【文献】
岩坂日出男,第4回 肺サーファクタント分子病態研究会-肺病変の修復・再生へのアプローチ-新規肺障害因子HMGB1と肺線維,分子呼吸器病,2006年,Vol.10, No.3, Page.204-208
【文献】
宮川博司等,第4章 ARDSの基礎疾患 敗血症に伴うARDS,週刊医学のあゆみ,2004年,別冊(3月), Page.121-125
【文献】
IWASAKA Hideo,Three-step research strategies for ARDS: new target molecules-ACE2, HMGB1, and HSP47,J Anesth,2007年,Vol.21, No.1, Page.122-123
【文献】
岩坂日出男,What's New in SURGERY FRONTIER 第67回 炎症の分子機構と熱ショック蛋白質 4)敗血症と熱ショック蛋白質,Surg Front,2010年,Vol.17, No.4, Page.380-383
【文献】
岩坂日出男,HMGB1と肺傷害(ALI/ARDS),侵襲と免疫,2008年,Vol.17, No.2, Page.62-64
【文献】
YOKOTA S et al.,Prevalence of HSP47 antigen and autoantibodies to HSP47 in the sera of patients with mixed connectiv,Biochem Biophys Res Commun,2003年,Vol.303, No.2, Page.413-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1)急性肺損傷の診断用バイオマーカーとしてのヒートショックプロテイン47の使用
本発明は、被験体由来の生体試料におけるヒートショックプロテイン47を定量することを含む、被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定するための方法(方法(1))を提供するものである。
【0015】
本明細書中、「急性肺損傷(ALIとも称される)」とは、直接的又は間接的に肺を傷害する敗血症、肺炎、外傷、及び/又は誤嚥等によって引き起こされる肺の炎症性疾患をいう。本明細書中の「急性肺損傷」には、同一の臨床的障害であることが知られる急性呼吸促迫症候群(ARDSとも称される)も含まれる。なお、急性肺損傷の臨床的定義を満たす急速進行性間質性肺炎も急性肺損傷に含まれる。
【0016】
急性肺損傷の臨床的な定義は以下の通りである(ALI/ARDS診療のためのガイドライン;社団法人日本呼吸器学会ARDSガイドライン作成委員会):
(I)急性発症。
(II)低酸素血症(PaO
2/FiO
2が300 mmHg以下)。
(FiO
2=吸気O
2濃度。PaO
2の単位はmmHg、FiO
2は小数(例、0.5)。PaO
2/FiO
2が200 mmHg以下のケースが急性呼吸促迫症候群である。)
(III)胸部X線写真にて両側性の肺浸潤影を認める。
(IV)肺動脈楔入圧が18mmHg以下または理学的に左房圧上昇の臨床所見がない。
上記基準を全て満たすものが急性肺損傷と定義される。
【0017】
本発明の方法(1)において、「被験体」は、「急性肺損傷に罹患していることが疑われる被験体」であり得る。本明細書中、「急性肺損傷に罹患していることが疑われる被験体」とは、臨床診断により、急性肺損傷、大動脈解離、急性心不全、慢性心不全急性増悪、びまん性肺胞出血、癌性リンパ管症、再膨張性肺水腫、過剰輸液による肺水腫、神経原性肺水腫又は肺感染(肺結核、粟粒結核等)に共通する臨床所見(例えば、咳嗽、喀痰、発熱、呼吸困難、呼吸不全、低酸素血症、胸部の痛み等)が得られた患者を指す(急性肺損傷以外のこれらの疾患を以下において「急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患」と総称する場合がある)。
【0018】
本発明の方法(1)において、「被験体」又は「急性肺損傷に罹患していることが疑われる被験体」は、「急性肺損傷又は慢性進行性間質性肺炎のいずれかに罹患していることが疑われる被験体」であり得る。本明細書中、「急性肺損傷又は慢性進行性間質性肺炎のいずれかに罹患していることが疑われる被験体」とは、胸部X線写真やKL-6、SP-D又はSP-A等の血清マーカーを用いた診断により、急性肺損傷又は慢性進行性間質性肺炎のいずれかに罹患している疑いがあるとの所見が得られた患者を指す。
【0019】
本明細書中、「間質性肺炎」とは、肺胞隔壁肥厚、線維芽細胞の増殖、コラーゲン沈着等によって特徴付けられる、肺の間質組織を主座とした炎症を来す疾患をいう。間質性肺炎としては、放射線、病原体感染、膠原病を原因とするもののほか、中毒・薬剤性のものや、明確な原因を見出せない特発性のものが挙げられる。特発性間質性肺炎としては、例えば、特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia; COP)、特発性通常型間質性肺炎(idiopathic usual interstitial pneumonia; idiopathic UIP)、特発性非特異性間質性肺炎(idiopathic nonspecific interstitial pneumonia; idiopathic NSIP)などが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「間質性肺炎」とは、進行して炎症組織が線維化した肺線維症も含む概念である。
【0020】
本発明の方法(1)に供される被験体は、肺線維症に罹患していてもいなくてもよい。これまでに、肺線維化疾患の肺組織局所でのHSP47発現が亢進することは報告されてきたが(非特許文献5及び6)、HSP47は小胞体内に局在し細胞外へは漏出しないとされてきたため、線維化を伴う間質性肺炎において細胞外(例えば血中など)でHSP47が上昇しているとは考えられていなかった。実際に過去の報告では特発性肺線維症患者血清中のHSP47および抗HSP47抗体は健常人のそれと同レベルであり、上昇がみられないことが明らかとなっている(非特許文献7)。細胞外(例えば血中など)におけるHSP47は、慢性進行性間質性肺炎では上昇がみられず、急性肺損傷(急速進行性間質性肺炎を含む)において特異的に上昇がみられる。
【0021】
更なる局面において、本発明の方法(1)において、「被験体」又は「急性肺損傷に罹患していることが疑われる被験体」は、「急性肺損傷又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患のいずれかに罹患していることが疑われる被験体」であり得る。本明細書中、「急性肺損傷又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患のいずれかに罹患していることが疑われる被験体」とは、臨床診断により、急性肺損傷及び上記疾患に共通する臨床所見(例えば、呼吸困難、呼吸不全、低酸素血症、胸部の痛み等)が得られた患者を指す。
【0022】
本明細書中、「大動脈解離」とは、遺伝的な要因や、大動脈内膜の変成および脆弱化に加え、大動脈の拡張や高血圧等により、大動脈血管の内膜の一部が裂けて、その内膜裂孔から内膜内に血液が流入して血管壁の解離を生じることにより発症する、急激な胸痛・腹痛を伴う疾患を指す。
【0023】
本明細書中、「急性心不全」とは、心室より末梢の器官へ十分な血流が供給されない循環器疾患の病態であって、急激に循環動態が悪化することにより、その病態に至るものをいう。急性心不全の症状としては、肺うっ血に基づく著明な呼吸困難あるいは低心拍出に基づく心原性ショック、泡沫痰喀出、乏尿・無尿、四肢冷感、血圧下降、冷汗または頻脈(時に徐脈)等が挙げられる。
【0024】
本明細書中、「慢性心不全急性増悪」とは、慢性心不全が急激に悪化することをいう。本明細書中、「慢性心不全」とは、陳旧性心筋梗塞、拡張型心筋症などに見られるように徐々に進行し、心肥大をはじめとする種々の代償機序が働いてある平衡状態にあるものをいい、息切れ、易疲労感、運動耐用能の低下、肝脾の腫大、浮腫または末梢静脈怒張などの症状を呈する病態を指す。
【0025】
本明細書中、「肺結核」とは、は結核菌による肺感染をいう。
【0026】
本明細書中、「粟粒結核」とは、結核菌が大量に血行中に入り、多臓器に播種して多数の結核結節を形成する病態をいう。
【0027】
本明細書中、「びまん性肺胞出血」とは、肺胞腔内への出血をいう。肺胞腔内への出血,肺胞腔内のヘモジデリン貪食細胞(担鉄細胞)の出現,肺胞壁へのヘモジデリン沈着が認められ,胸部X線写真で全肺野にわたるびまん性散布性陰影を示す疾患群として肺胞出血症候群が知られている。多くは肺胞腔のみならず肺間質にも出血がみられる。肺の損傷や胸郭圧迫,肺〜気管支病巣の血管破綻,血管神経性出血,一部の出血性肺炎,血液疾患にみられる漏出性出血,毛細血管障害由来の出血,免疫現象と関連した出血などが原因として挙げられる。
【0028】
本明細書中、「癌性リンパ管症」とは、灌流側のリンパ節への癌細胞の転移やリンパ管の塞栓などにより,リンパ流がうっ滞するため,逆行性に増殖した癌細胞が,組織のリンパ管内を満たして広がる状態をいう。拡張したリンパ管周囲は,浮腫や線維組織の増殖を伴い,あたかもリンパ管炎を思わせる偽炎症性状態を示す。乳癌,胃癌や,転移性を含む肺癌などで認められることがあり,不良な予後を呈する。
【0029】
本明細書中、「肺水腫」とは、肺血管外へ異常な水分貯留がある病的状態をいう。
【0030】
本明細書中、「再膨張性肺水腫」とは、胸水・気胸・血胸などに対し胸腔ドレナージなどの治療をおこなった際,虚脱していた肺の再膨張が一気に起こり、肺血流の再灌流および血管透過性亢進が生じた結果起こると考えられる肺水腫をいう。
【0031】
本明細書中、「輸液(ゆえき)」とは、水分や電解質などを点滴静注により投与する治療法をいい、用語「過剰輸液による肺水腫」とは、過剰な輸液によって肺の毛細血管圧が増加し、肺水腫が引き起こされる状態をいう。
【0032】
本明細書中、「神経原性肺水腫」とは、頭部の外傷や,てんかん発作,脳血管障害などの頭蓋内圧上昇に伴って生じる急性の肺水腫をいう。
【0033】
本発明の方法(1)に供される被験体は、哺乳動物を意味する。当該哺乳動物としては急性肺損傷に罹患する可能性がある哺乳動物であれば特に限定されないが、なかでも、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0034】
ヒートショックプロテイン47(HSP47)は公知のヒートショックタンパク質であり、そのアミノ酸配列等も公知である。本発明において用いられるHSP47は、通常哺乳動物由来である。「哺乳動物由来」とは、HSP47のアミノ酸配列が哺乳動物の配列であることを意味する。哺乳動物としては、被験体として用いることの出来る哺乳動物と同一のものを挙げることができる。定量対象であるHSP47が由来する哺乳動物の種類は、通常、被験体の哺乳動物の種類と同一である。例えば、被験体がヒトであれば、ヒトヒートショックプロテイン47が定量される。
【0035】
ヒトHSP47の代表的なアミノ酸配列としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列(GeneBankアクセッション番号:NP_001226)を挙げることが出来る。本明細書において、タンパク質及びペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。
【0036】
本発明の方法(1)において用いることのできる生体試料としては、血液、気管支洗浄液、肺胞洗浄液、喀痰、肺組織、脳脊髄液、腹水等が挙げられるが、急性肺損傷に伴うHSP47レベルの上昇を検出できる限り、特に限定されない。肺組織は、適切な緩衝液中で破砕するなどし、抽出液の状態にして本発明の方法(1)に供されることが好ましい。「血液」としては、いかなる組織由来の血液も想定することができるが、採取の容易から、通常は末梢血が用いられる。血液の採取方法としては、自体公知の方法が適用できる。また採取した血液はそのまま本工程に用いてもよいが、自体公知の方法、例えば遠心分離、濾過などを利用して細胞成分(赤血球、白血球、血小板など)を分離した液体成分(血漿)として本工程に用いることが好ましい。また血液を凝固させて血小板や凝固因子を分離した液体成分(血清)として本工程に用いることも好ましい。本発明の方法(1)において用いることのできる生体試料は、好ましくは血液、血清又は血漿である。
【0037】
生体試料におけるHSP47の定量は、免疫学的手法、質量分析法等の自体公知の方法により行うことができる。
【0038】
免疫学的手法によるHSP47の定量は、例えば以下の工程を含む:
(1)被験体由来の生体試料と、HSP47を特異的に認識する抗体とを接触させ、生体試料中のHSP47とHSP47を特異的に認識する抗体との複合体を形成させる工程;
(2)上記工程(1)で形成された複合体を検出する工程;及び
(3)上記工程(2)で検出された複合体の量から生体試料中のHSP47の量を算出する工程。
【0039】
工程(1)は、被験体由来の生体試料と、HSP47を特異的に認識する抗体とを接触させ、生体試料中のHSP47とHSP47を特異的に認識する抗体との複合体を形成させる工程である。
【0040】
本明細書中、「HSP47を特異的に認識する抗体」としては、HSP47に特異的に結合する能力があればよく、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。当該抗体としては、キメラ抗体、単鎖抗体又は抗体分子のF(ab’)
2、Fab’、或いはFab画分などの結合性フラグメントも含む。これらの抗体としては、免疫原としてHSP47を用いて自体公知の方法により調製した抗体を用いることができるし、市販の抗体を用いることもできる。
【0041】
「特異的」とは、抗体の抗原であるHSP47に対する親和性が、他の抗原に対する親和性よりも高いことを意味する。
【0042】
抗原として組換えHSP47を用いる場合、組換えHSP47は、例えば以下の方法で作製することができる。HSP47アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、ヒトHSP47の場合には、配列番号1で表されるヌクレオチド配列(GeneBankアクセッション番号:NN_001235)を含むポリヌクレオチド)を適切な発現ベクターに組み込み、これを適切な宿主に挿入して形質転換し、この形質転換細胞の破砕物から目的とする組換えHSP47を得ることができる。上記宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、枯草菌、酵母、植物又は動物細胞などを用いることができる。
【0043】
HSP47は、上記形質転換体から産生される組換えタンパク質の他、これを産生する天然の細胞から自体公知のタンパク質分離精製技術により単離又は精製されるものであってもよい。また、化学合成若しくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよい。
【0044】
上記HSP47を用いて、前記「HSP47を特異的に認識する抗体」を常法に従って製造することができる。具体的には、当該抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従ってHSP47を家兎等の非ヒト動物に免疫し、当該免疫動物の血清から得ることが可能である(Current Protocols in Molecular Biology, edit. Ausubel FM et al. (2011) Publish. John Wiley and Sons. Chapter 11, Section III, Unit 11.12〜11.13)。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従ってHSP47又はその部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチド等をマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology,edit. Ausubel FM et al. (2011) Publish. John Wiley and Sons. Chapter 11, Section II, Unit 11.4〜11.11)。
【0045】
本発明に用いられるHSP47を特異的に認識する抗体は単離又は精製されていることが好ましい。「単離又は精製」とは、天然にある状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製されたHSP47を特異的に認識する抗体の純度(全タンパク質重量に対する、HSP47を特異的に認識する抗体の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
【0046】
前記抗体は、直接的又は間接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン)、放射性物質(例、
14C、
3H、
125I)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、着色粒子(例、金属コロイド粒子、着色ラテックス)、ビオチン等が挙げられる。
【0047】
このような抗体であれば、本工程において1種のみの抗体を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0048】
上記「HSP47を特異的に認識する抗体」は、水溶液の状態で用いることも可能であるが、固相に結合していることが好ましい。かかる「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。なかでも、プレート、ビーズ、メンブレン及び金属膜が好ましく用いられ、取り扱いの簡便性からプレートが最も好ましく用いられる。上記結合としては、共有結合、イオン結合、物理的吸着などが挙げられ、特に限定されないが、共有結合及び/又は物理的吸着が十分な結合強度を得られるため好ましい。また固相への結合は、固相に直接結合してもよいし、自体公知の物質を利用して間接的に固相に結合していてもよい。更に、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために牛血清アルブミン(BSA)や牛ミルクタンパク等のリン酸緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルクタンパク等でブロッキングすることが一般に行われる。
【0049】
本工程における「HSP47を特異的に認識する抗体」と、被験体由来の生体試料中に含まれる「HSP47」との接触は、反応容器中において、当該生体試料と、HSP47を特異的に認識する抗体とを混合することでこれらが相互作用できる方法であれば、態様、順序、具体的方法などは特に限定されない。接触は、例えば「HSP47を特異的に認識する抗体」が固相化されたプレートに当該生体試料(の抽出液)を添加することでなされる。
【0050】
なお、かかる接触を保つ時間は、前記HSP47を特異的に認識する抗体と、被験体由来の生体試料中に含まれるHSP47とが結合して複合体を形成するのに十分な時間であれば特に限定されないが、通常、数秒〜十数時間であり、速やかに急性肺損傷であるか否かを判定する観点から、好ましくは1分〜2時間であり、最も好ましくは2分〜30分である。また、接触を行なう温度条件としては、通常4℃〜50℃であり、4℃〜37℃が好ましく、15℃〜30℃程度の室温が最も好ましい。さらに、反応を行なうpH条件は、5.0〜9.0が好ましく、特に6.0〜8.0の中性域が好ましい。
【0051】
工程(2)は、上記工程(1)で形成された複合体を検出することで、上記生体試料中にHSP47が存在するか否かを判定する工程である。
【0052】
上記検出は、複合体に含まれる「HSP47」又は「HSP47を特異的に認識する抗体」を検出することによりなされる。この検出には、酵素免疫測定法(EIA法)、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、表面プラズモン共鳴測定法(SPR法)などを利用することができる。これらの中でも、EIA法、イムノクロマト法、FIA法及びSPR法が操作の容易性及び迅速性の観点からして好適である。
【0053】
工程(2)の検出方法としてEIA法を選択した場合は、EIA法が、2種類の「HSP47を特異的に認識する抗体」を用いたサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)であるのが好ましい。このようなサンドイッチELISA法は、2種類の抗体を用いることから抗原に対する特異性が優れている。
【0054】
サンドイッチELISA法を実施するための2種類の「HSP47を特異的に認識する抗体」は、エピトープが競合しない抗体同士の組合せである限り、モノクローナル抗体同士の組合せ、ポリクローナル抗体同士の組合せ、又はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組合せのいずれであってもよい。
【0055】
サンドイッチELISA法の一種としてアビジン−ビオチン反応を利用した方法が適用可能である。この方法では、例えば血漿又は血清中のHSP47を、固相化した任意の「HSP47を特異的に認識する抗体」でもって捕捉し、捕捉されたHSP47とビオチンで標識した「HSP47を特異的に認識する抗体」との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。次に酵素標識ストレプトアビジンを加えて、アビジン−ビオチン反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは5分〜1時間であり、より好ましくは15分〜30分である。次いでこの酵素を検出することで、HSP47を特異的に検出する。上記したビオチン標識「HSP47を特異的に認識する抗体」は、ビオチンと、「HSP47を特異的に認識する抗体」とを自体公知の方法により結合させることにより製造することができる。例えば、市販のビオチン標識化キットを使用して、ビオチンと「HSP47を特異的に認識する抗体」とを結合させることができる。酵素標識ストレプトアビジンは、市販のものを好ましく使用することができる。
【0056】
また、酵素標識抗体を利用したサンドイッチELISA法も適用可能である。この方法では、例えば血液中のHSP47を、固相化した任意の「HSP47を特異的に認識する抗体」でもって捕捉し、捕捉されたHSP47と酵素標識した「HSP47を特異的に認識する抗体」との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。次いでこの酵素を検出することで、HSP47を検出する。酵素標識抗体は、酵素と「HSP47を特異的に認識する抗体」とを自体公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド法、マレイミド法などにより結合(標識)させることにより製造することができる。
【0057】
さらに、汎用性の観点から2次抗体を利用したサンドイッチELISA法も適用可能である。この方法では、例えば血液中のHSP47を、固相化した任意の「HSP47を特異的に認識する抗体」でもって捕捉し、捕捉されたHSP47と、固相化した抗体とは異なる動物種由来の「HSP47を特異的に認識する抗体」(この段落中、1次抗体と記載する)との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。例えば、固相化した「HSP47を特異的に認識する抗体」がウサギ由来であれば、1次抗体としてはウサギ以外の動物種由来、例えばマウス由来の抗体で反応を行う。次いで1次抗体と、酵素標識した「1次抗体を認識する抗体」(この段落中、2次抗体と記載する)との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。最後にこの酵素を検出することで、HSP47を検出する。酵素標識2次抗体は、市販のものを好ましく用いることができる。
【0058】
酵素標識ストレプトアビジン及び酵素標識抗体における「酵素」としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが例示される。
【0059】
酵素の検出に用いられる基質剤としては、選択した標識酵素に応じて適当なものが選ばれる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを選択した場合においては、o-フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)などが使用され、アルカリホスファターゼを選択した場合においては、p-ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。また、反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを特に制限なく適宜使用することができる。
【0060】
サンドイッチELISA法を用いない場合でも、通常のELISA法を適用することで、検出が可能である。例えば工程(1)において被験体由来の血液中のHSP47を上述の方法と同様に固相に結合せしめ、次いで標識した「HSP47を特異的に認識する抗体」との間で抗原抗体反応を行わせて複合体を形成させる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。次いで標識に応じた手法を用い、HSP47を検出することができる。
【0061】
工程(2)の検出方法としてイムノクロマト法を選択した場合、ニトロセルロースメンブレンなどの吸水性基材にライン状に固相化された「HSP47を特異的に認識する抗体」に対し、メンブレン下部より、例えば血液を展開することでHSP47を捕捉させ、捕捉されたHSP47と標識した「HSP47を特異的に認識する抗体」との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。標識に応じた手法を用い、HSP47を検出することができる。
【0062】
イムノクロマト法を実施するための2種類の「HSP47を特異的に認識する抗体」も、エピトープが競合しない抗体同士の組合せである限り、モノクローナル抗体同士の組合せ、ポリクローナル抗体同士の組合せ、又はモノクローナル抗体とポリクローナル抗体の組合せのいずれであってもよい。
【0063】
工程(2)の検出方法としてFIA法を選択した場合、上記EIA法で用いた「HSP47を特異的に認識する抗体」に結合した酵素を蛍光物質と置換した抗体を用い、上記した方法と同様のサンドイッチELISAを行う。次いで、蛍光物質を市販の測定機器や、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡などを用いて検出することで、HSP47を検出する。蛍光物質としては、APC、PE、Cy2、Cy3、Cy5、ECD、FITC、PerCP、Alexa(登録商標)Fluor、フルオレセイン、ローダミンなどの化学物質を好ましく利用することができる。当該化学物質は、自体公知の方法で抗体に標識することができる。
【0064】
工程(2)の検出方法としてSPR法を選択した場合、あらかじめHSP47を特異的に認識する抗体を固相化した金属膜(センサチップ)表面での、抗体と、金属膜表面にフローした血液中のHSP47との相互作用を、表面プラズモン共鳴の経時変化として検出する。SPR法を実施する場合は、センサチップとなる金属膜へ固相化する「HSP47を特異的に認識する抗体」は1種類でよく、モノクローナル抗体であってもよいし、ポリクローナル抗体であってもよい。また、SPRの検出に利用する測定機器としては、市販の測定機器を好ましく用いることができる。
【0065】
一具体例として、EIA法を適用する場合には、被験体から採取した血液を室温で一定時間振盪した後、遠心分離して血清を得る。次にこの血清を、任意の「HSP47を特異的に認識する抗体」を固相化したマイクロプレートに分注し、室温で一定時間放置する。プレートを洗浄して未反応の抗原を除去した後、ビオチン化した上記抗体溶液をプレートに分注し、一定時間放置して複合体を形成する。更にプレートを洗浄して未反応の抗体を除去した後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン溶液をプレートに分注し、室温で一定時間反応させる。プレートを洗浄した後、TMBなどの発色基質溶液と反応させて複合体の検出を行う。
【0066】
別の具体例としてイムノクロマト法を適用する場合には、上記血清又は生理食塩水などで希釈した血清を試験片に浸して展開させる。試験片は、短冊形状の抗体固相化支持体の下端側に粒状標識物保持担体、及び、濾紙からなる液体試料吸収用担体が一端を介して積層され、一方、前記抗体固相化支持体の上端側に濾紙よりなる吸水性担体が一端を介して積層されてなるものである。上記抗体固相化支持体は、ニトロセルロースシート上にHSP47と抗原抗体反応を行う「HSP47を特異的に認識する抗体」が固相化されているものである。固相化は、上記抗体溶液をニトロセルロースシート上に塗布し、乾燥することでなされる。固相化された抗体は、展開された血清中のHSP47を特異的に認識し、HSP47と粒状標識された上記抗体との複合体を捕捉することができる。従って、「HSP47を特異的に認識する抗体」が抗体固相化支持体上に線上に固相化されていれば、そのラインが粒状標識により着色することとなり、当該血液にHSP47が存在していると判断できる。
【0067】
工程(3)においては、上記工程(2)で検出された複合体の量から生体試料中のHSP47の量を算出する。
【0068】
工程(2)で検出された複合体の量(濃度)は、蛍光強度又は吸光度等のシグナルを別途作成した検量線に当てはめることにより測定することができる。被験体の生体試料中のHSP47の濃度は、検量線より求めた濃度に希釈倍率を乗じることによって定量することができる。
【0069】
検量線は、前記標準HSP47タンパク質標品を段階希釈した試料濃度を横軸(縦軸)とし、標準HSP47タンパク質標品中のHSP47に結合したHSP47を特異的に認識する抗体のシグナルを任意の単位で示した縦軸(横軸)として、測定値をプロットして近似式で表す。検量線は、両軸を対数表示することにより、近似的に直線として表すことができる。
【0070】
次に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷への罹患可能性との間の相関付けを行い、当該相関に基づき被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定する。後述の実施例に示すように、健常者や慢性進行性間質性肺炎の患者と比較して、急性肺損傷の患者の方が生体試料におけるHSP47の量が高い。また、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患の患者と比較して、急性肺損傷の患者の方が生体試料におけるHSP47の量が高い。上記判定は、このような被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷への罹患可能性との間の正の相関に基づき行われる。
【0071】
例えば、健常者又は慢性進行性間質性肺炎の患者(ネガティブコントロール)、及び急性肺損傷の患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、血清)を採取し、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。あるいは、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷罹患率との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較してもよい。HSP47の量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0072】
そして、HSP47の量の比較結果より、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に低いと判定することができる。また、本発明の方法(1)を用いて、急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎とを鑑別する場合、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は慢性進行性間質性肺炎ではなく、急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷ではなく、慢性進行性間質性肺炎に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0073】
あるいは、生体試料におけるHSP47の量のカットオフ値をあらかじめ設定しておき、測定されたHSP47の量とこのカットオフ値とを比較することによって行うこともできる。例えば、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が前記カットオフ値以上である場合には、該被験体は急性肺損傷に罹患している可能性が高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量がカットオフ値を下回る場合には、該被験体が急性肺損傷に罹患している可能性は低いと判定することができる。また、本発明の方法(1)を用いて、急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎とを鑑別する場合、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が前記カットオフ値以上である場合には、該被験体は慢性進行性間質性肺炎ではなく、急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量がカットオフ値を下回る場合には、該被験体は急性肺損傷ではなく、慢性進行性間質性肺炎に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0074】
「カットオフ値」は、その値を基準として疾患や状態の判定をした場合に、高い診断感度(有病正診率)及び高い診断特異度(無病正診率)の両方を満足できる値である。例えば、急性肺損傷の患者で高い陽性率を示し、かつ、健常人又は慢性進行性間質性肺炎又はその他の呼吸器疾患の患者で高い陰性率を示す、HSP47の量をカットオフ値として設定することが出来る。例えば、生体試料として末梢血血清を用いて被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定する場合の好適なカットオフ値として、100〜1500pg/mlの間の値が挙げられるが、好ましくは200〜1300pg/mlの間の値、より好ましくは300〜1200pg/mlの間の値、更により好ましくは400〜1000pg/mlの間の値、最も好ましくは500〜900pg/mlの間の値である。また、生体試料として末梢血血清を用いて急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎とを鑑別する場合の好適なカットオフ値として、100〜1500pg/mlの間の値が挙げられるが、好ましくは200〜1300pg/mlの間の値、より好ましくは300〜1200pg/mlの間の値、更により好ましくは400〜1000pg/mlの間の値、最も好ましくは500〜900pg/mlの間の値である。
【0075】
更なる局面において、本発明の方法(1)を用いることにより、急性肺損傷と、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患とを鑑別することができる。急性肺損傷の臨床所見は、上記疾患の臨床所見と類似しているが、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患ではコラーゲン合成が亢進する要因はないので、生体試料においてHSP47の量が増大することはない。
【0076】
具体的には、例えば、健常者又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患の患者(ネガティブコントロール)、及び急性肺損傷の患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、血清)を採取し、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。あるいは、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷罹患率との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較してもよい。HSP47の量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0077】
そして、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患ではなく、急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷ではなく、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0078】
また、本発明は、上述のHSP47を特異的に認識する抗体を含む、急性肺損傷の診断薬を提供するものである。当該診断薬は急性肺損傷の診断用キットであり得る。本発明の診断薬を用いれば、上述の本発明の方法(1)において、免疫学的手法により被験体由来の生体試料におけるHSP47を定量することにより、容易に被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定し、或いは急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患とを識別することが出来る。
【0079】
該抗体は、直接的又は間接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン)、放射性物質(例、
14C、
3H、
125I)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、着色粒子(例、金属コロイド粒子、着色ラテックス)、ビオチン等が挙げられる。
【0080】
該抗体は、水溶液の状態で用いることも可能であるが、固相に結合していることが好ましい。かかる「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。
【0081】
本発明の診断薬には、HSP47を特異的に認識する抗体以外に、生体試料におけるHSP47の量を定量する際に用いる試薬等が含まれていてもよく、これらの試薬等は、予めHSP47を特異的に認識する抗体と一緒になっていてもよいし、別々の容器に格納されていてもよい。試薬等としては、処理液や抗体を希釈するための緩衝液、2次抗体、標識物質(例、蛍光色素、酵素)、反応容器、陽性対照(例、組換えHSP47)、陰性対照、固相、検査プロトコールを記載した指示書などが挙げられる。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。
【0082】
また、コラーゲンはHSP47と特異的に結合する性質を有することから、他の態様において、本発明の方法におけるHSP47の定量には、「HSP47を特異的に認識する抗体」の代わりに、又はそれに加えて、「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」を用いてもよい。
【0083】
コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片を用いる手法(本発明の方法(2))によるHSP47の定量は、例えば以下の工程を含む:
(1’)被験体由来の生体試料と、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片とを接触させ、生体試料中のHSP47とコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片との複合体を形成させる工程;
(2’)上記工程(1)で形成された複合体を検出する工程;及び
(3’)上記工程(2)で検出された複合体の量から生体試料中のHSP47の量を算出する工程。
【0084】
工程(1’)は、被験体由来の生体試料と、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片とを接触させ、生体試料中のHSP47とコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片との複合体を形成させる工程である。
【0085】
本発明の方法に用いられるコラーゲンは、哺乳動物コラーゲンである。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。本発明の方法に用いるコラーゲンは、好ましくは被験体と同一種の哺乳動物のコラーゲンである。例えば、被験体がヒトである場合には、好ましくはヒトコラーゲンが用いられる。
【0086】
尚、本明細書において、「ヒトコラーゲン」とは、コラーゲンのアミノ酸配列が、ヒトにおいて天然に発現しているコラーゲンのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有することを意味する。
【0087】
本発明の方法に用いるコラーゲンとしては、HSP47と特異的に結合する性質を有している限り、いずれのタイプのコラーゲンであってもよい。哺乳動物コラーゲンには、type I〜XXVIIの27のタイプが包含される。哺乳動物コラーゲンは、好ましくはtype I〜Vであり、より好ましくはtype Iである。少なくともtype I〜Vの哺乳動物コラーゲンがHSP47に結合することが知られている(Natsume T. et al., J. Biol. Chem., 269, 31224-31228, 1994)。
【0088】
コラーゲンは、通常3本のポリペプチドを含む3重らせん(triple helix)である。例えばtype Iコラーゲンは、2本のα1鎖(type I)と1本のα2鎖(type I)を含む3重らせんである。ヒトtype Iコラーゲンのα1鎖の代表的なアミノ酸配列を配列番号4に、ヒトtype Iコラーゲンのα2鎖の代表的なアミノ酸配列を配列番号6に、それぞれ記載する。
【0089】
「HSP47への特異的結合性を有するコラーゲンの部分断片」は、HSP47への特異的結合性を有する限り、コラーゲンのいずれの領域の部分断片であってもよい。HSP47への特異的結合性を有するコラーゲンの部分断片は、通常3本の部分ペプチド(コラーゲンを構成する3本のポリペプチドをポリペプチドA、B及びCとした場合、各部分ペプチドは、それぞれ、ポリペプチドAの断片、ポリペプチドBの断片、及びポリペプチドCの断片である)を含む3重らせんである。
【0090】
「HSP47への特異的結合性を有するコラーゲンの部分断片」に含まれる3本の部分ペプチドの大きさは、通常9アミノ酸以上、好ましくは12アミノ酸以上、より好ましくは15アミノ酸以上、さらにより好ましくは18アミノ酸以上である。
【0091】
「HSP47への特異的結合性を有するコラーゲンの部分断片」に含まれる3本の部分ペプチドは、それぞれ、コラーゲンを構成するポリペプチドに含まれるGly-Xaa-Yaa(式中、Xaa及びYaaは任意のアミノ酸を表す)リピートを、例えば4回以上、好ましくは5回以上、より好ましくは6回以上含む。
【0092】
HSP47への特異的結合性を担保するため、当該部分断片は、1つの断片につき少なくとも1つ、Yaaの部位にアルギニン残基を含むことが好ましい(Koide, T. et al., J. Biol. Chem., 281, 3432-3438, 2006)。
【0093】
更に、HSP47への特異的結合性を担保するため、「HSP47への特異的結合性を有するコラーゲンの部分断片」に含まれる少なくとも1つの部分ペプチドは、少なくとも1つのYaa
-3-Gly-Xaa
-1-Arg-Glyで表されるアミノ酸配列(式中、Xaa
-1は任意のアミノ酸(好ましくはPro)であり、Yaa
-3は任意のアミノ酸(好ましくはThr、Pro、Ser、Hyp、Val、Ala、Ile、Leu、Asn、Met、His、Phe又はTyrであり、より好ましくはThr、Pro、Ser、Hyp、Val又はAlaであり、更に好ましくはThr又はProであり、最も好ましくはThrである)を含むことが好ましい。1つの好ましい態様において、Yaa
-3-Gly-Xaa
-1-Arg-GlyはThr-Gly-Pro-Arg-Glyである(Koide T. et al., J. Biol. Chem. 281, 11177-11185, 2006を参照)。
【0094】
本明細書において、「任意のアミノ酸」には、Ala、Cys、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、Tyr及びHypが包含される。
【0095】
HSP47に特異的に結合するコラーゲンやその部分断片、HSP47への特異的な結合に重要なコラーゲン中のアミノ酸配列については、その全体が参照により本明細書に組み込まれるKoide, T. et al., J. Biol. Chem. 277, 6178-6182, 2002;Tasab, M. et al., J. Biol. Chem. 277, 35007-35012, 2002;Koide, T., et al., J. Biol. Chem. 281, 3432-3438, 2006;及びNatsume, T. et al., J. Biol. Chem. 269, 31224-31228, 1994において詳細に記載されており、当業者であれば、本明細書の記載及びこれらの文献等に基づき、HSP47に特異的結合するコラーゲンやその部分断片を容易に得ることができる。
【0096】
HSP47の定量において用いられる、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片には、コラーゲン自体に由来するアミノ酸配列に加え、1または2個以上(例えば1〜500個、好ましくは1〜100個程度、より好ましくは1〜15個程度)の付加的なアミノ酸を含んでいてもよい。このようなアミノ酸付加は、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片が、HSP47を特異的に認識する限り許容される。付加されるアミノ酸配列は、特に限定されないが、例えば、ファーストメチオニン、システイン、ポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグを挙げることが出来る。タグとしては、Flagタグ、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を例示することが出来る。アミノ酸配列が付加される位置は、好ましくは、ポリペプチドのN末端又はC末端である。
【0097】
本発明に用いられるコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片は単離又は精製されていることが好ましい。「単離又は精製」とは、天然にある状態から目的とする成分以外の成分を除去する操作が施されていることを意味する。単離又は精製されたコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片の純度(全タンパク質重量に対する、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片の重量の割合)は、通常50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上(例えば実質的に100%)である。
【0098】
本発明の方法に用いるコラーゲン又はHSP47への特異的結合性を有するその部分断片は、N末端及びC末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているものであってもよい。
【0099】
前記コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片は、直接的又は間接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン)、放射性物質(例、
14C、
3H、
125I)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ)、着色粒子(例、金属コロイド粒子、着色ラテックス)、ビオチン等が挙げられる。
【0100】
このようなコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片であれば、本工程において1種のみのコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0101】
HSP47の定量において組換えコラーゲンを用いる場合、組換えコラーゲンは、例えば以下の方法で作製することができる。コラーゲンサブユニットアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド(例えば、ヒトType 1コラーゲンの場合には、配列番号3及び配列番号5で表されるヌクレオチド配列(GeneBankアクセッション番号:NM_000088.3及びNM_000089.3)を含むポリヌクレオチド)を適切な発現ベクターに組み込み、これを適切な宿主に挿入して形質転換し、宿主内でコラーゲンサブユニット分子を会合させ、この形質転換体の培養上清から目的とする組換えコラーゲンを得ることができる。上記宿主細胞は特に限定されず、従来から遺伝子工学的手法で用いられている各種の宿主細胞、例えば大腸菌、枯草菌、酵母、植物又は動物細胞などを用いることができる。
【0102】
コラーゲンは、上記形質転換体から産生される組換えタンパク質の他、これを産生する天然の細胞やその培養上清から自体公知のタンパク質分離精製技術により単離又は精製されるものであってもよい。また、化学合成若しくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよい。
【0103】
上記「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」は、水溶液の状態で用いることも可能であるが、固相に結合していることが好ましい。かかる「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。なかでも、プレート、ビーズ、メンブレン及び金属膜が好ましく用いられ、取り扱いの簡便性からプレートが最も好ましく用いられる。上記結合としては、共有結合、イオン結合、物理的吸着などが挙げられ、特に限定されないが、共有結合及び/又は物理的吸着が十分な結合強度を得られるため好ましい。また固相への結合は、固相に直接結合してもよいし、自体公知の物質を利用して間接的に固相に結合していてもよい。更に、非特異的吸着や非特異的反応を抑制するために牛血清アルブミン(BSA)や牛ミルクタンパク等のリン酸緩衝溶液を固相と接触させ、抗体によってコートされなかった固相表面部分を前記BSAや牛ミルクタンパク等でブロッキングすることが一般に行われる。
【0104】
本工程における「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」と、被験体由来の生体試料中に含まれる「HSP47」との接触は、反応容器中において、当該生体試料と、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片とを混合することでこれらが相互作用できる方法であれば、態様、順序、具体的方法などは特に限定されない。接触は、例えば「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」が固相化されたプレートに当該生体試料(の抽出液)を添加することでなされる。
【0105】
なお、かかる接触を保つ時間は、前記コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片と、被験体由来の生体試料中に含まれるHSP47とが結合して複合体を形成するのに十分な時間であれば特に限定されないが、通常、数秒〜十数時間であり、速やかに急性肺損傷であるか否かを判定する観点から、好ましくは1分〜2時間であり、最も好ましくは2分〜30分である。また、接触を行なう温度条件としては、通常4℃〜50℃であり、4℃〜37℃が好ましく、15℃〜30℃程度の室温が最も好ましい。さらに、反応を行なうpH条件は、5.0〜9.0が好ましく、特に6.0〜8.0の中性域が好ましい。
【0106】
工程(2’)は、上記工程(1’)で形成された複合体を検出することで、上記生体試料中にHSP47が存在するか否かを判定する工程である。
【0107】
上記検出は、複合体に含まれる「HSP47」を検出することによりなされる。この検出には、酵素免疫測定法(EIA法)、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、表面プラズモン共鳴測定法(SPR法)などを利用することができる。これらの中でも、EIA法、イムノクロマト法、FIA法及びSPR法が操作の容易性及び迅速性の観点からして好適である。
【0108】
工程(2’)の検出方法としてEIA法を選択した場合は、EIA法が、ELISA法であるのが好ましい。
【0109】
ELISA法の一種として酵素標識抗体を利用したELISA法が適用可能である。この方法では、例えば血液中のHSP47を、固相化した任意の「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」でもって捕捉し、捕捉されたHSP47と酵素標識した「HSP47を特異的に認識する抗体」との間で抗原抗体反応を行わせる。かかる反応に要する時間は、迅速な測定が必要である観点から、好ましくは1分〜2時間であり、より好ましくは2分〜30分である。次いでこの酵素を検出することで、HSP47を検出する。酵素標識抗体は、酵素と「HSP47を特異的に認識する抗体」とを自体公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド法、マレイミド法などにより結合(標識)させることにより製造することができる。
【0110】
尚、「HSP47を特異的に認識する抗体」の定義は、上述の通りである。
【0111】
酵素標識抗体における「酵素」としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが例示される。
【0112】
酵素の検出に用いられる基質剤としては、選択した標識酵素に応じて適当なものが選ばれる。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを選択した場合においては、o-フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)などが使用され、アルカリホスファターゼを選択した場合においては、p-ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。また、反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを特に制限なく適宜使用することができる。
【0113】
一具体例として、上記ELISA法を適用する場合には、被験体から採取した血液を室温で一定時間振盪した後、遠心分離して血清を得る。次にこの血清を、任意の「コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片」を固相化したマイクロプレートに分注し、室温で一定時間放置する。プレートを洗浄して未反応の抗体を除去した後、ペルオキシダーゼ等で標識した、HSP47を特異的に認識する抗体の溶液をプレートに分注し、室温で一定時間反応させる。プレートを洗浄した後、TMBなどの発色基質溶液と反応させて複合体の検出を行う。
【0114】
工程(3’)においては、上記工程(2’)で検出された複合体の量から生体試料中のHSP47の量を算出する。
【0115】
工程(2’)で検出された複合体の量(濃度)は、蛍光強度又は吸光度等のシグナルを別途作成した検量線に当てはめることにより測定することができる。被験体の生体試料中のHSP47の濃度は、検量線より求めた濃度に希釈倍率を乗じることによって定量することができる。
【0116】
検量線は、前記標準HSP47タンパク質標品を段階希釈した試料濃度を横軸(縦軸)とし、標準HSP47タンパク質標品中のHSP47に結合した抗体のシグナルを任意の単位で示した縦軸(横軸)として、測定値をプロットして近似式で表す。検量線は、両軸を対数表示することにより、近似的に直線として表すことができる。
【0117】
次に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷への罹患可能性との間の相関付けを行い、当該相関に基づき被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定する。後述の実施例に示すように、健常者や慢性進行性間質性肺炎の患者と比較して、急性肺損傷の患者の方が生体試料におけるHSP47の量が高い。上記判定は、このような被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷への罹患可能性との間の正の相関に基づき行われる。
【0118】
例えば、健常者又は慢性進行性間質性肺炎の患者(ネガティブコントロール)、及び急性肺損傷の患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、血清)を採取し、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。あるいは、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷罹患率との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較してもよい。HSP47の量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0119】
そして、HSP47の量の比較結果より、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に低いと判定することができる。また、本発明の方法(2)を用いて、急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎とを鑑別する場合、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は慢性進行性間質性肺炎ではなく、急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷ではなく、慢性進行性間質性肺炎に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0120】
更なる局面において、本発明の方法(2)を用いることにより、急性肺損傷と急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患とを鑑別することができる。急性肺損傷の臨床所見は、上記疾患の臨床所見と類似しているが、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患ではコラーゲン合成が亢進する要因はないので、生体試料においてHSP47の量が増大することはない。
【0121】
具体的には、例えば、健常者又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患の患者(ネガティブコントロール)、及び急性肺損傷の患者(ポジティブコントロール)から生体試料(例、血清)を採取し、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較する。あるいは、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷罹患率との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較してもよい。HSP47の量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0122】
そして、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患ではなく、急性肺損傷に罹患している可能性が相対的に高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体は急性肺損傷ではなく、急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患に罹患している可能性が高いと判定することができる。
【0123】
また、本発明は、上述のコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片を含む、急性肺損傷の診断薬を提供するものである。当該診断薬は急性肺損傷の診断用キットであり得る。本発明の診断薬を用いれば、上述の本発明の方法(2)において、免疫学的手法により被験体由来の生体試料におけるHSP47を定量することにより、容易に被験体が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定し、或いは急性肺損傷と慢性進行性間質性肺炎又は急性肺損傷と共通する臨床所見を認める上記疾患とを識別することが出来る。
【0124】
コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片は、他に何も結合していない水溶液の状態で用いることも可能であるが、固相に結合していることが好ましい。かかる「固相」としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)、金属膜(例、金膜)などが挙げられる。
【0125】
本発明の診断薬には、コラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片以外に、生体試料におけるHSP47の量を定量する際に用いる試薬等が含まれていてもよく、これらの試薬等は、予めコラーゲン又はHSP47との特異的結合性を有するその部分断片と一緒になっていてもよいし、別々の容器に格納されていてもよい。試薬等としては、処理液や抗体を希釈するための緩衝液、被験体由来のHSP47を特異的に認識する抗体、標識物質(例、蛍光色素、酵素)、反応容器、陽性対照(例、組換えHSP47)、陰性対照、固相、検査プロトコールを記載した指示書などが挙げられる。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。
【0126】
(2)急性肺損傷の臨床的定義を満たす以前の超急性期に、急性肺損傷発症を予測するためのバイオマーカーとしてのヒートショックプロテイン47の使用
本発明の別の態様においては、急性肺損傷の臨床的定義を満たす以前の超急性期に、被験体由来の生体試料におけるヒートショックプロテイン47を定量することにより、急性肺損傷の発症を予測することができる。
【0127】
本態様においては、「被験体」は、急性肺損傷の臨床的な定義を満たしていない被験体であり得る。当該被験体としては、健常者の他、間質性肺炎を罹患している被験体、細菌性肺炎や嚥下性肺炎等の急性呼吸器疾患に罹患している被験体が挙げられるが、限定されない。当該被験体は、急性肺損傷の臨床所見を示していない被験体であり得る。
【0128】
上記被験体由来の生体試料におけるヒートショックプロテイン47の定量は、上記本発明の方法(1)及び本発明の方法(2)における定量と同様にして行うことができる。
【0129】
上記被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷を発症する可能性との間の相関付けを行い、当該相関に基づき被験体が急性肺損傷を発症するか否かを判定する。上記被験体においては、生体試料におけるHSP47の量が高いほど、急性肺損傷を発症する可能性が高い。上記判定は、このような被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷を発症する可能性との間の正の相関に基づき行われる。
【0130】
上記判定は、例えば、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷を発症する可能性との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較してもよい。
【0131】
そして、HSP47の量の比較結果より、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に高い場合には、該被験体が急性肺損傷を発症する可能性は高いと判定することができる。逆に、被験体由来の生体試料におけるHSP47の量が相対的に低い場合には、該被験体が急性肺損傷を発症する可能性は低いと判定することができる。
【0132】
間質性肺炎患者のフォローアップ中に血清中HSP47が上昇してきた場合は、短いスパンで急性増悪をきたし急性肺損傷の臨床的定義をみたす急速進行性間質性肺炎を発症する可能性が高いと判断することができる。間質性肺炎の急性増悪は、発症早期には一般的な感冒様症状しか呈さないため、単なる感冒として対処されてしまい、その間に重症化し致命的となってしまうケースが多い。また、間質性肺炎急性増悪を疑った場合でも、ある程度重症化しない限り低酸素血症や胸部エックス線写真での異常陰影を呈してこないため、早期診断することは難しい。しかし、間質性肺炎患者がごく軽微の症状を呈した場合においても血清中HSP47を測定することにより、その値が低い場合は急性増悪を発症する可能性は低いと判断することができ、その値が高い場合は急性増悪の超早期をとらえている可能性が高いと判断することができる。間質性肺炎患者の急性増悪を発症しつつある超早期を診断することができ、また急性増悪発症前においてもその発症を予測することができる。
【0133】
また、同様に細菌性肺炎や嚥下性肺炎などの急性呼吸器疾患においても、血清中HSP47を測定することにより、その値が低い場合は重症化し急性肺損傷を発症する可能性は低いと判断することができ、その値が高い場合は重症化し急性肺損傷を発症しつつある超早期をとらえている可能性が高いと判断することができる。
【0134】
(3)急性肺損傷の活動性把握、予後予測のためのバイオマーカーとしてのヒートショックプロテイン47の使用
本発明の別の態様においては、急性肺損傷に罹患している被験体由来の生体試料におけるヒートショックプロテイン47を定量することにより、急性肺損傷の活動性把握、予後予測をすることができる。
【0135】
急性肺損傷に罹患している被験体の血清中HSP47値は、急性肺損傷の疾患活動性と相関するため、血清中HSP47を測定することにより、活動性や重症度を把握することができ、治療効果判定や予後予測を行うことができる。
【0136】
急性肺損傷に罹患している被験体由来の生体試料におけるヒートショックプロテイン47の定量は、上記本発明の方法(1)及び本発明の方法(2)における定量と同様にして行うことができる。
【0137】
急性肺損傷に罹患している被験体由来の生体試料におけるHSP47の量と、急性肺損傷の疾患活動性との間の相関付けを行い、当該相関に基づき被験体における急性肺損傷の活動性や重症度を判定する。当該判定は、例えば、特定の生体試料(例、血清)におけるHSP47の量と急性肺損傷の疾患活動性との相関図をあらかじめ作成しておき、被験体から採取した生体試料におけるHSP47の量をその相関図と比較して行われる。
【実施例】
【0138】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0139】
被験者
対象とした被験者は長崎大学病院の患者で、内訳はALI(32例)、COP(12例)、idiopathic UIP(I-UIP;19例)、idiopathic NSIP(I-NSIP;16例)、CVD-UIP(11例)、CVD-NSIP(12例)及び並びに有志の健常者(18例)である。なお、ALIの症例は、ALIの臨床的定義を満たす急速進行性間質性肺炎を含んでいる。試験プロトコールはinstitutional review boardにより承認され、被験者からはinformed consentが得られている。更に具体的な臨床背景を表1に示す。表中、P/F比、A-aDO
2及び呼吸指数(Respiratory index)はそれぞれPaO
2/FiO
2(mmHg)(動脈血酸素分圧を吸入気酸素分圧で除したもの)、肺胞気動脈血酸素分圧較差(肺胞酸素分圧(PAO
2)と動脈血酸素分圧(PaO
2)の差)及びA-aDO
2/PaO
2(肺胞気動脈血酸素分圧較差を動脈血酸素分圧で除したもの)を示し、KL-6、SP-D、SP-A及びLDHは血清マーカーの値を示している。P/F比、A-aDO
2及び呼吸指数は、ALIの患者とCOP、idiopathic UIP、idiopathic NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIPの患者でそれぞれ比較した場合、統計学的にp<0.01で有意差を認めた。
【0140】
【表1】
【0141】
[実施例1]
HSP47タンパク質の調製
コラーゲン固定化カラムの作製
CNBr-activated Sepharose 4B (GE Bioscience)を1 mM HClに懸濁し、等量の3 mg/mlブタI型コラーゲン(新田ゼラチン)の1 mM HCl溶液と混ぜる。2倍量の0.2 M NaHCO
3, 0.5 M NaClを添加し、室温で2時間ローテーターを用いて攪拌した。樹脂を遠心により回収し、1 M エタノールアミン塩酸 (pH8.5) に懸濁して4℃,1時間攪拌する。樹脂を0.2 M NaHCO
3, 0.5 M NaCl、次いで0.5 M 塩化ナトリウム含有0.1 M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)で洗浄した。これをHSP47精製用のコラーゲン-Sepharose 4B樹脂とした。
組換HSP47タンパク質の調製
ヒトHSP47のcDNAをpET3aにサブクローニングし、発現プラスミドを構築した(pET-hH47)。大腸菌BL21(DE3)にpET-hH47を形質変換した。形質変換株を25℃で培養し、0.1 mM isopropyl thiogalactosideを添加し、さらに2時間培養した。以下の精製操作は4℃で行った。組換大腸菌菌体を遠心で回収し、抽出バッファー(50 mM トリス塩酸, pH8.0, 150 mM 塩化ナトリウム, 5 mM EDTA, 1 mM フッ化フェニルメチルスルホニル, 1 μg/ml ペプスタチンA, 1 μg/ml ロイペプチン, 0.2% Nonidet P40, 30% グリセロール)に懸濁した。超音波破砕後、12,000 rpm, 15分遠心し、上清を150 mM 塩化ナトリウム含有50 mM トリス塩酸, pH8.0で平衡化したコラーゲン-Sepharose 4Bカラム(1 literの培養あたりbedvolume 360 ml, 流速 1 ml/min)に供した。カラムを50 mM トリス塩酸, pH8.0, 150 mM塩化ナトリウム, 1% Nonidet P40 でカラムを洗滌した。樹脂に結合したHSP47を、MES緩衝液, pH5.8, 150 mM NaCl, 1% Nonidet P40, 10% グリセロールからなる溶液で溶出した。10分の1量の1 M トリス塩酸, pH8.0 で中和、グリセロールを最終濃度20%となるように加えた。
【0142】
[実施例2]
抗体固相化プレートの作製
96ウェルマイクロプレート(ヌンク社製)に、ウサギ抗HSP47ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)を50 mM 炭酸ナトリウム緩衝液 (pH9.6) で1.0μg/mL で希釈したものを50μL/ウェルで加え、4℃で一晩静置してプレート表面に抗体を結合させた。抗原溶液を捨てた後、非特異的なプレートへの吸着や非特異的反応を抑制するために、2% BSA(シグマ社製)含有リン酸緩衝液を200μL/ウェルで加え、室温で2時間静置してプレートのブロッキングを行った。次いで0.05% Tween 80含有PBS (PBST)でウェルを3回洗浄して、抗HSP47抗体固相化プレートを作製した。
【0143】
組換えHSP47の検出及び検量線の作成
組換えHSP47は、上記の方法で精製した標品を用いた。
上記のように作製したプレートに、前記組換えHSP47溶液(1% BSA−PBST中、pH7.4)を、濃度を変えて100μL/ウェルで加え、室温で2時間静置して抗HSP47抗体と組換えHSP47とが結合した複合体を形成させた。PBSTでウェルを3回洗浄後、マウス抗HSP47モノクローナル抗体(0.5 μg/mL,Stressgen社製)を100μL/ウェルで加え、37℃で2時間静置して複合体中の組換えHSP47にマウス抗HSP47モノクローナル抗体を結合させた。PBSTでウェルを3回洗浄後、POD標識した抗マウスIgG抗体(10,000倍希釈,Biosource社製)を100μL/ウェルで加え、37℃で2時間静置した。PBSTでウェルを3回洗浄後、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン基質溶液(Biosource社製)を100μL/ウェルで加え、室温で15分静置して発色させた。等量の1Mリン酸で反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。得られたデータに基づいて、検量線を作成した。
【0144】
[実施例3]
ヒト血清を検体として用いた、HSP47の検出
組換えHSP47溶液の代わりに急性肺損傷又は種々の慢性進行性間質性肺炎に罹患している患者の血清を検体として用い、実施例2と同様の操作を行って吸光度を測定した。実施例2で作成した検量線に基づき、各患者の血清中のHSP47濃度を算出した。結果を
図1に示す。
【0145】
慢性進行性間質性肺炎(COP、I-UIP、I-NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIP)の患者および健常者におけるHSP47濃度は低レベルであったが、急性肺損傷の患者では非常に高レベルの濃度を示した(
図1)。HSP47濃度について、ALIの患者とCOP、I-UIP、I-NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIPの患者又は健常者でそれぞれ比較した場合、統計学的にp<0.05で有意差を認めた。従って、血液中のHSP47濃度を指標に、患者が急性肺損傷に罹患しているか否かを判定することができる。
【0146】
[比較例1]
KL-6、SP-D、SP-A及びLDHについても、上記被験者の血清を用いて測定を行った。それぞれについて、
図2〜5に結果を示す。いずれの血清マーカーに関しても、慢性進行性間質性肺炎と急性肺損傷の患者間で有意差は認めなかった。
【0147】
[実施例4]
受信者動作特性曲線解析(Receiver Operating Characteristic (ROC) curve analysis)
被験者におけるHSP47蛋白、KL-6、SP-D、SP-A及びLDHの各血清マーカーの測定値に基づいて、受信者動作特性(ROC)曲線を作成した(作成方法は松尾収二、高橋浩:検査診断学におけるROC曲線の利用の実際.臨床病理 42:585-590, 1994を参照)。結果を
図6に示す。
【0148】
血清中HSP47蛋白値のROC曲線はKL-6値、SP-D値、SP-A値及びLDH値のROC曲線に比べ急性肺損傷の疾患群と慢性進行性間質性肺炎の疾患群を完全に分別できる左上隅点に最も近い位置に分布した。
【0149】
更に、血清中のHSP47蛋白のカットオフ値を859.3pg/mLに設定することにより、急性肺損傷と慢性進行性の間質性肺炎とを感度92.3 %、特異度98.2 %で鑑別することができた。従ってこの結果は、HSP47が従来の血清マーカーであるKL-6、SP-D、SP-A、LDHよりもはるかに有用なマーカーであることを示している。
この検討では、ALIの1か月後死亡率は31.3 %(10例/32例)、3か月後の死亡率は50 %(16例/32例)であったが、慢性進行性間質性肺炎(COP、I-UIP、I-NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIP)では1か月後、3か月後は全例生存していた。この結果は、HSP47が患者の予後予測因子として有用なマーカーであることを示している。
【0150】
[実施例5]
更に対象被験者数を増加させ、試験を行った。
【0151】
血清中HSP47についての調査対象母集団
本研究の被験者は、1991年4月〜2011年4月に長崎大学病院に入院した116人の患者と18人の成人健常者有志で構成した。患者には、本発明の急性肺損傷に含まれる急速進行性間質性肺炎(RPIP)の患者47人、特発性器質化肺炎(COP)の患者12人、特発性UIPの患者19人、特発性NSIPの患者16人、CVD-UIPの患者11人、CVD-NSIPの患者11人を含めた。以下の基準:1)30日以内の急速な経過で呼吸状態が悪化;2)高解像度胸部CTスキャンにて新たな両側性すりガラス状陰影及び/又は浸潤影を認める;3)安静時PaO
2/吸気酸素分画(FiO
2)比(P/F比)<300mmHg;及び4)明白な感染、気胸、肺血栓塞栓症、心不全又はそれ以外の急性肺損傷原因(身体的外傷、輸血又は毒物吸入)の欠如の4項目を満たす患者をRPIPと診断した。RPIPの患者は、IPFの急性増悪の患者17人、急性間質性肺炎(AIP)の患者10人、膠原血管病関連の間質性肺炎の患者8人及び薬剤性間質性肺炎の患者12人で構成した。
【0152】
統計解析
連続型変数の値は中央値(範囲)として表現した。群間の差は、適宜、連続型変数についての分散分析又はKruscal-Wallis検定、及びカテゴリー変数についてのχ
2検定を用いて検証した。分散分析により有意差が見出された場合、Scheffe法を用いてペアワイズ比較を行った。受信者動作特性曲線の左上隅の座標点を用いて、RPIPと他の間質性肺炎(COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP及びCVD-NSIP)とを鑑別するための至適カットオフ値を決定した。統計解析は統計ソフトウェアパッケージ(SAS 9.1.3, SAS Institute, Cary, NC)を用いて行った。p value<0.05を統計的有意とみなした。
【0153】
患者の特性
本研究において参集した患者の特性を表2に示す。RPIP群においては、COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP及びCVD-NSIP群と比較してP/F比が有意に低かった(P<0.01)。RPIP群においては、COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP及びCVD-NSIP群と比較して肺胞動脈分圧格差(A-a DO
2)が有意に
高かった(P<0.01)。RPIP群におけるAPACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)IIスコア及びSOFA(Sequential Organ Failure Assessment)スコアはそれぞれ、15.0(範囲は8〜35)及び4.0(範囲は2〜12)であった。
【0154】
【表2】
【0155】
疾患の転帰
RPIP群においては、30日死亡率は34.0%(患者47人のうち16人)で、90日死亡率は51.1%(患者47人のうち24人)であった。対照的に、COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP又はCVD-NSIP群の患者は、90日以内には誰も死亡しなかった。
【0156】
HSP47、KL-6、SP-A、SP-D及びLDHの血清中レベル
実施例2と同様にして患者におけるHSP47の血清中レベルを定量した。RPIPの患者におけるHSP47の血清中レベル(中央値1530.2[範囲は631.2〜14589.9]pg/ml)は、COP(239.1[16.6〜476.6]pg/ml)(P<0.01)、特発性UIP(330.9[105.1〜487.6]pg/ml)(P<0.01)、特発性NSIP(290.7[24.8〜603.0]pg/ml)(P<0.01)、CVD-UIP(348.8[122.8〜602.0]pg/ml)(P<0.05)、CVD-NSIP(383.1[101.9〜721.4]pg/ml)(P<0.05)、及び健常者の有志(547.9[332.1〜879.8]pg/ml)(P<0.05)よりも有意に高かった。COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIPの患者、及び健常者の有志の中では、HSP47の血清中レベルには有意な差がなかった(
図7)。
【0157】
特発性UIP、特発性NSIP、及びRPIPの患者のKL-6の血清中レベル(特発性UIPの患者(1460.0[444〜4340]U/ml)(P<0.05)、特発性NSIPの患者(1568.5[192〜4745]U/ml)(P<0.05)及びRPIPの患者(918.5[107〜5800]U/ml)(P<0.05))は、健常者の有志(195.0[144〜322]U/ml)のレベルよりも有意に高かった。しかし、RPIPの患者におけるKL-6の血清中レベルは、COP(427.5[172〜1310]U/ml)、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP(786.0[348〜1610]U/ml)及びCVD-NSIP(924.0[149〜2550]U/ml)のそれぞれと比較して、有意差はなかった(
図8)。
【0158】
RPIP及び特発性UIPの患者のSP-Aの血清中レベル(RPIPの患者(123.0[43.0〜328.0]ng/ml)(P<0.01)及び特発性UIPの患者(103.0[62.4〜355.0]ng/ml)(P<0.01))は、健常者の有志(22.8[12.1〜60.8]ng/ml)のレベルよりも有意に高かった。しかし、RPIPの患者におけるSP-Aの血清中レベルは、COP(52.8[20.6〜129.0]ng/ml)、特発性UIP、特発性NSIP(48.9[20.3〜127.0]ng/ml)、CVD-UIP(92.9[49.6〜114.0]ng/ml)、及びCVD-NSIP(51.9[26.2〜253.0]ng/ml)の患者のそれぞれと比較して、有意差はなかった(
図9)。
【0159】
COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP、CVD-NSIP、RPIPの患者(COPの患者(105.7[27.8〜247.0]ng/ml)、特発性UIPの患者(316.0[93.1〜721.0]ng/ml)、特発性NSIPの患者(477.0[17.2〜942.0]ng/ml)、CVD-UIPの患者(187.0[33.5〜264.0]ng/ml)、CVD-NSIPの患者(111.5[33.2〜275.0]ng/ml)、RPIPの患者(280.5[29.0〜4510.0]ng/ml))、及び健常者の有志(17.3[17.3〜53.3]ng/ml)で、SP-Dの血清中レベルに有意差はなかった(
図10)。
【0160】
RPIPの患者のLDHの血清中レベル(368.0[177〜2250]IU/l)は、COPの患者(164.0[132〜236]IU/l)(P<0.05)及び健常者の有志(124.5[20〜246]IU/l)(P<0.01)のレベルよりも有意に高かった。しかし、RPIPの患者におけるLDHの血清中レベルは、特発性UIP(233.0[113〜416]IU/l)、特発性NSIP(212.5[135〜738]IU/l)、CVD-UIP(373.0[172〜474]IU/l)、及びCVD-NSIP(247.0[181〜670]IU/l)の患者のそれぞれと比較して、有意差はなかった(
図11)。
【0161】
[実施例6]
受信者動作特性曲線
実施例4と同様にして受信者動作特性曲線を作成した(
図12)。当該受信者動作特性曲線に基づくと、最も高精度な診断をもたらす、HSP47についてのカットオフ値は617.1pg/mlであった。HSP47についてのカットオフ値617.1pg/mlは、100%の感度及び98.6%の特異度でRPIPと他の間質性肺炎(COP、特発性UIP、特発性NSIP、CVD-UIP、及びCVD-NSIP)とを鑑別した。診断精度は99.1%であった。血清中HSP47の使用により曲線の下で最大面積がもたらされた。HSP47の血清中レベルを用いると、急速進行性間質性肺炎の診断についての曲線下面積は0.998であった。対照的に、KL-6、SP-A、SP-D及びLDHの血清中レベルに基づく急速進行性間質性肺炎の診断についての曲線下の面積は、それぞれたった0.475、0.728、0.595及び0.776であった。
【0162】
この結果は、HSP47が従来の血清マーカーであるKL-6、SP-D、SP-A、LDHよりもはるかに有用なマーカーであることを示している。