特許第5965383号(P5965383)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965383固体酸化物形燃料電池および該電池の反応抑止層形成用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965383
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池および該電池の反応抑止層形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20160721BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20160721BHJP
【FI】
   H01M8/02 Z
   H01M8/12
   H01M8/02 E
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-266988(P2013-266988)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-122289(P2015-122289A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 広幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐次
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−229311(JP,A)
【文献】 特開2013−114775(JP,A)
【文献】 特開2013−157317(JP,A)
【文献】 特開2005−52718(JP,A)
【文献】 特表2014−514701(JP,A)
【文献】 特開2005−327507(JP,A)
【文献】 特開2013−197036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
H01B 1/20−1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するための組成物であって、
少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤と有機溶媒とを含み
前記セリウム酸化物の占める割合は、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%〜80wt%であり、
前記分散剤が分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量が1000以下である、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層形成用組成物。
【請求項2】
前記分散剤が、分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である、請求項1に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、下式(I):
【化1】
(ただし、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜5の低級アルキル基であり、mおよびnは、1≦m≦20、0≦n≦20、m+n≦30を満たす実数である。);
で示されるジカルボン酸である、請求項1または2に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項4】
レオメーターの測定に基づくレオロジー降伏値が100Pa以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項5】
前記分散剤の含有量が、前記反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、3wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒がα−テルピネオールであり、
前記バインダがエチルセルロースである、請求項1から5のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項7】
前記セリウム酸化物が、イットリア、ガドリニアまたはサマリアがドープされた酸化セリウムであり、
前記セリウム酸化物のレーザー回折・光散乱法に基づく平均粒径が0.1μm以上2μm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物。
【請求項8】
アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物からなる、グリーンシート積層体。
【請求項9】
前記反応抑止層の塗布密度が55体積%〜70体積%である、請求項8に記載のグリーンシート積層体。
【請求項10】
アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる固体酸化物形燃料電池であって、
前記反応抑止層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の反応抑止層形成用組成物の焼成体からなる、固体酸化物形燃料電池。
【請求項11】
前記反応抑止層の厚みが10μm以下である、請求項10に記載の固体酸化物形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池に関する。より詳しくは、該電池の反応抑止層形成に用いられる組成物、および、かかる組成物を用いて形成された反応抑止層を備える固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC;以下、単に「SOFC」ということもある。)は、種々のタイプの燃料電池のなかでも発電効率が高く、また多様な燃料の使用が可能なため、環境負荷の少ない次世代の発電装置として開発が進められている。
【0003】
SOFC(単セル)は、多孔質構造のカソード(空気極)とアノード(燃料極)とが酸化物イオン伝導体から成る固体電解質を介して対向した構成である。さらに、固体電解質とカソードの間には反応抑止層(中間層)が介在し得る。かかる反応抑止層は、例えば、所定の材料を溶媒中に分散または溶解させたペースト状(スラリー状、インク状を含む。以下同様。)の組成物を、固体電解質またはカソードの表面に付与、乾燥することにより形成することができる。このため、均質な反応抑止層を安定的に形成するためには、均質で且つ分散性に優れた組成物を用いることが重要である。これに係る技術として、特許文献1には、反応抑止層形成用の組成物中に分散剤としてエステル型の非イオン系活性剤を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−258064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の分散剤を用いた場合に、組成物の流動性が悪化して、例えばピンホール等の塗工不良や固体電解質−反応抑止層間の界面剥離等の不具合が発生する場合があった。かかる場合、燃料ガスのリークや電気抵抗の増大等を招来し、SOFCの性能(発電性能や耐久性能)が低下したり、発電自体が行われなくなったりする虞がある。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、分散性や塗工性に優れた均質な反応抑止層形成用組成物を提供することである。また、関連する他の目的は、優れた発電性能と高い信頼性(耐久性)とを両立し得るSOFCを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を重ね、これを解決し得る手段を見出して、本発明を完成させた。本発明により提供される組成物は、固体酸化物形燃料電池の反応抑止層を形成するために用いられる。この組成物は、少なくともセリウム酸化物とバインダと分散剤とが有機溶媒中に分散または溶解されてなる。上記セリウム酸化物の占める割合は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに、50wt%〜80wt%である。また、上記分散剤は分子内に1つまたは2つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸であり、且つ該カルボン酸の重量平均分子量は1000以下である。
【0007】
セリウム酸化物の割合を上記範囲とすることで、緻密な反応抑止層を形成することができ、反応抑止層と固体電解質との接触面積を増加させることができる。これにより、接着強度に優れ、界面抵抗の低減されたSOFCを実現することができる。また、分散剤としてカルボン酸を用いることで、組成物中の凝集等が解消あるいは防止され、例えばレオロジー降伏値を(典型的には500Pa以下、例えば100Pa以下に)低減することができる。さらに、カルボン酸の重量平均分子量を1000以下とすることで、組成物の粘度上昇を抑制することができる。このため、かかる組成物は分散性や流動性が高く、優れた塗工性を実現し得る。
したがって、ここで開示される技術によれば、ピンホールや界面剥離等の不具合が生じ難く、高い発電性能を長期に渡って発揮し得る高性能なSOFCを実現することができる。なお、「レオロジー降伏値」とは、測定試料にせん断応力を印加していった際に歪みが増大し始める値をいい、例えば一般的なレオメーターを用いて歪み制御モードで測定することができる。
【0008】
ここで開示される好適な一態様では、上記分散剤が分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である。なかでも直鎖状で、且つその末端(典型的には片端)に2つのカルボキシル基を有するものが好ましい。具体的には、下式(I)で示されるジカルボン酸であることが好ましい。
【0009】
【化1】
【0010】
ここで、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜5の低級アルキル基である。また、mおよびnは、1≦m≦20、0≦n≦20、m+n≦30を満たす実数である。一般には、ジカルボン酸(分子内に2つのカルボキシル基を有するカルボン酸)はモノカルボン酸(分子内に1つのカルボキシル基を有するカルボン酸)と同様の性状を示す。しかしながら、ここで開示される技術では、分散剤としてジカルボン酸を採用することで組成物のレオロジー降伏値を顕著に低減させることができ、組成物の分散性や塗工性を顕著に向上させることができる。このため、かかる組成物によれば緻密な反応抑止層を形成することができ、一層優れた発電性能(例えば高出力密度)と信頼性とを実現し得るSOFCを構築することができる。
【0011】
上記分散剤の含有量は、反応抑止層形成用組成物全体を100wt%としたときに3wt%以下(例えば0.1wt%〜3wt%、典型的には0.5wt%〜2wt%)であることが好ましい。分散剤の添加量を最適化することにより、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0012】
なお、上記セリウム酸化物としては、例えばイットリア、ガドリニアまたはサマリアがドープされた酸化セリウムを用いることができる。かかる酸化物の平均粒径は0.1μm以上2μm以下であることが好ましい。上記バインダとしては、例えばエチルセルロースを用いることができる。上記有機溶媒としては、例えばα−テルピネオールを用いることができる。
【0013】
また、本発明の他の側面として、固体酸化物形燃料電池の形成に用いられるグリーンシート積層体が提供される。かかるグリーンシート積層体は、アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる。また、上記反応抑止層は、ここで開示される反応抑止層形成用組成物を用いて形成されている。
ここで開示される反応抑止層形成用組成物は、セリウム酸化物の占める割合が高く、且つ流動性に優れることを特徴とする。このため、かかる組成物を用いて形成された反応抑止層は緻密で、ピンホール等の塗工に起因する問題が生じ難い。すなわち、かかる反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ、信頼性の高いものであり得る。
【0014】
上記反応抑止層の塗布密度は55体積%〜70体積%であることが好ましい。かかる構成によれば、一層優れた発電性能と信頼性とを発揮し得るSOFCを実現することができる。したがって、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
なお、本明細書において「塗膜密度(%)」とは、上記グリーンシート積層体において、反応抑止層の密度(g/cm)をセリウム酸化物の真比重(g/cm)で除して100を掛けた値をいう。上記「反応抑止層の密度(g/cm)」は、反応抑止層の質量W(g)を見かけの体積V(cm)で除すこと、すなわちW/Vによって求めることができる。具体的には、例えばまず測定対象たる反応抑止層を打ち抜き機やカッター等で正方形や長方形に切り出し、その質量W(g)を測定する。次に、上記切り出したサンプルの平面視での面積S(cm)と厚みT(cm)とを計測し、これらの値を乗ずることにより見かけの体積V(cm)を算出する。サンプルの厚みTは、例えばマイクロメータや一般的な厚み計等により計測することができる。このようにして得られた値から、W/STによって反応抑止層の密度(g/cm)を算出することができる。また、上記「セリウム酸化物の真密度(g/cm)」は、一般的な定容積膨張法(気体置換型ピクノメータ法)等の密度測定装置によって測定することができる。
【0015】
また、本発明の他の側面として、固体酸化物形燃料電池(SOFC)が提供される。かかるSOFCは、アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが積層されてなる。また、上記反応抑止層は、ここで開示される反応抑止層形成用組成物を用いて形成されている。
ここで開示される反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ、信頼性の高いものであり得る。さらに、反応抑止層−固体電解質層間の接合強度が高いため、界面剥離を生じ難く、長期に渡って安定して使用することができる。すなわち、ここで開示されるSOFCは、優れた発電性能(高出力密度)を長期に渡り発揮することができる。
【0016】
上記反応抑止層の厚みは10μm以下(例えば1μm〜10μm、典型的には2μm〜7μm)であることが好ましい。かかる構成によれば、より抵抗が低く、優れた発電性能を発揮し得るSOFCを実現することができる。したがって、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態に係るSOFCの製造工程を模式的に示す図であり、(a)は支持基材(支持体)としてのアノードを、(b)はアノード−固体電解質積層体を、(c)はアノード−固体電解質−反応抑止層積層体を、(d)はアノード支持型のSOFCを、それぞれ示している。
図2】一実施形態に係るSOFCを備えた発電システムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、発電システムの構成や製造方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0019】
≪反応抑止層形成用組成物≫
ここで開示される固体酸化物形燃料電池(SOFC)の反応抑止層形成用組成物は、少なくとも、セリウム酸化物とバインダと分散剤とが、有機溶媒に分散または溶解されてなるペースト状の組成物である。
【0020】
セリウム酸化物としては、特に限定されないが、例えばセリウム以外の金属元素(典型的には希土類元素)の酸化物をドープした酸化セリウム(CeO)を用いることができる。具体的には、イットリア(Y)、ガドリニア(Gd)、サマリア(Sm)等をドープした酸化セリウム(CeO)が挙げられる。なかでも、酸化セリウム(CeO)にガドリニア(Gd)をドープしたもの(Gadolinium doped Ceria、以下、「GDC」という。)を好ましく用いることができる。上記置換的な構成元素の量(異元素のドープ量)は特に限定されないが、例えば、当該置換元素の酸化物換算で1mol%〜20mol%(例えば5mol%〜15mol%)とすることができる。かかる範囲とすることで、低抵抗且つ緻密な反応抑止層を形成することができる。セリウム酸化物の平均粒径は、凡そ0.01μm〜5μm(例えば0.1μm〜2μm)程度のものを好ましく用いることができる。このようなセリウム酸化物は従来公知の方法で製造することができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。かかる粒径の調製は、従来公知の粉砕処理や篩いがけ、分級等によって行うことができる。
【0021】
バインダとしては、SOFCの製造工程における脱バインダ処理(典型的には、500℃以上で加熱焼成すること)で蒸発除去し得るものであればよく、特に限定なく用いることができる。例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース等のセルロース系高分子;メタクリル酸エステル等のエステル系ポリマー;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー;ポリアミドイミド、ポリイミド等のイミド系ポリマー;ポリエチレンオキサイド等のエチレン系ポリマー;ポリアクリロニトリル、ポリメタリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリウレタン等のウレタン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンポリフッ化ビニル、酢酸ビニル等のビニル系重合体;スチレンブタジエンゴム等のゴム類;等を用いることができ、なかでもセルロース系高分子(典型的にはエチルセルロース)を好ましく用いることができる。
【0022】
分散剤としては、分子内に1つまたは2つ以上(典型的には2つ〜6つ、例えば2つ〜4つ)のカルボキシル基を有するカルボン酸(モノカルボン酸や多価カルボン酸)を用いることができる。ここで開示される反応抑止層形成用組成物の安定性は、実質的には該組成物の主成分たるセリウム酸化物表面の電荷に左右されると考えられる。そこで、ここに開示される発明では、セリウム酸化物の表面にカルボキシル基含有分散剤を吸着させることで静電反発等の作用を生じさせ、セリウム酸化物を溶媒中に安定的に分散させる。したがって、ここで開示される反応抑止層形成用組成物は、分散性や流動性に優れ、例えばレオロジー降伏値が低いものであり得る。かかる組成物を用いることでスジ引きやピンホール等の塗工不良を防止することができ、均質な反応抑止層を安定的に効率よく形成することができる。
【0023】
ここで開示される好適な一態様では、上記分散剤が分子内に2つのカルボキシル基を有するジカルボン酸である。なかでも、直鎖の一方の末端に2つのカルボキシル基(カルボキシル末端)を有するジカルボン酸、具体的には上記式(I)で示されるジカルボン酸を好適に用いることができる。かかる分散剤を採用することでレオロジー降伏値をより低減し得、すなわち組成物の分散性を一層向上し得る。式(I)中において、mおよびnは、以下(1)〜(3)を満たす実数である。
(1)1≦m≦20(好ましくは1≦m≦10、より好ましくは1≦m≦5)
(2)0≦n≦20(好ましくは1≦n≦10、より好ましくは1≦n≦5)
(3)m+n≦30(好ましくは2≦m+n≦20、より好ましくは2≦m+n≦10)
また、Rは水素原子または炭素数1〜5の低級アルキル基であり得る。具体的には、Rは、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基等の鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基等の分岐鎖状アルキル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基;トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;であり得る。とりわけ、R=メチル基のもの、すなわち下式(II)で示されるジカルボン酸が好適である。なお、下式(II)におけるmおよびnは、式(I)と同様であり得る。
【0024】
【化2】
【0025】
ここで用いられるカルボン酸の炭素の数は、例えば8〜50(典型的には9〜45)であって、10〜30であることが好ましい。また、カルボン酸の重量平均分子量は通常1000以下(例えば100〜1000)であり、凡そ200〜600であることが好ましい。重量平均分子量が200以上のカルボン酸を用いることで、分散安定性に優れた反応抑止層形成用組成物を調製することができる。また、重量平均分子量が1000以下と比較的低分子なカルボン酸を用いることで、反応抑止層形成用組成物の粘度上昇を抑制することができる。上記範囲を満たすカルボン酸を含む組成物は、流動性が高く且つ塗工性に優れるため好ましい。
【0026】
有機溶媒としては、上記組成物形成用組成物(セリウム酸化物、バインダおよび分散剤等)を好適に分散または溶解し得るものを一種または二種以上を特に限定することなく用いることができる。例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、環状エーテル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤または他の有機溶剤が挙げられる。具体的には、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、オクタノール、エチレングリコール、α−テルピネオール、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、イソボルニルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブ、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン等を用いることができ、なかでもα−テルピネオールを好ましく用いることができる。
【0027】
反応抑止層形成用組成物全体に占める溶媒の割合は、例えば凡そ20wt%〜40wt%とすることができ、通常は凡そ25wt%〜35wt%とすることが好ましい。換言すれば、反応抑止層形成用組成物の固形分濃度(NV)は、典型的には60wt%〜80wt%(例えば65wt%〜75wt%)程度とすることができる。
また、反応抑止層形成用組成物全体に占めるセリウム酸化物の割合は、凡そ50wt%以上(例えば50wt%〜80wt%)とすることができ、通常は凡そ60wt%〜70wt%とすることが好ましい。反応抑止層形成用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜10wt%とすることができ、通常は凡そ1wt%〜5wt%とすることが好ましい。反応抑止層形成用組成物全体に占める分散剤の割合は、例えば凡そ5wt%以下とすることができ、通常は3wt%以下(典型的には0.1wt%〜3wt%、例えば0.5wt%〜2wt%)とすることが好ましい。構成材料の比率(例えば分散剤の添加量)を最適化することにより、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0028】
反応抑止層形成用組成物の調製には、ボールミル、ミキサー、ディスパー、ニーダ等の従来公知の種々の攪拌混合装置を適宜用いることができる。攪拌混合は、セリウム酸化物が有機溶媒中に均等に分散するまで行えばよい。装置構成や攪拌混合条件によっても異なり得るが、かかる時間は通常5分〜3時間程度であり、好ましくは10分〜1時間程度である。例えば上記セリウム酸化物とバインダと分散剤とを有機溶媒中に添加し、50rpm〜300rpmの攪拌速度で5分〜30分攪拌混合することによって、これらが好適に分散した均質なペースト状組成物を調製することができる。なお、上記材料を添加する順序は特に限定されず、一度に全ての材料を有機溶媒中に投入してもよく、何度かに分けて(例えば一種の材料を溶媒中に添加して分散または溶解させた後に、他の材料を添加し分散または溶解させて)行ってもよい。
反応抑止層形成用組成物のレオロジー降伏値は特に限定されないが、典型的には500Pa以下(例えば1Pa〜500Pa)とすることができ、100Pa以下(例えば5Pa〜50Pa)とすることが好ましい。上記範囲を満たす組成物は分散性や流動性が高く、塗工性に優れている。
【0029】
また、本発明により、アノードと固体電解質と反応抑止層とカソードとが順に積層された固体酸化物形燃料電池(SOFC)が提供される。そして、上記反応抑止層は、ここで開示される反応抑止層形成用組成物から形成されている。ここで開示される反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ、信頼性の高いものであり得る。また、反応抑止層−固体電解質層の接合強度が高いため、界面剥離を生じ難く、長期に渡って安定して使用することができる。すなわち、ここで開示されるSOFCは、優れた発電性能(例えば高出力密度)を長期に渡り発揮することができる。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るグリーンシート積層体およびSOFCの製造方法を模式的に示した図である。図1に示す製造方法は、以下の工程を包含する。
(a)アノード形成用シート10を準備すること。
(b)上記アノード形成用シートの表面に、少なくとも酸化物イオン伝導体とバインダと溶媒とを含む固体電解質形成用組成物を付与して固体電解質層20を形成し、アノード−固体電解質積層体110を得ること。
(c)固体電解質層20の表面に、ここで開示される反応抑止層形成用組成物を付与して反応抑止層30を形成し、アノード−固体電解質−反応抑止層積層体120を得ること。
(d)反応抑止層30の表面に、少なくともペロブスカイト型の酸化物とバインダと溶媒とを含むカソード形成用組成物を付与してカソード40を形成し、SOFC50を得ること。
かかる製造方法によれば、高い発電性能と信頼性とを実現し得るSOFCを好適に製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
【0031】
≪(a)アノード形成用シートの準備≫
先ず、図1(a)に示すように、アノード形成用シート10を準備する。これらは既製品を購入してもよく、また従来公知の手法を用いて作製することもできる。このようなアノード形成用シート10は、例えば電気触媒的作用を有する導電性材料と、バインダと、必要に応じて用いられる造孔材や分散剤とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状の組成物(アノード形成用組成物)を調製し、かかる組成物を任意の手法で成形することにより作製することができる。
【0032】
電気触媒的作用(高い触媒活性)を有する導電性材料としては、従来からSOFCのアノードに用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく用いることができる。典型例として、金属もしくは金属の酸化物が挙げられる。具体的には、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ランタン(La)、金(Au)等の金属;酸化コバルト(CoO、Co、Co)、酸化ニッケル(NiO、Ni、Ni)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ルテニウム(RuO)等の金属酸化物;等の金属材料を用いることができる。なかでもニッケルは他の金属に比べて比較的安価であり、且つ高い反応活性を示す(高い触媒能を有する)ことから特に好適な金属種である。このため、ニッケルを含む金属材料(例えば、ニッケルや酸化ニッケル)を好ましく用いることができる。
【0033】
導電性材料としては、さらに、これらの金属材料に他の材料を混合した複合材料を用いることもできる。具体的には、上記金属材料と、後述する固体電解質20の構成材料とを任意の割合で混合した複合材料を用いることができる。好適例として、ニッケル系材料(例えばNiO)と、安定化ジルコニア(例えば、イットリア安定化ジルコニア(Yttria stabilized zirconia:YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(Calcia stabilized zirconia:CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(Scandia stabilized zirconia:ScSZ)等)とのサーメットが挙げられる。固体電解質20の構成材料と金属材料とを混合して用いることで、アノード10と固体電解質20との熱膨張の整合がとれ、より耐久性に優れたSOFCを実現し得る。すなわち、SOFCの起動や停止に伴って、使用時の温度域(例えば700℃〜1000℃)と停止時の温度域(典型的には常温)との間で昇温や降温を繰り返しても不具合(例えばクラックや界面剥離等の発生)が生じ難く、長期に渡り安定した発電性能を発揮し得るSOFCを実現することができる。上記金属材料と固体電解質構成材料との混合比率(質量比)は特に限定されないが、例えば90:10〜40:60(より好ましくは、凡そ80:20〜45:55)とすることができる。
【0034】
上記金属材料の性状は特に限定されないが、例えば平均粒径が0.01μm〜10μm(典型的には0.1μm〜5μm)程度の粉末状(粒子状)のものを好ましく用いることができる。また、サーメット材料を作製・使用する場合には、実質的に同等な平均粒径の材料同士を混合して用いることが好ましい。例えば、平均粒径が凡そ0.1μm〜5μmのニッケル系材料と、平均粒径が凡そ0.1μm〜5μmの安定化ジルコニアとを混合して用いることが好ましい。これによって、より均質なアノードを形成することができる。
【0035】
バインダおよび溶媒は、例えば、反応抑止層形成用組成物に用いられるものとして既に上述したものを1種または2種以上特に限定することなく用いることができる。例えば、バインダとしてメタクリル酸エステル系ポリマーを、溶媒としてキシレンを用いることができる。アノード形成用組成物全体に占める溶媒の割合は、特に限定されないが、例えば10wt%〜35wt%(好ましくは、20wt%〜30wt%)とすることができる。
【0036】
さらに、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、アノード形成用シート10には、造孔材(気孔形成材)や可塑剤、酸化防止剤、増粘剤、分散剤等の各種添加剤等を必要に応じて含み得る。造孔材としては、例えばカーボンや炭化ケイ素、窒化ケイ素、澱粉等を好ましく採用し得る。可塑剤としては、例えばグリセリンやフタル酸エステル等を好ましく採用し得る。
【0037】
アノード形成用組成物の付与方法としては、一般的な流体材料の塗布技術、例えば印刷法(例えば凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷等)、シート成形法(例えばドクターブレード法)、ディッピング法、ロールコーティング法、スプレー法等を採用することができ、なかでもドクターブレード法を好ましく採用することができる。
ここで開示されるアノード(燃料極)形成用シート10は、SOFCの支持体として、例えば固体電解質20やカソード40に比べて厚めに形成される。支持体としてのアノード形成用シート10の厚みは、強度の確保や耐久性の観点から通常凡そ100μm〜2000μmとすることができ、凡そ200μm〜1000μmとすることが好ましい。
なお、図1に示す形態ではアノード形成用シート10は単層構造であるが、所望の厚み(例えば300μm〜1000μm)を実現するために、複数のシートを積層した多層構造とすることもできる。これらシートの積層は、例えばシート間に接着剤としての有機物を付与したり、または加熱圧着したりすることによって作製することができる。
【0038】
未焼成の(焼成前の)アノード形成用シート10全体に占める上記金属材料または金属酸化物の割合は、凡そ30wt%以上(典型的には40wt%〜80wt%)とすることができ、通常は凡そ45wt%〜70wt%とすることが好ましい。固体電解質の構成材料を使用する場合、アノード形成用シート10全体に占める固体電解質構成材料の割合は、例えば凡そ10wt%〜50wt%とすることができ、通常は凡そ20wt%〜40wt%とすることが好ましい。また、アノード形成用シート10全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜20wt%とすることができ、通常は凡そ2wt%〜10wt%とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、アノード形成用シート10全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1wt%〜20wt%とすることができ、通常は凡そ0.5wt%〜10wt%とすることが好ましい。
【0039】
≪(b)固体電解質層の形成≫
次に、図1(b)に示すように、上記アノード形成用シート10の表面に固体電解質層用組成物を付与し、固体電解質層20を形成する。これによって、アノード−固体電解質積層体110を作製することができる。かかる固体電解質層20は、例えば、酸化物イオン伝導体とバインダと必要に応じて含まれる添加剤(例えば可塑剤)とを溶媒に分散させて調製してなるペースト状の組成物(固体電解質層用組成物)を、アノード10(アノード形成用シートが積層された形態であり得る。)の上に任意の手法で付与することで形成し得る。
【0040】
酸化物イオン伝導体としては、従来からSOFCの固体電解質に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく用いることができ、より高い酸化物イオン伝導性を有する物を好ましく採用し得る。好適例として、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)等から選択される元素を含む酸化物が挙げられる。具体的には、イットリア(Y)、カルシア(CaO)、スカンジア(Sc)、マグネシア(MgO)、イッテルビア(Yb)、エルビア(Er)等の安定化剤で結晶構造を安定化させたジルコニア(ZrO);イットリア(Y)、ガドリニア(Gd)、サマリア(Sm)等のドープ剤をドープした酸化セリウム(CeO);等が挙げられる。なかでも、イットリウム(Y)の酸化物(例えば、イットリア(Y))を固溶させたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、スカンジウム(Sc)の酸化物(例えばスカンジア(Sc))を固溶させたスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)は、中低温領域(凡そ500℃〜800℃)においても比較的高い酸化物イオン伝導性を示し得るため、起動性やコストの観点から好ましく採用し得る。上記固溶させる酸化物の量は、特に限定されないが、例えば凡そ1mol%〜20mol%(通常、凡そ5mol%〜10mol%)とすることができる。また、酸化物イオン伝導体の平均粒径は、上記アノード形成用に用いたものと同等であることが好ましい。換言すれば、平均粒径が0.01μm〜5μm(例えば0.1μm〜2μm)程度のものを、好ましく採用し得る。材料の粒径を揃えることで、より高い機械的強度を実現し得る。
【0041】
バインダや溶媒、添加剤としては、例えば反応抑止層形成用組成物やアノード形成用として既に上述したもののなかから1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。例えば、バインダとしてポリビニルブチラールを、溶媒としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤を用いることができる。
【0042】
固体電解質層用組成物の調製方法は、上記アノードシートを形成する場合と同様であり得る。固体電解質層用組成物の固形分濃度(NV)は60wt%〜80wt%(例えば65wt%〜75wt%)程度とすることができる。換言すれば、固体電解質層用組成物全体に占める溶媒の割合は、例えば凡そ20wt%〜40wt%とすることができ、通常は凡そ25wt%〜35wt%とすることが好ましい。また、固体電解質層用組成物全体に占める上記酸化物イオン伝導体の割合は、凡そ40wt%以上とすることができ、通常は凡そ50wt%〜60wt%とすることが好ましい。固体電解質層用組成物全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜10wt%とすることができ、通常は凡そ5wt%〜10wt%とすることが好ましい。
【0043】
固体電解質層用組成物の付与方法は上記アノードシートを形成する場合と同様であり得、例えばシート成形法(典型的にはドクターブレード法)を採用し得る。固体電解質層20の厚みは、通常10μm以下であり、例えば7μm以下(典型的には5μm以下)であることが好ましい。なお、図1に示す形態では固体電解質層は単層構造であるが、固体電解質の薄膜化に伴う不具合を抑制するために、複数の層からなる多層構造とすることもできる。
【0044】
未焼成の(焼成前の)固体電解質層20全体に占める上記酸化物イオン伝導体の割合は、凡そ60wt%以上(典型的には60wt%〜90wt%)とすることができ、通常は凡そ70wt%〜90wt%とすることが好ましい。また、固体電解質層20全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜25wt%とすることができ、通常は凡そ5wt%〜10wt%とすることが好ましい。各種添加剤を使用する場合、固体電解質層20全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1wt%〜20wt%とすることができ、通常は凡そ0.5wt%〜10wt%とすることが好ましい。
【0045】
≪(c)反応抑止層の形成≫
次に、図1(c)に示すように、固体電解質20の表面に反応抑止層用組成物を付与し、反応抑止層30を形成する。これによって、アノード−固体電解質−反応抑止層積層体120を作製することができる。例えば、固体電解質20の構成材料として酸化ジルコニウム系のものを、カソード40の構成材料としてペロブスカイト構造を有する酸化物を用いる場合、これらの接触する部分(界面)において固相反応を生じ、固体電解質−カソード間の酸化物イオン伝導性が低下する虞がある。そこで、固体電解質とカソードとの間に反応抑止層を備えることによって高い酸化物イオン伝導性を維持することができ、すなわち発電性能に優れたSOFCを実現し得る。
反応抑止層用組成物の付与方法は上記アノードシートを形成する場合と同様であり得、例えば印刷法(典型的にはスクリーン印刷法)を採用し得る。反応抑止層30の塗布密度は55体積%〜70体積%であり、例えば55体積%〜65体積%(典型的には55体積%〜60体積%)とすることができる。反応抑止層30の厚みは、通常10μm以下とすることができ、例えば7μm以下(典型的には5μm以下)とすることが好ましい。
【0046】
未焼成の(焼成前の)反応抑止層30全体に占める上記セリウム酸化物の割合は、凡そ55wt%以上(典型的には55wt%〜90wt%)とすることができ、通常は凡そ60wt%〜80wt%とすることが好ましい。また、反応抑止層30全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ1wt%〜20wt%とすることができ、通常は凡そ5wt%〜10wt%とすることが好ましい。また、各種添加剤を使用する場合、反応抑止層30全体に占める添加剤の割合は、例えば0.1wt%〜20wt%とすることができ、通常は凡そ0.5wt%〜15wt%とすることが好ましい。
【0047】
アノード−固体電解質−反応抑止層積層体120は、上記グリーンシート積層体を所定の温度で焼成することによって作製し得る。グリーンシート積層体120の焼成温度は凡そ1200℃〜1400℃とすることができ、焼成時間は凡そ1時間〜5時間とすることができる。焼成によってアノード10の上に緻密な膜状の固体電解質20および反応抑止層30を形成することができ、アノード10と固体電解質20と反応抑止層30とを備えたアノード−固体電解質−反応抑止層積層体120を得ることができる。なお、アノード形成用シートの焼成は、固体電解質形成用組成物を付与する前に(すなわち、アノード形成用シート単独の状態で)行ってもよい。
ここで開示される反応抑止層形成用組成物はセリウム酸化物の占める割合が高く、且つ流動性に優れることを特徴とする。このため、かかる組成物を用いて形成された反応抑止層は、緻密でピンホール等の塗工に起因する問題が生じ難い。すなわち、かかる反応抑止層は、酸化物イオン伝導性に優れ信頼性の高いものであり得る。
【0048】
焼成後のアノード10は、ガス拡散性に優れた多孔質構造を有しており、例えば気孔率が凡そ10体積%〜50体積%であり、20体積%〜40体積%であることが好ましい。また、平均細孔径は通常凡そ10μm以下であり、0.1μm〜5μmであることが好ましい。かかる範囲を満たす場合、ガスとの接触面積を十分に確保し得、高い機械的強度と優れたガス拡散性とを好適に両立し得る。ここで、本明細書において「平均細孔径」とは、一般的な水銀圧入法の測定によって得られる値をいう。また、本明細書において「気孔率」とは、上記水銀圧入法の測定によって得られる気孔容積Vb(cm)を、見かけの体積Va(cm)で除して、100を掛けることにより、算出した値(Vb/Va×100(%))をいう。なお、多孔率の異なる2以上の層を積層した多層構造とする場合は、固体電解質20から離れた層の多孔度をより高くすることで、ガスの拡散をより均一にすることができる。
【0049】
焼成後の固体電解質20および反応抑止層30は、緻密な薄膜状である。固体電解質20の気孔率は特に限定されないが、例えば凡そ60体積%以下(典型的には50%以下)であることが好ましい。また、反応抑止層30の気孔率は特に限定されないが、例えば凡そ50体積%以下(典型的には40%以下)であることが好ましい。かかる範囲を満たす場合、酸化物イオン伝導性に優れ、より出力密度の高いSOFCを実現し得る。
【0050】
≪(d)カソード40の形成≫
次に、図1(d)に示すように、焼成後の反応抑止層30の表面にカソード40を形成する。これによって、SOFC50を作製することができる。かかるカソード40は、例えば、ペロブスカイト型酸化物と、バインダと、必要に応じて含まれる添加剤とを溶媒に分散させて調整してなるペースト状の組成物(カソード形成用組成物)を、反応抑止層30の上に任意の手法で付与することで形成し、かかるグリーンシート積層体を所定の温度で焼成することによって、作製し得る。
【0051】
ペロブスカイト型酸化物としては、従来からSOFCのカソードに用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく用いることができ、酸化雰囲気でも耐久性の高いものを好ましく採用し得る。典型的として、ランタンコバルテート(LaCoO)系、ランタンマンガネート(LaMnO)系、ランタンフェライト(LaFeO)系、またはランタンニッケラート(LaNiO)系のペロブスカイト型酸化物、あるいはサマリウムコバルテート(SmCoO)系ペロブスカイト型酸化物等が挙げられる。
【0052】
ここで、例えば上記ランタンコバルテート系酸化物とは、LaおよびCoを構成金属元素とする酸化物の他、LaおよびCo以外に他の一種以上の金属元素(遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。また、ランタンマンガネート系酸化物、ランタンフェライト系酸化物、ランタンニッケラート系酸化物およびサマリウムコバルテート系酸化物についても同様である。典型例として、SrをドープしたLaMnO系酸化物(例えば、La0.8Sr0.2MnO)、SrをドープしたLaCoO系酸化物(例えば、La0.6Sr0.4CoO)、SrおよびFeをドープしたLaCoO系酸化物(例えば、La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)等が挙げられる。これらの酸化物は、いわゆる電子−酸化物イオン混合伝導体であり、他のペロブスカイト型酸化物に比べて高い反応活性を示す(高い触媒能を有する)ことから好適である。
【0053】
バインダや溶媒、添加剤としては、例えば反応抑止層形成用組成物やアノード形成用として既に上述したもののなかから1種または2種以上を特に限定することなく用いることができる。例えば、バインダとしてセルロースおよびその誘導体(典型的にはエチルセルロース)を、溶媒としてα−テルピネオールを用いることができる。
【0054】
カソード形成用組成物の付与方法は上記アノードシートを形成する場合と同様であり得、例えば印刷法(典型的には、スクリーン印刷法)を採用し得る。カソード40の厚みは、発電性能の観点から、通常凡そ100μm以下(典型的には、凡そ5μm〜50μm)とするとよいが、かかる厚みに限定されるものではない。
【0055】
カソード40の形成後の焼成温度は、例えば700℃〜1200℃(好ましくは800℃〜1100℃)とすることができ、焼成時間は凡そ1時間〜5時間とすることができる。これによって、アノード10と固体電解質20と反応抑止層30とカソード40とを備えたSOFC50を得ることができる。
【0056】
焼成後のカソード40は、アノード10と同様にガス拡散性に優れた多孔質構造を有し、例えば気孔率は凡そ10体積%〜30体積%であり、15体積%〜25体積%であることが好ましい。また、平均細孔径は、通常凡そ10μm以下であり、0.1μm〜5μmであることが好ましい。かかる範囲を満たす場合、ガスとの接触面積を十分に確保し得、高い機械的強度と優れたガス拡散性とを好適に両立し得る。
【0057】
図2は、ここで開示されるSOFC50を備えた発電システムの断面構成を模式的に示した図である。ここに示す構成のSOFC50はアノード支持型のSOFCであり、支持体(基材)としてのアノード(燃料極)10と、固体電解質20と、反応抑止層30と、カソード(空気極)40と、が順に積層された構造を有している。また、アノード10の端部12と、燃料ガスを供給するガス管70の接合面とが接続部材60によって接合され、気体が流出および/または流入しないように封止されている。SOFCの使用時には、カソード側の固体電解質表面に酸素(O)含有ガス(典型的には空気)が、アノード側の固体電解質表面に燃料ガス(典型的には水素(H))が、それぞれ供給される。このSOFCに電流を印加すると、カソードにおいて酸素が還元され、酸化物イオンとなる。そして、該酸化物イオンが(固体電解質を介して)アノードに到達し、燃料ガスを酸化して電子を放出することによって電気エネルギーの生成(すなわち発電)が行われる。
【0058】
なお、図1および図2で開示されるSOFCは平型(Planar)であるが、他にも種々の構造、例えば従来公知の多角形型、円筒型(Tubular)あるいは円筒の周側面を垂直に押し潰した扁平円筒型(Flat Tubular)等とすることができ、形状やサイズは特に限定されない。例えば平型は、電力密度が高く、円筒型に比べて安価であるという特徴を有する。また円筒型は、ガスの流量を一定に保ち易く、より安定的な発電が可能であるという特徴を有する。このため、用途等に応じて適宜好ましい形状およびサイズを選択することが好ましい。また、平型のSOFCとしては、ここで開示されるアノード支持型(Anode-Supported Cell:ASC)の他にも、例えば電解質を厚くした電解質支持型(Electrolyte-Supported Cell:ESC)や、カソードを厚くしたカソード支持型(Cathode-Supported Cell:CSC)等を用いることができる。その他、アノードの下に多孔質な金属シートを入れた、メタルサポートセル(Metal-Supported Cell:MSC)とすることもできる。
【0059】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0060】
〔例1〕
先ず、平均粒径0.5μmの酸化ニッケル(NiO)粉末と、平均粒径0.5μmのイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y2O3−ZrO2、以下「8YSZ」と略称することがある。)粉末とを、NiO:8YSZ=60:40の質量比率で混ぜ合わせ、混合粉末を得た。かかる混合粉末と、バインダ(メタクリル酸エステル系ポリマー)と、造孔材(カーボン)と、可塑剤(フタル酸エステル)と、溶媒(キシレン)とを、58:8.5:5:4.5:24で攪拌混合することにより、ペースト状のアノード形成用組成物を調製した。これをドクターブレード法によってシート成形し、φ20mm、厚み500μm〜1000μmのアノード形成用シートを形成した。
【0061】
次に、平均粒径0.5μmの8YSZ粉末と、バインダ(ポリビニルブチラール:PVB)と、可塑剤(フタル酸エステル)と、溶媒(イソプロピルアルコール)とを、55:6.4:8.6:30の質量比率で攪拌混合することにより、ペースト状の固体電解質形成用組成物を調製した。これをドクターブレード法によってシート成形し、φ20mm、厚み10μmの固体電解質シートを作製した。
【0062】
次に、平均粒径0.5μmの酸化セリウム粉末と、バインダ(エチルセルロース:EC)と、溶媒(α−テルピネオール)とを、65:4:31の質量比率で攪拌混合することにより、表1に示す降伏値を有するペースト状の反応抑止層用組成物を調製した。これを上記固体電解質層上にスクリーン印刷法によって付与し、φ20mm、厚み5μmであって、表1に示す塗膜密度を有する反応抑止層を形成した。このようにして、得られたアノード−固体電解質−反応抑止層グリーンシート積層体を、大気雰囲気中において1350℃の温度で3時間焼成した。
【0063】
次に、平均粒径1.0μmのLaCoO系酸化物(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)粉末と、バインダ(EC)と、溶媒(αーテルピネオール)とを、80:4:16の質量比率で攪拌混合することにより、ペースト状のカソード形成用組成物を調製した。これを上記焼成後の反応抑止層の上にスクリーン印刷法によって付与し、φ16mm、厚み10μmのカソード形成用成形体を形成した。そして、上記積層体を1100℃の温度で1時間焼成することによってカソードを形成した。これによって、アノード、固体電解質、反応抑止層、カソードの順に積層した、図1(d)に示すようなアノード支持型のSOFCを得た。
【0064】
〔例2〜例6〕
上記反応抑止層形成用組成物に表1に示す種類の分散剤を添加し、酸化セリウム:バインダ:分散剤:溶媒=65:4:1:30の質量比で攪拌混合したこと以外は例1と同様に、例2〜例6に係るアノード支持型のSOFCを得た。なお、例6のジカルボン酸は、上記式(II)に示した構造のものである。
【0065】

【表1】
【0066】
〔界面剥離〕
上記のようにして得られたアノード支持型のSOFC(焼成体)を観察し、界面剥離等の不具合がないか確認を行った。なお、観察手法としては目視および走査型電子顕微鏡(SEM)観察とを併用した。結果を、表1の「界面剥離」の欄に纏める。
表1に示すように、反応抑止層形成用組成物に分散剤を用いなかった例1、および分散剤としてエステル系またはエーテル系の分散剤を用いた例2〜例4では、焼成後のSOFCの界面、具体的には固体電解質−反応抑止層間の界面および/または反応抑止層−カソード間の界面、に剥離が認められた。この原因として、反応抑止層形成用組成物中の組成が不均質であったことや、該組成物の流動性が不足し塗工性が悪化したこと等が考えられる。他方、カルボン酸系の分散剤を用いた例5および例6では、上記のような不都合は認められなかった。したがって、反応抑止層形成用組成物の分散剤にカルボン酸系の界面活性剤を用いることで、反応抑止層の界面剥離を抑制し得ることがわかった。
【0067】
〔発電性能〕
例3〜例6のSOFCについて、温度500℃〜800℃で動作させ、発電特性評価を行った。「発電性能」の代表値として、温度700℃における最大電力密度(W/cm)の値を表1の該当欄に示す。
表1に示すように、エステル系またはエーテル系の分散剤を用いた例3および例4に比べ、モノカルボン酸系の分散剤を用いた例5では4倍近く高い発電性能を示した。また、ジカルボン酸系の分散剤を用いた例6は、(例3および例4に比べて)6.5倍近く、顕著に高い発電性能を示した。この理由として、ジカルボン酸系の分散剤を用いることで組成物のレオロジー降伏値を大きく低下させることができ、すなわち流動性や塗工性に優れた反応抑止層形成用組成物を実現し得たためと考えられる。
【0068】
このように、反応抑止層形成用組成物にカルボン酸(カルボキシル基を有する酸。例えばモノカルボン酸やジカルボン酸、好ましくはジカルボン酸。)を添加することで、界面剥離等の不具合が抑制され得、優れた発電性能と高い信頼性とを備えたSOFCを構築し得ることが示された。
【0069】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0070】
10 アノード(燃料極)
12 アノードの端部
20 固体電解質
30 反応抑止層
40 カソード(空気極)
50 SOFC
60 接合部材
70 ガス管
110 アノード−固体電解質積層体
120 アノード−固体電解質−反応抑止層積層体
図1
図2