(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リチウムデンドライト捕捉孔は、前記多孔質フィルムの断面において膜面に沿う方向の捕捉孔径が5.3μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
本実施形態の多孔質フィルムは、複数の微細孔を有する多孔質フィルムにおいて、膜面に沿って伸長するリチウムデンドライト捕捉孔を複数備えると共に、複数の前記リチウムデンドライト捕捉孔は、前記多孔質フィルムの主面に対し鉛直方向から投影視したとき、少なくとも一部が互いに重なり合っていることを特徴としている。
【0021】
(多孔質フィルム)
先ず、多孔質フィルムについて説明する。用いる多孔質フィルムのための素材は、特に限定されるわけではないが、熱可塑性樹脂が好ましく用いることができる。更に重量平均分子量が5×10
5以上の超高分子量ポリオレフィン樹脂か、又はこの超高分子量ポリオレフィン樹脂を少なくとも15重量%と重量平均分子量が5×10
5未満のポリオレフィン樹脂とからなる超高分子量ポリオレフィン樹脂組成物であることが好ましい。
【0022】
以下、本明細書において、簡単のため、上記超高分子量ポリオレフィン樹脂とこれを含む組成物を超高分子量ポリオレフィン樹脂(組成物)と総称することとする。
【0023】
超高分子量ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が5×10
5〜20×10
6の範囲にあり、好ましくは、1×10
6〜15×10
6の範囲にある。このような超高分子量ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体、共重合体又はこれらの混合物を挙げることができる。しかし、なかでも、超高分子量ポリエチレン樹脂が好ましく用いられる。
【0024】
上記超高分子量ポリオレフィン樹脂組成物は、上記超高分子量ポリオレフィン樹脂と共に、それ以外のポリオレフィン樹脂を含んでいてもよい。この超高分子量ポリオレフィン樹脂以外のポリオレフィン樹脂は、超高分子量ポリオレフィン樹脂と同様、重量平均分子量が1×10
4以上、5×10
5未満の範囲にあり、好ましくは、1×10
4〜3×10
5の範囲にある。このようなポリオレフィン樹脂としても、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン等の単独重合体、共重合体又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
超高分子量ポリオレフィン樹脂組成物を用いるとき、この組成物は、超高分子量ポリオレフィン樹脂を少なくとも15重量%含むことが好ましい。
【0026】
多孔質フィルムの製造には、先ず、上記超高分子量ポリオレフィン樹脂(組成物)5〜30重量%、好ましくは、8〜20重量%と、凝固点が−10℃以下である溶媒95〜70重量%、好ましくは、92〜80重量%とグリコールを均一なスラリー状に混合し、これを加熱攪拌して、上記超高分子量ポリオレフィン樹脂(組成物)を上記溶媒中に溶解させ、得られた溶液状混合物を115〜185℃の範囲の温度で混練して、混練り物を調製すればよい。
【0027】
凝固点が−10℃以下の溶媒とグリコールの混合した後、超高分子量ポリオレフィン樹脂に混合する。上記超高分子量ポリオレフィン樹脂(組成物)が30重量%を越えるときは、特に、超高分子量ポリオレフィン樹脂の溶媒に対する溶解性が不十分であって、混練り時に超高分子量ポリオレフィン樹脂が延び切り状態近くに解されず、ポリマー鎖の十分な絡み合いを得え、微多孔を形成することは困難である。
【0028】
次に、この混練り物を冷却しながら、シートに成形する際、得られるシートの表面層のみならず、シートの中心部まで、樹脂を微細に結晶化させ、効果的に二種の孔を形成するためには、混練り物を急冷することが好ましく、従って、その冷却速度は平均で50℃/分以上が好ましい。
【0029】
次いで、上記超高分子量ポリオレフィン樹脂の融点をM℃とするとき、上記ゲル状シートを(M+5)℃から(M−30)℃の範囲の温度、好ましくは、M℃から(M−25)℃の範囲の温度にて、二軸延伸する。この二軸延伸は、逐次又は同時二軸延伸のいずれによってもよいが、好ましくは、同時二軸延伸する。ゲル状シートの延伸倍率は、一方向に3〜32倍であり、面積延伸倍率は9〜1024倍の範囲が適当であり、好ましくは、一方向に3〜20倍であり、面積延伸倍率は9〜400倍の範囲である。
【0030】
捕捉孔を効果的に作製するには延伸速度を2段階に変化させることが好ましい。部分的に延伸速度を上げることで効果的に捕捉孔を膜面方向に伸長させる。各延伸速度の関係は下記の通りである。
V2=A × V1
V1:1段階目の延伸速度 (単位:mm/min)
V2:2段階目の延伸速度 (単位:mm/min)
A:延伸速度比定数(1.8〜2.2)
1段階目の延伸工程は全延伸工程の40〜90%、2段階目は残りの延伸工程の60〜10%とする。延伸速度比定数Aは1.8〜2.2の値をとり、好ましくは1.90〜1.20である。好ましくは、1段階目の延伸速度の範囲は80〜90%、2段階目の延伸速度の範囲は20〜10%である。
【0031】
次いで、このように得られた二軸延伸フィルムを適宜の溶剤で洗浄して、フィルム中に残留する溶媒を除去して、多孔質フィルムとし、好ましくは、この後、このフィルムの熱収縮を防止するために、加熱して、ヒートセット(熱固定)する。上記脱溶媒処理に用いる溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等の易揮発性のものが好ましく用いられる。これらの溶剤は、超高分子量ポリオレフィン樹脂(組成物)の溶液の調製に用いた溶媒に応じて適宜に選ばれる。シート中に残留する溶媒を除去するには、例えば、シートを溶剤に浸漬すればよい。
【0032】
更に、多孔質フィルムは、空孔率が35〜75%、好ましくは、50〜70%、通気度が100〜800秒/100cc、好ましくは、100〜500秒/100ccが好ましい。
【0033】
上記プロセスにて作製した本実施形態の多孔質フィルムは、例えば
図1に挙げられる断面形状を有する。
図1は、本実施形態の多孔質フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した画像である。
この多孔質フィルム中には、フィルムの表面又は裏面に平行な方向、すなわちフィルムである膜面に沿う方向に配置された長孔と、前記微多孔部の空孔部の容積よりも小さい容積を有する微細孔の、2種類の空孔が存在している。
【0034】
過充電状態や、低温での充電では、負極上にリチウムデンドライトが析出しやすく、リチウムデンドライトが負極側から正極に向かって成長することによりショートする。通常、リチウムデンドライトはフィルム樹脂部分に沿うように微細孔部分を成長する。リチウムデンドライトの成長経路に微細孔よりも大きな自由空間があれば、デンドライトは自由空間のある方向に成長していく。したがって、上記構成の如く、多孔質フィルムにリチウムデンドライト成長方向を制御する孔構造が伸びていれば、その成長経路を延ばしより高信頼性で安全性の高い多孔質フィルムとすることができる。
【0035】
本実施形態の多孔質フィルムは、複数の前記リチウムデンドライト捕捉孔が、前記多孔質フィルム内で離間し、独立に存在していることが好ましい。かかる構成によれば、リチウムデンドライトの成長方向をコントロールし、より信頼性の高い多孔質フィルムとなる。
【0036】
リチウムデンドライト捕捉孔は膜面に沿う形状をとり、その長軸方向のサイズは0.5μm以上であり、好ましくは2μm以上である。一方、リチウムデンドライト捕捉孔の膜厚方向のサイズは0.5μm以下が好ましい。
【0037】
本実施形態の多孔質フィルムに配置された微多孔部の空孔部としてはファイバー状、円柱状、長円形状、板状等が考えられるが、板状の空孔であることが好ましい。このような形状にすることにより、より確実にリチウムデンドライトを捕捉することができる。
【0038】
前記リチウムデンドライト捕捉孔は、前記多孔質フィルムの少なくとも一方の主面に偏在して分布していることが好ましい。
【0039】
この上記一方の主面は、電池内部において負極側に位置していることが更に好ましい。かかる構成によればリチウムデンドライトを捕捉した状態において、正極との距離をより確保することができるので、リチウムイオン二次電池としてより安全性の高いものとすることができる。
【0040】
多孔質フィルムは、更に特定の粒子径を有する無機フィラーの含有することが好ましい。このような構成にすることにより、リチウムデンドライトの成長を効果的に妨げ、その結果、正極負極間のデンドライトショートの発生頻度を小さくし、異常発熱を防止することができる。
【0041】
続いて、上述の多孔質フィルムを用いた二次電池に関して、特にリチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。
【0042】
図2は、上述の多孔質フィルム18を用いたリチウムイオン二次電池100の一例の模式断面図である。
【0043】
リチウムイオン二次電池100は、主として、積層体30、積層体30を密閉した状態で収容するケース50、積層体30に接続された一対のリード60、62、及び、積層体30に含浸される電解液を備えている。
【0044】
積層体30は、一対の正極10、負極20が多孔質フィルム18を挟んで対向配置されたものである。正極10は、板状(膜状)の正極集電体12上に正極活物質層14が設けられたものである。負極20は、板状(膜状)の負極集電体22上に負極活物質層24が設けられたものである。正極活物質層14及び負極活物質層24が多孔質フィルム18の両側にそれぞれ接触している。正極集電体12及び負極集電体22の端部には、それぞれリード62、60が接続されており、リード62、60の端部はケース50の外部にまで延びている。
【0045】
以下、正極10及び負極20を総称して、電極10、20といい、正極集電体12及び負極集電体22を総称して集電体12、22といい、正極活物質層14及び負極活物質層24を総称して活物質層14、24という。
【0046】
(正極集電体)
正極集電体12は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミ、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0047】
(正極活物質)
正極活物質層14は、正極活物質、結合剤、必要に応じた量の導電材を含むものである。
【0048】
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、層状マンガン酸リチウム(LiMnO
2)又は複数の遷移金属を配合した複合酸化物であるLiMn
xNi
yCo
zO
2(x、y及びzは、x+y+z=1、0≦y<1、0≦z<1、0≦x<1の式を満たす)などの層状化合物、これらの化合物において1種以上の遷移金属元素を置換したもの、マンガン酸リチウム(Li
1+xMn
2−xO
4(ただし、xは0〜0.33の数を示す)、Li
1+xMn
2−x−yM
yO
4(ただし、MはNi、Co、Cr、Cu、Fe、Al、Mgからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含み、xは0〜0.33の数を示し、yは0〜1.0の数を示し、かつ、x及びyは、2−x−y>0の式を満たす)、LiMnO
3、LiMn
2O
3、LiMnO
2、LiMn
2−xM
xO
2(ただし、MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn、Taからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含み、xは、0.01〜0.1の数を示す)、Li
2Mn
3MO
8(ただし、MはFe、Co、Ni、Cu、Znからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を示す)、銅−リチウム酸化物(Li
2CuO
2)、鉄−リチウム酸化物(LiFe
3O
4)、LiFePO
4、LiV
3O
8、V
2O
5、Cu
2V
2O
7等のバナジウム酸化物、ジスルフィド化合物、Fe
2(MoO
4)
3が挙げられる。
【0049】
(導電助剤)
導電助剤としては、例えば、ニッケル、アルミ、銅、銀等の金属及び導電性炭素材料が挙げられる。上記導電性炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバー等の炭素繊維が挙げられる。導電助剤としては、特にカーボンブラックが好ましい。なお、導電助剤は含有しなくてもよい。
【0050】
(結着剤)
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−塩化3フッ化エチレン(CTFE)共重合体〔PVDF−CTFE)〕、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンフッ素ゴム、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンフッ素ゴム〔PVDF−TFE−HFP)〕、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルフッ素ゴム等のフッ素系高分子などが好ましい。フッ化ビニリデン系ポリマーとしては、フッ化ビニリデンが50重量%以上、特に70重量%以上であるものが好ましく、特に、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、フッ化ビニリデンと塩化3フッ化エチレンとの共重合体〔PVDF−CTFE)〕が好ましい。
【0051】
(負極集電体)
負極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミ、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0052】
(負極活物質)
負極活物質としては、例えば、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si,Sn、Ge,Bi,Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物、もしくは酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、またはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。そして、これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどの結着剤などを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体に仕上げることで、集電体表面に負極合剤層を形成することができる。
【0053】
(電解質)
電解質は、積層体30の内部に含有させるものである。電解質としては、特に限定されず、例えば、リチウム塩を含む電解質溶液(電解質水溶液、有機溶媒を使用する電解質溶液)を使用することができる。ただし、電解質水溶液は電気化学的に分解電圧が低いことにより、充電時の耐用電圧が低く制限されるので、有機溶媒を使用する電解質溶液(非水電解質溶液)であることが好ましい。電解質溶液としては、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものが好適に使用される。例えば、非水溶媒としては、メチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸メチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイト、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどの1種のみからなる有機溶媒、あるいはこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0054】
リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、LiN(RfOSO
2)
2〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0055】
リチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/Lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/Lとすることがより好ましい。
【0056】
更に、非水電解液には、電池の充放電サイクル特性や負荷特性の向上を目的として、ビニレンカーボネートなどの二重結合を有するエステル;プロパンスルトンなどのイオウ含有有機化合物;フルオロベンゼンなどのフッ素含有芳香族化合物:などの添加剤を添加することが好ましい。
【0057】
なお、電解質は液状以外にゲル化剤を添加することにより得られるゲル状電解質であってもよい。また、電解質溶液に代えて、固体電解質(固体高分子電解質又はイオン伝導性無機材料からなる電解質)が含有されていてもよい。
【0058】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解質溶液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、
図2に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0059】
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0060】
ケースの材料には、特に制限はなく、従来公知のリチウムイオン二次電池に採用されている筒形(角筒形や円筒形など)のスチール缶やアルミニウム缶などが挙げられる。また、樹脂フィルムに金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体に用いることもできる。
【0061】
以上、多孔質フィルム、その製造方法、多孔質フィルムを用いたリチウムイオン二次電池の一例を説明したが、上記実施形態に限定されるものではない。また、この多孔質フィルム等は、用途等に応じて適宜設定することができる。
【0062】
例えば、この多孔質フィルムは、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子にも用いることができる。電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(例えば、カソードとしてリチウム遷移金属酸化物の活物質を用い、アノードに金属リチウムを用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
重量平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン樹脂(融点134℃)15重量%とポリエチレングリコールオリゴマー(東邦化学社製、ハイソルブMPM)5重量%と流動パラフィン(凝固点−15℃、40℃における動粘度59cSt)80重量%とをスラリー状に均一に混合し、これを小型ニーダに仕込み、160℃の温度で約50分間、加熱し、溶解させ、混練りして、超高分子量ポリエチレン樹脂と溶媒との混練り物を得た。この後、この混練り物を−15℃まで急冷しながら、厚み0.5mmのシートに成形して、超高分子量ポリエチレン樹脂を結晶化させた。
【0064】
次いで、このシートを約115℃の温度で縦4×横4倍に2段階の延伸速度で延伸した。それぞれの延伸速度として、延伸工程の90%を5.00cm/sec、残り延伸工程の10%を9.75cm/secとした。この同時二軸延伸した後、塩化メチレンに浸漬して脱溶媒した。このようにして得られた多孔質フィルムを更に120℃で10秒間ヒートセットして、厚み
25μm、空孔率42%の多孔質フィルムを得た。
【0065】
(実施例2)
重量平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン樹脂15重量%とポリエチレングリコールオリゴマー7.4重量%と流動パラフィン77.6重量%とをスラリー状に均一に混合し、これを小型ニーダに仕込み、160℃の温度で約50分間、加熱し、溶解させ、混練りして、超高分子量ポリエチレン樹脂と溶媒との混練り物を得た。この後、この混練り物を−15℃まで急冷しながら、厚み0.5mmのシートに成形して、超高分子量ポリエチレン樹脂を結晶化させた。
【0066】
次いで、このシートを約115℃の温度で縦横4×4倍に2段階の延伸速度で延伸した。それぞれの延伸速度として、延伸工程の90%を5.00cm/sec、残り延伸工程の10%を9.75cm/secとした。この同時二軸延伸した後、塩化メチレンに浸漬して脱溶媒した。このようにして得られた多孔質フィルムを更に120℃で10秒間ヒートセットして、厚み25μm、空孔率45%の多孔質フィルムを得た。
【0067】
(実施例3)
重量平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン樹脂15重量%とポリエチレングリコールオリゴマー5重量%と流動パラフィン80重量%とをスラリー状に均一に混合し、これを小型ニーダに仕込み、160℃の温度で約50分間、加熱し、溶解させ、混練りして、超高分子量ポリエチレン樹脂と溶媒との混練り物を得た。この後、この混練り物を−15℃まで急冷しながら、厚み0.5mmのシートに成形して、超高分子量ポリエチレン樹脂を結晶化させた。
【0068】
次いで、このシートを約115℃の温度で縦横4×4倍に2段階の延伸速度で延伸した。それぞれの延伸速度として、延伸工程の86%を5.00cm/sec、残り延伸工程の14%を9.75cm/secとした。この同時二軸延伸した後、塩化メチレンに浸漬して脱溶媒した。このようにして得られた多孔質フィルムを更に120℃で10秒間ヒートセットして、厚み
25μm、空孔率41%の多孔質フィルムを得た。
【0069】
(比較例1)
重量平均分子量40万の高分子量ポリプロピレン樹脂と重量平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン樹脂を60wt%/40wt%の割合でドライブレンドする。この樹脂混合物を15重量%と流動パラフィン80重量%とをスラリー状に均一に混合し、これを小型ニーダに仕込み、160℃の温度で約50分間、加熱し、溶解させ、混練りして、超高分子量ポリエチレン樹脂と溶媒との混練り物を得た。この後、この混練り物を−15℃まで急冷しながら、厚み0.5mmのシートに成形して、超高分子量ポリエチレン樹脂を結晶化させた。
【0070】
次いで、このシートを約115℃の温度で縦横4×4倍に5.00cm/secの延伸速度で同時二軸延伸した後、塩化メチレンに浸漬して脱溶媒した。このようにして得られた多孔質フィルムを更に120℃で10秒間ヒートセットした後、115℃の加熱ロールに接触させ、表面を溶融させた。得られたフィルムの厚みは25μm、空孔率39%であった。
【0071】
(比較例2)
重量平均分子量100万の超高分子量ポリエチレン樹脂(融点134℃)15重量%と流動パラフィン80重量%とをスラリー状に均一に混合し、これを小型ニーダに仕込み、160℃の温度で約50分間、加熱し、溶解させ、混練りして、超高分子量ポリエチレン樹脂と溶媒との混練り物を得た。この後、この混練り物を−15℃まで急冷しながら、厚み0.5mmのシートに成形して、超高分子量ポリエチレン樹脂を結晶化させた。
【0072】
次いで、このシートを約115℃の温度で縦横4×4倍に5.00cm/secの延伸速度で同時二軸延伸した後、塩化メチレンに浸漬して脱溶媒した。このようにして得られた多孔質フィルムを更に120℃で10秒間ヒートセットして、厚み25μm、空孔率40%の多孔質フィルムを得た。走査電子顕微鏡観察により、膜内部と表面スキン層では孔構造が異なっており、表面スキン層は4%の開孔率であることを確認した。本結果は特開平10−55794を再現している。
【0073】
(電池作製)
(正極)
正極活物質としてLiMn
2O
4、導電助剤としてカーボンブラック、結着剤としてPVDF−CTFE)を準備した。これらを、重量比で正極活物質:導電助剤:結着剤=90:5:5となるように混合した。得られた混合物とNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶媒を、重量比で1:1.3となるように混合して、室温下で分散させカソード用スラリーを調製した。得られたカソード用スラリーをドクターブレード法により塗膜化して乾燥し、カソードを作製した。
【0074】
(負極)
負極活物質として易黒鉛化炭素材料、導電助剤としてカーボンブラック、結着剤としてPVDF−CTFE)を準備した。これらを、重量比で負極活物質:導電助剤:結着剤=90:5:5となるように混合した。得られた混合物とNMP(N−メチル−2−ピロリドン)溶媒を、重量比で1:1となるように混合して、室温下で分散させアノード用スラリーを調製した。得られたアノード用スラリーをドクターブレード法により塗膜化して乾燥し、アノードを作製した。
【0075】
(電解液)
EC(エチレンカーボネート)/DEC(ジエチルカーボネート)=30/70(重量比)である非水溶媒へLiPF
6を1mol/cm
3の濃度となるように溶解したものを電解液とした。
【0076】
(電池)
上記の正極(直径14mm)、負極(直径15mm)を、実施例で作製した多孔質フィルム(直径16mm)を介して積層し、電解液と共に容器に封入し、容量が4.2mAhのボタン電池(2032型)を得た。
【0077】
使用した材料、製膜した多孔質フィルムの特性及びそれを用いた二次電池の特性については、次のようにして評価した。
【0078】
(重量平均分子量)
ゲル浸透クロマトグラフ(ウォーターズ社製、GPC−150C)を用い、溶媒にo−ジクロロベンゼンを、また、カラムとしてShodex−80M(昭和電工(株)製)を用いて温度135℃で測定した。データ処理は、TRC社製データ処理システムを用いて行なった。分子量はポリスチレンを基準として算出した。
【0079】
(厚み)
1/10000mmシックネスゲージにより、及び多孔質フィルムの断面の1万倍走査電子顕微鏡写真から測定する。
【0080】
(空孔率)
水銀ポロシメーター(オートスキャン33、ユアサアイオニクス社製)を使用し、細孔容積(ml/g)を求め、樹脂組成物の密度を0.95(g/ml)とし、以下の式に基づき算出した。
(式1)
空孔率(%)=(細孔容積)/(1/(密度+細孔容積))×100
【0081】
(通気度)JIS P8117に準拠する方法で測定する。
【0082】
(捕捉孔の形状測定)
図1は実施例1に示す多孔質フィルムの断面の電子顕微鏡写真(10,000倍)である。実施例1〜3に示す多孔質フィルムは超高分解能走査型電子顕微鏡装置(UHRSEM:(株)日立製作所製超高分解能走査型電子顕微鏡S−900型)を用いて、加速電圧1.0kV、撮影速度40秒/フレームの条件下にて、所定倍率で多孔質フィルムの断面構造の観察を行った。膜面に沿った方向の平均捕捉孔径と、膜面に沿う方向の捕捉孔径および膜厚方向の捕捉孔径のアスペクト比(膜面に沿う方向の孔径/膜厚方向の孔径)は電子顕微鏡写真より、直接測長し算出した。
【0083】
また、全ての実施例において、多孔質フィルムの断面を観察したところ、多孔質フィルムの主面に平行な方向に沿った向きに配向した長孔と、その長孔よりも断面積が1/10以下の小さな微細な空孔が存在していることを確認した。さらに複数の捕捉孔が多孔質フィルムの主面に垂直な方向から見たとき重なりあって配列した構造であることを確認した。
【0084】
(放電試験)
リチウムイオン二次電池を、最高電圧4.2V、電流密度0.068mA/cm
2、最終電流密度0.034mA/cm
2の条件で、定電流定電圧充電を行った。その後、最終電圧2.75V、電流密度を0.341mA/cm
2の条件で放電させたときの容量を0.5C容量として求めた。表1中、放電容量は、実施例1の放電容量を100として相対値で記載した。また、放電レート0.5Cでの500サイクル充放電試験後、4.2Vに充電し、60℃の恒温槽中で300日保存した後のセル電圧も測定した。各条件及び結果を表1に示す。
【0085】
表1にて明らかな様に、実施例は、比較例に比して優れた電池特性を発揮させつつ、リチウムデンドライドによる内部短絡等もない高信頼性のリチウムイオン二次電池をすることができることを確認することができた。
【表1】