【発明が解決しようとする課題】
【0014】
この問題を改善するために、本出願人は、高密度の金属ビーズを含むゾル‐ゲルコーティングを備える調理器具の製造方法を開発した。これにおいて、ゾル‐ゲルコーティング組成物の粘度は、セルロースを加えることによる合成の間に改良される。そして、その配合は、金属アルコキシド前駆体の加水分解‐縮合相の間に発生したアルコールを、グリコールのようなより重い溶媒に置き換えることによって、スクリーン印刷の付加に適する。
【0015】
粘度の増加は、高密度のビーズ(例えば金属製のビーズ)の組み込みを可能にする。なぜならば、粘度の増加は、ゾル‐ゲル組成物の懸濁液中にビーズを保持させ、ゾル‐ゲルコーティング中でのビーズの沈殿を減速し、または停止させることさえも可能にするからである。
【0016】
さらに、溶媒を交換することは、基材へのスクリーン印刷付加後における組成物の過度に速い乾燥を防ぐことを可能にする。この過度に速い乾燥は、合成(加水分解‐縮合)中に、スクリーン印刷の付加のために使用されるファブリックスクリーンの隙間に入るライトアルコール(light alcohol)の発生と関連する。
【0017】
ゾル‐ゲルコーティングの中へビーズを導入することは当業者に知られている。
【0018】
この方法において、特許文献2は、疎水性のおよび/または油分をはじくゾル‐ゲルコーティング組成物を説明する。この組成物は、優れた表面清浄性を可能とすることを意図されたものである。
【0019】
これらのシリカ‐ベース組成物は、様々な樹脂によって連結されたガラスビーズを含み、可能な組み合わせはポリエチレン‐ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)混合物からなる。
【0020】
コーティング中にこれらのビーズを含むことは、前記コーティングを、疎水性を有する状態または油分をはじく状態にする。
【0021】
しかしながら、これらのコーティングは、ガラスセラミック製天板上で使用される際に、傷付きを生じさせるという主な欠点を伴い、これは、美的観点および天板作動の点においても有害である。ビーズの天板上でのガラス‐オン‐ガラス摩擦によるからである。
【0022】
ゾル‐ゲルコーティング組成物の中へ金属粒子を導入することは当業者に知られている。この方法において、特許文献3は、加熱器具、特に調理器具(コーヒーメーカー、炊飯器、ホットプレート、グリル、ワッフルメーカー、フライヤー等)のためのゾル‐ゲルコーティングを説明する。コーティングは、絶縁層として機能する第1層を備える。この第1層は有機‐シラン前駆体からゾル‐ゲル法によって得られ、スクリーン印刷によって付加される。第1層には様々な大きさおよびタイプの粒子が組み込まれている。絶縁ゾル‐ゲル層のほか、特許文献3に説明されているゾル‐ゲルコーティングは導電層をさらに含みうる。この導電層もゾル‐ゲル法によっても得られる。絶縁ゾル‐ゲル層において、粒子はフレーク状の酸化物である。この粒子は、特に連続する冷却および加熱の後の亀裂の発生を防止することを意図されている。導電層において、粒子は導電性粒子である。この粒子は特にグラファイトの金属(特に、銀若しくはそのあらゆる合金、または単に金属により被覆されたもの)製である。導電層の内容物は望ましい抵抗を得るように調整される。
【0023】
したがって、特許文献3は、金属粒子が調理器具および/または天板での傷の発生の削減をもたらすことを教示していない。なぜならば、特許文献3は、フィラーを含む導電層の表面上にそれらフィラーが突き出していることを教示していないからである。そして、望ましい導電性粒子がフレーク状であるならば、これは前記文献の一般的教示からは想到できない。
【0024】
このように、上述のゾル‐ゲルコーティングの先行技術のいずれも、調理器具および/または天板の傷の発生を防止または減少できない。
【0025】
したがって、本発明の目的は、基部の外面に、ガラスセラミック製天板上での使用に適合するゾル‐ゲルコーティングが設けられた家庭用調理器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
より具体的にいえば、本発明は調理器具に関する。調理器具は食物を受けるのに適した内面と熱源に近接して配置されることを意図される外面とを有する基部を備え、前記外面はゾル‐ゲルアウターコーティングによって覆われており、前記ゾル‐ゲルアウターコーティングは、球状フィラーを含むと共に、少なくとも1つの金属ポリアルコキシレートのマトリックスを含む材料の連続膜の形態である。
【0027】
本発明によれば、球状フィラーは金属フィラーであり、その一部は、前記ゾル‐ゲルコーティング上に突出すると共に、前記コーティングの表面上に均一に分散されている。
【0028】
球状フィラーという用語は、本発明によれば、角のないフィラーを示し、特に卵形または球形の形状を有する。
【0029】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティングは、球状フィラーを含む少なくとも1つのスクリーン印刷アウター層を備える。当該層は、ガラスセラミック製天板との接触面を画成するとともに、「玉軸受け」効果をつくりだす。
【0030】
スクリーン印刷層という用語は、本発明によれば、流動性ペースト(rheofluidifying paste)状のゾル‐ゲルコーティング組成物の層をスクリーン印刷することによって得られるゾル‐ゲルコーティングの層を示す。流動性ペーストは、好ましくは、0.5〜5Pa.s.(5〜50ポアズ)の粘度を有する。
【0031】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティングは、
‐本質的に球状フィラーを含まないゾル‐ゲルコーティングの第1層であって、基部の外面を覆う第1層と、
‐前記球状フィラーを含むゾル‐ゲルコーティングの第2層であって、前記第1層を完全に覆う第2層とを、基部から連続的に含んでもよい。
【0032】
好ましくは、ゾル‐ゲルコーティングの第2層はゾル‐ゲルコーティングの第3層によって部分的に覆われている。ゾル‐ゲルコーティングの第3層は非連続的なスクリーン印刷層であり、装飾的なデザインを提供すると共に、球状フィラーも有する。本発明による金属球状フィラーは、コーティングの中に固着するには通常は好ましくない滑らかな表面を有するにも関わらず、ゾル‐ゲルコーティングの中にしっかりと固着される。
【0033】
スクリーン印刷がスクレーパーを使用してスクリーンのメッシュを通して流動性ペーストを付加することからなる技術である場合、そのような技術は、スクリーン印刷スクリーンワイヤ径によって保証される均一な厚さの層の堆積、およびゾル‐ゲルコーティングの様々なスクリーン印刷層におけるビーズの好ましい分布をもたらす。
【0034】
さらに、ゾル‐ゲルコーティングの2つのスクリーン印刷層を有する好ましい実施形態についてより具体的に述べると、ゾル‐ゲルコーティングの第3層(すなわち、第2スクリーン印刷層)のビーズの貫入深さは制御される。それは、まず、最初にゾル‐ゲルコーティングの下層の第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)のビーズの存在によって制御される。ゾル‐ゲルコーティングの第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)のビーズは、ゾル‐ゲルコーティングの第3層(すなわち、第2スクリーン印刷層)のビーズの少なくともいくつかをおそらく支える。そのうえ、ゾル‐ゲルコーティングの第2層(すなわち、第1スクリーン印刷層)に含まれるビーズは、耐摩耗性(wear resistance)を増やし、そして装飾的なデザインをもたらす第2スクリーン印刷層によって覆われていない前記層の部分のより簡単なクリーニングを可能にする。
【0035】
有利に、ゾル‐ゲルアウターコーティング上に突き出ている球状フィラーの表面密度は1平方ミリメートルあたり50〜300個のフィラーであり、好ましくは1平方ミリメートルあたり100〜250個のフィラーである。1平方ミリメートルあたり300個を超えるフィラーの表面密度では、光沢を失うとともに、耐熱衝撃性の減少が観測される。1平方ミリメートルあたり50個を下回るフィラーの表面密度では、ゾル‐ゲルコーティングの重量配分は十分に均一でないし、ガラスセラミック製または誘導天板の傷付きに対する影響が観測される。
【0036】
有利に、球状フィラーの直径は5〜40μmであり、その平均直径は15〜20μmである。これに対して、アウター層または各アウター層の厚さは15〜30μmである。この方法において、いくつかのビーズはスクリーン印刷層の表面と同一平面上にある。全てのビーズは、その半径に少なくとも等しい深さだけ、ゾル‐ゲル層の中に挿入される。そしてスクリーン印刷層の中への完全な固着を可能にする。
【0037】
好ましくは、アウタースクリーン印刷層は5〜30重量パーセントの金属フィラーをそれぞれ含む。5パーセント未満のビーズでは、ゾル‐ゲルコーティングの特性への効果は無視できるようになる。それに対して、30パーセントを超えるビーズでは、ビーズとゾル‐ゲルコーティングとの間の結合は損なわれる。
【0038】
本発明による調理器具を生産する使用に適した基材として、基部および基部から立ち上がる側壁を有する窪んだボウル(hollow bowl)が有利に使用されるだろう。
【0039】
本発明の範囲内において使用するのに適した基材は、金属、ガラス、プラスチック、およびセラミックから選ばれた材料により、有利に作製されることが可能である。
【0040】
本発明による方法に使用するために適している金属基材は、任意に陽極酸化処理されたアルミニウム若しくはアルミニウム合金、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたアルミニウム、又は研磨、ブラッシングにより若しくはマイクロビーズを伴って処理されたステンレス鋼、又は鋳鋼若しくはアルミニウム、又は鍛造若しくは研磨された銅、により作成された基材を好都合に含んでいる。多層複合基材を挙げることもできる、例えば、2層のアルミニウム(又はアルミニウム合金)/ステンレス鋼基材、および3層のステンレス鋼基材/アルミニウム(又はアルミニウム合金)/ステンレス鋼基材。
【0041】
本発明は以下のステップを含む調理器具の製造方法にも関する:
a)食物を受けるのに適した内面と熱源に近接して配置されることを意図される外面とを有する基部を備える調理器具の最終形状を有する基材を設けるステップ;
b)少なくとも1つの金属アルコキシドのゾル‐ゲル前駆体を含む水性組成物を作成するステップ;
c)水と、酸性または塩基性触媒とを導入することによって前記ゾル‐ゲル前駆体を加水分解して、その後の縮合反応がアルコール形成を誘導してゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
d)前記加水分解‐縮合ステップc)にて生成されたアルコールを部分的にまたは完全に除去し、除去されたアルコールをグリコールまたはテルベン誘導体によって置き換えて改良されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
e)ゾル‐ゲル組成物にセルロースを加えて粘度を増加し、0.5Pa.s.から5Pa.s.までの間(すなわち、5ポアズから50ポアズまでの間)の粘度を有する流動性ペースト状の濃いゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
f)ゾル‐ゲル組成物(または流動性ペースト)に球状金属フィラーを加え、濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を得るステップ;
g)濡れた状態で少なくとも20μmの厚さを有する少なくとも1層の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物を、基材の外面全体にスクリーン印刷によって付加するステップ;および、
h)180℃から350℃までの間の温度にて前記層を硬化させるステップ。
【0042】
好ましくは、使用される前駆体は以下から構成された基から選択された金属アルコキシドである:
‐一般式M
1(OR
1)
n に従う前駆体、
一般式M
2(OR
2)
(n-1)R
2´に従う前駆体、および
一般式M
3(OR
3)
(n-2)R
3´
2に従う前駆体、ここで:
R
1、R
2、R
3又はR
3´はアルキル基を示す。
【0043】
R
2´はアルキル基またはフェニル基を示す。
【0044】
nは金属M
1、M
2又はM
3の最大原子価に対応する整数である。
【0045】
M
1、M
2又はM
3は、ケイ素(Si)、亜鉛(Zr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、セリウム(Ce)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)、マグネシウム(Mg)、又はインジウム(In)から選択された金属を示す。
【0046】
有利に、SG溶液(SG solution)の金属アルコキシドはアルコキシシランである。
【0047】
本発明による方法のSG溶液に使用するのに適しているアルコキシシランは、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、ジメチルジメトキシシラン、及びこれらの混合物を特に含む。
【0048】
好ましくは、アルコキシシランMTESおよびTEOSが使用される。これらは、メトキシ基を含まないという利点を提供するからである。実際に、メトキシ基の加水分解はゾル‐ゲルの形成においてメタノール形成を生じさせる。その毒性分類があるならば、付加の間にさらなる注意を要する。他方、エトキシ基の加水分解はエタノールを発生させるだけである。このエタノールはより望ましい分類をもち、ゾル‐ゲルコーティングに使用するためのより少ない制限の仕様をもつ。
【0049】
本発明による方法の1つの有利な実施形態によれば、セルロースを加え濃いゾル‐ゲル組成物(又は流動性ペースト)を形成するステップe)は、セルロース以外の適量の有機結合剤の添加もさらに含み、0.5〜5Pa.s.(すなわち5〜50ポアズ)の濃さを有する濃いゾル‐ゲル組成物を得てもよい。
【0050】
本発明による流動性ペーストで使用するのに適した有機結合剤は、ゴム、例えば、「DOW ETHOCEL STD 20(登録商標)」のブランド名でDOW社によって市場に出されているエチルセルロース、例えば「ROHAGIT(登録商標)」のブランド名でEVONIK社によって市場に出されているようなアクリル樹脂、を特に含んでいる。
【0051】
最後に、本発明によるその方法は、ステップc)にて得られるようなゾル‐ゲル組成物を基材の外面全体に散布し、散布されたゾル‐ゲル層を形成する追加の付加ステップであって、当該散布されたゾル‐ゲル層の上に、ステップf)にて得られるような濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物がスクリーン印刷によって付加されるステップをさらに含んでいてもよい。
【0052】
流動性ペースト状の濃く且つ混入されたゾル‐ゲル組成物のスクリーン印刷の付加は単一の又は多重の層において実行されてもよい。
【0053】
さらに、本発明の利点および特殊性が、非制限的な例としての以下の説明から、添付図を参照して明らかになるであろう。