特許第5965786号(P5965786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965786
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   H05K9/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-189611(P2012-189611)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-49526(P2014-49526A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000168632
【氏名又は名称】高圧ガス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】杉前 寿雄
(72)【発明者】
【氏名】野杁 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 武司
(72)【発明者】
【氏名】井上 清博
【審査官】 遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−90909(JP,A)
【文献】 特開2007−019287(JP,A)
【文献】 特開2000−278032(JP,A)
【文献】 特開2002−76681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が1Ω・m以下の導電体と、少なくとも1種の誘電体を含む樹脂から成り体積抵抗率が1kΩ・m以上10GΩ以下の半絶縁体とを含む複合体からなり
前記複合体に対向する1対の電極を設けた場合、その1対の電極間に絶対値が10mV以上の電位差が発生する、電磁波吸収体。
【請求項2】
上記誘電体が、水、グリコール類および強誘電体から選択された少なくとも1種である請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
上記導電体と上記半絶縁体とを含む前記複合体の電気抵抗が、100kΩ〜1GΩである請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記導電体が、ステンレス繊維、カーボン繊維、および金属を表面にスッパタリングした有機導電性繊維から選択される少なくとも1種であり、
前記樹脂が、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、およびアクリロニトリル−スチレン共重合体から選択される少なくとも1種である、
前記誘電体が、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ロッシェル塩、および重水素ロッシェル塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1記載の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な電磁波を吸収する電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波の利用が進むに伴い、不要な電磁波による電磁波障害や電子機器の誤作動等が大きな問題となっている。この問題に対しては、電磁波シールド材を用いて外部電磁波の侵入防止と発生電磁波の外部への伝搬防止を行う方法や、電磁波吸収体を用いて電磁波そのものを吸収する方法が用いられている。電磁波シールド材は、電磁波の透過防止には有効であるが、反射波に対する対策が必要となる。一方、電磁波吸収体は、吸収した電磁波を熱エネルギーに変換するもので、吸収した電磁波を実質的に消滅させることができる。
【0003】
電磁波吸収体は、1930年代、オランダのNaamlooze Vennootschap Machinerieenがフランスの特許を取ったのが始まりである。第二次世界大戦中に潜水艦で実用化された。ゴムシートにカーボニル鉄材を分散させたものと抵抗シートとプラスチック誘電体を重ねたものであった。その後、背面導体板からλ/4離れた場所に面抵抗が377オームの抵抗シートを設ける1/4波長型の電波吸収体が米国で開発された。1953年にピラミッド型電波吸収体が開発された。
【0004】
電磁波吸収体には、磁性損失を利用する磁性電磁波吸収体、誘電損失を利用する誘電性電磁波吸収体、抵抗損失を利用する導電性電磁波吸収体、およびλ/4型電磁波吸収体が知られている(例えば、非特許文献1)。磁性電磁波吸収体としては、例えば、フェライトの焼結体やゴムフェライトを用いたり、センダストやパーマロイ、ケイ素鋼板、Fe系アモルファス、Co系アモルファス、ナノグラニュラー膜等の軟磁性体を用いて吸収する方法が用いられているが(例えば特許文献1)、渦電流の発生という問題がある。また、それらの金属は重く、材料が高価であるという問題がある。また、誘電性電磁波吸収体としては、例えば、カーボンブラックやグラファイト等のカーボン粉末を混合したゴムカーボン等が使用されている(例えば、特許文献2)。また、導電性電磁波吸収体としては、例えば、カーボン粉末や金属繊維を分散させたものが使用されている(例えば、特許文献3)。また、λ/4型電磁波吸収体は、厚みを対象電磁波の波長の4分の1に設定することで、反射波同士が干渉によって打ち消し合うことでより高い電磁波吸収能が得られるが、厚みが厚くなるという問題がある。そこで、電磁波吸収体の誘電率や透磁率を変えて、波長を変える試みがなされているが、波長の変化には限界がある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−90909号公報
【特許文献2】特開2007−019287号公報
【特許文献3】特開2000−278032号公報
【特許文献4】特開2002−76681号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】橋本修監修「新電波吸収体の最新技術と応用」シーエムシー発刊、1999年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、電磁波吸収体には吸収周波数に合わせて予め選択された材料が使用され、所望の吸収周波数やその周波数における最大吸収量等の条件を満たすために、その厚さを変化させる方法が用いられている。近年、ハイブリッドカーや電気自動車が普及し始めているが、これらの自動車は400〜600Vの直流を用いている。しかし、この直流はスイッチングノイズが多く低周波ノイズの発生源となっている。しかしながら、発がん性への影響や電子機器の誤作動を与える1GHz近傍や人体に影響を及ぼす可能性にある10MHz以下の低周波数の電磁波に対する電磁波吸収体は、薄さや軽量性を満足していない。例えば、λ/4型電磁波吸収体では、100MHzでも50cm程度の厚さが必要であり、それ以下の周波数では、それ以上の厚さが必要であり、実用に供することは困難である。ハイブリッドカーや電気自動車の車体の軽量化のためにも、低周波数、例えば1GHz以下、更には、10MHz以下の電磁波を吸収することのできるより軽量の電磁波吸収体が必要とされている。
【0008】
そこで、本発明は、1GHz以下の低周波数の電磁波を吸収することのできるより軽量の電磁波吸収体を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、少なくとも1種の誘電体を含む樹脂からなる半絶縁体と導電体とを含み、接触により該半絶縁体と該導電体との間に所定以上の起電力が発生する材料が、低周波数の電磁波を吸収することができることを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明の電磁波吸収体は、体積抵抗率が1Ω・m以下の導電体と、少なくとも1種の誘電体を含む樹脂から成り体積抵抗率が1kΩ・m以上10GΩ以下の半絶縁体とを含む複合体からなり前記複合体に対向する1対の電極を設けた場合、その1対の電極間に絶対値が10mV以上の電位差が発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、1GHz以下の低周波数の電磁波を吸収することのできるより軽量な電磁波吸収体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1、比較例1a,1bにおける電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図2】実施例2、比較例1a、比較例2における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図3】実施例3、比較例3における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図4】実施例4、比較例4における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図5】実施例5、比較例5における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図6】実施例5、比較例6における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図7】実施例7、比較例1aにおける電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図8】比較例8における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図9】比較例8における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
図10】実施例6、比較例9における電磁波シールド効果と周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の電磁波吸収体は、体積抵抗率が1Ω・m以下の導電体と、少なくとも1種の誘電体を含む樹脂から成り体積抵抗率が1kΩ・m以上10GΩ以下の半絶縁体とを含み、該導電体と該半絶縁体を接触させると、絶対値が10mV以上である起電力を発生することを特徴とするものである。
【0013】
(導電体)
本発明に用いる導電体は、その体積抵抗率が1Ω・m以下、好ましくは1mΩ・m以下、より好ましくは0.1mΩ・m以下の材料である。具体的には、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー、金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、スズ、クロム、鉛、チタン、マンガン等の金属、黄銅、ステンレスなど、それら金属の合金、導電性酸化亜鉛等の金属酸化物、カーボン材料、合成繊維の表面を導電化処理した有機導電性繊維等を用いることができる。また、複数の異種の導電体を組み合わせても良い。
【0014】
導電体の形状・形態は特に限定されず、例えば、フィルム状、シート状、メッシュ状、ハニカム状、粉末状、繊維状のものを用いることができる。好ましい導電体は、ステンレス繊維、カーボン繊維、金属を表面にスッパタリングした有機導電性繊維である。
【0015】
(半絶縁体)
本発明に用いる半絶縁体は、少なくとも1種の誘電体を含む樹脂である。半絶縁体の体積抵抗率は1kΩ・m以上10GΩ・m以下、好ましくは10kΩ・m〜1GΩ・m、より好ましくは100kΩ・m〜1GΩ・mである。
【0016】
半絶縁体に用いる樹脂は、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル系共重合体、(メタ)アクリル共重合体、スチレンアクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリイソプレン、アクリロニトリル系重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、ポリスチレン、スチレンアクリル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等の高分子を用いることができる。好ましくは、アクリロニトリル系重合体である。
【0017】
アクリロニトリル系重合体としては、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体等を挙げることができる。
【0018】
また、樹脂の半絶縁体中における含有率は、50〜99.99重量%、好ましくは80〜99重量%である。50重量%より少ないと起電力が小さくなるからである。また、すべて高分子とすると起電力が発生しにくくなるからである。
【0019】
また、樹脂には、ガラス転移点が電磁波吸収体の使用温度以下である高分子を用いる。ガラス転移点が使用温度より高い高分子を用いると起電力が小さくなるからである。
【0020】
本発明に用いる少なくとも1種の誘電体としては、比誘電率が20以上の物質を用いることができる。具体的には、水;メタノールやエタノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールやプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;強誘電体を挙げることができる。強誘電体の具体例としては、硫酸グアニジンアルミニウム等のグアニジン類;チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸カリウム等のペロフスカイト類;硫酸トリグリシン等のグリシン類;ヨウ化硫化アンチモン、ロッシェル塩、重水素ロッシェル塩等のロッシェル塩類;リン酸二水素カリウム等のリン酸二水素アルカリ類等を挙げることができる。好ましい誘電体は、水、グリコール類、およびロッシェル塩類である。
【0021】
誘電体の半絶縁体中の含有率は、0.5〜50重量%、好ましくは2〜30重量%、より好ましくは2〜10重量%である。0.5重量%より少ないと起電力が発生しにくくなり、50重量%より多いと、起電力が低下するからである。
【0022】
本発明において、導電体と半絶縁体を接触させると、絶対値が10mV以上である起電力を発生する必要がある。好ましくは起電力の絶対値が20mV以上である。起電力の絶対値が10mVより小さいと、低周波数の電磁波に対する吸収能が低下するからである。なお、本発明において、電体と半絶縁体を接触させると、絶対値が10mV以上である起電力を発生するとは、導電体と半絶縁体を接触させた複合体に対向する1対の電極を設けた場合、その1対の電極間に絶対値が10mV以上の電位差が発生することをいう。ここで、導電体と半絶縁体を接触させるとは、必要に応じて圧力を加えて面状に積層することをいう。また、本発明の起電力は、室温(20±5℃)における測定値を用いている。
【0023】
また、本発明では、導電体と半絶縁体を接触させた複合体の電気抵抗は、100kΩ〜1GΩ、好ましくは500kΩ〜500MΩである。100kΩより小さいと起電力が発生しにくいからである。また、1GΩより大きくても起電力が発生しにくいからである。
【0024】
起電力の絶対値を10mV以上にするためには、半絶縁体に含有させる誘電体の種類やその含有率を変化させることにより行うことができる。
【0025】
半絶縁体は、例えば以下の方法で作製することができる。
ブレンダーやニーダーを用いて、樹脂と誘電体をブレンドし、プレスや押し出し成形する溶融法、エマルジョンや溶液の樹脂と誘電体を攪拌機でブレンドし、水や溶剤を飛ばして成形するキャスト法、印刷法、塗布法等を用いて作製することができる。
【0026】
(製造方法)
本発明の電磁波吸収体は、導電体の形状・形態に応じて様々な方法を用いて製造することができる。
例えば、導電体が板状形状の場合、半絶縁体を圧着したり、塗布したりすることにより積層して製造してもよい。導電体がフィルム状、メッシュ状、ハニカム状、不織布であっても同様である。
【0027】
また、導電体が粉末状や短繊維状の場合、導電体を半絶縁樹脂とブレンドして成形してもいいし、粉末状や短繊維状の導電体をバインダーで成型し、導電層を形成した後、その上に半絶縁体を塗布してもいい。
【0028】
また、塗布、印刷、蒸着等により絶縁性の紙や樹脂フィルム上に導電体層を形成し、その導電体層の上に半絶縁体層を形成してもよい。あるいは、塗布、印刷、圧着等により絶縁性の紙や樹脂フィルム上に半絶縁体層を形成し、その半絶縁体層の上に導電体層を形成してもよい。絶縁性の紙や樹脂フィルム上に導電体層または半絶縁体層を形成する場合、紙や樹脂フィルムの前面に形成してもよく、あるいは必要に応じて様々なパターン形状となるように形成してもよい。
【0029】
なお、導電体や半絶縁体は、1種に限定されず複数種を組み合わせて用いることもできる。また、従来の電磁波吸収体や電磁波シールド材と組み合わせて用いることもできる。
【0030】
(電磁波吸収特性の評価)
KEC(関西電子工業振興センター;京都府相楽郡精華町光台3丁目2−2)で開発された電磁波シールド効果測定装置を用いる方法(以下、KEC法という)により、本発明の電磁波吸収体の電磁波吸収特性を評価した。KEC法による電磁波シールド測定は、送信アンテナから発射した電磁波を受信アンテナで受信し、その間に試験体を挟み、電磁波の透過量を測定しているため、電磁波の反射と吸収の両方の効果の結果を測定するものである。
【0031】
導電率が高い材料ほど、電磁波を反射する。したがって、一般にシールド材といわれているものは、導電性の材料を用いて電磁波を反射している。例えば、透磁率が高く、導電性が高い鉄やニッケルを用いると、低周波数の電磁波が反射されるので、高い電磁波シールド効果が得られる。さらに、1GHz近辺の高周波に対しては、磁性による高い電磁波吸収効果が得られる。
【0032】
一方、本発明で用いる半絶縁体は、体積抵抗率が大きいため、導電体と組み合わせても導電率は高くならない。そのため、低周波数の電磁波が反射されることは考えられない。そうすると、本発明の電磁波吸収体を用いた場合に、低周波数の電磁波の透過量が減少したのは、本発明の電磁波吸収体により低周波数の電磁波が吸収されたためと考えられる。この原因については検討中であるが、本発明で用いている半絶縁体の極性が反転し易く、電磁波により極性が反転する過程で低周波数の電磁波エネルギーが吸収されると考えている。
【0033】
以下、詳しく説明する。
本発明では、導体を組み合わせており、更には静電防止効果がある領域の電気絶縁性を有する半絶縁体を組み合わせているので、電位差の発現は、静電気によるものでもないのは明らかである。一般に、金属を用いて電位差を発生するものとして、金属と低い電気抵抗の電解質を用いた金属のイオン化傾向が知られているが、本発明での電位差は、カーボンや導電性のポリマーでも発現しており、電位差の発現は、測定と同時に起こる瞬時であり、抵抗も比較的高い半絶縁領域のものを用いているので、イオン化傾向によるものとは別のものである。
【0034】
以下に標準酸化還元電位を示す(東京都鍍金工業組合めっき関連データ集、各種金属の標準電極電位、http://www.tmk.or.jp/datapdf/data51.pdf)。
【0035】
【表1】
【0036】
半絶縁体を用いた時は、同じ金属どうしで、電位差が発現し、さらには、カーボンや導電性のポリマーでも発現するので、イオン化傾向の差によるものではない。
【0037】
一方、熱起電力の指標となるゼーベック係数は次のような値が報告されている(Moffat, R., "Notes on Using Thermocouples", Electronics Cooling, Vol. 3, No. 1, 1997)。
【0038】
【表2】
【0039】
ゼーベック素子やペルチェ素子など、熱起電力を利用したものは、異種の導体を接合し、その接触の電位差を利用するものである。そして、その性能はゼーベック係数やそれをもとにした性能指数で評価されている。しかし、異種金属を直接接合すると、その瞬間に電子が移動し、電位差を測定する事が出来ない。そこで、2種の異種金属をリング状に接合し、2つの接合面の温度を変えて、その温度差を利用して、電位差を発生させるという方法、またその逆に電位差を与えて温度を変化させる方法を採っている。当然、同じ金属では、熱起電力は発生しない。一方、本発明の半絶縁体を用いた場合の電位差発現は、同一金属同士でも起きるので、ゼーベック係数による熱起電力発生の機構とも異なっている。
【0040】
ここで、一方の電極をSUS304とし、半絶縁性樹脂を種々の導電体で挟んだ状態で、導電体とSUS電極との電位差を岩通計測株式会社製のデジタル・マルチメーターVOAC7522を用いて室温(20℃)で測定した結果を以下の表3に示す。なお、半絶縁性樹脂は、マトリックスとして、アクリル系共重合樹脂(アクリロニトリル/ブチルアクリレート=40/60を水中で乳化重合した)エマルジョンを用い、樹脂を固形分で85重量部、ジエチレングリコール15重量部を攪拌機で混合し、製造した。
【0041】
【表3】
【0042】
この電位差は、電極を変えた測定の時に、瞬時に起こるので、その原因となる電荷の媒体は、イオンではなく、電子である事がわかる。
【0043】
ここで、表2のゼーベック係数と、表3の電位差をそれぞれ大きい方から順番に比較すると、以下の表4のようになり、ニッケルの順番が一致しない。
【0044】
【表4】
【0045】
しかし、表5に示すように、ゼーベック係数の絶対値の大きさと電位差の絶対値の大きさとを比較すると、順番は一致するが、ゼーベック係数が小さいほど半絶縁体の電位差が大きくなり、逆相関があり、ゼーベック係数が関与する熱起電力等の接触電位差でも説明できない。
【0046】
【表5】
【0047】
金属の表面に光が当たると、表面のごく薄い層に存在する金属イオン、自由電子などが、光のエネルギーを吸収して、高いエネルギー順位に励起し、直ぐに、そのエネルギーを表面より放出する。そこで、導電性が高いほど、金属からの光の反射は大きくなる。つまり、瞬時ではあるが、電磁波の状態に応じて、金属の状態が変わる。半絶縁体がない場合は、そのまま反射されるが、金属が半絶縁体と接触している面では、その状態に応じで、半絶縁体と金属の接触面の電荷が変化する。これは、電磁波の存在により、金属の表面の電気的性質が変わり、異種金属のようなゼーベック係数を持つようになると考えてもいい。それに合わせて、半絶縁体の極性が変化するのは、カーボンとSUS304で極性が逆になっていることからも分かる。半絶縁体の極性が変わるときには、電荷(電子)の移動があり、半絶縁体は若干の導電性があるので、半絶縁体の中や伝導体との界面で、電子の往来があり、熱エネルギーに変化していると考えている。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1.
(作製方法)
導電体として、面重量が約170g/mの日本蚕毛染色社製の有機導電性繊維(商品名サンダーロン)(体積抵抗率:0.8Ω・m)の不織布を用いた。半絶縁体の樹脂は、マトリックスとして、アクリル系共重合樹脂(アクリロニトリル/ブチルアクリレート=40/60を水中で乳化重合した)エマルジョンを用い、樹脂を固形分で85重量部、ジエチレングリコール15重量部を攪拌機で混合し、製造した。半絶縁体の面重量が約500g/mになるように、サンダーロンの不織布に半絶縁体を塗布し、50℃で乾燥して、電波吸収体を得た。電波吸収体の厚さは890μmであった。
【0050】
(複合体の起電力測定)
得られた電磁波吸収体の導電体と塗布した半絶縁体の表面との電位差(起電力)を、岩通計測株式会社製のデジタル・マルチメーターVOAC7522を用いて室温(20℃)で測定した。測定結果を表6に示す。但し、導電体や樹脂だけものは、両面の電位差を測定した。
【0051】
(電磁波シールド効果測定)
得られた電磁波吸収体についてKEC法で測定した。測定周波数は0.1MHz〜1GHzである。測定結果を図1に示す。
【0052】
実施例2.
(作製方法)
導電体として、サンダーロンの不織布を用いた。半絶縁体の樹脂は、マトリックスとして、アクリロニトリル含量が40重量%のカルボキシル基変性タイプのアクリルニトリルーブタジエン共重合体(Tg:−15℃)のエマルジョンを用い、樹脂を固形分で85重量部とロッシェル塩15重量部を攪拌機で混合して製造した。半絶縁体の面重量が約150g/mになるように、サンダーロンの不織布に半絶縁体を塗布し、50℃で乾燥した。電波吸収体の厚さは1022μmであった。
【0053】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図2に示す。
【0054】
実施例3.
(作製方法)
導電体として、面重量が約425g/mの100目のステンレス製メッシュ(東急ハンズで購入した1038ステンレスアミ100、16151)(体積抵抗率:7×10−7Ω・m)を用いた。半絶縁体の樹脂は、マトリックスとしてアクリロニトリル含量が40重量%のカルボキシル基変性タイプのアクリルニトリルーブタジエン共重合体(Tg −15℃)のエマルジョンを用い、樹脂を固形分で85重量部、ロッシェル塩15重量部を攪拌機で混合して製造した。半絶縁体の面重量が約200g/mになるように、ステンレス製メッシュアルを離型紙の上に置き、メッシュの穴が埋まるように半絶縁体を塗布し、50℃で乾燥した。電波吸収体の厚さは298μmであった。
【0055】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図3に示す。
【0056】
実施例4.
(作製方法)
導電体として、面重量が約600g/mのアルミのパンチング板(東急ハンズで購入したアルミパンチング板A−12、3φ×5の表面の塗装をサンドペーパーで除去したもの)(体積抵抗率:約3×10−8Ω・m)を用いた。半絶縁体の樹脂には、アクリロニトリル含量が40重量%のカルボキシル基変性タイプのアクリルニトリルーブタジエン共重合体(Tg −15℃)のエマルジョンを用いた。樹脂を固形分で85重量部、ロッシェル塩15重量部を攪拌機で混合した。
半絶縁体の面重量が約200g/mになるように、アルミパンチング板を離型紙の上に置き、パンチ穴が埋まるように半絶縁体を塗布し、50℃で乾燥した。電波吸収体の厚さは588μmであった。
【0057】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図4に示す。
【0058】
実施例5.
(作製方法)
導電体として、面重量が約115g/mのカーボン繊維(ユニチカ製Aシート)(体積抵抗率:約2×10−5Ω・m)を用いた。マトリックスとして半絶縁体の樹脂は、アクリロニトリル含量が40重量%のカルボキシル基変性タイプのアクリルニトリルーブタジエン共重合体(Tg −15℃)のエマルジョンを用い、樹脂を固形分で85重量部、ロッシェル塩15重量部を攪拌機で混合して製造した。半絶縁体の面重量が約100g/mになるように、カーボン繊維に半絶縁体を塗布し、50℃で乾燥した。電波吸収体の厚さは555μmであった。
【0059】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図5に示す。なお、1MHzおよび500MHzにおける電磁波シールド効果の数値を表7に示した。
【0060】
実施例6.
(作製方法)
導電体として、ユニチカ製Aシートを用いた。マトリックスとして半絶縁体の樹脂は、アクリロニトリル含量が40重量%のカルボキシル基変性タイプのアクリルニトリルーブタジエン共重合体(Tg:−15℃)のエマルジョンを用いた。樹脂を固形分で85重量部、ロッシェル塩15重量部を攪拌機で混合した。所定の型に混合物を流し込んで50℃で乾燥した。得られたシートを高湿度下に放置し、5重量%の水を加水し、50℃、10MPaの条件で、熱プレスでカーボン繊維に熱融着して、電磁波吸収体を得た。電波吸収体の厚さは1060μmであった。
【0061】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図10に示す。なお、1MHzおよび500MHzにおける電磁波シールド効果の数値を表7に示した。
【0062】
比較例1a.
半絶縁体を用いず、導電体のみを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは890μmであった。
【0063】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図1と表7に示す。
【0064】
比較例1b.
導電体を用いず、半絶縁体のみを用いた以外は、実施例1と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは845μmであった。
【0065】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図1と表7に示す。
【0066】
比較例2.
導電体を用いず、半絶縁体のみを用いた以外は、実施例2と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは608μmであった。
【0067】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図2と表7に示す。
【0068】
比較例3.
半絶縁体を用いず、導電体のみを用いた以外は、実施例3と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは186μmであった。
【0069】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図3と表7に示す。
【0070】
比較例4.
半絶縁体を用いず、導電体のみを用いた以外は、実施例4と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは498μmであった。
【0071】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図4と表7に示す。
【0072】
比較例5.
半絶縁体を用いず、導電体のみを用いた以外は、実施例5と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは431μmであった。
【0073】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図5と表7に示す。
【0074】
比較例6.
炭素繊維に、半絶縁性でない、固形比で、スチレンブタジエンラバーSR−104(日本A&L(株)製)を75部にKN―320(戸田工業(株)製のマグネタイト)を25部加えた樹脂をコーティングし、半絶縁体を用いなかった以外は、実施例5と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは545μmであった。
【0075】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図6と表7に示す。
【0076】
比較例7.
サンダーロンに、半絶縁性でない、Tg18℃のメチルメタクリレート/ブチルアクリレート共重合樹脂をコーティングした。半絶縁体を用いなかった以外は、実施例1と同様の方法で電磁波吸収体を製造した。電波吸収体の厚さは1035μmであった。
【0077】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図7と表7に示す。
【0078】
比較例8.
ブチルアクリレートが主成分のアクリル系の樹脂100部とフェライトGP−500を100部ブレンドしたETC(Electronic Toll Collection)用電磁波吸収体電磁波吸収フェライト複合体シートを電磁波吸収体に用いた。電波吸収体の厚さは1005μmであった。
【0079】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図8、9と表7に示す。
【0080】
比較例9.
半絶縁性の樹脂として、ニトリルブタジエンゴムにロッシェル塩を15部加えたものに水を5%加えたものを所定の型に流し込んで50℃で乾燥した。得られたシートを100℃、40MPaの条件で、熱プレスして成形した。電波吸収体の厚さは610μmであった。
【0081】
起電力測定は実施例1と同様に行った。結果を表6に示す。また、電磁波シールド効果測定は実施例1と同様に行った。結果を図10と表7に示す。
【0082】
(結果)
実施例1〜6と、比較例との比較から明らかなように、本発明では、導電体と半絶縁体とを含むことにより電磁波吸収特性が、測定周波数範囲(1MHz〜1GHz)で向上した。
【0083】
比較例1aは、未処理の導電性の不織布で、その電気伝導性に起因して、電磁波の反射によると思われる20dB程度のシールド効果が得られている(図1)。比較例1bは、本発明の半絶縁体で、単独のフィルムである。単独のフィルムでは電磁波シールド効果は殆どなく、0dBに近い(図1)。
【0084】
これに対し、実施例1は、導電性の不織布に半絶縁体を塗布したもので、図1から明らかなように、シールド効果が数dB向上している。電磁波の反射は電気伝導性に起因する。半絶縁体は電気伝導率が中間程度で、単独ではシールド効果が殆どないが、組み合わせるとシールド効果が上がるのは、電磁波の反射ではなく、電磁波の吸収が起こっているからと思われる。
【0085】
また、実施例2は、導電性の不織布に半絶縁体を塗布したもので、図2から明らかなように、シールド効果が数dB向上している。電磁波の反射は電気伝導性に起因する。半絶縁体は電気伝導率が中程度で、単独ではシールド効果が殆どないが、組み合わせるとシールド効果が上がるのは、電磁波の反射ではなく、電磁波の吸収が起こっているからと思われる。
【0086】
比較例3は、ステンレスのメッシュで、その電気伝導性に起因して、電磁波の反射によると思われる60〜70dB程度のシールド効果が得られている(図3)。これに対し、実施例3は、ステンレスのメッシュに半絶縁体を塗布したもので、シールド効果が数dB向上している(図3)。
【0087】
比較例4は、アルミ板に多数の丸い穴をあけたパンチング板で、その電気伝導性に起因して、電磁波の反射によると思われる30dB弱のシールド効果が得られている(図4)。これに対し、実施例4は、アルミ板に多数の丸い穴をあけたパンチング板に半絶縁体を塗布したもので、シールド効果が数dB向上している(図4)。
【0088】
比較例5は、未塗布の炭素繊維で、その電気伝導性に起因して、電磁波の反射と吸収によると思われるシールド効果が得られている(図5)。これに対し、実施例5は、炭素繊維に半絶縁体を塗布したもので、シールド効果が数dB向上している(図5)。
【0089】
比較例6は、炭素繊維に絶縁性の樹脂を塗布したもので、シールド効果が、半絶縁体を塗布したものに比べて数dB低下している(図6)。これに対し、実施例5は、炭素繊維に半絶縁体を塗布したもので、シールド効果が数dB向上している(図6)。
【0090】
比較例1aは、未処理の導電性の不織布で、その電気伝導性に起因して、電磁波の反射によると思われる20dB程度のシールド効果が得られている(図7)。これに対し、比較例7は、導電性の不織布に絶縁性のアクリル樹脂を塗布したもので、シールド効果が数dB低下している(図7)。電磁波の反射は電気伝導性に起因する。絶縁体は電気伝導率が低く、シールド効果が殆どない。組み合わせるとシールド効果が下がるのは、電磁波の反射を妨げ、透過量が多くなっているためと思われる。
【0091】
比較例8は、フェライトの磁性(高い透磁率)を利用したもので、1GHz以下では、電磁波反射や電磁波吸収による電磁波シールドの効果が認められなかった(図8)。
【0092】
比較例8は、1GHz以下では、電磁波反射や電磁波吸収による電磁波シールドの効果が認められなかったが、10GHzから15GHzで、電磁波の吸収が観察され、約11GHzと14GHzに反射損失のピークがあった(図9)。
【0093】
比較例9は、本発明の半絶縁体で、単独のフィルムである。単独のフィルムでは電磁波シールの効果は殆どなく、0dBに近い(図10)。これに対し、実施例6は、導電性の不織布に半絶縁体を塗布したもので、シールド効果が数dB向上している(図10)。
【0094】
【表6】
【0095】
なお、表6中、被膜とは、導電体に塗布して形成した半絶縁体の被膜または半絶縁体でない被膜を意味し、シートとは、導電体を使用せず作製した半絶縁体でない、半絶縁体のシートまたは半絶縁体でないもののシートを意味する。また、表6中の被膜またはシートの体積抵抗率とは、厚さが2mmの半絶縁体のシートと半絶縁体でないもののシートを作製し、JIS K7194に準じて測定した値である。
【0096】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10