特許第5965695号(P5965695)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965695
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】ガスセンサおよび排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   G01N27/409 100
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-77184(P2012-77184)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-205349(P2013-205349A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 弘宣
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 健介
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−174692(JP,A)
【文献】 特開昭61−045962(JP,A)
【文献】 特開平06−123728(JP,A)
【文献】 特開平07−218468(JP,A)
【文献】 特開2006−184252(JP,A)
【文献】 特開平02−276957(JP,A)
【文献】 特開平06−258283(JP,A)
【文献】 特開2007−040726(JP,A)
【文献】 特開平10−282046(JP,A)
【文献】 特開2009−255029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406−27/41
G01N 27/416−27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物イオン伝導性の固体電解質体(2)と、
該固体電解質体(2)の一方面に設けられ、被測定ガスを接触させるための被測定ガス側電極(3)と、
上記固体電解質体(2)の他方面に設けられ、基準ガスを接触させるための基準ガス側電極(4)とを有するガスセンサ素子(1A、1B)を有しており、
センサ出力がλ曲線を描く起電力検出型の酸素センサであり、
少なくとも上記被測定ガス側電極(3)は、PtまたはPt合金(5)とBa化合物(6)とを含有しており、上記PtまたはPt合金(5)と上記Ba化合物(6)とが直接接触しており、
上記Ba化合物(6)は、BaSO、BaZrO、および、Baのスピネル型酸化物から選択される少なくとも1種であることを特徴とするガスセンサ(7)
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサ(7)であって、
上記被測定ガス側電極(3)は、
上記PtまたはPt合金(5)より形成され、上記固体電解質体(2)に接するPt含有層(31)と、該Pt含有層(31)に接し、かつ上記Ba化合物(6)より形成されたBa含有層(32)とを有することを特徴とするガスセンサ(7)
【請求項3】
請求項1または2に記載のガスセンサ(7)であって、
上記Ba化合物(6)は粒子状であることを特徴とするガスセンサ(7)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスセンサ(7)であって、
上記被測定ガス側電極(3)の表面におけるPt原子数に対するBa原子数の比は、0.2以上であることを特徴とするガスセンサ(7)
【請求項5】
排ガスを浄化するための触媒(81)と、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスセンサ(7)とを含む排ガス浄化装置(8)であって、
上記触媒(81)に使用される貴金属の総量が5.0g/L以下であることを特徴とする排ガス浄化装置(8)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサおよび排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン等の内燃機関から排気される排ガスを浄化するため、内燃機関の下流側に排ガス浄化装置が設けられている。排ガス浄化装置は、例えば、排ガスを浄化するための三元触媒と、センサ出力により排ガス中の空気過剰率(λ)を検出するガスセンサとを有している。排ガス浄化装置は、三元触媒を通過した後の排ガスの空気過剰率(λ)を内燃機関の制御部にフィードバックし、三元触媒が有効に機能するように内燃機関の運転条件を制御することより排ガスを浄化している。
【0003】
具体的には、排ガス中に含まれるNOxは、一般に、空気過剰率λが1以下のリッチ領域から空気過剰率λが1であるストイキまでの間においてはほとんど排出されず、空気過剰率λが1より大きいリーン領域において主に排出される。そのため、正確にストイキ(λ=1)を検出できるガスセンサを用い、検出される空気過剰率λがリーン領域に入らないように内燃機関を制御することにより、NOxの排出抑制が行われている。
【0004】
上記ガスセンサとしては、酸化物イオン伝導性の固体電解質とPt電極とからなるガスセンサ素子を有するものが知られている。また、これ以外にも、特許文献1には、上記ガスセンサ素子において、被測定ガス検出側のPt電極の表面のみに、バリウム、アルミニウム、セリウム、クロム、鉄およびコバルトからなる元素のうちから選択された少なくとも1種の金属が添加され、かつ、Ptと上記添加金属とが直接結合してなるガスセンサ素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3534149号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のガスセンサ素子は以下の点で改良すべき点がある。
すなわち、上記ガスセンサ素子は、被測定ガス検出側のPt電極の表面において、Ptと特定の異種元素とを結合させており、Ptと異種元素とは強い相互作用を有している。そのため、このガスセンサ素子を用いたガスセンサは、Hに対しては従来のガスセンサと同等のセンサ出力を発生することができる。しかし、Ba、Crを結合させた場合、COに対して低いセンサ出力を発生する。また、Ba、Cr、Fe、Ceを結合させた場合、パラフィン系炭化水素に対して低いセンサ出力を発生する。
【0007】
このような特性を示す上記ガスセンサ素子は、CO、パラフィン系炭化水素に対するPtの触媒性能(酸化性能)が著しく低下する。そのため、リッチ雰囲気において電極がOを消費できなくなる。その結果、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下し、空気過剰率対センサ出力の特性における曲線(以下、λ曲線ということがある。)も、リッチ領域でセンサ出力が緩やかに変化する形状を呈するようになる。それ故、ガスセンサ素子は、制御に使用できるセンサ出力範囲が狭くなり、NOxの低減に有用なリッチ側の空気過剰率を精度よく検出することが困難である。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、従来に比べ、リッチ領域の空気過剰率を精度よく検出することが可能なガスセンサ素子を有するガスセンサを提供しようとするものである。また、このガスセンサを用いた排ガス浄化装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、酸化物イオン伝導性の固体電解質体と、
該固体電解質体の一方面に設けられ、被測定ガスを接触させるための被測定ガス側電極と、
上記固体電解質体の他方面に設けられ、基準ガスを接触させるための基準ガス側電極とを有するガスセンサ素子を有しており、
センサ出力がλ曲線を描く起電力検出型の酸素センサであり、
少なくとも上記被測定ガス側電極は、PtまたはPt合金とBa化合物とを含有しており、上記PtまたはPt合金と上記Ba化合物とが直接接触しており、
上記Ba化合物は、BaSO、BaZrO、および、Baのスピネル型酸化物から選択される少なくとも1種であることを特徴とするガスセンサにある。
【0010】
(削除)
【0011】
本発明の他の態様は、排ガスを浄化するための触媒と、上記ガスセンサとを含む排ガス浄化装置であって、上記触媒に使用される貴金属の総量が5.0g/L以下であることを特徴とする排ガス浄化装置にある。
【発明の効果】
【0012】
上記ガスセンサにおけるガスセンサ素子の被測定ガス側電極は、PtまたはPt合金とBa化合物とを含有しており、PtまたはPt合金とBa化合物とが直接接触する構成を有している。そのため、上記ガスセンサ素子のλ曲線は、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ領域にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈することができる。これは以下の原理によるものと推察される。
【0013】
すなわち、Ba化合物は、PtまたはPt合金を酸化された状態で安定化する作用を有している。Ba化合物の添加によって酸化された状態で安定化したPtまたはPt合金は、金属状態のPtまたはPt合金と比較して、パラフィン系炭化水素に対する酸化性能が適度に低下する。そのため、リッチ雰囲気であるにも関わらず、被測定ガス側電極上にてOが余り、この余ったOを検出することによってセンサ出力が低下する。なお、Ba化合物の添加は、パラフィン系炭化水素に対する酸化反応の抑制に効果があるが、被測定ガス中のCO、H等の他のガスの酸化反応にはほとんど影響を与えることがない。その一方、リッチ雰囲気においては、上記酸化された状態で安定化したPtまたはPt合金が、金属状態のPtへ戻る還元反応が進行する。そのため、PtまたはPt合金が本来有する、パラフィン系炭化水素に対する酸化性能を発揮するようになる。以上により、上記形状を呈するλ曲線を有するガスセンサ素子が得られるものと推察される。
【0014】
従来知られるように、Pt電極を用いたガスセンサ素子は、空気過剰率λが1のときにセンサ出力が急峻に変化するλ曲線を有している。これに対し、上記ガスセンサにおけるガスセンサ素子は、リッチ領域のセンサ出力を、Pt電極を用いたガスセンサ素子とほぼ同等に維持したまま、センサ出力が急峻に変化するときの空気過剰率(以下、λ点ということがある。)をリッチ側へシフトさせることができる。
【0015】
よって、本発明によれば、制御に使用できるセンサ出力範囲が広くなり、NOxの低減に有用なリッチ領域の空気過剰率を精度よく検出することが可能なガスセンサ素子を有するガスセンサを提供することができる。
【0016】
また、従来のガスセンサを用いる従来の排ガス浄化装置は、排ガスを浄化する触媒に使用される貴金属量を低減させると、ストイキ(λ=1)近傍からでもNOxが排出されることが判明している。この現象は、特に耐久劣化後において顕著である。
【0017】
しかしながら、上記排ガス浄化装置は、上記ガスセンサ素子を有するガスセンサを用いている。そのため、NOxが排出されにくいリッチ領域にて内燃機関等の運転を制御することが可能となる。触媒に使用される貴金属の総量が5.0g/L以下に低減された場合であっても、NOx排出量を抑制することができる。したがって、上記排ガス浄化装置は、貴金属量の低減とNOx排出量の低減とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1における、ガスセンサ素子の全体を説明するための図である。
図2】実施例1における、ガスセンサ素子の各部を説明するための図である。
図3】実施例1における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図4】実施例1における、ガスセンサを説明するための図である。
図5】実施例1における、排ガス浄化装置を説明するための図である。
図6】実施例1において作製した試料1〜3および比較試料のガスセンサ素子に、Cを供給した時の空気過剰率λ対センサ出力の関係(静的λ特性)を示した図である。
図7】実施例1における、試料4、5および比較試料のガスセンサ素子に、Cを供給した時の空気過剰率λ対センサ出力(起電力)の関係(静的λ特性)を示した図である。
図8】実施例1における、試料5および比較試料のガスセンサ素子に、COを供給した時の空気過剰率λ対センサ出力(起電力)の関係(静的λ特性)を示した図である。
図9】実施例1における、試料5および比較試料のガスセンサ素子に、Hを供給した時の空気過剰率λ対センサ出力(起電力)の関係(静的λ特性)を示した図である。
図10】実施例1における、被測定ガス側電極の表面におけるPt原子数に対するBa原子数の比(Ba/Pt値)と0.55Vにおけるλ点のリッチ側へのシフト量との関係を示した図である。
図11】実施例1における、試料2または比較試料のガスセンサ素子を有する排ガス浄化装置に用いた触媒中の貴金属の総量とNOx排出量との関係を示した図である。
図12】実施例2における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図13】実施例3における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図14】実施例4における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図15】実施例5における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図16】実施例6における、ガスセンサ素子の電極構造を拡大して模式的に示した図である。
図17】実施例7における、ガスセンサ素子の各部を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記ガスセンサについて説明する。上記ガスセンサにおける上記ガスセンサ素子において、被測定ガス側電極は、Pt、Pt合金のうちのいずれか一方を含有していてもよいし、Pt、Pt合金の両方を含有していてもよい。以下、Pt(白金)、Pt合金(白金合金)をまとめて「Pt等」ということがある。被測定ガス側電極は、Pt等以外にもBa化合物を含有している。上記にいう「Ba化合物」とは、Ba(バリウム)を含有する化合物を意味する。
【0020】
上記Ba化合物は、BaSO、BaZrO、および、Baのスピネル型酸化物から選択される少なくとも1種である。そのため、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ領域にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈するλ曲線を有するガスセンサ素子を得やすい。また、上記ガスセンサ素子は、Baの状態を酸素分圧によらずに安定化させることができる。そのため、酸素が不足するリッチ領域、酸素が過剰なリーン領域のいずれの雰囲気中であっても、Baの状態変化を抑制することができる。その結果、Pt等の酸化状態に及ぼす影響を低減することが可能となり、リッチ領域とリーン領域との間を繰り返し行き来させた場合でも、ガスセンサ素子のλ曲線にヒステリシスが生じ難くなる。それ故、ガス組成だけに依存してリッチ領域の空気過剰率を精度よく検出することが可能なガスセンサ素子を得やすい。また、上記Ba化合物が、BaZrO、および/または、Baのスピネル型酸化物である場合には、リッチ、リーンを繰り返したときにおける、上記特定形状のλ曲線のヒステリシス幅を低減させやすい。上記Baのスピネル型酸化物としては、例えば、BaAlなどを例示することができる。
【0021】
上記Ba化合物が、Baの硫酸塩、Baの炭酸塩、Baの複合酸化物、および、Baの酸化物から選択される少なくとも1種を含む場合には、リッチ領域のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ領域にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈するλ曲線を有するガスセンサ素子を得やすくなる。
【0022】
(削除)
【0023】
(削除)
【0024】
上記Ba化合物は、より好ましくは、BaSO、BaZrO、および、BaAlから選択される1種または2種以上より構成することができる。上述したλ曲線のヒステリシス抑制効果が大きくなるからである。
【0025】
なお、被測定ガス側電極は、Pt等やBa化合物以外にも、PdやRh等の白金族元素、Au、Ag、製造上不可避な不純物等を含有することができる。被測定ガス側電極におけるPt等の含有量、Ba化合物の含有量は、その種類や組み合わせに応じて、最適なセンサ特性が得られるように選択することができる。被測定ガス側電極は、被測定ガスの酸化性能、センサの感度などの観点から、被測定ガス側電極の主成分(被測定ガス側電極の50質量%以上)をPt等とすることができる。被測定ガス側電極中におけるPt等の含有量は、好ましくは、50質量%以上99質量%以下、より好ましくは、75質量%以上95質量%以下とすることができる。被測定ガス側電極中におけるBa化合物の含有量は、好ましくは、1質量%以上50質量%未満、より好ましくは、5質量%以上25質量%以下とすることができる。
【0026】
ここで、上記被測定ガス側電極は、Pt等とBa化合物とが直接接触している部分を有している。なお、上記被測定ガス側電極は、Pt等とBa化合物とが直接接触していない部分も含み得る。
【0027】
上記被測定ガス側電極は、Pt等とBa化合物とが直接接触した部分を有しておれば、その電極構造は、特に限定されるものではない。上記被測定ガス側電極は、例えば、<1>Pt等より形成され、固体電解質体に接するPt含有層と、このPt含有層に接し、かつBa化合物より形成されたBa含有層とを有する構成とすることができる。また、被測定ガス側電極は、例えば、<2>Pt等中にBa化合物が分散されている構成とすることもできる。
【0028】
前者の電極構造<1>の場合には、Pt含有層における被測定ガス側電極の表面のPt等に、Ba含有層におけるBa化合物を直接接触させやすくなる。被測定ガス側電極の表層は、被測定ガスが接触しやすい。そのため、PtまたはPt合金のパラフィン系炭化水素に対する酸化反応を抑制しやすくなる。なお、製造時の熱による拡散等の影響などにより、Pt含有層には、Ba化合物の一部が存在していてもよく、Ba含有層には、Pt等の一部が存在していてもよい。
【0029】
一方、後者の電極構造<2>の場合には、被測定ガス側電極中に含まれるPt等とBa化合物とを直接接触させやすくなる。具体的には、被測定ガス側電極中に含まれるPt等の周囲にBa化合物が配置された状態にて両者を接触させることができる。そのため、被測定ガス側電極の内部においても、パラフィン系炭化水素に対する酸化反応を抑制しやすくなる。それ故、いずれの電極構造の場合であっても、リッチ領域のセンサ出力をほぼ従来と同等に維持したまま、λ点をリッチ側へシフトさせることができるという効果を確実なものとすることができる。
【0030】
また、上記被測定ガス側電極において、Ba化合物は粒子状とすることができる。この場合には、Pt等と粒子状のBa化合物とが直接接触しやすくなる。そのため、リッチ領域のセンサ出力をほぼ従来と同等に維持したまま、λ点をリッチ側へシフトさせることができるという効果を確実なものとすることができる。さらに、Pt等を粒子状とした場合には、粒子状のPt等と粒子状のBa化合物とが直接接触しやすくなる。そのため、上記効果をより確実なものとすることができる。
【0031】
粒子状のPt等における平均粒子径としては、耐熱性、電気伝導性、ガス拡散性等の観点から、好ましくは0.02〜2μm、より好ましくは0.1〜1μmの範囲内とすることができる。また、粒子状のBa化合物における平均粒子径としては、耐熱性、ガス拡散性、粒子状のPt等との接触性等の観点から、好ましくは、0.01〜0.5μm、より好ましくは、0.02〜0.2μmの範囲内とすることができる。なお、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡にて被測定ガス側電極の断面写真を撮影し、任意の10点について測定したPt等またはBa化合物の直径または円相当直径の平均値である。なお、上記にいう「円相当直径」は、粒子の輪郭が略円形ではなく、いびつな形をしている場合に適用する概念であり、粒子の輪郭の内側の面積と同じ面積を有する円の直径である。
【0032】
また、上記被測定ガス側電極の表面におけるPt原子数に対するBa原子数の比(Ba原子数/Pt原子数、以下、単に「Ba/Pt値」ということがある。)は、0.2以上とすることができる。
【0033】
この場合には、リッチ領域のセンサ出力をほぼ従来と同等に維持したまま、λ点をリッチ側へシフトさせやすくなる。これは、Pt等を酸化状態に安定化しやすくなるためであると考えられる。
【0034】
上記Ba/Pt値は、所定のセンサ出力におけるλ点のリッチ側へのシフト量が大きくなるなどの観点から、好ましくは、0.3以上、より好ましくは、0.4以上、さらに好ましくは、0.5以上とすることができる。なお、上記Ba/Pt値は、X線光電子分光法(XPS)による分析装置を用いて、被測定ガス側電極の表面を分析することにより求めることができる。
【0035】
上記被測定ガス側電極の形成方法は、Pt等とBa化合物とを直接接触させることができれば、特に限定されるものではない。上記被測定ガス側電極の形成方法としては、例えば、固体電解質体の一方面に形成したPt層やPt合金層等のPt含有層に、少なくともBaイオンを含有する溶液を接触させた後、所定雰囲気中にて熱処理する方法などを例示することができる。なお、この方法による場合、1回の熱処理によってPt含有層の表面に所望のBa化合物を生成させてもよいし、雰囲気条件の異なる複数の熱処理を施すことにより、Pt含有層の表面に所望のBa化合物を生成させることもできる。上記方法による場合には、Pt含有層の表面に、後からBa含有層を形成することができる。そのため、λ点をリッチ側へシフトさせる必要のないガスセンサ素子との部品の共有化を図ることができ、生産性に優れるなどの利点がある。
【0036】
(削除)
【0037】
上記被測定ガス側電極の厚みは、例えば、0.8〜50μm程度とすることができ、好ましくは1〜20μmとすることができる。なお、被測定ガス側電極を、Pt含有層とBa含有層とから構成する場合、Pt含有層の厚みは、例えば、0.8〜50μm程度とすることができ、好ましくは1〜20μmとすることができる。一方、Ba含有層の厚みは、例えば、10μm程度以下とすることができ、好ましくは、3μm程度以下とすることができる。
【0038】
上記ガスセンサ素子における固体電解質体の形状は、例えば、有底円筒状、板状などの形状とすることができる。また、上記固体電解質体の材質は、酸化物イオン伝導性を有しておれば、特に限定されるものではない。上記固体電解質体の材質としては、例えば、ZrO系セラミックスなどを例示することができる。また、上記固体電解質体の厚みは、0.2〜3mm程度とすることができる。また、上記被測定ガスとしては、例えば、窒素酸化物ガス、Oガス、水蒸気、炭化水素ガス、COガス、Hガス、これらの組合せによるガスなどを例示することができる。なお、上記基準ガスには、空気、酸素ガスなどを用いることができる。
【0039】
記ガスセンサは、上記ガスセンサ素子を有しており、センサ出力がλ曲線を描く起電力検出型の酸素センサである。具体的には、上記ガスセンサは、上記ガスセンサ素子と、このガスセンサ素子を加熱し活性化させるためのヒータとを有する構成とすることができる。
【0040】
上記ガスセンサは、例えば、自動車用エンジン等の内燃機関の排気系等に設置され、排ガスの検出に適用することができる。具体的には、例えば、内燃機関等から排気される排ガスを浄化するための三元触媒等の触媒と、触媒の下流側に設置され、排ガスの空気過剰率に基づいて信号を出力するガスセンサとを含む排ガス浄化装置におけるガスセンサとして好適に用いることができる。
【0041】
次に、上記排ガス浄化装置について説明する。上記排ガス浄化装置は、排ガスを浄化するための触媒と、上記ガスセンサとを含んでいる。上記排ガス浄化装置は、例えば、自動車用エンジン等の内燃機関の排気系等に設けられ、内燃機関等から排気される排ガスを浄化する。
【0042】
上記触媒に使用される貴金属としては、例えば、Pt、Pd、Rhなどを例示することができる。これら触媒は、例えば、セラミックス製のハニカム構造体等からなる担体に担持させることができる。上記排ガス浄化装置において、触媒に使用される貴金属の総量は、NOx排出量の低減効果が大きくなる、コスト削減などの観点から、好ましくは6.0g/L以下、より好ましくは5.5g/L以下、さらに好ましくは5.0g/L以下とすることができる。なお、排ガスの浄化能力を確実なものとする観点から、触媒に使用される貴金属の総量は、1.0g/Lとすることができ、好ましくは2.0g/L以上とすることができる。なお、上記貴金属の総量は、ハニカム構造体等からなる担体の体積1L当たりに含まれる触媒に使用されている貴金属の総質量(g)である。
【0043】
上記排ガス浄化装置は、この装置が有するガスセンサのセンサ出力値がある規定値を超えた場合または下回った場合に、センサ出力値が規定値に近づくように内燃機関の運転条件を制御する構成とすることができる。また、上記制御の指標となる規定値を出力する際の空気過剰率の値は、NOx排出量の低減効果が得やすくなる等の観点から、好ましくは0.9863以上0.9983以下、より好ましくは0.9880以上0.9966以下、さらに好ましくは0.9897以上0.9932以下とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に係るガスセンサ、排ガス浄化装置について、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0045】
(実施例1)
実施例1に係るガスセンサ、排ガス浄化装置について、図1図5を用いて説明する。
図1に示すように、本例のガスセンサ7において、ガスセンサ素子1Aは、酸化物イオン伝導性の固体電解質体2と、固体電解質体2の一方面に設けられ、被測定ガスを接触させるための被測定ガス側電極3と、固体電解質体2の他方面に設けられ、基準ガスを接触させるための基準ガス側電極4とを有している。図3に示すように、少なくとも被測定ガス側電極3は、PtまたはPt合金(Pt等)5とBa化合物6とを含有しており、PtまたはPt合金(Pt等)5とBa化合物6とが直接接触している。
【0046】
以下、詳細に説明する。ガスセンサ素子1Aは、図4に示すガスセンサに内蔵され、後述する図5に示す自動車エンジンの排気系に設けられる排ガス浄化装置8に用いられる。図1図2に示すように、ガスセンサ素子1Aにおいて、固体電解質体2は、一方が閉塞されており、内部に大気を導入して基準ガス室100となる有底円筒状に形成されている(いわゆるコップ型)。固体電解質体3の外側面のうち、固体電解質体3の最先端から基端部側に向かって長さLの範囲が、被測定ガスの接触面とされる。本例では、固体電解質体2は、ZrOセラミックスよりなる。
【0047】
被測定ガス側電極3は、固体電解質体2の外側面に設けられており、基準ガス側電極3は、基準ガス室100と対面する内側面に設けられている。また、被測定ガス側電極3、基準ガス側電極4には、ガスセンサ素子1Aに電圧を印加するため、電気的に導通したリード電極101、端子電極102がそれぞれ接続されている。図1には、固体電解質体2の外側面において、被測定ガス側電極3に一端が接続するリード電極101と、リード電極101の他端に接続する端子電極102とが記載されている。また、図2に示すように、被測定ガス側電極3の表面は、多孔質の保護層103で覆われている。この保護層103はアルミナを主成分としており、排ガス中の有害成分のトラップ効果を向上させる等の役割がある。
【0048】
図3に示すように、被測定ガス側電極3は、固体電解質体2に接するPt含有層31と、Pt含有層31に接するBa含有層32とを有している。つまり、被測定ガス側電極3は、固体電解質体2の一方面にPt含有層31、Ba含有層32がこの順に積層された電極構造を有している。Pt含有層31はPtまたはPt合金(Pt等)5より形成されており、Ba含有層32はBa化合物6より形成されている。Pt含有層31におけるPt等5と、Ba含有層42におけるBa化合物6とは、共に粒子状である。そして、Pt含有層31における被測定ガス側表面のPt等5と、Ba含有層32における基準ガス側表面のBa化合物6とが、少なくとも直接接触している。一方、基準ガス側電極4は、粒子状のPtまたはPt合金(Pt等)5より形成されており、Ba化合物6を含有していない。Ba化合物6は、BaSO、BaZrO、および、Baのスピネル型酸化物から選択される少なくとも1種である。
【0049】
4に示すように、本例のガスセンサ7は、ハウジング103と、ハウジング103に挿入されたガスセンサ素子1Aとを有する。ハウジング103の先端側には、ガスセンサ素子1Aの先端部を保護するための二重の被測定ガス側カバー104が設けられており、その内部は被測定ガス室105とされている。ハウジング103の基端側には、二重の大気側カバー106、107が設けられている。
【0050】
また、ガスセンサ素子1Aの基準ガス室100には、棒状のセラミック製のヒータ108が挿入配置されている。ヒータ108は、固体電解質体2の内側面と先端部で接触しており、さらに所望のクリアランスを確保した状態で挿入配置されている。大気側カバー106、107の基端側には、リード線109、110、111を挿入した弾性絶縁部材112が設けられている。リード線109、110によってガスセンサ素子1Aに電圧が印加され、ガスセンサ素子1Aのセンサ出力が外部へ取出される。また、リード線111は、ヒータ108に対し通電し、これを発熱させるためのものである。
【0051】
リード線109、110の先端側には、接続端子113、114が設けてられている。接続端子113、114により、ガスセンサ素子1Aに固定したターミナル115、116との電気的導通が確保される。なお、ターミナル115は、ガスセンサ素子1Aにおける端子電極102に対して接触固定されている。ターミナル116は、ガスセンサ素子1Aにおける端子電極(固体電解質体の内側面、不図示)に対して接触固定されている。
【0052】
次に、本例の排ガス浄化装置8について説明する。図5に示すように、排ガス浄化装置8は、排ガスを浄化するための触媒81と、ガスセンサ素子1Aを有するガスセンサ7とを含んでいる。そして、触媒81に使用される貴金属の総量は、5.0g/L以下とされている。なお、触媒81は三元触媒であり、ハニカム構造を有するセラミックス製の担体に担持された状態で排気経路に配置されている。
【0053】
排ガス浄化装置8は、具体的には、自動車エンジンEの排気系に設けられている。排ガス浄化装置8は、排ガスを浄化するための触媒81と、触媒81の上流側の排気管82に設けられた上流側の酸素センサ83と、触媒81の下流側の排気管84に設けられた下流側のガスセンサ7とを有している。なお、上記酸素センサ83は、A/Fセンサであり、自動車エンジンEから排出された排気濃度を触媒81の上流側にて測定するために配設されたものである。また、ガスセンサ7は、上述した構成を有している。そして、センサ出力値がある規定値を超えた場合または下回った場合に、センサ出力値が規定値に近づくようにその検出結果を自動車エンジンEの制御部85にフィードバックしている。以下、具体的な実験例を用いて、さらに詳細に説明する。
【0054】
(試料の作製)
図1に示す形状を有するZrO系セラミックスよりなるコップ型の固体電解質体を製作した。固体電解質体の厚みは0.1〜3mmである。次いで、固体電解質体の外側面に、ジベンジリデンPtをPt含有量で0.0002質量%含むペーストをパッド印刷により塗布し、印刷部を形成した。なお、印刷部の形状は、図1に示した被測定ガス側電極、リード電極、端子電極と同形状である。次いで、この印刷部に対し、40℃で熱処理した後、Pt錯体を含むメッキ液を用いて50℃で無電解メッキを施した。これにより、固体電解質体の外側面に、Pt含有層、リード電極、端子電極を形成した。また、上記パッド印刷に代えてディスペンサーを用いた以外は同様にして、固体電解質体の内側面に、基準ガス側電極、リード電極、端子電極を形成した。なお、これらはいずれもPt粒子よりなり、厚みは1.5μm程度である。
【0055】
上記固体電解質体の外側面におけるPt含有層を、1.50wt%の硝酸バリウム水溶液中に浸漬し、真空ポンプで減圧しながら10分間保持した。その後、空気雰囲気中、1000℃にて1時間熱処理し、Baの酸化物(BaO、BaO)粒子をPt含有層の表面に析出させた。これにより、Baの酸化物(BaO、BaO)粒子よりなり、厚み1μm程度のBa含有層をPt層の表面に形成した。以上により、試料1のガスセンサ素子を得た。
【0056】
上記試料1と同様にして作製したガスセンサ素子を、SO:400ppm、O:3.2%、N:96.76%の気流中、500℃にて1時間熱処理し、Ba含有層におけるBaの酸化物(BaO、BaO)を硫酸塩化し、Baの硫酸塩(BaSO)粒子とした。これにより、Baの硫酸塩(BaSO)粒子よりなり、厚みが1μm程度であるのBa含有層をPt含有層の表面に形成した。以上により、試料2のガスセンサ素子を得た。
【0057】
上記試料1と同様にして作製したガスセンサ素子を、CO:10%、O:5%、N:85%の気流中、600℃にて1時間熱処理し、Ba含有層のBaの酸化物(BaO、BaO)を炭酸塩化し、Baの炭酸塩(BaCO)粒子とした。これにより、Baの炭酸塩(BaCO)粒子よりなり、厚みが1μm程度であるBa含有層をPt層の表面に形成した。以上により、試料3のガスセンサ素子を得た。
【0058】
上記試料1の作製において、上記硝酸バリウム水溶液に代えて、硝酸バリウムおよび硝酸ジルコニウムをモル比が1:1となるように溶かして調製した混合水溶液を用いた以外は同様にして、Baのペロブスカイト型酸化物(BaZrO)粒子をPt含有層の表面に析出させた。これにより、Baのペロブスカイト型酸化物(BaZrO)粒子よりなり、厚み1μm程度のBa含有層をPt含有層の表面に形成した。以上により、試料4のガスセンサ素子を得た。
【0059】
上記試料1の作製において、上記硫酸バリウム水溶液に代えて、硝酸バリウムおよび硝酸アルミニウムをモル比が1:2となるように溶かして調製した混合水溶液を用いた以外は同様にして、Baのスピネル型酸化物(BaAl)粒子をPt含有層の表面に析出させた。これにより、Baのスピネル型酸化物(BaAl)粒子よりなり、厚み1μm程度のBa含有層をPt含有層の表面に形成した。以上により、試料5のガスセンサ素子を得た。なお、試料1、試料3のガスセンサ素子は、参考試料のガスセンサ素子である。
【0060】
上記試料1の作製において、固体電解質体の外表面に形成したPt含有層の表面にBa含有層を形成しなかった以外は同様にして、比較試料のガスセンサ素子を作製した。
【0061】
(空気過剰率対センサ出力の特性)
各試料のガスセンサ素子における固体電解質体の内部に加熱用のヒータを取り付け、各評価用ガスセンサを構成した。次いで、各評価用ガスセンサにおけるヒータを、ガスセンサ素子の表面温度が600℃となるように加熱した。この加熱したガスセンサ素子の被測定ガス側電極に対し、NとCとを、N:3000cc/min、C:12cc/minという条件にて、ともに流量を固定して供給した。なお、各評価用ガスセンサ素子の基準ガス側電極は、大気解放し、空気を供給した。次いで、各評価用ガスセンサ素子に対し、N、CおよびOよりなる混合ガスの空気過剰率λが以下のように変化するよう制御してOを供給した。すなわち、リッチ領域(λ=0.4)からリーン領域(λ=1.4)に0.5λずつガス組成が変化するように、Oの流量を24cc/minから徐々に増加させた。その後、リーン領域(λ=1.4)に空気過剰率λが到達した後、今度は反対に、リーン領域(λ=1.4)からリッチ領域(λ=0.4)に0.5λずつガス組成が変化するように、Oの流量を徐々に減少させた。そして、その際における、基準ガス側電極と被測定ガス側電極の起電力(V)を連続的に測定した。その測定結果を図6図7に示す。
【0062】
試料1〜試料5のガスセンサ素子の被測定ガス側電極は、図3に示すように、Pt含有層の外側表面における粒子状のPtと、Ba含有層の内側表面における粒子状のBa化合物とが直接接触している。そのため、図6図7に示すように、各ガスセンサ素子のλ曲線は、リッチ側のセンサ出力が大きく低下することなく、かつ、リッチ側にてセンサ出力が急峻に変化する形状を呈する。これは以下の原理によるものと推察される。
【0063】
すなわち、Ba化合物は、Ptを酸化された状態で安定化する作用を有している。Ba化合物の添加によって酸化された状態で安定化したPtは、金属状態のPtと比較して、パラフィン系炭化水素であるCに対する酸化性能を適度に低下させる。そのため、リッチ雰囲気であるにも関わらず、被測定ガス側電極上にてOが余り、この余ったOを検出することによってセンサ出力が低下する。すなわち、センサ出力が1.0V付近から0.0V付近に急激に変化するλ点が、空気過剰率λ=1よりもリッチ側の領域にシフトする。その一方、リッチ雰囲気においては、上記酸化された状態で安定化したPtが、金属状態のPtへ戻る還元反応が進行する。そのため、Ptが本来有する、Cに対する酸化性能を発揮するようになる。以上により、試料1〜試料5のガスセンサ素子のλ曲線は、上記形状を呈することができたものと推察される。
【0064】
このように、試料1〜試料5のガスセンサ素子は、リッチ側のセンサ出力を、比較試料のガスセンサ素子とほぼ同等に維持したまま、λ点をリッチ側へシフトさせることができるといえる。
【0065】
さらに、上記実験において、Cに代えて、CO、Hを供給した結果を図8図9に示す。なお、評価用ガスセンサには、試料5のガスセンサ素子を有するガスセンサと、比較試料のガスセンサ素子を有するガスセンサとを用いた。
【0066】
本評価において、CO供給時の条件は次のようにした。すなわち、600℃に加熱したガスセンサ素子の被測定ガス側電極に対し、NとCOとを、N:3000cc/min、CO:60cc/minという条件にて、ともに流量を固定して供給した。なお、各評価用ガスセンサ素子の基準ガス側電極は、大気解放し、空気を供給した。次いで、各評価用ガスセンサ素子に対し、N、COおよびOよりなる混合ガスの空気過剰率λが以下のように変化するよう制御してOを供給した。すなわち、リッチ領域(λ=0.6)からリーン領域(λ=1.4)に0.5λずつガス組成が変化するように、Oの流量を18cc/minから徐々に増加させた。
【0067】
また、本評価において、H供給時の条件は次のようにした。すなわち、600℃に加熱したガスセンサ素子の被測定ガス側電極に対し、NとHとを、N:3000cc/min、H:120cc/minという条件にて、ともに流量を固定して供給した。なお、各評価用ガスセンサ素子の基準ガス側電極は、大気解放し、空気を供給した。次いで、各評価用ガスセンサ素子に対し、N、HおよびOよりなる混合ガスの空気過剰率λが以下のように変化するよう制御してOを供給した。すなわち、リッチ領域(λ=0.5)からリーン領域(λ=2.0)に0.5λずつガス組成が変化するように、Oの流量を30cc/minから徐々に増加させた。
【0068】
図7に示すように、Ba化合物の添加は、パラフィン系炭化水素に対する酸化反応の抑制に効果がある。これに対し、図8(CO供給時)、図9(H供給時)に示すように、他のガスについては、Ba化合物の添加の有無によらずλ曲線はほぼ一致している。つまり、Ba化合物の添加は、他のガスの酸化反応にほとんど影響を与えることがないといえる。
【0069】
よって、上記ガスセンサ素子を有するガスセンサによれば、制御に使用できるセンサ出力範囲が広くなり、NOxの低減に有用なリッチ側の空気過剰率を精度よく検出することができる。
【0070】
さらに、試料1〜試料5の結果を比較すると、以下のことがわかる。すなわち、試料1のガスセンサ素子は、被測定ガス電極にBaの単純酸化物を用いている。そのため、試料1のガスセンサ素子は、酸素が不足するリッチ領域、酸素が過剰なリーン領域において、酸素分圧に依存してBaの状態が変化し、Ptの酸化状態に及ぼす影響が変化する。それ故、図6に示すように、試料1のガスセンサ素子は、リッチ領域からリーン領域にスイープしながらセンサ出力を評価した場合と、逆に、リーン領域からリッチ領域にスイープしながらセンサ出力を評価した場合とを比較すると、λ曲線にヒステリシスが生じてλ点がずれる傾向があることがわかる。
【0071】
これに対し、試料2〜試料4のガスセンサ素子は、被測定ガス電極にそれぞれ、BaSO、BaCO、BaZrO、BaAlを用いている。そのため、図6図7に示すように、試料2〜試料4のガスセンサ素子は、酸素分圧によらずにBaの状態を安定化させることができる。それ故、リッチ領域、リーン領域のいずれの雰囲気中であっても、Baの状態変化が抑制され、Ptの酸化状態に及ぼす影響を低減することができる。その結果、上記λ曲線におけるヒステリシス幅が低減される。特に、BaSOを用いた試料2のガスセンサ素子は、その効果が大きく、λ曲線にほとんどヒステリシスが生じないことがわかる。したがって、この場合には、ガス組成だけに依存して一定の空気過剰率を出力することが可能になる。
【0072】
次に、被測定ガス側電極の表面におけるPt原子数に対するBa原子数の比(Ba/Pt値)と0.55Vにおけるλ点のリッチ側へシフト量との関係を調査した。なお、Ba/Pt値は、XPSによる分析装置(ESCALAB250、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を用いて、被測定ガス側電極の表面を分析することにより求めた。なお、X線源としてはAlのKα線を使用した。また、シフト量の基準点は、比較試料1のλ点である。
【0073】
その結果を図10に示す。図10によれば、Ba/Pt値が0.2以上になると、λ点のリッチ側へのシフト量が急激に大きくなることがわかる。これは、Ba/Pt値が0.2以上になると、BaがPtの電子状態に寄与しやすくなるためであると考えられる。
【0074】
次に、担体に担持される貴金属の総重量が種々異なる三元触媒と、試料2のガスセンサ素子を有するガスセンサまたは比較試料のガスセンサ素子を有するガスセンサとを組み合わせた排ガス浄化装置を有する車両を用いて、US06モードを走行した際のNOx排出量を計測し、1マイルあたりの排出重量として算出した。
【0075】
その結果を図11に示す。図11によれば、排ガス浄化装置における三元触媒の下流側のガスセンサとして、本例のガスセンサを用いた場合、上記貴金属の総量によらずに全体的にNOx排出量を低減することができるといえる。そしてさらに、上記貴金属の総量が5.0g/L以下になると、NOx排出量の低減効果が大きくなり、特に、3.0g/L以下では、より効果的にNOx排出量を低減できることが確認された。
【0076】
(実施例2)
実施例2に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Aは、図12に示すように、被測定ガス側電極3が、Pt等5中にBa化合物6が分散されている構成を有する点で、実施例1に示されるガスセンサ素子1Aと異なっている。具体的には、実施例2では、ガスセンサ素子1Aの被測定ガス側電極3は、粒子状のPt等5の周囲に粒子状のBa化合物6が配置され、Pt等5とBa化合物6とが直接接触している。そして、実施例2に係るガスセンサ7は、このガスセンサ素子1Aを有している。その他の構成は実施例1と同様である。このように、Pt等5とBa化合物6とが直接接触しておれば、被測定ガス側電極3中にBa化合物6が一部存在する場合であっても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0077】
(実施例3)
実施例3に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Aは、図13に示すように、被測定ガス側電極3のみならず、基準ガス側電極4も、Pt等5とBa化合物6とが直接接触した構成を有している点で、実施例1に示されるガスセンサ素子1Aと異なっている。具体的には、実施例3では、ガスセンサ素子1Aの基準ガス側電極4は、固体電解質体2に接するPt含有層41と、Pt含有層41に接するBa含有層42とを有している。そして、実施例3に係るガスセンサ7は、このガスセンサ素子1Aを有している。その他の構成は実施例1と同様である。本例の構成によっても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0078】
(実施例4)
実施例4に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Aは、図14に示すように、被測定ガス側電極3が、Pt等5中にBa化合物6が分散されている構成を有する点、基準ガス側電極4が、Pt等5中にBa化合物6が分散されている構成を有する点で、実施例1に示されるガスセンサ素子1Aと異なっている。具体的には、実施例4では、ガスセンサ素子1Aの被測定ガス側電極3は、粒子状のPt等5の周囲に粒子状のBa化合物6が配置され、Pt等5とBa化合物6とが直接接触している。また、基準ガス側電極4は、粒子状のPt等5の周囲に粒子状のBa化合物6が配置され、Pt等5とBa化合物6とが直接接触している。そして、実施例4に係るガスセンサ7は、このガスセンサ素子1Aを有している。その他の構成は実施例1と同様である。この場合も、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0079】
(実施例5)
実施例5に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Aは、図15に示すように、基準ガス側電極4が、Pt等5中にBa化合物6が分散されている構成を有する点で、実施例1に示されるガスセンサ素子1Aと異なっている。具体的には、実施例5では、ガスセンサ素子1Aの基準ガス側電極4は、粒子状のPt等5の周囲に粒子状のBa化合物6が配置され、Pt等5とBa化合物6とが直接接触している。そして、実施例5に係るガスセンサ7は、このガスセンサ素子1Aを有している。その他の構成は実施例1と同様である。この場合も、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0080】
(実施例6)
実施例6に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Aは、図16に示すように、被測定ガス側電極3が、Pt等5中にBa化合物6が分散されている構成を有する点、基準ガス側電極4が、固体電解質体2に接するPt含有層41と、Pt含有層41に接するBa含有層42とを有する点で、実施例1に示されるガスセンサ素子1Aと異なっている。そして、実施例6に係るガスセンサ7は、このガスセンサ素子1Aを有している。その他の構成は実施例1と同様である。本例の構成によっても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
(実施例7)
実施例1〜実施例6では、コップ型のガスセンサ素子1A、このガスセンサ素子1Aを有するガスセンサ7について説明した。これらに対し、図17に示すように、積層型のガスセンサ素子1Bであっても、少なくとも被測定ガス側電極3の構成を実施例1と同様の電極構造とすることによって、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。なお、実施例7に係るガスセンサ7が有するガスセンサ素子1Bは、平板型の固体電解質体2の一方面に設けられた被測定ガス側電極3と、平板型の固体電解質体2の他方面に設けられた基準ガス側電極4とを有している。また、基準ガス室117を構成するスペーサ118の背面に一体的に発熱体119を内蔵したヒータ120が設けられている。また、被測定ガス側電極3の表面には、二層構造の第1、第2保護層121、122が設けられている。
【0082】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
1A、1B ガスセンサ素子
2 固体電解質体
3 被測定ガス側電極
31 Pt含有層
32 Ba含有層
4 基準ガス側電極
5 PtまたはPt合金
6 Ba化合物
7 ガスセンサ
8 排ガス浄化装置
81 触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17