特許第5966172号(P5966172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966172
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】培養細胞、及び、細胞系構築方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20160728BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160728BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20160728BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20160728BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N15/00 AZNA
   C12N7/00
   C12N15/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-154982(P2012-154982)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-14335(P2014-14335A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年度厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業「ウイルス性肝疾患に対する分子標的治療創薬に関する研究」研究班(代表:金子周一)斑会議、平成24年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】深澤 征義
(72)【発明者】
【氏名】花田 賢太郎
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of Virology,2007年,vol.81,no.10,pp.5284-8293
【文献】 Hepatology,1999年,vol.30,no.1,pp.316-324
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10−5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インポーチンα遺伝子、インポーチンβ遺伝子又はトランスポーチン遺伝子ノックダウンさた、C型肝炎ウイルスを培養するためのヒト肝細胞由来の培養細胞。
【請求項2】
前記インポーチンα遺伝子、前記インポーチンβ遺伝子又は前記トランスポーチン遺伝子、ステルスsiRNA又はsiRNAによりノックダウンさたことを特徴とする請求項1に記載の培養細胞。
【請求項3】
前記ヒト肝細胞は、Huh7細胞、Huh7.5細胞、又は、Huh7.5.1細胞であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養細胞。
【請求項4】
宿主培養細胞におけるインポーチン分子又はトランスポーチン分子の発現を抑制することにより、C型肝炎ウイルスを培養する細胞系を構築することを特徴とする細胞系構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養細胞、及び、細胞系構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(以下「HCV」と記載する)は非A非B型肝炎の原因ウイルスとして1989年に発見同定された。HCVは、エンベロープを有するRNAウイルスである。ゲノムは一本鎖プラス鎖RNAで、フラビウイルス科のHepacivirus属に分類される。同じ肝炎ウイルスであっても、DNAウイルスであるB型肝炎ウイルス(HBV)は、免疫能の未熟な新生児、乳幼児期以外では、たとえ感染しても免疫機構により排除され急性感染で終わる。それと比較して、HCVは、未だ明らかではない原因により宿主の免疫機構を回避する。そのため免疫機構の発達した大人に感染した場合でも、持続性感染に移行することが多い。
【0003】
HCV感染により引き起こされる肝炎(C型肝炎)は、その後二十数年の経過のなかで肝硬変、そして最終的に肝癌に至る可能性がある。肝癌は、手術で癌を摘出しても、非癌部で引き続き起こる炎症のため肝癌が再発する患者も多いことが知られている。また、HCV感染が慢性蕁麻疹、偏平苔癬、クリオグロブリン血症性紫斑等の皮膚疾患に関与するとの報告も見られる(日皮会誌, 111(7), 1075-81, 2001参照)。
【0004】
HCV感染者は日本国内で約200万人、世界で約2億人いると推定されている。また、HCVに感染していることを自覚していないいわゆる無症候性キャリアーも多数存在している。現在、日本国内では、肝細胞癌による犠牲者は年間約3.5万人となっており、その8割はHCV感染によるものである。
【0005】
現在、HCV感染症に対しては、インターフェロンとリバビリン(Ribavirin:1−β−D−リボフラノシル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキサミド)の併用療法が一般的である。しかしながら、この併用療法は、患者全体の50%にしか有効ではなく、また、血球減少症・溶血性貧血など重篤な副作用をおこすことが知られている。
【0006】
係る事情の下、薬効の優れているHCV阻害剤やHCVの予防に有効なワクチンを作製することが求められている。HCV阻害剤やワクチンを作製するためには、HCVを培養、増殖し、これを標的とする必要がある。非特許文献1、2には、チンパンジーをHCVに感染させ、感染させたチンパンジーの肝臓においてHCVを増殖させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Beard MR. et al., "An infectious molecular clone of a Japanese genotype 1b hepatitis C virus", Hepatology 30: 316-24, 1999
【非特許文献2】Yanagi M. et al., "an infectious molecular clone of a second major genotype (2a) and lack of viability of intertypic 1a and 2a chimeras", Virology 262: 250-63, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
HCVを増殖させるためにチンパンジーを用いると、チンパンジーの飼育や飼育施設が必要である。しかし、チンパンジーの飼育施設には莫大な費用がかかり、また、実験に使用できるようなチンパンジーを飼育するには時間と手間がかかる。このため、HCVを効率的に培養できる新たな手法が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、HCVを効率的に培養できる培養細胞、及び、HCVを培養できる細胞系を構築する細胞系構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る培養細胞は、
インポーチンα遺伝子、インポーチンβ遺伝子又はトランスポーチン遺伝子ノックダウンさた、C型肝炎ウイルスを培養するためのヒト肝細胞由来の培養細胞である。
【0011】
前記インポーチンα遺伝子、前記インポーチンβ遺伝子又は前記トランスポーチン遺伝子、ステルスsiRNA又はsiRNAによりノックダウンさてもよい。
【0013】
前記ヒト肝細胞は、Huh7細胞、Huh7.5細胞、又は、Huh7.5.1細胞であってもよい。
【0014】
本発明の第2の観点に係る細胞系構築方法は、
宿主培養細胞におけるインポーチン分子又はトランスポーチン分子の発現を抑制することにより、C型肝炎ウイルスを培養する細胞系を構築することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、HCVを効率的に培養できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】培養細胞のHCV分泌量を比較した図である。
図2】培養細胞内のHCVゲノムRNA量を比較した図である。
図3】培養細胞内のHCVタンパク質の検出結果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.培養細胞)
本明細書において「培養細胞」、「培養細胞系」とは、HCVを培養できる細胞である。培養細胞は、細胞のインポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子の発現が抑制されており、HCVを効率的に培養できる状態にある。
【0018】
培養細胞のもととなる細胞(宿主培養細胞)は、ヒト肝細胞由来のHuh7系細胞である。培養細胞では、例えば、Huh7細胞、Huh7.5細胞、Huh7.5.1細胞のインポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子がノックダウンされ、インポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子の発現が抑制されている。
【0019】
宿主培養細胞は、ヒト肝細胞由来のHuh7系細胞以外であっても、HCVの感染・増殖性を示すヒト肝培養細胞株(例えば、Li23細胞(Kato N. et al. Virus Res. 486, 146, 41-50 (2009)参照)、HuS−E/細胞(Aly H.H. et al. J. Hepatol. 46, 26-36(2007)参照)であってもよく、また、各種の市販の初代ヒト肝細胞や、初代ヒト肝細胞をマウスに移植したヒト肝臓キメラマウス細胞(例えば、PXBマウス細胞(フェニックスバイオ社製))であってもよい。
【0020】
ノックダウンする遺伝子は、インポーチンα1(Importin α1)遺伝子、インポーチンα3(Importin α3)遺伝子、インポーチンα5(Importin α5)遺伝子、インポーチンβ(Importin β)遺伝子、トランスポーチン(Transportin)遺伝子の何れであってもよい。
【0021】
(2.HCV株)
上記の培養細胞に感染させるHCV(HCV株)としては特に限定されず、少なくとも感染能及び複製能を有するHCVであればよい。具体的には、遺伝子型2aのJFH1株が挙げられる。また、JFH1株のキメラ体(例えば、H77C/JFH1株(遺伝子型1aとのキメラ)、J4/JFH1株(遺伝子型1bとのキメラ)、J6/JFH1株(他の遺伝子型2aとのキメラ)、J8/JFH1株(遺伝子型2bとのキメラ)、S52/JFH1株(遺伝子型3aとのキメラ)、ED43/JFH1株(遺伝子型4aとのキメラ)、SA13/JFH1株(遺伝子型5aとのキメラ)、HK6a/JFH1株(遺伝子型6aとのキメラ)、QC69/JFH1株(遺伝子型7aとのキメラ)(Gottwein J. M. et al. Hepatology 49, 364-377(2008)参照))であってもよく、また、他のすべての遺伝子型のHCV株であってもよい。
【0022】
(3.培養細胞系の構築方法)
ヒト肝細胞由来の細胞にステルスsiRNAを導入し、インポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子をノックダウンすることにより、この遺伝子の発現量が減少した培養細胞を作製する。
【0023】
培養細胞を作製するための増殖用培養液、培地は、細胞を培養するために一般的に用いられている培養液、培地であれば、特に限定されるものではない。また、増殖用培養液、培地には、細胞を培養するために一般的に用いられる抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)、抗真菌剤(例えば、ファンギゾン)を添加してもよく、さらに他の成分を含むことができる。培養条件は、細胞を培養するための公知の条件を採用することができる。例えば、約5%CO2存在下、約37℃で、1〜4日間、培養することにより、培養細胞を作製できる。
【0024】
培地の組成としては特に限定されず、細胞に合わせて適宜公知の培地を用いることができる。また、培養方法としても特に限定されず、用いる細胞に合わせて適宜公知の方法を用いることが可能である。
【0025】
培養時間としては特に限定されないが、HCVが細胞に対して十分な傷害を与えることができる程度の時間であることが好ましい。具体的には、培養時間は、培地上清中にHCVのRNAが検出可能な時間であることが好ましい。
【0026】
遺伝子の発現量を減少させる方法は、ステルスsiRNAに限定されず、siRNA、shRNA、microRNAなど任意である。また、ステルスsiRNA以外であってもインポーチン分子又はトランスポーチン分子の発現を抑制するものであれば、インポーチン又はトランスポーチンの輸送阻害剤やインポーチン又はトランスポーチンの活性ドミナントネガティブ体のようなものであってもよい。また、遺伝子をノックアウトしてもよく、また、タンパク質の発現をノックダウンしてもよい。
【0027】
培養細胞にHCVを感染させる感染方法は、適宜選択することができる。また、HCVに感染した培養細胞から、HCV量(例えば、分泌量、ゲノムRNA量、タンパク質量)を検出する検出方法は、適宜選択することができる。例えば、HCVの特異的なタンパク質の検出方法としては、公知の生化学的または免疫化学的な方法を用いることができる。特に制限されないが、特異的な標識抗体を用いる方法(染色法、フローサイトメトリー、ELISAなど)、RT−PCR法、ハイブリダイゼーション解析などが挙げられる。特異的な抗体は市販されており、容易に使用することができる。
【0028】
培養細胞内でHCVを増殖複製させる増殖方法は、適宜選択することができる。例えば、HCVのレプリコンシステムを用いて、HCVを培養細胞内で増殖複製することができる(Lohmann V et al, "Replication of subgenomic hepatitis C virus RNAs in a hepatoma cell line", Science. 285:110-3, 1999参照)。
【0029】
上述したように、インポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子の発現が抑制された培養細胞は、HCVを培養することができる。また、ヒト肝細胞由来のHuh7系細胞にステルスsiRNAを導入し、インポーチン遺伝子又はトランスポーチン遺伝子をノックダウンすることにより、培養細胞を作製することができる。これにより、HCVの増殖、培養を評価するための培養細胞系(実験系)を提供することができる。また、本発明に係る培養細胞を利用することにより、HCVに感染させた培養細胞を標的とした様々な薬剤、例えば、抵抗性改善薬及び代謝改善薬、を従来の実験動物等を用いた方法と比較して簡易にスクリーニングすることができる。
【0030】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものでない。
【実施例】
【0031】
(培養細胞の作製)
ヒト培養肝細胞にステルスsiRNAを導入し、インポーチンβ遺伝子をノックダウンさせた培養細胞を作製した。培養細胞を作製するための操作は、すべてClass IIA安全キャビネット(日立社製 SCV-1303ECIIA)中で行った。まず、コラーゲンコート48穴プレート(コーニング社製NCO3548)に、ヒト肝由来培養細胞株のHuh7.5.1細胞を5 × 104 cells/well(500μl)で播き込んだ。培地は、10% Fetal Bovine Serum(Cell Culture Bioscience社171012 lot. 8E0582), non-essential amino acid(Hyclone社製SH30238.01), penicillin/streptomycin(Wako社製168-23191)含有D-MEM(Wako社製044-29765)を用いた(以下、この培地を培地Aという)。37℃、1日間、5% CO2インキュベータ(ASTEC社製 SCA-165DS)中で培養した。ステルスsiRNA導入には、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(Life technologies社製13778150)を用い、この製品マニュアルに従って行った。1well当たり、A液(0.28μlのLipofectamine RNAi MAX+20μlのOpti-MEM I reduced serum medium(Life technologies社製31985)、B液(6pmolの各siRNA+ 20μlのOpti-MEM I reduced serum medium)を用意し、A液とB液とを混合後15から20分間放置し、siRNA溶液を調製した。細胞の培養液を200μlの抗生物質(penicillin/streptomycin)を含まない培地Aに置換し、siRNA溶液を添加した(終濃度30nM)。そのまま37℃、2日間培養した。全く同じsiRNA導入操作を再度行った。最後に、37℃、1日間培養することにより、培養細胞を作製した。
【0032】
また、上述した培養細胞の作製方法を用いて、ヒト肝由来培養細胞株のHuh7.5.1細胞のインポーチンα1遺伝子、インポーチンα3遺伝子、インポーチンα5遺伝子、及び、トランスポーチン遺伝子を、ノックダウンさせた培養細胞を同様に作製した。これらの培養細胞を用いて、以下のHCV感染操作を行った。
【0033】
なお、ヒト培養肝細胞に導入したステルスsiRNAは以下の通りである。Importin siRNAsについては、Nitahara-Kasahara, Y. et al. J. Virol. 81, 5284-5293(2007)を参照した。
(1)Control siRNA: Stealth RNAi Negative Control Duplex Low GC Duplex (Invitrogen社製 12935-300)、以下に示す図中の「Cont. siRNA(L)」に対応。
(2)HPRT siRNA: Stealth siRNA Duplex (human HPRT-S1) (Invitrogen社製 10620312) 、Sense鎖: UUUCAAAUCCAACAAAGUCUGGCUU、以下に示す図中の「HPRT」に対応。
(3)Importin α1 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CCAAGCUACUCAAGCUGCCAGGAAA、以下に示す図中の「importin α1」に対応。
(4)Importin α3 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CAGUGAUCGAAAUCCACCAAUUGAU、以下に示す図中の「importin α3」に対応。
(5)Importin α5 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CCGGAAUGCAGUAUGGGCUUUGUCU、以下に示す図中の「importin α5」に対応。
(6)Importin β siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CAGUCUGGCUGAAGCUGCUUAUGAA、以下に示す図中の「importin β」に対応。
(7)Transportin siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CACAGCACUGCAGUCUGGAUUCCUU、以下に示す図中の「transportin」に対応。
【0034】
(HCVの感染)
siRNAを導入した培養細胞から培地を除き、培養細胞を500μlの培地Aで2回洗浄した。500μlのHCV-JFH1株(HCVコアタンパク質濃度として1.56pmol/L, MOI:〜0.5に相当)を含む培地Aを添加し、37℃、2から3時間培養した。培養細胞を500μlの培地Aで3回洗浄後、500μlの培地Aを添加し、37℃、4から5日間培養した。その後、インポーチンα1遺伝子、インポーチンα3遺伝子、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をノックダウンさせたそれぞれの培養細胞におけるHCV量を測定した。
【0035】
なお、用いたHCV-JFH1溶液は、論文(Murakami Y. et al. Antiviral Res. 83, 112-117(2009))に従って調製し、当該濃度に培地Aで希釈して用いた。
また、培養上清中のHCV濃度については、HCVコアタンパク質の濃度をELISA法(オーソ社製HCV抗原ELISAテスト 601002)により測定した。濃度の測定方法は製品マニュアルに従った。
【0036】
図1は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、細胞外へのHCVの分泌量(HCV量)を比較した図である。同図に示すように、インポーチンα1、α3遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin α1, importin α3)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、HCVを有意に増加させないことが示された。インポーチンα5遺伝子をノックダウンさせた培養細胞では、HCV量が倍増していた。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、HCV量が約10倍になった。
【0037】
以上の結果から、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0038】
(HCVゲノムRNA量の測定)
HCVに感染させた培養細胞中のHCVゲノムRNA量を測定した。培養細胞を500μlのPBSで洗浄後、NucleoSpin(登録商標)RNA II(Takara Bio社製U0955C)を用い、この製品のマニュアルに従い全RNAを精製した。100から200 ngの全RNAを使用し、LightCycler(登録商標) RNA Master SYBR Green I(Roche社製 03 064 760 001)を用いて、qRT-PCR法によりHCVゲノムRNAの定量を行った。測定は製品マニュアルに従った。HCVゲノム検出用のDNAプライマーは、"AGGAAGACTTCCGAGCG"および"GGGTGACAGGAGCCATC"を合成し、用いた。
【0039】
図2は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、細胞内のHCVゲノムRNA量を比較した図である。同図に示すように、インポーチンα1、α3、α5遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin a1, importin a3, importin a5)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、細胞内のHCVゲノムRNA量を増加させることが示された。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、細胞内のHCVゲノムRNA量を約100倍増加させることが示された。
【0040】
以上の結果から、インポーチンα1、α3、α5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子(特に、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子)をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0041】
(HCVタンパク質量の測定)
HCVに感染させた培養細胞中のHCVタンパク質(コアタンパク質、NS3タンパク質)を、イムノブロット法により検出(測定)した。検出方法は、Novex(登録商標) NuPAGE(登録商標) Gel Electrophoresis-XCell II Blot Module(Invitrogen社製)システム、及び、SNAP i.d.吸引式免疫反応システム(Millipore社製)を用いて行った。HCVに感染させた培養細胞を500μlのPBSで洗浄後、100μlのNuPAGE LDS Sample Buffer (4X)(NP0007)に溶解し、13μlをNuPAGE 4-12% Bis-Tris Gel 1.0 mm, 17 well(NP0329PK2)にて分離した。Invitrogen社マニュアルに従いPVDF膜に転写後、Millipore社マニュアルに従い免疫反応を行った。抗HCV core抗体(Mouse Anti-HCV Core Protein Monoclonal Antibody[B2], ANOGEN社製MO-I40015B)を2,000倍希釈、抗HCV NS3抗体(Mouse monoclonal [8G-2] to Hepatitis C Virus NS3, Abcam社製ab65407)を1,000倍希釈、抗GAPDH抗体(Mouse monoclonal [6C5] to GAPDH, Abcam社 ab8245)を20,000倍希釈、二次抗体(HRP-conjugated AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG(H+L), Jackson Immuno Research社製115-035-003)を2,000倍希釈で用いた。シグナルの検出は、ECL(登録商標)試薬(GE Healthcare社製RPN2106)を用いて、この製品マニュアルに従い行った。
【0042】
図3は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、感染培養細胞中のHCVタンパク質量を比較した図である。イムノブロット法により、感染培養細胞中のコアタンパク質及びNS3タンパク質の量を比較した。同図に示すように、インポーチンα5遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin a5)では、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、コアタンパク質(図中では、HCV core)をより多く検出できた。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)では、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、コアタンパク質(図中では、HCV core)及びNS3タンパク質(図中では、HCV NS3)をより多く検出できた。
【0043】
以上の結果から、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0044】
上述したように、インポーチン遺伝子、トランスポーチン遺伝子の発現が抑制された培養細胞では、HCVを効率的に培養することができた。これにより、HCVの増殖、培養を評価するための実験系を提供することができる。また、培養細胞を標的とすることにより、従来の実験動物等を用いた方法と比較して、HCV阻害剤を簡易に作製(スクリーニング)することができる。また、本発明の培養細胞により効率的に全粒子ウイルスを作製できるため、ワクチン産生のための効率的な全粒子ウイルス抗原の作製が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明に係る培養細胞は、HCVを増殖複製できるため、HCV感染の培養細胞を標的としたHCV阻害剤を作製するために有用である。また、効率的なワクチン産生においても有用である。
図1
図2
図3