(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のシート構造体の第1の端部および前記第2のシート構造体の第1の端部の間の前記溶接領域に、前記溶加材を配置するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記第1のシート構造体の第1の端部および前記第2のシート構造体の第1の端部のうちの少なくとも一方の表面隙間の内部の、前記第1のシート構造体の第1の端部および前記第2のシート構造体の第1の端部の間の前記溶接領域に、前記溶加材を配置するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記第1のシート構造体および前記第2のシート構造体のうちの少なくとも一方の外面の前記溶接領域に、前記溶加材を配置するステップをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記第1のシート構造体、前記第2のシート構造体、および前記溶加材によって、オーステナイト系微細構造をもたらす33:33:33の希釈率を有する溶接接合部が形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
前記第1のシート構造体、前記第2のシート構造体、および前記溶加材によって、オーステナイト系微細構造をもたらす33:33:33の希釈率を有する溶接接合部が形成される、請求項9に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例示的な実施形態に係る、車両の斜視図である。
【
図2A】例示的な実施形態に係る、車両のシートアセンブリの斜視図である。
【
図2B】例示的な実施形態に係る、車両のシートフレームの斜視図である。
【
図3】ステンレス鋼の溶接部の微細構造を予測するためのシェフラー状態図である。
【
図4】例示的な実施形態に係る、TWIP/低炭素鋼の組み合わせにおけるレーザ溶接による接合部の模式図である。
【
図5】TWIP鋼および340XF鋼のステンレス鋼の溶接部の微細構造を予測するためのシェフラー状態図である。
【
図6】例示的な実施形態に係る、溶接溶加材を添加することによって形成されたレーザ溶接による接合部の模式図である。
【
図7】溶加材を使用した場合に溶接部の微細構造が受ける影響を示すシェフラー状態図である。
【
図8】レーザ溶接後に合金化してオーステナイト系構造を獲得するレーザ溶接部を形成するための模式図である。
【
図9】レーザ溶接後に合金化してオーステナイト系構造を獲得するレーザ溶接部を形成するための模式図である。
【
図10】レーザ溶接後に合金化してオーステナイト系構造を獲得するレーザ溶接部を形成するための模式図である。
【
図11】例示的な実施形態に係る、NiおよびCrを含有する溶加材の比率であって、溶接部に所定のTWIP濃度をもたらすのに必要な溶加材の比率を示す模式図である。
【
図12】例示的な実施形態に係る、Niを含有する溶加材の比率であって、溶接部に所定のTWIP濃度をもたらすのに必要な溶加材の比率を示す模式図である。
【
図13】例示的な実施形態に係る、TWIP鋼から作製された第1の構造体と、低炭素鋼から作製された第2の構造体と、溶加材とをレーザ溶接する方法の詳細なフローチャートである。
【
図14】別の実施形態に係る、TWIP鋼から作製された第1の構造体と、炭素含有量のより低い鋼から作製された第2の構造体と、H−214合金シムとの間のレーザ溶接部の顕微鏡写真である。
【
図15】
図14のH−214シムストックを使用した場合に、溶接部の微細構造が受ける影響を示しているシェフラー状態図である。
【
図16】他の実施形態に係る、TWIP鋼から作製された第1の構造体と、炭素含有量のより低い鋼から作製された第2の構造体と、Ni−Fe合金シムとの間のレーザ溶接部の顕微鏡写真である。
【
図17】
図16のNi−Fe合金シムストックを使用した場合に、溶接部の微細構造が受ける影響を示しているシェフラー状態図である。
【
図19】他の実施形態に係る、TWIP鋼から作製された第1の構造体と、炭素含有量のより低い鋼から作製された第2の構造体と、STS310溶加材との間のレーザ溶接部の顕微鏡写真である。
【
図20】
図20のSTS310溶加材を使用した場合に、溶接部の微細構造が受ける影響を示しているシェフラー状態図である。
【
図21】
図19のレーザ溶接部の重ね剪断強度を示しているグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
全般的に図面を参照する。特に
図1を参照してみると、例示的な実施形態に係る車両10が示されている。車両10は、車両10の搭乗者のために備え付けられる1つ以上のシートアセンブリ12を含むことができる。図示されている車両10は、4ドアセダンである。しかしながら、シートアセンブリ12が、ミニバン、スポーツ用多目的車、飛行機、船、または任意の他のタイプの車両内で使用することのできることが、理解されるべきである。
【0011】
次に
図2Aを参照してみると、シートアセンブリ12が示されている。シートアセンブリ12は、着席した搭乗者に快適さ、支え、および保護を提供するためのシートバック14を含むことができる。シートベース20は、シートバックに動作可能に接続されている。また、シートベース20は、同様に、着席した搭乗者に快適さ、支え、および保護を提供する。ヘッドレスト18が、シートバック14の上端部に配置されている。シートアセンブリ12は、シートバック14およびシートベース20に動作可能に接続されたリクライニング機構22を含んでおり、これによって、シートベース20に対してシートバック14の位置を回転調節する機能が実現されている。シートアセンブリ12は、トラックアセンブリ24を用いて車両に固定されている。この例のトラックアセンブリ24によって、着席した搭乗者の快適さまたは実用性のために、シートアセンブリ12の調節機能、すなわち、シートアセンブリ12の相対位置の移動機能が提供されている。シートアセンブリ12を、トラックアセンブリ24を介して、手動またはモータ駆動によって選択的に移動させることができる。シートバック14は、例えば、フォームパッ
ド、またはトリムカバ
ーなどを含むことができる。シートバックはさらに、第1および第2のサイドボルス
タを含むことできる。同様に、シートベース20は、例えば、フォームパッド、またはトリムカバ
ーなどを含むことができる。トリムカバ
ーは、革、ビニール、または布などの様々な材料から作製することができる。図示されているシートアセンブリ12は、通常、車両の前列で用いられる1人の搭乗者用のシートである。しかしながら、シートアセンブリ12は、任意の車両内に用いられる任意のタイプのシート機能性を利用することのできる任意のシートアセンブリ(第2の列のベンチ、または第3の列のフラットシートなどのシートアセンブリ)に組み込むことができる。
【0012】
シートアセンブリはさらに、
図2Bに示されているように、シートフレーム13を含む。シートフレーム13は、シートバックフレーム28およびシートベースフレーム30を含む。シートフレーム13は、シートバックフレーム28およびシートベースフレーム30を含む。シートバックフレーム28は、上部の横材32、これと向かい合う下部の横材34、第1のシートバック縦材36、およびこれと向かい合う第2のシートバック縦材38を含む。上部の横材32は第1および第2の端部40、42を含み、下部の横材34は第1および第2の端部44、46を含む。第1のシートバック縦材36は、上部の端部48および反対側の下部の端部50を含み、第2のシートバック縦材38は、上部の端部52および反対側の下部の端部54を含む。第1および第2のシートバック縦材の上部の端部48、52は、上部の横材32によって連結されており、第1および第2のシートバック縦材の下部の端部50、54は、下部の横材34によって連結されており、これにより、実質的に長方形のフレーム構造が形成されている。シートベースフレーム30は、第1のシートベース縦材56、これと向かい合う第2のシートベース縦材58、前方横材60、およびこれと向かい合う後方横材62を含む。第1のシートベース縦材56は、前方の端部64および後方の端部66を含み、第2のシートベース縦材58は、前方の端部68および後方の端部70を含む。前方の横材60は、第1の端部72および第2の端部74を含み、後方の横材62は、第1の端部76および第2の端部78を含む。第1および第2のシートベース縦材の前方の端部64、68は、前方の横材60によって連結されており、第1および第2のシートベース縦材の後方の端部66、70は、後方の管状横材30によって連結されており、これにより、実質的に長方形のフレーム構造が形成されている。ここで留意すべきは、一体のバックフレーム、または一体のシートベースフレームなどの他のシートフレーム構造を、本開示とともに用いることができることである。シートフレーム13は、金属、アルミニウム、または複合材料などの様々な材料から作製することができる。図示されているのが、複数部品からなるシートバックフレームおよびシートベースフレームであるとはいえ、一体のシートバックフレーム、または管状フレームなど、任意のタイプのシートバックフレームおよびシートベースフレームを、本明細書に記載されている革新技術とともに用いることができることも考えられる。さらに、シートアセンブリを構成しているフレームおよび他の構成部品(リクライニング機構または補強ブラケットなどの構成部品)は、異なる特性(鋼種または成分など)を有する様々な異なる材料から形成することができる。これらの異なる材料は、以下に記載される方法などの様々な技術を用いて連結される。
【0013】
TWIP鋼と低炭素鋼とのレーザ溶接を容易にし、かつ異なる鋼から形成されたシート構造体が強度要件および性能要件を確実に満たすようにする方法が、本明細書に開示されている。上記の方法は、全般的に、
図13に開示されている。
【0014】
上記の方法は、ステップ210で、TWIP鋼などの第1の鋼種・成分から作製される第1の構造体152を用意することから開始される。第1の構造体152は、第1のシートバック縦材36などの、
図2Bに示したシートフレーム13の構成部品とすることができる。
【0015】
上記の方法は、低〜中炭素鋼(340XF HSLA)などの第2の鋼・成分から作製される第2の構造体154を用意することによって、ステップ220に進む。第2の構造体154は、上部の横材32などの、
図2Bに示したシートフレーム13の別の構成部品とすることができる。
【0016】
上記の方法は、第1の構造体152の少なくとも一部が、第2の構造体154の少なくとも一部と重なるように、第1の構造体152を第2の構造体154の隣に配置することにより、溶接領域153を形成することによって、ステップ230に進む。
【0017】
上記の方法は、第1の構造体152と、第2の構造体154と、溶加材158との溶接接合部150を形成する成分を含有する溶加材158を選択し、これにより、この溶接接合部150が、所定の微細構造を有するようにすることによって、ステップ240に進む。
【0018】
上記の方法は、溶加材158を溶接領域153の隣に配置することによって、ステップ250に進む。溶加材158は、STS310溶加材などの様々な所定の材料であってもよい。溶加材158は、様々な所定の方法によって溶接領域153に配置することができる。例えば、溶加材158は、第1の構造体152と第2の構造体154との間に配置されてもよいし、第1の構造体152および/もしくは第2の構造体154の表面かつ第1の構造体152と第2の構造体154との間に位置する表面溝169内に配置されてもよいし、または、第1の構造体152および/もしくは第2の構造体154の外面などに配置されてもよい。
【0019】
上記の方法は、レーザビーム(L)を溶接領域153に向けることによって、第1の構造体152と、第2の構造体154と、溶加材158との溶接接合部150を形成し、これにより、この溶接接合部150が、オーステナイト系微細構造などの所定の微細構造を有するようにすることによって、ステップ260に進む。レーザビーム(L)は、固体レーザ、気体レーザ、またはファイバレーザなどの様々なレーザ溶接機を用いて生成することができる。レーザ溶接の技術および方法について、以下にさらに詳しく説明する。
【0020】
図3を参照してみると、ステンレス鋼の溶接部の微細構造を予測するためのシェフラー状態図が示されている。鋼の化学成分は、この図にプロットされるニッケル(Ni)当量およびクロム(Cr)当量を求めるために使用される。この図にニッケル当量−クロム当量をプロットすれば、予期される微細構造を予測することができる。図
3のシェフラー状態図を利用して、ステンレス鋼と低炭素鋼との溶接部の微細構造を、この溶接部に様々な溶加材を用いることによって、同定することができる。溶加材中のニッケル当量−クロム当量を調整して、オーステナイト系であり、したがって、強度特性および延性特性を有する微細構造を獲得することができる。TWIP鋼は、ステンレス鋼に分類されないものの、オーステナイト系ステンレス鋼と類似の特性を有している。したがって、シェフラー状態図はさらに、母材の微細構造だけでなく、これと他の鋼合金との任意の溶接部の微細構造を予測するためにも利用される。TWIP鋼と低炭素鋼とを溶接するために、シェフラー状態図を利用して、接合される材料の最初の化学成分およびその想定される性質にもとづいて、形成される微細構造を推定する。成分がマルテンサイト領域内に入る場合、溶接部は特定用途用としては脆弱となる。成分がオーステナイト領域に入る場合、溶接部は、車両のシートフレーム構造などの特定用途に適した強度および延性を有するようになる。成分が2重または3重の相領域に入る場合、脆性は、形成されるマルテンサイトの相対量に応じて決まる。金属溶接棒と不活性ガスによる(MIG)およびタングステンと不活性ガスによる(TIG)、低炭素鋼とステンレス鋼との溶接に適した溶加材が、市販されている。オーステナイト系微細構造を実現する、溶加材の成分が、選択される。
【0021】
次に、
図4を参照してみると、第1の構造体または被加工物
132と、第2の構造体または被加工物
134とのレーザ溶接部または接合部
130の模式図。この例では、第1の構造体は1片のTWIP鋼であり、第2の構造体は1片の(340XF高強度低合金(HSLA)鋼などの)低〜中炭素鋼である。レーザビーム
136を溶接領域
133に向けることによって、TWIP鋼と340XF HSLA鋼との両方を溶融させる。レーザエネルギーが取り去られると、混合物は凝固する。この溶接部
130の微細構造は、シェフラー状態図上に溶接混合物をプロットすることによって予測することができる。結果として形成される溶接部
130の微細構造は、脆弱なマルテンサイト構造となる。
【0022】
次に、
図5を参照してみると、TWIP鋼および340XF HSLA鋼の両方のニッケル当量−クロム当量がプロットされていて、かつTWIP鋼および340XF HSLA鋼の溶接部の微細構造を予測するためのシェフラー状態図が示されている。TWIP鋼は、そのニッケル当量−クロム当量によって、この図のオーステナイト系微細構造領域内に位置付けられる。HSLA合金鋼、またはSAE J2340 340XF HSLA鋼などの低炭素鋼の成分は、この図の、2相系であるフェライト−マルテンサイト系領域内に入る(HSLAの場合、それは99%超フェライト系である)。2つの合金をレーザ溶接などによって溶接する場合、溶接部は、約50%のTWIPと約50%の340XFとの新たな混合物となる。この50:50混合物のニッケル当量−クロム当量は、シェフラー状態図上にプロットした場合、この図のマルテンサイト領域内に入る。レーザ溶接される場合(50:50の混合が想定される場合)、TWIPと低炭素鋼との組み合わせは、100%マルテンサイト系微細構造を形成する。この微細構造を有する溶接部は、シート構造体(例えば、車両のシート、シートフレーム、シートベース、シートバック)などの特定用途、または構造が載荷部材として設計される他の用途には、脆弱かつ低性能であり、そのため、このような構造体の用途には適さない。
【0023】
次に、
図6を参照してみると、溶接加材
148を添加することによって形成されたレーザ溶接部または接合部
140の模式図が示されている。レーザ溶接部
140は、第1の構造体または被加工物
142と第2の構造体または被加工物
144との間にある。この例では、第1の構造体
142は1片のTWIP鋼であり、第2の構造体
144は1片の340XF HSLA鋼である。このような条件の下、溶接加材
148を溶接領域
143に添加しながら、レーザエネルギーを溶接領域43に適用する。レーザビーム
146のエネルギーによって、TWIP鋼、340XF HSLA鋼、および溶接加材
148は溶融する。レーザエネルギーが取り去られると、混合物は凝固して微細構造を形成する。例示的な一実施形態では、ニッケルおよび/またはクロム含有量のより高い溶接部
140が形成され、これにより、微細構造が変化して、シート構造体(例えば、車両のシート、シートフレーム、シートベース、シートバック)などの特定用途、または構造が載荷部材として設計される他の用途により有利な微細構造が実現される。この材料を溶接部に33:33:33(TWIP:HSLA:STS310)の比率で添加すると、溶接部の成分は、完全にオーステナイト系となり、溶接部
140の強度は、ベースTWIP鋼およびHSLA鋼に匹敵するようになる。この工程の困難な点は、実際の溶接部の化学的性質(成分)が、添加される溶加材
148の量に応じて影響を受ける点である。適切に希釈されないと、オーステナイトを求めていても、溶接部
140は、マルテンサイトを形成することによって脆くなる場合がある。
【0024】
次に、
図7を参照してみると、溶加材
148を用いた場合に、溶接部の微細構造が受ける影響を示すシェフラー状態図。ここでは、溶加材
148は、33:33:33の希釈率で溶接部に添加された第3の合金である。ここでは、第3の合金をSTS310溶加材と同一視する。STS310溶加材の有するニッケル当量−クロム当量によって、この合金は、このシェフラー状態図のオーステナイト系領域内に位置付けられる。したがって、溶接部
140は、TWIP鋼、340XF HSLA鋼、およびSTS310の希釈物であり、したがって、オーステナイト系微細構造となる。オーステナイト系微細構造は、強固かつ延性であり、シート構造体(例えば、溶接されたシートフレーム、シートバック、シートベース)などの載荷部材として理想的である。
【0025】
レーザビーム
146を用いて、被加工物
142、
144の両方および溶加材
148に同時に熱(エネルギー)を与える一方、レーザビーム
146に対して溶加材
148を完全に同期させて適切な速度で送り込みつつ交差させる。多くの場合に上記の構造がマルテンサイト系にならないようにし、溶接部が許容できないほど脆くならないようにするために、鋼材料の33:33:33の比率が、溶接領域またはプール
143に実現される。必要に応じて、溶接速度を遅らせて、接合部
140への溶加材
148の移動を調整する。溶加材
148は、第1の構造体(TWIP鋼)
142と第2の構造体(低炭素鋼)
144との間に、混合物として添加される。十分なニッケルおよび/またはクロムを添加して、溶接部
140が、溶接の完了後に、上記の図のオーステナイト領域内に確実に入るようにすることが重要である。これは、適切な量および純度の使用されるニッケルおよび/またはクロムを使用することによって制御することができる。シェフラー状態図によれば、領域が単一相系の場合、微細構造の100%がこの相となる。領域が2相系の場合、各相の相対的比率は、直接この図からは分からない。しかしながら、一般に、微細構造が、図上の特定の境界領域(例えば、オーステナイト系、オーステナイト+マルテンサイト系、オーステナイト+フェライト系など)の近くにプロットされる場合、この微細構造における、その境界に対応する相の割合が、より高くなる。
【0026】
次に、
図8〜
図10を参照してみると、レーザ溶接後に合金化してオーステナイト系構造を獲得するレーザ溶接部を形成するために用いられる技術の模式図が示されている。
図6に示し、かつ上記した技術を用いて、容易に溶接加材を加えることは難しい。例えば、リクライニングチェアなどのシート構造体と、シートバック縦材などの他のシート構造体とを溶接する場合、溶接部の周囲の領域には、非常にわずかな隙間、つまり、溶加材をレーザ溶接部の位置に添加するには不十分な空間しか与えられない。溶接部が、凝固してオーステナイト系微細構造を形成する場合、適正なニッケル当量およびクロム当量を含有していなければならない。マルテンサイト系微細構造は、脆弱であり、構造要件を満たさない。しかしながら、
図8〜
図10に示されている技術は、溶接工程を行う前に溶接対象の位置(例えば、接合部の中/上/間/隣などの位置)に溶加材を配置することによって、溶加材が、溶接部の形成時には存在していることを可能とする。
【0027】
図8を参照してみると、上記の方法はさらに、溶加材158、第1の構造体152、および第2の構造体154を配置するステップを含む。この例では、第1の構造体152はTWIP鋼であり、第2の構造体154はHSLAなどの低〜中炭素鋼であり、溶加材152はSTS310などの高Ni、高Cr溶加材合金層である。溶加材158は、様々な所定の方法、例えば、テープ、化学蒸着、レーザ金属堆積(laser metal deposited)、スプレー形成、印刷、または任意の他の適切なコーティング方法によって、溶接領域153に添加されてもよい。溶加材158は、第1の構造体152(TWIP)の表面もしくは第2の構造体154の表面(HSLA)、またはそれらの両方に配置することができる。配置層の幅および厚さは、レーザビーム(L)が、TWIP/HSLAとともにコーティングを完全に溶かし、完全にオーステナイト系であり、かつ母材に適合する溶接接合部150を形成するように寸法付けられ、配置される。
【0028】
次に、
図9を参照すると、上記の方法はさらに、第1の構造体162と第2の構造体164との間の間隙169内に溶加材168を配置するステップを含む。間隙169は、第1の構造体162、第2の構造体164、またはこれらの両方に位置する表面溝、窪み、リング、または孔などであってもよい。この例では、第1の構造体162はTWIP鋼であり、第2の構造体164はHSLAなどの低〜中炭素鋼であり、溶加材168は、第2の構造体164の表面溝内に配置されたSTS310などの高Ni、高Cr溶加材合金層である。この実施形態の有利な点は、上記の実施形態(
図8)に示したようなギャップのある場合とは対照的に、第1の構造体162(TWIP)構成部品の表面と第2の構造体164(HSLA)構成部品の表面とが、相互に直接隣接する(つまり、同一平面となる)ため、これら構成部品の間の適合度が、溶接後に、大幅に改善される点にある。ここで留意すべきは、これらの概略が、上記の工程の例証であって、Ni/Cr層を添加することのできる方法のすべてを示唆しているわけではないことである。さらに、コスト効率が最も良いのは、Ni/Cr層が溶接部160の範囲を超過せず、溶接中にそのすべてが使い切られる場合である。しかしながら、模式的に示すために、それが、最終的なレーザ溶接部の範囲からはみ出しているように示されている。
【0029】
次に、
図10を参照すると、上記の方法はさらに、第1の構造体172および/または第2の構造体174の上面に溶加材178を配置するステップを含む。この例の場合、第1の構造体172はTWIP鋼であり、第2の構造体174はHSLAなどの低〜中炭素鋼であり、溶加材178はSTS310などの高Ni、高Cr溶加材合金層である。第1の構造体172は、第2の構造体174の隣に直接配置され、溶加材178は、特定の溶接領域で溶接される、第1の構造体172の上面に配置され、これにより、溶加材は、溶接される両構成部品の上にあることとなる。
【0030】
各技術(
図8〜
図10)では、レーザ溶接に特有の、溶接速度が速いという利点が活かされている。また、これらの各技術により、希釈率が、別に溶加材を添加することによって不適切となる可能性が排除される。例えば、適切な希釈率または混合率は、シェフラー状態図のオーステナイト系領域内の場合であり、不適切な希釈率または混合率は、マルテンサイト系領域内の場合である。レーザ溶接による融合部のサイズ(例えば、レーザ入力パワー、溶接速度などにもとづく溶接部の幅および深さ)は、良く理解されており、高い確率で再現可能である。この再現可能性のおかげで、TWIPとHSLA鋼との間にNi/Cr合金層を設けて、このNi/Cr合金の層によって、均一な希釈(レーザ溶接されたときに、オーステナイト系範囲に入る混合)を実現し、高い溶接速度でNi/Cr合金層を得ることができることが可能となる。純Niを、オーステナイト系溶接部を得るのに十分な層内に配置してもよい。さらに、純ニッケルおよび純クロムは、合金化して溶接部となり、オーステナイト微細構造を獲得することができる。純ニッケルまたは大部分がニッケルの合金が、好ましいものの、60%以下のNiおよび40%以下のCrを含有する合金などの他の組成物も使用可能である。AWS E310などの商用合金は、他の合金元素を含有しているが、これらも使用可能である。さらに、純Crを添加して、オーステナイト系溶接部の微細構造を獲得してもよい。Ni/Crの比率は、オーステナイト系溶接部の微細構造が獲得される限り、純粋極端値(pure extreme)の間とすることができる。最善の比率は、最低のコストによってオーステナイト系微細構造を獲得する比率である。これは、どれくらいの溶加材が必要とされるのかについて、その成分(例えば、純Niまたは合金)にもとづいて計算することから推定することができる。一般に、ニッケル含有量の比較的高い合金が、好ましいとされているので、低炭素鋼とTWIPとを混合する場合は、TWIPの濃度をより高くすべきである。TWIPを介して溶接して、低炭素鋼への溶け込みを抑えることによって、必要最低限量の溶加材によって、オーステナイト系溶接部が形成される。さらに、Ni/Crの合金およびFe/Ni/Crの合金を最適化して、物理的冶金学的特性を活かせるようにし、溶接速度および溶接状態を改善することができる。
【0031】
さらに他の実施形態によれば、溶加材を添加しない他の接合法として、スポット溶接を用いることができる。この考えをTWIPまたはHSLAに適用することによって、他の方法では形成することの困難だった満足のいく溶接部を形成することができる。溶接される2つの構成部品の間の溶加材は、溶接される2つの構成部品と混合されることによって、スポット溶接強度を改善する
次に、
図11を参照すると、ニッケルおよびクロム(50%のNiおよび50%のCr)を含有する溶加材の比率であって、溶接部中に所定のTWIP濃度をもたらすのに必要な溶加材の比率を示す模式図が示されている。この図は、所望の溶接接合オーステナイト系微細構造を形成するために、適切な溶加材を選択する方法ステップ240で使用することができる。溶接部中の溶加材の比率は、まず溶加材の厚さに応じて、次に溶接条件(例えば、出力レベル、速度などの条件)に応じて決められる。溶接部中の低炭素鋼対TWIPの比率は、溶接条件(例えば、出力レベル、速度などの条件)に応じて決められる。一般に、溶接部中のTWIPの濃度をより高くするには、溶加材の比率をより低くすることが求められる(例えば、0%のTWIP(100%の340XF HSLA)から100%のTWIP(0%の340XF HSLA)にする場合など)。溶接部中の溶加材が26%以上の場合、溶接部中のTWIPの比率がいかなるものであろうと、溶接部はオーステナイト系となる。
【0032】
図12を参照すると、Ni(100%のNi)を含有する溶加材の比率であって、溶接部中に所定のTWIP濃度をもたらすのに必要な溶加材の比率を示す模式図が示されている。この図は、所望の溶接接合部オーステナイト系微細構造を形成するために、適切な溶加材を選択する方法ステップ240で使用することができる。溶接部中の溶加材の比率は、まず溶加材の厚さに応じて、次に溶接条件(例えば、出力レベル、速度などの条件)に応じて決められる。溶接部中の低炭素鋼対TWIPの比率は、溶接条件(例えば、出力レベル、速度などの条件)に応じて決められる。一般に、
図8に示したように、溶接部中のTWIPの濃度をより高くするには、溶加材の比率をより低くすることが求められる(例えば、0%のTWIP(100%の340XF HSLA)から100%のTWIP(0%の340XF HSLA)にする場合など)。溶接部中の溶加材の量が24%以上である場合、溶接部中のTWIPの比率がいかなるものであろうと、溶接部はオーステナイト系となる。
【0033】
次に、
図14〜
図15を参照すると、第1の構造体302と、第2の構造体303と、シム304との、他の実施形態に係るレーザ溶接部300が示されている。この例では、第1の構造体302は1片のTWIP鋼であり、第2の構造体304は1片の340XF鋼であり、シム303はH−214合金シムストックである。H−214シムストック303は、
図15に示されているように、オーステナイトおよびマルテンサイトの組み合わせ微細構造を有する溶接部300を形成すると予測される。
【0034】
次に、
図16〜
図17を参照すると、第1の構造体402と、第2の構造体404と、シム403との、さらに他の実施形態に係るレーザ溶接部400が示されている。この例では、第1の構造体402は、1片のTWIP鋼を用いて形成されており、第2の構造体404は、1片の340XF鋼を用いて形成されており、シム403は、Ni−Fe合金シムストックを用いて形成されている。Ni−Feシムストック403は、
図15に示されているように、オーステナイトおよびマルテンサイトの組み合わせ微細構造を有する溶接部400を形成すると予測される。
【0035】
次に、
図18を参照すると、
図14、
図16のレーザ溶接部の重ね剪断強度、および溶加材(シムストック)を用いずに形成された、TWIPと340XFとのレーザ溶接部の重ね剪断強度を示すグラフが示されている。重ね剪断強度および延性は、溶加材(シムストック)を用いずにTWIPと340XFとをレーザ溶接した場合と比べて、H−214シムストック303およびNi−Feシムストック403を使用した両方の場合に、改善された。
【0036】
次に、
図19〜
図21を参照すると、第1の構造体502と、第2の構造体504と、溶加材503とのハイブリッドレーザ溶接部が、
図6および
図7に以前示した方法を用いて、示されている。この例では、第1の構造体は、1片のTWIP鋼を用いて形成されており、第2の構造体は、1片の340XF鋼を用いて形成されており、溶加材503は、STS310溶加材を用いて形成されている。STS310溶加材の添加によって、
図20に示されているように、オーステナイト系微細構造を有する溶接部500が形成されると予測される。重ね剪断強度および延性が、溶加材(シムストック)を用いずに形成された、TWIPと340XFとのレーザ溶接部と比べて、STS310溶加材を用いるハイブリッド溶接法によって改善された。
【0037】
上記の教示を考慮しながら、本開示に対して多くの修正および変形を施すことができる。したがって、具体的に記載した本開示以外にも、添付の特許請求の範囲内で、本開示を実施することができる。