【文献】
Nakae, Takahiro; Matsuo, Yutaka; Nakamura, Eiichi,Synthesis of C5-symmetric functionalized [60]fullerenes by copper-mediated 5-fold addition of Reformatsky reagents,Organic Letters,2008年,10(4),621-623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フラーレン中間誘導体(1)に、活性水素を有する化合物を反応させて、該活性水素を有する化合物から1個の活性水素が除かれた構造の遊離基が前記フラーレン中間誘導体(1)のフラーレン骨格に付加した構造を有するフラーレン誘導体を得る工程を含むことを特徴とする請求項14ないし17のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、付加する置換基の数を制御することは非常に困難であり、また付加数3以下の低付加フラーレン類を効率よく得ることはできない。
また、非特許文献1に記載の方法では、−OC(=X)−R
1を1つだけ付加できるが、他方の置換基がトルエンやアニソールなどのアリール基に限定されてしまう。
そして、これらの手法では、いずれも1ポットで目的化合物を得ることはできない。
【0010】
本発明は、C
60等のフラーレン骨格に−OC(=X)−R
1基が任意の付加数で直接付加したフラーレンエステル型誘導体であって、温和な条件で速やかに合成することができるフラーレン誘導体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討した結果、フラーレン類に、周期表第8族、第9族及び第10族より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む金属化合物と、R
1−C(=X)−OHで表される化合物とを作用させることにより、フラーレン骨格に置換基−OC(=X)−R
1を温和な条件で速やかに付加できることを見出した。また、この合成の過程で、少なくとも1つの酸素原子を介する所定の置換基も1ポットで付加することを見出した。また、このフラーレン誘導体を溶媒に溶解させて製膜することでダイオードとして利用できることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 下記式(I)で示されることを特徴とするフラーレン誘導体。
【0014】
【化1】
【0015】
((I)式中、FLNは
、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C86、C88、C90、C92、C94、C96のいずれかのフラーレン骨格を示し、R
1は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を表し、Xは、酸素原子、又はイオウ原子を表し、R
2は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表し、a及びbは置換基の付加数を示し、それぞれ独立に1以上3以下の整数である。
式(I)中、−OC(=X)R1で表される置換基と、−OR2で表される置換基のそれぞれが結合するフラーレン骨格上の炭素原子は、単結合を介して隣合っており、かつ、−OC(=X)R1で表される置換基及び−OR2で表される置換基はいずれもフラーレン骨格上の炭素原子に、他の連結基を介さずに直接結合している。)
【0016】
[2] 前記式(I)中のR
2が、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基であることを特徴とする[1]に記載のフラーレン誘導体。
【0017】
[3] 前記式(I)中のaとbが、a=b=1であるか、a=b=2であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のフラーレン誘導体。
【0018】
[4] 前記式(I)中のFLN(フラーレン骨格)が、フラーレンC
60骨格であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
【0019】
[5] 前記式(I)中のFLN(フラーレン骨格)が、フラーレンC
70骨格であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
【0020】
[6] 前記式(I)中のFLN(フラーレン骨格)がフラーレンC
60骨格であるフラーレン誘導体とフラーレンC
70骨格であるフラーレン誘導体との混合物であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
【0021】
[7] 前記式(I)中のFLN(フラーレン骨格)がフラーレンC
60骨格であるフラーレン誘導体とフラーレンC
70骨格であるフラーレン誘導体と、フラーレンC
76骨格
、フラーレンC
78骨格
、フラーレンC82骨格、フラーレンC84骨格、フラーレンC86骨格、フラーレンC88骨格、フラーレンC90骨格、フラーレンC92骨格、フラーレンC94骨格、フラーレンC96骨格のいずれかのフラーレン誘導体との混合物であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のフラーレン誘導体。
【0024】
[
8] [1]ないし[
7]のいずれかに記載のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させてなることを特徴とするフラーレン誘導体溶液。
【0025】
[
9] [1]ないし[
7]のいずれかに記載のフラーレン誘導体を含むことを特徴とするフラーレン誘導体膜。
【0026】
[
10] [1]ないし[
7]のいずれかに記載のフラーレン誘導体を含むことを特徴とするダイオード。
【0027】
[
11] フラーレン類と、下記式(i)で表される化合物(以下「化合物(i)」と称す。)とを、周期表第8族、第9族及び第10族より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む金属化合物の存在下に反応させることにより、該フラーレン類のフラーレン骨格の少なくとも1箇所に置換基−OC(=X)−R
1を付加させたフラーレン誘導体(以下「フラーレン中間誘導体(1)」と称す。)を製造する工程を含むことを特徴とする[1]ないし[
7]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0028】
【化2】
【0029】
((i)式中、R
1は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を表し、Xは、酸素原子、又はイオウ原子を表す。)
【0030】
[
12] 前記金属化合物が鉄化合物であることを特徴とする[
11]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0031】
[
13] 前記金属化合物がハロゲン原子を含むことを特徴とする[
11]又は[
12]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0032】
[
14] 前記金属化合物の量が、前記フラーレン類の量に対して0.01〜1000(モル比)の範囲であることを特徴とする[
11]ないし[
13]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0033】
[
15] 前記化合物(i)の量が、前記フラーレン類に対して0.01〜1000(モル比)の範囲であることを特徴とする[
11]ないし[
14]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0034】
[
16] 前記フラーレン類を溶媒に溶解させた状態で、前記金属化合物の存在下、前記化合物(i)と反応させることを特徴とする[
11]ないし[
15]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0035】
[
17] 前記フラーレン類に前記金属化合物及び前記化合物(i)を作用させる際の温度が−30℃以上、200℃以下の範囲であることを特徴とする[
11]ないし[
16]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0036】
[
18] 前記フラーレン中間誘導体(1)に、活性水素を有する化合物を反応させて、該活性水素を有する化合物から1個の活性水素が除かれた構造の遊離基が前記フラーレン中間誘導体(1)のフラーレン骨格に付加した構造を有するフラーレン誘導体を得る工程を含むことを特徴とする[
14]ないし[
17]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0037】
[
19] 前記フラーレン類に前記金属化合物及び前記化合物(i)を作用させた後に、下記式(ii)で表される化合物を添加することにより、前記フラーレン中間誘導体(1)のフラーレン骨格の少なくとも1箇所に置換基−OR
2を付加させたフラーレン誘導体を製造することを特徴とする[
11]ないし[
17]のいずれかに記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0038】
【化3】
【0039】
((ii)式中、R
2は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表す。)
【0040】
[
20] 前記フラーレン中間誘導体(1)に、活性水素を有する化合物として水を反応させて、下記式(Ia)で表されるフラーレン誘導体(以下「フラーレン誘導体(2)」と称す。)を製造する工程を含むことを特徴とする[
18]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0041】
【化4】
【0042】
((Ia)式中、FLNはフラーレン骨格を示し、R
1は、水素原子、又は置換基を有し
ていてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を表し、Xは、酸素原子、又はイオウ原子
を表し、a及びbは置換基の付加数を示し、それぞれ独立に1以上3以下の整数である。)
【0043】
[
21] 前記フラーレン誘導体(2)に、下記式(iii)で表される化合物を反応させて、下記式(Ib)で表されるフラーレン誘導体を製造することを特徴とする[
20]に記載のフラーレン誘導体の製造方法。
【0044】
【化5】
【0045】
((iii)式中、R
3は、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表し、Qはフラーレン環上のOH基と反応可能な原子又は原子団を表す。)
【0046】
【化6】
【0047】
((Ib)式中、FLNはフラーレン骨格を示し、R
1は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を表し、Xは、酸素原子、又はイオウ原子を表し、R
3は、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表し、a及びbは置換基の付加数を示し、それぞれ独立に1以上3以下の整数である。)
【発明の効果】
【0048】
本発明のフラーレン誘導体の製造方法によれば、フラーレン類に対し、特定の金属化合物及びR
1−C(=X)−OHで表される化合物を作用させることにより、様々なフラーレンエステル型又はチオエステル型誘導体を、温和な条件にて、簡便かつ安価に得ることができる。
特に、置換基−OC(=X)−R
1と−OR
2が導入された前記式(I)で表される本発明のフラーレン誘導体は、置換基の導入で極性が向上し、各種溶媒への溶解性が高められ、また、その溶解度の調整も容易であることから、このフラーレン誘導体は、種々の反応の中間体として利用することが可能である。また、塗布法によりウェーハなどに製膜することも容易であり、これを利用した有機薄膜太陽電池などのダイオードを製作することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0051】
[フラーレン誘導体]
本発明のフラーレン誘導体は、下記式(I)で示されることを特徴とする。
【0053】
((I)式中、FLNはフラーレン骨格を示し、R
1は、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を表し、Xは、酸素原子、又はイオウ原子を表し、R
2は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表し、a及びbは置換基の付加数を示し、それぞれ独立に1以上3以下の整数である。)
【0054】
上記式(I)において、FLNで表されるフラーレン骨格としては、C
60、C
70、C
76、C
78、C
82、C
84、C
86、C
88、C
90、C
92、C
94、C
96などが挙げられるが、好ましくはC
60、C
70が挙げられる。
なお、このフラーレン骨格は、1付加体あるいは2付加体のメタノフラーレン骨格であってもよく、また、1付加体あるいは2付加体の環化付加フラーレン骨格であってもよい。
【0055】
また、式(I)中、R
1の炭素原子数1〜24の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等が挙げられ、アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であってもよい)アルキル基と、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。また、アルケニル基としては、具体的には、ビニル基、アリル基などが挙げられ、また、アルキニル基としては、具体的には、エチニル基、プロパルギル基などが挙げられる。また、アリール基としては、具体的にはフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ピリジル基、チオフェニル基、フリル基などが挙げられる。
【0056】
また、R
1の炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、酸素、窒素、硫黄、ケイ素などの原子、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、又はフェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基などの芳香環基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、スルホン基、スルホニル基、リン酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アセトキシ基、アルデヒド基、エステル基、アシル基、イミド基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、ニトリル基、アルキルシリル基、ホスフィン基などが挙げられる。また、ビニル基やアリル基のようなアルケニル基、エチニル基やプロパルギル基等のアルキニル基を有していてもよい。
【0057】
R
1としては、特に置換基を有していてもよいフェニル基、トリル基、キシリル基が好ましく、2,6−キシリル基が最も好ましい。
【0058】
式(I)において、Xは酸素原子又はイオウ原子であるが、好ましくは酸素原子である。
【0059】
式(I)において、R
2の置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基としては、上記R
1の置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。また、R
2の置換基を有していてもよいシリル基としては、上記のような置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基で置換されていてもよいシリル基が挙げられ、好ましくはトリメチルシリル基等のトリアルキルシリル基、トリメトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、又はジアルキルアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0060】
R
2の置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基の「置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基」としても、上記のR
1の置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基として例示したものと同様のものが挙げられる。置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基としては、アセチル基、エチルカルボニル基等のアルキルカルボニル基、フェニルカルボニル基、トリルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、アズレニル基等のアリールカルボニル基、アミド基、エステル基等が挙げられる。また、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基としては、アルキルチオカルボニル基、アリールチオカルボニル基、チオアミド基、チオエステル基等が挙げられる。
【0061】
これらのうち、R
2としては、入手のし易さ等から、水素原子、アセチル基、フェニルカルボニル基等が好ましい。
【0062】
式(I)において、a及びbは1〜3の整数であるが、好ましくは1又は2であり、特にa=b=1であるか、或いはa=b=2であることが好ましい。
【0063】
本発明のフラーレン誘導体が、フラーレン骨格に、2以上の置換基−O−R
2を有する場合、複数の−OC(=X)−R
1は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
また、本発明のフラーレン誘導体が、フラーレン骨格に、2以上の置換基−OC(=X)−R
2を有する場合、複数の−O−R
2は同一であってもよく、異なるものであってもよい。
また、−OC(=X)−R
1と−O−R
2は同一であってもよい。
【0064】
[フラーレン誘導体の製造方法]
本発明のフラーレン誘導体の製造方法は、上述の本発明のフラーレン誘導体の製造に好適な方法であって、フラーレン類と、下記式(i)で表される化合物(以下「化合物(i)」と称す。)とを、周期表第8族、第9族及び第10族より選ばれる少なくとも1種の金属原子を含む金属化合物の存在下に反応させることにより、該フラーレン類のフラーレン骨格の少なくとも1箇所に置換基−OC(=X)−R
1を付加させたフラーレン誘導体(以下「フラーレン中間誘導体(1)」と称す。)を製造する工程を含むことを特徴とする。
【0066】
((i)式中、R
1及びXは、前記式(I)におけると同義であり、好ましいものも同様である。)
【0067】
<フラーレン類>
化合物(i)を反応させるフラーレン類としては、C
60、C
70、C
76、C
78、C
82、C
84、C
86、C
88、C
90、C
92、C
94、C
96など特定の分子量を持つフラーレン単体、2つ以上の成分を有するフラーレン混合物、フラーレンを有する煤などが含まれる。また、水素化フラーレン、フッ素化フラーレン、PCBM(フェニルC
61酢酸メチルエステル)などのフラーレン誘導体、金属原子や水素分子などを内包した内包フラーレン、単層及び多層カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどのフラーレン類似の炭素クラスター、及びそれらとフラーレンとの混合物を用いることもできる。
好ましくは、このフラーレン類は、C
60、C
70、C
60とC
70の混合物、或いはC
60とC
70とC
60及びC
70以外の高次フラーレンとの混合物である。
【0068】
<化合物(i)>
化合物(i)としては、例えば、置換基を有していてもよい安息香酸、フタル酸、サリチル酸、ケイ皮酸、シクロヘキサンカルボン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、ピルビン酸、アミノ酸等のカルボン酸、チオ酢酸、チオプロピオン酸等のチオカルボン酸等が挙げられ、好ましくは、酢酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、メトキシ安息香酸、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸などが挙げられ、より好ましくは、2,6−ジメチル安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、2,6−ジクロロ安息香酸、2,4,6−トリクロロ安息香酸、2,6−ジメトキシ安息香酸、2,4,6−トリメトキシ安息香酸などの2,6位に置換基を有する安息香酸が挙げられる。
これらの化合物(i)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0069】
化合物(i)の使用量は、フラーレン類と反応するのに必要かつ十分な量であることが肝要である。具体的には、フラーレン類のモル量に対し、0.01〜1000倍のモル量の化合物(i)を用いるのが好ましい。より好ましくは、フラーレン類のモル量に対し、0.25〜250倍、更に好ましくは1〜100倍のモル量の化合物(i)を用いるとよい。
【0070】
<金属化合物>
本発明のフラーレン誘導体の製造方法において使用する金属化合物(以下、単に「金属化合物」と称す。)は、周期表第8族、第9族及び第10族より選ばれる少なくとも1種の金属原子、具体的には、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの1種又は2種以上を含む化合物であるが、好ましくは入手の容易さとコスト面で有利である第4周期の金属、例えば鉄原子を含む化合物を使用するのが好ましく、より具体的には、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、塩化ルテニウム(III)などに代表される求電子性を有するIII価の金属ハロゲン化合物を用いることが好ましい。これらの金属化合物を用いることにより、より効率的に、温和な条件下(例えば、常温、常圧下又はそれに近い状態)で、フラーレン骨格に置換基−OC(=X)−R
1を付加させることができる。
【0071】
なお、この金属化合物として、塩化鉄(II)、臭化鉄(II)、塩化ニッケル(II)、臭化ニッケル(II)などIII価以外の金属化合物を使用することもできる。
また、金属化合物は、金属原子とハロゲンからなる構造に限定されない。例えば、酸化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫化鉄(III)、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムなどを用いることもできる。また、アルキル基やアリール基を1つあるいは複数有していてもよいし、2種類以上の金属原子を含む錯体を用いてもよい。これらの金属化合物として、好ましくは少なくとも一つのハロゲン原子を含むもの、より好ましくは入手のし易さとコスト面から金属ハロゲン化物、特に好ましくは鉄ハロゲン化物を用いるのがよい。
【0072】
金属化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
金属化合物の使用量は、フラーレン類と反応するのに必要かつ十分な量であることが肝要である。具体的には、フラーレン類のモル量に対し、0.01〜1000倍のモル量の金属化合物を用いるのが好ましい。より好ましくは、フラーレン類のモル量に対し、0.5〜500倍、更に好ましくは1〜200倍、のモル量の金属化合物を用いるとよい。
【0074】
<溶媒>
本発明のフラーレン誘導体の製造方法において、フラーレン類と、金属化合物及び化合物(i)とを効果的に接触させることができれば、その接触方法については特に限定されないが、フラーレン類を有機溶媒に溶解あるいは懸濁させると、効果的に接触させることが可能になるため好適である。この場合、化合物(i)そのものを溶媒として用いても効果的である。
【0075】
反応に用いる有機溶媒としては、フラーレン類が可溶である溶媒、例えば芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩素化炭化水素類等が適しており、それらは環式、非環式いずれでもよい。
【0076】
ここで、溶媒として使用する芳香族炭化水素類としては、分子内に少なくとも1つのベンゼン核を有する炭化水素化合物であり、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、シメン等のアルキルベンゼン類、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン等のアルキルナフタレン類、テトラリン等が挙げられる。
【0077】
また、脂肪族炭化水素類としては、環式、非環式のいずれも使用できる。環式脂肪族炭化水素類としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の単環式脂肪族炭化水素類、また、その誘導体であるメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルシクロヘキサン、1,4−ジメチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n−プロピルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等があり、多環式脂肪族炭化水素類としては、デカリン等がある。非環式脂肪族炭化水素類としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン等がある。
【0078】
更に、塩素化炭化水素類としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等がある。
また、有機溶媒として、炭素数6以上のケトン、炭素数6以上のエステル類、炭素数6以上のエーテル類、及び二硫化炭素等を使用してもよい。
【0079】
ここで、工業的観点から、これらの有機溶媒の中でも常温液体で沸点が30〜300℃、中でも40〜250℃のものが好適に使用できる。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、1−メチルナフタレン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン等のアルキルベンゼン及び/又はテトラリン等のナフタレン誘導体等の芳香族炭化水素類やジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1−クロロナフタレン等の塩素化炭化水素類を用いることが好ましい。さらに好ましくは、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等の塩素化炭化水素類を用いると、反応が進行しやすく好適である。
【0080】
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒としても使用することができる。
【0081】
<反応条件>
本発明のフラーレン誘導体の製造方法における反応温度(フラーレン類と金属化合物と化合物(i)とを接触させる際の温度)は特に限定されないが、制御が容易であることから、−30℃〜200℃の範囲で実施すると好適である。
なお、反応時の雰囲気は特に限定されないが、酸素によりフラーレン類あるいはフラーレン誘導体が酸化される副反応を抑制するため、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気で実施するのが好適である。
【0082】
<反応後の処理>
本発明のフラーレン誘導体の製造方法では、金属化合物及び化合物(i)をフラーレン類と接触させた後、金属化合物そのものあるいは金属化合物に由来する物質(以下、両者を併せて「金属化合物等」という)、及び化合物(i)そのものあるいは化合物(i)に由来する物質(以下、両者を併せて「化合物(i)等」という)を系内から除去する必要がある。金属化合物等及び化合物(i)等が反応に使用する有機溶媒に不溶の場合、濾過、デカンテーションなどにより、有機溶媒に溶解しているフラーレン誘導体と不溶な金属化合物等及び化合物(i)等とに分離するのが好ましい。より好ましくは、シリカショートパスやアルミナショートパス、あるいは分液操作を用いて、不溶な金属化合物等を除去する。
【0083】
一方、金属化合物等及び化合物(i)等が反応に使用する有機溶媒に可溶な場合、晶析などによりフラーレン誘導体を固体として析出させ、濾過、デカンテーションなどにより、固体のフラーレン誘導体と有機溶媒に溶解している金属化合物等及び化合物(i)等とに分離するのが好適である。沸点が低い化合物(i)等は、蒸留などによって除去することが好適である。
あるいは、カラムクロマトグラフィーなどにより、フラーレン誘導体を精製するとより好ましい。
【0084】
<反応機構>
以下に、金属化合物としてFeCl
3を用い、化合物(i)としてカルボン酸(RCOOH)を用いた場合の本発明のフラーレン誘導体の製造方法における推定反応機構を示す。
【0086】
なお、上記の反応では、反応終了後、活性水素を有する化合物である水を添加して反応を停止させることにより、不安定な中間体(フラーレン中間誘導体(1))からOH体のフラーレン誘導体が製造される。
【0087】
<その他の反応例>
本発明においては、フラーレン類と、化合物(i)とを、金属化合物の存在下に反応させることにより製造された、該フラーレン類のフラーレン骨格の少なくとも1箇所に置換基−OC(=X)−R
1を付加させたフラーレン誘導体(フラーレン中間誘導体(1))に、活性水素を有する化合物を反応させて、該活性水素を有する化合物から1個の活性水素が除かれた構造の遊離基が前記フラーレン中間誘導体(1)のフラーレン骨格に付加した構造を有するフラーレン誘導体を得ることができる。この場合、活性水素を有する化合物として水を反応させることにより、下記式(Ia)で表されるフラーレン誘導体(以下「フラーレン誘導体(2)」と称す。)を製造することができる。
【0088】
【化10】
((Ia)式中、FLN、R
1、X、a及びbは前記式(I)におけると同義である。)
【0089】
また、フラーレン類に前記金属化合物及び化合物(i)を作用させた後に、下記式(ii)で表される化合物を添加することにより、前記フラーレン中間誘導体(1)のフラーレン骨格の少なくとも1箇所に置換基−OR
2を付加させたフラーレン誘導体を製造することができる。
【0090】
【化11】
((ii)式中、R
2は、前記式(I)におけると同義である。)
【0091】
また、フラーレン誘導体(2)に、下記式(iii)で表される化合物を反応させて、下記式(Ib)で表されるフラーレン誘導体を製造することができる。
【0092】
【化12】
((iii)式中、R
3は、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基を表し、Qはフラーレン環上のOH基と反応可能な原子又は原子団を表す。)
【0094】
((Ib)式中、R
1、X、a及びbは式(I)におけると同義であり、R
3は、式(iii)におけると同義である。)
【0095】
上記R
3における置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基としては、前記式(I)におけるR
2における置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜24の炭化水素基を有するチオカルボニル基と同様のものが挙げられる。
また、Qとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基等が挙げられる。
【0096】
[フラーレン誘導体溶液及びフラーレン誘導体膜]
本発明のフラーレン誘導体溶液は、本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させてなるものであり、また、本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体を含むことを特徴とする。
本発明のフラーレン誘導体膜は、本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させて溶液(本発明のフラーレン誘導体溶液)を調製し、このフラーレン誘導体溶液を基材に塗布し、得られた塗布膜を加熱して溶媒の少なくとも一部を除去することにより製膜することができる。
【0097】
フラーレン誘導体溶液の調製に用いられる溶媒としては、本発明のフラーレン誘導体が十分な溶解度を示し、かつ、常圧下又は減圧下で室温又は加熱することにより揮発させることのできる任意の溶媒を用いることができるが、さらに、入手の容易さ、価格、毒性、及び安全性等を考慮して適宜選択して用いることができる。
【0098】
この溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、芳香族ハロゲン化炭化水素類、複素環分子系溶媒、アルカン分子系溶媒、ハロアルカン分子系溶媒、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ニトロメタン、ニトロエタン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒及び水を挙げることができる。
【0099】
1価又は多価のアルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール等を挙げることができる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)、2−ヘプタノン、メチルイソプロピルケトン、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0100】
エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等を挙げることができる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、GBL(γ−ブチロラクトン)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)等を挙げることができる。
【0101】
芳香族炭化水素類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1−フェニルナフタレン等を挙げることができる。
芳香族ハロゲン化炭化水素類としては、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等を挙げることができる。
【0102】
複素環分子系溶媒としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、2−メチルチオフェン、ピリジン、キノリン、チオフェン等を挙げることができる。
アルカン分子系溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−デカン、n−ドデカン、n−テトラデカン、デカリン、cis−デカリン、trans−デカリン等を挙げることができる。
【0103】
ハロアルカン分子系溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロジフルオロエタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン等を挙げることができる。
【0104】
これら溶媒の中でも、より好ましく用いられる溶媒の例としては、PGMEA、PGME、乳酸エチル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、o−ジクロロベンゼン、MEK、GBL、NMP等が挙げられる。
【0105】
本発明のフラーレン誘導体溶液において、これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0106】
フラーレン誘導体溶液中のフラーレン誘導体濃度は、フラーレン誘導体の溶媒への溶解度、形成するフラーレン誘導体膜の膜厚等により異なるため一義的に定めることは困難であるが、0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%であることがより好ましく、2〜25質量%であることがさらに好ましい。フラーレン誘導体溶液のフラーレン誘導体濃度が低過ぎると、多量の溶媒を必要とし不経済であるとともに膜厚の大きなフラーレン誘導体膜を製膜するために繰返し塗布を行う必要が生じる。また、フラーレン誘導体溶液のフラーレン誘導体濃度が高過ぎると、溶液の粘性が高くなるなどして取り扱い性が悪くなり、また、均一な膜厚のフラーレン誘導体膜を得ることが困難になる。
【0107】
本発明のフラーレン誘導体溶液において、本発明のフラーレン誘導体は溶媒に完全に溶解していることが好ましいが、一部溶解できずに懸濁していてもよく、或いは沈殿していても構わない。
【0108】
また、本発明のフラーレン誘導体の優れた物性を大幅に損なうものでなければ、本発明のフラーレン誘導体溶液は、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒の他に、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は1種のみを含有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で含有していてもよい。その他の成分としては、界面活性剤や分散剤、高分子化合物等が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0109】
本発明のフラーレン誘導体溶液の調製方法は、本発明のフラーレン誘導体を溶媒に溶解させることができる方法であればよく、特に制限はないが、通常、所定の装置で攪拌しながらフラーレン誘導体を溶解させる方法、超音波を照射することによりフラーレン誘導体を溶解させる方法などを採用することができる。また、本発明のフラーレン誘導体及び溶媒、並びに必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序も、特に制限はない。
【0110】
本発明のフラーレン誘導体溶液は、安定性や操作性の観点から通常25℃程度で調製されるが、溶媒の沸点以下であれば、加熱しながらフラーレン誘導体を溶解させて保管することができる。また、本発明のフラーレン誘導体が析出する可能性があるが、25℃以下の低温下で調製、保管することもできる。
【0111】
フラーレン誘導体溶液の基材への塗布は、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法等の、任意の公知の方法により行うことができる。
【0112】
基材の形状としては、板状、フィルム状、球状、塊状、棒状、繊維状等が挙げられる。また、基材の材質としては、加熱処理の際に熱分解や変形を起こさない任意の材質のものを用いることができ、ガラス、半導体、金属、コンクリート等の無機系材料の他に、ポリイミド樹脂等の耐熱性を有する有機系材料を用いることもできる。
【0113】
フラーレン誘導体膜の膜厚は、基材への塗布に用いるフラーレン誘導体溶液の濃度や塗布量を調節することにより、用途等に応じて数nm〜数十μmの範囲内で適宜調整することができる。膜厚の下限は、好ましくは1nm、より好ましくは10nmである。膜厚の上限は、繰り返し塗布すれば理論上制限がないが、好ましくは10μm、より好ましくは1μmである。この膜厚は公知の膜厚測定方法により測定することができる。
【0114】
フラーレン誘導体溶液の膜厚が厚すぎると、塗布膜の膜質が悪化する可能性があり、薄すぎるとピンホール等の欠陥や、膜の不均質に起因する問題が起こる可能性がある。
【0115】
このようにして得られた塗布膜は、更に膜の炭素濃度を高くするために、フラーレン環上の置換基を除去することを目的として加熱処理を行ってもよい。また、この処理に先立って、膜中に残留した溶媒を除去するための工程を追加しても良い。
【0116】
溶媒の除去は、用いられる溶媒の沸点、揮発性等に応じて任意の方法により行うことができる。溶媒を除去するために用いられる方法としては、室温、大気圧下での風乾;室温、減圧下での減圧乾燥;大気圧又は減圧下での加熱乾燥等が挙げられ、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0117】
加熱による溶媒の除去の場合、フラーレン誘導体の閉殻構造の破壊が伴わない500℃以下、好ましくは300℃以下で行うことが好ましく、塗布膜の突沸等を防止するため150℃以下で行うことがより好ましい。さらに、酸化による膜質の変化を抑制するためには不活性雰囲気下で行うことが好ましい。溶媒除去はフラーレンの閉殻構造の破壊を伴わない温度条件下で、フラーレン誘導体の分解反応と同時に行ってもよい。減圧による乾燥の場合、好ましい減圧条件は1.33×10
2Pa(1torr)〜1.01×10
5Pa(760torr)である。
【0118】
溶媒の除去を不活性雰囲気下で行う際に使用できる不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0119】
加熱処理は、フラーレン誘導体の閉殻構造の破壊等を抑制するためには窒素等の不活性雰囲気下で行うことが好ましいが、フラーレン誘導体同士の酸素による架橋を促進する目的においては、空気中等の酸化性雰囲気下で加熱処理を行うことも可能である。
【0120】
[用途]
本発明のフラーレン誘導体並びにその溶液及び膜は、エッチング耐性、絶縁性、有機n型半導体としての優れた特性を生かして、各種ダイオード、フォトレジスト、ナノインプリンティング用の薄膜、層間絶縁膜、有機太陽電池、有機半導体薄膜、光導電性薄膜等の作成に有効である。
また、本発明のフラーレン誘導体は加水分解反応等により、更なる修飾(置換基の導入)が可能なため、任意の機能を付加することや、各種溶媒に対する溶解度を調整することができることから、各種の反応中間体としても様々な用途に利用できる。
以下に、本発明のフラーレン誘導体の主な用途について具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体の用途は、以下の記載に限定されるものではない。
【0121】
<フォトレジスト用途>
従来、フォトレジストには、被膜形成成分として(メタ)アクリル系、ポリヒドロキシスチレン系又はノボラック系の樹脂等の樹脂成分と、露光により酸を発生する酸発生剤や感光剤とを組み合わせた組成物が広く用いられている。
本発明のフラーレン誘導体は有機溶媒への溶解度が高いことにより、より高濃度でフォトレジストに複合化が可能である。また、本発明のフラーレン誘導体単独でもレジスト膜を形成することが可能であり、通常は均一な膜として製膜可能である。
【0122】
また、本発明のフラーレン誘導体膜は、分光エリプソメーターなどで屈折率(n値)及び消衰係数(k値)を測定することができる。また、これらの測定値を用い、フラーレン誘導体膜の誘電率や反射率を計算することができる。これらの光学定数は、当該フラーレン誘導体膜の用途によって求められる数値が大きく異なっている。さらに、前記の光学特性は、同じ用途でも、プロセスの種類や、フラーレン誘導体膜に含有される他の成分の種類や量によっても、求められる数値が大きく異なっている。よって、本発明のフラーレン誘導体が有する優れた物性を効果的に活用できる用途に用いることが好ましい。なかでも、本発明のフラーレン誘導体は、フラーレン骨格の共役π電子を大量に保持しているため、高エッチング耐性が期待できることから、フォトレジスト用途に好適に用いられる。
【0123】
本発明のフラーレン誘導体をフォトレジストの分野に用いた場合、フラーレン骨格を有する事により、超芳香族分子としての高耐熱性、高エッチング耐性を有し、エッジラフネスの低減が可能であり、高解像度のフォトレジストの再現が可能である。また、本発明のフラーレン誘導体又はフラーレン誘導体溶液を用いて形成したレジスト膜は、その吸収スペクトルから明らかなように反射防止膜としての機能も有するので、機能性多層膜の一層としても優れた機能を発揮することが期待される。
【0124】
<半導体製造用途>
半導体製造等の分野では、例えば500μm以下の微細パターンを生産効率良く形成する方法としてナノインプリント法が検討されている。ナノインプリント法とは、微細パターンを有するモールドのパターンを転写層に転写する微細パターンの形成方法である。
【0125】
このようなナノインプリント法としては、例えば、熱可塑性重合体からなる転写層を加熱して軟化させる工程と、転写層とモールドとを圧着してモールドのパターンを転写層に形成する工程と、モールドを転写層から離脱させる工程とを順次行なう方法;硬化性単量体からなる転写層をモールドに接触させる工程と、硬化性単量体を硬化させる工程と、硬化性単量体の硬化物からモールドを離脱させる工程とを順次行なう方法;などが知られている。
【0126】
本発明のフラーレン誘導体は各種の溶媒に対する溶解度が高いことにより、上記熱可塑性重合体に高濃度で充填することが可能であり、本発明のフラーレン誘導体をナノインプリント法に用いることにより、転写層の機械的強度、耐熱性及びエッチング耐性を向上させることが可能であることから、従来のナノインプリント材料の特性を大幅に改善することが可能となる。
【0127】
<低誘電率絶縁材料用途>
近年、コンピュータの中央処理装置(CPU)用回路基盤には、樹脂薄膜を層間絶縁膜とする高密度かつ微細な多層配線に適した樹脂薄膜配線が適用されるようになってきた。より高速な処理能力を有するコンピュータを実現するには、高密度かつ繊細な多層配線を活かし、かつ信号の高速伝播に適した低誘電率絶縁材料の開発が求められている。
【0128】
本発明のフラーレン誘導体は、通常、上記用途に使用される溶媒への溶解度が高いことより、特殊な溶媒を用いることなく、またフラーレン誘導体単独で成膜することも可能である。この際、本発明のフラーレン誘導体を製膜してなるフラーレン誘導体膜は、フラーレン構造が本質的に有する高抵抗、低誘電率の性質を保持しており、これにより、従来にない優れた性能の低誘電率の層間絶縁膜の実現が可能となる。
【0129】
<太陽電池用途>
有機太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して、優位な点が多数あるものの、エネルギー変換効率が低く、実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
【0130】
本発明のフラーレン誘導体は、上記用途で使用される溶媒への溶解度が高いため、p型半導体と効率的なバルクへテロ接合構造を構成することが容易である。また、本発明のフラーレン誘導体を製膜してなる本発明のフラーレン誘導体膜は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有しており、また、必要に応じて熱分解処理を行うことにより、フラーレン表面に結合した置換基が脱離あるいは分解することで、フラーレン骨格同士が接近し、キャリア移動度の向上が期待できる。
従って、本発明のフラーレン誘導体膜を用いることで、極めて高性能な有機太陽電池の実現が可能となる。また、通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能であり、製造工程の面でも有利である。
【0131】
<半導体用途>
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的に、フラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。
【0132】
本発明のフラーレン誘導体を製膜してなる本発明のフラーレン誘導体膜は、本質的にn型半導体としてのフラーレンの性質を有しており、また、用途によっては、上述のように熱分解処理を行うことでフラーレン表面に結合した置換基が脱離あるいは分解することにより、フラーレン骨格同士が接近し、キャリア移動度の向上が期待できる。これにより、本発明のフラーレン誘導体膜は、低コスト、高性能な有機半導体膜として利用されることが期待できる。
【実施例】
【0133】
以下、本発明の作用効果を確認するために、本発明のフラーレン誘導体の製造に用いる金属化合物及び化合物(i)を適宜選択し、常温、常圧で行った実施例について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。従って、以下の実施例は、フラーレン類としてC
60を用い、金属化合物の一例である塩化第2鉄と、化合物(i)として以下に記載するカルボン酸類を用いているが、当然のことながら、本発明で用いるフラーレン類はC
60以外のフラーレン類であってもよく、また、金属化合物は塩化第2鉄以外の金属化合物であってもよく、化合物(i)はカルボン酸類以外の化合物(i)であってもよい。
【0134】
[実施例1:塩化鉄(III)及び2,6−ジメチル安息香酸を用いたC
60誘導体1の合成]
【化14】
【0135】
500mgのC
60を25mLの1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、25℃で攪拌しながら、塩化鉄(III)2.3g(C
60に対して20当量)と、1.0gの2,6−ジメチル安息香酸(C
60に対して10当量)を添加した。2時間後、HPLC分析によりC
60がほぼ完全に反応したことを確認した(C
60反応率95%、C
60誘導体1選択率82%)。ここで、C
60反応率はHPLC分析でのC
60の面積の減少率から計算により求めた。また、選択率は、HPLC分析でのC
60誘導体1の面積%により求めた。
水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過することで不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1→1/0)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、ヘキサン300mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、430mgの黒色固体を得た(収率70%、HPLC純度99%)。
各種分析により、この生成物はC
60誘導体1であることが確認された。
【0136】
(1)IR(KBr)分析
3527(m),2922(w),1716(m),1265(m),1242(m),1111(m),1065(m),1036(m),984(m),768(m),698(m),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
69H
11O
3[M+H]
+):887.8
測定値:887.0
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ2.74(s,6H,CH
3),5.28(s,1H,OH),7.18(d,J=7.6Hz,2H,Ar−H),7.33(t,J=7.6Hz,1H,Ar−H)
【0137】
[実施例2:C
60誘導体2の合成]
【化15】
【0138】
300mgのC
60誘導体1を60mLの脱水ピリジンに溶解させ、25℃で攪拌しながらトリメチルシリルクロリド3.68g(C
60誘導体1に対して100当量)と、2.1mgのN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(C
60誘導体1に対して0.05当量)を添加した。3時間後、HPLC分析によりC
60誘導体1がほぼ完全に反応したことを確認した。得られた反応液に対してトルエン及び水で分液操作を行い、有機相をエバポレーターにて濃縮後、メタノール300mLを滴下して晶析を行い、次いで40℃で真空乾燥を行って、295mgの黒色固体を得た(収率91%、HPLC純度91%)。
各種分析により、この生成物はC
60誘導体2であることが確認された。
【0139】
(1)IR(KBr)分析
2926(w),1734(m),1252(m),1236(m),1113(m),1070(s),877(m),845(m),527(m)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
72H
18O
3Si[M]
−):959.0
測定値:959.2
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ0.46(s,9H,Si−CH
3),2.90(s,6H,Ar−CH
3),7.26(d,J=7.6Hz,2H,Ar−H),7.39(t,J=8.0Hz,1H,Ar−H)
【0140】
[実施例3:C
60誘導体3の合成]
【化16】
【0141】
100mgのC
60誘導体1を10mLのベンゾニトリルに溶解させ、25℃で攪拌しながらトリエチルアミン685mg(C
60誘導体1に対して60当量)と、塩化ベンゾイル476mg(C
60誘導体1に対して30当量)と、3.0mgのN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(C
60誘導体1に対して0.2当量)を添加した。1時間後、HPLC分析により反応が終了したことを確認した。得られた反応液に対してトルエン及び水で分液操作を行い、有機相をエバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、トルエン/ヘキサン=1/4)による精製を行った後、メタノール100mLを滴下して晶析を行い、次いで40℃で真空乾燥を行って、84mgの黒色固体を得た(収率75%、HPLC純度95%)。
各種分析により、この生成物はC
60誘導体3であることが確認された。
【0142】
(1)IR(KBr)分析
2922(w),1741(s),1423(m),1263(s),1232(s),1180(m),1065(s),978(m),769(m),706(m),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
76H
14O
4[M]
−):990.9
測定値:990.6
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ2.41(s,6H,Ar−CH
3),6.94(d,J=7.6Hz,2H,Ar−H),7.16(t,J=7.8Hz,1H,Ar−H),7.50(t,J=7.8Hz,2H,Ar−H),7.65(t,J=7.6Hz,1H,Ar−H),8.29(d,J=8.0Hz,2H,Ar−H)
【0143】
[実施例4:塩化鉄(III)及び各種カルボン酸を用いたC
60誘導体の合成]
実施例1と同様の手法を用いて、C
60と各種カルボン酸との反応性を確認した。
【0144】
<実施例4−1:C
60誘導体4の合成>
【化17】
【0145】
501mgのC
60を25mLの1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させ、25℃で攪拌しながら塩化鉄(III)を2.3g(C
60に対して20当量)と、0.95gのm−トルイル酸(C
60に対して10当量)を添加した。8時間後、HPLC分析により反応が終了したことを確認した。水を加えて反応を停止し、反応液をセライト濾過することで不溶分を除去し、エバポレーターにて濃縮後、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離液:トルエン/ヘキサン=1/1→1/0)にて精製を行った。目的物を含む溶液をエバポレーターにて濃縮後、ヘキサン300mLを滴下して晶析を行い、40℃で真空乾燥を行い、150mgの黒色固体を得た(収率25%、HPLC純度96%)。
【0146】
各種分析により、この生成物はC
60誘導体4であることが確認された。
(1)IR(KBr)分析
3512(m),2912(w),1701(s),1277(s),1192(s),1101(m),1036(s),999(m),742(m),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
68H
7O
3[M−H]
−):871.8
測定値:871.8
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ2.56(s,3H,Ar−CH
3),5.26(s,1H,OH),7.49−7.55(m,2H,Ar−H),8.30(d,J=7.6Hz,1H,Ar−H),8.32(s,1H,Ar−H)
【0147】
<実施例4−2:C
60誘導体5の合成>
【化18】
【0148】
m−トルイル酸の代りに、0.95gのp−トルイル酸(C
60に対して10当量)を用い、反応時間を7時間としたこと以外は実施例4−1と同様の操作を行って、146mgの黒色固体を得た(収率24%、HPLC純度95%)。
【0149】
各種分析により、この生成物はC
60誘導体5であることが確認された。
(1)IR(KBr)分析
3506(m),2912(w),1701(s),1610(m),1275(s),1178(m),1092(s),1034(m),989(m),748(m),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
68H
7O
3[M−H]
−):871.8
測定値:871.8
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ2.55(s,3H,Ar−CH
3),5.29(s,1H,OH),7.42(d,J=8.4Hz,2H,Ar−H),8.39(d,J=8.4Hz,2H,Ar−H)
【0150】
<実施例4−3:C
60誘導体6の合成>
【化19】
【0151】
C
60を500mg用い、m−トルイル酸の代りに、0.89gのシクロヘキサン安息香酸(C
60に対して10当量)を用い、反応時間を6時間としたこと以外は実施例4−1と同様の操作を行って、124mgの黒色固体を得た(収率21%、HPLC純度92%)。
【0152】
各種分析により、この生成物はC
60誘導体6であることが確認された。
(1)IR(KBr)分析
3525(m),2926(m),2848(m),1718(s),1448(m),1126(m),1036(s),1016(s),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
67H
11O
3[M−H]
−):863.8
測定値:864.0
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ1.42−1.56(m,3H,C
6H
11),1.73−2.05
(m,3H,C
6H
11),2.34−2.49(m,2H,C
6H
11),2.94−2.99(m,2H,C
6H
11),3.47−3.87(m,1H,C
6H
11),5.05(s,1H,OH)
【0153】
<実施例4−4:C
60誘導体7の合成>
【化20】
【0154】
C
60を503mg用い、m−トルイル酸の代りに、0.42gの酢酸(C
60に対して10当量)を用い、反応時間を4時間としたこと以外は実施例4−1と同様の操作を行って、160mgの黒色固体を得た(収率29%、HPLC純度95%)。
【0155】
各種分析により、この生成物はC
60誘導体7であることが確認された。
(1)IR(KBr)分析
3512(m),2912(w),1701(s),1277(s),1192(s),1101(m),1036(s),999(m),742(m),526(s)
(2)ESI−MS測定
理論値m/z(C
62H
3O
3[M−H]
−):795.7
測定値:796.0
(3)
1H−NMR(400MHz、CDCl
3)測定
δ2.69(s,3H,CH
3),4.99(s,1H,OH)
【0156】
実施例4−1〜4−4におけるC
60反応率とC
60誘導体の選択率を、実施例1と同様にしてHPLC面積法によって測定し、結果を、実施例1の結果と共に表1に示した。
【0157】
【表1】
【0158】
表1より明らかなように、何れのカルボン酸を使用しても、問題なく反応が進行することが確認できた。
【0159】
[参考例1:塩化鉄(III)及び各種基質を用いたC
60誘導体の合成]
実施例1と同様の手法を用いて、C
60と各種基質との反応性を確認した。
化合物(i)として、2,6−ジメチル安息香酸の代りに表2に示す基質を用いたこと以外は実施例1と同様にして反応を行い、同様にC
60反応率を求め、結果を表2に示した(表2中、C
6H
5はフェニル基である。)。
【0160】
【表2】
【0161】
表2より明らかなように、何れの基質を使用しても、C
60は反応が進行することが確認できたが、十分な反応性を示す基質はカルボン酸とカルボン酸エステルのみであった。ただし、C
60とカルボン酸エステルとの反応生成物は溶媒に不溶な成分に変質していると推定された。
【0162】
[実施例5:溶液調整及び製膜]
実施例1〜3で合成したC
60誘導体1、C
60誘導体2、C
60誘導体3を用いて、シリコンウェーハ上への製膜を行った。
ウェーハはCZ結晶、P型(Boronドーパント)、直径100mm、厚み525μmのものを使用した。
各種C
60誘導体を表3に示す溶媒に表3に示す濃度で溶解させた溶液を、ウェーハ上に添加し、スピンコート(500rpmで1秒間、1000rpmで45秒間)により塗布した。その後、ホットプレート上で110℃で1分間ベークし、得られた膜について膜厚計(KLA Tencor製、Alpha−Step IQ)にて膜厚を測定し、結果を各C
60誘導体の溶媒への溶解性と共に表3に示した。
なお、膜厚は、製膜された膜について各々3ヶ所測定し、その平均値を求めた。
比較のため、C
60を用いて同様に溶媒への溶解、塗布を試みたところ、C
60はo−ジクロロベンゼンに溶解したが、溶液がシリコンウェーハに対する濡れ性がなく、均一な塗布膜が形成できず、塗布が不可能で、製膜することができなかった(比較例1)。
【0163】
【表3】
【0164】
[実施例6:C
60誘導体2および3のCV特性の測定]
実施例2および3で合成したC
60誘導体2、C
60誘導体3を用いて、CV特性(電流/電圧特性)測定による電気化学的特性の評価を行った。
【0165】
C
60誘導体(1.0mM)および指示電解質Bu
4N
+PF
6−(0.1M)のo−ジクロロベンゼン溶液を調整し、北斗電工製HZ−5000にてCV測定を行った。作用電極としてグラッシーカーボン、対照電極としてPt電極、参照電極としてAg/Ag
+電極を用いた。測定温度は室温(25℃)、スキャン速度は0.1V/秒である。また、比較のため、フェロセン基準を用いて還元電位を算出した。
C
60誘導体2、C
60誘導体3、および対象としてC
60、PCBM(フェニルC
61酪酸メチルエステル)の還元電位を表4に示す。
【0166】
【表4】
【0167】
また、C
60誘導体2,3のCV特性の測定結果を
図1,2にそれぞれ示す。
【0168】
これらの結果から、C
60誘導体2、C
60誘導体3は、可逆的で再現性の良いCV特性を示すことが分かった。
また、これらの還元電位は、塗布型有機薄膜太陽電池のn型半導体として汎用的に用いられる、PCBMよりも優れたアクセプター性を有することが分かった。その還元電位は、蒸着型有機薄膜太陽電池のn型半導体として汎用的に用いられる、C
60に近い。C
60は非常に高いアクセプター性を有しているが、塗布性が無いために、塗布型有機薄膜太陽電池には使用できない。C
60誘導体2、C
60誘導体3は、C
60とほぼ同等のアクセプター性を有しながら、塗布型有機薄膜太陽電池に適用可能であるというメリットを有する。