(54)【発明の名称】はんだ接合構造、パワーモジュール、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、並びに、はんだ接合構造の製造方法、パワーモジュールの製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
絶縁層の一方の面に前記銅部材からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の一方の面に接合された半導体素子と、を備えたパワーモジュールであって、
前記回路層と前記半導体素子との接合部が請求項1または請求項2に記載のはんだ接合構造とされていることを特徴とするパワーモジュール。
絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記ヒートシンクの接合面及び前記パワーモジュール用基板の接合面のうち少なくとも一方は、前記銅部材で構成されており、
前記ヒートシンクと前記パワーモジュール用基板との接合部が請求項1または請求項2に記載のはんだ接合構造とされていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
前記結晶性の酸化物粒子は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛のうちいずれか1種または2種以上からなることを特徴とする請求項5に記載のはんだ接合構造の製造方法。
絶縁層の一方の面に前記銅部材からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の一方の面に接合された半導体素子と、を備え、前記回路層と前記半導体素子とがはんだ接合部を介して接合されたパワーモジュールの製造方法であって、
前記はんだ接合部を請求項5または請求項6に記載のはんだ接合構造の製造方法によって形成することを特徴とするパワーモジュールの製造方法。
絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備え、前記ヒートシンクの接合面及び前記パワーモジュール用基板の接合面のうち少なくとも一方は、前記銅部材で構成されており、前記ヒートシンクと前記パワーモジュール用基板とがはんだ接合部を介して接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記はんだ接合部を請求項5または請求項6に記載のはんだ接合構造の製造方法によって形成することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献3に記載されたように、回路層表面にNiめっき膜を形成したパワーモジュール用基板においては、半導体素子を接合するまでの過程においてNiめっき膜の表面が酸化等によって劣化し、はんだ材を介して接合した半導体素子との接合信頼性が低下するおそれがあった。また、Niめっき工程では、不要な領域にNiめっきが形成されて電食等のトラブルが発生しないように、マスキング処理を行うことがある。このように、マスキング処理をした上でめっき処理をする場合、回路層部分にNiめっき膜を形成する工程に多大な労力が必要となり、パワーモジュールの製造コストが大幅に増加してしまうといった問題がある。
【0007】
また、特許文献4に開示された導電組成物を用いて、回路層とはんだ層とを導通させる導電接合層を形成した場合には、Agがはんだ材側に拡散してAg食われが生じることがある。すると、ガラス層とはんだ材とが接触することになり、はんだの濡れ不良が生じ、接合部の内部にボイドが発生するおそれがあった。このため、銅部材である回路層と被接合材である半導体素子との接合信頼性が低下するといった問題があった。特に、最近では、上述のパワーモジュール等においては、自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されることがあり、耐熱性の向上が求められている。耐熱性を向上させるために、融点の高いはんだ材を用いた場合には、はんだ付け温度が高くなるため、上述のボイドが発生し易い状況にある。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅及び銅合金からなる銅部材をはんだ付けする際に、はんだ材による銅部材の変質を防止できるとともに、銅部材と被接合材とを確実にはんだ接合することが可能なはんだ接合構造、このはんだ接合構造を利用したパワーモジュール、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、並びに、はんだ接合構造の製造方法、パワーモジュールの製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明のはんだ接合構造は、銅又は銅合金からなる銅部材
と被接合部材と
のはんだ接合構造であって、前記銅部材の表面に形成されたガラス層と、このガラス層に積層されたAg層と、前記Ag層に積層されたはんだ層と、を備えており、前記Ag層には、結晶性の酸化物粒子が分散されて
おり、この結晶性の酸化物粒子の結晶粒径が0.1μm以上5μm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成のはんだ接合構造によれば、Ag層には、結晶性の酸化物粒子が分散されているので、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制される。そして、はんだ材がガラス層と直接接触することがなくなり、銅部材と被接合部材との間の接合層にボイドが生成することを抑制できる。よって、銅部材と被接合部材とのはんだ接合構造の信頼性を向上させることが可能となる。
【0011】
また、銅部材の表面にガラス層及びAg層が形成されているので、銅部材とはんだ材とが直接接触することがなくなり、溶融したはんだ材と銅とが反応して銅部材の内部にはんだ材の成分が侵入することを防止することができる。よって、銅部材の変質を防止することができ、銅部材の表面にNiめっき膜等を設ける必要がない。
【0012】
さらに、前記結晶性の酸化物粒子は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛のうちいずれか1種または2種以上をからなることが好ましい。
酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛から選択される結晶性の酸化物粒子が、はんだと接合されたAg層中に分散されると、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制される。Ag中に酸化物粒子が分散していることにより、焼成時においてAg層がネッキングする面積が少なくなる。このように焼結されたAg層に対してはんだ接合を行うと、完全にネッキングしたAg層と比較して、Agのはんだ材側への拡散が生じ難くなるため、はんだ材に対するAg喰われを抑制することができる。
【0013】
本発明のパワーモジュールは、絶縁層の一方の面に銅部材からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の一方の面に接合された半導体素子と、を備えたパワーモジュールであって、前記回路層と前記半導体素子との接合部が上述のはんだ接合構造とされていることを特徴としている。
【0014】
このような構成とされた本発明のパワーモジュールにおいては、銅部材となる回路層と、被接合部材となる半導体素子とが、ガラス層、結晶性の酸化物粒子が分散されたAg層、はんだ層を介して接合されているので、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制されてAg層の形成が維持でき、高温条件ではんだ付けを行った場合でも、接合部におけるボイドの発生を抑制される。よって、銅部材となる回路層と半導体素子とを確実にはんだ接合することができ、半導体素子の接合信頼性に優れ、かつ、耐熱性に優れたパワーモジュールを提供することが可能となる。また、はんだ材と回路層とが直接接触することがなく、回路層の変質を抑制することができる。
【0015】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記ヒートシンクの接合面及び前記パワーモジュール用基板の接合面のうち少なくとも一方は、銅部材で構成されており、前記ヒートシンクと前記パワーモジュール用基板との接合部が上述のはんだ接合構造とされていることを特徴としている。
【0016】
このような構成とされた本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、前記パワーモジュール用基板の接合面及び前記ヒートシンクの接合面のうち少なくとも一方は、銅部材で構成されていることから、前記パワーモジュール用基板の接合面を有する部材及び前記ヒートシンクの接合面を有する部材の一方が上述のはんだ接合構造の銅部材に該当し、他方が被接合部材に該当することになる。そして、この銅部材と、被接合部材とが、ガラス層、結晶性の酸化物粒子が分散されたAg層、はんだ層を介して接合されているので、Agがはんだ材側へ拡散することを抑制してAg層を維持することができ、高温条件ではんだ付けを行った場合でも、接合部におけるボイドの発生を抑制される。
したがって、パワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合信頼性が向上し、ヒートシンクによって熱を効率的に放散させることが可能となる。
なお、ヒートシンクとしては、板状の放熱板、内部に冷媒が流通する冷却器、フィンが形成された液冷、空冷放熱器、ヒートパイプなど、熱の放散によって温度を下げることを目的とした金属部品が含まれる。
【0017】
本発明のはんだ接合構造の製造方法は、銅又は銅合金からなる銅部材と、被接合部材と、をはんだ材を用いて接合するはんだ接合構造の製造方法であって、前記銅部材の表面にガラス及び結晶性の酸化物粒子を含有するAgペーストを塗布する塗布工程と、前記Agペーストを塗布した状態で加熱処理して前記Agペーストを焼成する焼成工程と、前記Agペーストの焼成体からなるAg焼成層の表面にはんだ材を介して被接合部材をはんだ接合するはんだ接合工程と、を備え、前記Ag焼成層
は、前記銅部材の表面に形成されたガラス層と、このガラス層に積層されたAg層と、を備え、前記Ag層には、結晶性の酸化物粒子が分散されて
おり、この結晶性の酸化物粒子の結晶粒径が0.1μm以上5μm以下の範囲内とされていることを特徴とする。
【0018】
このような製造方法によれば、Ag焼結層に結晶性の酸化物粒子が分散させることができるので、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制され、ガラス層及びAg層を有するはんだ接合構造を製造することができる。よって、高温条件ではんだ接合した場合であっても、接合部にボイドが発生することを抑制することができ、接合信頼性に優れ、かつ、耐熱性に優れたはんだ接合構造を製造することが可能となる。
【0019】
本発明のパワーモジュールの製造方法は、絶縁層の一方の面に前記銅部材からなる回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記回路層の一方の面に接合された半導体素子と、を備え、前記回路層と前記半導体素子とがはんだ接合部を介して接合されたパワーモジュールの製造方法であって、前記はんだ接合部を上述のはんだ接合構造の製造方法によって形成することを特徴としている。
【0020】
また、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法は、絶縁層の一方の面に回路層が配設されたパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備え、前記ヒートシンクの接合面及び前記パワーモジュール用基板の接合面のうち少なくとも一方は、前記銅部材で構成されており、前記ヒートシンクと前記パワーモジュール用基板とがはんだ接合部を介して接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記はんだ接合部を上述のはんだ接合構造の製造方法によって形成することを特徴としている。
【0021】
上述のようなパワーモジュール、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、はんだ接合部において、結晶性の酸化物粒子が分散したAg焼成層を形成することができることから、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制されて、Ag層の形成を維持することができる。よって、はんだ材とガラス層とが直接接触することが抑制され、はんだ接合部におけるボイドの発生を抑えることができ、銅部材と被接合材とを確実にはんだ接合することができる。また、はんだ材と銅部材とが直接接触することが抑制されているので、銅部材の変質を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、銅及び銅合金からなる銅部材をはんだ付けする際に、はんだ材による銅部材の変質を防止できるとともに、銅部材と被接合材とを確実にはんだ接合することが可能なはんだ接合構造、このはんだ接合構造を利用したパワーモジュール、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、並びに、はんだ接合構造の製造方法、パワーモジュールの製造方法、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態であるはんだ接合構造、パワーモジュール、放熱板付パワーモジュール用基板について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール1及び放熱板付パワーモジュール用基板20を示す。この実施形態では、ヒートシンクとして、放熱板21を用いた。
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に搭載された半導体素子3と、金属層13の他方の面(
図1において下面)に接合された放熱板21と、この放熱板21の他方の面側に積層された冷却器31と、を備えている。
【0025】
パワーモジュール用基板10は、絶縁層を構成する絶縁基板11と、この絶縁基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、絶縁基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0026】
絶縁基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、例えばAlN(窒化アルミ)、Si
3N
4(窒化珪素)、Al
2O
3(アルミナ)等の絶縁性の高いセラミックスで構成され、本実施形態では、Al
2O
3(アルミナ)で構成されている。また、絶縁基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0027】
回路層12は、絶縁基板11の一方の面に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、タフピッチ銅の圧延板からなる銅板が絶縁基板11に接合されることにより形成されている。
【0028】
金属層13は、絶縁基板11の他方の面に、金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板が絶縁基板11に接合されることで形成されている。
【0029】
放熱板21は、前述のパワーモジュール用基板10からの熱を面方向に拡げるものであり、本実施形態では、熱伝導性に優れた銅板とされている。
冷却器31は、
図1に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路32を備えている。冷却器31は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
なお、放熱板21と冷却器31とは、
図1に示すように、固定ネジ22によって締結されている。
【0030】
そして、
図2に示すように、アルミニウムからなる金属層13と銅からなる放熱板21とは、放熱板接合部40を介して接合されている。この放熱板接合部40においては、放熱板21の一方の面(
図2において上面)に形成された第1ガラス層41と、この第1ガラス層41の一方の面に積層された第1Ag層42と、金属層13の他方の面(
図2において下面)に形成された第2ガラス層46と、この第2ガラス層46の他方の面に積層された第2Ag層47と、この第1Ag層42と第2Ag層47との間に介在する放熱板側はんだ層43と、を備えている。
【0031】
また、
図3に示すように、タフピッチ銅からなる回路層12と半導体素子3とは、半導体素子接合部50を介して接合されている。この半導体素子接合部50においては、回路層12の一方の面(
図3において上面)に形成された第3ガラス層51と、この第3ガラス層51の一方の面に積層された第3Ag層52と、この第3Ag層52の一方の面に積層された半導体素子側はんだ層53と、を備えている。
【0032】
ここで、放熱板側はんだ層43及び半導体素子側はんだ層53は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Sb系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)で構成されている。また、放熱板側はんだ層43及び半導体素子側はんだ層53の厚さthは、20μm≦th≦600μmの範囲内に設定されている。
【0033】
第1ガラス層41、第2ガラス層46及び第3ガラス層51は、その厚さtgが0.05μm≦tg≦10μmの範囲内に設定されている。
ここで、第1ガラス層41及び第3ガラス層51においては、その内部に粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子が分散されている。この導電性粒子は、Ag又はCuの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされている。
また、第2ガラス層46においては、その内部に粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子が分散されている。この導電性粒子は、Ag又はAlの少なくとも一方を含有する結晶性粒子とされている。
なお、第1ガラス層41、第2ガラス層46及び第3ガラス層51内の導電性粒子は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることで観察されるものである。
【0034】
そして、第1Ag層42、第2Ag層47及び第3Ag層52には、それぞれ、結晶性の酸化物粒子44、48、54が分散されている。結晶性の酸化物粒子44、48、54は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛のうちいずれか1種又は2種以上からなるとされている。また、結晶性の酸化物粒子の結晶粒径は、0.1μm以上5μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.5μmであった。
この結晶性の酸化物粒子は、第1Ag層42、第2Ag層47及び第3Ag層52の断面の元素分析から同定することができる。元素分析手法として、例えば、EPMAやEDSなどの電子線による分析手法を用いればよい。
【0035】
また、第1Ag層42、第2Ag層47及び第3Ag層52は、その厚さtaが1μm≦ta≦100μmの範囲内に設定されている。好ましくは、1.5μm≦ta≦50μmの範囲内とされている。
ここで、放熱板接合部40及び半導体素子接合部50は、金属層13及び回路層12の表面、並びに、放熱板21の表面に以下に説明するAgペーストを塗布・焼成してAg焼成層を形成し、このAg焼成層の表面にはんだ材を介して、放熱板21と金属層13及び回路層12と半導体素子3を接合することによって形成されるものである。
【0036】
次に、本実施形態において使用されるAgペーストについて説明する。
このAgペーストはAg粉末と、ガラス粉末と、結晶性の酸化物粉末と、樹脂と、分散剤とを含有しており、Ag粉末の含有量が、Agペースト全体の60質量%以上90質量%以下とされており、残部がガラス粉末、結晶性の酸化物粉末、樹脂、溶剤、分散剤とされている。なお、本実施形態では、Agペーストの粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上300Pa・s以下に調整されている。
【0037】
Ag粉末は、その粒径が0.05μm以上1.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.8μmのものを使用した。
【0038】
ガラス粉末は、例えば、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン及び酸化ビスマスのいずれか1種または2種以上を含有しており、その軟化温度が600℃以下とされている。
また、ガラス粉末は必要に応じて、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化銅、酸化セレン、酸化ジルコニウム、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物などを含有していても良い。
また、Ag粉末の重量Aとガラス粉末の重量Gとの重量比A/Gは、80/20から99/1の範囲内に調整されており、本実施形態では、A/Gが85/15とされている。
さらに、Ag粉末の重量Aと結晶性の酸化物粉末の重量Oとの重量比A/Oは、90/10から99/1の範囲内とされている。
【0039】
結晶性の酸化物粉末は、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素の粉末であり、いずれか1種または2種以上の結晶性の酸化物粉末を選択すれば良い。
結晶性の酸化物粉末は、その結晶粒径が0.05μm以上1.0μm以下とされており、本実施形態では、平均粒径0.5μmものを使用した。
なお、Ag粉末及び結晶性の酸化物粉末の結晶粒径は、レーザー回折散乱方式による粒度分布測定方法で測定すればよい。
【0040】
溶剤は、沸点が200℃以上のものが適しており、例えば、αテルピオネール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル等を適用することができる。なお、本実施形態では、αテルピネオールを用いている。
樹脂は、Agペーストの粘度を調整するものであり、窒素雰囲気で分解されるアクリル樹脂が最も好ましい。
また、本実施形態では、ジカルボン酸系の分散剤を添加している。なお、分散剤を添加することなく導電性組成物を構成してもよい。
【0041】
次に、本実施形態で用いられるAgペーストの製造方法について、
図4に示すフロー図を参照して説明する。
まず、前述したAg粉末と、ガラス粉末と、結晶性の酸化物粉末とを混合して混合粉末を生成する(混合粉末形成工程S1)。また、溶剤、樹脂及び分散剤を混合して有機混合物を生成する(有機物混合工程S2)。
【0042】
そして、混合粉末形成工程S1で得られた混合粉末と、有機物混合工程S2で得られた有機混合物とをミキサーによって予備混合する(予備混合工程S3)。
次いで、予備混合物を、複数のロールを有するロールミル機を用いて練り込みながら混合する(混錬工程S4)。
混錬工程S4によって得られた混錬物を、ペーストろ過機によってろ過する(ろ過工程S5)。
このようにして、本実施形態であるAgペーストが製出されることになる。
【0043】
以下に、本実施形態であるパワーモジュールの製造方法について、
図5のフロー図を用いて説明する。
まず、回路層12となる銅板と絶縁基板11とを接合する(回路層形成工程S11)。ここで、絶縁基板11がAl
2O
3で構成されていることから、銅板と絶縁基板11とを、銅と酸素の共晶反応を利用したDBC法により接合する。具体的には、タフピッチ銅からなる銅板と、絶縁基板11とを接触させ、窒素ガス雰囲気中で1075℃、10分加熱することで、銅板と絶縁基板11とが接合されることになる。
【0044】
次に、絶縁基板11の他方の面側に金属層13となるアルミニウム板を接合する(金属層形成工程S12)。絶縁基板11とアルミニウム板とを、ろう材を介して積層し、ろう付けによって絶縁基板11とアルミニウム板を接合する。このとき、ろう材としては、例えば、厚さ20〜110μmのAl−Si系ろう材箔を用いることができ、ろう付け温度は600〜620℃とすることが好ましい。
【0045】
次に、放熱板21の一方の面に、前述のAgペーストを塗布する(第1Agペースト塗布工程S13)。
また、金属層13の他方の面にも、前述のAgペーストを塗布する(第2Agペースト塗布工程S14)。なお、Agペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。
【0046】
放熱板21の一方の面にAgペーストを塗布した状態で、加熱炉内に装入してAgペーストの焼成を行う(第1焼成工程S15)。これにより、第1Ag焼成層(図示なし)が形成される。
また、金属層13の他方の面にAgペーストを塗布した状態で、加熱炉内に装入してAgペーストの焼成を行う(第2焼成工程S16)。これにより、第2Ag焼成層(図示なし)が形成される。
なお、このときの焼成温度は、350℃〜645℃に設定されている。
【0047】
そして、放熱板21の一方の面に形成された第1Ag焼成層と、金属層13の他方の面に形成された第2Ag焼成層との間に、はんだ材を介在させて、パワーモジュール用基板10と放熱板21とを積層し、還元炉内においてはんだ接合する(放熱板接合工程S17)。
【0048】
これにより、金属層13と放熱板21との間に、第1ガラス層41、結晶性の酸化物粒子44が分散された第1Ag層42、放熱板側はんだ層43、第2ガラス層46、結晶性の酸化物粒子48が分散された第1Ag層47、を有する放熱板接合部40が形成され、本実施形態である放熱板付パワーモジュール用基板20が製出される。
【0049】
次に、放熱板21の他方の面側に冷却器31を積層し、固定ネジ22によって固定する(冷却器積層工程S18)。
【0050】
そして、回路層12の一方の面に、前述のAgペーストを塗布する(第3Agペースト塗布工程S21)。なお、Agペーストを塗布する際には、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、感光性プロセス等の種々の手段を採用することができる。本実施形態では、スクリーン印刷法によってAgペーストをパターン状に形成した。
【0051】
回路層12の一方の面にAgペーストを塗布した状態で、加熱炉内に装入してAgペーストの焼成を行う(第3焼成工程S22)。これにより、第3Ag焼成層(図示なし)が形成される。なお、このときの焼成温度は、350℃〜645℃に設定されている。
【0052】
そして、第3Ag焼成層の表面に、はんだ材を介して半導体素子3を載置し、還元炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S23)。
これにより、回路層12と半導体素子3との間に、第3ガラス層51、結晶性の酸化物粒子54が分散された第3Ag層52、半導体素子側はんだ層53を有する半導体素子接合部50が形成され、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0053】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール1においては、金属層13と放熱板21との間に、第1ガラス層41、第1Ag層42、放熱板側はんだ層43、第2Ag層47、第2ガラス層46を有する放熱板接合部40が形成されており、第1Ag層42及び第2Ag層47には、結晶性の酸化物粒子44、48が含有されている。そのため、放熱板接合工程S17において、Agが液相のはんだ材側へ拡散することが抑制され、第1Ag層42及び第2Ag層47の形成を維持することができる。
【0054】
よって、放熱板側はんだ層43を形成するはんだ材が第1ガラス層41及び第2ガラス層46に直接接触することがなくなり、放熱板接合部40の内部にボイドが生じることを抑制できる。さらに、本実施形態では、アルミニウム製の金属層13の他方の面(接合面)に第2ガラス層46が形成されているので、金属層13の他方の面に形成された酸化被膜を除去できる。したがって、放熱板21と金属層13との接合信頼性が向上し、放熱板21によって熱を効率的に放散させることが可能となる。
また、銅製の放熱板21の一方の面(接合面)に第1ガラス層41及び第1Ag層42が形成されているので、放熱板21とはんだ材とが直接接触することがなくなり、放熱板21内へはんだ成分が侵入して放熱板21の特性が変化してしまうことを抑制できる。
【0055】
さらに、本実施形態においては、銅板からなる回路層12と半導体素子3との間に、第3ガラス層51、第3Ag層52、半導体素子側はんだ層53、を有する半導体素子接合部50が形成されており、前述の第3Ag層52には、結晶性の酸化物粒子54が含有されている。そのため、半導体素子接合工程S23において、Agが液相のはんだ内に拡散することが抑制され、第3Ag層52の形成を維持することができる。
【0056】
よって、半導体素子側はんだ層53を形成するはんだ材が第3ガラス層51に直接接触することがなくなり、半導体素子接合部50の内部にボイドが生じることを抑制できる。これにより、回路層12と半導体素子3との接合信頼性が向上することになる。
また、銅板からなる回路層12の一方の面(接合面)に第3ガラス層51及び第3Ag層52が形成されているので、回路層12とはんだ材とが直接接触することがなくなり、回路層12内へはんだ成分が侵入して回路層12の特性が変化してしまうことを抑制できる。
【0057】
また、本実施形態では、結晶性の酸化物粒子44、48、54は、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛のうちいずれか1種または2種以上からなる粒子で構成されているので、Agがはんだへ拡散することを抑制する効果が大きい。よって、第1Ag層42、第2Ag層47及び第3Ag層52を確実に形成することが可能となる。
【0058】
さらに、本実施形態においては、半導体素子3が搭載される回路層12の一方の面に形成された第3ガラス層51には、その内部に粒径が数ナノメートル程度の微細な導電性粒子が分散されているので、第3ガラス層51において導電性が確保されることになり、回路層12と半導体素子3とを電気的に接続することができる。
【0059】
次に、本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール101及び冷却器付パワーモジュール用基板130について、
図6、
図7を参照して説明する。なお、この実施形態では、ヒートシンクとして冷却器131を用いた。
このパワーモジュール101は、回路層112及び金属層113が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の一方の面(
図6において上面)に搭載された半導体素子103と、パワーモジュール用基板110の他方の面側に積層された冷却器131と、を備えている。
【0060】
パワーモジュール用基板110は、絶縁層を構成する絶縁基板111と、この絶縁基板111の一方の面(
図6において上面)に配設された回路層112と、絶縁基板111の他方の面(
図6において下面)に配設された金属層113と、を備えている。
絶縁基板111は、回路層112と金属層113との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。
【0061】
回路層112及び金属層113は、絶縁基板111に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層112及び金属層113は、タフピッチ銅の圧延板からなる銅板が絶縁基板111に接合されることにより形成されている。なお、銅板と絶縁基板111との接合は、活性金属法等を用いることができる。
【0062】
冷却器131は、
図6に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路132を備えている。冷却器131は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
【0063】
そして、
図7に示すように、A6063(アルミニウム合金)で構成される冷却器131と金属層113との間の冷却器接合部140においては、銅板からなる金属層113の他方の面に形成された第1ガラス層141と、この第1ガラス層141に積層された第1Ag層142と、冷却器131の一方の面に形成された第2ガラス層146と、この第2ガラス層146に積層された第2Ag層147と、第1Ag層142と第2Ag層147との間に介在される冷却器側はんだ層143と、を備えている。ここで、第1Ag層142と第2Ag層147には、結晶性の酸化物粒子144、148が分散されている。
【0064】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール101及び冷却器付パワーモジュール用基板130においては、アルミニウム合金からなる冷却器131と銅板からなる金属層113との間に、第1ガラス層141、第1Ag層142、冷却器側はんだ層143、第2Ag層147、第2ガラス層146、を有する冷却器接合部140が形成されている。さらに、第1Ag層142と第2Ag層147には、結晶性の酸化物粒子144,148が分散されているので、Agがはんだ材側へ拡散することが抑制される。これにより、冷却器側はんだ層143を構成するはんだ材と第1ガラス層141及び第2ガラス層146とが直接接触せず、冷却器接合部140の内部にボイドが生成することを抑制することができる。よって、冷却器131とパワーモジュール用基板110との接合信頼性が向上し、冷却器131によってパワーモジュール用基板110を効率的に冷却することができる。
また、銅板からなる金属層113の他方の面(接合面)に第1ガラス層141及び第1Ag層142が形成されているので、金属層113とはんだ材とが直接接触することがなくなり、金属層113内へはんだ成分が侵入して金属層113の特性が変化してしまうことを抑制できる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、パワーモジュールに用いられるはんだ接合構造を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、銅部材(電極部材)と被接合部材とをはんだ接合するものであれば、用途に限定はない。特に、LED素子、ペルチェ素子などのパワーサイクル若しくはヒートサイクルが発生する素子との接合部材に適している。
また、ヒートシンクとして、放熱板及び冷却器を用いて説明したが、これに限られるものではなく、フィンが形成された空冷、液冷放熱器、ヒートパイプなどであってもよい。
【0066】
また、本実施形態では、銅部材となる回路層及び金属層を構成する金属板としてタフピッチ銅の圧延板をあげて説明したが、これに限定されることはなく、その他の銅又は銅合金で構成されていてもよい。
さらに、絶縁層としてAl
2O
3、AlNからなる絶縁基板を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、Si
3N
4等からなる絶縁基板を用いても良いし、絶縁樹脂によって絶縁層を構成してもよい。
【0067】
また、Agペーストの原料、配合量については、実施形態に記載されたものに限定されることはなく、他のガラス粉末、樹脂、溶剤、分散剤を用いてもよい。軟化温度がアルミ二ウムの融点以下、より好ましくは600℃以下とされていればよい。
さらに、溶剤としては、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル等を用いても良い。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
タフピッチ銅からなる回路層上に、表1に示す組成のAgペーストを焼成してなる焼成層を形成し、この焼成層の上にSn−Ag−Cu系無鉛はんだを用いて、還元炉内において半導体素子を接合した。はんだ付けの条件は、ピーク温度での保持時間として350℃−30minとした。
【0069】
Agペーストの塗布厚さを10μmとした。また、焼成温度を575℃、焼成時間を10分とした。これにより、焼成層の厚さは約8μm、ガラス層の厚さが約1μmのAg焼成層を得た。
【0070】
なお、絶縁基板は、AlNで構成され、30mm×20mm、厚さ0.6mmのものを使用した。
また、回路層及び金属層は、タフピッチ銅で構成され、13mm×10mm、厚さ0.6mmのものを使用した。
半導体素子は、IGBT素子とし、12.5mm×9.5mm、厚さ0.25mmのものを使用した。
ヒートシンクとしては、40.0mm×40.0mm×2.5mmの冷却板を使用した。
【0071】
(接合率)
はんだ接合性を評価するために、超音波探傷装置を用いて、以下の式からIGBT素子と回路層との接合率を求めた。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち半導体素子面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)×100
なお、パワーモジュール用基板に冷熱サイクル試験を行い、初期の接合率と冷熱サイクル試験後の接合率とを比較した。冷熱サイクルは、−40℃×5分←→125℃×3分、3000サイクルとした。
【0072】
(Ag層の残存部の割合評価)
冷熱サイクル試験後に、試験片をダイヤモンドソーで切断し、断面を樹脂埋めして研磨を行い、EPMAによる元素分析(マッピング)を実施した。はんだ接合部の断面をEPMAで分析することにより、はんだ層、Ag食われ層、Ag層残存部に分類し、Ag層残存部/Ag層全体の断面積割合を評価した。なお、Ag層全体とは、Agペーストを焼成したときの断面積のことである。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、本発明例1から本発明例6においては、冷熱サイクル試験後のAg残存部が多く、初期接合率、及び、冷熱サイクル後の接合率が高い。
一方、比較例1および比較例2においては、冷熱サイクル試験後のAg残存部が少なく、初期接合率、及び、冷熱サイクル後の接合率が低い。
以上のことから、本発明例によれば、銅板からなる回路層と半導体素子とを確実にはんだ接合できることが確認された。