【実施例】
【0076】
(ガラス1の配合量と圧粉磁心の特性および熱安定性の関係を求める実験)
水アトマイズ法を用いて作製したFe
74.43at%Cr
1.96at%P
9.04at%C
2.16at%B
7.54at%Si
4.87at%系非晶質軟磁性粉末、シリコーン樹脂、ステアリン酸亜鉛およびリン酸ガラス粉末(ガラス1)を混合して混合物を作製した。このリン酸ガラスにはアサヒテクノガラス製KF9079粉末を用いた。ガラス1のガラス転移温度(Tg)は280℃である。また、前記混合物におけるシリコーン樹脂の配合量を、軟磁性粉末の質量に対して1.4wt%、ステアリン酸亜鉛の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0.3wt%、ガラス粉末の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0wt%、0.3wt%、0.6wt%、1.2wt%、2.4wt%、4.2wt%、及び、6.1wt%とした。
【0077】
次に、前記混合物を金型に充填し、面圧1470MPaで加圧成形して、外径20mm×内径12mm×厚さ6.8mmのリング試料を作製した。得られたリング試料を窒素気流雰囲気中、470℃で1時間熱処理を行い圧粉磁心を作製した。
【0078】
得られたリング形状圧粉磁心の固有抵抗をスーパーメガオームメーター(DKK−TOA製SM−8213)を用いて測定し、リング形状圧粉磁心に銅線の巻線を施し、インピーダンスアナライザー(HP 4192A)を用いて初透磁率、BHアナライザー(岩崎通信製)を用いて周波数100kHz,Bm=100mTの条件で鉄損(初期)を測定した。耐熱試験はリング形状圧粉磁心を大気中180℃、250℃の乾燥炉に入れ1000時間保持後に初透磁率と鉄損を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
図4は、表1に示す各圧粉磁心のガラス1の添加量と初透磁率(初期)および鉄損(初期)との関係を示すグラフである。表1及び
図4に示すようにガラス1の添加量が増えるにしたがって、初透磁率は減少し、一方、鉄損は増加していくことがわかった。ガラス添加量が0.6wt%を超えると、初透磁率が、ガラスを添加しないNo.1(従来例)に対して10%以上低下し、一方、鉄損が40%以上増加することがわかった。これにより、圧粉磁心の磁気特性の低下を防止するには、ガラス添加量を0.6wt%以下にする必要があることがわかった。
ただし、圧粉磁心No.2〜No.7に用いられたガラス1は、ガラス転移温度(Tg)が280℃であり、本発明の範囲外である。よって圧粉磁心No.2〜No.7はいずれも、参考例である。
【0081】
表1に示す圧粉磁心の固有抵抗は、ガラス1の添加量の増加に伴って増加傾向を示し、いずれの試料も10
6Ω・cm以上を示すことから、圧粉磁心としては十分に高い値であることがわかった。
【0082】
図5は、表1の各圧粉磁心に対し、加熱温度を180℃および250℃とし、加熱時間を1000時間とした耐熱試験を施したときの、ガラス1の添加量と、前記耐熱試験後における初透磁率の変化率(%)および鉄損変化量(%)との関係を示したグラフである。ここで、「初透磁率の変化率」とは、[(耐熱試験後の初透磁率−初期の初透磁率)/初期の初透磁率]×100(%)で示される。「初期の初透磁率」とは、圧粉磁心の形成時(初期)であって、高温の使用環境下に曝す前の初透磁率を指す。
【0083】
また、「鉄損変化率」とは、[(耐熱試験後の鉄損−初期の鉄損)/初期の鉄損]×100(%)で示される。「初期の鉄損」とは、圧粉磁心の形成時(初期)であって、高温の使用環境下に曝す前の鉄損を指す。
【0084】
熱安定性の目安として、初透磁率の変化率においては180〜200℃×1000時間後に±15%以内、好ましくは±10%以内、250℃×1000時間後に±25%以内、好ましくは±20%以内、また鉄損変化率においては180〜200℃×1000時間後に±40%以内、好ましくは±30%以内、250℃×1000時間後に±70%以内、好ましくは±50%と設定した。
【0085】
表1及び
図5に示すように、ガラス1の添加量が増すにしたがって、耐熱試験後の初透磁率の変化率(%)はマイナス値であるものの、絶対値としては、小さくなる傾向にあることがわかった。また鉄損変化率(%)も、小さくなる傾向にあることがわかった。ガラス1の添加量を1.2wt%以上とすると、上記した耐熱安定性の目安をより効果的に満足することが分かるが、表1及び
図4に示すように、ガラスの添加量を1.2wt%以上とすることで初透磁率(初期)が低く且つ鉄損(初期)が大きくなる問題があることがわかった。。
【0086】
一方、ガラス1の添加量を0.6wt%以下とすると、250℃×1000時間後の初透磁率の変化率は、−20%をやや越えるものの、180℃×1000時間後の初透磁率の変化率は、−2%〜−3%と低い値を維持していることがわかった。また鉄損についても、ガラス1の添加量を0.6wt%以下とすると、180℃×1000時間後の鉄損変化率は、30%以内を維持できることがわかった。
【0087】
(ガラス2,3の製造)
ガラス2,3を以下の製造方法で生成した。
ガラス原料に市販のオルトリン酸、酸化ホウ素粉末、炭酸バリウム粉末、酸化錫粉末、酸化アルミ粉末を用いた。これらの原料を所定の配合量になるように計量し、白金ルツボに入れ予備混合した後に電気炉を用いて大気雰囲気中で溶融した。電気炉の設定温度は1000〜1300℃とした。
【0088】
次に、電気炉から白金ルツボを取り出し、ガラス溶融体を鉄鋳型にキャストしてガラスを得た。このガラスを乳鉢で粗粉砕した後にボールミルを用いて粉砕してガラス粉末を得た。
【0089】
また、キャストしたガラスの一部から3mm×3mm×20mmのガラスブロックを切り出し、歪みとりのアニール処理を行った後に熱機械分析装置(理学電機製TMA8310)を用いてガラス転移温度、屈伏温度および熱膨張係数を測定した。作製した各ガラス2,3の配合量とガラス転移温度、屈伏温度および熱膨張係数を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
(ガラス2,3の配合量と圧粉磁心の特性および熱安定性の関係を求める実験)
水アトマイズ法を用いて作製したFe
77at%Cr
1at%P
9.23at%C
2.2at%B
7.7at%Si
2.87at%系非晶質軟磁性合金粉末、シリコーン樹脂、ステアリン酸亜鉛および粉末状のガラス2あるいは粉末状のガラス3を混合して混合物を作製した。
【0092】
ここで表2に示すようにガラス2(リン酸ガラス)のガラス転移温度(Tg)は468℃であり、圧粉磁心の製造工程で施される熱処理温度(470℃)よりも2℃低い。またガラス3(リン酸ガラス)のガラス転移温度は442℃であり、圧粉磁心の製造工程で施される熱処理温度(470℃)よりも28℃低い。
【0093】
また、混合物におけるシリコーン樹脂の配合量を軟磁性粉末の質量に対して2.0wt%、ステアリン酸亜鉛の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0.3wt%、各ガラス2,3の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0wt%、0.1wt%、0.3wt%、0.6wt%とした。
【0094】
次に、前記混合物を金型に充填し、面圧1470MPaで加圧成形して、外径20mm×内径12mm×厚さ6.8mmのリング試料を作製した。得られたリング試料を窒素気流雰囲気中、470℃で1時間の熱処理を行い圧粉磁心を作製した。
【0095】
得られたリング形状圧粉磁心の質量と外形寸法から磁心の密度を算出し、配合量の数値を用いて軟磁性粉末の占有率を計算した。軟磁性粉末の占有率の計算式を示す。
【0096】
【数2】
【0097】
続いて、リング形状圧粉磁心の固有抵抗をスーパーメガオームメーター(DKK-TOA製SM−8213)を用いて測定し、リング形状圧粉磁心に銅線のまき線を施し、インピーダンスアナライザー(HP 4192A)を用いて初透磁率、BHアナライザー(岩崎通信製)を用いて周波数100kHz,Bm=100mTの条件で鉄損を測定した。耐熱試験はリング形状圧粉磁心を大気中200℃、250℃の乾燥炉に入れ1000時間保持後に初透磁率と鉄損を測定した。各測定結果を表3に示す。
【0098】
【表3】
【0099】
なお表3に示す圧粉磁心No.9〜11にはガラス2を用い、圧粉磁心No.12〜14にはガラス3を用いた。圧粉磁心No.8はガラスを添加していない従来例である。
【0100】
図6は、表3に示すガラス転移温度(Tg)が468℃であるガラス2とガラス転移温度(Tg)が442℃であるガラス3を夫々、添加した各圧粉磁心の初透磁率(初期)および鉄損(初期)とガラス2,3の添加量の関係を示すグラフである。初透磁率はいずれのガラスを用いた場合でもガラス添加量の増加に伴ってやや減少する傾向をみせており、ガラス添加量を0.6wt%としたとき初透磁率は、ガラスを添加しないNo,8(従来例)に対して2〜4%程度低下することがわかった。
【0101】
また、表3及び
図6に示すように、鉄損(初期)はガラス2を使用した場合、ガラス2の添加量の増加に伴って減少する傾向をみせており、一方、ガラス3を使用した場合、ガラス3の添加量の増加に対してほぼ一定値を示すことがわかった。
【0102】
ガラス転移温度(Tg)を、圧粉磁心の製造工程における熱処理温度より2〜28℃低いガラス2,3を用いることで、ガラス2,3を0.1wt%〜0.6wt%添加すると圧粉磁心の初透磁率は、ガラスを添加しない場合と同等、あるいはやや低下するが、鉄損は、ガラスを添加しない場合と同等かわずかに向上する(小さくできる)ことがわかった。
【0103】
表3に示す固有抵抗は、ガラス2,3の添加量の増加に対して変化が少なく、いずれの試料も10
6Ω・cm以上を示すことから、圧粉磁心としては十分に高い値であることがわかった。また、圧粉磁心に占める非晶質軟磁性粉末の占有率は78〜80%であった。
【0104】
図7は、表3のガラス転移温度(Tg)が468℃であるガラス2とガラス転移温度(Tg)が442℃であるガラス3を夫々、添加した各圧粉磁心の200℃×1000時間後および250℃×1000時間後におけるガラス2,3添加量と、初透磁率の変化率(%)との関係を示すグラフである。ガラス2を添加した圧粉磁心の200℃×1000時間後における初透磁率は、ガラス2の添加量が0.3wt%までは−11%程度まで減少するが、ガラス2の添加量を0.6wt%にすると初透磁率の変化率は−4%であった。ガラス2を添加した圧粉磁心の250℃×1000時間後における初透磁率の変化率は、ガラス2の添加量によらずほぼ一定値の−13%程度を示した。
【0105】
一方、ガラス3を添加した圧粉磁心の初透磁率の変化率はガラス添加量の増加に伴って減少し、ガラス3を0.6wt%添加すると初透磁率の変化率は200℃×1000時間後で−2%、250℃×1000時間後で−8%であった。
【0106】
図8は、表3のガラス転移温度(Tg)が468℃であるガラス2と、ガラス転移温度(Tg)が442℃であるガラス3を夫々添加した各圧粉磁心の200℃×1000時間後および250℃×1000時間後におけるガラス2,3添加量と鉄損変化率(%)との関係を示すグラフである。
【0107】
表3及び
図8に示すように、ガラス2を添加した圧粉磁心の200℃×1000時間後および250℃×1000時間後の鉄損変化率は、ガラス2の添加量の増加に伴って一様に増加し、ガラス2を0.6wt%添加すると鉄損変化率はそれぞれ+80%、+138%であった。一方、ガラス3を添加した圧粉磁心の200℃×1000時間後および250℃×1000時間後の鉄損変化率は、ガラス3の添加量の増加に対して変化が少なく、それぞれ+44%、+58%であった。
【0108】
以上により、ガラス2,3の添加量を0.1〜0.6wt%とすることで、初透磁率(初期)をガラスを添加しない場合(No.8)と同程度に設定でき、しかも初透磁率の熱安定性(耐熱特性)を向上させることができることがわかった。また、鉄損(初期)は従来例(No.8)とほぼ同等かそれ以下に小さくできた。
【0109】
ガラス1と、ガラス2,3とを対比すると、ガラス1は、ガラス転移温度(Tg)が280℃であり、圧粉磁心の製造工程で施される熱処理温度(470℃)よりも200℃程度低いが、ガラス2,3のガラス転移温度(Tg)は圧粉磁心の製造工程で施される熱処理温度(470℃)に対して2〜28℃低いだけである。
【0110】
そしてガラス1を圧粉磁心に用いた場合、180℃×1000時間後の初透磁率の変化率は低く抑えることができたものの初透磁率の低下が大きくなりやすい傾向がわかった。一方、圧粉磁心にガラス2,3を用いた場合では、初透磁率(初期)はガラスを添加しない場合と同程度にでき、しかも180℃×1000時間後のみならず250℃×1000時間後においても初透磁率の変化率を低く抑えることができた。
【0111】
圧粉磁心に使用するガラスとしては、ガラス2,3のほうがガラス1よりも、高い初透磁率の熱安定性という点で好ましいとわかった。
【0112】
(ガラスと磁性微粒子を複合添加した実験)
水アトマイズ法を用いて作製したFe
77at%Cr
1at%P
9.23at%C
2.2at%B
7.7at%Si
2.87at%系非晶質軟磁性合金粉末、シリコーン樹脂、ステアリン酸亜鉛およびNiZnフェライト粉末(磁性微粒子)を混合して混合物を作製した。このNiZnフェライト粉末は川崎製鉄製KN1−106GMSを用い、ボールミルを用いて30時間粉砕を行ってから乾燥して用いた。
【0113】
さらに、水アトマイズ法を用いて作製したFe
77at%Cr
1at%P
9.23at%C
2.2at%B
7.7at%Si
2.87at%系非晶質軟磁性合金粉末、シリコーン樹脂、ステアリン酸亜鉛、NiZnフェライト粉末およびガラス2あるいはガラス3を夫々、混合して混合物を作製した。また、この混合物におけるシリコーン樹脂の配合量を軟磁性粉末の質量に対して2.0wt%、ステアリン酸亜鉛の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0.3wt%、NiZnフェライト粉末の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0.3、0.6、1.2wt%、ガラス2,3の配合量を夫々、軟磁性粉末の質量に対して0、0.1、0.3、0.6wt%とした。
【0114】
次に、この混合物を金型に充填し、面圧1470MPaで加圧成形して、外径20mm×内径12mm×厚さ6.8mmのリング試料を作製した。得られたリング試料を窒素気流雰囲気中、470℃で1時間熱処理を行い圧粉磁心を作製した。
【0115】
得られたリング形状圧粉磁心の質量と外形寸法から磁心の密度を算出し、配合量の数値を用いて非晶質軟磁性合金粉末の占有率を計算した(数式2参照)。またリング形状圧粉磁心の固有抵抗をスーパーメガオームメーター(DKK−TOA製SM−8213)を用いて測定し、リング形状圧粉磁心に銅線のまき線を施し、インピーダンスアナライザー(HP 4192A)を用いて初透磁率、BHアナライザー(岩崎通信製)を用いて周波数100kHz,Bm=100mTの条件で鉄損を測定した。耐熱試験はリング形状圧粉磁心を大気中200℃、250℃の乾燥炉に入れ1000時間保持後の初透磁率と鉄損を測定した。各測定結果を表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
図9は、圧粉磁心No.15〜18(NiZnフェライトの添加あり。ガラスの添加なし)におけるNiZnフェライトの添加量と、初透磁率(初期)及び鉄損(初期)の関係を示すグラフである。圧粉磁心No.15は、ガラス及びNiZnフェライトの双方を含まない従来例である。
【0118】
NiZnフェライトの添加量の増加に伴って、圧粉磁心の初透磁率(初期)と鉄損(初期)はともに増加することがわかった。
【0119】
図10は、圧粉磁心No.15〜18(NiZnフェライトの添加あり。ガラス添加なし)を、200℃および250℃×1000時間の耐熱試験に曝したときのNiZnフェライトの添加量と、初透磁率の変化率および鉄損変化率との関係を示すグラフである。NiZnフェライトの添加量の増加に伴って初透磁率の変化率はマイナス値にて絶対値が徐々に大きくなり、NiZnフェライトの添加量を1.2wt%とすると、200℃×1000時間後、250℃×1000時間後でそれぞれ−12%、−18%を示した。鉄損変化率は200℃の耐熱試験では単調に減少し、250℃の耐熱試験ではNiZnフェライトの添加量が0.3wt%で最大値を示した後に減少をはじめ、NiZnフェライトの添加量を1.2wt%とすると、それぞれ+6%、+34%を示した。
【0120】
図11は、圧粉磁心No.19〜24(NiZnフェライト、ガラス2,3の添加あり)のガラス2,3の添加量と、圧粉磁心の初透磁率(初期)および鉄損(初期)との関係を示すグラフである。圧粉磁心No.19〜21では、ガラス2を添加し、圧粉磁心No.21〜24では、ガラス3を夫々添加した。なお表4に示すように、圧粉磁心No.19〜24では、NiZnフェライトの添加量を0.6wt%に統一した。
【0121】
また
図11のガラス2,3の添加量を0wt%としたときの初透磁率(初期)及び鉄損(初期)は、NiZnフェライトを0.6wt%とした圧粉磁心No.17の値とした。
【0122】
図11及び表4に示すように、初透磁率は、ガラス2,3の添加量の増加に伴ってやや減少する傾向を示すが、ガラス2,3の添加量を0.1wt%とすれば、ガラス及びNiZnフェライトの双方を添加しない圧粉磁心No.15(従来例)に比べて高くできることがわかった。
【0123】
一方、鉄損(初期)は、ガラス2,3の添加量に依存せずほぼ一定値を示したが、ガラス2の添加することで、圧粉磁心No.17(ガラス添加量が0wt%)に対して、鉄損(初期)はやや減少する傾向をみせ、ガラス3を添加することで、圧粉磁心No.17(ガラス添加量が0wt%)に対して、鉄損(初期)が増加する傾向をみせた。
【0124】
図12は、圧粉磁心No.19〜24(NiZnフェライト、及びガラス2,3の添加あり)に200℃×1000時間および250℃×1000時間の耐熱試験を行ったときのガラス添加量と、初透磁率の変化率との関係を示すグラフである。
【0125】
なお
図12のガラス2,3の添加量を0wt%としたときの初透磁率の変化率は、NiZnフェライトを0.6wt%とした圧粉磁心No.17の値とした。
【0126】
図12及び表4に示すように200℃×1000時間後における初透磁率の変化率は、マイナス値を示すが、ガラス2の添加量の増加に伴って、絶対値としては徐々に小さくなることがわかった。ただしガラス3を添加した場合では、添加量を0.3〜0.6wt%とすると、初透磁率の変化率は−3%でほぼ変化しなかった。
【0127】
次に、
図12及び表4に示すように250℃×1000時間後における初透磁率の変化率は、マイナス値を示すが、ガラス2を添加した場合では、ガラス添加量の増加に伴って、初透磁率の変化率(絶対値)は徐々に小さくなることがわかった。一方、ガラス3を添加したときの初透磁率の変化率もマイナス値を示すものの、初透磁率の変化率(絶対値)は、ガラスを添加しない場合(圧粉磁心No.17)に比べて小さくできた。ただ、ガラス3を添加したときの初透磁率の変化率は、ガラス添加量を変化させてもさほど変動しなかった。
【0128】
図13は、圧粉磁心No.19〜24(NiZnフェライト、ガラス2,3の添加あり)に200℃および250℃×1000時間の耐熱試験を行ったときのガラス添加量と、鉄損変化率との関係を示すグラフである。
【0129】
なお
図13のガラス2,3の添加量を0wt%としたときの鉄損変化率は、NiZnフェライトを0.6wt%とした圧粉磁心No.17の値とした。
【0130】
鉄損変化率は、耐熱試験温度を200℃と250℃としたときでほぼ同じような傾向を示した。ガラス2を添加した場合では添加量を0.3wt%まで増やしてもほぼ同じ鉄損変化率を示した、0.6wt%まで添加量を増やすと鉄損変化率が大きくなった。
【0131】
一方、ガラス3を添加した場合では、添加量を0.1wt%したときに鉄損変化率を最小にでき、さらに添加量を増すと鉄損変化率は大きくなることがわかった。
【0132】
表4及び
図11ないし
図13に示すように、ガラスとNiZnフェライトを複合添加することによって、比較的、高い初透磁率(初期)を確保できるとともに初透磁率の熱安定性を向上させることができ、更に鉄損変化率を小さくでき、鉄損の熱安定性を向上させることができるとわかった。特にガラス転移温度(Tg)が442℃であるガラス3を添加した圧粉磁心(特に圧粉磁心No.22)では鉄損変化率を効果的に小さくでき、鉄損の熱安定性をより効果的に向上させることができるとわかった。
【0133】
以上により本実施例では、ガラスの添加量を、軟磁性粉末の質量に対して、0.1質量%以上0.6質量%以下に設定し、更に磁性微粒子を添加する場合には、磁性微粒子の添加量を、軟磁性粉末の質量に対して、0質量%より大きく0.6質量%以下に設定した。
【0134】
(組成の異なる各ガラスを添加してなる各圧粉磁心の特性実験)
以下のガラス組成を備える複数のガラスを製造した。
【0135】
【表5】
【0136】
表5の各ガラス4〜18において、原料を表5に示された所定の配合量になるように計量し、白金ルツボに入れ予備混合した後に電気炉を用いて大気雰囲気中で溶融した。電気炉の設定温度は1000〜1300℃とした。
【0137】
次に、電気炉から白金ルツボを取り出し、ガラス溶融体を鉄鋳型にキャストしてガラスを得た。このガラスを乳鉢で粗粉砕した後にボールミルを用いて粉砕してガラス粉末を得た。
【0138】
また、キャストしたガラスの一部から3mm×3mm×20mmのガラスブロックを切り出し、歪みとりのアニール処理を行った後に熱機械分析装置(理学電機製TMA8310)を用いてガラス転移温度、ガラス軟化温度(屈伏温度)および熱膨張係数を測定した。作製した各ガラス4〜18の配合量とガラス転移温度、ガラス軟化温度(屈伏温度)および熱膨張係数を表5に示す。
【0139】
また表5には比重及びガラス化温度も添付した。
次に、表5に示す各ガラスと、非晶質軟磁性合金粉末、シリコーン樹脂、及びステアリン酸亜鉛等を混合して混合物を作製した。使用した非晶質軟磁性合金粉末は、水アトマイズ法を用いて作製したFe
77at%Cr
1at%P
9.23at%C
2.2at%B
7.7at%Si
2.87at%系非晶質軟磁性合金粉末である。
【0140】
また、この混合物におけるシリコーン樹脂の配合量を軟磁性粉末の質量に対して2.0wt%、ステアリン酸亜鉛の配合量を軟磁性粉末の質量に対して0.3wt%、各ガラスの配合量を、軟磁性粉末の質量に対して0.6wt%とした。
【0141】
次に、この混合物を金型に充填し、面圧1470MPaで加圧成形して、外径20mm×内径12mm×厚さ6.8mmのリング試料を作製した。得られたリング試料を窒素気流雰囲気中、470℃で1時間熱処理を行い圧粉磁心を作製した。
【0142】
実験では、リング形状圧粉磁心に銅線の巻線を施し、インピーダンスアナライザー(HP 4192A)を用いて初透磁率、BHアナライザー(岩崎通信製)を用いて周波数100kHz,Bm=100mTの条件で鉄損を測定した。耐熱試験はリング形状圧粉磁心を大気中200℃、あるいは250℃の乾燥炉に入れ1000時間保持後の初透磁率と鉄損を測定した。また圧粉磁心に圧縮力を作用させて破壊したときの圧縮力をコア最大強度とした。各測定結果を表6に示す。
【0143】
【表6】
【0144】
表6に示すガラスの欄は、表5のガラスNoと対応している。なお、表6中、200℃、250℃の欄における「μ´(100kHz)」、「鉄損(100kHz,100mT)」の値は初期値である。同じ圧粉磁心Noでそれぞれの初期値の値が若干異なっているが、これは、同じ条件で作製された別の圧粉磁心を用いて測定したためであり、各圧粉磁心を用いて、それぞれ200℃、250℃の各温度で1000時間保持した後の各値の変化率を計測した。
【0145】
図14は、表6の200℃の欄に示す各圧粉磁心の初透磁率(初期)のグラフである。
図14は、各圧粉磁心に添加したガラスのガラス転移温度Tgを横軸とし、ガラスの熱膨張係数αを縦軸とした。よって
図14にはガラスを添加していない従来例の圧粉磁心の実験結果は含まれていない。
【0146】
また
図15は、表6の200℃の欄に示す各圧粉磁心の鉄損(初期)のグラフである。
図15は、各圧粉磁心に添加したガラスのガラス転移温度Tgを横軸とし、ガラスの熱膨張係数αを縦軸とした。よって
図15にはガラスを添加していない従来例の圧粉磁心の実験結果は含まれていない。
【0147】
また
図16は、表6に示す各圧粉磁心の初透磁率の変化率(200℃、1000時間)であり、
図17は、各圧粉磁心の鉄損変化率(200℃、1000時間)との関係を示すグラフである。
図16、
図17は、各圧粉磁心に添加したガラスのガラス転移温度Tgを横軸とし、ガラスの熱膨張係数αを縦軸とした。よって
図16、
図17にはガラスを添加していない従来例の圧粉磁心の実験結果は含まれていない。
【0148】
まず表6の各圧粉磁心を圧縮成形する際の熱処理温度を470℃としたので、470℃よりも高いガラス転移温度(Tg)を有するガラスを添加した圧粉磁心は全て比較例
または参考例である。
【0149】
図14ないし
図17には470℃のガラス転移温度(Tg)のラインに線を引いた。この線よりも右側は比較例
または参考例である。
【0150】
表6、
図14及び
図16の実験結果を見てみると、ガラスのガラス転移温度(Tg)を470℃より低くすることで、比較的、高い初透磁率(初期)を得ることができるとともに、従来例(ガラス無添加)に比べて初透磁率の変化率(絶対値)を効果的に小さくできることがわかった。このように本実施例によれば初透磁率の熱的安定性を効果的に向上させることができるとわかった。またガラスのガラス転移温度(Tg)は
410℃以上とすることが好ましい。
ちなみに表6のうち本発明の実施例は、No.28、29、32〜36である。No.37は、ガラス転移温度(Tg)が470℃を超えているが、例外的に、初期のμ´、鉄損がガラス無添加のものより特性が向上し、200℃×1000h後のμ´、鉄損の変化も小さくなっている。
【0151】
またガラスの熱膨張係数α(×10
-7/℃)を60〜110、あるいは60〜90程度とすることが好ましい。これにより、より効果的に初透磁率の変化率の絶対値を小さくでき、熱的安定性の向上を図ることができるとわかった。
【0152】
本実施例では、200℃、1000時間後における初透磁率の変化率(絶対値)を4%以内、好ましくは3%以
内に抑えることが可能であるとわかった。
【0153】
また鉄損についても、ガラスのガラス転移温度(Tg)を
410℃以上470℃より低い値とすることで、熱的安定性を向上させることができるとわかった。