特許第5965746号(P5965746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラメディカル株式会社の特許一覧

特許5965746人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法
<>
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000002
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000003
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000004
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000005
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000006
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000007
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000008
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000009
  • 特許5965746-人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965746
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/32 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   A61F2/32
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-146362(P2012-146362)
(22)【出願日】2012年6月29日
(65)【公開番号】特開2014-8185(P2014-8185A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504418084
【氏名又は名称】京セラメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】下園 隆祥
(72)【発明者】
【氏名】脇山 美世
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−305944(JP,A)
【文献】 特開2001−245911(JP,A)
【文献】 特許第4911566(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム本体部と、
ポーラス体を有し、前記ステム本体部に結合されたポーラス部と、を備え、
前記ステム本体部は、生体の骨の髄腔部に挿入するための挿入部を有し、
前記ポーラス部は、生体親和性を有する金属粉末積層体である、筒状の単一部分であり、前記挿入部の近位部を取り囲むように配置され、
前記ポーラス体は、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されていることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節用ステムであって、
前記ポーラス体の近位部の厚みは、前記ポーラス体の遠位部の厚みよりも大きく設定されていることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工関節用ステムであって、
前記ポーラス部の遠位端部は、緻密体であることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の人工関節用ステムであって、
前記ステム本体部と、前記ポーラス部とは、互いに別部材を用いて形成されており、且つ、互いに一体的に結合されていることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の人工関節用ステムであって、
前記ポーラス部は、前記挿入部の前記近位部と対向する対向面を有しており、
前記対向面には、複数の孔部が形成され、
各前記孔部の直径が600μm以下であること、前記対向面における複数の前記孔部の合計の面積率が30%以下であること、隣り合う前記孔部間の距離が0.5〜7.0mmであること、の少なくとも1つの条件が満たされていることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項の何れか1項に記載の人工関節用ステムであって、
前記挿入部の近位部には、前記ステム本体部に対する前記ポーラス部の位置を規定するための、位置決め用段部が形成されていることを特徴とする、人工関節用ステム。
【請求項7】
生体の骨の髄腔部に挿入されるステム本体部に結合される部品としての、人工関節用ステムの部品であって、
ポーラス体を有し、前記ステム本体部に結合されるポーラス部を備え、
前記ポーラス部は、生体親和性を有する金属粉末積層体である、筒状の単一部品であり、
前記ポーラス体は、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されていることを特徴とする、人工関節用ステムの部品。
【請求項8】
生体の骨の髄腔部に挿入するための挿入部を有するステム本体部と、ポーラス体を有し前記ステム本体部に結合されたポーラス部と、を有する人工関節用ステムの製造方法であって、
前記ステム本体部を形成する、ステム本体部形成ステップと、
前記ポーラス部を形成する、ポーラス部形成ステップと、
前記ステム本体部を前記ポーラス部に結合する、結合ステップと、を有し、
前記ポーラス部形成ステップでは、生体親和性を有する金属粉末を積層することによって、筒状の単一部品を形成することで、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されている前記ポーラス体を有するように前記ポーラス部を形成し、
前記結合ステップでは、前記ポーラス部を、前記挿入部の近位部に嵌合した状態で、前記ポーラス部を、前記ステム本体部に結合することを特徴とする、人工関節用ステムの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の人工関節用ステムの製造方法であって、
前記結合ステップでは、前記ポーラス部は、前記挿入部の前記近位部を締め付けるように前記挿入部と結合されることを特徴とする、人工関節用ステムの製造方法。
【請求項10】
請求項又は請求項に記載の人工関節用ステムの製造方法であって、
前記結合ステップでは、前記ポーラス部と前記挿入部との間にスラリーを介在させて当該スラリーを加熱すること、又は、前記ポーラス部と前記挿入部とを拡散接合すること、によって、前記ポーラス部と前記挿入部とを結合することを特徴とする、人工関節用ステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の関節を人工関節に置換する手術において用いられる、人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、関節に異常が認められた患者に対して、関節の一部又は全部を人工関節に置換する人工関節置換術が行われている。人工関節としての人工股関節は、臼蓋側コンポーネントと、大腿骨側の人工関節用ステム(例えば、特許文献1参照)と、を有する。骨盤の臼蓋に、臼蓋側コンポーネントである、窪み状のシェル及びライナーが設置される。また、大腿骨側の人工関節用ステム(ステム)は、長尺形状に形成されており、患者の大腿骨の髄腔部に挿入される。
【0003】
ステムのネック部には、骨頭ボールが固定される。骨頭ボールは、ライナーの内側に配置される。上記の構成により、大腿骨及びステムの動きに合わせて、骨頭ボールが、ライナーに対して摺動する。
【0004】
人工股関節の置換手術時には、例えば、患者の大腿骨の近位部の骨頭が切除された後、ステムが、大腿骨の髄腔部に挿入される。ステムは、大腿骨の近位部に固定される。
【0005】
特許文献1に記載のステムは、大腿骨ステムと、多孔質体と、を有している。大腿骨ステムは、チタン合金製である。この大腿骨ステムの近位部の表面には、複数の凹部が形成されている。複数の凹部は、ステムの近位部の表面の円周方向に離隔して配列されている。各凹部には、それぞれ、多孔質体が嵌め込まれている。これにより、ステム近位部において、複数の多孔質体が、ステム本体の円周方向に離隔して配列されている。各多孔質体は、多数の孔が形成された、厚み150μm以下の金属板を積層することにより製造されたものである。各多孔質体は、凹部に嵌まるように構成されている。具体的には、各多孔質体は、平板状、又は、弓なりに曲がった板状に形成されている。各多孔質体は、大腿骨ステムの対応する凹部に嵌め込まれている。
【0006】
ステムが、大腿骨の髄腔部に挿入され、一定の期間が経過すると、ステムの各多孔質体には、大腿骨の近位部の骨組織が進入する。これにより、大腿骨ステムは、大腿骨に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−7388号公報([請求項1]、[0093]〜[0104]、図36図43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、特許文献1に記載の構成では、ステム本体の近位部の表面に、複数の凹部を形成する必要がある。ステム本体は、チタン合金製であり、凹部の形成加工を行い難い。したがって、ステム本体の製造に手間がかかる。また、凹部は、平板状の多孔質体が嵌められる構成である。このため、凹部の底部の外周部は、角張った形状を有しており、応力集中が生じやすい。このため、大腿骨からの荷重が、多孔質体を介してステム本体の凹部に作用した場合等に、凹部で生じる応力が高くなってしまう。しかも、ステム本体には、凹部が複数形成されているので、ステム本体における、応力集中の生じる箇所は、多数存在する。大腿骨ステムの許容荷重を高める上で、このような応力集中は、好ましくない。
【0009】
また、多孔質体を、凹部の数と同じ数だけ設ける必要があり、しかも、複数の多孔質体の形状を、異ならせる必要がある。このため、多孔質体の製造に手間がかかる。しかも、複数の多孔質体を、個別に凹部へ嵌め込む必要がある。このため、多孔質体と、ステム本体とを結合する作業に手間がかかり、大腿骨ステムの製造にかかる手間が大きい。
【0010】
また、多孔質体は、金属板を積層した構造である。このため、多孔質体は、厚みが連続的に変化する形状等、複雑な形状を形成し難く、形状の自由度が低い。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工関節用ステムは、ステム本体部と、ポーラス体を有し、前記ステム本体部に結合されたポーラス部と、を備え、前記ステム本体部は、生体の骨の髄腔部に挿入するための挿入部を有し、前記ポーラス部は、生体親和性を有する金属粉末積層体である、筒状の単一部分であり、前記挿入部の近位部を取り囲むように配置され、前記ポーラス体は、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されていることを特徴とする。
【0013】
この発明によると、ポーラス部は、筒状の単一部分として設けられている。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。よって、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための加工が必要な箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済み、ステム本体部の加工の手間を少なくできる。特に、ステム本体部が、チタン合金製である場合、ステム本体部の加工のための手間を、格段に少なくできる。また、前述したように、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状に起因して応力集中が生じる箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済む。このように、ステム本体部において、応力集中が抑制されている結果、人工関節用ステムの強度を、より高くできる。
【0014】
また、ポーラス部は、単一部分として設けられている。したがって、ステム本体部にポーラス部を結合させる作業は、1度の作業で行うことができる。したがって、人工関節用ステムの製造にかかる手間を、少なくできる。
【0015】
また、ポーラス部は、金属粉末を積層して形成されている。このような構成であれば、ポーラス部の形状が複雑な場合であっても、金属粉末の積層の仕方を変えることで、ポーラス部を容易に製造できる。このため、ポーラス部の形状の自由度を高くでき、その結果、人工関節用ステムの形状の自由度を高くできる。また、生体の骨の髄腔部に人工関節用ステムが挿入された状態において、ポーラス体のうち近位部側では、生体の骨組織が多く進入できる。したがって、骨の髄腔部の開口に近いポーラス体近位部と、骨との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部の開口から比較的深い箇所に、ポーラス体の遠位部が配置される。この遠位部側の気孔率が小さくされていることにより、この遠位部には、生体の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを、より確実に抑制できる。
【0016】
従って、本発明によると、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、人工関節用ステムを提供することができる。
【0017】
第2発明に係る人工関節用ステムは、第1発明の人工関節用ステムにおいて、前記ポーラス体の近位部の厚みは、前記ポーラス体の遠位部の厚みよりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0018】
この発明によると、生体の骨の髄腔部に人工関節用ステムが挿入された状態において、孔部の開口から比較的浅い箇所に、ポーラス体の近位部が配置される。人工関節用ステム遠位部が固定されると、ステム近位部のぐらつきが生じやすい。ポーラス体の近位部の厚みが大きくされていることにより、この近位部には、生体の骨組織が多く進入できる。したがって、骨の髄腔部の開口に近い、ポーラス部の近位部と、骨との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部の開口から比較的深い箇所に、ポーラス体の遠位部が配置される。この遠位部の厚みが小さくされていることにより、この遠位部には、生体の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを抑制できる。即ち、骨の近位部のうちポーラス部と向かい合っている部分に、人工関節用ステムからの荷重を、バランスよく伝達できる。その結果、骨の近位部において、骨の萎縮を抑制できるので、人工関節用ステムと骨との強固な結合状態を、長期に亘って維持できる。
【0021】
発明に係る人工関節用ステムは、第1発明又は発明人工関節用ステムにおいて、前記ポーラス部の遠位端部は、緻密体であることを特徴とする。
【0022】
この構成によると、例えば、ポーラス部の遠位端部を、ステム本体部と同様の、緻密体として形成できる。緻密体には、骨組織が進入できないので、緻密体と骨とは結合しない。これにより、近位部での荷重伝達がより容易になされ、ストレスシールディングをより抑制できる。
【0023】
好ましくは、前記ポーラス部は、前記金属粉末が順次積層されて一旦溶融されることで一体化された状態で形成されている。
【0024】
この発明によると、金属粉末の溶融量を異ならせることで、ポーラス体の気孔率を、容易に調整することができ、ポーラス部の製造の自由度を、より高くできる。
【0025】
発明に係る人工関節用ステムは、第1発明乃至第発明の何れかの人工関節用ステムにおいて、前記ステム本体部と、前記ポーラス部とは、互いに別部材を用いて形成されており、且つ、互いに一体的に結合されていることを特徴とする。
【0026】
この発明によると、ステム本体部と、ポーラス部とを、個別に製造することができる。例えば、ステム本体部を、鋳造によって形成し、ポーラス部を、粉末金属の溶融によって形成できる。したがって、人工関節用ステムの製造の自由度を高くできる。また、ステム本体部とポーラス部とを一括して形成する場合と比べて、ポーラス体の気孔部分を、より精度よく製造できる。
【0027】
好ましくは、前記ステム本体部とポーラス部とは、スラリーを用いた結合、又は、拡散接合を用いた結合によって、互いに結合されている。
【0028】
この発明によると、ステム本体部と、ポーラス部とを、簡易な方法で互いに結合することができる。
【0029】
好ましくは、前記ステム本体部と前記ポーラス部とは、前記スラリーを用いた結合によって、互いに結合されており、前記ポーラス部は、前記挿入部の前記近位部と対向する対向面を有しており、前記対向面には、複数の孔部が形成されている。
【0030】
この発明によると、ステム本体部とポーラス部とを熱処理によって結合する際に、スラリーのバインダー成分を、孔部を通して逃がすことができる。これにより、ステム本体部とポーラス部との間に、上記のバインダー成分のガスに起因する空洞の発生を抑制でき、両者の結合力にばらつきが生じることを、抑制できる。
【0031】
発明に係る人工関節用ステムは、第発明乃至第4発明の何れかの人工関節用ステムにおいて、前記ポーラス部は、前記挿入部の前記近位部と対向する対向面を有しており、前記対向面には、複数の孔部が形成され、各前記孔部の直径が600μm以下であること、前記対向面における複数の前記孔部の合計の面積率が30%以下であること、隣り合う前記孔部間の距離が0.5〜7.0mmであること、の少なくとも1つの条件が満たされていることを特徴とする。
【0032】
この発明によると、各前記孔部の直径を600μm以下とすることで、スラリーの液体分が漏れてポーラス体の外周面の孔部を塞ぐことを抑制できるので、骨とポーラス部との結合力を十分確保できる。また、上記の面積率を30%以下にすること、及び、隣り合う前記孔部間の距離を0.5〜7.0mmにすることの少なくとも一方の条件を満たすことで、ステム本体部とポーラス部との結合力を十分に確保しつつ、スラリーのバインダー成分を、効率よく、人工関節用ステムの外部に排出できる。
【0033】
発明に係る人工関節用ステムは、第1発明乃至第発明の何れかの人工関節用ステムにおいて、前記挿入部の近位部には、前記ステム本体部に対する前記ポーラス部の位置を規定するための、位置決め用段部が形成されていることを特徴とする。
【0034】
この発明によると、ステム本体部の位置に対するポーラス部の位置を、より正確に規定することができる。
【0035】
発明に係る人工関節用ステムの部品は、生体の骨の髄腔部に挿入されるステム本体部に結合される部品としての、人工関節用ステムの部品であって、ポーラス体を有し、前記ステム本体部に結合されるポーラス部を備え、前記ポーラス部は、生体親和性を有する金属粉末積層体である、筒状の単一部品であり、前記ポーラス体は、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されていることを特徴とする。
【0036】
この発明によると、ポーラス部は、筒状の単一部分として設けられている。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。よって、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための加工が必要な箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済み、ステム本体部の加工の手間を少なくできる。特に、ステム本体部が、チタン合金製である場合、ステム本体部の加工のための手間を、格段に少なくできる。また、前述したように、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状に起因して応力集中が生じる箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済む。このように、ステム本体部において、応力集中が抑制されている結果、人工関節用ステムの強度を、より高くできる。
【0037】
また、ポーラス部は、単一部分として設けられている。したがって、ステム本体部にポーラス部を結合させる作業は、1度の作業で行うことができる。したがって、人工関節用ステムの製造にかかる手間を、少なくできる。
【0038】
また、ポーラス部は、金属粉末を積層して形成されている。このような構成であれば、ポーラス部の形状が複雑な場合であっても、金属粉末の積層の仕方を変えることで、ポーラス部を容易に製造できる。このため、ポーラス部の形状の自由度を高くでき、その結果、人工関節用ステムの形状の自由度を高くできる。また、生体の骨の髄腔部に人工関節用ステムが挿入された状態において、ポーラス体のうち近位部側では、生体の骨組織が多く進入できる。したがって、骨の髄腔部の開口に近いポーラス体近位部と、骨との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部の開口から比較的深い箇所に、ポーラス体の遠位部が配置される。この遠位部側の気孔率が小さくされていることにより、この遠位部には、生体の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを、より確実に抑制できる。
【0039】
従って、本発明によると、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて人工関節用ステムの強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、人工関節用ステム用の部品を提供することができる。
【0040】
発明に係る人工関節用ステムの製造方法は、生体の骨の髄腔部に挿入するための挿入部を有するステム本体部と、ポーラス体を有し前記ステム本体部に結合されたポーラス部と、を有する人工関節用ステムの製造方法であって、前記ステム本体部を形成する、ステム本体部形成ステップと、前記ポーラス部を形成する、ポーラス部形成ステップと、前記ステム本体部を前記ポーラス部に結合する、結合ステップと、を有し、前記ポーラス部形成ステップでは、生体親和性を有する金属粉末を積層することによって、筒状の単一部品を形成することで、前記ポーラス体の近位部側から前記ポーラス体の遠位部側に向かうに従い、前記ポーラス体の気孔率が小さくなるように構成されている前記ポーラス体を有するように前記ポーラス部を形成し、前記結合ステップでは、前記ポーラス部を、前記挿入部の近位部に嵌合した状態で、前記ポーラス部を、前記ステム本体部に結合することを特徴とする。
【0041】
この発明によると、ポーラス部は、筒状の単一部分として設けられている。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。よって、ステム本体部形成ステップにおいて、ポーラス部と結合するための加工が必要な箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済み、ステム本体部の加工の手間を少なくできる。特に、ステム本体部が、チタン合金製である場合、ステム本体部の加工のための手間を、格段に少なくできる。また、前述したように、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状をシンプルな形状にできる。このため、ステム本体部において、ポーラス部と結合するための形状に起因して応力集中が生じる箇所は、ゼロであるか、又は少なくて済む。このように、ステム本体部において、応力集中が抑制されている結果、人工関節用ステムの強度を、より高くできる。
【0042】
また、ポーラス部は、単一部分として設けられている。したがって、結合ステップにおいて、ステム本体部にポーラス部を結合させる作業は、1度の作業で行うことができる。したがって、人工関節用ステムの製造にかかる手間を、少なくできる。
【0043】
また、ポーラス部形成ステップにおいて、ポーラス部は、金属粉末を積層して形成されている。このような構成であれば、ポーラス部の形状が複雑な場合であっても、金属粉末の積層の仕方を変えることで、ポーラス部を容易に製造できる。このため、ポーラス部の形状の自由度を高くでき、その結果、人工関節用ステムの形状の自由度を高くできる。また、生体の骨の髄腔部に人工関節用ステムが挿入された状態において、ポーラス体のうち近位部側では、生体の骨組織が多く進入できる。したがって、骨の髄腔部の開口に近いポーラス体近位部と、骨との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部の開口から比較的深い箇所に、ポーラス体の遠位部が配置される。この遠位部側の気孔率が小さくされていることにより、この遠位部には、生体の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを、より確実に抑制できる。
【0044】
従って、本発明によると、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、人工関節用ステムについての、製造方法を提供することができる。
【0045】
発明に係る人工関節用ステムの製造方法は、請求項に記載の人工関節用ステムの製造方法において、前記結合ステップでは、前記ポーラス部は、前記挿入部の前記近位部を締め付けるように前記挿入部と結合されることを特徴とする。
【0046】
この発明によると、ポーラス部と、挿入部とを、しまりばめとなるように結合することができる。これにより、ポーラス部と、挿入部との結合力を、より高くできる。また、ポーラス部と挿入部とを結合させる作業の際に、ポーラス部が挿入部から抜けてしまうことを抑制できる。
【0047】
10発明に係る人工関節用ステムは、第発明又は第発明の人工関節用ステムの製造方法において、前記結合ステップでは、前記ポーラス部と前記挿入部との間にスラリーを介在させて当該スラリーを加熱すること、又は、前記ポーラス部と前記挿入部とを拡散接合すること、によって、前記ポーラス部と前記挿入部とを結合することを特徴とする。
【0048】
この発明によると、ステム本体部と、ポーラス部とを、簡易な方法で互いに結合することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によると、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明の一実施の形態に係る人工股関節コンポーネントを含む人工股関節を示す一部断面図である。
図2】ステムの側面図である。
図3】ステムのポーラス部の断面図であって、ステムを側方から見た状態を示している。
図4】ポーラス部の単品の断面図である。
図5】(a)は、ポーラス部の内周面の一部を拡大した、模式的な側面図であり、(b)は、ポーラス部の外周面の一部を拡大した、模式的な側面図である。
図6】ステムの製造工程を説明するためのフローチャートである。
図7】ステムの製造の要点を説明するための図である。
図8】本発明の変形例の主要部を示す断面図である。
図9】本発明の別の変形例の主要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、患者の関節を人工関節に置換する手術において用いられる、人工関節用コンポーネントとして広く適用することができる。
【0052】
[人工股関節の概略構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工関節用コンポーネントを含む人工股関節1を示す一部断面図である。図1では、人工股関節1が患者に設置された状態を、骨盤101の一部及び大腿骨102の一部とともに示している。図1に示すように、人工股関節1は、骨盤101の臼蓋101aに対する大腿骨102の相対変位を許容するための人工関節として設けられている。尚、以下では、特に説明なき限り、人工股関節1が、骨盤101及び大腿骨102に設置されている状態を基準に説明する。
【0053】
人工股関節1は、骨盤101の臼蓋101aに設置されたシェル2及びライナー3と、大腿骨102に設置されたステム4及び骨頭ボール5と、を備えて構成されている。
【0054】
シェル2及びライナー3は、骨盤101に保持され、且つ、骨頭ボール5と協働して球面継手を形成しており、骨盤101に対する大腿骨102の運動を許容する。シェル2は、カップ状に形成された、窪みを有する部材であり、骨盤101の臼蓋101aに固定されている。シェル2に、ライナー3が固定されている。
【0055】
ライナー3は、合成樹脂、金属、セラミックス等を用いて形成されている。ライナー3は、カップ状に形成された、窪みを有する部材である。ライナー3の内側面に、骨頭ボール5が摺動可能に接触している。
【0056】
骨頭ボール5は、ほぼ球状に形成されている。骨頭ボール5の材料としては、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得た、コバルトクロム合金、ステンレス鋼等の金属材料、ポリエチレン等の高分子材料、及びアルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料を例示することができる。骨頭ボール5には、挿通孔5aが形成されている。挿通孔5aは、骨頭ボール5の表面から当該骨頭ボール5の内部に延びており、ステム4の後述するネック部12に挿通されている。
【0057】
尚、本実施形態では、骨頭ボール5がステム4に連結される構成を例にとって人工股関節を説明しているけれども、この通りでなくてもよい。例えば、骨頭ボール5がステム4に一体に形成されていてもよい。また、シェル2が無くてもよい。
【0058】
ステム4は、骨頭ボール5を支持し、且つ、患者の大腿骨102に固定される部分として設けられている。
【0059】
上記の構成により、骨頭ボール5がライナー3の内側面に対して摺動することにより、大腿骨102が臼蓋101aに対して変位する。
【0060】
[ステムの詳細な構成]
図2は、ステム4の側面図である。図3は、ステム4のポーラス部の断面図であって、ステム4を側方から見た状態を示している。図1図2、及び図3に示すように、ステム4は、人工関節用ステムとして設けられている。ステム4の材料としては、生体埋植用に医療機器としての認可承認を得たチタン、チタン合金(例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−2Nb−1Ta)、コバルト合金(例えばコバルトクロム合金)、及びステンレス鋼等の、生体親和性を有する金属材料を例示することができる。ステム4の材料は、上記例示した金属材料のうちの1種類のみであってもよいし、複数種類であってもよいし、上記例示した以外の、生体親和性を有する1又は複数種類の金属材料であってもよい。
【0061】
本実施形態では、ステム4は、一つの部品として構成されている。ステム4は、細長い板状(ステム状)に形成されており、当該ステム4の途中部が屈曲した形状を有している。
【0062】
ステム4は、ステム本体部6と、ポーラス部7と、結合層8と、を備えている。本実施形態では、ステム本体部6と、ポーラス部7とは、互いに別部材によって形成されている。また、ステム本体部6と、ポーラス部7とは、結合層8を介して、互いに一体的に結合されている。
【0063】
本実施形態では、ステム本体部6は、上記の金属材料を材料として形成された、緻密体である。本実施形態において、緻密体とは、内部に実質的に気孔が設けられていない部分をいい、例えば、気孔率が数%未満(ゼロ%を含む)である部分をいう。即ち、本実施形態では、ステム本体部6には、ポーラス構造が設けられていない。
【0064】
ステム本体部6は、ステム4の大部分を占める部分として設けられている。本実施形態では、ステム本体部6は、鋳造によって形成されている。具体的には、ステム4の材料として例示した上記の金属材料等の材料を、溶融した状態で型に流し込むことにより、ステム本体部6が形成されている。
【0065】
尚、ステム本体部6は、上記の金属材料の塊に、切削加工等の機械加工を施すことにより、形成されてもよい。また、ステム本体部6は、上記の金属材料の塊に、鍛造加工を施し、その後、切削加工等の機械加工を施すことにより、形成されてもよい。また、ステム本体部6は、後述する積層造形法によって形成されてもよいし、焼結によって形成されてもよい。ステム本体部6の表面は、滑らかな面として形成されている。このような面を形成するための加工方法として、研削加工、研磨加工等の、機械加工を例示することができる。
【0066】
ステム本体部6は、挿入部11と、ネック部12と、を有している。
【0067】
挿入部11は、大腿骨102の髄腔部102bに挿入されるように構成されている。尚、挿入部11は、少なくとも一部が、髄腔部102bに挿入されていればよく、挿入部11の全てが髄腔部102bに挿入されている必要は無い。
【0068】
本実施形態では、ステム本体部6の厚み(図1図3のそれぞれにおいて、紙面に直交する方向に関するステム本体部6の長さ)は、略一定に設定されている。尚、ステム本体部6の厚みは、挿入部11の近位部11aから遠位部11bに向かうに従い、連続的又は段階的に小さくなっていてもよい。
【0069】
挿入部11は、大腿骨102の長手方向に沿う所定の長手方向Z1に沿って延びている。本実施形態では、挿入部11は、当該挿入部11の近位部11aから遠位部11bに向かって先細りとなる長尺形状を有している。尚、挿入部11は、先細り形状でなくてもよい。また、本実施形態では、ステム4の長手方向Z1は、挿入部11の長手方向でもある。
【0070】
挿入部11の近位部11aは、ネック部12に連続する部分として設けられている。また、近位部11aは、ポーラス部7を介して、大腿骨102の近位部102aからの荷重を受ける部分として設けられている。近位部11aは、長手方向Z1における挿入部11の一部を形成している。近位部11aのうち、近位端部11cは、髄腔部102bの開口102cに取り囲まれている。近位部11aは、長手方向Z1に沿って遠位部11b側に進むに従い、長手方向Z1と直交する幅方向W1の長さが連続的に小さくなる形状を有している。
【0071】
より具体的には、近位部11aは、幅方向X1に向かい合う一対の側部13,14を有している。一方の側部13は、他方の側部14側に向けて凹となる湾曲形状に形成されている。他方の側部14は、長手方向Z1と略平行に延びている。これにより、近位部11aは、ネック部12側に進むに従い、幅広となる形状に形成されている。尚、他方の側部14は、一方の側部13と同じように、湾曲状に形成されていてもよいし、側面視において長手方向Z1に対して傾斜するように延びていてもよい。
【0072】
近位部11aは、嵌合部15を有している。嵌合部15は、ポーラス部7と嵌合する部分として設けられている。嵌合部15は、近位部11aの略全域に配置されている。嵌合部15は、長手方向Z1と直交する断面(図示せず)において、幅方向W1に細長い形状に形成されている。嵌合部15は、周方向C1(長手方向Z1に延びる軸線周りの方向)において、近位部11aの全域に亘って形成されている。
【0073】
嵌合部15の表面は、研削加工又は研磨加工等の表面処理加工を施された、滑らかな面とされている。嵌合部15の近位端部15a及び遠位端部15bは、それぞれ、一方の側部13から他方の側部14に進むに従い、ネック部12に近づくようにして、長手方向Z1の一方側に向かっている。嵌合部15の近位端部15aに、位置決め用段部16が連続している。
【0074】
位置決め用段部16は、ステム本体部6に対するポーラス部7の位置を規定するために設けられている。位置決め用段部16にポーラス部7が受けられることにより、ポーラス部7の位置が定まる。位置決め用段部16は、嵌合部15からステム本体部6の外部へ向けて突出するように延びている。本実施形態では、位置決め用段部16は、周方向C1におけるステム本体部6の全域に形成されている。嵌合部15からの位置決め用段部16の突出量は、ポーラス部7の近位端部7aにおけるポーラス部7の厚みTaと同程度に設定されている。嵌合部15と長手方向Z1の延長方向に、挿入部11の遠位部11bが配置されている。
【0075】
挿入部11の遠位部11bは、髄腔部102bには挿入されるものの、大腿骨102には固定されない部分として設けられている。挿入部11の遠位部11bが髄腔部102bに挿入されていることにより、髄腔部102bへの挿入部11の挿入量を多く確保できる。これにより、ステム4は、髄腔部102bに、より理想的な位置に挿入される。挿入部11の遠位部11bは、髄腔部102bと直接向かい合っている。しかしながら、前述したように、挿入部11の表面は、滑らかな面とされており、髄腔部102bの骨組織とは結合しない。本実施形態では、長手方向Z1における、挿入部11の遠位部11bの長さは、挿入部11の近位部11aの長さよりも、大きく設定されている。上記の構成を有する挿入部11から、ネック部12が延びている。
【0076】
ネック部12は、挿入部11の近位部11aから、ライナー3に向けて突出する部分として設けられている。ネック部12は、髄腔部102bから突出している。ネック部12は、長手方向Z1に対して傾斜するように延びている。ネック部12は、先細り形状に形成されている。ネック部12は、骨頭ボール5の挿通孔5aを挿通している。ネック部12と骨頭ボール5とは、例えば、圧入固定されており、ネック部12から骨頭ボール5が外れないようにされている。上記の構成を有するステム本体部6は、ポーラス部7と結合されている。
【0077】
図4は、ポーラス部7の単品の断面図である。図1図4に示すように、ポーラス部7は、患者の大腿骨102の近位部102aの髄腔部102bと機械的に結合(固定)するために設けられている。前述したように、ポーラス部7は、ステム本体部6とは別部材を用いて形成されており、単品の状態では、筒状の単一部分として存在する。本実施形態では、ポーラス部7は、積層造形法によって、形成されている。積層造形法は、ステム4の材料である上記金属粉末を所定の厚み毎に積層し、且つ、積層作業の度に、当該積層した金属粉末を一旦溶融させることで、形成されている。このポーラス部7を結合層8によってステム本体部6に結合させることで、ステム4が形成されている。
【0078】
ポーラス部7は、長手方向Z1に細長い円筒状に形成されており、ステム本体部6の嵌合部15に嵌合されている。即ち、ポーラス部7は、挿入部11の近位部11aに設置されている。この構成により、ポーラス部7は、挿入部11の近位部11aを取り囲むように配置されている。ポーラス部7の少なくとも一部は、髄腔部102bに挿入されている。本実施形態では、ポーラス部7の全体が、髄腔部102bに挿入されている。
【0079】
ポーラス部7は、ステム4の外表面の一部を形成しており、大腿骨102の近位部102aと直接接触する。本実施形態では、ポーラス部7は、挿入部11の一方の側部13から他方の側部14に向かうに従い、長手方向Z1の長さが小さくなるように形成されている。尚、長手方向Z1におけるポーラス部7の長さは、周方向C1の全域に亘って一定でもよい。
【0080】
ポーラス部7は、ポーラス体21と、緻密体22と、を有している。
【0081】
ポーラス体21は、ポーラス部7のうち、当該ポーラス部7の遠位端部7b以外の部分を構成している。ポーラス体21は、表面改質部として設けられており、大腿骨102の近位部102aと強固に結合するために設けられている。具体的には、ポーラス体21は、所定の気孔率を有するポーラス構造を有している。ポーラス体21は、ポーラス部7の材料である金属粉末の溶融量を所定量以下にすることで形成されており、多数の気孔25を有している。本実施形態では、気孔率は、単位体積Aにおける気孔(空間)の体積Bを、単位体積Aで除した値に100を乗じた値として定義される。即ち、気孔率=(B/A)×100として表すことができる。
【0082】
本実施形態では、ポーラス体21の気孔率は、ポーラス体21の近位部21aから遠位部21b側に向かうに従い小さくされている。ポーラス体21における気孔率は、ポーラス部7の遠位端部7b側に向かうに従い連続的に小さくされていてもよいし、段階的に小さくされていてもよい。
【0083】
また、ポーラス部7の近位端部7aにおける、ポーラス部7の厚み(肉厚)Taは、当該ポーラス部7の遠位端部7bにおける、ポーラス部7の厚みTbよりも大きく設定されている(Ta>Tb)。本実施形態では、ポーラス部7の厚みは、ポーラス部7の近位端部7aから遠位端部7b側に向かうに従い、連続的に小さくされている。これにより、ポーラス体21の遠位部21bの厚みは、ポーラス体21の近位部21aの厚みよりも小さくされている。
【0084】
ポーラス体21の各気孔25には、大腿骨102の近位部102aの骨組織が進入することが可能である。これにより、ポーラス体21は、近位部102aと結合し、大腿骨102と強固に結合される。また、ポーラス体21への、近位部102aの骨組織の進入量、即ち、ポーラス体21の各部と大腿骨102との結合力は、当該各部における厚みが大きいほど、大きくなる。また、好ましくは、ポーラス体21の気孔率は30〜60%、及び孔径は100〜300μmである。ポーラス体21の気孔率及び孔径を最適化することにより、ポーラス体21の各部と大腿骨102との結合力を最大にすることができる。
【0085】
ポーラス体21のうち、ステム本体部6の位置決め用段部16と隣接している部分、即ち近位端部7aは、当該位置決め用段部16によって受けられている。これにより、ポーラス部7は、ステム本体部6に対する位置を規定されている。本実施形態では、近位端部7aは、周方向C1の全域に亘って、当該位置決め用段部16によって受けられている。上記の構成を有するポーラス体21と連続するように、緻密体22が配置されている。
【0086】
緻密体22は、ポーラス部7の遠位端部7bを形成している。即ち、遠端端部7bは、緻密体からなる。緻密体22は、ステム本体部6の表面と同様、実質的に気孔が形成されていない部分である。緻密体22は、ステム4における周方向C1の全域に亘って延びる、環状の部分である。緻密体22には、大腿骨102の骨組織が進入されることがなく、当該骨組織には接合されていない。緻密体22の外周面は、ステム本体部6の遠位部6bの表面と滑らかに連続している。
【0087】
ポーラス部7の内周面7c及び外周面7dは、何れも、ポーラス体21と、緻密体22と、によって形成されている。但し、ポーラス部7の大部分(遠位端部7bを除く部分)が、ポーラス体21によって形成されているため、内周面7c及び外周面7dは、何れも、実質的にポーラス体21によって形成されている。
【0088】
ポーラス部7の内周面7cは、嵌合部15に対向する対向面として設けられている。この内周面7cは、ステム本体部6の嵌合部15に嵌合されている。この内周面7cは、嵌合部15を締め付けるようにして嵌合部15に嵌合されている。また、内周面7cは、スラリーを用いて形成された、結合層8によって、嵌合部15に固定されている。
【0089】
結合層8は、スラリーが塗布され且つポーラス部7が嵌合された嵌合部15に、熱処理が施されることで形成された、金属層である。
【0090】
スラリーは、金属粉が液中に混入された泥状の結合材として用いられる。スラリー中の金属粉は、金属及び合金の少なくとも一方を含んでいる。この金属粉の材料として、純Ti、Ti合金(例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−2Nb−1Ta等)、Co合金(例えば、Co−Cr合金)等を用いることができる。即ち、結合層8は、金属層として設けられている。
【0091】
スラリー中の金属粉の大きさは特に限定されないけれども、例えば、平均粒径が20〜150μ程度の大きさを例示することができる。スラリーのバインダー成分としては、スターチ、アガロース等の糖類、ポリビニルアルコール(PVA)等のアルコール類を例示することができる。スラリー中の金属粉の含有割合は、例えば、75〜95質量%程度である。また、スラリー中のバインダー成分の含有割合は、例えば、約1質量%程度である。結合層8は、嵌合部15の全域に亘って形成されており、且つ、位置決め用段部16の全域に亘って形成されている。
【0092】
図5(a)は、ポーラス部7の内周面7cの一部を拡大した、模式的な側面図である。図5(b)は、ポーラス部7の外周面7dの一部を拡大した、模式的な側面図である。図5(a)及び図5(b)は、長手方向Z1の位置が、互いに同じ箇所を示している。
【0093】
図3図4図5(a)及び図5(b)に示すように、ポーラス部7の内周面7cには、多数の開孔(開口)18aが形成されている。また、ポーラス部7の外周面7dには、多数の開孔(開口)18bが形成されている。開孔18a,18bは、気孔25の一部として構成されている。各開孔18aは、ポーラス部7とステム本体部6とを結合する際において、スラリーのバインダー成分を飛散させることが可能に構成されている。また、各開孔18bは、上記のバインダー成分を飛散させることが可能に構成されているとともに、大腿骨102の近位部102aの骨組織が進入可能に構成されている。
【0094】
内周面7cにおける多数の開孔18aの合計の面積率Paは、外周面7dにおける多数の開孔18bの合計の面積率Pbよりも小さい(Pa<Pb)。開孔18aの面積率Paとは、ポーラス部7の内周面7cの面積に対する、全ての開孔18aの面積の合計の率をいう。また、開孔18bの面積率Pbとは、ポーラス部7の外周面7dの面積に対する、全ての開孔18bの面積の合計の率をいう。
【0095】
多数の開孔18aのうちの少なくとも一部の開孔18aは、1又は複数の開孔18bと連通しており、これにより、ポーラス部7の外周面7d側の空間S1と連通している。このような構成であれば、ポーラス部7とステム本体部6とをスラリーによって結合させる熱処理時に、スラリー中のバインダー成分は、気孔25の開孔18a及び開孔18bを通して、ポーラス部7の外周面7d側の空間へ、気体となって飛散できる。これにより、ポーラス部7と、ステム本体部6との接合部分に、空洞が生じることを抑制できるので、ポーラス部7とステム本体部6とが接合している部分の面積を、より多く確保できる。
【0096】
また、面積率Pb>面積率Paとなるように設定することで、ポーラス部7とステム本体部6とが互いに接合される面積を、十分に確保できる。よって、開孔18aと開孔18bとが連通するように構成すること、及び、面積率Pb>面積率Paに設定することによって、ポーラス部7とステム本体部6との接合強度を、十分に確保することができる。
【0097】
開孔18aの面積率Paは、30%以下であることが好ましく、0.4〜30%であることが、より好ましい。面積率Paを0.4%以上とすることにより、スラリーの熱処理時において、スラリー中のバインダー成分を効率よく、ステム本体部6の外側の空間S1に飛散させることができる。また、開孔18aの面積率Paを30%以下とすることによって、ポーラス部7とステム本体部6との接合面積を十分に確保することができるので、両者の接合強度を、十分に確保できる。開孔18aの面積率Paの下限は、より好ましくは0.5%であり、さらに好ましくは1%であり、特に好ましくは1.5%である。また、開孔18aの面積率Paの上限は、より好ましくは27%であり、さらに好ましくは25%であり、特に好ましくは20%である。
【0098】
開孔18aの孔径Raが大きすぎると、スラリーが、開孔18aを通じて、開孔18bに漏れ、開孔18bを塞ぐおそれがある。開孔18bが塞がされると、当該開孔18bへ大腿骨102の骨組織が進入できず、大腿骨102の近位部102aとポーラス部7との接合強度を十分に確保し難い。
【0099】
このような、スラリーの漏れは、開孔18aの孔径Raに応じて、スラリーの粘度を調整することによって回避可能であるけれども、孔径Raは、600μm以下であることが、好ましい。このような孔径Raを設定した場合、スラリーは、開孔18bへ漏れることを抑制され、開孔18bを塞ぐことを抑制される。孔径Raは、好ましくは、500μm以下であり、より好ましくは、400μm以下である。スラリーの漏れを抑制する観点からは、孔径Raは、小さいほど好ましい。孔径Raは、例えば、100μmに設定される。
【0100】
開孔18aの形状は、特に限定されない。開孔18aが、例えば円形である場合、孔径Raは、開孔18a円の直径を意味する、また、開孔18aの形状が円形以外の形状である場合は、円相当径(開孔18aの面積と同一面積の円の直径)を意味する。尚、図5(a)及び図5(b)では、開孔18a,18bは、何れも、円形である形態を例示しているけれども、円形以外の形状であってもよい。
【0101】
また、開孔18aは、内周面7cにおいて、均等に存在していることが好ましい。また、複数の開口18aの形状は、互いに略等しい形状に設定されていることが好ましい。また、内周面7cにおいて隣接する開孔18a同士の距離Waは、0.5〜7.0mmに設定されていることが好ましい。このように距離Waを設定することで、熱処理時において、スラリー中のバインダー成分を、効率よく空間S1へ飛散させることができる。尚、距離Waは、隣り合う開孔18aのそれぞれの中心間の距離を意味する。距離Waの下限は、より好ましくは、1.0mmであり、さらに好ましくは、1.3mmであり、特に好ましくは1.5mmである。距離Waの上限は、より好ましくは、6.5mmであり、さらに好ましくは、6.0mmである。
【0102】
ポーラス部7の厚み方向において、開孔18aの長さは、生体親和性を発揮させるための開孔18bの大きさを十分に確保する観点から、できるだけ薄いほうが好ましい。上記開孔18aの長さの範囲は、0.5mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましく、0.3mm以下であることが更に好ましい。開孔18aの上記長さの下限は、特に限定されないけれども、例えば、0.1mm程度である。尚、本実施形態では、開孔18aと当該開孔18aに最も近い開孔18bとが連続しているけれども、この通りでなくてもよい。互いに遠く離れた開孔18a,18b同士が連続していてもよい。
【0103】
特に、上記した開孔18aの面積率Pa、孔径Ra、及び開孔18a同士の距離Waの条件を何れも満たすことが好ましい。このようにすることによって、スラリーの熱処理時において、スラリー中のバインダー成分を、開孔18aから空間S1側へ飛散させることができる。よって、ポーラス部7とステム本体部6との接合部分における空洞の発生を抑制できるとともに、ポーラス部7とステム本体部6との接合面積を十分に確保できる。よって、ポーラス部7とステム本体部6との接合強度を向上できる。また、開孔18bをスラリーで塞ぐことを抑制できるので、開孔18bへ、大腿骨102の骨組織を確実に進入させることができ、大腿骨102の近位部102aと、ポーラス部7との接合強度を、より高くすることができる。
【0104】
外周面7dの開孔18bは、生体との親和性を確保する観点から設けられており、開孔18bの面積率Pbは、ある程度大きく設定される。これにより、大腿骨102の骨組織を、開孔18b内で十分に成長させることができ、その結果、ポーラス部7と、大腿骨102の近位部102aとの接合力を、十分に確保することができる。
【0105】
開孔18bの面積率Pbは、特に限定されず、生体との親和性を考慮して適宜設定することができる。面積率Pbは、例えば、50〜85%程度に設定される。また、ポーラス部7のポーラス体21において、内周面7c以外の部分の気孔率は、特に限定されないけれども、例えば、50〜85%程度に設定される。
【0106】
[ステムの製造工程]
図6は、ステムの製造工程を説明するためのフローチャートである。ステム4は、図6に示すフローに従って製造される。具体的には、まず、図7に示すステム本体部6を形成する(ステップS1)。また、ステム本体部6の形成と並行して、ポーラス部7を積層造形法によって形成するための、金属の粉末材料を用意する(ステップS2)。この粉末材料の材質は、前述したとおりである。積層造形に用いられる材料の粉末は、アトマイズ法(水アトマイズ法又はガスアトマイズ法)、回転電極法、ボールミル法等によって、調製可能である。上記方法によって調製された粉末は、必要に応じて篩い分け等が行われることが好ましい。これにより、平均粒径が20〜150μm程度の金属粉末を得ることができる。尚、金属粉末の平均粒径は、30〜60μm程度であることが、好ましい。
【0107】
次に、上記の粉末材料を用いて、図7に示すポーラス部7を形成する(ステップS3)。本実施形態では、ポーラス部7は、積層造形法によって製造される。積層造形法は、ステム4の材料である上記金属粉末を所定の厚み毎に積層し、且つ、積層作業の度に、当該積層した金属粉末を溶融及び凝固させる造形法である。
【0108】
金属粉末を溶融させる際には、レーザービーム等の電磁放射線、電子ビーム等の粒子放射線が、ポーラス部7の形状を特定する三次元画像データに従って、照射される。この造形法によって、金属粉末を溶融・及び凝固させ、ポーラス部7を得ることができる。単体の状態のポーラス部7の内周面7cの各部は、長手方向Z1と直交する断面の大きさ(直径)が、ステム本体部6の嵌合部15の対応する箇所の断面の大きさ(直径)と比べて、同じか、又は大きくされている。
【0109】
積層造形時の条件は、用いる粉末材料の種類、ポーラス部7の形状(ポーラス部7のポーラス体21の気孔率、開孔18aの直径Ra、開孔18a間の距離Wa等)に応じて、適宜設定される。例えば、粉末材料に照射される放射線の断面(円)の直径を、50〜200μm程度に設定し、放射線源と粉末との距離を40〜80cm程度、粉末の1層の厚みを20〜200μm程度に設定することができる。また、積層造形時の雰囲気は特に限定されないけれども、真空雰囲気下で積層造形が行われることが、好ましい。また、上記の雰囲気は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0110】
ステム本体部6及びポーラス部7が完成した後は、スラリーを用意する(ステップS4)。スラリーの材料は、前述したとおりである。次に、スラリーを、ステム本体部6の嵌合部15に塗布する(ステップS5)。スラリーを嵌合部15へ塗布する方法としては、ハケ塗り、ローラー塗り、吹き付け塗装、浸漬塗り等を例示することができる。叉、ポーラス部7の内周面7cにスラリーを塗布しても良い。
【0111】
次に、図7の矢印D1に沿って、ポーラス部7を、嵌合部15側へ変位させることで、ポーラス部7を、嵌合部15へ嵌合する(ステップS6)。この際、ポーラス部7は、ステム本体部6の遠位部6b側から、ステム本体部6の嵌合部15へ挿入される。そして、ポーラス部7の内周面7cが、嵌合部15に嵌合され、嵌合部15を締め付ける。また、ポーラス部7の近位端部7aが、ステム本体部6の位置決め用段部16に受けられる。
【0112】
次いで、ポーラス部7とステム本体部6とを結合させるための熱処理を行う(ステップS7)。この際の熱処理温度、及び、時間は、スラリーに含まれる金属粉の種類、焼結の程度、スラリー中のバインダー成分が十分に気化できること等の条件を考慮して、適宜設定される。熱処理温度は、例えばチタン系金属の場合、800〜1100℃に設定され、好ましくは900〜1000℃程度に設定される。また、熱処理時間は、1〜5時間程度に設定され、好ましくは、2〜4時間程度に設定される。この熱処理によって、スラリーのバインダー成分が飛散し、その結果、結合層8が形成される。
【0113】
以上説明したように、ステム4によると、ポーラス部7は、筒状の単一部分として設けられている。このため、ステム本体部6において、ポーラス部7と結合するための形状をシンプルな形状にできる。よって、ステム本体部6において、ポーラス部7と結合するための加工が必要な箇所は、少なくて済み、ステム本体部6の加工の手間を少なくできる。特に、ステム本体部6が、チタン合金製である場合、ステム本体部6の加工のための手間を、格段に少なくできる。また、前述したように、ステム本体部6において、ポーラス部7と結合するための形状をシンプルな形状にできる。このため、ステム本体部6において、ポーラス部7と結合するための形状に起因して応力集中が生じる箇所は、少なくて済む。このように、ステム本体部6において、応力集中が抑制されている結果、ステム4の強度を、より高くできる。
【0114】
また、ポーラス部7は、単一部分として設けられている。したがって、ステム本体部6にポーラス部7を結合させる作業は、1度の作業で行うことができる。したがって、ステム4の製造にかかる手間を、少なくできる。
【0115】
また、ポーラス部7は、金属粉末を積層して形成されている。このような構成であれば、ポーラス部7の形状が複雑な場合であっても、金属粉末の積層の仕方を変えることで、ポーラス部7を容易に製造できる。このため、ポーラス部7の形状の自由度を高くでき、その結果、ステム4の形状の自由度を高くできる。
【0116】
従って、製造にかかる手間を少なくでき、応力集中の抑制を通じて強度を高めることができ、且つ、形状の自由度の高い、ステム4を提供することができる。
【0117】
また、ステム4によると、ポーラス体21の近位部21aの厚みTaは、ポーラス体21の遠位部21bの厚みTbよりも大きく設定されている。このため、大腿骨102の髄腔部102bにステム4が挿入された状態において、髄腔部102bの開口102cから比較的浅い箇所に、ポーラス体21の近位部21aが配置される。ステム4の遠位部(遠位部6b)が大腿骨102に固定されると、ステム4の近位部(近位部6a)のぐらつきが生じやすい。ポーラス体の近位部21aの厚みが大きくされていることにより、この近位部21aには、大腿骨102の骨組織が多く進入できる。したがって、髄腔部102bの開口102cに近い近位部21aと、大腿骨102との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部102bの開口102cから比較的深い箇所に、ポーラス体21の遠位部21bが配置される。この遠位部21bの厚みが小さくされていることにより、この遠位部21bには、大腿骨102の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを抑制できる。即ち、大腿骨102の近位部102aのうちポーラス部7と向かい合っている部分に、ステム4からの荷重を、バランスよく伝達できる。その結果、近位部102aにおいて、骨の萎縮を抑制できるので、ステム4と大腿骨102との強固な結合状態を、長期に亘って維持できる。
【0118】
また、ステム4によると、ポーラス体21は、ポーラス体21の近位部21a側から遠位部21b側に向かうに従い、気孔率が小さくなるように構成されている。
【0119】
この構成によると、ポーラス体21の近位部21a側では、大腿骨102の骨組織が多く進入できる。したがって、大腿骨102の開口102cに近い近位部21aと、大腿骨102との結合力を、十分に確保できる。また、髄腔部102bの開口102cから比較的深い箇所に、ポーラス体21の遠位部21bが配置される。この遠位部21bの気孔率が小さくされていることにより、この遠位部21bには、大腿骨102の骨組織が必要以上に進入することを抑制できる。これにより、ストレスシールディングを、より確実に抑制できる。
【0120】
また、ステム4によると、ポーラス部7の遠位端部7bは、ステム本体部6と同様の緻密体によって形成されている。緻密体には、大腿骨102の骨組織が進入できないので、遠位端部7bと大腿骨102とは結合されない。これにより、近位部21aでの荷重伝達がより容易になされ、ストレスシールディングをより抑制できる。
【0121】
また、ステム4によると、ポーラス部7は、金属粉末が順次積層されて一旦溶融されることで一体化された状態で形成されている。この構成によると、金属粉末の溶融量を異ならせることで、ポーラス体21の気孔率を、容易に調整することができ、ポーラス部7の製造の自由度を、より高くできる。
【0122】
また、ステム4によると、ステム本体部6と、ポーラス部7とは、互いに別部材を用いて形成されており、且つ、互いに一体的に結合されている。この構成によると、ステム本体部6と、ポーラス部7とを、個別に製造することができる。例えば、ステム本体部6を、鋳造によって形成し、ポーラス部7を、粉末金属の溶融によって形成できる。したがって、ステム4の製造の自由度を高くできる。また、ステム本体部6とポーラス部7とを一括して形成する場合と比べて、ポーラス体21の開孔18a,18bを、より均質に製造できる。
【0123】
また、ステム4によると、ステム本体部6とポーラス部7とは、スラリーを用いた結合によって、互いに結合されている。このように、ステム本体部6と、ポーラス部7とを、簡易な方法で互いに結合することができる。
【0124】
また、ステム4によると、ポーラス部7の内周面7cには、複数の開孔18aが形成されている。この構成によると、ステム本体部6とポーラス部7とを熱処理によって結合する際に、スラリーのバインダー成分を、開孔18aを通して逃がすことができる。これにより、ステム本体部6とポーラス部7との間に、上記のバインダー成分のガスに起因する空洞の発生を抑制でき、両者の結合力にばらつきが生じることを抑制できる。
【0125】
また、ステム4によると、各開孔18aの直径が600μm以下である。これにより、スラリーの液体分が漏れてポーラス部7の開孔18bを塞ぐことを抑制できるので、大腿骨102とポーラス部7との結合力を十分に確保できる。また、内周面7cにおける複数の18aの合計の面積率が30%以下であり、隣り合う開孔18a間の距離が0.5〜7.0mmである。これにより、ステム本体部6とポーラス部7との結合力を十分に確保しつつ、スラリーのバインダー成分を、効率よく、ステム4の外部に排出できる。
【0126】
また、ステム4によると、ステム本体部6の挿入部11の近位部11aには、位置決め用段部16が形成されている。これにより、ステム本体部6の位置に対するポーラス部7の位置を、位置決め用段部16によって、より正確に規定することができる。
【0127】
また、ステム4の製造時には、ポーラス部7は、ステム本体部6の挿入部11の近位部11aを締め付けるように挿入部11と結合される。即ち、ポーラス部7と、挿入部11とを、しまりばめとなるように結合することができる。これにより、ポーラス部7と、挿入部11との結合力を、より高くできる。また、ポーラス部7と挿入部11とを結合させる作業の際に、ポーラス部7が挿入部11から抜けてしまうことを抑制できる。
【0128】
ところで、前述した特許文献1に記載の構成では、ステム本体の寸法公差と、板状の多孔質体の寸法公差に起因して、多孔質体の縁部が、ステム本体の凹部から突出することが考えられる。凹部から多孔質体の縁部が突出している場合、ステムを大腿骨の髄腔部に挿入した際に、多孔質体のうち、ステムの遠位部側の一部のみが、大腿骨の孔部の内面に引っかかるように接触する場合がある。即ち、広い表面積を有する多孔質体のうち、遠位部側の一部のみが、大腿骨の骨組織とエッジ当たりした状態で結合するおそれがある。このような態様の結合であると、大腿骨のうち、多孔質体と結合すべき箇所は、大腿骨ステムとの間で荷重が作用せず、その結果、大腿骨に、ストレスシールディングが生じてしまう。これにより、大腿骨ステムと大腿骨との安定した結合状態を維持できず、大腿骨ステムが、大腿骨に対して動揺してしまう。このようなぐらつきが生じた場合には、大腿骨ステムを大腿骨の近位部へ堅固に装着するための手術(再手術)を行う必要があり、手間が生じる。
【0129】
更に、特許文献1に記載の構成では、大腿骨の髄腔部に大腿骨ステムを挿入する際に、多孔質体のうち凹部から突出している部分が、大腿骨の内部で引っかかってしまい、所望の深さにまで、大腿骨ステムを挿入できないおそれがある。この場合、上記したのと同様に、大腿骨のうち、本来、多孔質体と結合すべき箇所は、大腿骨ステムとの間で荷重が作用しないこととなる。
【0130】
更に、特許文献1に記載の構成では、大腿骨の髄腔部に大腿骨ステムを挿入する際に、多孔質体が大腿骨の内壁部に引っかかって多孔質体がステム本体から剥がれるおそれがある。多孔質体に、アパタイトコーティングを施している場合には、このコーティング層が剥がれるおそれもある。
【0131】
これに対し、ステム4によると、ステム本体部6の外周面とポーラス部7の外周面7dとは、滑らかに連続するように接続されており、ポーラス部7が髄腔部102b内で大腿骨102と引っかかることを抑制できる。これにより、ポーラス部7と大腿骨102との接触面積を十分に確保できる。よって、大腿骨102のうち、ポーラス部7と結合すべき箇所を、確実にポーラス部7と接触させることができる。よって、上記したような、ストレスシールディングを抑制できる。また、大腿骨102の髄腔部102bにステム4が引っかかってしまうことを抑制できるので、ステム4を、髄腔部102bにおいて所望の深さにまで、確実に挿入でき、且つ、ポーラス部7の外周面7dの欠けを抑制できる。
【0132】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0133】
[変形例]
(1)前述の実施形態では、ポーラス部7とステム本体部6とを、スラリーを用いて結合する形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、ポーラス部7とステム本体部6とを、スラリーを用いることなく結合してもよい。より具体的には、ポーラス部7と、ステム本体部6とを、拡散接合によって結合してもよい。拡散接合(固層拡散接合)は、ポーラス部7とステム本体部6とを密着させて加圧することにより、ポーラス部7とステム本体部6の互いの対向面間に生じる原子の拡散を利用して、両者を接合する接合をいう。
【0134】
拡散接合を行う場合、前述の実施形態において、ポーラス部7の内周面7cは、緻密体となるように形成される。また、スラリーを用意するステップ(ステップS4)が省略される。また、前述の熱処理のステップ(ステップS7)では、例えば、チタン系金属の場合、900〜1100℃の温度で熱処理が行われる。この際、ポーラス部7は、ステム本体部6に加圧される。この場合の加圧法として、熱間等方圧加圧加工(HIP)を例示することができる。拡散接合によって、ポーラス部7とステム本体部6とを容易に結合することができる。
【0135】
(2)また、前述の実施形態では、ステム本体部6に位置決め用段部16が設けられる形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、図8に示すように、ステム本体部6Aの近位端部6cAに位置決め用段部16が形成されていなくてもよい。尚、以下では、上記実施形態と異なる構成について説明し、上記実施形態と同様の構成には、図に同一の符号を付して説明を省略する。
【0136】
この場合、ステム本体部6Aには、段差が生成されておらず、ステム本体部6Aの近位部6aから遠位部6bにかけて、滑らかな面が連続している。即ち、ステム本体部6Aの外周部は、滑らかな面によって形成されている。この場合、ステム本体6Aに位置決め段部を形成する加工が不要である。よって、ステム本体部6Aの加工の手間を少なくできる。また、ステム本体部6Aにおいて、ポーラス部7と結合するための形状を、よりシンプルな形状にできる。このため、ステム本体部6Aにおいて、ポーラス部7と結合するための形状に起因して応力集中が生じる箇所を、より少なくできる。このように、ステム本体部6Aにおいて、応力集中が抑制されている結果、ステムの強度を、より高くできる。
【0137】
(3)また、前述の実施形態では、ポーラス部を、積層造形法によって形成する形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、ポーラス部は、焼結によって形成されてもよい。
【0138】
(4)また、前述の実施形態では、ポーラス部は、無端の筒状である形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、ポーラス部の周方向の一箇所に、スリットが形成されていてもよい。このスリットは、ポーラス部を、長手方向に貫いており、ポーラス部は、略C字の筒状に形成される。この場合、ポーラス部を、ステム本体部6の嵌合部に、加圧によって、より密着させ易くできるので、ポーラス部とステム本体部との結合力を、より高くし易い。
【0139】
(5)また、前述の実施形態では、1つのポーラス部をステム本体部に結合する形態を例に説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、複数のポーラス部をステム本体部に結合してもよい。この場合、複数のポーラス部は、長手方向に沿って配列される。
【0140】
(6)前述の実施形態では、ポーラス体の厚み及び気孔率は、それぞれ、連続的に変化する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、ポーラス体の厚み及び気孔率の態様は、それぞれ、上記実施形態以外の態様も可能である。
【0141】
(7)また、前述の実施形態では、人工関節用ステムとして、人工股関節に用いられるステムを例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、本発明の人工関節用コンポーネントを、人工肘関節、及び人工肩関節の少なくとも一方に適用してもよい。図9は、人工肩関節に用いられる人工関節用ステムとしてのステム4Bを示す断面図である。ステム4Bは、生体の上腕骨(図示せず)に挿入されるように構成されている。ステム4Bのステム本体部6Bの挿入部11Bには、略半楕円球状のヘッド(図示せず)を固定するための凸部23が一体に設けられている。ステム4Bの嵌合部15Bには、ポーラス部7Bが結合されている。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明は、患者の関節を人工関節に置換する手術において用いられる、人工関節用ステム、人工関節用ステムの部品、及び人工関節用ステムの製造方法として、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0143】
4 ステム(人工関節用ステム)
6 ステム本体部
7 ポーラス部
11 挿入部
11a 挿入部の近位部
21 ポーラス体
102 大腿骨(骨)
102b 髄腔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9