特許第5965908号(P5965908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニック株式会社の特許一覧
<>
  • 特許5965908-マイクロ流体デバイス 図000002
  • 特許5965908-マイクロ流体デバイス 図000003
  • 特許5965908-マイクロ流体デバイス 図000004
  • 特許5965908-マイクロ流体デバイス 図000005
  • 特許5965908-マイクロ流体デバイス 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5965908
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】マイクロ流体デバイス
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20160728BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20160728BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20160728BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160728BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B01J19/00 321
   G01N37/00 101
   G01N35/08 A
   C12M1/00 A
   B81B1/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-529874(P2013-529874)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2012005236
(87)【国際公開番号】WO2013027393
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2011-180318(P2011-180318)
(32)【優先日】2011年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】橘 宏明
(72)【発明者】
【氏名】辻 幸司
(72)【発明者】
【氏名】西條 隆司
(72)【発明者】
【氏名】民谷 栄一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 真人
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−108285(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/073863(WO,A2)
【文献】 特開2008−238091(JP,A)
【文献】 特開2008−032584(JP,A)
【文献】 特開2009−119387(JP,A)
【文献】 特開2004−194652(JP,A)
【文献】 特開2006−271216(JP,A)
【文献】 特開2009−189295(JP,A)
【文献】 特表2010−535511(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094981(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第00504435(EP,A1)
【文献】 特表2009−534653(JP,A)
【文献】 特表2004−532003(JP,A)
【文献】 特開2006−292472(JP,A)
【文献】 特開2006−094866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12Q 1/00
B01J 19/00
G01N 37/00
G01N 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応流路を有するマイクロ流体デバイスにおいて、
試料流入部と、試料排出部とを備え、
温度が異なる少なくとも2つの温度領域をそれぞれ含んで成る複数の温度サイクル領域が繰り返し設けられており、前記反応流路が複数の前記温度サイクル領域を一方向のみに沿って通過するように形成されており
前記温度サイクル領域が前記試料注入部から前記試料排出部の方向へ向かって繰り返して複数形成されており、
前記反応流路内を進む反応流体が前記試料注入部から前記試料排出部の方向へ向かって前記試料注入部に戻ることなく進み、および
並列に配置された少なくとも2つの前記反応流路が、同じ前記試料注入部から接続されていることを特徴とする、
マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記マイクロ流体デバイスがヒータ部を含んで成り、
前記ヒータ部は、異なる温度に設定された複数のヒータを有し、
前記ヒータ周縁域に前記温度領域が形成される、
請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記マイクロ流体デバイスが、結合された基板と蓋板とを含んで成り、
前記ヒータ部は、少なくとも前記基板と前記蓋板のいずれか一方に有って成り、
前記反応流路は、前記基板と前記蓋板との間に形成されて成る、
請求項2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
並列に配置された少なくとも2つの前記反応流路が、同じ前記ヒータ部を共有する、請求項1又は2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記ヒータが金属薄膜ヒータから成る、請求項2〜のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記反応流路内を流れる反応流体の濃度を測定するための検出電極を含んで成る、請求項1〜のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記試料注入部と複数の前記温度サイクル領域を通過する前記反応流路との間に、反応試薬が担持されている、請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスが、直列に若しくは並列に又はこれらを組み合わせて配列されている、マイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体デバイスに関する。より詳細には、本発明はマイクロリアクタ、集積型DNAデバイスおよび微小電気泳動デバイスなどのマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術は電気・電子分野に限らず、流体、機械、および光等あらゆる分野に浸透し、積極的に研究、開発が行われると共に今後より一層着目される技術であると言って過言ではない。この微細加工技術の発展によって、デバイスの小型化が可能とされ、省資源化および省エネルギー化という社会の要請に対して確実に対応できるものとなっている。
【0003】
特に、微細加工技術による代表的な産物と言ってよいマイクロ流体デバイスは、マイクロリアクタ、集積型DNAデバイスおよび微小電気泳動デバイスなどの分野において、極めて少量の試料や試薬を用いて反応溶液を反応させることができるため利用価値が多いにあるとされている。
【0004】
さらに、微細化に伴う表面積の増大によりすばやく熱移動を行うことができるため、反応流体に所望の温度変化を必要とするマイクロ流体デバイスにおいてもその効果が期待されている。このマイクロ流体デバイスとして、反応流路が蛇行形態を採ったものが特許文献1に開示されている。
【0005】
特許文献1では、例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法に代表されるように、反応溶液を3つの異なる温度領域に少なくとも5サイクル〜40サイクルさせて、DNA(デオキシリボ核酸)のある一部分だけを選択的に増幅させることができる微小ケミカルデバイスについて開示されている。この反応溶液を3つの異なる温度領域に少なくとも5サイクル〜40サイクルさせるべく、反応流路は蛇行形態をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−18271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のマイクロ流体デバイスは反応流路を蛇行させているため、デバイスの小型化を図ることが困難となる課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、反応流路が蛇行形態を採ることなく、デバイスの小型化を図ることができるマイクロ流体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、
本発明に係る反応流路を有するマイクロ流体デバイスは、
試料流入部と、試料排出部とを備え、
温度が異なる少なくとも2つの温度領域をそれぞれ含んで成る複数の温度サイクル領域が繰り返し設けられており、反応流路が複数の温度サイクル領域を通過するように形成されており、また、温度サイクル領域が試料注入部から試料排出部の方向へ向かって繰り返して複数形成されており、反応流路内を進む反応流体が試料注入部から試料排出部の方向へ向かって進むことを特徴とする。
【0010】
ある好ましい態様では、上記課題を解決するために、
マイクロ流体デバイスは、ヒータ部を含んで成り、
ヒータ部は、異なる温度に設定された複数のヒータを有し、
ヒータ周縁域に温度領域が形成される。
【0011】
又、ある好ましい態様では、マイクロ流体デバイスは、結合された基板と蓋板とを含んで成り、
ヒータ部は、少なくとも基板と蓋板のいずれか一方に有って成り、
反応流路は、基板と蓋板との間に形成されて成る。
【0012】
又、ある好ましい態様では、少なくとも2つの反応流路が並列に配置されている。
【0013】
又、ある好ましい態様では、並列に配置された少なくとも2つの反応流路が、同じヒータ部を共有する。
【0014】
又、ある好ましい態様では、マイクロ流体デバイスが試料注入部および試料排出部を含んで成り、
並列に配置された少なくとも2つの反応流路が、同じ試料注入部から接続されている。
【0015】
又、ある好ましい態様では、ヒータが金属薄膜ヒータから成る。
【0016】
又、ある好ましい態様では、反応流路内を流れる反応流体の濃度を測定するための検出電極を含んで成る。
【0017】
又、ある好ましい態様では、試料注入部と複数の温度サイクル領域を通過する反応流路との間に反応試薬が担持されている。
【0018】
又、ある好ましい態様では、マイクロ流体デバイスが直列に若しくは並列に又はこれらを組み合わせて配列されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のマイクロ流体デバイスは、温度サイクル領域が繰り返し設けられており、複数の温度サイクル領域を通過するように反応流路がデバイス内に形成されることによって、反応流路を蛇行させることなく形成でき、マイクロ流体デバイスの小型化が可能になる。
【0020】
更に、反応流路を蛇行させることなく形成できることによって、1つのマイクロ流体デバイス内に複数の反応流路を並列に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明のマイクロ流体デバイスの全体斜視図である。
図2図2は、本発明のマイクロ流体デバイスの分解斜視図である。
図3図3は、本発明のマイクロ流体デバイス内の基板の形成プロセス断面図である。
図4図4は、本発明のマイクロ流体デバイス内の蓋板の形成プロセス断面図である。
図5図5は、本発明のマイクロ流体デバイス内の基板と蓋板の接合プロセス断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明のマイクロ流体デバイスについて説明する。
【0023】
なお、以下明細書の記載にあたり、マイクロ流体デバイスを「デバイス」と記載する。又、本明細書で記載する反応流体とは反応流路を流れることができる液体、気体およびそれらの混合物のことを指すが、これらに特に限定されるものではない。例えば、固形粒子が液体に分散したスラリーも、本明細書でいう流体に含めることができる。
【0024】
従来技術は反応流体が異なる温度領域を複数繰り返して通過するように反応流路を蛇行させているのに対して、本発明のデバイスは、温度が異なる少なくとも2つの温度領域をそれぞれ含んで成る複数の温度サイクル領域を繰り返しているところに特徴がある。
【0025】
以下、本発明に係る実施形態のデバイスについて詳細に説明する。図1は、本発明のデバイス1の全体斜視図である。図2は、本発明のデバイス1の分解斜視図である。本発明のデバイス1は、蓋板2および基板3から成る。蓋板2は、試料注入部4および試料排出部7の一部を構成する貫通孔、ヒータ部5並びに検出電極6を含んで成る。ヒータ部5および検出電極6は蓋板2の下面に形成されている。ヒータ部5は、交互に配置されたヒータ5aおよびヒータ5bを含んで成り、ヒータ5aおよびヒータ5bは異なる温度に各々設定される。試料注入部4と試料排出部7の一部を構成する貫通孔は上面から下面に貫通するように形成されている。次いで、基板3は試料注入部4の一部を構成する凹部および試料排出部7の一部を構成する凹部、反応流路8、反応試薬担持部9、検出部10を含んで成る。反応流路8は反応試薬担持部9と検出部10との間にあり、基板3に設けられたチャンネル14と蓋板2との間に形成される。又、反応流路8はデバイス1内に反応流路8a、8b、8c、8dおよび8eを有する。反応流路8cは反応試薬担持部9から検出部10まで直線状である。反応流路8dは反応流路8bの形状を左右対称にした流路である。反応流路8eは反応流路8aの形状を左右対称にした流路である。反応流路8a、8b、8c、8dおよび8eはヒータ部5の下部を通る位置にある。以上のように構成された蓋板2の下面と基板3の上面が、試料注入部4の蓋板2内の貫通孔と基板3内の試料注入部4の一部を構成する凹部とが一致し、試料排出部7の蓋板2内の貫通孔と基板3内の試料排出部7の凹部とが一致し、検出電極6が検出部10の上部に位置するように対向して接合される。
【0026】
ヒータ部5内の異なる温度に設定されるヒータ5aおよびヒータ5bは、各々のヒータ周縁域に温度領域を形成する。温度領域とはヒータの周縁域にできる温度帯を言う。各々のヒータ周縁域に形成された温度領域は温度の異なる温度領域であって、この実施形態では、温度の異なる2つの温度領域は、試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって交互に形成される。温度の異なる2つの温度領域が試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって交互に形成されている場合、温度の異なる2つの温度領域から成る温度サイクル領域が、試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって繰り返して複数形成されていると考えることができる。
【0027】
基板3の材質は、例えばシリコンである。蓋板2の材質はガラスである。試料注入部4および試料排出部7の断面形状は例えば円形である。しかし、円形に限定されるものではなく、例えば、楕円形、矩形、正方形又は多角形などの形状であってもよい。反応流路8は反応流体が反応試薬担持部9から検出部10まで流れるための流路であって、繰り返された複数の温度サイクル領域を通る。又、反応流路8は、繰り返された複数の温度サイクル領域を通る部分が直線状の流路である。試料注入部4は、反応流体を外部から注入するための入口であって、デバイス1の側端に設定されることが好ましく、又、試料排出部7は試料注入部4の対向する位置にある。反応試薬担持部9は試料注入部4と反応流路8との間に位置し、乾燥担持された反応試薬が仕込まれる。検出部10は検出電極6が反応流体の濃度を測定するために設けられたものである。検出電極6はヒータ部5と試料排出部7との間に位置する。検出電極6は電極に電圧を印加して得られた電流値から反応流体の濃度を測定するための薄膜電極である。試料排出部7はデバイス1内の反応流体を外部へ排出するための出口である。
【0028】
次に、本発明のデバイス1における反応流体の反応プロセスについて説明する。まず、所望の反応溶液が試料注入部4に注入され、次いで、この反応溶液が反応試薬担持部9内に仕込まれた反応試薬と混ざる。本発明のデバイス1が反応試薬担持部9を有することによって、外部の反応装置に頼ることなくすばやく反応試薬と反応させることが可能とする。次いで、反応試薬と反応溶液とが混ざった反応流体が反応流路8に進む。次いで、反応流路8内を進む反応流体は、繰り返された複数の温度サイクル領域を検出部10の方向へ向かって進む。次いで、複数の温度サイクル領域を進んで反応が促進された反応流体は検出部10へと進む。検出部10にて、検出電極6に電圧を印加して得られた電流値から反応流体の濃度が測定される。最後に、測定された反応流体は試料排出部7より排出される。
【0029】
以下、本発明に係る実施形態のデバイス1の製造方法について説明する。
<基板3の形成>
図3は、本発明のデバイス1内の基板3の形成プロセス断面図である。まず、酸素および水素雰囲気の拡散炉中でシリコン基板12の表裏面に酸化膜11を形成する(図3(a))。次いで、酸化膜11上にフォトリソグラフィによりレジストを形成し、反応性イオンエッチング(RIE)により酸化膜11をエッチングする(図3(b))。次いで、レジストを除去し、シリコンが露出した部分をエッチングし、試料注入部4の一部を構成する凹部、反応試薬担持部9、反応流路8、検出部10および試料排出部7の一部を構成する凹部のチャンネル14を形成する(図3(c))。次いで、表裏面の酸化膜11をフッ酸等によるエッチングにより除去する(図3(d))。最後に、反応流路8の親水性を高めるため、熱酸化膜13を形成して基板3を得る(図3(e))。上記方法以外に基板3の材質がシリコン以外の例えば樹脂である場合には、チャンネル14の形成方法は射出成形などの方法によって設けられてもよい。
【0030】
<蓋板2の形成>
図4は、本発明のデバイス1内の蓋板2の形成プロセス断面図である。まず、サンドブラストやドリル加工等を用いて、ガラス板15に貫通孔を形成する(図4(a))。次いで、メッキ等により貫通孔に金属16、例えば銅を充填する(図4(b))。次いで、ヒータとなる金属薄膜17、例えばアルミニウム薄膜をスパッタリングにより形成する。本発明では特に金属薄膜の種類は限定しないが、例えばアルミニウムや金、白金などが好ましい(図4(c))。次いで、スパッタリングにより成膜したアルミニウムをフォトリソグラフィ、およびエッチングによりパターニングする(図4(d))。この金属薄膜が本発明のデバイス1内のヒータ5aおよび5bに相当する。次いで、ヒータ5aおよびヒータ5bとなるアルミニウム薄膜が直接反応流体に触れるのを防ぐため、プラズマCVDによりシリコン酸化膜18を形成する(図4(e))。次いで、化学機械的研磨(CMP)により成膜した酸化膜18を平坦化する(図4(f))。次いで、検出電極6を設置するため、酸化膜18をフォトリソグラフィ、フッ酸によるエッチングにより除去して、検出電極6の設置部19を形成する(図4(g))。最後に、金または白金薄膜をスパッタリングにより検出電極6を形成して、蓋板2を得る(図4(h))。
【0031】
<基板3と蓋板2の接合>
図5は、本発明のデバイス1内の基板3と蓋板2の接合プロセス断面図である。まず、図4(h)で得られた蓋板2(図5(b))を上下反転させたものを上板に、又図3(e)で得られた基板3(図5(a))を下板となるようにする。次いで、両板を重ね、300℃〜400℃程度に加熱、保持する。次いで、両板が所望の温度になったところで、400V〜800Vの電圧を蓋板2側に印加する。電圧を印加した状態で20分〜60分保持することで基板3と蓋板2を接合させ、本発明のデバイス1を得る(図5(c))。接合方法は、陽極接合に限るものではなく、例えば表面活性化接合等を用いれば常温で接合することも可能である。
【0032】
以上、本発明のデバイス1の構造および製造方法並びに本発明のデバイス1における反応流体の反応プロセスについて説明した。そして、本発明のデバイス1は、上記の実施形態を採ることにより、デバイス1内の反応流路8に様々な可能性を広げた。
【0033】
本発明のデバイス1は、温度サイクル領域が必要な温度サイクル数だけ繰り返されているため、反応流路8を蛇行させる必要がない。又、反応流路8を蛇行させる必要がないので、1つのデバイス1内に少なくとも2つの反応流路8を並列に配置することができると共に、デバイス1全体としても小型化を図ることが可能となる。なお、デバイス1内の反応流路8の形状は各々同じであってもよく、又は異なっていてもよい。
【0034】
又、本発明のデバイス1内にある反応流路8が繰り返された複数の温度サイクル領域を通じるため、反応流路8が試料注入部4の方向に戻ることなく、試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かわせることができる。したがって、反応流体の送液抵抗を抑えることができる。
【0035】
又、本発明のデバイス1内にある反応流路8が繰り返された複数の温度サイクル領域を通じるため、反応流路8を反応試薬担持部9から検出部10まで直線状にすることができる。これによって、送液抵抗を最も小さくすることができると共に反応流路8内の反応流体の一様な流れを最も安定にすることができる。
【0036】
又、少なくとも2つに並列に配置された反応流路8が1つのヒータ部5を共有することができる。これによって、同一温度変化条件で複数の反応流体を反応させることができるため、反応流体への伝熱を均一にできると共に、反応流体の違いによる反応挙動の違いを客観的に観察することができる。
【0037】
本発明のデバイス1は上記の実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態を採ることができる。
【0038】
本発明のデバイス1はヒータ部5内に設定されるヒータが異なる2つの温度に設定されている。しかし、異なる2つの温度に設定されたヒータに限定されるものではなく、異なる3つ以上の温度に設定されたヒータであってもよい。例えば、ヒータ部5内に設定されるヒータが異なる3つの温度に設定されたものである場合、異なる2つの温度に設定された場合と同様に、ヒータ部5内の異なる3つの温度に設定されたヒータは、各々のヒータ周縁域に温度の異なる3つの温度領域を形成する。温度の異なる3つの温度領域は、試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって順に形成される。温度の異なる3つの温度領域が試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって繰り返して形成されている場合、温度の異なる3つの温度領域から成る温度サイクル領域が、試料注入部4から試料排出部7の方向へ向かって繰り返して複数形成されていると考えることができる。
【0039】
又、本発明のデバイス1内の温度サイクル領域は繰り返し連続した形態を採っている。しかし、必ずしも繰り返し連続した形態を採る必要はなく、温度サイクル領域と温度サイクル領域との間に異なる温度領域が形成されてもよい。
【0040】
又、ヒータの位置又は大きさを変えることによって、各々の温度領域を通る反応流路8内の反応流体の反応挙動が変えられてもよい。又、ヒータの温度は必ずしも試料排出部7の方向順に高くする必要もなく、又は低くする必要もなく、任意の組合せであってもよい。又、ヒータは各々分離して配置される必要はなく、例えば1つのヒータがU字形状に配置されてもよい。
【0041】
又、ヒータ部5は蓋板2にあるが、必ずしも蓋板2にある必要はなく基板3にあってもよい。又、試料注入部4および試料排出部7は、基板3にのみ形成されてもよい。又、ヒータ部5は必ずしも1つである必要はなく、2つ以上であってもよい。したがって、例えば少なくとも2つ並列に配置された反応流路8が2つの異なるヒータ部5を共有していてもよい。
【0042】
又、反応流路8は繰り返された複数の温度サイクル領域を通る部分を、必ずしも直線状にする必要はなく、半円、半楕円等の曲線状を有していてもよい。これによって、反応流体の送液抵抗を抑えることができるため、反応流路8内の反応流体の一様な流れを形成することができる。又、温度サイクル領域を交差して通る反応流路8は直交して通ることが好ましい。
【0043】
又、少なくとも2つ並列に配置された反応流路8は同じ試料注入部4から接続されていてもよい。これによって、同じ反応流体が少なくとも2つの反応流路8を通ることができるため、得られる測定値は信頼性の高いものとなる。
【0044】
又、試料注入部4および試料排出部7の数は並列に配置される反応流路8の数に応じて変えられてもよい。又、試料注入部4および試料排出部7の数は、並列に配置された反応流路8の数に応じて各々同じであってもよく又は異なっていてもよい。
【0045】
以上のことから、本発明のデバイス1は、繰り返された複数の温度サイクル領域を通過するように反応流路8がデバイス1内に形成されることによって、
(1)反応流路8を蛇行させることなく形成できること
(2)反応流路8を蛇行させることなく形成できることによって、1つのデバイス1内に複数の反応流路8を効率良く並列に配置することができること
(3)安定な反応流れを実現できることで、反応流体の流動制御および流動操作が容易となること
(4)デバイス1の小型化を図ることができること
の効果を有する。
【0046】
又、本発明のデバイス1自体が少なくとも2つ配列されていてもよい。この時のデバイス1同士の配列形態は、並列形態に限定されるものではなく、直列および/若しくは並列並びに/又はこれらの任意の組合せであってよい。これによって、各デバイス1の小型化を維持しつつ、幾重にも渡る異なる反応プロセスを必要とする場合に有効である。
【0047】
更に、本発明のデバイスは、種々の機能および形態を有した他の異なる機器等と組み合わせてもよいことは当業者には容易に理解されよう。例えば、本発明のデバイス1に試料を注入するための、および/又は本発明のデバイス1から試料を排出するためのシリンジポンプ等であってもよい。シリンジポンプの吐出圧は0.1MPa〜10MPaが好ましい。
【実施例】
【0048】
本実施例では、デバイス中で、PCRを実施する場合について説明する。PCR法は、DNA(デオキシリボ核酸)の数を増幅させる反応である。具体的には、増幅すべきDNA断片、ポリメラーゼ酵素、DNA増幅の種となるプライマを含んで成る反応溶液に対し、変性温度(約95℃)、アニール温度(約60℃)、伸長温度(約60℃〜75℃)を、30〜50サイクル程度繰り返すことによって、DNAを指数関数的に増加させるものである。
【0049】
本発明のデバイス1では、変性反応を行う高温の温度領域(例えば95℃〜100℃)と、アニール、伸長反応を行う低温の温度領域(例えば50℃〜75℃)をヒータにより形成する。ここでは、アニール反応と伸長反応を同じ温度で実施する場合について説明するが、これらを異なる温度とし、温度領域を別々に形成してもかまわない。各温度領域に滞在する時間は、反応流体の速度を制御して行う。反応流体の速度は、反応流路8の幅や深さを変えることによって制御する。各温度領域における反応流体の滞在時間は、例えば高温の温度領域に1秒〜5秒程度、低温の温度領域に4秒〜20秒程度であることが、反応流体を高速にする観点から好ましい。送液は毛管現象により行うことが小型化の観点から好ましく、例えば、反応流路8の幅、および深さを20μm〜100μmの範囲で設計すれば、所望の流速を得ることができる。
【0050】
試料注入部4から注入された反応溶液は、反応試薬が乾燥担持された反応試薬担持部9に到達し、反応試薬を溶解させる。反応試薬はポリメラーゼ酵素、プライマを含んで成り、凍結乾燥等により乾燥担持される。反応試薬が溶解した反応流体は毛管現象により反応流路8を伝播し、その際に、高温の温度領域と低温の温度領域を繰り返して通過することにより、PCRが実施される。反応後の反応流体は検出部10に到達し、電極との相互作用により、増幅したDNAの濃度を知ることができる。
【0051】
基板3の形成プロセス
本発明のデバイス1内の基板3の形成プロセスである。本実施例では、基板3としてシリコンを用いる。
(1)熱酸化
酸素および水素雰囲気の拡散炉中で、シリコン基板12の表裏面に500nm〜1μm程度のシリコン酸化膜11を形成する。
(2)シリコン酸化膜11除去
シリコン酸化膜11上にフォトリソグラフィによりレジストをパターニングし、反応性イオンエッチング(RIE)によりシリコン酸化膜11をエッチングする。
(3)Siエッチング
レジストを除去し、シリコンが露出した部分を、深堀りRIE(DRIE)により、例えば20μm〜100μmエッチングし、デバイスの試料注入部4の一部を構成する凹部、反応試薬担持部9、反応流路8、検出部10および試料排出部7の一部を構成する凹部のチャンネル14を形成する。このシリコンのエッチングはDRIEに限らず、例えばTMAH等を用いたウェット・エッチングでもよい。
(4)シリコン酸化膜11除去
表裏面のシリコン酸化膜11をフッ酸等によるエッチングにより除去する。
(5)熱酸化
反応流路8の親水性を高めるため、50nm〜100nm程度の酸化膜を形成する。
【0052】
蓋板2の形成プロセス
本発明のデバイス1内の蓋板2の形成プロセスである。本実施例では、蓋板2としてガラスを用いる。
(1)貫通孔加工
サンドブラストやドリル加工等を用いて、ガラス板15に貫通孔を形成する。
(2)金属16埋め込み
メッキ等により、貫通孔に金属16、例えば銅を充填する。
(3)ヒータ金属薄膜の形成
ヒータとなる金属薄膜17、例えば0.5μm〜1.5μm程度のアルミニウム薄膜をスパッタリングにより形成する。本発明では特に金属薄膜17の種類は限定しないが、例えばアルミニウムや金、白金などが好ましい。
(4)金属薄膜17のパターニング
スパッタリングにより成膜したアルミニウムをフォトリソグラフィ、およびエッチングによりパターニングする。
(5)保護膜形成
プラズマCVDにより、1μm〜2μm程度のシリコン酸化膜18を形成する。ヒータとなるアルミニウム薄膜が直接液に触れるのを防ぐ。
(6)平坦化
化学機械的研磨(CMP)により、成膜したシリコン酸化膜18を平坦化する。
(7)酸化膜パターニング
検出電極6を形成する部分の酸化膜をフォトリソグラフィ、フッ酸によるエッチングにより除去する。
(8)検出電極6の形成
検出電極6として、金または白金薄膜をスパッタリングにより形成する。
【0053】
基板3と蓋板2との接合
本発明のデバイス1内の基板3と蓋板2の接合プロセスである。
接合の方法としては、例えば陽極接合によって接合する。まず、基板3と蓋板2とを重ね、300℃〜400℃程度に加熱、保持する。次いで、基板3と蓋板2が所望の温度になったところで、基板3に対して400V〜800Vの電圧を蓋板2側に印加する。電圧を印加した状態で20分〜60分保持することで良好な接合を実現することができる。接合方法は、陽極接合に限るものではなく、例えば表面活性化接合等を用いれば常温で接合することも可能である。
【0054】
本実施例では、基板3としてシリコン、蓋板2としてガラスを用いる場合について説明したが、本発明のデバイスはこれに限らず、例えば樹脂のインプリント加工であってもよい。
最後に、本発明は下記の態様を有するものであることを確認的に付言しておく。

(第1態様):反応流路を有するマイクロ流体デバイスにおいて、
温度が異なる少なくとも2つの温度領域をそれぞれ含んで成る複数の温度サイクル領域が繰り返し設けられており、前記反応流路が複数の前記温度サイクル領域を通過するように形成されることを特徴とする、
マイクロ流体デバイス。
(第2態様):上記第1態様において、前記マイクロ流体デバイスがヒータ部を含んで成り、
ヒータ部は、異なる温度に設定された複数のヒータを有し、
ヒータ周縁域に温度領域が形成される、マイクロ流体デバイス。
(第3態様):上記第2態様において、マイクロ流体デバイスが、結合された基板と蓋板とを含んで成り、
ヒータ部は、少なくとも基板と蓋板のいずれか一方に有って成り、
反応流路は、基板と蓋板との間に形成されて成る、マイクロ流体デバイス。
(第4態様):上記第1態様〜第3態様のいずれかにおいて、少なくとも2つの反応流路が並列に配置されている、マイクロ流体デバイス。
(第5態様):上記第4態様において、並列に配置された少なくとも2つの反応流路が、同じヒータ部を共有する、マイクロ流体デバイス。
(第6態様):上記第4態様又は第5態様において、マイクロ流体デバイスが、試料注入部および試料排出部を含んで成り、
並列に配置された少なくとも2つの反応流路が、同じ試料注入部から接続されている、マイクロ流体デバイス。
(第7態様):上記第2態様〜第6態様のいずれかにおいて、ヒータが金属薄膜ヒータから成る、マイクロ流体デバイス。
(第8態様):上記第1態様〜第7態様のいずれかにおいて、反応流路内を流れる反応流体の濃度を測定するための検出電極を含んで成る、マイクロ流体デバイス。
(第9態様):上記第6態様〜第8態様のいずれかにおいて、試料注入部と複数の温度サイクル領域を通過する反応流路との間に、反応試薬が担持されている、マイクロ流体デバイス。
(第10態様):上記第1態様〜第9態様のいずれかのマイクロ流体デバイスが、直列に若しくは並列に又はこれらを組み合わせて配列されている、マイクロ流体デバイス。
【符号の説明】
【0055】
1 マイクロ流体デバイス
2 蓋板
3 基板
4 試料注入部
5 ヒータ部
5a ヒータ
5b ヒータ
6 検出電極
7 試料排出部
8 反応流路
8a 反応流路
8b 反応流路
8c 反応流路
8d 反応流路
8e 反応流路
9 反応試薬担持部
10 検出部
11 シリコン酸化膜
12 シリコン基板
13 酸化膜
14 チャンネル
15 ガラス板
16 金属
17 金属薄膜
18 シリコン酸化膜
19 検出電極設置部
図1
図2
図3
図4
図5