(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる作業車両の構成図である。本実施の形態は、本発明をハイブリッド式の作業車両(ホイールローダ)に適用したものである。本実施の形態にかかる作業車両は、メインコントローラ(主制御装置)100と、エンジン1と、エンジン1を制御するためのエンジンコントローラ(エンジン制御装置)2と、蓄電装置としてキャパシタ3と、キャパシタ3の充放電を制御するためのコンバータ4と、トルクの伝達が可能なようにエンジン1に機械的に接続された発電電動機5と、発電電動機5を駆動するための発電インバータ6と、発電電動機5およびキャパシタ3から供給される電力によって力行する走行電動機7、7bと、走行電動機7、7bをそれぞれ駆動するための走行インバータ8、8bを備えている。
【0015】
ここで、コンバータ4、発電インバータ6および走行インバータ8、8bは同一の電力線に接続されており、相互に電力を供給可能である。また、コンバータ4は電力線に取り付けられた図示しない平滑コンデンサの電圧を監視しており、平滑コンデンサの電圧を一定に保つようにキャパシタ3を充放電する。
【0016】
また、本実施の形態にかかる作業車両は、エンジン1および発電電動機5と機械的に接続されたメインポンプ(油圧ポンプ)9と、メインポンプ9へ作動油を供給するオイルタンク10と、メインポンプ9が吐出した作動油を分配するコントロールバルブ11と、コントロールバルブ11が分配した作動油により伸縮するステアシリンダ(油圧シリンダ)12、リフトシリンダ(油圧シリンダ)13及びバケットシリンダ(油圧シリンダ)14を備える。
【0017】
なお、メインポンプ9は可変容量型のポンプであり、図示しない傾転角制御弁によって傾転角を調整することで、必要に応じて容量を変えることができ、同一回転数に対する吐出流量を制御できる。
【0018】
また、本実施の形態にかかる作業車両は、リフトシリンダ13及びバケットシリンダ14を含む作業装置107(
図2参照)を操作するための操作装置としてリフトレバー104およびバケットレバー105を備えている。リフトレバー104およびバケットレバー105は、図示しない油圧回路でそれぞれコントロールバルブ11に接続されており、それぞれのレバー操作に応じてそれぞれのコントロールバルブ11が動作する。リフトシリンダ13及びバケットシリンダ14は、それぞれのコントロールバルブ11の動作に応じてそれぞれ動作する。
【0019】
メインコントローラ100には、アクセルペダル101、ブレーキペダル102及び前後進スイッチ103が接続されており、それぞれ、アクセル信号、ブレーキ信号及び方向操作信号をメインコントローラ100へ送る。
【0020】
また、メインコントローラ100には、メインポンプ9の吐出側油圧回路に取り付けられたポンプ圧力センサ9sが接続されており、ポンプ圧力センサ9sからメインポンプ圧力信号を受信する。
【0021】
また、メインコントローラ100には、リフトレバー104に取り付けられたリフトポテンショメータ104s(バケット上昇指示取得手段)と、バケットレバー105に取り付けられたバケットポテンショメータ105sが接続されており、リフトポテンショメータ104sからリフトレバー操作信号、バケットポテンショメータ105sからバケットレバー操作信号を受信する。本実施の形態ではポテンショメータ104s,105sで各レバー104,105の操作量を検出したが、レバー104,105の操作に応じて出力されるパイロット圧(油圧信号)を圧力センサで検出することで各レバー104,105の操作量を検出する等、その他の方法を利用しても良い。
【0022】
また、メインコントローラ100には、リフトシリンダ13に取り付けられたリフトストロークセンサ13s(バケット高さ取得手段(
図2参照))と、バケットシリンダ14に取り付けられたバケットストロークセンサ14s(バケット姿勢取得手段(
図2参照))が接続されている。メインコントローラ100は、リフトシリンダ13のストローク長さを示すリフトストローク信号をリフトストロークセンサ13sから受信し、バケットシリンダ14のストローク長さを示すバケットストローク信号を受信する。
【0023】
また、メインコントローラ100には、エンジンコントローラ2、コンバータ4、発電インバータ6、及び走行インバータ8、8bが接続されており、メインコントローラ100は、エンジンコントローラ2からエンジン1のエンジン回転数を、コンバータ4からキャパシタ3の蓄電電圧を、走行インバータ8、8bから走行電動機7、7bの電動機回転数を受信し、エンジンコントローラ2へエンジン回転数指令を、発電インバータ6へ発電電動機トルク指令を、走行インバータ8、8bへ電動機トルク指令を送信する。
【0024】
また、メインコントローラ100には、後述する駆動力制限処理のON/OFFを切り換えるための駆動力制限スイッチ106が接続されており、駆動力制限処理がONのときに駆動力制限スイッチ106から出力される駆動力制限ON信号を受信する。
【0025】
本実施の形態に係る作業車両は、車両本体に取り付けられたタイヤ(車輪)18a,18b,18c,18dを駆動するための走行駆動装置として、走行電動機7を備えている。さらに、走行電動機7の出力軸に機械的に連結されるプロペラシャフト15f、15rと、プロペラシャフト15f、15rからの出力が入力されるディファレンシャルギア16f、16rと、ディファレンシャルギア16f、16rからの出力をタイヤ18a,18b,18c,18dに伝達するためのドライブシャフト17a、17b、17c、17dを備えている。
【0026】
ここでは、走行電動機7、7bおよび走行インバータ8、8bをそれぞれ2つずつ備える構成としているが、本発明はこれに限らず、走行電動機、走行インバータをそれぞれ1つずつ、または、4つずつ備える構成であってもよく、個数に関して限定しない。以下、説明の簡略化のため、走行電動機7および走行インバータ8を1つずつ備える構成について説明を行う。
【0027】
走行加速時において、走行インバータ8は走行電動機7を力行駆動し、走行電動機7が発生した力行トルクは、プロペラシャフト15f、15r、ディファレンシャルギア16f、16r、ドライブシャフト17a、17b、17c、17dを介してタイヤ18a、18b、18c、18dへと伝えられ、車両を加速させる。
【0028】
走行制動時において、走行インバータ8は走行電動機7を発電機として駆動し、走行電動機7が発生した回生トルクは、力行トルクと同様にタイヤ18a、18b、18c、18dへと伝えられ、車両を減速させる。走行電動機7で発生した回生電力は、通常、キャパシタ3へと充電される。また、本実施の形態にかかる作業車両は図示しない油圧ブレーキ制御弁および油圧ブレーキを備え、必要に応じて油圧ブレーキによって車両を減速させることもできる。
【0029】
本発明の第1の実施の形態にかかる電動駆動式作業車両の側面図を
図2に示す。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は適宜省略することがある(後の図も同様とする。)。この図に示すように、本実施の形態に係る作業車両は、メインポンプ9から吐出される圧油によって駆動される多関節型の作業装置107を車両前方に備えている。作業装置107は、車両本体にピン(ヒンジピン)を介して揺動可能に取り付けられた1組のリフトアーム31と、リフトアーム31を揺動させるためにリフトアーム31と車両本体に架け渡されたリフトシリンダ13と、1組のリフトアーム31の先端にピンを介して回動可能に取り付けられたバケット20と、1組のリフトアーム31を連結するアームに回動可能に取り付けられたベルクランク32と、バケット20を回動させるためにベルクランク32と車両本体に架け渡されたバケットシリンダ14と、ベルクランク32とバケット20に架け渡されたバケットリンク33を備えている。バケットリンク33、ベルクランク32及びバケットシリンダ14は、バケット20を作動させるためのリンク機構を構成しており、バケットシリンダ14を伸縮させるとバケット20が回動される。
【0030】
図2に示した作業車両では、オペレータは運転室19に搭乗し、
図1に示したアクセルペダル101、ブレーキペダル102、前後進スイッチ103を操作することで、タイヤ18a、18b、18c、18dを駆動して車両を走行させることができる。また、オペレータは、図示しないステアリングホイールを操作することで、ステアシリンダ12を伸縮させて車両の屈折角を調節し、車両を旋回させることができる。また、リフトレバー104、バケットレバー105などを操作することで、リフトシリンダ13、バケットシリンダ14を伸縮させて、バケット20の高さと傾きを制御し、掘削および荷役作業を行うことができる。
【0031】
メインコントローラ100では、車輪スリップを回避するために、リフトレバー操作信号、リフトストローク信号、バケットストローク信号を基に走行電動機7のトルク増加レート制限を設定し、駆動力を制限する。以下、メインコントローラ100で行う演算について説明する。
【0032】
本発明の第1の実施の形態に係るメインコントローラ100の構成を
図3に示す。メインコントローラ100は、蓄電制御部110と、走行要求演算部120と、パワー配分制御部130と、エンジン回転設定部140と、発電制御部150と、電動駆動制御部160を備えている。
【0033】
蓄電管理部110では、コンバータ4からキャパシタ3の蓄電電圧V
Cを受信し、充放電要求パワーP
CR、放電パワー制限P
CMax及び充電パワー制限P
CMinを演算する。蓄電管理部110は、蓄電目標電圧V
CTと蓄電電圧V
Cの偏差に基づいて、次式を用いて充放電要求パワーP
CRを演算する。
【0035】
上記式(1)において、sはラプラス演算子で、K
P、K
Iはそれぞれ公知のPI制御の比例ゲイン、積分ゲインである。なお、ここでは蓄電目標電圧V
CTを一定値とするが、例えば電動機回転数すなわち走行速度に応じて可変にしてもよい。
【0036】
次に、蓄電管理部110は、蓄電電圧V
Cに基づいて充放電パワー制限マップを用いて放電パワー制限P
CMax、充電パワー制限P
CMinを演算する。充放電パワー制限マップの一例を
図4に示す。
図4に示すマップの横軸は蓄電電圧V
Cを示し、図中の点線V
CMax、V
CMinはキャパシタ3のそれぞれ電圧上限、電圧下限である。キャパシタ3の蓄電電圧V
Cが大きくなるほど放電パワー制限P
CMaxが正側に大きく、蓄電電圧V
Cが小さくなるほど充電パワー制限P
CMinが負側に大きくなる。また、蓄電電圧V
Cが電圧下限V
CMinに近付くと放電パワー制限P
CMaxが負(充電側)、蓄電電圧V
Cが電圧上限V
CMaxに近付くと充電パワー制限P
CMinが正(放電側)になるようにしておく。この理由については後述のパワー配分制御部130で説明する。
【0037】
走行要求演算部120では、駆動力制限ON信号、リフトレバー操作信号、リフトストローク信号、バケットストローク信号、方向操作信号、アクセル信号、ブレーキ信号、及び電動機回転数を基に、走行要求トルク及び走行要求パワーを演算する。
【0038】
走行要求演算部120の構成を
図5に示す。この図に示すように、走行要求演算部120は、バケットロック判定部121(バケットロック判定手段)と、走行基準トルク演算部122と、走行要求トルク演算部123(走行要求トルク演算手段)と、走行要求パワー演算部124を備えている。
【0039】
バケットロック判定部121では、リフトレバー操作信号、リフトストローク信号、及びバケットストローク信号を基に、バケットロック中であるかどうかを判定する。ここで、「バケットロック」とは、「オペレータによってリフトレバー104(操作装置)を介してリフトアーム31の上昇指示がされているにも関わらずリフトアーム31が上昇動作しないとき」を示すものとし、例えば、ホイールローダによる掘削作業時において、前進走行してバケット20を対象物に突き刺した後にリフトアーム31の上昇操作をしたが、バケット20を深く突き刺し過ぎて対象物の重量が予想以上に重くなった等の理由でリフトアーム31及びバケット20を上昇できない場合がこれに該当する。
【0040】
バケットロック判定部121で行うバケットロック判定のフローチャートを
図6に示す。
【0041】
まず、ステップS1211では、リフトストロークセンサ13sから出力されるリフトストローク信号を基に、リフトシリンダ13のストロークが所定の閾値(第1ストローク閾値)以下であるかどうかを判定し、真である場合はステップS1212へ、偽である場合はステップS1216へ進む。ここで、第1ストローク閾値は、バケット20が掘削時の高さ(基本的には地面と同程度の比較的低い高さ)にあるかどうかを判定するための値であり、掘削終了時のリフトシリンダストローク以上に設定する。
【0042】
ステップS1212では、バケットストロークセンサ14sから出力されるバケットストローク信号を基に、バケットシリンダ14のストロークが所定の閾値(第2ストローク閾値)以下であるかどうかを判定し、真である場合はステップS1213へ、偽である場合はステップS1216へ進む。ここで、第2ストローク閾値は、バケット20が運搬対象物をすくう姿勢(バケット20がある程度チルトした姿勢)であるかどうかを判定するための値であり、リフトアーム31の先端(バケット20の付け根)からバケット20の地面側の先端へ向かう直線が路面に対して成す角度をθ(
図2参照)としたとき、θが例えば30deg以上になるようにバケット20が上向きとなるときのバケットシリンダストロークとする。なお、バケット姿勢がある程度上向き状態で駆動力をかけると、バケット底面を作業対象物に押し当てる形となり、バケット20を押し上げる力が発生するため、バケットロックが発生しにくい。
【0043】
ステップS1213では、リフトポテンショメータ104sから出力されるリフトレバー操作信号を基に、オペレータによってバケット上昇指示がなされたかどうかを判定し、真である場合はステップS1214へ、偽である場合はステップS1216へ進む。このステップS1213における判定は、リフトレバー操作信号により、リフトアーム31を上昇するための操作信号がリフトレバー104(操作装置)から出力されていることを確認するためのものである。
【0044】
ステップS1214では、リフトストロークセンサ13sから出力されるリフトストローク信号を基に、リフトシリンダ13が伸長する速度(リフトシリンダ速度)を公知の微分演算などによって演算し、当該リフトシリンダ速度が所定の閾値(リフト速度閾値)以下であるかどうかを判定し、真である場合はステップS1215へ、偽である場合はステップS1216へ進む。ここで、リフト速度閾値は、メインポンプ9の最小吐出流量時のリフトシリンダ速度以下に設定するものとする。なお、リフトシリンダ速度はリフトアーム31又はバケット20の上昇速度に略比例する。そのため、リフトアーム上昇速度やバケット上昇速度に基づいてS1214に係る判定を行っても良い。
【0045】
ステップS1215では、バケットロック判定を真とする。ステップS1216では、バケットロック判定を偽とする。
【0046】
なお、
図6の例では、ステップS1215に進むとすぐにバケットロック判定を真としたが、誤判定防止のために、数回連続してステップS1215を通過した場合にバケットロック判定を真としてもよい。また、バケットロック判定が真のときは後述のように駆動力が増加しないことになるが、この駆動力低減制御がオペレータのストレスになることを回避する観点から、バケットロック判定が真である状態が一定時間以上継続し、かつ、バケット上昇指示が真である状態が一定時間以上継続していると判定できた場合には、バケットロック判定を偽に変更してもよい。なお、バケットロック判定が偽となると、後述のように駆動力が復帰する。
【0047】
走行基準トルク演算部122では、アクセル操作信号、電動機回転数を基に走行基準トルクT
DBを演算する。まず、走行基準トルク演算部122は、電動機最大トルクマップを用いて、電動機回転数から電動機最大トルクT
DMaxを演算する。電動機最大トルクマップの一例を
図7に示す。なお、本マップは走行電動機7の回転数に対する最大トルクカーブと同一である。
【0048】
次に、走行基準トルク演算部122は、アクセル操作信号を基にアクセルペダル101の操作量を比率(0〜1)に変換したアクセル率r
Accと、電動機最大トルクT
DMaxから、次式を用いて走行基準トルクT
DBを演算する。
【0050】
なお、さらに、ブレーキ操作信号を用いて、ブレーキペダル102の操作量が大きくなるほど、走行基準トルクT
DBが小さくなるように補正してもよい。
【0051】
走行要求トルク演算部123では、駆動力制限ON信号、方向操作信号、バケットロック判定、及び走行基準トルクT
DBに基づいて走行要求トルクT
DRを演算する。
【0052】
走行要求トルク演算部123は、方向操作信号C
D(前進:1、停止:0、後進:-1)、走行基準トルクT
DBから、次式を用いて走行要求トルクT
DRを演算する。
【0054】
ただし、上記式(3)において、T
DR_zは、走行要求トルクT
DRの前回値(例えば、1制御周期前の値)である。また、dT
DUpは制御周期あたりのトルク増加レート制限値で、トルク増加レート制限マップを用いて演算される値である。
【0055】
トルク増加レート制限マップの一例を
図8に示す。この図に示すように、駆動力制限ON信号が偽である場合(すなわち、駆動力制限スイッチ106がOFFの場合)、または、バケットロック判定が偽の場合は、図中の実線Aの特性に従って走行要求トルク前回値T
DR_zからトルク増加レート制限値dT
DUpを設定する。すなわち、走行要求トルク前回値T
DR_zが大きくなるほどトルク増加レート制限値dT
DUpを小さくする。一方、駆動力制限ON信号が真、かつ、バケットロック判定が真の場合は、図中の破線Bの特性に従う。すなわち、走行要求トルク前回値T
DR_zの値に関わらずトルク増加レート制限値dT
DUpを0とする。これにより、駆動力制限ON信号が真の場合を前提とすると、バケットロック判定が真のときのトルク増加レート制限値dT
DUp(すなわち、走行要求トルクの増加速度の制限値)は、バケットロック判定が偽のときよりも低減される。
【0056】
なお、本マップでは、走行加速時に必要以上の大駆動力が出力されないように、実線Aにおいて、走行要求トルク前回値T
DR_zが大きくなるほどトルク増加レート制限値dT
DUpを小さくするようにしたが、実線Aは一定値(直線)であってもよい。すなわち、駆動力制限ON信号が真、かつ、バケットロック判定が真の場合において、他の場合よりもトルク増加レート制限値が小さく設定されれば良く、実線Aの下方に破線Bが存在すれば良い。
【0057】
また、駆動力制限ON信号が真、かつ、バケットロック判定が真の場合には、
図9に示すトルク増加レート制限マップにおける破線B’に従ってトルク増加レート制限値dT
DUpを設定しても良い。すなわち、走行要求トルク前回値T
DR_zがT1より小さければ、その値が小さくなるにつれてトルク増加レート制限値dT
DUpを大きくし、走行要求トルク前回値T
DR_zがT2(T1<T2)より大きければトルク増加レート制限値dT
DUpを負にしてもよい。走行要求トルク前回値T
DR_zがT1からT2までの間は、0よりも少し大きい値又は
図8の破線Bと同様に0とする。こうすることにより、走行要求トルク前回値T
DR_zが大きくなるほど、トルク増加レート制限値dT
DUpが小さくなり、トルク増加レート制限値dT
DUpが負になると、走行要求トルクT
DRが徐々に減少するので、より確実に車輪スリップを回避できる。
【0058】
なお、
図9に示すトルク増加レート制限マップを用いる場合は、バケット上昇指示(S1213)が偽であれば、バケットロック判定に関わらず図中の破線Bを用いてもよい。こうすることにより、バケット20を上昇させていなくて車輪の接地圧が低い場合に駆動力の増加が制限されるので、車輪スリップを回避できる。
【0059】
上記式(3)では、上記のように決定されるトルク増加レート制限値dT
DUpを利用して、アクセルペダル101の操作量に応じて定められる走行基準トルクT
DBと、走行要求トルク前回値T
DB_zにトルク増加レート制限値dT
DUpを足した値とを比較し、両者の最小値を走行要求トルクT
DRの絶対値として演算する。そのため、アクセルを踏み増した場合(アクセルペダル101の操作量が増加した場合)には、トルク増加レート制限値dT
DUpで制限されたレートで走行要求トルクT
DRが大きくなり、アクセルを緩めた場合(アクセルペダル101の操作量が減少した場合)には、制限がかかることなく、走行要求トルクT
DRが小さくなる。上記式(3)において、「走行要求トルク前回値T
DB_zにトルク増加レート制限値dT
DUpを足した値」が走行要求トルクT
DRとして選択されるとき、トルク増加レート制限値dT
DUpは、走行要求トルクT
DR(走行駆動装置の要求トルク)の増加速度の制限値となる。
【0060】
パワー配分制御部130では、走行要求パワーP
DR、放電パワー制限P
CMax、充電パワー制限P
CMinから、次式を用いて走行パワー指令P
D*を演算する。
【0062】
前述の蓄電制御部110で、蓄電電圧が低くなると放電パワー制限P
CMaxが負、蓄電電圧が高くなると充電パワー制限P
CMinが正となるようにしているので、上記式(4)において、蓄電電圧が低くなると走行パワー指令P
D*は力行パワー(正値)を制限され、蓄電電圧が高くなると走行パワー指令P
D*は回生パワー(負値)を制限される。
【0063】
また、上記式(4)の代わりに実際の発電パワーP
Gを検出/推定し、次式を用いて走行パワー指令P
D*を演算してもよい。
【0065】
また、パワー配分制御部130は、走行要求パワーP
DR、充放電要求パワーP
CRから次式を用いて発電パワー指令P
G*を演算する。
【0067】
エンジン回転設定部140では、エンジン回転数指令N
E*を演算する。エンジン回転数指令N
E*はエンジン1の最大エンジン回転数としてもよいし、コントローラ100にモードスイッチを備えて、オペレータが手動で選択、調節できるようにしてもよい。また、エンジンコントローラ2からの情報を基にエンジンパワーを推定し、等エンジンパワーで最も効率の高い動作点でエンジンが動作するように、エンジン回転数指令N
E*を演算してもよい。
【0068】
発電制御部150では、エンジン回転数指令N
E*、発電パワー指令P
G*を基に次式を用いて発電電動機トルク指令T
G*を演算する。
【0070】
ここでは、エンジン回転数指令N
E*を基にしたが、エンジンコントローラ2からエンジン回転数N
Eを受信して演算に用いてもよい。また、エンジンストールを防止するため、エンジン回転数N
Eがローアイドル回転数に近付くほど、発電電動機トルク指令T
G*を小さくする(0に近付ける)ようにしてもよい。
【0071】
電動駆動制御部160では、走行要求トルクP
DR、走行パワー指令P
D*、電動機回転数を基に電動機トルク指令T
D*を演算する。まず、電動駆動制御部160は、電動機回転数から、例えば
図7に示した電動機最大トルクマップを用いて、電動機最大トルクT
DMaxを演算する。
【0072】
次に、電動駆動制御部160は、走行要求トルクT
DR、電動機最大トルクT
DMax、走行パワー指令P
D*を基に、次式を用いて電動機トルク指令T
D*を演算する。ただし、次式におけるP
DMaxは電動機最大パワーである。
【0074】
また、電動駆動制御部160は、電動機トルク指令T
D*から、次式を用いて駆動力表示値F
D*を演算する。ただし、次式において、RDifはディファレンシャルギア16f、16rのギア比、Rwはタイヤ18a、18b、18c、18dの半径である。
【0076】
本発明を適用した作業車両の動作を、
図10を使って説明する。なお、ここでは、本発明の効果を明確にするため、オペレータによるアクセル101の調節はなく、常時フルアクセル(つまり、アクセルペダル101の操作量は一定)で掘削作業を行ったものとして説明する。
【0077】
図10(a)は本発明を適用しない場合(すなわち、バケットロック判定部121を備えず、
図8および
図9に実線B,B’で示したトルク増加レート制限値を備えない場合)におけるアクセルペダル101の操作量、車輪速度(回転数)、走行電動機7の駆動力、リフトシリンダ13のストローク長さ、及びバケットシリンダ14のストローク長さの時間変化を示す図である。
【0078】
この図に示した例では、時刻T1までは通常走行している状態であり、時刻T1でバケット20が運搬対象に接触し、掘削作業を開始する。時刻T1から運搬対象に接触したため、車輪速度(電動機回転数)が低下し、
図7の電動機最大トルクマップに従って走行電動機7の駆動力が増加する。
【0079】
そして、時刻T2からバケット20を上昇させるために、オペレータがリフトレバー104を操作し、リフトシリンダ13のストロークが増加する。また、バケット姿勢を上向きにする(バケット20の開口部を上向きにする)のが早過ぎると、バケット20ですくう運搬対象物の量が少なくなるため、一般にオペレータはリフトレバー104の操作から少し遅れて、バケットレバー105を操作する。そのため、リフトシリンダ13のストローク増加から少し遅れて、バケットシリンダ14のストロークが増加する。
【0080】
その後、時刻T3でバケットロックが発生する。バケットロックが発生すると、バケット姿勢が上向きになるまで、リフトレバー104を操作しているにも関わらずバケット20(リフトアーム31)を上昇させることができない。本発明を適用しない場合、バケットロックが発生しても駆動力を上げ続けるため、時刻T4で車輪スリップが発生して、車輪速度が上昇する。その後、時刻T5でバケットシリンダストロークが増加し、バケット姿勢が上向きになると、バケットロックが解消され、バケット20(リフトアーム31)が上昇する。
【0081】
図10(b)は本発明を適用した場合におけるアクセルペダル101の操作量等の時間変化を示す図である。ただし、トルク増加レートマップは
図8に示したマップを使用した場合を説明する。時刻T3までは
図10(a)に示した場合と同様である。しかし、本発明を適用した場合には、時刻T3において、まず、バケットロック判定部121が、リフトストローク信号及び
図6のフローチャートを基にバケットロック判定を行い、バケットロック判定が真であると判定する。そして、この判定結果を受けた走行要求トルク演算部123が、
図8の破線Bに基づいてトルク増加レート制限値dT
DUpを0とする。すなわち、オペレータの指示通りにリフトアーム31が上昇する場合と比較して、当該制限値dT
Dupは低減される。そのため、駆動力はT3以後も増加しない。これにより車輪スリップを回避できる。
【0082】
また、時刻T4’で、バケットストローク信号を基にバケットシリンダ14のストロークが第2ストローク閾値(図中の一点鎖線A)を超えたことが検出され、バケット姿勢がある程度上向きになったことが分かると、
図6のS1212に従ってバケットロック判定が偽となる。これにより、この判定結果を受けた走行要求トルク演算部123が、
図8の実線Aに基づいてトルク増加レート制限値dT
DUpを設定するため、駆動力は再び増加する。そのため、バケットロックが解消された後は、オペレータに駆動力不足を感じさせることなく掘削作業を行うことができる。
【0083】
したがって、上記のように構成した本実施の形態によれば、運搬対象物の上昇操作をする場合においてバケットロックが発生したときには、走行電動機7の駆動力の増加が抑制されるので、バケットロックに起因する車輪スリップの発生を抑制することができる。すなわち、バケットが作業対象物に深く突き刺さり過ぎることに起因する車輪スリップを回避することができる。
【0084】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、トルクコンバータ式の自動変速機を備えた作業車両に本発明を適用した例である。
【0085】
図11は本発明の第2の実施の形態にかかる作業車両の構成図である。この図に示す作業車両は、
図1に示した作業車両と異なる構成として、トルクコンバータ(T/C(以下、トルコンと称す))40と、変速機(T/M)41と、変速機コントローラ(TCU)42と、メインコントローラ200を備えている。この場合は、トルコン40及び変速機41がタイヤ18a,18b,18c,18dの走行駆動装置として機能する。
【0086】
変速機コントローラ42は、プロペラシャフト15f,15rの回転数N
Pを検出し、当該プロペラシャフト回転数N
Pに応じて変速機41の変速比(変速ギア)R
TMを決定する。また、変速機コントローラ42は、プロペラシャフト回転数N
P及び変速比R
TMをメインコントローラ200へ送信する。
【0087】
メインコントローラ200は、第1の実施の形態と同様に、エンジンコントローラ2へエンジン回転数指令を送信するが、トルクコンバータ40の出力トルクは、エンジン回転数に応じて変化する。そのため、本実施の形態のメインコントローラ200はエンジン回転数指令によって駆動力を制御する。
【0088】
メインコントローラ200の構成を
図12に示す。メインコントローラ200は、走行要求演算部210と、エンジン回転指令演算部220を備えている。
【0089】
走行要求演算部210は、電動機回転数がプロペラシャフト回転数N
Pに変わること、
図7に示した電動機最大トルクマップの縦軸がトランスミッション最大トルクに変わること以外の点は、第1の実施の形態で説明したメインコントローラ100の走行要求演算部120と同様である。すなわち、走行要求演算部210は、走行要求演算部120と同様に、バケットロック判定部121と、走行要求トルク演算部123を備えており、最終的に走行要求トルクT
DRを出力する。これにより、バケットロック判定部121によってバケットロック判定が真であると判定された場合(バケットロック発生時)には、走行要求トルク演算部123が、
図8の破線Bに基づいてトルク増加レート制限値を低減し、エンジン回転数が低減されるので、第1の実施の形態と同様に車輪スリップは回避される。なお、エンジン回転数(エンジン回転数指令N
E*)は駆動力に比例するため、バケットロック発生時には、駆動力が低減される。
【0090】
エンジン回転指令演算部220では、変速比R
TM及び走行要求トルクT
DRを基にエンジン回転数指令N
E*を演算する。まず、エンジン回転指令演算部220は、変速比R
TM、走行要求トルクT
DRから、次式を用いてトルコン要求トルクT
TCRを演算する。
【0092】
また、エンジン回転指令演算部220は、変速比R
TM、プロペラシャフト回転数N
Pから、次式を用いてトルコン出力軸回転数N
TCを演算する。
【0094】
次に、エンジン回転指令演算部220は、トルコン要求トルクT
TCR、トルコン出力軸回転数N
TCから、トルコントルクマップを用いて、エンジン回転数指令N
E*を演算する。トルコントルクマップの一例を
図13に示す。トルコントルクマップは、トルコン単体の実験等を行って作成することができる。エンジン1は、エンジン回転指令演算部220で演算されたエンジン回転数指令N
E*に基づいて制御される。
【0095】
したがって、上記のように構成した本実施の形態に係る作業車両においても、運搬対象物の上昇操作をする場合においてバケットロックが発生したときには、駆動力の増加が抑制されるので、バケットロックに起因する車輪スリップの発生を抑制することができる。
【0096】
なお、上記の各実施の形態では、リフトストロークセンサ13sをバケット高さ取得手段として利用する場合について説明したが、所定の基準面(例えば地面)に対するリフトシリンダ13またはリフトアーム31の角度を検出するセンサ(リフト角度センサ)をバケット高さ取得手段として用いてもよい。この場合は、角度から高さへの変換演算を行うことは言うまでもない。
【0097】
また、バケットストロークセンサ14sをバケット姿勢取得手段として利用する場合について説明したが、所定の基準面(例えば地面)に対するバケットシリンダ14またはベルクランク32の角度を検出するセンサ(バケット角度センサ)をバケット姿勢取得手段として用いてもよい。
【0098】
また、リフトレバー104をバケット上昇指示取得手段として説明したが、これの代わりにコントロールバルブ11をバケット上昇指示取得手段としても良い。そして、
図6に示したステップS1213において、リフトシリンダ13におけるリフトアップ側の油圧室(ボトム側油圧室)がメインポンプ9に連通された場合を真と判定し、それ以外の場合を偽として判定してもよい。
【0099】
また、上記の説明では、
図6に示したバケットロック判定におけるステップS1214において、リフトシリンダ速度がリフト速度閾値以下であることに基づいてバケットロック判定を行ったが、これに代えて、リフトシリンダ13におけるボトム側の圧力又はメインポンプ9の吐出圧が所定の閾値(リフト圧力閾値)以上であることに基づいてバケットロック判定を行ってもよい。すなわち、リフトシリンダ13又はメインポンプ9の圧力が、リフト圧力閾値以上のときは真と判定し、リフト圧力閾値未満のときは偽と判定する。なお、リフト圧力閾値は、リフトシリンダ13及びメインポンプ9に係る油圧回路のリリーフ圧以下(例えば、リリーフ圧から1MPaだけ低い圧力)に設定することが望ましい。また、メインポンプ9の吐出圧はポンプ圧力センサ9sで検出すれば良く、リフトシリンダ13のボトム側圧力はメインポンプ9から当該ボトム側油圧室までの油圧回路に設置した圧力センサで検出すれば良い。
【0100】
ところで、上記の各実施の形態では、
図6に示したように、リフトシリンダストローク、バケットシリンダストローク、バケット上昇指示及びリフトシリンダ速度(S1211〜S1214)を考慮してバケットロック判定を行い、その結果に基づいて走行要求トルクの増加速度の制限を行った。しかし、次に説明するように、掘削動作判定を行い、走行要求トルクの増加速度をメインポンプ9の吐出圧(又はリフトシリンダ13のボトム側圧力)に応じて制限しても良い。次にこの場合を本発明の第3の実施の形態として説明する。
【0101】
図14は、本発明の第3の実施の形態に係るバケットロック判定部121で行われる掘削動作判定のフローチャートである。本実施の形態におけるバケットロック判定部121では、バケットロック判定に代えて掘削動作判定を行う。この図に示すフローチャートは、
図6のフローチャートからS1214を省略したものに相当し、バケットロック判定部121は、S1211からS1213までの処理を通じて掘削動作判定を行っている。なお、以下の説明では、説明を簡略化するため、駆動力制限スイッチ106は常にONとする。
【0102】
図15は、本発明の第3の実施の形態に係るトルク増加レート制限マップの一例を示す図である。本実施の形態に係る走行要求トルク演算部123は、この図に示したマップに基づいてトルク増加レート制限を設定する。図中の実線Aは、掘削動作判定が偽の場合に走行要求トルク演算部123がトルク増加レート制限の算出に利用するものであり、
図8,9に示したものと同じである。図中の破線Cは、掘削動作判定が真の場合に走行要求トルク演算部123がトルク増加レート制限の算出に利用するものである。破線Cの場合、トルク増加レート制限値は、メインポンプ9の吐出圧又はリフトシリンダ13のボトム側圧力(すなわち、メインポンプ9又はリフトシリンダ13に作用する負荷)が上昇するにつれて小さく設定される。なお、メインポンプ9の吐出圧はポンプ圧力センサ9sで検出すれば良く、リフトシリンダ13のボトム側圧力はメインポンプ9から当該ボトム側油圧室までの油圧回路に設置した圧力センサで検出すれば良い。
【0103】
このように構成される本実施の形態において、
図14のフローチャートによって行われるバケットロック判定部121の掘削動作判定が偽の場合(S1216B)、走行要求トルク演算部123は、第1の実施の形態と同様に
図15の実線Aに基づいて走行要求トルク前回値T
DR_zからトルク増加レート制限値dT
DUpを設定する。一方、掘削動作判定が真の場合(S1215B)は、
図15の破線Cに基づいてトルク増加レート制限値dT
DUpを設定する。すなわち、走行要求トルク演算部123は、メインポンプ9の吐出圧(又はリフトシリンダ13のボトム側圧力)が上昇するにつれてトルク増加レート制限値dT
DUpを小さく設定する。これにより、掘削動作判定が真のときのトルク増加レート制限値dT
DUpは、メインポンプ9の吐出圧又はリフトシリンダ13のボトム側圧力の上昇に応じて低減される。このようにメインポンプ9の吐出圧又はリフトシリンダ13のボトム側圧力の増加をバケットロックと擬制しても、先の実施の形態と同様に車輪スリップの発生を抑制することができる。
【0104】
なお、以上の各実施の形態では、ホイールローダを作業車両の例に挙げて説明したが、本発明は例えばフォークリフトにも適用可能である。フォークリフトでは、フォークの上昇指示をしたにも関わらず、運搬対象物の重さでフォークが持ち上がらない場合があるが、本発明によればこのような場合の車輪スリップを抑制することができる。