【課題を解決するための手段】
【0017】
染色体の任意の位置に存在する注目の核タンパク質断片、好ましくはクロマチン断片を、より好ましくは注目される断片の核酸配列とは独立に、単離することを可能にする方法が求められている。
【0018】
本発明の目的の一つは、斯かる方法の提供にある。
【0019】
本発明は、特に生細胞又は試験管内における、染色体DNA若しくはRNA、又はエピソームDNAのコンテクストにおいて、任意の種類の注目される核酸配列(注目配列:Sol)、好ましくは任意の種類の注目されるDNA配列に結合するタンパク質を単離及び特定するための新たな方法を提供するものである。
【0020】
本発明との関連において、生細胞には、分析対象となるタンパク質が結合してなる核酸材料を含む任意の生物、例えばウイルス、細菌、細胞等が含まれる。
【0021】
本発明は、三重らせん(triple helix)を形成し得る特異的核酸配列タグ、好ましくは特異的二本鎖DNA(これを三重鎖形成タグ配列(Triplex Forming Tags sequence:TFT配列)という)を利用する。TFT配列はSolの近傍に位置すると考えられる。
【0022】
本発明は、前記注目配列(Sol)及びそれに結合するタンパク質に対して、所定長の短い三重鎖形成タグ(TFT)を導入することができるため、上に定義するような任意の種類の生細胞における任意の核酸源(Sol)に適用可能である。
【0023】
好ましくは、本発明は、任意のDNA源(染色体、エピソーム、ウイルス...)に適用可能である。
【0024】
本発明によれば、細胞内のTFT配列は、エピソームDNAの一部であってもよく、又は注目される核酸配列の近傍に統合されていてもよい。
【0025】
本発明によれば、TFT配列は、特異的オリゴヌクレオチドプローブ(これを三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)という)と、三重らせん形態の安定な複合体を形成し得る。
【0026】
TFT配列は、如何なる最終形態か(エピソーム型か統合型か)によらず、単一配列又は繰り返し配列として存在し得る。繰り返し配列である場合、その配置は頭頭型(head to head)でも頭尾型(head to tail)でもよく、また、連続して配置されても、間をおいて配置されてもよい。
【0027】
即ち、本発明に係る方法の第1の工程は、分析対象となるタンパク質と複合体形成するSoIの近傍に、TFT配列を導入することである。
【0028】
TFTをSoIの近傍に導入する際に、SoI及びこれに随伴するタンパク質を、無関係の核酸断片を含む複合混合物から、TFOプローブを用いて精製してもよい。
【0029】
即ち、本発明の第1の目的は、任意の種類の注目される核酸配列(注目配列:Sequence-of-interest:SoI)に結合したタンパク質を単離する方法であって、
第1の工程では、三重鎖形成タグ配列(Triplex Forming Tags sequence:TFT配列)を生細胞の前記核酸配列に導入して、前記生細胞を生育させ、
第2の工程では、第1の工程で得られた細胞を収集し、核酸三重鎖の形成を許容する条件で、導入されたTFT配列に特異的な分子プローブ(TFOプローブ)と混合し、
第3の工程では、第2の工程で形成された核酸三重鎖を単離し、結合しているタンパク質を分析する、方法に関する。
【0030】
本発明によれば、本発明に係る方法を用いて単離されるべきヌクレオチド配列を、注目される核酸配列(SoI)という名称で示す。斯かる表現の使用は、当該配列が既知か未知かに影響を与えるものではない。
【0031】
本発明に係る方法は原核細胞にも真核細胞にも適用可能である。
【0032】
本発明によれば、注目される核酸配列(SoI)は、DNA(デオキシリボヌクレオチド酸)でもRNA(リボヌクレオチド酸)でもよいが、DNAが好ましく、より好ましくはゲノム核酸(DNA又はRNA)、好ましくはゲノムDNA又はエピソームDNAである。
【0033】
本発明の第1の工程によれば、TFTは、二本鎖の線状又は環状の核酸(TFT含有核酸)の一部、好ましくは二本鎖の線状又は環状DNAの一部であってもよい。
【0034】
本発明の第1の実施形態によれば、TFT含有核酸は、細胞内でエピソームとして維持されていてもよい。この実施形態によれば、TFT含有核酸は環状核酸であり、好ましくはTFT配列に加えてウイルス起点を含むプラスミドである。
【0035】
本発明の第2の実施形態によれば、TFT含有核酸は、前記核酸配列内にランダムに導入されてもよく、標的化して、即ち、所定のSoIの近傍に導入されてもよい。TFT含有核酸の挿入をランダムに行うことで、未知のSoIの分析が可能となる。この場合、TFT含有核酸は如何なる種類のDNAであってもよいが、導入されたDNAを有する細胞の検出のためのマーカーとして用いられるレポーター配列を更に含むことが好ましい。
【0036】
TFT含有核酸の挿入を相同組換又は部位特異的組換を用いた標的化により行う場合には、既知のSoI及びこれに結合するタンパク質の分析が可能である。TFT含有核酸は、注目される既知の核酸配列の領域内であって、分析対象となる既知のSoIの近傍にTFT含有核酸を特異的に導入することを可能とする、既知のフランキング配列に隣接する位置に挿入される。この実施形態によれば、TFT含有核酸としては、TFT配列に加えて、プラスミドと注目核酸との相同組換を可能とする既知のフランキング配列を含むプラスミドが好ましい。更に言えば、前記プラスミドは更に、導入DNAを有する細胞を検出するためのマーカーとして用いられる配列を含むことが好ましい。
【0037】
本発明の第1の工程によれば、三重鎖形成タグ(TFT含有核酸)を含む核酸の生細胞への導入は、既知の方法を用いて行うことができる。例としては、リン酸カルシウム法(Graham, F. L. and Van Der Eb., A. J., 1973, Virology 52:456-467)、DEAEデキストラン法(Farber, F.,et. al.,1975, Biochem. Biophys. Acta., 390:298-311; Pagano, J. S., 1970, Prog. Med. Virol. 12:1-48)、ポリオルニチン法(Farber, F., et.al.,1975, Biochem. Biophys. Acta., 390:298-311)、DNAマイクロインジェクション法(Cappechi, M. R., 1980, Cell. 22:479-488)、ポリエチレングリコール(PEG)/ジメチルスルホキシド(DMSO)法(Jonak, Z. L., et.al., 1984, Hybridoma 3:107-118)、トリプシン/EDTA/グリセロール法(Chu, G. J. and Sharp, P. A., 1981, Gene 13:197-202)、浸透圧衝撃法(Okada, G. Y., and Rechsteiner, M., 1982, Cell 29: 33-41)、リポソーム融合法(Poste, G., et. al., 1976, Methods. Cell. Biol., 14:33-71; Fraley, R. et.al., 1980, J. Biol. Chem. 255; 10431-10435; Wong, T. K., et.al., 1980, Gene 10;87-94)、ゴースト赤血球媒介法(Furusawa, M.,et.al., 1976, Methods. Cell. Biol.,14: 73-80; Straus, S. and Raskas, H., 1980, J. Gen. Virol. 48: 241-245; Godfrey, W., et.al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80: 2267-2271 )、細菌原形質融合法(Chu, G. J. and Sharp, P. A., 1981, Gene 13:197-202; Sandri-Goldin, R. M., et.al., 1981, Mol. Cell. Biol. 1:743-752; Oi, V. T., and Morrison, S. L., 1986, Biotechniques 4: 214-221)、再構成センダイウイルスエンベロープ法(Loyter, A., et. al., 1984, Ciba. Found. Symp., 103:163-180)、レーザービームポレーション法(Tsuka koshi, M., et.al., 1984, Appl. Phys. B., 35: 2284-2289; Tao, W., et.al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84: 4180-4184)、エレクトロポレーション法(Neumann, E., et. al., 1982; EMBO. J., 1 :841-845; Potter, H., et.al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81: 7161-7165)、タングステンマイクロプロジェクタイル法(Klein, T. M., et. al., 1987, Nature 327: 70-73)、レトロウイルスベクター法(Jaenisch, R., 1976, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 73: 1260-1264: Jahner, D. and Jaenish, R., 1980, Nature 287:456-458)等が挙げられる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態である、核酸配列内へのTFT含有核酸の組み込みには、相同組換や部位特異的組換等の手法を使用することが好ましい。斯かる手法は本分野で周知である。本発明によれば、Sorrell DA及びKolb AFによって記載される手法("Targeted modification of mammalian genomes" Biotechnol Adv. 2005 Nov; 23(7-8):431-69)が好ましい。
【0039】
本発明の第1の工程によれば、生細胞の培養は、使用される生細胞の培養に適した既知の培養法であれば、任意の培養法によって行うことができる。当業者であれば困難を伴うことなく、対象とする細胞に適した培養条件を決定できるであろう。
【0040】
本発明によれば、TFT配列は、これに特異的な分子プローブによって認識される必要があり、また、前記特異的分子プローブ(これを三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)という)と、三重らせん形態の安定な複合体を形成する必要がある。
【0041】
概して、本発明の第1の工程において、三重鎖形成タグ(TFT)は、タグとして使用可能な核酸配列であれば任意である。但し、その配列が既知であり、その配列に相補的な特異的分子プローブを調製可能である必要がある。
【0042】
本発明の別の実施形態によれば、TFT配列は、SoIを含む核酸配列内に通常は存在しない配列であることが好ましい。
【0043】
TFTの特異性については種々の研究がなされてきた。これらの研究によれば、TFOの設計は構造上の制約による影響を受け、固有の結合特性を有するTFOの特異性頭部、即ちTFTを認識する特異的分子プローブに応じて、複数のサブタイプに分類されている。
【0044】
三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)は、オリゴピリミジン−オリゴプリン配列の主溝に結合することにより、二本鎖DNAの特異的標的化を可能とする。
【0045】
殆どの場合、DNAは、ワトソン・クリック(Watson-Crick)塩基対形成スキーム(A/T、G/C)に従って逆平行鎖が結合して形成される二重鎖の状態で存在することが知られている。
【0046】
しかし、一方の鎖にポリプリン(ポリPu)トラックを有する(そして相補鎖にはポリピリミジン(ポリPy)トラックを有する)DNA二重鎖は、ポリPy又はポリPuのオリゴヌクレオチドとともに、フーグスティーン(Hoogsteen)塩基対により、三重鎖を形成し得ることも知られている。
【0047】
即ち、本発明の別の実施形態によれば、TFT配列は、ポリピリミジン−ポリプリン配列、即ち、フーグスティーン(Hoogsteen)塩基対を介してポリピリミジンTFO又はポリプリンTFOにより認識され得る配列であることが好ましい。
【0048】
TFT配列としては、フーグスティーン(Hoogsteen)塩基対を介してポリピリミジンTFOにより認識され得るポリピリミジン−ポリプリン配列であることが好ましい。
【0049】
最も好ましい実施形態によれば、TFT配列は、SoIを含む核酸配列内に通常は存在しないポリピリミジン−ポリプリン配列である。
【0050】
本発明によれば、TFT配列の長さは、例えば10〜50塩基対、好ましくは15〜35塩基対、特に好ましくは約20塩基対である。
【0051】
本発明の方法の第2の工程によれば、第2の工程で得られる細胞を収集し、導入されたTFT(TFOプローブ)に特異的な分子プローブと、核酸三重鎖の形成を許容する条件下で混合する。
【0052】
本発明の第2の工程によれば、細胞の収集は、任意の既知の方法で行うことができる。例としては、Molecular cloning: a laboratory manual(Joseph Sambrook, David William Russell, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York, 2001)に記載の方法が挙げられる。細胞の収集法としては、剥離(scrapping)及び遠心分離が好ましい。
【0053】
本工程において、採取される細胞は程度の差こそあれ、通常は凝集塊を形成しているので、TFOプローブの添加前に、解砕工程を追加することが好ましい場合がある。解砕には、種々の機械的手法(剪断法)、酵素法、又は超音波法を用いることができる。本発明では超音波法が好ましい。
【0054】
この解砕工程によって、その後の工程におけるTFOプローブとTFT配列との三重鎖形成を促進することができる。
【0055】
本発明の第2の工程によれば、採取後に解砕した細胞を、TFOによるTFT配列の認識を容易にするような手法で、TFOプローブと接触させる。本発明の方法の第2の工程によれば、TFOプローブとTFT配列との間で三重鎖を形成させる手法を用いることができる。
【0056】
本発明の第2の工程の好ましい実施形態によれば、TFOとの混合前に細胞核を精製及び単離することにより、TFOによるTFT配列の認識を容易にすることができる。核を精製及び単離する場合、収集された細胞を以下のような処理に供する。即ち、例えばその核酸及びタンパク質、又は真核細胞核を、少なくとも部分的にその細胞環境から単離する。斯かる目的のための手法は当業者には種々公知であろう。斯かる手法は生物学及び/又は分子生物学の文献に詳細に記載されている。
【0057】
本発明によれば、収集された細胞をまず溶解してから、その後に核酸及びタンパク質、又は真核細胞核を、精製又は単離してもよい。斯かる目的を達成する好ましい方法の一つとしては、Molecular cloning: a laboratory manual(Sambrook J. and Russell D., Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.; Third edition (December 5、2000))に記載の方法が挙げられる。
【0058】
本発明によれば、TFOプローブは、挿入されたTFT配列に相補的な核酸配列であれば、任意の配列でよい。本配列は単独で使用してもよく、その有効性を高める他の要素との組み合わせで使用してもよい。
【0059】
これまでの知見によれば、TFOプローブに以下の修飾を施すことにより、選択された標的部位(三重鎖形成タグ部位)による三重鎖形成を安定化し、認識特異性を向上させることができる。
【0060】
1.ロックド核酸(LNA)ヌクレオチドを通常のヌクレオチドと混合して導入:
ロックド核酸(LNA)とは、2’−O,4’−C−メチレン結合を有するリボヌクレオチドを含む核酸である。LNA含有TFOは近年、顕著な三重鎖の安定化の効果を有することが報告されている。より正確に言えば、これまでの研究により、TFO配列中にLNAと通常のヌクレオチドとを交互に配置することが、三重鎖の形成に好適であることが分かっている。即ち、本発明によれば、TFOは、核酸(LNA)ヌクレオチドを、通常のヌクレオチドと混合した状態で含むことが好ましい(Alexei A. et al., (1998). "LNA (Locked Nucleic Acids): Synthesis of the adenine, cytosine, guanine, 5-methylcytosine, thymine and uracil bicyclonucleoside monomers, oligomerisation, and unprecedented nucleic acid recognition". Tetrahedron 54 (14): 3607-30; Satoshi Obika et al. (1998). "Stability and structural features of the duplexes containing nucleoside analogues with a cross-linked N-type conformation, 2'-O,4'-C-methyleneribonucleosides". Tetrahedron Lett. 39 (30): 5401-4)。
【0061】
2.インターカレーターとして機能し得る芳香環構造からなる化合物をTFOの3’又は5’末端に追加する。斯かる芳香環構造の例としては、ソラーレン、アクリジン、臭化エチジウム、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、サリドマイド、キナクリン、オルトフェナントロリン等が挙げられる。
【0062】
3.シトシンの5−メチルシトシンによる置換
【0063】
即ち、本発明の好ましい一実施形態によれば、TFOは、ロックド核酸(LNA)ヌクレオチドを通常のヌクレオチドと混合した状態で含む核酸配列である。
【0064】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、TFOは、その3’又は5’末端に、任意の芳香環構造からなる化合物、例えばインターカレート剤、例えばソラーレン、アクリジン、臭化エチジウム、ベルベリン、プロフラビン、ダウノマイシン、ドキソルビシン、サリドマイド、キナクリン、又はオルトフェナントロリン、好ましくはソラーレンを有する。前記化合物は、光活性化合物であることが好ましく、最も好ましくは光活性インターカレート剤である。これにより、前記化合物を二本鎖TFT核酸内にインターカレートした後に、光子放出源を用いて前記化合物を核酸に共有結合させることができる。これによってTFO/TFT複合体の強度を強化し、惹いては最終精製工程におけるタンパク質/核酸複合体の回収を容易にすることが可能となる。
【0065】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、TFO中のシトシンが、5−メチルシトシンに置換される。
【0066】
本発明の別の実施形態によれば、TFOは、ロックド核酸(LNA)ヌクレオチドを通常のヌクレオチドと混合して含む核酸配列であるとともに、その3’又は5’末端に芳香環構造、例えばインターカレート剤を有し、更にシトシンが5−メチルシトシンで置換されていることがとりわけ好ましい。
【0067】
本発明の別の実施形態によれば、TFOプローブは、上述のような特異性頭部(specific head)(LNA及び通常のヌクレオチドを含むプローブであって、その3’又は5’末端に芳香環構造を有するもの)を有すると共に、その反対側の端部(3’又は5’末端)に、リンカーを介して連結された捕捉ハンドル(capture handle)を有する。この捕捉ハンドルは、同種の(cognate)捕捉フック(capture hook)によって特異的に捕捉することができる。
【0068】
本発明によれば、前記リンカーは、既知のスペーサであれば任意であるが、好ましくは炭素スペーサであり、その長さは、例えば炭素原子数1〜300、好ましくは100〜200、最も好ましくは110〜130である。
【0069】
本発明によれば、捕捉デバイス(capture device)(捕捉ハンドル/同種の捕捉フック)は、強く相互作用する分子の組み合わせであれば任意である。例としては、アフィニティー相互作用を示す任意の種類の物質、例えばヒスチジン−金属、抗原−抗体(例えばFLAG−抗FLAG)、特定オリゴヌクレオチド−特定オリゴヌクレオチド結合タンパク質(例えばlacO−LacI)の組み合わせ等が挙げられる。
【0070】
特定の実施形態によれば、捕捉ハンドルとしては、フックとして使用される別の化合物に結合し得る化合物が挙げられる。好ましいフックとしては、ストレプトアビジン又はその同等物、例えばアビジン又はニュートロアビジン等が挙げられ、好ましい捕捉ハンドルとしては、ビオチン又はその同等物、例えばデスチオビオチン等が挙げられる。
【0071】
極めて好ましい実施形態によれば、TFOプローブは、その5’末端から順に、インターカレート剤(ソラーレン)、これに連結されるTFO配列、これに連結されるスペーサ、これに連結される捕捉ハンドルとして設計される。
【0072】
図1に、斯かるTFOプローブの例を示す。
【0073】
本発明の方法の第2の工程では、ヌクレオチド三重鎖構造が形成される必要がある。本発明では、斯かる構造を形成可能な条件であれば、任意の条件を使用することができる。本発明に使用可能な好ましい方法としては、Brunet等が報告する方法(Nucleic Acid Research, 2005, Vol.33, No.13, 4223-4234)等が挙げられる。
【0074】
本発明の方法の第3の工程によれば、第2の工程で形成される核酸三重鎖は、任意の既知の方法で単離することができる。好ましい方法としては、捕捉ハンドルに特異的なフックを用いて、捕捉ハンドルを結合する方法が挙げられる。斯かる方法としては、例えば、ヒスチジン−金属、抗原−抗体(例えばFLAG−抗FLAG)、特定オリゴヌクレオチド−特定オリゴヌクレオチド結合タンパク質(例えばlacO−LacI)等の組み合わせによる方法が挙げられる。
【0075】
本発明の好ましい実施形態の一つによれば、捕捉ハンドルはビオチン又はその同等物であり、フックはストレプトアビジンである。
【0076】
捕捉された三重鎖の精製を容易にするために、フックをカラム又はビーズ、例えば磁性ビーズ等に固定してもよい。本発明に用いる精製法としては、磁性ビーズの使用が好ましい。斯かる方法は種々の文献に、例えばDejardin及びKingston(Cell, 136, 175-186, January 9, 2009)に記載されている。
【0077】
本発明の別の具体的な形態によれば、核酸に結合したタンパク質の架橋工程を、本方法に追加してもよい。この架橋工程は、第1の工程の直後、即ち収集工程の前に追加してもよく、細胞の収集工程の直後、即ちTFOプローブの添加の直前に追加してもよい。
【0078】
この工程の重要性は、架橋時に、核酸周囲のタンパク質がタンパク質相互間で、或いはタンパク質と核酸との間で架橋される点にある。
【0079】
本発明では、タンパク質−タンパク質の架橋及び/又はタンパク質−核酸の架橋を可能とする本分野で既知の手法であれば、任意の手法を用いることができる。例えば、タンパク質−DNAの架橋法として、紫外光架橋法、ホルムアルデヒド架橋法、六価クロム法が挙げられる。タンパク質−DNA架橋との組み合わせで更なる分析を可能とするタンパク質−タンパク質の架橋法としては、アジプイミド酸ジメチル(DMA);スベリン酸ジスクシンイミジル(D88);ジチオビス[プロピオン酸スクシンイミジル](D8P);エチレングリコールビス[スクシン酸スクシンイミジル](EG8)等が挙げられる。
【0080】
好ましくは、インビボ(in vivo)ホルムアルデヒド架橋法を、Orlando V等により記載の手法(Methods. 1997 Feb; 11(2):205-14)に従って用いることができる。
【0081】
ここで留意すべきは、タンパク質相互間又はタンパク質と核酸との間の相互作用が十分に強く、更に架橋工程を行う必要がない場合には、架橋工程は必須ではないという点である。
【0082】
本発明の別の具体的な形態によれば、本方法の最適化のために、細胞溶解工程を追加してもよい。選択される本発明の実施形態(架橋工程の有無)に応じて、この細胞溶解工程は、発明の方法の異なる時機に追加することができる。
【0083】
本発明の方法において架橋工程を実施しない場合には、この細胞溶解工程は、第2の工程において細胞を収集した後に追加される。
【0084】
本発明の方法において架橋工程を実施する場合には、この細胞溶解工程は、架橋工程の前又は後に、好ましくは架橋工程の前に、個別に追加される。
【0085】
本発明の方法の使用される実施形態(架橋工程の有無)によらず、細胞溶解工程は任意の既知の手法で行うことができるが、以下の文献に記載の方法に従って行うことが好ましい("Association of RNA polymerase with transcribed regions in Escherichia coli", Wade JT, and Struhl K.; Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Dec 21;101(51):17777-82 or "Cockayne syndrome A and B proteins differentially regulate recruitment of chromatin remodeling and repair factors to stalled RNA polymerase II in vivo", Mol Cell. 2006 Aug; 23(4):471-82)。
【0086】
また、本発明は、ヌクレオチド−タンパク質複合体の調製のための、本発明の方法の使用にも関する。
【0087】
最後に、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットに関する。このキットは、生細胞の核酸配列のSoIの近傍に導入されるべき、少なくとも1の上述のTFTと、少なくとも1の上述の架橋化合物と、前記TFT(TFOプローブ)に特異的な少なくとも1の上述の分子プローブと、前記TFOの捕捉ハンドルに結合し得る化合物により構成される、上述のフックとを含む。
【0088】
本発明は、以下の実施例及び添付図面に関する説明を考慮することにより、より一層よく理解され、その詳細もより明確になるであろう。