(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
《第1実施形態》
《構成》
先ず、本実施形態の構成について説明する。
図1は、車両用駆動制御装置の全体構成図である。
図2は、車両用駆動制御装置のシステム構成図である。
本実施形態の車両は、前輪1FL・1FRをエンジン2で駆動する主駆動輪とし、後輪1RL・1RRを電動モータ3で駆動可能な補助駆動輪とする所謂スタンバイ型の4輪駆動車両である。
【0009】
エンジン2の出力は、トルクコンバータを有するオートマチックトランスアクスル4を介して前輪1FL・1FRに伝達されると共に、Vベルト6を介してジェネレータ7に伝達される。ジェネレータ7は、Vベルト6を介して伝達された動力によって発電を行い、発電した電力はパワーケーブル8を通じて電動モータ3へ直接供給される。電動モータ3の出力は、減速機9、電磁クラッチ10(クラッチ)、及びディファレンシャルギヤ11を順に介して後輪1RL・1RRに伝達される。
【0010】
ここで、エンジン2の出力は、吸気管路12(例えば、インテークマニホールド)に設けられたスロットルバルブ13の開度を制御するエンジンコントローラ14によって制御される。具体的には、アクセルセンサ15で検出されるアクセルペダル16の操作量に応じて、スロットルバルブ13に連結されたスロットルモータ17の回転角を制御している。
また、ジェネレータ7は、
図2に示すように、発電電圧Vを調整するトランジスタ式のレギュレータ20を備えており、このレギュレータ20が4WDコントローラ19からの発電制御指令に応じて界磁電流Igを制御することによりジェネレータ7の発電電圧Vが制御される。
【0011】
また、パワーケーブル8の途中に設けられたジャンクションボックス21には、メインリレー22と電流センサ23とが設けられている。メインリレー22は、4WDコントローラ19からのリレー制御指令に応じて電動モータ3に対する電力供給のON/OFFを行い、電流センサ23は、電動モータ3へ通電される電機子電流Iaを検出し4WDコントローラ19に出力する。さらに、ジャンクションボックス21では、内蔵されたモニター回路により、ジェネレータ7による発電電圧Vと、モータ誘起電圧Eとが検出され4WDコントローラ19に出力される。
【0012】
また、電動モータ3は、例えば他励式直流モータで構成され、4WDコントローラ19からのモータ制御指令に応じて界磁電流Imが制御されることにより、駆動トルクTmが制御される。また、電動モータ3は、内蔵されたサーミスタ24によりモータ温度が検出されると共に、モータ回転センサ25によりモータ回転数Nmが検出されており、各検出信号が4WDコントローラ19に出力される。
【0013】
また、電磁クラッチ10は、湿式多板型のクラッチで構成され、4WDコントローラ19からのクラッチ制御指令に応じて励磁電流の通電が制御されることにより、動力伝達経路の断続が制御される。
4WDコントローラ19には、エンジン回転センサ26、スロットルセンサ27、車輪速センサ28FL〜28RR、加速度センサ29、シフトセンサ30、及びブレーキスイッチ31の各検出信号が入力される。
【0014】
エンジン回転センサ26は、エンジン回転数Neを検出する。このエンジン回転センサ26は、例えばセンサロータの磁力線を検出回路によって検出しており、センサロータの回転に伴う磁界の変化を電流信号に変換して4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ26は、入力した電流信号からエンジン回転数Neを判断する。
スロットルセンサ27は、スロットルバルブ13のスロットル開度(アクセル開度)Accを検出する。このスロットルセンサ27は、例えばポテンショメータであり、スロットルバルブ13のスロットル開度を電圧信号に変換して4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ19は、入力した電圧信号からスロットルバルブ13のスロットル開度Accを判断する。
【0015】
車輪速センサ28は、各車輪の車輪速度Vw
FL〜Vw
RRを検出する。この車輪速センサ28は、例えばセンサロータの磁力線を検出回路によって検出しており、センサロータの回転に伴う磁界の変化を電流信号に変換して4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ19は、入力した電流信号から車輪速度Vw
FL〜Vw
RRを判断する。
【0016】
加速度センサ29は、車両前後方向の加減速度を検出する。この加速度センサ29は、例えば固定電極に対する可動電極の位置変位を静電容量の変化として検出しており、加減速度と方向に比例した電圧信号に変換して4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ19は、入力した電圧信号から加減速度を判断する。
シフトセンサ30は、トランスミッションのシフトポジションを検出する。このシフトセンサ30は、例えば複数のホール素子を備え、夫々のON/OFF信号を4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ19は、ON/OFF信号の組み合わせからシフトポジションを判断する。
【0017】
ブレーキスイッチ31は、ブレーキのON/OFFを検出する。このブレーキスイッチ31は、例えば常閉型接点の検出回路を介して、ブレーキのON/OFFに応じた電圧信号を4WDコントローラ19へ入力する。4WDコントローラ19は、入力した電圧信号からブレーキのON/OFFを判断する。
なお、4WDコントローラ19は、センサ及びスイッチ類から各検出信号を入力しているが、これに限定されるものではない。4WDコントローラ19を他のコントロールユニットとツイストペア線で接続し、例えばCSMA/CA方式の多重通信(CAN:Controller Area Network)を介して各種データを受信してもよい。
【0018】
次に、4WDコントローラ19で実行する演算処理について説明する。
図3は、4WDコントローラ19で実行する演算処理のブロック図である。
4WDコントローラ19は、目標モータトルク演算部19Aと、モータ必要電力演算部19Bと、発電制御部19Cと、モータ制御部19Dと、を備えている。なお、メインリレー及び電磁クラッチ10の制御については、その詳細説明を省略するが、4WDコントローラ19は、電動モータ3を駆動制御する際、メインリレーへのリレー制御指令を出力して電動モータ3への電力供給をON状態に制御すると共に、電磁クラッチ11へのクラッチ制御指令を出力して電磁クラッチ10を締結状態に制御しているものとする。
【0019】
先ず、目標モータトルク演算部19Aで実行する演算処理について説明する。
図4は、目標モータトルク演算部19Aのブロック図である。
目標モータトルク演算部19Aは、第一モータトルク算出部51と、第一制限値算出部52と、第二制限値算出部53と、第二モータトルク算出部54と、余剰トルク算出部55と、選択部56と、選択部57と、選択部58と、切替部59と、を備える。
【0020】
先ず、第一モータトルク算出部51で実行する第一モータトルク算出処理について説明する。
第一モータトルク算出部51では、
図5のマップを参照し、アクセル開度Accから動力配分比率αを算出し、この動力配分比率αに従った第一モータトルクTm1を算出する。ここで、動力配分比率αは、エンジン2の動力から電動モータ3の動力へと変換する際の、エンジン2から電動モータ3の動力へと配分する比率である。
【0021】
図5は、アクセル開度Accに応じた動力配分比率αの算出に用いるマップである。
このマップでは、アクセル開度Accについては、0<A1<A2<A3<A4の関係となるA1〜A4を予め定め、動力配分比率については、α1>α2の関係となるα1(例えば20%)、α2(例えば12%)を予め定めている。そして、アクセル開度Accが0からA1の範囲にあるときには、動力配分比率αが0を維持し、アクセル開度AccがA1からA2の範囲にあるときには、アクセル開度Accが大きいほど、動力配分比率αが0からα1まで増加する。また、アクセル開度AccがA2からA3の範囲にあるときには、動力配分比率αがα1を維持し、アクセル開度AccがA3からA4の範囲にあるときには、アクセル開度Accが大きいほど、動力配分比率がα1からα2まで減少する。また、アクセル開度AccがA4より大きいときには、動力配分比率αがα2を維持する。
【0022】
次に、第一制限値算出部52で実行する第一制限値算出処理について説明する。
第一制限値算出部52では、
図6のマップを参照し、エンジン回転数Neから第一制限値TL1を算出する。
図6は、第一制限値TL1の算出に用いるマップである。
このマップでは、エンジン回転数Neについて、0<N1の関係となるN1を予め定めている。そして、エンジン回転数Neが0からN1の範囲にあるときには、第一制限値TL1が0を維持し、エンジン回転数NeがN1より大きいときには、エンジン回転数Neが大きいほど、第一制限値TL1が0から増加する。
【0023】
次に、第二制限値算出部53で実行する第二制限値算出処理について説明する。
第二制限値算出部53では、所定時間(例えば10msec)毎に
図7の第二制限値算出処理を実行する。
図7は、第二制限値算出処理を示すフローチャートである。
ステップS101では、各種データを読込んでからステップS102に移行する。
ステップS102では、加減速度に応じて路面勾配θ[%]を算出してからステップS103に移行する。なお、路面勾配θは(垂直距離/水平距離)×100として計算し、上りの登坂側を正値(+)で表し、下りの降坂側を負値(−)で表す。この路面勾配θには、例えば1Hzのローパスフィルタ処理を行う。
【0024】
ステップS103では、自車両が停車状態であるか否かを判定する。ここでは、車速Vが0であるか否かを判定する。ここで、車速Vが0であるときには、自車両が停車状態にあると判断してステップS104に移行する。一方、車速Vが0より大きいときには、自車両が走行状態にあると判断してステップS107に移行する。
ステップS104では、ブレーキがONであるか否かを判定する。ここで、ブレーキがONであるときには制動状態にあると判断してステップS105に移行する。一方、ブレーキがOFFであるときには制動状態にないと判断してステップS107に移行する。
【0025】
ステップS105では、自車両が停車状態で、且つ制動状態となってから予め定めた時間t1(例えば1sec)が経過しているか否かを判定する。ここで、t1が経過しているときには、停車時の路面勾配θを検出できたと判断してステップS106に移行する。一方、t1が経過していないときには、停車時の路面勾配θを検出できていないと判断してステップS107に移行する。
ステップS106では、検出フラグをfd=1にセットしてからステップS108に移行する。
ステップS107では、検出フラグをfd=0にリセットしてからステップS108に移行する。
【0026】
ステップS108では、4輪駆動から2輪駆動へと設定が切り替わった直後であるか否かを判定する。ここでは、前前の演算で4輪駆動に設定されており、且つ今回の演算で2輪駆動に設定されているか否かを判定する。ここで、2輪駆動へと設定が切り替わった直後であるときにはステップS109に移行する。一方、4輪駆動に設定されたまま、又は2輪駆動に設定された状態を維持しているときにはステップS110に移行する。
【0027】
ステップS109では、取下げフラグをfw=1にセットしてからステップS112に移行する。
ステップS110では、加速度センサ29に異常があるか否かを判定する。ここで、加速度センサ29に異常があるときには上記のステップS109に移行する。一方、加速度センサ29が正常であるときにはステップS111に移行する。
ステップS111では、取下げフラグをfw=0にリセットしてからステップS112に移行する。
【0028】
ステップS112では、トランスミッションのシフトポジションが走行レンジに設定されているか否かを判定する。ここで、シフトポジションが前進レンジ(Dや1速)や後退レンジ(R)等の走行レンジに設定されているときにはステップS113に移行する。一方、シフトポジションが前進レンジ(Dや1速)や後退レンジ(R)等の走行レンジに設定されていない、つまり駐車レンジ(P)や中立レンジ(N)等に設定されているときにはステップS119に移行する。
【0029】
ステップS113では、トランスミッションのシフトポジションが後退レンジ(R)に設定されているか否かを判定する。ここで、シフトポジションが後退レンジ(R)に設定されているときにはステップS114に移行する。一方、シフトポジションが後退レンジ(R)に設定されていない、つまり前進レンジ(Dや1速)に設定されているときにはステップS115に移行する。
【0030】
ステップS114では、動力配分比率αを予め定めた最大値α
MAX(例えば20%)に設定してからステップS120に移行する。
ステップS115では、取下げフラグがfw=1にセットされているか否かを判定する。ここで、取下げフラグがfw=1にセットされているときにはステップS116に移行する。一方、取下げフラグがfw=0にリセットされているときにはステップS117に移行する。
【0031】
ステップS116では、動力配分比率αを予め定めた最小値α
MIN(例えば5%)に設定してからステップS120に移行する。
ステップS117では、検出フラグがfd=1にセットされているか否かを判定する。ここで、検出フラグがfd=1にセットされているときにはステップS118に移行する。一方、検出フラグがfd=0にリセットされているときにはステップS119に移行する。
【0032】
ステップS118では、
図8のマップを参照し、路面勾配θに応じて動力配分比率αを設定してからステップS120に移行する。
図8は、路面勾配θに応じた動力配分比率αの設定に用いるマップである。
このマップでは、路面勾配θについては、上りの登坂側(正側)で0<θ2<θ1の関係となるθ2(例えば10%)、θ1(例えば15%)を予め定めている。そして、路面勾配θが0からθ2の範囲にあるときには、動力配分比率αが最小値α
MINを維持し、路面勾配θがθ2からθ1の範囲にあるときには、路面勾配θが大きいほど、動力配分比率αが最小値α
MINから最大値α
MAXまで増加する。また、路面勾配θがθ1より大きいときには、動力配分比率αが最大値α
MAXを維持する。なお、路面勾配θが下りの降坂側(負側)にあるときには、動力配分比率αが最小値α
MINを維持する。
ステップS119では、動力配分比率αを前回値αzに設定してからステップS120に移行する。
ステップS120では、動力配分比率αに従った第二制限値TL2を算出してから所定のメインプログラムに復帰する。
【0033】
次に、第二モータトルク算出部54で実行する第二モータトルク算出処理について説明する。
第二モータトルク算出部54では、
図9のマップを参照し、前輪スリップ速度ΔVから第二モータトルクTm2を算出する。ここで、前輪スリップ速度ΔVは、例えば下記(1)式に示すように、前輪1FL・1FRの平均車輪速Vwfから、後輪1RL・1RRの平均車輪速Vwrを減じて算出する。
Vwf=(Vw
FL+Vw
FR)/2
Vwr=(Vw
RL+Vw
RR)/2
ΔV=Vwf−Vwr ………(1)
【0034】
図9は、第二モータトルクTm2の算出に用いるマップである。
このマップでは、前輪スリップ速度ΔVについては、0<ΔV1<ΔV2の関係となるΔV1、ΔV2を予め定め、第二モータトルクTm2については、0<T
MAXの関係となる最大値T
MAXを予め定めている。そして、前輪スリップ速度ΔVが0からΔV1の範囲にあるときには、第二モータトルクTm2が0を維持し、前輪スリップ速度ΔVがΔV1からΔV2の範囲にあるときには、前輪スリップ速度ΔVが大きいほど、第二モータトルクTm2が0から最大値T
MAXまで増加する。また、前輪スリップ速度ΔVがΔV2より大きいときには、第二モータトルクTm2が最大値T
MAXを維持する。
【0035】
次に、余剰トルク算出部55で実行する余剰トルク算出処理について説明する。
余剰トルク算出部55では、所定時間(例えば10msec)毎に
図10の余剰トルク算出処理を実行する。
図10は、余剰トルク算出処理を示すフローチャートである。
ステップS201では、各種データを読込んでからステップS202に移行する。
ステップS202では、
図11のマップを参照し、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに応じて、エンジントルクTeを算出(推定)してからステップS203に移行する。
【0036】
図11は、エンジントルクTeの算出に用いるマップである。
このマップは、アクセル開度Accが大きいほど、エンジントルクTeが大きくなる。そして、アクセル開度Accが比較的小さい領域では、エンジン回転数Neの増加に応じてエンジントルクTeが減少する。また、アクセル開度Accが比較的大きい領域では、エンジン回転数Neの増加に応じて最初はエンジントルクTeが増加し、ある位置から急に減少する。
【0037】
ステップS203では、下記(2)式に示すように、ジェネレータ7の電圧V、電機子電流Ia、及び回転数Ngに応じて、ジェネレータ7の負荷トルクTgを算出してからステップS204に移行する。ここで、K2及びK3は、予め定めた係数である。
Tg=K2×(V×Ia)/(K3×Ng) ………(2)
ステップS204では、下記(3)式に示すように、慣性モーメントJ、及び角加速度aに応じて、前輪の加速トルクTaを算出してからステップS205に移行する。ここで、慣性モーメントJはギア比を含む駆動系のイナーシャある。なお、角加速度aは前輪の車輪速Vw
FL及びVw
FRから求める。
Ta=J×a ………(3)
【0038】
ステップS205では、下記(4)式に示すように、エンジントルクTe、負荷トルクTg、及び加速トルクTaに応じて、前輪駆動力Tfを算出してからステップS206に移行する。ここで、Rtはトルクコンバータの増幅比であり、Rgは変速機のギア比である。なお、前輪駆動力Tfは前輪1FL及び1FRに対する路面反力に相当する。
Tf=(Te−Tg)×(Rt×Rg)−Ta ………(4)
【0039】
ステップS206では、自車両が走行状態であるか否かを判定する。ここでは、車速Vが0より大きいか否かを判定する。ここで、車速Vが0であるときには、自車両が走行状態にはない、つまり停車状態にあると判断してステップS207に移行する。一方、車速Vが0より大きいときには、自車両が走行状態にあると判断してステップS208に移行する。
【0040】
ステップS207では、記憶された最大値Tf
MAXを0にリセットしてからステップS215に移行する。
ステップS208では、前輪にスリップ傾向がないか否かを判定する。ここでは、前輪スリップ速度ΔVが予め定めた閾値th未満であるか否かを判定する。ここで、前輪スリップ速度ΔVが閾値th未満であるときには、前輪にスリップ傾向はないと判断してステップS209に移行する。一方、前輪スリップ速度ΔVが閾値th以上であるときには、前輪にスリップ傾向があると判断してステップS212に移行する。
【0041】
ステップS209では、前輪駆動力Tfが記憶された最大値Tf
MAXより大きいか否かを判定する。ここで、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAXより大きいときには、最大値Tf
MAXの更新が必要であると判断してステップS210に移行する。一方、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAX以下であるときには、最大値Tf
MAXの更新は不要であると判断してステップS211に移行する。
ステップS210では、記憶された最大値Tf
MAXを現在の前輪駆動力Tfに更新してからステップS215に移行する。
ステップS211では、記憶された最大値Tf
MAXを維持してステップS215に移行する。
【0042】
ステップS212では、前輪駆動力Tfが記憶された最大値Tf
MAXより小さいか否かを判定する。ここで、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAXより小さいときには、最大値Tf
MAXの更新が必要であると判断してステップS213に移行する。一方、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAX以上であるときには、最大値Tf
MAXの更新は不要であると判断してステップS214に移行する。
ステップS213では、記憶された最大値Tf
MAXを現在の前輪駆動力Tfに更新してからステップS215に移行する。
ステップS214では、記憶された最大値Tf
MAXを維持してステップS215に移行する。
【0043】
ステップS215では、下記(5)式に示すように、記憶された最大値Tf
MAXに応じて、エンジントルクTeに対する限界トルクTe
MAXを算出してからステップS216に移行する。ここで、Rtはトルクコンバータの増幅比であり、Rgは変速機のギア比である。なお、限界トルクTe
MAXは前輪1FL及び1FRの加速スリップを抑制できる上限値に相当する。
Te
MAX=Tf
MAX/(Rt×Rg) ………(5)
【0044】
ステップS216では、エンジントルクTeが限界トルクTe
MAXより大きいか否かを判定する。ここで、エンジントルクTeが限界トルクTe
MAXより大きいときには、エンジントルクTeに余剰トルクTpがあると判断してステップS217に移行する。一方、エンジントルクTeが限界トルクTe
MAX以下であるときには、エンジントルクTeに余剰トルクTpはないと判断してステップS218に移行する。
【0045】
ステップS217では、下記(6)式に示すように、エンジントルクTeから限界トルクTe
MAXを減じることで余剰トルクTpを算出してから所定のメインプログラムに復帰する。
Tp=Te−Te
MAX ………(6)
ステップS218では、余剰トルクTpを0にリセットしてから所定のメインプログラムに復帰する。
次に、選択部56で実行する選択処理について説明する。
選択部56では、下記(7)式に示すように、第一モータトルクTm1、第一制限値TL1、及び第二制限値TL2のうち、最も小さいものを新たな第一モータトルクTm1として算出する。
Tm1=min[Tm1,TL1,TL2] ………(7)
【0046】
次に、選択部57で実行する選択処理について説明する。
選択部57では、下記(8)式に示すように、第一モータトルクTm1、第二モータトルクTm2のうち、最も大きいものを発進時モータトルクTSとして算出する。
TS=max[Tm1,Tm2] ………(8)
次に、選択部58で実行する選択処理について説明する。
選択部58では、下記(9)式に示すように、第二モータトルクTm2、余剰トルクTpのうち、最も大きいものを走行時モータトルクTDとして算出する。
TD=max[Tm2,Tp] ………(9)
【0047】
次に、切替部59で実行する切替処理について説明する。
切替部59では、車速Vが予め定めた閾値Vs(例えば5km/h)以下であるか否かを判定する。ここで、車速Vが閾値Vs以下であるときには、発進時モータトルクTSを最終的な目標モータトルクTm
*として出力する。一方、車速Vが閾値Vsより大きいときには、走行時モータトルクTDを最終的な目標モータトルクTm
*として出力する。
次に、モータ必要電力演算部19Bで実行する演算処理について説明する。
モータ必要電力演算部19Bでは、電動モータ3に必要とされるモータ必要電力Pm
*を、下記(10)式に示すように、目標モータトルクTm
*とモータ回転数Nmとに応じて算出する。
Pm
*=Tm
*×Nm ………(10)
【0048】
次に、発電制御部19Cで実行する演算処理について説明する。
図12は、発電制御部19Cのブロック図である。
発電制御部19Cは、目標電力算出部40と、制限値算出部41と、最終目標電力算出部42と、制御処理部43と、を備える。
先ず、目標電力算出部40で実行する演算処理について説明する。
目標電力算出部40では、ジェネレータ7が出力すべき目標電力Pg
*を、下記(11)式に示すように、モータ必要電力Pm
*とモータ効率ηmとに応じて算出する。
Pg
*=Pm
*/ηm ………(11)
【0049】
次に、制限値算出部41で実行する演算処理について説明する。
制限値算出部41では、出力電力に対する制限値PL1及びPL2を算出する。
ここで、制限値PL1は、Vベルト6のベルトスリップを抑制可能な上限値であり、下記(12)式に示すように、Vベルト6が伝達可能なトルク上限値TL、ジェネレータ回転数Ng、ジェネレータ効率ηgに応じて算出する。
PL1=TL×Ng×ηg ………(12)
また、制限値PL2は、エンジン2の過負荷に起因したエンストや運転性劣化を抑制可能な上限値であり、エンジン回転数Neに応じて算出してもよいし、所定値としてもよい。
【0050】
次に、最終目標電力算出部42で実行する演算処理について説明する。
最終目標電力算出部42では、下記(13)式に示すように、目標電力Pg
*、制限値PL1、及びPL2のうち、最も小さいものを最終的な目標電力Pg
*として算出する。
Pg
*=min[Pg
*,PL1,PL2] ………(13)
次に、制御処理部43で実行する演算処理について説明する。
制御処理部43では、ジェネレータ7で目標電力Pg
*が出力されるように、ジェネレータ7の界磁電流Igを制御する。ここでは、目標電力Pg
*と実際の出力電力Pgとが一致するように、フィードバック制御によって界磁電流Igを制御する。
【0051】
図13は、制御処理部43のブロック図である。
制御処理部43は、出力電力算出部43aと、目標界磁電流算出部43bと、界磁電流制御部43cと、を備える。
先ず、出力電力算出部43aでは、ジェネレータ電圧Vgと通電電流Iaとの乗算によって実際の出力電力Pg(=Vg×Ia)を算出する。
そして、目標界磁電流算出部43bで、実際の出力電力Pgと目標電力Pg
*との偏差ΔPgが0となるような目標界磁電流Ig
*を算出する。
そして、界磁電流制御部44cでは、実際の界磁電流Igと目標界磁電流Ig
*との偏差ΔIgが0となるように、ロータコイル7aに流れる界磁電流Igを、ICレギュレータを介して制御する。なお、実際の界磁電流Igは電流センサによって検出する。
【0052】
次に、モータ制御部19Dで実行する演算処理について説明する。
モータ制御部19Dでは、先ずモータ回転数Nmから目標モータ界磁電流Im
*を算出する。この目標モータ界磁電流Im
*は、モータ回転数Nmが高速域に達すると、公知の弱め界磁制御によって小さくされる。すなわち、電動モータ3が高速回転すると誘起電圧が上昇してモータトルクTmが低下するので、界磁電流Imを小さくすることで誘起電圧の上昇を抑制し、モータトルクTmの低下防止を図る。
そして、目標モータトルクTm
*が出力されるように、電動モータ3の界磁電流Imを目標モータ界磁電流Im
*に調整する。
【0053】
次に、クラッチ制御部19Eで実行する演算処理について説明する。
クラッチ制御部19Eでは、目標モータトルクTm
*が0のときには、電磁クラッチ10を非締結状態に制御することにより、電動モータ3から後輪1RL及び1RRへの動力伝達を遮断し、目標モータトルクTm
*が0より大きいときには、電磁クラッチ10を締結状態に制御することにより、電動モータ3から後輪1RL及び1RRへの動力伝達を行う。
【0054】
《作用》
次に、本実施形態の作用について説明する。
先ず、4輪駆動走行の概略について説明する。
アクセルペダルが踏み込まれたり、前輪1FL・1FRが加速スリップ(空転)するようなときに、アクセル開度Accの増加や、前輪スリップ速度ΔVの増加に伴って、目標モータトルクTm
*が算出される。加速スリップは、降雨路、雪路、凍結路のように路面の摩擦係数が低かったり、車両進行方向の路面勾配が登坂側に大きかったり、アクセル開度Accが大き過ぎたりすることによって招来される。
【0055】
目標モータトルクTm
*が算出されると、これに応じてジェネレータ7の発電が開始される。したがって、前輪1FL・1FRが加速スリップしていたとすると、加速スリップで損失する回転エネルギーを電気エネルギーに変換することで、エンジン2の出力が抑制されることになり、前輪1FL・1FRの加速スリップを抑制することができる。
【0056】
また、ジェネレータ7で発電された電力を電動モータ3に供給し、この電動モータ3によって後輪1RL・1RRを駆動する、つまり4輪駆動状態にすることにより、エネルギー効率を向上させるだけでなく、スムーズで安定した発進性能及び走行性能を発揮することができる。
目標モータトルクTm
*は、主として、アクセル開度Accに応じた第一モータトルクTm1と、前輪スリップ速度ΔVに応じた第二モータトルクTm2と、限界トルクTe
MAXを上回る余剰トルクTpと、に応じて算出される。
【0057】
図14は、目標モータトルクTm
*の推移を示すタイムチャートである。
先ず、車速Vが例えば5km/h以下のときには、第一モータトルクTm1と第二モータトルクTm2とのセレクトハイによって得られた発進時モータトルクTSを最終的な目標モータトルクTm
*として出力する。これにより、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生すれば、前輪スリップ速度ΔVに応じた目標モータトルクTm
*が出力され、
図14の(a)に示すように、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生しないときでも、アクセル開度Accに応じた目標モータトルクTm
*が出力される。このように、運転者の加速意思、及び検出された加速スリップ状態のうち、優先度の高いものを、目標モータトルクTm
*に反映させることができる。
【0058】
また、車速Vが例えば5km/hを超えているときには、第二モータトルクTm2と余剰トルクTpとのセレクトハイによって得られた走行時モータトルクTDを最終的な目標モータトルクTm
*として出力する。これにより、
図14の(b)に示すように、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生すれば、前輪スリップ速度ΔVに応じた目標モータトルクTm
*が出力され、前輪1FL・1FRに加速スリップが未だ発生しないときでも、限界トルクTe
MAXを上回ると推定された余剰トルクTpに応じた目標モータトルクTm
*が出力される。このように、検出された加速スリップ状態、及び推定される加速スリップ傾向のうち、優先度の高いものを、目標モータトルクTm
*に反映させることができる。
【0059】
余剰トルクTpを算出する際、路面状況に応じて限界トルクTe
MAXは絶えず更新される。すなわち、前輪1FL・1FRが加速スリップしていない状態で(S208の判定が“Yes”)、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAXよりも大きいときには(S209の判定が“Yes”)、エンジントルクTeが限界トルクTe
MAXに達するまでに未だ余裕があるということである。このような場合、路面の摩擦係数が上昇していると考えられるため、最大値Tf
MAXを現在の前輪駆動力Tfに更新することで(S210)、限界トルクTe
MAXを引き上げる。一方、前輪1FL・1FRが加速スリップしている状態で(S208の判定が“No”)、前輪駆動力Tfが最大値Tf
MAXよりも小さいときには(S212の判定が“Yes”)、依然としてエンジントルクTeが限界トルクTe
MAXを超えているということである。このような場合、路面の摩擦係数が低下していると考えられるため、最大値Tf
MAXを現在の前輪駆動力Tfに更新することで(S213)、限界トルクTe
MAXを引き下げる。このように、路面状況に応じて限界トルクTe
MAXは絶えず更新することで、正確な余剰トルクTpを算出することができる。
【0060】
また、電動モータ3に必要とされる必要電力Pm
*を算出し、この必要電力Pm
*からジェネレータ7が出力すべき目標電力Pg
*を算出し、この目標電力Pg
*が実際の出力電力Pgと一致するようにジェネレータ7の界磁電流Igを制御するので、ジェネレータ7は電動モータ3に必要とされる必要電力Pm
*を正確に供給することができ、目標モータトルクTm
*を正確に出力することができる。
【0061】
また、ジェネレータ7の界磁電流Igを電流センサで検出し、この実際の界磁電流Igが目標界磁電流Ig
*に追従するようにフィードバック制御するので、出力電力Pgを確実に目標電力Pg
*に追従させることができる。
なお、本実施形態では、前輪スリップ速度ΔVに応じて第一モータトルクTm1を算出しているが、これに限定されるものではない。要は、前輪1FL・1FRのスリップ傾向に応じて第一モータトルクTm1を算出すればよいので、例えば前輪1FL・1FRの車輪加速度やスリップ率に応じて第一モータトルクTm1を算出してもよい。
また、本実施形態では、前輪1FL・1FRをエンジン2で駆動する主駆動輪とし、後輪1RL・1RRを電動モータ3で駆動可能な補助駆動輪としているが、これに限定されるものではなく、後輪1RL・1RRを主駆動輪とし、前輪1FL・1FRを補助駆動輪としてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、1台の電動モータ3で後輪1RL・1RRを駆動する1モータ方式のパワートレインを採用しているが、これに限定されるものではない。例えば、2台の電動モータで左右輪を個別に駆動する2モータ方式や、モータをばね下(車輪側)に配置したインホイールモータ方式を採用してもよい。
また、本実施形態では、電動モータ3に直流モータを使用しているが、交流モータを使用してもよい。
さらに、本実施形態では、本発明を4輪車両に適用しているが、2輪車両や3輪車両、或いは5輪以上の車両に適用してもよい。
【0063】
次に、本実施形態の主要部について説明する。
本実施形態のように、エンジントルクTeの一部を電気エネルギーに変換し、それをモータトルクTmに変換すると、変換効率に基づくエネルギー損失がある。例えば、エンジントルクTeの20%を利用してモータトルクTmへと変換する場合、そのときの変換効率を60%とすると、0.2×0.6=0.12となり、エンジントルクTeに対するモータトルクTmは、実質12%になる。すなわち、エンジントルクTeの0.8+モータトルクTmの0.12で車両の総駆動力は0.92となる。したがって、前輪1FL・1FRに加速スリップがない状態で、モータトルクTmの配分比率を高めようとすると、エネルギー損失により車両の総駆動力が低減するので、例えば3気筒のようなエンジン排気量が小さい車両ほど加速性能が低下し、特に発進時のもたつきを招く可能性がある。
【0064】
図15は、動力性能と4輪駆動性能について説明した図である。
後輪駆動力は、エンジントルクの一部から生成されるため、エンジントルクから後輪駆動力への動力配分比率を高めようとすると、変換効率に基づく損失分だけ、車両の総駆動力が低減してしまう。このとき、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生しやすい状況であれば、動力配分比率αを高めることでスムーズで安定した発進及び走行が実現されるため、動力性能の低減を補って余りある4輪駆動性能を発揮することができる。しかしながら、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生しにくい状況では、4輪駆動性能の向上よりも、動力性能の低減を抑制することが好ましい。
【0065】
そこで、本実施形態では、エンジントルクTeの一部をジェネレータ7を介してモータトルクTmへと変換する際の、エンジントルクTeからモータトルクTmへの動力配分比率αを設定すると共に、路面勾配θが登坂側で小さいほど、その動力配分比率αを制限する(ステップS118)。
具体的には、路面勾配θが登坂側で予め定めたθ1(例えば15%)以上のときには、動力配分比率αを予め定めた最大値α
MAX(例えば20%)に設定し、路面勾配θが登坂側でθ1より小さなθ2(例えば10%)以下のときには、動力配分比率αを最小値α
MIN(例えば5%)に設定する。そして、路面勾配θが登坂側でθ1からθ2の範囲にあるときには、路面勾配θが登坂側で小さいほど、動力配分比率αを最大値α
MAXから最小値α
MINの範囲で小さく設定する。
【0066】
そして、この動力配分比率αに従った第二制限値TL2を設定し(ステップS120)、アクセル開度Accに応じた第一モータトルクTm1を、その第二制限値TL2以下に制限する。すなわち、選択部56で実行する選択処理により、第一モータトルクTm1、及び第二制限値TL2のうち、最も小さいものを新たな第一モータトルクTm1として算出する。
【0067】
このように、路面勾配θが登坂側で小さいほど、つまり前輪1FL・1FRの加速スリップが発生しにくい状況であるほど、動力配分比率αを制限することで、変換効率に基づくエネルギー損失を軽減し、運転者の加速要求に応じた総駆動力を確保することができる。したがって、例えば3気筒のようなエンジンの排気量が小さな車両であっても、発進時のもたつき等の加速性能の低下を抑制することができる。
【0068】
図16は、本実施形態の動力性能と4輪駆動性能について説明した図である。
路面勾配θが登坂側に大きく(θ1以上)、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生しやすい状況においては、動力配分比率αに対する制限を緩め、動力配分比率αを最大値α
MAX(例えば20%)まで許容する。これにより、ある程度の動力配分比率αが確保されてスムーズで安定した発進及び走行が実現されるため、動力性能の低減を補って余りある4輪駆動性能を発揮することができる。一方、路面勾配θが登坂側に小さく、前輪1FL・1FRに加速スリップが発生しにくい状況では、動力配分比率αに対する制限を強め、動力配分比率αを最大値α
MAXよりも小さくする。これにより、4輪駆動性能の向上よりも、動力性能の低減を抑制することができる。
【0069】
なお、本実施形態では、
図8に示すように、θ1からθ2の範囲で、動力配分比率αを連続的に変化させているが、これに限定されるものではなく、動力配分比率αをステップ状に変化させてもよい。また、それは一段階だけでもよく、最大値α
MAXと最小値α
MINとの間で切替えるだけの構成としてもよい。
また、本実施形態では、アクセル開度Accに応じて動力配分比率αを設定し、それから第一モータトルクTm1に換算したり、また路面勾配θに応じて動力配分比率αを制限し、それから第二制限値TL2に換算したりしているが、これに限定されるものではない。例えば、
図17のマップを参照し、アクセル開度Accに応じて、直接、第一モータトルクTm1を算出したり、また
図18のマップを参照し、路面勾配θに応じて、直接、第二制限値TL2を算出したりしてもよい。
【0070】
図17は、第一モータトルクTm1の算出に用いるマップである。
このマップでは、アクセル開度Accについては、0<A1<A2<A3<A4の関係となるA1〜A4を予め定め、第一モータトルクTm1については、T1>T2の関係となるT1(例えば10Nm)、T2(例えば6Nm)を予め定めている。そして、アクセル開度Accが0からA1の範囲にあるときには、第一モータトルクTm1が0を維持し、アクセル開度AccがA1からA2の範囲にあるときには、アクセル開度Accが大きいほど、第一モータトルクTm1が0からT1まで増加する。また、アクセル開度AccがA2からA3の範囲にあるときには、第一モータトルクTm1がT1を維持し、アクセル開度AccがA3からA4の範囲にあるときには、アクセル開度Accが大きいほど、第一モータトルクTm1がT1からT2まで減少する。また、アクセル開度AccがA4より大きいときには、第一モータトルクTm1がT2を維持する。
【0071】
図18は、第二制限値TL2の算出に用いるマップである。
このマップでは、路面勾配θについては、上りの登坂側(正側)で0<θ2<θ1の関係となるθ2(例えば10%)、θ1(例えば15%)を予め定め、第二制限値TL2については、0<T4<T3の関係となるT4(例えば3Nm)、T3(例えば10Nm)を予め定めている。そして、路面勾配θが0からθ2の範囲にあるときには、第二制限値TL2がT4を維持し、路面勾配θがθ2からθ1の範囲にあるときには、路面勾配θが大きいほど、第二制限値TL2がT4からT3まで増加する。また、路面勾配θがθ1より大きいときには、第二制限値TL2がT3を維持する。なお、路面勾配θが下りの降坂側(負側)にあるときには、第二制限値TL2がT4を維持する。
【0072】
また、本実施形態では、動力配分比率αを小さく制限することによって、電動モータ3の駆動力を小さく制限しているが、これに限定されるものではない。要は、電動モータ3の駆動力を小さく制限できればよいので、動力配分比率αではなく、電動モータ3の指令値(例えば目標モータトルクTm
*)を小さく制限することによって、電動モータ3の駆動力を小さく制限してもよい。さらに、ジェネレータ7への発電指令値(例えば目標電力Pg
*)を小さく制限することによって、電動モータ3の駆動力を小さく制限してもよい。
【0073】
以上、前輪1FL・1FRが「主駆動輪」に対応し、後輪1RL・1RRが「補助駆動輪」に対応し、ジェネレータ7が「発電機」に対応する。また、4WDコントローラ19が「電動モータ制限手段」に対応し、第一モータトルク算出部51、第二制限値算出部53、及び選択部56が「配分比率設定手段」に対応し、加速度センサ29が「勾配検出手段」に対応する。また、第一モータトルク算出部51で設定される動力配分比率αが「第一の動力配分比率」に対応し、第二制限値算出部53で設定される動力配分比率αが「第二の動力配分比率」に対応する。
【0074】
《効果》
(1)本実施形態の車両用駆動制御装置によれば、前輪1FL・1FRを駆動するエンジン2と、エンジン2の動力を得て発電するジェネレータ7と、ジェネレータ7で発電した電力によって後輪1RL・1RRを駆動する電動モータ3と、を備える。そして、路面勾配θが登坂側で小さいほど、モータトルクTmを小さく制限する。
このように、路面勾配θが登坂側で小さいほど、つまり前輪1FL・1FRの加速スリップが発生しにくい状況であるほど、モータトルクTmを小さく制限することで、変換効率に基づくエネルギー損失を軽減し、運転者の加速要求に応じた総駆動力を確保することができる。したがって、エンジン2の排気量が小さな車両であっても、発進時のもたつき等の加速性能の低下を抑制することができる。
【0075】
(2)本実施形態の車両用駆動制御装置によれば、エンジントルクTeの一部をジェネレータ7を介してモータトルクTmへと配分する際に、エンジントルクTeからモータトルクTmへの動力配分比率αを設定すると共に、路面勾配θが登坂側で小さいほど、その動力配分比率αを制限する。
このように、路面勾配θが登坂側で小さいほど、動力配分比率αを制限することで、変換効率に基づくエネルギー損失を軽減し、運転者の加速要求に応じた総駆動力を確保することができる。したがって、エンジン2の排気量が小さな車両であっても、発進時のもたつき等の加速性能の低下を抑制することができる。
【0076】
(3)本実施形態の車両用駆動制御装置によれば、路面勾配θが登坂側で予め定めたθ1以上のときには、動力配分比率αを予め定めた最大値α
MAXに設定し、路面勾配θが登坂側でθ2以下のときには、動力配分比率αを最小値α
MINに設定する。また、路面勾配θが登坂側でθ1からθ2の範囲にあるときには、路面勾配θが登坂側で小さいほど、動力配分比率αを最大値α
MAXから最小値α
MINの範囲で小さく設定する。
このように、路面勾配θが登坂側で小さいほど、その動力配分比率αに対する制限を段階的に強めることで、動力性能と4輪駆動性能のバランスを最適化することができる。
【0077】
(4)本実施形態の車両用駆動制御装置によれば、アクセル開度Accに応じた動力配分率αによって第一モータトルクTm1を設定し、路面勾配θに応じた動力配分比率αによって第二制限値TL2を設定する。そして、第一モータトルクTm1、及び第二制限値TL2のうち、最も小さいものを新たな第一モータトルクTm1として算出する。
このように、第一モータトルクTm1と第二制限値TL2とのセレクトローによって目標モータトルクTm
*を設定することで、4輪駆動性能を確保しつつ、運転者の加速要求に応じた総駆動力を実現し、動力性能を高めることができる。
【0078】
(5)本実施形態の車両用駆動制御方法によれば、エンジン2で前輪1FL・1FRを駆動し、エンジン2の動力を得てジェネレータ7で発電し、ジェネレータ7で発電した電力によって電動モータ3で後輪1RL・1RRを駆動する。そして、エンジントルクTeの一部をジェネレータ7を介してモータトルクTmへと変換する際の、エンジントルクTeからモータトルクTmへの動力配分比率αを設定すると共に、路面勾配θが登坂側で小さいほど、その動力配分比率αを小さく制限することで、モータトルクTmを小さく制限する。
【0079】
このように、路面勾配θが登坂側で小さいほど、つまり前輪1FL・1FRの加速スリップが発生しにくい状況であるほど、動力配分比率αを制限することで、変換効率に基づくエネルギー損失を軽減し、運転者の加速要求に応じた総駆動力を確保することができる。したがって、エンジン2の排気量が小さな車両であっても、発進時のもたつき等の加速性能の低下を抑制することができる。
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。