(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966168
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】親油性化合物の改善されたリポソーム処方
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20160728BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20160728BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20160728BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20160728BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20160728BHJP
A61K 8/14 20060101ALI20160728BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20160728BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20160728BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20160728BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/42
A61K8/14
A61K31/337
A61P35/00
A61K9/10
A61K47/12
【請求項の数】45
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2013-510641(P2013-510641)
(86)(22)【出願日】2011年5月20日
(65)【公表番号】特表2013-526563(P2013-526563A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011058275
(87)【国際公開番号】WO2011144745
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年2月10日
(31)【優先権主張番号】61/347,222
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10163643.9
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516170783
【氏名又は名称】シンコアー バイオテクノロジー カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】ハース,ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ファトラー,ウルスラ
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−535730(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01795184(EP,A1)
【文献】
特表2003−521508(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/005754(WO,A1)
【文献】
特開平02−001404(JP,A)
【文献】
特表平10−502667(JP,A)
【文献】
特表2006−516650(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/047689(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A61K 8/14
A61K 31/337
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム調製物を製造するためのプロセスであって:
a)水性相中にリポソーム懸濁液を含む第1リポソーム調製物であって、前記リポソームが少なくとも1つの膜を含み、前記膜が水性相のリポソームに封入された容積を封入し、前記水性相が少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含み、初期全オスモル濃度O1を有し、前記第1リポソーム調製物がリポソーム膜中に少なくとも1種類のタキサンを含む、第1リポソーム調製物を提供することと、
b)その後、第2のリポソーム調製物を得るために前記調製物の水性相中にオスモル勾配を生じさせることであって、リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O内よりも低く、少なくとも1種類のタキサンが前記第2のリポソーム調製物のリポソーム膜中に組み入れられる、オスモル勾配を生じさせることと、
を含み、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
プロセス。
【請求項2】
脱水された調製物を得るために前記第2のリポソーム調製物を脱水することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記脱水された調製物を再水和することをさらに含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップa)におけるリポソーム調製物の水性相の初期全オスモル濃度O1を減少させて、オスモル濃度O1よりも低い全オスモル濃度O2ストレスを受けたリポソーム調製物を得ることによってステップb)を実施する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップa)におけるリポソーム調製物を、O1よりも低いオスモル濃度を有する水性媒体で希釈することによってステップb)を実施する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
O1よりも低いオスモル濃度を有する水性媒体に対してステップa)での調製物を透析することによってステップb)を実施する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
ステップb)を:
b1)脱水されたリポソーム調製物を得るために、ステップa)におけるリポソーム調製物を脱水すること、および
b2)前記脱水されたリポソーム調製物を、ストレスを受けたリポソーム調製物を産生する条件下で再水和すること、
によって実施する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記再水和が水性媒体中で実施される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
再水和に使用する水性媒体の容積が、各量の脱水されたリポソーム組成物を得るために脱水されたリポソーム調製物の容積よりも大きい、請求項7または8に記載のプロセス。
【請求項10】
O2がO1よりも少なくとも10mOsm低い、請求項4〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
O2がO1よりも少なくとも50mOsm低い、請求項4〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
O2がO1よりも少なくとも100mOsm低い、請求項4〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
リポソームに封入された容積の外側の水性相とリポソームに封入された容積の内側の水性相との間の浸透勾配が、リポソーム調製物の生産プロセス中の異なる段階で1回または複数回変更される、請求項1〜12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
脱水を室温よりも高い温度で実施する、請求項1〜13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
脱水を噴霧乾燥によって実施する、請求項1〜14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
少なくとも1種類のタキサンを含むリポソーム調製物を製造するためのプロセスであって:
i)ストレスを受けたリポソーム調製物を提供することと、
ii)前記ストレスを受けたリポソーム調製物を少なくとも1種類のタキサンとともにインキュベートすることであって、それにより、リポソーム膜中に組み入れられた少なくとも1種類のタキサンを有するストレスを受けたリポソーム調製物を得る、インキュベートすることと、
を含み、
リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O内よりも低く、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
プロセス。
【請求項17】
非可溶化された化合物をリポソーム調製物から分離することをさらに含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
非可溶化された化合物をリポソーム調製物からろ過または遠心分離によって分離することをさらに含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
ステップii)が、非可溶化形態のタキサンとともに実施される、請求項16〜18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップi)がリポソーム調製物を提供することにより実施され、少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質が調製物の水性相中に含まれ、リポソームに封入された容積の外側よりも高いオスモル濃度を有する水性相がリポソームに封入された容積の内側に存在する、請求項16〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質がリポソームの内側および外側に存在する、請求項1〜20のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
浸透圧に影響を与える物質が、サッカライド、糖アルコール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、水溶性ポリマー、有機または無機塩、イオンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
サッカライドが、モノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドまたはポリサッカライドから選択される、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記サッカライドが、トレハロースである、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
タキサンが、パクリタキセルである、請求項1〜24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
タキサンが、リポソームの膜区画中のみに存在する、請求項1〜25のいずれか1項記載のプロセス。
【請求項27】
水性相中にリポソーム懸濁液を含むリポソーム調製物であって、リポソームが少なくとも1つの膜を含み、少なくとも1種類のタキサンがリポソーム膜中に存在し、そして少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質が水性相中に存在し、リポソームの内側の水性相のオスモル濃度O内が、リポソームの外側の水性相のオスモル濃度O外よりも高く、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
リポソーム調製物。
【請求項28】
O内とO外との間の差が少なくとも10mOsmである、請求項27に記載のリポソーム調製物。
【請求項29】
O内とO外との間の差が少なくとも50mOsmであり、2000mOsmまでである、請求項27に記載のリポソーム調製物。
【請求項30】
水性相中にリポソームの懸濁液を含むリポソーム調製物であって、リポソームが少なくとも1つの膜を含み、少なくとも1種類のタキサンがリポソーム膜中に存在し、少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質が水性相中に存在し、リポソームに封入された容積の内側の水性相が、リポソームに封入された容積の外側の水性相よりも高い密度を有し、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
リポソーム調製物。
【請求項31】
リポソームが少なくとも1つの膜を含み、少なくとも1種類のタキサンがリポソーム膜中に存在し、そして少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質が水性相中に存在し、リポソーム膜が引張応力下にある、リポソームの水性相中懸濁液を含むリポソーム調製物であって、カチオン性リポソーム調製物である、リポソーム調製物。
【請求項32】
浸透圧に影響を与える物質が請求項22〜24のいずれか1項で定義される、請求項27〜31のいずれか1項に記載のリポソーム調製物。
【請求項33】
タキサンが、パクリタキセルである、請求項27〜32のいずれか1項に記載のリポソーム調製物。
【請求項34】
医薬として使用するための、請求項27〜33のいずれか1項に記載のリポソーム調製物。
【請求項35】
ガンの治療のための医薬として使用するための、請求項27〜33のいずれか1項に記載のリポソーム調製物。
【請求項36】
脱水されたリポソーム調製物の再水和により得られる、水溶液中のリポソームの懸濁液と、少なくとも1種類のタキサンと、を含むリポソーム調製物であって、前記脱水されたリポソーム調製物を得るために脱水に付されたリポソーム調製物とは1.5倍未満異なる平均直径(Z平均)および2倍未満異なる多分散性指数(PI)により特徴づけられ、
リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O内よりも低く、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
リポソーム調製物。
【請求項37】
再構成の1時間後のPIが0.4未満、0.3未満、または0.25未満である、請求項36に記載のリポソーム調製物。
【請求項38】
脱水されたリポソーム調製物の再水和により得られる、水性相中のリポソームの懸濁液と、少なくとも1種類のタキサンと、を含むリポソーム調製物であって、25℃で24時間にわたって、1.5倍以下、または1.25倍以下の平均直径(Z平均)の変化、および2倍以下、1.5倍以下、または1.25倍以下の多分散性指数(PI)の変化により特徴づけられ、
リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O内よりも低く、
前記リポソーム調製物はカチオン性リポソーム調製物である、
調製物。
【請求項39】
リポソームが、リポソーム膜中に5モル%まで、または3モル%までのパクリタキセルを含む、請求項36〜38のいずれかに記載のリポソーム調製物。
【請求項40】
リポソームが、DOTAP、DOPCおよびパクリタキセルを含む、請求項36〜39のいずれかに記載のリポソーム調製物。
【請求項41】
リポソームが、DOTAP、DOPCおよびパクリタキセルを、50:47:3のモル比で含む、請求項40に記載のリポソーム調製物。
【請求項42】
10mg/mlまたは9.79mg/mlトレハロースを含む水性相中に懸濁された、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルを10mMの全脂質濃度で含むリポソーム、ならびにトレハロースを含むリポソーム懸濁液であって、前記リポソームが、少なくとも1.1g/mlの無水密度によって特徴付けられ、
リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O内よりも低く、
前記リポソーム懸濁液はカチオン性リポソーム懸濁液である、
リポソーム懸濁液。
【請求項43】
DOTAP、DOPC、およびパクリタキセルが、50:47:3のモル比で含まれる、請求項42に記載のリポソーム懸濁液。
【請求項44】
リポソーム懸濁液がクエン酸を含む、請求項42または43に記載のリポソーム懸濁液。
【請求項45】
前記リポソームが、140nmのZ平均を有する、請求項42〜44に記載のリポソーム懸濁液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム膜により実質的に可溶化される薬剤的および/または診断的活性剤および/またはコスメティック剤に関してローディング能力が増強されたリポソームの調製、このプロセスによって得ることができるリポソームからの活性剤および/またはコスメティック剤の放出に関して安定性が増強されたリポソーム分散液、および前記安定化リポソーム分散液を含む医薬組成物またはコスメティック組成物に関する。調製は、噴霧乾燥によって実施することができる、リポソーム分散液の脱水および再水和ステップを含み得る。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、水性区画を取り囲む1つまたは複数の膜から構成される人工の小胞構造である。最も典型的には、リポソーム膜は、脂質二重層から形成されるが、それらは、他の種類の両親媒性物質、ポリマーおよびポリペプチドをはじめとする他のモノマーおよびポリマー両親媒性化合物から同様に構成され得る(Antonietti and Forster 2003)。脂質が好適な条件下で水性環境中に分散される場合に、リポソームは自発的に生じる。ほとんどのリポソームは、性質として非毒性、非抗原性および生分解性である。というのは、それらがほ乳類膜の分子的特徴を有するからである。親油性または両親媒性薬剤および化合物をリポソーム膜中に組み入れることができ、親水性薬剤および化合物をリポソームの水性コア中に封入することができる。
【0003】
近年、リポソームは、薬剤の送達に関して医薬品工業で重要な手段になってきている(Gregoriadis 1995)。リポソームは、薬剤の身体への持続的放出により薬物動態学に影響を及ぼすことができるか、または薬剤の遊離濃度を制限することにより、副作用を軽減することができる。リガンドをリポソームに結合させるか、またはそれらの電荷を提供することにより、リポソームは薬剤の所望の作用部位への標的化送達を促進する。製薬学的用途に加えて、リポソームはしばしばコスメティック製品としても使用される。
【0004】
製薬学的またはコスメティック製品用途の範囲内で活性剤を投与するためにリポソームを使用する場合、活性化合物のリポソーム処方への負荷効率、および活性化合物またはコスメティック化合物をロードされたリポソーム処方の安定性を制御し、最適化することが重要である。処方の安定性は、処方の製造、保存および適用中の極めて重要な特性である。多くの場合、リポソーム製品の物理的または化学的安定性は限定され、このことは、製造プロセス(待機時間)、保存(保存安定性)および製品の適用(使用安定性)の企画のために考慮しなければならない。
【0005】
薬物応用のために、リポソーム処方は多くの場合、注射によって投与される。したがって、リポソームは、静脈内(iv)または腹腔内(ip)投与に適した条件下で水性相中に存在しなければならない。
【0006】
製剤リポソーム処方は非常に厳密な品質基準に付される。ほとんどの現在の液体リポソーム製品は長い保存期間にわたって安定でない。というのは、それらが種々の化学的および物理的分解過程を受ける可能性があるからである。しかし、医薬製品に関しては、室温または冷蔵温度で少なくとも6ヶ月〜2年間安定である最終処方を有するのが望ましい。これらの要因は、生物活性化合物の実用的な担体としてのリポソームの使用を制限する。リポソームに関して、これらの要件を満たすために脱水の技術が開発されてきた。
【0007】
リポソーム処方の長期安定性は、脱水され、液体処方としてよりもむしろ乾燥処方として保存される場合に大幅に増強される。注射前に、乾燥リポソーム製品を好適な水性媒体中で再水和して、投与用の水性懸濁液を生成しなければならない。再水和されたリポソーム処方の安定性は、化学的および物理的分解過程によっても制限され得るので、前記のすぐに使用可能なリポソーム懸濁液の使用中安定性の増加は、製剤処方技術の別の重要な目標である。
【0008】
フリーズドライによる水性リポソーム懸濁液の通常使用される安定化法は、米国特許第4,229,360号明細書および同第4,247,411号明細書で記載されている。フリーズドライプロセスにおいて、リポソーム懸濁液を凍結し、続いて減圧に付し、これにより氷が昇華によって除去される。通常、水性懸濁液は、凍結および脱水により誘発される欠陥形成を防止または最小化するために、糖などの賦形剤を含む。フリーズドライ手順の結果、賦形剤の保護マトリックス中リポソームが得られ、これから再水和後に前駆液体生成物が得られる。米国特許第4,880,635号明細書で開示されるように、保護糖の存在により、リポソームの外側だけでなく内側も、脱水および再水和ステップの悪影響からリポソームを保護することができる。
【0009】
噴霧乾燥方法は、例えば米国特許第5,089,181号明細書で開示されているように、安定な脱水リポソーム処方を調製するための別のプロセスを提供する。このプロセスは、食品産業から応用され、懸濁液を噴霧することによって前記懸濁液を小液滴にする微粒子化と、それに続いて高温で液滴から媒体を蒸発させることを用いる。フリーズドライプロセスにおいてと同様に、リポソーム懸濁液は、リポソーム膜を保護するために、糖などの賦形剤を含み得る。フリーズドライと比べて、噴霧乾燥プロセスは、大規模工業用途に関してかなり有利である。というのは、低コストかつ管理可能な技術的努力で高い生産力を可能にするからである。しかし、この方法に伴う高温は、封入された活性剤ならびに脂質膜にストレスを加える。
【0010】
噴霧乾燥に関してリポソーム中に封入された水溶性薬剤を含む懸濁液を安定化させるために、米国特許第4,895,719号明細書は、高い内部濃度の可溶性薬剤により生じる高い内部オスモル濃度と周囲媒体の均一に高いオスモル濃度とのバランスをとることを開示している。
【0011】
リポソームの水性相中の疎水性薬剤を安定化させるために、国際公開第2007/005754号パンフレットは、封入前のシクロデキストリンによる、そのような薬剤の複合体形成を開示している。複合体形成された疎水性薬剤は、シクロデキストリンにより生じる膜貫通浸透勾配の存在下でさえも、高濃度でリポソーム中に保持される。しかし、リポソーム膜中に包埋された活性剤の安定化は開示されていない。
【0012】
リポソーム膜の内部または外部の糖またはイオンなどの浸透圧に影響を与える溶質が存在することにより、浸透力が生じる。膜貫通膜浸透勾配が生体膜の構造および動態に作用する方法は、文献で調査され、応力・歪み関係および溶解などの現象を説明するためのモデルが提案されている(Ertel, Marangoni et al. 1993;Hallett, Marsh et al. 1993)。手短に説明すると、著者らによる実験および付随する分析により、所与の浸透ストレスでのリポソームの膨潤がそれらのサイズに依存することが明示される。サイズに依存した限界降伏点までの膨潤が記載され、この点で溶解(漏出)が起こった。リポソームが一貫して緊張した状態で存在することが予想される条件が得られた。
【0013】
増強された保存可能期間を有する親油性薬剤を含むリポソームの産生に関して、国際公開第2004/002468号パンフレットは、パクリタキセルを含むリポソームの調製を開示する。リポソームはトレハロースを含む水性緩衝液中で形成され、その結果、リポソームの内側と外側とで同じオスモル濃度を有するリポソーム緩衝液が得られる。水性リポソーム懸濁液をその後脱水する。脱水プロセスは、フリーズドライまたは噴霧乾燥により実施することができる。この出願は、前記リポソーム懸濁液のフリーズドライのためのいくつかのプロトコルを開示する。脱水後、リポソーム調製物を水または水溶液の添加により再水和することができる。この文書は、それらの再水和前にフリーズドライによるかまたは噴霧乾燥によって脱水されたリポソームの使用中安定性に関する比較データを提供しない。
【0014】
記載された最新技術を考慮して、本発明の根底にある課題は、高い薬剤対脂質比を有し、改善された安定性、特に物理的安定性およびリポソームからの薬剤の放出に関して改善された安定性を有する、少なくとも1つの親油性活性剤および/またはコスメティック剤を含むリポソームの調製であった。特に、本発明は、製造中の待機時間が長く、使用中安定性を有する前記リポソーム調製物を製造するためのプロセスを提供するという課題に関し、このプロセスは、高速脱水ステップを含む。
【0015】
したがって、特許請求の範囲で特徴づけられ、本発明の記載でさらに説明される実施形態を提供することによって、本発明にしたがって前記課題を解決する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
前記課題の解決策は、リポソーム膜上の引張応力が浸透力によって加えられるリポソーム調製物および前記リポソームを調製するためのプロセスによって提供される。
【0017】
特に、解決策は、リポソーム膜中に、少なくとも1つの活性剤および/またはコスメティック剤が存在する水性相中のリポソーム懸濁液を調製するためのプロセスによって提供され、前記懸濁液は、水性相中に少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含み、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O
内は、リポソームに封入された容積の外側の水性相O
外よりも高い。
【0018】
リポソームは、リポソーム膜上の引張応力の存在により特徴づけられる(ストレスを受けたリポソーム)。それらは、リポソーム形成中に直接、またはリポソーム形成後の任意の処理ステップで得ることができる。
【0019】
ストレスを受けたリポソームは、リポソームの内側および/または外側の水性相のオスモル濃度に直接影響を及ぼすことによるか、またはリポソーム膜の分子充填などの膜特性を変更することによって得ることができ、この場合、リポソームは所与のオスモル濃度の媒体中に存在する。
【0020】
ストレスを受けたリポソームは、リポソーム膜中に存在する活性剤および/またはコスメティック剤を用いて直接調製することができる。別法として、ストレスを受けたリポソームは、その後にリポソームに薬剤を添加することなく調製することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の態様は、リポソーム調製物を製造するためのプロセスであって:
a)水性相中にリポソーム懸濁液を含む第1リポソーム調製物であって、リポソームが少なくとも1つの膜を含み、膜がリポソームに封入された水性相の容積を封入し、水性相が、少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含み、初期全オスモル濃度O
1を有する、第1リポソーム調製物を提供し、
b)その後、前記調製物の水性相においてオスモル勾配を生成させ、ここで、リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O
外は、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O
内よりも低く、第2の(ストレスを受けた)リポソーム調製物を得、
c)場合によって、第2の(ストレスを受けた)リポソーム調製物を脱水して、脱水された調製物を得、そして
d)場合によって脱水された調製物を再水和する
ことを含むプロセスに関する。
【0022】
ステップa)のリポソーム調製物は、好ましくは少なくとも1つの活性剤またはコスメティック剤をリポソーム膜中に含む。別法として、薬剤を製造プロセスの後の段階で添加することができる。
【0023】
ステップb)は、ステップa)から誘導されるリポソーム懸濁液の初期全オスモル濃度O
1を減少させることによって実施することができ、オスモル濃度O
1よりも低い全オスモル濃度O
2を有するストレスを受けたリポソーム調製物を得る。
【0024】
ステップb)は、ステップa)から誘導されるリポソーム懸濁液を、O
1よりも低いオスモル濃度を有する水性媒体で希釈することによるか、またはO
1よりも低いオスモル濃度を有する水性媒体に対して透析することによって、実施することができる。最も簡単な方法では、リポソーム懸濁液を水で希釈する。
【0025】
本発明の一般的な概念によると、リポソーム調製物の製造中の異なる段階で、オスモル勾配を生成させることができるかまたは変更することができる。さらに、オスモル勾配を、生産プロセスの数段階で1回または複数回変更することができる。これは、おそらくは後述するように、同じかまたは異なる手順により達成することができる。リポソーム調製物の製造プロセスは、リポソーム懸濁液の最終適用の前に実施される全ステップに関する。
【0026】
本発明のプロセスのステップb)は:
b1)ステップa)におけるリポソーム調製物を脱水して、脱水されたリポソーム調製物を得、そして
b2)前記脱水されたリポソーム調製物を、ストレスを受けたリポソーム調製物を産生する条件下、好ましくは水性媒体中で再水和する
ステップを含み得る。
【0027】
好ましくは、脱水は、リポソーム懸濁液の噴霧乾燥によって実施される。
【0028】
本発明はさらに、前記プロセスにより得られるかまたは得ることができる組成物に関する。
【0029】
また、本発明は、少なくとも1つの活性剤またはコスメティック剤をリポソーム膜中に含むリポソーム調製物であって、リポソーム膜が引張応力下にあるリポソーム調製物に関する。
【0030】
さらに詳細には、本発明は、少なくとも1つの活性剤またはコスメティック剤をリポソーム膜中に含むリポソーム調製物であって、リポソームが液体相中に存在し、リポソームに封入された容積の内側のオスモル濃度(O
内)が、リポソームに封入された容積の外側の液体相のオスモル濃度(O
外)よりも高い、リポソーム調製物に関する。
【0031】
驚くべきことに、本発明者らは、そのリポソーム膜が引張応力下にあるリポソームを含有するリポソーム懸濁液が、親油性化合物について改善された溶解度を有することを見いだした。
【0032】
したがって、本発明はさらに、少なくとも1つの親油性薬剤またはコスメティック化合物を含むリポソーム調製物を製造するプロセスであって:
i)水性相中リポソーム懸濁液を含む、ストレスを受けたリポソーム調製物を提供するステップ、
ii)前記ストレスを受けたリポソーム調製物を少なくとも1つの親油性活性剤またはコスメティック剤とともに、場合によって非可溶化形態でインキュベートするステップ、および
iii)場合によって、非可溶化された薬剤をリポソーム調製物から、好ましくはろ過または遠心分離によって分離するステップ、
iv)場合によって、インキュベートされたリポソーム調製物を脱水するステップ、および
v)場合によって、脱水されたリポソーム調製物を再水和するステップ
を含むプロセスに関する。
【0033】
ストレスを受けたリポソームは、前述の手順のいずれかによって得ることができる。最も好ましくは、少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質は、リポソーム懸濁液の水性相中に存在し、ここで、O
内はO
外よりも高い。
【0034】
前述の活性剤またはコスメティック剤は、好ましくは水中溶解渡が低い。
【0035】
前述の活性剤またはコスメティック剤は親油性であり、好ましくは1より大きいlogPを有する。さらに好ましくは、化合物はタキサンであり、最も好ましくはパクリタキセルまたはその誘導体である。
【0036】
驚くべきことに、リポソーム膜がストレスを受ける場合、特に、水溶性の浸透圧に影響を与える化合物が、リポソームに封入された相の外側より高い濃度でリポソームに封入された水性相中に含まれる場合、親油性水難溶性化合物、例えばパクリタキセルのリポソーム膜に対する負荷効率を改善することができ、そのような化合物のリポソーム膜からの放出を減少させることができることが見いだされた。濃度勾配のないリポソームと比較して、これらのリポソームに対する親油性化合物の負荷効率が高いほど、化合物/脂質のモル比が高い処方を製造することが可能になり、所与の処方の安定性を改善することが可能になる。なぜなら、化合物をリポソームから放出する傾向が減少するからである。
【0037】
膜区画中に親油性剤を含むリポソームは、前記オスモル勾配が存在する場合に化合物を水性媒体に放出する傾向が少ない。水性媒体中の前記親油性物質の平衡分別が低下する。したがって、水性相中の親油性化合物の濃度が溶解限度を越え、沈殿する危険性も減少する。
【0038】
さらに、前述の勾配を含む空のリポソームは、親油性化合物についてさらに高いローディング能力を有すること、すなわち、そのような勾配のないリポソームと比較して、同じ量のリポソーム(脂質のモル量により定義される)によってさらに高モル量の親油性化合物が可溶化されることが意外にも判明した。このことは、例えば、親油性化合物を空のリポソームに暴露することによって実現することができる。
【0039】
あらかじめ脱水したリポソームの再水和によって得られるリポソーム調製物は、低い多分散性指数(PI)により示されるように、均一なサイズ分布を有することも意外にも見いだされた。品質管理に関して、特に製薬学的用途に関しては、均一な製品を得ることが常に望ましい。さらに、本発明のリポソーム懸濁液は長期間にわたって実質的に変化しないままである多分散性指数を示す。これは、本発明の懸濁液中のリポソームが凝集体を形成しないことを示す。特に静脈内投与されるリポソーム懸濁液について、凝集体は回避されなければならない。なぜなら、これらの凝集体は血管を閉塞させる可能性があり、したがって陥入に至る可能性があるからである。
【0040】
本発明は、リポソーム調製物のリポソーム膜中の親油性剤を安定化させるためのプロセスを提供し、また再水和されたリポソーム調製物のサイズおよび多分散性を維持することによって、最新技術を実質的に改善する。結果として、親油性化合物を有するリポソームを含む最終調製物の使用中安定性を延長することができる。さらに、そのような処方の処理中の前記リポソームの安定性も延長することができる。
【0041】
多くの場合、リポソーム処方の製造中の液体処方の処理のための時間(待機時間)は、リポソームからの薬剤の望ましくない放出の危険性のために制限される。本発明は、薬剤放出の危険性を低減し、したがって、長時間にわたる製造中のリポソームの連続処理を可能にし、生産プロセスのさらにフレキシブルなデザインを可能にする。
【0042】
さらに詳細には、本発明は、フリーズドライのかわりに噴霧乾燥による前述の処方の調製を可能にする。フリーズドライでは、リポソームは凍結され、したがって製造直後に安定化され、それ故、製造中の放出の危険性は低い。噴霧乾燥では、液体処方は液体相中の待機時間が長い。なぜなら、所与のバッチの噴霧は、数時間または数日かかる可能性があるからである。本発明は、所与の処方の安定性を増大させることができるので、中断なしにより長い噴霧期間を実現することができる。噴霧乾燥は、フリーズドライと比べて全体的なスループットが高いので、大規模生産が促進され、製品品質を維持しつつ、生産費用を低減することができる。
【0043】
さらに、脱水されたリポソーム組成物の再構成から患者への投与までの期間での薬剤放出および結晶化の危険性(使用中安定性)は低減される。結晶化は、iv投与のための製品におけるある限界を超えて存在してはならない、肉眼では見ることができない粒子の形成を促進する可能性がある。多くの場合、数時間の使用中安定性のみが提供され、これは、臨床業務における障害である。したがって、十分な使用中安定性は、そのような医薬品またはコスメティック製品の実用的な適用に非常に重要である。
【0044】
リポソームの調製物は、しばしばエタノールなどの有機溶媒を使用し、これは、脱水されたリポソーム生成物で見いだされ、したがってそれから誘導される再水和されたリポソーム懸濁液で見いだされる。これは特に、フリーズドライ(凍結乾燥)によって脱水されたリポソーム調製物について当てはまる。しかし、ヒトへ適用するために使用されるリポソーム生成物は、できるだけ有機溶媒を含まないのが望ましい。本発明は噴霧乾燥による脱水を可能にし、これにより、ほとんどまたはすべての残留する有機溶媒の除去が促進され、同時に高い安定性を有するリポソームが得られる。
【0045】
前述の利点を提供するので、本発明は、容易に実施することができ、コスト集約的でない。複雑な技術的デバイスは必要なく、前記組成物にさらなる成分を添加する必要もない。本発明を実施するために用いられる浸透圧に影響を与える物質は、米国特許第4,880,635号明細書または国際公開第2004/002468号パンフレットで開示されているようにして脱水されるリポソーム組成物からすでに知られている。
【0046】
定義
量の値に関連する「約」は、表示された値を基準として最大+/−20%、好ましくは+/−10%の平均偏差を指す。例えば、約30モル%のカチオン性脂質の量は、全脂質/両親媒性物質モル濃度に関して30モル%+/−6モル%、好ましくは30モル%+/−3モル%のカチオン性脂質を指す。
【0047】
「活性化合物」または「活性剤」は、ヒトまたは動物の疾患または状態の診断、予防、または治療用薬剤として有用である基礎となる、特定の生物学的または物理的活性を有する化合物または化合物の混合物を指す。製剤原料などの治療薬および診断薬は、本発明による活性剤の重要な例である。
【0048】
本発明の範囲内のリポソームの「無水密度」とは、リポソームにより封入された化合物を含むが、そのようなリポソーム中に含まれる水の質量を除外した、前記リポソームを構成する全化合物の質量を、水性相中のリポソームの容積(リポソームの粒子サイズz
平均を基準とする)で割ったものを意味する。非常に具体的な例では、リポソームの無水密度は、リポソーム中に含まれるDOTAP、DOPC、パクリタキセル、クエン酸およびトレハロースの質量を、水性相中のリポソームの容積で割ったものを指す可能性がある。無水密度リポソームは、実施例で開示するような超遠心法により測定することができる。
【0049】
「水性媒体」、「水性液体」または「水性相」は、本明細書中で用いられる場合、水を含む液体材料を指す。いくつかの実施形態では、液体材料は、少なくとも50%(w/w)、少なくとも70%(w/w)または少なくとも90%(w/w)の水を含む。他の実施形態では、液体材料は有機溶媒を含まない。水性相は、1つまたは複数の化合物を含有し得る。したがって、連続相が水性である水性分散液、水性懸濁液およびエマルジョンもまた、水性液体の例である。コロイド物質を含有する水性液体は、以下、水性コロイド分散液または溶液と称される場合がある。
【0050】
「カチオン性」は、それぞれの環境条件下で正味の正電荷または正のゼータ電位を有する薬剤を指す。本発明では、pHが3〜9、好ましくは5〜8の範囲である環境条件を指す。
【0051】
親油性化合物の「化学的安定性」は、その本来の化学構造の顕著な変化を指し、最初のアッセイ値(本来の化合物)から約5%、好ましくは約2%の活性変化または毒物学的限界および安全面に関してその許容基準を越える特定の分解生成物の出現と定義される。パクリタキセルなどの親油性化合物に関して、化学的安定性は、HPLC/LC MS/MSによって規定することができ、典型的には前記化合物の5%未満の分解生成物を意味する。パクリタキセルの典型的な分解生成物は、例えば、BaccatinIII、7−Epi−Taxolなどである(Monography of Paclitaxel、USP26、[Jan.−Mar.2003]、USPC,Inc.)。
【0052】
「コスメティック化合物」は、ヒトの皮膚または毛髪に対して影響を及ぼす化合物を指す。
【0053】
「診断活性剤」または「診断薬」は、種々の方法によって対象物または試料における生物学的特性または状態を視覚化するために使用できる薬剤学的に許容される薬剤を指す。視覚化を用いて診断を下すことができる。
【0054】
「脱水」または「脱水する」とは、組成物から水を除去するプロセスを指す。いくつかの実施形態では、組成物から水を除去して、脱水手順の前に存在する水の含有量を基準として、残留物含有量を約10%(w/w)未満、好ましくは約5%(w/w)未満とする。
【0055】
「封入された容積」または「封入された相」とは、少なくとも1つのリポソーム膜により封入された容積を指す。この容積は、ユニラメラリポソーム中の1つの膜またはマルチラメラリポソーム中の複数の膜によって封入される可能性がある。したがって、封入された相とは、リポソームの内側の空間を表し、一方、リポソームに封入された容積の外側の容積または「遊離(水性)相」とは、リポソームを取り巻く空間を表す。マルチラメラリポソームの場合、封入された相および遊離相という用語は、マルチラメラリポソーム由来の所与の膜の隣の内部および外部の容積を指す。
【0056】
「待機時間」は、リポソーム処方の製造中に液体処方を処理するための時間を指す。
【0057】
「サイズ均一性」は、本明細書中で用いられる場合、粒子集団のサイズ分布を指す。高いサイズ均一性または狭いサイズ分布は、低い多分散性指数を特徴とする。
【0058】
「脂質」は、原形質の、脂肪、脂質、アルコール・エーテル可溶性構成成分であって、水中に溶解しないものを包含する総称としてのその従来の意味を指す。脂質は、通常、親水性および疎水性部分から構成される。水中で、脂質は、自己組織化して、親水性部分(頭部)が水性相に向かい、親油性部分(アシル鎖)が二重層コア中に埋め込まれている、二重膜を形成することができる。脂質は、2つの親水性部分(双頭型両親媒性物質)も同様に含み得る。その場合、膜は、二重層からではなく、単一の脂質層から形成される可能性がある。この意味での脂質の典型例は、脂肪、脂肪油、精油、ワックス、ステロイド、ステロール、リン脂質、糖脂質、硫脂質、アミノ脂質、色素脂質、および脂肪酸である。この用語は、天然に存在する脂質および合成脂質の両方を包含する。本発明に関連した好ましい脂質は:ステロイドおよびステロール、特にコレステロール、リン脂質、例えばホスファチジル、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミン、ならびにスフィンゴミエリンである。脂肪酸がある場合、それらは約12〜24の炭素鎖の長さであり得、6個までの二重結合を含有する。脂肪酸は、グリセロールから誘導され得る骨格に連結される。1つの脂質内の脂肪酸は異なり得るか(不斉)、または1つの脂肪酸鎖しか存在しない可能性がある(例えば、リゾレシチン)。混合処方も、特に、非カチオン性脂質が、卵黄、ウシの心臓、脳、肝臓または大豆から精製されたレシチン(ホスファチジルコリン)などの天然源由来である場合に可能である。
【0059】
「リポソーム」は、種々のサイズおよび構造の人工の自己閉鎖型小胞構造であり、この場合、1つまたは複数の膜が水性コアを封入する。最も典型的には、リポソーム膜は、この場合、親水性頭部が水性環境に向かい、脂質鎖が親油性コア中に埋め込まれた、脂質二重層膜から形成される。リポソームは、他の両親媒性モノマー分子およびポリマー分子、例えばブロックコポリマー、またはポリペプチドなどのポリマーからも同様に形成することができる。単層ベシクルは、水性空間を封入する1つの膜によって規定されるリポソームである。対照的に、オリゴラメラまたはマルチラメラベシクルは、複数の膜からできている。典型的には、膜はおよそ4nmの厚さであり、天然または合成起源のリン脂質などの両親媒性脂質から構成される。場合によって、膜特性は、ステロールまたはコール酸誘導体などの他の脂質の組み入れによって修飾することができる。相転移温度が低い(すなわち、体温より低い)リン脂質をベースとする特に柔軟な膜を有するリポソームは、トランスファーソームと呼ばれる場合がある。
【0060】
「リポソーム懸濁液」は、水性媒体中にリポソームを含む組成物を指す。
【0061】
「リポソーム調製物」または「リポソーム組成物」は、リポソーム懸濁液または脱水により前記懸濁液から得られる脱水された組成物をはじめとするリポソームを含む任意の組成物を指す。
【0062】
「親油性」は、脂肪様(例えば炭化水素)相、例えば脂質から実質的に構成される相中で優先的に溶解する化合物の特性を指す。化合物の親油性は、分配係数(log P)によって表すことができる。この文脈で関心のある化合物は、約1より大、さらに好ましくは、約2より大、最も好ましくは約3より大のlog Pを有する。
【0063】
「Log P」は、25℃で水とオクタノール相との間の化合物の分配係数を指す。一般的に、log P数が高いほど、薬剤がオクタノール中によく溶けることを意味する。log Pは、([オクタノール中の薬剤の濃度]/[水中の薬剤の濃度])として定義される。ある化合物のlog Pを実験により決定することができる方法は、当業者には周知である。
【0064】
「低い水中溶解度」とは、溶解度を促進する添加剤の非存在下、生理学的pH、25℃の水中で、0.1mg/ml未満、さらに好ましくは0.01mg/ml未満、最も好ましくは0.001mg/ml未満の化合物の溶解度を指す。
【0065】
リポソーム懸濁液の「全オスモル濃度」は、ある容積の前記懸濁液中に存在する浸透圧に影響を与える物質の全量を、懸濁液の容積で割ったものである。全オスモル濃度を計算するために、懸濁液のリポソームに封入された容積の内側および外側の浸透圧に影響を与える物質も同様に考慮する。これに関連して、略語O
1およびO
2は全オスモル濃度を指す。
【0066】
「O
内」および「O
外」は、自己閉鎖型リポソーム膜の内側および外側のオスモル濃度を指す。ユニラメラリポソームに関して、O
外は遊離水性相のオスモル濃度であり、O
内は封入された容積のオスモル濃度である。マルチラメラリポソームに関して、O
内およびO
外は、それぞれの自己閉鎖型膜の内側および外側のオスモル濃度を指す。これに関連して、O
内がO
外よりも大きい状況が特に関連性がある。O
内とO
外との間の相対的な差異を、遠心分離技術によって、例えば、分析的もしくは分取遠心分離または超遠心によって調査することができる。通常、浸透圧に影響を与える化合物は、水性相の密度を変更するので、O
内とO
外との間の差は、リポソームの沈降挙動から認めることができる(Goormaghtigh and Scarborough 1986, Huang and Charlton 1971)。加えて、オスモル勾配は、リポソーム膜の構造パラメータ、例えばX線もしくは中性子散乱のような方法によって測定することができるもの、またはリポソームサイズ、例えば光およびX線散乱により測定することができるものに影響を及ぼし得る。
【0067】
これに関連して「浸透圧に影響を与える物質」は、リポソーム膜を実質的に透過することができない、水中に可溶性の物質を指す。典型例は、例えば、イオンまたは糖、例えばグルコース、もしくはトレハロースであり、これらはリポソーム中に効率よくトラップされ得、一方、水分子は高い透過性を示し、したがって、この意味で、水は浸透圧に影響を与える物質と見なされない。異なる化合物の透過の選択性は、リポソームの重要な特徴である(Bangham et al., 1965)。膜を越える化合物の透過性は、膜組成、相状態および他の境界条件に依存する。
【0068】
「オスモル濃度」は、生物活性物質および任意のヘルパー分子、例えば活性剤の放出速度を減速させるために用いられる浸透圧賦形剤をはじめとする、水溶液中に存在する溶質のモル濃度の合計である。溶質が、解離形態、イオン化形態、または凝集形態で存在する場合、オスモル濃度は、解離形態、イオン化形態または凝集形態のモル濃度の合計と定義される。溶液中の任意の溶質により形成される溶液のオスモル濃度に対する寄与は、溶液中の溶質の濃度をその分子量で割ったものにほぼ等しい。したがって、一般的原則として、溶質の分子量が大きいほど、溶質のオスモル濃度は低くなり、溶液の全オスモル濃度に対する溶質の寄与は小さくなる。オスモル濃度の差は、種々の物理化学的パラメータ、例えば密度、電子密度、屈折率、または粘度の変化から決定することができ、これらは物理化学において確立された方法によって決定することができる。
【0069】
「負に荷電した脂質」は、負の正味電荷を有する脂質を指す。
【0070】
「医薬組成物」は、各成分が有するものとは異なる医薬特性を有する2以上の異なる成分の組み合わせを指す。本発明では、2以上の成分とは、脂質またはコロイド状分散液および活性剤を、場合によって薬剤的に許容される担体、希釈剤および/またはアジュバントとあわせて指す。
【0071】
リポソームの「物理的安定性」は、リポソームの物理的状態の変化を指す。リポソームは、物理的状態が維持される場合に安定である。物理的安定性の重要な態様は、リポソーム膜中に埋め込まれた化合物の、リポソーム懸濁液の水性媒体への放出である。化合物の放出は、物理的不安定性の特徴である。膜からの化合物の放出は、濃度の上昇や水性媒体中の化合物の凝集に至る可能性がある。タキサンの場合、凝集は、タキサンの針状晶の形成により見ることができる。タキサンの結晶化は、液体リポソーム処方の目視検査、光学顕微鏡検査、遮光測定または光散乱により測定することができる。リポソームのサイズおよびサイズ分布もまた、リポソーム懸濁液の物理的状態の特徴である。
【0072】
「多分散性」は、所与の粒子試料、例えばリポソーム懸濁液中の粒子サイズの分布の幅である。多分散性の1つの尺度は、光子相関分光法(PCS)データのキュムラント解析から得られるような多分散性指数(PI)によって与えられる。
【0073】
「多分散性指数」(PI)は、光子相関分光法(PCS)測定から得られる結果のいわゆるキュムラント解析から得られる無次元数である(Koppel 1972)。キュムラント解析は、PCSデータのモデルフリーフィッティングを可能にし、これから、粒子サイズの尺度としてのZ
平均、および多分散性の尺度としてのPI値が得られる。これらのパラメータの計算は、ISO標準文書13321:1996Eで定義されている。粒子サイズ測定に関連して、PCSおよび動的光散乱(DLS)という用語はしばしば同義的に用いられる。この技術は、粒子がブラウン運動をするために起こる散乱光の強度における時間依存的変動を測定する。これらの強度変動の分析により、サイズ分布に変換される粒子の拡散係数の決定が可能になる。本発明の意味では、PIおよびZ
平均は、実施例6で開示されるようにして決定される。
【0074】
「光子相関分光法」は、粒子がブラウン運動をするために起こる散乱光の強度における時間依存的変動を測定する技術である。これらの強度変動は、サイズ分布に変換される粒子の拡散係数の決定を可能にする。粒子サイズ測定に関連して、PCSおよびDLSはしばしば同義的に用いられる。
【0075】
「正に荷電した脂質」は、カチオン性脂質(定義に関しては、「カチオン性脂質」の定義を参照のこと)と同義的に用いられる。本発明では、pHが3〜9、好ましくは5〜8の範囲である環境を指す。
【0076】
「安定性」は、リポソームの物理的安定性およびリポソーム中に含まれる単一の構成成分(例えば、脂質および活性化合物)の化学的安定性を指す可能性がある。
【0077】
「ストレスを受けたリポソーム」または「ストレスを受けたリポソーム調製物」は、リポソーム膜が引張応力下にあるリポソーム、およびそのようなリポソームを含む調製物を指す。
【0078】
これに関連して、リポソーム膜上の「引張応力」は、リポソームに封入された容積の内側および外側の水性相間の浸透圧に影響を与える化合物の濃度勾配の適用によって発揮され得る。内側のオスモル濃度O
内が外側のオスモル濃度O
外よりも高い場合、この結果、浸透力によって封入された容積と遊離した容積間の圧力勾配の増加ΔPがもたらされるであろう。過剰の圧力は、リポソーム膜での表面張力γによってバランスをとられ、ここで、圧力勾配と表面張力との間の関係は、周知のYoung−Laplace式によって与えられる(Evans and Wennerstrom, 1994)。
【数1】
【0079】
本発明のリポソーム系に関して、生じた表面張力は、結果として半径、封入された容積の変化をもたらし得るリポソーム膜の面積膨張に至り、ひいては封入された容積のオスモル濃度の変化に至ることを考慮しなければならない。表面張力の関数としての面積膨張ΔAは、膜の弾性率κに依存し、次のようなYoung式によって与えられる:
【数2】
【0080】
式1は、表面張力と圧力との関係が半径に依存することを明らかにする。所定の圧力勾配で、表面張力は半径の増加とともに増加する。面積増加および対応するリポソームのサイズ増加は、大きなリポソームに関する方が小さなものに関するものよりも大きい。シャボン玉などの所定の表面張力を有する系に関して、圧力勾配p
内側−p
外側は半径の減少、または言い換えれば曲率の増加とともに増加する。
【0081】
「治療活性剤」または「治療薬」は、動物、特にほ乳類、好ましくはヒトにおける病的状態の防止または程度を軽減する薬剤を指す。
【0082】
「小分子」は、約2000Da未満の分子量を有する分子を指す。
【0083】
「ゼータ電位」は、約pH7.5の約0.05mMのKCl溶液中、レーザードップラー微量電気泳動法を用いてZetasizer 3000等のデバイスで測定された、水性環境中のコロイド状粒子の測定された静電電位を指す。ゼータ電位は、バルク溶液と流体力学的剪断または拡散層の領域との間の境界での電位を表す。この用語は「界面動電位」と同義である。なぜなら、外向きに作用する粒子の電位であり、粒子の電気運動挙動の原因であるからである。
【課題を解決するための手段】
【0084】
リポソーム調製物を製造するための本発明のプロセスは、以下のステップにより実施することができる:
a)水性相中にリポソーム懸濁液を含む第1リポソーム調製物を提供するステップであって、リポソームが少なくとも1つの膜を含み、膜が水性相のリポソームに封入された容積を封入し、水性相が少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含み、初期全オスモル濃度O
1を有するステップ、そしてその後、
b)前記調製物の水性相中でオスモル勾配を生じさせるステップであって、リポソームに封入された容積の外側の水性相のオスモル濃度O
外が、リポソームに封入された容積の内側の水性相のオスモル濃度O
内よりも低く、第2の(ストレスを受けた)リポソーム調製物を得るステップ、
c)場合によって、第2の(ストレスを受けた)リポソーム調製物を脱水して、脱水された調製物を得るステップ、および
d)場合によって脱水された調製物を再水和するステップ。
【0085】
ステップa)のリポソーム調製物は、好ましくは、リポソーム膜中に存在する少なくとも1つの親油性剤を含む。しかし、親油性剤は、生産プロセスの後の段階で添加することもできる。
【0086】
ステップb)は、ステップa)から誘導されるリポソーム調製物の初期全オスモル濃度O
1を減少させることによって実施することができ、オスモル濃度O
1よりも低い全オスモル濃度O
2を有するストレスを受けたリポソーム調製物を得る。
【0087】
本発明に関連して、全オスモル濃度O
1は、まず、リポソームに封入された容積の外側の水性媒体のオスモル濃度O
外を減少させるプロセスに関する。最初は全区画中で同じ濃度である(O
1=O
外=O
内)と仮定すると、希釈は、まず第1に、遊離した水性相O
外のみに影響を及ぼし、その結果、O
外<O
内となる。したがって、リポソームに封入された容積の内側と外側の間に浸透勾配が生じる。浸透勾配の存在下で、膜は水分子について透過性であるので、リポソームが膨潤することは十分に理解される。したがって、希釈の第2の効果として、封入された水性媒体のオスモル濃度O
2も、ある程度まで減少する可能性がある。オスモル濃度の絶対的変化は、封入された容積の割合、リポソームサイズ、膜弾性(ヤング率)などの種々の因子に依存する。したがって、O
1とO
2との間の比は、希釈後のO
内とO
外との間の比と必ずしも同じである必要はない。
【0088】
しかし、遊離した封入されていない水性相におけるオスモル濃度の減少は、封入された相の外部と内部との間のオスモル濃度勾配O
内−O
外の増加に至るであろう。浸透圧ストレスに反応した膨潤がある因子を越えて起こるならば、膜欠損が形成される可能性があり、高オスモル濃度の相から低オスモル濃度の相へと溶質が放出される。これにより、オスモル勾配および浸透ストレスが減少するであろう。膜は、孔形成のための最大引張応力および浸透勾配の最大臨界値の条件下で再シール形成し得る。したがって、詳細な条件に関係なく、過剰の勾配が適用される場合、系は最大浸透勾配の状態をとるという意味で、系を自己安定型と見なすことができる。そのような効果は、製造中の再現可能な状態の保証に好都合であると考えられる
【0089】
本発明に関連して使用されるリポソームは、中性、アニオン性および/またはカチオン性脂質を含み得る。中性またはアニオン性脂質は、ステロールまたは脂質、例えばコレステロール、リン脂質、リゾ脂質、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質または中性もしくは負の正味電荷を有するペグ化脂質から選択することができる。有用な中性およびアニオン性脂質としては、したがって:ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール(特定の糖に限定されない)、脂肪酸、カルボン酸基を含有するステロール、例えば、コレステロール、1,2−ジアシル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、例えばこれらに限定されるものではないが、1,2−ジオレイルホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジヘキサデシルホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2−ジアシル−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジステアリルホスホスファチジルコリン(DSPC)、1,2−ジパルミチルホスホスファチジルコリン(DPPC)、1,2−ジミリスチルホスホスファチジルコリン(DMPC)、ホスファチジルコリン、好ましくは卵PC、大豆PCおよびスフィンゴミエリンが挙げられる。グリセロール骨格に連結した脂肪鎖は、特定の長さまたは二重結合の数に限定されない。リン脂質はさらに、2つの異なる脂肪酸も有し得る。好ましくは、さらなる脂質は、室温で液晶状態にあり、それらは、それらが適用される比で、使用されるカチオン性脂質と混和性である(すなわち、均一相を形成することができ、相分離またはドメイン形成が起こらない)。好ましい実施形態で、中性脂質は1,2−ジオレイルホスホスファチジルコリン(DOPC)である。
【0090】
リポソーム調製物の好ましいカチオン性脂質は、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウム塩、例えばメチル硫酸塩である。−TAP(メチル硫酸トリメチルアンモニウム)脂質の科の好ましい代表例は、DOTAP(ジオレイル−)、DMTAP(ジミリストイル−)、DPTAP(ジパルミトイル−)、またはDSTAP(ジステアロイル−)である。本発明の他の有用な脂質としては:DDAB、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド;1,2−ジアシルオキシ−3−トリメチルアンモニウムプロパン、(これらに限定されるものではないが:ジオレイル、ジミリストイル、ジラウロイル、ジパルミトイルおよびジステアロイルを含み;さらに2つの異なるアシル鎖がグリセロール骨格に結合している可能性がある);N−[1−(2,3−ジオロイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチルアミン(DODAP);1,2−ジアシルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン、(例えば、これらに限定されるものではないが:ジオレイル、ジミリストイル、ジラウロイル、ジパルミトイルおよびジステアロイルを含み;さらに2つの異なるアシル鎖がグリセロール骨格に結合している可能性がある);N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);1,2−ジアルキルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン、(例えば、これらに限定されるものではないが:ジオレイル、ジミリスチル、ジラウリル、ジパルミチルおよびジステアリルを含み;さらに2つの異なるアルキル鎖がグリセロール骨格に結合している可能性がある);ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS);3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノ−エタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol);2,3−ジオレオイルオキシ−N−(2−(スペルミンカルボキサミド)−エチル)−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA);β−アラニルコレステロール;セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB);ジC14−アミジン;N−tert−ブチル−N’−テトラデシル−3−テトラデシルアミノ−プロピオンアミジン;14Dea2;N−(アルファ−トリメチルアンモニオアセチル)ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG);O,O’−ジテトラデカノイル−N−(トリメチルアンモニオ−アセチル)ジエタノールアミンクロリド;1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシ−スペルミル)−プロピルアミド(DOSPER);N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムヨージド;Solodinら(Solodin et al., 1995)により記載される1−[2−(アシルオキシ)エチル]2−アルキル(アルケニル)−3−(2−ヒドロキシエチル)−イミダゾリニウムクロリド誘導体、例えば1−[2−(9(Z)−オクタノデセノイルオキシ)エチル]−2−(8(Z)−ヘプタデセニル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DOTIM)、1−[2−(ヘキサデカノイルオキシ)エチル]−2−ペンタデシル−3−(2−ヒドロキシエチル)イミダゾリニウムクロリド(DPTIM)、例えばFelgnerら(Felgner et al., 1994)により記載されている、第4アミン上にヒドロキシアルキル部分を含有する2,3−ジアルキルオキシプロピル第4アンモニウム化合物誘導体、例えば:1,2−ジオレオイル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORI)、1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシプロピルアンモニウムブロミド(DORIE−HP)、1,2−ジオレイル−オキシ−プロピル−3−ジメチル−ヒドロキシブチルアンモニウムブロミド(DORIE−HB)、1,2−ジオレイルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシペンチルアンモニウムブロミド(DORIE−Hpe)、1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、1,2−ジパルミチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DPRIE)、1,2−ジステリルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DSRIE);Santanielloら(米国特許第5,498,633号明細書)によって報告されているアシルカルニチンのカチオン性エステル;ホスファチジルコリンのカチオン性トリエステル、すなわち、1,2−ジアシル−sn−グリセロール−3−エチルホスホコリンを挙げることができ、ここで、炭化水素鎖は、飽和または不飽和であり得、C
12〜C
24の鎖長を有する分枝もしくは非分枝状であり得、2つのアシル鎖は必ずしも同一である必要はない。
【0091】
リポソームは、異なるサイズ、ラメラ性および構造を有し得る。好ましくは、リポソームは、約50nm〜約500nmの平均直径Z
平均を有し得る。最も好ましいのは、約100〜約200nmのサイズZ
平均である。リポソームは、ユニラメラ、オリゴラメラまたはマルチラメラリポソームであり得る。好ましくは、リポソームはユニラメラリポソームである。
【0092】
本発明の化合物の異なる実施形態で用いられる活性剤またはコスメティック剤は、好ましくは1より大、さらに好ましくは約2より大、最も好ましくは約3より大のlog Pを有する。
【0093】
本発明の異なる実施形態で用いられる活性剤またはコスメティック剤は、好ましくは、低い水中溶解度を有する。好ましくは、化合物は、生理学的pH、周囲温度の水中で、0.1mg/ml未満、さらに好ましくは0.01mg/ml未満、最も好ましくは0.001mg/ml未満の溶解度を有する。
【0094】
好ましくは、本発明のリポソーム中に含まれる活性剤は、治療または診断活性剤である。最も好ましくは、化合物は治療上活性である。
【0095】
好ましくは、活性剤またはコスメティック剤は、2000Da未満、さらに好ましくは1000Da未満の分子量を有する分子である。
【0096】
1つの態様では、活性剤は、アバレリクス、アルトレタミン、アナストロゾール、アプレピタント、ビカルタミド、カンプトテシン、カペシタビン、クロロトリアニセン、接合エストロゲン、シクロスポリン、ダクチノマイシン、ジエチルスチルベストロール、ドセタキセル、ドラセトロン、ドロモスタノロン、エピルビシン、エポシロン、例えばエポシロンB、エポシロンD、またはエポシロン誘導体、例えば、国際公開第2004048372号パンフレット、国際公開第2004007492号パンフレット、国際公開第2005051947号パンフレットおよび国際公開第2005030767号パンフレット(その内容は、参照により本明細書中に組み込まれる)で開示されているもの、スベルロチニブ(suberlotinib)、エチニルエストラジオール、エクセメスタン、フェンタニル、フラボピリドール、フルオキシメステロン、フルベストラント、ゲフィチニブ、グラニセトロン、ヘスペレチン、ヒドロモルホン、イリノテカン、ケトコナゾールラパチニブ、レトロゾール、ロイプロリド、ロムスチン、ルカントン、マリノール、マソプロコール、メゲストロール、ナビロン、ニルタミド、パロノセトロン、ポルフィマー、キネストロール、キネストロール、タモキシフェン、タキサン、テムシロリムス、テストラクトン、トポテカン、トレミフェン、トリメトレキサート、バルルビシン、ビンブラスチン、ビタミンE、およびこれらの化合物の誘導体を含む群から選択することができる。好ましくは、化合物はタキサンであり、最も好ましくはパクリタキセルまたはその誘導体である。
【0097】
本発明のある態様では、DNAまたはRNA分子のようなヌクレオチドまたはポリヌクレオチド分子ではない。
【0098】
別の態様では、本発明の範囲には、処方中にイオン化される活性剤および/またはアドリアマイシンなどの高水溶性化合物である活性剤は含まれない。
【0099】
好ましくは、本発明のリポソームは、約2.5モル%および約4.5モル%のパクリタキセルをリポソーム膜中に含む。したがって、パクリタキセルは、好ましくは、脂質および関連分子ならびにパクリタキセルなどの膜中に存在する全分子の約2.5モル%〜約4.5モル%の量であり得る。さらに好ましくは、これらのリポソームは、懸濁液として、および/または再水和後に妨害された薬剤放出を示し、および/または本明細書中、以下で定義されるように保存中に結晶を実質的に形成しない。
【0100】
本発明の特に好ましい実施形態では、リポソームはカチオン性リポソーム、例えばDOTAP、DOPCおよびパクリタキセルを約50:47:3のモル比で含むカチオン性リポソームである。この組成の処方は、MBT−0206またはEndoTAG−1として当該技術分野で公知である。DOTAP、DOPCおよびパクリタキセルを含むリポソーム調製物の製造は、国際公開第2004/002468号パンフレットに開示され、その内容は参照により本明細書中に組み込まれる。
【0101】
一般的に、リポソームは、当業者に周知の方法によって調製することができる。リポソームを調製するための種々の方法が、Newら(1990)によって開示されている。
【0102】
好ましくは、本発明で用いられるリポソームは、エタノール注入によって調製される。
【0103】
本発明の特別の実施形態において、リポソームは正のゼータ電位、さらに好ましくは、約+30mVより高いゼータ電位を有する。
【0104】
本発明の方法で用いられるか、または本発明の組成物中に含まれる、浸透圧に影響を与える物質は、脂質二重層を実質的に透過することができない可溶性物質である。好ましくは、浸透圧に影響を与える物質は、リポソームの内側および外側に存在する。
【0105】
浸透圧に影響を与える物質は、サッカライドなどの有機分子、例えば、モノサッカライド、ジサッカライド、オリゴサッカライドもしくはポリサッカライド、糖アルコール、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、水溶性ポリマー、有機塩もしくは無機塩、イオン、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0106】
有用なサッカライドとしては、糖アルコール、オリゴサッカライド、水溶性ポリサッカライドおよびそれらの誘導体が挙げられる。本発明による好ましいサッカライドとしては、グルコース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、セロビオース、ガラクトース、マルトトリオース、マルトペントース、ラフィノース、デキストリン、デキストラン、イヌリン、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、キトサンが挙げられ、最も好ましくはトレハロースである。
【0107】
水溶性ポリマーの例は、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、またはポリビニルピロリドンである。
【0108】
ある態様では、本発明の方法または組成物における浸透圧に影響を与える物質の使用は、低い水中溶解度を有する化合物の可溶化を促進する錯化剤の使用を除外する。そのような錯化剤の例は、Zhangらによって国際公開第2007/005754号パンフレットで、またはMacLachlanらによって国際公開第2007/012191号パンフレットで開示されるクロデキストリンである。
【0109】
本発明に関連して使用される水性媒体または相は、水と少なくとも部分的に混和性である1以上のさらなる構成成分、例えば、アルコール類(例えば、エタノールなどのC
1−4アルコール)またはケトン(例えば、アセトンなどのC
1−4ケトン)を含み得る。本発明の好ましい実施形態では、水性相はエタノールを含有する。
【0110】
水性相は、緩衝物質または他の安定化剤をさらに含み得る。好適な緩衝物質は、例えば、酢酸、Tris、Bis、リン酸、乳酸などから選択され、好ましくはクエン酸である。緩衝物質は、約3〜7、好ましくは約4〜約5の水性媒体のpHを確立し得る。
【0111】
好ましくは、ステップa)のリポソーム調製物は、脂質および場合によって活性剤またはコスメティック剤を含む有機溶液(例えば、エタノール)を、全オスモル濃度O
1により特徴付けられる少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含む水性媒体中に混合することによって製造される。
【0112】
浸透勾配O
内−O
外の好ましい範囲は、10mOsm〜2000mOsm、さらに詳細には50mOsm〜1000mOsm、なお一層詳細には100mOsm〜1000mOsmである。
【0113】
浸透勾配はさらに、リポソームに封入された容積の内側の浸透圧に影響を与える物質の濃度/重量と、リポソームに封入された容積の外側の浸透圧に影響を与える物質の濃度/重量との間の濃度/重量差によって示すこともできる。浸透勾配の好ましい範囲は、5重量%〜30重量%の濃度/重量差、すなわち、0重量%〜30重量%の封入された容積の外側の浸透圧に影響を与える物質および10重量%〜40重量%の封入された容積の内側の物質の勾配である。
【0114】
ステップa)から誘導されるリポソーム調製物を均質化ステップに付すことができ、これは押出、メンブランフィルターを通したろ過、高圧均質化および/または高速均質化によって、そして最も好ましくは例えば約200nmの孔サイズを有する膜を通して圧力をかけて押し出すことによって、実施することができる。当該技術分野で周知の、50nm、100nm、150nm、400nmなどの他の孔サイズを有する膜も同様に用いることができる。メンブランフィルターを通したろ過は、PVDF、PES、ナイロン−フィルターから構成される膜を通したろ過により実施することができるが、好適であることが明らかな場合は、他の材料も用いることができる。膜の孔サイズは、好ましくは、約200nm〜450nmの範囲であるが、孔サイズは記載されたサイズに限定されない。異なる材料および異なる孔サイズを、滅菌グレードろ過により処理することができる溶液を得ることができる方法で、組み合わせることができる。好ましい実施形態では、ステップa)から誘導されるリポソームを、オスモル勾配が生じる前に均質化に付す。
【0115】
無菌性は医薬製品に必須の特徴であるので、本発明のプロセスで用いられるリポソーム懸濁液をプロセス中のある段階で滅菌することができる。好ましくは、滅菌グレードの滅菌ろ過膜(0.22pm)を通してろ過することによって、懸濁液を滅菌する。好ましい実施形態では、本発明のステップb)にしたがってオスモル勾配が生じた後にろ過することによってリポソーム懸濁液を滅菌する。
【0116】
本発明の一般的な概念によると、封入された容積と遊離した容積との間の浸透勾配は、リポソーム調製物の製造プロセス中の異なる段階で1回または数回生成または変更することができる。これは、おそらくは以下で記載する同一又は異なる手順によって達成することができる。
【0117】
本発明の好ましい実施形態では、本発明のプロセスのステップb)は:
b1)ステップa)から誘導されるリポソーム調製物を脱水して、脱水されたリポソーム調製物を得るステップ、および
b2)前記脱水されたリポソーム調製物を、好ましくは水性媒体中、ストレスを受けたリポソーム調製物が得られる条件下で再水和するステップ
を含み得る。
【0118】
本発明の意味では、「ステップa)から誘導されるリポソーム調製物」は、ステップa)で調製されるリポソーム調製物または異なる処理ステップを経てステップa)で調製されたリポソーム調製物から得ることができる任意のリポソーム調製物に関する。これらの処理ステップは、例えば、前述のような均質化および/または滅菌を含み得る。
【0119】
好ましい実施形態では、オスモル勾配の生成または変更は、ステップa)における第1リポソーム調製物の製造後で、かつ前記ステップa)から誘導されるリポソーム調製物の脱水前に少なくとも1回実施する。好ましくは、オスモル勾配の生成または変更は、押出ステップ後および/または滅菌ろ過後に実施する。前述のように、オスモル勾配は、処理ステップに付されるリポソーム懸濁液の安定性を増強する。
【0120】
好ましくは、脱水は室温よりも高い温度で実施される。
【0121】
本発明の特に好ましい実施形態において、ステップb1)の脱水ステップは、リポソーム懸濁液の噴霧乾燥によって実施する。噴霧乾燥プロセスでは、前記懸濁液を噴霧することによって、リポソーム懸濁液をまず霧化して小さな液滴にする。続いて、液滴から高温で媒体を蒸発させることによってリポソームを乾燥する。液滴形成後のリポソームの乾燥は、液滴を、提供された乾燥(おそらくは加熱)されたガス流れと接触させることによって達成することができ、固体粒子を得る。可能なガス流れは不活性ガスまたは空気であり得る。乾燥ガスは、好ましくは0.1容積%未満、好ましくは0.05容積%未満の酸素を含有する低酸素ガスまたは酸素を含まないガスであり得る。不活性ガスは、酸素と置換するために、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンおよびラドンまたはいくつかの他の不活性ガスをポンプで供給することによって、高可燃性溶液を含有する加熱乾燥系の安全性を増大させる。これらの系の効果は、酸素を完全に除去すること、または無視できるレベルまで減少させること、のいずれかである。好ましい実施形態では、窒素を不活性ガスとして使用する。本発明の別の実施形態では、不活性ガスは、処方中に含まれる活性成分および賦形剤を保護する。好ましくは、噴霧乾燥は、噴霧乾燥のための好適なデバイスで実施される。脱水されたリポソームをガス流れから分離し、集める。噴霧乾燥を過圧、常圧または部分真空下で実施することができる。明細書に適合する粉末が最大許容系温度および最大容量の乾燥ガスを用いて産生される場合、好ましいプロセス圧力範囲が存在し得る。乾燥条件の選択のために、液体供給速度、乾燥ガス速度、乾燥ガス温度、賦形剤の熱力学パラメータ、および化合物の安全性限界などのパラメータの組み合わせを考慮しなければならない。重要なパラメータは、噴霧乾燥機の内側に存在する、乾燥ガスの入口温度T
in、および出口温度T
outである。T
outは、蒸発に際する断熱冷却のためにT
inよりも実質的に低い。粒子表面の実際の温度は、局所的蒸発速度に応じて、T
outよりも著しく低い可能性がある。したがって、一般的な噴霧乾燥パラメータを定義することはできない。リポソームを乾燥するために、プロセスチャンバーの内側の温度は、10℃〜200℃の範囲であり得る。さらに典型的には、懸濁液を本発明の方法により30℃〜150℃で、さらに好ましくは、約60℃〜約120℃で乾燥する。
【0122】
噴霧乾燥プロセスのための装置は、Buchi(Flawil, Switzerland)、もしくはGEA Niro(Soeborg, Denmark)から入手することができるか、または特注であってもよい。当業者は、乾燥される懸濁液、使用される装置および所望の規格によって、乾燥プロセスの条件、例えば、供給速度および温度を選択することができる。
【0123】
特に、脱水ステップの条件を選択して、非常に少量の有機溶媒を含む脱水されたリポソーム組成物を得ることができる。噴霧乾燥による脱水は、少量の残留有機溶媒を得るために特に好適である。
【0124】
さらに、本明細書中で記載されるような噴霧乾燥による脱水の結果、注入可能な粉末の形態のリポソーム組成物が得られる。そのような粉末は、例えば、ケーキ様構造を有するフリーズドライによって得られる脱水された生成物と比較した場合、例えばそのような脱水された組成物の充填に関して、改善された取り扱い特性を有する。
【0125】
本発明の1つの態様では、脱水は、噴霧乾燥に付されたリポソーム懸濁液中での比と水中で再水和した後の噴霧乾燥調製物中での比と比較した場合、封入された浸透圧に影響を与える化合物と遊離した浸透圧に影響を与える化合物との間の比に実質的に影響を及ぼさない。
【0126】
本発明のある態様では、リポソーム懸濁液を凍結し、その後、減圧に付して、水分子を除去する、凍結乾燥、またはフリーズドライによる脱水は、本発明の範囲内に含まれない。
【0127】
脱水された組成物、例えば、ステップb1)またはc)で得られるようなものを、好適な容器中に充填することができ、そしてある期間保存することができる。好ましくは、滅菌条件下で組成物を充填し、保存する。保存時間は、数日から数ヶ月、またはさらには数年までであり得る。組成物を室温、2℃〜8℃の温度または0℃未満で保存することができる。
【0128】
脱水されたリポソーム組成物を使用する前に、例えば、医薬組成物として使用するリポソーム組成物の場合は、患者に投与する前に、またはさらに処理する前に、脱水された組成物をステップb2またはc)にしたがって再水和する。このために、前述のようにして得られた脱水された組成物を水性媒体と混合する。再水和を増強するために、混合物を撹拌または回転することができる。
【0129】
再水和のために使用される水性媒体のオスモル濃度は、脱水ステップン付した懸濁液の全オスモル濃度O
1よりも低い。好ましくは、再水和に使用される水性媒体は、浸透圧に影響を与える物質を実質的に含まない。最も好ましくは、医薬品グレードの注射用水を再水和のために使用する。
【0130】
いくつかの実施形態では、再水和に使用される水性媒体の容積は、それぞれの量の脱水されたリポソーム組成物を得るために脱水されたリポソーム懸濁液の容積よりも大きい可能性がある。
【0131】
本発明によると、再水和のために使用される水性媒体のオスモル濃度および再水和のために使用される媒体の容積を、組み合わせて選択して、脱水ステップに付された懸濁液のオスモル濃度O
1よりも低い全オスモル濃度O
2を有する再水和された懸濁液を得る。
【0132】
本発明の別の態様では、ステップa)から誘導されるリポソーム懸濁液を希釈することによってステップb)を実施して、O
1よりも低い全オスモル濃度O
2を有する水性媒体を得る。
【0133】
リポソーム懸濁液を前述の水性媒体で希釈する。好ましい実施形態では、リポソーム懸濁液を水で希釈する。1つの実施形態では、リポソーム懸濁液を希釈するために使用する水性媒体は、活性剤を含まず、特にリポソーム中に封入される活性剤活性剤を含まない。
【0134】
本発明の好ましい実施形態では、O
2は、O
1よりも少なくとも10mOsm低く、さらに好ましくは、O
2は、O
1よりも少なくとも50mOsm低く、そしてなお一層好ましくは、O
2は、O
1よりも少なくとも100mOsm低い。
【0135】
本発明の別の態様では、ステップa)から誘導されるリポソーム懸濁液を、O
1よりも低い全オスモル濃度を有する水性媒体に対して透析することによって、ステップb)を実施する。
【0136】
好ましくは、少なくとも10mOsm、さらに好ましくは少なくとも50mOsm、そしてなお一層好ましくは、少なくとも100mOsmの、O
1と透析を実施する水性媒体のオスモル濃度との間の浸透勾配を得るための条件下で、透析を実施する。
【0137】
別法として、ステップb)は他の好適な方法により実施することができる。例えば、浸透圧に影響を与える物質の濃度は、イオン交換またはアフィニティークロマトグラフィーなどの好適なクロマトグラフィー法によって減少させることができる。
【0138】
本発明のさらなる態様では、前述のプロセスのステップb)にしたがって得られたストレスを受けたリポソーム懸濁液を脱水することができる。前記ストレスを受けたリポソーム懸濁液の脱水は、当業者に公知の任意の好適なプロセスによって実施することができる。好適な乾燥手順は、例えば、フリーズドライ、噴霧−フリーズドライまたは噴霧乾燥である。好ましい実施形態では、噴霧乾燥による脱水は、ステップb
1)について前述するようにして実施することができる。本発明のさらなる態様では、結果として得られる脱水されたリポソーム調製物を前述のように再水和する。
【0139】
特定の実施形態において、本発明は、初期リポソーム懸濁液、好ましくはリポソーム膜中に、DOTAPおよび場合によってDOPCを脂質として含み、そして親油性活性剤、好ましくはパクリタキセルをさらに含むカチオン性リポソームを含むものを、水性トレハロース相中で調製するプロセスに関する。リポソーム懸濁液の構成成分の濃度は、例えばヒトに投与されるなど、最終的に使用されるこのプロセスによって生成されるリポソーム懸濁液と比べて約3倍の濃度で存在する。好ましくは、初期リポソーム懸濁液は、約30mMの脂質および約30mg/ml、さらに好ましくは29.4mg/mlのトレハロースの濃度を有する。初期リポソーム懸濁液は、場合によって、次のステップで膜を通して押し出すことによって均質化する。その後、好ましくはリポソーム懸濁液の容積を水で、例えば1.5倍の容積まで希釈することによって、リポソーム懸濁液の全オスモル濃度を、好ましくは1.5倍に減少させる。その後、リポソーム懸濁液を場合によって、好ましくはろ過によって滅菌する。次のステップで、リポソーム懸濁液を、好ましくは噴霧乾燥により脱水して、脱水されたリポソーム懸濁液を得る。脱水されたリポソーム懸濁液を最終的に再水和して、リポソーム懸濁液を得、これをヒトに対する投与などのそれぞれの目的に使用する。後者のリポソーム懸濁液は、好ましくは約10mMの脂質および約10mg/ml、好ましくは9.79mg/mlのトレハロースの濃度を有する。
【0140】
別の態様では、本発明は、リポソーム調製物を製造するプロセスであって:
i)少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質が懸濁液の水性相中に含まれ、リポソームに封入された容積の外側よりもリポソームに封入された容積の内側により高いオスモル濃度が存在する、リポソーム懸濁液を提供し、
ii)前記リポソーム懸濁液を親油性化合物とともに、場合によって非可溶化形態でインキュベートし、
iii)場合によって、任意の非可溶化化合物をリポソーム懸濁液から、例えばろ過、遠心分離または他の好適な方法により分離し、
iv)場合によって、リポソーム調製物を脱水し、そして
v)場合によって脱水されたリポソーム調製物を再水和する
ことを含むプロセスに関する。
【0141】
好ましくは、リポソームに封入された容積の内側と外側の間の浸透勾配は、10mOsm〜2000mOsm、さらに詳細には50mOsm〜1000mOsm、そしてなおいっそう詳細には100mOsm〜1000mOsmである。
【0142】
本発明の好ましい実施形態では、ステップi)のリポソーム懸濁液は、活性剤またはコスメティック剤を含まない。
【0143】
ステップi)の浸透勾配を含むリポソームは、前述のようにして調製することができる。本発明の好ましい実施形態では、ステップi)のリポソーム懸濁液の製造で添加される活性剤またはコスメティック剤はない。活性剤またはコスメティック剤の非可溶化形態は、例えば結晶形態、例えば異なる形態およびサイズのものまたは粉末形態であり得る。
【0144】
本発明の1つの実施形態では、非可溶化剤をインキュベーション後に分散液から分離する。好ましい実施形態では、溶解されていない化合物を遠心分離またはろ過によって分離する。ろ過は、シリンジフィルター中で実施することができる。
【0145】
別の態様では、本発明は、前述のようなプロセスによって得られるか、または得ることができるリポソーム調製物に関する。調製物は、脱水された形態または水性懸濁液の形態であり得る。
【0146】
本発明のリポソーム調製物は、好ましくは医学で、例えば人間医学または獣医学で使用される。調製物を、好ましくは静脈内投与する。さらに好ましくは、調製物を、膀胱ガン、乳ガン、結腸直腸ガン、子宮内膜ガン、白血病、肺ガン、リンパ腫、黒色腫、非小細胞肺ガン、卵巣ガン、前立腺ガン、ならびに小児ガン、例えば脳幹部神経膠腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、上衣腫、ユーイング肉腫/ファミリー腫瘍、胚細胞腫瘍(頭蓋外)、ホジキン病、白血病、急性リンパ芽球性、白血病(急性骨髄性)、肝ガン、髄芽細胞腫、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、軟部組織肉腫、テント上原始神経外胚葉および松果体腫瘍、珍しい小児ガン、視経路および視床下部膠腫、ウィルムス腫瘍および他の小児腎臓腫瘍、ならびにあまり一般的でないガン、例えば急性リンパ性白血病、成人性急性骨髄性白血病、成人性非ホジキンリンパ腫、脳腫瘍、子宮頸ガン、小児ガン、小児肉腫、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、食道ガン、毛様細胞白血病、腎臓ガン、肝ガン、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、口腔ガン、膵臓ガン、原発性中枢神経系リンパ腫、皮膚ガン、小細胞肺ガン、頭頸部ガン、胆嚢および胆管ガン、胃ガン、胃腸ガン、カポジ肉腫、尿路上皮細胞ガン、甲状腺ガン、睾丸ガン、膣ガン、血管肉腫、軟部組織肉腫、中皮腫および肝細胞ガンなどのガンの治療に使用する。特に、ガンは、転移性ガンおよび/または標準的(化学)療法耐性ガンであり得る。本発明の組成物の投与は、疾患の進行を遅らせるかもしくは停止する可能性があるか、またはヒトにおいて部分的もしくは完全な寛解に至る可能性がある。最も好ましくは、膵臓または乳ガン、特にトリプル受容体ネガティブ乳ガンを治療する。本発明のリポソーム調製物は、約11mg/m
2パクリタキセル〜約44mg/m
2パクリタキセルの単位用量で、好ましくは約22mg/m
2パクリタキセルの単位用量で投与することができる。好ましくは、調製物を週1回または2回投与する。リポソーム調製物は、国際公開第2005/039533号パンフレット、国際公開第2006/117220号パンフレット、および国際公開第2007/107305号パンフレットで開示されているようにして使用することができる。
【0147】
さらに、本発明のリポソーム調製物は診断用またはコスメティック調製物として使用することができる。
【0148】
さらに、本発明は、リポソーム膜中に活性またはコスメティック化合物を含むリポソーム懸濁液であって、リポソームが、リポソームに封入された容積の外側の水性媒体のオスモル濃度よりも高いオスモル濃度の水性媒体を封入する、リポソーム懸濁液に関する。懸濁液の水性媒体は、少なくとも1つの浸透圧に影響を与える物質を含む。リポソームの内側と、リポソームの外側との媒体のオスモル濃度間の差は、好ましくは少なくとも10mOsm、好ましくは少なくとも50mOsmである。
【0149】
リポソームの内側と外側のオスモル濃度の差は、浸透圧勾配を誘導し、これは、Hallet et al., 1993で記載されているものなど、リポソーム膜上の引張応力に至る。したがって、本発明は、活性またはコスメティック化合物をリポソーム膜中に含むリポソーム懸濁液であって、リポソーム膜が引張応力下にある、リポソーム懸濁液に関する。
【0150】
リポソーム膜が引張応力下にあるリポソームは、前述のような浸透勾配の適用によって得ることができる。
【0151】
いくつかの物理化学的特性化法を適用して、リポソーム調製物におけるオスモル勾配および引張応力を測定することができる。多くの場合、浸透圧に影響を与える成分の溶液は、水よりも高い密度を有し、密度は化合物の濃度によって単調に変化する。リポソームに封入された容積のオスモル濃度が遊離した容積よりも高い場合、これはリポソーム密度に影響を及ぼす。水中5%(150mOsm)の濃度のトレハロースに関して、密度は、純水の密度よりも約0.02g/l高い(Handbook of Chemistry and Physics, CRC Press, Boca Raton, Florida)。したがって、リポソームの内側と外側のオスモル濃度の差は、リポソームに封入された容積の内側の媒体とリポソームに封入された容積の外側の媒体の異なる密度をもたらす。
【0152】
したがって、リポソームに封入された容積が、リポソームに封入された容積の外側の媒体よりも高い密度を有するリポソーム懸濁液を開示することが、本発明のさらなる態様である。密度の差は、好ましいオスモル勾配およびそれぞれの浸透圧に影響を与える化合物の溶液の密度によって生じる。リポソームなどのコロイド粒子の密度は、例えば超遠心法によって測定することができる。
【0153】
オスモル勾配を含む本発明のリポソーム懸濁液の特に好ましい実施形態は、約10mg/ml、特に9.79mg/mlのトレハロース、そして場合によって0.011mg/mlのクエン酸を含む水性相中に懸濁された、DOTAP、DOPC、およびパクリタキセル(好ましくは50:47:3のモル比、約10mMの全脂質濃度)、トレハロース、および場合によってクエン酸を含むリポソーム懸濁液であって、前記リポソームは、少なくとも約1.1g/ml、特に少なくとも約1.15g/ml、少なくとも約1.17g/ml、または少なくとも約1.17g/mlの無水密度を有する。好ましくは、前記リポソームは約140nmのz
平均を有する。
【0154】
前記プロセスは、制御された粒子サイズ分布によってさらに特徴付けられる前述のリポソームを含むリポソーム懸濁液の調製を可能にし、ここで、サイズ分布プロフィールの幅は、例えば、多分散性指数(PI)の変化によって特徴付けられるように、製造プロセスによって実質的に拡大されない。好ましくは、オスモル勾配を含む本発明のリポソーム懸濁液のPIは、オスモル勾配の生成によって、0.2を越えて上昇せず、さらに好ましくは、0.1を越えて上昇しない。
【0155】
本発明のさらなる態様では、活性またはコスメティック化合物は、本発明のリポソーム調製物において実質的にリポソームの膜区画中だけに含まれる。したがって、調製物中に存在する全活性またはコスメティック化合物の少なくとも約98%、好ましくは少なくとも約99%のモル量が、リポソーム膜の脂質相中に埋め込まれている。残りの量だけが調製物の水性相中に可溶化され得るか、または結晶化した活性もしくはコスメティック化合物の形態で存在し得る。
【0156】
開示されたプロセスによって得ることができる、本明細書中で開示される懸濁液は、浸透勾配なしで調製された相当する通常のリポソーム懸濁液よりも、薬剤放出に関して安定である。リポソームからの薬剤放出に関する一時的な安定性は高く、処方は、機械的応力および/または他の応力に付された場合に薬剤を放出しにくい。好ましくは、薬剤放出は、浸透勾配のない懸濁液と比較して、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも2日間、少なくとも7日間または少なくとも14日間以上、25℃で妨害され得る。薬剤放出の測定は、薬剤の種類に依存する。パクリタキセルをロードしたリポソームに関して、薬剤放出は、放出後に形成される薬剤粒子(結晶)の測定によって敏感にモニターすることができる。粒子は、例えばX線回折測定、または光散乱技術によって測定することができる。
【0157】
本発明の1つの実施形態では、少なくとも約90%、好ましくは少なくとも約95%、最も好ましくは99%の量の、リポソーム膜により可溶化された活性またはコスメティック化合物は、少なくとも約24時間にわたって室温でリポソーム中に保持され、懸濁液の水性相中に放出されない。前記水性相中の溶解度が低い親油性活性またはコスメティック化合物の放出は、結晶形成に至る可能性があるので、本発明の懸濁液は、25℃にて24時間で、約10%超、好ましくは約5%超、最も好ましくは約1%超に対応する量の可溶化物質に対して実質的に結晶を形成しない。
【0158】
さらに、前述の脱水されたリポソーム組成物の再水和によって得られる本発明のリポソーム懸濁液は、少なくとも約24時間の期間にわたって25℃にて凝集体を形成しない。凝集体の形成は、光子相関分光法(PCS)によりZ
平均およびPIの変化を測定することによって決定することができる。本発明の懸濁液は、24時間にわたり、約1.5倍以下、好ましくは1.25倍以下のZ
平均の変化および約2倍以下、好ましくは約1.5倍以下、最も好ましくは約1.25倍以下のPI値の変化によって特徴付けられる。好ましくは、これらの特性を有するリポソーム懸濁液は、脱水されたリポソーム組成物の再水和から誘導される。
【0159】
有機溶媒は、例えばエタノール注入法に関して前述したように、リポソームの調製でしばしば使用されるので、エタノールなどの残存有機溶媒が、通常、脱水されたリポソーム生成物中で見いだされ、したがって、これから誘導される再水和されたリポソーム懸濁液で見いだされる。このことは、フリーズドライ(凍結乾燥)によって脱水されたリポソーム調製物について特に当てはまる。しかし、ヒトへの適用のために使用されるリポソーム生成物は、できる限り有機溶媒を含まないのが望ましい。本発明は、残存する有機溶媒のほとんどまたは全部の除去を容易にしつつ、安定性の高いリポソームを得る、噴霧乾燥による脱水を可能にする。したがって、脱水された調製物の全重量基準で、約1%w/w未満、さらに好ましくは約0.5%w/w未満、最も好ましくは約0.1%w/w未満の有機溶媒を含む前述の脱水されたリポソーム調製物を開示することが、本発明の別の態様である。これらの脱水されたリポソーム調製物の再水和によって、約1mg/ml未満、さらに好ましくは、約0.5mg/ml未満、最も好ましくは約0.1mg/ml未満の有機溶媒を含むリポソーム懸濁液が得られる。好ましくは、有機溶媒はエタノールである。
【0160】
さらに、前述のような脱水されたリポソーム組成物の再水和によって得られる本発明のリポソーム懸濁液は、前述のように脱水されたもとのリポソーム懸濁液と比べて非常に類似したサイズ分布を有する。さらに詳細には、リポソームサイズは十分に維持され、PCS測定から決定される脂質凝集体の顕著な形成は起こらない。本発明の1つの実施形態では、脱水に付されたリポソーム懸濁液および前述のような再水和によって得られるリポソーム懸濁液は、1.5倍未満異なるZ
平均および2倍未満異なるPI値(PCS測定による)を特徴とする。再構成の1時間後に再水和されたリポソーム懸濁液のPIは、好ましくは0.4未満、さらに好ましくは0.3未満、最も好ましくは0.25未満である。好ましくは、前記懸濁液のPIは、前述のように、25℃で24時間にわたって若干変化するだけである。
【0161】
特定の実施形態では、本発明は、約5モル%まで、好ましくは約3モル%までのパクリタキセルをリポソーム膜中に含むカチオン性リポソームを含む再水和された水性リポソーム懸濁液に関し、ここで、再構成の1時間後のリポソーム懸濁液のPIは0.4よりも小さく、さらに好ましくは0.3よりも小さく、最も好ましくは0.25よりも小さく、さらに、25℃で24時間にわたって、約1.5倍以下、好ましくは1.25倍以下のZ
平均の変化、および約2倍以下、好ましくは約1.5倍以下、最も好ましくは約1.25倍以下のPI値の変化によって特徴付けられる。
【0162】
好ましくは、前述の再水和されたリポソーム懸濁液のリポソームは、約2重量%以下、好ましくは約1重量%以下のパクリタキセル(パクリタキセルの全重量基準)を25℃で24時間以内にリポソーム膜から水性媒体中に放出しない。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【
図1】10mMの脂質濃度および10%(w/w)の全トレハロース濃度を有するリポソーム調製物によって可溶化されたパクリタキセルの量。リポソームは、濃縮された前駆処方から水で希釈することによって得られた。横軸は、初期濃度、すなわち、希釈されていない懸濁液から得られた10%トレハロースでのデータを示し、40%トレハロースでのデータは希釈されていない懸濁液から得られ、この懸濁液は、最初にトレハロース中40%(w/w)および脂質中40mMであり、これを水で1+3に希釈した。
【
図2】30%(w/w)トレハロース中30mMの脂質の濃縮処方から得られた10mMのDOTAP/DOPCリポソームの計数率。溶液を、30%〜10%(w/w)の異なる全トレハロース濃度まで水/トレハロース混合物で希釈した。全処方は、10mMの同じ脂質最終脂質濃度を有していたが、封入された水性相と遊離した水性相との間のトレハロース濃度勾配はx軸により表示されるとおりであった。
【0164】
実施例
パクリタキセルの異なるトレハロース勾配を有するリポソームへのローディング
【0165】
概要
飽和水性相と平衡状態にあるリポソームにおけるパクリタキセルの分配に対するオスモル勾配の効果を調査した。異なるオスモル勾配を有するリポソームを製造し、インキュベートして、パクリタキセル結晶にした。全処方は同じ組成を有し;さらに正確には、脂質濃度およびトレハロース濃度はc
脂質=10mMであり、c
トレハロース=10%(w/w)であった。処方のいくつかを、より高い脂質およびトレハロース濃度で調製し、押し出し、そして押出後に最終濃度まで水で希釈した。このようにして、遊離した水性相は希釈されたが、封入された水性相は希釈されなかった(欠損を通した膨潤効果および溶質交換を無視する)。封入された水性相と遊離した水性相間のオスモル濃度が確立され、これは希釈度の増加とともに増加した。そのようにして形成されたリポソームを乾燥パクリタキセルとともにインキュベートし、そしてリポソームによって可溶化されたパクリタキセルの量を測定した。希釈度を増加させると(濃度勾配)可溶化されたパクリタキセルの単調な増加がみられた。結果は、平衡状態のリポソーム膜中で分配するパクリタキセルの量がオスモル勾配の増加とともに増加することを示す。
【0166】
材料
パクリタキセル、ロット06/150 Cedarburg Pharmaceuticals
DOTAP、ロットMBA 113Merck Eprova
DOPC、ロットG181PC49 Avanti Polar Lipids
水、Milli−Q−Synthesis Millipore
トレハロース二水和物、高純度 Senn Chemicals
クロロホルム、p.a. Merck
アセトニトリル、HPLCグレード(ACN) Merck
テトラヒドロフラン、HPLCグレード(THF) Merck
酢酸アンモニウム、p.a. Merck
トリフルオロ酢酸、p.a. Merck
シリンジフィルターminisart Sartorius
0.2μMの孔サイズ、直径25mm
膜:酢酸セルロース
HPLC System 1100 Agilent
脱気剤(G1379A)
バイナリポンプ(G1312A)
恒温オートサンプラー(Autoinjektor G1329A、Thermostat G1330B)
恒温カラムコンパートメント(G1316A)
ダイオードアレイ検出器(G1315B)または可変波長検出器(G1314A)
LC3DのChemStation、Rev. A.09.01
押出機、10ml Northern Lipids
ゼータサイザー3000 Malvern Instruments
【0167】
方法
空のリポソームの調製
DOTAP/DOPC処方(1:1比)、またはDOTAPもしくはDOPCのみを含む処方を、フィルム法によって調製した。必要量の脂質を丸底フラスコ中に量り取り、そしてクロロホルム中に溶解させた。溶媒を、ロータリーエバポレーター(Heidolph, Germany)中、約150ミリバールの圧力、約40℃の温度で約15分間蒸発乾固させた。フィルムを10ミリバールで60分にわたって乾燥し、その後、フラスコを優しく振とうすることによってトレハロースの水中溶液中で水和させた。脂質の量、トレハロース濃度およびトレハロース溶液の容積は、DOTAP/DOPC処方に関しては、10mM〜40mMの脂質濃度および9.8%〜39.2%(w/v)のトレハロース濃度、DOTAPまたはDOPCのみの処方に関しては、10mM〜30mMの脂質濃度および9.8%〜29.4%(w/v)のトレハロース濃度を含む懸濁液が得られるように選択した。結果として得られるマルチラメラリポソームの懸濁液を、200nmの孔サイズのポリカーボネート膜を通して約5バールの圧力で5回押し出した。押出後、懸濁液を水で希釈して、10mMの脂質濃度および9.8%(w/v)の全トレハロース濃度を有する懸濁液を得た。
【0168】
パクリタキセルローディング
前述のようにして調製された空のリポソームを含む懸濁液5mlを、15mlのファルコン管中、2.6mgの乾燥パクリタキセル(600μmの理論的パクリタキセル濃度に相当する)に添加した。バッチを1時間、室温にて撹拌した(マグネティックスターラー)。
【0169】
撹拌後、非リポソーム結合パクリタキセルを、シリンジフィルター(Sartorius minisart、0.2μm、酢酸セルロース膜)を通してそれぞれのバッチ2mlのろ過によって分離した。結果として得られたろ液中のパクリタキセル濃度および脂質濃度を、HPLCにより分析した。
【0170】
分析法
パクリタキセル含有量の測定
試料をACN/THF/2mMの酢酸アンモニウム48/18/34(v/v/v)中で希釈した。
静止相:LiChroCART(登録商標)250−4;LiChrospher 60、RP−select B
長さ250mm、ID:4mm、粒子サイズ5μM
移動相:ACN/THF/2mMの酢酸アンモニウム32/12/56(v/v/v)
流速:1ml/分
温度カラムコンパートメント:35℃
検出器波長:229nm
注入容積:10μl
実行時間:40分
【0171】
脂質含有量の測定
ろ過前後のバッチの脂質含有量をHPLCにより分析して、ろ過プロセスによるリポソーム材料の損失可能性をモニターした。試料をACN/水(50/50)中で希釈した。
静止相:Phenomenex Luna 5μ C8(2)100Å、150mm×2mm
移動相:0.1%TFAを含むアセトニトリル、0.1%TFAを含む水
【0172】
【表1】
【0173】
結果
DOTAP/DOPC処方
図1において、異なるDOTAP/DOPCリポソーム処方とともにインキュベーションすることによって可溶化されたパクリタキセルの量を示す。全処方は、同じ量の脂質(リポソーム)およびトレハロースを含有していた。それらは異なるさらに濃縮された処方から水での希釈によって得られた。絶対濃度を除いて、すべての最初の処方は等しく、それらを等しく処理した。横軸は、希釈前の初期トレハロース濃度を与える。すべての場合で、最終全トレハロース濃度は10%であったので、トレハロース勾配は横軸の値の増加とともに増加する。図示されるように、リポソームによって可溶化されたパクリタキセルの量は、トレハロース勾配(希釈)で単調に増加した。リポソームのローディング能力は、トレハロース勾配の増加とともに増加した。
【0174】
DOTAP処方およびDOPC処方
下記の表は、トレハロース調製に使用した初期トレハロース濃度に依存した、DOTAPおよびDOPCリポソーム処方(単一成分)によって可溶化されたパクリタキセルの量を示す:
【0175】
【表2】
【0176】
さらに、純粋な脂質から得られるリポソームについて、トレハロース勾配からの可溶化容量に対する明白な依存性が見いだされた。DOTAP処方について、DOPTAP/DOPC処方についての結果に匹敵するリポソームの内側と外側のトレハロース濃度の差の増加に伴うパクリタキセルローディング能力の増加が観察された。この効果は、100%DOPCからなるリポソームではそれほど顕著ではなかった。
【0177】
2 噴霧乾燥後の異なるトレハロース勾配を有するリポソームへのパクリタキセルのローディング
2.1 概要
この実施例の目的は、トレハロース勾配の形成と調節との間にリポソームを噴霧する場合、リポソームへのパクリタキセルローディングに対する浸透勾配の正の影響が存在するかどうかを試験することであった。DOTAP/DOPCリポソームを2つの異なる濃度で、すなわち、10%(w/w)トレハロース溶液中10mMの脂質および20%(w/w)トレハロース溶液中20mMの脂質で調製した。両処方を各濃度で噴霧乾燥した。噴霧乾燥粉末はどちらも、10mMの脂質濃度および10%(w/w)の対応するトレハロース濃度まで水で再構成した。液体処方を前述のようにパクリタキセルに暴露し、可溶化されたパクリタキセルの量を測定した。2倍濃縮状態(20mMの脂質/20%(w/w)のトレハロース)処方から噴霧乾燥された処方は、1倍濃縮状態(10mMの脂質、10%w/wトレハロース)から噴霧乾燥されたものよりも多くのパクリタキセルを可溶化したことが判明した。
【0178】
結果は、リポソームの内側/外側のトレハロース分布が、選択された条件下での噴霧乾燥によって影響を受けなかったことを示す。先の2倍濃縮生成物の再構成後、液体処方の直接希釈の効果に対応して、トレハロース濃度勾配を有するリポソームが得られた。
【0179】
2.2 方法
リポソーム形成
処方をエタノール注入によって調製した。適切な量のエタノール中脂質溶液(200mMのDOTAP−Cl、188mMのDOPC)を撹拌下でトレハロースの水中溶液中に注入した。トレハロース濃度は、2mMのリポソームについて20%(w/w)であり、10mMのリポソームについて10%(w/w)であった。必要量のエタノール中脂質溶液は、10mMの処方について約2.5ml/lであり、20mMの処方について5mlであった。
【0180】
結果として得られる多分散系リポソーム処方を、約5バールの圧力で200nmの孔サイズのポリカーボネート膜を越えて5回押し出した。
【0181】
噴霧乾燥
噴霧乾燥を、2つの流体ノズルを用いたNiro SDミクロ噴霧乾燥機で実施した。噴霧条件は次のとおりであった:出口温度=100℃、入口温度=145℃、供給速度=340g/h、アトマイザーガス速度2.3kg/h、乾燥ガス速度30kg/h。
【0182】
再構成
先の10mMおよび先の20mM処方両方から得られる乾燥粉末を水で10mMの脂質濃度に再構成した。
【0183】
パクリタキセルローディングアッセイ
リポソームへのパクリタキセルローディングは、 で記載されているようにして実施した。
【0184】
2.3 結果
再構成された粉末へのパクリタキセルローディングから得られた結果を表2に示す。示されるように、20mMの脂質濃度で噴霧乾燥された処方は、10mMの初期脂質濃度の処方よりもはるかに多くのパクリタキセルを可溶化した。先の20mMの処方についての高いパクリタキセルローディングは、先の10mMの処方では存在しない、封入された水性相と遊離した水性相との間のオスモル濃度によるものであったことが結論づけられる。乾燥粉末の噴霧乾燥および再構成は、水性相内部と外部との間のトレハロース平衡化をもたらさず、したがって、封入された水性相のオスモル濃度は、先の20mM処方の場合の方が高かった。
【0185】
【表3】
【0186】
3 ロードされたリポソームの安定性
3.1 概要
問題を評価するために、内側/外側トレハロース勾配を有するリポソーム調製物が、より高いローディング能力だけでなく、パクリタキセルの放出に関してより高い安定性も有するかどうかにかかわらず、リポソームからのパクリタキセルの放出を時間の関数として追跡した。比較的高い、すなわち5モル%のパクリタキセルフラクションおよび0%〜20%(w/w)の異なるトレハロース勾配を有する処方を調製した。トレハロース勾配を含むリポソームは、21日の試験期間内で実質的なパクリタキセル放出を示さず、一方、トレハロース勾配のないリポソームでは、保持されたパクリタキセルフラクションは1%未満まで減少した。
【0187】
3.2 方法
DOTAP/DOPC処方
約5モル%のパクリタキセル(正確な値については表を参照のこと)、10〜30mMの脂質、および9.8%〜29.4%(w/v)のトレハロースを含むDOTAP/DOPCリポソームを、前述のフィルム法にしたがって各量の脂質およびパクリタキセルをクロロホルム溶液に添加することによって調製した。続いて、30mMのバッチを10mMの脂質濃度(全トレハロース濃度9.8%w/v)まで水で希釈した。
【0188】
試料を4℃で保存し、リポソームのパクリタキセル含有量を、ろ過およびHPLC分析を用いて前述の方法によって0、1、5、14、および21日後に測定した。
【0189】
3.3 結果
結果を表3にまとめる。リポソーム中に保持されるパクリタキセルの濃度(μm)を示す。脂質濃度は10mMであり、したがって、100μMのパクリタキセル濃度は、1%の脂質に関して1モル濃度に相当する。
【0190】
トレハロース勾配を有さない処方において、保持されたトレハロースフラクションは、21日後に、100μM未満(脂質に関しては1モル%未満)の値まで単調に減少した。それに反して、トレハロース勾配があれば、保持されたパクリタキセルは400μM未満に減少しなかった。その場合は、単調な減少は観察されなかった。言い換えると、約400μMの値は、リポソーム中のパクリタキセルの物理的に安定な状態を表すようである。
【0191】
【表4】
【0192】
保持されたパクリタキセルの最終フラクションは、同等に処理されたリポソームについてのローディングアッセイから得られた値と類似している。したがって、ローディングアッセイから得られるデータは、ロードされたリポソームの安全性限界についての予測と見なすことができる。他の効果が起こらないならば、ローディングアッセイから得られる数値は、所定の条件下でリポソームにより保持されるパクリタキセルの量についての情報を与えるであろう。この実施例から得られるさらなる結論として、トレハロース勾配、および改善された安定性は、数日間、完全に維持されるようである。この場合、効果は21日間維持された。
【0193】
4 現場でリポソームにおけるトレハロース勾配を測定するための方法
4.1 概要
濃度c
1のトレハロース中濃縮されたリポソーム処方を調製し、水またはトレハロース溶液のいずれかで様々な比で希釈して、トレハロース濃度c
2を得た(ここで、c
2≦c
1)。全処方は10mMの同じ最終脂質濃度を有していた。処方を光学特性の局所的変化(屈折率)に基づいて分析した。動的光散乱測定の計数率を用いて、散乱強度の変化を示した。トレハロース勾配c
1−c
2が増大すると、動的光散乱(PCS)測定の計数率は単調に増加した。
【0194】
4.2 方法
Brookhaven Instruments(Holtsville USA)製のゴニオメーターBI−200SMで動的光散乱を測定した。測定は、90°の角度で641nmの波長の30mWレーザーで実施した。データ解析のために、最適調整技術で逆ラプラス変換を実施した。
【0195】
4.3 試料
全脂質濃度が30mMであるDOTAP/DOPC(モル比1:1)リポソームを30%トレハロースの溶液中で調製した。30mMの脂質30%トレハロースリポソーム調製物を、200の押出膜を越えて押し出した。続いて、リポソームを水、30%トレハロース溶液または表に示した比のそれらの混合物で希釈した。
A:30%トレハロース中30mMリポソーム
B:水中30%トレハロース
C:水
【0196】
【表5】
【0197】
最終調製物中の脂質濃度は常に10mMであったが、全トレハロース濃度は、10%(水で希釈)から30%(30%トレハロース溶液で希釈)の間で変化した。30%の初期トレハロース濃度では、この結果、0%(全濃度=30%)から20%(全濃度=10%)の間のトレハロース濃度勾配数値が得られた。希釈の1時間後、動的光散乱測定を実施した。
【0198】
4.4 結果
図2は動的光散乱測定の結果を示す。計数率は、トレハロース勾配の関数として与えられる。計数率は、トレハロース勾配の増加とともに単調に増加した。これは、屈折率勾配の増加と相関する可能性があり、膨潤はトレハロース勾配の増加に影響を及ぼす。リポソームが理想的な浸透圧計として作用することができ、オスモル勾配が好適な条件下で光散乱および光吸収特性から測定できることは周知である(de Gier 1993;Cabral, Hennies et al. 2003)。準弾性光散乱から得られる強度に加えて、他の光散乱技術ならびに吸収または濁度測定も用いることができる。この観察は、動的光散乱測定において計数率の分析を、所定の処方についてのトレハロース勾配形成の成功を制御するためのツールとして用いることができることを示す。さらに、このデータは、リポソーム懸濁液の水性媒体のオスモル濃度の変化が、リポソームの物理的特性を提供することを裏付ける。
【0199】
5
パクリタキセルの液体DOTAP/DOPCリポソーム処方の物理的安定性に対するトレハロース勾配の影響
5.1 概要
この実施例では、実施例3に示すようなパクリタキセルのDOTAP/DOPCリポソーム処方に対するトレハロース勾配の安定化効果をさらに調査した。リポソームを30mM(32%w/wトレハロース溶液中)の濃度で調製し、異なるトレハロース/水溶液で希釈し、機械的応力後のパクリタキセル放出を測定した。
【0200】
物理的安定性はトレハロース勾配の増加とともに増加することが見いだされた。この知見は、パイロットスケールでの処理についても、パクリタキセルを含むリポソームに対するトレハロース勾配の安定化効果を裏付けた。
【0201】
5.2 方法および材料
リポソーム製造
リポソームをエタノール注入技術により製造した。手短に説明すると、200mMのDOTAPおよび188mMのDOPC(全脂質濃度388mM)の溶液を撹拌下、2〜8℃の温度で、水性相中に注入して(100mlの水性相について8.11mlの脂質のエタノール中溶液)、約30mMの脂質濃度を有する多分散系リポソームを得た。水性相について、184.5μMのクエン酸を含む32.1%w/wのトレハロース二水和物の溶液を選択した。
【0202】
押出は、表示するように、3バールの圧力で、220nmの孔サイズのポリカーボネート膜を用いて実施した。滅菌ろ過を、表示されているようにして、milipak 20滅菌フィルターまたはdurapore膜(Millipore, Molsheim, France)を用いて実施した。
【0203】
濃度勾配
30%(w/w)トレハロース溶液(PD−L−09111)中初期30mMリポソーム処方を異なる最終脂質およびトレハロース濃度まで水で希釈した。
【0204】
【表6】
【0205】
安定性試験
試料をシェーカーに載せ、150rpm、25℃または2〜8℃でそれぞれ撹拌した。24および48時間後、試料を分析し、リポソーム中に保持されたパクリタキセルの量を測定した。
【0206】
リポソーム調製物におけるパクリタキセル保持/放出の測定
リポソームにおけるパクリタキセル保持を、パクリタキセル結晶をリポソーム生成物から除去するためのリポソーム調製物のろ過によって調査した(実施例3に記載するとおり)。残存するパクリタキセルをHPLC分析によって定量化した。さらに、光学顕微鏡法を用いて、試料をパクリタキセル結晶について調査した。
【0207】
5.3 結果
結果を表6〜12に示す。簡単にするために、トレハロースの初期濃度はおよそ30%(w/w)にする。示した濃度勾配は、初期トレハロース濃度および希釈因子から計算する。封入された水性相と遊離した水性相との間の実際の濃度勾配は、同じ傾向を有するが、絶対値は表中に示した値と若干異なる可能性がある。
【0208】
以上のように、安定性は、トレハロース勾配の増加とともに増加する。リポソームによって保持されたパクリタキセルの量は増加し、パクリタキセル結晶はほとんど観察されない。安定性は25℃と比較すると5℃での方が高い。
【0209】
【表7】
【0210】
【表8】
【0211】
【表9】
【0212】
【表10】
【0213】
【表11】
【0214】
【表12】
【0215】
【表13】
【0216】
6 噴霧乾燥されたパクリタキセルをロードしたリポソームの安定性
6.1 方法および材料
材料は、先の実施例で記載したものを使用した。
【0217】
DOTAP、DOPCおよびパクリタキセルからなるリポソーム(モル比50/47/3)を、前述のエタノール注入技術によって形成した。パクリタキセルをエタノール中脂質溶液で可溶化した。20%w/wのトレハロース中20mMの脂質の濃度のリポソーム(バッチPD−L−09031)および10%のトレハロース中10mMの脂質の濃度のリポソーム(バッチMDG09.108−08−001およびPD−L−09032)を調製した。リポソームを、200nmの孔サイズのポリカーボネート膜を越えて5回押し出し、そして前述のように滅菌ろ過した。
【0218】
リポソーム懸濁液の調製後、リポソームを脱水した。バッチPD−L−09031およびPD−L−09031を実施例2で記載する噴霧乾燥パラメータでNiro SD−Micro噴霧乾燥機中で噴霧乾燥した。
【0219】
バッチMDG09.108−08−001を、Epsilon 2−12D(Christ)フリーズドライユニットを用いたフリーズドライによって脱水した。リポソーム懸濁液を4℃で1時間保持し、−40℃で約5時間凍結した。凍結後、温度を−16℃まで上昇させ、一次乾燥を0.1バールの圧力で90時間実施した。二次乾燥のために、圧力を0.01バールまで低下させつつ、温度を20℃まで上昇させた。
【0220】
乾燥粉末を10.5%(w/w)のトレハロース中10mMの脂質濃度まで水で再構成した。結果として得られる液体リポソーム生成物を、再構成の1時間後および再構成の24時間後に、Malvern Zetasizer 1000HSA, Series DTS5101(設定:分析=単峰性、膨張=1.2;適合次数=3;第1点選択=18;最終点選択=22まで;点加重=二次;減衰器=×16;粘度1.200cp;屈折率=1,348;測定回数=3;測定間の遅延=0;測定期間=自動)を用いた動的光散乱測定で調査して、Z
aveおよびPIを決定した。測定前に、試料を10.5%(w/w)トレハロース脱水溶液で10倍に希釈した。
【0221】
6.2 結果
結果を表13に示す。
再水和された生成物においてと同じ脂質およびトレハロース濃度で噴霧乾燥された処方についての知見は、2倍濃縮液体フィードから噴霧された生成物についての結果と実質的に異なり、トレハロース勾配が再水和により生じていた。濃度勾配のない処方は、有意に高いZ
aveおよびPI値を示し、再構成後24時間以内に増大し、一方、濃度勾配を有する処方は、そのような増加を示さなかった。Z
aveおよびPIの増加は、あまり安定でない、濃度勾配のない処方からのパクリタキセル放出に関連すると考えられる。データは実施例2の結果に一致し、この場合、2倍濃度で噴霧乾燥後に得られたリポソームに対してより多くのパクリタキセルをロードすることができ、その後、トレハロース勾配が生じた。さらに高いトレハロース濃度でパクリタキセルリポソーム処方を噴霧乾燥し、続いてトレハロース勾配を生じさせることで、再構成後の処方の安定性が改善される。
【0222】
噴霧乾燥試料と比較して、フリーズドライされた処方は、再構成後にすでにはるかに高いPIを示した。
【0223】
【表14】
【0224】
7大規模製造および噴霧乾燥
7.1材料
7.1.1基本的材料
・USP半合成パクリタキセルAPI、Phyton Biotech、ロットCP209N0014
・DOTAP−CI、Merck Eprova AG、ロットMBA−020
・DOPC、Avanti Polar Lipids Inc.、ロットGN181PC−12
・高純度α,α−トレハロース二水和物(低エンドトキシン)、Ferro Pfanstiehl、ロット33205A
・無水エタノールEP、Nova Laboratories Art.−Nr.A4478B
・クエン酸一水和物EP/USP、Nova Laboratories Art.−Nr.V290
・注射用水、Nova Laboratories Art.−Nr.A15210C
【0225】
7.1.2装置
・注射キャピラリー ID:2mm
・フィルターカートリッジMemtrex PC 0.2pm GE製、商品番号MPC92O5FHV、ロット60240937
・Millipore製の0.22pmのDuraporemembraneを有する滅菌フィルターOpticap XL4、商品番号KVGLAO4TT3 ロット:COCA10972
・処方容器(Nova Laboratories Ltd.)
・押出容器(Nova Laboratories Ltd.)
・バイオバーデン低減容器(Nova Laboratories Ltd.)
・保持容器(Nova Laboratories Ltd.)
・蠕動ポンプ(Nova Laboratories Ltd.)
・スタンドパイプを有する20Lの圧力容器(Nova Laboratories Ltd.)
・バタフライベント(Nova Laboratories Ltd.)
・ASD−1無菌噴霧乾燥機(GEA Niro S/A, Copemhagen Denmark)
【0226】
7.2 方法
7.2.1 液体処方の製造
7.2.1.1 有機溶液の調製
バッチ001に関して、349.3gのDOTAP−CLを700gの無水エタノール中に溶解させ、約4時間撹拌した。369.5gのDOPCを700gの無水エタノール中に溶解させ、そして約3時間撹拌した。その後、2つの脂質溶液を合し、25.617gのパクリタキセルに添加した。結果として得られた有機溶液を約2時間撹拌し、無水エタノールの添加によって最終的に2122.5gの総重量に調節した。バッチ002〜004をそれに応じて調製した。
【0227】
7.2.1.2 水溶液の調製
バッチ001に関して、10819gのトレハロース脱水物を処方容器中で約20kgの注射用水に添加し、700rpmで90分間撹拌した。その後、1.258gのクエン酸一水和物を添加し、完全に溶解するまで撹拌した。水溶液の最終容積を34.53kgに調節し、さらに10分間撹拌した。バッチ002〜004をそれに応じて調製した。
【0228】
7.2.1.3 エタノール注入
バッチ001に関して、有機溶液を、蠕動ポンプによって約250g/分の注入速度で水溶液中に注入した。注入中、溶液を約500rpmで撹拌した。注入を完了した後、溶液を2分間600rpmで撹拌し、その後、1分間700rpmで撹拌した。全注入プロセスの間、温度を8℃より低く維持した。注入の間、バッチ002〜004を550rpmで撹拌し、その後、さらに撹拌しなかった。
【0229】
7.2.1.4 押出
0.2pmポリカーボネート膜を有する5’’フィルターカートリッジ上で8回押出を実施した。フィルターカートリッジをそれぞれ0.4〜0.5バールで通気し、3.0バールの圧力で押出を実施した。温度を8℃より低く維持した。
【0230】
7.2.1.5 希釈
8回目の押出の後に、処方の重力を測定した。1.106g/mlの処方の密度を基準として、20mMの処方を得るために必要な水の量を計算し(全脂質濃度に基づく)、これは1:1.5希釈に相当する。バッチ001に関して、溶液を約500rpmで撹拌しつつ、必要量の注射用水を1.66l/分で蠕動ポンプにより2mmIDのキャピラリーを通して添加した。添加した注射用水は、処方を添加する前に8℃より低く冷却しておいた。バッチ002〜004に関して、希釈を0.62l/分〜0.83l/分、約600rpmの撹拌速度で実施した。
【0231】
7.2.1.6 バイオバーデンの低減
バイオバーデンの低減(1回目の滅菌ろ過)の前に、OpticapXL4フィルターを20Lの注射用水で約0.5バールの圧力にて洗浄した。フィルターの充填および通気を重量測定法で実施した。ろ過を2.5バールの圧力で実施し、それによって、圧力を迅速に加えた。処方の温度を8℃未満に維持した。
【0232】
7.2.1.7 滅菌ろ過
滅菌ろ過前に、OpticapXL4フィルターを20Lの注射用水で約0.5バールの圧力にて洗浄した。フィルターの通気は0.5バールで実施した。ろ過を2.5バールの圧力で実施し、これにより、圧力を迅速に加えた。処方の温度を8℃未満に維持した。
【0233】
7.2.2 噴霧乾燥
リポソーム処方をASD−1無菌噴霧乾燥機(GEA Niro S/A, Copenhagen Denmark)中で噴霧乾燥した。バッチ001を単一バッチとして乾燥し(試験1)、一方、バッチ002〜004を連続方式で連続して噴霧した(試験2)。噴霧乾燥について、2液ノズル、乾燥ガスとして窒素、および以下のパラメータを使用した:
【0234】
【表15】
【0235】
7.3 リポソームの安定性
7.3.1 方法
試験1から得られる脱水されたリポソーム組成物を注射用水中で再水和して、10mMの総脂質濃度にし、かくして、再構成状態は、脱水前に20mMであった調製物のオスモル勾配をさらに増大させる。比較のために、希釈せずに調製し、凍結乾燥により脱水した対応するリポソーム組成物(参考バッチ)(例えば国際公開第2004/002468号パンフレットで開示されているように)。リポソーム中に保持されるパクリタキセル(パクリタキセル分解生成物を含む)の量を、実施例1.3で記載されている方法にしたがって、リポソームの再構成後および25℃で24時間後に測定した。保持されたパクリタキセルおよびろ過可能な(結晶化)パクリタキセルのパーセンテージを、調製物中に存在する全パクリタキセルを基準として計算した。
【0236】
7.3.2 結果
【表16】
【0237】
データは、オスモル勾配の非存在下で調製されたリポソーム調製物が放出パクリタキセルをより迅速に放出することを示す。このことは、24時間の比較的短期間後にすでに観察することができる。
【0238】
7.4 粒子サイズおよび多分散性の分析
7.4.1 方法
粒子サイズ(z平均)および多分散性指数(PI)を、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments)を用いたPCS(173°回折)により測定した。簡単に説明すると、試験1(バッチ1に相当する)および試験2(試験2〜4に相当する)からの試料ならびに参考バッチ(前述を参照のこと)からの試料を、水中に再懸濁させて、全脂質濃度を10mMとした。測定のために、試料を10.5%のトレハロース脱水物溶液(w/w)で10倍に希釈した。試料を25℃で24時間保存し、再度測定した。
【0239】
測定およびデータ解析に以下の設定を使用した:測定タイプ=サイズ;試料:材料=ポリスチレンラテックス、RI:1.590;吸収:0.01;分散剤=10.5%トレハロース、温度:25℃、粘度1.200cP RI:1.342;一般的オプション=Mark−Houwinkパラメータ;温度=25℃、平衡化時間:5分;セル=DTS0012−使い捨てサイジングキュベット;測定:試験回数=15;試験期間(秒)=100;測定回数=3;測定間の遅延;進行=位置4.65の固定位置、減衰器6;分析パラメータ:分析モード=一般;キュムラント分析:適合次数=3;加重スキーム=二次;キュムラント点選択:第1点=自動;最終点選択法=カットオフ;シグナルのフラクション=0.1;膨張=1.2;表示範囲:下限=0.6;上限=10000;ろ過:フィルター因子=75;多峰性分析:結果の変換=Mie;結果の変換の使用=あり;加重スキーム=二次;分解=通常;多峰性−点選択;第1点=自動;最終点選択法=カットオフ シグナルのフラクション=0.01;膨張=1.2;サイズクラス:サイズクラスの数=70;下限=0.4;上限=10000;閾値:下限=0.05;上限=0.01;フィルター因子=デフォルト.
【0240】
7.4.2 結果
【表17】
【0241】
浸透勾配を有するように製造し、噴霧乾燥により脱水した処方(試験1および2)は、非常に類似したz平均を示したが、浸透勾配なしで製造し、凍結乾燥により脱水した参考試料と比較すると有意に低いPI値を示した。したがって、前述のプロセスによって製造された生成物は、従来のプロセスによって製造された生成物よりも均一である。
【0242】
7.5 超遠心特性化
7.5.1 方法
超遠心の分析を、Nanolytics(Potsdam, Germany)によって実施した。
【0243】
各試料を、H
2OおよびH
2O:D
2Oの1:1混合物中で再構成して10mMの脂質濃度にし、1時間室温で平衡化した。その後、試料を各溶媒で1:1に希釈した。さらに1時間平衡化した後、試料を超遠心に付した。400μlの各リポソーム分散液を12mmの光路のチタン製超遠心キュベットに付した。試料を、レイリー干渉オプティクスを備えたAn50Ti 8−プレースローター(Beckmann−Coulter, Palo Alto)を用いたOptima XL−I分析的遠心分離機(Beckmann−Coulter, Palo Alto)で、20000rpm、25℃にて遠心分離した。遠心分離中、動径座標に沿った濃度プロフィールは、溶液内の屈折率勾配によった。試料を2連で測定した。
【0244】
7.5.2 データ解析
7.5.2.1 沈降係数の定義
分析的超遠心における第1指数は、次のように定義される沈降係数である:
【数3】
(式中、uは粒子の沈降速度であり、mは粒子の質量であり、vは比容積であり、fは摩擦項であり、ρは溶媒の密度である)。
【0245】
沈降係数の測定
沈降係数は、測定されたデータから直接、さらなる前提なしに、以下にしたがって、計算する:
【数4】
(式中、rは、回転軸までの距離であり、r
mはメニスカスである。実行時間積分
【数5】
は、測定装置によって決まる。
【0246】
7.5.2.3 沈降係数分布
特定の半径で1つの沈降係数の代わりに、全r軸をs軸に変換することができる。各位置でのフリンジシフトは、そこに存在する粒子種の質量濃度に比例し、したがって、測定値の大きさをy座標にとることができる。しかし、放射方向密度に関してy座標を補正することが必要である。補正項を含めることにより、以下の関数g(s)が得られ、速度sで沈降する粒子種の質量濃度が得られる:
【数6】
【0247】
濃度c、それぞれc0は、フリンジシフト単位で与えられ、ここで、フリンジは完全相、したがって、干渉波の明線および暗線に等しい。サイズは、屈折率増分が全粒子種について等しいと仮定することができる場合に、g/lで与えられた濃度に正比例し、これは、多分散分布で単に存在する化学的均一材料であるこの試料に当てはまる:
【数7】
(式中、φは、フリンジシフト単位での濃度であり、λはレーザーの波長であり、lはキュベットの長さであり、dn/dcは所定の溶媒中の溶質の屈折率増分である)。この比例のために、方程式(3)における濃度は、質量濃度として直接記載することができる。
【0248】
g(s)(またはその積分形G(s)は、原則としてスキャンごとの座標変換および方程式(3)にしたがったy座標の計算によって計算することができ;全体的な結果は、主に重複する主なスキャンの平均によって得ることができる。したがって、全スキャンに対して全体的なデータフィッティングを実施することが合理的である。それにより、時間および空間非依存性ノイズが単離され、さらなる統計的ノイズを分配して、全測定データから最良のg(s)を得る。Peter Schuck製のSedFit v12.4.ソフトウェアをフィッティングのために使用した。
【0249】
7.5.2.4 沈降係数分布の解釈
関数g(s)の形態の沈降係数分布は、すでに分布の形態に関する情報を与えており;通常、初期測定パラメータsを粒子の直径または質量に変換することが望ましい。沈降係数は、核酸係数によりSVEDBERG式によってモル質量に関連する
【数8】
球体に関して、本発明のリポソームについて、拡散係数を球の直径で置換することができ、これにより、リポソームに水を充填することを考慮しなければならず、これは沈降ではなく摩擦に寄与する。
【0250】
方程式5中の拡散係数はSTOKES−EINSTEIN式によって置換され
【数9】
球の直径d=2Rhおよび水の体積分率Φを考慮し;SVEDBERG式は次のようになる
【数10】
(式中、ηは溶媒の粘度であり、ρ
sは溶質の密度である)。
【0251】
沈降係数分布をサイズ分布に換算するために、リポソームの膨潤および密度は一定のままであるか、または沈降係数に応じた分布として与えられることが必要である。このように、密度を実験的に決定する。
【0252】
7.5.2.5 密度変動の分析
沈殿粒子の密度は、密度が異なる2つの溶媒中での分析的超遠心により決定することができる。密度が低い方の溶媒中で、粒子は通常、周囲溶媒に対する密度の差が減少するならば、小さいs値を示す(粒子はゆっくりと沈殿する)。同じ粒子を表す両s値は、各溶媒についてのパラメータで、方程式(7)を満たす。2つの溶媒(指数1および2)について次式が当てはまる:
【数11】
【0253】
方程式の両側の粒子の無水密度
ρsおよび膨潤パラメータ
Φは同じである。なぜなら、それらは同じ物質に関するからである。同じ粒子は、同じy座標G(s)で沈降係数分布の要素として定義される。
【0254】
したがって、方程式(8)を整理し、簡約して、無水密度を得ることができる:
【数12】
【0255】
直径は次式にしたがって導くことができる:
【数13】
【0256】
方程式(10)を解くために、粒子の直径などの独立した情報が必要であり、これは、前述のような動的光散乱実験によって、実験的に決定することができる。
【0257】
7.5.3.結果
【表18】
【0258】
参考文献
Antonietti, M. and S. Forster (2003). ’’Vesicles and liposomes: A self−assembly principle beyond lipids.’’ Advanced Materials 15(16): 1323−1333.
Bangham A. D., Standish M. M., Watkins, J.C. (1965). ’’Diffusion of univalent ions across the lamellae of swollen phospholipids’’, J. Mol. Biol. 13: 238−52.
Cabral, E. C. et al. (2003). ’’Preparation and characterization of diacetylene polymerized liposomes for detection of autoantibodies.’’ J Liposome Res 13(3−4): 199−211.
De Gier, J. (1993). ’’Osmotic behaviour and permeability properties of liposomes.’’ Chem Phys Lipids 64(1−3): 187−196.
Ertel, A., A. G. Marangoni, et al. (1993). ’’Mechanical properties of vesicles. I. Coordinated analysis of osmotic swelling and lysis.’’ Biophysical Journal 64(2): 426−434.
Evans, D.F. and Wennerstrom H. (1994). ’’The Colloidal Domain’’, VHC Publishers, Inc., New York, pp 48−49.
Goormaghtigh, E. and G. A. Scarborough (1986). ’’Density−based separation of liposomes by glycerol gradient centrifugation.’’ Anal Biochem 159(1): 122−31.
Gregoriadis G. (1995). ’’Engineering liposomes for drug delivery: Progress and problems’’. Trends in biotechnology 13 (12): 527−537.
Hallett, F. R., J. Marsh, et al. (1993). ’’Mechanical properties of vesicles. II. A model for osmotic swelling and lysis.’’ Biophysical Journal 64(2): 435−442.
Huang, C.H., Charlton, J.P. (1971) ’’Determination of partial specific volumes by sedimentation velocity method’’, The Journal of Biological Chemistry, 246(8): 2555−2560.
Koppel, D. E. (1972). ’’Analysis of macromolecular polydispersity in intensity correlation spectroscopy: the method of cumulants.’’ Journal of Chemical Physics 57(11): 4814−4820.
New et al. (1990). Liposomes. A Practical Approach. Oxford University Press. Pages 33−104).