特許第5965670号(P5965670)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965670
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】熱処理木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-44979(P2012-44979)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-180460(P2013-180460A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】松永正弘
(72)【発明者】
【氏名】木口 実
(72)【発明者】
【氏名】片岡 厚
(72)【発明者】
【氏名】松井宏昭
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−216438(JP,A)
【文献】 特開平03−108501(JP,A)
【文献】 特開昭56−135004(JP,A)
【文献】 特開2003−285301(JP,A)
【文献】 特開2005−246872(JP,A)
【文献】 特開2008−179099(JP,A)
【文献】 特開昭59−101311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 5/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界二酸化炭素中で平均含水率が10.7〜16.7%である木材を7.4〜30MPaの加圧圧力および150〜250℃の加熱温度で加圧加熱することを特徴とする熱処理木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い寸法安定性と耐朽性を有する熱処理木材の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、超臨界二酸化炭素中で木材を加熱することを特徴とする熱処理木材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木材を利用する際には、水や湿気による寸法安定性や、木材腐朽菌による腐朽、シロアリによる食害を防ぐために、通常何等かの保存・改質処理が施される。その一方で、地球環境や利用者の健康に対するユーザーの関心も年々高まっており、薬剤や有機溶媒を使用しない木材保存・改質処理を望む声は大きくなっている。
【0003】
近年、フィンランドを始めとするヨーロッパ諸国において、寸法安定性や耐朽性に優れた材料として熱処理木材(thermally modified wood, heat treated wood)が開発された。
【0004】
熱処理木材とは、窒素雰囲気下(乾式)や水蒸気中(湿式)で、150〜240℃の高温処理を数十時間行ったノンケミカル処理木材のことである。その性能発現機構は十分には明らかになっていないが、木材の主要成分であるヘミセルロースの分解とセルロース結晶化度の増加、リグニンの解重合と再結合といった熱処理時の変性等によって木材の平衡含水率が低下し、寸法安定性や耐朽性が向上するといわれている。
【0005】
乾式の熱処理方法としては特許文献1が、湿式の熱処理方法としては特許文献2、特許文献3などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−135004号公報
【特許文献2】特開平3−231802号公報
【特許文献3】特表平9−502508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、木材を加熱して処理する従来の方法は、高湿・長時間処理するため木材の強度が低下したり、また多量の投入エネルギーを要するなど、改善すべき問題点を多く抱えている。
【0008】
本発明が完成しようとする課題は、強度低下と、投入エネルギーが少なく、高い寸法安定性と耐朽性を持った熱処理木材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、拡散浸透性に優れ、高い密度を持つ超臨界二酸化炭素中で木材を熱処理することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
(1) 超臨界二酸化炭素中で木材を加圧加熱することを特徴とする熱処理木材の製造方法。
(2) 前記加圧圧力が7.4〜30MPaであることを特徴とする(1)に記載の熱処理木材の製造方法。
(3) 前記加熱温度が150〜250℃であることを特徴とする(1)または(2)記載の熱処理木材の製造方法。
(4) 木材を収容する耐圧容器と、耐圧容器に備えられた大気圧解放用バルブと、二酸化炭素を充填した充填容器と、該充填容器から耐圧容器に流体を加圧注入する加圧ポンプと、耐圧容器内を加熱する加熱器を備えたことを特徴とする熱処理木材の製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱処理木材の製造方法は、強度低下と、投入エネルギーが少なく、高い寸法安定性を持った熱処理木材を製造することができる。また、従来法による熱処理では木材の耐朽性が向上することが報告されており、本発明によって製造された熱処理木材にも高い耐朽性が付与されると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の熱処理木材の製造装置の一実施態様を示すフロー図。
図2】平衡含水率と相対湿度の関係を示すグラフ。
図3】各試片のASEを示すグラフ。
図4】ASEと処理時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において加熱媒体として用いられる超臨界二酸化炭素とは、臨界点(31℃、7.4MPa)以上の二酸化炭素のことであり、液体のように高密度でありながら、気体のように拡散浸透性に優れた、気体でも液体でもない、特別な性質を持った流体である。
【0014】
熱処理木材を製造するには、まず木材を耐圧容器に入れて密封する。本発明に用いられる耐圧容器は、加熱処理しようとする木材を収容でき、超臨界二酸化炭素を保持できる容器であれば特に限定されないが、円筒形の方が超臨界の高圧状態にも耐えやすくなるためより望ましい。また、材質は耐食性に優れたステンレス鋼、例えばSUS316などが望ましい。
【0015】
このとき、処理対象となる木材の樹種や形状などは特に限定されない。木材の含水率(木材実質に対する水分の質量百分率)も特に限定されないが、30%以下であることが望ましい。また、少量の水を添加させることでヘミセルロースの分解が促進されるので、耐圧容器の容量1リットルに対して10g以下の水をあらかじめ注入しておく場合もある。
【0016】
次に超臨界二酸化炭素を耐圧容器内に充填し、所定の温度・圧力まで昇温昇圧させる。あるいは二酸化炭素の加圧充填が終わってから耐圧容器を加熱して二酸化炭素を超臨界状態としてもよい。
【0017】
本発明における超臨界二酸化炭素の温度・圧力条件は、温度が150〜250℃、好ましくは、180〜240℃、圧力が7.4〜30MPa、好ましくは、10〜20MPaの範囲である。昇温昇圧後はしばらくその状態を保持し、木材の内部まで十分に加熱させる。加熱時間は30分〜24時間、好ましくは1〜8時間の範囲である。そして熱処理終了後、耐圧容器内の圧力を開放し、熱処理した木材を取り出す。
【0018】
例えば、寸法が50mm(L)×20mm(R)×20mm(T)のスギ心材(含水率:約10.7%)を220℃/10MPaの超臨界二酸化炭素中で1時間熱処理したところ、木材の寸法安定性を示す抗膨潤能(以下ASEと略す)は63.9%となった。さらに、含水率が約16.7%のスギ心材を220℃/10MPaの超臨界二酸化炭素中で1時間熱処理した場合のASEは69.5%であった。これは水分に対する寸法変化が未処理材の1/3未満に抑制されたことを意味している。本発明の反応機構については現在検討中であるが、超臨界二酸化炭素の持つ高い密度と拡散浸透力によって熱が素早く伝わり、木材内部まで短時間で昇温されたことによるものと推測される。また、含水率の高い木材を熱処理した方がより高いASEを示したのは、少量の水分の存在がヘミセルロース等の木材成分の分解を促進したことや、熱伝導率の高い水分の存在によって木材内部まで昇温される時間がより短くなったことなどが考えられる。本発明によって処理時間の短縮や処理温度の低下が可能になれば、エネルギー投入量を大幅に削減できると予想される。また、高温・長時間の熱処理では木材の強度低下が懸念されるが、処理時間が短縮されることで、強度低下も最低限に抑えられることが期待される。
【0019】
図1に本発明の熱処理木材の製造装置の一実施形態を図示する。
【0020】
1は木材が密閉される耐圧容器であり、この耐圧容器1には内部圧力を大気圧まで減圧するための大気圧解放用バルブ2と減圧速度を調節するための背圧弁10が設けられている。さらに耐圧容器1には内部の圧力と温度を測定するための圧力計4と温度計5が備えられている。
【0021】
二酸化炭素が充填された充填容器9からバルブ8、加圧ポンプ7及びバルブ6を介して流体が耐圧容器1に加圧充填される。加圧充填された二酸化炭素はヒーター3により加熱され、木材は超臨界二酸化炭素中で加熱される。一定時間超臨界状態を保持した後、バルブ2を解放して容器内の圧力を大気圧まで減圧する。
【実施例1】
【0022】
あらかじめ全乾質量と寸法を測定しておいたスギ心材試片(50mm(L)×20mm(R)×20mm(T))を用意した。そして、全乾状態のままの試片と、温度20℃・相対湿度64%の恒温恒湿室で3週間以上調湿した試片(平均含水率:10.7%)、温度20℃・相対湿度87%の恒温恒湿室で3週間以上調湿した試片(平均含水率:16.7%)、の3種類を用いた。調湿した試片は質量と寸法を測定して、以下の式により含水率を算出した。
【0023】
【数1】
【0024】
次に、容量0.9リットルの耐圧容器内に同じ条件で調湿した試片を4本入れて密閉した。そして、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を容器内に充填させ、180,200,220℃/10MPaまで昇温昇圧させて超臨界二酸化炭素の状態にした。熱処理は1時間もしくは6時間行い、処理後は容器内の圧力を大気圧まで減圧して試片を取り出した。そして、60℃の乾燥器で48時間減圧乾燥し、質量と寸法を測定して、質量減少率(WL)を求めた。そして、処理試片を温度と相対湿度がそれぞれ20℃/33%、20℃/64%、20℃/87%の恒温恒湿室内でそれぞれ3週間以上調湿し、試片の質量および寸法を測定して、平衡含水率と、水分に対する寸法安定性を示す抗膨潤能(ASE)を算出した。ASEは以下の式により算出した。
【0025】
【数2】
【0026】
熱処理による試片の質量減少率を表1に示す。処理温度が高く、前もって高湿度で調湿した試片ほど質量減少率が大きくなる傾向が見られた。これは、温度が高く、試片内の水分量が多い試片ほど木材成分の分解反応が促進されているためと推測される。また、平衡含水率は、処理温度が高く、前もって高湿度で調湿した試片ほど低くなる傾向が見られた。例として、20℃/相対湿度64%調湿試片を熱処理した後に各相対湿度で調湿したときの平衡含水率を図2に示すが、処理温度の上昇に伴い平衡含水率が低下しているのがわかる。これは木材成分の分解による水分吸着点の減少に因るものと推測される。
【0027】
熱処理試片のASEを図3に示す。処理温度が高く、前もって高湿度で調湿した試片ほどASEは高くなり、個体間のバラツキも小さくなった。また、ASEは220℃処理で最高約70%に達した。
【0028】
20℃/相対湿度64%調湿試片を用いた熱処理について、処理時間が1時間と6時間の2種類について比較実験を行った。その結果を図3に示す。処理時間を長くすることでASEは高くなり、個体間のバラツキも小さくなった。また、特に180℃、200℃の比較的低温での処理において、処理時間を長くすることによるASEの向上および品質安定化の効果が顕著であった。
【0029】
これらの結果から、本発明による熱処理によって寸法安定性に優れた熱処理木材が製造できること、特に処理温度が高く、前もって高湿度で調湿した試片では高品質の熱処理木材が安定的に製造できることが明らかとなった。
【0030】
【表1】
【実施例2】
【0031】
実施例1よりも試片寸法の大きなスギ心材試片(100mm(L)×50mm(R)×40mm(T))について、温度20℃・相対湿度65%の恒温恒湿室で3週間以上調湿した試片と、温度20℃・相対湿度87%の恒温恒湿室で3週間以上調湿した試片、の2種類を用意した。調湿した試片は質量と寸法を測定して、含水率を算出した後、容量0.9リットルの耐圧容器内に試片を1本入れて密閉した。そして、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を容器内に充填させ、220℃/10MPaまで昇温昇圧させて超臨界二酸化炭素の状態にした。熱処理は1時間行い、処理後は容器内の圧力を大気圧まで減圧して試片を取り出した。そして、60℃の乾燥器で48時間減圧乾燥し、質量と寸法を測定して、質量減少率(WL)を求めた。そして、処理試片を温度と相対湿度が20℃/64%の恒温恒湿室内で3週間以上調湿し、試片の質量および寸法を測定して、平衡含水率とASEを算出した。
【0032】
熱処理による試片の質量減少率とASEを表2に示すが、試片寸法が大きくなっても処理条件が同じであればASEの値がほぼ同じであることが分かる。また、質量減少率は試片寸法の大きい方が若干高い値を示しており、熱処理によるヘミセルロース等の熱分解反応が順調に進行していることが推測される。
【0033】
以上の結果から、本発明による熱処理が試片寸法を大きくしても適用できることが明らかとなった。
【0034】
【表2】
【実施例3】
【0035】
気乾状態のスギ心材試片(100mm(L)×6mm(R)×6mm(T))を用いて、本発明による熱処理と、従来の乾式法による熱処理を実施し、両者の強度比較を行った。本発明による熱処理は、容量0.9リットルの耐圧容器内に気乾試片を3本入れて密閉し、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を容器内に充填させ、200℃/10MPaの温度・圧力で6時間、もしくは220℃/10MPaの温度・圧力で1時間の処理を行った。処理後は容器内の圧力を大気圧まで減圧して試片を取り出した。従来の乾式法による熱処理は、容量0.9リットルの耐圧容器内に気乾試片を3本入れて密閉し、容器内の空気を大気圧の窒素ガスに置換して、200℃で6時間、もしくは220℃で1時間の処理を行った。強度測定は、二点支持中央集中加重方式によって繊維方向の応力−ひずみ図を作成し、曲げヤング率(MOE)および曲げ強さ(MOR)を測定した。
【0036】
実験結果を表3に示す。従来の乾式法による熱処理試片のMOEおよびMORは、未処理試片と比較すると低い値となった。一方、本発明による熱処理試片のMOEおよびMORも未処理試片より低い値を取ったが、乾式法ほど低い値ではなかった。特に220℃・1時間処理では未処理試片のMOEおよびMORとの差はわずかであった。
以上の結果から、従来の乾式法と比べ、本発明による処理法ではMOEおよびMORの低下が抑えられることが示された。なお、この実施例では本発明による処理法と従来法を同じ処理条件で比較しているが、本発明を用いることで処理時間の短縮が期待されるため、強度低下がさらに抑えられる可能性がある。
【0037】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、強度低下と、投入エネルギーが少なく、高い寸法安定性と耐朽性を持った熱処理木材を製造できるので、森林資源の有効活用として有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 耐圧容器
2 大気圧解放用バルブ
3 ヒーター
4 圧力計
5 温度計
6 バルブ
7 加圧ポンプ
8 バルブ
9 充填容器
10 背圧弁
図1
図2
図3
図4