【実施例】
【0031】
(培養細胞の作製)
ヒト培養肝細胞にステルスsiRNAを導入し、インポーチンβ遺伝子をノックダウンさせた培養細胞を作製した。培養細胞を作製するための操作は、すべてClass IIA安全キャビネット(日立社製 SCV-1303ECIIA)中で行った。まず、コラーゲンコート48穴プレート(コーニング社製NCO3548)に、ヒト肝由来培養細胞株のHuh7.5.1細胞を5 × 10
4 cells/well(500μl)で播き込んだ。培地は、10% Fetal Bovine Serum(Cell Culture Bioscience社171012 lot. 8E0582), non-essential amino acid(Hyclone社製SH30238.01), penicillin/streptomycin(Wako社製168-23191)含有D-MEM(Wako社製044-29765)を用いた(以下、この培地を培地Aという)。37℃、1日間、5% CO2インキュベータ(ASTEC社製 SCA-165DS)中で培養した。ステルスsiRNA導入には、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagent(Life technologies社製13778150)を用い、この製品マニュアルに従って行った。1well当たり、A液(0.28μlのLipofectamine RNAi MAX+20μlのOpti-MEM I reduced serum medium(Life technologies社製31985)、B液(6pmolの各siRNA+ 20μlのOpti-MEM I reduced serum medium)を用意し、A液とB液とを混合後15から20分間放置し、siRNA溶液を調製した。細胞の培養液を200μlの抗生物質(penicillin/streptomycin)を含まない培地Aに置換し、siRNA溶液を添加した(終濃度30nM)。そのまま37℃、2日間培養した。全く同じsiRNA導入操作を再度行った。最後に、37℃、1日間培養することにより、培養細胞を作製した。
【0032】
また、上述した培養細胞の作製方法を用いて、ヒト肝由来培養細胞株のHuh7.5.1細胞のインポーチンα1遺伝子、インポーチンα3遺伝子、インポーチンα5遺伝子、及び、トランスポーチン遺伝子を、ノックダウンさせた培養細胞を同様に作製した。これらの培養細胞を用いて、以下のHCV感染操作を行った。
【0033】
なお、ヒト培養肝細胞に導入したステルスsiRNAは以下の通りである。Importin siRNAsについては、Nitahara-Kasahara, Y. et al. J. Virol. 81, 5284-5293(2007)を参照した。
(1)Control siRNA: Stealth RNAi Negative Control Duplex Low GC Duplex (Invitrogen社製 12935-300)、以下に示す図中の「Cont. siRNA(L)」に対応。
(2)HPRT siRNA: Stealth siRNA Duplex (human HPRT-S1) (Invitrogen社製 10620312) 、Sense鎖: UUUCAAAUCCAACAAAGUCUGGCUU、以下に示す図中の「HPRT」に対応。
(3)Importin α1 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CCAAGCUACUCAAGCUGCCAGGAAA、以下に示す図中の「importin α1」に対応。
(4)Importin α3 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CAGUGAUCGAAAUCCACCAAUUGAU、以下に示す図中の「importin α3」に対応。
(5)Importin α5 siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CCGGAAUGCAGUAUGGGCUUUGUCU、以下に示す図中の「importin α5」に対応。
(6)Importin β siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CAGUCUGGCUGAAGCUGCUUAUGAA、以下に示す図中の「importin β」に対応。
(7)Transportin siRNA: Stealth siRNA Duplex (Invitrogen社製custom ordered)、Sense鎖: CACAGCACUGCAGUCUGGAUUCCUU、以下に示す図中の「transportin」に対応。
【0034】
(HCVの感染)
siRNAを導入した培養細胞から培地を除き、培養細胞を500μlの培地Aで2回洗浄した。500μlのHCV-JFH1株(HCVコアタンパク質濃度として1.56pmol/L, MOI:〜0.5に相当)を含む培地Aを添加し、37℃、2から3時間培養した。培養細胞を500μlの培地Aで3回洗浄後、500μlの培地Aを添加し、37℃、4から5日間培養した。その後、インポーチンα1遺伝子、インポーチンα3遺伝子、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をノックダウンさせたそれぞれの培養細胞におけるHCV量を測定した。
【0035】
なお、用いたHCV-JFH1溶液は、論文(Murakami Y. et al. Antiviral Res. 83, 112-117(2009))に従って調製し、当該濃度に培地Aで希釈して用いた。
また、培養上清中のHCV濃度については、HCVコアタンパク質の濃度をELISA法(オーソ社製HCV抗原ELISAテスト 601002)により測定した。濃度の測定方法は製品マニュアルに従った。
【0036】
図1は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、細胞外へのHCVの分泌量(HCV量)を比較した図である。同図に示すように、インポーチンα1、α3遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin α1, importin α3)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、HCVを有意に増加させないことが示された。インポーチンα5遺伝子をノックダウンさせた培養細胞では、HCV量が倍増していた。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、HCV量が約10倍になった。
【0037】
以上の結果から、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0038】
(HCVゲノムRNA量の測定)
HCVに感染させた培養細胞中のHCVゲノムRNA量を測定した。培養細胞を500μlのPBSで洗浄後、NucleoSpin(登録商標)RNA II(Takara Bio社製U0955C)を用い、この製品のマニュアルに従い全RNAを精製した。100から200 ngの全RNAを使用し、LightCycler(登録商標) RNA Master SYBR Green I(Roche社製 03 064 760 001)を用いて、qRT-PCR法によりHCVゲノムRNAの定量を行った。測定は製品マニュアルに従った。HCVゲノム検出用のDNAプライマーは、"AGGAAGACTTCCGAGCG"および"GGGTGACAGGAGCCATC"を合成し、用いた。
【0039】
図2は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、細胞内のHCVゲノムRNA量を比較した図である。同図に示すように、インポーチンα1、α3、α5遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin a1, importin a3, importin a5)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、細胞内のHCVゲノムRNA量を増加させることが示された。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)は、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、細胞内のHCVゲノムRNA量を約100倍増加させることが示された。
【0040】
以上の結果から、インポーチンα1、α3、α5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子(特に、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子)をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0041】
(HCVタンパク質量の測定)
HCVに感染させた培養細胞中のHCVタンパク質(コアタンパク質、NS3タンパク質)を、イムノブロット法により検出(測定)した。検出方法は、Novex(登録商標)
NuPAGE(登録商標) Gel Electrophoresis-XCell II Blot Module(Invitrogen社製)システム、及び、SNAP i.d.吸引式免疫反応システム(Millipore社製)を用いて行った。HCVに感染させた培養細胞を500μlのPBSで洗浄後、100μlのNuPAGE LDS Sample Buffer (4X)(NP0007)に溶解し、13μlをNuPAGE 4-12% Bis-Tris Gel 1.0 mm, 17 well(NP0329PK2)にて分離した。Invitrogen社マニュアルに従いPVDF膜に転写後、Millipore社マニュアルに従い免疫反応を行った。抗HCV core抗体(Mouse Anti-HCV Core Protein Monoclonal Antibody[B2], ANOGEN社製MO-I40015B)を2,000倍希釈、抗HCV NS3抗体(Mouse monoclonal [8G-2] to Hepatitis C Virus NS3, Abcam社製ab65407)を1,000倍希釈、抗GAPDH抗体(Mouse monoclonal [6C5] to GAPDH, Abcam社 ab8245)を20,000倍希釈、二次抗体(HRP-conjugated AffiniPure Goat Anti-Mouse IgG(H+L), Jackson Immuno Research社製115-035-003)を2,000倍希釈で用いた。シグナルの検出は、ECL(登録商標)試薬(GE Healthcare社製RPN2106)を用いて、この製品マニュアルに従い行った。
【0042】
図3は、インポーチンの発現を抑制させたHuh7.5.1細胞(培養細胞)に、HCV(JFH1株)を感染させたときの、感染培養細胞中のHCVタンパク質量を比較した図である。イムノブロット法により、感染培養細胞中のコアタンパク質及びNS3タンパク質の量を比較した。同図に示すように、インポーチンα5遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin a5)では、ネガティブコントロールを導入した培養細胞(図中では、Cont. siRNA(L))と比べて、コアタンパク質(図中では、HCV core)をより多く検出できた。また、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞(図中では、importin β, transportin)では、ネガティブコントロールを導入した培養細胞と比べて、コアタンパク質(図中では、HCV core)及びNS3タンパク質(図中では、HCV NS3)をより多く検出できた。
【0043】
以上の結果から、インポーチンα5遺伝子、インポーチンβ遺伝子、トランスポーチン遺伝子をステルスsiRNAによりノックダウンさせた培養細胞は、HCVの産生を顕著に上昇させることが示された。
【0044】
上述したように、インポーチン遺伝子、トランスポーチン遺伝子の発現が抑制された培養細胞では、HCVを効率的に培養することができた。これにより、HCVの増殖、培養を評価するための実験系を提供することができる。また、培養細胞を標的とすることにより、従来の実験動物等を用いた方法と比較して、HCV阻害剤を簡易に作製(スクリーニング)することができる。また、本発明の培養細胞により効率的に全粒子ウイルスを作製できるため、ワクチン産生のための効率的な全粒子ウイルス抗原の作製が可能になる。