(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965649
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】型板移動装置、及びポケットセッター
(51)【国際特許分類】
D05B 21/00 20060101AFI20160728BHJP
D05B 35/04 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
D05B21/00
D05B35/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-7755(P2012-7755)
(22)【出願日】2012年1月18日
(65)【公開番号】特開2013-146325(P2013-146325A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2014年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 順也
【審査官】
新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−189685(JP,A)
【文献】
特開2009−011808(JP,A)
【文献】
特開平06−142382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 21/00
D05B 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポケットを載せる型板と、
前記型板を移動させるモーターと、を備え、
前記モーターを制御して、前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を可変可能とする制御部を有する型板移動装置であって、
前後方向に延びるように立設された機枠と、
前記機枠の一側面に配置され、一端側がプーリに、他端側が前記モーターの駆動プーリに掛け渡されるベルトと、
前記機枠の一側面に配置され、前記機枠に固定されたガイドレールと、
前記型板が固定さると共に、前記ガイドレールに摺動可能に支持される摺動部材と、
前記ベルトと前記摺動部材を連結する連結板と、を備え、
前記モーターは、その駆動軸が上下方向に沿うように、前記機枠に固定されていることを特徴とする型板移動装置。
【請求項2】
ポケットを載せる型板と、
前記型板を移動させるモーターと、を備え、
前記モーターを制御して、前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を可変可能とする制御部を有する型板移動装置であって、
前記制御部が、
前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を、前記モーターの制御により初めに低速としてから高速に切り換えることを特徴とする型板移動装置。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか一項に記載の型板移動装置と、
前記型板上のポケットを搬送する搬送体と、
前記搬送体により搬送されたポケットを身頃に縫製する縫製部と、を備え、
前記制御部が、ポケット形状により前記型板の移動距離を認識し、前記搬送体の動作タイミングを自動制御可能としたことを特徴とするポケットセッター。
【請求項4】
前記制御部が、
前記型板の先端が前記ポケットから抜ける所定移動距離に到達したと判断すると、前記搬送体を前記縫製部に向けて移動するように制御することを特徴とする請求項3に記載のポケットセッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポケットを載せる型板の移動装置と、その型板移動装置を備えるポケットセッターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、身生地にポケットを縫い付けるための縫製装置としてポケットセッターが知られている。ポケットセッターには、ポケット布の縁周りを内側に折り込む折込み装置と、この折込み装置によって折り込まれた状態のポケット布を身生地に縫い付けるミシンが設けられている。
ポケット布の折込み装置は、型板上に載置されたポケット布を押え板で挟み込み、次いで、シリンダによって駆動される折り刃を型板の下に前進させて、ポケット布の縁周りを型板の下側へ折り込むようになっている。
そして、型板に対するシリンダの向きや配置を任意に調整することで、様々なポケット形状にポケット布を折り分けることが可能な折込み装置を備えたミシンが知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
従来の型板移動装置では、型板上面部にポケットをセットし、上部よりポケット折り部材が下降し、型板と係合後、折り部材に搭載されている折り刃でポケット端部を織り込んでポケットを形成する。
ポケット形成後は、折り部材が上昇し、搬送体(布押え)が型板部まで移動し、ポケットを把持した後、型板移動シリンダで型板を後退させ、型板が完全にポケットより外れた位置にて搬送体が移動可能となり、ポケットをミシンへ搬送し、縫製を開始する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−256779号公報
【特許文献2】特開2000−300879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の型板移動装置は、シリンダで前進・後退させているため、ポケット縫製エリア最大の後退位置にて搬送体の移動を開始していた。このため、ポケットの大きさに関係なく、同タイミングで搬送体が移動開始するものとなっており、これが生産性に大きく影響を与えていた。
また、型板移動装置は、シリンダで前進・後退させているため、ポケット素材によりシリンダのエアー流量制御装置による調整は可能だが、移動途中での速度制御ができず、生産性を向上させることが難しかった。
【0006】
本発明の課題は、型板移動装置において、ポケット形状により型板移動距離を認識し、搬送体の動作タイミングを自動制御し、サイクルタイム短縮による生産性を大幅に向上することである。
また、本発明は、型板をポケットから引き抜く時の速度を可変可能とし、ポケット形状の安定化を大幅に向上し、縫製後の仕上がりが美しいポケットの縫製を可能とすることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
ポケットを載せる型板と、
前記型板を移動させるモーターと、を備える型板移動装置であって、
前記モーターを制御して、前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を可変可能とする制御部を有することを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項1に記載の発明は、
前後方向に延びるように立設された機枠と、
前記機枠の一側面に配置され、一端側がプーリに、他端側が前記モーターの駆動プーリに掛け渡されるベルトと、
前記機枠の一側面に配置され、前記機枠に固定されたガイドレールと、
前記型板が固定さると共に、前記ガイドレールに摺動可能に支持される摺動部材と、
前記ベルトと前記摺動部材を連結する連結板と、を備え、
前記モーターは、その駆動軸が上下方向に沿うように、前記機枠に固定されていることを特徴
とする。
また、請求項2に記載の発明は、
ポケットを載せる型板と、
前記型板を移動させるモーターと、を備え、
前記モーターを制御して、前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を可変可能とする制御部を有する型板移動装置であって、
前記制御部が、
前記ポケットから前記型板を引き抜く時の速度を、前記モーターの制御により初めに低速としてから高速に切り換えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2いずれか一項に記載の型板移動装置と、
前記型板上のポケットを搬送する搬送体と、
前記搬送体により搬送されたポケットを身頃に縫製する縫製部と、を備え、
前記制御部が、ポケット形状により前記型板の移動距離を認識し、前記搬送体の動作タイミングを自動制御可能とした
ポケットセッターを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、
請求項3に記載のポケットセッターであって、
前記型板の先端が前記ポケットから抜ける所定移動距離に到達したと判断すると、前記搬送体を前記縫製部に向けて移動するように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポケット形状により型板移動距離を認識し、搬送体の動作タイミングを自動制御し、サイクルタイム短縮による生産性を大幅に向上することができる。
また、型板をポケットから引き抜く時の速度を可変可能としたことで、ポケット形状の安定化を大幅に向上することが可能となり、縫製後の仕上がりが美しいポケットを縫製することができる。
また、装置の小型化を達成すると共に、型板を円滑に移動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したポケットセッターの一実施形態の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1の型板移動装置を左側方から見た拡大図である。
【
図3】ポケットから型板を引き抜く過程を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
なお、図示上下方向をZ方向、上下方向と直交する水平一方向をX方向(左右方向)、Z方向とX方向の双方に直交する方向をY方向(前後方向)とする。
【0015】
(実施形態)
図1は本発明を適用したポケットセッターの一実施形態の構成を示すもので、1はテーブル、2は型板、3は折込み機、4は搬送体、5は縫製部、6は操作表示部である。
【0016】
図示のように、ポケットセッターは、テーブル1に、図示しないポケットを載せる型板2と、その型板2上のポケットを折込んで図示しない身頃に位置合わせする折込み機3と、折り込まれたポケットと身頃を搬送する搬送体4と、その搬送体4により搬送されたポケットを身頃に縫製するミシンによる縫製部5と、操作表示部6とを備えている。
【0017】
図2は
図1の型板2の移動装置の拡大図で、11はガイドレール、12はベルト、13は型板2を移動させるモーターである。
【0018】
図示のように、型板2は、ガイドレール11に連結され、ベルト12を介してモーター13で駆動される。
図2に示すように、型板2の後方側には、型板移動装置の機枠32が配置されている。
【0019】
機枠32は上下方向(Z方向)と、前後方向(Y方向)延びるように設置され、ポケットセッターのフレームに固定されている。機枠32は左右方向(X方向)に占める空間を制限することにより、ポケットセッターが左右方向(X方向)に延びない。
機枠32の右側面(一側面)には、上側から順にモーター13と、ベルト12、ガイドレール11等が配置されている。
【0020】
機枠32の前後方向(Y方向)の後方側にはモーター支持板37が固定され、その前方側にはプーリ支持板33が固定されている。モーター支持板37には、モータ13がその駆動軸を下方に向けて固定されている。モーター駆動軸には駆動プーリ36が固定されている。モーター13は、その駆動軸が上下方向に沿うように、機枠37に固定されている。
【0021】
また、プーリ支持体33には、プーリ34が回転可能に支持されている。ベルト12は、一端側が駆動プーリ36に、他端側がプーリ34に掛け渡されている。すなわち、ベルト12は、機枠32の右側面(一側面)の前後方向(X方向)に沿って配置されると共に、一端側がプーリ34に、他端側がモーター13に設けた駆動プーリ36に掛け渡される。
【0022】
ベルト12に下方には、ガイドレール11が配置される。ガイドレール11は機枠32の右側面(一側面)の前後方向(X方向)に沿って配置され、不図示のネジにより機枠32に固定されている。
【0023】
ガイドレール11には、摺動部材40が前後方向に摺動可能に支持されている。摺動部材40の一端側には、固定部材42、43を介して、型板2が固定されている。
【0024】
また、ベルト12は、連結板39と把持板38に把持されている。連結板39は上下方向に延びており、連結板39の下端側は、摺動部材40にネジ固定されている。連結板39は、ベルト12と摺動部材40を連結している。
このため、モーター13が回転すると、ベルト12、連結板39を介して、摺動部材40と型板2が前後方向に沿って移動する。
【0025】
モーター13はエンコーダ付きである。従って、型板2は、モーター13の駆動により位置制御が可能である。このため、型板2の先端部が折り込まれたポケット21の後端部から外れたと同時に、搬送体4を移動させることが可能となり、縫い形状を自動認識し、搬送体4の移動開始時間を減少させることにより縫製サイクルタイムが短縮でき、大幅に生産性向上を図ることが可能となる。
【0026】
また、型板2をモーター13で駆動することにより、ポケットから型板2を引き抜く速度を制御可能となり、ポケット形状の安定化を図ることが可能となる。
【0027】
ここで、ポケット形状はサイズにより異なるので、サイズが異なると型板2の移動方向に大きく変化する。
すなわち、異なるポケットの大きさで型板2の移動量が変化するため、この移動量を監視し、搬送体4の動作タイミングを同期させることにより、そのパターンの最適な動作タイミングを得ることが可能となる。
【0028】
また、型板2が前進した位置で折込み機3の位置と係合するが、作業者より型板2の位置が遠く、セットしずらいという作業性も改善するため、型板2を折込み機3との係合位置より更にオペレーター側へ移動している。
従って、ポケットセット後に、型板2が折込み機3の係合位置へ後退することにより、セット性を向上させることが可能となる。
【0029】
図3及び
図4はポケット21から型板2を引き抜く過程を示したもので、折込み機3にてポケットが形成されて、ポケット21及び型板2に搬送体4が下降し、形成されたポケット21が挟持された状態で、型板2をポケット開口部より引き抜く。
ところが、型板2を基準としてポケット形状を成型しているため、引き抜き速度によりポケット口折り部22が型板2の引き抜き方向と同方向に引き出され、ドックイヤー(口折り部のズレ)が発生し、ポケット形状の品質劣化に大きく影響する。
【0030】
このため、後述する制御部31が、型板2を引く抜き時の速度を初めに低速とし、口折り部22が型板2との係合部を過ぎた位置で速度を高速化することにより、口折り部22のズレを解消することができ、ポケット形状の品質を大きく高めることが可能となる。
【0031】
すなわち、
図5は型板移動のブロック構成を示すもので、制御部31は、モーター13の駆動をエンコーダ14からの信号でフィードバック制御する。制御部31には操作表示部6が接続されている。
【0032】
なお、制御部31は、不図示のプログラムが格納されたROMと、演算処理の作業領域地となるRAMと、縫製データを記憶する記憶手段としての不揮発性のデータメモリと、ROM内のプログラムを実行するCPUとを備えていると好ましい。また、データメモリに格納されている縫製データには、所定の縫製パターンを縫製するための搬送体4の一針ごとのX軸モーター及びY軸モーターの動作量が順番に記憶されている。CPUは、縫製の際には、一針ごとにX軸モーター及びY軸モーターの動作量を読み込むと共に当該各動作量に応じてX軸モーター及びY軸モーターを駆動して、搬送体4の動作制御を行うと好ましい。そして、制御部31は、ポケットセッターの装置全体、型板2、折込み機3、搬送体4、縫製部5を制御してもよい。
【0033】
図6は、制御部31による型板2の移動制御等を説明するためのフローチャートである。
【0034】
最初に、操作表示部6での入力情報や、データメモリの縫製データ等からポケット形状を認識する。このポケット形状には、ポケットの前後方向長さや折込み長さが含まれている。また、制御部31はモーター13を駆動して、
図2に示す前後方向(Y方向)の後端側の初期位置から手前側の前進位置に、型板2を移動させる(ステップS1)。
そして、前進位置でポケット布を型板2に載置した後、折込み機3が下降してポケット布を織り込む。その後、折込み機3が上昇し、ポケット21及び型板2に搬送体4が下降し、形成されたポケット21が挟持された状態となる。
【0035】
次に、モーター13を低速、例えば1000rpmで駆動して、型板2を前進位置から初期位置に向けて移動する(ステップS2)。
【0036】
次に、例えば型板2が前進位置から20mm後退した第1所定移動距離に到達したか否かを判断する(ステップS3)。
【0037】
次に、第1所定移動距離に到達すると、モーター13を高速、例えば3000rpmに切り換えて、型板2を初期位置に向けて移動する(ステップS4)。
【0038】
次に、型板2の先端がポケット22から抜ける第2所定移動距離(所定移動距離)に到達したか否かを判断する(ステップS5)。
【0039】
次に、型板2が第2所定移動距離(所定移動距離)に到達すると同時、または、それ以降の微小時間経過後、搬送体4とポケット22と不図示の身頃とを縫製部5に向けて移動する。そして、縫製データに基づいて、搬送体4とミシンが駆動されてポケット22を身頃に縫いつける。
【0040】
また、型板2は、第2所定移動距離に到達した後、さらに、高速で駆動され、初期位置に到達すると、モーター13の駆動を停止し、処理を終了する。
【0041】
以上説明したように、実施形態のポケットセッターによれば、制御部31が、ポケット形状により型板2の移動距離を認識し、搬送体4の動作タイミングを自動制御し、サイクルタイム短縮による生産性を大幅に向上することができる。
また、型板2を作業者側へ移動させることにより、ポケットセット性を大幅に向上することができる。
そして、制御部31が、モーター13を制御して、型板2をポケットから引き抜く時の速度を可変可能としたことで、ポケット形状の安定化を大幅に向上することが可能となり、縫製後の仕上がりが美しいポケットを縫製することができる。
【0042】
(変形例)
以上の実施形態の他、具体的な細部構造等について適宜に変更可能であることは勿論である。例えば、制御部31はポケットセッターの装置全体を制御するようにしたが、これに代えて、制御部31が型板のみ制御して、ポケットセッター全体は他の制御部が制御することも容易に考えられる。この場合、他の制御部からの信号により、制御部31が型板の位置を制御する。
また
図2に示すように、型板2は、摺動部材40の一端側に、固定部材42、43を介して、不図示のネジにより固定されている。これに代えて、固定部材42を摺動部材40側に近ずけて配置させ、不図示の固定部材を加えて固定することも容易に考えられる。
【符号の説明】
【0043】
1 テーブル
2 型板
3 折込み機
4 搬送体
5 縫製部
6 操作表示部
11 ガイドレール
12 ベルト
13 モーター
14 エンコーダ
21 ポケット
22 口折り部
31 制御部
32 機枠
34 プーリ
36 駆動プーリ
40 摺動部材
39 連結板