(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966554
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】波形保持器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/54 20060101AFI20160728BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
F16C33/54 A
F16C19/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-93508(P2012-93508)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-221567(P2013-221567A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板垣 啓太
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 一登
【審査官】
久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−004938(JP,A)
【文献】
特開昭50−004456(JP,A)
【文献】
実開昭55−145713(JP,U)
【文献】
実開昭56−134023(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/54
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが金属板製である1対の保持器素子と、複数本のリベットを備え、
このうちの1対の保持器素子は、それぞれ円環状で、複数ずつの平坦部と半円弧部とを円周方向に関して交互に連続させて成るもので、このうちの平坦部の内側面同士を互いに突き合わされており、互いに突き合された前記各平坦部同士は、これら各平坦部の互いに整合する部分に設けられた円孔に挿通された前記各リベットのうち、これら各平坦面部の外側面側に位置する、頭部と、これら各リベットの先端部に設けられたかしめ部との間で挟持された状態で接合固定されており、前記各半円弧部に囲まれた部分に、それぞれ玉を転動自在に保持する為のポケットが設けられた、波形保持器に於いて、前記各リベットの頭部とかしめ部とを、前記各円孔の内径よりも大きな外径を有し、それぞれの内側面により前記各平坦部の外側面を抑え付ける抑え鍔部と、この抑え鍔部の外側面に形成された、この抑え鍔部の外側面から離れる程外径が小さくなる円すい台状の凸部とから成る段付形状とし、この凸部の頂部の直径を前記各円孔の内径以下とすると共に、前記抑え鍔部の外径を、この凸部の底部の外径以上とし、且つ、この抑え鍔部がこの凸部よりも径方向外方に突出する場合に、その突出量を、この抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下とした事を特徴とする波形保持器。
【請求項2】
金属板製の素材を円環状に打ち抜くと共に、それぞれ複数ずつの平坦部と半円弧部とを円周方向に関して交互に連続させて成る1対の保持器素子を、このうちの平坦部の内側面同士を互いに突き合わせた状態で、これら各平坦部の互いに整合する部分に形成した円孔に挿通したリベットの先端部を押し潰してかしめ部を形成し、互いに突き合せた前記各平坦部同士を、これら各リベットの頭部とかしめ部とで挟持する事により接合固定し、前記各半円弧部に囲まれた部分を、それぞれ玉を転動自在に保持する為のポケットとする波形保持器の製造方法に於いて、前記各リベットの頭部とかしめ部とをこれら各リベットの軸方向両側から挟持して塑性変形させる為の1対のかしめ金型として、前記各円孔に対向する部分に、開口部の内径が最も大きく、底部に向かう程内径が小さくなる、円すい台形の凹部を備えたものを使用し、前記各リベットの杆部を前記各円孔に挿通し、これら各リベットの頭部の内側面を、互いに重ね合わされた前記各平坦部のうちの一方の平坦部の外側面に当接させると共に、これら各リベットの頭部を一方のかしめ金型の凹部に配置した状態で、他方のかしめ金型により、前記各リベットの杆部の先端部で互いに重ね合わされた前記各平坦部のうちの他方の平坦部の外側面から突出した部分を軸方向に押圧し、前記各杆部の先端部を塑性変形させて前記各かしめ部とすると共に、前記各頭部を塑性変形させて、これら各かしめ部及び頭部を、前記各円孔の内径よりも大きな外径を有し、それぞれの内側面により前記各平坦部の外側面を抑え付ける抑え鍔部と、この抑え鍔部の外側面に形成された、この抑え鍔部の外側面から離れる程外径が小さくなる円すい台状の凸部とから成る段付形状とし、この凸部の頂部の直径を前記各円孔の内径以下とすると共に、前記抑え鍔部の外径を、この凸部の底部の外径以上とし、且つ、この抑え鍔部がこの凸部よりも径方向外方に突出する場合に、その突出量を、この抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下に抑える事を特徴とする波形保持器の製造方法。
【請求項3】
前記各リベットの容積が、製造公差に基づいて異なるものであり、この製造公差の範囲内で最も容積が小さいリベットに関して、前記抑え鍔部の外径を前記凸部の底部の外径以上確保し、前記公差の範囲内で最も容積が大きいリベットに関して、抑え鍔部が凸部よりも径方向に突出する突出量を、前記抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下に抑える、請求項2に記載した波形保持器の製造方法。
【請求項4】
前記各リベットを前記両かしめ金型同士の間で軸方向に押し潰す以前の状態で、これら各リベットの頭部が、前記一方のかしめ金型の凹部の内面に見合う形状である円すい台状であり、この頭部の軸方向に関する厚さ寸法が、この凹部の軸方向に関する深さ寸法よりも大きい、請求項2〜3のうちの何れか1項に記載した波形保持器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラジアル玉軸受等、自動車、一般産業機械、工作機械等の各種機械装置の回転支持部に組み込まれる各種転がり軸受を構成する、玉を保持する波形保持器及びその製造方法の改良に関する。具体的には、波形保持器を構成する1対の保持器素子同士のリベットによる結合部の性状を良好にできる構造及びその製造方法を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
各種機械装置の回転支持部に組み込む転がり軸受として、例えば
図3に示す様な単列深溝型の玉軸受1が、広く使用されている。この玉軸受1は、外周面に内輪軌道2を設けた内輪3と、内周面に外輪軌道4を設けた外輪5と、これら内輪軌道2と外輪軌道4との間に転動自在に設けられた複数個の玉6と、これら各玉6を転動自在に保持する保持器7とを備える。又、図示の例では、1対のシールリング8、8により、これら各玉6及び保持器7を設置した空間9の両端開口部を塞いでいる。
【0003】
前記保持器7は、例えば特許文献1〜5に記載されている様な、波形保持器と呼ばれるもので、
図4に示す様に、1対の保持器素子10、10を複数本のリベット11、11で接合する事により構成している。これら両保持器素子10、10は、鋼板、ステンレス鋼板等の金属板製の素材を、プレス加工により円環状に打ち抜くと共に周方向に関して曲げ形成し、平坦部12、12と半円弧部13、13とを円周方向に関して交互に連続させて成る。そして、このうちの平坦部12、12同士を互いに突き合わせた状態で、前記各リベット11、11により接合固定し、前記各半円弧部13、13に囲まれた部分を、それぞれ前記各玉6を転動自在に保持する為のポケット14、14としている。
【0004】
上述の様な保持器7の品質を確保し、前記玉軸受1に所望の性能を発揮させる為には、前記各リベット11、11による、前記各平坦部12、12同士の結合部の性状を良好に保つ事が重要である。この為に特許文献3には、リベットを構成する杆部の先端部の形状、並びに、この杆部の先端部を押し潰す為のかしめ金型の形状を工夫する事により、前記リベットによる結合部の性状を良好にする発明が記載されている。但し、この様な特許文献3に記載された発明にしても、各リベットの容積が異なる事に基づく不都合を防止する事に就いては、特に考慮していない。一方、前記各リベット11、11は非常に低コストで造られる事を要求されており、製造公差を厳しく規制する事は、低コスト化の面からは好ましくない。この為、前記各リベット11、11の容積が或る程度ばらつき、このばらつきに基づいて、次の様な問題が発生する可能性がある。この点に就いて、
図5を参照しつつ説明する。
【0005】
1対の保持器素子10、10同士をリベット11、11(
図4参照)により結合固定する為に、これら両保持器素子10、10を構成する平坦部12a、12bの互いに整合する部分に円孔15、15を形成している。又、リベット11aは、必要とする強度及び剛性を確保でき、しかも塑性変形可能な材料である、軟鋼、銅系合金等の金属材料により造られたもので、外向フランジ状の頭部16と、円柱状の杆部17とを備える。このうちの頭部16の外径は前記各円孔15、15の内径よりも大きく、この杆部17の外径は、前記リベット11aをかしめ固定する以前の状態で、これら各円孔15、15の内径と同じか、この内径よりも僅かに小さい。
【0006】
前記リベット11aにより前記各平坦部12a、12b同士を結合するには、前記杆部17を前記各円孔15、15に挿通すると共に、前記頭部16の内側面(
図5の下側に位置する一方の平坦部12aに対向する面)を、この平坦部12aの外側面(他の平坦部12bと反対側の面)に当接させる。この状態で、前記杆部17の先端部(
図5の上端部)が、前記他の平坦部12bの外側面(
図5の上面)から突出する。そこで、前記リベット11aを1対のかしめ金型18a、18bにより、軸方向に押し潰して、前記杆部17の先端部にかしめ部19を形成する。これら両かしめ金型18a、18bのうちで、前記リベット11aを軸方向両側から押し潰す部分(前記各円孔15、15に対向する部分)には、それぞれ円すい台状の凹部20a、20bを形成している。尚、前記両保持器素子10、10は、円周方向等間隔複数箇所で、それぞれリベット11aにより結合固定するが、この際、複数本のリベット11aのかしめ固定を同時に行う。即ち、前記両保持器素子10、10を挟む状態で設けた、それぞれの押圧部(かしめ加工部)を円環状とした、1対のかしめ金型18a、18bにより、前記複数本のリベット11aを、同時に塑性変形させる。この為に、これら両かしめ金型18a、18bの移動量(近付き量)を規制して、かしめ固定完了状態での、総てのリベット11aの軸方向寸法を一致させる。言い換えれば、前記両かしめ金型18a、18bのストローク調節(最近接位置の規制)により、前記各リベット11aのかしめ固定完了状態を検知する。
【0007】
前記リベット11aの容積が適正値(総てのリベット11aの容積が同じ)であれば、前記頭部16が若干塑性変形しつつ一方のかしめ金型18aの凹部20aに、前記杆部17の先端部が大きく塑性変形しつつ他方のかしめ金型18bの凹部20bに、それぞれ充填されつつ、前記各平坦部12a、12bの内側面(互いに対向する面)同士が隙間なく当接する。この状態であれば、前記両保持器素子10、10同士のリベット11aによる結合部の性状を良好にできて、特に問題を生じる事はない。
【0008】
但し、前記リベット11aの容積が過小であると、
図5の(A)に示す様に、このリベット11aを構成する杆部17の先端部が前記他方のかしめ金型の凹部20b内に十分に充填されず、この先端部により造られるかしめ部19の形状及び大きさが不十分になる。この状態では、このかしめ部19と前記頭部16との間で前記各平坦部12a、12b同士を十分に押し付け合う事ができず、これら各平坦部12a、12b同士の間に隙間21が生じる。この様な隙間21が生じた状態では、玉軸受1(
図3参照)の運転時に、びびり音の如き異音や、振動が発生し易くなる。又、得られた保持器7の強度及び剛性が不十分になるだけでなく、著しい場合には、ポケット14、14(
図4参照)の内径が適正値よりも大きくなり、これら各ポケット14、14から玉6(
図3〜4参照)が脱落する可能性もある。
【0009】
これに対して、前記リベット11aの容積が過大であると、
図5の(B)に示す様に、前記頭部16の外周縁部が、前記一方のかしめ金型18aの内側面と前記一方の平坦部12aの外側面との間の隙間にはみ出し、当該部分に薄肉のバリ22を形成してしまう。尚、この様なバリは、前記かしめ部19の外周縁部に形成される可能性もある。何れにしても、薄肉のバリ22は、前記頭部16(又はかしめ部19)の外周縁から離脱し易く、離脱したバリ22は、金属製の小片となって玉軸受1の空間9(
図3参照)内に留まり、この玉軸受1の運転に伴って、内輪軌道2、外輪軌道4、各玉6の転動面(
図3参照)を損傷し、この玉軸受1の耐久性を損なう可能性がある為、好ましくない。
【0010】
前記リベット11aの容積のばらつきを十分に小さく抑えれば、上述の様な不都合の発生を抑えられるが、このリベット11aの製造コストを高くする原因となる。このリベット11aは、1個の保持器7に就いて複数本(
図4の構造で8本)使用するので、このリベット11aの製造コストが嵩む事は、前記保持器7を含む前記玉軸受1の製造コスト上昇に及ぼす影響が大きく、好ましくない。
又、1個の保持器7に組み込む、総てのリベット11aを、1対のかしめ金型18a、18b同士の間でかしめ固定する関係上、各リベット11a毎の容積の相違に基づいて圧縮量を調節する事はできない。尚、各リベット11a毎に別個にかしめ固定作業を行う事は、工業的に見ても、各かしめ部の強度をバランスさせる面からも、非現実的である。
尚、特許文献4には、かしめ処理に基づいてリベットに生じる残留応力を抑える発明が記載されているが、上述の様な、各リベットの容積のばらつきに基づく不都合を解消する事に就いては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−301242号公報
【特許文献2】特開平10−281163号公報
【特許文献3】特開平11−179475号公報
【特許文献4】特開2009−8164号公報
【特許文献5】特開2009−236227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、波形保持器を構成する1対の保持器素子同士を結合する、各リベットの容積に関する公差を特に厳しくしなくても、これら各リベットによる結合部の性状を良好にできる、波形保持器及びその製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の対象となる波形保持器は、従来から知られている波形保持器と同様に、1対の保持器素子を複数本のリベットにより結合固定して成る。
これら両保持器素子は、金属板製の素材を円環状に打ち抜くと共に、それぞれ複数ずつの平坦部と半円弧部とを円周方向に関して交互に連続させて成る。
前記各リベットは、前記両保持器素子を、前記各平坦部の内側面同士を互いに突き合わせ、これら各平坦部の互いに整合する部分に形成した円孔に挿通した状態で、それぞれの先端部を押し潰してかしめ部を形成する。そして、互いに突き合せた前記各平坦部同士を、前記各リベットの頭部とかしめ部とで挟持する事により接合固定し、前記各半円弧部に囲まれた部分を、それぞれ玉を転動自在に保持する為のポケットとする。
【0014】
特に、請求項1に記載した波形保持器に於いては、前記各リベットの頭部とかしめ部とを、抑え鍔部と凸部とから成る段付形状とする。
このうちの抑え鍔部は、前記各円孔の内径よりも大きな外径を有し、それぞれの内側面により前記各平坦部の外側面を抑え付ける。この様な前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法は、これら各平坦部を抑え付ける為に必要且つ十分な値で、且つ、強度及び剛性が過大となって、塑性変形により前記抑え鍔部を形成する為に要する荷重が過大となる事を防止できる値とする。これらの点を考慮して、前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法を、前記両保持器素子を構成する金属板の板厚以下で、この板厚の1/2以上とする事が好ましい。
又、前記凸部は、前記抑え鍔部の外側面に形成されたもので、この抑え鍔部の外側面から離れる程外径が小さくなる円すい台状である。
そして、前記凸部の頂部の直径を前記各円孔の内径以下とすると共に、前記抑え鍔部の外径を、この凸部の底部の外径以上とし、且つ、この抑え鍔部がこの凸部よりも径方向外方に突出する場合に、その突出量を、この抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下とする。尚、前記凸部の軸方向に関する厚さ寸法の最小値は、この抑え鍔部との共働で、前記各平坦部同士の結合強度を確保する面から、同じく最大値は、塑性変形により前記凸部を形成する為に要する荷重が過大となる事を防止する面から、それぞれ規制する。これらの事を考慮して、前記凸部の軸方向に関する厚さ寸法に関しても、前記両保持器素子を構成する金属板の板厚以下で、この板厚の1/2以上とする事が好ましい。但し、前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法と、前記凸部の軸方向に関する厚さ寸法との和は、前記板厚の1.5倍以下に抑える事が好ましい。
【0015】
又、請求項2に記載した波形保持器の製造方法に於いては、前記各リベットの頭部とかしめ部とをこれら各リベットの軸方向両側から挟持して塑性変形させる為の1対のかしめ金型として、前記各円孔に対向する部分に、開口部の内径が最も大きく、底部に向かう程内径が小さくなる、円すい台形の凹部を備えたものを使用する。
更に、前記各リベットの杆部を前記各円孔に挿通し、これら各リベットの頭部の内側面を、互いに重ね合わされた前記各平坦部のうちの一方の平坦部の外側面に当接させると共に、これら各リベットの頭部を一方のかしめ金型の凹部に配置した状態で、他方のかしめ金型により、前記各リベットの杆部の先端部で互いに重ね合わされた前記各平坦部のうちの他方の平坦部の外側面から突出した部分を、軸方向に押圧する。
そして、前記各杆部の先端部を塑性変形させて前記各かしめ部とすると共に、前記各頭部を塑性変形させる。
又、この状態で、前記各リベットの頭部とかしめ部とを、抑え鍔部と凸部とから成る段付形状とする。
このうちの、前記各円孔の内径よりも大きな外径を有する、前記抑え鍔部の内側面により、それぞれ前記各平坦部の外側面を抑え付ける。この抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法を、前記両保持器素子を構成する金属板の板厚以下で、この板厚の1/2以上とする事は、前述した通りである。
又、前記抑え鍔部の外側面に前記凸部を形成する。この凸部の形状は、この抑え鍔部の外側面から離れる程外径が小さくなる円すい台状とする。
更に、前記凸部の頂部の直径を前記各円孔の内径以下とすると共に、前記抑え鍔部の外径を、この凸部の底部の外径以上とする。且つ、この抑え鍔部がこの凸部よりも径方向外方に突出する場合に、その突出量を、この抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下に抑える。前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法に関しても、前述した通り、前記両保持器素子を構成する金属板の板厚以下で、この板厚の1/2以上とし、前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法と、前記凸部の軸方向に関する厚さ寸法との和を、前記板厚の1.5倍以下に抑える。
【0016】
上述の様な本発明の波形保持器の製造方法を実施する場合、具体的には、請求項3に記載した発明の様に、前記各リベットの容積を、製造公差に基づいて異なるものとする。
そして、この製造公差の範囲内で最も容積が小さいリベットに関して、前記抑え鍔部の外径を前記凸部の底部の外径以上確保する。
これに対して、前記公差の範囲内で最も容積が大きいリベットに関して、抑え鍔部が凸部よりも径方向に突出する突出量を、前記抑え鍔部の軸方向厚さの2倍以下に抑える。
又、本発明の波形保持器の製造方法を実施する場合に、例えば請求項4に記載した発明の様に、前記各リベットを前記両かしめ金型同士の間で軸方向に押し潰す以前の状態で、これら各リベットの頭部を、前記一方のかしめ金型の凹部の内面に見合う形状である円すい台状とする。又、この頭部の軸方向に関する厚さ寸法を、この凹部の軸方向に関する深さ寸法よりも大きくする。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に本発明の波形保持器及びその製造方法は、各リベットの両端部に形成した頭部及びかしめ部の形状及び寸法を適切に規制している。この為、これら各リベットの容積に関する公差を特に厳しくしなくても、これら各リベットによる結合部の性状を良好にできる。
即ち、前記各リベットの容積が、公差の範囲内で最小となった場合でも、これら各リベットを軸方向に強く押圧して塑性変形させる事により、これら各リベットの軸方向両端部に設けた、頭部及びかしめ部の抑え鍔部により、互いに重ね合わされた各平坦部同士を押し付け合える。そして、これら各平坦部の内側面同士を当接させ、且つ、これら各平坦部同士の結合強度を十分に確保できる。
又、前記各リベットの容積に拘らず、前記抑え鍔部の軸方向に関する厚さ寸法を確保できる。従って、前記各リベットの容積が、公差の範囲内で最大となった場合でも、前記頭部及びかしめ部の何れの部分にも、これら頭部及びかしめ部から分離し易い、薄肉のバリが生じる事はない。この為、前記各リベットから離脱したバリにより、玉軸受の耐久性が損なわれる事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態の1例を示す、
図4の拡大X−X断面に相当する図。
【
図2】リベットの容積が、公差の範囲内で最小となった状態(A)と、同じく最大となった状態(B)とを示す、
図1と同様の図。
【
図3】本発明の対象となる波形保持器を組み込んだ玉軸受の半部断面図。
【
図5】従前の構造の場合に生じる問題を説明する為の、
図2と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、波形保持器を構成する1対の保持器素子10、10にそれぞれ複数箇所ずつ設けた平坦部12a、12b同士を互いに突き合わせた状態で、これら各平坦部12a、12b同士を、リベット11bにより結合固定する部分の構造にある。波形保持器全体の形状及び構造を含め、その他の部分の構造及び作用は、前述の
図3〜4に示した構造を含め、従来から知られている波形保持器と同様であるから、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。以下の説明では、先ず、前記リベット11bの完成後の形状に就いて説明し、次いで、この形状の加工方法に就いて説明する。
【0020】
本例の場合には、前記リベット11bの頭部16aとかしめ部19aとを、抑え鍔部23a、23bと凸部24a、24bとから成る段付形状とする。尚、本明細書及び特許請求の範囲で言う段付形状とは、軸方向に向いた段差面が存在する形状を含む事は勿論、この様な形状に限らず、前記リベット11bの中心軸を含む仮想平面上での断面形状に関する、前記頭部16a若しくは前記かしめ部19aの外周面の輪郭線の方向が変化する形状を含む。これら頭部16a及びかしめ部19aをこの様な段付形状とするのに、このうちの頭部16aに関しては、予め円すい台状とした形状を軸方向に押し潰しつつ径方向外方に拡げるのに対して、前記かしめ部19aに関しては、円柱状の杆部17の先端部を軸方向に押し潰しつつ径方向外方に拡げる事により形成する。加工開始時の形状が互いに異なる、前記リベット11bの軸方向両端部を、(作用、反作用の原理から明らかな通り)実質的に同じ力で軸方向に押し潰す事により、前記リベット11bの軸方向両端部を前記段付形状とするから、加工終了後の状態で、前記頭部16aの形状と前記かしめ部19aの形状とは互いに異なる。但し、これら頭部16aとかしめ部19aとの基本的形状は、互いに同じである。
【0021】
前記頭部16a及びかしめ部19aの基半部(軸方向に関して前記各平坦部12a、12b側半部)を構成する、前記抑え鍔部23a、23bは、前記各平坦部12a、12bに形成した円孔15、15の内径R
15よりも大きな外径D
23(R
15<D
23)を有する。この様な、前記抑え鍔部23a、23bは、それぞれの内側面により前記各平坦部12a、12bの外側面を抑え付けて、これら各平坦部12a、12bの内側面同士を隙間なく当接させる役目を果たす。この様な前記抑え鍔部23a、23bの軸方向に関する厚さ寸法T
23は、前記各平坦部12a、12bを抑え付ける為に必要且つ十分な値で、且つ、強度及び剛性が過大となって、塑性変形により前記抑え鍔部23a、23bを形成する為に要する荷重が過大となる事を防止できる値とする。これらの点を考慮して、前記抑え鍔部23a、23bの軸方向に関する厚さ寸法T
23を、前記両保持器素子10、10を構成する金属板の板厚T
10以下で、この板厚T
10の1/2以上(T
10/2≦T
23≦T
10)とする事が好ましい。尚、前記頭部側16a側と前記かしめ部19a側とで、前記抑え鍔部23a、23bの厚さT
23が互いに同じである必要はなく、むしろ、異なる場合が多い。又、前記両保持器素子10、10の厚さT
10は、一般的に0.2〜1mm程度である。
【0022】
又、前記凸部24a、24bは、前記抑え鍔部23a、23bの外側面に形成されたもので、この抑え鍔部23a、23bの外側面から離れる程外径が小さくなる円すい台状である。
前記凸部24a、24aの各部の外径に関しては、頂部(最小径部)の直径d
24を前記各円孔15、15の内径R
15以下(d
24≦R
15)、好ましくはこの内径R
15未満(d
24<R
15)としている。又、前記凸部24a、24aの底部(最大径部)の直径D
24を前記各円孔15、15の内径R
15よりも大きく(D
24>R
15)している。
これに対して、前記抑え鍔部23a、23bの外径D
23を、前記凸部24a、24bの底部の外径D
24以上(D
23≧D
24)、好ましくはこの凸部24a、24bの底部の外径D
24よりも大きく(D
23>D
24)している。
尚、前記凸部24a、24bに関しても、前記頭部側16a側と前記かしめ部19a側とで、各部の直径D
24、d
24が互いに同じである必要はなく、むしろ、異なる場合が多い。
【0023】
何れにしても、前記抑え鍔部23a、23bは、前記凸部24a、24aの底部からそのまま前記リベット11bの軸方向中央側に向け連続する{
図2の(A)の上部に示す様な、D
23=D
24の場合}か、或いは、前記凸部24a、24aの底部から径方向外方に拡がる状態で連続する段差面25a、25bを介して、前記リベット11bの軸方向中央側に向け連続する{
図1及び
図2の(B)に示す様な、D
23>D
24の場合}。
図1及び
図2の(B)に示す、D
23>D
24の場合で、前記抑え鍔部23a、23bが前記凸部24a、24bよりも径方向外方に突出する場合に、その突出量L
23を、この抑え鍔部23a、23bの軸方向厚さT
23の2倍以下(L
23≦2T
23)とする。
前記頭部16a及びかしめ部19aの抑え鍔部23a、23bの外径D
23が、前記凸部24a、24bの底部の外径D
24未満(D
23<D
24で、L
23<0)の場合には、前記抑え部23a、23bによる、前記各平坦部12a、12bの抑え力が不十分となり(抑え力を得られず)、前記両保持器素子10、10同士の結合力が不足する。
これに対して、前記抑え鍔部23a、23bの突出量L
23が、前記抑え鍔部23a、23bの軸方向厚さT
23の2倍を超えて大きくなる(L
23>2T
23)と、この抑え鍔部23a、23bの加工量(伸長量)が過大になり、この抑え鍔部23a、23bに、亀裂等の損傷が発生し易くなる。
【0024】
尚、前記凸部24a、24bの軸方向に関する厚さ寸法T
24の最小値は、前記抑え鍔部23a、23bとの共働で、前記各平坦部12a、12b同士の結合強度を確保する面から、同じく最大値は、塑性変形により前記凸部24a、24bを形成する為に要する荷重が過大となる事を防止する面から、それぞれ規制する。これらの事を考慮して、前記凸部24a、24bの軸方向に関する厚さ寸法T
24に関しても、前記両保持器素子10、10を構成する金属板の板厚T
10以下で、この板厚T
10の1/2以上(T
10≧T
24≧T
10/2)とする事が好ましい。
但し、前記抑え鍔部23a、23bの軸方向に関する厚さ寸法T
23と、前記凸部24a、24bの軸方向に関する厚さ寸法T
24とを、それぞれの範囲で最大とする(それぞれを前記金属板の板厚T
10とする)と、前記頭部16a及び前記かしめ部19aの軸方向に関する厚さ寸法が徒に(前記各平坦部12a、12b同士の結合強度を確保する為に必要十分以上になり、前記頭部16a及び前記かしめ部19aの加工に要する荷重が過大になる程に)大きくなる。そこで、前記抑え鍔部23a、23bの軸方向に関する厚さ寸法T
23と、前記凸部24a、24bの軸方向に関する厚さ寸法T
24との和(T
23+T
24)は、前記板厚T
10の1.5倍以下に抑える{(T
23+T
24)≦1.5T
10}事が好ましい。
【0025】
次に、上述した様な、前記リベット11bの軸方向両端部に、それぞれが上述した様な形状を有する、前記頭部16aと前記かしめ部19aとを形成し、前記リベット11bにより、各平坦部12a、12b同士を結合固定する、波形保持器の製造方法に就いて説明する。本例の製造方法では、前記リベット11bを軸方向両側から押し潰す(かしめ固定する)為の1対のかしめ金型18c、18dとして、前記各平坦部12a、12bの外側面に対向する部分に、それぞれ凹部20c、20dを設けたものを使用する。これら各凹部20c、20dは、前記リベット11bをかしめ固定する状態で、このリベット11bと同心になる。又、このリベット11bとして、円すい台状の頭部16aを備えたものを使用する。即ち、この頭部16aは、このリベット11bを前記両かしめ金型18c、18d同士の間で軸方向に押し潰す以前の状態で、内側面側の外径が大きく、外側面側の外径が小さい、円すい台形である。部分円すい面部分の傾斜角度は、前記凹部20cの内周面と前記頭部16aの外周面とで一致させる事が好ましいが、必ずしも厳密に一致させる必要はなく、凡そ同じであれば十分である。尚、前記両かしめ金型18c、18dが、それぞれの押圧部を円環状としたものであり、1個の保持器7(
図4参照)を構成する複数本のリベット11bを同時に塑性変形させる為に、前記両かしめ金型18c、18dのストローク調節により、これら各リベット11bのかしめ固定完了状態を検知する事は、前述した従前の場合と同様である。
【0026】
特に、本例の製造方法を実施する場合、かしめ加工以前の状態での、前記頭部16aの軸方向に関する厚さ寸法T
16を、この頭部16aを塑性加工する側のかしめ金型26aに形成した凹部20cの、軸方向に関する深さ寸法H
20cよりも十分に大きく、好ましくは、前記厚さ寸法T
16を、深さ寸法H
20cの2〜4倍程度{T
16=(2〜4)H
20c}とする。従って、前記リベット11bにより前記各平坦部12a、12b同士をかしめ固定すべく、前記頭部16aの先半部を、この頭部16aを塑性加工する側のかしめ金型18cに形成した凹部20cに内嵌した状態で、この頭部16aの中間部乃至基半部が、この凹部20c外に露出する(はみ出す)。
【0027】
又、前記リベット11bの杆部17の先端部に関しては、互いに重ね合わされた、前記各平坦部12a、12bのうち、前記頭部16aと反対側の平坦部12bの外側面から十分に突出させる。前記杆部17の先端部を塑性変形させる(この先端部にかしめ部19aを形成する)以前の状態での、前記平坦部12bの外側面からの前記杆部17の先端部の突出量H
17は、前述したかしめ部19aの形状を得られる様に、十分に確保する。具体的には、この突出量H
17を、前記杆部17の先端部を押し潰す側のかしめ金型18dに形成した凹部20dの深さ寸法H
20dの2〜4倍程度{T
17=(2〜4)H
20d}とする。従って、前記リベット11bにより前記各平坦部12a、12b同士をかしめ固定すべく、前記杆部17の先端部を、この杆部17の先端部を塑性加工する側のかしめ金型18dに形成した凹部20dに挿入した状態で、前記杆部17の先端部よりも軸方向中間寄り部分が、この凹部20d外に露出する(はみ出す)。
【0028】
上述の様な状態から、前記両かしめ金型18c、18dを所定量(予め決められたストローク分だけ)互いに近づければ、前記リベット11bの軸方向両端部が押し潰される(塑性変形する)。そして、このリベット11bの軸方向両端部に、
図1〜2に示す様な、それぞれが抑え鍔部23a、23bと凸部24a、24bとを備えた、頭部16aとかしめ部19aとが形成される。そして、これら頭部16aとかしめ部19aとにより、前記各平坦部12a、12b同士が強固に結合固定される。この状態での、これら頭部16aとかしめ部19aとの形状に就いては、前述した通りである。
【0029】
上述の様な製造方法により前記リベット11bの軸方向両端部を、前述した様な形状にすれば、1個の保持器7を構成する複数本のリベット11bの容積に、公差に基づくばらつきが存在しても、これら各リベット11bによる、前記各平坦部12a、12b同士の結合部の性状を良好にできる。
【0030】
先ず、前記各リベット11bの容積が、公差の範囲内で最小となった場合には、当該リベット11bによる結合固定部が、
図2の(A)に示す状態となる。この状態では、前記頭部16a及び前記かしめ部19aのうちの抑え鍔部23a、23bの外径D
23が、前記各円孔15、15の内径R
15よりも大きい程度が小さい。但し、これら各抑え鍔部23a、23bの内側面は前記各平坦部12a、12bの外側面に強く当接して、これら各平坦部12a、12bの内側面同士と隙間なく当接させる。又、前記各抑え鍔部23a、23bの軸方向厚さT
23が十分に確保されて、これら各抑え鍔部23a、23bが前記各平坦部12a、12bを抑え付ける、強度及び剛性も十分に確保できる。従って、前記容積が小さなリベット11bによる結合部に関しても、前記各平坦部12a、12b同士の結合強度を十分に確保できる。
【0031】
これに対して、前記各リベット11bの容積が、公差の範囲内で最大となった場合には、当該リベット11bによるかしめ固定部が、
図2の(B)に示す状態となる。この状態では、前記頭部16a及び前記かしめ部19aのうちの抑え鍔部23a、23bの外径D
23が、前記各円孔15、15の内径よりも十分に大きくなる。且つ、これら各抑え鍔部23a、23bの内側面が前記各平坦部12a、12bの外側面に強く当接して、これら各平坦部12a、12bの内側面同士を隙間なく当接させる。この状態でも、前記各抑え鍔部23a、23bの軸方向厚さT
23が十分に確保されるので、前記頭部16a及び前記かしめ部19aの何れの部分にも、これら頭部16a及びかしめ部19aから分離し易い、薄肉のバリが生じる事はない。この為、前記各リベット11bから離脱したバリにより、玉軸受の耐久性が損なわれる事を防止できる。
【0032】
又、何れの場合でも、前記凸部24a、24aの頂部の直径d
24を、前記各円孔15、15の内径R
15以下としているので、前記両かしめ金型18c、18dから前記各リベット11bに加わる軸力を、これら各リベット11bの杆部17に対し十分に加えられる。言い換えれば、この軸力のうちの多くの部分が、前記各平坦部12a、12a同士を押し付け合う事のみに消費される事はなく、前記杆部17が軸方向に圧縮され難くなる事はない。この結果、この杆部17を軸方向に圧縮すると共に、この杆部17の外径を拡げて、この杆部17の外周面と前記各円孔15、15の内周面との間の隙間をなくせる。この結果、前記各リベット11bによる、前記各平坦部12a、12b同士の結合固定部に関して、前記保持器7の軸方向に関するがたつきをなくせる事は勿論、周方向及び径方向に関するがたつきも十分になくせる。
【符号の説明】
【0033】
1 玉軸受
2 内輪軌道
3 内輪
4 外輪軌道
5 外輪
6 玉
7 保持器
8 シールリング
9 空間
10 保持器素子
11、11a、11b リベット
12、12a、12b 平坦部
13 半円弧部
14 ポケット
15 円孔
16、16a 頭部
17 杆部
18a、18b、18c、18d かしめ金型
19、19a かしめ部
20a、20b、20c、20d 凹部
21 隙間
22 バリ
23a、23b 抑え鍔部
24a、24b 凸部
25a、25b 段差面