特許第5965795号(P5965795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許59657954−ビニルグアヤコールを高含有する蒸留酒原酒及びその製造方法、該蒸留酒原酒を用いて得られる蒸留酒、並びにバニリンを高含有する蒸留酒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965795
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】4−ビニルグアヤコールを高含有する蒸留酒原酒及びその製造方法、該蒸留酒原酒を用いて得られる蒸留酒、並びにバニリンを高含有する蒸留酒
(51)【国際特許分類】
   C12G 3/02 20060101AFI20160728BHJP
   C12G 3/12 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C12G3/02 119H
   C12G3/12
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-203939(P2012-203939)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2014-57536(P2014-57536A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】菊地 啓太
(72)【発明者】
【氏名】中島 俊治
(72)【発明者】
【氏名】斯波 大幸
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−172548(JP,A)
【文献】 特開平07−115957(JP,A)
【文献】 日食化誌,2002年,Vol.9, No.3,pp.95-100
【文献】 Natural Medicines,2003年,Vol.57, No.3,pp.95-99
【文献】 玄米による抗肥満効果のメカニズム解明,琉球大学 プレス発表資料 [online],2012年 7月25日,平成27年12月17日検索,URL,http://www.u-ryukyu.ac.jp/univ_info/announcement/data/press2012071701.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留酒原酒の製造方法であって、穀類及びイモ類から選択された1種又は2種以上の糖質原料(玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を含むことを特徴とする蒸留酒原酒の製造方法。
【請求項2】
発酵工程における米糠の添加量が、麹に対して重量比で0.08〜1倍である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フェルラ酸エステラーゼ酵素が、ヘミセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、セルラーゼ系酵素、酸性プロテアーゼ系酵素、及びキシラナーゼ系酵素からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
蒸留酒原酒が4−ビニルグアヤコールを30ppm以上含有する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で蒸留酒原酒を得、得られた蒸留酒原酒を用いて蒸留酒を製造する方法
【請求項6】
蒸留酒がバニリンを含有するものである請求項に記載の製造方法
【請求項7】
請求項又はに記載の製造方法で蒸留酒を得、得られた蒸留酒と、連続式蒸留焼酎とを混和して混和蒸留酒を製造する方法
【請求項8】
蒸留酒原酒の製造において、穀類及びイモ類から選択された1種又は2種以上の糖質原料(玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を行うことを特徴とする蒸留酒原酒中の4−ビニルグアヤコール含有量を高める方法。
【請求項9】
蒸留酒の製造において、穀類及びイモ類から選択された1種又は2種以上の糖質原料(玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程、得られた蒸留酒原酒もろみを蒸留して蒸留酒原酒を得る蒸留工程、及び該蒸留酒原酒を貯酒する貯酒工程を行うことを特徴とする蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留酒原酒、蒸留酒及びそれらの製造方法等に関する。より詳細には、4−ビニルグアヤコールを高含有する焼酎原酒等の蒸留酒原酒、及びその製造方法、該蒸留酒原酒を用いて得られる蒸留酒等に関する。本発明はまた、蒸留酒原酒中の4−ビニルグアヤコール含有量を高める方法及び蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法に関する。
【0002】
近年の消費者嗜好の多様化に伴って、焼酎等の蒸留酒についても製品の多様化が図られている。かかる多様化のために、新規な香り及び味を有する焼酎等の開発需要が高まっており、さまざまな試みがなされている。
【0003】
例えば、樽中で熟成させたウイスキー、泡盛等の蒸留酒には、バニリン(IUPAC名:4−ヒドロキシ−3−3メトキシベンズアルデヒド)が含まれている。バニリンは、甘い芳香をもつ物質であり、蒸留酒の香味に寄与している。例えばウイスキーについては、蒸留液を樽で長期間熟成させることによって、樽からバニリンが溶出することが知られている。また、泡盛では、原料である米の細胞壁の構成分子に結合しているフェルラ酸(IUPAC名:4−ヒドロキシ−3−メトキシ桂皮酸)が麹由来の酵素により遊離し、続いて脱炭酸を受けて4−VGとなることが分っている。4−ビニルグアヤコール(以下、4−VGともいう)は、蒸留工程で蒸留液に移行し、その後の数年間に及ぶカメ貯蔵中に、徐々に酸化されてバニリンに変換される。このため、バニリンの前駆物質である4−VGを高含有する焼酎原酒、焼酎等を製造できる技術の開発が望まれている。
前記のフェルラ酸からバニリンが生成する反応機構を、以下に示す。
【0004】
【化1】
【0005】
例えば、焼酎に含まれる4−VGを増加させる手段として、サッカロミセス・セレビシエに属するC14株又はNo.15株を用いる4−VGを高含有する焼酎の製造方法が開示されており、実施例1では、発酵醪の蒸留液中に9.87mg/L(9.87ppm)の4−VGが含まれたとされている(特許文献1)。しかしながら、焼酎原酒等の蒸留酒原酒中の4−VG量をより増加させることができる手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−267679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バニリンの前駆体である4−VGを高含有する焼酎原酒等の蒸留酒原酒の製造方法、該製造方法により製造される蒸留酒原酒、該蒸留酒原酒を用いて製造される蒸留酒、混和蒸留酒、及び蒸留酒原酒中の4−VG含有量を高める方法を提供することを目的とする。また、本発明は、蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、焼酎原酒等の蒸留酒原酒を製造する際に、麹に米糠、水及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して酵母発酵させると、高濃度の4−VGを含有するもろみ(蒸留酒原酒もろみ)が生成することを見出した。また、この4−VGを高含有するもろみを蒸留すると、4−VGを高濃度で含む蒸留液(蒸留酒原酒)が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の蒸留酒原酒の製造方法、蒸留酒原酒、蒸留酒、混和蒸留酒、蒸留酒原酒中の4−VG含有量を高める方法、及び蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法に関する。
(1)蒸留酒原酒の製造方法であって、糖質原料を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を含むことを特徴とする蒸留酒原酒の製造方法。
(2)発酵工程における米糠の添加量が、麹に対して重量比で0.08〜1倍である前記(1)に記載の製造方法。
(3)フェルラ酸エステラーゼ酵素が、ヘミセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、セルラーゼ系酵素、酸性プロテアーゼ系酵素、及びキシラナーゼ系酵素からなる群より選択される少なくとも1種である前記(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の製造方法により製造されることを特徴とする蒸留酒原酒。
(5)4−ビニルグアヤコールを30ppm以上含有することを特徴とする蒸留酒原酒。
(6)前記(4)又は(5)に記載の蒸留酒原酒を用いて得られることを特徴とする蒸留酒。
(7)バニリンを含有するものである前記(6)に記載の蒸留酒。
(8)前記(6)又は(7)に記載の蒸留酒と、連続式蒸留焼酎とを混和して得られることを特徴とする混和蒸留酒。
(9)蒸留酒原酒の製造において、糖質原料(玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を行うことを特徴とする蒸留酒原酒中の4−ビニルグアヤールコール含有量を高める方法。
(10)蒸留酒の製造において、糖質原料(玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程、得られた蒸留酒原酒もろみを蒸留して蒸留酒原酒を得る蒸留工程、及び該蒸留酒原酒を貯酒する貯酒工程を行うことを特徴とする蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼酎等の蒸留酒の製造において得られるもろみの蒸留液(蒸留酒原酒)に通常は存在しない成分である、4−VGを焼酎原酒等の蒸留酒原酒に高含有させることができる。より具体的には、例えば4−VGを約30ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒原酒を製造することができる。蒸留酒原酒に含まれる4−VGは、酸化反応を経ることでバニリンに変換されるため、本発明により得られる4−VGを高含有する蒸留酒原酒を用いると、バニリンを含有する洋菓子様の甘い香味を持つ蒸留酒を製造することができる。このため、例えば本発明により得られる蒸留酒原酒を、乙類焼酎等の蒸留酒の製造に用いることにより、蒸留酒に甘い芳香、甘い香味等を付与、又は該蒸留酒の該香味等を増強することができ、香味良好な蒸留酒を製造することができる。さらに、このようなバニリン由来の香味を有する蒸留酒を他の蒸留酒等と混和することにより、得られる混和蒸留酒等に甘い香味等を付与、又は該混和蒸留酒等の該香味等を増強、又は改善することができる。
【0011】
また、4−VGは酸化反応を経てバニリンに変換されるが、本発明により得られる蒸留酒原酒は4−VGを高含有するものであることから、例えば貯酒中に4−VGが優先的に酸化される。このため、本発明により得られる蒸留酒原酒及び蒸留酒においては4−VGが抗酸化物質として働き、4−VG以外の成分が酸化されにくいという効果も奏する。従って、本発明により得られる蒸留酒原酒及び蒸留酒は、4−VGの抗酸化作用によって安定性に優れるものである。例えば焼酎であれば、安定性に優れるため種々の他の焼酎等と様々な割合で混合することができ、様々な焼酎の製品設計が可能となる。
さらに、本発明は、通常廃棄される米糠を有効利用できるという利点も有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
(蒸留酒原酒の製造方法)
本発明の蒸留酒原酒の製造方法は、糖質原料を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を含む。本発明の製造方法は、焼酎(好ましくは乙類焼酎)、スピリッツ、泡盛等の蒸留酒の原酒の製造に好適に適用される。中でも、焼酎の製造に用いられる焼酎原酒の製造により好適に適用される。
【0013】
本明細書中、「蒸留酒原酒もろみ」とは、麹、酵母等の原料を発酵させて得られるもろみであり、通常、糖質原料を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵させて得られる一次もろみ、又は該一次もろみにさらに掛け原料等を加えて発酵させて得られる二次もろみが含まれる。「蒸留酒原酒」とは、通常、蒸留酒原酒もろみを蒸留して得られる蒸留液を意味する。「蒸留酒」は、通常、蒸留酒原酒(蒸留液)に、貯酒(貯蔵、保管又は熟成)等の処理を行ったものである。「蒸留酒」には、蒸留酒原酒を貯酒等したものに、水等を混合したものも含まれる。
【0014】
蒸留酒原酒のアルコール度数等は特に限定されず、蒸留酒の種類等に応じて適宜調整すればよい。例えば、焼酎原酒等であれば、アルコール度数が約36度以上(アルコール(エタノール)濃度が約36%以上)であることが好ましく、約40度以上(アルコール(エタノール)濃度が約40%以上)であることがより好ましい。蒸留酒原酒のアルコール度数の上限は、好ましくは約60度以下(アルコール(エタノール)濃度が約60%以下)であり、より好ましくは約50度以下(アルコール(エタノール)濃度が約50%以下)である。また、蒸留酒が「単式蒸留焼酎」である場合、蒸留酒原酒のアルコール度数は、約45度以下とすることが好ましい。
【0015】
本発明において、麹に用いられる糖質原料は特に限定されないが、例えば、穀類、イモ類等が好ましい。穀類として、例えば、うるち米、砕米、米粉等の米類;大麦、小麦、裸麦、ライムギ等の麦類;ソバ;トウモロコシ等が挙げられる。これらは、精白、未精白ものを用いることができる。イモ類として、サツマイモ、ジャガイモ等が挙げられる。これらの糖質原料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの糖質原料には、破砕、粉砕等の処理が施されていてもよい。中でも、糖質原料として米類が好ましく、例えば、白米(精白米)、胚芽米、三分づき米、五分づき米、七分づき米、砕米、米粉等が好ましい。糖質原料は、より好ましくは、白米、砕米等である。
【0016】
前記糖質原料を、常法により麹菌を加えて培養して製麹することにより、麹を製造することができる。通常、糖質原料を、洗浄、浸漬、蒸きょう(α化)、放冷等の処理に付した後、これに麹菌を添加して培養する。洗浄、浸漬、蒸きょう(α化)、放冷等の処理は、通常の米麹等の麹の製造と同様の方法により行うことができる。
【0017】
麹菌は、製造する蒸留酒原酒の種類に応じて適宜麹菌を選択して用いればよい。例えば、焼酎原酒を製造する場合には、焼酎の製造に通常使用させる麹菌を用いることができ、例えば、白麹菌(アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii))、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori))、黄麹菌(アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae))等の麹菌が挙げられる。また、これらの麹菌の変異株なども用いることができる。麹菌は1種のみ用いてもよく、2種以上を用いてもよい。中でも、好ましくは、白麹菌(アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii))、黒麹菌(アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori))等である。麹菌の形態は特に限定されず、胞子又は菌糸等を用いることができる。
【0018】
糖質原料への麹菌の添加量は、通常使用される量とすればよいが、例えば、糖質原料に対して0.05〜1重量%程度とすることが好ましく、0.05〜0.5重量%程度とすることがより好ましく、0.1〜0.3重量%程度とすることがさらに好ましい。
【0019】
製麹における麹菌の培養は、麹菌の生育に影響を及ぼさない範囲であればよく特に限定されないが、通常30〜40℃程度で行うことが好ましく、34〜38℃程度で行うことがより好ましい。麹菌の培養は、通常約24〜60時間、好ましくは約30〜48時間、より好ましくは約36〜42時間行う。培養装置等は特に限定されず、通常製麹に用いる装置を用いることができる。麹菌は好気培養を行う必要があるので、酸素や空気を供給できる好気的条件下で培養を行う。
【0020】
前記糖質原料で麹菌を培養することにより、麹が得られる。得られた麹は、そのまま発酵工程に用いることができるが、所望により乾燥させた乾燥物、粉砕した粉砕物等として用いてもよい。
【0021】
本発明における糖質原料を使用した麹として、米麹が特に好ましい。米麹は、通常、白米、砕米等の糖質原料を用いて前記方法により製造することができる。また、米麹、麦麹等の穀類を使用した麹;芋麹等の糖質原料を使用した麹は市販されている。本発明においては、糖質原料を使用した麹として、市販品を使用することもできる。
【0022】
(発酵工程)
発酵工程においては、前記麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する。仕込み原料において、米糠の添加量は、麹に対して重量比で0.08〜1倍程度とすることが好ましく、0.08〜0.83倍程度とすることがより好ましく、0.33〜0.67倍程度とすることがさらに好ましく、0.33〜0.5倍程度とすることが特に好ましい。また、米糠の添加量は、例えば、麹の製造に使用した糖質原料に対して、重量比で0.1〜1倍程度とすることが好ましく、0.4〜0.8倍程度とすることがより好ましく、0.4〜0.6倍程度とすることがさらに好ましい。水の添加量は特に限定されないが、例えば、麹の製造に使用された糖質原料と米糠との合計に対して重量比で通常0.9〜2倍程度であり、1〜1.7倍程度とすることが好ましく、1.1〜1.5倍度程とすることがより好ましく、1.1〜1.4倍程度とすることがさらに好ましい。米糠は、粉状のものを用いることが好ましい。また、米糠について、米の種類や外粉の精米歩合は特に限定されず、例えば、赤糠(精白90%までの外粉)、中糠(精白80%までの外粉)、白糠(精白70%までの外粉)等を用いることができる。
【0023】
酵母は、アルコール発酵能を有していればよく、通常酒類の製造に使用される酵母、例えばサッカロミセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母等を好適に使用することができる。通常酒類で使用される酵母としては、ワイン酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、焼酎酵母などが挙げられる。例えば焼酎原酒を製造する場合には、焼酎酵母が好ましく、協会酵母(2号、3号)、宮崎酵母、鹿児島酵母、熊本酵母、泡盛酵母等が挙げられる。その使用形態も特に限定されず、例えば、アンプル等の容器に封入された液体状のものであっても、乾燥酵母などであってもよい。酵母の添加量は特に限定されず、蒸留酒の製造に通常使用される量を使用すればよい。
【0024】
フェルラ酸エステラーゼ酵素は、結合フェルラ酸を分解してフェルラ酸に変える酵素であればよく特に限定されず、例えば、ヘミセルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素、セルラーゼ系酵素、酸性プロテアーゼ系酵素、キシラナーゼ系酵等の1種又は2種以上を使用できる。フェルラ酸エステラーゼ酵素として、市販の酵素剤を用いることもできる。例えば、ヘミセルラーゼ系酵素として、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(商品名、天野エンザイム社製)等の市販の酵素剤を使用できる。また、例えば、ペクチナーゼ系酵素として、セルロシンPE60(商品名、エイチビィアイ社製)、セルロシンPEL(商品名、エイチビィアイ社製)、可溶性ペクチナーゼT(商品名、エイチビィアイ製)等;セルラーゼ系酵素として、セルロシンAC40(商品名、エイチビィアイ社製)、セルロシンAL(商品名、エイチビィアイ社製)、セルラーゼTアマノ(商品名、天野エンザイム社製)等;キシラナーゼ系酵素として、セルロシンTP25(商品名、エイチビィアイ社製)等の市販品を使用することができる。酸性プロテアーゼ系酵素としては、酸性域に至適pHを有する蛋白質分解酵素であればよく特に限定されず、例えば、アスペルギルス属、ムコール属、ペニシリウム属、サッカロミセス属等に属する微生物に由来する酸性プロテアーゼ;カテプシン、ペプシン等の動物に由来する酸性プロテアーゼ;ハス種子、キュウリ種子等の植物に由来する酸性プロテアーゼ等を用いることができる。
フェルラ酸エステラーゼ酵素の添加量は、米糠に対して、重量割合(100×フェルラ酸エステラーゼ酵素の添加量/米糠重量)(%)で約0.05%以上とすることが好ましく、約10%以下とすることが好ましい。フェルラ酸エステラーゼ酵素の添加量は、米糠に対して、重量割合で0.5〜10%程度とすることがより好ましく、1〜5%程度がさらに好ましく、2〜4%程度とすることが特に好ましい。
【0025】
発酵工程においては、さらに、アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉を糖に分解する糖分解酵素等を添加してもよい。
【0026】
発酵工程において、前記麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して酵母発酵させる方法は特に限定されないが、通常、麹、米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を混合して仕込み、発酵を行う。好ましくは、まず米糠に水を添加して米糠を水に分散させる。得られた米糠分散液にフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して酵素処理を行い、次いで酵素処理した米糠分散液に麹及び酵母を添加及び混合して発酵させることが好ましい。酵素処理の温度は、フェルラ酸エステラーゼ酵素の種類等により適宜設定すればよいが、通常約30〜55℃が好ましく、約45〜50℃がより好ましい。酵素処理の時間は、通常約1〜6時間が好ましく、約2〜3時間がより好ましい。また、発酵の途中で、所望により米糠分散液(好ましくは前記酵素処理した米糠分散液)を添加してもよい。
【0027】
酵母発酵の条件は、酵母の種類等により適宜設定すればよく、通常酒類の製造で用いられる条件で行うことができる。酵母発酵の際の温度は、例えば、通常20〜40℃程度であり、20〜32℃程度で行うことが好ましく、20〜30℃程度がより好ましく、28〜30℃程度で行うことがさらに好ましい。酵母発酵は、約96〜168時間行うことが好ましく、約120〜144時間行うことがより好ましい。
【0028】
発酵工程において麹に米糠、水、酵母、及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して酵母発酵させることにより、蒸留酒原酒もろみが製造される。このように製造されるもろみは、通常一次もろみとよばれるものである。
【0029】
本発明の製造方法においては、前記蒸留酒原酒もろみ(一次もろみ)を蒸留することにより、4−VGを高含有する蒸留液、すなわち本発明における蒸留酒原酒を得ることができる。例えば、本発明の製造方法によって焼酎原酒を製造する場合、前記蒸留酒原酒もろみ(一次もろみ)を蒸留することにより、蒸留酒原酒を製造することが好ましい。また、本発明においては、前記一次もろみから二次もろみを製造し、該二次もろみを蒸留することによっても、蒸留酒原酒を製造することができる。
【0030】
本発明においては、前記で得られた蒸留酒原酒もろみ(一次もろみ)に、さらに掛け原料と水を加えて発酵させて二次もろみを製造してもよい。このように製造された二次もろみも、本発明における蒸留酒原酒もろみに含まれる。掛け原料としては、製造する蒸留酒の種類に応じて適宜選択すればよく特に限定されない。例えば焼酎原酒を製造する場合には、通常焼酎の製造において掛け原料として使用されるものを使用することができ、例えば、白米等の米類;大麦、小麦、裸麦、ライムギ等の麦類;ソバ;トウモロコシ;サツマイモ、ジャガイモ等のイモ類;黒糖等を使用することができる。二次もろみ製造のために添加される掛け原料の重量は、一次もろみの製造に使用した麹の重量に対して約1〜10倍となるようにすることが好ましく、約2〜5倍とすることがより好ましい。
【0031】
二次もろみ製造のための発酵は、通常20〜40℃程度で行う。発酵の際の温度は、20〜32℃程度が好ましく、20〜30℃程度がより好ましく、28〜32℃程度で行うことがさらに好ましい。発酵の時間は、通常約150〜240時間であり、約170〜230時間が好ましく、約192〜216時間とすることがより好ましい。二次もろみの製造においても、上述したフェルラ酸エステラーゼ酵素、糖分解酵素等を添加してもよい。
【0032】
(蒸留工程)
本発明の蒸留酒原酒の製造方法においては、通常、前記蒸留酒原酒もろみ(前記一次もろみ及び/又は二次もろみ)を蒸留して蒸留酒原酒を得る。好ましくは、蒸留酒原酒もろみとして前記一次もろみを蒸留して蒸留酒原酒を得る。具体的には、例えば、発酵が終了した蒸留酒原酒もろみを蒸留機に入れ、通常単式蒸留により蒸留を実施して蒸留酒原酒を得る。蒸留方法は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、焼酎、泡盛等の製造で使用される蒸留方法を採用することができる。例えば、通常焼酎製造で使用される蒸留方法としては、常圧蒸留及び減圧蒸留がある。蒸留時間等は、所望する蒸留液のアルコール(エタノール)濃度等により適宜設定すればよい。
【0033】
本発明においては、蒸留酒原酒、すなわち得られる蒸留液のアルコール(エタノール)濃度が、20〜50%(v/v)程度となるように蒸留を行うことが好ましく、アルコール(エタノール)濃度が36〜44%(v/v)程度となるように蒸留を行うことがより好ましい。蒸留酒原酒のアルコール度数の上限は、通常約60度以下(アルコール(エタノール)濃度が約60%以下)である。また、例えば蒸留酒が単式蒸留焼酎である場合、蒸留酒原酒のアルコール(エタノール)濃度は、約45%以下となるようにすることが好ましい。
【0034】
常圧蒸留は、大気圧でもろみを蒸留して原酒となる蒸留液を得る方法である。減圧蒸留は、真空ポンプなどを用いて、蒸留機内を大気圧より低い気圧に減圧して蒸留して原酒となる蒸留液を得る方法である。いずれの蒸留方法であっても、本発明の効果を与えることができる範囲であれば、所望の品質に応じて実施することができる。
【0035】
(蒸留酒原酒)
前記蒸留により、4−VGを高含有する蒸留酒原酒が得られる。本発明の方法によって製造される蒸留酒原酒も、本発明に包含される。本発明の蒸留酒原酒は、例えば、焼酎等の原酒として好適に用いられる。すなわち本発明の製造方法によって製造される焼酎原酒は、本発明の好ましい態様の1つである。本発明の方法によって得られる焼酎原酒等の蒸留酒原酒は、通常、4−VG含有量が高められたものである。
【0036】
蒸留酒原酒中の4−VG含量は、蒸留の度合い等により適宜設定することができるが、通常約1ppm(mg/L)以上、好ましくは約5ppm(mg/L)以上、より好ましくは約10ppm(mg/L)以上である。本発明により製造される蒸留酒原酒中の4−VG含量の上限は、通常80ppm(mg/L)程度である。例えば、蒸留酒原酒は、4−VGを約30ppm(mg/L)以上含有することが好ましく、4−VGを約35ppm(mg/L)以上含有することがより好ましく、約40ppm(mg/L)以上含有することがさらに好ましく、約45ppm(mg/L)以上含有することが特に好ましい。このような、前記製造方法により製造され、4−VGを約30ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒原酒は、本発明の好ましい態様の1つである。本発明によれば、このように4−VGを高含有する蒸留酒原酒を得ることができる。蒸留酒原酒のアルコール(エタノール)濃度は、通常20〜50%(v/v)程度であり、36〜44%(v/v)程度が好ましい。アルコール濃度がこのような範囲であり、かつ4−VG含量が上述した範囲(約30ppm(mg/L)以上)である蒸留酒原酒は、本発明の好ましい態様の1つである。また、蒸留酒が「単式蒸留焼酎」である場合、蒸留酒原酒のアルコール(エタノール)濃度は、約45%以下とすることが好ましい。
【0037】
4−VGを約30ppm以上含有する蒸留酒原酒も、本発明に包含される。このような4−VGを高含有する蒸留酒原酒は、例えば、上述した蒸留酒原酒の製造方法によって得ることができる。好ましくは、4−VGを約35ppm(mg/L)以上、より好ましくは、約40ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは、約45ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒原酒である。4−VGの含有量の上限は、通常約80ppm(mg/L)である。蒸留酒原酒は、好ましくは焼酎原酒である。
【0038】
前記4−VGを高含有する蒸留酒原酒は、4−VG特有の香りを有するため香味が良好なものである。また、4−VGは通常貯酒中にバニリンに変換されるため、該蒸留酒原酒を貯酒等することにより、得られる蒸留酒中にバニリンを生成させることができる。
さらに、4−VGはバニリンに酸化されやすいため、4−VGを高含有する蒸留酒原酒や4−VGを含有する蒸留酒においては、4−VGが優先的に酸化される。このため、蒸留酒原酒又は蒸留酒中の4−VG以外の成分が酸化されにくく、従って貯酒中等に酸化により品質劣化が起こりにくい。例えば安定性に優れる焼酎は、様々な他の焼酎等と様々な割合で混合することができるため、製品設計の幅が広がり、様々な焼酎製品を製造することができる。
【0039】
(蒸留酒の製造)
前記蒸留酒原酒を用いて得られる蒸留酒も、本発明に包含される。本発明の蒸留酒は、前記蒸留酒原酒、好ましくは4−VGを約5ppm(mg/L)以上、より好ましくは約10ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは約30ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒原酒を、通常、貯酒することにより製造される。
【0040】
前記蒸留酒原酒に含まれる4−VGは、通常貯酒中に徐々にバニリンに変換される。このため、貯酒工程を経ることにより、得られる蒸留酒にバニリンを含有させることができる。バニリンを含有する蒸留酒は、洋菓子様の甘い香味をもつため、例えば種々の混和蒸留酒の製造等に好適に用いられる。このようなバニリンを含有する蒸留酒も、本発明に包含される。
【0041】
蒸留酒中のバニリン含有量は、例えば、貯酒に用いる蒸留酒原酒中の4−VG含有量を調整すること等により調整することができる。本発明によれば、例えば、バニリンを約1ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒を製造することができる。バニリンを約1ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒は、例えば、4−VGを約10ppm(mg/L)以上、好ましくは約30ppm(mg/L)以上、好ましくは4−VGを約40ppm(mg/L)以上、より好ましくは4−VGを約45ppm(mg/L)以上含有する蒸留酒原酒を、貯酒(貯蔵、保管又は熟成)することにより、製造することができる。
【0042】
(貯酒工程)
貯酒は、通常、容器等で蒸留酒原酒を貯蔵、保管又は熟成させることにより行われる。容器は特に限定されず、例えば、タンク(ホーロータンク、ステンレスタンク等)、甕、樽、瓶等が挙げられる。好ましくは、甕等である。貯酒の期間は適宜設定すればよいが、例えば、バニリンを含有する蒸留酒を製造する場合、通常約1日以上、好ましくは約1カ月以上であり、より好ましくは2〜24カ月程度であり、さらに好ましくは6〜12カ月程度である。貯酒を行う温度は、通常約10〜30℃であり、好ましくは約20〜28℃である。このような方法により、通常、バニリンを含有する蒸留酒を製造することができる。前記方法により製造される蒸留酒は、バニリンを、好ましくは約0.1ppm(mg/L)以上、より好ましくは約0.5ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは約1ppm(mg/L)以上、特に好ましくは約6ppm(mg/L)以上含有するものである。
【0043】
貯酒中に4−VGからバニリンへの変換をより効率よく進めるために、公知の4−VGからバニリンへの変換方法等を適宜採用してもよい。例えば、貯酒する際に、蒸留酒原酒中に銅及び/又は銅を含む化合物を存在させることが好ましい。これにより、バニリンの生成量を短期間に増大させることができる。より好ましくは、銅の存在下で貯酒を行う。また、別の好ましい態様においては、(1)銅及び/又は銅を含む化合物、並びに(2)カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物及びナトリウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の存在下で貯酒を行う。
【0044】
銅の存在下で貯酒を行う方法は特に限定されないが、例えば、内側が銅製のタンク等の容器中で貯酒を行う方法、蒸留酒原酒中に銅板、銅片、銅棒、銅線等の銅を浸漬する方法等が挙げられる。使用する銅の量は特に限定されないが、例えば、蒸留酒原酒1Lに対して約0.5〜30gとすることが好ましく、約1〜25gとすることがより好ましく、約2〜25gとすることがさらに好ましい。
【0045】
銅を含む化合物は、例えば、酸化銅;硫酸銅、塩化銅などの塩類が挙げられる。好ましくは酸化銅(I)、酸化銅(II)などの酸化銅が用いられる。銅及び/又は銅を含む化合物の使用量は特に限定されないが、例えば、蒸留酒原酒中に銅の濃度として0.1〜1.2ppm(mg/L)程度とすることが好ましい。
【0046】
カルシウムを含む化合物は特に限定されないが、例えば炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの塩類、酸化物などが挙げられる。カルシウムを含む化合物として、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が好ましい。カリウムを含む化合物は特に限定されず、例えば塩化物などが挙げられ、塩化カリウム等が好ましい。マグネシウムを含む化合物は特に限定されず、例えば塩化物、硝酸塩などが挙げられ、塩化マグネシウム等が好ましい。ナトリウムを含む化合物は特に限定されず、例えば塩化物などが挙げられ、塩化ナトリウム等が好ましい。これらの金属を含む化合物は、そのまま、又は水溶液として、蒸留酒原酒に添加すればよい。カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウムをイオンとして添加することができるものであれば、ミネラルウオーター、硬水等の水そのものを添加することもできる。カルシウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物及びナトリウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む化合物の使用量は、通常、蒸留酒原酒中にカルシウム、カリウム、マグネシウム、及びナトリウムの合計濃度として1〜10ppm(mg/L)程度とすることが好ましい。
【0047】
(その他の処理)
本発明の蒸留酒は、さらに所望の品質等に応じて処理することができる。処理方法は、本発明の効果を損なうものでなければ特に限定されない。例えば、一般に焼酎製造で行われている処理としては、濾過、イオン交換樹脂処理、活性炭処理等が挙げられ、これらの処理を単独又は組み合わせて実施してもよい。さらに貯酒(貯蔵、保管又は熟成)を行ってもよい。蒸留後の蒸留液(蒸留酒原酒)又は貯酒後の蒸留酒にこのような処理を行ったものも、本発明の蒸留酒に包含される。
【0048】
(蒸留酒)
本発明の蒸留酒は、通常バニリンを含有するものである。蒸留酒は、好ましくは、バニリンを約0.1ppm(mg/L)以上、より好ましくは、通常官能閾値となる約0.5ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは約1ppm(mg/L)以上含有する。
本発明の蒸留酒は、そのまま飲用することもできるが、さらに水で希釈して飲用してもよく、他の蒸留酒等と混和して飲用することもできる。本発明の蒸留酒は、4−VGを含んでいてもよい。
【0049】
本発明の蒸留酒は、好ましくは焼酎である。例えば、前記方法により製造した焼酎原酒から、貯酒工程を経て製造された焼酎は、そのまま又は水を添加して所望のアルコール分に調整して乙類焼酎(単式蒸留焼酎)とすることができる。また、本発明の焼酎に、所望により他の乙類焼酎(単式蒸留焼酎)を混和し、水により所望のアルコール分に調整して乙類焼酎(単式蒸留焼酎)としてもよい。このような、前記焼酎を用いて得られる乙類焼酎も本発明に包含される。
【0050】
本発明の蒸留酒と、連続式蒸留焼酎とを混和することにより、バニリンを含有する混和蒸留酒を製造することができる。このため本発明の蒸留酒を用いると、得られる混和蒸留酒にバニリンに由来する甘い香味等を付与、又は該蒸留酒において該香味等を増強することができる。本発明の蒸留酒は、例えば混和蒸留酒に甘い香味等を付与、又は該混和蒸留酒の香味等を増強、又は改善するために好適に使用され得る。
【0051】
前記蒸留酒と、連続式蒸留焼酎とを混和して得られる混和蒸留酒も、本発明に包含される。蒸留酒は、好ましくは焼酎である。例えば、前記乙類焼酎と、連続式蒸留焼酎とを混和して得られる甲類乙類混和焼酎又は乙類甲類混和焼酎は、本発明の好ましい態様の1つである。より好ましくは、混和蒸留酒は、甲類乙類混和焼酎である。蒸留酒と、連続式蒸留焼酎との混合比率は、所望の味等に応じて適宜設定することができる。例えば、混和蒸留酒は、バニリンを約0.5ppm(mg/L)以上含有することが好ましい。バニリンを約0.5ppm(mg/L)以上含有すると、甘いバニラ香が感じられるため好ましい。
【0052】
(蒸留酒原酒中の4−VG量を高める方法)
本発明は、蒸留酒原酒の製造において、糖質原料を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程を行う蒸留酒原酒中の4−VG含有量を高める方法も包含する。
本発明の方法の好ましい態様等は、上述した蒸留酒原酒の製造方法と同様である。
【0053】
本発明の方法は、例えば、焼酎原酒等の蒸留酒原酒中の4−VG含有量を高めるために好適に使用される。本発明の方法によれば、蒸留酒原酒もろみを蒸留して得られる蒸留液(蒸留酒原酒)中の4−VG含有量を、通常約30ppm(mg/L)以上、好ましくは、約35ppm(mg/L)以上、より好ましくは、約40ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは、約45ppm(mg/L)以上とすることができる。4−VGの含有量の上限は、通常約80ppm(mg/L)である。4−VGは、通常貯酒によりバニリンに変換されることから、前記方法により4−VG含有量が高められた蒸留酒原酒は、バニリンを含む洋菓子様の甘い香味を持つ蒸留酒の原酒として好適に用いられる。
【0054】
(蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法)
蒸留酒の製造において、糖質原料を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程、得られた蒸留酒原酒もろみを蒸留して蒸留酒原酒を得る蒸留工程、及び該蒸留酒原酒を貯酒する貯酒工程を行うことにより、得られる蒸留酒中のバニリン含有量を高めることができる。
このような、蒸留酒の製造において、糖質原料(好ましくは、玄米を除く)を使用した麹に米糠、水、酵母及びフェルラ酸エステラーゼ酵素を添加して発酵を行い蒸留酒原酒もろみを製造する発酵工程、得られた蒸留酒原酒もろみを蒸留して蒸留酒原酒を得る蒸留工程、及び該蒸留酒原酒を貯酒する貯酒工程を行う蒸留酒中のバニリン含有量を高める方法も、本発明に包含される。
本発明の方法の好ましい態様等は、上述した蒸留酒の製造方法と同様である。
【0055】
本発明の方法は、例えば、焼酎等の蒸留酒中のバニリン含有量を高めるために好適に使用される。蒸留酒中のバニリン含有量は、例えば、貯酒に用いる蒸留酒原酒中の4−VG含有量、貯酒の期間等を調整すること等により調整することができる。本発明の方法によれば、蒸留酒中のバニリン含有量を、通常約0.1ppm(mg/L)以上、好ましくは約0.5ppm(mg/L)以上、より好ましくは約1ppm(mg/L)以上、さらに好ましくは約6ppm(mg/L)以上とすることができる。バニリン含有量の上限は、一例として、約50ppm(mg/L)である。蒸留酒中のバニリン含有量を高めることにより、バニリンに由来する甘い芳香、甘い香味等を蒸留酒に付与、又は蒸留酒において該香味等を増強することができる。このようなバニリン由来の香味が付与又は増強された蒸留酒は、良好な香味を有する蒸留酒として飲用に好適なものである。また、このような蒸留酒を他の蒸留酒等と混合することにより、得られる混和蒸留酒等に甘い香味等を付与、又は該混和蒸留酒等の香味等を増強、又は改善することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(成分分析方法)
実施例及び比較例において、4−VG及びバニリンのHPLC分析は、下記の方法で行った。
分析使用機器:
検出器:型式SPD-10A(UV検出器)(島津製作所社製)
【0058】
分析使用器具、及び内部標準液
内部標準液:m−ヒドロキシ安息香酸 1000ppm
カラム:Shim-pack CLC-ODS 0.15m×6.0φ(製品名、島津ジーエルシー社製)
溶離液の組成を、表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
測定条件
ポンプ
モード:Binary gradient
Total Flow(流速):1.000 mL/min
【0061】
オーブン
オーブン温度:50℃
【0062】
検出器
波長Ch1:260 nm
【0063】
LCプログラム
【0064】
【表2】
【0065】
前記測定条件において、バニリンの保持時間は約29分、4−VGの保持時間は、約67分であった。
【0066】
〔実施例1〕
(1)製麹
使用原料:砕米、種麹(黒麹NK菌、株式会社河内源一郎商店社製)
原料前処理:砕米を室温で水に1時間浸漬し、1時間水切りした。水切りした砕米を、100℃で1時間蒸し、得られた蒸米を品温30〜40℃となるまで放冷した。放冷後、蒸米に種麹を添加して種掛けした(植菌量0.1%w/w)。
【0067】
製麹:種掛け後、製麹時間39時間で砕米麹を製造した。製麹温度は、製麹開始から23時間まで(0〜23時間)は37.2℃、23〜39時間は34.2℃に制御した。手入れは、製麹開始から15時間と23時間の時点で行った。
【0068】
(2)発酵
使用原料:砕米麹、糠(中白糠(玄米を80%程度まで削ったときの外粉)、飯田商事より購入)、酵素(ヘミセルラーゼ「アマノ」90(商品名)、天野エンザイム株式会社製)、水、酵母(Saccharomyces cerevisiae)
仕込歩合:原料(砕米)4.0kg(砕米麹4.3g相当)、糠1.6kg(原料米の40%w/w)、汲み水7.5kg、酵母(植菌量1×10 cells/mL)
通常の焼酎の仕込では、仕込歩合は、米原料:汲み水=1:1.2(質量比)とされている。実施例1においては、仕込原料(砕米麹と糠の合併もろみ)中の糖濃度が、通常の焼酎の製造(米原料に1.2倍重量の汲み水を加えた場合)における仕込原料中の糖濃度と同等になるように、砕米麹と糠の合併もろみに対して水量を調整した。つまり、糠の添加によるデンプン量の増分は、汲み水の量を調整することで通常の焼酎製造の際の仕込時の糖濃度と合わせた(もろみ中デンプン濃度=398.3g/L)。
【0069】
酵素添加量:44.9g(原料中に存在する総フェルラ酸1mgあたり酵素25mg)。
糠の前処理:計量した汲み水に全量の糠を投入し水に分散させた。この糠分散液に、あらかじめ水に溶解させた酵素を添加し、液温50℃で3時間保持した。
前処理した糠の分散液の液温を30℃前後まで放冷したのち、砕米麹と酵母を加えて発酵を開始した。発酵は、28℃の恒温機内で、6日間行い、発酵終了もろみを製造した。
【0070】
(3)蒸留
得られた発酵終了もろみを常圧蒸留し、蒸留液(焼酎原酒)を得た。蒸留は、回収蒸留液(回収合併蒸留液)のアルコール度数が約44%(v/v)となるまで行った。得られた蒸留液中の4−VG量を調べるため、上述した方法により成分分析を行った。
【0071】
(4)結果
実施例1で製造した蒸留液の成分分析結果を、表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
〔実施例2〕
(1)製麹
使用原料:乾燥米麹(飯田商事より購入)、種麹(焼酎用種麹K型菌、株式会社ビオック社製)
【0074】
(2)発酵
使用原料:乾燥米麹、糠(中白糠(玄米を80%程度まで削ったときの外粉)、飯田商事より購入)、酵素(ヘミセルラーゼ「アマノ」90(商品名)、天野エンザイム株式会社製)、水、酵母(Saccharomyces cerevisiae)
仕込歩合:原料16kg(乾燥米麹14.9g相当)、糠6.0kg(乾燥米麹の40%w/w)、汲み水24.5kg、酵母(植菌量1×105 cells/mL)
実施例1と同様に、仕込原料(乾燥米麹と糠の合併もろみ)中の糖濃度が、通常の焼酎の製造(米原料に1.2倍重量の汲み水を加えた場合)における仕込原料中の糖濃度と同等になるように、乾燥米麹と糠の合併もろみに対して水量を調整した。
【0075】
酵素添加量:133g(原料中に存在する総フェルラ酸1mgあたり酵素25mg)添加。
糠の前処理:計量した汲み水に全量の糠を投入し水に分散させた。この糠分散液に、あらかじめ水に溶解させた酵素を添加し、液温50℃で3時間保持した。
前処理した糠の分散液の液温を30℃前後まで放冷したのち、乾燥米麹と酵母を加えて発酵を開始した。発酵は、28℃の恒温機内で、6日間行い、発酵終了もろみを製造した。
【0076】
(3)蒸留
得られた発酵終了もろみを常圧蒸留し、蒸留液(焼酎原酒)を得た。蒸留は、回収蒸留液(回収合併蒸留液)のアルコール度数が約34%(v/v)となるまで行った。得られた蒸留液中の4−VG量を調べるため、上述した方法により成分分析を行った。
【0077】
(4)結果
実施例2で製造した蒸留液の成分分析結果を、表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
〔比較例1〕
実施例1において、発酵の際に糠を添加せずに焼酎原酒を製造した。
(1)製麹
使用原料:砕米、種麹(焼酎用種麹K型菌、株式会社ビオック社製)
原料前処理:砕米を室温で水に1時間浸漬し、1時間水切りした。水切りした砕米を、100℃で1時間蒸し、得られた蒸米を品温30〜40℃となるまで放冷した。放冷後、蒸米に種麹を添加して種掛けした(植菌量0.1%w/w)。
【0080】
製麹:種掛け後、製麹時間39時間で砕米麹を製造した。製麹温度は、製麹開始から23時間まで(0〜23時間)は37.2℃、23〜39時間は34.2℃に制御した。手入れは、製麹開始から15時間と23時間の時点で行った。
【0081】
(2)発酵
使用原料:砕米麹、水、酵母(Saccharomyces cerevisiae)
仕込歩合:原料(砕米)570g(砕米麹638g相当)、汲み水684g、酵母(植菌量1×105 cells/mL)
通常の焼酎の仕込では、仕込歩合は、米原料:汲み水=1:1.2(重量比)とされている。このため、比較例1では、仕込原料(砕米麹のもろみ)に対する汲み水の量は原料の1.2倍重量とした(もろみ中デンプン濃度=398.3g/L)。
上記量の仕込原料に汲み水及び酵母を加えて、28℃の恒温機内で6日間発酵を行った。発酵終了後、得られた発酵終了もろみ中の4−VG量を調べるため、上述した方法により成分分析を行った。
【0082】
(3)蒸留
得られた発酵終了もろみを常圧蒸留し、蒸留液(焼酎原酒)を得た。蒸留は、回収蒸留液(回収合併蒸留液)のアルコール度数が約44%(v/v)となるまで行った。得られた蒸留液中の4−VG量を調べるため、上述した方法により成分分析を行った。
【0083】
(4)結果
比較例1で製造した蒸留液の成分分析結果を、表5に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
〔実施例3〕
実施例1の(1)及び(2)に記載の方法で、発酵終了もろみを製造した。得られた発酵終了もろみ(一次もろみ)2200gに、掛け原料としてコアネセンガンを5000g添加して30℃で192時間さらに発酵を行い、二次発酵もろみを得た。
【0086】
得られた二次発酵もろみを常圧蒸留し、蒸留液(焼酎原酒)を得た。蒸留は、回収蒸留液(回収合併蒸留液)のアルコール度数が約44%(v/v)となるまで行った。得られた蒸留液(焼酎原酒)中の4−VG及びバニリンを、上述した方法により測定した。その結果、蒸留液中の4−VGは6.43ppmであり、バニリンは0.12ppmであった。
【0087】
この蒸留直後の蒸留液(焼酎原酒)を300mLずつ4本準備し、蒸留液1〜4とした。蒸留液1〜4を28℃の一定温度で30日間貯酒した。貯酒中、蒸留液2〜4には、それぞれ6.70g、0.67g、及び0.34gの銅板を浸漬させた。蒸留液1は、銅を添加しないコントロールとした。1カ月(30日間)又は3カ月の貯酒後、蒸留液1〜4中の4−VG及びバニリン濃度を前記方法で測定した。結果を、表6に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
貯酒後の蒸留液1〜4中には、いずれもバニリンが生成していた。最もバニリン濃度が高い蒸留液は蒸留液2で、例えば1カ月貯酒後の4−VG初期濃度(6.43ppm)あたりのバニリンへの変換率は、約12.1%であった。例えば蒸留酒原酒として4−VGを約50ppm含む蒸留酒原酒を用いると、バニリンを約6ppm含む蒸留酒を製造することができる。
【0090】
1カ月貯酒後の蒸留液1〜4の官能評価を、焼酎の官能評価における専門パネラー5名により実施した。香味評価は、洋菓子様の甘い香り(バニラ香)について、4(強く感じる)、3(感じる)、2(やや感じる)、1(わずかに感じる)、0(感じない)の5段階評価で行った。官能評価の結果の平均値を、表7に示す。表7に示されるように、蒸留液2については、パネラー全員(n=5)が、洋菓子様の甘い香りを強く感じると評価した。
【0091】
【表7】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、4−VGを高含有する焼酎原酒等の蒸留酒原酒を製造することができる。4−VGを高含有する蒸留酒原酒を用いると、甘い香味を呈するバニリンを含有する蒸留酒を製造できる。このため本発明は、飲食品の分野等において有用である。