(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965712
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】電動弁用駆動モータのステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/128 20060101AFI20160728BHJP
F16K 31/04 20060101ALI20160728BHJP
H02K 5/08 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
H02K5/128
F16K31/04 A
H02K5/08 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-100111(P2012-100111)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-229994(P2013-229994A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅也
(72)【発明者】
【氏名】上原 聡
【審査官】
下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−287663(JP,A)
【文献】
特開平06−335226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/128
F16K 31/04
H02K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに連結された弁部材により開閉される弁口を備えた弁本体に取り付けられたキャンの外周部に装着される電動弁用駆動モータのステータであって、
前記ステータは、磁極歯を有するヨーク及びコイルを備えるステータ組立体と、該ステータ組立体を金型内で溶融樹脂を注入して一体に形成した樹脂モールドとを備え、
前記磁極歯の内径と実質的に同一の内径を有すると共に、当該磁極歯の外径より小さい外径を有し、ステータ組立体の上面に載置された板状円環プレートをさらに備え、
前記樹脂モールドは、前記金型における前記板状円環プレートの上方の1か所から当該板状円環プレートの表面に沿って前記ステータ組立体の外周部側に流れ込むと共に、当該ステータ組立体の内周部側へは前記板状円環プレートにより流れ込まないようにされた溶融樹脂の成形品である
ことを特徴とする電動弁用駆動モータのステータ。
【請求項2】
前記ステータと前記キャン又は前記弁本体との間をシールするシール部材をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動弁用駆動モータのステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル中を循環する冷媒等の流量を制御するのに用いられる電動弁に装備される駆動モータのステータに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1は、この種の電動弁を開示する。
電動弁は、弁本体内に弁機構を備え、弁本体の上部にはキャンと称される密閉容器がとりつけられる。キャン内部には駆動用モータのロータが装備され、ロータの回転力はねじ機構等により直線方向の運動に変換されて、弁部材を操作する。弁部材は直線運動して弁開度を制御する。キャンの外周部には駆動用モータのステータが着脱自在にとりつけられる。
【0003】
ステータは、ヨークの磁極歯の周囲にコイルを巻いたステータ組立体を樹脂成形用の金型内にセットして、溶融樹脂を金型内に供給してステータ組立体を合成樹脂で一体に成形した構造を有する。
【0004】
このような電動弁においては、ステータとロータ間の磁気ギャップを極力小さくするために、ステータ内に配置されているヨークの磁極歯はステータの内部に露出しているが、ステータ内のコイルに外部から水分が浸入しないように、磁極歯のキャンと対向する部分以外は樹脂によりモールドされている。
【0005】
特許文献1においては、その水分浸入をさらに確実に防止するために、ステータの下部と弁本体あるいはキャンの下部との間にシール部材を設けて、キャンとステータの間に水が浸入しないようにする技術が開示されている。
【0006】
特許文献2においては、電動弁用ステータのモールド手法の一例について開示されている。上述のように、ステータは、磁極歯のキャンと対向する部分以外は樹脂によりモールドされる必要があるので、ボビンに巻回されたコイルを収容するヨークは、複数のゲートから樹脂の注入がなされるようにされている。
【0007】
図5〜
図7は、従来の電動弁用駆動モータのステータの構造を示す。ボビン130に巻回されたコイル140は、磁極歯120aを備えた外ヨーク120と磁極歯122aを備えた内ヨーク122とで上下から保持されている。そして、この保持体を2組、互いに対向して当接、位置決めすることでステータ組立体110が構成されている。このステータ組立体110は、磁極歯120a、122aの内側面(当該ステータの内側を向く面)、及びコイル140から引き出されたリードピン141のみが露出するようにしてその周囲に樹脂モールド200が形成される。
【0008】
樹脂モールド200は、例えば次のようにして成形される。すなわち、ステータ100’のステータ組立体110を図示しない金型内にセットして、上部ゲートG
1と例えば3個の下部ゲートG
2、G
3、G
4から金型内に樹脂を注入する。
ステータ組立体110は樹脂モールド200と一体に成形されてステータ100’が完成する。
【0009】
上述のように、ステータ100’の内周面においても、磁極歯120a、122aの内側面以外の部分には樹脂を巡らせる必要があり、このため、ステータの外周に設けられたゲートから注入された樹脂は、ステータ組立体の複雑な内部構造部分を通過してステータ100’の内周面側に案内される必要がある。
【0010】
したがって、従来の製法にあっては、ステータ全体に溶融樹脂が回るように、金型の上下に設けられた多点ゲート(例えば4ゲート)で成形を行うので、
図7に示されるように、樹脂モールド200の外周部にウェルドラインWLが発生する。
ウェルドラインは、樹脂成形における樹脂の再融合部位であり、その機械的強度は他の成形面に対して低下する。
【0011】
当該ステータを用いた電動弁が、例えば自動車や船舶に搭載される場合は、気温・低温の環境温度範囲が大きくなり、その温度振幅がコイル樹脂部品にダメージを与える。これによりウェルドライン部で亀裂が発生し、その亀裂部位からの水分浸入により、絶縁性能の劣化を引き起こすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−287663号公報
【特許文献2】特開2000−262024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述した不具合を解消する電動弁用駆動モータのステータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
特許文献1には、ステータの下部と弁本体あるいはキャンの下部との間にシール部材を設ける技術が開示されているが、このような構成を採用すれば、ステータの下部からステータ内側に水分が浸入しないので、磁極歯のキャンと対向する部分以外を樹脂によりモールドする必要はなくなる。
本発明はこのような着眼点に立ってなされたものであり、上記目的を達成するために、本発明の電動弁用駆動モータのステータは、ロータに連結された弁部材により開閉される弁口を備えた弁本体に取り付けられたキャンの外周部に装着される電動弁用モータのステータであって、前記ステータは、磁極歯を有するヨーク及びコイルを備えるステータ組立体と、該ステータ組立体を金型内で溶融樹脂を注入して一体に形成した樹脂モールドとを備え、前記磁極歯の内径と実質的に同一の内径を
有すると共に、当該磁極歯の外径より小さい外径を有し、ステータ組立体の上面に
載置された板状円環プレートを
さらに備え
、前記樹脂モールドは、前記金型における前記板状円環プレートの上方の1か所から当該板状円環プレートの表面に沿って前記ステータ組立体の外周部側に流れ込むと共に、当該ステータ組立体の内周部側へは前記板状円環プレートにより流れ込まないようにされた溶融樹脂の成形品であることを特徴とするものである。
【0015】
前記
ステータは
、キャン又は弁本体との間をシールするシール部材を設けることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は以上の構成を備えることにより、樹脂モールドの外周部にウェルドラインのない良好な電動弁用駆動モータのステータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施の形態の電動弁用駆動モータのステータを装備した電動弁の説明図。
【
図2】本発明の一実施の形態の電動弁用駆動モータのステータの縦断面図。
【
図3】本発明の一実施の形態のステータ組立体の縦断面斜視図。
【
図4】本発明の一実施の形態のステータの成形方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明のステータを装備した電動弁の説明図であり、当該電動弁を正面から見てステータ100のみを縦断面とした図、
図2は本発明のステータの断面図である。
【0019】
電動弁1は弁本体10を有し、弁本体10内に弁室と弁室の弁座を開閉する弁部材が配置される。弁本体10には弁室に連通する2本の配管30、配管32がとりつけられる。
【0020】
弁本体10の上部には密閉容器であるキャン20が配設される。キャン20内には電動弁駆動用モータのロータが装備され、ロータの回転はねじ機構を介して直線運動に変換されて弁部材に伝達される。弁部材は直線運動して弁座との間隔が調整され、通過する冷媒の流量が制御される。
このような弁本体10及びキャン20の内部構造は、周知の適宜の構成とされている。
【0021】
キャン20の外周部には駆動用モータのステータ100が着脱自在に装着される。
図3は、ステータ組立体110の縦断面斜視図である。
【0022】
ボビン130に巻回されたコイル140は、磁極歯120aを備えた外ヨーク120と磁極歯122aを備えた内ヨーク122とで上下から保持されている。そして、この保持体を2組、互いに対向して当接、位置決めすることでステータ組立体110が構成されている。
そして、ステータ100は
図4に関して後述するように、ステータ組立体110を金型内にセットして樹脂を注入して樹脂モールド200で一体化することで製造される。
【0023】
樹脂の注入の際、ステータ組立体110の上部には円環状のプレート160(
図2)が載置される。このプレート160の内径寸法は、外ヨーク120及び内ヨーク122の内径寸法(すなわち、磁極歯120a及び磁極歯122aの内径寸法)と実質的に同一とされている。
また、樹脂モールド200の下部にはOリング等のシール部材180が配置され、該シール部材180をステータ100の下部に固定するためのシール部材押え170が配設される。
【0024】
シール部材押え170はこの例においては4個の穴を有し、この穴に樹脂モールド200の下部に形成された円柱状部分を差し込んで溶着部210を形成することでとりつけられる。
シール部材180は、キャン20とステータ100の内側との間へ水分が浸入するのを防止する。
【0025】
図4は、本発明によるステータの樹脂成型工程を示す説明図である。
下型310の中央部にはステータ組立体110の磁極歯120a及び磁極歯122aの内径部に挿入される円柱形状の突部320を有し、ステータ組立体110はこの突部320に嵌装される。上型300と下型310を閉じると、ステータ組立体110の外側にはキャビティC
1が形成される。モールド用溶融樹脂P
1は上型300の頂部に設けられた1個のゲートG
1からのみ注入される。
【0026】
本発明のステータにあっては、ステータ組立体110の上部に円環状のプレート160が載置され、プレート160の内周部は、突部320の外周部と当接している。
したがって、ゲートG
1から注入された溶融樹脂P
1は
図4に矢印で示されるようにプレート160で覆われたステータ組立体110の内側にまわらずに、キャビティC
1で形成されるステータ組立体110の外側に充填される。樹脂の一部は、外ヨーク120、あるいは外ヨーク120と内ヨーク122との間に適宜設けられた間隙を介してステータ組立体110の複雑な内部領域に浸入するが、少なくとも磁極歯120a、122aの側面には到達しない。
【0027】
このように、樹脂P
1は1個所のゲートG
1からのみ充填されるので、樹脂モールド200の外周部にウェルドラインが形成されることはない。
また、ステータ組立体110の磁極歯120a、磁極歯122aへの樹脂の流れ込みは発生しない。したがって、使用する樹脂の容量も一定となる。また、上部コイル140、下部コイル142へ溶融樹脂が流れ込むことによるコイルに与える影響も少なくて済む。
【0028】
なお上述のように、磁極歯120a及び磁極歯122aの側面には樹脂が流れ込まないが、ステータ100の下部(ステータ組立体110の下部)にキャンと間をシールするシール部材180が配置されているため、当該ステータ100の内部には水分は浸入しない。
このシール部材180は、ステータ100と弁本体10との間をシールするものであっても良い。
また、ステータ100の下部にシール部材180を設ける代わりに、キャンの下部にステータとの間をシールするシール部材を設ければステータにシール部材を設ける必要はない。また、ステータの下部を弁本体の上部側面を覆うように延長し、該弁本体上部側面にステータとの間をシールするシール部材を設けるようにすれば、同様にステータにシール部材を設ける必要はない。
【符号の説明】
【0029】
1 電動弁
10 弁本体
20 キャン
30、32 配管
100 ステータ
110 ステータ組立体
120 外ヨーク
120a 磁極歯
122 内ヨーク
122a 磁極歯
130 ボビン
140 コイル
160 プレート
170 シール押え
180 シール部材
200 樹脂モールド
210 溶着部
300 上型
310 下型
320 突部