(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ハウジング、面板、及びリングギアが環状であり、前記加工装置が被加工物である配管の外径側に固定されるように前記ハウジングがクランプを具える、請求項1から3のいずれかの加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例を
図1〜8を参照して説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1(a),(b)に示されるように、本発明
の参考例としての加工装置100は、ハウジング10、面板20、及び差動装置70を具える。差動装置70は、第一駆動装置であるモータM1、第二駆動装置であるモータM2、及び第三駆動装置であるモータM3を具える(
図5参照。)。差動装置70を介さずに、モータM1〜M3のトルクをそれぞれ、面板20と第一・第二リングギア30,40に伝達させることもできる。しかし、差動装置70を具えた場合、後述するように、モータM1のみの駆動によって面板20と第一・第二リングギア30,40を回転させることができるので好ましい。なお、便宜上、
図1(a)においては、モータM1〜M3の図示を省略しており、
図1(a)(b)のいずれにおいても、工具ホルダ110(
図5参照。)の図示は省略している。モータM1,M2,M3のモータ容量は特に限定されないが、後述するプラネタリキャリア又は環状ギアを回転させるためには、比較的大きなトルクを要しないため、モータM2及びM3はモータM1に比べて小さいモータ容量のものでよい。
【0021】
ハウジング10及び面板20は、図示されているように、環状であり、ハウジング10の径方向対称の位置に設けられる一対のクランプCが配管(パイプ)Pの外周面を挟持することによって、加工装置100は、基本的には、配管Pの外径側に固定される。クランプCは、周知の構造のものを適用すればよいため、これについての説明は省略する。
【0022】
面板20は、ハウジング10に設けられている複数のローラ12によって、ハウジング10に対して回転可能に支持されている。環状の第一リングギア30と第二リングギア40は、面板20の両面に対して、それぞれ、相対回転可能に嵌め込まれている。この構成によれば、第一リングギア30と第二リングギア40のそれぞれを回転可能に支持するためのローラを用意する必要がないため、その分、部品点数を削減できる。なお、面板20の片側に第一・第二リングギア30,40を並べて配置し、例えば、面板20に対して第一リングギア30が相対回転可能に嵌め込まれ、第一リングギア30に対して第二リングギア40が相対回転可能に嵌め込まれているという構成とすることも可能である。
【0023】
後に詳述するが、モータM1のトルクは面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40に伝達され、この状態から、モータM2,M3を駆動し、その回転数と回転方向をコントロールすることで、第一リングギア30又は第二リングギア40の回転数を自在にコントロールすることができる。そして、第一リングギア30が面板20に対して異なる回転数で回転した場合、第一動力伝達出力ギア54が回転し、第二リングギア40が面板20に対して異なる回転数で回転した場合、第二動力伝達出力ギア64が回転する。
【0024】
差動装置70は、モータM1からトルクが伝達されるメインギア72を有する。メインギア72に伝えられたトルクは、メイントルク出力ギア74,75,76,77の順に伝えられる(
図2も参照。)。メイントルク出力ギア77は、面板20の外周に設けられた面板ギア22(
図4(a)参照。)と噛み合っているため、結果として、面板20は、モータM1の駆動により回転する。
【0025】
図2(b)に示すように、メインギア72は、メイントルク出力ギア74(
図1(a)、
図2(a)参照。)の他に、第一サブトルク入力ギア78、第二サブトルク入力ギア79とも噛み合っている。第一サブトルク入力ギア78と第二サブトルク入力ギア79の同軸線上には、それぞれ、第一サブギア82と第二サブギア92が第一サブトルク入力ギア78と第二サブトルク入力ギア79と同速で同回転方向に連動するように設けられている。なお、第一サブギア82と第二サブギア92は、傘歯車である。
【0026】
また、第一サブギア82と第二サブギア92の同軸線上には、それぞれ、第一自由歯車84と第二自由歯車94が回転可能に設けられている。第一自由歯車84と第二自由歯車94は、詳細には、それぞれ、第一入力傘歯車84a、第二入力傘歯車94aと、第一出力平歯車84b、第二出力平歯車94bを具えている。
【0027】
他方で、第一サブギア82と第二サブギア92の同軸線上には、それぞれ、第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93が設けられており、第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93には、第一サブギア82及び第一入力傘歯車84aと噛合う複数の第一プラネタリギア85、並びに第二サブギア92及び第二入力傘歯車94aと噛合う複数の第二プラネタリギア95がそれぞれ回転可能に設けられている。第一・第二プラネタリギア85,95は、単数でも機能するが、複数設けた方が強度等の観点より望ましい。
【0028】
第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93には、それぞれ、第一プラネタリキャリアギア83aと第二プラネタリキャリアギア93aが設けられている。第一プラネタリキャリアギア83aと第二プラネタリキャリアギア93aは、それぞれ、モータM2,M3からトルクが伝達されるM2入力ギア81とM3入力ギア91と噛合っている(
図1(a)も参照。)。これにより、モータM2,M3を駆動すれば、第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93を第一サブギア82又は第二サブギア92の軸を中心に個別に回転させることができる。
【0029】
第一入力傘歯車84aと連動する第一出力平歯車84b(
図3も参照。)に伝えられたトルクは、第一サブトルク出力ギア86,87,88,89の順に伝えられ、第二入力傘歯車94aと連動する第二出力平歯車94b(
図3も参照。)に伝えられたトルクは、第二サブトルク出力ギア96,97,98,99の順に伝えられる。第一サブトルク出力ギア89は、第二リングギア40の外周に設けられた第二外周側ギア42(
図4(a)参照。)と噛み合っており、第二サブトルク出力ギア99は、第一リングギア30の外周に設けられた第一外周側ギア32(
図4(a)参照。)と噛み合っている。
【0030】
上記に説明した差動装置70の構成の要部を簡略に表したものが
図3である。ここで、
図3を参照して、差動装置70の動作、すなわち、各モータM1〜M3から面板20及び一対のリングギア30,40へのトルク伝達の流れを説明する。
【0031】
まず、モータM2及びM3が停止しているとき、第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93に設けられた第一プラネタリキャリアギア83aと第二プラネタリキャリアギア93aは、モータM2,M3からトルクが伝達されるM2入力ギア81とM3入力ギア91と噛合っているため、第一プラネタリキャリア83と第二プラネタリキャリア93は回転不能に固定される。この状態で、モータM1のみを駆動させると、以下のように、矢印A,B,Cからトルクが伝達される。
【0032】
まず、矢印Aに出力されるトルクは、メインギア72から、これと噛合うメイントルク出力ギア74、及び最終的には面板ギア22(
図4(a)参照。)を通じて面板20に伝達される。
【0033】
一方、メインギア72が回転することにより、そのトルクは第一サブトルク入力ギア78にも伝達される。第一サブトルク入力ギア78と第一サブギア82は同速で同回転方向に連動するように設けられているため、第一サブトルク入力ギア78に伝えられたトルクは第一サブギア82に伝達される。第一サブギア82が回転すると、第一プラネタリギア85が自転(それ自体の軸を中心に回転)し、トルクを第一入力傘歯車84aに伝達する。このとき、上記のように、第一プラネタリキャリア83は回転不能に固定されているから、第一プラネタリギア85は公転しない。そして、第一入力傘歯車84aと第一出力平歯車84bは同速で同回転方向に連動するように設けられているため、かくして、矢印Bにトルクが出力される。矢印Cへトルクが出力される原理は、矢印Bの場合と対称であるから、これについての説明は省略する。このようにして、矢印B,Cに出力されるトルクは、最終的に、第一外周側ギア32と第二外周側ギア42を通じて、第一リングギア30と第二リングギア40にそれぞれ伝達される(
図4(a)参照。)。
【0034】
上記のとおり、モータM2及びM3を停止させ、モータM1のみを駆動すると、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40を回転させることができる。このとき、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40が同速で同回転方向に回転するように、ギアの数量及び各ギア比を設定する。第一リングギア30又は第二リングギア40が面板20に対して異なる回転数で回転した場合、後述するように、第一動力伝達出力ギア54又は第二動力伝達出力ギア64が回転し、工具ホルダ110(
図5参照。)がパイプの軸方向又は径方向に移動するからである。
【0035】
モータM2及びM3を停止させ、モータM1のみを駆動した状態から、モータM2又はM3を駆動することにより、下記の通り、第一リングギア30と第二リングギア40を面板20に対して異なる回転数で回転させることができる。なお、モータM2を駆動した場合とモータM3を駆動した場合の動作は、対称なものであるから、モータM2を駆動した場合のみを説明し、モータM3を駆動した場合の動作の説明は省略する。
【0036】
まず、第一プラネタリキャリア83を固定し、モータM1を一定の速度で駆動している状態から、モータM2を駆動して、プラネタリキャリア83を第一サブギア82の回転方向と逆方向に回転させると、第一サブギア82の回転とは相対的に第一プラネタリギア85が公転するため、第一プラネタリギア85の自転の回転数が上がる。これに伴い、第一入力傘歯車84aの回転数も上がり、結果として、第一入力傘歯車84aの回転数は、メインギア72よりも上がる。かくして、面板20の回転数に対して第二リングギア40の回転数を上げることができる。
【0037】
一方、第一プラネタリキャリア83を固定し、モータM1を一定の速度で駆動している状態から、モータM2を駆動して、第一プラネタリキャリア83を第一サブギア82の回転方向と同方向に回転させると、第一サブギア82の回転と同方向に第一プラネタリギア85が公転するため、第一プラネタリギア85の自転の回転数が下がる。これに伴い、第一入力傘歯車84aの回転数も下がるため、結果として、第一入力傘歯車84aの回転数は、メインギア72よりも下がる。かくして、面板20の回転数に対して第二リングギア40の回転数を下げることができる。なお、第一プラネタリキャリア83の同方向への回転数をさらに上げると、第一入力傘歯車84aの回転を停止させ、又は逆転させることも出来る。また、上記では、便宜上、モータM1を一定の速度で駆動している状態について説明したが、モータM1の速度が一定でなくてもいいことは当然である。
【0038】
このように、本発明
の参考例によれば、モータM1を駆動させるだけで、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40を確実に同方向に等速で回転させることができ、この状態からモータM2,M3をコントロールすることにより、第一リングギア30と第二リングギア40の回転数を自由自在にコントロールすることができる。
【0039】
次に、
図4を参照して、第一動力伝達出力ギア54と第二動力伝達出力ギア64が回転する仕組みについて説明する。
【0040】
面板20の表面から露出している第一動力伝達出力ギア54は、
図4(a)に示すとおり、第一動力伝達軸50に設けられている。第一動力伝達軸50は、面板20内部に回転可能に軸支されている。第一動力伝達軸50は、第一リングギア30の内周に設けられた第一内周側ギア34と噛合う第一動力伝達入力ギア52を具えている。
【0041】
第一動力伝達軸50は、面板20に軸支されているため、面板20と第一リングギア30が同方向に等速で回転した場合、面板20及び第一リングギア30の回転軸を中心に回転する。このとき、第一動力伝達軸50は、自転しない。
【0042】
一方、第一リングギア30の回転数が面板20の回転数よりも高い場合、第一内周側ギア34から第一動力伝達入力ギア52を通じて第一動力伝達軸50にトルクが伝達されるため、第一動力伝達軸50は一方向へ自転する。他方、第一リングギア30の回転数が面板20の回転数より低い場合も、第一内周側ギア34から第一動力伝達入力ギア52を通じて第一動力伝達軸50にトルクが伝達されるが、この場合、第一動力伝達軸50は他方向へ自転する。すなわち、動力伝達軸50は、面板20とリングギア40との間に回転数の差が生じたときにいずれかの方向へ自転し、第一動力伝達出力ギア54へトルクを伝達する。
【0043】
面板20の表面から露出している第二動力伝達出力ギア64が回転する仕組みは、基本的に、第一動力伝達出力ギア54の場合と同じである。違いは、第二動力伝達軸60に設けられる第二動力伝達入力ギア62が第二リングギア40の内周に設けられた第二内周側ギア44と噛合っているという点だけであるから、その説明は省略する。
【0044】
次に、
図5乃至7を用いて、加工装置100の工具ホルダ110に係る動作について説明する。工具ホルダ110は、第一のトルク利用手段である軸方向移動機構120に設けられ、軸方向移動機構120は、第二のトルク利用手段である径方向移動機構130に設けられている。なお、以下では、パイプの内側に工具(バイト)114を挿入して、開先加工をするタイプの工具ホルダ110について説明するが、本発明は、当然、パイプの外側から工具を当ててパイプを切断するタイプの工具ホルダにも適用できる。また、工具114がどのようにパイプに当接し、パイプを加工するかは、従来と同様であるから、その説明は省略する。
【0045】
第一動力伝達出力ギア54(
図1(a)参照。)は、径方向移動入力ギア134と噛合うように構成されている。そして、径方向移動入力ギア134に伝達されたトルクは、径方向移動出力ギア135,136,137を通じて、径方向移動用回転軸132に伝達される。
【0046】
一方、第二動力伝達出力ギア64(
図1(a)参照。)は、軸方向移動入力ギア124と噛合うように構成されている。そして、軸方向移動入力ギア124に伝達されたトルクは、軸方向移動出力ギア125,126,127を通じて、第一軸方向移動用回転軸122に伝達される。
【0047】
径方向移動用回転軸132に伝達されたトルクは、
図6に示すように、ねじ送り機構等の直線運動変換機構138によって直線運動に変換される。これにより、直線運動変換機構138に連結されている工具ホルダハウジング112を矢印Xの方向(面板20の径方向)に移動させることができる。ここで、軸方向移動用入力傘歯車129aは、第一軸方向移動用回転軸122上にスプライン嵌合しているため、工具用ハウジング112の移動に合わせて、第一軸方向移動用回転軸122上を移動する。
【0048】
第一軸方向移動用回転軸122に伝達されたトルクは、軸方向移動用入力傘歯車129aに伝達され、
図7に示すように、軸方向移動用入力傘歯車129aと噛合う軸方向移動用出力傘歯車129b、軸方向移動用出力傘歯車129bと連動する軸方向移動用入力平歯車121a、軸方向移動用入力平歯車121aと噛合う軸方向移動用出力平歯車121bを通じて、第二軸方向移動用回転軸123に伝達される。なお、図示は省略しているが、第二軸方向移動用回転軸123は雄ねじを具えている。
【0049】
第二軸方向移動用回転軸123上には、送りナット128aが設けられており、送りナット128aは、第二軸方向移動用回転軸123が回転することによって、第二軸方向移動用回転軸123上をその軸方向に移動する。ここで、送りナット128aは、刃物台116と刃物台116に固定されているナット受け128bに挟まれているため、結果として、第二軸方向移動用回転軸123の回転により、刃物台116がY方向(面板20の軸方向)に進退動する。
【0050】
上記のように、第一動力伝達出力ギア54又は第二動力伝達出力ギア64を回転させることにより、工具ホルダハウジング112と刃物台116を面板20の径方向及び軸方向に移動させることができる。すなわち、モータM2,M3の回転数と回転方向をコントロールすることにより、工具114を面板20の径方向及び軸方向に自在に移動させることができるのであり、かくして、パイプに対する工具114の軸方向と径方向の移動・停止、移動速度、移動距離を自在にコントロールできる。
【0051】
以上、差動装置70がハウジング10の外径側に配設されている構成を説明した。他方、図示しての説明は省略するが、差動装置70をハウジング10の内径側に配設することもできる。この場合、加工装置をパイプの内側に固定するようにして、面板ギア22を面板20の内周に設け、第一・第二自由歯車84,94からのトルクを第一・第二内周側ギア34,44に伝達し、第一・第二外周側ギア32,42から第一・第二動力伝達入力ギア52,62にトルクを伝達するように構成すればよい。
【0052】
図8は、差動装置70に替えて適用することができる本発明の差動装置170の構成の要部を簡略に表したものである。ここでは、便宜上、3つの駆動装置M1〜M3と、一対のサブギア182,192、環状ギア183,193、プラネタリギア185,195、及び自由歯車184,194を具え、3つの対象(矢印A〜C)にトルクを出力する構成の差動装置170を説明する。しかし、差動装置としては、例えば、駆動装置M3と、サブギア192、環状ギア193、プラネタリギア195、及び自由歯車194を有さない、2つの対象(矢印A,B)にトルクを出力する差動装置とすることもでき、逆に、駆動装置とサブギア、環状ギア、プラネタリギア、及び自由歯車を増設して、より多くの対象にトルクを出力する差動装置とすることができる。また、差動装置170は、加工装置以外にも、溶接装置等、多様な装置に使用することができ、これらの装置に用いられるトルク利用手段は、上述した軸方向移動機構120又は径方向移動機構130に限られるものではない。なお、差動装置170を加工装置に適用した場合の構成は、加工装置100の差動装置70以外の構成と同様であるため、差動装置170の構成及び各モータM1〜M3から面板20及び一対のリングギア30,40へのトルク伝達の流れのみを説明する。
【0053】
差動装置170は、モータM1からトルクが伝達されるメインギア172を有する。メインギア172は、メイントルク出力ギア174、第一サブトルク入力ギア178、第二サブトルク入力ギア179と噛合っている。第一サブトルク入力ギア178と第二サブトルク入力ギア179は、それぞれ、第一サブギア182、第二サブギア192と連動するように構成されている。第一サブギア182と第二サブギア192の同軸線上には、それぞれ、第一自由歯車184と第二自由歯車194が回転可能に設けられている。
【0054】
他方で、第一サブギア182と第二サブギア192の同軸線上には、それぞれ、第一環状ギア183と第二環状ギア193が設けられており、第一環状ギア183と第二環状ギア193は、各々、内歯183a、193aと外歯183b、193bを有している。第一環状ギア183の内歯183aと第一サブギア182の間には、内歯183a及び第一サブギア182と噛合う複数の第一プラネタリギア185が設けられ、第二環状ギア193の内歯193aと第二サブギア192の間には、内歯193a及び第一サブギア192と噛合う複数の第二プラネタリギア195がそれぞれ設けられている。第一・第二プラネタリギア185,195は、単数でも機能するが、複数設けた方が強度等の観点より望ましい。このように、差動装置170は、第一・第二サブギア182,192、第一・第二環状ギア183,193、第一・第二プラネタリギア185,195からなる遊星歯車機構を具える構成であるため、差動装置70のような傘歯車機構を使用しているものに比べ、第一・第二サブギア182,192の軸方向にコンパクトな差動装置とすることができる。
【0055】
第一プラネタリギア185と第二プラネタリギア195は、それぞれ、第一自由歯車184と第二自由歯車194に対して回転可能に設けられている。これにより、第一プラネタリギア185と第二プラネタリギア195の公転によるトルクが第一自由歯車184と第二自由歯車194のそれぞれに対して伝達される。
【0056】
第一環状ギア183の外歯183bと第二環状ギア193の外歯193bは、それぞれ、モータM2,M3からトルクが伝達されるM2入力ギア181とM3入力ギア191と噛合っている。これにより、モータM2,M3を駆動すれば、第一環状ギア183と第二環状ギア193を第一サブギア182又は第二サブギア192の軸を中心に個別に回転させることができる。
【0057】
ここで、モータM2及びM3が停止しているとき、第一環状ギア183の外歯183bと第二環状ギア193の外歯193bは、モータM2,M3からトルクが伝達されるM2入力ギア181とM3入力ギア191と噛合っているため、第一環状ギア183と第二環状ギア193は回転不能に固定される。この状態で、モータM1のみを駆動させると、以下のように、矢印A,B,Cからトルクが伝達される。
【0058】
まず、メインギア172のトルクは、メインギア172と噛合うメイントルク出力ギア174から矢印Aに出力される。そして、矢印Aのトルクは、最終的には面板20に伝達される。
【0059】
一方、メインギア172が回転することにより、そのトルクは第一サブトルク入力ギア178にも伝達される。第一サブトルク入力ギア178と第一サブギア182は同速で同回転方向に連動するように設けられているため、第一サブトルク入力ギア178に伝えられたトルクは第一サブギア182に伝達される。第一サブギア182が回転すると、第一プラネタリギア185が自転しながら公転し、その公転によるトルクを第一自由歯車184に伝達する。かくして、矢印Bにトルクが出力される。矢印Cへトルクが出力される原理は、矢印Bの場合と対称であるから、これについての説明は省略する。このようにして、矢印B,Cに出力されるトルクは、最終的に、第一外周側ギア32と第二外周側ギア42を通じて、第一リングギア30と第二リングギア40にそれぞれ伝達される(
図4(a)参照。)。
【0060】
上記のとおり、差動装置170によっても、モータM2及びM3を停止させ、モータM1のみを駆動すると、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40を回転させることができる。一方で、差動装置170の場合、第一・第二自由歯車184,194には、第一・第二プラネタリギア185,195の公転のトルクが伝達されるので、メインギア172からのトルクが減速されて伝達されることになる。よって、従来に比べて小型の駆動装置(モータM1)で十分な容量のトルクを第一・第二自由歯車184,194から取出すことができる。ここで、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40が同速で同回転方向に回転するように、ギアの数量及び各ギア比を設定すれば、メインギア172からのトルクを減速し、且つ等速のトルクをメイントルク出力ギア174と第一・第二自由歯車184,194から取出すことができる。
【0061】
また、モータM2及びM3を停止させ、モータM1のみを駆動した状態から、モータM2又はM3を駆動することにより、下記の通り、第一リングギア30と第二リングギア40を面板20に対して異なる回転数で回転させることができる。なお、モータM2を駆動した場合とモータM3を駆動した場合の動作は、対称なものであるから、モータM2を駆動した場合のみを説明し、モータM3を駆動した場合の動作の説明は省略する。
【0062】
まず、第一環状ギア183を固定し、モータM1を一定の速度で駆動している状態から、モータM2を駆動して、第一環状ギア183を第一サブギア182の回転方向と逆方向に回転させると、第一環状ギア183の回転は、第一プラネタリギア185をそれまでとは逆方向に公転させようと作用するため、第一プラネタリギア185の公転の回転数を下げる。これに伴い、第一自由歯車184の回転数も下がり、結果として、第一自由歯車184の回転数は、メインギア172よりも下がる。かくして、面板20の回転数に対して第一リングギア30の回転数を下げることができる。
【0063】
一方、第一環状ギア183を固定し、モータM1を一定の速度で駆動している状態から、モータM2を駆動して、第一環状ギア183を第一サブギア182の回転方向と同方向に回転させると、第一環状ギア183の回転は、第一プラネタリギア185をそれまでと同方向に公転させようと作用するため、第一プラネタリギア185の公転の回転数を上げる。これに伴い、第一自由歯車184の回転数も上がり、結果として、第一自由歯車184の回転数は、メインギア172よりも上がる。かくして、面板20の回転数に対して第一リングギア30の回転数を上げることができる。なお、上記では、便宜上、モータM1を一定の速度で駆動している状態について説明したが、モータM1の速度が一定でなくてもいいことは当然である。
【0064】
このように、差動装置170によっても、モータM1を駆動させるだけで、面板20、第一リングギア30、及び第二リングギア40を確実に同方向に等速で回転させることができ、この状態からモータM2,M3をコントロールすることにより、第一リングギア30と第二リングギア40の回転数を自由自在にコントロールすることができる。
【0065】
上記に説明したとおり、本発明の遊星歯車機構を具えた差動装置によれば、従来に比べて小型の駆動装置で十分な容量のトルクを自由歯車から取出すことができ、且つ、コンパクトな差動装置であって、一つの駆動装置を駆動したときに、メインギアと自由歯車の2箇所からトルクを取出すことができ、この状態から他の駆動装置を駆動すれば、自由歯車の回転数を自在にコントロールすることができる差動装置とすることができる。また、当該差動装置を具える加工装置とすれば、従来に比べてコンパクトで、且つ、小型の駆動装置を使用した加工装置とすることができる。
【解決手段】差動装置170は、サブギア182、環状ギア183、プラネタリギア185からなる遊星歯車機構を具える構成であるため、傘歯車機構を使用している差動装置に比べてコンパクトである。自由歯車184には、プラネタリギア185の公転のトルクが伝達されるため、メインギア172からのトルクが減速されて伝達されるので、従来に比べて小型の駆動装置で十分な容量のトルクを自由歯車184から取出すことができる。差動装置170は、加工装置100に適用することもできる。