(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の表面に金属層が接合されてなるパワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを接合してヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する方法であって、
前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクの天板とを固着する接合工程と、
前記接合工程で接合された前記天板および前記パワーモジュール用基板を厚さ方向に加圧しながら、0℃以下に冷却する冷却工程と
を有し、前記ヒートシンクは、前記天板の厚さが3mm以上8mm以下であることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
1MPa以上50MPa以下で前記天板および前記パワーモジュール用基板を厚さ方向に加圧することを特徴とする請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、大電流、高電圧を制御する半導体装置であるパワーモジュールとして、セラミックス基板の一方の面に回路層となるアルミニウム金属層が積層され、この回路層の上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされるとともに、セラミックス基板の他方の面に放熱層となるアルミニウム金属層が形成され、この放熱層にヒートシンクが接合された構成のものが知られている。
【0003】
この種のパワーモジュールとしては、たとえば、特許文献1記載のパワーモジュールが知られている。特許文献1記載のパワーモジュールにおいて、セラミックス基板に接合されるヒートシンクには、金属部材に櫛歯状の放熱フィンが形成されている。このような放熱フィンは、たとえば、アルミニウム合金の鍛造、鋳造、押出成形等により、金属部材の全面に均一に立設されている。
【0004】
特許文献2には、冷却媒体が流通する流路を有するヒートシンクに、パワーモジュール用基板が接合されてなるヒートシンク付パワーモジュール用基板が記載されている。このヒートシンクは、熱伝導性が良好なアルミニウム合金で形成され、上部が開放された樋状のジャケットとこのジャケットの上部を塞ぐ天板とが接合されることにより内部に流路が設けられている。天板の内面には複数の放熱フィンが形成されており、冷却水等の冷却媒体が流路を流通してこの放熱フィンを冷却することにより、天板およびパワーモジュール用基板を効果的に冷却することができる。
【0005】
また、特許文献3および4には、セラミックス基板の表面および裏面に金属板をろう付けし、その表面の金属板をエッチングによって回路パターンを形成した接合体を形成し、その接合体を冷却して、接合体の反りまたはうねりを矯正する方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パワーモジュールの高出力化に伴い、パワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクにおける冷却能力の向上が求められる場合、特許文献1に記載されたような空冷式のヒートシンクよりも、特許文献2に記載されたような液冷式のヒートシンクが好適である。
【0008】
ヒートシンク内部の流路に冷却液を流通させるためにはジャケットと天板とを隙間なく接合しなければならないが、天板の平面度が低い場合には流路の密封が損なわれ、冷却媒体が漏れ出るおそれもある。
【0009】
これに対して、たとえばヒートシンクの天板を厚くすることにより反りを低減させることはできるが、天板が厚すぎるとパワーモジュール用基板を速やかに冷却することが困難になるとともに、使用時の冷熱サイクルによりセラミックス基板に対する負担が大きくなり、割れ等を発生させるおそれがあるため、過度に厚い天板を用いることは好ましくない。
【0010】
また、特許文献3および4に記載されたセラミックス回路基板は、その反り又はうねりが改善したとしても、その後にヒートシンクに固着された場合、ヒートシンクとセラミックス回路基板の熱膨張差により、セラミックス回路基板およびヒートシンクに反りを生じてしまうという問題がある。また、セラミックス回路基板およびヒートシンクの反りによって、冷熱サイクル時の接合信頼性を低下させてしまうおそれがある。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合する際にヒートシンク天板およびパワーモジュール用基板の反りを低減して、効率のよい冷却が可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、セラミックス基板の表面に金属層が接合されてなるパワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを接合してヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクの天板とを固着する接合工程と、接合された前記天板および前記パワーモジュール用基板を厚さ方向に加圧しながら0℃以下に冷却保持する冷却工程と、を有
し、前記ヒートシンクは、前記天板の厚さが3mm以上8mm以下である。
【0013】
本発明の製造方法によれば、パワーモジュール用基板とヒートシンクの天板とが固着されているので、ヒートシンクの天板にパワーモジュール用基板が接合された状態において、ヒートシンクの天板の反りおよびパワーモジュール用基板の反りを低減することができる。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板は、ヒートシンクとパワーモジュール用基板とを接合する際の加熱後の熱収縮によって、ヒートシンク側に凹状の反りが生じる。この製造方法では、接合されたパワーモジュール用基板およびヒートシンクを加圧して平坦に保持するように拘束したまま0℃以下に冷却することにより、ヒートシンクに生じる熱収縮を加圧によって拘束することにより、ヒートシンクに逆方向の塑性変形を生じさせ、常温に戻した状態におけるヒートシンク付パワーモジュール用基板反りを低減させることができる。
そして、ヒートシンクの天板の厚さを3mm以上としたことにより、取り付け強度を向上させることができ、また、厚さを8mm以下としたことにより、ヒートシンクの反りの低減効果が大きくなる。
【0014】
なお、本発明の製造方法において、前記冷却工程の後は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板をたとえば室温に放置することにより常温に戻すことが望ましいが、ファンなどにより常温に戻す時間を短縮することもできる。
【0015】
また、この製造方法において、1MPa以上50MPa以下で前記天板および前記パワーモジュール用基板を厚さ方向に加圧することが好ましい。圧力が1MPa以上50MPa以下とすることによって、確実に反りの低減効果を得ながら、金属の変形またはセラミックスの割れ等の不測の事態を回避することができる。
【0016】
また、この製造方法において、前記ヒートシンクはアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されて
いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、パワーモジュール基板とヒートシンクとを接合する際にヒートシンク天板の反りおよびパワーモジュール用基板の反りを低減して、効率のよい冷却が可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板100を示す。このヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10に接合されたヒートシンク30とから構成される。このヒートシンク付パワーモジュール用基板100に対して、さらにパワーモジュール用基板10の表面に半導体チップ等の電子部品20が搭載されることにより、パワーモジュールが製造される。
【0020】
このパワーモジュール100の製造工程においては、まず、パワーモジュール用基板10を製造し、このパワーモジュール用基板10をヒートシンク30の天板32にろう付することによりヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する。
【0021】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の両面に積層された金属層12,13とを備える。このパワーモジュール用基板10において、セラミックス基板11の一方の表面に積層された金属層12は回路層となり、その表面に電子部品20がはんだ付けされる。また、他方の金属層13は放熱層とされ、その表面にはヒートシンク30が取り付けられる。
【0022】
セラミックス基板11は、たとえば、AlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックスにより形成され、その厚さは0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0023】
金属層12は、純度99質量%以上のアルミニウムが用いられ、JIS規格では、1000番台のアルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)または1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。金属層13は、純度99質量%以上のアルミニウムが用いられ、JIS規格では、1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。本実施形態においては、金属層12,13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板である。
【0024】
このパワーモジュール用基板10においては、放熱層となる金属層13に熱サイクル時のセラミックス基板11とヒートシンク30との間の熱伸縮差に対する緩衝機能を持たせたるため、回路層となる金属層12よりも肉厚に形成されたものを用いている。たとえば、金属層12の厚さは600μm、金属層13の厚さは1600μmである。また、放熱層となる金属層13には、純度の高いアルミニウム(例えば1N99)を用いるのが好ましい。
【0025】
そして、これら金属層12,13とセラミックス基板11とは、ろう付けにより接合されている。ろう材としては、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金が使用される。
【0026】
なお、パワーモジュールを構成する電子部品20は、回路層となる金属層12の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn−Ag−Cu系,Zn−Al系、Sn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Sb系もしくはPb−Sn系等のはんだ材を用いて接合される。
図1中符号21がそのはんだ接合層を示す。また、電子部品20と金属層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ22により接続される。
【0027】
パワーモジュール用基板10に接合されるヒートシンク30は、熱伝導が良好なアルミニウム合金が望ましく、本実施形態では、A6063などのアルミニウム合金を用いている。本実施形態のヒートシンク30は、アルミニウム合金により形成された樋状のジャケット31およびこのジャケット31の上部を塞ぐ天板32が、たとえばパッキンを介してねじ止めにより接合されてなる。接合されたジャケット31と天板32との間に形成された空間は、冷却媒体(例えば冷却水)を流通させるための流路30aとなる。天板32の内面には複数の放熱フィン32aが設けられており、流路30a中に配設された放熱フィン32aが冷却水によって冷却されることにより天板32が冷却され、この天板32に接合された金属層13を通じてパワーモジュール用基板10が冷却される。
【0028】
ここで、ヒートシンクとしては、板状の放熱板、内部に冷媒が流通する冷却器、フィンが形成された液冷、空冷放熱器、ヒートパイプなど、熱の放散によって温度を下げることを目的とした金属部品が含まれる。ヒートシンクの天板は、パワーモジュール用基板との接合面を有する板状部分をいうが、その天板の厚みは最も薄い部分の厚みで定義される。
図2に示す天板32においては、放熱フィン32aを除く基部32bの厚さtが相当する。この天板32の厚さtは、3mmから8mmの範囲が望ましい。
【0029】
次に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100の製造方法を説明する。
まず、回路層となる金属層12および放熱層となる金属層13として、それぞれ99.99質量%以上の純アルミニウム圧延板を準備し、これらの純アルミニウム圧延板を、セラミックス基板11の一方の面および他方の面にそれぞれろう材を介して積層し、加圧・加熱することによって、セラミックス基板11の両面に純アルミニウム圧延板が接合されたパワーモジュール用基板10を製出する。なお、このろう付けの温度は、600℃〜670℃に設定される。
【0030】
次に、ヒートシンク30の天板32とパワーモジュール用基板10の金属層13とを、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系またはAl−Mn系等の合金ろう材を用いたろう付けにより固着する(接合工程)。このろう付けは、真空雰囲気中、荷重:0.3MPa〜10MPa、加熱温度:550℃〜650℃の条件で行う。ヒートシンク30は、アルミニウム合金が用いられ、本実施形態では、A6063を用いている。
【0031】
本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板100の製造工程では、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とが接合工程により接合された後、冷却工程により天板32の反りが矯正される。
【0032】
まず、
図3に示すとおり、2枚の加圧板110とその四隅に設けられた支柱111によって構成された治具112を用いて、加圧板110間にヒートシンク付パワーモジュール用基板100を配置する。支柱111の両端には螺子が切られており、加圧板110を挟むようにナットが締結されている。加圧力は、このナットの締め付けによって調整する。本実施形態では、加圧力を1MPa〜50MPaの範囲で調整した。加圧力を1Mpa以上50MPa以下とすることによって、確実に反りの低減効果を得ながら、金属の変形またはセラミックスの割れ等の不測の事態を回避することができる。
【0033】
次に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100をこの治具に取り付けた状態、つまり、ヒートシンクの天板32およびパワーモジュール用基板10を厚さ方向に加圧しながら、0℃以下の所定の冷却温度まで冷却する(冷却工程)。なお、−60℃を超えて低温側に冷却しても効果が飽和し、冷却のためのコストが上昇することから、−60℃以上がより望ましい。
【0034】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、
図2に二点鎖線で示すような反りが、接合工程における熱収縮により生じる場合がある。冷却工程においては、冷却によって反りがより大きくなるように変形しようとするヒートシンク付パワーモジュール用基板100を加圧して平坦に保持するように拘束する。これにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、反りとしての変形ができない状態に拘束され、その状態で冷却される結果、反りとは逆方向に塑性変形することになり、常温に戻した状態でのヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、塑性変形した分、反りが相殺され、冷却前に生じていた反りを低減させることができる。
【0035】
(実施例および比較例)
ヒートシンク付パワーモジュール用基板の反りを、加圧のみにより矯正する方法、冷却のみにより矯正する方法、および加圧および冷却により矯正する方法によって矯正し、パワーモジュール用基板10の金属層12およびヒートシンク30の天板32の各平面度の変化量および変化率を比較する実験を行った。
【0036】
各実験には、接合工程後のヒートシンク付パワーモジュール用基板100を用いた。このヒートシンク付パワーモジュール用基板100におけるパワーモジュール用基板10は、29mm×29mm、厚さ0.6mmの4N−Alからなる金属層12と、29mm×29mm、厚さ1.6mmの4N−Alからなる金属層13とが、30mm×30mm、厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板11に接合されたものを用いた。
【0037】
また、このヒートシンク付パワーモジュール用基板100において、ヒートシンク30の天板32として、裏面に放熱フィン32aが設けられていないA6063からなる60mm×50mmの矩形板を用いた。
【0038】
比較例のサンプル1〜2は加圧のみ、比較例のサンプル3〜4は冷却のみの処理を行った。また、比較例のサンプル5は、加圧および冷却の処理を両方行ったが、ヒートシンク30の天板32に板厚の大きいものを用いた。
【0039】
一方、実施例のサンプル1〜12は、接合工程後のヒートシンク付パワーモジュール用基板100を加圧しながら冷却したものである。比較例および実施例の各サンプルについて、実験の諸条件、実験前後の平面度の変化および変化率を表1に示す。
【0041】
表1に示すように、加圧のみ、あるいは冷却のみの処理によってもある程度は平面度が向上したが、加圧および冷却を行った場合にはばらつきも少なく、有意であることが確認できた。ヒートシンクの天板厚さは、特に8mm以下の場合に加圧および冷却処理による矯正が効果的である。冷却温度は、0℃以下であれば天板32に塑性変形を生じさせるのに十分であり、平面度が向上することが確認できた。荷重については、1MPa以上加えれば十分である。
【0042】
以上説明したように、本発明に係るヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法によれば、パワーモジュール基板とヒートシンクとを接合する際にヒートシンク天板の反りを低減して、効率のよい冷却が可能なヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することができる。
【0043】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、金属板としてアルミニウム以外に銅または銅合金も使用可能である。金属板が銅または銅合金の場合、接合にはAg−Cu−Ti系等のろう材を用いることができる。
【0044】
また、前記実施形態ではジャケット31と天板32とを組み合わせてなるヒートシンク30を用いたが、たとえば、
図4に示すように、アルミニウム合金の押出成形によって天板33aと隔壁33bとが一体に形成され、内部に冷却水を流通させるための複数の流路33cを有するヒートシンク33を用いてもよい。この場合も、天板33aの厚さt2は3mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0045】
また、前記実施形態では、パワーモジュール用基板の放熱層となる金属層とヒートシンクの天板とをろう付けによって固着したが、ろう付けに限らずはんだ付け、拡散接合などによって固着しても構わない。
【0046】
さらに、セラミックス基板と金属板との接合、金属板とヒートシンクとの接合は、ろう付け以外にもはんだ付けも可能である。また、TLP接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)と称される過渡液相接合法によって接合してもよい。
【0047】
この過渡液相接合法においては、金属板の表面に蒸着させた銅層を、金属板とセラミックス基板との界面、あるいは金属板とヒートシンクとの界面に介在させて行う。加熱により、金属板のアルミニウム中に銅が拡散し、金属板の銅層近傍の銅濃度が上昇して融点が低下し、アルミニウムと銅との共晶域にて接合界面に金属液相が形成される。この金属液相が形成された状態で温度を一定に保持しておくと、金属液相がセラミックス基板またはヒートシンクと反応するとともに、銅がさらにアルミニウム中に拡散することに伴い、金属液相中の銅濃度が徐々に低下して融点が上昇し、温度を一定に保持した状態で凝固が進行する。これにより、金属板とセラミックス基板、あるいは金属板とヒートシンクとの強固な接合が得られる。