(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラスチック基材の表面に配設された前記多層膜の280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が、前記プラスチック基材の後面に配設された前記多層膜の反射率の平均値よりも大きい請求項1記載の眼鏡レンズ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施形態によって詳しく説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
(1) 第一の実施形態
図1は、本発明の光学部品の第一の実施形態を模式的に示す側断面図であり、
図1において符号1は眼鏡レンズ用の光学部品である。
この光学部品1は、プラスチック基材2と、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3とを備えて構成されている。プラスチック基材2の後面と無機多層膜3との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。この機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなっている。
【0015】
本実施形態において、プラスチック基材2の表面にも、無機多層膜3及び機能性薄膜4に相当する任意の膜が形成されているが、この膜の図示及び説明を省略する。
【0016】
プラスチック基材2は、例えば透明なプラスチックであるアクリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、メタクリル系樹脂、アリル系樹脂、エピスルフィド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエ−テルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)、ポリ塩化ビニル樹脂、ハロゲン含有共重合体、及びイオウ含有共重合体等によって形成されたものである。
また、本実施形態では、プラスチック基材2の屈折率(nd)としては、例えば1.50、1.60、1.67、及び1.74のうちから選択されたものが用いられる。なお、プラスチック基材2の屈折率を1.6以上にする場合、プラスチック基材2としては、アリルカーボネート系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、及びチオウレタン系樹脂等を使用することができる。
また、プラスチック基材2は、紫外線を吸収する機能を有することができる。即ち、プラスチック基材2を構成する樹脂は、紫外線吸収剤を含むことができる。
または、プラスチック基材2の面に配設される機能性薄膜4中に、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。この場合には、機能性薄膜4中の紫外線吸収剤成分がプラスチック基材2に含浸する。
更に、プラスチック基材2は透光性を有していれば透明でなくてもよく、着色されていてもよい。着色されたプラスチック基材2の透過率は、5〜85%とすることができる。
【0017】
機能性薄膜4は、上述のようにプラスチック基材2と無機多層膜3との間に配置され、プラスチック基材2に接して配設されたプライマー層5と、このプライマー層5に接し、かつ無機多層膜3に接して配設されたハードコート層6とからなっている。
プライマー層5は、プラスチック基材2とハードコート層6との密着性を良好にするためのもので、密着層として機能するようになっている。また、光学部品1に対する衝撃を吸収するためのものでもあり、衝撃吸収層としても機能するようになっている。
【0018】
このプライマー層5は、ポリウレタン系樹脂を主成分とするもので、本実施形態では、ポリウレタン系樹脂に例えば無機材料の微粒子を含有させたものである。なお、プライマー層5は、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、及び有機珪素系樹脂の少なくとも一種を含んでいてもよい。プライマー層5の厚み(実際の厚み)は、0.5μm以上1.0μm以下程度とすることができる。
【0019】
プライマー層5は、プライマー層5の形成材料液にプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上に所定の厚さで形成することができる。プライマー層5の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、上記のプライマー層5となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0020】
ハードコート層6は、プラスチック基材2を保護し、プラスチック基材2の損傷を抑制する機能を有するもので、耐擦傷性膜として機能するようになっている。
ハードコート層6は、例えばオルガノシロキサン系ハードコート層からなっている。オルガノシロキサン系ハードコート層は、オルガノシロキサン系樹脂に無機酸化物の微粒子を分散させたものである。無機酸化物としては、例えばルチル型の酸化チタンや、ケイ素、錫、ジルコニウム、及びアンチモンの酸化物が用いられる。また、ハードコート層6は、例えば特公平4−55615号公報に開示されているような、コロイド状シリカ含有の有機ケイ素系樹脂であってもよい。ハードコート層6の厚み(実際の厚み)は、2μm以上4μm以下程度とすることができる。
【0021】
ハードコート層6は、ハードコート層6の形成材料液に、プライマー層5を形成したプラスチック基材2を浸漬し、その後引き上げて乾燥することにより、プラスチック基材2上のプライマー層5上に所定の厚さで形成することができる。ハードコート層6の形成材料液としては、例えば水又はアルコール系の溶媒に、上記のハードコート層6となる樹脂と無機酸化物微粒子ゾルとを分散又は溶解し、混合した液を用いることができる。
【0022】
プライマー層5及びハードコート層6を含む機能性薄膜4については、その屈折率と、プラスチック基材2の屈折率とが実質的に同じであれば、機能性薄膜4とプラスチック基材2との界面での反射で生じる干渉縞の発生及び透過率の低下を抑制することができる。したがって、プラスチック基材2の屈折率に応じて、機能性薄膜4の屈折率が調整される。機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)の屈折率の調整は、機能性薄膜4の主成分となる樹脂の種類(物性)を選択すること、あるいは、その主成分となる樹脂に添加する微粒子の種類(物性)を選択すること等によって行うことができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
【0024】
無機多層膜3は、プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7を有し、高屈折率層7上に、この高屈折率層7の屈折率より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を有した複層に構成されている。無機多層膜3は、入射した光の反射を防止する反射防止膜としての機能を有する。
無機多層膜3は、本実施形態では380〜780nmの波長範囲(第1の波長範囲)における反射率の最大値が3〜50%であるように設計されている。
第1の波長範囲における反射率の最大値は、3%以上であり、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。第1の波長範囲における反射率の最大値を3%未満に設定した場合、このような眼鏡をかけた者は、充分な防眩効果等のフィルター機能が得られず、無機多層膜3による疲労予防効果及び眼病予防効果を得ることが難しい。
換言すれば、無機多層膜3における第1の波長範囲での反射率の最大値が3%未満の場合、眼鏡レンズの前面(表面、顔面と反対側)に入射する可視光は、100%に近い高い透過率で無機多層膜3を透過し、眼鏡レンズの後面(顔面側)に出射する(つまり、フィルター機能が得られない)。このため、疲労予防効果、及び眼病予防効果を得ることが難しい。
第1の波長範囲における反射率の最大値は、50%以下であり、35%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。第1の波長範囲における反射率の最大値を50%を超えて設定した場合、透過光量が低下し視認性が悪くなってしまう。
換言すれば、無機多層膜3における第1の波長範囲での反射率の最大値が50%を超える場合、眼鏡レンズの前面(表面、顔面と反対側)に入射する可視光は、50%以下の低い透過率で無機多層膜3を透過し、眼鏡レンズの後面(顔面側)に出射する(つまり、透過光の量が低下する)。このため、視認性が悪化する。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0025】
更に、無機多層膜3は、本実施形態では280〜380nmの波長範囲(第2の波長範囲)における反射率の平均値が20%以下であるように設計されている。第2の波長範囲における反射率の平均値は、15%以下であることが好ましい。
第2の波長範囲における平均反射率を20%以下に設定した場合、紫外領域の光を充分カットすることができる。
換言すれば、無機多層膜3における第2の波長範囲での平均反射率が20%以下の場合、眼鏡レンズの後面(顔面側)に入射する紫外光は、20%以下の低い反射率で無機多層膜3により反射され、眼鏡レンズの後面に(眼球に向かって)出射する。このため、眼球に入射する紫外領域の光の量を低減する(つまり、紫外領域の光をカットする)ことができる。
第2の波長範囲における平均反射率は、低いほどよいが、380〜780nmの第1の波長範囲における反射率(可視領域の光のカット能力)との兼ね合いから、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上が特に好ましい。
【0026】
無機多層膜3の上記波長域における反射率の特性が、上記範囲内にあれば、眼鏡レンズとして使用した場合、良好な視認性を維持したまま、充分な防眩効果等のフィルター機能が得られ、かつ眼球内に入射される紫外線を低減させることができる。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0027】
更に、本実施形態において、プラスチック基材2の表面に(図示しない)無機多層膜を配設することができる。
プラスチック基材2の表面に配設された無機多層膜の280〜380nmの波長範囲における平均反射率は、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3の280〜380nmの波長範囲における平均反射率よりも大きくすることができる。例えば、プラスチック基材2の後面に配設された無機多層膜3は、280〜380nmの波長範囲における平均反射率が3〜15%であり、プラスチック基材2の表面に配設される無機多層膜は、280〜380nmの波長範囲における平均反射率が20%以上となるように設計することができる。このような反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、紫外線の低減に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0028】
高屈折率層7は、本実施形態では、プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9と、第1層9上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10と、第2層10上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11と、からなる。
【0029】
第1層9は、ハードコート層6に接して設けられたもので、屈折率が2.0の二酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなっている。なお、第1層9を構成する高屈折率無機材料としては、ZrO
2以外にも、例えば二酸化チタン(TiO
2)や二酸化タンタル(Ta
2O
5)を用いることもできる。さらには、ジルコニウム、チタン、タンタルの複数種からなる合金の酸化物によって形成することもできる。また、これら以外にも、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化イットリウム(Y
2O
3)、二酸化ハフニウム(HfO
2)、Nb
2O
5(二酸化ニオブ)を用いることもできる。
【0030】
ここで、このように第1層9を高屈折率無機材料(ZrO
2)で形成することにより、第1層9とハードコート層6との間の密着性を得ることができる。すなわち、高屈折率無機材料からなる層(ZrO
2)とハードコート層6との密着性(密着力)のほうが、低屈折率無機材料からなる層(SiO
2)とハードコート層6との密着性(密着力)よりも大きいためである。また、機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)が省略された場合においても、高屈折率層(ZrO
2)とプラスチック基材2との密着性(密着力)のほうが、低屈折率層(SiO
2)とプラスチック基材2との密着性(密着力)よりも大きいため、密着性についてより有利になる。
【0031】
第2層10は、第1層9に接して設けられたもので、屈折率が1.47の二酸化珪素(SiO
2)からなっている。なお、第2層10を構成する低屈折率無機材料としては、SiO
2以外にも、例えば屈折率が1.36のMgF
2を用いることができる。
【0032】
第3層11は、第2層10に接して設けられたもので、第1層9と同様に二酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなっている。なお、この第3層11についても、第1層9と同様に、ZrO
2以外の高屈折率無機材料によって形成することもできる。
また、高屈折率層7については、上記のように第1層9、第2層10、第3層11の3層構造で形成することなく、上述した反射率についての条件を満たせば、2層、または4層以上で構成することもできる。
【0033】
低屈折率層8は、第3層11に接して設けられたもので、第2層10と同様に二酸化珪素(SiO
2)からなっている。
【0034】
上記構成の無機多層膜3は、例えば、
図6A、6B(後述する実施例2のレンズの後面)に示すように、光波長と、その光波長における無機多層膜3の反射率との関係を示す分光特性曲線において、280〜380nmの波長範囲に少なくとも一つ(例えば、一つ)の極値を有することができる。極値としては、極小値、極大値が挙げられ、極大値が好ましい。
【0035】
更に、無機多層膜3は、例えば、
図10A、10B(後述する実施例4のレンズの後面)に示すように、分光特性曲線において、380〜780nmの波長範囲に少なくとも一つ(例えば、一つ)の極値を有することができる。極値としては、極小値、極大値が挙げられ、同様に、極大値が好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、無機多層膜3の上、すなわちプラスチック基材2から最も遠い無機多層膜3の最外層(低屈折率層8)の上に、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含む撥水撥油膜12が設けられている。
撥水撥油膜12は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を主成分とするもので、撥液性(撥水性、撥油性)を有するものである。すなわち、撥水撥油膜12は、光学部品の表面エネルギーを低下させ、水やけ防止、汚れ防止の機能を発揮するとともに、光学部品表面のすべり性能を向上させ、その結果として、耐擦傷性を向上させることができる。
フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、下記一般式(1):
【0038】
(式(1)中、Rfは炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状パーフルオロアルキル基を表し、Yはヨウ素又は水素を表し、Y’は水素または炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Y”はフッ素又はトリフルオロメチル基を表し、R
1は加水分解可能な基を表し、R
2は水素又は不活性な一価の有機基を表し、a、b、c、dはそれぞれ0〜200の整数を表し、eは0又は1を表し、sおよびtはそれぞれ0〜2の整数を表し、wは1〜10の整数を表す。)及び下記一般式(2)〜(5):
【0043】
(式(2)〜(5)中、Xは酸素又は二価の有機基を表し、X’は加水分解可能な基を表し、X”は二価の有機シリコーン基を表し、R
3は炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、qは1〜3の整数を表し、m、n、oはそれぞれ0〜200の整数を表し、pは1又は2を表し、rは2〜20の整数を表し、kは0〜2の整数を表し、zはkが0又は1である場合に0〜10の整数を表す。)及び下記一般式(6):
【0044】
【化6】
(式(6)中、Rf
2は2価の直鎖状のパーフルオロポリエーテル基を表し、R
4は炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基を表し、R
5は加水分解可能な基を表し、iは0〜2の整数を表し、jは1〜5の整数を表し、uは2又は3を表す。)の中から選択される。
【0045】
ここで、撥水撥油膜12に優れた耐久性を付与するために、一般式(1)〜(5)の中から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物と、一般式(6)から選択されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物とを組み合わせて用いることができる。
一般式(1)〜(5)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、ダイキン工業株式会社製オプツール−DSX、オプツール−AES4などを用いることができる。また、一般式(6)で示されるフッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物としては、信越化学工業株式会社製KY−130、KY−164などを用いることができる。
【0046】
(2) 第二の実施形態
図2は、本発明の光学部品の第二の実施形態を模式的に示す側断面図である。
図2において符号1’は眼鏡レンズ用の光学部品である。
図2において、
図1に示した光学部品1と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
光学部品1’は、第一の実施形態の光学部品1の構造に加えて、プラスチック基材2の表面に配設された無機多層膜3’を備えて構成されている。プラスチック基材2の表面と無機多層膜3’との間には、本実施形態では機能性薄膜4が配設されている。機能性薄膜4は、本実施形態ではプライマー層5とハードコート層6とからなる。
【0047】
無機多層膜3’は、プラスチック基材2に、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とが交互に複数積層されてなる多層構造の高屈折率層7’を有し、高屈折率層7’上に、この高屈折率層7’の屈折率より低い屈折率の低屈折率無機材料からなる低屈折率層8’を有した複層に構成されている。
【0048】
高屈折率層7’は、本実施形態では、プラスチック基材2側に設けられた高屈折率無機材料よりなる第1層9’と、第1層9’上に設けられた低屈折率無機材料よりなる第2層10’と、第2層10’上に設けられた高屈折率無機材料よりなる第3層11’と、からなる。
本実施形態における第1層9’、第2層10’、第3層11’に用いられる無機材料としては、第一の実施形態における第1層9、第2層10、第3層11に用いられる無機材料と同様のものが挙げられる。
高屈折率層7’については、第一の実施形態における高屈折率層7と同様に、三層構造で形成することなく、二層、または四層以上で構成することもできる。
【0049】
本実施形態において、無機多層膜3’は、第一の実施形態の無機多層膜3と同様に、380〜780nmの波長範囲における反射率の最大値が3〜50%であり、かつ、280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計される。
プラスチック基材2の両面に、このような反射率の条件を満たす無機多層膜が配設されることにより、防眩効果、視認性、及び紫外線の低減に一層の効果を有する眼鏡レンズを得ることができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、機能性薄膜4がプライマー層5及びハードコート層6を含んで形成されているが、第一の実施形態と同様に、例えばプライマー層5とハードコート層6とのうち、いずれか一方、あるいは両方が省略されていてもよい。また、機能性薄膜4の構成膜として、例えばITO(Indium Tin Oxide)などからなる誘電体膜や金属膜を、プライマー層5及びハードコート層6に加えて配設してもよい。
また、本実施形態において、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、厚さ20nm以下の誘電体膜又は金属膜を配設してもよい。なお、誘電体膜又は金属膜の厚さは、10nm以下であってもよい。
また、本実施形態においては、多層膜として無機多層膜を用いているが、本発明の効果を損なわない限り、有機多層膜を用いてもよい。
【0051】
[光学部品の製造方法]
次に、光学部品1の実施形態に基づき、本発明の光学部品の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、プラスチック基材2に対して従来と同様の方法で機能性薄膜4(プライマー層5、ハードコート層6)を形成する工程と、プラスチック基材2を加熱する工程と、加熱によってプラスチック基材2を所定温度(例えば70℃)に調整した後、このプラスチック基材2上に無機多層膜3を形成する工程と、無機多層膜3上に撥水撥油膜12を形成する工程と、を備える。
【0052】
無機多層膜3を形成する工程は、高屈折率無機材料と低屈折率無機材料とを交互に複数積層して多層構造の高屈折率層7を形成する処理と、この高屈折率層7上に、低屈折率無機材料からなる低屈折率層8を形成する処理と、を有している。これら各層の形成には、例えば、真空蒸着法を用いることができる。
【0053】
図3は、無機多層膜3の各層を形成するための蒸着装置30の一例を示す図である。
図3に示すように蒸着装置30は、第1成膜室31と第2成膜室32と第3成膜室33とを備えて構成されている。これら第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33は、それぞれの内部が実質的に真空に減圧され、その状態に保持されるようになっている。また、蒸着装置30は、図示しない温調手段により、第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33のそれぞれの内部温度が調整可能になっている。
【0054】
蒸着装置30は、第1成膜室31、第2成膜室32、第3成膜室33のそれぞれの内部空間に、保持部材34を備えている。保持部材34は、その上面(保持面)が曲面状になっており、かつ、回転可能に構成されており、この上面に複数のプラスチック基材2を保持するようになっている。
【0055】
蒸着装置30の蒸着源35は、第2成膜室32の内側の空間に配置されている。蒸着源35は、第1蒸着源35A及び第2蒸着源35Bからなる。また、第2成膜室32には、蒸着源35にビームを照射可能な光源装置36が配置されている。光源装置36は、蒸着源35に対して電子を照射して蒸着源35の構成粒子を叩き出すことができる。
光源装置36から射出された電子が蒸着源35に照射されることによって、蒸着源35から、無機多層膜3を形成するための材料(ガス)が放出される。
例えば、光源装置36が第1蒸着源35Aにビームを照射することにより、ZrO
2の蒸気を第1蒸着源35Aから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第1層9と第3層11を形成することができる。同様に、第2蒸着源35Bにビームを照射することにより、SiO
2の蒸気を第2蒸着源35Bから放出させ、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に供給し蒸着させる。これにより、無機多層膜3の高屈折率層7における第2層10と、低屈折率層8を形成することができる。
【0056】
すなわち、第1蒸着源35Aに対するビームの照射と第2蒸着源35Bに対するビームの照射とを交互に行うことにより、保持部材34に保持されているプラスチック基材2上に、高屈折率無機材料からなる層と低屈折率無機材料からなる層とを交互に形成し積層することができる。ただし、本発明では、無機多層膜3を380〜780nmの波長範囲における反射率の最大値が3〜50%であり、かつ、280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計する。
なお、第1蒸着源35Aとして酸化ジルコニウム(ZrO)からなる蒸着源を用い、第2成膜室32の内部空間に酸素を導入しながら第1蒸着源35Aにビームを照射し、二酸化ジルコニウム(ZrO
2)からなる高屈折率無機材料層を形成するようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態の光学部品の製造方法において、無機多層膜3を形成する工程は、無機多層膜3を構成する層のうちの少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う工程を含んでいてもよい。本実施形態の光学部品の製造方法が、このような工程を含むことにより、無機多層膜を構成する高屈折率無機材料と低屈折率無機材料との間に、誘電体膜が配設される。
【0058】
図4は、イオンビームアシストを施すための成膜装置30’の一例を示す図である。成膜装置30’は、
図3で示された蒸着装置30の第2成膜室にイオンガン37が備え付けられた構成となっている。
図4において、
図3に示した蒸着装置30と同じ構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態においては、無機多層膜3を構成する高屈折率層7と低屈折率層8との間に、ITO等の誘電体膜を配設する際に、イオンビームアシストを施しながら成膜を行う。
なお、第2成膜室32内で無機多層膜3を構成する層のうち少なくとも一層を、イオンビームアシストを施しながら成膜を行えばよく、イオンビームアシストを施す対象は、誘電体膜に限定されない。
【0059】
本実施形態において、この成膜装置30’の第2成膜室は、プラスチック基材2上に高屈折率層7が成膜された基材を保持する保持部材34と、蒸着源35’と、蒸着源35’と離間して配置されたイオンガン37と、光源装置36を主体として構成されている。
また、成膜装置30’はその内部が実質的に真空に減圧され、プラスチック基材2の周囲を真空雰囲気に保持できるように構成されている。更に成膜装置30’には、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容器の内部を真空等の低圧状態で、かつ、酸素ガス、アルゴンガス、またはその他の不活性ガス雰囲気、あるいは、酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるように構成されている。
【0060】
蒸着源35’は、例えばITOを含む。光源装置36が蒸着源35’にビームを照射することによって、ガス化されたITOがその蒸着源35’から放出され、保持部材34に保持されているプラスチック基材2に供給される。これにより、高屈折率層7の上にITOからなる誘電体膜を形成することができる。
【0061】
イオンガン37は、第2成膜室32の内部に、イオン化させるガスを導入するガス導入部と、正面に引き出し電極を備えて構成されている。イオンガン37は、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。
【0062】
光源装置36は、イオンガン37と同等の構成をなし、蒸着源35’に対して電子を照射して蒸着源35’の構成粒子を叩き出すことができる。なお、成膜装置30’においては、蒸着源35’の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、蒸着源35’に高周波コイル等で電圧を印加して蒸着源35’の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、光源装置36を省略しても良い。
【0063】
次に上記構成の成膜装置30’を用いてプラスチック基材2上の高屈折率層7上にITOの誘電体膜を形成する場合について説明する。ITOの誘電体膜を形成するには、ITOの蒸着源35’を用いるとともに、イオンガン37から照射されるイオンを保持部材34の上面に照射できるようにする。次にプラスチック基材2を収納している成膜室32の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そして、イオンガン37と光源装置36を作動させる。
光源装置36から蒸着源35’に電子を照射すると、蒸着源35’の構成粒子が叩き出されて高屈折率層7上に飛来する。そして、高屈折率層7上に、蒸着源35’から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン37からアルゴンイオンをイオンビームとして照射する。
【0064】
本実施形態において、イオンビームアシストは、不活性ガス、酸素ガス、及び不活性ガスと酸素ガスの混合ガスから選ばれる少なくとも一種のガスを用いて行われる。不活性ガスとして、例えば、アルゴンを用いることができる。
【0065】
このようにして無機多層膜3を形成したら、これの上に撥水撥油膜12を形成する。
撥水撥油膜12の形成方法としては、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法などの湿式法、あるいは真空蒸着法などの乾式法がある。
湿式法の中では、ディッピング法が一般的であり、よく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を有機溶剤に溶解した液中に、無機多層膜3まで形成した光学部品を浸漬し、一定条件で引き上げ、乾燥させて成膜する方法である。有機溶剤としては、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、メタキシレンヘキサフルオライドなどが使用される。
【0066】
有機溶剤による希釈濃度は、0.01〜0.5重量%とすることができ、0.03〜0.1重量%が好ましい。濃度が低すぎると十分な膜厚の撥水撥油層12が得られないことがあり、また、濃度が高すぎると塗布むらが発生しやすく、材料コストも高くなってしまうことがある。
乾式法の中では、真空蒸着法がよく用いられる。この方法は、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を真空槽内で加熱して蒸発させ、撥水撥油膜12を形成する方法である。
【0067】
このようにして形成された光学部品1にあっては、無機多層膜3を380〜780nmの波長範囲における反射率の最大値が3〜50%であり、かつ、280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下であるように設計したので、前述したように反射特性及び視認性について、共に良好な性能を確保することができる。
また、光学部品の製造方法にあっては、このようなバランスのとれた優れた光学部品を確実に提供することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
≪実験1≫
ウレタン系合成樹脂基板上に、屈折率1.67のシリコン系ハードコート、及び屈折率1.67のプライマーコートを加熱硬化にて施し、以下に示すように真空蒸着法により成膜した。
【0070】
<実施例1>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.110λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.155λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.050λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.215λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.040λ、第7層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.080λ、第8層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.300λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例1のレンズの後面における分光特性を
図5Aに示す。
図5Aの分光特性の数値データを
図5Bに示す。
【0071】
<実施例2>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.070λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.125λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.045λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.130λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.300λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の方法にて、下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例2のレンズの後面における分光特性を
図6Aに示す。
図6Aの分光特性の数値データを
図6Bに示す。
【0072】
<実施例3>
後面(顔側):レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.060λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.075λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.360λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.250λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例3のレンズの後面における分光特性を
図7Aに示す。
図7Aの分光特性の数値データを
図7Bに示す。
【0073】
<比較例1>
後面(顔側):実施例と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.090λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.220λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.325λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
表面:実施例1の表面と同様の下記膜を積層した。
顔側の面と同様の装置を用いて、同様の加工雰囲気下で前処理後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.135λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.085λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.200λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.190λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
比較例1のレンズの後面における分光特性を
図8Aに示す。
図8Aの分光特性の数値データを
図8Bに示す。
【0074】
また、実施例1〜3のレンズの表面、及び比較例1のレンズの表面における分光特性を
図9Aに示す。
図9Aの分光特性の数値データを
図9Bに示す。
実施例1〜3、比較例1における各成膜層の詳細を表1に示す。尚、表1中に示す反射率の単位は%である。
【0075】
【表1】
【0076】
このようにして得られた光学部品の後面に関して、280〜380nmの波長範囲の平均反射率を比較した。結果として、比較例1に比べて実施例1は68%、実施例2は70%、実施例3は81%の紫外線カット率を有している事が確認された。
さらに、これらの光学部品を用いて装用評価を行った。
【0077】
(装用評価)
実施例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡を装用し、パソコンによるデスクワーク時に装用し、比較例に沿って作製した光学部品を装備した眼鏡との比較評価を行った。評価時の条件及び、判定項目は以下の通りである。
モニタ人数 :10名
ディスプレイ:17インチ液晶ディスプレイ
作業時間 :1時間/日
装用期間 :1週間
判定項目 :1.眩しさ 2.表示文字等の見え易さ 3.疲労感
各評価項目において実施例1〜3を比較例1と比較して、同等の効果を確認できたものを○と評価した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
このような装用比較評価を行った結果、視認性、及び疲労感については実施例1〜3と比較例1とで差がないことが確認された。380〜780nmの波長範囲における反射率の最大値が3〜50%であり、かつ、280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下である多層膜を、少なくとも後面に配設することにより、入射光によるわずらわしさがなく、視認性が向上することが確認され、さらに眼鏡レンズ装用者後方からの紫外線も約70〜80%カットされていることが確認された。
【0080】
≪実験2≫
屈折率1.67のウレタン系合成樹脂基板上に、以下の多層膜を真空蒸着にて形成し、後面の反射特性を測定した。
【0081】
<実施例4>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.075λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.130λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.070λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.220λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第7層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.120λ、第8層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.260λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例4のレンズの後面における分光特性を
図10Aに示す。
図10Aの分光特性の数値データを
図10Bに示す。
【0082】
<実施例5>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.130λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.065λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.055λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.195λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.060λ、第7層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.110λ、第8層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.290λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例5のレンズの後面における分光特性を
図11Aに示す。
図11Aの分光特性の数値データを
図11Bに示す。
【0083】
<
参考例6>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.140λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.125λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.065λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.050λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.170λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第7層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.090λ、第8層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.345λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
参考例6のレンズの後面における分光特性を
図12Aに示す。
図12Aの分光特性の数値データを
図12Bに示す。
【0084】
<実施例7>
レンズを真空槽内に設けられた回転するドームにセットし、真空槽内の温度を70度に加熱し、圧力が1.0×10
−3Paになるまで排気し、加速電圧500V、加速電流100mAの条件でArイオンビームクリーニングを60秒間施した後、プラスチック基材側から順次、第1層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.260λ、第2層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.125λ、第3層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.020λ、第4層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.040λ、第5層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.215λ、第6層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.065λ、第7層ZrO
2(屈折率2.00)を光学的膜厚0.045λ、第8層SiO
2(屈折率1.47)を光学的膜厚0.360λで積層した。尚、λは設計の中心波長で500nmとした。
実施例7のレンズの後面における分光特性を
図13Aに示す。
図13Aの分光特性の数値データを
図13Bに示す。
また、実施例4〜7における各成膜層の詳細を表3に示す。尚、表3中に示す反射率の単位は%である。
【0085】
【表3】
【0086】
図10A〜13Bに示すように、380〜780nmの波長範囲における反射率の最大値が3〜50%であり、かつ、280〜380nmの波長範囲における反射率の平均値が20%以下である多層膜は、紫外領域にて低い反射率を有し、可視領域にて特定の波長を反射する特性を有することが確認された。
【0087】
以上の結果から、本発明の態様によれば防眩効果を有し、視認性が良好で、かつ紫外領域の低い表面反射特性によって、後方から入射される紫外光の反射による眼球への入射を抑えることができる光学部品及びその製造方法を提供できることが明らかである。