【課題を解決するための手段】
【0016】
ロードタールの代替バインダーとして幾つかの瀝青物が考えられるが、軟化点が高過ぎるものは、先述のように石炭との混練温度を高くしなければならず、作業環境上好ましくない。また、ロードタールよりも軟化点が低い瀝青物として最も一般的なのはコールタールであるが、軟化点が低下するため成型炭内での固化状態が悪化し、成型炭の強度低下を誘発するために望ましくない。すなわち、ロードタールの代替バインダーとしては、ロードタールよりも高軟化点で、かつ石炭との混練温度は高くせずとも従来と同様に操業が可能であるものが望ましい。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下に列記の知見を得て、本発明を完成した。
【0018】
(I)主たるバインダーをロードタールとした際の代替バインダーとして、軟化点が異なる複数種の溶剤脱れきアスファルトを用いて行った成型炭の製造およびトロンメル強度の測定試験の結果より、代替バインダーとして溶剤脱れきアスファルトが好適である。
【0019】
ここで、溶剤脱れきアスファルトは、SDA(Solvent deasphalting asphalt)とも称され、石油の蒸留残油(アスファルト)から軽質成分を抽出する際の残渣であり、先述したプロパン抽出アスファルト(PDA)は、その一種で、溶剤としてプロパンを用いたものであり、ピッチとも称される。
【0020】
石炭の成型に際しては、これまでにも、特許文献1の2頁に例示されるように、多くの物質が添加されてきた。この添加物質の機能は、(A)500℃以降のコークス生成時の強度確保(特許文献1における「粘結材」),(B)常温から100℃程度の成型炭強度確保(本明細書や特許文献1における用語「バインダー」)に大別される。
【0021】
ここで、特許文献1の態様は、成型炭中に劣質炭を多く配置して、そのままではコークス強度が弱くなるところを、粘結材添加と嵩密度向上で補填するという技術思想に基づいており(成型炭配合法の当初の狙い)、軟化点が例えば187℃と高い粘結材が使用されてきた。すなわち、特許文献1では、コークス強度を確保するための粘結材機能が重視されてきた。
【0022】
これに対し、本発明は、バインダーが不足する一方でコークス炉に装入する成型炭の比率を高めたいという相反する状況下において、バインダー、特にロードタールの代替バインダーとして機能評価した場合に、従来使用されていた物質であっても、機能に優劣を生じることから、成型炭の強度確保が可能な差異的な代替バインダーを鋭意検討し、溶剤脱れきアスファルトを提示する点に特徴を有するものである。
【0023】
(II)は、炭化水素系の抽出溶媒の種類を変える等の製造条件を変更することによって、残渣の軟化点を変更することが可能であるため、溶剤脱れきアスファルトを用いれば、代替バインダーとして適切な軟化点を有するピッチを比較的容易に得ることができる。
【0024】
ここで、以下の(a)〜(c)に、溶剤脱れきアスファルトの製造法と典型的な製造条件を例示する。
【0025】
(a)ライトリフォーメート(SDA装置溶剤)について
原料である原油を常圧蒸留して分留されるナフサ留分(主に沸点が30〜230℃の留分)を得る。次いで、これを必要に応じて水素化精製装置で水素化脱硫処理を行った後、常圧蒸留で軽質ナフサ留分(主に沸点30〜90℃の留分)と重質ナフサ留分(主に沸点80〜180℃の留分)に分留する。なお、この水素化脱硫処理は、常圧蒸留で軽質ナフサ留分と重質ナフサに分留した後に、水素化精製装置にかけてもよい。
【0026】
次に、接触改質装置によって、前記ナフサ留分(水素化脱硫処理を行った場合は、前記重質ナフサ留分)を改質して、炭素数5以上の芳香族系炭化水素を主成分とする留分であるリフォーメートを得る。このようにして得られたリフォーメートは、密度が0.78〜0.81g/cm
3、リサーチ法オクタン価が96〜104、モーターオクタン価が86〜89であり、芳香族分を50〜70容量%、飽和分を30〜50容量%含むものである。
【0027】
その後、精留装置によって、炭素数5の炭化水素を主成分とするライトリフォーメートと、炭素数6以上の芳香族系炭化水素を主成分とする留分とに分離する。この炭素数6以上の芳香族系炭化水素を主成分とする留分は、炭素数6以上の芳香族系炭化水素を主成分とするものであり、他に炭素数6以上の飽和炭化水素、オレフィン系炭化水素、及びナフテン系炭化水素などの成分を含むものである。ライトリフォーメート及び炭素数6以上の芳香族系炭化水素を主成分とする留分に含まれる各成分は、例えば、GC(ガスクロマトグラフ)分析(JIS K2536「石油製品‐成分試験方法」)などにより求めることができる。
【0028】
(b)SDA装置について
前記のライトリフォーメートを溶剤として、原油を常圧蒸留して得られる常圧蒸留残油、並びに原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られる減圧蒸留残油から選ばれる少なくとも1種を含む残油を抽出処理しSDAピッチを得る。この抽出処理の際、溶剤抽出装置のミキサーなどの混合装置によって、前記の残油と溶剤とは混合され、この溶剤の臨界圧力以上、臨界温度以下の一定の条件に保たれている溶剤抽出装置のアスファルテン分離槽に供給される。このアスファルテン分離槽内では、残油に含まれるアスファルトが沈殿する。沈殿物は、アスファルテン分離槽の底部から連続的に抜出され、ストリッパーによってわずかに含まれる溶剤が除去されて、溶剤脱れきピッチとされる。なお、アスファルテン分離槽の上部から抜き出された油は、脱れき油として利用される。
【0029】
前記の残油と溶剤(ライトリフォーメート)とを抽出処理する際、抽出温度を130℃〜200℃とし、溶剤と残油との流量比(溶剤/残油)を4/1〜8/1として行う。
【0030】
(c)PDA装置について
プロパンを主成分とする溶剤を用い、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られる減圧蒸留残油を抽出処理し、PDAピッチを得る。
【0031】
前記の残油は脱アスファルト塔上部へ、前記の溶剤(プロパン)は脱アスファルト塔下部へ供給される。残油とプロパンの間に比重差があるため、軽いプロパンは脱れき油の留分を吸収しながら塔内を上昇し、プロパンに吸収されないピッチ分(アスファルト分)は下降し、脱アスファルト塔上部からはプロパンに吸収された脱れき油が、下部からはピッチ(アスファルト)が抜き出される。それぞれ、プロパンを溶剤回収系で分離させ、脱れき油およびピッチ(アスファルト)が生成する。脱れき油は、一般的に高粘度の潤滑油用途などに用いられる。
【0032】
PDA装置の運転条件は、溶剤比(溶剤/残油)3/1〜6/1、抽出温度50〜85℃程度の範囲である。
【0033】
(III)ロードタールの一部あるいは全量を溶剤脱れきアスファルトにて代替するに際し、その代替率を適正化することにより、所望の強度を有する成型炭を製造することも可能になる。
【0034】
本発明は以下に列記の通りである
。
【0036】
(1)コークス製造用の石炭と、成型性維持のためのバインダーとを混練してから成型することにより成型炭を製造する際に、前記バインダーであるロードタールを、その軟化点から前記ロードタールの軟化点を減じた軟化点差がプラス30℃以下
であって、軟化点が60℃以下となる溶剤脱れきアスファルトにより4%以上100%以下の質量割合で代替することを特徴とする成型炭の製造方法。
【0037】
(
2)前記石炭と前記バインダーとは60〜100℃で混練される(1)
項に記載された成型炭の製造方法。