(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持凹部の周方向両端部内面が、これら両端部内面同士の間隔以上の曲率半径を有する部分円筒状凹面であり、前記各揺動フレームの長さ方向両端部外面が、この部分円筒状凹面の曲率半径よりも小さな曲率半径を有する部分円筒状凸面である、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。そして、この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この様な場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。又、前記電動モータの出力軸と、駆動輪に繋がるデファレンシャルギヤとの間に変速装置を設ける事で、車両の走行速度と加速度との関係を、ガソリンエンジンを搭載した自動車に近い、滑らかなものにできるものと考えられる。この点に就いて、
図6を参照しつつ説明する。
【0003】
例えば、前記電動モータの出力軸と前記デファレンシャルギヤの入力部との間部分に、減速比の大きな動力伝達装置を設けた場合、電気自動車の加速度(G)と走行速度(km/h)との関係は、
図6の実線aの左半部と鎖線bとを連続させた様になる。即ち、低速時の加速性能は優れているが、高速走行ができなくなる。これに対して、前記間部分に減速比の小さな動力伝達装置を設けた場合、前記関係は、
図6の鎖線cと実線aの右半部とを連続させた様になる。即ち、高速走行は可能になるが、低速時の加速性能が損なわれる。これに対して、前記間部分に変速装置を設け、車速に応じてこの変速装置の減速比を変えれば、前記実線aの左半部と右半部とを連続させた如き特性を得られる。この特性は、
図6に破線dで示した、同等の出力を有するガソリンエンジン車とほぼ同等であり、加速性能及び高速性能に関して、ガソリンエンジン車と同等の性能を得られる事が分かる。
【0004】
図7は、この様な事情に鑑みて先に考えた、電気自動車用駆動装置の1例を示している(特願2011−250531)。この先発明に係る電気自動車用駆動装置は、電動モータ1と、摩擦ローラ式減速機2と、変速装置3と、回転伝達装置4とを備える。そして、この摩擦ローラ式減速機2の入力軸5と、前記電動モータ1の出力軸6とを互いに同心に配置して、トルクの伝達を可能に接続する。又、前記摩擦ローラ式減速機2の出力軸(図示省略)を、前記変速装置3の入力側伝達軸7と同心に配置して、トルクの伝達を可能に接続する。
【0005】
前記変速装置3は、前記入力側伝達軸7と出力側伝達軸8との間に、減速比が互いに異なる、1対の歯車伝達機構9a、9bを設けている。そして、1対のクラッチ機構10a、10bの切り換えにより、何れか一方の歯車伝達機構9a(9b)のみを、動力の伝達を可能な状態として、前記入力側伝達軸7と前記出力側伝達軸8との間の減速比を、高低の2段階に変換可能としている。
更に、前記回転伝達装置4は、複数の歯車を組み合わせた、一般的な歯車伝達機構であり、前記出力側伝達軸8の回転をデファレンシャルギヤ11の入力部に伝達し、左右1対の駆動輪を回転駆動する様に構成している。
【0006】
上述の様な先発明に係る電気自動車用駆動装置の構造によれば、電気エネルギの効率的利用の為、前記電動モータ1として、小型且つ高回転型(例えば最高回転速度が3〜4万min
-1程度)のものを使用しても、運転時の振動及び騒音を抑えられる。即ち、第一段の減速機として、前記摩擦ローラ式減速機2を使用しているので、高速回転部分での振動の発生を抑えられる。それぞれが歯車伝達機構である、前記変速装置3及び回転伝達装置4の回転速度は、一般的なガソリンエンジンを搭載した自動車の変速装置部分の運転速度と同程度(最高で数千〜1万min
-1程度)に抑えられるので、何れの部分でも、不快な振動や騒音が発生する事はない。
【0007】
上述の様な電気自動車用駆動装置に組み込んで使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、
図8〜10により説明する。この特許文献3に記載された摩擦ローラ式減速機2aは、入力軸5aと、出力軸12と、太陽ローラ13と、環状ローラ14と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ15、15と、ローディングカム装置16とを備える。
このうちの太陽ローラ13は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子17a、17bを前記入力軸5aの周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子17aを、前記入力軸5aに対する相対回転を可能に配置して成る。前記
1対の太陽ローラ素子17a、17bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。従ってこの転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0008】
又、前記環状ローラ14は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ13の周囲にこの太陽ローラ13と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ14の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ15、15は、前記太陽ローラ13の外周面と前記環状ローラ14の内周面との間の環状空間18の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ15、15は、それぞれが前記入力軸5a及び前記出力軸12と平行に配置された、自転軸である遊星軸19、19の周囲に回転自在に支持している。これら各遊星軸19、19の基端部は、前記出力軸12の基端部に結合固定されたキャリア20に支持固定している。前記各遊星ローラ15、15の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ13の外周面と前記環状ローラ14の内周面とに転がり接触している。
【0009】
更に、前記ローディングカム装置16は、一方の太陽ローラ素子17aと、前記入力軸5aとの間に設けて、この入力軸5aの回転に伴ってこの太陽ローラ素子17aを、他方の太陽ローラ素子17bに向け押圧しつつ回転させるものである。この様なローディングカム装置16を構成する為に、前記入力軸5aの中間部に係止された支え環21と前記一方の太陽ローラ素子17aとの間に、この支え環21の側から順番に、皿ばね22と、カム板23と、複数個の玉24、24とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子17aの基端面と前記カム板23の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面25、25と駆動側カム面26、26とを設けている。これら各カム面25、26はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0010】
この様なローディングカム装置16は、前記入力軸5aが停止している状態では、前記各玉24、24が、
図10の(A)に示す様に、前記各カム面25、26の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね22の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子17aを前記他方の太陽ローラ素子17bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸5aが回転すると、前記各玉24、24が、
図10の(B)に示す様に、前記各カム面25、26の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子17aと前記カム板23との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子17aを前記他方の太陽ローラ素子17bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子17aは前記他方の太陽ローラ素子17bに向け、前記皿ばね22の弾力と、前記各カム面25、26に対して前記各玉24、24が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0011】
上述の様な摩擦ローラ式減速機2aの運転時には、前記ローディングカム装置16が発生する軸方向の推力により、前記
1対の太陽ローラ素子17a、17bの間隔が縮まる。そして、これら
1対の太陽ローラ素子17a、17bにより構成される前記太陽ローラ13の外周面と、前記各遊星ローラ15、15の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ15、15が、前記太陽ローラ13及び前記環状ローラ14の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ14の内周面と前記各遊星ローラ15、15の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸5aと前記出力軸12との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、これら両軸5a、12同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。この状態で前記入力軸5aを回転させると、この回転が、前記太陽ローラ13から前記各遊星ローラ15、15に伝わり、これら各遊星ローラ15、15がこの太陽ローラ13の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ15、15の公転運動は、前記キャリア20を介して前記出力軸3により取り出せる。
【0012】
上述の様な従来の摩擦ローラ式減速機2aの運転時に前記各遊星ローラ15、15は、前記ローディングカム装置16の働きに伴って、前記太陽ローラ13及び前記環状ローラ14の径方向に、僅か(例えば、最大で数百μm)とは言え変位する。即ち、前記摩擦ローラ式減速機2aに、前記入力軸5aから入力されるトルクが変化すると、前記ローディングカム装置16の軸方向寸法が変化(拡縮)し、前記一方の太陽ローラ素子17aのうち、前記各遊星ローラ15、15の内側に入り込んでいる部分の、径方向寸法が変化する。この変化に伴ってこれら各遊星ローラ15、15が前記太陽ローラ13及び前記環状ローラ14の径方向に変位するが、
図8に示した従来構造では、この変位を、前記各遊星軸19、19の弾性変位に基づいて許容するしかない。この為、前記トルクが変化した場合に、前記径方向に関する前記各遊星ローラ15、15の変位を必ずしも円滑に行えず、前記各トラクション部の面圧が不均一になり易い。そして、不均一になった場合には、前記摩擦ローラ式減速機2aの伝達効率が悪化する。
【0013】
[先発明の説明]
上述の様な事情に鑑み、ローディングカム装置の軸方向に関する厚さの変化に伴う中間ローラの変位を円滑に行わせる事ができて、優れた伝達効率を得られる摩擦ローラ式減速機として、特願2011−238867に係る発明がある。本発明は、この先発明に係る摩擦ローラ式減速機を改良したものであり、多くの構造部分は共通するから、先ず、この先発明の実施の形態の構造の1例に就いて、
図11〜16により説明する。
【0014】
この先発明の実施の形態の構造の1例である摩擦ローラ式減速機2bは、入力軸5bにより太陽ローラ13aを回転駆動し、この太陽ローラ13aの回転を、複数個の中間ローラ27、27を介して環状ローラ14aに伝達し、この環状ローラ14aの回転を出力軸12aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ27、27は、それぞれの中心部に設けた自転軸28、28を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ13aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ13aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子17c、17cを互いに同心に組み合わせて成り、これら
1対の太陽ローラ素子17c、17cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置16a、16aを設置している。これら各部は、軸方向中間部の径が大きく、両端部の径が小さくなった、段付円筒状のハウジング29内に収納している。
【0015】
前記入力軸5bの基半部(
図11の右半部)は前記ハウジング29の入力側小径円筒部30の内側に、入力側玉軸受ユニット31により、前記出力軸12aは同じく出力側小径円筒部32の内側に出力側玉軸受ユニット33により、それぞれ回転自在に支持している。前記入力軸5bと前記出力軸12aとは互いに同心に配置しており、このうちの入力軸5bの先端部を、この出力軸12aの基端面中央部に形成した円形凹部34の内側に、玉軸受若しくはニードル軸受の如きラジアル転がり軸受35により支持している。この構成により、前記入力軸5bと前記出力軸12aとの相対回転の自在性を確保しつつ、この入力軸5bの先半部(
図11の左半部)の支持剛性(特にラジアル剛性)を確保している。又、前記出力軸12aの基端部は、断面L字形の連結部36により、前記環状ローラ14aと連結している。
【0016】
前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cは、前記入力軸5bの先半部の周囲に、この入力軸5bと同心に、この入力軸5bに対する相対回転を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記
1対のローディングカム装置16a、16aを構成する1対のカム板23a、23aは、前記入力軸5bの中間部と先端部との2箇所位置で、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cを軸方向両側から挟む位置に外嵌固定して、前記入力軸5bと同期して回転する様にしている。そして、互いに対向する、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cの基端面と前記
1対のカム板23a、23aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面25a、25aと駆動側カム面26a、26aとを設け、これら各カム面25a、26a同士の間にそれぞれ玉24a、24aを挟持して、前記
1対のローディングカム装置16a、16aを構成している。前記各カム面25a、26aは、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0017】
前記入力軸5bにトルクが入力されると、次の様にして、前記各ローラ13a、14a、27の周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧を上昇させる。先ず、前記入力軸5bにトルクが入力されていない状態では、
図12の(A)に示す様に、前記
1対のローディングカム装置16a、16aを構成する前記各玉24a、24aが、前記各カム面25a、26aの底部若しくは底部に近い側に存在する。この状態では、前記
1対のローディングカム装置16a、16aの厚さ寸法が小さく、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17c同士の間隔が拡がっている。この状態では、前記各中間ローラ27、27が、前記太陽ローラ13a及び前記環状ローラ14aの径方向に関して外方に押される事はないか、仮に予圧ばねの弾力等により押されたとしても、押される力は小さい。
【0018】
この状態から、前記入力軸5bにトルクが入力される(前記摩擦ローラ式減速機2bが起動する)と、前記各玉24a、24aと前記各カム面25a、26aとの係合に基づき、
図12の(B)に示す様に、前記
1対のローディングカム装置16a、16aの軸方向厚さが増大する。そして、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cが、前記摩擦ローラ式減速機2bの径方向に関して、前記各中間ローラ27の内側に食い込み、これら各中間ローラ27を、この径方向に関して外方に押す。この結果、前記各トラクション部の面圧が上昇して、これら各トラクション部に過大な滑りを発生させる事なく、前記太陽ローラ13aから前記環状ローラ14aに動力を伝達できる。尚、先発明の摩擦ローラ式減速機2bに組み込む、前記
1対のローディングカム装置16a、16aは、それぞれを構成する太陽ローラ素子17cとカム板23aとの間に、これら両部材17c、23aを周方向に相対変位させる方向の弾力を付与するばねを設けている。これら両部材17c、23aがこのばねの弾力に基づいて周方向に相対変位する事で、前記各玉24a、24aが、前記各カム面25a、26aの浅い側に乗り上げる傾向になり、前記
1対のローディングカム装置16a、16aにより前記各トラクション部に予圧を付与できる。
【0019】
前記摩擦ローラ式減速機2bの運転時に前記各中間ローラ27、27は、それぞれの自転軸28、28を中心として回転すると同時に、伝達トルクの変動に伴って前記摩擦ローラ式減速機2bの径方向に変位する。この理由は、前記
1対のローディングカム装置16a、16aが発生する押圧力が大きくなる程、これら
1対のローディングカム装置16a、16aが前記各中間ローラ27、27を、前記環状ローラ14aの内周面に向けて押圧する力が大きくなる為である。この様な、前記各中間ローラ27、27の自転及び径方向変位を円滑に行わせる為、先発明の場合には、次の様な構造によりこれら各中間ローラ27、27を、前記環状ローラ14aの内周面と前記太陽ローラ13aとの間の環状空間18a内に設置している。前記各中間ローラ27、27を支持する為に、前記ハウジング29の大径円筒部37の軸方向片側を塞ぐ端板38の内側面に、
図13〜14に示す様な支持フレーム39を支持固定している。この支持フレーム39は遊星歯車機構を構成するキャリアの如き構造を有するもので、それぞれが円環状として互いに同心に配置した1対のリム部40a、40bの円周方向等間隔複数箇所同士を、ステー41、41により結合固定して成る。この様な支持フレーム39は、前記リム部40aを前記端板38の内面にねじ止めする事により、前記大径円筒部37の内側に、前記太陽ローラ13aと同心に支持固定している。
【0020】
一方、前記各中間ローラ27、27は、それぞれ揺動フレーム42、42の先端部に、回転自在に支持している。これら各揺動フレーム42、42はそれぞれ、互いに平行な1対の支持板部43、43の基端縁同士を基部44で連結する事により、径方向から見た形状をコ字形としている。前記各中間ローラ27、27の自転軸28、28の端部は、それぞれ前記各揺動フレーム42、42の支持板部43、43の先端部に、玉軸受45、45により、回転自在に支持している。又、前記各揺動フレーム42、42の基端部両側面に互いに同心に突設した揺動軸46、46を、前記
1対のリム部40a、40bの互いに整合する部分に形成した支持孔47、47にがたつきなく挿入している。
【0021】
前記各揺動軸46、46と前記各自転軸28、28とは、互いに平行で、前記支持フレーム39の円周方向に関する位相が大きくずれている。具体的には、前記各揺動軸46、46と前記各自転軸28、28との円周方向に関するずれを可能な限り大きくすべく、これら各揺動軸46、46とこれら各自転軸28、28とを結ぶ仮想直線の方向を、前記支持フレーム39の中心をその中心とする仮想円弧に関する接線の方向に近くしている。この様な構成により前記各揺動フレーム42、42を前記支持フレーム39に対し、それぞれ揺動軸46、46を中心とする揺動変位を可能にして、前記各中間ローラ27、27を前記支持フレーム39に対し、ほぼこの支持フレーム39の径方向に、円滑に変位できる様に支持している。
【0022】
前記各中間ローラ27、27の外周面は、軸方向中間部を単なる円筒面とし、両側部分を、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cの外周面と同方向に同一角度傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面としている。従って、前記各ローラ13a、14a、27の周面同士は互いに線接触し、前記各トラクション部の接触面積を確保できる。又、前記
1対のローディングカム装置16a、16aが発生する押圧力の差等に起因して前記各中間ローラ27、27が軸方向に変位する場合に、この変位が円滑に行われる様にしている。
【0023】
更に、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cの基端部外周面に、それぞれ外向フランジ状の鍔部48、48を設けている。即ち、これら
1対の太陽ローラ素子17c、17cの外周面のうち、前記各中間ローラ27、27の外周面と転がり接触する部分は、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面となっており、前記両鍔部48、48の外径は、この傾斜面の基端部から、全周に亙り径方向外方に突出している。そして、これら両鍔部48、48を含む、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cの基端面に、それぞれ前記各被駆動側カム面25a、25aを形成している。
【0024】
上述の様に構成する先発明に係る摩擦ローラ式減速機2bは、次の様に作用して、前記入力軸5bから前記出力軸12aに動力を、減速すると同時にトルクを増大させつつ伝達する。
即ち、電動モータにより前記入力軸5bを回転駆動すると、この入力軸5bに外嵌した前記
1対のカム板23a、23aが回転し、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cが、前記各玉24a、24aと前記各カム面25a、26aとの係合に基づき、互いに近づく方向に押圧されつつ、前記入力軸5bと同方向に同じ速度で回転する。そして、前記
1対の太陽ローラ素子17c、17cにより構成される前記太陽ローラ13aの回転が、前記各中間ローラ27、27を介して前記環状ローラ14aに伝わり、前記出力軸12aから取り出される。前記各トラクション部の面圧は、前記両部材17c、23a同士の間に設けられたばねに基づく、これら両部材17c、23aを同方向に相対変位させる方向の弾力に基づいて発生するカム部押圧力により、前記摩擦ローラ式減速機2bの起動の瞬間から或る程度確保される。従って、この起動の瞬間から、前記各トラクション部で過大な滑りを発生させる事なく、動力伝達が開始される。
【0025】
前記入力軸5bに加わるトルクが増大すると、前記
1対のローディングカム装置16a、16aを構成する前記各玉24a、24aの、前記各カム面25a、26aへの乗り上げ量が増大し、これら
1対のローディングカム装置16a、16aの軸方向厚さがより一層増大する。この結果、前記各トラクション部の面圧がより一層増大し、これら各トラクション部で、過大な滑りを発生する事なく、大きなトルクの伝達が行われる。これら各トラクション部の面圧は、前記入力軸5bと前記出力軸12aとの間で伝達すべきトルクに応じた適正な値、具体的には必要最小限の値に適切な安全率を乗じた値に、自動的に調整される。この結果、前記両軸5b、12a同士の間で伝達されるトルクの変動に拘らず、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、逆に、これら各トラクション部の転がり抵抗が徒に大きくなる事を防止できて、前記摩擦ローラ式減速機2bの伝達効率を良好にできる。
【0026】
しかも、前記各揺動フレーム42、42の揺動変位に基づいて前記各中間ローラ27、27が、前記太陽ローラ13a及び前記環状ローラ14aの径方向外方に、円滑に変位する。従って、前記各トラクション部の面圧が不均一になる事を防止できて、前記各トラクション部の面圧を適正にし、前記摩擦ローラ式減速機2bの伝達効率を、より一層良好にできる。
【0027】
尚、先発明に係る構造として、
図17に記載した様に、ローディングカム装置16aを、太陽ローラ13bの軸方向片側にのみ設けた構造もある。この構造では、この太陽ローラ13bを構成する1対の太陽ローラ素子17c、17dのうちの一方(
図17の右方)の太陽ローラ素子17cのみを、入力軸5bに対し相対回転を可能に支持し、他方(
図17の左方)の太陽ローラ素子17dは、この入力軸5bに対し支持固定している。
【0028】
何れの構造にしても、先発明の構造で、大きなトルクを安定して伝達可能にする為には、前記各揺動フレーム42、42を構成する、これら各揺動フレーム42、42毎に1対ずつ設けた支持板部43、43の剛性を向上させる事が好ましい。この理由に就いて、以下に説明する。上述した先発明に係る構造の場合、例えば
図14〜16を見れば明らかな様に、前記各揺動フレーム42、42
のそれぞれを構成する前記
1対の支持板部43、43は、それぞれの基端部を前記基部44に接続固定し、それぞれの中間部乃至先端部を、何れの部分にも固定していない。要するに、前記
1対の支持板部43、43の先端部は、何れの部分にも支持されない、自由端としている。
【0029】
一方、前記摩擦ローラ減速機2bの運転時に前記各中間ローラ27には、軸方向に変位する、アキシアル方向の力が加わる可能性がある。この様な力が発生する原因は、前記各ローラ13a、14a、27の周面の性状(形状精度、表面粗さ等)が不正規である場合等、種々考えられる。又、例えば、前記各中間ローラ27の回転中心軸(自転軸28)と、前記太陽ローラ13a又は前記環状ローラ14aの中心軸とが傾斜した状態のまま前記各中間ローラ27が回転した(スキューが発生した)場合にも、前記アキシアル方向の力が発生する。何れにしても、このアキシアル方向の力が発生すると、前記各中間ローラ27が前記
1対の支持板部43、43のうちの何れか一方の支持板部43の内側面を押し、当該支持板部43を外方に向け変形させる可能性がある。そして、この変形の結果、当該支持板部43の外側面と、前記支持フレーム39を構成する前記
1対のリム部40a、40bの内側面とが強く擦れ合い、この支持フレーム39に対する前記各揺動フレーム42、42の揺動変位が円滑に行われなくなる可能性がある。