(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記拡幅手段、及び、前記糸幅規制手段上の前記複数のマルチフィラメント糸の配列方向と、前記複数のローラのうち、前記複数のマルチフィラメント糸が最初に接触する前記ローラの回転軸方向とが、略平行であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸延伸装置。
前記糸幅規制手段の前記複数の凹部は、それぞれ、前記複数のマルチフィラメント糸が最初に接触する前記ローラの回転軸方向と略平行に延びる底壁を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸延伸装置。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の紡糸延伸装置のように、マルチフィラメント糸の糸幅を広げる場合、マルチフィラメント糸の糸幅が広がりすぎると、マルチフィラメント糸から一部のフィラメントが離れた状態で、加熱ローラを走行する。このようなマルチフィラメント糸が加熱ローラで加熱延伸されると、加熱ローラとの接触等により、フィラメントの断糸や毛羽の発生の問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、加熱ローラにおいて、1本のマルチフィラメント糸を構成する複数のフィラメントを均一に加熱するとともに、フィラメントの断糸や毛羽の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の紡糸延伸装置は、紡糸装置から紡出された複数のマルチフィラメント糸をそれぞれ延伸する紡糸延伸装置であって、加熱ローラを含み、前記マルチフィラメント糸を延伸するための複数のローラと、前記加熱ローラに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントからなる1本の前記マルチフィラメント糸の糸幅を広げる拡幅手段と、前記拡幅手段により広げられた前記糸幅が広がりすぎないように、前記糸幅を規制する糸幅規制手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明では、拡幅手段により、加熱ローラに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントからなる1本のマルチフィラメント糸の糸幅が広げられる。従って、複数のフィラメントにおけるフィラメント同士の重なりが少なくなるため、複数のフィラメントを加熱ローラにより均一に加熱することができる。これにより、フィラメント間の温度のばらつきが抑制され、マルチフィラメント糸の品質が向上する。また、糸幅規制手段により、拡幅手段により糸幅が広げられたマルチフィラメント糸の糸幅が広がりすぎないように、糸幅が規制される。これにより、マルチフィラメント糸から一部のフィラメントが離れて加熱ローラに接触することがないため、フィラメントの断糸や毛羽の発生が抑制される。
【0011】
第2の発明の紡糸延伸装置は、第1の発明の紡糸延伸装置において、前記拡幅手段、及び、前記糸幅規制手段上の前記複数のマルチフィラメント糸の配列方向と、前記複数のローラのうち、前記複数のマルチフィラメント糸が最初に接触する前記ローラの回転軸方向とが、略平行であることを特徴とする。
【0012】
本発明では、拡幅手段、及び、糸幅規制手段上の複数のマルチフィラメント糸の配列方向と、複数のローラのうち、複数のマルチフィラメント糸が最初に接触するローラの回転軸方向とが、略平行である。従って、拡幅、及び、糸幅規制された複数のマルチフィラメント糸が、拡幅し、糸幅を規制された状態を保ってローラ上を走行することができるため、マルチフィラメント糸を構成する各フィラメントを均一加熱することができ、且つ、フィラメントの断糸や毛羽の発生を抑制することができる。
【0013】
第3の発明の紡糸延伸装置は、第2の発明の紡糸延伸装置において、前記糸幅規制手段は、前記複数のマルチフィラメント糸がそれぞれ走行する複数の凹部を有するガイドであることを特徴とする。
【0014】
本発明では、糸幅規制手段は、複数のマルチフィラメント糸がそれぞれ通過する複数の凹部を有する櫛歯状ガイドやソロバン玉状ガイド(軸対称形状の回転、又は、非回転のローラガイド)などである。従って、糸幅規制手段を簡単な構成とすることができる。
【0015】
第4の発明の紡糸延伸装置は、第3の発明の紡糸延伸装置において、前記糸幅規制手段の前記複数の凹部は、それぞれ、前記複数のマルチフィラメント糸が最初に接触する前記ローラの回転軸方向と略平行に延びる底壁を有することを特徴とする。
【0016】
本発明では、糸幅規制手段の複数の凹部は、それぞれ、複数のマルチフィラメント糸が最初に接触するローラの回転軸方向と略平行に延びる底壁を有する。従って、複数のフィラメントが凹部の底壁の一部に重ならずに幅全体に分散して並びやすくなるため、フィラメント同士の局部的な重なりが小さくなる。
【0017】
第5の発明の紡糸延伸装置は、第4の発明の紡糸延伸装置において、前記底壁の幅をW1、前記複数のフィラメントが重なりなく並んだ状態の前記糸幅をW2とした場合、(W2/2)≦W1≦W2であることを特徴とする。
【0018】
本発明では、底壁の幅W1、複数のフィラメントが重なりなく並んだ状態の糸幅W2の関係が、(W2/2)≦W1≦W2である。すなわち、底壁の幅は、複数のフィラメントが重なりなく並んだ状態の糸幅の半分以上であって、その糸幅以下である。従って、凹部を走行したマルチフィラメント糸は、加熱ローラへの均等接触と、フィラメントの集束性と、のバランスが取れた状態となる。
【0019】
第6の発明の紡糸延伸装置は、第4又は第5の発明の紡糸延伸装置において、前記凹部は、前記底壁と曲面で連続する側壁をさらに有することを特徴とする。
【0020】
本発明では、凹部は、底壁と曲面で連続する側壁をさらに有する。このため、凹部の隅に、フィラメントが溜まって塊状となることが防止される。
【0021】
第7の発明の紡糸延伸装置は、第1〜第6の発明のいずれかの紡糸延伸装置において、前記糸幅規制手段よりも糸道上流において、前記複数のマルチフィラメント糸を、前記マルチフィラメント糸単位に分ける糸分け手段をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
本発明では、糸分け手段により、糸幅規制手段よりも糸道上流において、複数のマルチフィラメント糸が、マルチフィラメント糸単位に分けられ、予めマルチフィラメント糸間のピッチが規制される。従って、拡幅手段により糸幅が拡幅されたマルチフィラメント糸が、糸幅規制手段上で塊状に固まることを防止することができる。
【0023】
第8の発明の紡糸延伸装置は、第7の発明の紡糸延伸装置において、前記糸分け手段上の前記複数のマルチフィラメント糸間のピッチが、前記糸幅規制手段の前記複数の凹部間のピッチと略同一であることを特徴とする。
【0024】
本発明では、糸分け手段上の複数のマルチフィラメント糸間のピッチが、糸幅規制手段の複数の凹部間のピッチと略同一である。このため、マルチフィラメント糸が糸幅規制手段の凹部の片側に集中することがなく、マルチフィラメント糸が糸幅規制手段上で塊状に固まることを防止することができる。
【0025】
第9の発明の紡糸延伸装置は、第1〜第8の発明のいずれかの紡糸延伸装置において、前記拡幅手段は、前記マルチフィラメント糸に接触して前記マルチフィラメント糸をしごく棒状のガイドであることを特徴とする。
【0026】
本発明では、拡幅手段は、マルチフィラメント糸に接触し、マルチフィラメント糸をしごく棒状のガイドである。従って、拡幅手段を簡単な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、拡幅手段により、加熱ローラに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントからなるマルチフィラメント糸一本の糸幅が広げられた状態でローラに巻き掛けられる。従って、マルチフィラメント糸内のフィラメント同士の重なりが少なくなるため、複数のフィラメントを加熱ローラにより均一に加熱することができる。これにより、フィラメント間の温度のばらつきが抑制され、マルチフィラメント糸の品質が向上する。また、糸幅規制手段により、拡幅手段により糸幅が広げられたマルチフィラメント糸の糸幅が広がりすぎないように、糸幅が規制される。これにより、マルチフィラメント糸から一部のフィラメントが離れて加熱ローラに接触することがないため、フィラメントの断糸や毛羽の発生が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る紡糸延伸装置を備えた紡糸巻取機の構成を示す正面図である。以下、
図1において示す各方向を、上下方向、左右方向として説明する。
図1に示すように、紡糸巻取機1は、紡糸延伸装置2と、糸巻取装置3と、を備えている。紡糸巻取機1は、上方にある紡糸装置4から紡出されて連続的に供給される複数のマルチフィラメント糸Yを紡糸延伸装置2で延伸して糸巻取装置3に送り、糸巻取装置3で複数のマルチフィラメント糸Yを巻き取る。マルチフィラメント糸Yは、例えば、延伸のための予備加熱が必要なポリエステル繊維である。1本のマルチフィラメント糸Yは、複数のフィラメントから構成される。
【0030】
紡糸延伸装置2は、複数のゴデットローラ5a、5b、6a、6b(複数のローラ)、保温箱7、等を備え、紡糸装置4の下方に配置されている。
【0031】
複数のゴデットローラ5a〜6bは、紡糸装置4から紡出されたマルチフィラメント糸Yを延伸するためのものである。複数のゴデットローラ5a〜6bは、それぞれ、図示しないフレームによって片持ち支持され、図示しないモータにより回転される駆動ローラである。複数のゴデットローラ5a〜6bは、内部に図示しないヒータを備えた加熱ローラである。複数のゴデットローラ5a〜6bは、第1ゴデットローラ5a、5bと、第2ゴデットローラ6a、6bと、を含んでいる。
【0032】
第1ゴデットローラ5a、5bは、延伸前のマルチフィラメント糸Yが走行する、延伸前のマルチフィラメント糸Yを加熱するための予備加熱用のゴデットローラである。例えば、ポリエステル繊維の場合、第1ゴデットローラ5a、5bは、通常、80〜100℃の温度に設定される。マルチフィラメント糸Yを延伸するにはガラス転移点以上の温度までの加熱が必要となるが、ガラス転移点は、高分子によって異なる。第2ゴデットローラ6a、6bは、延伸されたマルチフィラメント糸Yを熱固定するための熱固定用のゴデットローラである。ポリエステル繊維の場合、第2ゴデットローラ6a、6bは、通常、120〜150℃の温度に設定される。このように、第2ゴデットローラ6a、6bは、第1ゴデットローラ5a、5bよりも設定温度が高い。
【0033】
複数のゴデットローラ5a〜6bは、回転軸が紙面奥行方向に延びており、それぞれの軸芯が互いに略平行である。複数のゴデットローラ5a〜6bは、例えば直径が220〜300mmの範囲内であり、略同じ直径となっている。また、第1ゴデットローラ5a、5bは、第2ゴデットローラ6a、6bの上方に配置されている。第1ゴデットローラ5bは、第1ゴデットローラ5aよりも上方かつ左方に配置されている。第2ゴデットローラ6bは、第2ゴデットローラ6aよりも上方かつ右方に配置されている。複数のゴデットローラ5a〜6bには、第1ゴデットローラ5a、5b、第2ゴデットローラ6a、6bの順に、それぞれ、360度以内の巻き掛け角度でマルチフィラメント糸Yが巻き掛けられている。
【0034】
保温箱7は、複数のゴデットローラ5a〜6bを収容するものである。保温箱7は、断熱材からなる略直方形状の箱である。この保温箱7により、複数のゴデットローラ5a〜6bから発せられる熱が外部に逃げないようになっており、内部が保温されている。保温箱7の内部には、第1ゴデットローラ5a、5bと、第2ゴデットローラ6a、6bと、の間に壁8が設けられている。この壁8により、設定温度の異なる第1ゴデットローラ5a、5bと第2ゴデットローラ6a、6bとが互いの設定温度に影響を及ぼすことを防止している。また、保温箱7の上面には、マルチフィラメント糸Yを保温箱7内に導入するためのスリット9が設けられている。このスリット9を通過して保温箱7内にマルチフィラメント糸Yが進入し、第1ゴデットローラ5aに巻き掛けられている。また、保温箱7の右側面には、マルチフィラメント糸Yを保温箱7から外部に導出するためのスリット10が設けられている。第2ゴデットローラ6bから送られるマルチフィラメント糸Yは、このスリット10を通過して保温箱7から外部に導出する。
【0035】
上述のように、複数のゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向は、
図1の紙面奥行方向であり、紡糸装置4の配列方向(左右方向)と90度ずれている。紡糸装置4から紡出された複数のマルチフィメント糸Yは、90度捻られて、複数のゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向に並んで巻き掛けられている。
【0036】
マルチフィラメント糸Yを延伸する過程について説明する。マルチフィラメント糸Yは、予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bに接触することによりガラス転移点以上の温度に予備加熱される。予備加熱されたマルチフィラメント糸Yは、予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bの回転駆動により、下流の熱固定用の第2ゴデットローラ6a、6bに送られる。ここで、例えば、上流の予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bは、糸送り速度(マルチフィラメント糸Yを下流へ送る速度)が略同じである。また、下流の熱固定用の第2ゴデットローラ6a、6bは、糸送り速度が略同じであって、予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bよりも糸送り速度が速い。従って、予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bと、これらよりも糸送り速度の速い熱固定用の第2ゴデットローラ6a、6bと、の間において、マルチフィラメント糸Yが延伸される。延伸されたマルチフィラメント糸Yは、熱固定用の第2ゴデットローラ6a、6bに接触することにより、熱固定される。
【0037】
糸巻取装置3は、紡糸装置4の下方に配置されており、紡糸延伸装置2により延伸された複数のマルチフィラメント糸Yを、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って、複数のパッケージPを形成する。糸巻取装置3は、巻取軸が水平に紙面奥行方向に延びており、複数のボビンBが巻取軸の軸方向(紙面奥行方向)に沿って直列に装着されるボビンホルダ11、ボビンホルダ11を回転させるモータ(図示省略)などを有している。
【0038】
糸巻取装置3は、ボビンホルダ11をモータの駆動により回転させることで、ボビンホルダ11に装着された複数のボビンBを回転させ、回転する複数のボビンBに、複数のマルチフィラメント糸Yを巻き取り、複数のパッケージPを形成する。そして、ボビンホルダ11に装着された複数のパッケージPは、満巻きになると図示しないプッシャーで前方へ押し出されてボビンホルダ11から取り外される。このように、糸巻取装置3は、ボビンホルダ11に装着された複数のボビンBそれぞれで、1本のマルチフィラメント糸Yを巻き取ることで、並行して複数のパッケージPを形成する。
【0039】
本実施形態の紡糸延伸装置2は、さらに、第1ゴデットローラ5a、5b、第2ゴデットローラ6a、6bに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントY1(
図3参照)からなる1本のマルチフィラメント糸Yの糸幅を広げる拡幅ガイド21(拡幅手段)を備えている。
図2は、拡幅ガイド21、後述する糸幅規制ガイド23、第1ゴデットローラ5a等を示す側面図である。
図1及び
図2に示すように、拡幅ガイド21は、保温箱7の内部であって、第1ゴデットローラ5aの上方に設けられている。拡幅ガイド21は、棒状(円筒状)の回転しないガイドであって、複数のゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向と略平行に取り付けられている。マルチフィラメント糸Yは、拡幅ガイド21に接触しながら拡幅ガイド21を上方から下方に走行する。
【0040】
図3は、拡幅ガイド21を走行するマルチフィラメント糸Y(複数のフィラメントY1)を、上方から示した図である。
図3(a)は、マルチフィラメント糸Yが拡幅ガイド21に接触し始めた直後の状態を示した図である。
図3(b)は、マルチフィラメント糸Yが拡幅ガイド21から離れる直前の状態を示した図である。
図3(a)に示すように、マルチフィラメント糸Yが拡幅ガイド21に接触し始めた直後は、フィラメントY1は重なった状態である。ここで、マルチフィラメント糸Yは、上方から下方に、拡幅ガイド21に接触しながら走行することにより、拡幅ガイド21によってしごかれて、
図3(b)に示すように、マルチフィラメント糸Yの幅方向に、その糸幅Wが広げられる。すなわち、拡幅ガイド21は、マルチフィラメント糸Yに接触してマルチフィラメント糸Yをしごくことにより、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wを広げる。なお、「マルチフィラメント糸Yの幅方向」は、複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向である。また、「マルチフィラメント糸Yの糸幅W」は、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1の、幅方向における両端間の長さである。従って、例えば、
図3(b)に示すように、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1において、フィラメントY1が離れている場合であっても、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1の、幅方向における両端間の長さを、「マルチフィラメント糸Yの糸幅W」という。また、ゴデットローラ5a〜6bのうち、少なくとも、複数のマルチフィラメント糸Yが最初に接触する(巻き掛けられる)ゴデットローラ5aの回転軸方向と、拡幅ガイド21、及び、後述する糸幅規制ガイド23上の複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向と、は略平行である。本実施形態では、ゴデットローラ5a〜6bは、略平行であるため、ゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向と、拡幅ガイド21、及び、後述する糸幅規制ガイド23上の複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向と、は略平行である。
【0041】
また、後述する糸幅規制ガイド23、及び、拡幅ガイド21の糸道上流側には、複数のマルチフィラメント糸Yを、マルチフィラメント糸Y単位に分ける糸分けガイド22(糸分け手段)が設けられている。糸分けガイド22は、複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向に並んで設けられた複数の糸ガイド部材30を有する。この糸分けガイド22(複数の糸ガイド部材30)により、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1が、他の1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1と、離間するように、別々に分けられた後に、拡幅ガイド21上を走行する。
【0042】
以上説明したように、拡幅ガイド21により、ゴデットローラ5a〜6bに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントY1からなる1本のマルチフィラメント糸Yの糸幅Wが広げられ、その形状を保ったままでゴデットローラ5a〜6bに導かれる。従って、ゴデットローラ5a〜6b上でフィラメントY1同士の重なりが少なくなるため、複数のフィラメントY1をゴデットローラ5a〜6bにより均一に加熱することができる。これにより、フィラメントY1間の温度のばらつきが抑制され、マルチフィラメント糸Yの品質が向上する。
【0043】
しかしながら、
図3(b)に示すように、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wが広がりすぎると、少数のフィラントY1毎にわかれていたり、マルチフィラメント糸Yから一部のフィラメントY1が離れた状態で、複数のゴデットローラ5a〜6bを走行する。このようなマルチフィラメント糸Yがゴデットローラ5a〜6bで加熱延伸されると、ゴデットローラ5a〜6bとの接触等により、フィラメントの断糸や毛羽の発生の問題が生じる。
【0044】
そこで、本実施形態では、紡糸延伸装置2は、拡幅ガイド21により広げられたマルチフィラメント糸Yの糸幅Wが広がりすぎないように、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wを規制する糸幅規制ガイド23(糸幅規制手段)を備える。糸幅規制ガイド23は、保温箱7の内部であって、拡幅ガイド21の下方、且つ、第1ゴデットローラ5aの上方(直上)に設けられている。拡幅ガイド21から糸幅規制ガイド23までの距離は、例えば、約10〜30cmである。また、糸幅規制ガイド23は、従動ローラであって、複数のゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向に延在している。従って、糸幅規制ガイド23の回転軸方向は、複数のゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向と平行である。また、糸幅規制ガイド23には、周方向にわたって凹部24が形成されており、この凹部24は、回転軸方向に複数並んでいる。複数のマルチフィラメント糸Yは、複数の凹部24をそれぞれ走行する。すなわち、糸幅規制ガイド23は、複数のマルチフィラメント糸Yがそれぞれ走行する複数の凹部24を有するソロバン玉状のガイド(軸対称形状のローラガイド)である。複数のマルチフィラメント糸Yが、複数の凹部24をそれぞれ走行することにより、糸幅規制ガイド23は回転する。ここで、糸分けガイド22上の複数のマルチフィラメント糸Y間のピッチ(マルチフィラメントYの中心間の間隔)が、糸幅規制ガイド23の複数の凹部24間のピッチ(凹部24の中心間の間隔)と略同一である。このため、糸幅規制ガイド23上でマルチフィラメント糸YのフィラメントY1が糸幅規制ガイド23の凹部24の片側に集まってしまうことがなく、糸幅Wの規制を確実に行うことができる。
【0045】
図4は、糸幅規制ガイド23を走行するマルチフィラメント糸Yを上方から示した図である。糸幅規制ガイド23の凹部24は、それぞれ、糸幅規制ガイド23上の複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向、及び、複数のマルチフィラメント糸Yを延伸するためのゴデットローラ5a〜6bのうち、少なくとも、複数のマルチフィラメント糸Yが最初に接触するゴデットローラ5aの回転軸方向と略平行に延びる底壁25を有する。言い換えれば、底壁25は、糸幅規制ガイド23、及び、ゴデットローラ5aの回転軸方向と略平行な、平坦な部分である。本実施形態では、ゴデットローラ5a〜6bは、略平行であるため、底壁25は、糸幅規制ガイド23上の複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向、及び、ゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向と略平行である。底壁25の幅W1は、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1が重なりなく並んだ状態の糸幅をW2とした場合、(W2/2)≦W1≦W2である。
【0046】
例えば、マルチフィラメント糸Yが、ポリエステル糸75d/36fの場合、延伸前の糸幅W2は、約1.0〜1.5mmである。従って、底壁25の幅W1は、約0.75〜1.0mmとすればよい。また、凹部24のピッチ(凹部24の中心間の距離)Pは、例えば、2.0〜4.0mmである。また、凹部24は、底壁25の両端から、底壁25と略直交する方向に延びる側壁26を有している。側壁26は、底壁25と曲面で連続している。なお、糸分けガイド22のガイド部材30間のピッチ(ガイド部材30の中心間の間隔)は、糸幅規制ガイド23の凹部24間のピッチと略同一となるように設定することが望ましい。
【0047】
糸幅規制ガイド23は、マルチフィラメント糸Yが凹部24を走行することにより、拡幅ガイド21により広げられたマルチフィラメント糸Yの糸幅Wが広がりすぎないように、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wを規制する。すなわち、凹部24の底壁25の幅はW1であるから、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wは、糸幅規制ガイド23により略W1に規制される。例えば、
図3(b)に示すように、マルチフィラメント糸YにおいてフィラメントY1が離れている場合、マルチフィラメント糸Yが凹部24を走行すると、マルチフィラメント糸Yは、底壁25及び側壁26に接触することにより、その糸幅Wが狭められる。言い換えれば、凹部24により、フィラメントY1同士が近づけられ、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wは、略幅W1に狭められる。
【0048】
このように、糸幅規制ガイド23により、拡幅ガイド21により広げられたマルチフィラメント糸Yの糸幅Wが広がりすぎないように、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wが規制される。これにより、マルチフィラメント糸Yから一部のフィラメントY1が離れてゴデットローラ5a〜6bに接触することがないため、フィラメントの断糸や毛羽の発生が抑制される。
【0049】
また、拡幅ガイド21、及び、糸幅規制ガイド23上の複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向と、ゴデットローラ5a〜6bのうち、少なくとも、複数のマルチフィラメント糸Yが最初に接触するゴデットローラ5aの回転軸方向とが、略平行である。従って、拡幅、及び、糸幅規制された複数のマルチフィラメント糸Yが、拡幅し、糸幅を規制された状態を保ってゴデットローラ5a上を走行することができるため、マルチフィラメント糸Yを構成する各フィラメントY1を均一加熱することができ、且つ、フィラメントY1の断糸や毛羽の発生を抑制することができる。
【0050】
また、糸幅規制ガイド23は、複数のマルチフィラメント糸Yがそれぞれ走行する複数の凹部24を有するソロバン玉状のガイド(軸対称形状のローラガイド)である。従って、簡単な構成で、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wを規制することができる。
【0051】
また、複数の凹部24は、それぞれ、ゴデットローラ5a〜6bのうち、少なくとも、複数のマルチフィラメント糸Yが最初に接触するゴデットローラ5aの回転軸方向と略平行に延びる底壁25を有する。従って、複数のフィラメントY1が凹部24の底壁25の一部に重ならずに分散して並びやすくなるため、フィラメントY1同士の局部的な重なりが小さくなる。
【0052】
また、底壁25の幅W1は、(W2/2)≦W1≦W2である。すなわち、底壁25の幅W1は、1本のマルチフィラメント糸Yを構成する複数のフィラメントY1が重なりなく並んだ状態の糸幅W2の半分以上であって、糸幅W2以下である。従って、凹部24を走行したマルチフィラメント糸Yは、フィラメントY1の重なりが多くても2段以下となるため、ゴデットローラ5a〜6bへの均等接触と、フィラメントY1の集束性と、のバランスが取れた状態となる。
【0053】
また、凹部24は、底壁25と曲面で連続する側壁26を有する。このため、凹部24の隅に、フィラメントY1が溜まって塊状となることが防止される。
【0054】
また、糸分けガイド22は、糸幅規制ガイド23よりも糸道上流において、複数のマルチフィラメント糸Yを、マルチフィラメント糸Y単位に分け、予めマルチフィラメント間のピッチが規制される。従って、拡幅ガイド21により糸幅Wが拡幅されたマルチフィラメント糸が、糸幅規制ガイド23上で再び塊状に固まることを防止することができる。
【0055】
また、糸分けガイド22上の複数のマルチフィラメント糸Y間のピッチが、糸幅規制ガイド23の複数の凹部24間のピッチと略同一であるため、マルチフィラメント糸Yが糸幅規制ガイド23の凹部24の片側に集中することがなく、マルチフィラメント糸Yが糸幅規制ガイド23上で塊状に固まることを防止することができる。
【0056】
また、拡幅ガイド21は、マルチフィラメント糸Yに接触してマルチフィラメント糸Yをしごく棒状のガイドである。従って、簡単な構成で、マルチフィラメント糸Yの糸幅Wを広げることができる。
【0057】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る紡糸延伸装置を備えた紡糸巻取機の構成を示す正面図である。第2実施形態に係る紡糸巻取機101は、第1実施形態に係る紡糸巻取機1と、紡糸延伸装置の構成が異なる。
【0058】
第2実施形態に係る紡糸延伸装置102は、第1ゴデットローラ103、第1セパレートローラ104、第2ゴデットローラ105、第2セパレートローラ106、保温箱107、108、糸分けガイド22、拡幅ガイド21、糸幅規制ガイド23等を備える。
【0059】
第1ゴデットローラ103は、第1ゴデットローラ5a、5b同様、延伸前のマルチフィラメント糸Yが走行する、延伸前のマルチフィラメント糸Yを加熱するための予備加熱用のゴデットローラである。第1ゴデットローラ103は、上方に配置された第1セパレートローラ104と一対となっている。第2ゴデットローラ105は、第2ゴデットローラ6a、6b同様、延伸されたマルチフィラメント糸Yを熱固定するための熱固定用のゴデットローラである。第2ゴデットローラ105は、下方に配置された第2セパレートローラ106と一対となっている。第1セパレートローラ104、第2セパレートローラ106は、図示しない駆動モータによって駆動される駆動ローラ、又は、非駆動の従動ローラであり、直径は、例えば、第1ゴデットローラ103、第2ゴデットローラ105の約1/2となっている。
【0060】
複数のマルチフィラメント糸Yは、上流の第1ゴデットローラ103及び第1セパレートローラ104に複数回巻き掛けられた後、下流の第2ゴデットローラ105及び第2セパレートローラ106に複数回巻き掛けられる。
【0061】
保温箱107は、第1ゴデットローラ103及び第1セパレートローラ104を収容するものである。保温箱107の上面の左端には、マルチフィラメント糸Yを保温箱107内に導入するためのスリット109が設けられている。また、保温箱107の上面の右端には、マルチフィラメント糸Yを保温箱107から外部へ導出するためのスリット110が設けられている。保温箱108は、第2ゴデットローラ105及び第2セパレートローラ106を収容するものである。保温箱108の下面の左端には、マルチフィラメント糸Yを保温箱108内に導入するためのスリット111が設けられている。また、保温箱107の下面の右端には、マルチフィラメント糸Yを保温箱108から外部へ導出するためのスリット112が設けられている。
【0062】
拡幅ガイド21は、保温箱107の外部であって、第1ゴデットローラ103の上方に設けられている。糸幅規制ガイド23は、保温箱107の外部であって、第1ゴデットローラ103の上方、かつ、拡幅ガイド21の下方に設けられている。拡幅ガイド21から糸幅規制ガイド23までの距離は、例えば、約10〜30cmである。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0064】
上述の実施形態においては、糸幅規制ガイド23は、凹部24が回転軸方向に複数並んだソロバン玉状の従動ローラ(軸対称形状の回転ローラガイド)である。これに限らず、糸幅規制ガイド23は、回転しない固定のソロバン玉状ガイド(軸対称形状の非回転ローラガイド)であってもよい。例えば、さらに、
図6に示すように、糸幅規制ガイド23は、凹部24が複数のマルチフィラメント糸Yが最初に接触するゴデットローラ5aの回転軸方向に複数並んだ平板状のプレート(すなわち櫛歯状のガイド)であってもよい。マルチフィラメント糸は、凹部24を上方から下方に走行する。
【0065】
上述の実施形態においては、糸分けガイド22は、拡幅ガイド21の上流に、拡幅ガイド21とは別に設けられている。これに限らず、例えば、
図7に示すように、糸分けガイド22は、拡幅ガイド21と一体化して設けられていてもよい。また、糸分けガイド22は、拡幅ガイド21の下流側に設けられてもよい。
【0066】
上述の実施形態においては、拡幅ガイド21と糸幅規制ガイド23とは分離して設けられている。これに限らず、例えば、拡幅ガイド21にマルチフィラメント糸Yの糸幅を規制する凸部を設け、拡幅ガイド21と糸幅規制ガイド23とを一体としてもよい。
【0067】
上述の実施形態においては、複数の凹部24は、それぞれ、複数のマルチフィラメント糸Yの配列方向、及び、ゴデットローラ5a〜6bの回転軸方向と略平行に延びる底壁25を有している。これに限らず、凹部24は、底壁25(回転軸方向と略平行な、平坦な部分)を有していなくてもよい。例えば、凹部の形状は、上述の実施形態に示したものに限られず、底部が曲線状の放物線状、同じく底部が曲線状のU字状等、マルチフィラメント糸Yの広がりが充分に確保できるものであればよい。
【0068】
上述の実施形態においては、拡幅ガイド21は、棒状(円筒状)の非回転のガイドである。これに限らず、拡幅ガイドは、棒状の回転する従動ローラであってもよい。また、拡幅ガイドは、棒状以外の形状であってもよい。また、拡幅ガイド21は、第1実施形態では、保温箱7の内部に設けられている。これに限らず、保温箱7の外部に設けられていてもよい。また、第2実施形態では、糸幅規制ガイド23とともに保温箱108の外部に設けられている。これに限らず、拡幅ガイド21は、保温箱108の内部に設けられていてもよい。第2実施形態の変形例の場合、拡幅ガイド21とともに、糸幅規制ガイド23も、保温箱108の内部に設けられる。また、上述の第1実施形態では、糸幅規制ガイド23は、保温箱7の内部に設けられているが、拡幅ガイド21とともに、外部に設けられていてもよい。
【0069】
上述の実施形態においては、第1ゴデットローラ5a、5b、103、第2ゴデットローラ6a、6b、105が加熱ローラである。これに限らず、加熱ローラは、少なくとも1つあればよい。そして、拡幅ガイド21が、加熱ローラに巻き掛けられる前の、複数のフィラメントからなる1本のマルチフィラメント糸の糸幅を広げ、糸幅規制ガイド23が、拡幅ガイド21により広げられたマルチフィラメント糸の糸幅が広がりすぎないように、マルチフィラメント糸の糸幅を規制するようになっていればよい。
【0070】
上述の実施形態においては、延伸前のマルチフィラメント糸Yが走行する第1ゴデットローラは、加熱ローラである。これに限らず、生産する糸種、例えば常温で延伸可能なナイロンなどでは、ヒータを備えない非加熱ローラとしたり、また、ヒータを備える場合は、ヒータの電源を切断して非加熱状態で使用したりすることもできる。
【0071】
上述の第1実施形態においては、予備加熱用の第1ゴデットローラ5a、5bを2個、熱固定用の第2ゴデットローラ6a、6bを2個、合計4個のゴデットローラ5a〜6bを設けている。これに限らず、ゴデットローラの個数、配置、直径、予備加熱用及び熱固定用のゴデットローラとする個数等は、生産するマルチフィラメント糸の種類等に応じて、適宜変更可能である。
【0072】
上述の第2実施形態においては、第1ゴデットローラ103と第1セパレートローラ104、第2ゴデットローラ105と第2セパレートローラ106をそれぞれセットとして、複数のマルチフィラメント糸Yを巻き掛ける構成である。これに限らず、第1セパレートローラ104を用いずに、第1ゴデットローラ103を2個セットとして、第1ゴデットローラ103間で複数のマルチフィラメント糸Yを巻き掛ける構成とすることも可能である。また、同様に、第2セパレートローラ106を用いず、第2ゴデットローラ105を2個セットとして使用することも可能である。
【0073】
上述の実施形態においては、ゴデットローラ5a〜6b、ゴデットローラ105、106は、回転軸方向が略平行である。これに限らず、ゴデットローラ5a〜6b、ゴデットローラ105、106は、回転軸方向が略平行でなくてもよい。