【文献】
J. Neurosci.,2004年 7月,Vol.24,No.29,p.6437-6445
【文献】
Exp. Neurol.,1999年11月,Vol.160,No.1,p.1-16
【文献】
J. Neurosci.,2004年 7月,Vol.24,No.29,P.6437-6445
【文献】
Exp. Neurol.,1998年 3月,Vol.150,No.1,P.136-142
【文献】
JARRAYA BECHIR,DOPAMINE GENE THERAPY FOR PARKINSON'S DISEASE IN A NONHUMAN PRIMATE WITHOUT ASSOCIATED DYSKINESIA,SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE,2009年10月14日,Vol.1,No.2,P.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記神経学的状態が、パーキンソン病;筋委縮性側索硬化症(運動ニューロン疾患);ハンチントン病、およびフリードライヒ運動失調、小脳失調症、ジストニア(distonias)、反復運動障害、不穏下肢症候群、振せんおよびミオクローヌスのような運動の異常;アルツハイマー病およびピック病;脳卒中;焦点性および全身または特発性てんかん;知覚異常、背部痛、および糖尿病性神経学的障害を含む慢性疼痛;脳腫瘍;慢性疲労症候群;クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)およびバリアントCJD;テイ・サックス病およびウィルソン病を含む白質ジストロフィー;頭蓋内圧への変化;群発性頭痛および偏頭痛;多発性硬化症;プラダー・ウィリー障害を含む慢性摂食障害;統合失調症;情動性障害;躁病および睡眠時無呼吸を含む睡眠障害からなる群より選択される、請求項1に記載の使用のためのレンチウイルスベクター組成物。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
本発明は、脳へ送達するためのレンチウイルスベクターに関連する。
【0034】
レンチウイルスベクター
本発明によるレンチウイルスベクターは、任意の適当なレンチウイルス由来であり得、またはそれらから誘導可能であり得る。組換えレンチウイルス粒子は、目的のヌクレオチド(NOI)を標的細胞に形質導入し得る。一旦細胞内に入ったら、ベクター粒子由来のRNAゲノムはDNAに逆転写され、そして標的細胞のゲノムに組込まれる。
【0035】
レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターの大きなグループの一部である。レンチウイルスの詳細なリストを、Coffinら(1997)「Retroviruses」Cold Spring Harbor Laboratory Press、JM Coffin、SM Hughes、HE Varmus編、758〜763頁において見出し得る。簡単には、レンチウイルスを、霊長類および非霊長類のグループに分けることができる。霊長類レンチウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因因子、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)を含むがこれに限らない。非霊長類レンチウイルスグループは、プロトタイプ「スローウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに、関連するヤギ関節炎−脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、および最近記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)を含む。
【0036】
レンチウイルスは、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点で、レトロウイルス科の他のメンバーとは異なる(Lewisら(1992)EMBO J 11(8):3053〜3058、ならびにLewisおよびEmerman(1994)J Virol 68(1):510〜516)。対照的に、MLVのような他のレトロウイルスは、例えば筋肉、脳、肺および肝臓組織を構成するもののような、非分裂細胞またはゆっくりと分裂する細胞には感染できない。
【0037】
本明細書中で使用されるようなレンチウイルスベクターは、少なくとも1つのレンチウイルス由来の構成部分を含むベクターである。好ましくは、その構成部分は、生物学的メカニズム(そのベクターが細胞に感染するメカニズム、遺伝子を発現するメカニズム、または複製メカニズム)に関与する。
【0038】
レトロウイルスおよびレンチウイルスゲノムの基本的な構造は、5’LTRおよび3’LTR、その間またはその内部に位置する、ゲノムをパッケージングし得るパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノムへの組込みを可能にする組込み部位、パッケージング成分をコードするgag、pol、およびenv遺伝子−これらはウイルス粒子のアッセンブリに必要なポリペプチドである−のような、多くの共通の特徴を有する。レンチウイルスは、HIVのrevおよびRRE配列のような、さらなる特徴を有し、それは組込まれたプロウイルスのRNA転写物の、感染標的細胞の核から細胞質への効率的な輸送を可能にする。
【0039】
プロウイルスにおいて、ウイルス遺伝子の両端には、長末端反復配列(LTR)と呼ばれる領域が位置している。LTRは、プロウイルスの組込み、および転写に関与する。LTRはまた、エンハンサー−プロモーター配列として作用し、ウイルス遺伝子の発現をコントロールし得る。
【0040】
LTR自体は、3つの要素に分けられ得る同一の配列であり、それらはU3、R、およびU5と呼ばれる。U3は、RNAの3’末端に特有な配列由来である。Rは、RNAの両端で反復される配列由来であり、そしてU5はRNAの5’末端に特有な配列由来である。3つの要素のサイズは、異なるウイルスの間で大きく異なり得る。
【0041】
欠損レンチウイルスベクターゲノムにおいて、gag、pol、およびenvを欠く場合も、これらが機能的ではない場合もある。RNAの両端のR領域は反復配列である。U5およびU3は、それぞれRNAゲノムの5’および3’末端における特有な配列を示す。
【0042】
本発明の典型的なレンチウイルスベクターにおいて、複製に必須の1つまたはそれ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部を、ウイルスから除去し得る。これにより、ウイルスベクターを複製欠損にする。さらに、標的非分裂宿主細胞に形質導入し得るか、および/またはゲノムを宿主ゲノムへ組込み得る、NOIを含むベクターを産生するために、ウイルスゲノムの一部を、NOIで置換し得る。
【0043】
1つの実施態様において、そのレンチウイルスベクターは、WO2007/071994において記載されたような非組込みベクターである。
【0044】
さらなる実施態様において、そのベクターは、ウイルスRNAが全く無いかまたは欠けている配列を送達する能力を有する。さらなる実施態様において、送達されるRNA上に位置する異種の結合ドメイン(gagに対して異種)、およびgagまたはpol上の関連結合ドメインを使用して、送達されるRNAのパッケージングを保証し得る。これらのベクターはどちらも、WO2007/072056において記載されている。
【0045】
レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクターであり得る。すなわち、主に霊長類、特にヒトに感染しないウイルス由来であり得る。
【0046】
非霊長類レンチウイルスの例は、自然には霊長類に感染しない、レンチウイルス亜科の任意のメンバーであり得、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、マエディビスナウイルス(MVV)またはウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)を含み得る。
【0047】
特に好ましい実施態様において、そのウイルスベクターはEIAV由来である。EIAVは、レンチウイルスの最も単純なゲノム構造を有し、そして本発明における使用のために特に好ましい。gag、pol、およびenv遺伝子に加えて、EIAVは、3つの他の遺伝子:tat、rev、およびS2をコードする。Tatは、ウイルスLTRの転写活性化因子として作用し(DerseおよびNewbold(1993)Virology 194(2):530〜536およびMauryら(1994)Virology 200(2):632〜642)、そしてRevはrev応答配列(RRE)を介してウイルス遺伝子の発現を調節および調整する(Martaranoら(1994)J Virol 68(5):3102〜3111)。これらの2つのタンパク質の作用メカニズムは、霊長類ウイルスにおける類似のメカニズムと広く同様であると考えられる(Martaranoら(1994)J Virol 68(5):3102〜3111)。S2の機能は未知である。それに加えて、EIAVタンパク質、Ttmが同定された。これは、膜貫通タンパク質の開始においてenvコーディング配列にスプライスされる、tatの最初のエキソンによってコードされる。
【0048】
本発明の好ましいベクターは、組換えレンチウイルスベクターである。
【0049】
「組換えレンチウイルスベクター」という用語は、標的細胞へ感染し得るウイルス粒子への、パッケージング構成成分の存在下でのRNAゲノムのパッケージングを可能にするために、十分なレンチウイルス遺伝情報を有するベクターを指す。標的細胞の感染は、逆転写および標的細胞ゲノムへの組込みを含み得る。組換えレンチウイルスベクターは、非ウイルス性コーディング配列を有し、それらはベクターによって標的細胞へ送達される。組換えレンチウイルスベクターは、最終的な標的細胞において、感染性レンチウイルス粒子を産生するための独立した複製ができない。通常、その組換えレンチウイルスベクターは、機能的なgag−polおよび/またはenv遺伝子および/または複製に必須の他の遺伝子を欠く。本発明のベクターを、スプリットイントロンベクターとして構成し得る。スプリットイントロンベクターは、PCT特許出願WO99/15683において記載されている。
【0050】
好ましくは、本発明の組換えレンチウイルスベクターは、最低限のウイルスゲノムを有する。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「最低限のウイルスゲノム」という用語は、感染、形質導入、および目的のヌクレオチド配列の標的宿主細胞への送達に必要な機能を提供するように、必須ではない要素を除去し、そして必須の要素を保持するように操作したウイルスベクターを意味する。この戦略のさらなる詳細を、発明者らのWO98/17815において見出し得る。
【0052】
本発明の1つの実施態様において、そのベクターは自己不活性型ベクターである。
【0053】
例として、転写エンハンサーまたは3’LTRのU3領域のエンハンサーおよびプロモーターを欠失させることによって、自己不活性型レトロウイルスベクターを構築した。1回のベクターの逆転写および組込みの後、これらの変化は5’および3’LTRの両方にコピーされ、転写不活性のプロウイルスを産生する(Yuら(1986)Proc.Natl.Acad.Sci.83:3194〜3198;DoughertyおよびTeminら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.84:1197〜1201;Hawley(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.84:2406〜2410、ならびにYeeら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.91:9564〜9568)。しかし、そのようなベクターのLTRの内側の任意のプロモーターは、依然として転写活性である。この戦略は、内側に位置する遺伝子からの転写に対する、ウイルスLTRのエンハンサーおよびプロモーターの影響を排除するために採用された。そのような影響は、転写の増大(Jollyら(1983)Nucleic Acids Res.11:1855〜1872)、または転写の抑制(EmermanおよびTemin(1984)Cell 39:449〜467)を含む。この戦略をまた、3’LTRからゲノムDNAへの下流の転写を排除するために使用し得る(HermanおよびCoffin(1987)Science 236:845〜848)。内因性がん遺伝子の偶発的な活性化を防止することが決定的に重要であるヒト遺伝子治療において、これは特に重要である。
【0054】
しかし、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生するために使用するプラスミドベクターはまた、宿主細胞/パッケージング細胞においてゲノムの転写を指示するための、レンチウイルスゲノムに作動可能に連結した転写調節コントロール配列を含む。これらの調節配列は、転写されるレンチウイルス配列に関連する天然の配列、すなわち5’U3領域であり得、または、それらは別のウイルスプロモーター、例えばCMVプロモーターのような、異種のプロモーターであり得る。いくつかのレンチウイルスゲノムは、効率的なウイルス産生のためにさらなる配列を必要とする。例えば、HIVの場合、好ましくはrevおよびRRE配列が含まれる。しかし、revおよびRREの必要性は、コドンの最適化によって低下または排除され得る。この戦略のさらなる詳細を、WO01/79518において見出し得る。rev/RREシステムと同じ機能を果たす代替配列も公知である。例えば、rev/RREシステムの機能的アナログが、Mason Pfizerサルウイルスにおいて見出されている。これは構成的輸送エレメント(CTE)として公知であり、ゲノム中にRRE型の配列を含み、感染細胞中の因子と相互作用すると考えられている。その細胞因子は、revアナログと考え得る。従って、CTEをrev/RREシステムの代替として使用し得る。公知であるか、または利用可能である、あらゆる他の機能的同等物が、本発明に関連し得る。例えば、HTLV−IのRexタンパク質が、HIV−1のRevタンパク質を機能的に置換し得ることも公知である。RevおよびRexが、IRE−BPと類似の影響を有することも公知である。
【0055】
特に好ましい実施態様において、本発明によるレンチウイルスベクターは、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)由来の、自己不活性型最小レンチウイルスベクターからなり、好ましくはドパミン合成パスウェイに関与する3つの酵素をコードする。そのようなベクターによってコードされるタンパク質は、ヒトチロシンヒドロキシラーゼ(TH
*)遺伝子の短縮形式(THのフィードバック調節に関与するN末端の160アミノ酸を欠く)、ヒト芳香族L−アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、およびヒトGTP−シクロヒドロラーゼ1(GTP−CH1)遺伝子を含み得る。そのベクターを、(1)組換えEIAV ProSavin(登録商標)(Oxford BioMedica plc,Oxford UK)ベクターゲノム(pONYK1−ORT、WO02/29065およびFarleyら(2007)J.Gen.Med.9:345〜356);(2)合成EIAVgag/pol発現ベクター(pESGPK、WO01/79518およびWO05/29065)および(3)VSV−Gエンベロープ発現ベクター(pHGK)をコードする3つのプラスミドによる、細胞(例えばHEK293T細胞)の一過的トランスフェクションによって産生し得る。
【0056】
パッケージング配列
本発明の状況において使用する場合、「パッケージング配列」または「psi」と交換可能に呼ばれる「パッケージングシグナル」という用語は、ウイルス粒子形成中のレンチウイルスRNA鎖のカプシド形成のために必要な、非コーディング、シス作用性配列を指して使用される。HIV−1において、この配列は、主要スプライスドナー部位(SD)の上流から、少なくともgag開始コドンまで伸びる遺伝子座にマッピングされた。
【0057】
本明細書中で使用される場合、「延長パッケージングシグナル」または「延長パッケージング配列」という用語は、gag遺伝子までさらに延長した、psi配列周辺の配列を使用することを指す。これらのさらなるパッケージング配列を含むことは、ベクターRNAのウイルス粒子への挿入の効率を高め得る。
【0058】
偽型化(pseudotyping)
好ましくは、本発明によるレンチウイルスベクターは、偽型化されている。この点について、偽型化は、1つまたはそれ以上の利点を与え得る。例えば、レンチウイルスベクターに関して、HIVに基づくベクターのenv遺伝子産物は、そのベクターを、CD4と呼ばれるタンパク質を発現する細胞にのみ感染するよう制限する。しかし、これらのベクターのenv遺伝子を、他のRNAウイルス由来のenv配列で置換した場合、それらはより広い感染スペクトルを有し得る(VermaおよびSomia(1997)Nature 389(6648):239〜242)。例として、Millerらは、MoMLVベクターを、両栄養性レトロウイルス4070A由来のエンベロープで偽型化し(Mol.Cell. Biol.5:431〜437)、他の研究者はHIVに基づくレンチウイルスベクターを、VSV由来の糖タンパク質で偽型化した(VermaおよびSomia(1997)Nature 389(6648)239〜242)。
【0059】
別の選択肢において、そのEnvタンパク質は、変異または遺伝子操作したEnvタンパク質のような、修飾Envタンパク質であり得る。標的化能力を導入するために、または毒性を抑制するために、または別の目的のために、修飾を行うことも、選択することもできる(Marinら(1996)J Virol 70(5):2957〜2962;Nilsonら(1996)Gene Ther 3(4):280〜286;およびFieldingら(1998)Blood 91(5):1802〜1809およびそこで引用された参考文献)。
【0060】
そのベクターを、例えば狂犬病Gタンパク質またはVSV−Gタンパク質の少なくとも一部をコードする遺伝子で偽型化し得る。
【0061】
VSV−G
ラブドウイルスである水疱性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、レンチウイルスを含むあるレトロウイルスを偽型化し得ることが示されたエンベロープタンパク質である。
【0062】
任意のレトロウイルスエンベロープタンパク質の非存在下で、MoMLVに基づくレトロウイルスベクターを偽型化するその能力は、最初にEmiら(1991)J.Virol.65:1202〜1207)によって示された。WO94/294440は、レトロウイルスベクターを、VSV−Gによってうまく偽型化し得ることを教示する。これらの偽型化VSV−Gベクターを使用して、広い範囲の哺乳動物細胞に形質導入し得る。より最近には、Abeら(1998)J.Virol 72(8):6356〜6361が、非感染性レトロウイルス粒子を、VSV−Gの追加によって感染性にし得ることを教示する。
【0063】
Burnsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033〜8037は、レトロウイルスMLVを、VSV−Gでうまく偽型化し、そしてこれは、その天然形式のMLVと比較して変化した宿主範囲を有するベクターを生じた。VSV−G偽型化ベクターは、哺乳動物細胞だけでなく、魚類、爬虫類、および昆虫由来の細胞系統にも感染することが示された(Burnsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8033〜8037)。それらはまた、様々な細胞系統に関して、従来の両栄養性エンベロープより効率的であることが示された(Yeeら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9564〜9568およびEmiら(1991)J.Virol.65:1202〜1207)。VSV−Gタンパク質の細胞質テイルは、レトロウイルスのコアと相互作用し得るので、VSV−Gタンパク質をまた、あるレンチウイルスおよびレトロウイルスを偽型化するために使用し得る。
【0064】
VSV−Gタンパク質のような非レンチウイルス偽型化エンベロープの提供は、ベクター粒子を感染性の喪失なく高力価に濃縮し得るという利点を提供する(Akkinaら(1996)J.Virol.70:2581〜2585)。レンチウイルスおよびレトロウイルスのエンベロープタンパク質は、おそらくそれらは2つの非共有結合的に連結したサブユニットからなるので、明らかに超遠心分離中のせん断力に耐えられない。そのサブユニット間の相互作用は、遠心分離によって破壊され得る。比較すると、VSV糖タンパク質は、単一のユニットからなる。従って、VSV−Gタンパク質偽型化は、潜在的な利点を提供し得る。
【0065】
WO00/52188は、安定な産生細胞系統からの、膜関連ウイルスエンベロープタンパク質として水疱性口内炎ウイルス−Gタンパク質(VSV−G)を有する、偽型化レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの産生を記載し、そしてVSV−Gタンパク質の遺伝子配列を提供する。
【0066】
ロスリバーウイルス
ロスリバーウイルスのエンベロープを、非霊長類レンチウイルスベクター(FIV)の偽型化のために使用し、続く全身性投与は、主に肝臓に形質導入した(Kangら(2002)J Virol 76(18):9378〜9388)。効率は、VSV−G偽型化ベクターで得られたものより20倍高かったと報告され、そして肝毒性を示唆する肝酵素の血清レベルによって測定されるような細胞毒性は、より低かった。
【0067】
ロスリバーウイルス(RRV)は、蚊によって広まるアルファウイルスであり、それはオーストラリアの熱帯および温暖な領域において風土性および流行性である。温暖な沿岸地域における正常集団の抗体率は、低い傾向があるが(6%から15%)、Murray Valley水系の平野における血清有病率は、27から37%に達する。1979年から1980年において、ロスリバーウイルスは、太平洋諸島で流行した。その疾患は、ヒトの間では伝染性ではなく、致死的ではなく、最初の症状は、約半分の患者において疲労および嗜眠を伴う関節痛である(Fields Virology 第5版(2007)、KnipeおよびHowley編、Lippincott Williams and Wilkins)。
【0068】
バキュロウイルスGP64
バキュロウイルスGP64タンパク質は、臨床的および商業的適用のために必要な、高力価のウイルスの大規模生産において使用されるウイルスベクターに関して、VSV−Gの魅力的な代替物であることが示された(Kumar M、Bradow BP、Zimmerberg J(2003)Hum.Gene Ther.14(1):67〜77)。VSV−Gで偽型化したベクターと比較して、GP64で偽型化したベクターは、同様の広い指向性および同様の天然力価を有する。GP64の発現は細胞を殺さないので、GP64を構成的に発現する293Tに基づく細胞系統を産生し得る。
【0069】
狂犬病G
本発明において、そのベクターを、狂犬病Gタンパク質、またはその変異体、バリアント、ホモログもしくは断片の少なくとも一部で偽型化し得る。
【0070】
狂犬病Gタンパク質、およびその変異体についての教示は、
【0072】
において見出し得る。狂犬病Gタンパク質はまた、EP0445625において記載されている。
【0073】
代替のエンベロープ
レンチウイルスベクターを偽型化するために使用し得る他のエンベロープは、Mokola、Ebola、4070AおよびLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)を含む。
【0074】
レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターを、インビボにおける、目的の1つまたはそれ以上の部位への目的のヌクレオチド(NOI)の輸送のための送達システムとして提案した。
【0075】
NOIによってコードされる発現産物は、細胞から分泌されるタンパク質であり得る。あるいは、NOI発現産物は分泌されず、細胞内で活性である。
【0076】
その、またはそれぞれのNOIは、予防的、治療的、および/または診断的に神経学的障害と関連し得る。適当なNOIは、酵素、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、遺伝子操作した免疫グロブリン様分子、1本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、アンチセンスRNA、マイクロRNA、shRNA、siRNA、リボザイム、標的タンパク質のトランスドメインネガティブ変異体、毒素、条件付き毒素、抗原、腫瘍抑制タンパク質、および増殖因子、膜タンパク質、血管作用性タンパク質およびペプチド、抗ウイルスタンパク質およびリボザイム、およびその誘導体(例えば、関連するリポーターグループを伴う)をコードする配列を含むがこれに限らない。そのNOIはまた、プロドラッグ活性化酵素をコードし得る。
【0077】
本発明において、そのNOIは、例えば合成RNA/DNA配列、組換えRNA/DNA配列(すなわち組換えDNA技術の使用によって調製された)、cDNA配列または部分的ゲノムDNA配列であり得る。
【0078】
そのNOIは、神経変性性障害、例えばパーキンソン病の処置において有用であり得る。
【0079】
そのNOIは、ドパミンの合成または保存に関与する酵素、または複数の酵素をコードし得る。例えば、その酵素は、以下のものの1つまたはそれ以上であり得る:チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、GTP−シクロヒドロラーゼI(GTP−CH1)および/または芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ(AADC)。3つの遺伝子全ての配列が利用可能である:それぞれアクセッション番号X05290、U19523およびM76180である。
【0080】
あるいは、そのNOIは、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2、アクセッション番号L23205.1)をコードし得る。そのウイルスゲノムは、AADCをコードするNOI、およびVMAT2をコードするNOIを含み得る。そのようなゲノムを、特にL−DOPAの末梢投与と組み合わせて、パーキンソン病の処置に使用し得る。
【0081】
あるいは、そのNOIは、黒質線条体システムにおいて変性をブロックまたは阻害し得るか、またはTH陽性ニューロンの死滅を防止するか、または再生および機能的な回復を刺激する増殖因子をコードし得る。例えば、そのNOIは、グリア細胞系統由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、パーセフィン成長因子、アルテミン成長因子、またはニュールツリン成長因子、毛様体(cilliary)神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4(NT−4)、汎親和性(pantropic)ニューロトロフィン、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インターロイキン−1ベータ(IL−1β)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)、インスリン成長因子−2、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−C/VEGF−2、VEGF−D、VEGF−E、PDGF−A、PDGF−B、PDGF−AおよびPDGF−Bのヘテロおよびホモダイマー、ならびに他の関連するかまたは関連しない神経栄養因子をコードし得る。そのレンチウイルスベクターは、神経栄養因子をコードするこれらのNOIの1つまたはそれ以上を含み得る。
【0082】
そのNOIはまた、アンギオスタチン、エンドスタチン、血小板因子4、色素上皮由来因子(PEDF)、レスチン(restin)、インターフェロン−アルファ、インターフェロン誘導可能タンパク質、gro−betaおよびtubedown−1、インターロイキン(IL)−1、IL−12、レチノイン酸、抗VEGF抗体、アプタマー、アンチセンスオリゴ、siRNA、トロンボスポンジン、US5,952、199およびUS6,100,071において記載されたもののようなVEGF受容体タンパク質、および抗VEGF受容体抗体からなるグループから選択される、抗血管新生タンパク質または複数の抗血管新生タンパク質をコードし得る。
【0083】
そのNOIは、目的のタンパク質(「POI」)、またはその変異体、ホモログ、もしくはバリアントの全てまたは一部をコードし得る。例えば、そのNOIは、野生型タンパク質と類似した方式でインビボで機能し得る、POIの断片をコードし得る。
【0084】
NOIの1つは、調節性ドメインを欠く、TH遺伝子の短縮形式を含み得る。そのようなNOIは、全長酵素の発現を制限し得る、ドパミンによるフィードバック阻害を回避する。
【0085】
「変異体」という用語は、野生型配列からの1つまたはそれ以上のアミノ酸の変動を含むPOIを含む。例えば、変異体は、1つまたはそれ以上のアミノ酸付加、欠失、または置換を含み得る。変異体は、天然に生じることがあり、または人工的に作製することもできる(例えば部位特異的変異生成によって)。
【0086】
ここで、「ホモログ」という用語は、NOIと一定の相同性を有する存在、またはPOIとある程度の相同性を有するタンパク質をコードする存在を意味する。ここで「相同性」という用語は、「同一性」と同じであり得る。
【0087】
本状況において、相同的配列は、アミノ酸またはヌクレオチドレベルで、対象配列と少なくとも75、85、もしくは90%同一、または少なくとも95もしくは98%同一であり得る。典型的には、そのホモログは、対象配列と同じ活性部位等を含むか、またはコードする。
【0088】
多くのNOIを、組み合わせて使用し得る。そのレンチウイルスベクターが2つまたはそれ以上のNOIを含む場合、両方のNOIを発現するように、各NOIに関して1つ、ベクターゲノム内に2つまたはそれ以上の転写ユニットが存在し得る。しかし、レトロウイルスベクターは、遺伝的な単純さを保つ場合に、最も高い力価および最も強力な遺伝子発現性質を達成することが文献から明らかであるので、ポリシストロニックなメッセージにおいて2番目の(およびその後の)コーディング配列の翻訳を開始するために、1つまたはそれ以上の配列内リボソーム進入部位(IRES)を用いることが好ましい(Adamら、1991 J.Virol.65:4985)。そのようなベクターの例が、WO02/29605において記載されている。
【0089】
医薬品組成物
本発明のレンチウイルスベクターを、医薬品組成物の形式で提供し得る。その医薬品組成物を、遺伝子治療によって個人を処置するために使用し得、ここでその組成物は、治療的に有効な量のレンチウイルスベクターを含む。
【0090】
ウイルス調製物を、超遠心分離によって濃縮し得る。WO2009/153563は、レンチウイルスベクターの下流の処理の方法を記載している。結果として生じた医薬品組成物は、少なくとも10
7T.U./mL、例えば10
7から10
9T.U./mL、または少なくとも10
9T.U./mLを有し得る(力価は、HEK293T細胞系統の標準的なD17に対して力価測定した、1mLあたりの形質導入単位(T.U./mL)で表される)。
【0091】
その医薬品組成物を、ヒトまたは動物、例えば霊長類動物被験体またはペット動物被験体を処置するために使用し得る。
【0092】
その組成物は、任意で、薬剤学的に許容可能なキャリア、希釈剤、賦形剤、またはアジュバントを含み得る。薬剤学的なキャリア、賦形剤、または希釈剤の選択は、意図する投与経路、および標準的な薬学的実施に関して選択し得る。その医薬品組成物は、キャリア、賦形剤、または希釈剤として(またはそれに加えて)、あらゆる適当な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤、およびウイルスの標的部位への侵入を助け得るかまたは増大させ得る他のキャリア薬剤(例えば脂質送達システムのような)を含み得る。
【0093】
疾患
本発明で使用されるレンチウイルスベクターを、神経学的状態を処置するために使用する。例えば、そのベクターは、神経変性性疾患の処置および/または予防に有用であり得る。
【0094】
処置し得る疾患は、パーキンソン病;筋委縮性側索硬化症(運動ニューロン疾患);ハンチントン病、およびフリードライヒ運動失調、小脳失調症、ジストニア(distonias)、反復運動障害、不穏下肢症候群、振せんおよびミオクローヌスのような運動の異常;アルツハイマー病およびピック病;脳卒中;焦点性および全身または特発性てんかん;知覚異常、背部痛、および糖尿病性神経学的障害を含む慢性疼痛;脳腫瘍;慢性疲労症候群;クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)およびバリアントCJD;テイ・サックス病およびウィルソン病を含む白質ジストロフィー;頭蓋内圧への変化;群発性頭痛および偏頭痛;多発性硬化症;プラダー・ウィリー障害を含む慢性摂食障害;統合失調症;情動性障害;躁病および睡眠時無呼吸を含む睡眠障害を含むがこれに限らない。
【0095】
特に、本発明はパーキンソン病の処置および/または予防に有用である。
【0096】
例えば、TH、GTP−CH1、ならびに任意でAADCまたはAADCおよびVMAT2を送達し得るベクターを用いた遺伝子治療による処置は、おそらく、後期のPD患者(L−ドーパ処置に有意に反応しない)に特に有用である。末梢に投与されるL−ドーパと組み合わせたAADCまたはAADCおよびVMAT2を用いた処置も、後期のPD患者に有用であり得る。
【0097】
投与
本発明で使用するレンチウイルスベクターを、例えば尾状核被殻への注射によって、脳に投与する。
【0098】
そのベクターを、半球あたり1、2、3、4、5、6、またはそれ以上の経路で投与し得る。
【0099】
本明細書中で使用されるカニューレという用語は、カニューレ、カテーテル、針または治療薬を脳へ直接送達するために適当なあらゆる他のデバイスを含むものとする。WO2008/100930、WO2008/144585およびWO2009/101397は、使用し得るそのようなカニューレを記載している。
【0100】
レンチウイルスベクターの以前に記載された投与システムにおいて(Jarrayaら(2009)Sci Transl Med 14:1(2)2〜4)、そのベクター組成物を、経路の底部において、アリコート(4μL)を投与し、針を少し引き、次いで2番目のアリコート(3μL)を投与し、そして針をさらに少し引き(2回目)、次いで3番目のアリコート(3μL)を投与することによって、断続的な、または「点状の」様式で投与した;従って、アリコートを各針経路にそって3点で投入し、全部で10μLを送達した。
【0101】
このシステムに伴う不利な点は、非常に遅く、そして労働集約的であること、そして半球あたり5本の針経路、経路あたり3つの投与部位が存在するので、各半球において15個の潜在的な組織損傷および炎症の部位が存在するという事実を含む。このために、手術時間を有意に増大させるので、このベクターの送達方法を用いて各半球に投与するベクターの用量を増大させることは不可能である。
【0102】
本発明の方法において、そのベクターを各経路について1つの投入点で送達し得、そして各経路によってより大きな容積を送達し得る。本発明の方法において、そのベクター組成物を、連続的に注入する。単一の点における連続投与は、以前のシステムに関連して上記で述べた不利な点を克服する。この方法を用いて、より高い用量のベクターを、実際的な手術時間内に、各半球に投与し得る。
【0103】
「連続注入」という用語は、送達の間ベクター組成物の注入を止めず、そして針を動かさないことを意味する。所定のカニューレに関して、送達する全容積のベクター組成物を、単一の投入点で、そして1回の「プッシュ(push)」で投与する。
【0104】
連続注入の間、ベクター組成物の流速は、実質的に一定であっても、徐々に増大しても、段階的な方式で増大してもよい。
【0105】
「脳に直接」送達することは、レンチウイルスベクターを、注射のような侵襲的な手順を用いて脳組織に直接投与することを意味する。レンチウイルスベクターを、被殻、例えば運動被殻に送達し得る。
【0106】
送達の間、各カニューレ経路によって送達されるレンチウイルスベクターの容積は、10〜600μLであり得、または経路あたり約40〜200μLを送達し得る。各半球に1から6本の経路を使用し得る。
【0107】
そのベクターを、ベクター組成物の実質的な逆流を防ぐために、十分狭い口径のカニューレを用いて送達し得る。例えばそのカニューレは、ベクター組成物の20%、15%、10%、または5%未満が、送達の間またはその後に針を逆流するような口径であり得る。
【0108】
そのベクターを、23ゲージ針と同等であるか、またはそれより狭い直径の出口を有するカニューレを用いて送達し得る。その出口は約28ゲージであり得る。そのデバイスは、23ゲージ未満および33ゲージ超の出口を有し得る。
【0109】
カニューレの内径は、0.35、0.3、0.35、0.2、または0.15mm未満であり得る。
【0110】
本発明はまた、各カニューレ経路について、連続注入を用いてレンチウイルスベクターを送達することによって、被験体の脳に直接投与した場合に、被殻の内外方向および背腹方向軸のレンチウイルスベクターの分布を改善する方法を提供する。
【0111】
被殻の内外方向および背腹方向軸のレンチウイルスベクターの分布を改善するための、および用量の増加を可能にするための、既存の方法の適合は、以下のもののいずれかまたは全てを含み得る:
(i)経路当たりの投入点の数の抑制;
(ii)レンチウイルスベクター組成物の連続注入を用いる;
(iii)間質性の注入中に圧力勾配を生じさせる、および/または維持する;
(iv)より速い流速を用いる;ならびに/あるいは
(v)より大きな容積を送達する。
【0112】
典型的には、レンチウイルスベクターを、選択した患者において脳組織へ挿入するカニューレまたは他の注射デバイスを用いて送達する。パーキンソン病の処置のためにProSavin(登録商標)を送達する場合、線条体が標的とするために適当な脳の領域である。他の領域が、他の神経学的障害の処置のために適当である。当業者は、CNSのどの一般的な領域が適当な標的であるのかを、容易に決定し得る。定位的マップおよび配置デバイスが利用可能である。配置をまた、患者の脳のCTおよび/またはMRイメージングによって得られた解剖学的マップを用いることによって行い、選択した標的領域への注射デバイスのガイドを補助をすることができる。
【0113】
流体対流
レンチウイルスベクターに関して以前に記載された投与システムにおいて(上記のJarrayaら(2009))、そのベクター組成物は、拡散によって脳実質へ浸透した。拡散は、薬剤の拡散率にそった自由濃度勾配に依存する。拡散による分散は、特にレンチウイルスベクターのような高分子量の薬剤に関して、低い浸透を引き起こし得る。
【0114】
細胞外スペース内の治療薬の拡散は、そのような治療薬が、ニューロンおよびグリア細胞のような標的組織に近づくことが可能になるのに必要とされる。ThorneおよびNicholson(ThorneおよびNicholson(2006)PNAS 104;5567〜5572)は、正常な細胞外スペースは38から64nmであることを決定した。彼らは、100nmより大きなナノ粒子送達システムは、通常の細胞外スペースを通過するには大きすぎることを示唆する。上記で述べたように、レンチウイルスベクターは直径約100nmのウイルスに基づくナノ粒子送達システムである。
【0115】
本発明の方法において、そのレンチウイルスベクター溶液を、流体対流によって分散させる。速い流速を用いて間質性注入を行い、発明者らはそれがレンチウイルスベクターの分布を非常に増強することを示した。
【0116】
その流速を、ベクターの連続注入の間、一様の状態で維持してもよく、または対流圧を維持するために、増大させてもよい(下記を参照のこと)。圧力勾配の増大は、例えば、一様の増大であり得、または連続注入の間の流速のいくつかの小さな段階的増大によって特徴付けられる傾斜を有する手順に従い得る。
【0117】
当業者に公知のプログラム可能な浸透ポンプ、注入ポンプ、または他のポンプのような、当該分野において公知のシステムを用いて、送達の間、流体圧力を維持してもよく、徐々に増大させてもよく、または傾斜させてもよい。
【0118】
注入プロセス全体の間、速い流速を維持し、ベクターの全容積を送達する(例えば10から600μL)。
【0119】
注入圧は、流速、レンチウイルスベクター調製物の粘度、およびカニューレサイズの関数である。レンチウイルスベクターの分布を増強するために十分であるが、a)投与部位周囲の組織に有意な損傷を引き起こす;および/またはb)「逆流」およびカニューレ経路からの溶液の漏れを引き起こすには不十分である圧力勾配を提供するように、その注入圧を選択するべきである。
【0120】
本発明の方法において、そのレンチウイルスベクターを、少なくとも1.0μL/分、1.5μL/分、または2μL/分、または1〜2μL/分、1〜3μL/分、2〜6μL/分、2〜4μL/分、または2.5〜3.5μL/分の流速で脳内に注入し得る。そのレンチウイルスベクターを、約3μL/分の流速で脳内に注入し得る。
【0121】
注入の間、対流圧(それは注入圧と頭蓋内圧との間の差である)は、送達された全容積が増大するにつれて減少し得る。対流圧を維持するために、投与の間流速を一様に増大させ得る。そのようなシステムを採用する場合、前の段落において述べた流速は、開始流速を示し得る。
【0122】
キット
本発明はまた、患者の脳に直接レンチウイルスベクターを送達するためのキットを提供し、それは1本から12本のカニューレを含む。カニューレは、各患者に関して複数の経路について再利用し得、または各経路について新しいカニューレを使用し得る。
【0123】
そのベクターを、例えばカニューレまたはカテーテルまたは針(Hamilton針のような)を用いて送達し得る。本明細書中で使用されるカニューレという用語は、カニューレ、カテーテル、針、または治療薬を脳へ直接送達するために適当なあらゆる他のデバイスを含むものとする。WO2008/100930、WO2008/144585およびWO2009/101397は、使用し得るそのようなカニューレを記載している。
【0124】
そのカニューレに、レンチウイルスベクター組成物を予め充填してある場合がある。脳内での配置の前に、そのカニューレを満たし得る(prime)。
【0125】
その送達デバイスは、例えばステンレススチール28ゲージHamiltonシリンジまたは石英ガラス28ゲージ注入カニューレであり得る。
【0126】
そのキットが、半球あたり単一の送達経路を採用する方法において使用するためのものである場合、そのカニューレは、例えば約40μL、100μL、150μL、200μL、300μL、400μL、500μL、または600μLの間のレンチウイルスベクターを送達し得る。そのキットが、半球あたり2本の送達経路を採用する方法において使用するためのものである場合、そのキットは、4本のカニューレを含み得る。あるいは、1本のカニューレを、各経路に関して再利用してもよく、または各半球へベクターを送達するために1本のカニューレを使用し得、その場合、それはレンチウイルスベクター組成物で満たされており、そして標的領域への各挿入の前に満たす。
【0127】
また、そのカニューレを、上記で記載したポンプのような注入デバイスと、前もって連結してもよく、または連結ために適合させてもよい。あるいは、そのカニューレを、World Precision Instrumentsによって供給されるもののようなマイクロポンプ、または微量注入システム(Kopf、USA)によってコントロールされるシリンジのような、ベクター投与のための公知のシステムに結合し得る。そのような送達システムは、定位的フレームを用いて使用するために適当であり得る。
【0128】
本発明のさらなる局面において、本発明の方法と関連して使用される狭口径送達デバイスを、実質的に少なくとも数時間から数日またはそれ以上にわたる期間の間、保持されるように、被験体に埋め込むことができ、従ってベクターの注入を、手術室の外で行うことを可能にする。そのようなデバイスは、十分に弾力的であり、カニューレ注入システムを損なうことなく、標的から離れる動きを防止するために固定デバイスによって固定し得ることが望ましい場合もある。脳内での位置を確認するために、およびカテーテルが任意の点において標的から動かなかったことを保証するために、そのようなデバイスをイメージングできることも望ましい。
【0129】
本発明において使用するために適当な狭口径送達デバイスは、局所の組織外傷を最小限にするために、遠位注入末端において、十分小さい直径を有し得、非常に小さいデッドスペースを有し、破損を防止しかつ固定を可能にするための大きなカテーテルの強さを有し、そしてイメージングによってカテーテルを可視化するための能力を有する。
【0130】
当業者に公知であるように、本発明において使用するために適当であり得る、多くの狭口径送達デバイスが存在する(例えば、WO2007/044023において記載された送達デバイスを参照のこと)。
【0131】
本発明の狭口径注入デバイスを、任意で被験体の頭に取り付ける。考えられる固定方法は、チタンプレートのような金属プレートによる、穿頭孔近くの頭蓋骨への固定、穿頭孔内に置いたプラスチックキャッピングシステムによる固定、または頭皮を通じた外在化およびガイドカテーテルの頭皮への縫合を含むがこれに限らない。
【0132】
そのキットはまた、保存および/または使用のための説明書を含み得る。
【0133】
本発明を、実施例によって、ここでさらに説明する。それは本発明の実施において当業者を助けるために役立つことを意味し、本発明の範囲を制限することを決して意図しない。
【実施例】
【0134】
実施例1−a)従来の送達、およびb)単一部位および速い流速を用いた送達の後の、被殻におけるレンチウイルスベクターの分布の比較
以前に記載された技術(50μLの全容積のベクターを、Hamiltonシリンジおよび23ゲージの針を用いて5本の針経路によって被殻に投与し、経路あたりそれぞれ10μLを3回の投入によって送達する)を用いた、EIAV−LacZベクター懸濁物の投与は、被殻の背腹方向軸において中程度のベクターの広がりを提供し、それはこの脳構造の深さの40〜50%に達した(
図1)。
【0135】
内外方向軸におけるベクターの広がりは、背腹方向軸より非常に少なく、ベクターは最も高い点で約1〜2mm広がっただけであった。しかし、被殻の軸に沿った5本の針経路の配置のために、体軸方向軸に沿ったベクターの広がりは、このパラダイムによってベクターを投与した2つの半球の両方において約7.8mmであった。
【0136】
対照的に、本発明の方法(50μLのベクター懸濁物全部を、Hamiltonシリンジを有する23ゲージ針によって、または28ゲージの石英ガラスカニューレを用いて、1または3μL/分のいずれかで、被殻の1つの部位に注入する)を用いることは、5経路レジメと比較して、内外方向および背腹方向軸のベクターの広がりを改善し、最も高い程度の広がりは、1または3μL/分の流速で28ゲージのカニューレによって観察された。
【0137】
28ゲージカニューレデバイスによる単一の送達経路を用いた50μLのベクターのベクター送達は、両方の流速で、5経路パラダイムと類似の体軸方向の広がりを生じた(28ゲージのカニューレに関して6.2〜8.6mmの広がり、および5経路および断続的な流速で7.8mmの広がり)。23ゲージ針およびHamiltonシリンジを用いた単一注入によって、より低い体軸方向の広がりが観察された(5.0〜6.2mmの広がり)。
【0138】
ベクター分布の全体積を比較した場合、驚くべきことに、23ゲージ送達デバイスを用いた50μLのベクターの単一投与は、5経路送達方法より少ないことが見出された。さらにより驚くべきことに、28ゲージの送達デバイスは、5経路方法よりも、大きな体積のベクター分布を生じた−速い流速を用いて、2倍超の体積であった。この体積の増大は、少なくとも部分的には、この狭口径送達デバイスを用いた針経路にそったベクターの逆流の減少の結果であると考えられた。
【0139】
全体的に、これらの観察は、28ゲージのカニューレで単一の注入を行う場合、デバイスの先端から均等に広がるベクターと一致する。逆に、5経路送達アプローチでは(23ゲージ針およびシリンジを用いた単一注入ではより低い程度まで)、ベクターの分布は針経路のすぐ周囲の領域により限られていた。全てのグループにおいて、注入の結果としての、周囲のニューロン組織への損傷、または血液脳関門の破裂の証拠は存在しなかった。33ゲージのプラスチックカニューレも評価したが、日常的な手術に使用するには柔軟過ぎ、潜在的に外科医がカニューレを被殻内の正確な部位に置くことに失敗する一因となると判断した。28ゲージの石英ガラスカニューレは、両方の流速(1または3μL/分)を用いて、同様のベクターの広がりを生じた。より細いゲージの28ゲージカニューレは、23ゲージのHamilton針よりも少ない瘢痕を生じた。送達のパラダイムに関係なく、同様の数の細胞(>90%)が、β−ガラクトシダーゼおよびNeuNに関して二重に染色され、全ての場合においてベクターのニューロン標的化を確認した。
【0140】
EIAV−LacZベクターの注入に対する局所炎症性反応を、炎症性マーカーCD4およびCD8(T細胞)、およびCD68(活性化ミクログリア)の組織学的評価によって、この研究において評価した。マーカーそれぞれについての陽性の染色が、全ての送達方法および注射デバイスに関して針経路の近傍で観察されたが、ベクターに関連する炎症性反応は非常に少なく、そして投与方法の間で差は観察されなかった。この結果は、より速い流速における単一注入を用いたベクター送達に関連する、炎症性反応の増大は存在しないことを示す。
【0141】
ベクター投与に対する明白な毒性または異常な臨床徴候は、実験動物のいずれにおいても観察されなかった。動物は、任意の異常な運動活性または行動を示さず、そして正常に餌を食べることが観察された。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
結論
以前に、少量のレンチウイルスベクターを、遅い流速を用いて、各カニューレ経路における複数回投入によって脳内に送達した。そのような方法は厄介であり、そして用量増大試験ができなかった。より速い流速での、より大きな容積のベクターの投与を可能にする、単純化した連続注入パラダイムは、様々な神経学的状態の処置における外科的利用に、より適用可能であると考えられた。
【0145】
レンチウイルスのように大きなベクターは、以前に霊長類の脳で調査したAAV粒子よりかなり大きいので、これらのベクターが単一注入のパラダイムによって脳へ効率的に分布し得るかどうかは未知であった(Bankiewiczら(2000)Exp.Neurol.164:2〜14;Hadaczekら(2006)Hum.Gene Ther 17:291〜302およびHadaczekら(2009)Hum.Gene Ther 20:229〜237)。レンチウイルスベクターの直径(約100nm)は、細胞外スペース(38〜64nm)より大きいので、レンチウイルスベクター粒子が、細胞外スペースを効率的に通れない可能性があり、それはレンチウイルスベクターのように大きな粒子に関して禁制的であり得る。しかし、EIAVベクターのようなレンチウイルスベクターが、連続注入方法を用いて被殻領域を効率的に通り得ることが明らかであり、それは容易にコントロールでき、そして複数のカニューレ設置を用いて標的領域周辺にベクターをスポッティング(spotting)するよりも良い形質導入量を提供する。
【0146】
げっ歯類における以前の研究は、低い流速において、CEDプロセスの間、ベクターは、おそらく脳毛細血管ネットワークによる血流の拍動性作用によって動かされ、血管周囲スペースを通って広がり得ることを報告した(Hadaczekら(2004)Hum Gene Ther.15:469〜79)。しかし、発明者らは、流速を高いレベルに維持した場合、この現象の証拠をほとんど見出さなかった。この血管周囲の輸送を制限することは、非標的領域へのベクター分布を抑制し得る。
【0147】
いくつかのウイルスベクターは、中枢の炎症のリスクをもたらすという懸念、および単一の流速で、またはCEDのプロセスによってベクターを注入することは、炎症性反応を増悪し得るという懸念が存在した。治療的遺伝子のキャリアとして調査したAAV血清型1ベクターは、霊長類の線条体および皮質に投与した場合に、堅調な体液性および細胞性反応を生じたことが、最近示された(Hadaczekら(2009)Hum.Gene Ther 20:229〜237)。1〜3μL/分の投与流速による、28ゲージのカニューレを用いた、EIAVに基づくベクターの単一注入によって、局所炎症性反応の増大に関する証拠は観察されなかった。
【0148】
結論として、これらの研究は、様々な神経学的状態の処置を目的とする治療的遺伝子を、EIAVベクターによって、単純な注入パラダイムを用いて、標的脳領域へ安全に投与し得ること、および大量の標的細胞を、効率的に形質導入し得ることを示す。
【0149】
方法および材料
動物
6匹の雄性および6匹の雌性カニクイザルを、ベクター投与の前に、その順化期間の間、一定の温度(22±2℃)および湿度(45%〜65%)で、12時間の明/暗サイクル(7:30に点灯)で、単一の性別で一致したグループで収容した。次いで動物を、標準的な寸法の1.10m
2の床面×1mの高さの、個々のステンレススチールの箱に、ベクターの外科的投与の後、1匹ずつ収容した。動物室の空気を、1時間あたり約10回交換した。動物に、Old Worldサルペレット(SDS DIETEX♯808004)を与え、そして自由に水道水へアクセスさせた。動物の使用およびケアを、Directive86/609/EEC European Convention for the Protection of Vertebrate Animals used for Experimental and Other Scientific Purposesおよびthe Animals(Scientific Procedure)Act 86 for the United Kingdomによって管理した。
【0150】
ベクター投与
動物を手術前に絶食させ、そして約6時間水へのアクセスを止めた。動物に、硫酸アトロピン(0.04mg/kg、i.m.)、ケタミンHCl(10mg/kg、i.m.)およびブプレノルフィン(0.01mg/kg、i.m.)を投与し、そして次いで10分後にプロポフォール(3mg/kg、i.v.)で麻酔した。手術の24時間前に、および次いで手術後1週間まで48時間ごとに、動物にアモキシシリン(30mg/kg、s.c.)も注射した。動物に挿管し、そして量制御(volume−regulated)レスピレータによって送達されるイソフルラン吸入麻酔薬で麻酔を維持した。ECG、O
2飽和、および心拍数をモニターおよび記録した。直腸内温度計を用いて、手術の間中、体温をモニターした。動物を、定位的フレーム(Unim’ecanique、France)に置き、そして710Hamiltonシリンジ(Hamilton Bonaduz AG、Bonaduz、Switzerland)に結合した、6.5mm長の23ゲージステンレススチールHamilton針を用いて、被殻において単一少量投入としてベクターを投与するための微量注入システム(Kopf、USA)を用いて、ベクターを被殻に投与した。単一被殻注入のために、6.5mm長の23ゲージステンレススチールHamilton針およびシリンジ、6.5mm長の28ゲージステンレススチールHamilton針およびシリンジ、またはデッドボリュームを最小限にするために、短いプラスチックチューブ(Plastics−1、Roanoke、VA、USA)によってHamiltonシリンジに連結した6.5mm長の石英ガラス注射カニューレのいずれかを用いて、ベクター懸濁物を注入した。硬膜を損傷することなく頭蓋骨に穴をあけた後、ガラスシリンジに装着した脳室造影カニューレを、側脳室の前角に導入し、そして造影剤(Omnipaque、Nycomed、Norway)を注射した。頭蓋骨への挿入の前に、正確な調整のために定位的地図を用いた(MartinおよびBowden(1996)Neuroimage 4(2):119〜150)。前交連(AC)の正確な位置を、脳室造影から推測し、それを次いで左被殻および右被殻の両方の位置決定のために使用した。注入カニューレの設置のための座標は、AC−1mm(被殻の運動領域のまさに中心)であった。各被殻における複数回投入のために、ベクターを3つの深さで注射し、最も深い投入で4mLを送達し、そして次いでさらに3mLを2回投入し、それぞれその1mm上に送達して、針経路あたり10mLを送達した。5本のHamilton針経路のうちの最初のものは、前交連(AC)のレベル、すなわちAC0mmに、2番目の注射:ACの2mm尾側(AC−2mm)、3番目の注射:ACの3mm尾側(AC−3mm)、4番目の注射:ACの5mm尾側(AC−5mm)、および5番目の注射:ACの6mm尾側(AC−6mm)にあり、被殻の体軸方向の長さにそってベクターを分布した。Hamiltonシリンジおよび注入カテーテルを、除去する前に、各注射/注入の後、さらに2分間、その部位に残した。
【0151】
ベクターを、プログラム可能な小さい注入ポンプ(UltraMicroPumpIII;World Precision Instruments、Sarasota、FL、USA)を用いて、0.5、1、または3μL/分の単一の流速で注入した。ベクターを、半球あたり50μLの全容積で、被殻の両側に投与し、各半球に、異なる流速またはカニューレデバイスによって送達されるベクターを投与した。1匹の動物において、TSSM処方緩衝液を被殻に注入し、1つの半球においては1mL/分で緩衝液を送達する23ゲージHamilton針を用いて、および他の半球においてはベクターを28ゲージのHamilton針によって1mL/分で送達した。TSSM注入動物を、ウイルスベクター手術記録の非存在下での、滅菌処方緩衝液単独に対するニューロンの損傷および炎症反応についての相対的な程度を評価するために使用した。手術後、その動物をよく観察し、それらが立ち直り反射および嚥下反射を回復するまで暖かく維持し、その後、ケージへ戻した。ブプレノルフィン鎮痛薬を1日2回、3日間(0.02mg/kg、i.m.)投与し、そして手術後、1週間に1回体重を記録した。
【0152】
組織学
投与の4週間後および一晩の絶食後に、ケタミン(10mg/kg)の注射および次いでペントバルビタールナトリウム麻酔(10〜30mg/kg、i.v.)を用いた安楽死によって、動物を剖検した。ウイルスに対する免疫反応を評価するために血液サンプルを採取した後、その動物を失血させ(exsanginated)、ヘパリン処理したリン酸緩衝化生理食塩水(約25U/mLのヘパリンを含む0.9%w/v塩化ナトリウム、USP)、続いてリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中4%の緩衝化パラホルムアルデヒド溶液で灌流した。脳(硬膜を除去して)を注意深く解剖し、そして新しい4%のパラホルムアルデヒド中に5±3℃で一晩おき、そして次いで冷却した、ろ過30%ショ糖溶液(PBS中)に2〜4日間移した。その脳を、次いで正中線で2つの半球に二分し、そして各半球を、冷却イソペンタン(−40から−50℃)中で急速冷凍し、そしてクリオスタットを用いて40ミクロン(40μm)の厚さの切片にするまで、−80℃で保存した。被殻領域を含む脳切片を、ポットに回収し、これは、脳半球の体軸にそった200ミクロン(200μm)の距離に相当する5枚の切片を含んだ。浮動性の脳切片を、抗βガラクトシダーゼモノクローナル抗体で染色した。2次および3次抗体を、Vectastain抗マウスABCキット(♯PK−6102)から得て、そしてその方法はキットの説明書に従った。DABペルオキシダーゼ基質キット(カタログ番号SK−4100)を用いて、DAB可視化を達成した。次いで切片を、ガラスの顕微鏡スライドに載せた。別の脳半球切片を、1:200の濃度で、抗GFAP抗体(Chemicon ♯MAB3402)で染色した。選択した切片をまた、H&Eを用いて染色し、そして切片を顕微鏡で分析して、細胞浸潤のレベルおよび組織形態学の変化を評価した。ベクター注入の領域において選択された切片をまた、10%の過酸化水素、続いて0.5%tritonX−100を含む10%血清中で一晩インキュベーションして、非特異的染色を除去した後に、免疫学的マーカーCD8、CD4、およびCD68で染色した。一次抗体(IgGネガティブコントロール、1次なしのネガティブコントロール、マウス抗ヒトCD4、CD8およびCD68)を、2時間だけ適用した。PBS+0.02%Tween20中で5分、3回洗浄した後、抗マウスベクターエリート ABCキットを、各工程の間の5分間、3回の洗浄を伴いながら使用した。次いで可視化のために、DABペルオキシダーゼキットを用いた。
【0153】
ベクター分布の体積を、注射した被殻にわたる連続的な脳切片における陽性βガラクトシダーゼ染色の領域を測定し、そして標準的な立体学的方法を適用して(カヴァリエリの原理を用いて)全体積範囲を推定することによって計算した。
【0154】
実施例2−a)従来の送達、およびb)より狭いゲージのデバイスおよび速い流速による少ない数の注射部位を用いた送達を用いた、パーキンソン病患者の運動被殻への投与後の、レンチウイルスベクターのパーキンソン病に対する有効性の比較
ProSavin(登録商標)と呼ばれる、パーキンソン病に対するレンチウイルスベクターに基づく処置の安全性および有効性を評価するための、第I/II相臨床試験が進行中である。ProSavin(登録商標)は、ドパミン生合成パスウェイの酵素をコードする3つの遺伝子を含む、EIAVレンチウイルスベクターである。試験の一部として、パーキンソン病の症状を癒す、ProSavin(登録商標)の治療的可能性を、1)従来の投与方法、および2)連続注入方法を用いて評価した。従来の方法は、Hamiltonシリンジおよび23ゲージの針、および1μL/分の投与速度を用いて、5本の針経路を通じて各被殻に投与される、125μLの全容積のベクターの注射を含む。全部で25μLのベクターを、経路に沿って分布する5μLのベクターの5回の投入によって、各注射経路に沿って投与した。連続的な送達方法において、同じ全容積のベクターを、Hamiltonシリンジおよびより狭い28ゲージの針を用いて投与した(125μL)。各被殻に3回の注射を行い、そしてベクターの連続注入を、3μL/分の増大した投与速度を用いて、各注射部位で行った。送達されたベクターの容積は、3つの注射部位で42μL、42μL、および43μLであった。注入法を用いたベクター投与の手術時間は、従来の方法と比較してほぼ半分であった。
【0155】
外科的手順は、両方の投与方法で、安全であり、そして全ての患者において十分許容された。ProSavin(登録商標)または2つの投与方法のいずれかに関連して、いずれの患者においても重篤な有害事象は報告されなかった。
【0156】
試験の主要な有効性エンドポイントは、ベースラインのスコアと比較した、処置の6ヶ月後における、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)の運動パート(パートIII)における改善であった。今までの運動機能における改善のまとめを、表3に示す(運動機能を、患者の「OFF」状態において、すなわちパーキンソン病の薬物療法の停止後に、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)によって評価する)。従来の、断続的な、5−投入/経路方法を用いてProSavin(登録商標)を投与した患者のグループにおいて、UPDRSパートIIIスコアにおける34%の改善が6ヶ月において観察された。興味深いことに、連続注入法を用いて同じ全容積のベクターを投与した患者は、UPDRSパートIIIスコアのより大きな改善を示し、処置後6ヶ月で43%の改善に達した。
【0157】
【表3-1】
【0158】
【表3-2】
【0159】
それに加えて、患者は6ヶ月においてUPDRSパートIII「ON」スコアの平均26%の改善を示した。患者の日誌データは、3.2時間の、問題となるジスキネジア無しに経口L−ドーパが有効であった時間における機能的改善の増大を示し、4.1時間の、経口L−ドーパが無効であった時間における減少を示した。
【0160】
上記結果は、連続注入方法が、以前に使用された、断続的、5−投入/経路方法と比較して、パーキンソン病において増大した有効性を提供することを示す。この理由は、注射した被殻におけるProSavin(登録商標)ベクターの改善された分布のためであり得るが、これを生きた患者で評価することは不可能である。さらに、連続注入方法を用いたベクター投与の手術時間は、従来の方法と比較してほぼ半分であった。
【0161】
方法および材料
全ての患者に、両側性定位的注射を用いて、一般的な麻酔下で、ProSavin(登録商標)を線条体内に注射した。頭蓋MRIスキャンを、投与の前に行って、被殻の知覚運動性被殻領域を標的化するための正確な注射座標を提供した。
【0162】
各注射に関して、長さ130mm、口径1.2mmのガイドチューブを、MRIによる座標を用いて、被殻に入れずに、脳内の正確な位置に挿入した。従来の投与方法に関して、ProSavin(登録商標)を、長さ150mmの、23ゲージのポイント2スタイルべベルノンコアリング(point two style bevelled non coring)針に連結したHamiltonシリンジにロードした。連続注入法に関して、ProSavin(登録商標)を、同じ長さの28ゲージの針に連結したHamiltonシリンジにロードした。その針を、ガイドチューブを通して脳内に下ろし、そして運動被殻に貫入させた。次いでProSavin(登録商標)の注入の前に、ガイドチューブを約10mm引いた。脳の各半球に関して、新しいガイドチューブ、Hamiltonシリンジおよび針を使用した。
【0163】
従来の投与方法に関して、25μLのProSavin(登録商標)を、両方の脳半球の5本の別々の経路のそれぞれに投与した。各経路に5μLのProSavin(登録商標)を5回投入した。最も深い投入を最初に投与し、その針を次いで1mm引き、そして5μLの2回目の投入を投与した。5回の投入全てを行うまで、これを繰り返した。5μLを各経路にそって5つの投入部に注射するまで、1分あたり1μLの速度で、各注射経路において手動で投与を行った(0.5μLを注射し、続いて次の0.5μLを注射する前に30秒休止する、等)。単一の経路において5回の投入全てを終了した際に、針を1分間その部位に残した。
【0164】
連続注入法に関して、ProSavin(登録商標)を、半球あたり3本の注射経路に投与する。42μL、42μL、および43μLの容積のProSavin(登録商標)を、3μL/分の一定の送達速度で、連続注入を用いて投与した。その流速を、従来の方法に関して上記で記載された手動のシステムではなく、ポンプの使用によって制御した。
【0165】
上記の明細書で述べた全ての刊行物は、本明細書中で参考として組込まれる。記載された本発明の方法およびシステムの様々な修飾および変形が、本発明の範囲および意図から離れることなく当業者に明らかである。本発明を、特定の好ましい実施態様に関連して記載したが、特許請求される本発明を、そのような特定の実施態様に過度に限定するべきではないことが理解される。実際、分子生物学、ウイルス学、神経学、または関連する分野の当業者に明らかである、本発明を実施するための記載された様式の様々な修飾が、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。