特許第5966107号(P5966107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5966107
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】自動溶接方法及び自動溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/028 20060101AFI20160728BHJP
【FI】
   B23K9/028 C
   B23K9/028 D
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-18218(P2016-18218)
(22)【出願日】2016年2月2日
【審査請求日】2016年2月15日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】片山 翼
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−086109(JP,A)
【文献】 特開2003−053535(JP,A)
【文献】 特開2000−263234(JP,A)
【文献】 特開平09−262665(JP,A)
【文献】 特開昭56−066376(JP,A)
【文献】 特開昭54−155148(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0165540(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接方法であって、
前記管材の軸線周りの一方側に先行ヘッドを移動させながら溶接する先行溶接工程と、
前記先行溶接工程の後で行う、前記管材の軸線周りの他方側に後行ヘッドを移動させながら溶接する後行溶接工程と、
を備え、
前記先行ヘッドは、先行前方トーチと、前記先行前方トーチの前記軸線周りの他方側に配置された先行後方トーチと、を有し、
前記後行ヘッドは、後行前方トーチと、前記後行前方トーチの前記軸線周りの一方側に配置された後行後方トーチと、を有し、
前記先行溶接工程における前記先行後方トーチの溶接開始位置は、前記先行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側であり、
前記後行溶接工程における前記後行後方トーチの溶接開始位置は、前記後行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側であることを特徴とする自動溶接方法。
【請求項2】
管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接方法であって、
前記管材の軸線周りの一方側にヘッドを移動させながら溶接する先行溶接工程と、
前記先行溶接工程の後で行う、前記管材の軸線周りの他方側に前記ヘッドを移動させながら溶接する後行溶接工程と、
を備え、
前記ヘッドは、前方トーチと、前記前方トーチから離間して配置された後方トーチと、を有し、
前記先行溶接工程では、前記ヘッドの前記前方トーチよりも前記後方トーチを前記軸線周りの他方側に配置するとともに、前記後方トーチの溶接開始位置を前記前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側にし、
前記後行溶接工程では、前記ヘッドの前記前方トーチよりも前記後方トーチを前記軸線周りの一方側に配置するとともに、前記後方トーチの溶接開始位置を前記前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側にすることを特徴とする自動溶接方法。
【請求項3】
前記後行前方トーチの溶接開始位置は、前記先行後方トーチで形成されるとともに一部がはつり取られた先行後方ビードの前記軸線周りの他方側の端よりも前記軸線周りの一方側であり、
前記後行後方トーチの溶接開始位置は、前記先行前方トーチで形成されるとともに一部がはつり取られた先行前方ビードの前記軸線周りの他方側の端よりも前記軸線周りの一方側であることを特徴とする請求項1に記載の自動溶接方法。
【請求項4】
管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接装置であって、
前記管材の軸線周りの一方側に移動しながら溶接する先行ヘッドと、
前記管材の軸線周りの他方側に移動しながら溶接する後行ヘッドと、
前記先行ヘッド及び前記後行ヘッドの動作を制御する制御部と、
を備え、
前記先行ヘッドは、先行前方トーチと、前記先行前方トーチの前記軸線周りの他方側に配置された先行後方トーチと、を有し、
前記後行ヘッドは、後行前方トーチと、前記後行前方トーチの前記軸線周りの一方側に配置された後行後方トーチと、を有し、
前記制御部は、
前記先行ヘッドの前記先行後方トーチの溶接開始位置を、前記先行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側にし、
前記先行ヘッドに続いて溶接する前記後行ヘッドの前記後行後方トーチの溶接開始位置を、前記後行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側にすることを特徴とする自動溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動溶接方法及び自動溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプラインを敷設する際の固定管(管材)の端面同士の円周突合せ溶接において消耗電極式ガスシールドアーク溶接が使用される場合がある。この溶接では、2本の鋼管の突合せ端の外周に沿って自動溶接装置を構成する環状の走行レールを装着し、この走行レールに沿って溶接ヘッドを移動させながら溶接を行っている。
【0003】
溶接ヘッドは、走行レール上を移動する台車と、台車に搭載されたトーチを備えている。トーチに送給される溶接ワイヤがアーク放電に伴って発生する熱によって溶解することにより、固定管の突合せ端を溶接する。固定管は、管材の外面が広くなるように機械加工もしくはガス切断による加工が行われる。
この固定管の加工面は、一般的に開先と呼ばれる。この開先(壁)を十分に溶融させるために、トーチを揺動(ウィービング)させる。
【0004】
このような自動溶接装置を用いて固定管の突合せ端を円周溶接する場合、溶接ヘッドの1回の走行で得られる溶接ビードの厚さは、溶接欠陥の発生防止の観点から、あまり厚くできない。このため、肉厚の厚い固定管同士を溶接する場合には、溶接ヘッドを同一部分に複数回固定管の周方向に沿って移動させ溶接する多層盛り溶接を行っている。
【0005】
多層盛り溶接を効率よく行うための有効な装置として、1つの溶接ヘッドに2つのトーチを搭載したデュアルトーチ式の溶接ヘッドを装備した自動溶接装置が特許文献1等に開示されている。
この自動溶接装置は、1つの溶接ヘッドに円周に沿った溶接方向に一定の間隔を隔てて前方トーチと後方トーチを備えている。溶接ヘッドを溶接方向に所定の速度で移動させることにより、前方トーチでビードを形成しながら、該ビードの上に一定間隔離れた後方トーチによるビードを積層する。この自動溶接装置では、単一トーチの溶接ヘッドによる場合に比べて、2倍程度の能率で溶接することを可能にしている。
【0006】
前方トーチと後方トーチの2つのトーチによる溶接では、電極同士の磁気干渉(アーク干渉)が生じるため、2つのトーチが同時にアークを出した状態でアーク状態が安定するような溶接条件にて溶接しなければならない。溶接条件の設定が難しいという面はあるものの、後方トーチは、前方トーチによって形成された溶接ビードの温度が下がる前に溶接することができる。このため、2つのトーチによる溶接では、小電流で深い溶け込みを実現することができ、単一のトーチで溶接する場合と比較して溶接電流を下げた状態で溶接できるという利点がある。
【0007】
ところで、特許文献1に記載された従来のデュアルトーチ式の溶接ヘッドを備えた自動溶接装置の場合、溶接ヘッドを固定管の円周に沿って一方向に移動させながら溶接するシーケンスになっている。ここで、水平固定管の円周方向の位置をクロックポジションで表現し、最高点の位置を12時の位置、最低点の位置を6時の位置、12時と6時の中間点の一方側の位置を3時の位置、他方側の位置を9時の位置とする。3時の位置側を下側に向かう下進溶接とすると、9時の位置側は上側に向かう上進溶接となってしまう。つまり、一周するうちのいずれかの領域では上進溶接となるため、トータルの溶接速度を速くすることができないという課題がある。
【0008】
そこで、その課題を解消できるものとして、デュアルヘッド・デュアルトーチ式の自動溶接装置が特許文献2等において知られている。
2つの溶接ヘッドを装備した自動溶接装置では、溶接能率すなわち、溶接速度を向上させるため、通常は2つの溶接ヘッドを用いて下進振分け溶接を実施している。すなわち、2台の溶接ヘッドによりそれぞれ、12時の位置から3時の方向と12時の位置から9時の方向とに振分けて溶接を進め、6時の位置にてビードの繋ぎを行うという溶接シーケンスを実施している。
その際、12時の位置から3時の位置を経て6時の位置に先行側の溶接ヘッドを下向きに移動させて溶接を行う先行溶接工程と、12時の位置から9時の位置を経て6時の位置に後続側の溶接ヘッドを下向きに移動させて溶接を行う後続溶接工程とを、この順に所定の時間差をもって実行する。前記先行溶接工程における複数のトーチのそれぞれの溶接終端位置を同じ位置に設定して、かつ前記後続溶接工程における複数のトーチのそれぞれの溶接終端位置を同じ位置に設定して1周分の溶接を終了する。これにより、6時のビード繋ぎ部の位置での溶接欠陥をほぼ完全に解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5163600号公報
【特許文献2】特開2013−86109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献2では、6時の溶接欠陥を対象としているが、デュアルヘッド・デュアルトーチ式の下進振分け溶接においては、12時の位置は溶接開始部分にあたるため、溶接不連続部として同様に溶接欠陥が発生しやすいことが知られている。
例えば、溶接開始部は母材が冷えているため、当該部分のビードは開先となじみにくく、融合不良やブローホールといった欠陥が発生しやすい。したがって通常は、当該部はグラインダーによってはつり取って(削り取って)以降の溶接を行う。
【0011】
しかしながら、デュアルトーチ式の自動溶接において前方トーチと後方トーチが同時にアークスタートするような場合、前方トーチの溶接開始部ははつり取られないまま後方トーチで重ねて溶接されるため、当該部に溶接欠陥が残るという問題が生じる。この溶接欠陥をはつり取る場合、前方トーチのビードと後方トーチのビードが重なった広範囲をはつり取る必要があるため、作業能率が低下してしまうという問題がある。
したがって、溶接開始部の溶接欠陥を防止するためには、全ての溶接開始部のビードを効率よくはつり取る方法を確立することが課題であるが、特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても溶接開始方法に関する記載はなされていない。
【0012】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、溶接開始部のビードを効率よくはつり取ることができる自動溶接方法及び自動溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の自動溶接方法は、管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接方法であって、前記管材の軸線周りの一方側に先行ヘッドを移動させながら溶接する先行溶接工程と、前記先行溶接工程の後で行う、前記管材の軸線周りの他方側に後行ヘッドを移動させながら溶接する後行溶接工程と、を備え、前記先行ヘッドは、先行前方トーチと、前記先行前方トーチの前記軸線周りの他方側に配置された先行後方トーチと、を有し、前記後行ヘッドは、後行前方トーチと、前記後行前方トーチの前記軸線周りの一方側に配置された後行後方トーチと、を有し、前記先行溶接工程における前記先行後方トーチの溶接開始位置は、前記先行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側であり、前記後行溶接工程における前記後行後方トーチの溶接開始位置は、前記後行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の自動溶接装置は、管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接装置であって、前記管材の軸線周りの一方側に移動しながら溶接する先行ヘッドと、前記管材の軸線周りの他方側に移動しながら溶接する後行ヘッドと、前記先行ヘッド及び前記後行ヘッドの動作を制御する制御部と、を備え、前記先行ヘッドは、先行前方トーチと、前記先行前方トーチの前記軸線周りの他方側に配置された先行後方トーチと、を有し、前記後行ヘッドは、後行前方トーチと、前記後行前方トーチの前記軸線周りの一方側に配置された後行後方トーチと、を有し、前記制御部は、前記先行ヘッドの前記先行後方トーチの溶接開始位置を、前記先行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側にし、前記先行ヘッドに続いて溶接する前記後行ヘッドの前記後行後方トーチの溶接開始位置を、前記後行前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側にすることを特徴としている。
【0015】
この発明によれば、先行前方トーチで形成された先行前方ビードの軸線周りの一方側の端部が先行後方トーチで形成された先行後方ビードから露出する。同様に、後行前方トーチで形成された後行前方ビードの軸線周りの他方側の端部が後行後方トーチで形成された後行後方ビードから露出する。
【0016】
また、本発明の他の自動溶接方法は、管材の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部を溶接する自動溶接方法であって、前記管材の軸線周りの一方側にヘッドを移動させながら溶接する先行溶接工程と、前記先行溶接工程の後で行う、前記管材の軸線周りの他方側に前記ヘッドを移動させながら溶接する後行溶接工程と、を備え、前記ヘッドは、前方トーチと、前記前方トーチから離間して配置された後方トーチと、を有し、前記先行溶接工程では、前記ヘッドの前記前方トーチよりも前記後方トーチを前記軸線周りの他方側に配置するとともに、前記後方トーチの溶接開始位置を前記前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの一方側にし、前記後行溶接工程では、前記ヘッドの前記前方トーチよりも前記後方トーチを前記軸線周りの一方側に配置するとともに、前記後方トーチの溶接開始位置を前記前方トーチの溶接開始位置よりも前記軸線周りの他方側にすることを特徴としている。
【0017】
また、上記の自動溶接方法において、前記後行前方トーチの溶接開始位置は、前記先行後方トーチで形成されるとともに一部がはつり取られた先行後方ビードの前記軸線周りの他方側の端よりも前記軸線周りの一方側であり、前記後行後方トーチの溶接開始位置は、前記先行前方トーチで形成されるとともに一部がはつり取られた先行前方ビードの前記軸線周りの他方側の端よりも前記軸線周りの一方側であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明において、請求項1に記載の自動溶接方法及び請求項4に記載の自動溶接装置によれば、溶接開始部のビードである先行前方ビード、先行後方ビードの軸線周りの他方側の端部、及び後行前方ビード、後行後方ビードの軸線周りの一方側の端部を効率よくはつり取ることができる。
請求項2に記載の自動溶接方法によれば、先行ヘッド及び後行ヘッドを1台のヘッドで兼ねることができる。
請求項3に記載の自動溶接方法によれば、積層されたビード全体としての厚さが管材の周方向の位置により薄くなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態の自動溶接装置の全体構成を示す図である。
図2】同自動溶接装置で溶接する鋼管の突合わせ部の断面図である。
図3】同自動溶接装置の先行ヘッドの側面図である。
図4】同自動溶接装置の後行ヘッドの側面図である。
図5】本発明の一実施形態における自動溶接方法を示すフローチャートである。
図6】同自動溶接方法の先行溶接工程で先行前方ビードを形成する状態を説明する断面図である。
図7】同先行溶接工程で先行後方ビードを形成する状態を説明する断面図である。
図8】同自動溶接方法の先行はつり取り工程で先行前方ビードの端部及び先行後方ビードの端部をはつり取った状態を説明する断面図である。
図9】同自動溶接方法の後行溶接工程で後行前方ビードを形成する状態を説明する断面図である。
図10】同後行溶接工程で後行後方ビードを形成する状態を説明する断面図である。
図11】同自動溶接方法の後行はつり取り工程で後行前方ビードの端部及び後行後方ビードの端部をはつり取った状態を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る自動溶接装置の一実施形態を、図1から図11を参照しながら説明する。
図1及び2に示すように、本実施形態の自動溶接装置1は、一対の鋼管(管材)P1の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部P3を溶接する消耗電極式ガスシールドアーク自動溶接装置である。なお、図2では一対の鋼管P1及び後述するクランプ6のみを示している。
一対の鋼管P1は、銅裏当て6aを有するクランプ6により、互いに同軸となるように固定されている。
本自動溶接装置1は、鋼管P1の外周面に取付けられたガイドレール10と、ガイドレール10上を移動する先行ヘッド15、後行ヘッド20と、溶接ワイヤW1(図3参照)をヘッド15、20に供給するワイヤフィーダ25と、鋼管P1とヘッド15、20の後述するトーチ17、18、22、23との間に電圧を印加する溶接電源30と、ヘッド15、20にシールドガスを供給するシールドガス供給系35と、ヘッド15、20の動作を制御する制御部40とを備えている。
【0021】
図3に示すように、先行ヘッド15は、ヘッド本体16に設けられた、図示しない搬送部、先行前方トーチ17、及び先行後方トーチ18を有している。
搬送部は、ガイドレール10上に配置された車輪部や、車輪部を回転させる車輪駆動モータを有している。車輪駆動モータを駆動して車輪部を回転させることで、先行ヘッド15は、ガイドレール10上を鋼管P1の軸線C周りの一方側D1に移動しながら突合わせ部P3を溶接する。
先行後方トーチ18は、先行前方トーチ17の軸線C周りの他方側D2に配置されている。本実施形態では、トーチ17、18はヘッド本体16に固定されている。トーチ17、18内には図示しない貫通孔が形成され、貫通孔を通して溶接ワイヤW1が先端側に送り出される。トーチ17、18は、溶接ワイヤW1に電気的に接続されている。
【0022】
後行ヘッド20は、先行ヘッド15と同様に構成されている。すなわち、図4に示すように、後行ヘッド20は、ヘッド本体21に設けられた、図示しない搬送部、後行前方トーチ22、及び後行後方トーチ23を有している。
搬送部は、ガイドレール10上に配置された車輪部や、車輪部を回転させる車輪駆動モータを有している。車輪駆動モータを駆動して車輪部を回転させることで、後行ヘッド20は、鋼管P1の軸線C周りの他方側D2に移動しながら突合わせ部P3を溶接する。
後行後方トーチ23は、後行前方トーチ22の軸線C周りの一方側D1に配置されている。本実施形態では、トーチ22、23はヘッド本体21に固定されている。トーチ22、23内には図示しない貫通孔が形成され、貫通孔を通して溶接ワイヤW1が先端側に送り出される。トーチ22、23は、溶接ワイヤW1に電気的に接続されている。
このように、先行ヘッド15の進行方向は軸線C周りの一方側D1であり、後行ヘッド20の進行方向は軸線C周りの他方側D2である。
【0023】
ワイヤフィーダ25は、図示しないドラム部に巻回されている溶接ワイヤWをトーチ17、18、22、23の貫通孔内に送り出す。
溶接電源30は、詳細には図示しないが、プラス側の端子が各トーチ17、18、22、23に電気的に接続され、マイナス側の端子が各鋼管P1に電気的に接続される。
シールドガス供給系35では、ガスボンベ36に配管37が接続されている。この配管37は適宜分岐されてヘッド15、20に接続されている。
ガスボンベ36からシールドガスを供給すると、供給されたシールドガスは先行前方トーチ17と溶接ワイヤWとの間を流れる。このシールドガスは、先行後方トーチ18と溶接ワイヤWとの間、後行前方トーチ22と溶接ワイヤWとの間、及び後行後方トーチ23と溶接ワイヤWとの間にも流れる。
【0024】
制御部40は、演算素子、メモリー、及び制御プログラム等で構成されている。制御部40は、ヘッド15、20、ワイヤフィーダ25、及び溶接電源30に接続され、これらを制御する。
【0025】
次に、以上のように構成された自動溶接装置1を用いた本実施形態の自動溶接方法について説明する。図5は本発明の一実施形態における自動溶接方法を示すフローチャートである。本自動溶接方法は、一対の鋼管P1で突合わせ部P3を構成する位置決め接工程(図5におけるステップS1)と、先行ヘッド15で突合わせ部P3を溶接して後述するビードB10、B20を形成する先行溶接工程(ステップS3)と、ビードB10、B20の端部をはつり取る先行はつり取り工程(ステップS5)と、後行ヘッド20で突合わせ部P3を溶接して後述するビードB30、B40を形成する後行溶接工程(ステップS7)と、ビードB30、B40の端部をはつり取る後行はつり取り工程(ステップS9)とを備える。
【0026】
まず、位置決め接工程S1において、使用者は、一対の鋼管P1の一方の鋼管P1の端面と他方の鋼管P1の端面とが対向するように配置し、開先である突合わせ部P3を構成する。このとき、一方の鋼管P1の軸線Cと他方の鋼管P1の軸線Cとが一致するとともに、各鋼管P1の軸線Cが水平面にほぼ平行になるように一対の鋼管P1を配置する。鋼管P1は、例えば鉄鋼で形成され、その外径は数十mm〜数百mm程度である。
このような位置に配置された一対の鋼管P1の相対位置を、一対の鋼管P1の内周面側に銅裏当て6aを配置しつつクランプ6により固定する。
鋼管P1の外周面にガイドレール10を取付ける。
【0027】
次に、先行溶接工程S3において、ガイドレール10上に先行ヘッド15の車輪部を、先行後方トーチ18が先行前方トーチ17の軸線C周りの他方側D2に位置するように配置する。シールドガス供給系35を操作して、先行ヘッド15の先行前方トーチ17と溶接ワイヤWとの間、及び先行後方トーチ18と溶接ワイヤWとの間にシールドガスを流す。
制御部40は、溶接電源30によりトーチ17、18と一対の鋼管P1との間に一定の電圧を印加させる。車輪駆動モータを駆動して車輪部を回転させることで、先行ヘッド15を鋼管P1の軸線C周りの一方側D1に一定の速度で移動させる。
【0028】
図3に示すように、鋼管P1の周方向において先行前方トーチ17が溶接開始位置Q1にきたときに先行前方トーチ17から溶接ワイヤW1を送り出す。溶接開始位置Q1は、鋼管P1の最高点の位置、すなわちクロックポジションで12時の位置とすることが好ましい。溶接ワイヤW1の先端部に、アークW2が発生する。
溶接ワイヤW1を送り出しつつ突合わせ部P3を溶接して、図6に示すように、溶接開始位置Q1から軸線C周りの一方側D1に、先行前方トーチ17によるアーク溶接で先行前方ビードB10を形成する。
アーク溶接が進行するにつれて鋼管P1の温度は上昇するが、先行前方ビードB10を形成した始点である先行前方ビードB10の軸線C周りの他方側D2の端部B11を形成したときには、先行前方ビードB10のアーク溶接を開始したばかりである。このため、母材である鋼管P1の温度が比較的上昇しにくく、先行前方ビードB10の端部B11に溶接欠陥が生じやすい。
【0029】
先行前方ビードB10を形成しながら、鋼管P1の周方向において先行後方トーチ18が溶接開始位置Q1よりも軸線C周りの一方側D1の溶接開始位置Q2にきたときに先行後方トーチ18から溶接ワイヤW1を送り出す。すなわち、制御部40は、先行ヘッド15の先行後方トーチ18の溶接開始位置Q2を、先行前方トーチ17の溶接開始位置Q1よりも軸線C周りの一方側D1にする。言い換えれば、先行後方トーチ18の溶接開始位置Q2を先行前方トーチ17の溶接開始位置Q1よりも先行ヘッド15の進行方向側(一方側D1)にする。
鋼管P1の内周面に沿った溶接開始位置Q1と溶接開始位置Q2との距離は、10〜20mmであることが好ましい。
【0030】
これにより、図7に示すように、先行前方ビードB10上であって溶接開始位置Q2から軸線C周りの一方側D1に、先行後方トーチ18によるアーク溶接で先行後方ビードB20を形成する。
前述のように溶接開始位置Q1と溶接開始位置Q2とをずらすことで、先行前方ビードB10の軸線C周りの他方側D2の端部B11が先行後方ビードB20から露出する。
先行後方ビードB20を形成した始点である先行前方ビードB10の軸線C周りの他方側D2の端部B21を形成したときには、先行後方ビードB20のアーク溶接を開始したばかりである。このため、母材である鋼管P1の温度が比較的上昇しにくく、先行後方ビードB20の端部B21に溶接欠陥が生じやすい。
なお、ビードB10、ビードB20は、鋼管P1の最低点の位置、すなわちクロックポジションで6時の位置まで形成する。
【0031】
ビードB10、ビードB20を形成したら、ワイヤフィーダ25によりトーチ17、18から溶接ワイヤW1を送り出すのを止める。溶接電源30によりトーチ17、18と一対の鋼管P1との間に一定の電圧を印加するのを止める。シールドガス供給系35を操作して、先行ヘッド15のトーチ17、18にシールドガスを流すのを止める。
ガイドレール10から先行ヘッド15を取り外す。
【0032】
次に、先行はつり取り工程S5において、図8に示すように、先行前方ビードB10の端部B11及び先行後方ビードB20の端部B21をグラインダー等ではつり取る。端部B11及び端部B21の周方向の長さは、例えば10〜20mmである。
端部B11及び端部B21が周方向に連続するように並ぶことで、端部B11及び端部B21を効率的にはつり取ることができる。
この結果、先行前方ビードB10の軸線C周りの他方側D2の端B12が、先行前方ビードB10のうち最も軸線C周りの他方側D2の部分になる。同様に、先行後方ビードB20の軸線C周りの他方側D2の端B22が、先行後方ビードB20のうち最も軸線C周りの他方側D2の部分になる。
【0033】
次に、後行溶接工程S7において、ガイドレール10上に後行ヘッド20の車輪部を、図4に示すように、後行後方トーチ23が後行前方トーチ22の軸線C周りの一方側D1に位置するように配置する。このとき、使用者は、先行後方ビードB20の端B22よりも後行前方トーチ22が軸線C周りの一方側D1に配置されるように、鋼管P1に対する後行ヘッド20の位置を調節する。このときの後行前方トーチ22の鋼管P1の周方向の位置が、後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3となる。すなわち、後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3を、先行後方ビードB20の端B22よりも軸線C周りの一方側D1にする。
シールドガス供給系35を操作して、後行ヘッド20の後行前方トーチ22と溶接ワイヤWとの間、及び後行後方トーチ23と溶接ワイヤWとの間にシールドガスを流す。
制御部40は、溶接電源30によりトーチ22、23と一対の鋼管P1との間に一定の電圧を印加する。車輪駆動モータを駆動して車輪部を回転させることで、後行ヘッド20を鋼管P1の軸線C周りの他方側D2に一定の速度で移動させる。
【0034】
後行前方トーチ22から溶接ワイヤW1を送り出しつつ突合わせ部P3を溶接して、図9に示すように、溶接開始位置Q3から軸線C周りの他方側D2に、後行前方トーチ22によるアーク溶接で後行前方ビードB30を形成する。後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3と先行後方ビードB20の端B22との位置を調節したことで、先行後方ビードB20と後行前方ビードB30とが鋼管P1の周方向に重なる。
後行前方ビードB30を形成しながら、鋼管P1の周方向において後行後方トーチ23が溶接開始位置Q3よりも軸線C周りの他方側D2の溶接開始位置Q4にきたときに後行後方トーチ23から溶接ワイヤW1を送り出す。すなわち、制御部40は、先行ヘッド15に続いて溶接する後行ヘッド20の後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4を、後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3よりも軸線C周りの他方側D2にする。言い換えれば、後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4を後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3よりも後行ヘッド20の進行方向側(他方側D2)にする。
【0035】
鋼管P1の内周面に沿った溶接開始位置Q3と溶接開始位置Q4との距離は、10〜20mmであることが好ましい。このときさらに、後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4を先行前方ビードB10の端B12よりも軸線C周りの一方側D1にする。
【0036】
これにより、図10に示すように、後行前方ビードB30上であって溶接開始位置Q4から軸線C周りの他方側D2に、後行後方トーチ23によるアーク溶接で後行後方ビードB40を形成する。
前述のように溶接開始位置Q3と溶接開始位置Q4とをずらすことで、後行前方ビードB30の軸線C周りの一方側D1の端部B31が後行後方ビードB40から露出する。後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4と先行前方ビードB10の端B12との位置を調節したことで、先行前方ビードB10と後行後方ビードB40とが周方向に重なる。
なお、ビードB30、ビードB40は、クロックポジションで6時の位置であって、ビードB10、ビードB20に重なる位置まで形成する。
【0037】
ビードB30、ビードB40を形成したら、ワイヤフィーダ25によりトーチ22、23から溶接ワイヤW1を送り出すのを止める。溶接電源30によりトーチ22、23と一対の鋼管P1との間に一定の電圧を印加するのを止める。シールドガス供給系35を操作して、後行ヘッド20のトーチ22、23にシールドガスを流すのを止める。
ガイドレール10から後行ヘッド20を取り外す。
【0038】
次に、後行はつり取り工程S9において、図11に示すように、後行前方ビードB30の端部B31及び後行後方ビードB40の端部B41をグラインダー等ではつり取る。これらの端部B31、B41も前述のように溶接欠陥が生じやすいからである。
これにより、ビードB10、B20、B30、B40(以下、ビードB10等と称する)の全体としての厚さを、鋼管P1の周方向の位置によらずほぼ等しくする。
【0039】
以上の先行溶接工程S3から後行はつり取り工程S9により、鋼管P1の全周にわたり2層分のビードが、先行ヘッド15及び後行ヘッド20の振分け溶接により形成される。先行溶接工程S3から後行はつり取り工程S9までを必要な回数繰り返し、一対の鋼管P1を溶接する。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の自動溶接装置1及び自動溶接方法によれば、先行前方ビードB10の端部B11が先行後方ビードB20から露出するとともに、後行前方ビードB30の端部B31が後行後方ビードB40から露出する。ビードB10等の溶接開始部の端部が露出するので、これらの端部を効率よくはつり取ることができる。
これにより、ビードB10等の溶接開始部に溶接キズが発生するのを低減させることができる。
【0041】
後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3を、先行後方ビードB20の端B22よりも軸線C周りの一方側D1にすることで、先行後方ビードB20と後行前方ビードB30とが鋼管P1の径方向に重なる。後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4を先行前方ビードB10の端B12よりも軸線C周りの一方側D1にすることで、先行前方ビードB10と後行後方ビードB40とが径方向に重なる。したがって、ビードB10等の全体としての厚さが周方向の位置により薄くなるのを抑制することができる。
先行後方ビードB20と後行前方ビードB30とが径方向に重なることで、ビードB20、30の余盛不足を解消できる。
先行前方ビードB10と後行後方ビードB40とが径方向に重なることで、後行後方ビードB40のみで溶接される部分を無くし、余盛不足を解消できる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、ビードB10等が比較的厚いこと等によりビードB10等の全体としての厚さが周方向の位置により変化しても問題が無い場合が考えられる。この場合には、後行前方トーチ22の溶接開始位置Q3は先行後方ビードB20の端B22よりも軸線C周りの他方側D2であってもよいし、後行後方トーチ23の溶接開始位置Q4は先行前方ビードB10の端B12よりも軸線C周りの他方側D2であってもよい。
【0043】
先行ヘッド15及び後行ヘッド20を1台のヘッドで兼用して、本自動溶接方法を行ってもよい。
この場合、ヘッドは、前方トーチと、前方トーチから離間して配置された後方トーチとを有する。1台のヘッドを先行溶接工程S3では軸線C周りの一方側D1に移動させ、後行溶接工程S7では軸線C周りの他方側D2に移動させる。先行溶接工程S3では、ヘッドの前方トーチよりも後方トーチを軸線C周りの他方側D2に配置するとともに、後方トーチの溶接開始位置を前方トーチの溶接開始位置よりも軸線周りの一方側にする。後行溶接工程S7では、ヘッドの前方トーチよりも後方トーチを軸線C周りの一方側に配置するとともに、後方トーチの溶接開始位置を前方トーチの溶接開始位置よりも軸線周りの他方側D2にする。
このような自動溶接方法でも、本実施形態の自動溶接方法と同様の効果を奏することができる。
【0044】
ヘッド15、20はそれぞれ2つのトーチを有するとしたが、ヘッド15、20が3つ以上のトーチを有するとしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 自動溶接装置
15 先行ヘッド
17 先行前方トーチ
18 先行後方トーチ
20 後行ヘッド
22 後行前方トーチ
23 後行後方トーチ
40 制御部
B10 先行前方ビード
B20 先行後方ビード
C 軸線
D1 一方側
D2 他方側
P1 鋼管(管材)
P3 突合わせ部
Q1、Q2、Q3、Q4 溶接開始位置
S3 先行溶接工程
S7 後行溶接工程
【要約】
【課題】溶接開始部のビードを効率よくはつり取ることができる自動溶接方法を提供する。
【解決手段】管材P1の端面同士を突合わせて構成した突合わせ部P3を溶接する自動溶接方法であって、管材の軸線C周りの一方側D1に先行ヘッドを移動させながら溶接する先行溶接工程と、先行溶接工程の後で行う、管材の軸線周りの他方側D2に後行ヘッド20を移動させながら溶接する後行溶接工程とを備え、先行ヘッドは、先行前方トーチと、先行前方トーチの軸線周りの他方側に配置された先行後方トーチと、を有し、後行ヘッドは、後行前方トーチ22と、後行前方トーチの軸線周りの一方側に配置された後行後方トーチ23と、を有し、先行後方トーチの溶接開始位置は、先行前方トーチの溶接開始位置よりも軸線周りの一方側であり、後行後方トーチの溶接開始位置Q4は、後行前方トーチの溶接開始位置Q3よりも軸線周りの他方側である。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11