(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966197
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸
(51)【国際特許分類】
D06M 11/83 20060101AFI20160728BHJP
D06M 10/02 20060101ALI20160728BHJP
D06M 10/06 20060101ALI20160728BHJP
D06M 101/20 20060101ALN20160728BHJP
【FI】
D06M11/83
D06M10/02 C
D06M10/06
D06M101:20
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-538339(P2012-538339)
(86)(22)【出願日】2010年11月12日
(65)【公表番号】特表2013-510958(P2013-510958A)
(43)【公表日】2013年3月28日
(86)【国際出願番号】EP2010067334
(87)【国際公開番号】WO2011058123
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年10月29日
(31)【優先権主張番号】09175932.4
(32)【優先日】2009年11月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ファツ, クラウディア, マリア
(72)【発明者】
【氏名】アーベン, ゲラルダス
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ボッシュ, エディス, エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ダイクス, クリスチャン, アンリ, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】スミーツ, パウルス, ヨハネス, ヒヤシンス, マリー
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−118173(JP,A)
【文献】
特開2001−040546(JP,A)
【文献】
特開昭62−253763(JP,A)
【文献】
特開2001−248066(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/140578(WO,A2)
【文献】
特開昭61−132652(JP,A)
【文献】
米国特許第05021258(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0134390(US,A1)
【文献】
特開昭63−270878(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/073456(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0197494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
D06M 10/00 − 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 − 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素金属を含んでなる処理された高性能ポリエチレン(HPPE)糸であって、
前記元素金属が、前記HPPE糸の表面に付着する層を形成し、少なくとも部分的に前記HPPE糸の表面を覆い、前記元素金属が、プラズマスパッタリングにより、HPPE糸の外面に蒸着されてなる元素金属である、処理されたHPPE糸。
【請求項2】
前記元素金属が、前記処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも0.01%w/wおよび前記処理されたHPPE糸の総重量の多くとも95%w/wの量で存在する請求項1に記載の処理されたHPPE糸。
【請求項3】
前記元素金属が、13(Al°)、22(Ti°)、24(Cr°)、25(Mn°)、26(Fe°)、28(Ni°)、29(Cu°)、30(Zn°)、40(Zr°)、46(Pd°)、47(Ag°)、78(Pt°)および79(Au°)に等しい原子番号Zを有する元素金属またはそれらの組み合わせからなる群から選択される請求項1または請求項2に記載の処理されたHPPE糸。
【請求項4】
処理された高性能ポリエチレン(HPPE)糸を作製する方法であって、
基板として前記HPPE糸、およびターゲット材料として元素金属または金属合金を用いてプラズマスパッタリングにより、HPPE糸に元素金属の層を蒸着して、処理されたHPPE糸がこのように調製される工程を備える方法。
【請求項5】
前記このように調製される工程後の処理されたHPPE糸を用いて、前記処理されたHPPE糸を含んでなる或いは前記処理されたHPPE糸からなる糸構造体または糸構成体、例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等、を調製する工程を備える請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記HPPE糸が、糸構造体にまたは糸構成体に前記元素金属の層を蒸着する工程に先だって、HPPE糸を含んでなる糸構造体または糸構成体、例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等、に変えられる請求項4に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項において規定される前記処理されたHPPE糸を含んでなる物品。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項において規定される処理されたHPPE糸を含んでなるデバイス。
【請求項9】
請求項7において規定される物品を含んでなるデバイス。
【請求項10】
自動車用途、海上用途、航空宇宙用途、医療物品およびインプラント、護身用途、スポーツ/レクレーション用途、建築用途、衣服用途、瓶詰め用途、機械用途のための、
請求項1〜3のいずれか1項において規定される処理されたHPPE糸、
請求項7において規定される物品、または
請求項8または請求項9のいずれかにおいて規定されるデバイスと
の使用。
【請求項11】
自動車用途、海上用途、航空宇宙用途、医療物品およびインプラント、護身用途、スポーツ/レクレーション用途、建築用途、衣服用途、瓶詰め用途、機械用途のための請求項1〜3のいずれか1項において規定される前記処理されたHPPE糸の使用であって、前記処理されたHPPE糸がその導電率および/または抗菌性および/または放射線不透過性および/または抗血栓性および/または防汚性を呈することができる量およびフォーマットで、使用される方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項において規定される処理されたHPPE糸または請求項7において規定される物品もしくは請求項8〜9のいずれか1項において規定されるデバイスの退却または異常検出のための指示方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項において規定される処理されたHPPE糸または請求項7において規定される物品もしくは請求項8〜9のいずれか1項において規定されるデバイスが提供され;
前記糸上の少なくとも2か所の垂直方向に離れた地点間の導電率または電気抵抗の測定し;
異なる時間に得た導電率または電気抵抗の測定値を比較し;
導電率の変化が、請求項1〜3のいずれか1項において規定される前記処理されたHPPE糸または請求項7において規定される前記物品もしくは請求項8〜9のいずれか1項において規定されるデバイスに推奨されたものと同じかもしくはそれよりも小さい場合、前記処理されたHPPE糸または物品もしくはデバイスを異常検出または破棄する;
指示方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高性能ポリエチレン(HPPE)の構造部材を含んでなる処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメント糸と、それらの生産方法およびこの処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸の使用とに関する。
【0002】
モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、それらの良好な機械的特性(例えば高い弾性率および高い引張強度)で知られている。しかしながら、未処理のHPPE糸は、たとえあるとしても本質的に限定される被覆性を呈する。限定される被覆性とは、高性能ポリエチレンの表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する被覆組成物を用いて、その表面を部分的に覆うことが困難であるかまたは十分に覆うこと(最も重要なことである)が困難であることを意味する。表面の表面エネルギーが低いほど、それを被覆するのがより困難になることは周知である。従って、さらなる物理的、化学的および/または機械的特性が必要とされる用途におけるこれらの特定の非常に強靭な糸の使用が、それらの限定される被覆性によって、制限される。HPPE糸にさらなる物理的、化学的および/または機械的特性を付与するために、有機被覆もしくは無機被覆のどちらかを典型的なHPPE糸に直接付着させる非常に多くの試みは、今までのところ、それらの靭性を維持し、さらなる物理的、化学的および/または機械的特性を兼ね備えうるHPPE糸を提供していない。その理由は、他のタイプの糸に適用できる従来の被覆のやり方は、HPPE糸を被覆することに成功したとしても、それらは、結果としてHPPE糸の有利な機械的特性の好ましくない低下、(例えば、このタイプの糸の高強度の著しい低下等)を招く結果となるからである。例えば、HPPE糸の表面エネルギーを増大させるために、従来の既知の方法(コロナ、溶媒の存在下もしくは無溶媒での紫外線暴露、プラズマエッチング、湿式エッチング等)を用いて、HPPE糸を前処理した。それにもかかわらず、この特定のタイプの糸に後続の工程で適用される被覆を考慮するこれらの試みでさえも、結果として、HPPE糸の有利な機械的特性の著しい低下を招いた。このように前処理されたHPPE糸は、向上した付着および被覆性を表すこともあるが、同時にそれらの機械的特性は、未処理のHPPE糸の機械的特性よりも劣る。従って、それらの靭性を保持し、さらなる物理的、化学的および/または機械的特性を兼ね備えるだろうHPPE糸を調製するために、さらなる改善が必要である。
【0003】
結果として、HPPE糸の有利な一連の機械的特性は、様々な所望の用途において、その可能性を最大限引き出して使用することはできない。例えば、高い弾性率および高い引張強度が、HPPE糸から得られることができない他の物理的、化学的および/または機械的特性(例えば導電率、抗菌力、UV−抵抗、放射線不透過性、ポリエチレンの表面エネルギーより高い表面エネルギーの基板への付着等)と兼ね備えられる必要がある用途において、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸を使用することは、これまでのところ、不可能であった。
【0004】
欧州特許出願公開第1743659A1号明細書は、超高分子量ポリエチレンを含有する組成物から作製されるモノフィラメントの外科用縫合糸を開示する。超高分子量ポリエチレンのプラズマエッチングが、モノフィラメント縫合糸の処理として用いられ、その表面粗さを増大させ、従ってモノフィラメントへの被覆の付着を増大させる。欧州特許出願公開第1743659A1号明細書は、元素金属(例えば銀、チタン等)を含んでなる組成物を開示していない。さらに、欧州特許出願公開第1743659A1号明細書は、未処理のモノフィラメントの機械的特性に対する処理されたモノフィラメントの機械的特性に関して、この処理が有する効果に関して記載していない。
【0005】
米国特許第6979491B2号明細書は、抗菌糸に付着した約0.2〜1.5重量%のナノ銀粒子(直径1〜100nm)を含有する天然もしくは合成の抗菌糸を開示する。ナノ銀粒子の銀は、還元剤、好ましくはグルコース、ビタミンCまたはヒドラジン水和物(H
2NNH
2.H
20)で硝酸銀を還元することにより、作製される。硝酸銀の還元は、硝酸銀の水性溶液を還元剤の水性溶液と混合することにより、起こる。米国特許第6,979,491号明細書は、HPPE糸の被覆性を向上させる溶液を提供することはおろか、高性能ポリエチレンを含んでなる組成物に関しても記載していない。
【0006】
従って、未処理のモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸と比較すると、少なくとも同等なまたは適切に向上した機械的特性を示すだろう処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸を得ることは望ましく、処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、向上した被覆性を提供するだろう。従って、このような処理されたHPPE糸は、最終的に、新たな物理および/または化学特性(例えば導電率、抗菌力、紫外線抵抗性等)の起因となるだろうHPPE糸の本質的に有利な機械的特性および向上した被覆性に基づいて、様々な分野(例えば家庭、消費者、医療、保護具、弾道、漁業、レクレーション等)における多くの新規の機会を開拓するだろう。
【0007】
本発明の目的は、本明細において確認された問題点もしくは不都合のいくつかまたは全てに対処することである。さらに詳細には、本発明の目的は、処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸を提供することである。その改善は、例えば、未処理のUHMWE糸の機械的特性と少なくとも同等な機械的特性を付与する新規のモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸と、同時に向上した被覆性を有する新規のHPPE糸を提供することでありうる。
【0008】
故に、概して本発明に従って
・元素金属
を含んでなる処理されたHPPE糸が提供され、
・元素金属は、HPPE糸の表面に付着し、HPPE糸の表面を少なくとも部分的に覆う層を形成し、元素金属は、スパッタリング、好ましくはプラズマスパッタリングによりHPPE糸の外面に蒸着される。
【0009】
本発明の処理されたHPPE糸は、例えば、典型的な未処理のHPPE糸と比較して、元素金属によって形成される層の上面に被覆される被覆組成物の向上した被覆性と、同時に同等な機械的特性を備える。
【0010】
本発明の処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、また、1つまたは複数の向上した特性、例えば、導電率、金属被覆または有機被覆への付着性、紫外線抵抗性、放射線不透過性、抗菌力、付着阻害活性、美観(外観、表面粗さ)、抗血栓性、および熱的特性等、を呈することが可能である。
【0011】
本明細において使用される向上した特性とは、本発明の処理されたHPPE糸の関連する特性が、本明細書に記載される既知の対照HPPE糸の値の+15%より大きく、さらに好ましくは+17%より大きく、なおさらに好ましくは+20%より大きく、最も好ましくは+25%より大きいことを意味する。
【0012】
本明細において使用される同等な特性とは、本発明の処理されたHPPE糸の値が、本明細書に記載される既知の対照HPPE糸の値の+/−15%以内、さらに好ましくは+/−12%以内、最も好ましくは+/−10%以内であることを意味する。
【0013】
これらの比較のための、既知の対照HPPE糸または糸構造体(例えば組紐等)は、DSM Dyneema B.V.により生産され市場に出され、商品名Dyneema Purity(登録商標)で市販されているHPPE糸、或いはこの糸で作製された糸構造体(例えば組紐)である。
【0014】
本発明に関し、「処理されたHPPE糸」は、物理および/または化学プロセスを施されているHPPE糸を意味する。
【0015】
本発明に関し、「処理されたHPPE糸構造体」は、処理されたHPPE糸を構造化することよって誘導した構造体、或いはHPPE糸を構造化することよって誘導した構造体を包含するHPPE糸構造体を意味し、後者の構造体は物理および/または化学プロセスを施される。
【0016】
本発明に関し、「処理されたHPPE糸構成体」は、処理されたHPPE糸を構成することによって誘導した構成体、或いはHPPE糸を構成することによって誘導した構成体を包含するHPPE糸構成体を意味すし、後者の構成体は物理および/または化学プロセスを施される。
【0017】
本発明に関し、層(layer)は、ある厚さの物質、例えば、層(stratum)等、もしくは表面上の被覆を意味する。
【0018】
本発明に関し、用語「モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸」と「HPPE糸」をほとんど同じ意味で使用する。
【0019】
本発明に関し、用語「方法」と「プロセス」をほとんど同じ意味で使用する。
【0020】
本発明に関し、用語「HPPE糸」と「未処理のHPPE糸」をほとんど同じ意味で使用する。
【0021】
本明細における同等な特性と向上した特性の百分率の差は、本発明の処理されたHPPE糸と既知の対照HPPE糸との部分差分を示し、その特性は、同じ方法において同一単位で測定される(つまり、比較される値をまた百分率として測定し、その値は絶対差分を示さない)。
【0022】
特に明記しない限り、本明細書で使用される通り、本明細における用語(例えば、金属、元素、糸、モノフィラメント、マルチフィラメント等)の複数形は、単数形も含むと解釈され、逆の場合も同様に解釈される。
【0023】
本明細において付与される任意のパラメーターの全ての上限および下限に関して、境界値は、各パラメーターの各範囲内に含まれる。本明細書に記載されるパラメーターの最小値と最大値の全ての組み合わせを用いて、本発明の様々な実施形態および優先権に対してパラメーター範囲を決定してもよい。
【0024】
本明細において百分率として表される任意の量の総計は、(丸め誤差を見込んで)100%を超えることはできないと理解される。例えば、本発明の組成物が含んでなる全成分(もしくはそれらの一部分)の合計は、組成物の重量(もしくは他の)百分率(もしくはそれらの重量部)として表す場合、丸め誤差を見込んで総計100%になってよい。しかしながら、成分が完全に網羅されていない場合、このような成分の各々に対する百分率の合計は、本明細書に明記されていない任意のさらなる成分のさらなる量に対してある程度の百分率を見込んで、100%未満であってもよい。
【0025】
本発明に関し、被覆性は、本明細書に上記される対照の未処理のHPPE糸と処理されたHPPE糸との表面張力測定により評価される。
【0026】
本発明に関し、評価される機械的特性は、破断点伸び(%)、E−弾性率(GPa)、および最大破断強さ(F
max)(N)であった。
【0027】
本発明の目的に関して、糸は、本明細において、最終製品として使用できる或いは様々な他の物品もしくはそれらのデバイスを作製するのに使用できる、その長さ寸法がその横径よりもかなり大きい製品または物品を意味すると理解されている。従って、糸は、本明細において、複数のモノフィラメントで作製された糸と単一のモノフィラメントで作製された糸との両方を含む。
【0028】
モノフィラメントは、本明細において、単一の紡糸孔から得られるフィラメントを意味すると理解されている。但し、モノフィラメントは、本明細において、本明細に参照され組み込まれる欧州特許出願公開第0 740 002A1号明細書に記載されるような、いくつかのモノフィラメントの特質を有する融解マルチフィラメント糸を含む。本発明の目的に関して、モノフィラメントは、その長さ寸法がその横径よりもかなり大きい伸張体である。
【0029】
特定の一実施形態において、モノフィラメントは、ほぼ円形もしくは楕円形の横断面を有するのが好ましい。モノフィラメントである糸との比較において、マルチフィラメント糸は、本明細において、単一糸を構成するように配置される複数の個々のモノフィラメントを含んでなる伸張体と理解されている。マルチフィラメントもまた、一方向性(UD)単層のような一連のモノフィラメントもしくはマルチフィラメントを包含する。一方向性単層は、適切な表面上に複数のHPPE糸を平行配置に位置して、繊維を適切なマトリックス材料に埋め込むことにより、生産される。このように調製されるネットワークは、共通の糸の方向に沿って互いに平行に一方向にアラインメントされる複数の糸からなる。
【0030】
別の特定の一実施形態において、モノフィラメントは、少なくとも部分的に溶融されるマルチフィラメントであるモノフィラメント様であることが可能である。
【0031】
複数のフィラメントを用いる場合、フィラメントを編組、撚糸、引伸、撚り合わせしてもよく或いは他のマルチフィラメント構成に配置してもよい。糸は、1つまたはそれ以上のモノフィラメントまたはマルチフィラメントを含んでなるテープまたはシートであることが可能であり、別の方法として(しかし好ましくないが)糸を連接する接着剤を有してもよい。
【0032】
本発明の好適な一実施形態において、HPPE糸は、モノフィラメントである。
【0033】
本発明の別の好適な一実施形態において、HPPE糸は、マルチフィラメントである。マルチフィラメントは、例えば、欧州特許出願公開第0740002A1号明細書に記載されるマルチフィラメント糸から得られるモノフィラメント様構造も包含する。
【0034】
本発明の別の好適な一実施形態において、処理されたHPPE糸は、処理されたHPPE糸を含んでなるまたは処理されたHPPE糸からなる糸構成体もしくは糸構造体、例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等、である。
【0035】
本発明の好適な一実施形態において、処理されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィラメントを含んでなる。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、熱可塑性ポリエチレンの下位集合である。UHMWPEは、エチレンモノマーから合成され、エチレンモノマーは、互いに結合して、典型的な高密度ポリエチレン(HDPE)よりも桁違いに長いポリエチレン分子を形成する。一般に、HDPE分子は、分子当り700〜1,800個のモノマー単位を有するが、UHMWPE分子は、100,000〜250,000個のモノマーを有する傾向がある。UHMWPEの分子量は、典型的には200万よりも大きく、通常200万〜600万の範囲である。UHMWPEは、非常に強靭な材料であり、実際に、全ての既知の熱可塑性材料のうちで最も強靭である。UHMWPEは、無臭、無味、および無毒である。UHMWPEは、例えば、以下の方法:圧縮成形、ラム押出、ゲル紡糸、焼結、および混練を用いて処理される。ゲル紡糸において、正確に加熱したUHMWPEのゲルは、紡糸口金を介して押出機により処理される。押出物は、空気を介して延伸された後に冷却される。最終結果として、高度の分子配向、高い結晶度を有し、従って非常に優れた引張強度を有する糸となる。ゲル紡糸は、溶媒中での個々の鎖分子の単離によって決まるので、分子間の絡み合いは、最小限である。分子間の絡み合いを最小限に保てない場合、分子間の絡み合いが、UHMWPEのような材料を処理不可能にする主な原因となる。さらに、分子間の絡み合いは、鎖配向をさらに困難にし、最終製品の機械的強度を下げうる。UHMWPEが、繊維に形成される際に、そのポリマー鎖は、典型的には、90%超(例えば、95%超)の平行配向、高度の結晶度(例えば、最大85%の結晶度)に達することが可能である。エチレンのUHMWPEへの重合は、Ruhrchemie AGによって1950年代に商用化され、Ruhrchemie AGは、長い年月に名前を変え、今日、UHMWPE粉体材料は、Ticona,Braskem,and Mitsuiにより生産されている。UHMWPEは、固定形(例えばシート等)またはロッドのどちらかとして、および繊維として市販されている。UHMWPE粉体は、製品の最終形状に直接成形されてもよい。
【0036】
一実施形態において、HPPEは、高強度ポリエチレン(PE)糸(例えば、溶融紡糸または固相プロセスにより調製されるPE糸)も包含する。
【0037】
本発明に関し、本明細において、UHMWPEは、5dl/g(デシリットル/グラム)超の固有粘度(η
intrinsic)を有するポリエチレンと定義される。固有粘度は、M
nおよびM
w等のパラメーターからより容易に決定できる分子量の尺度である。PTC−179法(Hercules Inc.Rev.1982年4月29日)に準拠して、デカリン中135℃で、溶解時間を16時間とし、DBPCを酸化防止剤として溶液中2g/l(グラム/リットル)の量で用いてη
intrinsicを測定し、種々の濃度における粘度を濃度ゼロに外挿する。それらの長い分子鎖のために、5dl/g超のη
intrinsicを有する伸張されたポリオレフィン繊維は、非常に良好な機械特性(例えば高い引張強度、弾性率、および破壊時のエネルギー吸収等)を有する。10dl/g超のη
intrinsicを有するポリエチレンを選択するのが、さらに好ましい。これは、このようなゲル紡糸されたUHMWPE糸が、高強度、低い相対密度、良好な耐加水分解性、および優れた摩耗性の組み合わせを提供し、インプラントをはじめとする様々な生物医学用途での使用に特に適するようになるからである。
【0038】
本発明のUHMWPEは、直鎖ポリエチレン、つまり100個の炭素原子当り1つ未満の側鎖または分岐鎖、好ましくは300個の炭素原子当り1つ未満の側鎖を有するポリエチレン、であるのが好ましく、1つの分岐鎖は、一般的に少なくとも10個の炭素原子を含有する。ポリエチレンのみが存在するのが好ましいが、別の方法として、ポリエチレンは、それと共重合してもしなくてもよい5モル%までのアルケン(例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテン等)をさらに含有してもよい。ポリエチレンは、このような繊維に慣例である添加剤(例えば酸化防止剤、熱安定剤、着色剤等)をポリエチレンに添加剤を加えた総重量の15%w/w、好ましくはポリエチレンに添加剤を加えた総重量の1〜10%w/wまでさらに含有してもよい。低分子量を有するポリエチレンと共にUHMWPEをUHMWPEに低分子量のポリエチレンを加えた総重量の10%モルまで、さらに添加してもよい。
【0039】
モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、欧州特許出願公開第0 205 960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4 413 110号明細書、国際公開第01/73173 A1号パンフレット、およびAdvanced Fiber Spinning Technology,ED.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994)、ISBN 1−855−73182−7、ならびにそれらに引用された参考文献をはじめとする様々な公報に記載されており、これらの公報は全て、参照されて本明細書に組み込まれる。これらの公報において、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸は、ゲル紡糸プロセスによって作製される。ゲル紡糸されたモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸マルチフィラメント糸は、高い弾性率および高い引張強度のような有利な機械的特性を有する。
【0040】
モノフィラメントHPPE糸の直径は、本明細において、式1
D(μm)=(4/π・p
−1・dtex・10
−7)
1/2・10
6(式1)(式中、モノフィラメントの密度ρを、970kg/m
3であるとみなす)
に従って糸のdtex(g/10km、10Kmの糸長さ当りの糸のグラム数)から算出されるHPPE糸の平均直径Dを意味すると理解されている。
【0041】
本発明に従って処理されたHPPE糸は、外科用縫合糸として使用されるのに十分大きい直径を有する。大きい直径を有するフィラメントは、外科医が取り扱い中に(例えば、摩擦に対して)より強靭であり、耐剥離性が大きい。外科用縫合糸のサイズは、米国薬局方(United States Pharmacopeia)(USP)により、規定されている。現今、外科用縫合糸に関するUSP規格は、11−0(最も細い外科用縫合糸)〜7(最も太い外科用縫合糸)の範囲である。外科用縫合糸として使用できる本発明の糸に関する模範的なUSP規格として、USP11−0(約10μmの直径を有する糸)、USP10−0(約20μmの直径を有する糸)、USP9−0(30μmの直径を有する糸)、USP8−0(約40μmの直径を有する糸)、USP7−0(約50μmの直径を有する糸)、USP6−0(約70μmの直径を有する糸)、USP5−0(約100μmの直径を有する糸)が挙げられる(これらに限定されない)。典型的には、直径の増加に伴い比強度は減少するが、直径が大きいほど、より高い全体強度を提供する。100ppm以下のレベルに残留溶媒を除去するのは困難であるので、糸の直径は、大きくとも150μm(USP4−0規格の外科用縫合糸として使用してよい)であるのが好ましい。さらに好ましくは、糸の直径は、大きくとも100μmであり、なおさらに好ましくは糸の直径は、大きくとも50μmであり、最も好ましくは糸の直径は、大きくとも40μmであり、例えば、糸の直径は、大きくとも30μmである。糸の直径は、少なくとも1μmであるのが好ましく、さらに好ましくは糸の直径は、少なくとも2μmであり、なおさらに好ましくは糸の直径は、少なくとも3μmであり、最も好ましくは糸の直径は、少なくとも5μmであり、例えば、糸の直径は、少なくとも6μmである。
【0042】
外科用縫合糸として使用できる本発明に従って処理されたHPPE糸は、USP4.0よりも大きい直径も有することが可能である。USP4.0よりも大きい直径も有するこのような外科用縫合糸は、それよりも小さい直径の糸の組み合わせにより、或いは例えば、圧縮成形、ラム押出、ゲル紡糸、焼結、および混練等の方法によって生産される糸により、得ることができる。
【0043】
本発明のさらに別の一実施形態において、処理されたHPPE糸は、テープもしくはフィルムである。このようなテープまたはフィルムは、例えば、HPPEを押出機に供給し、HPPEの融点よりも高い温度でテープまたはフィルムを押出し、そして、押出された高分子テープまたはフィルムを一方向に延伸もしくは二軸延伸することにより、生産されてもよい。所望ならば、HPPEを押出機に供給する前に、HPPEを適切な液体有機化合物、例えば、デカリンまたはパラフィン、と混合して、例えばゲルを形成してもよく、例えば、UHMWPEを使用する場合であるのが好ましい。このようなテープまたはフィルムを生産する別の方法は、粉体化したHPPEを高温でカレンダ処理して、粘着テープまたは粘着フィルムを形成した後、テープまたはフィルムを一方向に延伸もしくは二軸延伸する工程を備える固相プロセスを介してである。処理されたHPPEテープまたはフィルムは、続いて物理および/または化学プロセスを施すことにより、誘導されることが可能である。
【0044】
本発明の別の一実施形態において、処理されたHPPEテープまたはフィルムは、多孔膜である。
【0045】
一実施形態において、本発明の処理されたHPPE糸の直径は、50μm未満、好ましくは30μm未満である。
【0046】
本発明の別の一実施形態において、本発明の処理されたHPPE糸は、約10〜17μmの直径を有し、USP10−0の外科用縫合糸として使用されることが可能である。
【0047】
本発明のなお別の一実施形態において、本発明の処理されたHPPE糸は、約11〜15μmの直径を有し、USP10−0の外科用縫合糸として使用されることが可能である。
【0048】
本発明のさらなる実施形態において、本発明の処理されたHPPE糸は、十分に大きく、医療用ケーブルとして使用される5mmまでの直径を有することが可能である。
【0049】
本発明のなお別の一実施形態において、処理されたHPPE糸は、医療用メッシュ(例えば、ヘルニア用メッシュ)のような医療用途に適切なメッシュに構成される。
【0050】
本発明の別の一実施形態において、未処理のHPPE糸は、医療用メッシュ(例えば、ヘルニア用メッシュ)のような医療用途に適切なメッシュに構成され、続いて、メッシュは、スパッタリングにより、好ましくはプラズマスパッタリングにより、メッシュの外面に付着する層を形成する元素金属の蒸着を施される。
【0051】
残留紡糸溶媒は、本明細において、モノフィラメントを作製する際に使用され、最終モノフィラメント中に依然として残存する溶媒の含有量を意味すると理解されている。糸を作製するプロセスにおいて、UHMWPEのゲル紡糸用の任意の公知の溶媒を使用できる。紡糸溶媒の適切な例として、脂肪族および脂環式炭化水素、例えば、オクタン、ノナン、デカンおよびパラフィン(それらの異性体を含む);石油留分;鉱油;灯油;芳香族炭化水素、例えば、トルエン、キシレン、およびナフタレン、それらの水素化誘導体、例えば、デカリンおよびテトラリンを含む;ハロゲン化炭化水素、例えば、モノクロロベンゼン;およびシクロアルカンまたはシクロアルケン、例えば、カレン(careen)、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン(acenaphtalene)、メチルシクロペンタジエン、トリシクロデカン、1,2,4,5−テトラメチル−1,4−シクロヘキサジエン、フルオレノン、ナフトインダン(naphtindane)、テトラメチル−p−ベンゾジキノン、エチルフルオレン、フルオランテン、およびナフテノンが挙げられる。上に列挙した紡糸溶媒の組合せも、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸のゲル紡糸に使用してよく、簡素化のため、この溶媒の組合せも同様に紡糸溶媒と称する。一実施形態において、選択の紡糸溶媒は、室温で低い蒸気圧を有する(例えばパラフィン油)。本発明のプロセスは、例えば、デカリン、テトラリンおよび灯油等級(grades)のように室温で比較的揮発性の紡糸溶媒に、特に有利であることが見出された。紡糸溶媒がデカリンであるのが最も好ましい。
【0052】
溶媒に溶かされたUHMWPE溶液は、1つの紡糸孔または複数の紡糸孔を備える紡糸プレートから紡糸される。フィラメントの紡糸が、紡糸される溶液の流速が制御される方法でなされるのが好ましい。一実施形態において、UHMWPE溶液は、紡糸孔の前に存在する流速制御手段を備える紡糸プレートから紡糸される。流速制御手段は、定量ポンプであってよい。
【0053】
直径がより大きいフィラメントを作製する際に、不定の流速の影響がより大きくなるので、溶液の流速制御は、本発明において特に有利である。紡糸孔の直径が大きいと、フィラメントがその直径を制してその特性に変化を有する可能性が高くなる。これは、結果として、より均質なモノフィラメントをもたらすだろう。
【0054】
直径が大きいことと紡糸溶媒の残留が少ないことの組み合わせより、モノフィラメントが医療用途での使用に極めて適切になる。
【0055】
100ppm以下の残留紡糸溶媒の含有量は、殆どの医療用途における使用に対して、厄介な洗浄プロセスを不要とする。残留溶媒の含有量は、好ましくは80ppm以下、なおさらに好ましくは60ppm以下である。溶媒含有量が低いほど、モノフィラメント糸は、ある特定の医療用途になおさらに適切となる。
【0056】
30μm以上の直径は、さらなる撚糸または融解プロセスをしなくても、孔に細菌が宿る可能性がほとんどない利点を有する糸として、モノフィラメントを使用できるようにする。
【0057】
本発明の一実施形態において、処理されたHPPE糸は、15cN/dtex以上の靭性を有する。このような靭性は、メッシュでの使用に適切である。特に高い靭性が必要とされる用途(例えば、外科用縫合糸等)において、処理されたHPPE糸は、25cN/dtex以上の靭性を有するのが好ましい。
【0058】
従って、直径30μm以上かつ紡糸溶媒残量100ppm未満を有する、糸がモノフィラメントである、UHMWPEを含んでなる処理されたHPPEが、提供される。
【0059】
本発明の糸を形成するモノフィラメントは、取り扱いに関する展望および機械的特性から、医療用途(例えば、外科用縫合糸等)での糸としての使用に十分大きい直径を有する。モノフィラメントは、従って、マルチフィラメントにおけるような糸を作製するために撚糸する必要がないので、必要な工程数を低減し、糸を作製する簡易な方法を提供する。さらに、モノフィラメントの閉構造は、細菌を誘引する空間を有さない。
【0060】
複数のフィラメントを用いる場合、フィラメントを編組、撚糸、引伸、撚り合わせしてもよく或いは他のマルチフィラメント構成体に配置してもよい。外科用縫合糸に特に有用な組紐構造体は、米国特許第5 019 093号明細書および米国特許第5 059 213号明細書に記載される螺旋状組紐構造体である。
【0061】
本発明の一実施形態において、処理されたHPPE糸を含んでなる、または処理されたHPPE糸からなる、処理されたHPPE糸または糸構造体もしくは糸構成体(例えば組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)は、未処理のHPPE糸を含んでなる、または未処理のHPPE糸からなる、未処理のHPPE糸または糸構造体もしくは糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)および/または他のタイプの糸を含んでなる、または他のタイプの糸からなる、他のタイプの糸または糸構造体もしくは糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)と組み合わせることが可能である。他のタイプの糸を含んでなる、または他のタイプの糸からなる、他のタイプの糸または糸構造体もしくは糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)は、高性能糸(例えば、ナイロン糸、テフロン糸、ポリプロピレン糸など)であるのが好ましい。
【0062】
元素金属は、13に等しい原子番号(Z)を有する中性電荷の化学元素、或いは原子番号Zが21〜32または39〜51もしくは57〜84の範囲の整数である中性電荷の化学元素を意味する。原子番号Z(陽子数としても知られている)は、原子の核に存在する陽子の数であり、従って、核の電荷数と同じである。原子番号Zは、化学元素を一意に特定する。中性電荷の原子において、原子番号は、電子の数に等しい。元素金属が、13に等しい原子番号Zを有する元素金属、または原子番号Zが21〜32の範囲の整数である元素金属、もしくは原子番号Zが39〜51の範囲の整数である元素金属、或いは原子番号Zが57〜84の範囲の整数である元素金属、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるのが好ましく、元素金属が、13に等しい原子番号Zを有する元素金属、原子番号Zが21〜32の範囲の整数である元素金属もしくは原子番号Zが39〜51の範囲の整数である元素金属、或いはそれらの組み合わせからなる群から選択されるのがさらに好ましく、元素金属が、13(Al°)、22(Ti°)、24(Cr°)、25(Mn°)、26(Fe°)、28(Ni°)、29(Cu°)、30(Zn°)、40(Zr°)、46(Pd°)、47(Ag°)、78(Pt°)および79(Au°)に等しい原子番号Zを有する元素金属もしくはそれらの組み合わせからなる群から選択されるのがなおさらに好ましく、元素金属が、13(Al°)、22(Ti°)、24(Cr°)、25(Mn°)、26(Fe°)、28(Ni°)、29(Cu°)、30(Zn°)、40(Zr°)、47(Ag°)、78(Pt°)および79(Au°)に等しい原子番号Zを有する元素金属からなる群から選択されるのが最も好ましく、元素金属が、13(Al°)、22(Ti°)、24(Cr°)、25(Mn°)、26(Fe°)、28(Ni°)、29(Cu°)、40(Zr°)、47(Ag°)、78(Pt°)および79(Au°)に等しい原子番号Zを有する元素金属またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるのがさらに最も好ましく、例えば、元素金属は、銀(Ag°)(47に等しい原子番号Z)である。
【0063】
本発明に関し、元素金属の組み合わせには、金属合金も含まれる。
【0064】
元素金属は、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも0.01%w/wの量で存在し、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも1.6%w/wの量で存在するのが好ましく、元素糸が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも2.1%w/wの量で存在するのがさらに好ましく、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも2.6%w/wの量で存在するのがなおさらに好ましく、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも3.1%w/wの量で存在するのが最も好ましく、例えば、元素金属は、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも4.1%w/wの量で存在する。元素金属は、処理されたHPPE糸の総重量の多くとも95%w/wの量で存在し、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも90%w/wの量で存在するのが好ましく、元素糸が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも85%w/wの量で存在するのがさらに好ましく、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも80%w/wの量で存在するのがなおさらに好ましく、元素金属が、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも75%w/wの量で存在するのが最も好ましく、例えば、元素金属は、処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも73%w/wの量で存在する。
【0065】
低量の元素金属(例えば、処理されたHPPE糸の総重量の0.01%w/w等)は、本発明による処理されたHPPEモノフィラメントに有利である。
【0066】
好適な一実施形態において、本発明は、元素金属が処理されたHPPE糸の総重量の少なくとも0.01%w/w、かつ処理されたHPPE糸の総重量の多くとも95%w/wの量で存在する、本発明の処理されたHPPE糸を提供する。
【0067】
本発明の処理されたHPPE糸に存在する元素金属の量は、金属の定量化学分析に適用される周知の化学分析技法(例えば、著者G.H.Jeffery、J.Bassett、J.MendhamおよびR.C. Denneyの「Vogel’s Textbook of Quantitative Chemical Analysis」(5編、John Wiley & Sons Inc.,1989年)、或いは著者Daniel C.Harrisの「Quantitative Chemical Analysis」(7編、W.H.Freeman、2006年)、或いは当業者が入手可能な他の定量化学分析における教科書に記載される化学分析技法)によって、測定できる。
【0068】
元素金属は、スパッタリングにより、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸に蒸着される。スパッタリングは、エネルギーイオン(典型的には「1次粒子」として知られている)によるターゲットの衝撃のため、原子が固体ターゲット材料(典型的には「ターゲット」として知られている)から放出されるプロセスである(
図1参照)。放出された原子は、層を形成する基板の表面(典型的には「基板」として知られている)に蒸着される。エッチングおよび解析技法(例えば二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectroscopy)(SIMS)等)が、薄膜形成に一般に使用される。本発明に関し、スパッタリングは、エッチングのためのスパッタリングの使用および/または解析技法における使用を除いて、薄層を蒸着するために使用されるプロセスだけを意味する。
【0069】
ターゲットから放出される原子は、広いエネルギー分布(典型的には数十eV(100,000K)まで)を有する。放出されるイオン(典型的には、放出される粒子の約1%だけがイオン化されている)は、ターゲットから直線に弾道飛行をすることが可能であり、基板上または真空チャンバーに激突し、再スパッタリングを起こす。より高いガス圧力において、放出されるイオンは、減速材として働いて拡散的に動く気体原子と衝突し、基板または真空チャンバーの壁に到達して、ランダムウォークを経た後に凝縮する。バックグラウンドガス圧を変えることにより、高エネルギーの弾道衝撃から低エネルギーの熱中性子化運動までの全範囲を使用できる。スパッタリングガスは、希ガス(例えばアルゴン等)であることが多い。効率的な運動量輸送のために、スパッタリングガスの原子量は、ほぼターゲットの原子量であるのが望ましいので、軽元素をスパッタリングするには、ネオンが好ましく、一方、重元素には、クリプトンまたはキセノンが有利である。反応性ガスもまた、化合物をスパッタするのに使用できる。その化合物は、プロセスパラメーターに応じて、ターゲット表面上で、飛行中に、または基板上で形成されることが可能である。スパッタ蒸着を制御する多くのパラメーターが利用可能であることは、スパッタ蒸着を複合プロセスにするだけでなく、専門家がフィルムの成長および微細構造の大部分の制御をするのを可能にする。
【0070】
スパッタリングは、衝突による1次粒子と材料内の原子との運動量の交換により、駆動される。入射イオンは、ターゲット内で衝突カスケードを引き起こす。このようなカスケードが反跳し、表面結合エネルギーを超えるエネルギーでターゲット表面に到達した際に、原子は放出されることが可能である。スパッタリングプロセスの1次粒子は、多くの手段で(例えば、プラズマ、イオン源、加速器によって、或いはアルファ粒子を発する放射性物質によって)供給されることが可能である。
【0071】
スパッタリングは、1次粒子の試料原子への最大エネルギー移動が表面原子の結合エネルギーに等しい場合のイオンエネルギーに等しいかもしくはそれより大きい、明確に定義された最小エネルギー閾値を有する。この閾値は、典型的に、10〜100eVの範囲のどこかの値である。
【0072】
様々なスパッタリング機構として、i)熱スパイクスパッタリングii)選択的スパッタリングが挙げられるが、それらに限定されない。熱スパイクスパッタリングは、固体が十分に高密度で、入射イオンが十分に重いので、衝突が互いに非常に接近して起こる場合に起こりうる。熱スパイクスパッタリングは、高密度だが低い融点を有する柔らかい金属(Ag、Au、Pb等)に衝撃を与えるkeV〜MeVの範囲のエネルギーを有する重イオン(例えば、XeまたはAuもしくはクラスターイオン)には最も重要である。選択的スパッタリングは、多成分固体ターゲットが衝撃されかつ固相拡散がない場合に、開始点で起こりうる。エネルギー移動がターゲット成分の1つに対してより効率的で、および/またはその成分が固体にあまり強く結合されていないならば、そうでない場合よりも効率的にスパッタするだろう。AB合金中で、成分Aが、優先的にスパッタされるならば、固体の表面は、長時間の衝撃の間に、B成分に濃縮され、それによって、スパッタされる材料の組成がABとなるようにBがスパッタされる可能性が増す。
【0073】
本発明の好適な一実施形態において、スパッタリングプロセスのための1次粒子は、プラズマによって供給される。つまり、元素金属は、好ましくはプラズマスパッタリングによって、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸に蒸着される。プラズマは、一部分イオン化ガスであり、ある割合の電子は、原子または分子に結合されるよりもむしろ遊離している。幾分独立して動く正電荷力と負電荷力が、プラズマを導電性にさせて、その結果、電磁場に強く応じる。従って、プラズマは、固体、液体、もしくは気体の特性とはかなり異なる特性を有し、異なる物質の状態であると考えられている。プラズマは、典型的に、例えば、星の場合に見られる中性の気体様雲(gas−like clouds)の形態をとる。気体と同様に、プラズマは、容器内に密閉されない限り、明確な形状も明確な体積も持たない。気体と異なって、磁場の影響下で、プラズマは、フィラメント、ビームおよび2重層などの構造を形成する。プラズマ状態は、高温プラズマ(ほぼ平衡プラズマ)および低温プラズマ(非平衡プラズマ)に分類することができる。高温プラズマとして、電気アーク、ロケットエンジンのプラズマジェット、およびプラズマを発生する熱核反応が挙げられる。それらは、電子および重粒子(両方とも帯電され中性)が非常に高温であることを特徴とし、それらは、ほぼ100%イオン化されている。低温プラズマは、低温粒子(帯電した中性分子ならびに原子種)と比較的高温の電子で構成され、低いイオン化度(10
―4〜10%)に関連する。低温プラズマとして、低圧直流および高周波(RF)放電が挙げられる。ポリマーの表面修飾に一般的に使用されるプラズマは、気体含有の帯電した中性種(電子、正イオンと負イオン、遊離基、原子、準安定原子、および分子フラグメントを含む)と広義に定義されることができる。プラズマにおいて、平均電子温度は、1〜10eVの範囲であり、電子密度は、10
9〜10
12cm
−3で変わり、イオン化度は、低くて10
−6または高くて0.3となり得る。50〜100kHzおよびそれを上回る交流周波数は、連続放電を提供できる。
【0074】
HPPE糸に一旦蒸着された元素金属は、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸の表面に付着する層を形成し、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸の表面を部分的にまたは完全に覆う。本発明による元素金属を含んでなるモノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸に関して走査型電子顕微鏡(SEM)を利用して、HPPE糸に一旦蒸着された元素金属が、モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸の表面を部分的にまたは完全に覆う連続層を形成することを立証することができる(
図2参照)。部分的にとは、本発明のHPPE糸の表面が露出した部分を表すことを意味する。後者(露出した部分)は、元素金属がHPPE糸に蒸着されていない一部のHPPE糸の表面である。完全にとは、(本明細において上に定義した通り)、HPPE糸の表面が露出した部分を呈さないことを意味する。ランダムもしくは通例起こる局所的な層表面の欠陥(例えばピンホール、凹み等)は、部分的に覆われたHPPE糸の表面か完全に覆われたHPPE糸の表面のどちらかに存在しうる。
【0075】
M.Ambergら(Plasma Process.Polym.2008年、5月、874−880)は、PETモノおよびマルチフィラメント繊維上の銀フィルムのプラズマアシスト蒸着を開示している。本発明に従って、同様な技法を介して、元素金属(例えば、銀、チタン)をHPPE糸に首尾よく蒸着したことが驚くべきことに判明された。PET基板は、HPPE基板よりも著しく高い表面張力を有するので、PETは、HPPEよりもかなり容易に被覆されると当技術分野で周知であったから、これは、驚きであった。表面張力が非常に低い基板(例えば、HPPE基板等)に、元素金属は言うまでもなく、組成物を付着するのが難しいことも、当技術分野では周知である。本発明に従って元素金属の蒸着に成功したことは、元素金属が、HPPE糸の表面に付着されて、HPPE糸の表面を少なくとも部分的に覆った事実に関連する。本発明者らに関する限り、本発明は、HPPE糸への元素金属のこのような成功的な蒸着を今のところ最初に開示する。
【0076】
HPPE糸に一旦蒸着された元素金属は、マルチフィラメントHPPE糸のモノフィラメントの表面を完全に覆う連続層を形成するのが好ましい。HPPE糸に一旦蒸着された元素金属による層の厚さは、少なくとも5nm、好ましくは少なくとも10nm、さらに好ましくは少なくとも20nm、なおさらに好ましくは少なくとも30nm、最も好ましくは少なくとも40nm、例えば、少なくとも110nmである。HPPE糸に一旦蒸着された元素金属による層の厚さは、多くとも1000nm、好ましくは多くとも900nm、さらに好ましくは多くとも800nm、なおさらに好ましくは多くとも700nm、最も好ましくは多くとも600nm、例えば、多くとも550nmである。
【0077】
HPPE糸に蒸着された元素金属による層は、元素金属ナノ粒子(
図3参照)(例えば、銀ナノ粒子等)を湿式法で蒸着できる糸の表面モフォロジーと混合されるべきではない。本発明による元素金属層の表面モフォロジーおよび表面積は、糸に蒸着された銀ナノ粒子の表面モフォロジーおよび表面積とは関連性がない。
図2と
図3を比較すると、2つの表面モフォロジーの違いが明らかになる。さらに、表面積の違いを立証する簡易な方法は、1メートルの数10億分の1まで圧縮されたテニスボール(銀ナノ粒子)を想像することによってである。粒子は、表面エネルギーをできる限り最小にしようとするので、粒子は円形となる。つまり、概して自然は、抵抗が最も小さい経路、粒子が可能な限り角がほとんどない球形になろうとする経路を進むので、角があれば、エネルギーが高くなる。ナノ粒子は、総体積と比べて大きな表面積を有する。体積に対する表面積のこの高比率は、ナノ粒子に関して最も重要な特性の1つである。ナノ粒子を作製するのに関して多少の基本的な点がある。a)核形成点、すなわち、金属(例えば、米国特許第6979491B2号明細書の場合、金属は銀でありうる)が互いに結合を開始し、さらに大きな粒子への成長を開始する場所が必要である。このため、金属塩(例えば、硝酸銀等)を分解できるある種の材料を必要とすることが多く、金属塩の分解は、還元剤(例えば水素化ホウ素ナトリウム、ビタミンC、グルコース、ヒドラジン水和物等)を用いて、達成される。還元剤は、遊離している銀イオンを互いに結合させて、硝酸銀を還元する。およびb)粒子をナノ規模で維持する機構を必要とし、粒子がリッピングしてかなり大きく成長するのを止める機構も必要する。通例、後者は、キャッピング剤(例えば、メルカプトコハク酸等)を用いて、達成される。スパッタリングの場合、形成される元素金属(例えば、銀)の層は、同じ寸法の表面上に存在する元素金属(例えば、銀)ナノ粒子の表面積と比較すると、総体積と比べてかなり小さい表面積を有する。
【0078】
本発明による処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも50%が、元素金属の層で覆われているのが好ましく、処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも60%が、元素金属の層で覆われているのがさらに好ましく、処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも75%が、元素金属の層で覆われているのがなおさらに好ましく、処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも85%が、元素金属の層で覆われているのが最も好ましく、例えば、本発明による処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも95%が、元素金属の層で覆われている。
【0079】
好適な一実施形態において、本発明による処理されたHPPE糸の全表面の少なくとも99%が、元素金属の層で覆われている。
【0080】
好適な一実施形態において、HPPE糸に一旦蒸着された元素金属によって形成される層(従って本発明の処理されたHPPE糸になる層)は、連続的である。連続的とは、処理されたHPPE糸の周囲に沿った処理されたHPPE糸の表面の露出部分が、本発明に従った元素金属の蒸着から形成される層を遮らないことを意味する。
【0081】
本発明の処理されたHPPE糸は、元素金属ナノ粒子のみを有するHPPE糸を超える別の利点を示す。すなわち、後者の糸の元素金属ナノ粒子は、HPPE糸表面への(もしあるとしても)限定される付着のため、(もしあるとしても)限定される摩擦抵抗または剥離抵抗を受け、従って、HPPE糸に元素金属ナノ粒子を蒸着する全ての最初の試みが無駄になる。本発明の処理されたHPPE糸に対するHPPE糸上の元素金属ナノ粒子の(もしあるとしても)限定される抵抗は、既知の試験(例えば、3M Scotchテープを用いて実施される剥離試験)による比較試験で立証されることが可能である。この試験が、本発明の処理された糸と元素金属ナノ粒子のみを有するHPPE糸との両方で実施されれば、元素金属ナノ粒子は、HPPE糸の表面から完全にもしくはかなりの程度まで除去されるだろう。存在する元素金属によって形成されたフィルムとは対照的に、本発明の処理されたHPPE糸の場合、元素金属は、完全に留まる、或いは殆ど損傷を受けないだろう。元素金属ナノ粒子は、外部の機械的な力が印加されるさらなる工程段階(例えばHPPE糸間の摩擦、手の接触もしくはプロセス関連の機械の接触、またはパッキング等)を耐え切れないと思われるので、HPPE糸上に元素金属ナノ粒子が存在する結果となり得るどんな技術的効果も、結果として、用いられなくなる。従って、本発明の処理されたHPPE糸は、元素金属ナノ粒子だけを有する典型的なHPPE糸を超える、向上した特性(例えば頑強性、導電率、金属または有機被覆への付着、UV抵抗、放射線不透過性、抗菌力、付着阻害活性、美観(外観、表面粗さ)、抗血栓性、熱的特性等)を示すことが可能である。さらに、本発明の処理されたHPPE糸の前述の特性は、雑な取り扱いのせいで劣化の対象となることはないし、取り扱いに特別の注意も要求しないので、元素金属ナノ粒子だけを有するHPPE糸を超え、本発明の処理されたHPPE糸をさらに頑強にする。
【0082】
本発明の別の一態様において、本発明は、処理されたHPPE糸を作製するプロセスを提供し、そのプロセスは、
・基板としてHPPE糸、ターゲット材料として元素金属または金属合金を用いて、スパッタリングによってHPPE糸に元素金属の層を蒸着する工程であって、処理されたHPPE糸が、このように調製される、工程と。
・任意選択的に、このように調製された処理されたHPPE糸を用いて、処理されたHPPE糸を含んでなる、または処理されたHPPE糸からなる糸構造体または糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)を調製する工程と
を含む。
【0083】
好適な一実施形態において、本発明は、本明細書に上記されるプロセスにより得られる処理されたHPPE糸を提供する。
【0084】
別の一実施形態において、本発明は、処理されたHPPE糸構造体または処理されたHPPE糸構成体を作製するための本明細書に記載されるプロセスを提供し、HPPE糸は、糸構造体にまたは糸構成体に元素金属の層を蒸着する工程に先だって、HPPE糸を含んでなる糸構造体または糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)に変えられる。
【0085】
別の一実施形態において、本発明は、処理されたHPPE糸構造体または処理されたHPPE糸構成体を作製するための本明細書に記載されるプロセスを提供し、HPPE糸は、糸構造体にまたは糸構成体に元素金属の層を蒸着する工程に先だって、HPPE糸からなる糸構造体または糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)に変えられる。
【0086】
好適な一実施形態において、本発明は、本明細書に上記されるプロセスにより得ることができるHPPE糸を含んでなるまたはHPPE糸からなる、処理されたHPPE糸、処理されたHPPE糸構造体または処理されたHPPE糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)を提供する。
【0087】
別の一態様において、本発明は、本発明の処理されたHPPE糸を含んでなるまたは本発明の処理されたHPPE糸からなる、処理されたHPPE糸もしくは糸構造体または糸構成体(例えば、組紐、布、織成、不織、編成、編組さもなければ形成構造体等)を含んでなる物品を提供する。本発明に関し、物品は、目的にかなうまたは特別な機能を実施するように設計された部類の個々の物体もしくは商品または構成要素であり、単独で動作可能である。物品の例として、ケーブル、ロープ、ケーブル、ロープ、ケーブル、スリング、布地、グローブ、魚網、外科的修復物品(例えば、縫合糸(外科用縫合糸としても周知である)、医療用ケーブル、医療用メッシュ)が挙げられる(それらに限定されない)。外科的修復物品は、本明細において、例えば、柔らかい体組織を修復するための縫合糸として、骨のような体の部分を修復するもしくは保持するための医療用ケーブル、テープ、リボンまたはバンドとして、(ヘルニア)メッシュとしてまたは一時的なインプラントまたは永久的なインプラントとして、医療目的に使用される物品と理解される。本発明による外科的修復物品の好適な群は、縫合糸、医療用ケーブルおよび医療用メッシュである。医療用ケーブルの良好な例として、外傷固定用ケーブル、胸骨閉鎖用ケーブル、および予防的もしくはプロテーゼ周囲用ケーブル(per prosthetic cable)、長骨骨折固定用ケーブル、小骨骨折固定用ケーブルが挙げられる。例えば、靭帯置換用のチューブ様製品も考慮する。医療用メッシュの良好な例は、ヘルニア用メッシュである。縫合糸、医療用ケーブルおよび医療用メッシュは、外科的修復物品の好適な群である。なぜなら、本発明に基づいたこれらの物品は、未処理のHPPE糸もしくは糸構造体または糸構成体を含んでなる典型的な外科的修復物品と比較して、向上した被覆性と同時に同等な機械的特性により、これらの物品に特に所望される1つまたは複数の最適な特性をもたらすように設計されることが可能であるからである。例えば、本発明による縫合糸は、例えば縫合糸の放射線不透過性のために、縫合糸自体が介在することなく、例えば、回復中の組織の一部のX線画像を用いて、患者の組織の回復の推移を追跡する非侵襲性内視鏡手術に使用されることが可能である。
【0088】
別の一実施形態において、本発明は、糸構造体にまたは糸構成体に元素金属の層を蒸着する工程に先だって、HPPE糸を含んでなる物品、例えば、外科的修復物品(例えば、縫合糸)を作製するための本明細書に記載されるプロセスを提供する。
【0089】
別の一実施形態において、本発明は、糸構造体にまたは糸構成体に元素金属の層を蒸着する工程に先だって、HPPE糸からなる物品、例えば、外科的修復物品(例えば、縫合糸)を作製するための本明細書に記載されるプロセスを提供する。
【0090】
好適な一実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるプロセスにより得ることができるHPPE糸を含んでなる物品、例えば外科的修復物品(例えば、縫合糸)を提供する。
【0091】
別の一実施形態において、本発明は、本発明の物品を含んでなるデバイスを提供する。本発明に従って、デバイスは、特別の目的にかなうまたは特別な機能を実施するように設計された装置または機構の1つであり、複数の物品(多数の物品の集成体)からなり得る。デバイスの例として、針と固定具を一緒にした外科用縫合糸、カテーテル、弁(例えば心臓弁等)さらにエンドレスループ製品、バッグ様製品、バルーン様製品および他の織成製品および/または編成製品が挙げられる(それらに限定されない)。
【0092】
本発明のさらなる一実施形態において、本明細で述べた任意のプロセスは、一般に連続プロセスとして知られている中断のない連続的方法で、またはバッチプロセスとして一般に知られている断続方法で、実行されることが可能である。本明細で述べた任意のプロセスは、連続プロセスであるのが好ましい。
【0093】
なお別の一実施形態において、本発明は、医療用途のための本発明の処理されたHPPE糸の使用を提供する。医療用途のための製品の良好な例として、医療用ケーブル、医療用メッシュおよび外科用縫合糸が挙げられる。後者は、例えば、傷を縫合するのに使用され、感染されやすいので、好ましくは、非常に高い純度を有するべきである。本発明による糸からなる外科用縫合糸は、その純度、細菌を誘引するリスクの少なさおよび/またはその抗血栓性のため、特に有利である。モノフィラメントは、硬くて平坦な表面を有し、硬さと平坦さが一緒になって、絡み合いを低減させる。これは、また傷口を縫合する手術中に利点となる。別の例は、本発明によるモノフィラメント糸を含んでなる医療用メッシュである。糸の純度および細菌を宿るリスクの少なさもまた、外科用メッシュの利点である。さらに、処理されたHPPE糸の高い柔軟性および軽量は、その糸のメッシュとしての使用を特に適切にする。
【0094】
好適な一実施形態において、本発明は、外科的修復物品(例えば、縫合糸または医療用ケーブル或いは医療用メッシュ)、好ましくは組織修復用の縫合糸の使用を提供する。
【0095】
最近、最小侵襲性の外科用途のために使用される物品またはデバイスの傾向および主要な要求事項の1つは、放射線不透過がある。放射線不透過は、特定の物質を通過することができない電磁気、特にX線の相対的な能力を指す。電磁放射線の通過を妨げる物質を「放射線不透過性」と呼ぶ。その用語は、X線が物質を通過する際の放射線撮影画像における比較的不透明な白色の出現を指す。現代の医薬において、放射線不透過物質は、X線または同様な放射線が通過できないであろう物質である。放射線画像は、放射線不透過性の色素または造影剤により大幅に改革されてきており、放射線不透過性の色素または造影剤は、血流、腸管を通過でき、或いは脳脊髄液内に入ることができ、ハイライトコンピューター断層撮影(CT)もしくはX線画像に利用されることができる。放射線不透過は、様々なデバイス(例えば放射線学的インターベンション中に使用されるガイドワイヤもしくはステント等)の設計時における重要な検討材料の1つである。所与の物品または医療用デバイス(例えば血管内デバイス等)の放射線不透過は、インターベンション処置中にデバイスを追跡することができるので、重要である。
【0096】
別の一態様において、本発明は、
・本発明の処理されたHPPE糸;
・本発明の物品;もしくは
・自動車用途(車部品等)、海上用途(船、ボート、ヨット操縦/船における索具、帆、スリング、釣り糸、ケーブル等)、航空宇宙用途(飛行機、ヘリコプター等)、医療用途(関節形成術、整形外科および脊椎インプラント(例えば、半月板インプラント)、外科用縫合糸、メッシュ(例えば、ヘルニア用メッシュ)、布帛、織成または不織シート、テープ、リボン、バンド、人口関節、ケーブル(例えば外傷固定用ケーブル、胸骨閉鎖用ケーブル、予防的もしくはプロテーゼ周囲用ケーブル、長骨骨折固定用ケーブル、小骨骨折固定用ケーブル等)、例えば靭帯置換用のチューブ様製品、エンドレスループ製品、バッグ様製品、バルーン様製品等))、護身用途(弾道保護、防護着、防弾チョッキ、防弾ヘルメット、防弾車等)、スポーツ/レクレーション用途(フェンシング、スケート、スケートボード、スノーボード、スポーツパラシュートにおける吊索、パラグライダー、凧、凧スポーツ用の凧糸、登山用具、弓弦、ラケットのガット、水中銃用の銛糸(spear lines)、リンクおよびボード上のエッジ保護等)、建築用途(窓、ドア、(擬似)壁、ケーブル等)、衣服(手袋、保護衣/器具、布地等)、瓶詰め用途、機械用途(缶および瓶取り扱い機械部品、織機上の移動部品、ベアリング、ギア)等のための本発明のデバイスの使用を提供する。
【0097】
さらに別の一実施形態において、本発明は、自動車用途(車部品等)、海上用途(船、ボート、ヨット操縦/船における索具、帆、スリング、釣り糸、ケーブル等)、航空宇宙用途(飛行機、ヘリコプター等)、医療用途(関節形成術、整形外科および脊椎インプラント(例えば、半月板インプラント)、外科用縫合糸、メッシュ(例えば、ヘルニア用メッシュ)、布帛、織成または不織シート、テープ、リボン、バンド、人口関節、ケーブル(例えば外傷固定用ケーブル、胸骨閉鎖用ケーブル、予防的もしくはプロテーゼ周囲用ケーブル、長骨骨折固定用ケーブル、小骨骨折固定用ケーブル等)、例えば靭帯置換用のチューブ様製品、エンドレスループ製品、バッグ様製品、バルーン様製品等))、護身用途(弾道保護、防護着、防弾チョッキ、防弾ヘルメット、防弾車等)、スポーツ/レクレーション用途(フェンシング、スケート、スケートボード、スノーボード、スポーツパラシュートにおける吊索、パラグライダー、凧、凧スポーツ用の凧糸、登山用具、弓弦、ラケットのガット、水中銃用の銛糸(spear lines)、リンクおよびボード上のエッジ保護等)、建築用途(窓、ドア、(擬似)壁、ケーブル等)、衣服(手袋、保護衣/器具、布地等)、瓶詰め用途、機械用途(缶および瓶取り扱い機械部品、織機上の移動部品、ベアリング、ギア)等のための本発明の処理されたHPPE糸の使用を提供し、処理されたHPPE糸は、処理されたHPPE糸がその導電率および/または抗菌性および/または放射線不透過性および/または抗血栓性および/または防汚性を呈することができる量およびフォーマットで使用される。
【0098】
別の一実施形態において、本発明は、防汚性を有する釣り糸および魚網用の本発明の処理されたHPPE糸の使用を提供する。
【0099】
特定の一実施形態において、本発明は、元素金属がAg°である、防汚性を有する釣り糸および/または魚網用の本発明の処理されたHPPE糸の使用を提供する。生物付着または汚損もしくは生物汚損は、湿った表面または構造体上の微生物、植物、藻類、および/または動物の望ましくない集積である。汚損の阻止および/または防止を防汚と呼ぶ。
【0100】
本発明の処理されたHPPE糸または物品もしくはデバイスの退却または異常検出のための指示方法は、
・本発明の処理されたHPPE糸または物品もしくはデバイスが、提供され;
・糸上の少なくとも2か所の垂直方向に離れた地点間での導電率または電気抵抗を測定し;
・異なる時間に得た導電率または電気抵抗の測定値を比較し;
・導電率の変化が、本発明の処理されたHPPE糸または物品もしくはデバイスに推奨された導電率の変化と同じかもしくはそれ以下であるならば、処理されたHPPE糸または物品もしくはデバイスを異常検出または破棄する。
【0101】
例えば、本発明によるアルミニウム接触を有するHPPE糸(ロープの総重量の5%w/w)と、アルミニウム接触を伴わないHPPE糸(ロープの総重量の0〜95%w/w)とを有するロープ(ロープの総重量の100%w/wまでの残りは、例えば、ナイロン、PTFE等のような別の高分子糸によって、埋め合わせる)は、直流(DC)または交流(AC)導電率が、例えば初期の直流または交流導電率よりも10%超低下した場合、破棄されてもよい。
【0102】
好適な一実施形態において、本発明は、直流測定による導電率または電気抵抗の測定を提供する。
【0103】
最も好適な一実施形態において、本発明は、交流測定による導電率または電気抵抗の測定を提供する。
【0104】
例えば、本発明の処理されたHPPE糸を含んでなる、導電性モノフィラメントまたはマルチフィラメントHPPE糸または物品もしくはデバイス(例えば、ロープまたはケーブルもしくは釣り糸等)を有することは非常に有利であろう。その摩耗は、その直流または交流導電率もしくは電気抵抗の時間経過による低下により追跡されうる。その理由は、物品またはデバイスの取り替えが、その最終使用者のための良好な性能および/または安全使用を確保するだろう時に行われ、従って、これらの物品またはデバイスが一部をなす全ての用途に対して、向上した安全性の視点を有する物品および/またはデバイスを提供するだけでなく、費用/性能比を最適化するからである。
【0105】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載される実施例2および3に従った処理されたHPPE糸である。
【0106】
本発明の多くの他の実施形態は、当業者には明らかであろう。このような変形形態は、本発明の広範な範囲内において考えられる。
【0107】
本発明のさらなる態様およびそれらの好適な特徴は、特許請求の範囲で示される。
【0108】
本明細書に記載される本発明の実施形態からの個々の特徴または特徴の組み合わせ、およびそれらの明白な変形形態は、結果としての実施形態が物理的に実現可能でないと当業者が即座に認識する場合を除き、本明細書に記載される他の実施形態の特徴と組み合わせ可能もしくは交換可能である。
【0109】
本発明は、例証のみを目的とする、以下の非限定の実施例に関連して、詳細に説明されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【
図1】[アルゴン(Ar)ガス(スパッタリングガス)を使用して1次粒子を生成する図における]スパッタリングの略図を示す。
【
図2】実施例1の未処理のHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図3】実施例5のチタンスパッタされたHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図4】銀ナノ粒子のみを有するHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【
図5】2つの銀スパッタしたHPPE組紐と銀スパッタしていないHPPE組紐(両方ともインプラントをシミュレート)を組み込んだポリウレタンマトリックス(ボディをシミュレート)からなる試料材料のトップダウンX線対比画像を示す。
【0111】
[実施例]
例証のみを目的とする、以下の非限定的な実施例は、糸および外科的修復物品(例えば、実施例において「組紐」と呼ばれる縫合糸)に関する。例えば、実施例2および4は、外科的修復物品に関し、その物品は、実施例2および4において、縫合糸である。
【0112】
[HPPE糸および組紐に関連する特性を評価する方法および技法]
HPPE糸の直径を式1に従って、算出した。
【0113】
[HPPE組紐の導電率の評価]
物体の電気抵抗(Ohm)は、定常電流の経路に対してその反対の測定である。デジタル電気マルチメーターVoltcraft VC150を用いて、HPPE糸構造体の直流電気抵抗を測定した。その構造体は、16×1×110dtexの組紐であった。組紐の2つの端、両者間1mを超える距離に、電気接点を置いた。抵抗の逆数は、ジーメンス(S)で測定される電導度である。電導度は、電気がいかに容易に物体を貫流するかの尺度である。
【0114】
[HPPE組紐の表面張力の評価]
PE(ポリエチレン)またはPP(ポリプロピレン)もしくはPVC(ポリ塩化ビニル)フィルムの平均濡れ性を測定するISO 8296に基づいた改良された方法に準拠して、8×1×110dtexのHPPE糸構造体、組紐の表面張力の評価を実施した。本発明に使用される修正は、a)PEフィルムを使用する、b)ブラシを用いて試験液(既知の表面張力の液体)を塗る、およびc)2秒後、表面の濡れを評価する代わりに、a)HPPE組紐の表面を使用する(以下の表面調製を参照)、b)試験液の液滴をHPPE組紐の表面上に滴下する、およびc)3秒後、表面の濡れを評価する:ことにより、方法を修正した。
【0115】
さらに詳細には、組紐の各巻きを組紐の前の巻きと一定に接触するような方法で、8cm×4cm×0.3cm(長さ×幅×高さ)の寸法であるガラスプレートの周囲を幅寸法に、試験するHPPE組紐を軸方向に巻き、ガラス表面が、巻かれたHPPE組紐の単層によって、完全に覆われる結果となった。一旦、巻かれたHPPE組紐の単層が適所に確保されると、ピペットを用いて、既知の表面張力の液体の液滴5μLを表面上に載せた。液滴が3秒以内に広がると、組紐の表面は、既知の液体の表面張力に等しい表面張力を有する。表面張力が低い液体を用いて、実験を開始し、液体の表面張力を増大させながら、続けて実験を進めた。
【0116】
一式の既知の表面張力の液体は、2mN/m刻みに、28mN/mから72mN/mまで(72mN/mを含む)の表面張力の範囲を網羅するSeries C(エタノールと水の混合液)であった。TIGRES Dr.Gerstenberg GmbH(WWW.tigres.de)により、この一式の液体を供給した。
【0117】
[HPPE糸の機械的特性の評価]
試験した対照HPPE糸とおよびAg−HPPE糸さらにTi−HPPE糸の破断点伸び(%)、E−弾性率(GPa)、最大破断強さ(F
max)(N)を以下の通り測定した:引張試験機を用いて、糸の試験片を破断するまで伸ばし、その破断力および破断点伸びを記録する。試料調製およびコンディショニングを以下のように行った:試験の前に、21℃±1℃、40〜75%の相対湿度で、少なくとも2時間、ボビンをコンディショニングした。HPPE糸をボビンから取り出し、引張試験機のクランプに直接置いた。素手で試験部分を触れることを避けるのと同様に、試験片の撚りのいかなる変化も回避した。実際の引張試験を以下の通りに実施した:引張試験機、Zwick 1435を一定の伸び率で稼働した。その機械にInstronクランプ5681 Cおよびステンレス鋼のクランピングブロックを装備した。圧締圧は、6.8barであった。伸び率は、250mm/分で、ゲージ長さは、500mmである。最大力1kNを有するロードセルを使用した。0.2cN/dtexのプレテンションを印加して、糸から全てのゆるみを取り除いた。
【0118】
最大破断強さ(F
max)(cN、センチニュートン)は、試料を破断(rapture)するように印加する最大の強さであった。ゲージ長さ(L
o)(500mm)で除したmmで表されるクランプの変位量(ΔL)を100倍して、破断点伸び(%)を測定した。破断点伸びは、プレテンションの補正をしなかった。0.3〜1%伸張を伸張差(0.7%)で除し、10
−1を乗じ、続いて糸を構成する材料の線密度(g/cm
3で測定)を乗じた、比応力差(ΔF、cN/dtexで測定)により、E−弾性率(GPa)を決定した。5回の個々の引張り試験からのデータを用いて、破断点伸び、E−弾性率、最大破断強さの平均値を算出した。Fibre Rope Technologyのハンドブック(Handbook)に準拠して、以下のように、比応力を測定した。
比応力=張力/(線密度)、N/texに等しいMN/(kg/m)で測定
【0119】
[HPPE組紐の抗菌力の評価]
HPPE組紐の抗菌力の評価を以下のように実施することが可能である。無菌のLuria Bettani培養基内の凍結した株から、大腸菌(Escherichia coli)ATCC 11105を培養することが可能である。細菌懸濁液は、約10
9CFU/mLの濃度を有する。LB寒天平板に100μLのこの細菌懸濁液を接種することが可能である。HPPE糸構造体、16×1×110dtexの組紐を長さ約5cmに切断することできる;組紐の直線部分を使用する。無菌の鉗子で各組紐を寒天に圧搾して、寒天表面との接触を最適化することができる。続いて、飽和塩溶液で満たしたデシケーター(exicator)中で、37℃で24時間、寒天平板を培養して、寒天の脱水を回避することができる。組紐長さに対して垂直での増殖阻害帯の幅は、組紐に沿って3地点で最短1mmまで記録され、寒天平板の写真画像が、創り出される。
【0120】
[HPPE組紐の放射線不透過性の評価]
一片の対照HPPEとAg−HPPE組紐(インプラントをシミュレート)を組み込んだポリウレタンマトリックス(ボディをシミュレート)からなる試料材料の、対照HPPEおよびAg−HPPE糸構造体(16×1×110dtexの組紐)の放射線不透過性を東芝(Toshiba)Infinix VC−i血管画像化システムでのX線照射により、評価した。放射線透過性ポリウレタンマトリックスと一片の対照HPPEおよびAg−HPPE組紐とのX線吸収における差(対比)を写真に捕えた(
図4参照)。
【0121】
[走査型電子顕微鏡(SEM)解析]
SEM解析を用いて、実施例5の処理されたHPPE糸、実施例1の未処理のHPPE糸、さらに銀ナノ粒子のみを有した実施例6のHPPE糸の表面モフォロジーの差を視覚化した。SEM解析をする予定の3つの糸の各々から、一片の糸を使用した。実施例2(未処理のHPPE組紐)の糸試料をSEM試料ホルダーに両面接着テープで固定した後、導電性Au/Pd合金層で被覆した。他の2つの糸試料を、導電性層で被覆しないで、SEM試料ホルダーに両面接着テープで固定した。Philips CPSEM XL30を用いて、加速電圧15kVで、画像化を行った。
【0122】
[透過電子顕微鏡(TEM)解析]
TEM解析を用いて、実施例3および5の処理されたHPPE糸の銀およびチタンフィルムの厚さを測定した。実施例3および5の糸を個々にエポキシ樹脂と共に別々の金型に入れた。続いて、エポキシ樹脂を硬化させて、硬化マトリックスを形成した。硬化マトリックスは、硬化エポキシ樹脂と、硬化マトリックス内に埋め込まれた組紐とを含有した。ミクロトームを用いて、組紐の方向に垂直に、組紐の一部を含む70nm厚の切片に硬化マトリックスをスライスした。この操作を−120℃で実行した。Philips CM200透過電子顕微鏡を加速電圧120kVで用いて、組紐横断面の70nm切片の画像化を行った。
【0123】
[実施例1〜5]
[実施例1:Dyneema Purity(登録商標)SGX 110 dtex TS100:対照HPPE糸]
Dyneema Purity(登録商標)SGX 110 dtex TS100は、表面未処理のHPPE糸である。Dyneema Purity(登録商標)SGX 110 dtex TS100を対照HPPE糸として使用した。これらの糸のF
max、靭性、破断点伸び、E−弾性率を表1に示す。
【0124】
[実施例2:Dyneema Purity(登録商標)braid:対照HPPE組紐]
実施例1のいくつかの対照HPPE糸を1cm当り14.9ステッチを有する16×1×110 dtexの組紐に組み立てた。これらの組紐の表面張力、導電率、抗菌力および放射線不透過性を表1に示す。
【0125】
[実施例3:銀スパッタしたDyneema Purity(登録商標)SGX 110 dtex TS100糸:Ag−HPPE糸]
Dyneema Purity(登録商標)SGX 110 dtex TS100は、以下のように銀でスパッタしたマグネトロンであった:Arプラズマにおける糸(基板)の前処理(圧力は10Paに等しく、入力電力は0.04W/cm
2に等しい)を25秒間実施した。続いて、圧力0.8Pa、入力電力0.3W/cm
22の下で、ターゲット材料[元素銀(Ag°)](スパッタリングターゲット)に、Arガス(スパッタリングガス)により発生した1次粒子で衝撃を与えた。糸(基板)の露出時間は、10分であった。
【0126】
銀の量は、銀の重量を加えた糸の総重量の5.25%w/wであった。
【0127】
銀フィルムの厚さは、Transmission Electron Microscopyにより測定して19nmであった。
【0128】
これらの糸のF
max、靭性、破断点伸び、E−弾性率を表1に示す。
【0129】
[実施例4:銀スパッタしたDyneema Purity(登録商標)braid:Ag−HPPE組紐]
実施例3のいくつかの対照HPPE糸を1cm当り14.9ステッチを有する16×1×110dtexの組紐に組み立てた。これらの組紐の表面張力、導電率、抗菌力および放射線不透過性を表1に示す。
【0130】
[実施例5:Dyneema Purity(登録商標)SGX 110dtex TS100:Ti−HPPE糸]
Dyneema Purity(登録商標)SGX 110dtexTS 100は、以下のようにチタンでスパッタしたマグネトロンであった:Arプラズマにおける糸(基板)の前処理(圧力は10Paに等しく、入力電力は0.04W/cm
2に等しい)を25秒間実施した。続いて、圧力0.8Pa、入力電力1.0W/cm
22の下で、ターゲット材料[元素チタン(Ti°)](スパッタリングターゲット)に、Arガス(スパッタリングガス)により発生した1次粒子で衝撃を与えた。糸(基板)の露出時間は、20分であった。
【0131】
チタンの量は、銀の重量を加えた糸の総重量の8.6%w/wであった。
【0132】
チタンフィルムの厚さは、Transmission Electron Microscopyにより測定して100nmであった。
【0133】
F
max、靭性、破断点伸び、E−弾性率を表1に示す。
【0134】
[実施例6:銀ナノ粒子のみを有するHPPE糸の調製:ナノAg−HPPE糸(SEM解析用の比較試料)]
Dyneema Purity(登録商標)SGX 110dtex TS100は、表面未処理のHPPE糸であり、それを使って、以下のように銀ナノ粒子のみを有するHPPE糸を調製する。:Ag 506−Terpineol−50%(Nano−Size Ltd.,Migdal Ha’Emek,Israel,www.nano−size.comにより生産)の名称で市販されている銀ナノ粒子懸濁液中に、Dyneema Purity(登録商標)SGX 110dtex TS100糸を室温で浸漬した。銀ナノ粒子懸濁液の液体培養基は、テルピネオールであり、懸濁液の固体含有量は、50%w/wであり、懸濁液は、3%w/wまでの分散剤を含有した。糸は、銀ナノ粒子懸濁液中に10秒間、残在した。続いて、銀ナノ粒子懸濁液から糸を除去し、ゴムロールの間に1.8バールに等しい適度の圧力を印加して、過剰の懸濁液を糸から絞り出した。その後、糸を50℃で30分間、オーブン内で加熱して乾燥させた。
【0135】
【表1】
【0136】
Ag−およびTi−HPPE糸の機械的特性(例えばF
max、破断点伸び、およびE−弾性率等)を対照HPPE糸の機械的特性と比較すると、Ag−およびTi−HPPE糸が、驚くべきことに、対照HPPE糸の機械的特性と同等な機械的特性を示すことが、明らかである(表1参照)。
【0137】
Ag−HPPE組紐の機械的特性(例えばF
max、および破断点伸び等)を対照HPPE組紐の機械的特性と比較すると、Ag−HPPE組紐が、驚くべきことに、対照HPPE組紐の機械的特性と同等な機械的特性を示すことが、明らかである(表1参照)。
【0138】
Ag−およびTi−HPPE組紐の(糸または組紐の被覆性に関連する)表面張力を対照HPPE組紐の表面張力と比較すると、Ag−およびTi−HPPE組紐が、対照HPPE組紐の表面張力を超えて、約17%の本質的に増大した表面張力を示すことが、明らかとなる。
【0139】
Ag−HPPE組紐の表面張力、直流導電率、抗菌力および放射線不透過性を対照HPPE組紐のそれらと比較すると、Ag−HPPE組紐は、対照HPPE組紐を超える改良された特性を示すことが、明らかとなる。
【0140】
従って、本発明の処理されたHPPE糸または組紐(例えばAg−およびTi−HPPE糸等)は、驚くべきことに、対照HPPE糸の機械的特性と同等な機械的特性を示すことが、明らかであり、同時に、Ag−およびTi−HPPE組紐は、向上した被覆性だけでなく、対照HPPE組紐の対応する特性を超える一連の改良した特性を示した。
【0141】
図2は、実施例1の未処理のHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。未処理のHPPE糸の表面は、HPPE糸の表面に付着する層を形成する元素金属の兆候がない。
【0142】
図3は、実施例5のチタンスパッタしたHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。はっきり見えるように、実施例5の処理されたHPPE糸の表面は、HPPE糸の表面に付着する元素金属(この場合はチタン)の層を有する。この試料において、チタンの層は、連続的であった。
【0143】
図4は、銀ナノ粒子のみを有する実施例6のHPPE糸の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。銀ナノ粒子が、暗黒いバックグラウンド上にはっきり認識できるほぼ円形様の白い点として、表されるように、このHPPE糸の表面は、銀ナノ粒子が存在する明らかな兆候があり、銀ナノ粒子はHPPE糸に属すると考える。各々個々のフィラメントにおいて、48.2〜114nmの範囲で変わる直径を有するランダムに析出した銀ナノ粒子がはっきりと見られる。実施例6に記載される糸の調製におけるこの糸は、3M Scotchテープを用いて剥離接着力試験を施して、銀ナノ粒子の大部分を除去する。
【0144】
図2、3および4のSEM画像を比較すると、実施例5の処理されたHPPE糸と実施例1の未処理のHPPE糸、さらに銀ナノ粒子のみを有する実施例6のHPPE糸の表面モフォロジーの差、これらの糸の差異は、明らかになる。さらに詳細には、これらの糸(未処理のHPPE糸、本発明による処理されたHPPE糸および銀ナノ粒子のみを有するHPPE糸)は、それらの表面モフォロジーだけが異なるのではなく、HPPE糸への元素金属の付着が非常に異なるので、明らかに異なった糸である。
【0145】
図5は、2つの銀スパッタしたHPPE組紐と銀スパッタしていないHPPE組紐(両方ともインプラントをシミュレート)を組み込んだポリウレタンマトリックス(ボディをシミュレート)からなる試料材料のトップダウンX線の対比画像を示す。ポジション5において、未処理の(銀をスパッタしていない)対照HPPE組紐(対照HPPE糸、実施例1を参照)が存在し、ポジション9に、本発明による処理された(銀スパッタした)HPPE組紐(Ag−HPPE組紐、実施例2を参照)が存在する。銀スパッタした組紐の正確なポジションは、
図5でははっきり可視できるが、未処理のHPPE組紐は不可視である。