特許第5965385号(P5965385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タムラ製作所の特許一覧

特許5965385圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法
<>
  • 特許5965385-圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法 図000006
  • 特許5965385-圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965385
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20160721BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20160721BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20160721BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160721BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20160721BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F27/24 D
   H01F41/02 D
   C22C38/00 303S
   B22F1/02 C
   B22F3/00 B
   C22C38/00 303T
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-273454(P2013-273454)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-128116(P2015-128116A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】綱川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】 柴垣 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−243268(JP,A)
【文献】 特開2011−178983(JP,A)
【文献】 特表2013−520023(JP,A)
【文献】 特開2002−043109(JP,A)
【文献】 特開2010−251473(JP,A)
【文献】 特開平6−107773(JP,A)
【文献】 特開2008−078211(JP,A)
【文献】 特開2005−136247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
B22F 1/02
B22F 3/00
C22C 38/00
H01F 27/255
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末に結着性絶縁樹脂を混合し、その混合物を所定の形状に成形し、その成形体を熱処理してなる圧粉磁心において、
前記軟磁性粉末の周囲には、前記結着性絶縁樹脂を原料とする絶縁層が形成され、
前記結着性絶縁樹脂が、イソシアヌレート系のシランカップリング剤とシリコーン樹脂との混合物であることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量が、前記軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記シリコーン樹脂が、メチルフェニル系シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記イソシアヌレート系のシランカップリング剤が、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記軟磁性粉末が、Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末であることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記請求項1〜前記請求項5の何れか1項に記載の圧粉磁心に、コイルを巻回して構成したことを特徴とするリアクトル。
【請求項7】
前記軟磁性粉末がFe−Si−Al合金粉末であり、
前記熱処理が大気雰囲気で行われて構成された前記請求項1〜前記請求項4の何れか1項に記載の圧粉磁心に、コイルを巻回して構成されたリアクトルであって、その鉄損が125kW/m〜201kW/mであることを特徴とするリアクトル。
【請求項8】
Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末からなる軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%のイソシアヌレート系のシランカップリング剤を含む結着性絶縁樹脂とを混合し、前記軟磁性粉末を前記結着性絶縁樹脂で被覆したことを特徴とする軟磁性粉末。
【請求項9】
軟磁性粉末に結着性絶縁樹脂を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加圧成型する加圧成型工程と、
前記加圧成型工程で得られた成形体を600℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、
を有し、
前記混合工程において、前記軟磁性粉末に前記結着性絶縁樹脂として、イソシアヌレート系のシランカップリング剤とシリコーン樹脂とを添加することを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
前記イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量が、前記軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%であることを特徴とする請求項9に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項11】
前記シリコーン樹脂が、メチルフェニル系シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項12】
前記イソシアヌレート系のシランカップリング剤が、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項9〜請求項11の何れか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項13】
前記軟磁性粉末が、Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末であることを特徴とする請求項9〜請求項12の何れか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性粉末の周囲に絶縁層を形成した圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源などの制御用電源には電子機器としてチョークコイルが用いられており、そのコアとして、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。これらの中で、フェライト磁心は飽和磁束密度が小さいという欠点を有している。これに対して、金属粉末を成形して作製される圧粉磁心は、軟磁性フェライトに比べて高い飽和磁束密度を持つため、直流重畳特性に優れている。高密度成形された圧粉磁心は、高い磁束密度を有し優れた磁気特性を発揮する。
【0003】
圧粉磁心には、エネルギー交換効率の向上や低発熱などの要求から、小さな印加磁場で大きな磁束密度を得ることが出来る磁気特性と、磁束密度変化におけるエネルギー損失が小さいという磁気特性が求められる。
【0004】
圧粉磁心を交流磁場で使用した場合、鉄損(Pcv)と呼ばれるエネルギー損失が生じる。この鉄損は、式1に示すように、ヒステリシス損失(Ph)、渦電流損失(Pe)の和で表される。
【0005】
ヒステリシス損失は動作周波数に比例し、渦電流損失は動作周波数の2乗に比例する。そのため、ヒステリシス損失は低周波側領域で支配的になり、渦電流損失は高周波領域で支配的になる。圧粉磁心は、この鉄損の発生を小さくする磁気特性が求められている。
【0006】
Pcv=Ph+Pe 、Ph=Kh×f、Pe=Ke×f…式1
Kh:ヒステリシス損係数、Ke:渦電流損係数、f:周波数
【0007】
圧粉磁心のヒステリシス損失を低減するためには、磁壁の移動を容易にすればよく、そのためには軟磁性粉末粒子の保磁力を低下させればよい。この保磁力を低減することで、初透磁率の向上とヒステリシス損失の低減が図れる。
【0008】
一方、渦電流損失は式2で示されるように、コアの比抵抗に反比例する。
Ke=k1(Bm・t)/ρ…式2
k1:係数、Bm:磁束密度、t:粒子径(板材の場合厚さ)、ρ:比抵抗
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−305823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から、圧粉磁心における粒子間の絶縁を確保するために、金属粉末に樹脂バインダーを混合する方法が採られていた。しかし、大量の樹脂バインダーを混合すると金属粉末の占積率が低下し、鉄損が増大する問題があった。そこで、圧粉磁心の絶縁破壊を防止し鉄損を低下させる方法として、占積率を上げるため樹脂バインダーを少なくする方法が採用されていた。しかし、単に樹脂バインダーを少なくするだけでは、粉末粒子間の絶縁が低下し、鉄損の増大を招いてしまう。
【0011】
これを改善する方法として、特許文献1では、シランカップリング剤を混合してシリコーン樹脂などの樹脂バインダーを少なくする方法が提案されている。この方法によれば、樹脂バインダーを少なくしても粒子間の絶縁が低下せず、鉄損の増大を抑制することができる。
【0012】
しかし、特許文献1では、樹脂バインダーを少なくするために、シランカップリング剤を混合させるものであるため、シランカップリング剤とシリコーン樹脂の添加量の組み合わせについては言及されているが、シランカップリング剤の種類や、シランカップリング剤とシリコーン樹脂の種類の組み合わせによっては鉄損抑制効果が全く異なる点については言及されていなかった。また、組み合わせによっては鉄損が増大する場合もあった。
【0013】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、鉄損を効果的に抑制することのできる圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意研究の結果、軟磁性粉末に結着性絶縁樹脂として、イソシアヌレート系のシランカップリング剤とシリコーン樹脂とを混合し、軟磁性粉末の周囲に絶縁層を形成することにより、絶縁破壊を起こさず低鉄損の圧粉磁心が得られることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の圧粉磁心は、軟磁性粉末に結着性絶縁樹脂を混合した後、その混合物を所定の形状に成形し、その成形体を熱処理してなる圧粉磁心において、下記の構成を採用したことを特徴とする。
(1)軟磁性粉末の周囲に、結着性絶縁樹脂を原料とする絶縁層を形成する。
(2)結着性絶縁樹脂が、イソシアヌレート系のシランカップリング剤とシリコーン樹脂との混合物である。
【0016】
また、次の構成を備えるようにしても良い。
(3)イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量が、軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%であることが好ましい。
(4)シリコーン樹脂がメチルフェニル系シリコーン樹脂であることが好ましい。
(5)イソシアヌレート系のシランカップリング剤が、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであることが好ましい。
(6)軟磁性粉末が、Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末であることが好ましい。
【0017】
本発明のリアクトルは、前記(1)及び(2)を含む圧粉磁心に、コイルを巻回して構成したことを特徴とする。リアクトルとしては、軟磁性粉末がFe−Si−Al合金粉末であり、熱処理が大気雰囲気で行われて構成された前記(1)及び(2)を含む圧粉磁心に、コイルを巻回して構成されたリアクトルであって、その鉄損が125kW/m〜201kW/mであることが好ましい。
【0018】
本発明の軟磁性粉末は、Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末からなる軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%のイソシアヌレート系のシランカップリング剤を含む結着性絶縁樹脂とを混合し、前記軟磁性粉末を前記結着性絶縁樹脂で被覆したことを特徴とする。
【0019】
本発明の圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末に結着性絶縁樹脂を混合する混合工程と、前記混合工程で得られた混合物を加圧成型する加圧成型工程と、前記加圧成型工程で得られた成形体を600℃以上の温度で熱処理する熱処理工程と、を有し、前記混合工程において、前記軟磁性粉末に前記結着性絶縁樹脂として、イソシアヌレート系のシランカップリング剤とシリコーン樹脂とを添加することを特徴とする。
【0020】
また、以下の構成を有するようにしても良い。
(1)イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量が、前記軟磁性粉末に対し0.025wt%〜1.0wt%であること。
(2)シリコーン樹脂が、メチルフェニル系シリコーン樹脂であること。
(3)イソシアヌレート系のシランカップリング剤が、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであること。
(4)軟磁性粉末が、Fe−Si−Al合金粉末又はFe−Si合金粉末であること。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、軟磁性粉末の周囲に形成する絶縁層の材料にイソシアヌレート基を有するシランカップリング剤を用いることで、結着性絶縁樹脂同士や軟磁性粉末と絶縁層との接着性が向上し、鉄損を効果的に抑制することのできる圧粉磁心、これを用いたリアクトル、軟磁性粉末および圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】シランカップリング剤の添加量と鉄損との関係を示すグラフである。
図2】イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量に対するヒステリシス損失、渦電流損失、及び鉄損の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)軟磁性粉末
軟磁性粉末としては、センダスト(Fe−Si−Al合金)粉、Fe−Si合金粉、純鉄粉などが使用できる。
【0024】
他に、軟磁性粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。軟磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、結晶化しにくいからである。軟磁性粉末の平均粒径は20μm〜100μmが好ましい。
【0025】
(2)結着性絶縁樹脂
結着性絶縁樹脂は、軟磁性粉末に添加する。結着性絶縁樹脂としては、常温で軟磁性粉末との混合物を加圧した場合に、ある程度緻密化された状態の成形体が得られ、しかも、その成形体に過大な力が加わらない限り、所定の形状を維持することのできる程度の粘性のある樹脂を用いる。
【0026】
例として、シリコーン系樹脂、ワックスなどが挙げられる。シリコーン系の樹脂としては、メチル系シリコーン樹脂やメチルフェニル系シリコーン樹脂が好ましい。メチル系シリコーン樹脂やメチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して0.75wt%〜2.0wt%が適量である。添加量をこの範囲とすることで鉄損抑制効果が得られる。これよりも少なければ成形体の強度が不足して、割れが発生する。これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0027】
その他の結着性樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用することができる。混合するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は合金粉末に対して0.5wt%〜2.0wt%であり、その場合の乾燥温度と乾燥時間は、80℃〜150℃で2時間である。アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの代りに、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用しても良い。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)の添加量は、軟磁性粉末に対して0.5wt%〜3.0wt%が適量である。
【0028】
また、PVB(ポリビニルブチラール)の溶液(12%溶液)を用いても良く、キシレン、ブタノール等の溶剤に溶かして使用しても良い。その場合の軟磁性粉末に対する添加量は、PVAと同様である。
【0029】
結着性絶縁樹脂の混合工程において、シランカップリング剤を加える。シリコーン樹脂等とシランカップリング剤を混合してから軟磁性粉末に添加しても良いし、シリコーン樹脂等とシランカップリング剤を軟磁性粉末に別々若しくは同時に添加しても良い。シランカップリング剤を使用した場合は、結着性絶縁樹脂の分量を少なくすることができる。相性の良いシランカップリング剤の種類としては、イソシアヌレート系のシランカップリング剤が適している。すなわち、シランカップリング剤を使用しない場合や、アミノシラン系、エポキシシラン系のシランカップリング剤を使用した場合よりも、樹脂同士の結着性や軟磁性粉末とその周囲に形成される絶縁層との結着性が向上し、絶縁性能の向上に寄与する。そのため、高温下で熱処理をしても絶縁破壊が生じず、鉄損の低いコアを作製することができる。なお、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を用いると、リアクトルの騒音抑制効果も得られる。
【0030】
イソシアヌレート系のシランカップリング剤としては、例えば、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。その化学構造を下記の化1に示す。
【化1】
【0031】
化1に示すように、このシランカップリング剤は、1分子中に3つのトリメトキシシリル基を有するイソシアヌル環を有している。これにより、軟磁性粉末やシリコーン樹脂との接着性が向上し、結果として絶縁性能が向上し、鉄損抑制効果を発揮する。
【0032】
シランカップリング剤の添加量は、軟磁性粉末に対して0.025wt%〜1.0wt%であることが好ましい。結着性絶縁樹脂にこの範囲のシランカップリング剤を添加することで、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性(特に低鉄損)、強度特性を向上させることができる。これよりも少ないと接着効果が少なく絶縁性能が向上せず、鉄損が増大する。これもよりも多いと軟磁性粉末の占積率が低下し、鉄損が増大する。
【0033】
(3)潤滑性樹脂
潤滑性樹脂として、ステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。潤滑性樹脂を混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。潤滑性樹脂の添加量は、軟磁性粉末に対して、0.1wt%〜1.0wt%程度が好ましく、一般的には、0.5wt%程度である。
【0034】
(4)製造方法
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(a)軟磁性粉末に対して結着性絶縁樹脂を混合する混合工程。
(b)混合工程で得られた混合物を加圧成型する加圧成型工程。
(c)加圧成型工程で得られた成形体を熱処理する熱処理工程。
【0035】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(a)混合工程
平均粒径が20μm〜100μmの軟磁性粉末に対して、その0.75wt%〜2.0wt%の結着性絶縁樹脂と、0.1wt%〜1.0wt%の潤滑性樹脂とを添加して混合する。この混合工程において、軟磁性粉末に対して0.025wt%〜1.0wt%のイソシアヌレート系のシランカップリング剤を加える。
【0036】
(b)加圧成型工程
加圧成型工程では、混合工程を経た混合物を金型内に充填して、加圧成形する。その場合、金型温度は常温が好ましいが、80℃までの範囲であっても構わない。すなわち、ここでの常温とは、5℃〜35℃までの範囲をいうが、5℃〜80℃の範囲であっても構わない。成形圧力は、例えば、1000MPa〜1700MPaである。
【0037】
(c)熱処理工程
成形体に対する熱処理は、軟磁性粉末の種類に応じて所定雰囲気において所定温度で行う。いずれの場合も加熱温度は600℃以上であり、加熱保持時間は2時間〜4時間程度である。熱処理雰囲気は、軟磁性粉末がFe−Si−Al合金粉末の場合は、窒素雰囲気若しくは大気雰囲気である。特に大気雰囲気の方が作製されたコアの鉄損が低くなるため好ましい。Fe−Si合金粉末の場合は、窒素雰囲気、10%〜30%水素ガスなどの還元雰囲気が好ましい。また、熱処理温度は、上げ過ぎると絶縁破壊を起こし、渦電流損失が増加する。そのため、鉄損の増加を抑制する観点からFe−Si−Al合金粉末及びFe−Si合金粉末の場合、600℃〜750℃が好ましく、特にFe−Si−Al合金粉末は600℃〜725℃がより好ましい。
【実施例】
【0038】
本発明の実施例を、表1〜表3、図1および図2を参照して、以下に説明する。
【0039】
(1)測定項目と測定条件
測定項目は、透磁率及び鉄損である。透磁率の測定及び鉄損の算出には、作製された圧粉磁心のサンプルに1次巻線(20ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いた。透磁率の測定条件及び鉄損の算出条件は、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=50mTとした。透磁率は、鉄損Pcv測定時に最大磁束密度Bmを設定したときの振幅透磁率とした。鉄損の算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0040】
Pcv=Kh×f+Ke×f…(1)
Ph =Kh×f…(2)
Pe =Ke×f…(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損係数
Ke :渦電流損係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0041】
(2)サンプルの作製方法
圧粉磁心のサンプルは、下記のように、(a)シランカップリング剤及びシリコーン樹脂の種類、(b)イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量の観点から作製した。また、(c)として、上記(a)及び(b)と異なる種類の軟磁性粉末でも作製した。これらの作製方法と、その結果について下記に順に示す。
【0042】
(a) シランカップリング剤及びシリコーン樹脂の種類
硬度100MPaのFeSiAl合金粉末(平均粒子径43μm)の粉末に対して、絶縁微粉末として比表面積100m/gのアルミナ粉末(平均粒子径7nm程度)を0.2wt%、潤滑剤を0.3wt%混合した。次に、下記表1に記載の種類と添加量のシランカップリング剤、シリコーン樹脂を混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、目開き300μmの篩を通し、さらに潤滑剤を0.3wt%混合した。
【0043】
これを室温にて1000MPaの圧力で加圧成型し、外径17.0mm、内径11.0mm、高さ5.0mmのリング状の成型体を作製し、大気中で700℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0044】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目と測定条件」で示したように巻線を施し、透磁率及び鉄損の算出を行った。その結果を表1に示す。表1〜表3において、μaは透磁率を示している。なお、熱処理後における、結着性絶縁樹脂とアルミナ粉末からなるFeSiAl合金粉末周囲の絶縁層の厚さは、20nm〜50nm程度であった。
【0045】
シランカップリング剤として、アミノシラン系には3−アミノプロピルトリエトキシシランを用い、エポキシシラン系には3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを用いた。イソシアヌレート系には、トリス−(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを用いた。シリコーン樹脂として、メチルフェニル系とメチル系のシリコーン樹脂を用いた。
【表1】
【0046】
表1の結果から明らかなように、シランカップリング剤にイソシアヌレート系を用いた場合、アミノシラン系やエポキシシラン系のものを用いた場合と比べて、鉄損抑制効果があることが分かる。具体的に、実施例1及び実施例2から、2割〜4割程度の鉄損を抑制できることが分かる。特に、イソシアヌレート系のシランカップリング剤と、メチルフェニル系シリコーン樹脂との組み合わせ(実施例1)における鉄損は125kW/mであり、他の場合の組み合わせ(比較例1、2)における鉄損198kW/m、197kW/mと比べてその抑制効果が顕著である。さらに、メチル系シリコーン樹脂との組み合わせ(実施例2)よりも、密度や透磁率も良好である。
【0047】
(b) イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量
硬度100MPaのFeSiAl合金粉末(平均粒子径69μm)の粉末に対して、絶縁微粉末として比表面積100m/gのアルミナ粉末(平均粒子径7nm程度)を0.3wt%混合した。次に、下記表2に記載の種類と添加量のシランカップリング剤、シリコーン樹脂を混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、目開き300μmの篩を通し、さらに潤滑剤を0.3wt%混合した。
【0048】
これを室温にて1700MPaの圧力で加圧成型し、外径17.0mm、内径11.0mm、高さ5.0mmのリング状の成型体を作製し、大気中で700℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0049】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目と測定条件」で示したように巻線を施し、透磁率及び鉄損の算出を行った。その結果を表2、図1及び図2に示す。なお、熱処理後における、結着性絶縁樹脂とアルミナ粉末からなるFeSiAl合金粉末周囲の絶縁層の厚さは、20nm〜50nm程度であった。
【表2】
【0050】
図1は、シランカップリング剤の添加量と鉄損との関係を示すグラフである。図2は、イソシアヌレート系のシランカップリング剤の添加量に対するヒステリシス損失(Ph)、渦電流損失(Pe)及び鉄損(Pcv)の関係を示すグラフである。
【0051】
表2、図1及び図2の結果から、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を用い、その添加量が0.025wt%〜1.0wt%で鉄損抑制効果が確認できる。0.025wt%未満であると、添加量が少なく接着効果が得られない。そのため、絶縁性能が得られず、鉄損が増大する。1.0wt%を超えると軟磁性粉末の占積率が低下し、鉄損が増大する。なお、アミノシラン系を用いた場合では、大気雰囲気と窒素雰囲気とで透磁率の変化率が大きくなる。アミノシラン系を用いた場合は、大気雰囲気中では酸化時の応力の影響で、ヒステリシス損失が高く、透磁率が低くなると考えられる。
【0052】
図2に示されているように、鉄損(Pcv)とヒステリシス損失(Ph)の添加量に対する損失が同様の変化の仕方をしている。これは、イソシアヌレート系のシランカップリング剤が、主にヒステリシス損失の抑制に作用し、鉄損の変化に反映されたものと考えられる。すなわち、イソシアヌレート系のシランカップリング剤は、鉄損の中でも特にヒステリシス損失を低くする効果がある。その理由は、メチルフェニル系シリコーン樹脂の硬化時に軟磁性粉末にかかる応力の低減、若しくは、加圧成型時の応力緩和が生じるからと考えられる。
【0053】
(c) 軟磁性粉末の種類
上記(a)及び(b)では軟磁性粉末をFe−Si−Al合金粉末としたが、Fe−6.5%Si合金粉末として下記の様に圧粉磁心のサンプルを作成した。
【0054】
Fe−6.5%Si合金粉末(平均粒子径20μm)の粉末に対して、絶縁微粉末として比表面積100m/gのアルミナ粉末(平均粒子径7nm程度)を0.2wt%混合した。その後、水素雰囲気中において1100℃で2時間の粉末熱処理を行った。次に、下記表3に記載の種類と添加量のシランカップリング剤、シリコーン樹脂を混合し、150℃で2時間の加熱乾燥を行い、目開き300μmの篩を通し、さらに潤滑剤を0.6wt%混合した。
【0055】
これを室温にて1500MPaの圧力で加圧成型し、外径17.0mm、内径11.0mm、高さ5.0mmのリング状の成型体を作製し、窒素雰囲気中で725℃で保持時間2時間で熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0056】
これらのサンプルに対して、上記「(1)測定項目と測定条件」で示したように巻線を施し、透磁率及び鉄損の算出を行った。その結果を表3に示す。なお、熱処理後における、結着性絶縁樹脂とアルミナ粉末からなるFe−6.5%Si合金粉末周囲の絶縁層の厚さは、20nm〜50nm程度であった。
【表3】
【0057】
表3から分かるように、軟磁性粉末がFe−6.5%Si合金粉末である場合であっても、イソシアヌレート系シランカップリング剤を用いた方が、アミノシラン系のものを用いるよりも、鉄損の抑制効果が発揮されている。渦電流損失(Pe)も抑制効果が認められるが、特に、ヒステリシス損失(Ph)の抑制効果が顕著である。また、密度や透磁率も良好な数値を示している。
【0058】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0059】
(1)上記実施例では、結着性絶縁樹脂の混合工程において潤滑性樹脂を添加したが、添加しない場合も本発明の範囲に含まれる。
(2)上記実施例において、Fe−Si−Al合金粉末やFe−6.5%Si合金粉末に対して、絶縁微粉末としてアルミナ粉末を混合したが、SiO、MgO、Mg(OH)、CaO、Ca(OH)、石綿、タルク、フライアッシュなどの塩基性物質を混合しても良い。
【0060】
(3)上記実施例では、軟磁性粉末としてFe−Si−Al合金粉末やFe−6.5%Si合金粉末単体にイソシアヌレート系のシランカップリング剤を用いたが、これらの混合粉、Fe−Si−Al合金粉末と純鉄粉の混合粉、又は、Fe−6.5%Si合金粉末と純鉄粉の混合粉に対しても鉄損抑制効果が得られる。
図1
図2