特許第5966348号(P5966348)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966348
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/01 20060101AFI20160728BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20160728BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   B60C11/01 A
   B60C11/03 200A
   B60C13/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-281671(P2011-281671)
(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公開番号】特開2013-129385(P2013-129385A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴紀
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−334322(JP,A)
【文献】 特開昭52−129103(JP,A)
【文献】 実開昭54−173441(JP,U)
【文献】 特開昭49−110006(JP,A)
【文献】 特開2007−245945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/01
B60C 11/03
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ幅方向に延在してバットレス部に開口するラグ溝を左右のショルダー陸部に備えると共に、タイヤ周方向に連続して延在するリブ状のフィンを少なくとも一方のバットレス部に備える空気入りタイヤであって、
前記フィンが、タイヤ周方向に所定間隔で前記フィンの頂部の全周に渡って配列された複数の切り込み部を有し、且つ、
前記切り込み部の配置間隔Pcと前記ラグ溝の溝幅Wとが、0.3≦Pc/W≦1.0の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ幅方向に延在してバットレス部に開口するラグ溝を左右のショルダー陸部に備えると共に、タイヤ周方向に連続して延在するリブ状のフィンを少なくとも一方のバットレス部に備える空気入りタイヤであって、
前記フィンが、タイヤ周方向に所定間隔で前記フィンの頂部の全周に渡って配列された複数の切り込み部を有し、且つ、
前記ラグ溝の溝幅をWとして、前記ラグ溝の前記バットレス部側の開口端からタイヤ周方向に±Wの距離までの領域Tを定義するときに、各領域Tにおける前記切り込み部の配置数Nが、1≦N≦5の範囲内にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記切り込み部の長さLcと、前記フィンの幅Sとが、0.15≦Lc/S≦0.50の関係を有する請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記切り込み部の幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦1.5[mm]の範囲内にある請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記フィンの頂部が、タイヤ子午線方向の断面視にて、円弧形状の輪郭線を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記フィンのタイヤ径方向外側の壁面が、タイヤ子午線方向の断面視にて、タイヤ径方向内側に凹となる円弧形状の輪郭線を有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記フィンが、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ幅方向内側にある請求項1〜6のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤのチェーン装着性を向上できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重荷重用空気入りタイヤでは、濡れた路面を走行する際に発生する水飛沫対策として、タイヤのバットレス部にフィンを設けた構成が採用されている。そして、このフィンにより、水飛沫の運動エネルギーを吸収して、水飛沫の飛散高さを低減している。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−318410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の空気入りタイヤでは、タイヤに雪路走行用のチェーンを装着したときに、フィンによりチェーンが掛かり難くなり、タイヤのチェーン装着性が低下するという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤのチェーン装着性を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明の空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に延在してバットレス部に開口するラグ溝を左右のショルダー陸部に備えると共に、タイヤ周方向に連続して延在するリブ状のフィンを少なくとも一方のバットレス部に備える空気入りタイヤであって、前記フィンが、タイヤ周方向に所定間隔で前記フィンの頂部の全周に渡って配列された複数の切り込み部を有し、且つ、前記切り込み部の配置間隔Pcと前記ラグ溝の溝幅Wとが、0.3≦Pc/W≦1.0の関係を有することを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ幅方向に延在してバットレス部に開口するラグ溝を左右のショルダー陸部に備えると共に、タイヤ周方向に連続して延在するリブ状のフィンを少なくとも一方のバットレス部に備える空気入りタイヤであって、前記フィンが、タイヤ周方向に所定間隔で前記フィンの頂部の全周に渡って配列された複数の切り込み部を有し、且つ、前記ラグ溝の溝幅をWとして、前記ラグ溝の前記バットレス部側の開口端からタイヤ周方向に±Wの距離までの領域Tを定義するときに、各領域Tにおける前記切り込み部の配置数Nが、1≦N≦5の範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、フィンが切り込み部を有することにより、切り込み部におけるフィンの剛性が低減される。すると、タイヤに雪路走行用のチェーンが装着されたときに、フィンが容易に変形できる。これにより、タイヤのチェーン装着性が向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大断面図である。
図3図3は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す斜視断面図である。
図4図4は、図1に記載した空気入りタイヤの作用を示す説明図である。
図5図5は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、トラックやバスなどに適用される重荷重用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。
【0011】
この空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のビードゴム17、17とを備える(図1参照)。一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、アッパーフィラー121およびローアーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された一対のベルトプライ141〜143から成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。これらのベルトプライ141〜143は、スチール材あるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを配列して圧延加工して構成され、ベルトコードをタイヤ周方向に相互に異なる方向に傾斜させることによりクロスプライ構造を構成する。トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のビードゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびビードフィラー12、12のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて、左右のビード部を構成する。
【0012】
また、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画されて成る複数の陸部31〜33とをトレッド部に備える。この実施の形態では、最外周方向主溝22が最も深い溝深さを有し、この周方向主溝22により、セカンド陸部32とショルダー陸部33とが区画されている。なお、周方向主溝とは、溝深さ8mm以上の周方向溝をいう。
【0013】
また、空気入りタイヤ1は、タイヤ幅方向に延在するラグ溝4を左右のショルダー陸部33、33に有する。ラグ溝4は、一方の端部にて最外周方向主溝22に開口し、他方の端部にてバットレス部に開口する。また、複数のラグ溝4が、タイヤ周方向に所定間隔で配置される。なお、ラグ溝とは、溝深さ2.0[mm]以上の横溝をいう。
【0014】
[水飛沫抑制用のフィン]
図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤのフィンを示す拡大断面図(図2)および斜視断面図(図3)である。
【0015】
この空気入りタイヤ1は、水飛沫抑制用のフィン5を備える(図2および図3参照)。このフィン5は、タイヤ左右のバットレス部のうち少なくとも車両装着状態にて車幅方向外側に位置するバットレス部に形成される。また、フィン5は、バットレス部のプロファイルからタイヤ幅方向に突出した形状を有し、タイヤ径方向外側(タイヤ接地端側)の壁面とタイヤ径方向内側(サイドウォール部側)の壁面とを有する。また、フィン5は、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状かつリブ状の構造を有する。
【0016】
なお、バットレス部とは、タイヤ接地端とタイヤ最大幅位置との間にある側壁部をいう。また、フィン5は、タイヤ加硫成形時にてサイドウォールゴム16に一体成形されても良いし、タイヤ加硫成形後に接着されて取り付けられても良い。
【0017】
また、フィン5の形状および位置が、以下のように設定される。
【0018】
まず、タイヤ子午線方向の断面視にて、タイヤ接地端をAとする。また、タイヤ接地端Aからフィン5に接線lを引き、この接線lとフィン5との接点をBとする。また、タイヤ軸方向に対する接線lの傾斜角をθとする。また、最も深い周方向主溝(ここでは、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22)の溝底からトレッド面のプロファイルに平行な曲線mを引き、この曲線mとタイヤの側壁面との交点をPとする。
【0019】
このとき、フィン5の頂部が円弧形状の輪郭線を有し、この頂部の円弧上に接点Bが位置する。また、フィン5のタイヤ径方向外側の壁面が、接線lに対してタイヤ内側に凹となる。これにより、タイヤ接地端Aから接点Bに向かうに連れてタイヤ軸方向に湾曲あるいは屈曲する側壁面が形成される。なお、この実施の形態では、フィン5のタイヤ径方向外側の壁面がタイヤ径方向内側に凹となる円弧形状の輪郭線を有し、さらに、フィン5のタイヤ径方向外側の壁面とバットレス部のプロファイルとがタイヤ内側に凹む円弧形状の輪郭線を介して滑らかに接続されている。
【0020】
また、接線lの傾斜角θが、θ<45[deg]の範囲内にあり、より好ましくは、32[deg]≦θ≦37[deg]の範囲内にある。また、フィン5とバットレス部のプロファイルとの交点Q(フィン5の根元のタイヤ径方向外側の端部)が、交点Pよりもタイヤ径方向内側の壁面に配置される。また、フィン5が、タイヤ最大幅を超えないように、フィン5の配置位置および高さHが調整される。これらにより、フィン5の形状および位置が適正化される。なお、フィン5の高さHは、バットレス部のプロファイルを基準として測定される。
【0021】
なお、タイヤ接地端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面におけるタイヤ軸方向の端部をいう。
【0022】
また、タイヤのトレッド端とは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態とされたときのタイヤのトレッド模様部分の両端部をいう。
【0023】
また、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0024】
[フィンの切り込み部]
また、この空気入りタイヤ1では、フィン5が、その頂部に切り込み部51を有する(図3参照)。フィン5の頂部とは、フィン5のタイヤ幅方向の最も外側にある部分をいう。したがって、フィン5の頂部と、図2の接点Bとは、必ずしも一致しない。
【0025】
フィン5の切り込み部51は、サイプ状あるいはスリット状の切り込みであり、フィン5と共に成形金型を用いて成形される。具体的には、切り込み部51の幅(厚さ)Wcが、0.5[mm]≦Wc≦1.5[mm]の範囲内にある。
【0026】
また、切り込み部51の長さLcと、フィン5の幅Sとが、0.15≦Lc/S≦0.50の関係を有する。切り込み部51の長さLcは、切り込み部51のタイヤ幅方向の延在範囲として測定される。フィン5の幅Sは、フィン5とバットレス部のプロファイルとの交点Qをとり、この交点Qからフィン5の頂部までのタイヤ幅方向の距離として測定される。なお、この交点Qと、図2の交点Pとは、必ずしも一致しない。また、フィン5の幅Sと、図2のフィン5の高さHと、必ずしも一致しない。
【0027】
また、フィン5が、タイヤ周方向に配列された複数の切り込み部51を有し、これらの切り込み部51の配置間隔Pcとラグ溝4の溝幅Wとが、0.3≦Pc/W≦1.0の関係を有する。すなわち、切り込み部51の配置間隔Pcが、ラグ溝4の溝幅W以下に設定される。
【0028】
また、ラグ溝4の溝幅をWとし、ラグ溝4のバットレス部側の開口端からタイヤ周方向に±Wの距離までの領域Tをとる。すなわち、ラグ溝4の開口端を中心とするタイヤ周方向の距離W×2の区間を、領域Tとする。このとき、領域Tにおける切り込み部51の配置数Nが、1≦N≦5(N:自然数)の範囲内にある。したがって、フィン5の切り込み部51が、ラグ溝4の開口端に対してタイヤ周方向の略同位置(領域T)に配置される。
【0029】
なお、図3の構成では、フィン5が、フィン5の頂部からタイヤ幅方向に延在するストレート形状の切り込み部51を有している。また、複数の切り込み部51が、タイヤ周方向に所定の配置間隔Pc(=W)で配列され、また、フィン5の全周に渡って配置されている。また、ラグ溝4がタイヤ幅方向に平行なストレート形状を有し、ラグ溝4の溝中心線n上に、1つの切り込み部51が配置されている。
【0030】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、タイヤ幅方向に延在してバットレス部に開口するラグ溝4を左右のショルダー陸部33、33に備える(図3参照)。また、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に連続して延在するリブ状のフィン5を少なくとも一方のバットレス部に備える。また、フィン5が、フィン5の頂部に切り込み部51を有する。
【0031】
かかる構成では、フィン5が切り込み部51を有することにより、切り込み部51におけるフィン5の剛性が低減される。すると、図4に示すように、タイヤに雪路走行用のチェーンCが装着されたときに、フィン5が容易に変形できる。これにより、タイヤのチェーン装着性が向上して、チェーンの位置ズレによるタイヤの制駆動性能の低下を抑制できる利点がある。
【0032】
また、この空気入りタイヤ1では、フィン5が、タイヤ周方向に配列された複数の切り込み部51を有する。また、これらの切り込み部51の配置間隔Pcとラグ溝4の溝幅Wとが、0.3≦Pc/W≦1.0の関係を有する(図3参照)。かかる構成では、0.3≦Pc/Wなので、フィン5の剛性が確保されて、切り込み部51を起点としたフィン5のモゲが抑制される利点がある。また、Pc/W≦1.0なので、切り込み部51の配置数が確保されて、切り込み部51によるチェーン装着性の向上効果が適正に得られる利点がある。
【0033】
また、この空気入りタイヤ1では、ラグ溝4の溝幅をWとして、ラグ溝4のバットレス部側の開口端からタイヤ周方向に±Wの距離までの領域Tをとるときに、領域Tにおける切り込み部51の配置数Nが、1≦N≦5の範囲内にある(図3参照)。かかる構成では、フィン5の切り込み部51が、ラグ溝4の開口端に対してタイヤ周方向の略同位置(領域T)に配置されることにより、切り込み部51の配置位置が適正化される。これにより、切り込み部51によるチェーン装着性の向上効果が適正に得られる利点がある。また、N≦5なので、フィン5の剛性が確保されて、切り込み部51を起点としたフィン5のモゲが抑制される利点がある。
【0034】
また、この空気入りタイヤ1では、切り込み部51の長さLcと、フィン5の幅Sとが、0.15≦Lc/S≦0.50の関係を有する(図3参照)。かかる構成では、Lc/S≦0.50なので、フィン5の剛性が適正に確保されて、フィン5の耐もげ性が向上する利点がある。また、0.15≦Lc/Sなので、切り込み部51の長さLcが適正に確保されて、切り込み部51によるチェーン装着性の向上効果が適正に得られる利点がある。
【0035】
また、この空気入りタイヤ1では、切り込み部51の幅Wcが、0.5[mm]≦Wc≦1.5[mm]の範囲内にある(図3参照)。かかる構成では、Wc≦1.5[mm]なので、切り込み部51を通過する水飛沫が低減されて、フィン5による水飛沫抑制性能が適正に確保される利点がある。また、0.5[mm]≦Wcなので、チェーンを装着したときのフィン5の変形が大きくなり、チェーン装着性が向上する利点がある。
【実施例】
【0036】
図5は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
【0037】
この実施例では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)チェーン装着性、(2)フィンの水飛沫抑制性能および(3)フィンの耐もげ性能に関する評価が行われた(図5参照)。これらの性能試験では、タイヤサイズ275/80R22.5の空気入りタイヤがリムサイズ22.5×7.50のリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに900[kPa]の空気圧およびJATMA規定の最大負荷能力が付与される。また、空気入りタイヤが、総重量25トンのトラックである試験車両に装着される。
【0038】
(1)チェーン装着性に関する評価では、チェーンを装着した試験車両が雪上路を30[km/h]で走行し、所定距離走行後におけるチェーンのタイヤ周方向の位置ズレ量[mm]が測定される。この位置ズレ量は、小さいほど好ましく、100[mm]以下であれば、従来例に対する優位性ありと認められる。
【0039】
(2)水飛沫抑制性能に関する評価では、試験車両が水深10[mm]の湿潤路を直進走行し、水飛沫の飛散高さがビデオカメラで撮影されて測定される。そして、この測定結果に基づいて、従来例のタイヤ新品時を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましく、95以上であれば、性能が適正に確保されているといえる。
【0040】
(3)耐もげ性能に関する評価では、試験車両が高さ250[mm]の縁石の乗り上げ試験を20回繰り返した後に、フィンのもげの発生数が観察される。そして、この観察結果に基づいて、従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましく、95以上であれば、性能が適正に確保されているといえる。
【0041】
実施例1の空気入りタイヤ1は、図1図3に記載した構成を有する。また、タイヤ新品時にて、タイヤ周長LがL=3035[mm]であり、接線lの傾斜角θがθ=35[deg]であり、最も深い周方向主溝22の溝深さGがG=18[mm]である。また、タイヤ接地端Aから接点Bまでのタイヤ径方向の距離DがD=20[mm]であり、フィン5の高さHがH=15[mm]である。また、ラグ溝4の幅WがW=13.0[mm]であり、フィン5の幅Sが12.0[mm]である。また、実施例2〜12の空気入りタイヤ1は、実施例1の空気入りタイヤ1の変形例である。
【0042】
従来例の空気入りタイヤは、実施例1の空気入りタイヤ1において、フィン5が切り込み部51を有していない(図示省略)。
【0043】
試験結果に示すように、実施例1〜12の空気入りタイヤ1では、チェーン装着性が向上し、また、水飛沫抑制性能および耐もげ性能が適正に確保されることが分かる。
【符号の説明】
【0044】
1 空気入りタイヤ、21、22 周方向主溝、31〜33 陸部、4 ラグ溝、5 フィン、51 切り込み部、11 ビードコア、12 ビードフィラー、121 アッパーフィラー、122 ローアーフィラー、13 カーカス層、14 ベルト層、15 トレッドゴム、16 サイドウォールゴム、17 ビードゴム、141〜143 ベルトプライ
図1
図2
図3
図4
図5