特許第5965728号(P5965728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965728
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】カルテ情報地域共有システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/24 20120101AFI20160728BHJP
【FI】
   G06Q50/24
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-124743(P2012-124743)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-250754(P2013-250754A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年5月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502351659
【氏名又は名称】株式会社医療情報技術研究所
(72)【発明者】
【氏名】姫野 信吉
【審査官】 毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−155100(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0041788(US,A1)
【文献】 特開2007−052815(JP,A)
【文献】 特開2001−297153(JP,A)
【文献】 特開平10−111897(JP,A)
【文献】 特開2005−301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルテを作成し、その一部もしくは全部を、共有カルテ情報として地域の他の医療機関へ提供する、或いは、提供される共有カルテ情報を閲覧する、複数のカルテ情報共有機関と、前記共有カルテ情報を通信回線を介して集約し、前記カルテ情報共有機関からの要求に応じて適切な共有カルテ情報を抽出し、通信回線を介して前記カルテ情報共有機関に提供する、カルテ情報地域共有サーバーからなるカルテ情報地域共有システムであって、
前記カルテ情報共有機関は、各々自らのカルテ情報共有機関IDを有するとともに、各々のカルテ情報共有機関の管理者を含むスタッフIDを作成管理する自院スタッフID管理手段、 各々のカルテ情報共有機関に関連する患者IDおよび患者個人情報を作成管理する患者ID管理手段、前記カルテ情報地域共有サーバーに必要な共有カルテ情報を要求する共有カルテ情報要求手段、要求した共有カルテ情報を前記カルテ情報地域共有サーバーから受信し、前記患者ID管理手段にて管理している患者個人情報と統合して閲覧に供する要求共有カルテ情報閲覧手段の各手段を有し、
さらに前記共有カルテ情報を他医療機関に提供する場合においては、前記共有カルテ情報を作成する共有カルテ情報作成手段、作成された当該共有カルテ情報を、通信回線を介して前記カルテ情報地域共有サーバーに送信する共有カルテ情報送信手段を備えており、
前記カルテ情報地域共有サーバーにおいては、個人情報を除去した共有カルテ情報を記録する機能を有し、当該カルテ情報地域共有サーバーがカバーするドメインを管理するドメイン管理ID及びドメイン管理手段を有しており、
前記ドメイン管理手段は、前記カルテ情報共有機関IDを作成管理するカルテ情報共有機関ID管理手段、前記自院スタッフID管理手段の情報を統合して一元管理する統合スタッフID管理手段、前記統合スタッフID管理手段の情報を基に、ログインしてきたスタッフの権限を認証するスタッフ認証手段、送信されてきた前記共有カルテ情報を受信し、統合記録する共有カルテ情報統合記録手段、前記カルテ情報共有機関からの要求に応じて患者IDに対応する共有カルテ情報を抽出する要求共有カルテ情報抽出手段、通信回線を介して前記共有カルテ情報を要求元のカルテ情報共有機関に送信する要求共有カルテ情報送信手段を備えており、
前記ドメインが複数存在する場合は、各ドメインを統合管理するカルテ地域情報共有システム統括管理手段を有し、前記カルテ地域情報共有システム統括管理手段は、前記ドメイン管理IDを作成管理するドメイン管理ID管理手段を備えていることを特徴とするカルテ情報地域共有システム。
【請求項2】
前記カルテ情報共有機関は、不要となった患者の共有カルテ情報を削除する患者共有カルテ情報削除手段も備えていることを特徴とする請求項1記載のカルテ情報地域共有システム。
【請求項3】
前記カルテ情報共有機関ごとの記録容量の上限を管理するカルテ情報共有機関毎使用記憶容量制限手段も備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のカルテ情報地域共有システム。
【請求項4】
前記ドメインごとに使用記憶容量の上限を指定するドメイン毎使用記憶容量制限手段を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルテ情報地域共有システム。
【請求項5】
前記患者IDは、メイルアドレスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルテ情報地域共有システム。
【請求項6】
前記共有カルテ情報送信手段には、当該患者のメイルアドレスにも共有カルテ情報を送信する共有カルテ情報患者メイル送信手段を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のカルテ情報地域共有システム。
【請求項7】
前記カルテ地域情報共有システム統括管理手段には、複数の前記カルテ情報地域共有システムを合併するカルテ情報地域共有システム合併手段、あるいは単一のカルテ情報地域共有システムを複数に分割するカルテ情報地域共有システム分割手段を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のカルテ情報地域共有システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカルテ情報を地域の医療、介護、福祉機関などの間で共有する地域医療上のカルテ情報共有システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来に伴い、慢性疾患や認知症など短期の治療では完治しなくなった。長期にわたって病院や診療所での医療、老人介護施設などでの介護、特別養護老人ホームなどでの福祉、在宅での訪問診療、介護、看護、リハビリ等などを活用し、地域内の種々の組織が連携して、個々の高齢者に対応してゆくことが必要となってきた。
この際、各機関の間で有機的な情報共有が行われないと、重要なアレルギーや禁忌情報を見落としたりして事故につながったり、提供されるサービスに過不足が生じたりして、安全で効率的な医療、介護、福祉サービスの一体的な提供は困難である。
このためには、各サービス提供機関で作成されたカルテ情報を可及的に関連する機関間で共有するカルテ情報地域共有システムが不可欠である。
このようなカルテ情報地域共有システムに関する技術として特許文献1の技術が知られている。
【0003】
この技術では、各機関からカルテ情報をインターネットなどの通信回線を介して中央サーバーに直接送信し、中央サーバーでは送信されてきたカルテ情報を蓄積、統合しておき、中央サーバーに参照要求のあった機関や患者等に対して、参照資格の認証を行った後、インターネットなどを介してカルテ情報の開示を行うものであった。
【特許文献1】特許第3926778号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の中央サーバーに全てのカルテ情報を蓄積する方式では、いくつかの問題点が指摘されている。共有カルテ情報の増大により記録容量の維持管理コストが増加する。医療機関によって患者IDが異なっているため、複数の医療機関に受診している患者に関しては名寄せによる一意的なIDの発行が不可欠であるが、この患者IDの作成、管理に多大な手間と費用が発生する。
また、患者によっては、自らの医療記録を見せたくない医療機関も存在するが、医療記録の医療機関への開示に同意すると、その開示システムに参加している全ての医療機関に全記録がみえてしまう。多数の医療機関が参加することとなるが、医療機関によって考え方の違いもあり、広域で共有システムを運用するとなると、運用規定のすり合わせなどに多大な交渉作業が不可欠となる。
さらに、一旦中央サーバーのセキュリティが破られると、大量の個人情報流出に直結するリスクが指摘されている。これらの理由のため、この種の試みは一部の事例に留まっているのが現状である。
【0005】
大規模災害では、高齢者の普段飲んでいる薬の記録も消失したため、慢性期疾患を抱える患者の治療継続に多大な支障が出ることは良く知られている。
この対策としては、患者の携帯電話などに病名や処方記録などの個人健康記録を適宜送信しておいて、災害時に利用することも検討されているが、まだ広域での実用例はない。
【0006】
本発明はかかる従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、クラウドなどと呼ばれるインターネット関連技術を活用し、地域の医療機関間のカルテ情報の共有および個人健康記録の患者各自保管を一体的かつ安全、安価に実現するカルテ情報地域共有システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための手段として請求項1記載のカルテ情報地域共有システムは、 カルテを作成し、その一部もしくは全部を、共有カルテ情報として地域の他の医療機関へ提供する、或いは、提供される共有カルテ情報を閲覧する、複数のカルテ情報共有機関と、前記共有カルテ情報を通信回線を介して集約し、前記カルテ情報共有機関からの要求に応じて適切な共有カルテ情報を抽出し、通信回線を介して前記カルテ情報共有機関に提供する、カルテ情報地域共有サーバーからなるカルテ情報地域共有システムであって、
前記カルテ情報共有機関は、各々自らのカルテ情報共有機関IDを有するとともに、各々のカルテ情報共有機関の管理者を含むスタッフIDを作成管理する自院スタッフID管理手段、 各々のカルテ情報共有機関に関連する患者IDおよび患者個人情報を作成管理する患者ID管理手段、前記カルテ情報地域共有サーバーに必要な共有カルテ情報を要求する共有カルテ情報要求手段、要求した共有カルテ情報を前記カルテ情報地域共有サーバーから受信し、前記患者ID管理手段にて管理している患者個人情報と統合して閲覧に供する要求共有カルテ情報閲覧手段の各手段を有し、
さらに前記共有カルテ情報を他医療機関に提供する場合においては、前記共有カルテ情報を作成する共有カルテ情報作成手段、作成された当該共有カルテ情報を、通信回線を介して前記カルテ情報地域共有サーバーに送信する共有カルテ情報送信手段を備えており、
前記カルテ情報地域共有サーバーにおいては、個人情報を除去した共有カルテ情報を記録する機能を有し、当該カルテ情報地域共有サーバーがカバーするドメインを管理するドメイン管理ID及びドメイン管理手段を有しており、
前記ドメイン管理手段は、前記カルテ情報共有機関IDを作成管理するカルテ情報共有機関ID管理手段、前記自院スタッフID管理手段の情報を統合して一元管理する統合スタッフID管理手段、前記統合スタッフID管理手段の情報を基に、ログインしてきたスタッフの権限を認証するスタッフ認証手段、送信されてきた前記共有カルテ情報を受信し、統合記録する共有カルテ情報統合記録手段、前記カルテ情報共有機関からの要求に応じて患者IDに対応する共有カルテ情報を抽出する要求共有カルテ情報抽出手段、通信回線を介して前記共有カルテ情報を要求元のカルテ情報共有機関に送信する要求共有カルテ情報送信手段を備えており、
前記ドメインが複数存在する場合は、各ドメインを統合管理するカルテ地域情報共有システム統括管理手段を有し、前記カルテ地域情報共有システム統括管理手段は、前記ドメイン管理IDを作成管理するドメイン管理ID管理手段を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載のカルテ情報地域共有システムは、前記カルテ情報共有機関は、不要となった患者の共有カルテ情報を削除する患者共有カルテ情報削除手段も備えていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載のカルテ情報地域共有システムは、前記カルテ情報共有機関ごとの記録容量の上限を管理するカルテ情報共有機関毎使用記憶容量制限手段も備えていることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載カルテ情報地域共有システムは、前記ドメインごとに使用記憶容量の上限を指定するドメイン毎使用記憶容量制限手段を備えていることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載のカルテ情報地域共有システムは、前記患者IDは、メイルアドレスであることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載カルテ情報地域共有システムは、前記共有カルテ情報送信手段には、当該患者のメイルアドレスにも共有カルテ情報を送信する共有カルテ情報患者メイル送信手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載のカルテ情報地域共有システムは、前記カルテ地域情報共有システム統括管理手段には、複数の前記カルテ情報地域共有システムを合併するカルテ情報地域共有システム合併手段、あるいは単一のカルテ情報地域共有システムを複数に分割するカルテ情報地域共有システム分割手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、前記構成を採用しているので以下の効果を有する。
請求項1記載のカルテ情報地域共有システムでは、上述のように構成したため、大病院だけでなく、零細な医療機関であっても共有カルテ情報の提供が可能であり、地域全体で万遍なく連携が可能となる。
また、個人情報は全てカルテ情報共有機関内に留め、カルテ情報地域共有サーバーには、個人情報を除去した共有カルテ情報のみが記録されることで、大量の個人情報流出の危険が少ない、安全なカルテ情報共有が可能となる。
【0015】
請求項2記載のカルテ情報地域共有システムでは、カルテ情報共有機関は、不要となった患者の共有カルテ情報を削除する患者共有カルテ情報削除手段も備えることで、もはや参照されることの無くなった不要な患者データが蓄積し、使用記録容量の無秩序な増大から来るコスト増が避けられる。
【0016】
請求項3記載のカルテ情報地域共有システムでは、カルテ情報共有機関ごとの記録容量の上限を管理するカルテ情報共有機関毎使用記憶容量制限手段も備えることで、各カルテ情報共有機関に記録容量の削減努力を求め、もはや参照されることの無くなった不要な患者データが蓄積し、使用記録容量の無秩序な増大から来るコスト増が避けられる。
【0017】
請求項4記載のカルテ情報地域共有システムでは、ドメインごとに使用記憶容量の上限を指定するドメイン毎使用記憶容量制限手段を備えることで、各ドメインに記録容量の削減努力を求め、もはや参照されることの無くなった不要な患者データが蓄積し、使用記録容量の無秩序な増大から来るコスト増が避けられる。
【0018】
請求項5記載のカルテ情報地域共有システムでは、患者IDは、メイルアドレスとしたため、既に社会的インフラとなっているメイルサービスを利用することで、一意的なIDを安価かつ効率的に取得できる。患者が医療機関に告知するメイルアドレスを切り替えることで、カルテ情報を共有する医療機関の範囲を、患者自身が制御できる。薬剤処方や病名などを患者自身の携帯電話などに送信することで、患者自身もカルテ共有に参加できる。
【0019】
請求項6記載のカルテ情報地域共有システムでは、共有カルテ情報送信手段には、当該患者のメイルアドレスにも共有カルテ情報を送信する共有カルテ情報患者メイル送信手段を備えるので、患者の携帯電話などに病名や処方記録などの個人健康記録を適宜送信しておくことで、大規模災害などの際、高齢者の普段飲んでいる薬の記録を確認できるため、慢性期疾患を抱える患者の治療継続に多大な貢献ができる。
【0020】
請求項7記載のカルテ情報地域共有システムでは、システムを合併するカルテ情報地域共有システム合併手段、あるいは単一のカルテ情報地域共有システムを複数に分割するカルテ情報地域共有システム分割手段を備えているため、この機能により、気の合った医療機関だけで小規模のドメインからカルテ情報地域共有システムの利用を開始し、徐々に拡大、再編成してゆくことが容易となり、従来の運用上の交渉作業が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】カルテ情報地域共有システムの概略説明図である。
図2】患者個人情報を分離した共有情報管理の説明図である。 (a)カルテ情報共有機関が管理する個人情報を示す説明図。 (b)カルテ情報地域共有サーバー内の共有カルテ情報を示す説明図。
図3】カルテ情報共有機関毎の共有カルテ参照範囲を示す説明図である。
図4】管理者権限の階層構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のカルテ情報地域共有システムは、図1に示すように、クラウド上にカルテ情報地域共有サーバーを構築し、地域(ドメイン)内の医療機関とインターネット回線を通じて連結されている。このカルテ情報地域共有サーバーは、特定のドメイン毎に別々に構築、運用しても良いが、複数のドメインのカルテ情報を物理的には一つに統合して、論理的には複数のドメインに分割して運用するほうが、コスト的には有利である。
なお、本図ではクラウド上に単一としているが、必要に応じて医療機関内に設置されたサーバーを用いても良いし、大規模なシステムでは、クラウド上に複数のサーバーを立て、負荷を分散しても良い。
【0023】
カルテ情報共有機関は、インターネット経由で、端末のブラウザからカルテ情報地域共有サーバーの提供する共有カルテ情報サービスを利用する、SaaSと呼ばれる利用形態でシステムに参加している。
カルテ情報共有機関は、自らの機関に関連する患者のIDおよび患者個人情報を作成管理する患者ID管理手段を備えており、自院に関連して共有されている患者IDリストから閲覧したい患者IDを選択し、当該患者に関する共有カルテ情報の送信を前記カルテ情報地域共有サーバーに要求する(共有カルテ情報要求手段)。要求した共有カルテ情報を前記カルテ情報地域共有サーバーから受信し、前記患者ID管理手段にて管理している患者個人情報と統合して閲覧に供する(要求共有カルテ情報閲覧手段)。共有カルテ情報の提供に際しては、自らの管理するカルテから、共有すべき共有カルテ情報を抽出、作成し(共有カルテ情報作成手段)、作成された当該共有カルテ情報を、通信回線を介して前記カルテ情報地域共有サーバーに送信する(共有カルテ情報送信手段)。さらに、希望する患者については、患者IDとして用いられているメイルアドレス宛に、共有カルテ情報を送信する(共有カルテ情報患者メイル送信手段)。これにより、患者は災害などでカルテが消失しても、自らの携帯電話などに自らの健康情報を保持できる。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の具体的実施例を説明する。
図2(a)は、カルテ情報共有機関が管理する個人情報の一例を示す。患者IDには、当該患者のメイルアドレスを用いている。この患者IDの下に、氏名や生年月日、性別、住所などの、個人を特定するための情報が記録されている。
図2(b)では、カルテ情報地域共有サーバー内の記録形態の一例を示す。患者IDには、前記当該患者のメイルアドレスが記録されている。次のカルテ情報共有機関IDは、当該共有カルテ情報を提供したカルテ情報共有機関のIDを示し、患者IDと同様にメイルアドレスを用いている。その後、共有カルテ情報の作成日時、その内容などが記録されている。
【0025】
共有カルテ情報の閲覧の際は、図2(a)に示す当該カルテ情報共有機関内で管理されている個人情報のリストを下に、閲覧したい患者を選び、当該患者IDをカルテ情報地域共有サーバーに送信する。これを受信したカルテ情報地域共有サーバーは、図2(b)に示されるような共有カルテ情報を検索し、当該患者IDと一致する記録を抽出し(要求共有カルテ情報抽出手段)、要求元のカルテ情報共有機関に送信する(要求共有カルテ情報送信手段)。
【0026】
ここで、図2(a)に示すような個人情報のリストは、物理的に当該カルテ情報共有機関内のPCなどに記録管理されても良いし、院内LANのサーバー、或いはクラウド上の記録媒体に記録管理されても良いが、いずれにしても、カルテ情報地域共有サーバーとは別のセキュリティで保護しておき、個人情報と、それを除外している共有カルテ情報の両者のセキュリティが同時に破られることが無いようにしておくことが望ましい。
【0027】
図3では、同一患者IDを共有しているカルテ情報共有機関どうしは、自らの提供した共有カルテ情報はもちろんであるが、他のカルテ情報共有機関の提供した当該患者の共有カルテ情報も閲覧できることを示す。逆に言えば、自らの患者ID管理手段に登録されていない患者に関しては、その存在自体が見えない。
【0028】
共有カルテ情報の提供の際は、まず当該患者IDが既に患者ID管理手段に登録されていれば、その患者IDを用い、未登録であれば、患者IDとなるメイルアドレスを始めとする図2(a)の内容を登録した後、当該患者IDを用いる。自らの管理するカルテから、共有すべき共有カルテ情報を抽出、作成するが(共有カルテ情報作成手段)、図2(a)に示すような、個人が特定される情報は全て削除ないし含まれないように配慮する。作成された当該共有カルテ情報を、当該患者IDとともに、通信回線を介して前記カルテ情報地域共有サーバーに送信する(共有カルテ情報送信手段)。さらに、希望する患者については、患者IDとして用いられているメイルアドレス宛に、共有カルテ情報を送信する(共有カルテ情報患者メイル送信手段)。
共有カルテ情報は、電子カルテから電子的かつ論理的に抽出されたものだけでなく、電子カルテ画面の画面ショット、紙カルテの撮影ないしスキャンイメージでも良い。このようにすることで、院内LANからなる電子カルテを装備した大病院だけでなく、PC一台の診療所、手書きのカルテを使用しているところでも、カルテ情報地域共有システムへの参加が可能である。
【0029】
このように、個人情報は全てカルテ情報共有機関内に留め、カルテ情報地域共有サーバーには、個人情報を除去した共有カルテ情報のみが記録される。カルテ情報共有機関内の個人情報と、個人情報を除去したカルテ情報地域共有サーバー内共有カルテ情報とは、患者IDのみでリンクすることとなる。この患者個人情報と個人情報以外の共有カルテ情報を分離して記録、管理する構成をとることにより、万一カルテ情報地域共有サーバーのセキュリティが破られたとしても、内部には個人情報を除去した共有カルテ情報しか存在しないので、個々のカルテ情報共有機関が管理する患者ID管理手段のセキュリティも同時に破られない限り、個人情報の大量流出は起こりえない。
カルテ情報地域共有サーバー内の患者IDやカルテ情報共有機関IDの欄には、当該メイルアドレスを基にしたハッシュ関数、或いは同様な暗号化処理を行った数値や文字列を記入しておくと、より匿名化が進み、さらに安全となる。
【0030】
患者IDはメイルアドレスとしている。これは、メイルアドレスは、世界に一つしかない一意的な文字列であることが保障されているためである。既に大多数の国民がメイルアドレスを有している現状では、これを利用することが最も実用的である。さらに、前記共有カルテ情報患者メイル送信手段のように、患者に共有カルテ情報を直接送信することがきわめて容易となる。一般論として、一意的であればID足りうるのであるが、もし数値などのID番号で管理しようとすると、複数の医療機関にわたって同一のID番号が他の患者に使用されていないかどうかを確認する必要があり、大変な手間とコストを要する。URLを用いることも可能であるが、同様に管理が大変であり、患者への直接送信手段とならないので、好ましいとは言えない。
【0031】
現在、メイルアドレスの取得は、きわめて安価ないし無料となっている。もし、患者が自ら既に保有しているメイルアドレスの告知を拒否した場合には、一旦無料のメイルサービスプロバイダーでメイルアドレスを取得して患者IDとし、患者は、後で当該無料メイルアドレスに、自らが既に保有しているメイルアドレスにメイルを転送する設定を行えば良い。
【0032】
患者IDとしてメイルアドレスを用いると、カルテ情報を共有する医療機関の範囲を、患者自身が制御することが出来る。通常は同じメイルアドレスを医療機関に告知するが、他の医療機関に知られたくないような疾患の場合などは、その疾患で受診している医療機関には、通常とは別のメイルアドレスで登録すれば、当該カルテ情報は、当該メイルアドレスでのみ管理されるため、同じ患者であっても、別のメイルアドレスで管理されている他の医療機関からは一切参照することはできない。
【0033】
本発明のカルテ情報地域共有システムにおいては、種々の管理者やスタッフが関係する。図4においては、それらの権限の階層構造を示している。各々は、IDとパスワードで認証され、予め与えられている権限の範囲で本システムに関与する。
認証は、ログインしてきたユーザーに対して、IDとパスワードの入力を要求する通常の認証でも良いし、よりセキュリティが求められる場合は、ICカードや生体識別などの技術を併用しても良い。さらには、使い捨てのパスワードを、IDで示されるメイルアドレスに送信し、画面からの入力を求める方法もある。
【0034】
最上位のカルテ情報地域共有システム統括管理者は、傘下のドメイン毎に、ドメイン管理者にドメイン管理IDと、それに付随する権限を付与する。また、ドメイン毎に使用できる上限の記録容量を割り当てたり、ドメインの合併、分離、或いは削除したりを行う。これらの手段は、図2(b)のテーブルを、併合、或いはカルテ情報共有機関IDをグループに分け、各々のグループごとにテーブルを分割する、テーブル自体を削除するなどを行い、新たなドメイン管理者にドメイン管理IDと、それに付随する権限を付与することにより実行される。この機能により、気の合った医療機関だけで小規模のドメインからカルテ情報地域共有システムの利用を開始し、徐々に拡大、再編成してゆくことが容易となり、従来の運用上の交渉作業が軽減される。
【0035】
前記により権限を付与されたドメイン管理者は、ドメイン傘下のカルテ情報共有機関に対して、カルテ情報共有機関管理者を選定し、カルテ情報共有機関IDと、それに付随する権限を付与し、カルテ情報共有機関IDのリストを管理する。
前記により権限を付与されたカルテ情報共有機関管理者は、自院のスタッフに対して、スタッフIDと、それに付随する権限を付与する。スタッフは、自らに付与された権限に基づいて、カルテ情報を共有すべき患者のID作成と、患者IDごとに個人情報の作成、管理を行う。さらに、共有カルテ情報を作成し、カルテ情報地域共有サーバーに送信する。業務上の必要に応じて、他医療機関から提供されている当該患者の共有カルテ情報を閲覧する。また、不要となった共有カルテ情報や患者IDの削除を行う。
【0036】
患者は、共有を認めたカルテ情報共有機関に対して、メイルアドレスを告知し、或いは新規作成を許可し、自らの患者IDを管理する。また、カルテ情報地域共有サーバーにアクセスして自らのカルテを参照したり、自らの携帯電話に共有カルテ情報を受信したり、場合によっては、共有カルテ情報に対するコメントを作成、送信する。
このように、それぞれのレベルのユーザーは、カルテ情報地域共有サーバーにアクセスしてIDとパスワードを入力して認証を受け、自らに付与されている権限に基づいて作業を行う。当然ながら、全ユーザーについてのIDとパスワード、付与された権限のリストがカルテ情報地域共有サーバー内に管理されており、アクセスしてきたユーザーに対して認証を行う。
【0037】
この種のシステムでは、もはや参照されることの無くなった不要な患者データが増大し、記録容量の増大から来るコスト増に直結する。本発明では、望ましい形態として、記録容量の不必要な増加を避けるため、ドメインごとに使用記憶容量の上限を指定するドメイン毎使用記憶容量制限手段を備えている。これにより、使用記録容量の無秩序な増大が避けられる。
【0038】
ドメイン管理者は、自分のドメインに割り当てられた記録容量の範囲で運用するため、カルテ情報共有機関ごとの記録容量の上限を管理するカルテ情報共有機関毎使用記憶容量制限手段を用い、傘下の各カルテ情報共有機関が無秩序に記録容量を浪費しないよう管理することが出来る。
【0039】
カルテ情報共有機関管理者は、自院スタッフに指示して、共有の必要性が乏しくなった自院提供の共有カルテ情報、或いは患者IDそのものを削除し、自院に割り当てられたカルテ情報共有機関毎使用記憶容量の制限を越えないようにすることが出来る。共有カルテ情報は削除しても、自院内には、オリジナルのカルテ情報が記録管理されているため、一部を抽出した共有カルテ情報を削除しても、問題はない。
【0040】
以上、医療機関を例にとり実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、介護、福祉機関、さらにはそれらの組み合わせについても本発明に含まれる。また発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4