特許第5965384号(P5965384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965384
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】燃料圧力センサの特性異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/22 20060101AFI20160721BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   F02D41/22 301K
   F02D45/00 364F
   F02D45/00 358K
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-271588(P2013-271588)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124742(P2015-124742A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】小野沢 亮
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3966130(JP,B2)
【文献】 特開2001−173507(JP,A)
【文献】 特開2009−180158(JP,A)
【文献】 特開2011−202541(JP,A)
【文献】 特開2013−238120(JP,A)
【文献】 特開平06−229290(JP,A)
【文献】 特開昭61−155638(JP,A)
【文献】 特開平10−054317(JP,A)
【文献】 特開2010−270684(JP,A)
【文献】 特開2002−276441(JP,A)
【文献】 特開2008−215138(JP,A)
【文献】 特開2013−108463(JP,A)
【文献】 特開2006−329033(JP,A)
【文献】 特開2006−299824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒に臨まされて該各気筒に燃料を直接噴射する燃料噴射手段と、
エンジン駆動により高圧燃料を発生させる高圧燃料発生手段と
前記高圧燃料発生手段から吐出される高圧燃料を前記燃料噴射手段に供給する燃料レールと、
前記燃料レールに臨まされて該燃料レール内の燃料圧力を検出する燃料圧力センサと、
キースイッチがオフされた後に所定の診断実行条件を判定し、該診断実行条件が成立された場合、前記燃料圧力センサの特性異常を診断する特性異常診断手段と
を備える燃料圧力センサの特性異常診断装置において、
前記特性異常診断手段は、前記診断実行条件成立と判定した場合、前記燃料圧力センサで検出した燃料圧力が予め設定した公差範囲よりも低いか否かを判定し、該公差範囲を下回っている場合、エンジン始動後における前記燃料圧力センサで検出した前記燃料圧力を読込み、該燃料圧力が地絡判定しきい値より高い場合、前記燃料圧力センサの公差負側の特性異常と判定する
ことを特徴とする燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項2】
前記特性異常診断手段で判定する前記診断実行条件は、少なくとも前記キースイッチがオフされる直前のエンジン温度が完全暖機温度に達しており、且つキースイッチがオフした後に設定キーオフ時間が経過している場合、診断実行条件成立と判定する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項3】
前記特性異常診断手段は、前記エンジン温度を前記キースイッチがオンしてエンジンが始動したときから前記キースイッチがオフしてエンジンが停止するまでの総吸入空気量で推定し、該総吸入空気量と完全暖機判定温度に対応する設定吸入空気量とを比較して、前記完全暖機温度に達しているか否かを判定する
ことを特徴とする請求項記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項4】
前記特性異常診断手段は、前記キースイッチをオンした際に、前記診断実行条件を判定する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項5】
前記特性異常診断手段は、前記キースイッチをオフした後であって前記設定キーオフ時間が経過した際に自動的に前記燃料圧力センサの特性異常診断を開始する
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項6】
前記特性異常診断手段は、前記診断実行条件成立と判定した場合、前記燃料圧力センサで検出した燃料圧力が予め設定した公差範囲よりも高いか否かを判定し、該公差範囲を上回っている場合、前記燃料圧力センサの公差正側の特性異常と判定する
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【請求項7】
前記特性異常診断手段は、前記燃料圧力が前記地絡判定しきい値より低い場合、前記燃料圧力センサの地絡異常と判定する
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の燃料圧力センサの特性異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料系に設けられて燃料の圧力を検出する燃料圧力センサが異常か否かを診断する燃料圧力センサの特性異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直噴式エンジンにおいては、筒内に燃料を直接噴射するインジェクタ(燃料噴射手段)を各気筒に備え、燃料タンクに貯留されている燃料を低圧ポンプが昇圧し、高圧燃料ポンプ(高圧燃料発生手段)で更に昇圧して高圧燃料ギャラリに導入し、この高圧燃料ギャラリに連通するインジェクタから筒内に燃料を直接噴射する。
【0003】
高圧燃料ギャラリに供給される燃料圧力は制御手段(ECU)において制御される。制御手段では、先ず、エンジンの稼働状況に応じて目標燃料圧力を設定し、燃料圧力センサで検出した実際の燃料圧力が目標燃料圧力に収束するようにフィードバック制御を行う。そして、燃料圧力センサによって検出された燃料圧力、及びエンジンの稼働状況に応じて設定された目標燃料噴射量に対応する燃料噴射時間で燃料をインジェクタから筒内に噴射させる。
【0004】
高圧燃料ギャラリに供給される燃料圧力、及び燃料噴射量を最適な状態に制御するためには、燃料圧力センサの出力特性が所定の公差範囲内に収まっている必要がある。又、燃料圧力センサのリード線が断線・地絡している場合、正確な燃料圧力を現出することができなくなる。
【0005】
例えば特許文献1(特許第3966130号公報)には、ソーク時間(エンジン停止時からキースイッチをONするまでの時間)が予め設定した時間を経過している場合、高圧燃料ギャラリ(コモンレール)に供給されている燃料圧力が大気圧相当の圧力まで低下し、燃料圧力センサ(コモンレール圧センサ)の異常判定(特性診断)が可能であると判断する。そして、高圧燃料ギャラリに蓄圧されている燃料圧力が所定範囲外に有るか否かを判定し、この燃料圧力が所定範囲外の場合は、燃料圧力センサの低出力側での特性異常が
生じていると判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3966130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献に開示されている技術では、燃料圧力センサの特性異常を判定するに際し、ソーク時間が予め設定した時間よりも長い場合は、高圧燃料ギャラリ(コモンレール)に供給されている燃料圧力が大気圧相当の圧力まで低下していると推定している。
【0008】
しかし、高圧燃料ギャラリに供給されている燃料圧力が大気圧相当の圧力まで低下する時間は、エンジン停止直前の運転状態によって大きく変動する。そのため、この設定時間が短い場合は、高圧燃料ギャラリ内の燃料圧力が大気圧相当の圧力まで充分に低下しておらず、燃料圧力センサの特性異常診断を行うことが出来ない。従って、上述した所定時間は高圧燃料ギャラリに供給されている燃料圧力が大気圧相当の圧力まで充分に低下する時間に設定する必要がある。その結果、比較的長いソーク時間でなければ特性異常診断を行うことが出来ず、その分、診断の機会が少なくなる不都合がある。
【0009】
又、燃料圧力センサの特性異常診断はエンジン停止後、できるだけ早期に開始させた方が外乱の影響を受け難く、高い診断精度を得ることができる。
【0010】
又、上述した文献に開示されている技術では、ソーク時間を比較する設定時間に代えて、エンジン停止後の冷却水温、吸気温度、燃料温度、エンジン油温の何れかの低下量が所定値以上の場合、高圧燃料ギャラリ内の燃料圧力が大気圧相当の圧力まで低下したと推定する技術も提案している。しかし、キースイッチをONする際に、冷却水温等を検出し、これに基づいて燃料圧力が大気圧相当の圧力まで低下したか否かを推定することは、診断実行条件が複雑化してしまう問題がある。
【0011】
更に、上述した文献に開示されている技術では、燃料圧力センサの異常が特性異常によるものか、地絡異常によるものかの判別ができないという問題がある。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み、燃料圧力センサの特性異常診断を行う際の実行条件が複雑化せず、比較的短いソーク時間で精度の高い診断を行うことができると共に、燃料レールに供給されている燃料圧力を検出する燃料圧力センサの特性異常診断を行う機会が増加し、これにより燃料圧力センサの信頼性を高めることのできる燃料圧力センサの特性異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、各気筒に臨まされて該各気筒に燃料を直接噴射する燃料噴射手段と、エンジン駆動により高圧燃料を発生させる高圧燃料発生手段と前記高圧燃料発生手段から吐出される高圧燃料を前記燃料噴射手段に供給する燃料レールと、前記燃料レールに臨まされて該燃料レール内の燃料圧力を検出する燃料圧力センサと、キースイッチがオフされた後に所定の診断実行条件を判定し、該診断実行条件が成立された場合、前記燃料圧力センサの特性異常を診断する特性異常診断手段とを備える燃料圧力センサの特性異常診断装置において、前記特性異常診断手段は、前記診断実行条件成立と判定した場合、前記燃料圧力センサで検出した燃料圧力が予め設定した公差範囲よりも低いか否かを判定し、該公差範囲を下回っている場合、エンジン始動後における前記燃料圧力センサで検出した前記燃料圧力を読込み、該燃料圧力が地絡判定しきい値より高い場合、前記燃料圧力センサの公差負側の特性異常と判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的短いソーク時間で燃料レールに供給されている燃料圧力を検出する燃料圧力センサの特性異常を高い精度で診断することができる。更に、燃料圧力センサの特性異常診断を行う際の実行条件が複雑化せず、又、比較的短いソーク時間での診断が可能となるため、燃料圧力センサの特性異常診断を行う機会が増加し、これにより燃料圧力センサの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】筒内直噴エンジンの燃料噴射制御系を示す概略構成図
図2】燃料圧力センサ特性異常診断ルーチンを示すフローチャート
図3】燃料圧力センサの出力値と高圧燃料ギャラリに供給されている燃料圧力との関係を示す特性図
図4】(a)はキースイッチのON/OFF動作を示すタイムチャート、(b)はエンジン回転数の変化を示すタイムチャート、(c)はエンジン温度の変化を示すタイムチャート、(d)は燃料レール内の燃料温度の変化を示すタイムチャート、(e)は燃料レール内の燃料圧力の変化を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1の符号1は筒内直噴エンジンであり、図においては水平対向型4サイクルガソリンエンジンが示されている。
【0017】
この筒内直噴エンジン1の左右バンクに設けられている気筒(図示せず)に燃料噴射手段としての高圧インジェクタ2,3の先端の噴射ノズルが臨まされている。又、この各高圧インジェクタ2,3に、高圧燃料を供給する高圧燃料ギャラリ4,5が連通されている。
【0018】
この各高圧燃料ギャラリ4,5は燃料ギャラリライン6を介して互いに連通されており、従って、この両高圧燃料ギャラリ4,5に供給される燃料圧力は常に同じ値を示している。又、本実施形態では、左バンクの高圧燃料ギャラリ5に高圧燃料ライン7の下流が連通され、この高圧燃料ライン7の上流に、燃料圧力を所定の高圧力に昇圧するためのプランジャポンプ等からなる高圧燃料発生手段としてのエンジン駆動式高圧燃料ポンプ8が連通されている。又、この高圧燃料ポンプ8に、この高圧燃料ポンプ8から吐出される燃料圧力の上限を規制する燃圧排出手段としてのリリーフバルブ8aが併設されている。尚、このリリーフバルブ8aから排出される燃料はポンプ内部で低圧側に戻される。
【0019】
更に、この高圧燃料ポンプ8に低圧燃料ライン9の下流が連通され、この低圧燃料ライン9の上流が、燃料タンク10内に配設されている電動式低圧燃料ポンプ11に連通されている。又、この高圧燃料ポンプ8の上流に、高圧燃料ギャラリ5へ供給する燃料圧力を調圧する燃料圧力調整ソレノイドバルブ8bが設けられている。更に、左バンクの高圧燃料ギャラリ4に燃料圧力センサ13が臨まされている。
【0020】
上述した燃料圧力調整ソレノイドバルブ8bは、制御手段としての電子制御装置(ECU)21によって制御される。ECU21は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等を所定に備えるマイクロコンピュータを中心として構成され、更に、図示しないが各部に安定化電源を供給する定電圧回路、燃料圧力調整ソレノイドバルブ8b等を駆動させる駆動回路、及び、燃料圧力センサ13等から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器等の周辺回路が内蔵されている。
【0021】
このECU21の入力側には、上述した燃料圧力センサ13以外に、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルポジションセンサ22、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ23、及びキースイッチ24、吸入空気量Qを検出する吸入空気量センサ25等が接続されていると共に、バッテリ電圧VBTが入力される。又、このECU21の出力側には、燃料圧力調整ソレノイドバルブ8b以外に、高圧インジェクタ2,3等が接続されている。
【0022】
ECU21は、筒内直噴エンジン1の運転状態に基づいて目標燃料圧力を設定し、この目標燃料圧力に、燃料圧力センサ13で検出した高圧燃料ギャラリ4,5に供給される燃料圧力が収束するように、燃料圧力調整ソレノイドバルブ8bをフィードバック制御して、燃料の供給圧力を調整する。更に、ECU21は、エンジン回転数センサ23で検出したエンジン回転数Neとアクセルポジションセンサ22で検出したアクセル開度とに基づき、予め実験等から求めた基本燃料噴射マップを参照して基本噴射量を求め、上述した目標燃料圧力、及び基本噴射量から算出した噴射量に対応する駆動信号を高圧インジェクタ2,3に印加し、各気筒に所定に計量された燃料を噴射する。
【0023】
このように、高圧インジェクタ2,3から噴射される燃料量は、高圧燃料ギャラリ4,5に供給されている燃料圧力に依存しており、燃料圧力センサ13の特性に異常が生じた場合、高圧インジェクタ2,3から正確に計量された燃料を噴射させることかできなくなる。そのため、ECU21では、所定ソーク時間(エンジン停止時からキースイッチ24をONするまでの時間)が経過したとき自動的に、或いは所定ソーク時間経過後にキースイッチ24がONされた際に、予め設定されている特性異常診断実行条件を調べ、それが満足された場合、燃料圧力センサ13の特性を診断し、異常を検出した場合は、異常箇所を特定する。尚、本実施形態では、運転者がキースイッチ24をONした際に診断を開始する態様が示されている。
【0024】
上述したECU21で実行される燃料圧力センサ13の特性異常診断は、図2に示す燃料圧力センサ特性異常診断ルーチンに従って処理される。
【0025】
このルーチンは、運転者がキースイッチ24をONし(図4(a)の経過時間t2)、ECU21を起動させた後、1回のみ実行され、先ず、ステップS1で、特性異常診断を行うに必要なパラメータを読込む。すなわち、キースイッチ24がONされたときのバッテリ電圧VBT、及び、前回のキースイッチ24がOFFされてエンジン1が停止したとき(図4の経過時間0)における、その直前までの総吸入空気量Ga(エンジン始動からエンジン停止までの吸入空気量センサ25で検出した吸入空気量Qの積算量)及びソーク時間Ts(図4(e)の経過時間0〜t2)を読込む。
【0026】
そして、ステップS2へ進み、バッテリ電圧VBTが設定電圧を超過しているか、ソーク時間Tsが設定キーオフ時間(燃料圧力PFが大気圧相当の相対圧力(0[MPa])まで下降する時間であり、図4(e)の経過時間0〜t1)よりも長いか、総吸入空気量Gaは所定吸入空気量以上かを調べる。ここで、設定電圧は燃料圧力センサ13の出力値が安定的に検出できる下限値(例えば、10.5[V])であり、予め実験などから求めて設定されている。
【0027】
又、総吸入空気量Gaはエンジン1が燃焼により発生した熱量を反映する物理量であり、この総吸入空気量Gaにて、エンジン停止時のエンジン温度TE/Gを推定することができる。但し、本実施形態では、エンジン停止時のエンジン温度TE/Gが予め設定した完全暖機判定温度を超えて完全暖機温度に達しているか否かを判定すれば良いだけであるため、この総吸入空気量Gaに基づいて正確なエンジン温度TE/Gを推定する必要は無い。尚、判定基準となる設定吸入空気量は完全暖機判定温度SLE/Gに基づき予め実験などから求めて設定されている。
【0028】
完全暖機か否かを総吸入空気量Gaに基づいて判定するので、エンジン始動後の運転時間に基づいて完全暖機を判断する場合に比し、アイドルストップ時間が排除されるため、完全暖機を正確に判定することができる。尚、この総吸入空気量Gaに代えて、エンジン水温、或いはエンジン始動から停止までの総燃料噴射量に基づいて完全暖機を判定するようにしても良い。
【0029】
エンジン1を停止させると、高圧燃料系の燃料圧力は、密閉空間に閉じ込められた燃料の状態変化となるため燃料温度に依存して変化する。エンジンが完全暖機の状態で停止された場合、高圧燃ポンプ8からインジェクタ2,3に至る燃料レール(高圧燃料ギャラリ4,5、燃料ギャラリライン6、高圧燃料ライン7の総称)内の燃料は、エンジン1からの輻射熱により加温されて圧力が上昇する。この圧力が高圧燃料ポンプ8に設けられているリリーフバルブ8aのリリーフ圧PRを越えると、リリーフバルブ8aが開弁し、燃料レール内の燃料圧力が低圧側にリークする。その結果、燃料レール内の燃料密度が減少するため、燃料温度TFと燃料圧力PFとの関係が変化し、燃料圧力PFの下降が促進される(図4参照)。尚、図4(e)において、リリーフバルブ8aが開弁後、燃料圧力PFがリリーフ圧PRより低くなってもリリーフバルブ8aが閉弁しないのは、摩擦等の影響でヒステリシスが発生しているからである。
【0030】
本実施形態ではリリーフバルブ8aを開弁させることのできるエンジン1の暖機状況を条件化し、この暖機完了条件を満たせば燃料圧力の下降が促進され、相対的に設定キーオフ時間が短縮される点に着目し、所定のソーク時間経過後に、運転者がキースイッチ24をONして、ECU21を起動させた際に、燃料圧力センサ13の特性異状診断を実行するようにしている。
【0031】
そのため、本実施形態では、燃料圧力FPが大気圧相当の相対圧力(0[MPa])に低下するまでの時間を、予め実験等から求め、その値を設定キーオフ時間としている。尚、実験によれば、ソーク時間Tsがおおよそ1〜2時間程度あれば、図4(e)に示す実値である実際の燃料圧力PFは大気圧相当の相対圧力(0[MPa])まで充分に低下させることができることが解っている。そのため、本実施形態では、この設定キーオフ時間をおおよそ1.5〜2時間程度に設定している。
【0032】
そして、ステップS3へ進み、ステップS2での比較結果を調べ、VBT>設定電圧、且つTs>設定キーオフ時間、且つGa(エンジン温度TE/G)>所定吸入空気量(完全暖機判定温度)と判定した場合、特性異常診断実行条件成立と判定し、ステップS4へ進む。又、上述した条件の一つでも満足されていない場合は、そのままルーチンを終了する。
【0033】
このように、本実施形態では、特性異常診断実行条件として、エンジン停止時の燃料圧力PFがリリーフバルブ8aのリリーフ圧PRを越えているか否かの条件を加えたことで、エンジン停止後、比較的短時間で燃料圧力PFが大気圧相当の圧力まで低下されている状態が推定でき、その結果、エンジン再始動時における燃料圧力センサ13の特性異常診断を行う機会を増加させることができる。更に、比較的短いソーク時間Tsであっても特性異常診断を行うことができるため、外乱の影響を受け難く、高い精度の診断結果を得ることができる。
【0034】
そして、上述したステップS3で特性異常診断実行条件が満足されていると判定して、ステップS4へ進むと、燃料圧力センサ13で検出した燃料圧力PFを読込み、ステップS5,S6で、この燃料圧力PFが経年劣化を含めた公差内にあるか否かを調べる。図3に示すように、燃料圧力センサ13は、中央値を挟んで上限値(+)と下限値(−)との公差を有しており、センサ出力値VP[V]が、この公差内にある場合は正常と判定され、公差から外れている場合は異常と判定される。
【0035】
又、運転者がキースイッチ24をONすると、電動式低圧燃料ポンプ11が駆動し、停止している高圧燃料ポンプ8を経て高圧燃料ギャラリ4,5に、電動式低圧燃料ポンプ11で発生した燃料圧力が供給される。その結果、図4(e)の経過時間t2に示す実値のように、キースイッチ24をONした瞬間、高圧燃料ギャラリ4,5内の燃料圧力PFは電動式低圧燃料ポンプ11による吐出圧に応じて上昇する。そのため、キースイッチ24をONした際に、燃料圧力センサ13で検出する燃料圧力PFには電動式低圧燃料ポンプ11による吐出圧分が含まれている。
【0036】
従って、キースイッチ24をONしたときに判定する公差下限しきい値PSL1と公差上限値PSL2とは、予め電動式低圧燃料ポンプ11による吐出圧分を考慮し、圧力上昇側へシフトした値に設定されている。
【0037】
そして、先ず、ステップS5で、燃料圧力センサ13で検出した燃料圧力PFと公差下限しきい値PLS1とを比較し、燃料圧力PFが公差下限しきい値PLS1未満の(低い)場合(PF<PLS1)、ステップS7へ進み、又、燃料圧力PFが公差下限しきい値PLS1以上の場合(PF≧PSL1)、ステップS6へジャンプする。
【0038】
ステップS6では、燃料圧力PFと公差上限しきい値PLS2とを比較し、燃料圧力PFが公差上限しきい値PLS2以下の場合(PF≦PLS2)、燃料圧力センサ13の出力値は公差範囲内にあり、正常と判定し、そのままルーチンを終了する。
【0039】
一方、燃料圧力PFが公差上限しきい値PLS2を超過している場合(PF>PLS2)、燃料圧力センサ13の出力値は公差正側のオフセット特性異常であると判定し(図4(e)参照)、ステップS8へ進み、図示しないインストルメントパネル等に配設されているチェックランプ等の警告手段を駆動させて、運転者に燃料圧力センサ13の異常を報知すると共に、燃料圧力センサ13の公差正側でのオフセット特性異常を示すトラブルコードをメモリに記憶して、ルーチンを終了する。
【0040】
一方、燃料圧力PFが公差下限しきい値PLS1未満と判定されて(PF<PLS1)、ステップS5からステップS7へ進むと、筒内直噴エンジン1が始動するまで待機し、筒内直噴エンジン1が始動と判定された場合、ステップS9へ進む。筒内直噴エンジン1が始動したか否かは、エンジン回転数センサ23で検出したエンジン回転数を読込み、このエンジン回転数が所定値以上の場合、エンジン始動と判定する(図4(b)の経過時間t3)。
【0041】
筒内直噴エンジン1が始動すると、エンジン駆動式高圧燃料ポンプ8が駆動し、ECU21からの駆動信号によって動作する燃料圧力調整ソレノイドバルブ8bにて所定に調圧された燃料が高圧燃料ギャラリ4,5に送給されるため、高圧燃料ギャラリ4,5内の燃料圧力が上昇する。
【0042】
そして、ステップS9へ進むと、燃料圧力センサ13で検出した燃料圧力PFを読込み、ステップS10で、断線地絡判定しきい値PSL3と比較する。この断線地絡判定しきい値PSL3は、燃料圧力センサ13に電力を供給する電源供給ラインが断線・地絡しているか否かを判定する値であり、公差下限しきい値PSL1よりも所定に低い値に設定されている。
【0043】
そして、燃料圧力PFが断線地絡判定しきい値PSL3を超過している(高い)場合(PF>PSL3)、ステップS11へ進み、又、燃料圧力PFが断線地絡判定しきい値PSL3以下(低い)の場合(PF≦PSL3)、ステップS12へ進む。燃料圧力センサ13に電力を供給する電源ラインに断線、或いは地絡が生じている場合、エンジン始動後の高圧燃料ポンプ8の駆動により実際の燃料圧力が上昇しても、燃料圧力センサ13から出力される電圧(燃料圧力PF)が上昇することはないが、燃料圧力センサ13自体に特性異常が生じている場合、実際の燃料圧力の上昇に伴い、燃料圧力センサ13から出力される電圧(燃料圧力PF)も上昇する。
【0044】
この高圧燃料ポンプ8から吐出される燃料圧力は比較的高いため、燃料圧力センサ13から出力される電圧は高い値となる。その結果、ステップS10で、燃料圧力PFと断線地絡判定しきい値PSL3とを比較することで、故障箇所が燃料圧力センサ13自身か、電源ライン側かを明確に区別することができる。
【0045】
そして、燃料圧力PFが断線地絡判定しきい値PSL3を越えている場合(PF>PSL3)、実際の燃料圧力の上昇により燃料圧力センサ13の出力値が増加する挙動を示しているため、燃料圧力センサ13の出力値は公差負側のオフセット特性異常であると判定し(図4(e)参照)、ステップS11へ進み、上述したチェックランプ等の警告手段を駆動させて、運転者に燃料圧力センサ13の異常を報知すると共に、燃料圧力センサ13の公差負側でのオフセット特性異常を示すトラブルコードをメモリに記憶して、ルーチンを終了する。
【0046】
一方、燃料圧力PFが断線地絡判定しきい値PSL3以下の場合(PF≦PSL3)、すなわち、燃料圧力センサ13の出力値が増加しない場合は、燃料圧力センサ13に接続する電源ラインの断線、或いは地絡による故障と判定し、ステップS12へ分岐し、上述したチェックランプ等の警告手段を駆動させて、運転者に燃料圧力センサ13の電気系統の異常を報知すると共に、燃料圧力センサ13に接続する電源ラインの故障を示すトラブルコードをメモリに記憶して、ルーチンを終了する。
【0047】
このように、本実施形態によれば、燃料圧力センサ13の特性異常診断を行う際の実行条件として、キースイッチ24をOFFする直前のエンジン温度TE/Gが、完全暖機温度状態に達しているか否かが加えられているため、エンジン停止時における高圧燃料ギャラリ4,5内の実際の燃料圧力がエンジン1の輻射熱により加温され、その圧力上昇によりリリーフバルブ8が開弁して、燃料圧力がリークされるため、その後、高圧燃料ギャラリ4,5内の燃料圧力が大気圧相当の圧力に低下するまでの時間が短縮される。その結果、再始動持のソーク時間が比較的短い場合であっても燃料圧力センサ13の異常を検出することができ、その分、特性異常診断の機会が増え、これにより、燃料圧力センサ13の信頼性を高めることが出来る。
【0048】
又、本実施形態では、エンジン停止時のエンジン温度TE/Gが完全暖機温度状態に達していることが特性異常診断実行条件として加えられているため、複雑な特性異常診断実行条件が不要で、ソーク時間Tsを判定する設定キーオフ時間の設定が車種毎に容易となり、その結果、高い汎用性を得ることができる。
【0049】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、ECU21は、ソーク時間を計時し、このソーク時間が設定キーオフ時間に達した際に、自動的にキースイッチをONして、圧力センサ13の特性異常を自己診断するようにしても良く、この場合、自己診断が終了した際にはキースイッチを自動的にOFFする。又、この自己診断において、上述したステップS5の処理で、PF<PLS1と判定された場合は、筒内直噴エンジン1が始動されるまで待機する。因みに、本発明の筒内直噴エンジンはディーゼルエンジンであっても良い。
【符号の説明】
【0050】
1…筒内直噴エンジン、
2,3…高圧インジェクタ、
4,5…高圧燃料ギャラリ、
6…燃料ギャラリライン、
7…高圧燃料ライン、
8…高圧燃料ポンプ、
8a…リリーフバルブ
8b…燃料圧力調整ソレノイドバルブ、
10…燃料タンク、
11…電動式低圧燃料ポンプ、
13…燃料圧力センサ、
21…電子制御装置、
22…アクセルポジションセンサ、
23…エンジン回転数センサ、
24…キースイッチ、
25…エンジン水温センサ
Ne…エンジン回転数、
PF…燃料圧力、
PR…リリーフ圧
PLS1…公差下限しきい値、
PLS2…公差上限しきい値、
PSL3…断線地絡判定しきい値、
SLE/G…完全暖機判定温度
Tid…アイドル時間、
Ts…ソーク時間、
TF…燃料温度
VBT…バッテリ電圧、
VP…センサ出力値
図1
図2
図3
図4