いで第3回目の熱蒸気試験を行う。これで5回の拭き作業後の防曇スコアを求めることが可能になる。次いで上述のように乾燥させ、このサイクルを繰り返す。連続5回実行し、その後連続10回の追加の拭き作業を行い、その間に乾燥させることによって、10回および20回の累積拭き作業後の防曇スコアを求めることが可能になる。
以下の防曇スコア(A、B、CまたはD)は、対応する回数の拭き作業(累積回数)の実施後の、各熱蒸気試験の最後の、曇りレベルに対応する。
A:均質な水膜(視力10/10)
B:装着者が許容可能と考える視覚的歪がある。
C:装着者が許容不能と考える視覚的歪(不均質な水膜)がある。
D:全体に分散する白い曇り、細かい水滴がある。
スコアAまたはBを得た場合にそれらのレンズは耐久性試験に合格したと考えられる。
【0190】
結果
非常に長いポリオキシアルキレン鎖を持つ従来技術に用いられる化学式IXおよびXの比較化合物に比べて、化学式IIIおよびVIIIに対応する本発明の有機シラン化合物は、より効率的な防曇被覆を形成することを可能にすることが明らかである。化合物IXおよびXは化合物IIIおよびVIIIよりも、親水性の高い被覆を形成することを可能にし、かつ、被覆の親水性特性が高くなると、より良好な防曇特性が一般に期待されるとすると、この結果は驚くべきことである。化合物IIIは、さらに化合物VIIIよりも、より効率的であることが認められる。
さらに、特開2005−281143号公報の教示による、比較例C6およびC7で実施されるような1時間60℃の熱的後処理は、防曇被覆の性能に多くの影響を与えない。
【0191】
6.実施例7
ORMA
TM材料で作成され、実施例5〜6のそれらと同じ機能被覆、即ち、ポリウレタンを主成分とする耐衝撃性プライマー、耐摩耗性被覆および反射防止被覆Y(ZrO
2/SiO
2/ZrO
2/ITO/SiO
2)をその凸面および凹面に含むガラスは、真空蒸着によって、それらの両面をダイキン工業から販売されているOptoolDSX
TM材料を主成分とする2nmの厚みの防汚被覆層で被覆される。
【0192】
プラスチック膜のレーザー切断プロセスによって中にパターンを形成して作成されたマスクを凸面上に配置する。次にマスクを介して部分的に保護されている凸面にイオン銃を用いてアルゴンイオン衝撃を行う。これによって、マスクによって保護されていなかったエリアの防汚被覆を除去し、このエリアのシリカを主成分とする層である反射防止被覆Yの外側層がパターンの形式で露出される。
その後、露出されたエリアで、防曇被覆前駆体の気相堆積が実施例5〜6と同様に行われる。その際、化学式IIIの有機シランを用いて、かつ、堆積のために、レンズの表面にマスクを固定して行われる。その結果、防曇被覆の前駆体被覆でグラフトされた2〜3nmの厚みの層が形成される。
【0193】
ガラスの防曇特性を証明するために、数滴のClarity
TM Defog It 溶液を凸面上に適用する。次いでこの表面を、拭き布セモア
TMを用いて拭く。何回かの拭き作業の後、防汚被覆で被覆されているガラスの表面から界面活性剤溶液が完全に除去され、一方パターンに対応するエリア内には防汚被覆がまだ存在している。
【0194】
これは、このように作成されたガラスに呼気試験、冷蔵庫試験、または熱蒸気試験を行い、本発明に係る防曇被覆で被覆されているパターンに対応する部分以外の、ガラス表面全体の上に曇りが発生することによって、視覚的に証明されうる。