特許第5966204号(P5966204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966204
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】応力分布測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/24 20060101AFI20160728BHJP
   G01L 1/00 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   G01L1/24 Z
   G01L1/00 G
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-127697(P2012-127697)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-253788(P2013-253788A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】599032981
【氏名又は名称】オプトウエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】595173732
【氏名又は名称】田代 克
(72)【発明者】
【氏名】児玉健一
【審査官】 公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−183738(JP,A)
【文献】 梅崎 栄作,“光弾性実験の自動化の現状”,実験力学,日本,日本実験力学会,2002年 3月,Vol. 2, No. 1,p. 9-14
【文献】 米山 聡, 外2名,“三色光粘弾性法による時間依存性しま次数および偏光主軸方向の決定”,日本機械学会論文集(A編),日本,社団法人 日本機械学会,1998年 4月,Vol. 64, No. 620,p. 1007-1013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00, 1/24
G01L 5/00
G01N 21/21,21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源を持つ円偏光器(半円偏光器含む)もしくは平面偏光器内の物体像を撮像素子にて撮影して得られるカラー位相シフト画像から相対縞次数を算出するものであって、あらかじめ既知の物体による多波長の相対縞次数から絶対縞次数校正曲線を算出しておき、これを参照することによって物体の多波長の相対縞次数から絶対縞次数を決定することにより応力分布を測定する応力分布測定装置であって、光源を三波長のLED光源とし、撮像素子前に一枚のRGB干渉フィルタを取り付け、絶対縞次数算出の際に適用する前記絶対縞次数校正曲線の上限次数を決定するため、縞の勾配または密集度に応じてマスク画像を作成し、
低次縞候補領域と高次縞候補領域を設定して演算することを特徴とする応力分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明材料、高分子材料などの応力分布を測定する応力分布測定装置であってカラー位相シフト光弾性法を利用するものに関する。
【背景技術】
【0002】

光弾性法は実験的に複屈折物体内の主応力差と主応力方向を全視野で得ることができ、さらにそれらの値からせん断応力差積分法等を利用して応力成分を得ることができる方法である。主応力差と主応力方向は、光弾性法から得られる等色線縞と等傾線縞に対して、それぞれ、光弾性パラメータと呼ばれる縞次数および角度を割当てることにより決定できる。
【0003】

この光弾性法の全視野自動測定法としては、多波長光源を持つ円偏光器(半円偏光器含む)もしくは平面偏光器から、その偏光板などの光学部品を指定角度に回転して得られる複数枚のカラー画像(カラー位相シフト画像と呼ぶ)を利用するカラー位相シフト光弾性法がいくつか考案されている。カラー位相シフト光弾性法から応力成分を決定するには、等色線縞の相対縞次数から位相接続などの何らかの方法により決定した絶対縞次数と、等傾線縞から得られる主応力方向が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Ramesh ,“Digital Photoelasticity”, Springer, (2000)
【非特許文献2】K.R. Madhu, R.G.R. Prasath and K. Ramesh ,“Colour Adaptation in Three Fringe Photoelasticity”, Experimental Mechanics (2007), 47:271-276
【非特許文献3】梅崎・小池・渡辺:一般化位相シフト法による光弾性しま次数の全域自動測定,日本機械学会論文集(A編), 62-599(1996), pp. 1690-1695
【非特許文献4】小笠原・児玉・梅崎:カラー光弾性縞を用いた主応力方向の決定,日本非破壊検査協会,第34回応力・ひずみ測定シンポジウム講演論文集, (2003), pp.3-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】

これまで、逆正接関数もしくは逆余弦関数を用いて得られた相対縞次数から絶対縞次数を決定するためには、0(ゼロ)次縞などの既知となる絶対縞次数を見つけて、そこから画像の左右もしくは上下方向へ走査して、縞次数(位相分布)が連続的になるように位相を足し引きしてつなぎ合わせる必要があった。この方法では、0次縞が出ていない場合や、穴などの不連続点がある場合は絶対縞次数の決定は困難となる。また、絶対縞次数を決定したい点の情報のみだけではなく、その周辺の情報を利用するため、決定誤差が入りやすい問題があった。
【0006】

その他の方法として、円偏光器から得られる一枚のカラー等色線縞から、その絶対縞次数を決定する方法が考案されている(非特許文献1)。これはあらかじめ校正実験を実施し、その際の画像のRed、Green、Blueの輝度値と絶対縞次数との関係から校正表を作成しておき、測定画像のRed、Green、Blueの輝度値と校正表を比較し、最も近い次数を絶対縞次数として決めるものである。基本的に各点独立して絶対縞次数を決定できるが、単にRed、Green、Blueの輝度値の比較では、光源の光強度の変動、色むらの影響で、誤った結果が得られるという問題があった。この誤判定を改善する方法が非特許文献2において考案されているが、点の周辺の情報が必要で各点独立に絶対縞次数を決定することができず、また、光源に白色光(ハロゲンランプ)を使用しているため、撮像素子のRed、Green、Blueの内部フィルタの波長のクロストークの影響で縞次数が3次以上の縞は光強度が減衰して解析できない問題があった。
【0007】

波長のクロストークの対策として、各波長の相対スペクトル幅を狭帯域にして、強度レベルをそろえる必要がある。そのため、多波長光源を複数台のレーザとビームエキスパンダの組み合わせ、もしくは白色光源とRed、Green、Blueの複数枚の干渉フィルタとNDフィルタの組み合わせなどが提案されている(非特許文献1)。それによって、6次縞程度の高次の縞まで対応できるようになっているが、構成部品が多いため高価な装置となってしまう問題があった。
【0008】

そこで、本発明は、光源をLED三波長光源とし、撮像素子に一枚のRGB干渉フィルタを取付けることで、安価な装置構成で高次の縞まで測定でき、0次縞などの既知となる絶対縞次数を必要とせず、各点独立して絶対縞次数を精度よく決定でき、同時に得られる主応力方向を利用して応力成分を決定する応力分布測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】

光源を持つ円偏光器(半円偏光器含む)もしくは平面偏光器内の物体像を撮像素子で撮影して得られるカラー位相シフト画像から相対縞次数を算出するものであって、あらかじめ既知の物体による多波長の相対縞次数から絶対縞次数校正曲線を算出しておき、これを参照することによって物体の多波長の相対縞次数から絶対縞次数を決定することにより応力分布を測定する応力分布測定装置であって、光源を三波長のLED光源とし、撮像素子前に一枚のRGB干渉フィルタを取付け、絶対縞次数算出の際に適用縞次数上限を決定するマスク演算を行うことを特徴とする応力分布測定装置とした。
【発明の効果】
【0010】

本発明によれば、光源をLED三波長光源とし、撮像素子に一枚のRGB干渉フィルタを取付けることで、安価な装置構成で高次の縞まで測定でき、0次縞などの既知となる絶対縞次数を必要とせず、絶対縞次数を各点独立して決定することが可能となる。その結果、精度よく応力成分を決定できる応力分布測定装置を安価で提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のカラー位相シフト光弾性法における絶対縞次数の決定方法と、安価な光源と一枚のフィルタを利用することで高次縞まで解析可能とする方法および応力分布測定装置実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1に、本発明の応力分布測定装置の構成図を示す。応力分布測定装置は、光源部1と、拡散板2と、偏光子3と、検光子5と、フィルタ6と、撮像素子7と、制御信号処理部8、と入力部9と、表示部10などで構成する。試料4は、偏光子3と、検光子5との間に配置する。
【0013】

光源部1は、多波長光を構成するためにRed、Green、BlueのLEDと、一枚でRed、Green、Blueの干渉フィルタの機能を有するRGB干渉フィルタを使用する。本実施形態では、複数枚のカラー位相シフト画像の光強度から各波長の相対縞次数を求めて、それらをもとに絶対縞次数を決定するため、光源部1の出射光は同じ点で輝度が時間変動しないように安定化されていて、強度レベルをそろえるために、各波長独立に調整できるものを使用する。
【0014】

拡散板2は、光源部1の出射光を拡散し、輝度むらを低減する機能を持つ。
【0015】

偏光子3と、検光子5にて平面偏光器が構成され、この間に試料4を置いて光を透過させれば、等色線縞と等傾線縞が重なった状態のカラー光弾性縞が得られる。
【0016】

フィルタ6は、一枚でRed、Green、Blueの干渉フィルタの機能を有するRGB干渉フィルタを使用する。カラーCCDカメラやカラーCMOSカメラの前に取付けることで、Red、Green、Blueの波長クロストークの影響を低減する機能を持つ。その相対スペクトル応答の模式図を図2に示す。
【0017】

撮像素子7は、カラーCCDカメラやカラーCMOSカメラなどで構成され、上記で得られるカラー光弾性縞の輝度分布をデジタル信号に変換する機能を持つ。
【0018】

制御/信号処理部8は、パーソナルコンピュータなどで構成され、偏光子3と、検光子5を指定角度に回転させながら、撮像素子6にて撮像するタイミングなどを制御し、得られたカラー位相シフト画像のデジタル信号をメモリに記憶して、その信号から試料4の三つの波長の相対縞次数と主応力方向を演算で求め、さらに、絶対縞次数校正曲線を参照して、演算することにより絶対縞次数を各点独立して決定する。これにより、試料4の応力成分も測定可能となる。
【0019】

入力部9は、キーボードやポインティングデバイスなどで構成され、使用者が制御/信号処理部8へデータやコマンドを入力するために使用する。
【0020】

表示部10は、ディスプレイやプリンタなどで構成され、制御/信号処理部8からの演算結果などを使用者に表示する。
【0021】

本実施形態では、Red、Green、Blueの三つの波長を利用するカラー位相シフト光弾性法を採用している。この方法は、三つの波長それぞれの相対縞次数(0〜0.5次もしくは、0〜0.25次もしくは、0〜1.0次)と主応力方向が得られる。このような位相シフト光弾性法は、光弾性の分野で一般的によく使用されている方法のため、ここでは記述しない。
【0022】

次に、本発明の原理について詳しく説明する。まず校正曲線決定のため、図1の構成にて既知の物体の例として四点曲げ負荷を受ける梁の実験をおこない、カラー位相シフト光弾性法により得られるRed, Green, Blueの三つの波長の相対縞次数を得る。その縞の例を図3に示す。(a)はRedの相対縞次数を示す画像であり、(b)はGreenの相対縞次数を示す画像であり、(c)はBlueの相対縞次数を示す画像である。黒色は0次、白色は0.5次に相当し、これらの中間色はグレーで表示している。
【0023】

この四点曲げ負荷を受ける梁の場合は、中央垂直断面の絶対縞次数は梁中央の黒色部から上下方向に向かって直線的に増加して上下端で最大値をとる。図3の中央垂直断面の中央の黒色部0次縞から、上方向のRed、Green、Blueの相対縞次数と、絶対縞次数との関係から作成できる絶対縞次数校正曲線を図4に示す。これは、絶対縞次数が6次縞までの例である。
【0024】

この絶対縞次数校正曲線を作成し、制御信号処理部のメモリに保存しておけば、以下の関係式のEが最小となる相対縞次数の組み合わせを見つけることにより、各点独立して絶対縞次数を決定できる。

E = Wr(Rc−Re)^2 + Wg(Gc−Ge)^2 + Wb(Bc−Be)^2

ここで、Rc、Gc、Bcは、上記、梁の実験により得られる絶対縞次数校正曲線のRed、Green、Blueの相対縞次数であり、Re、Ge、Beは、解析したい試料の実験から得られるRed、Green、Blueの相対縞次数であり、Wr、Wg、Wbは、Red、Green、Blueの比率の重みづけをおこなう係数である。
【0025】

なお、本発明の絶対縞次数決定方法は、逆正接関数(ノコギリ波状分布)もしくは逆余弦関数(三角波状分布)で得られる縞次数どちらでも適用可能である。よって、使用する偏光器が円偏光器、半円偏光器、平面偏光器であっても対応できる。
【0026】

次に、上下対向集中圧縮荷重を受ける円板の場合の縞画像例を示す。図5の(a)はRedの相対縞次数を示す画像であり、(b)はGreenの相対縞次数を示す画像であり、(c)はBlueの相対縞次数を示す画像である。黒色は0次、白色は0.5次に相当し、これらの中間色はグレーで表示している。
【0027】

図7(a)に、図4の絶対縞次数校正曲線と上述の式により決定した絶対縞次数画像の例を示す。黒色は0次、白色は6次に相当し、これらの中間色はグレーで表示している。画像中の低次縞領域に高次の縞が割当てられており、決定誤差があることがわかる。
【0028】

これは、低次縞と高次縞で縞の勾配、密集度が異なることから、絶対縞次数校正曲線における相対縞次数の比率が近い点が出てくるためである。
【0029】

それを回避するために、低次縞と高次縞で絶対縞次数校正曲線の使用範囲を使い分けることとし、解析したい試料の縞の勾配、密集度が高い箇所を抽出して、マスク画像を作成する。
【0030】

そのマスク領域の抽出は、低次縞中に高次縞の孤立点が出ない絶対縞次数校正曲線の上限値を探すために、0〜1次、0〜2次縞と、校正曲線の範囲を変えながら、絶対縞次数を算出する。この例では、校正曲線の上限を4次未満とすれば、低次縞領域に高次縞の孤立点が少なくなるため、上限4次未満までの領域を黒色、それ以外の領域を白色で2値化した。その画像を図6に示す。この前処理は、縞の勾配画像を求めて、適切なしきい値で2値化してもよい。なお、これらの前処理は、自動的に実施できる。
【0031】
マスク画像の黒色部を低次縞候補領域、白色部を高次縞候補領域とし、図6のマスク画像の黒色部は0〜4次未満までの絶対縞次数校正曲線を使用し、図6のマスク画像の白色部は0〜6次までの絶対縞次数校正曲線を使用して各点独立して決定した絶対縞次数の例を図7(b)に示す。黒色は0次、白色は6次に相当し、これらの中間色はグレーで表示している。マスク処理をおこなうことにより6次の高次縞まで絶対縞次数を安定して決定できている例である。
【0032】

図8に主応力方向を示す。黒色は0°、白色は45°に相当し、これらの中間色はグレーで表示している。
【0033】

図9に発明した絶対縞次数決定法により得られた絶対縞次数と、それと同時に得られる主応力方向に、せん断応力差積分法を適用して得られた応力成分の分布例を示す。これは円板の半径をRとして、y=0.5Rの線に沿った分布である。理論値は円板の弾性論から得られる値である。この例から、本発明により応力成分を安定して決定できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、複屈折物体内の絶対縞次数を安定的に決定でき、それらの結果から応力成分を精度よく決定できる。また、光源をLED三波長光源と一枚のRGB干渉フィルタの組合せとすることで、安価な応力分布測定装置を提供できる点で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施例における応力分布測定装置の構成図である。
図2】LED三波長光源と、RGB干渉フィルタと、撮像素子のRed、Green、Blueの内部フィルタの相対スペクトル応答の模式図である。
図3】(a)はRedの相対縞次数を示す画像であり、(b)はGreenの相対縞次数を示す画像であり、(c)はBlueの相対縞次数を示す画像である。
図4図3より作成された絶対縞次数校正曲線である。
図5】(a)はRedの相対縞次数を示す画像であり、(b)はGreenの相対縞次数を示す画像であり、(c)はBlueの相対縞次数を示す画像である。
図6】絶対縞次数が上限4次未満までの領域を黒色、それ以外の領域を白色で2値化して抽出したマスク画像である。
図7】(a)は図5の画像によるマスク処理をおこなわない場合の絶対縞次数を示す画像であり、(b)は図5の画像によるマスク処理をおこなった場合の絶対縞次数を示す画像である。
図8】主応力方向を示す画像である。
図9】応力成分の分布を示す。
【符号の説明】
【0036】
1 光源
2 拡散板
3 偏光子
4 試料
5 検光子

6 フィルタ
7 撮像素子
8 制御/信号処理部

9 入力部

10 表示部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9