特許第5965792号(P5965792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965792芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965792
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160728BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20160728BHJP
   C08G 64/04 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08K5/42
   C08G64/04
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-194748(P2012-194748)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-51538(P2014-51538A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小川 典慶
(72)【発明者】
【氏名】長島 広光
(72)【発明者】
【氏名】芝崎 祐二
(72)【発明者】
【氏名】大石 好行
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/087742(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/086385(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/132510(WO,A1)
【文献】 特表平06−504305(JP,A)
【文献】 特開昭61−076459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 64/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式(A)にて表される末端構造を有し、粘度平均分子量が1×104〜5×104の芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(b)有機スルホン酸金属塩0.005質量部〜0.1質量部を含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(A)
【化1】
(式(A)中、R1は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のハロアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のハロアルケニル基、および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選ばれる。R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
【請求項2】
式(A)が下記式(B)で表される、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(B)
【化2】
(式(B)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
【請求項3】
式(A)が式(C)で表される、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(C)
【化3】
(式(C)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
【請求項4】
前記(b)有機スルホン酸金属塩が、フルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩および/またはフルオロアルカンスルホン酸アルカリ土類金属塩である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
熱安定剤、酸化防止剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤および着色剤から選択される少なくとも1種類が配合されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品。
【請求項7】
請求項6に記載の成形品であって、厚さを1.0mmの平板状としたときのヘイズ値が5%以下となる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、および、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、機械的物性、電気的特性に優れた樹脂であり、例えば自動車材料、電気電子機器材料、家庭用各種電気機器材料、住宅材料、その他の工業分野における部品製造用材料等に幅広く利用されている。特に、難燃化された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、コンピューター、ノートブック型パソコン、携帯電話、プリンター、複写機等のOA・情報機器等の部材として好適に使用されている。
【0003】
芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手段としては、従来、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を芳香族ポリカーボネート樹脂に配合することがなされてきた。
しかしながら、塩素や臭素を含有するハロゲン系難燃剤を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたりすることがあった。また、リン系難燃剤を配合した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂の特徴である高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするため、その用途が制限されることがあった。加えて、これらのハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤は、製品の廃棄、回収時に環境汚染を惹起する可能性があるため、近年ではこれらの難燃剤を使用することなく難燃化することが望まれている。
【0004】
かかる状況下、近年、有機アルカリ金属塩化合物および有機アルカリ土類金属塩化合物に代表される金属塩化合物が有用な難燃剤として数多く検討されている。有機金属塩化合物を難燃剤として用いると、比較的少量で効果が得られ、かつ、芳香族ポリカーボネート樹脂が本来有する耐衝撃性等の機械的物性、耐熱性、電気的特性などの性質を損なわずに難燃性を付与できるためである。
【0005】
金属塩化合物によるポリカーボネートの難燃化技術としては、例えば、炭素数4〜8のパーフルオロアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を利用する方法(特許文献1参照)、炭素数1〜3のパーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩を配合する方法(特許文献2参照)等の、パーフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩化合物を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂に難燃性を付与する手法;非ハロゲン系芳香族スルホン酸ナトリウム塩を含有させる方法(特許文献3参照)、非ハロゲン系芳香族スルホン酸カリウム塩を含有させる方法(特許文献4参照)等の、芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩化合物を用いて芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に難燃性を付与する手法が提案されている。
【0006】
これら金属塩化合物は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対する難燃性が比較的良く、優れた難燃剤である。しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂の難燃性能としては不十分であり、より高い難燃性能を持った芳香族ポリカーボネート樹脂が望まれていた。
【0007】
透明性を維持して難燃性を付与する方法として、エチニル構造を有するビスフェノール化合物を共重合するポリカーボネート樹脂が提案されている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭47−40445号公報
【特許文献2】特公昭54−32456号公報
【特許文献3】特開2000−169696号公報
【特許文献4】特開2001−181493号公報
【特許文献5】WO2011/131366A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献5について検討したところ、燃焼時のチャー形成促進に効果があり、良好な難燃性を有することが示されているが、従来公知の芳香族ポリカーボネート樹脂と比較してTgやビカット温度が低下し、耐熱性に劣ることが分かった。
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を解決することを目的としたものであって、透明性、耐熱性および難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、および、かかる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための手段は、下記のとおりである。
<1>(a)式(A)にて表される末端構造を有し、粘度平均分子量が1×104〜5×104の芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(b)有機スルホン酸金属塩0.005質量部〜0.1質量部を含有する、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(A)
【化1】
(式(A)中、R1は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のハロアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のハロアルケニル基、および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選ばれる。R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
<2>式(A)が下記式(B)で表される、<1>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(B)
【化2】
(式(B)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
<3>式(A)が式(C)で表される、<1>に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
式(C)
【化3】
(式(C)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
<4>前記(b)有機スルホン酸金属塩が、フルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩および/またはフルオロアルカンスルホン酸アルカリ土類金属塩である、<1>〜<3>のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
<5>熱安定剤、酸化防止剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤および着色剤から選択される少なくとも1種類が配合されている、<1>〜<4>のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
<6><1>〜<5>のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品。
<7><6>に記載の成形品であって、厚さを1.0mmの平板状としたときのヘイズ値が5%以下となる、成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、透明性、耐熱性および難燃性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、(a)式(A)にて表される末端構造を有し、粘度平均分子量が1×104〜5×104の芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、難燃剤として(b)有機スルホン酸金属塩0.005質量部〜0.1質量部を含有することを特徴とする。
式(A)
【化4】
(式(A)中、R1は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のハロアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のハロアルケニル基、および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選ばれる。R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
ここで、式(A)中、R6〜R9は、それぞれの基がベンゼン環の環状構造を形成する炭素原子の任意の位置にそれぞれ1つずつ結合していることを意味する。すなわち、ベンゼン環の環状構造を形成する炭素原子は6つあるが、そのうち1つは、−炭素炭素三重結合−R1からなる基と結合しており、他の1つは芳香族ポリカーボネート樹脂の主鎖と結合しており、残りの4つの炭素原子がR6〜R9で表される基を有する。以下の一般式についても同様に考える。
【0014】
式(A)中、R1は、水素原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルケニル基、および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましく、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基がより好ましく、メチル基、エチル基および置換基を有していてもよいフェニル基がさらに好ましい。また、R1は、置換基は有さない方が好ましい。R1が有しても良い置換基は、好ましくは、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれ、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。
式(A)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基が好ましく、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0015】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物にあっては、末端三重結合基が燃焼時の熱により環化反応を促進するために、成形品に優れた難燃性を付与することができるだけでなく、ヘイズ値の低い、すなわち、透明性に優れた成形品を得ることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂の構造の中で三重結合基を含む部位としては、末端基の他にも、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子鎖中に共重合する構造が考えられるが、分子鎖中に三重結合基を有する場合にはガラス転移温度(Tg)が下がり、成形品の耐熱性の低下を招くことがある。また、本発明のように末端基に炭素炭素三重結合を有することで、燃焼時の熱により末端基同士で環化することができるため、燃焼過程における炭化層の形成を促進し、分子鎖中に三重結合基を含む構造よりも効果的に難燃性能を発揮することが期待できる。
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物にあっては、難燃剤として配合する(b)有機スルホン酸金属塩の添加割合が0.1質量部を越えることがないので、ヘイズ値の低い、透明性に優れた成形品を得ることができる。しかも、難燃剤として有機スルホン酸金属塩を用いるため、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を用いた場合のような、熱安定性の低下を招いたり、成形加工時における成形機のスクリューや成形金型の腐食を招いたり、高い透明性を阻害したり、耐衝撃性、耐熱性の低下を招いたりするといった問題が発生することもない。
【0016】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、好ましくは、式(A)が下記式(B)で表される。
式(B)
【化5】
(式(B)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
【0017】
式(B)中、R6〜R9は、式(A)におけるR6〜R9と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(B)中、R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基が好ましく、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0018】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、さらに好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂の末端のメタ位にフェニルエチニルフェノール基を含む末端構造を有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂である。メタ位にフェニルエチニル基が配位することにより、難燃性等の本発明の効果を維持しつつさらに、着色物質の生成が効果的に抑制され、高温下での黄変を抑制することができる。具体的には、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、式(A)が式(C)で表されることが好ましい。
式(C)
【化6】
(式(C)中、R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。R17〜R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。)
【0019】
式(C)中、R6〜R9は、式(A)におけるR6〜R9と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(C)中、R17〜R21は、式(B)におけるR17〜R21と同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0020】
このように、末端炭素炭素三重結合基をメタ位に配置することにより、黄変を効果的に抑制した色相に優れる成形片を得ることができる。
【0021】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、より好ましくは、下記式(I)で表さ
れる芳香族ポリカーボネート樹脂である。
式(I)
【化7】
(式(I)中、R1は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のヒドロキシアルケニル基、炭素数1〜9の直鎖または分岐構造のハロアルキル基、炭素数2〜9の直鎖または分岐構造のハロアルケニル基、および置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基から選ばれる。R2〜R5は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、または、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基を表す。R6〜R9は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜9のアルキル基、および、炭素原子数1〜9のオキシアルキル基から選ばれる。nは15〜200の整数である。Xは、下記式群(I−1)から選択される。)
式群(I−1)
【化8】
(式群(I−1)中、R10およびR11は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、置換基を有してもよい炭素数2〜5のアルケニル基、または、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基である。R10およびR11は互いに結合して炭素環または複素環を形成していてもよい。R12〜R15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、または、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基である。R16は、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキレン基であり、aは0〜20の整数を表し、bは1〜500の整数を表す。)
【0022】
式(I)における繰り返し単位は、それぞれ同じであっても良いし、異なっていても良い。
式(I)中、R1は式(A)におけるR1と同義であり、好ましい範囲も同義である。式(I)中の2つの末端のR1はそれぞれ同じであっても良いし、異なっていても良い。通常は、同じである。
式(I)中、R2〜R5は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、または、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基が好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。R2〜R5が有してもよい置換基は、それぞれ独立に、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、または、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜5のアルキル基および炭素数2〜5のアルケニル基がより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基がさらに好ましい。式(I)には、1つの繰り返し単位に2つのR2が存在するが、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。R3等他の符号についても同様である。
式(I)中、R6〜R9は、式(A)におけるR6〜R9と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(I)中、nは、15〜200の整数が好ましく、20〜150の整数がより好ましい。
【0023】
式群(I−1)中、Xは、
【化9】
が好ましく、
【化10】
がより好ましい。
【0024】
式群(I−1)中、R10およびR11は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、または、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基が好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基がより好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましい。R10、R11が有してもよい置換基は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基、または、置換基を有してもよい炭素数7〜17のアラルキル基が好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数6〜12のアリール基がより好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましい。
式群(I−1)中、R12、R13は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、または、置換基を有してもよい炭素数6〜12アリール基が好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、または、置換基を有してもよい炭素数6〜12アリール基がより好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましい。R12、R13が有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、または、ヨウ素原子が好ましく、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基がさらに好ましい。
式群(I−1)中、R14、R15は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシ基、または、置換基を有してもよい炭素数6〜12アリール基が好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基、または、置換基を有してもよい炭素数6〜12アリール基がより好ましく、水素原子、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキル基がさらに好ましい。R14、R15が有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、または、ヨウ素原子であり、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜5のアルキル基がさらに好ましい。
式群(I−1)中、R16は、置換基を有してもよい炭素数1〜9のアルキレン基が好ましく、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキレン基がより好ましく、エチレン、プロピレンがさらに好ましい。R16が有してもよい置換基は、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、または、ヨウ素原子が好ましく、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基がさらに好ましい。
式群(I−1)中、aは0〜20の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
式群(I−1)中、bは1〜200の整数が好ましく、10〜200の整数がより好ましい。
【0025】
式(I)で表される芳香族ポリカーボネート樹脂は、式(II)で表される芳香族ポリ
カーボネート樹脂であることが好ましい。
式(II)
【化11】
【0026】
式(II)におけるR2〜R5は、それぞれ独立に、式(I)におけるR2〜R5と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(II)におけるR6〜R9は、それぞれ独立に、式(A)におけるR6〜R9と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(II)中、R17〜R21は、式(B)におけるR17〜R21と同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(II)におけるnは、式(I)におけるnと同義であり、好ましい範囲も同義である。
式(II)におけるXは、式(I)におけるXと同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0027】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は1×104〜5×104であり、好ましくは1.2×104〜3×104である。このような範囲とすることにより、成形時の良好な流動性と機械的強度のバランスをより効果的に保つことが可能になる。
【0028】
粘度平均分子量(Mv)は、0.2グラム/デシリットルの芳香族ポリカーボネート樹脂のジクロロメタン溶液を、ウベローデ毛管粘度計によって20℃の温度で測定し、ハギンズ定数0.45で極限粘度[η]デシリットル/グラムを求め、次式により算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、公知の方法に基づき合成することができ、例えば、界面重合法、ピリジン法、エステル交換法、環状カーボネート化合物の開環重合法をはじめとする各種合成方法を挙げることができる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、一般にホスゲンとして知られている塩化カルボニル、または、ジメチルカーボネートやジフェニルカーボネートに代表される炭酸ジエステル、一酸化炭素や二酸化炭素と云ったカルボニル系化合物とを、反応させることによって得られる、直鎖状、または、分岐していても良い熱可塑性芳香族ポリカーボネートの重合体または共重合体である。本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端構造は、特定の三重結合を含む基を有する分子量調整剤または末端停止剤を用いて形成することができる。
【0031】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物として、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジフェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[=ビスフェノールZ]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−2,5−ジエトキシジフェニルエーテル、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1−フェニル−1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等を挙げることができるが、好ましくは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類であり、特に好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン[ビスフェノールZ]である。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。また、ジヒドロキシ化合物の一部として、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、または、シロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマー若しくはオリゴマー等を併用してもよい。
【0032】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等で表されるポリヒドロキシ化合物、あるいは、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチンビスフェノール、5,7−ジクロルイサチンビスフェノール、5−ブロムイサチンビスフェノール等を上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよく、使用量は、0.01〜10モル%、好ましくは、0.1〜3モル%である。
【0033】
特定の三重結合を含む末端基を構成する化合物の具体例としては、エチニルフェノール、メチルエチニルフェノール、エチルエチニルフェノール、フェニルエチニルフェノール、メチルフェニルエチニルフェノール、ジメチルフェニルエチニルフェノール、ブロモフェニルエチニルフェノール、クロロフェニルエチニルフェノール、ナフチルエチニルフェノール、エチニルクレゾール、メチルエチニルクレゾール、エチルエチニルクレゾール、フェニルエチニルクレゾール、メチルフェニルエチニルクレゾール、ジメチルフェニルエチニルクレゾール、ブロモフェニルエチニルクレゾール、クロロフェニルエチニルクレゾール、ナフチルエチニルクレゾール、エチニルキシレノール、メチルエチニルキシレノール、エチルエチニルキシレノール、フェニルエチニルキシレノール、メチルフェニルエチニルキシレノール、ジメチルフェニルエチニルキシレノール、ブロモフェニルエチニルキシレノール、クロロフェニルエチニルキシレノール、ナフチルエチニルキシレノールなどが挙げられる。
【0034】
界面重合法による反応にあっては、反応に不活性な有機溶媒、アルカリ水溶液の存在下で、通常pHを10以上に保ち、芳香族ジヒドロキシ化合物および分子量調整剤(末端停止剤)、必要に応じて芳香族ジヒドロキシ化合物の酸化防止のための酸化防止剤を用い、ホスゲンと反応させた後、第三級アミン若しくは第四級アンモニウム塩等の重合触媒を添加し、界面重合を行うことによって芳香族ポリカーボネート樹脂を得ることができる。分子量調節剤の添加は、ホスゲン化時から重合反応開始時までの間であれば、特に限定されない。尚、反応温度は0〜35℃であり、反応時間は数分〜数時間である。
【0035】
ここで、反応に不活性な有機溶媒として、ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。分子量調節剤あるいは末端停止剤として、先に挙げた三重結合を含む化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一価のフェノール性水酸基を有する化合物を併用することができ、具体的には、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等を挙げることができる。重合触媒として、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン、ピリジン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0036】
エステル交換法による反応は、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応である。通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率を調整したり、反応時の減圧度を調整したりすることによって、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量と末端ヒドロキシル基量が決められる。末端ヒドロキシル基量は、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼし、実用的な物性を持たせるためには、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは700ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが一般的であり、好ましくは1.01〜1.30モルの量で用いられる。
【0037】
炭酸ジエステルとして、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネートあるいはジ−p−トリルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート、ジ−p−クロロフェニルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が挙げられる。中でもジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートが好ましい。
これらの炭酸ジエステル化合物は、単独で、または、2種以上を混合して使用することができる。
【0038】
エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を合成する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒としては、特に制限はないが、主としてアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、あるいは、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能である。このような原料を用いたエステル交換反応では、100〜320℃の温度で反応を行い、最終的には2.7×102Pa(2mmHg)以下の減圧下、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら溶融重縮合反応を行う方法が挙げられる。溶融重縮合は、バッチ式、または、連続的に行うことができるが、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂にあっては、安定性等の観点から、連続式で行うことが好ましい。エステル交換法において、芳香族ポリカーボネート樹脂中の触媒の失活剤として、触媒を中和する化合物、例えばイオウ含有酸性化合物、または、それより形成される誘導体を使用することが好ましく、その量は、触媒のアルカリ金属に対して0.5〜10当量、好ましくは1〜5当量の範囲であり、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して通常1〜100ppm、好ましくは1〜20ppmの範囲で添加する。
【0039】
上記方法で得られた芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物として調整される。芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のフレークは、例えば、界面重合法にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液を45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去することで得ることができるし、あるいは又、界面重合法にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液をメタノール中に投入し、析出したポリマーを濾過、乾燥して得ることができるし、あるいは又、界面重合法にて得られた芳香族ポリカーボネート樹脂を含んだメチレンクロライド溶液をニーダーにて攪拌下、40℃に保ちながら攪拌粉砕後、95℃以上の熱水で脱溶剤して得ることができる。
【0040】
必要に応じて、芳香族ポリカーボネート樹脂を周知の方法に基づき単離した後、例えば、周知のストランド方式のコールドカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をストランド状に成形、冷却後、所定の形状に切断してペレット化する方法)、空気中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、空気中で水に触れぬうちにペレット状に切断する方法)、水中ホットカット方式のホットカット法(一度溶融させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、水中で切断し、同時に冷却してペレット化する方法)によって、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得ることができる。尚、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物ペレットは、必要に応じて、熱風乾燥炉、真空乾燥炉、脱湿乾燥炉を用いた乾燥といった方法に基づき乾燥させることが好ましい。
【0041】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(式(A)にて表される末端構造を有し、粘度平均分子量が1×104〜5×104の芳香族ポリカーボネート樹脂)以外の樹脂が含まれていてもよい。このような他の樹脂としては、例えば、本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、メチルメタクリレート−スチレン共重合体(MS樹脂)等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)等のコア/シェル型のエラストマー、ポリエステル系エラストマー等のエラストマー;環状シクロオレフィン樹脂(COP樹脂)、環状シクロオレフィン(COP)共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂(PA樹脂);ポリイミド樹脂(PI樹脂);ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂);ポリウレタン樹脂(PU樹脂);ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂);ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂);ポリスルホン樹脂(PSU樹脂);ポリメタクリレート樹脂(PMMA樹脂);ポリカプロラクトン等を挙げることができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中における、他の樹脂成分の配合割合は、全樹脂成分の10質量%以下であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂成分を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、積極的に樹脂成分として配合しないことをいう。一例を挙げれば、全樹脂成分の1質量%以下である。
【0042】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、難燃剤として、有機スルホン酸金属塩を配合する。
有機スルホン酸金属塩としては、脂肪族スルホン酸金属塩および芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、金属塩としては、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が好ましい。
アルカリ金属として、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを挙げることができる。アルカリ土類金属として、カルシウム、ストロンチウム等が挙げられる。本発明で用いる有機スルホン酸金属塩の好ましい金属は、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属であり、より好ましくはナトリウム、カリウムである。このような金属を採用することにより、燃焼時の炭化層形成を効果的に促進し、高い透明性も維持できるという効果が得られる。
【0043】
脂肪族スルホン酸塩として、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩を挙げることができる。
フルオロアルカン−スルホン酸金属塩として、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。
フルオロアルカンスルホン酸金属塩の炭素数としては、1〜8が好ましく、2〜4がより好ましい。このような範囲とすることにより、高い透明性を維持できるという効果が得られる。
好ましいフルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例として、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロエタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロエタン−スルホン酸カリウム、等を挙げることができる。
【0044】
芳香族スルホン酸金属塩として、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができ、アルカリ金属塩が好ましい。
芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4′−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4′−ジブロモフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3′−ジスルホン酸のジカリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、p−トルエンスルホン酸カリウム塩、p−スチレンスルホン酸カリウム塩等を挙げることができる。
【0045】
本発明で用いる有機スルホン酸金属塩は、特に、透明性を向上させる観点から、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、p−トルエンスルホン酸カリウム塩、p−スチレンスルホン酸カリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩が好ましく、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩がより好ましい。
尚、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対する、有機スルホン酸金属塩の添加質量は、上記のとおり、0.005質量部〜0.1質量部であるが、好ましくは0.01質量部〜0.1質量部、より好ましくは0.03質量部〜0.09質量部である。
また、本発明では、有機スルホン酸金属塩以外の難燃剤を配合してもよいが、他の難燃剤の配合量は、組成物の全質量の0.001質量%以下であることが好ましい。
【0046】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各種添加剤が配合されていてもよい。添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤および着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤が例表される。
また、所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を添加してもよい。
【0047】
熱安定剤として、フェノール系やリン系、硫黄系の熱安定剤を挙げることができる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸等のリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛等、第1族または第10族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物等を挙げることができる。あるいは又、分子中の少なくとも1つのエステルがフェノールおよび/または炭素数1〜25のアルキル基を少なくとも1つ有するフェノールでエステル化された亜リン酸エステル化合物(a)、亜リン酸(b)およびテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジ−ホスホナイト(c)の群から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。亜リン酸エステル化合物(a)の具体例として、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(オクチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0048】
有機ホスファイト化合物として、具体的には、例えば、アデカ社製(商品名、以下同じ)「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガフォス168」等を挙げることができる。
【0049】
また、リン酸エステルとして、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0050】
熱安定剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤が少なすぎると熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤が多すぎると、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0051】
酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等を挙げることができる。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等を挙げることができる。 フェノール系酸化防止剤として、具体的には、例えば、チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」(登録商標、以下同じ)、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げることができる。
【0052】
酸化防止剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の添加割合が下限値以下の場合、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の添加割合が上限値を超える場合、効果が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0053】
難燃助剤として、例えばシリコーン化合物を加えることができる。シリコーン化合物としては、分子中にフェニル基を有するものが好ましい。フェニル基を有することによりシリコーン化合物のポリカーボネート中への分散性が向上し、透明性と難燃性に優れる。シリコーン化合物の好ましい重量平均分子量は450〜5000であり、中でも750〜4000、更には1000〜3000、特に1500〜2500であることが好ましい。重量平均分子量を450以上とすることにより、製造が容易になり、工業的生産への適応が容易となり、シリコーン化合物の耐熱性も低下しにくくなる。逆にシリコーン化合物の重量平均分子量を5000以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂組成物中での分散性が低下しにくく、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における難燃性の低下や、機械物性の低下をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0054】
難燃助剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.1質量部以上、好ましくは0.2質量部以上であり、また、7.5質量部以下、好ましくは5質量部以下である。難燃助剤の添加割合が下限値以下の場合、難燃性が不十分となる可能性があり、難燃助剤の添加割合が上限値を超える場合、デラミ等外観不良が発生し透明性が低下すると共に、難燃性が頭打ちとなり、経済的でなくなる可能性がある。
【0055】
紫外線吸収剤として、酸化セリウム、酸化亜鉛等の無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物、サリチル酸フェニル系化合物等の有機紫外線吸収剤を挙げることができる。これらの中では、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物の具体例として、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2'−ヒドロキシ−3',5'−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2'−ヒドロキシ−5'−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2,2’−(1,4−フェニレン)ビス[4H−3,1−ベンゾキサジン−4−オン]、[(4−メトキシフェニル)−メチレン]−プロパンジオイックアシッド−ジメチルエステル、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]、[メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネート−ポリエチレングリコール]縮合物等を挙げることができる。これらの2種以上を併用してもよい。上記の中では、好ましくは、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール2−イル)フェノール]である。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例として、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等を挙げることができる。また、サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤の具体例として、フェニルサリシレート、4−tert−ブチル−フェニルサリシレート等を挙げることができる。更には、トリアジン系紫外線吸収剤の具体例として、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール等を挙げることができる。また、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤の具体例として、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等を挙げることができる。
【0056】
紫外線吸収剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、3質量部以下、好ましくは1質量部以下である。紫外線吸収剤の添加割合が下限値以下の場合、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の添加割合が上限値を超える場合、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0057】
離型剤として、カルボン酸エステル、ポリシロキサン化合物、パラフィンワックス(ポリオレフィン系)等の離型剤を挙げることができる。具体的には、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。脂肪族カルボン酸として、飽和または不飽和の脂肪族1価、2価または3価カルボン酸を挙げることができる。ここで、脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中でも、好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36の1価または2価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が更に好ましい。脂肪族カルボン酸の具体例として、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸として、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとして、飽和または不飽和の1価または多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコールまたは多価アルコールが更に好ましい。ここで、脂肪族には脂環式化合物も包含される。アルコールの具体例として、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。尚、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸および/またはアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例として、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素として、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等を挙げることができる。ここで、脂肪族炭化水素には脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素化合物は部分酸化されていてもよい。これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスが更に好ましい。数平均分子量は、好ましくは200〜5000である。これらの脂肪族炭化水素は単一物質であっても、構成成分や分子量が様々なものの混合物であってもよく、主成分が上記の範囲内であればよい。ポリシロキサン系シリコーンオイルとして、例えば、ジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等を挙げることができる。これらの2種類以上を併用してもよい。
離型剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、2質量部以下、より好ましくは1質量部以下である。離型剤の添加割合が下限値以下の場合、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の添加割合が上限値を超える場合、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等が生じる可能性がある。
【0058】
着色剤としての染顔料として、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料等を挙げることができる。無機顔料として、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青等の珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青等のフェロシアン系顔料等を挙げることができる。また、着色剤としての有機顔料および有機染料として、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の縮合多環染顔料;キノリン系、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料等を挙げることができる。そして、これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系染顔料等が好ましい。尚、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
着色剤の添加割合は、配合する場合、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば5質量部以下、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。着色剤の添加割合が多すぎると耐衝撃性が十分で無くなる可能性がある。
【0059】
本発明の成形品は、上述した各種の好ましい形態、構成を含む本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品である。成形品の形状、模様、色彩、寸法等に制限はなく、その用途に応じて任意に設定すればよい。成形品として、具体的には、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品、各種家庭用電気製品等の部品、電気器具のハウジング、容器、カバー、収納部、ケース、照明器具のカバーやケース等を挙げることができる。電気電子機器として、例えば、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、テレビジョン受像機、液晶表示装置やプラズマ表示装置等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等を挙げることができる。また、成形品として、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、玩具、装飾品等も挙げることができる。
【0060】
本発明の成形品の製造方法は、特に限定されず、ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用することができる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法等が挙げることができる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。
【0061】
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の難燃性の評価は、後述する方法で得られたIzod試験片を、温度23℃、相対湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、JIS K−7201「酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法」に準拠して試験を行う。本試験で燃焼酸素指数(LOI値)が26以上のものは防炎性(自己消火性)を有しているとされる。本発明では、かかる難燃性を30以上とすることができ、さらには、40以上とすることができる。
【0062】
透明性評価としてのヘイズ(Haze)値の測定は、JIS K−7136「プラスチック−透明材料のヘイズの求め方」に準拠し、後述する方法で製造したプレート状成形品を試験片とし、日本電色工業社製のNDH−2000型濁度計で測定する。ヘイズは、樹脂の白濁の尺度として用いられ、数値が小さい程、透明性が高いことを示し好ましい。後述する表1にあっては、「透明性」と表記する。
【0063】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から成形された成形品は、例えば、厚さ1.0mmの平板部を有する成形品としたとき、そのヘイズ値を5%以下とすることができ、さらには3%以下とすることができ、よりさらには1%以下とすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【0065】
<p−フェニルエチニルフェノール(A)の合成>
窒素気流下で撹拌子を入れた500ml三口フラスコに、4−ヨードフェノール8.8278g(0.040mol)、パラジウム触媒0.4038g(0.58mmol)、銅触媒0.1107g(0.58mmol)、トリフェニルホスフィン0.1515g(0.58mmol)、エチニルベンゼン5.3426g(0.052mmol)、トリエチルアミン300mlを入れて、室温で24時間反応させた。
溶液をろ別、ジエチルエーテルで抽出、HClで溶媒のトリエチルアミンを取り除き、蒸留水で洗浄を行い、40℃、6時間減圧乾燥、昇華精製を行った。
その結果、白色粉末を6.31g(収率:81%)得た。得られた化合物の1HNMR、13CNMRを測定し、すべてのシグナルの帰属から、目的としたp−フェニルエチニルフェノールが合成されていることを確認した。
【0066】
<m−フェニルエチニルフェノール(B)の合成>
ジムロート管、窒素気流下で撹拌子を入れた100ml三口フラスコに、3−ブロモフェノール9.9845g(0.058mol)、無水酢酸17mlを入れ、150℃、2時間反応させた。反応物を室温まで冷却し、蒸留水を加えた。ジエチルエーテルで抽出、蒸留水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで脱水し、エバポレーターで濃縮することで、3−ブロモフェニルアセテートを得た。
ジムロート管、窒素気流下で撹拌子を入れた100ml三口フラスコに、前述のように合成した3−ブロモフェニルアセテート12.432g(0.58mmol)、エチニルベンゼン7.8366g(0.077mmol)、トリフェニルホスフィン0.1445g(0.501mmol)、トリエチルアミン78mlを入れ、アルミホイルで容器を覆い、光を遮った。ここに別の容器で調整したパラジウム触媒0.0722g(0.010mmol)、銅触媒0.0291g(0.153mmol)、トリエチルアミン5mlの混合物を入れて、120℃、12時間反応させた。
反応物を室温まで冷却、ろ過を行い、ジエチルエーテルで抽出し、0.1NのHClで溶媒のトリエチルアミンを取り除いた。この溶液を蒸留水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで脱水しエバポレーターで濃縮し、3−フェニルエチニルアセテートを得た。
ジムロート管、窒素気流下で撹拌子を入れた100ml三口フラスコに、前述のように合成した3−フェニルエチニルアセテートを含む溶液、炭酸カリウム9.6778g(0.041mmol)、メタノール70mlを入れ、90℃、4時間反応させた。反応溶液に蒸留水を加え、エバポレーターでメタノールを除去した。0.1NのHClを加えてジエチルエーテルで抽出、蒸留水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで脱水、エバポレーターにかけた。その後、クロロホルムでカラムクロマトグラフィーを行い、精製を行った。さらに、ヘキサンで再結晶、35℃、6時間減圧乾燥を行い、昇華精製を行った。
その結果、白色粉末を1.53g(収率:13.6%)得た。得られた化合物の1HNMR、13CNMRを測定し、すべてのシグナルの帰属から、目的としたm−フェニルエチニルフェノールが合成されていることを確認した。
【0067】
<p−フェニルエチニルフェノール末端ポリカーボネート(PC−A)の合成>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液1100mlに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下「BPA」と略称:新日鐵化学工業株式会社製)91.2g(0.4mol)とハイドロサルファイト0.1gを溶解した。
これにメチレンクロライド400mlを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ついでホスゲン52gを約1g/分の速度で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、末端停止剤として前記p−フェニルエチニルフェノール(A)3.1g(0.016mol)を加え激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.4mlのトリエチルアミンを加え、20〜27℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。
得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
この重合体の粘度平均分子量は23500であった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm-1付近の位置にカルボニル基による吸収、1240cm-1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂(以下「PC−A」と略称)であることが確認された。
【0068】
<m−フェニルエチニルフェノール末端ポリカーボネート(PC−B)の合成>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液550mlにBPAを45.6g(0.2mol)とハイドロサルファイト0.05gを溶解した。
これにメチレンクロライド200mlを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ついでホスゲン26gを約1g/分の速度で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、末端停止剤として前記m−フェニルエチニルフェノール(B)1.52g(0.008mol)を加え激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.2mlのトリエチルアミンを加え、20〜27℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
この重合体の粘度平均分子量は21800であった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm-1付近の位置にカルボニル基による吸収、1240cm-1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂(以下「PC−B」と略称)であることが確認された。
【0069】
<PC−C>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名「ユーピロン(登録商標)S−3000、以下「PC−C」と略称」、粘度平均分子量:21,300(末端構造はp−tert−ブチルフェノール)を用いた。
【0070】
<PC−Dの合成>
<BPAと1,2−ビス(3−ヒドロキシルフェニル)アセチレンとの共重合>
5w/w%の水酸化ナトリウム水溶液1100mlにBPA87.6g(0.384mol)と1,2−ビス(3−ヒドロキシフェニル)アセチレン(以下「Ace」と略称:みどり化学株式会社製)3.4g(0.016mol)と ハイドロサルファイト0.1gを溶解した。
これにメチレンクロライド400mlを加えて撹拌しつつ、15℃に保ちながら、ついでホスゲン52gを約1g/分の速度で吹き込んだ。
ホスゲン吹き込み終了後、末端停止剤としてp−tert−ブチルフェノール2.4g(0.016mol)を加え激しく撹拌して、反応液を乳化させ、乳化後、0.4mlのトリエチルアミンを加え、20〜27℃にて約1時間撹拌し、重合させた。
重合終了後、反応液を水相と有機相に分離し、有機相をリン酸で中和し、洗液(水相)の導電率が10μS/cm以下になるまで水洗を繰り返した。得られた重合体溶液を、45℃に保った温水に滴下し、溶媒を蒸発除去して白色粉末状沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、105℃、24時間乾燥して、重合体粉末を得た。
この重合体の粘度平均分子量は23900であった。得られた重合体を赤外線吸収スペクトルにより分析した結果、1770cm-1付近の位置にカルボニル基による吸収、1240cm-1付近の位置にエーテル結合による吸収が認められ、カーボネート結合を有するポリカーボネート樹脂(以下「PC−D」と略称)であることが確認された。
【0071】
<その他の添加剤>
難燃剤として、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩、大日本化学インキ工業株式会社製「商品名:メガファックF−114P」を使用した。
安定剤として、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト:ADEKA社製「商品名:アデカスタブ2112」、離型剤(1)として、ペンタエリスリトールテトラステアレート、コグニスジャパン株式会社製「商品名:ロキシオールVPG861」、および、離型剤(2)として、ステアリン酸オクタデシル、日本油脂株式会社製「商品名:ユニスター M9676」を使用した。
【0072】
実施例1、実施例2、比較例1〜3において使用した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、以下の方法で調製した。即ち、各成分を表1に示す含有量(添加割合、質量%)で、混合した後、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製:30C150)を用いて、スクリュー回転数60rpm、ミキサ温度260℃の条件で3分間混練し、混練後に回収した樹脂塊を、粉砕機(株式会社セイシン企業製:オリエント粉砕機VM−16)にて、6mmφ以下のペレット状に粉砕し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のサンプルを得た。
【0073】
<試験片1の成形>
透明性と色相の試験においては、得られたサンプルを、120℃で5時間乾燥した後、卓上射出成形機(HAAKE社製:MiniJet)にて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、余熱時間3分間、射出圧力900mbの条件で射出成形を行い、長さ50mm、幅30mm、厚さ1.0mmのプレート状成形品を試験片1として成形した。
【0074】
<試験片2の成形>
難燃性の試験においては、得られたサンプルを、120℃で5時間乾燥した後、卓上射出成形機(HAAKE社製:MiniJet)にて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃、余熱時間3分間、射出圧力900mbの条件で射出成形を行い、Izod成形品を試験片2として成形した。その後、成形したサンプルを用いてJIS K7201に従って燃焼試験を行い、酸素指数の値を測定した。酸素指数の数値が大きいほど燃え難く、27を超えるものは自消性プラスチックに分類される。
【0075】
[透明性評価]
Haze(ヘイズ値)(単位:%):
JIS K−7105に準じ、前記の試験片1(1mm厚)を試験片とし、日本電色工業(株)製のNDH−2000型ヘイズメーターでヘイズ値(単位「%」)を測定した。ヘイズ(Haze)は、樹脂の濁度の尺度として用いられる値であり、数値が小さい程、透明性が高いことを示し、好ましい。結果を表1に示す。なお、表中、「Haze」と表記する。
【0076】
[色相評価]
YI値:
前記の試験片1(1mm厚)を試験片とし、JIS K−7105に準拠し、日本電色工業(株)製のSE2000型分光式色彩計で、透過法によりYI値(Yellow Index)を測定した。YI値が小さいほど樹脂の黄変度合いが低いことを示し好ましい。結果を表1に示す。なお、表中、「YI」と表記する。
【0077】
[耐熱性評価]
Tg(ガラス転移温度)(単位:℃):
授記PC−A〜PC−Dの各樹脂について、JIS K−7121に準じ、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のDSC7020型高感度型示差走査熱量計でTgを測定した。Tgの数値が大きい程、耐熱性に優れることを示し、好ましい。結果を表1に示す。なお、表中、「Tg」と表記する。
【0078】
[難燃性の評価]
上記で成形した試験片2(Izod試験片)を、温度23℃、相対湿度50%の恒温室の中で48時間調湿し、JIS K−7201「酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法」に準拠して試験を行った。本試験で燃焼酸素指数(LOI値)が26以上のものは防炎性(自己消火性)を有しているとされる。なお、表中、「LOI」と表記する。
【0079】
実施例1、実施例2、比較例1〜比較例3において、得られた各種測定結果を、以下の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1からも明らかなように、実施例1、実施例2にあっては、LOI値は40%以上であり、Tgも146℃以上を保っており、耐熱性と難燃性に優れる芳香族ポリカーボネートが得られた。また、ヘイズ値も1%以下の低い値であり、透明性に優れていた。
【0082】
また、パラ位にフェニルエチニルフェノール末端基を有する実施例1では、YI値が8.3と高く、色相が黄色味を帯びていた。それに対し、メタ位にフェニルエチニルフェノール末端基を有する実施例2では、YI値が1.8と低く色相に優れる成形品が得られた。
【0083】
一方、フェニルエチニルフェノール末端基を持たないp−tert−ブチルフェノール末端の芳香族ポリカーボネートを使用した比較例1、2では、難燃剤の金属塩を用いたときでもLOI値が38%に留まっており、難燃性が不十分であった。また、比較例3にあっては、特許文献5を参考にエチニル骨格を分子鎖内に導入した芳香族ポリカーボネートを使用したが、LOI値は40%と高い値を示すものの、ヘイズ値が1.01%とやや高く、Tgが132℃とp−tert−ブチルフェノール末端の芳香族ポリカーボネートと比較して20℃近く低下することから、耐熱性に劣る結果となった。