特許第5966417号(P5966417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966417
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】過給機
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/00 20060101AFI20160728BHJP
   F01D 5/04 20060101ALI20160728BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   F02B39/00 R
   F02B39/00 Q
   F01D5/04
   F01D25/00 F
   F01D25/00 X
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-33986(P2012-33986)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-170487(P2013-170487A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和臣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】小野 博基
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−112039(JP,A)
【文献】 特開昭51−080647(JP,A)
【文献】 実開昭61−114001(JP,U)
【文献】 特公平04−027363(JP,B2)
【文献】 特開平04−198069(JP,A)
【文献】 特開2010−096115(JP,A)
【文献】 特公昭44−003452(JP,B1)
【文献】 特開昭52−138449(JP,A)
【文献】 特開昭58−096101(JP,A)
【文献】 実開昭60−120201(JP,U)
【文献】 特開昭61−215401(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/117847(WO,A1)
【文献】 特表2010−512481(JP,A)
【文献】 特開2010−236518(JP,A)
【文献】 特開2011−047420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/00−15/10
F01D 1/00−11/24
F01D 13/00−15/12
F01D 23/00−25/36
F02B 33/00−41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に軸方向に窪む窪部が形成されたタービン軸と、該タービン軸の一端に溶接され前記窪部を閉塞するホイールおよび該ホイールの外周に複数の羽根を有するタービンインペラとが、過給機本体内に回転自在に収容される過給機であって、
前記タービン軸のうち、前記窪部を前記ホイールで閉塞した内部空間を形成する壁面には、該内部空間の内側に向かって突出する突出部が設けられ
前記突出部は、前記ホイールと前記タービン軸との溶接部位よりも前記窪部の底面側に位置することを特徴とする過給機。
【請求項2】
前記突出部は、前記窪部の底面から隆起していることを特徴とする請求項に記載の過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン軸の一端にタービンインペラを固定して収容した過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一端にタービンインペラが設けられ他端にコンプレッサインペラが設けられたタービン軸が、ベアリングハウジングに回転自在に保持された過給機が知られている。こうした過給機を、例えば、エンジンに接続する場合には、エンジンから排出される排気ガスによってタービンインペラを回転させるとともに、このタービンインペラの回転によって、タービン軸を介してコンプレッサインペラを回転させる。
【0003】
タービンインペラは高温の排気ガスに晒されることから、タービン軸とタービンインペラとの固定には、耐熱性を考慮して電子ビーム溶接処理が用いられる。タービン軸とタービンインペラの溶接部分近傍の耐久性を向上するため、特許文献1には、タービン軸の一端に軸方向に窪む窪部を設け、タービン軸の一端とホイールとで囲繞される内部空間を確保した構成が記載されている。このように内部空間を設けると、タービン軸のうち、内部空間の径方向外方の壁面を構成する部分の剛性が低くなる。そのため、タービンインペラの回転による遠心力などでタービン軸の一端に負荷がかかっても、壁面部分が弾性変形することでタービン軸の一端への応力集中を抑制し、耐久性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平04−027363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タービン軸の一端とタービンインペラとを電子ビーム溶接して固定する場合、空気が溶接の阻害要因となるため、溶接工程は真空の作業空間で行われる。しかし、上記のように、窪部を設けた構成においては、タービン軸とタービンインペラとで閉塞された内部空間に空気が留まる場合がある。すると、電子ビーム溶接処理において、溶接部分の欠陥を生じさせるおそれがある。また、窪部を設けない構成に比べて、内部空間から空気を確実に排除するために、真空引き処理に十分な時間を確保する必要があり、作業効率が低下してしまう。
【0006】
本発明の目的は、タービン軸におけるタービンインペラとの固定部分近傍の耐久性を維持しつつ、電子ビーム溶接の精度低下および作業効率の低下を抑制することができる過給機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の過給機は、一端に軸方向に窪む窪部が形成されたタービン軸と、該タービン軸の一端に溶接され前記窪部を閉塞するホイールおよび該ホイールの外周に複数の羽根を有するタービンインペラとが、過給機本体内に回転自在に収容される過給機であって、前記タービン軸のうち、前記窪部を前記ホイールで閉塞した内部空間を形成する壁面には、該内部空間の内側に向かって突出する突出部が設けられ、前記突出部は、前記ホイールと前記タービン軸との溶接部位よりも前記窪部の底面側に位置することを特徴とする。
【0009】
前記突出部は、前記窪部の底面から隆起していてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タービン軸におけるタービンインペラとの固定部分近傍の耐久性を維持しつつ、電子ビーム溶接の精度低下および作業効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】過給機の概略断面図である。
図2】タービン軸およびタービンインペラの断面図である。
図3】比較例におけるタービン軸およびタービンインペラの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、過給機Cの概略断面図であり、図2は、過給機Cの外観斜視図である。以下では、図1に示す矢印F方向を過給機Cの前側とし、矢印R方向を過給機Cの後側として説明する。図1に示すように、過給機Cは、過給機本体1を備えて構成される。この過給機本体1は、ベアリングハウジング2と、ベアリングハウジング2の前側に締結ボルト3によって連結されるタービンハウジング4と、ベアリングハウジング2の後側に締結ボルト5によって連結されるコンプレッサハウジング6と、が一体化されて形成されている。
【0014】
ベアリングハウジング2には、過給機Cの前後方向に貫通する軸受孔2aが形成されており、この軸受孔2aにタービン軸7がベアリングを介して回転自在に支持されている。タービン軸7の前端部(一端)にはタービンインペラ8が一体的に固定されており、このタービンインペラ8がタービンハウジング4内に回転自在に収容されている。また、タービン軸7の後端部(他端)にはコンプレッサインペラ9が一体的に固定されており、このコンプレッサインペラ9がコンプレッサハウジング6内に回転自在に収容されている。
【0015】
コンプレッサハウジング6には、過給機Cの後側に開口するとともに不図示のエアクリーナに接続される吸気口10が形成されている。また、締結ボルト5によってベアリングハウジング2とコンプレッサハウジング6とが連結された状態では、これら両ハウジング2、6の対向面によって、空気を圧縮して昇圧するディフューザ流路11が形成される。このディフューザ流路11は、タービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向内側から外側に向けて環状に形成されており、上記の径方向内側において、コンプレッサインペラ9を介して吸気口10に連通している。
【0016】
また、コンプレッサハウジング6には、ディフューザ流路11よりもタービン軸7(コンプレッサインペラ9)の径方向外側に位置する環状のコンプレッサスクロール流路12が設けられている。コンプレッサスクロール流路12は、不図示のエンジンの吸気口と連通するとともに、ディフューザ流路11にも連通している。したがって、コンプレッサインペラ9が回転すると、吸気口10からコンプレッサハウジング6内に流体が吸気されるとともに、当該吸気された流体は、ディフューザ流路11およびコンプレッサスクロール流路12で昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0017】
タービンハウジング4には、過給機Cの前側に開口するとともに不図示の排気ガス浄化装置に接続される吐出口13が形成されている。また、タービンハウジング4には、流路14と、この流路14よりもタービン軸7(タービンインペラ8)の径方向外側に位置する環状のタービンスクロール流路15とが設けられている。タービンスクロール流路15は、エンジンの排気口から排出される排気ガスが導かれる不図示のガス流入口と連通するとともに、上記の流路14にも連通している。したがって、ガス流入口からタービンスクロール流路15に導かれた排気ガスは、流路14およびタービンインペラ8を介して吐出口13に導かれるとともに、その流通過程においてタービンインペラ8を回転させることとなる。そして、上記のタービンインペラ8の回転力は、タービン軸7を介してコンプレッサインペラ9に伝達されることとなり、コンプレッサインペラ9の回転力によって、上記のとおりに、流体が昇圧されてエンジンの吸気口に導かれることとなる。
【0018】
上述したタービンインペラ8は高温の排気ガスに晒されることから、タービン軸7とタービンインペラ8との固定には、耐熱性を考慮して電子ビーム溶接処理が用いられる。以下、このタービン軸7とタービンインペラ8との固定部分について詳述する。
【0019】
図2は、タービン軸7およびタービンインペラ8の断面図である。ここでは、タービン軸7のコンプレッサインペラ9側は省略し、タービンインペラ8側を示す。また、図3は、比較例における図2に対応する位置の断面図である。
【0020】
図2に示すように、タービンインペラ8は、ホイール(ハブ)20と、羽根(ブレード)21と、を有する。
【0021】
ホイール20は、一端から他端に向かって径方向外方に広がる外周面20aと、タービン軸7に対向する底面20bと、底面20bより面積の小さい上面20cとを有し、底面20bおよび上面20cの中央を中心として回転する回転体である。
【0022】
羽根21は、屈曲した薄板形状の部材であって、ホイール20の外周面20aに周方向に均等に複数配され、ホイール20の外周面20aから径方向外方に延在し、ホイール20の周方向に傾斜するように屈曲している。羽根21は、ホイール20と鋳造などによって一体成型される。
【0023】
タービン軸7は、棒部材であって、タービンインペラ8が固定される側の一端に、軸方向に窪む窪部7aが形成されている。
【0024】
ホイール20の底面20bには、周方向に延在する環状の突起部20dが形成されており、この突起部20dと、タービン軸7の窪部7aの縁であるタービン軸7の先端7bとが当接された後、その当接部分が電子ビーム溶接される。こうして、底面20bがタービン軸7の一端に固定されることとなる。
【0025】
このとき、窪部7aは、ホイール20の底面20bによって閉塞され、当該底面20bと、窪部7aを形成する壁面とによって囲繞される内部空間Eが設けられることとなる。内部空間Eを設けると、タービン軸7のうち、内部空間Eの径方向外方の壁面を構成する部分の剛性が低くなるため、この壁面部分が弾性変形することでタービン軸7の端部への応力集中を抑制し、耐久性を向上できる。
【0026】
ところで、タービン軸7の端部とホイール20の底面20bとを電子ビーム溶接して固定する場合、空気が溶接の阻害要因となるため、電子ビーム溶接作業を行う空間に対して真空引きをする。
【0027】
この真空引き処理は、治具によって、ホイール20の底面20bの突起部20dと、タービン軸7の先端7bとを当接させてクランプした状態で行う。そのため、内部空間Eから十分に空気を排除できない可能性がある。
【0028】
また、内部空間Eに空気が留まると、溶接部分に空気が混入して欠陥(ボイド)を生じさせるおそれがあるため、内部空間Eから空気を確実に排除するために、真空引き処理に十分な時間を確保する必要があり、その結果、作業効率が低下してしまう。
【0029】
そこで、本実施形態においては、ホイール20で閉塞された窪部7aの内部空間Eを形成する壁面には、内部空間Eの内側に向かって突出する突出部22が設けられている。ここでは、突出部22は、タービン軸7、より詳細には、タービン軸7における窪部7aの底面から軸方向に隆起するように設けられている。
【0030】
このように、本実施形態の過給機Cは、タービン軸7とタービンインペラ8との固定部分において、内部空間Eの壁面に突出部22が設けられており、図3に示す比較例のような突出部を設けていない構成に比べて、内部空間Eの容積が小さくなる。そのため、過給機Cは、タービン軸7とタービンインペラ8との電子ビーム溶接処理において、内部空間Eから空気を迅速に排除でき、窪部7aを設けたことによる作業効率の低下を抑制できる。また、内部空間Eに空気が残留すると、電子ビーム溶接処理において欠陥が生じる場合があるが、過給機Cは、内部空間Eの容積が小さいため、従来と同じように真空引きした場合に空気が残留し難くなり、欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
タービン軸7は、中実の棒材を切削して形成されるため、タービン軸7に突出部22を設けても、材料費の上昇を招き難い。そのため、過給機Cは、突出部22を設けたことによる、製造コストの上昇を抑制できる。
【0032】
また、突出部22は、窪部7aの底面から軸方向に隆起している。このように、底面を隆起させる構成により、例えば、突出部22を旋盤加工で容易に形成でき、過給機Cは、突出部22を設けたことによる製造コストの上昇をさらに抑制できる。
【0033】
上述した実施形態では、突出部22がタービン軸7に設けられた場合について説明したが、突出部は、タービンインペラ8のホイール20に設けられ、軸方向に突出してもよい。
【0034】
また、上述した実施形態では、突出部22が1つ設けられる場合について説明したが、突出部は、複数も受けられてもよい。
【0035】
また、上述した実施形態では、突出部22が窪部7aの底面に設けられた場合について説明したが、突出部は、内部空間Eの径方向の壁面、すなわち、窪部7aのうち、周方向に延在する環状の内周面に設けられてもよい。この場合、突出部は、内周面から径方向内方に向かって突出するものであって、例えば、周方向に等間隔に複数配される。複数の突出部が間隔を空けて配されることで、1つの環状の突出部とする場合に比べ、内部空間Eの径方向外方の壁面を構成する部分の剛性を低くし、応力集中を抑制して耐久性を向上できる。
【0036】
また、上述した実施形態では、ホイール20に突起部20dが形成される場合について説明したが、突起部20dを形成せず、タービン軸7の先端7bを、ホイール20の底面20bに直接溶接してもよい。
【0037】
また、タービン軸7とホイール20の固定部分は、インロー構造であってもよい。この場合、例えば、タービン軸7の先端7bの外径を、突起部20dの内側に嵌入できる寸法とすると共に、タービン軸7に、径方向外方に突出する環状の突起であって、突起部20dの軸方向の端面に当接する当接部を設ける。そして、突起部20dの軸方向の端面と当接部を電子ビーム溶接するとよい。
【0038】
また、タービン軸7とホイール20の固定部分のインロー構造は、タービン軸7の窪部7aに、ホイール20の突起部20dが嵌入する構成であってもよい。
【0039】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、タービン軸の一端にタービンインペラを固定して収容した過給機に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
C …過給機
E …内部空間
1 …過給機本体
7 …タービン軸
7a …窪部
8 …タービンインペラ
20 …ホイール
21 …羽根
22 …突出部
図1
図2
図3