(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<加工の基本原理>
本発明の実施の形態において実現される加工の基本的な原理は、特許文献1に開示された加工の原理と同様である。それゆえ、以下においては、概略のみを説明する。本発明において行われる加工は、概略的に言えば、パルスレーザー光(以下、単にレーザー光とも称する)を走査しつつ被加工物の上面(被加工面)に照射することによって、個々のパルスごとの被照射領域の間で被加工物の劈開もしくは裂開を順次に生じさせていき、それぞれにおいて形成された劈開面もしくは裂開面の連続面として分割のための起点(分割起点)を形成するものである。
【0015】
なお、本実施の形態において、裂開とは、劈開面以外の結晶面に沿って被加工物が略規則的に割れる現象を指し示すものとし、当該結晶面を裂開面と称する。なお、結晶面に完全に沿った微視的な現象である劈開や裂開以外に、巨視的な割れであるクラックがほぼ一定の結晶方位に沿って発生する場合もある。物質によっては主に劈開、裂開もしくはクラックのいずれか1つのみが起こるものもあるが、以降においては、説明の煩雑を避けるため、劈開、裂開、およびクラックを区別せずに劈開/裂開などと総称する。さらに、上述のような態様の加工を、単に劈開/裂開加工などとも称することがある。
【0016】
以下においては、被加工物が六方晶の単結晶物質であって、そのC面内において互いに120°ずつの角度をなして互いに対称の位置にあるa1軸、a2軸、およびa3軸の各軸方向が劈開/裂開容易方向であり、かつ、加工予定線が、a1軸方向、a2軸方向、a3軸方向のいずれかと垂直な場合を例に説明する。より一般的にいえば、これは、相異なる2つの劈開/裂開容易方向に対して等価な方向(2つの劈開/裂開容易方向の対称軸となる方向)が加工予定線の方向となる場合である。なお、以下においては、個々のパルスごとに照射されるレーザー光を単位パルス光と称する。
【0017】
図1は、劈開/裂開加工による加工態様を模式的に示す図である。
図1においては、a1軸方向と加工予定線Lとが直交する場合を例示している。
図1(a)は、係る場合のa1軸方向、a2軸方向、a3軸方向と加工予定線Lとの方位関係を示す図である。
図1(b)は、レーザー光の1パルス目の単位パルス光が加工予定線Lの端部の被照射領域RE11に照射された状態を示している。
【0018】
一般に、単位パルス光の照射は、被加工物の極微小領域に対して高いエネルギーを与えることから、係る照射は、被照射面において単位パルス光の(レーザー光の)被照射領域相当もしくは被照射領域よりも広い範囲において物質の変質・溶融・蒸発除去などを生じさせる。
【0019】
ところが、単位パルス光の照射時間つまりはパルス幅を極めて短く設定すると、レーザー光のスポットサイズより狭い、被照射領域RE11の略中央領域に存在する物質が、照射されたレーザー光から運動エネルギーを得ることでプラズマ化されたり気体状態などに高温化されたりして変質しさらには被照射面に垂直な方向に飛散する一方、係る飛散に伴って生じる反力を初めとする単位パルス光の照射によって生じる衝撃や応力が、該被照射領域の周囲、特に、劈開/裂開容易方向であるa1軸方向、a2軸方向、a3軸方向に作用する。これにより、当該方向に沿って、見かけ上は接触状態を保ちつつも微小な劈開もしくは裂開が部分的に生じたり、あるいは、劈開や裂開にまでは至らずとも熱的な歪みが内在される状態が生じる。換言すれば、超短パルスの単位パルス光の照射が、劈開/裂開容易方向に向かう上面視略直線状の弱強度部分を形成するための駆動力として作用しているともいえる。
【0020】
図1(b)においては、上記各劈開/裂開容易方向において形成される弱強度部分のうち、加工予定線Lの延在方向に近い−a2方向および+a3方向における弱強度部分W11a、W12aを破線矢印にて模式的に示している。
【0021】
続いて、
図1(c)に示すように、レーザー光の2パルス目の単位パルス光が照射されて、加工予定線L上において被照射領域RE11から所定距離だけ離れた位置に被照射領域RE12が形成されると、1パルス目と同様に、この2パルス目においても、劈開/裂開容易方向に沿った弱強度部分が形成されることになる。例えば、−a3方向には弱強度部分W11bが形成され、+a2方向には弱強度部分W12bが形成され、+a3方向には弱強度部分W12cが形成され、−a2方向には弱強度部分W11cが形成されることになる。
【0022】
ただし、この時点においては、1パルス目の単位パルス光の照射によって形成された弱強度部分W11a、W12aがそれぞれ、弱強度部分W11b、W12bの延在方向に存在する。すなわち、弱強度部分W11b、W12bの延在方向は他の箇所よりも小さなエネルギーで劈開または裂開が生じ得る(エネルギーの吸収率の高い)箇所となっている。そのため、実際には、2パルス目の単位パルス光の照射がなされると、その際に生じる衝撃や応力が劈開/裂開容易方向およびその先に存在する弱強度部分に伝播し、弱強度部分W11bから弱強度部分W11aにかけて、および、弱強度部分W12bから弱強度部分W12aにかけて、完全な劈開もしくは裂開が、ほぼ照射の瞬間に生じる。これにより、
図1(d)に示す劈開/裂開面C11a、C11bが形成される。なお、劈開/裂開面C11a、C11bは、被加工物の図面視垂直な方向において数μm〜数十μm程度の深さにまで形成され得る。なお、劈開/裂開面C11a、C11bにおいては、強い衝撃や応力を受けた結果として結晶面の滑りが生じ、深さ方向に起伏が生じる。
【0023】
そして、
図1(e)に示すように、その後、加工予定線Lに沿ってレーザー光を走査することにより被照射領域RE11、RE12、RE13、RE14・・・・に順次に単位パルス光を照射していくと、その照射の際に生じる衝撃や応力によって、図面視直線状の劈開/裂開面C11aおよびC11b、C12aおよびC12b、C13aおよびC13b、C14aおよびC14b・・・が加工予定線Lに沿って順次に形成されていくことになる。係る態様にて劈開/裂開面を連続的に形成するのが、本実施の形態における劈開/裂開加工の基本原理である。
【0024】
別の見方をすれば、単位パルス光の照射によって熱的エネルギーが与えられることで被加工物の表層部分が膨張し、被照射領域RE11、RE12、RE13、RE14・・・・のそれぞれの略中央領域よりも外側において劈開/裂開面C11aおよびC11b、C12aおよびC12b、C13aおよびC13b、C14aおよびC14b・・・に垂直な引張応力が作用することで、劈開/裂開が進展しているともいえる。
【0025】
すなわち、
図1に示した場合においては、加工予定線Lに沿って離散的に存在する複数の被照射領域と、それら複数の被照射領域の間に形成された劈開/裂開面とが、全体として、被加工物を加工予定線Lに沿って分割する際の分割起点となる。係る分割起点の形成後は、所定の治具や装置を用いた分割を行うことで、加工予定線Lに概ね沿う態様にて被加工物を分割することができる。
【0026】
なお、
図1に示した場合においては、加工予定線が、a1軸方向、a2軸方向、a3軸方向のいずれかと垂直となるように、単位パルス光が照射されているが、これに代わり、加工予定線がa1軸方向、a2軸方向、a3軸方向のいずれかと平行となるように単位パルス光が照射される態様であってもよいし、あるいは、個々の被照射領域が、加工予定線Lを挟む2つの劈開/裂開容易方向に交互に沿う態様にて千鳥状に(ジグザグに)形成されるように、それぞれの被照射領域を形成する単位パルス光が照射される態様であってもよい。
【0027】
以上のような劈開/裂開加工を実現するには、パルス幅の短い、短パルスのレーザー光を照射する必要がある。具体的には、パルス幅が100psec以下のレーザー光を用いることが必要である。例えば、1psec〜50psec程度のパルス幅を有するレーザー光を用いるのが好適である。
【0028】
<同時複数焦点加工>
本実施の形態においては、上述した原理の劈開/裂開加工をさらに発展させた、同時複数焦点加工にて、被加工物に分割起点を形成する。
図2は、同時複数焦点加工の様子を模式的に示す図である。
図3は、同時複数焦点加工におけるパルスレーザー光の進み方と焦点位置とを、上述した加工原理に従う通常の劈開/裂開加工と対比させて示す図である。
図3(a)が同時複数焦点加工の様子を示しており、
図3(b)が単一のパルスレーザー光LBのみを照射する通常の劈開/裂開加工の様子を示している。
【0029】
本実施の形態において、同時複数焦点加工とは、概略的にいえば、複数のパルスレーザー光を、それぞれの単位パルス光の被照射面における被照射位置が空間的かつ時間的に同一となるように、かつ、それぞれの焦点位置が被加工物内部の相異なる深さ位置となるように、照射用レンズから重畳的に照射しつつ、被照射位置が照射面において離散する条件にて加工予定線に沿って走査することにより、被加工物の異なる深さ位置において加工予定線の向きに沿った劈開/裂開を生じさせる加工態様である。
【0030】
なお、本実施の形態において、被照射位置とは、被加工物の被照射面における単位パルス光の被照射領域の中心位置(狙いの位置)のことをいう。確認的にいえば、同時複数焦点加工においては、それぞれのパルスレーザー光の単位パルス光の被照射位置は同じとなるが、被照射領域は異なってもよい。
【0031】
また、照射用レンズとは、被加工物の被照射面(被加工面)に対向配置されるレンズであり、被加工物にとってはパルスレーザー光の直接の出射源となるものである。
【0032】
さらには、被照射面における単位パルス光の被照射位置を空間的かつ時間的に同一とするということは、被加工物の、加工予定線に沿ったそれぞれの被照射位置について、全てのパルスレーザー光の照射タイミングを同一とするということである。
【0033】
同時複数焦点加工によれば、それぞれのパルスレーザー光の照射用レンズから焦点位置までの距離を適宜に設定することで、それぞれのパルスレーザー光によって形成される劈開/裂開面が連続した大きな劈開/裂開面が形成される。すなわち、単一のパルスレーザー光のみを照射する場合に比して、より深い位置に分割起点を形成することが可能となる。
【0034】
なお、本実施の形態でいう焦点位置とは、必ずしも照射用レンズからその焦点距離だけ離れた位置を意味しているわけではない。焦点距離はレンズもしくはレンズ群に固有の値であり、通常、レンズの一方面側に存在する焦点は1つのみであるので、一の照射レンズに関しその一方面側に異なる複数の焦点位置を観念することはできないからである。詳細は後述するが、本実施の形態の場合は、照射用レンズを共通に用いつつも構成の異なる複数のレンズ群を用意し、それぞれの合成焦点距離を異ならせることで、複数のパルスレーザー光の焦点位置を違えた状態を実現する。係る場合においては、便宜上、照射用レンズのみを備えるレンズ構成の場合も、レンズ群をなしているとみなし、その場合においては、照射用レンズの焦点距離を合成焦点距離とみなすものとする。
【0035】
図2および
図3(a)には、同時複数焦点加工の典型的な例として、焦点位置を違えた2つのパルスレーザー光が重畳的に照射される場合を示している。より詳細には、
図2および
図3(a)には、同時複数焦点加工の際のパルスレーザー光の照射態様の一例として、光軸AXが共通する一方で照射用レンズLEから焦点位置までの距離が被加工物Sの深さ方向(厚み方向)において異なる第1加工用レーザー光LBαと第2加工用レーザー光LBβとを、それぞれの単位パルス光の照射タイミングと被照射面における被照射位置とを一致させつつ重畳的に照射し、かつ、被照射位置が加工予定線に沿って離散するように被加工物Sに対して相対的に走査する様子が例示されている。
【0036】
より詳細には、
図2および
図3(a)においては、平行光として照射用レンズLEに入射した第1加工用レーザー光LBαの焦点Fαが、非平行光の一種である収束光として照射用レンズLEに入射した第2加工用レーザー光LBβの焦点Fβよりも深くに位置する場合を示している。
【0037】
なお、本実施の形態において、レーザー光が平行光であるとは、光軸方向においてレーザー光のビーム径が実質的に変わらない(意図的に変化させられていない)ことをいう。これに対して、光軸方向においてレーザー光のビーム径が変化するレーザー光を、非平行光と称する。例えば、平行光を凹レンズ等に入射させたとき、該凹レンズからの出射光は非平行光(発散光)となる。
【0038】
図2および
図3(a)に示す場合、焦点Fαの深さ位置およびその近傍では第1加工用レーザー光LBαの単位パルス光による劈開/裂開が生じ、焦点Fβの深さ位置およびその近傍では第2加工用レーザー光LBβの単位パルス光による劈開/裂開が生じる。
図2に矢印AR1にて示すように、第1加工用レーザー光LBαと第2加工用レーザー光LBβとを、重畳状態を保ちつつ被加工物Sに対して相対移動させると、両者によって形成される劈開/裂開面が相対移動方向のみならず深さ方向においても連続し、結果として、深さ方向に大きな拡がりを持った劈開/裂開面が形成される。
【0039】
図3(b)に示す、単一のパルスレーザー光LBのみを照射する通常の場合は、被加工物の表面から確実に劈開/裂開が生じるように、その焦点Fの位置を定める必要があるが、
図2および
図3(a)に示す同時複数焦点加工の場合、被加工物の表面の近傍においては、第2加工用レーザー光LBβが照射されることで劈開/裂開が生じるので、第1加工用レーザー光LBαの照射により直接に形成される劈開/裂開面が、被加工物の表面に到達する必要はない。
【0040】
それゆえ、同時複数焦点加工の場合、第1加工用レーザー光LBαの焦点Fαの位置を、単一のパルスレーザー光LBを照射して劈開/裂開加工を行う場合の焦点Fの位置よりも深い位置に設定することができる。
【0041】
2つのパルスレーザー光を重畳させて同時複数焦点加工を行う場合、それぞれによって形成される劈開/裂開面を深さ方向に連続させるようにするには、それぞれのレーザー光の焦点位置は、被照射面から近い方(
図2では第2加工用レーザー光LBβ)が4μm〜45μm程度であり、被照射面から遠い方(
図2では第1加工用レーザー光LBα)が16μm〜60μm程度であることが好ましい。
【0042】
同時複数焦点加工におけるそれぞれのパルスレーザー光の与え方には、種々の態様があるが、その好適な一例として、一の出射源から出射されたパルスレーザー光を光学的に二方向に分岐させ、照射用レンズは共用としつつ双方に設けるレンズ群を違えることで、双方のパルスレーザー光を重畳させる態様がある。係る場合、それぞれのパルスレーザー光の単位パルス光の被照射面に対する照射タイミングを実質的に同一にすることが容易である。
【0043】
あるいは、そのような分岐をさせる代わりに、照射用レンズ自体の構成を工夫することで、焦点位置の異なる複数のパルスレーザー光を生じさせるようにしてもよい。
【0044】
同時複数焦点加工を行う場合の単位パルス光の照射ピッチ(被照射位置の中心間隔)は、3μm〜50μmの範囲で定められればよい。これよりも照射ピッチが大きいと、劈開/裂開容易方向における弱強度部分の形成が劈開/裂開面を形成し得るほどにまで進展しない場合が生じるため、上述のような劈開/裂開面からなる分割起点を確実に形成するという観点からは、好ましくない。なお、走査速度、加工効率、製品品質の点からは、照射ピッチは大きい方が好ましいが、劈開/裂開面の形成をより確実なものとするには、3μm〜30μmの範囲で定めるのが望ましく、3μm〜20μm程度であるのがより好適である。
【0045】
いま、レーザー光の繰り返し周波数がR(kHz)である場合、1/R(msec)ごとに単位パルス光がレーザー光源から発せられることになる。被加工物に対してレーザー光が相対的に速度V(mm/sec)で移動する場合、照射ピッチΔ(μm)は、Δ=V/Rで定まる。従って、レーザー光の走査速度Vと繰り返し周波数は、Δが数μm程度となるように定められる。例えば、走査速度Vは50mm/sec〜3000mm/sec程度であり、繰り返し周波数Rが1kHz〜200kHz、特には10kHz〜200kHz程度であるのが好適である。VやRの具体的な値は、被加工物の材質や吸収率、熱伝導率、融点などを勘案して適宜に定められてよい。
【0046】
レーザー光は、約1μm〜10μm程度のビーム径にて照射されることが好ましい。ただし、重畳されるそれぞれのレーザー光のビーム径は、異なっていてもよい。
【0047】
なお、それぞれのレーザー光の照射エネルギー(パルスエネルギー)は0.1μJ〜50μJの範囲内で適宜に定められてよい。ただし、本実施の形態においては、0.1μJ〜10μJの範囲で十分に好適な加工が可能である。
【0048】
図4は、サファイア単結晶基板に対し、2つのパルスレーザー光によって同時複数焦点加工を行い、これによって形成された劈開/裂開面に沿って当該基板を分割することによって得られた分割個片のSEM(走査電子顕微鏡)像である。より詳細には、
図4は、該分割個片の上面(被加工物の被照射面)と劈開/裂開面を含む分割面との交線近傍のSEM像である。図中、上側約1/3の部分が上面であり、それ以外が分割面である。同時複数焦点加工においては、それぞれのパルスレーザー光の焦点位置は、被照射面から近い方が6μmと設定され、被照射面から遠い方が16μmと設定され、単位パルス光の照射ピッチ(被照射位置の中心間隔)が10μmと設定されてなる。
【0049】
図4によると、分割面の被照射面から遠いところでは、上下方向に延在するくさび形の領域と、その左右において略対称な、斜め方向に多数の筋が入った筋状部分とが存在する。前者は、単位パルス光が照射された領域である。後者は、劈開/裂開面であるが、筋状部分は、0.1μm〜1μm程度の高低差を有する微小な凹凸であり、パルスレーザー光が照射されることで被加工物に強い衝撃や応力が作用することによって、特定の結晶面に滑りが生じることにより形成されたものである。
【0050】
図4には、単位パルス光の照射ピッチが10μmであったことが示されているが、これを参考にすると、劈開/裂開面の最大深さが33μm前後であることがわかる。通常の劈開/裂開加工における劈開/裂開面の最大深さ(分割起点の深さ)はせいぜい12μm程度であることから、同時複数焦点加工を行うことで、その約2倍程度の深さの位置に、分割起点を形成することが可能となる。よって、同時複数焦点加工を行ったうえで分割を行うようにすることで、より精度よく被加工物を分割することが可能となる。
【0051】
以上のように、本実施の形態においては、上述した劈開/裂開加工をさらに発展させた同時複数焦点加工を行うことで、被加工物の変質や飛散などの発生を局所的なものに留める一方、被加工物の劈開もしくは裂開を加工予定線の方向のみならず深さ方向においても積極的に生じさせることにより、従来よりも極めて高速に、被分割体に対して分割起点を形成することができる。
【0052】
<レーザー加工装置の概要>
図5は、本実施の形態に係る同時複数焦点加工を実現可能なレーザー加工装置100の構成を模式的に示す図である。なお、レーザー加工装置100は、同時複数焦点加工に限らず、光学系やパルスレーザー光の照射態様などを適宜に違えることにより、被加工物に溝加工や穴開け加工などを行うことも可能である。
図5に示すように、レーザー加工装置100は、主に、ステージ部10と光学系20とを備える。また、レーザー加工装置100は、各部の動作を制御する図示しない制御部を備える。
【0053】
ステージ部10は、被加工物Sが載置固定される部位である。ステージ部10は、図示しない吸着機構を備え、ステージ部10の上面10aに載置された被加工物Sを吸着固定することができる。また、ステージ部10は移動機構10mを備えており、係る移動機構10mの作用によって、直交する2方向への水平移動および水平面内での回転移動が可能となっている。
【0054】
光学系20は、ステージ部10に載置固定された被加工物Sに対してレーザー光を照射するための部位である。光学系20は、レーザー光源21と、3つの1/2波長板22(第1の1/2波長板22a、第2の1/2波長板22b、第3の1/2波長板22c)と、4つの偏光ビームスプリッター23(第1の偏光ビームスプリッター23a、第2の偏光ビームスプリッター23b、第3の偏光ビームスプリッター23c、第4の偏光ビームスプリッター23d)と、焦点位置調整用レンズ24(第1調整用レンズ24a、第2調整用レンズ24b)と、照射用レンズ25とを主として備える。
【0055】
レーザー光源21は、直線偏光かつ平行光であるレーザー光LB0を出射させる。係るレーザー光源21としては、種々の公知の光源を用いることができる。加工目的に応じ、適宜の光源が選択されて用いられればよい。Nd:YAGレーザーや、Nd:YVO
4レーザーやその他の固体レーザーを用いる態様が好適である。なお、レーザー光源21には、シャッターSTが付随する。
【0056】
例えば、サファイア単結晶基材が下地基板として用いられたLED基板のストリート位置にスクライブラインを形成する場合であれば、psecレーザーを用いるのが好適である。なお、本実施の形態においてLED基板とは、それぞれがLEDを構成する単位パターンを2次元的に配列したLED回路パターンが表面に形成された半導体基板のことをいい、そのストリートとは、係るLED基板を個々のLEDチップに分割する(個片化する)際の分割予定位置のことをいう。
【0057】
シャッターSTが開放されてレーザー光源21から出射されたレーザー光LB0は、その光路P0上に設けられてなる第1の1/2波長板22aによって、その偏光の程度(P偏光とS偏光の比率)が適宜に調整される。
【0058】
第1の1/2波長板22aを経たレーザー光LB0は、光路P0上に設けられてなる第1の偏光ビームスプリッター23aに到達する。第1の偏光ビームスプリッター23aにおいて、レーザー光LB0は、第1分岐光路P1を進む第1分岐光LB1と、第2分岐光路P2を進む第2分岐光LB2に分岐される。換言すれば、第1の偏光ビームスプリッター23aは、レーザー光LB0を第1分岐光LB1と第2分岐光LB2とに分岐させる分岐手段として機能する。
【0059】
より詳細には、第1の偏光ビームスプリッター23aは、第1分岐光LB1はP偏光の透過光として出射し、第2分岐光LB2はS偏光の反射光として出射する。なお、第1の偏光ビームスプリッター23aをはじめとする偏光ビームスプリッター23としては、透過効率が90%〜95%であり、反射効率は約99%であるものを用いる。これにより、偏光ビームスプリッター23における光学的な損失は最小限に低減される。
【0060】
第1分岐光路P1および第2分岐光路P2は、その途中に設けられた第1の反射ミラー26または第2の反射ミラー27にて第1分岐光LB1または第2分岐光LB2が反射されることによって、それぞれの向きが適宜に変化させられてなる。
【0061】
なお、
図5においては、第1の反射ミラー26と第2の反射ミラー27とが、図面のなす平面内でのみパルスレーザー光を反射する姿勢にて配置されているが、これは図示の都合上のものに過ぎない。また、第1の反射ミラー26と第2の反射ミラー27の個数も
図5に例示した場合には限定されない。すなわち、第1の反射ミラー26と第2の反射ミラー27は、光学系20を構成する各要素の配置レイアウト上の要請等に応じて、適宜の個数、配置位置、および姿勢にて設けられる。
【0062】
第1分岐光路P1は、第2の1/2波長板22bと、第2の偏光ビームスプリッター23bとを、第1分岐光LB1の進む方向においてこの順に備える。また、第1分岐光路P1は、第2の偏光ビームスプリッター23bを透過したP偏光である第1分岐光LB1が第4の偏光ビームスプリッター23dに到達するように、構成される。
【0063】
第2の1/2波長板22bと、第2の偏光ビームスプリッター23bとは、第1分岐光LB1の光量を調整可能とするために設けられてなる。具体的にいえば、第1の偏光ビームスプリッター23aからP偏光として出射されている第1分岐光LB1は、第2の1/2波長板22bが存在しない場合、上述の透過効率で第2の偏光ビームスプリッター23bを透過することになる。これに対し、上述のように第2の1/2波長板22bを設けた場合、第2の1/2波長板22bにて偏光の程度を調整することによって、第2の偏光ビームスプリッター23bを透過可能な第1分岐光LB1のP偏光の比率を調整できる。これにより、結果として第1分岐光LB1の光量が調整される。
【0064】
一方、第2分岐光路P2は、第3の1/2波長板22cと、第3の偏光ビームスプリッター23cと、焦点位置調整用レンズ24とを、第2分岐光LB2の進む方向においてこの順に備える。また、
図5では簡略化されているが、第2分岐光路P2は、第3の偏光ビームスプリッター23cにて反射されたS偏光である第2分岐光LB2が、焦点位置調整用レンズ24を経た上で、第4の偏光ビームスプリッター23dに到達するように、構成される。
【0065】
また、第2分岐光路P2においては、2つの第2の反射ミラー27が、移動機構27mによって移動自在とされてなる。これにより、レーザー加工装置100においては、第2分岐光路P2の光路長を適宜に調整できるようになっている。
【0066】
第3の1/2波長板22cと、第3の偏光ビームスプリッター23cとは、第2分岐光LB2の光量を調整可能とするために設けられてなる。具体的にいえば、第1の偏光ビームスプリッター23aからS偏光として出射されている第2分岐光LB2は、第3の1/2波長板22cが存在しない場合、上述の反射効率で第3の偏光ビームスプリッター23cにて反射されることになる。これに対し、上述のように第3の1/2波長板22cを設けた場合、第3の1/2波長板22cにて偏光の程度を調整することによって、第3の偏光ビームスプリッター23cにて反射可能な第2分岐光LB2のS偏光の比率を調整できる。これにより、結果として第2分岐光LB2の光量が調整される。
【0067】
また、
図5に示す場合においては、凹レンズである第1調整用レンズ24aと凸レンズである第2調整用レンズ24bとによって、焦点位置調整用レンズ24が構成されてなる。係る場合、平行光として第1調整用レンズ24aに入射した第2分岐光LB2は、前方ほど光軸周りの拡がりが大きくなる非平行光である発散光として第1調整用レンズ24aから出射され、第2調整用レンズ24bによって光軸周りにおける拡がり度合いが調整されつつも、非平行光の状態にて、第4の偏光ビームスプリッター23dに到達する。
【0068】
第1分岐光路P1と第2分岐光路P2とは、第4の偏光ビームスプリッター23dにおいて合流し、共通光路P3となる。共通光路P3には、照射用レンズ25が備わっており、該照射用レンズ25の先方に、ステージ部10が位置している。
【0069】
第1分岐光路P1を経由したP偏光である第1分岐光LB1は、第4の偏光ビームスプリッター23dを透過して共通光路P3を進み、照射用レンズ25を経てステージ部10に載置された被加工物Sに照射される。第1分岐光路P1およびこれに続く共通光路P3上に設けられたレンズは照射用レンズのみであるので、第1分岐光LB1は、照射用レンズ25からその焦点距離だけ離れた位置を焦点位置として被加工物Sに照射される。
【0070】
一方、第2分岐光路P2を経由したS偏光である第2分岐光LB2は、第4の偏光ビームスプリッター23dにて反射されて共通光路P3を進み、照射用レンズ25を経てステージ部10に載置された被加工物Sに照射される。このとき、第2分岐光路P2およびこれに続く共通光路P3上には焦点位置調整用レンズ24と照射用レンズ25とからなるレンズ群が設けられてなるので、第2分岐光LB2は、照射用レンズ25から当該レンズ群の合成焦点距離だけ離れた位置を焦点位置として被加工物Sに照射される。
【0071】
以上のような構成を有するレーザー加工装置100によれば、概略、被加工物Sを載置固定したステージ部10を適宜に移動させつつ、焦点位置が相異なる第1分岐光LB1と第2分岐光LB2とを被加工物Sに対して重畳的に照射することにより、被加工物Sの所望の加工位置に対し種々の加工を行うことが出来る。その代表的な加工態様が、上述した同時複数焦点加工である。
【0072】
すなわち、レーザー光源21として、パルス幅が100psec以下の超短パルス光であるパルスレーザー光を出射可能なものとし、第1分岐光路P1と第2分岐光路P2との光路長が等しくなるように移動機構27mによって第2の反射ミラー27の配置位置を調整し、照射用レンズ25の高さ位置および第2分岐光路P2における焦点位置調整用レンズ24の配置位置を適宜に定めることにより第1分岐光LB1と第2分岐光LB2との焦点位置を被加工物Sの内部に設定し、かつ、パルスレーザー光の繰り返し周波数やビーム径やステージ部10の移動速度の照射条件を適宜に設定すれば、レーザー加工装置100において同時複数焦点加工を好適に行うことが出来る。その際に、焦点位置調整用レンズ24と照射用レンズ25とからなるレンズ群の合成焦点距離が照射用レンズ25の焦点距離よりも短くなるように焦点位置調整用レンズ24を配置した場合には、第1分岐光LB1が上述の第1加工用レーザー光LBαとなり、第2分岐光LB2が第2加工用レーザー光LBβとなって、
図2および
図3(a)に示した態様での同時複数焦点加工を行うことが出来る。
【0073】
<変形例>
レーザー加工装置100において実施可能な加工は上述の同時複数焦点加工に限られるものではない。例えば、よりパルス幅の大きなパルスレーザー光を出射するレーザー光源21を用いた加工を行うことも可能である。また、個々の単パルス光の被照射位置が連続する条件にてパルスレーザー光を照射する態様での加工も可能である。さらには、第2分岐光路P2の光路長を調整することによって第1加工用レーザー光LBαと第2加工用レーザー光LBβの照射タイミングを違えた状態での加工も可能である。
【0074】
また、上述のレーザー加工装置においては、レーザー光LB0を第1分岐光路P1と第2分岐光路P2の2つに分岐させることによって、焦点位置が異なる2つのパルスレーザー光を被加工物Sに照射可能となっているが、レーザー加工装置は、さらに多くの分岐光路を設け、それぞれのレンズ群の合成焦点距離を互いに違えることによって、焦点位置が異なる3つ以上のパルスレーザー光を被加工物Sに照射可能な構成を有していてもよい。