(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966238
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】マルチモード共振器、マルチモードフィルタ及び無線通信装置
(51)【国際特許分類】
H01P 1/208 20060101AFI20160728BHJP
H01P 1/202 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
H01P1/208 A
H01P1/202
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-187082(P2012-187082)
(22)【出願日】2012年8月27日
(65)【公開番号】特開2014-45389(P2014-45389A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514235905
【氏名又は名称】石崎 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【弁理士】
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】石崎 俊雄
【審査官】
宮田 繁仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−085908(JP,A)
【文献】
特開2004−064577(JP,A)
【文献】
特開2009−267702(JP,A)
【文献】
特許第5858521(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P1/20−1/219、 7/00−7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、
筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、
前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体と、を備え、
前記少なくとも4個の共振モードは、TEMモード2個とTEモード2個を含み、
前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の長手方向の長さは、略同一であることを特徴とするマルチモード共振器。
【請求項2】
前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の間を、導体の細いリード線で接続したことを特徴とする請求項1に記載のマルチモード共振器。
【請求項3】
前記リード線のインダクタンス成分が前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の間の容量と並列共振回路を構成し、前記2個のTEMモードの共振周波数で前記並列共振回路を共振させることを特徴とする請求項2に記載のマルチモード共振器。
【請求項4】
前記外部導体の周壁部の内壁に、内壁から中心に向かい、かつ長手方向に延びる凸部を複数形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマルチモード共振器。
【請求項5】
前記形成された凸部は、4個であることを特徴とする請求項4に記載のマルチモード共振器。
【請求項6】
前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルチモード共振器。
【請求項7】
前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルチモード共振器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とするマルチモードフィルタ。
【請求項9】
請求項8に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器、そのマルチモード共振器を用いたマルチモードフィルタ、及び、そのマルチモードフィルタを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話基地局などの多くの場所で、マイクロ波などの高周波信号で無線通信を行う無線通信装置が使用されている。これらの無線通信装置には、所望の共振周波数を中心とした帯域の電磁界を得るために、その共振周波数で共振する共振器を複数結合させて多段構成にした高周波フィルタが組み込まれている。高周波フィルタがN段構成の場合は、典型的には、1個のモードで共振する共振器が順にN個結合したものが用いられる。これに対し、高周波フィルタをN段よりも少ない段数の共振器で構成して小型化できるように、共振周波数を略同一にして複数の共振モードを縮退させたマルチモード共振器を用いるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、4個もの共振モードを縮退させたマルチモード共振器が記載されている。
図11〜
図14は、特許文献1に記載されたものと同様のマルチモード共振器101の構成及び電界分布を示すものである。
図11〜
図14では、外部導体102の内部の部材を示すために、それらの部材よりも手前の外部導体102の部分は透過して示している。また、電界を実線の矢印で示している。磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。
【0004】
このマルチモード共振器101は、箱状の外部導体(キャビティ)102の中に、特殊形状(略八角柱形状)の高誘電率の誘電体コア105が設けられている。誘電体コア105の中には、高誘電率による波長短縮効果によって波長が短くなった電磁界が偏在して共振する。ここでは、2つのTMモード(TM01δxモード、TM01δyモード)と1つのTEモード(TE01δモード)の3個の共振モードが縮退する。2つのTMモードは、
図11と
図12に示すように、電界がそれぞれX軸方向とY軸方向に走り、電磁界が2分の1波長でもって共振するモードである。TEモードは、
図13に示すように、電界が誘電体コア105の中心軸周りの円周方向に走り、電磁界が1波長でもって共振するモードである。
【0005】
そして、更に、共振モードの数を1つ増加させるために、一端が外部導体102に短絡した柱状の中心導体103が、誘電体コア105の中心軸に形成された中央孔に挿通するようにして付加されている。この構成により、いわゆる半同軸共振器の共振モードが得られる。半同軸共振器の共振モードは、
図14に示すように、電界が中心導体103から外部導体102に向けて放射状に走り、電磁界が中心導体103に沿って分布して4分の1波長でもって共振するTEMモードである。このTEMモードの共振周波数は、中心導体103から外部導体102までの間隙距離について、中心導体103の開放端103b側に比べて短絡端103a側が短くなるように、例えば中心導体103の外径を異ならせるようにして、上記の2つのTMモード及びTEモードの共振周波数に揃えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−349981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1ではマルチモード共振器101の構成により、4個もの共振モードを縮退させることができるとしている。しかし、このマルチモード共振器101は、誘電体共振器として働く誘電体コア105が必須の部材であり、所望の特性の誘電体コア105を作りあげるためのコストは非常に大きい。また、マルチモード共振器101は、TEMモードと他のモードとは多くの場所で電磁界を共有していないという点から、マルチモード共振器101が占有する空間の利用効率が高いとは言えない。
【0008】
本発明は、係る事由に鑑みてなされたものであり、その目的は、少なくとも4個の共振モードを縮退させたもので、誘電体の部材を必ずしも必要とせず、かつ、占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供することにあり、また、そのマルチモード共振器を用いた高周波フィルタであるマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いて低コストで小型化した無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のマルチモード共振器は、少なくとも4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器であって、筒状の周壁部の両端を第1端部及び第2端部により閉塞した箱状の外部導体と、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第1端部に短絡されて他端が開放された柱状の第1の中心導体と、前記外部導体の内部に配され、一端が前記外部導体の第2端部に短絡されて他端が開放された柱状の第2の中心導体と、を備え、前記少なくとも4個の共振モードは、TEMモード2個とTEモード2個を含み、前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の長手方向の長さは、略同一であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載のマルチモード共振器は、請求項1に記載のマルチモード共振器において、前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の間を、導体の細いリード線で接続したことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載のマルチモード共振器は、請求項2に記載のマルチモード共振器において、前記リード線のインダクタンス成分が前記第1の中心導体と前記第2の中心導体の間の容量と並列共振回路を構成し、前記2個のTEMモードの共振周波数で前記並列共振回路を共振させることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の周壁部の内壁に、内壁から中心に向かい、かつ長手方向に延びる凸部を複数形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載のマルチモード共振器は、請求項4に記載のマルチモード共振器において、前記形成された凸部は、4個であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルチモード共振器において、前記外部導体の内部空間は、空気が満たされていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載のマルチモード共振器は、請求項1〜
5のいずれか1項に記載のマルチ
モード共振器において、前記外部導体の内部空間は、高誘電率の誘電体で形成されている
ことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載のマルチモードフィルタは、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマルチモード共振器を1個用いた構成又は複数用いた多段構成にしたことを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の無線通信装置は、請求項8に記載のマルチモードフィルタを組み込んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記構成の外部導体と第1の中心導体と第2の中心導体を備えることにより、少なくとも4個の共振モードを縮退させ、誘電体コアのような誘電体の部材を必ずしも必要とせず占有空間の利用効率が高いマルチモード共振器を提供できる。また、そのマルチモード共振器を用いることによりマルチモードフィルタ、及びそのマルチモードフィルタを用いることにより低コストで小型化した無線通信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1の構成を示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図2】同上のマルチモード共振器1の構成の変形例を示すA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図3】同上のマルチモード共振器1の構成の変形例を示す長手方向の断面図である。
【
図4】同上のマルチモード共振器1の一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図5】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−A(及びB−B)の位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図6】同上のマルチモード共振器1の一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図7】同上のマルチモード共振器1のもう一つのTEMモードの電界分布を模式的に示すものであって、(a)は長手方向の断面図、(b)はA−Aの位置での長手方向に直交する断面図、(c)はB−Bの位置での長手方向に直交する断面図である。
【
図8】同上のマルチモード共振器1についてのシミュレーション結果であって、(a)は2個のTEMモードの共振周波数のリード線の直径に対する依存性、(b)は各共振モードの共振周波数の凸部2caの高さに対する依存性を示すものである。
【
図10】同上のマルチモード共振器1の構成の変形例を示す長手方向の断面図である。
【
図11】従来のマルチモード共振器101の構成及び一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【
図12】従来のマルチモード共振器101の構成及びもう一つのTMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【
図13】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【
図14】従来のマルチモード共振器101の構成及びTEMモードの電界分布を示すものであって、(a)は長手方向の外観図、(b)は長手方向に直交する外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態に係るマルチモード共振器1は、
図1に示すように、外部導体2と第1の中心導体3と第2の中心導体4とから構成されている。また、このマルチモード共振器1は、マイクロ波などの高周波の領域で用いられるものである。
【0021】
外部導体2は、金属材料製であり、筒状の周壁部2cの両端を第1端部2a及び第2端部2bにより閉塞した箱状のものである。本実施形態では、周壁部2cは円筒状のものとしている。
【0022】
外部導体2の周壁部2cの内壁には、中心に向かい、かつ長手方向に延びる凸部2caが複数形成されている。凸部2caの中心に向かう径方向の長さ(凸部2caの高さ)(
図1(b)におけるM6)は、凸部2caの先端と第1の中心導体3及び第2の中心導体4との間に所定の空隙を有するような長さである。凸部2caが奏する効果のためには、この空隙の長さは、通常、後述する第1の中心導体と第2の中心導体の間の間隙Sgの長さの5分の1以下とするのがよい。
【0023】
凸部2caは、例えば、図示するように周方向に略等間隔に4個形成される。場合によっては、4個よりも多い偶数個形成されてもよい。凸部2caの断面は、長方形状や台形状などが可能である。凸部2caは、
図1に示すように金属材料製の板状部材を円筒形の周壁部2cの内壁に接合して一体化しても、また、
図2に示すように外部導体2を内方に凹ませて形成してもよい。
【0024】
第1の中心導体3と第2の中心導体4は、金属材料製であり、外部導体2の内部に対称的に配されている。第1の中心導体3は、一端3aが外部導体2の第1端部2aに短絡されて他端3bが開放されている。第2の中心導体4は、一端4aが外部導体2の第1端部2bに短絡されて他端4bが開放されている。よって、第1の中心導体3の他端3bと第2の中心導体4の他端4bとは、所定の距離を有する長手方向の間隙Sgを介して対向している。第1の中心導体3と第2の中心導体4の長手方向の長さ(
図1(a)におけるM2とM3)は、略同一になっている。また、通常、第1の中心導体3と第2の中心導体4は、それらの中心軸が略一致し、外部導体2の中心軸とも略一致するようにして配される。また、本実施形態では、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状のものとしている。
【0025】
なお、第1の中心導体3と第2の中心導体4とは、中空部3d、4dを有する柱状、すなわち、有底筒状のものにしてもよい。この場合、
図3に示すように、他端3b、4bのみに端面を有し、一端3a、4a側が外部導体2の外方に向かって開口するようにしてもよい。
【0026】
第1の中心導体3と第2の中心導体4の間は、導体の細いリード線5で接続している。
【0027】
以上の構成により、マルチモード共振器1は4個の共振モードを有することができる。以下、具体的な共振モード、すなわち、2個のTEモード(第1のTEモード、第2のTEモード)と2個のTEMモード(第1のTEMモード、第2のTEMモード)について、
図4〜
図7を用いて説明する。なお、電磁界は、外部導体2の内部のうち第1の中心導体3と第2の中心導体4以外の部分である内部空間Sに生じ、図においては内部空間Sに生じる電界を実線の矢印で示している。また、磁界は、図示を省略しているが、電界に対しそれを周回するように分布する。また、マルチモード共振器1の長手方向をZ軸方向、それと直交する方向における第1方向をX軸方向、Z軸方向に直交し、かつ、第1方向に直交する方向である第2方向をY軸方向として説明する。
【0028】
第1のTEモードは、
図4に示すように、電界が凸部2caの先端と第1の中心導体3又は第2の中心導体4の間を第1方向(X軸方向)に走るものを中心に分布し、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。第2のTEモードは、
図5に示すように、電界が凸部2caの先端と第1の中心導体3又は第2の中心導体4の間を第2方向(Y軸方向)に走るものを中心に分布し、電磁界が外部導体2の両端部2a、2b間で2分の1波長でもって共振する。これらの2個のTEモードは、外部導体2が構成する円筒空洞共振器の、X軸方向又はY軸方向に電界が走るいわゆるTE111モードに種別することができる。
【0029】
また、これらの2個のTEモードは、凸部2ca以外の周壁部2cにおける電界は、ほとんど発生しないか或いは極めて小さい。また、これらの2個のTEモードは、第1の中心導体3と第2の中心導体4との間隙Sgの位置では、後述するリード線5により電界が打ち消されることで、凸部2caにおいても電界はほとんど発生しないか或いは極めて小さくなっている。
【0030】
第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、
図6及び
図7に示すように、電界が第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間、及び第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間を放射状に走るTEMモードである。第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第1の中心導体3の一端3aの位置(外部導体2の第1端部2aの位置)と第1の中心導体3の他端3bの位置の間に連続して分布し、かつ、第1の中心導体3の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第1の中心導体3の他端3bの位置近傍で最大になり、磁界は第1の中心導体3の一端3aの近傍で最大になる。また、第1のTEMモード及び第2のTEMモードは、電磁界が第2の中心導体4の一端4aの位置(外部導体2の第2端部2bの位置)と第2の中心導体4の他端4bの位置の間に連続して分布し、かつ、第2の中心導体4の周囲で4分の1波長でもって共振する。電界は、第2の中心導体4の他端4bの位置近傍で最大になり、磁界は第2の中心導体4の一端4aの近傍で最大になる。また、これらの2個のTEMモードは、凸部2ca以外の周壁部2cにおける電界は、ほとんど発生しないか或いは極めて小さい。
【0031】
第1のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが同じ向きになるものである。第2のTEMモードは、第1の中心導体3と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向と、第2の中心導体4と外部導体2の周壁部2cの間の電界の方向とが逆向きになるものである。
【0032】
対向している第1の中心導体3と第2の中心導体4は、それらの間隙Sgの距離が長くないと、容量による結合が大きいものとなる。そうすると、第1の中心導体3の周囲の電磁界と第2の中心導体4の周囲の電磁界とは、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間隙Sgの距離に応じて干渉し合い、その干渉により、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数は影響を受け易い。この干渉は、後述するように、リード線5によって極めて少なくすることができる。
【0033】
また、このような4個の共振モードの共振周波数は、第1のTEモードと第2のTEモードについては、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1がほぼ2分の1波長になる周波数であり、第1のTEMモード及び第2のTEMモードについては、第1の中心導体3の長さM2及び第2の中心導体4の長さM3がほぼ4分の1波長になる周波数である。第1のTEモードと第2のTEモードの波長は、円筒空洞共振器の管内波長とほぼ同じであるから、同じ周波数でも、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの波長よりも原理的に長くなり、よって、通常、第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数は、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数よりも高くなる。第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数と第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数は、後述するように、凸部2caによって近づけることができる。
【0034】
このようなマルチモード共振器1は、内部空間Sのどの場所においても、複数の共振モードが電磁界を共有しているので、その点から、マルチモード共振器1が占有する空間の利用効率が高い。また、上記の背景技術で示したような誘電体の部材を必ずしも必要としない。
【0035】
次に、リード線5と外部導体2の凸部2caの作用について、本願発明者が行ったシミュレーション結果を参照しつつ、詳述する。リード線5と凸部2caは、4個の共振モードの共振周波数を略一致させて、4個の共振モードを縮退させたマルチモード化を容易にするものである。
【0036】
なお、シミュレーション条件としては、外部導体2の両端部2a、2b間の長さM1を112mm、第1の中心導体3の長さM2と第2の中心導体4の長さM3を37.5mm、外部導体2の周壁部2cの直径M4を100mmとした。また、第1の中心導体3と第2の中心導体4の直径M5を49mmとした。
【0037】
先ず、リード線5の作用について説明する。このリード線5は、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間の容量による結合により、第1のTEMモードと第2のTEMモードの共振周波数が影響を受けてスプリットする(離れる)現象を抑制するものである。
【0038】
リード線5は、長さをa、直径をbとすると、近似的に式(1)で示すインダクタンス値Lのインダクタンス成分を持つ。
【0040】
このインダクタンス成分が第1の中心導体3と第2の中心導体4の間の容量と並列共振回路を構成し、それが共振をすると、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間では、電界結合が打ち消され、第1の中心導体3の周囲の電磁界と第2の中心導体4の周囲の電磁界の間の干渉が極めて少なくなる。よって、第1のTEMモードと第2のTEMモードの共振周波数でこの並列共振回路を共振させることで、第1のTEMモードと第2のTEMモードの共振周波数を略一致させることができる。なお、この並列共振回路が共振する周波数は、例えば、リード線5の直径を変えてインダクタンス値を制御することにより調整する。
【0041】
このようにリード線5により、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間の容量による結合の影響を打ち消すことができるので、第1のTEMモードと第2のTEMモードの共振周波数を略一致させることができるとともに、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間の間隙Sgの距離も短くでき、例えば、このシミュレーション条件のように、第1の中心導体3と第2の中心導体4のいずれの長さよりも短くできる。
【0042】
図8(a)に示すのは、リード線5の直径を変化させてインダクタンス値を変化させたときの、第1のTEMモードと第2のTEMモードの共振周波数の変化を示すシミュレーション結果である。図によると、リード線5の直径に依存して共振周波数が変化し、直径が0.4mmの近傍で、第1のTEMモードの共振周波数と第2のTEMモードの共振周波数が一致していることがわかる。なお、このシミュレーションは、凸部2caを設けていない状態で行っている。
【0043】
次に、外部導体2の凸部2caの作用について説明する。
【0044】
凸部2caは、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数よりも高いところに有る第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数を降下させるものである。それは、外部導体2の一部である凸部2caが第1の中心導体3及び第2の中心導体4との間に容量結合を形成するとともに、外部導体2の等価的な円周長が長くなって遮断周波数が低下することによる。第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数を下げることにより、第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数と第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数を近づけることができる。
【0045】
図8(b)に示すのは、凸部2caの高さM6を変化させたときの、4個の各共振モードの共振周波数の変化を示すシミュレーション結果である。図によると、凸部2caの高さM6を増加させる程、第1のTEモード及び第2のTEモードの共振周波数が降下していることが分かる。また、凸部2caは、その高さM6を増加させる程、第1のTEMモード及び第2のTEMモードの共振周波数を上げる傾向もみられた。なお、このシミュレーションは、リード線5の直径は、0.4mmとした。
【0046】
次に、リード線5と凸部2caにより、4個の共振モードの共振周波数を略一致させたシミュレーション結果を表1に示す。ここでは、リード線5の直径を0.2mmとし、凸部2caの高さM6を25mmとした。第1のTEMモード、第2のTEMモード、第1のTEモード、及び第2のTEモードの各共振周波数が略一致しており、4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器が可能である。
【0048】
また、この4個の共振モードの共振周波数が略一致している状態において、表2に示すような、第3のTEモード及び第4のTEモードがこの4個の共振モードの共振周波数の近傍に共振周波数を有して出現している。第3のTEモードは、電界が第1方向(X軸方向)に走るものを中心に分布し、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での電界の方向と第2の中心導体4が存在するZ軸位置での電界の方向とが逆向きとなっているものである。第4のTEモードは、電界が第2方向(Y軸方向)に走るものを中心に分布し、第1の中心導体3が存在するZ軸位置での電界の方向と第2の中心導体4が存在するZ軸位置での電界の方向とが逆向きとなっているものである。第3のTEモード及び第4のTEモードが出現しているのは、リード線5によって、第1の中心導体3と第2の中心導体4の間で、TEモードにおいても電界が打ち消される傾向にあるためである。
【0050】
このシミュレーション結果では、第3のTEモード及び第4のTEモードの共振周波数は、上記の4個の共振モードの共振周波数から若干離れているが、広帯域のマイクロ波フィルタ用としてはマルチモード化でき、これらも含めると6個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器が可能である。
【0051】
そして更に、この6個の共振モードの近傍に、表3に示すように、詳細は省略するが、断面の寸法で共振周波数が決まっているように見える共振モードが2個出現している。これらも、広帯域のマイクロ波フィルタ用としてはマルチモード化でき、これらも含めると8個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器が可能である。
【0053】
以上、マルチモード共振器1について説明した。
【0054】
なお、外部導体2の適切な箇所に、入出力端子や周波数調整用部材などを取り付けることができる。入出力端子は、マルチモード共振器1と結合して信号の入出力を行うものであり、例えば、第1の中心導体3又は第2の中心導体4と結合する電極が内部側に接続される。周波数調整用部材は、各々の共振モードの周波数を調整するものである。これらの入出力端子や周波数調整用部材は、様々な公知の技術を適宜利用することができる。
【0055】
このように少なくとも4個の共振モードを縮退させたマルチモード共振器1は、各々の共振モードを互いに結合させることによりマルチモードフィルタとして用いることができる。この場合、結合調整用ねじなど公知の結合調整用部材を外部導体2の適切な箇所に取り付けるなどして、電磁界分布を非対称にして摂動を生じさせることによって、互いに結合させることができる。このマルチモードフィルタは、所望の特性に応じて、マルチモード共振器1を1個用いた構成又は複数個用いた多段構成にすればよい。また、このマルチモードフィルタを組み込んで、無線通信装置を低コストで小型化することが可能になる。例えば、
図9に示すように、携帯電話基地局などの無線通信装置の送受共用器10において、アンテナ11にともに接続される送信用フィルタ12と受信用フィルタ13を共振周波数が異なるマルチモードフィルタとすれば、非常に低コストで小型化されたものとなる。
【0056】
以上、本発明の実施形態に係るマルチモード共振器について説明したが、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載する事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば、リード線5と凸部2caは、少なくとも4個の共振モードの共振周波数を略一致させて、それらの共振モードを縮退させたマルチモード化を容易にするものであるが、場合によっては他の手段を用いたり、他の手段と組み合わせたりすることも可能である。
【0057】
また、外部導体2は、円筒状に限らず角筒状なども可能であり、また、第1の中心導体3と第2の中心導体4は円柱状に限らず、角柱状や大小の直径の柱を重ねた段付き形状なども可能である。
【0058】
また、マルチモード共振器1は誘電体の部材を必要とするものではなく、内部空間Sを満たしているのは空気であるが、
図10に示すように、内部空間Sをセラミックなどの高誘電率の誘電体S’で形成することもできる。この場合、外部導体2、第1の中心導体3、第2の中心導体4は、誘電体S’の周囲に同時に成膜することによって形成することも可能である。誘電体S’を用いると、高誘電率による波長短縮効果によって電磁界の波長が短くなり、マルチモード共振器1の更なる小型化が可能になる。
【符号の説明】
【0059】
1 マルチモード共振器
2 外部導体
2a 外部導体2の第1端部
2b 外部導体2の第2端部
2c 外部導体2の周壁部
2ca 周壁部2cの凸部
3 第1の中心導体
3a 第1の中心導体3の一端
3b 第1の中心導体3の他端
4 第2の中心導体
4a 第2の中心導体4の一端
4b 第2の中心導体4の他端
5 リード線
S 内部空間
Sg 第1の中心導体3と第2の中心導体4の間の間隙