(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5966066
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】塩味を有するクッキーの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 13/08 20060101AFI20160728BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20160728BHJP
【FI】
A21D13/08
A23L27/10 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-160544(P2015-160544)
(22)【出願日】2015年8月17日
【審査請求日】2015年10月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513232624
【氏名又は名称】宮川 香奈枝
(74)【代理人】
【識別番号】100126424
【弁理士】
【氏名又は名称】長島 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】宮川 香奈枝
【審査官】
厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−004769(JP,A)
【文献】
特開2006−314236(JP,A)
【文献】
特開2010−046005(JP,A)
【文献】
特開平11−127798(JP,A)
【文献】
特開2008−278834(JP,A)
【文献】
特開2009−055852(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0057157(US,A1)
【文献】
米国特許第05340598(US,A)
【文献】
甘くてしょっぱいキャラメルココアクッキー,cookpad [online],2009年 9月12日,<http://cookpad.com/recipe/909625> [retrieved on 2016-04-28]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 − 17/00
A23G 1/00 − 9/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FROSTI(STN)
FSTA(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に食塩を表面に付着させたことを特徴とする塩味を有するクッキーの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記食塩が山塩であることを特徴とする塩味を有するクッキーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩味を有するクッキーの製造方法及び塩味を有するクッキーに関し、更に詳しくは、焼成後にクッキーの表面に食塩を付着させ、甘味と共に塩味を楽しむことができる塩味を有するクッキーの製造方法及び塩味を有するクッキーに関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好の多様化により、下記特許文献1に示すように複数の味を有する菓子が求められるようになってきている。例えば、羊羹といえば従前は甘味を楽しむ菓子の代表例であったが、最近は甘味と共に塩味も楽しむ塩羊羹が人気となっている。
【0003】
従前でも甘味に食塩を添加することは行われていたが、隠し味として甘味を引きたてることを目的とするもので、添加する量も微少であり、食べているときに塩味を感じさせないよう添加していた。
【0004】
これに対し、上述の塩羊羹は、食べているときに口の中で甘味と共に塩味も感じて楽しむものであり、添加する量も従前に比較して格段に多い。
【0005】
しかし、塩味を感じて楽しむといっても世の中は健康志向であり、塩分の量は可能な限り少なくする必要があった。更に、焼成前に材料に食塩を添加すると塩なれ効果が発現され、日が経つと共に塩味が薄れていくとの問題点があり、下記特許文献2では、この塩なれ効果を抑制する方法について提案されているが、材料に含まれるナトリウムとカリウムの量を算出して調整するものであり、非常に手間のかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−279123
【特許文献2】特開2008−278834
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の不具合点を解決するためになされたものであって、その目的とするとこは、使用する食塩の量が少なくても甘味と共に塩味を楽しむことができ、しかも簡易な方法で塩なれ効果をなくすことができる塩味を有するクッキーの製造方法及び塩味を有するクッキーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る塩味を有するクッキーの製造方法は、食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に食塩を表面に付着させたことを特徴とするものである。
【0009】
更に、本発明の請求項2に係る塩味を有するクッキーの製造方法は、請求項1において、前記食塩が山塩であることを特徴とするものである。
【0010】
また、
本発明の塩味を有するクッキーは、穀類100質量%
に対し、糖類25乃至85質量%、油脂30乃至80質量%を備えた食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に0.05乃至1.0質量%の食塩を表面に付着させたことを特徴とするものである。
【0011】
更に、
本発明の塩味を有するクッキーは、穀類100質量%に対し、糖類25乃至85質量%、油脂30乃至80質量%を備えた食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に0.05乃至1.0質量%の山塩を表面に付着させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を備えた本発明は、食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に、食塩をクッキー本体の表面に付着させたので、表面に付着した食塩が溶けてクッキー本体に吸収されることがなく、また表面に付着した食塩が剥落することがないので、食するときにクッキーの甘味と共に表面に付着している食塩を口内で溶かし甘味と共に塩味を同時に楽しむことができる。
【0013】
更に、食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に、食塩をクッキー本体の表面に付着させたので、表面に付着した食塩が溶けてクッキー本体に吸収されることがなく、日が経つに従い塩味が薄れる塩なれ効果を防止し、製造後いつ食しても同レベルで甘味と共に塩味を楽しむことができる。
【0014】
更に、本発明の塩味を有するクッキーは、穀類100質量%に対し、糖類25乃至85質量%、油脂30乃至80質量%を備えた食塩を含まない材料を複数混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に0.05乃至1.0質量%の食塩を表面に付着させたので、少ない食塩の使用量で甘味と共に塩味を楽しむことができるクッキーとすることができる。
【0015】
更に、本発明に使用する食塩を山塩とすることで、クッキー本体の表面への付着を良くすると共に、甘味とのバランスをより一層良くすることできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の塩味を有するクッキーの製造方法及び塩味を有するクッキーについて、例示して説明する。
【0017】
本発明の食塩とは、一般調味料として使用されるものであって、精製塩、クッキングソルト、海塩、岩塩、天塩、山塩等をいい、これらの内の1種類又は2種類以上が用いられ、その割合についても限定されるものではない。
【0018】
本発明の山塩とは、会津地方大塩温泉の源泉から汲み上げた温泉水を煮詰めて結晶にしたものであり、通常の海塩とは異なる食塩である。
【0019】
本発明の食塩を含まない材料とは、原料に僅かに含まれている食塩成分等ではなく、製造工程において塩味を感じさせるために意識的に投入される食塩は含まないという意であり、例えば食塩が添加されていない無塩バター等を指す。
【0020】
本発明の穀類とは、主に小麦粉をいうが、コーンスターチ、米粉、アーモンドプードル等でも良く、これらの内の1種類又は2種類以上が用いられ、その割合についても限定されるものではない。
【0021】
本発明の糖類とは、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ等、果糖、麦芽糖、はちみつ等をいい、これらの内の1種類又は2種類以上が用いられ、その割合についても限定されるものではない。本発明のクッキーにおいて、糖類の含有量は、穀類100質量%に対し25乃至85質量%であることが好適であり、35乃至75質量%であることがより好適である。25質量%以下であると、甘味を感じることができず、85質量%以上であると、甘味を強く感じ、塩味とのバランスが悪くなってしまうためである。
【0022】
本発明の油脂は、主にバターをいうが、マーガリン、ショートニング、サラダ油、オリーブ油等であっても良く、これらの内の1種類又は2種類以上が用いられ、その割合についても限定されるものではない。本発明のクッキーにおいて、油脂の含有量は、穀類100質量%に対し30乃至80質量%であることが好適であり、40乃至70質量%であることがより好適である。30質量%以下であると、粉っぽく感じてしまうためであり、80質量%以上であると、油分が強くくどい感じになってしまうためである。なお、上述した通り、バターは無塩バターが、マーガリンは無塩マーガリンが用いられる。
【0023】
本発明のクッキーは、その他の材料として、公知のクッキー材料と同一のものが用いられ、卵、ドライフルーツ、ナッツ類、香料等が用いられる。ドライフルーツは、事前に洋酒等に漬けた加工されたものを使用しても良い。
【0024】
卵は、主に鶏卵が用いられるがその他の卵であっても良く、これらの内の1種類又は2種類以上が用いられ、その割合についても限定されるものではない。また、卵黄だけ用いても良い。尚、本発明のクッキーにおいて、卵の含有量は、穀類100質量%に対し50質量%以下であることが好適であり、卵も卵黄だけであることが好適である。
【0025】
本発明の複数の材料を混合し、混合した生地を焼成する方法は、公知の方法であり、混合方法としては、オールインミックス法、シュガーバッター法等で行われる。例えば、シュガーバッター法では、砂糖とバターを最初に撹拌混合後、撹拌した鶏卵を分割して投入し、最後に小麦粉を投入撹拌して生地を生成し、生地を好みのクッキー形状に成形後オーブンに投入し所定温度で所定時間焼成する。
【0026】
焼成後に、オーブンから取り出し、クッキー本体の表面温度が一定温度に達した段階で、クッキー本体の表面に付着するように食塩を振り掛ける。食塩を振り掛けるときの表面の温度は、30乃至70℃であることが好適であり、40乃至60℃であることがより好適である。30℃以下であると表面に振り掛けた食塩が付着しないか、若しくは付着した食塩が剥落するためであり、70℃以上であると表面に振り掛けた食塩が溶けてクッキー本体にしみ込んでしまうためである。振り掛ける食塩の量は、穀類100質量%に対し0.05乃至1.0質量%であることが好適であり、0.1乃至0.7質量%であることがより好適である。0.05質量%以下であると塩味を感じることができず、また1.0質量%以上であると、塩味を強く感じ、甘味とのバランスが悪いクッキーとなってしまうためである。
【実施例】
【0027】
以下本発明を実施例と比較例によりさらに詳しく説明する。単位は小麦粉100に対する質量%で表示する。尚、本発明は、以下に説明する内容に何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1乃至4:
小麦粉100、砂糖50、バター50、卵黄15、香料少々を混合して生地を生成し、所定形状に成型後にオーブンに投入し、180℃で15分焼成する。焼成後オーブンから取り出し、クッキー本体の表面温度が30℃(実施例1)、40℃(実施例2)、60℃(実施例3)、70℃(実施例4)、20℃(比較例1)、80℃(比較例2)の場合に、山塩0.2を其々の場合毎に全数のクッキー本体の表面に均等に振り掛け、山塩の付着状況及び塩味等を確認した。
【0029】
結果は、以下の表1に示す通りである。表面温度が30℃(実施例1)、40℃(実施例2)、60℃(実施例3)、70℃(実施例4)の全てにおいて、振り掛け直後の山塩のクッキー本体表面への付着は良好である。その後の表面からの剥落について、8時間経過時点で、実施例1で僅かに認められる程度であるが、実施例2乃至4は、全く認められなかった。また表面に付着した山塩が溶けることについて、1時間経過時点で、実施例1乃至3は全く認められなかったが、実施例4で僅かに認められる程度であった。食した時の塩味及び塩味と甘味とのバランスは、実施例1乃至4共に良好であり、実施例2及び3が特に良好であった。
しかし、表面温度が20℃(比較例1)の場合、振り掛け直後で山塩が殆ど表面に付着せず、付着した食塩も8時間経過時点で殆ど剥落してしまい、食した時に塩味を感じることはできず、甘味とのバランスを楽しむことができなかった。また、表面温度が80℃(比較例2)の場合、振りかけた山塩は表面に付着するが、1時間経過時点で、付着した山塩が殆ど溶けて表面から本体にしみ込んでしまい、食した時に塩味が不足した感じで、甘味とのバランスも甘味が勝っていて、塩味とのバランスを楽しむことができなかった。
【0030】
実施例5乃至8:
小麦粉100、砂糖50、バター50、卵黄15、香料少々を混合して生地を生成し、所定形状に成型後にオーブンに投入し、180℃で15分焼成する。焼成後オーブンから取り出し、クッキー本体の表面温度が50℃において、焼成後のクッキー全数に均等に山塩の振り掛ける量を0.05(実施例5)、0.1(実施例6)、0.7(実施例7)、1.0(実施例8)、0.03(比較例3)、2.0(比較例4)に変化させ、塩味等を確認した。
【0031】
結果は、以下の表2に示す通りである。焼成後のクッキー全数に均等に山塩の振り掛ける量が0.05(実施例5)、0.1(実施例6)、0.7(実施例7)、1.0(実施例8)の全ての場合、食した時に適度な塩味を感じ、甘味とのバランスも良好であった。実施例6及び7が特に良好であった。
これに対し、0.03(比較例3)の場合、食した時に塩味が物足りない感じで、甘味とのバランスを楽しむことはできなかった。また、2.0(比較例4)の場合、食した時に塩味が勝っていて、甘味とのバランスを楽しむことができなかった。
【0032】
実施例9乃至10:
小麦粉100、砂糖50、バター50、卵黄15、香料少々を混合して生地を生成し、所定形状に成型後にオーブンに投入し、180℃で15分焼成する。焼成後オーブンから取り出し、クッキー本体の表面温度が50℃において、焼成後のクッキー全数に均等に山塩の振り掛ける量を0.3(実施例9)、1.0(実施例10)とした場合と、山塩0.3(比較例5)、1.0(比較例6)、2.0(比較例7)、5.0(比較例8)の其々について、小麦粉100、砂糖50、バター50、卵黄15、香料少々とを合わせて混合して生地を生成し、所定形状に成型後にオーブンに投入し、180℃で15分焼成した場合とを、焼成直後と3日後について塩味等を確認した。
【0033】
結果は、以下の表3に示す通りである。
焼成後のクッキー全数に均等に山塩の振り掛ける量が0.3(実施例9)、1.0(実施例10)の場合、焼成直後に食した時に適度な塩味を感じ、甘味とのバランスも良好であった。実施例9が特に良好であった。この結果は、焼成から3日経過後でも変わることはなかった。
これに対し、山塩0.3(比較例5)、1.0(比較例6)、2.0(比較例7)の其々について、他の材料と一緒に混合した場合、焼成直後に食した時に、比較例7で僅かに潮合を感じることができたが、比較例5及び6では、塩味を殆ど感じることができず、比較例5乃至7では、塩味とのバランスを楽しむことはできなかった。また、焼成から3日経過後では、比較例5及び6と同様に、比較例7についても塩味をほとんど感じることができず、比較例5乃至7では、塩味とのバランスを楽しむことはできなかった。更に、山塩5.0(比較例8)を他の材料と一緒に混合した場合、焼成直後に食した時に適度な塩味を感じ、甘味とのバランスも良好であった。しかし、焼成から3日経過後では、塩味がやや不足した感じを与え、甘味とのバランスでも甘味が勝り、塩味とのバランスを楽しむことはできなかった。塩なれ効果の影響と考えられる。
【要約】 (修正有)
【課題】使用する食塩の量が少なくても、甘味と共に塩味を楽しむことができ、しかも簡易な方法で塩なれ効果をなくすことができる、塩味を有するクッキーの製造方法及び塩味を有するクッキーの提供。
【解決手段】穀類100質量%、糖類25乃至85質量%、油脂30乃至80質量%を備えた食塩を含まない材料を混合した生地を所定温度で所定時間焼成し、クッキー本体の表面温度が30乃至70℃まで冷却後に0.05乃至1.0質量%の山塩を表面に付着させた、塩味を有するクッキー。
【選択図】なし