(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与することにより形成し得る、外周長手方向に螺旋状の凹凸を設けた撚線からなる通線用呼び線であって、前記撚線は下記評価方法によって測定された直線度が20m以上の範囲にあることを特徴とする通線用呼び線。
直線度の評価方法:直径50cmの綛状に72時間以上巻かれている撚線を長さ30mに切断し、その一端を固定して地面に引かれた直線に沿わせたのちに、他端をフリー状態としたとき、前記直線からの距離が10cmとなる平行線に接触するまでの撚線の長さを求め、この長さを直線度とした。
合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与したのち、これを直径30〜80cmの綛状に巻き取り、巻き取り後24時間以内に、綛状に巻き取られたままの状態で、50〜80℃の温度で3時間以上の熱処理を行うことにより撚線を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の通線用呼び線の製造方法。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフィス、商店、住宅および工場などにおける配線工事では、建物の内装工事が完了した段階で、予め敷設した配管内へ電気配線や通信ケーブル類などの線状物を通線する方法が採用されており、具体的には、まずリード線と呼ばれる呼び線を予め敷設した配管内に通線し、このリード線の一端側に電気配線や通信ケーブル類などを連結した後、リード線の他端側からこれを配管外へ引き抜くことにより、所望の線状物を配管内に配線している。
【0003】
従来、これらの通線作業においては、スチール製のリード線が主に使用されてきたが、スチール製のリード線は高重量であり、腰が強いため取り扱いにくく、また、通電性を持つために、配線作業中に感電するなどの危険性があった。
【0004】
そこで、近年では、スチール製のリード線に代わり、軽量かつ絶縁性のプラスチックを素材に使用したリード線が注目されており、例えば、合成樹脂製モノフィラメントを複数本引き揃えて加熱しながら撚り回転を与え、外面に螺旋状綾線を形成したリード線(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【0005】
このリード線は、配線作業中に感電する心配もなく、従来のスチール製リード線と同等の強度を持つなどの特徴を有しているが、合成樹脂に撚りを加えることにより形成しているため、経時で糸の内部応力が緩和され、糸が屈曲したままとなってしまい使い勝手が悪いなどの問題を残しており、さらなる改善が必要とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、直線性が優れることにより通線性を改良した通線用呼び線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与することにより形成し得る、外周長手方向に螺旋状の凹凸を設けた撚線からなる通線用呼び線であって、前記撚線は下記評価方法によって測定された直線度が20m以上の範囲であることを特徴とする通線用呼び線が提供される。
【0010】
直線度の評価方法:直径50cmの綛状に72時間以上巻かれている撚線を長さ30mに切断し、その一端を固定して地面に引かれた直線に沿わせたのちに、他端をフリー状態としたとき、前記直線からの距離が10cmとなる平行線に接触するまでの撚線の長さを求め、この長さを直線度とした。
【0011】
なお、本発明の通線用呼び線においては、前記撚線の外接円直径が2.5〜7.5mmの範囲にあることが、より好ましい条件として挙げられる。
【0012】
また、本発明の通線用呼び線の製造方法は、合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与したのち、これを直径30〜80cmの綛状に巻き取り、巻き取り後24時間以内に、綛状に巻き取られたままの状態で、50〜80℃の温度で3時間以上の熱処理を行うことにより撚線を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与した後に熱処理を行うことにより、直線性に優れ、通線性を改良した通線用呼び線を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
図1に示すとおり、本発明の通線用呼び線1は、合成樹脂モノフィラメントに捻り加工を付与することにより、外周長手方向に螺旋状の凹凸3を設けた撚線2からなる通線用呼び線であって、前記撚線2は下記評価方法によって測定された直線度が20m以上の範囲であることを特徴とする。
【0017】
すなわち、直線度の評価方法とは、直径50cmの綛状に72時間以上巻かれている撚線2を長さ30mに切断し、
図2に示すように、一端をホルダ5にて固定して地面に引かれた直線Aに沿わせたのちに、他端をフリー状態としたとき、直線Aからの距離が10cmとなる平行線Bに接触するまでの撚線2の長さLを求め、この長さLを直線度とする方法である。なお、直線Aからの距離が10cmとなる平行線Bに接触しない場合は便宜的に直線度は30mとする。
【0018】
本発明の通線用呼び線1の直線度は20m以上であることが必要であり、さらには25m以上であることが好ましい。直線度が上記範囲を下回る場合には、呼び線の直線性が悪くなる傾向となり、配管内への通線性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0019】
本発明の通線用呼び線1に用いられる合成樹脂モノフィラメントは、1本でも複数本であっても良いが、1本の合成樹脂モノフィラメントで通線用呼び線を構成する場合は、捻り加工を加えた際に外周面に螺旋状凹凸3が形成されるよう、異形断面の合成樹脂モノフィラメントを用いる必要がある。
【0020】
なお、その際の合成樹脂モノフィラメントの断面形状は真円以外であれば特に限定されず、楕円、三角形、四角形、五角形などの多角形、星形、多葉形などの異形断面形状を挙げることができ、その中でも略三角形断面が、通線性および強度が良好であることから好ましい。
【0021】
また、複数本の合成樹脂モノフィラメントを用いる場合の本数は特に限定されないが、良好な直線性と剛性が得られやすいことから3本とすることが好ましい。
【0022】
ここで、本発明の通線用呼び線1を構成する素材については特に制限はなく、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン、612ナイロン、6/66共重合などのポリアミド樹脂またはその共重合体、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETという)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル類またはその重合体、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体などのフッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリルエーテルニトリル、液晶ポリエステルなどが挙げられる。
【0023】
これらの樹脂の中でも、PETを用いることが、通線性と強度が良好なため特に好ましい。
【0024】
また、合成樹脂モノフィラメントには、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、燐酸バリウム、燐酸リチウム、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニア、フッ化リチウム、カオリン、タルク等の無機粒子、耐熱剤、耐候剤、耐光剤、耐加水分解剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、平滑剤、ワックス類、シリコーンオイル、界面活性剤、染料、顔料などの公知の添加剤成分を必要に応じて任意に添加することもできる。
【0025】
本発明の通線用呼び線1の捻り回数については、通線用呼び線1の使用目的に応じて適宜選定することができ、特に限定されないが、配管内の壁面との接触が面接触から点接触となり、摩擦抵抗が低減して通線性が向上する傾向にあるとの理由から、20〜60ターン/mであることが好ましく、さらには30〜50ターン/mであることがより好ましい。
【0026】
本発明の通線用呼び線1の外接円直径は、一般に配管径の10〜40%程度のものが好ましく使用されるが、近年では配管径が小経化の傾向にあるため、呼び線も細くする必要がある。
【0027】
しかし、細すぎると呼び線の曲げ硬さが小さくなるばかりか、呼び線を配管内に押し込む際の力も伝わりにくくなるため、通線がしにくくなる場合があり、逆に、太すぎると呼び線が硬くなるため、配管のコーナー部分において、通線がしにくくなる場合がある。
【0028】
したがって、本発明の通線用呼び線1の外接円直径4は、2.5〜7.5mmの範囲にあることが好ましく、さらには3.2〜6.5mmの範囲にあることがより好ましい。
【0029】
なお、通線用呼び線を予め敷設した配管内に通線し、この通線用呼び線の端末に電気配線や通信ケーブル類を連結した後、通線用呼び線を配管外へ引き抜く際に、通線用呼び線には大きな張力が掛かるため、通線用呼び線にはこの張力に耐えうる強度を有することが好ましい。
【0030】
次に、本発明の通線用呼び線の製造方法の一例について説明する。
【0031】
本発明の通線用呼び線の製造方法は、何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、公知の方法で製造することができる。
【0032】
例えば、PETペレットを公知の溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機から押し出した未延伸糸を冷却水槽の表面を動揺させながら60〜90℃で冷却固化した後、合成樹脂組成物のガラス転移以上の熱媒温度で3.0〜8.5倍に1段または2段に延伸し、次いで0.85〜1.0倍に弛緩ないし定長熱処理することにより、まず合成樹脂モノフィラメントを得る。
【0033】
こうして得られた合成樹脂モノフィラメントを、緊張状態で合成樹脂のガラス転移点以上の温度で加熱しながらS撚り、またはZ撚りすることで撚りを付与し、次いで急冷したのち、直径30〜80cmの綛状に巻き取ることにより撚線を得る。
【0034】
ここで、綛の直径が30cmを下回る場合には、綛状態の癖が付きやすいばかりか、撚線の剛性に起因して巻き取ることが困難になりやすいため好ましくない。また、綛の直径が80cmを上回る場合には、綛が嵩張ることから作業がしにくくなるばかりか、輸送コストが高くなりやすいため好ましくない。
【0035】
その後得られた撚線は巻き取り後24時間以内に、綛状に巻き取られたままの状態で、50〜80℃の温度で3時間以上熱処理を行うことが好ましい。これは撚り加工した直後に急冷することにより、撚り戻しを防止しているが、それによって撚線内部に歪み応力が残留しており、経時で直線性が失われてしまうため、撚りを付与したのち熱処理することにより、歪み応力を取り除くことができ、高い直線性を持つ撚線を得ることができるからである。
【0036】
ここで、熱処理までの時間が24時間を越えると、残留している歪み応力が発現して撚線の直線性が悪化しやすくなるため好ましくない。
【0037】
また、熱処理温度が50℃を下回ると、歪み応力を取り除くことが困難になりやすく、80℃を上回ると、綛状態の癖が付きやすく、直線性が悪化する傾向が招かれるため好ましくない。
【0038】
さらに、熱処理時間が3時間を下回ると、歪み応力を取り除くのが困難になりやすいため好ましくない。
【0039】
こうして得られた本発明の通線用呼び線は、電気配線や通信ケーブル類などの線状物を配管内に通線するに際して、十分な強度や耐久性を維持しつつ、且つ従来のものよりも直線性に優れたものである、良好な通線性を得ることができ、その実用性が極めて高いものである。
【0040】
また、本発明の通線用呼び線には、必要に応じてその端末に電気接続用端子を接着、融着またはかしめて使用することができ、さらには呼び線以外の用途として、プルコードなどにも使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を基に本発明の通線用呼び線をさらに詳しく説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
なお、通線用呼び線の各種特性値は以下の方法に従って測定したものである。
【0043】
[直線性]
直径50cmの綛状に72時間以上巻かれている撚線を長さ30mに切断し、その一端を固定して地面に引かれた直線に沿わせたのち、他端をフリー状態としたとき、直線からの距離が10cmとなる平行線に接触するまでの撚線の長さを求め、この長さを直線度とした。
【0044】
[通線テスト]
内径22.2mmの配管(市販品)を
図3に示すように形設し、CからDへと呼び線を通線作業した場合の呼び線の通線性について次の3段階で評価した。また、CからDまでの呼び線の通線所要時間についても測定した。
【0045】
○:途中で引っ掛かることなくスムーズに通線することができた、
△:途中で引っ掛かる所があったが最後まで通線することができた、
×:途中で引っ掛かり、最後まで通線することが出来なかった。
【0046】
なお、各コーナーにおける配管は、電気配管用エルボ(市販品)を使用し、a〜fの長さは次の通りとした。
【0047】
a: 1.0m
b: 1.0m
c: 3.7m
d:11.0m
e: 3.7m
f: 5.0m
[実施例1]
固有粘度(以下IVと略記する)が1.18のPETチップ(東レ(株)製T701T)を、エクストルーダー型溶融紡糸機に供給して溶融混練した後、丸形状の孔を有するノズルから押し出した。その後紡出された溶融物は、70℃の湯浴中で冷却固化されて未延伸糸となり、この未延伸糸を引き続きトータル5.25倍に延伸し、さらに熱セットを施して、合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0048】
次に、得られた合成樹脂モノフィラメントを3本引き揃え、200℃の乾熱浴中にてZ撚りに34ターン/mの捻りを加えた後、冷水中で急冷し、直径50cmの綛状に巻き取った。さらに巻き取りから1時間後に、綛状態のままで57℃の乾熱処理を6時間行うことにより、外接円直径が4.2mmの撚線からなる呼び線を得た。
【0049】
[実施例2]
乾熱処理の温度を70℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0050】
[実施例3]
使用する合成樹脂モノフィラメントの直径を太くすることにより、外接円直径を6.4mmに変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0051】
[実施例4]
IVが1.18のPETチップ(東レ(株)製T701T)を、エクストルーダー型溶融紡糸機に供給して溶融混練した後、正三角形形状の孔を有するノズルから押し出した。その後紡出された溶融物は70℃の湯浴中で冷却固化されて未延伸糸となり、この未延伸糸を引き続きトータル5.25倍に延伸し、さらに熱セットを施して、略三角断面形状の合成樹脂モノフィラメントを得た。
【0052】
次に、得られた略三角断面形状の合成樹脂モノフィラメントを、200℃の乾熱浴中にてZ撚りに48ターン/mに捻りを加えた後、冷水中で急冷し、直径50cmの綛状に巻き取った。さらに巻き取りから1時間後に、綛状態のままで57℃の乾熱処理を6時間行うことにより、外接円直径が3.5mmの撚線からなる呼び線を得た。
【0053】
[比較例1]
巻き取り後の乾熱処理を実施しなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0054】
[比較例2]
乾熱処理の温度を100℃としたこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0055】
[比較例3]
乾熱処理の時間を1時間としたこと以外は、実施例1と同じ条件で呼び線を得た。
【0056】
以上、実施例1〜4、比較例1〜3で得られた呼び線の直線性、通線性の評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から明らかなように、本発明の通線用呼び線(実施例1〜4)は、良好な直線性を示し、通線性に優れる結果であった。
【0059】
これに対して、本発明の条件を満たさない通線用呼び線(比較例1〜3)は、直線性が悪く、通線性に劣る呼び線となりやすい。