特許第5965864号(P5965864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5965864セラミック物品の間の高耐久性接合部並びにその製造及び使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965864
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】セラミック物品の間の高耐久性接合部並びにその製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   C04B37/00 A
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-79992(P2013-79992)
(22)【出願日】2013年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-216566(P2013-216566A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】61/620,895
(32)【優先日】2012年4月5日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513084791
【氏名又は名称】ゲネラル アトミクス
【氏名又は名称原語表記】General Atomics
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ヘシャム エズザト クハリファ
(72)【発明者】
【氏名】クフリストイアン ペテル デクク
(72)【発明者】
【氏名】クフリストイナ アルルイスサ バクク
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0226868(US,A1)
【文献】 特開2007−246319(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0154725(US,A1)
【文献】 特開2010−018448(JP,A)
【文献】 特開2008−162879(JP,A)
【文献】 特開2007−191329(JP,A)
【文献】 再公表特許第2002/060834(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00− 37/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素(SiC)のセラミック多形体をそれぞれ含む第一物品と第二物品との接合部であって、
該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含み、該第一物品と第二物品との間に延びる結晶性マトリックス;
該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含み、該結晶性マトリックス全体に分布している複数の含有物;並びに
該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含み、該第一及び第二物品の各外表面に配置され、該結晶性マトリックスに部分的又は完全に浸透している、ガス不浸透性の密封層;を含む、前記接合部。
【請求項2】
前記結晶性マトリックス、前記複数の含有物、及び前記ガス不浸透性の密封層がそれぞれ、前記第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体から構成される、請求項1記載の接合部。
【請求項3】
前記第一及び第二物品がそれぞれ互いに同じSiCのセラミック多形体から構成される、請求項1又は請求項2記載の接合部。
【請求項4】
前記結晶性マトリックスがポリマー前駆体を用いて形成され、前記ガス不浸透性の密封層が化学蒸気浸透(CVI)を用いて形成される、請求項1〜3のいずれか一項記載の接合部。
【請求項5】
前記接合部が、前記第一物品及び第二物品のそれぞれと同じ組成を有する、請求項1〜4のいずれか一項記載の接合部。
【請求項6】
前記接合部が、前記第一物品及び第二物品のそれぞれと同じ機械的強度を有する、請求項1〜5のいずれか一項記載の接合部。
【請求項7】
前記接合部が、前記第一物品及び第二物品のそれぞれと同じ熱膨張係数を有する、請求項1〜6のいずれか一項記載の接合部。
【請求項8】
前記SiCのセラミック多形体がβ-SiCである、請求項1〜7のいずれか一項記載の接合部。
【請求項9】
前記結晶性マトリックス、前記複数の含有物、及び前記ガス不浸透性の密封層がそれぞれ99.0重量%を超えるβ-SiCを含む、請求項1記載の接合部。
【請求項10】
前記結晶性マトリックス、前記複数の含有物、及び前記ガス不浸透性の密封層がそれぞれ99.7重量%を超えるβ-SiCを含む、請求項1記載の接合部。
【請求項11】
前記接合部が少なくとも1 MPaの特徴的な見かけ剪断強度を有する、請求項1〜10のいずれか一項記載の接合部。
【請求項12】
炭化ケイ素(SiC)のセラミック多形体をそれぞれ含む第一物品と第二物品との接合部を製造する方法であって、
(a)プレセラミックポリマー、及び該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含む複数の含有物を含むスラリーを製造すること;
(b)該スラリーを該第一物品と第二物品との間に適用すること;
(c)該スラリーを硬化させて、グリーン体を形成すること;
(d)該グリーン体を熱分解して、該複数の含有物を含む固体セラミックを形成すること;
(e)該固体セラミックを結晶化して、該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含む結晶性マトリックスを形成し、該複数の含有物を該結晶性マトリックス内に配置すること;並びに
(f)該結晶性マトリックスに、該第一及び第二物品の各外表面に配置された、該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体を含むガス不浸透性の密封層を形成し、かつ部分的又は完全に該結晶性マトリックスに浸透させることにより、該接合部を強化すること;を含む、前記方法。
【請求項13】
前記結晶性マトリックス、前記複数の含有物、及び前記ガス不浸透性の密封層がそれぞれ、該第一物品及び第二物品と同じSiCのセラミック多形体から構成される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記含有物が、任意に界面コーティングを含むSiCのセラミック多形体のホイスカーを含む、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
記ガス不浸透性の密封層が、化学蒸発浸透を利用して形成される、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記スラリーが第一温度で硬化されて前記グリーン体を形成し、該グリーン体が該第一温度より高い第二温度で熱分解されて固体セラミックを形成し、該固体セラミックが、該第二温度より高い第三温度で結晶化する、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
前記プレセラミックポリマーがポリカルボシランを含む、請求項12〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
前記化学蒸気浸透を適用することが、キャリアガス中のケイ素含有及び炭素含有反応ガスを、前記第一及び第二物品に、並びに前記結晶性マトリックスに適用することを含む、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記SiCのセラミック多形体がβ-SiCである、請求項12〜18のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2012年4月5日に出願された「セラミック物品の間の高耐久性接合部並びにその製造及び使用方法(High Durability Joints Between Ceramic Articles, and Methods of Making and Using Same)」という名称の米国特許仮出願第61/620,895号の利益を主張し、その内容全体を引用により本明細書に組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本願は全般的にセラミック物品間の接合部に関し、特に炭化ケイ素物品間の接合部、並びにその製造及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
製造に利用される処理の種類から生じる異なる化学的、物理的、及び構造的特性を有する、多くの種類の炭化ケイ素(SiC)がある。SiC物品を製造する公知の技術には、化学蒸着(CVD)、反応結合、焼結、ホットプレス、発泡がある。より最近開発されたSiC物品製造の他の方法は熱分解であり、ポリ(メチルシラン)などのケイ素含有ポリマーが所望の形状に付形され、次いで不活性雰囲気中で熱分解されるものである。各処理技術は、「多形体」、「ポリタイプ」、又は「相」とも称される1種以上の特定の結晶構造、例えば立方体(閃亜鉛鉱)又は六方体結晶構造などを生じることがあり、それらは互いに異なる特性を有する。
【0004】
ベータ-SiC又はβ-SiCとして知られる炭化ケイ素の立方晶多形体の物品は、例えば、CVD及び熱分解を利用して製造することができる。β-SiCは、他のSiC多形体に比べて、比較的高い熱伝導性、比較的低い熱膨張係数を有し、薬品及び酸化に対して比較的安定であり、比較的熱安定性があり、硬く、耐ひっかき性があり、電気抵抗性であり、放射線損傷に対して耐性があるので、特定の用途に有用である。
【0005】
核分裂反応炉の安全性に関する最近の懸念は、核反応炉中の構造部品用のβ-SiC系材料に対する興味を導いた。β-SiCは、高温でその強度を保ち、照射が誘発する損傷に対して高度に耐性があるため、魅力的な核材料である。例えば、SiC繊維強化-SiCマトリックス(SiCf/SiCm)コンポジットは、モノリシックSiCの望ましい性質を保持し、さらに繊維マトリックス相互作用に関連する疑似延性による予測可能な破損(graceful failure)を示すので、魅力的な構造材料である。SiC-系材料の目標用途は、ジルカロイの替わりとなる燃料被覆管である。うまく使用できる燃料被覆管は、燃料サイクルの間に形成される燃料及び分裂生成物を保持しなくてはならない。したがって、先進的な反応炉設計においてSiC-系材料の実装がうまくいくかどうかは、燃料の運転サイクルの間SiC-系被覆管内に核燃料を適切に保持する、機械的に頑強な接合部の開発次第である。
【0006】
特に、核グレードの接合部は、SiC-系物品自体と同じ厳しい要件も満たさなければならない。さらに、それは、物品への熱及び照射により誘起される寸法変化の調和、並びに燃料、分裂生成物、及び冷却剤との化学的適合性を有さなければならない。純度及び構造の両方が、核環境中の材料の性能に重要な役割を果たす。高酸素レベル、及び粒の微細な結晶構造は、特に、照射により誘起されるスエリングによる照射性能の低下につながる。
【0007】
種々の方法が、炭化ケイ素の物品を接合するために開発されている。例えば、Pickeringの米国特許出願第2008/0226868号は、焼結されたセラミック及びCVDを利用して炭化ケイ素を接合することを記載している。具体的には、セラミックは、例えば、75重量%の炭化ケイ素パウダー、結合剤としての7重量%のメチルセルロース、及び18重量%の水を含むペースト、ゾル、又はスラリーの形態で接合部に適用され、次いで、1500〜2100℃で焼結されて、接合部を凝固させる。この初期の接合材料はα-SiCであり、βより同等に低い照射性能を持つポリタイプである。次いで、CVDβ-SiCのコーティングが、任意に接合部に堆積される。しかし、そのようなスラリーは、接合部に残るには許容できないほど多量の水(特に水中の酸素)をもたらし、そのため、接合部を、照射により誘起されるスエリングなどのさらなる変化を受けやすいようにし、環境中の核燃料又は他の物質を汚染するリスクを引き起こす。
【0008】
Ferrarisらの文献「融合用途用のSiC/SiCのガラスセラミックコーティング及び接合(Glass ceramic coating and joining of SiC/SiC for fusion applications)」, Journal of Nuclear Materials, 258-263 (1998),1546-1550ページは、SiCの化学蒸気浸透(CVI)又はポリマー含浸熱分解(PIP)のいずれかの適用と組み合わせた、コンポジット物品を接合するためのハイブリッドカルシア-アルミナ(CA)ガラス-セラミックの使用を記載している。しかし、CAガラス-セラミックはSiCとは異なる組成を有し、そのため、典型的な核燃料交換サイクルの間に接合部の早期の劣化を起こし得る、SiCとは異なる特性を有する。ガラスセラミックなどの異種の接合材料の使用は、著しく長い燃料交換寿命のために設計されている転化・燃焼高温ガス冷却高速炉(convert and burn high temperature, gas cooled fast reactors)の場合に特にやっかいである。
【0009】
Lewinsohnらの文献、「融合エネルギー用途におけるSiCコンポジットを接合するためのSiC系材料(SiC-based materials for joining SiC composites in fusion energy applications)」, Journal of Nuclear Materials, 307-311 (2002) 1232-1236ページにおいて、接合部に、ヒドリドポリカルボシラン(HPCS、プレセラミックポリマー)と、架橋を促進するための約3体積%のアリル基と、42重量%のSiCパウダー(F800パウダー、UK Abrasives社製、ロット番号SZ0802A7)との混合物を適用し、次いで該パウダーを熱分解することによる、炭化ケイ素コンポジットの接合を記載している。Lewinsohnは、次いで、接合部がポリマーにより再含浸され、再び熱分解されたと記載している。しかし、強度を制限し接合部の環境劣化を起こすだろう亀裂を接合部に観察した。
【0010】
Harrisonらの文献、「SiCを接合する気相選択領域レーザー堆積(Gas-phase selected area laser deposition (SALD) joining of SiC)」, Materials and Design, 20 (1999) 147-152ページは、SALDを利用してセラミック充填材料によりセラミック物品を接合することを記載しており、SALDでは、高出力レーザービームが使用されて真空チャンバー内部の気体の熱分解反応を誘起し、レーザースポットにより加熱された領域内に堆積された所望の固体生成物をもたらす。Harrisonは、試験された接合構造の気密シールが、モノリシック物品の大きさとおよそ同じ規模であり、堆積された材料が、高純度炭化ケイ素の比較的硬い領域並びに非常に柔らかい堆積された材料の領域を有したと開示している。そのような弱いシール及び柔らかい材料は、核反応炉の過酷な環境で使用するには明らかに不適である。
【0011】
したがって、従来知られている方法は、接合部に多大な熱ストレス、機械的ストレス、電気的ストレス、化学的ストレス、及び/又は放射線学的ストレスをかけ得る環境中で使用するために十分な耐久性を有する接合部を製造するのに不十分になり得る。
【0012】
したがって、炭化ケイ素物品間、特にβ-SiCでできていて、核反応炉内など、接合部に多大な熱ストレス、機械的ストレス、電気的ストレス、化学的ストレス、及び/又は放射線学的ストレスをかけ得る環境中での使用が意図される物品間の改善された接合部が必要とされる。
【発明の概要】
【0013】
本発明の実施態様は、セラミック物品間、特にβ-SiC物品間の高耐久性接合部、並びにそれを製造及び使用する方法を提供する。好ましくは、そのような接合部は、接合される物品と実質的に同じ組成を有し、そのため、接合される物品と実質的に同じ機械的強度、熱膨張係数、及び他の特性を有する。したがって、該接合部は、核反応炉など、多大な熱ストレス、機械的ストレス、及び他のストレス、並びに放射線を受け得る過酷な環境中での向上した耐久性を有し得る。
【0014】
本発明の一態様のもとで、それぞれセラミック多形体を含む第一物品と第二物品との接合部は、セラミック多形体を含み、該第一物品と第二物品との間に延びるマトリックス;セラミック多形体を含み、該マトリックス全体に分布している複数の含有物;並びにセラミック多形体を含み、該第一及び第二物品の接合部表面並びに該マトリックス上にそれぞれ適用されている密封層;を含む。該マトリックスはポリマー誘導性でよく、前記密封層はCVI誘導性でよい。
【0015】
該マトリックス、複数の含有物、及び密封層は、それぞれ該セラミック多形体から構成され得る。該第一及び第二物品もそれぞれ該セラミック多形体から基本的に構成され得る。
【0016】
該密封層は部分的にマトリックス中に延びており、いくつかの例において観察される最大10.0 mmの浸透深さを有し得る。
【0017】
該接合部は、第一及び第二物品のそれぞれと実質的に同じ組成を有し得、第一及び第二物品のそれぞれと実質的に同じ機械的強度を有し得、かつ/又は第一及び第二物品のそれぞれと実質的に同じ熱膨張係数を有し得、かつ/又は密封性になり得る。
【0018】
該セラミック多形体は、例えばβ-SiCであり得る。該マトリックス、複数の含有物、及び密封層はそれぞれ99.0重量%を超えるβ-SiCを、さらには99.7重量%を超えるβ-SiCを含み得る。接合部は、例えば、少なくとも1 MPa、又は少なくとも50 MPaの特徴的な見かけ剪断強度(characteristic apparent shear strength)を有し得る。
【0019】
本発明の他の態様のもとで、それぞれセラミック多形体を含む第一物品と第二物品との接合部を製造する方法は、(a)プレセラミックポリマー及び複数の含有物を含むスラリーを製造すること;(b)該スラリーを該第一物品と第二物品との間に適用すること;(c)該スラリーを硬化させて、グリーン体を形成すること;(d)該グリーン体を熱分解して、該複数の含有物を含む固体セラミックを形成すること;(e)該固体セラミックを、結晶化したセラミック多形体を含み、かつ該複数の含有物をその中に有するマトリックスに転化すること;並びに(f)一例において、化学蒸気浸透を利用して実施されて、第一及び第二物品上にセラミック多形体を含みマトリックス中に浸透した層を形成する、密封層を適用することにより該接合部を強化すること;を含む。そのような強化は、マトリックス中へ浸透し、その中の空隙を埋め、マトリックスの機械的強度を向上させ、次いで接合部の外部表面に堆積することにより、接合部を緻密にし、密封することができる。任意に、工程(b)〜(e)は、1回以上繰り返すことができる。
【0020】
該マトリックス、複数の含有物、及び密封層は、それぞれ同じセラミック多形体から基本的に構成されていてよい。含有物は該セラミック多形体のホイスカーを含んでいてよく、スラリー中に相当な質量%で存在し得る。
【0021】
該マトリックス、複数の含有物、及び密封層は、それぞれ1種以上の異なるセラミック多形体から基本的に構成されていてよく、さらには1種以上の互いに異なる材料から基本的に構成されていてよい。
【0022】
スラリーは、第一温度で硬化されてグリーン体を形成し、該グリーン体は、該第一温度より高い第二温度で熱分解されて固体セラミックを形成し、該固体セラミックはさらに高い温度で結晶化され得る。
【0023】
該プレセラミックポリマーはポリカルボシランを含んでよく、かつ/又は化学蒸気浸透の適用は、キャリアガス中のメチルトリクロロシランを第一及び第二物品並びにマトリックスに適用することを含んでよい。説明的な実施態様において、該セラミック多形体はβ-SiCである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】本発明の1つ以上の実施態様により製造された接合部の断面を模式的に表す。
【0025】
図1B】本発明の説明的な一実施態様により製造されたベータ-炭化ケイ素(β-SiC)接合部の断面の顕微鏡画像である。
【0026】
図1C】本発明の1つ以上の実施態様による接合部を製造する方法における工程を表す。
【0027】
図2A図1Cの方法によりβ-SiC接合部を製造する中間工程の間に起こり得る化学反応を模式的に表す。
【0028】
図2B図1Cの方法によりβ-SiC接合部を製造する間に形成される中間体構造のX線回折(XRD)スペクトルの強度プロットである。
【0029】
図3A】本発明の説明的な一実施態様によりβ-SiC接合部を製造するのに利用できる例示的なβ-SiC含有物の電子顕微鏡画像である。
【0030】
図3B図1Cの方法により製造されたβ-SiC接合部の中間工程での、含有物の2つの異なる長さ及び見かけの剪断強度の結果を表すワイブルプロットである。
【0031】
図4A-B】図1Cの方法により、それぞれ球状及びホイスカー状含有物を使用して形成されたβ-SiC接合部の顕微鏡画像である。
【0032】
図5図1Cの方法によりβ-SiC接合部を製造する間の中間工程でのポリマーと含有物との異なる混合物の特徴的な見かけ剪断強度及びワイブルモジュラスを比較するプロットである。
【0033】
図6A-B】図1Cの方法によりそれぞれ製造された、比較的薄いβ-SiC接合部と厚いβ-SiC接合部の顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(詳細な説明)
本発明の実施態様は、接合部が接合するセラミック物品と実質的に同じセラミック組成を有し、そのため実質的に同じ機械的性質、熱的性質、及び他の性質を有する、密封された接合部を提供する。そのような接合部は、熱又は中性子フルエンスにより、ほんのわずかでも異なる性質を有する材料が接合部界面で示差的な寸法変化を受けることがある、核反応炉の過酷な環境中で使用するのに好適な接合部を提供する当分野の必要性に応答して開発された。そのような変化は、存在する場合、接合部を弱くし、性能を低下させ、さらには破局的な破断につながることがある。比較すると、本発明の接合部は密封でき、物品の密度に近い密度、物品の性質と実質的に同じ性質を有し、性質の実質的な低下なしに、4年間以上などの所望の時間、過酷な環境中で満足のいくように働き得る。そのような接合部が好適に製造できる材料の具体的な例はβ-SiCであり、高い温度及び中性子フルエンスですらその強度を保持し、低い熱誘起膨張及び中性子誘起膨張を示す。そのため、適切に製造すると、β-SiCから主に構成される接合部(及び接合された物品)は、破壊靱性、剪断強度、不浸透性、及び中性子損傷に対する耐性の所望の組み合わせを示し得る。
【0035】
第一に、本発明により製造され得る接合部の概要が提供される。次いで、そのような接合部を製造する方法が記載される。その後、その方法の種々の工程の間に形成され得る構造のさらなる詳細が提供される。最後に、代替実施態様がいくつか記載される。
【0036】
図1Aは、第一及び第二物品101、102がマトリックス103により接合される接合部100であって、複数の含有物104を有し、その上に密封層105が配置される接合部100の断面を模式的に表す。一例において、マトリックス103は、物品101、102と実質的に同じ材料であり、例えば、物品と実質的に同じ化学量論的組成を有し、同じ多形体である。複数の含有物104はマトリックス103全体に分布しており、やはり物品101、102と実質的に同じ材料であり得る。図1Cに関して以下により詳細に説明されるとおり、含有物104は種々の形状及び大きさを有することがあり、マトリックス103を緻密にする役割をする。例えば、含有物104がないと、マトリックス103は、接合部100の形成中に形成する多くの亀裂及び空隙を有し得る。含有物104は、そのような亀裂及び空隙の少なくとも一部を埋め、及び/又はその発生を防ぐことができ、それにより接合部100の全体的な密度を上げ、接合部の強度及び耐久性を向上させる。密封層105はマトリックス103上、並びに物品101、102の少なくとも一部の上に配置される。さらに、密封層105は、領域106に示されるとおりマトリックス103中に、並びに物品自体の中に部分的又は完全に浸透し得る。一例において、密封層105は、物品101、102と実質的に同じ材料である。説明的な一実施態様において、第一及び第二物品101、102、マトリックス103、含有物104、及び密封層105は、全て互いに同じセラミック多形体、例えばβ-SiCから形成され、或いは基本的に構成されている。
【0037】
実際に、いくつかの実施態様において、マトリックス103、含有物104、及び密封層105は実質的に純粋である。例えば、これら3要素のそれぞれは、少なくとも純度約99%(例えば、少なくとも99%β-SiC)、又は少なくとも純度約99.7%(例えば、少なくとも99.7%β-SiC)であり得る。好ましくは、これら3要素のそれぞれは、物品自体の純度に類似の純度を有する。核用途には、そのような高レベルの純度が、腐食、示差的な放射線誘起性スエリング、及び熱膨張係数の不整合により起こる機械的ストレスを抑制し得るので望ましいと考えられている。マトリックス103、含有物104、及び密封層105は、好ましくは、物品101、102の密度に近い密度、すなわち物品の10%以内である密度も有する。接合部100の密度は、密封層105がマトリックス103に浸透して残存する亀裂又は空隙を埋めている領域106中で最高になり得ることに留意されたい。密封層105がマトリックス103に浸透する程度は、以下にさらに記載されるとおり制御できる。密封層105により浸透されていないマトリックス103の領域では、密度は領域106より幾分低くなり得る。しかし、このような領域では、接合部100が所望の用途に使用するのに満足できる性質を有するように、含有物104がマトリックス103を強化し、かつ緻密にできる。
【0038】
接合部100は、該接合部が、極度の熱、放電、酸化性又は腐食性の薬品、及び放射線に曝され得る過酷な環境を含む、種々の環境に好適に使用できる。そのような環境の例は、ロケットノズル、核燃料被覆管、タービンブレード、熱保護システム、熱交換器など、複雑な部品の幾何学的形状が長期間性能の低下なしに作用できることが望ましい核及び航空宇宙産業にわたって見いだされる。
【0039】
図1Bは、β-SiC物品201と202との接合部200の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。接合部200は、物品201と202との間に配置されたβ-SiCのマトリックス203を含み、その全体に含有物204が分布している。マトリックス203は、プレセラミックポリマーとその中に含有物204が分散されているスラリーを物品201と202の間に適用し、それに続いて熱分解及びSiCのβ-多形体への選択的な転化により形成された。密封層205は、「CVI」とも称されるが、図1Cに関してさらに以下に記載される、化学蒸気浸透を利用して形成されるβ-SiCの層である。図1Bから、密封層205は、領域206内で少なくとも約100 μmマトリックス203中に延び、そのためその領域中のマトリックス203の追加の緻密化を与えることが分かる。処理パラメーターを好適に選択すると、領域206が部分的又は完全に接合部に浸透し得ることを理解されたい。
【0040】
図1A〜1Bに表される接合部100を製造する方法1000が、ここで図1Cに関連して提供される。
【0041】
方法1000は、プレセラミックポリマー及び所望のセラミック多形体の含有物のスラリーを製造することを含む(工程1010)。含有物は、好ましくは、プレセラミックポリマー全体に容易に分散し得るパウダーの形態であり、ある形状及び大きさの分布を有し、以下に詳細に記載される所望の質量%で提供され得る。説明的な一実施態様において、プレセラミックポリマーはポリカルボシラン(PCS)であり、それは室温で粘性の液体であり、含有物は、一例において、機械的混合及び超音波処理により液体と混合されるSiCパウダーであるパウダーの形態である。
【0042】
次いで、接合すべき物品が製造される(方法1000の工程1020)。例えば、接合の前に、物品は切断されて、適切な寸法に表面が研削され、次いで洗浄され得る。表面研削及び研磨は、当分野に公知である好適な方法、例えばダイヤモンド懸濁液及び対の研磨布を利用して実施できる。
【0043】
次いで、スラリーは物品の間に適用される(方法1000の工程1030)。いくつかの実施態様において、スラリーは、物品の一方又は両方に、ブラシ又はスパチュラにより適用され、次いで、物品は互いに対して適切に配置される。或いは、物品の一方又は両方がスラリー中に漬けられ、次いで、物品は互いに対して適切に配置される。
【0044】
次いで、スラリーは硬化されて、固体の「グリーン」体を形成する(方法1000の工程1040)。
【0045】
次いで、グリーン体は熱分解されて、含有物が中に埋め込まれた固体セラミックを形成する(方法1000の工程1050)。使用される特定のプレセラミックポリマーによって、そのような熱分解は1つ以上の中間工程を含み得る。
【0046】
次いで、固体セラミックは、セラミックの所望の多形体に転化され、やはり同じ多形体であり得る含有物がその中に埋め込まれたマトリックスを形成する(方法1000の工程1060)。特定のセラミック材料及び多形体によって、そのような転化は、熱分解工程と実質的に同時に起こるか、又は、その後の工程、例えば熱分解の後のより高温への加熱であり得る。いくつかの実施態様において、スラリーは第一温度で硬化されてグリーン体を形成し、該グリーン体は該第一温度より高い第二温度で熱分解されて固体セラミックを形成し、該固体セラミックは該第二温度より高い第三温度で結晶化することがある。いくつかの場合において、スラリー適用及び熱分解の多数のサイクルが適用されて、接合部密度を高める。
【0047】
最後に、接合部は、化学蒸気浸透(CVI)を利用して密封される(工程1060)。当分野に公知であるか、又はまだ開発されていないCVIを実施するための好適な方法及び薬品は、工程1050において形成されたマトリックス並びに第一及び第二物品に密封層を適用するように好適に適合され得る。密封層は、マトリックス103に、部分的又は完全に所望の距離、例えば10〜100%浸透し得る。
【0048】
方法1000の選択された工程のさらなる詳細が、図2A〜6Bに関して与えられる。
【0049】
図2Aは、方法1000の工程1010、1050、及び1060の間に製造される中間体構造を模式的に表す。図2Aの実施態様において、工程1010のスラリー中に与えられるプレセラミックポリマーは、実例としては、最後にはβ-SiCに転化されるPCSである。方法1000の工程1040に関して先に議論されたとおり、スラリーは物品に適用され、硬化されてグリーン体を形成し得る(図2Aに示さず)。
【0050】
次いで、図2Aに示されるとおり、工程1050の間に、プレセラミックポリマーはセラミック多形体に転化されるが、図示される実施態様において、モノマーが比較的低い温度(例えば、100℃)で重合する第一工程(a)、ポリマーがより高い温度(例えば、200〜400℃)で架橋する第二工程(b)、及びポリマーがさらに高い温度(例えば、600〜850℃)で熱分解してアモルファスセラミックを形成する第三工程(c)を含む。
【0051】
次いで、図2Aに示されるとおり、工程1060の間に、アモルファスセラミックはさらに高い温度(例えば、1100℃より高い)で結晶性セラミックに転化される。好ましくは、該温度は、セラミックの所望の多形体が生じるように選択される。
【0052】
工程1050及び1060は、好ましくは、アルゴンなどの不活性雰囲気中又は真空中で実施される。プレセラミックポリマーのセラミックマトリックス103への転化は、処理パラメーターに高度に依存する熱により推進されるプロセスであり、図2Aに関連して先に記載された温度は、使用される特定のプレセラミックポリマー及び形成すべき所望のセラミック多形体によって、好適に変化し得ることを認識されたい。 好ましくは、これらの転化工程の間の加熱速度は、気泡の形成を抑制するように限定され、いくつかの実施態様において、毎分約4℃未満である。
【0053】
さらに、固体アモルファスセラミックの結晶化が特定の温度(例えば、図2Aの1100℃)で始まり得るが、所望の多形体への完全な結晶化を確実にするため、該セラミックを、著しく高い温度に長時間加熱することが好ましいことがある。例えば、図2Bは、図1C及び2Aに関して先に記載されたPCSのβ-SiCへの転化の間に、850℃(スペクトル201)、1300℃(スペクトル202)、及び1700℃(スペクトル203)の温度で得られたX線回折(XRD)スペクトルのプロットである。スペクトル201は比較的分解能の低いスペクトルの特徴を有し、熱分解後のセラミックのアモルファス構造を反映している。スペクトル202はよりシャープなスペクトルの特徴を有し、当分野に周知であるシェラー法に従うピーク広幅化分析を利用して決定された平均粒度10 nmを反映している。スペクトル203はさらにシャープなスペクトルの特徴を有し、やはりピーク幅広化分析を利用して決定された平均粒度100 nmを反映している。放射線は微細な結晶構造のアモルファス化を誘起することがあり、機械的性能の低下を招くことがあるので、例えば、特定の多形体を生じさせるのに名目上必要とされる温度より高い温度での長い処理に基づいて発達するより大きい結晶粒度は、核用途における使用に特に適することがあると考えられている。スペクトル203のシャープなよく分解されたスペクトルの特徴は、上述の例により製造されたポリマー誘導性接合材料の高い相の純度を表す。β-SiCの理論的な輪郭との優れた一致及び相の不純物を意味するような他の結晶ピークがないことに留意されたい。
【0054】
図1C及び2Aに関して先に記載された処理工程は、これまで公知であった方法で得られるものに比べて酸素レベルが非常に低い完全に結晶性のSiCを生み出すことが示される。表1は、Pouskouleliらの文献、「プレセラミック材料としての有機金属化合物I。非酸化物セラミックス(Metallorganic compounds as preceramic materials I. Non-oxide ceramics)」, Ceramics International 15 (1989), 213-229ページにより報告された値に比べた、アルゴン又は真空中で上述の方法を利用してPCSに基づき製造されたβ-SiCで形成された組成分析の結果をまとめる。表1から分かるように、本発明により形成されたβ-SiCは、Pouskouleliにより報告されたSiCに比べて酸素含量の85%超の低減を示す。本β-SiCの酸素レベル及び結晶サイズは、核反応炉において、例えば燃料被覆管としての使用に好適であると考えられる。例えば、そのような酸素レベル及び結晶サイズは、Sneadらの文献、「融合発電反応炉構造材料としての炭化ケイ素コンポジット(Silicon carbide composites as fusion power reactor structural materials)」, Journal of Nuclear Materials 417 (2011) 330-338ページに報告されている高線量の中性子照射に曝露された後でのその性質の保持を示した核グレードSiCファイバーTyranno SA3のものに類似である。
【表1】
【0055】
上述のとおり、方法1000の工程1010の間に含有物104をプレセラミックポリマーに加えると、マトリックス103の密度の増大により、完成した接合部100の強度及び耐久性を著しく高めることができる。例えば、プレセラミックポリマーがマトリックス103に転化されるとき、それは、そうでなくては接合部100を弱めるだろう空隙及び亀裂を形成する気体と接触及び/又は発生させ得る。含有物104は、接合部の空隙及び亀裂を実質的にふさぎ、かつ/又はそのような収縮から生じるだろうそのような空隙及び亀裂の形成を実質的に阻害するような比率で、かつそのような形状及び大きさの分布で含まれ得る。含有物は、直径及び/又は長さがナノメートルからミリメートルの範囲である球状、フレーク、ホイスカー、繊維、及び/又は不規則な形状のβ-SiCを含み得る。
【0056】
好ましい一実施態様において、高アスペクト比含有物104(例えば、1:2以上、又は1:5以上、又は1:10以上のアスペクト比を有する)は、マトリックス 103の機械的強度及び靱性を高めるのに特に有用であると考えられる。具体的には、亀裂又は隙間を埋めるための臨界長さより短い「短い」含有物104は、マトリックス103は破損させられているときマトリックスからの引き抜きに抵抗することにより、接合部100の機械的性質を高め得る。それに比べて、接合部の機械的性能を高めるのに必要な臨界長さを超える「長い」含有物104は、マトリックス亀裂を埋め、その後マトリックス内に滑り込み、次いで割れることにより性能を向上させる。マトリックス103中の含有物104として好適に使用できる高アスペクト比β-SiCナノホイスカー304のSEM画像が、図3Aに与えられている。
【0057】
高アスペクト比含有物104の向上した性能は図3Bに見ることができ、異なる形状のβ-SiC含有物104、具体的には球状(図3Bにおいて三角で表される)又はホイスカー(図3Bにおいて菱形で表される)のいずれかのスラリーを使用して形成された完成したβ-SiC接合部の測定された特徴的な剪断強度(τch)及びワイブルモジュラス(m)を表すワイブルプロットである。図3Bに見られるとおり、ホイスカーは、球状に比べて、完成した接合部の特徴的な剪断強度(τch)及びワイブルモジュラス(m)を、それぞれ約17%及び21%向上させる。
【0058】
亀裂及び空隙の大きさ及びモルフォロジーの変化は、図4A〜4Bに見ることができ、それぞれ球状及びホイスカーのβ-SiCを利用して製造された完成したβ-SiC接合部400、400'のSEM画像である。図4Aに見られるとおり、球状の含有物を有するマトリックス403は、第一及び第二物品401と402の間に配置されており、接合部の厚さにわたるいくつかの垂直な亀裂を有するが、図4Bにおいて、ホイスカー状含有物を有するマトリックス403'は第一及び第二物品401'と402'の間に配置され、より小さく丸い空隙及びより均質なマトリックスを有する。含有物の大きさ及び形状は、プレセラミックポリマーが所望の多形体のセラミック(例えば、β-SiC)に転化するときに揮発性種がどのように放出されるかに影響を与えることがあり、そのため図4A〜4Bにおける異なる細孔サイズ及び形状を生み出す。球状及びホイスカー状含有物は、マトリックス403と実質的に同じ組成を有し図中のスケールバーよりも著しく小さいので、図4A〜4Bにおいて容易に区別可能ではない。
【0059】
図1Cの工程1010のスラリー中の含有物104の装入分率(質量%とも称される)は、特定の用途に応じて選択できる。いくつかの実施態様において、含有物の質量%は、約0.1%〜約90%以上、又は約10%〜約80%、又は約20%〜約70%、又は約30%〜約60%、又は約40%〜約50%になり得る。例えば、図5は、含有物を全く含まないスラリー(「ベースポリマー」)、33質量%の含有物を含むスラリー、及び50質量%の含有物を含むスラリーに基づいてプレセラミックポリマー(例えば、約25℃)からβ-SiC(例えば、約850℃超)に転化される時のセラミック中のパーセント質量変動を表す。中間体及び最終セラミックの質量はプレセラミックポリマーの初期質量により正規化され、「セラミック収率」と呼ばれることがある。図5は、50質量%のSiCパウダーがスラリーに加えられる場合の最大90%に近いセラミック収率の劇的な向上(例えば、質量損失の低減)及び33質量%のSiCパウダーがスラリーに加えられる場合の幾分低い劇的な向上を示す。表2は、図5において測定された3種の試料、例えば、含有物を全く含まないスラリー(「ベースポリマー」)、33質量%の含有物を含むスラリー、及び50質量%の含有物を含むスラリーを利用して形成されたセラミックの最大セラミック収率を列記する。より高い質量%の含有物を有するセラミックの増大したセラミック収率は、向上した接合部密度から生じる低下した欠陥濃度に帰することができる。
【表2】
【0060】
そのため、含有物の質量%と形状とを共に選択することにより、そのような含有物のない接合部に比べて、接合部の多孔性が低下し、そのため接合部強度の増加した、製造したままの接合部を得ることができる。
【0061】
含有物104は、プレセラミックポリマースラリー中の分散性を向上させるように、完成した接合部に組み込まれる時に各含有物がその特性を保持する程度を上げるように、かつ/又は接合部変形の間マトリックスに対する含有物の滑りを促進することにより接合部の破壊靱性を高めるように、さらに処理してよい。例えば、含有物は、方法1000の工程1050に関して以下にさらに説明される結晶化プロセスの間に含有物がすっかり包含されるのを防ぐ、薄い熱分解性炭素界面コーティング層を含んでよい。スラリーは、結合剤、ビヒクル、可塑剤、分散剤、焼結助剤、又は当分野に公知である他の処理助剤の1つ以上を含んでもよい。
【0062】
接合部を強化及び密封するために、スラリーが完全に所望のセラミック多形体、例えばβ-SiCに転化した後、化学蒸気浸透の工程を実施して密封層を形成することができる。ヘリウム及び分裂生成物を保持する能力には接合部が実質的に不浸透性であることが必要なので、そのような工程は核グレードの接合部にとって重要であると考えられる。そのような工程の説明的な一実施態様において、β-SiCは、水素キャリアガス中のメチルトリクロロシラン(MTS)の熱分解反応によりマトリックス103並びに物品101及び102の内部及びその上に堆積し、図1A〜1Bに示されるものなどの密封層105を形成する。この反応は、幅広い好適な温度、圧力、及びMTS濃度で起こり得る。例示的な浸透条件は、800〜1400℃、3〜1000 mbar、及びMTS分圧0.01〜5.0 mbarの範囲である。他の条件及び他のCVI反応物を好適に利用できる。
【0063】
スラリー誘導性接合の後のCVIのそのような適用は、「ハイブリッド」法とも称されることがあり、接合部をさらに改善し、核グレードにし得る。実際に、スラリー誘導性マトリックス中の残存開放多孔性は、CVI反応物(複数可)の接合部への反応物流路として使用でき、そのため部分的又は完全にマトリックス103中に密封層105を延ばす。密封層のこの追加領域(例えば、図1A〜1Bに表された領域106)は、接合部密度を高めるだけでなく、細孔を密封することにより表面の欠陥を減少又は無くし、全体的な接合部密度及び強度を高める。さらに、接合部の外側の物品101、102の領域への密封層の追加的な堆積及び浸透は、燃料棒内に留めておくべき分裂生成物及びヘリウムに対する不浸透性バリアを与え得る。既存文献は、35マイクロメートルもの薄さのCVD系SiC層が分裂生成物の保持に十分になり得ることを立証した。Causeyらの文献、「トリチウム浸透バリアとしての炭化ケイ素の使用(The use of silicon carbide as a tritium permeation barrier)」、 Journal of Nuclear Materials, 220-222 (1995), 823-826ページを参照されたい。CVI処理条件は、密封層105が接合部100に大幅に浸透できるように選択できる。
【0064】
表3に記載されるとおり、PCS中約50%のβ-SiCホイスカーのスラリーを使用して製造され、CVIにより処理されてβ-SiC密封層を形成した、例示的なβ-SiCハイブリッド接合部は、ホイスカー系PCSスラリーのみ又はPCSのみを使用して製造された接合部に比べて、特性強度及びワイブルモジュラスの両方の著しい向上を示す。ハイブリッド接合部は、特徴的な見かけ剪断強度が約50.7 MPaであり、PCSスラリーを使用して製造された接合部の約239%、PCSのみを使用して製造された接合部の約975%であった。ハイブリッド接合部のワイブルモジュラスは約6.7であり、PCSスラリーを使用して製造された接合部の約171%、PCSのみを使用して製造された接合部の約353%であった。したがって、本明細書に提供される接合部は、以前から公知の方法を利用して得られ得るものよりも著しく高い機械的性質を有し、実際に核用途の要件を満たすと考えられる。
【表3】
【0065】
図1A〜1Bに示されるものなどの突き合わせ継手、重ね継手、マイター継手、組継手、蟻継手、大入れ継ぎ、グルーブ継ぎ手(groove joint)、目違い継ぎ、又はほぞ継ぎ手を含むがこれらに限定されない任意の好適な接合部が本発明により製造できることを理解されたい。さらに、柱、棒、円柱、管、平板、シート、フィルム、角柱、円錐、切頭円錐、角錐、及び菱形を含むがこれらに限定されない任意の好適な形状の物品が接合できる。物品は必ずしも互いに同じ形状である必要はない。説明的な一実施態様において、第一の物品は中空管であり、第二の物品は、接合部100が管に密封するキャップである。管は核燃料材料の被覆管であり得る。
【0066】
さらに、種々の厚さを有する接合部が好適に製造できる。接合部の厚さは、接合すべき物品の間の隙間並びに接合部に適用されるスラリーの粘度により定義される。10〜200ミクロンの厚さを有する好適な接合部が製造された。例えば、図6Aは、約10ミクロンの厚さを有するマトリックス603を含む、物品601と602との接合部600のSEM画像である。図6Bは、約200ミクロンの厚さを有するマトリックス603'を含む、物品601'と602'との接合部600'のSEM画像である。より厚い接合部及びより薄い接合部も製造できる。
【0067】
該方法はβ-SiCの製造に関連して主に説明されてきたが、該方法を、他の種類の材料から形成される物品用の接合部を製造するように好適に適合させ得ることを理解されたい。例えば、SiCの他の多形体を接合でき、窒化ケイ素、酸化物と炭化ケイ素との混合物を含む種々の酸化物及び種々の酸化物の混合物などの他のセラミックも同様に接合できる。そのような酸化物は、アルミニウム、ニッケル、ランタン、バリウム、亜鉛、リチウム、コバルト、カドミウム、セリウム、クロム、アンチモン、鉄、イットリウム、タンタル、タングステン、ストロンチウム、カルシウム、ビスマス、スズ、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム、チタン、鉛、ニオブ、及びケイ素の酸化物を含み得る。他の好適なセラミックは、頁岩、せっ器、粘土、ボーキサイト、カイアナイト、ベントナイト、カオリン、パイロフィライト、タルク、長石、ネフェリン閃長岩、珪灰石、スポジュメン、燧石(石英)、ジルコン、ジルコン酸塩、及びコーディエライトなどの鉱物原料並びに他の鉱物原料とのこれらの混合物又はセラミック酸化物、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素の1種以上とこれらの混合物がある。
【0068】
本明細書で言及される全ての特許及び刊行物は、その全体として引用により明確に組み込まれる。
【0069】
本発明の種々の説明的な実施態様が先に記載されているが、本発明から逸脱せずに種々の変更及び改良をなし得ることが、当業者には明らかであろう。例えば、上記の接合部、方法、及び使用は、核反応炉用途(例えば、核燃料被覆管)に関して主に記載されるが、それらが、熱交換器を含む他の用途にも好適に使用できることを理解されたい。さらに、上記の接合部、方法、及び使用は、全て同じ材料の同じ結晶多形態を含むマトリックス、複数の含有物、密封層、並びに/又は第一及び第二物品に関連して主に記載されるが、そのような構成要素の一部又は全てが1種以上の異なるセラミック多形体を、さらには互いに異なる1種以上の材料を含み得ることを認識されたい。添付された請求項は、本発明の真の趣旨及び範囲内であるそのような変更及び改良を全て網羅するものとする。
図1A
図1B
図1C
図2A-B】
図3A
図3B
図4A-B】
図5
図6A-B】