特許第5966212号(P5966212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5966212浮遊電極の一部がガス流路内部に面している誘導結合型マイクロプラズマ源およびこれを使用した装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966212
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】浮遊電極の一部がガス流路内部に面している誘導結合型マイクロプラズマ源およびこれを使用した装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20160728BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   H05H1/24
   H05H1/46 L
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-23681(P2012-23681)
(22)【出願日】2012年2月7日
(65)【公開番号】特開2013-161694(P2013-161694A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年11月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、文部科学省知的クラスター創成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100066924
【弁理士】
【氏名又は名称】小沢 信助
(72)【発明者】
【氏名】佐々木実
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−249289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 −16/56
C23F 1/00 − 4/04
H01L 21/203 −21/205
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/363 −21/365
H01L 21/461
H01L 21/469
H01L 21/86
H05H 1/00 − 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに高周波電流が流れることにより点灯するマイクロプラズマ源において、
浮遊電極をその一部がガス流路内部に面しているように配置することによりガス流路内部にプラズマが発生することを特徴とする誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導結合型マイクロプラズマ源において、
浮遊電極の一部がガス流路内部に面しており、他の部分はガス流路外部において、誘電率が放電ガスより高い材料に近接していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項3】
請求項1に記載の誘導結合型マイクロプラズマ源において、
浮遊電極の一部がガス流路内部に面しており、当該浮遊電極のガスと面する箇所からガス流路中にギャップをおいてさらに別の1つ以上の浮遊電極がガスに面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載されたマイクロプラズマ源を利用した、光源、表面処理、ドーピング、膜堆積、又はエッチングのいずれかに用いる装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導結合型マイクロプラズマ源の、小型化・マイクロデバイス化、点火促進、省電力化に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ領域サイズの一部もしくは全てがcmを下回る、マイクロプラズマ源には、多くの種類が報告されている。圧力が高くなるため、小さなサイズでもプラズマ生成に有利となる。中でも大気圧プラズマは、真空チャンバーが不要になることから、省エネルギーや低コストものづくりに適する。容量結合型に比べて、誘導結合型プラズマは、プラズマ密度がより高くできるため有望である。
しかし、プラズマ点火や点灯が困難である問題があった。イグナイター機構を追加することは、専用電源を新たに用意すること、電極製作、電極と電源間の結線を必要とする。プラズマ源の小型化・マイクロデバイス化をも阻害する。
誘導結合型マイクロプラズマ点火のために、誘導結合型プラズマ発生用コイル電極以外の電極と、付随する機構をプラズマ源に追加する技術は、例えば特許文献1から5、非特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1および2では、微小サイズ金属ドットの材料供給源のために金属ワイヤー(タングステンと鉄を例示)がキャピラリー内に導入されている。この金属ワイヤーを高周波誘導加熱した上で、接続しておいたイグナイターを一瞬作動することで、ワイヤー先端と誘導結合型プラズマ発生用コイル電極間に高電圧を印加して放電させ、誘導結合型マイクロプラズマを点灯することが開示されている。
特許文献3では、誘導結合型マイクロプラズマ点灯のために、絶縁体チューブ内外に誘電体バリア放電発生用の電極を追加して具備することを開示している。
特許文献4では、図示は無いものの、装置制御部に、ガス供給手段、高周波電源、及びプラズマ点火手段があることを、言及している。少なくとも出願人が手がけた一部の装置では、圧電素子を利用したガスコンロ点火装置と同等の機構が組み合わされている。
特許文献5では、プラズマを維持する低電圧大電流を加える電極に加えて、プラズマを始動する高電圧小電流を加える電極(ワイヤー形状ではなく、円筒形状)を利用するプラズマ生成方法を開示している。
非特許文献1の著者の一人は、特許文献1および2の発明者に含まれている。本質的には同じであるが、タングステン線が通常グランド電位に接続されていること、熱電子の発生を促すこと、プラズマ点火には約15kVの直流電圧を0.5秒加えることを説明している。以上のいずれも、追加した電極構造には結線と、点火用の高電圧電源が必要である。
【0004】
非特許文献2では、2つのタングステン針を、ギャップ2.5mmを介して向かい合わせ、片方を浮遊電極とするマイクロプラズマ用の電極構造を示している。48kHzで4kV程度の電圧を加えている。
非特許文献3では、サイズ数100μm程度のシリコンデバイスによるマイクロプラズマを示している。基板平面には、7.5kHzで260V程度のプラス・マイナス両極性のパルス電圧が印加される、ロの字形ニッケル電極の中心部に、100μm角または50μm角の浮遊電極を用意することで、ネオンガスの放電が促進されることを言及している。以上2つのいずれも、誘導結合型マイクロプラズマ源ではない。
特許文献6は、発明者が申請したものである。ガス流路内部に、浮遊電極を置くことを前提とする。このため、浮遊電極のデザインが、ガス流路のデザインに依存する。非特許文献4は、発明者らの学術論文であり、浮遊電極をガス流路内に配置したU字形の平板型コイルによって励起する誘導結合型マイクロプラズマ源である。幅2mm、長さ40mm、深さ1.2mmの溝に、アルミやタングステンなどの金属線を配置している。ガス流路である溝内に配置するために、形状、長さ、向きに制約がある。
【0005】
【特許文献1】「微小なドット又はラインを備えた低融点基板、マイクロプラズマによる堆積方法及び同装置」公表番号 : 特許公開2005−262111公開日:2005年9月29日出願人 : 独立行政法人 産業技術総合研究所
【特許文献2】「微小なラインを備えた基板」公表番号 : 特許公開2008−306209公開日: 2008年12月18日出願人 : 独立行政法人 産業技術総合研究所
【特許文献3】「プラズマ発生装置」公表番号 : 特許公開2008−198583公開日: 2008年8月28日出願人 : 寺嶋和夫
【特許文献4】「マイクロプラズマジェット制御方法及び装置」公表番号 : 特許公開2007−213821公開日: 2007年8月23日出願人 : 松下電器産業株式会社
【特許文献5】「プラズマ発生装置及びプラズマ生成方法」公表番号 : 特許公開2009−289432、公開日: 2009年12月10日出願人 : 国立大学法人 東京工業大学
【特許文献6】「浮遊電極を持つ誘導結合型マイクロプラズマ源」公表番号:特開2011−249289公開日:平成23年12月8日出願人:学校法人 トヨタ学園豊田工業大学
【非特許文献1】"Thermoelectron-enhancedmicrometer-scale plasma generation", T. Ito, K. Terashima, Applied Physics Letters,Vol. 80, No. 15 (2002) 2648-2650.
【非特許文献2】“A simple cold Ar plasma jetgenerated with a floating electrode at atmospheric pressure", Q.-Y. Nie,C.-S. Ren, D.-Z. Wang, J.-L. Zhang, Applied Physics Letters, Vol. 93 (2008)011503.
【非特許文献3】"Mode Change Observed onSpatial Distribution of Microplasma Emission in a Microdischarge Cell with aFloating Electrode", D.-S. Lee, O. Sakai, K. Tachibana, Japanese Journalof Applied Physics, Vol. 48 (2009) 106002.
【非特許文献4】"Novel Atmospheric PressureInductively Coupled Micro Plasma Source Using Floating Wire Electrode", S.Kumagai, H. Matsuyama, Y. Yokoyama, M. Hori, M. Sasaki, Japanese Journal ofApplied Physics, Vol. 50 (2011) 08JA02.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘導結合型マイクロプラズマは、高密度プラズマを発生できる。しかし、プラズマ点火が難しい問題があった。イグナイター機構を追加する方法が知られているが、専用電源を新たに用意すること、追加の電極製作、電極と電源間の結線を必要とする。これらは、プラズマ源の小型化・マイクロデバイス化を阻害する。
この問題を解決するために、発明者は浮遊電極をガス流路内部に配置することで、点火用の電源を追加することなく、点火を容易にする方法を、先に特許申請した。
しかしながら、ガス流路内部に電極を配置することは、浮遊電極のデザインが、ガス流路のデザインに依存することを意味する。プラズマ源に適切な流路と電極デザインは異なるため、必ずしも互いに最適なものとならない課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、浮遊電極の一部がガス流路内部に面している誘導結合型マイクロプラズマ源を実現することにより課題を解決したものである。
本発明によれば、浮遊電極を利用するが、その一部のみをガス流路内部に面することで、誘導結合型マイクロプラズマ源が得られる。
マイクロプラズマの励起に誘導結合を利用しているため、特別の結線を施すことなく、浮遊電極にエネルギーを供給し、点火を促進できる。浮遊電極の一部のみが電離し易いガスに面しているため、点火する点は限られるが、電極配置によって点火する位置は決まってくるため、プラズマ源のデザインに組み込むことができる。
これにより、ガス流路と浮遊電極を、各々最適にデザインできる。例えば、ガス流路とは独立に、浮遊電極の長さや向きをデザインできる。電極が長いほど点火電力を下げることができ、向きは光源応用の場合には出射光取り出しの設計に関係する。プラズマ発光であるため、自己吸収を避けるための適切な方向がある。
【0008】
また本発明によれば、浮遊電極の一部がガス流路内部に面しており、他の部分はガス流路外部において誘電率の高い材料に近接していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源が得られる。
マイクロプラズマ用途には100MHz程度の高周波電源が利用されるため、波長は3m程度である。マイクロプラズマの構造は通常cmを下回るため、波長よりも十分小さい。浮遊電極が大きくなる程、アンテナと同様、電磁界を受ける効果が得られるため、プラズマ点火に有利となる。浮遊電極が、ガス流路外部において誘電率の高い材料に近接することは、電磁界に対して、実際の寸法よりも長くなる効果を持つ。すなわち、プラズマ源のサイズを小さく維持しつつ点火し易くする効果を得ることができる。
【0009】
また本発明によれば、浮遊電極の一部がガス流路内部に面しており、さらに別の1つ以上の浮遊電極があることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源が得られる。浮遊電極が1つの場合は、電極端とその周囲の電位の間で高電界が得られることにより、プラズマ点火を促していた。2つ以上の浮遊電極を用意すると、サイズやレイアウトにより、互いの電極端においてプラスとマイナスの異符号の電位を形成できる。電極間距離を短くデザインすることが可能であるため、高電界を形成する効果を高めることができる。
また本発明によれば、浮遊電極の一部がガス流路内部に面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用した、光源、分光システム、表面処理、ドーピング、膜堆積、エッチングなどの装置が実現できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型で点火が容易な、誘導結合型マイクロプラズマ源が実現できる。
より低パワーでプラズマ点火すると、更にパワーを上げた際にも、プラズマが成長してより低パワーで明るいプラズマが形成される。高密度化の促進や、エネルギー効率向上が期待される。浮遊電極のデザインと、ガス流路のデザインが互いに依存する程度を減らし、互いにプラズマ点火や点灯に適切なものにできる。安定したプラズマ源となる。より大きな装置内の部品としてプラズマ源を応用する際には、重要な性能である。誘導結合型マイクロプラズマ源を利用した装置の、小型化・マイクロデバイス化、高機能化、信頼性向上、省エネルギー化の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図は例示であり、プラズマ源を構成する、電極やガス流路の材料、形状、配置などは限定されるものではない。
図1は本発明の実施の形態による、浮遊電極の一部がガス流路内部に面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の一実施例の概略図である。
図1において、1はプラズマ領域である。2は浮遊電極である。浮遊電極2は基本的に三角形状をしており、尖った角から僅かに線が伸びて、ガス流路内に面している。点火はこの電極のガス流路に面した端部の周辺で発生する。3は別の浮遊電極(サブ電極)である。4は浮遊電極に近接した誘電率の高い材料である。この誘電率が大きくなるほど、浮遊電極2の電磁気的作用は、実寸よりも長くなる。
【0012】
5は螺旋状のパイプからなる誘導結合型プラズマ発生用コイル電極である。
図1の例では、3の別の浮遊電極はガス流路内に配置し、2の浮遊電極よりも小さく、向きも直交している。
プラズマ点火の際には、電磁誘導を介して、浮遊電極2や別の浮遊電極3にエネルギーを供給する。
6はガス流路であり、ガスの流れ7を形成する。この例では、円筒ガラス細管を利用している。
8は高周波電源である。大気圧プラズマでは、流路壁へのガス衝突によるエネルギーのロスが少なくなるよう、100MHzを代表とするVHF帯の周波数が利用されることが多い。
【0013】
図1の実施例では、誘導結合型プラズマ発生用スパイラルコイル5は螺旋状のパイプにより形成し、ガス流路6は円筒のガラス細管により形成してある。
浮遊電極2は、ガス流路6の円筒のガラス細管をつなぎ合わせている隙間に、浮遊電極2を挟み込み、一部がガス流路内部に面している構成としている。
スパイラルコイル5で発生した磁場が、浮遊電極2と電磁気的に作用する。浮遊電極2の形状は、鋭角三角形の先に、僅かに線が伸びたものである。この浮遊電極は、ガス流路外部において誘電率の高い材料(例えば、ポリイミド)でカバーされている。このため、実際の寸法よりも、誘電率分だけ大きな電極サイズと同じ、電磁場を受ける働きを持つ。
また、別のサイズがより小さな浮遊電極(サブ電極)3が流路内6に配置されている。
【0014】
図1の実施例では、浮遊電極(サブ電極)3をガスが流れる上流側に配置した例である。浮遊電極2と浮遊電極(サブ電極)3の浮遊電極間のギャップが小さいため、高電界を形成することができる。これにより、プラズマ点火の効果をより高めることができる。ガス流路7を形成するガラス管6は、スパイラルコイル5に対して直交した配置になっているが通常の直線状の管で構成するための便宜であり、プラズマが形成される領域以外は任意の管形状でもプラズマ点火の効果は同じである。
マイクロプラズマの励起に誘導結合を利用しているため、特別の結線を施すことなく、浮遊電極にエネルギーを供給し、点火を促進できる。
浮遊電極の一部のみが電離し易いガスに面しているため、点火する点は限られるが、電極配置によって点火する位置は決まってくるため、プラズマ源のデザインに組み込むことができる。これにより、ガス流路と浮遊電極を、各々最適にデザインできる。プラズマ源の小型化・マイクロデバイス化、点火を容易にすると同時に、より省電力でプラズマを発生させる効果の更なる促進を実現する。
【0015】
図2は本発明の実施の形態による、浮遊電極の一部がガス流路内部に面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の他の実施例の概略図である。
図2において、1はプラズマ領域である。2は浮遊電極である。3は別の浮遊電極(サブ電極)である。この電極を加えるかは、目的による。この例では、3の浮遊電極は2の浮遊電極よりも小さく、向きも直交している。
2と3が互いに向かい合う先端は、電界強度を得るために、尖った形状にしている。点火は電極2、3のガス流路に面した部分の周辺で発生する。4は浮遊電極に近接した誘電率の高い材料である。例えば、マイクロデバイスを形成する基板材料である、シリコンでも良い。5は螺旋状のパイプからなる誘導結合型プラズマ発生用コイル電極である。プラズマ点火の際には、電磁誘導を介して、2や3の浮遊電極にエネルギーを供給する。6は流路であり、ガスの流れ7を形成する。この例では、微細加工によって製作したトレンチ構造を利用している。実際にはトレンチにカバーを付けて流路とするが、分かり易さのために図示していない。8は高周波電源である。
【0016】
誘導結合型プラズマ発生用スパイラルコイルは螺旋状のパイプ、ガス流路はマイクロ溝加工により製作した流路により形成
した例である。例えば、シリコン微細加工により蛇行した流路の形成が可能である。浮遊電極の形状は、鋭角三角形である。この浮遊電極は、ガス流路外部において誘電率の高い材料(例えば、シリコン)上にあるため、実際の寸法よりも、誘電率分だけ大きな電極サイズと同じ、電磁場を受ける働きを持つ。また、別の浮遊電極(サイズがより小さなサブ電極)が流路内に配置されている。この図では、ガスが流れる上流側に配置した例である。上記2つの浮遊電極間のギャップが小さいため、高電界を形成することができる。これにより、プラズマ点火の効果をより高めることができる。
【0017】
図3図1の実施例の浮遊電極の働きを等価回路モデルによって表したものである。誘導結合型プラズマ発生用スパイラルコイル5から発生する高周波の磁場を受け、浮遊電極2中に起電力が発生する。この作用は、コイル5と浮遊電極2との間に存在する相互インダクタンスMによって表すことができる。浮遊電極には様々な導電性材料が利用できる。直線状の浮遊電極の両端aおよびbにおいて周囲のグランド電位とそれぞれ結合していると考えることができる。これはキャパシタンスCaおよびCbで表すことができる。従って、浮遊電極2は、グランド電位−キャパシタンスCa−浮遊電極自体のインダクタンスL2−浮遊電極自体の内部抵抗R2−キャパシタンスCb−グランド電位、からなる直列回路を形成する。これに起電力が働き、回路中に電流が流れる。電流が、上記直列回路を通りながら、各素子のインピーダンスに応じた電圧を発生する。
【0018】
各素子のインピーダンス絶対値を図2の実施例の針金の場合を想定して見積もる。
周波数100MHz、全長22mmの条件で見積もると、内部抵抗R2が0.04Ω、インダクタンスL2によるインピーダンスが6Ω、キャパシタンスCaおよびCbによるインピーダンスが各々300kΩとなる。インダクタンスは相互作用する外部電極が中心から真空相当の距離で0.5mm離れた位置にあり、キャパシタンスは無限遠にあると近似した。グランド電位領域とのギャップ長があるため、キャパシタンスは小さくなる。従って、周波数が100MHzであってもインピーダンス絶対値は大きい。直列回路を形成しているため、各素子に流れる電流は同じであり、上記インピーダンスの大きな値を持つ素子の間で、電位差および電界が大きくなる。上記インピーダンス値の精度は、オーダの見積もり程度であるが、インダクタンスとキャパシタンスによるインピーダンスで大きさが5桁異なる。キャパシタンスによるインピーダンスが支配的となる条件は広く成立する。これはaまたはb点の電位が周辺電位と比べて大きく異なることを意味し、これによる電界によって浮遊電極の端から点火することと符合する。キャパシタンスCaおよびCbの値は、形状やレイアウトによって、その値を調節でき、線状の浮遊電極端の片方に、より電界を集中させることも可能であり、デザインできる。
以上の結果として、浮遊電極によって、ガス流路内に効率的に電界を集中させることができる。この電界がプラズマ点火を促進する。なお、浮遊電極1とキャパシタンスを介して結合しえるのは、グランド電位のみではなく、別の電位を持つコイル電極3も考えられる。この場合には、電圧は結合部分との中間の値を取るため、その領域の電圧勾配である電界が抑えられる形となり、必ずしも点火に有利とはならない。
【0019】
図4は、図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して、いくつかの浮遊電極を利用した際の点火電力を示すグラフである。
ヘリウムガス流量は0.5L/分、ガラス細管の内径は1mm、外径は1.5mm、スパイラルコイルとガラス細管中心間距離は2mm以下に近づけた。スパイラルコイルは100MHz電源と、インピーダンスマッチングボックスを介して接続されている。図の横軸には浮遊電極の長さLを、縦軸には点火電力をとった。浮遊電極の形状は、挿入図にあるように鋭角三角形とし、その頂角θと、長さLの取り方を示す。浮遊電極は銅箔(厚さ0.1mm)を手作業で切り、先端の銅線はハンダ付けして製作しているので、構造にはある程度のばらつきがある。まず全体的な傾向として、電極長さLが短くなる(すなわち小型化を進める)と、点火電力が上がる。×印で示すθ=3.9°の電極は、図の範囲において、幅が3mm以下になるが、全体的に点火電力が高い。製作時の反りも含めてパワー損失の大きな構造になったと考えられる。
【0020】
他のθの値を持つ電極は、単独の銅線も含めて類似している。ただし、長さL=5mmのデータは有意な差を示しており、○印で示すθ=11.7°の三角形状が点火に有利と判断される。・印で示すwireは直径0.1mmの銅線を、三角形の浮遊電極と同様に、一部のみガス流路内部に面して配置したときの値である。なお、長さL=22mmでの1点のみであるが、ガラス細管をスパイラルコイルに通した上で、直径0.1mmの銅線からなる浮遊電極をガス流路内に配置した際の点火電力を+印で示す(特許文献6で示した構成に該当)。僅かではあるが、点火の低電力化が得られた。ガス流路と浮遊電極を、各々最適にデザインできることは、プラズマ源を小型化・マイクロデバイス化する際には重要であることが分かる。
【0021】
図5は、 図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して、いくつかの浮遊電極、および別の浮遊電極(サブ電極)を組み合わせた際の点火電力を示すグラフである。
ヘリウムガス流量は0.5L/分である。ガラス細管の外に出ている浮遊電極部分は、ポリイミドテープでカバーした。実験のばらつき幅を確認するために、3回同じ実験を行った。(a)は模式図に示すように、長さL=22mm、幅w=9mm(θ=23.1°)の三角形状をもつ浮遊電極における例である。グラフの横軸は、別の浮遊電極(サブ電極)の違いを表す。「なし」はサブ電極が無い場合、「上流」は流路の上流側に直径0.1mm、長さ5mmの銅線をガラス細管内に置いた場合、「下流」は流路の下流側に直径0.1mm、長さ5mmの銅線をガラス細管内に置いた場合、「上下流は」流路の上下流に直径0.1mm、長さ5mmの銅線2本をガラス細管に置いた場合を表す。
浮遊電極間どうしは、接触しない程度にできるだけ近づけた。
【0022】
(b)は模式図に示すように、全長L=44mmであるが、半分は角度θ=23.1°で広がり、もう半分は幅w=9mmで一定の五角形状をもつ浮遊電極における例である。(c)は模式図に示すように、長さL=44mm、幅w=9mm(θ=11.7°)の三角形状をもつ浮遊電極における例である。
いずれの浮遊電極形状のデータにも、ばらつきはあるが、別の浮遊電極(サブ電極)を組み合わせることで、点火電力が低下する傾向が見られる。点火電力が小さいと、その後入力パワーを高くした際にも、目視でより明るくなることが観察される。(b)の場合で、ガラス管を接続しているポリイミドテープが焼けて煙が出始めるパワーが、「なし」の場合で90W、「上流」の場合で50Wであった。入力パワーが効率良くプラズマに伝わっていることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
プラズマ領域の一部もしくは全てがcmを下回る、マイクロプラズマ源には、多くの種類が報告されている。圧力が高くなると、小さなサイズでもプラズマ生成に有利となる。圧力に応じた、高密度なプラズマを形成できる。中でも大気圧プラズマは、低圧プラズマで必須であった真空チャンバーが不要になることから装置が簡単で安価になり、真空引きが要らないことからプロセス時間が短くできる。光源応用は点状のプラズマで良いことが多く、分光システムに利用できる。プラズマ源をアレイ化すれば、線状や面状に形成できる。プラズマ源の走査機構と組み合わせることでも、表面処理、ドーピング、膜堆積、エッチングなどに応用できる。
活性種は多くあるが、ガス温度が高くなっていない非平衡プラズマが得られるため、プラスチックやフィルム材など様々な材料に、高密度プラズマ処理ができる。様々なプラズマ発生方式の中でも、誘導結合型プラズマは、高密度化に有利である。実験結果から、プラズマ点火が、低電力において開始できると、プラズマ領域がある範囲に広がったり、ある明るさに到達したりするまでの電力も小さくできる。低コスト、省エネルギーものづくりに適する性質を持つ。良質なプラズマ源は、応用可能性を高めることになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態による、浮遊電極の一部がガス流路内部に面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の一実施例の概略図である。
図2】本発明の実施の形態による、浮遊電極の一部がガス流路内部に面していることを特徴とする、誘導結合型マイクロプラズマ源の他の実施例の概略図である。
図3】浮遊電極の働きを等価回路モデルによって表したものである。
図4図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して、いくつかの浮遊電極を利用した際の点火電力を示すグラフである。
図5図1で示した本発明の実施の形態による、誘導結合型マイクロプラズマ源を利用して、いくつかの浮遊電極、および別の浮遊電極(サブ電極)を組み合わせた際の点火電力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0025】
1・・・プラズマ領域
2・・・浮遊電極
3・・・別の浮遊電極(サブ電極)
4・・・浮遊電極に近接した誘電率の高い材料
5・・・誘導結合型プラズマ発生用スパイラルコイル
6・・・流路(ガラス管、微細加工によって製作したトレンチ構造などにより形成)
7・・・ガスの流れ
8・・・高周波電源

図1
図2
図3
図4
図5