(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記オイル供給路において前記パーキングギヤから飛散される潤滑油を受けるパーキングギヤ用オイル受け部が、前記パーキングギヤに対して軸方向にオーバーラップして配設されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
前記オイル供給路に、軸方向において前記パーキングギヤ用オイル受け部と前記パーキングギヤとがオーバーラップした位置において、下方に凹入したオイル溜まり部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
前記ケース内に給油するための給油口が、前記ケースにおいて前記オイル供給路の上流端部の上方に位置する部分に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
前記ケース内において潤滑に供された潤滑油を受けるオイルパンが、車両搭載状態で車両後方に向かって下側へ傾斜して且つ前記オイル貯留部と比べて車両前方側に設けられ、
前記ケース内において、潤滑に供された潤滑油を前記オイルパンで受けて回収するオイル回収部と、前記オイル貯留部とを隔てる隔壁部が設けられ、
車両搭載状態における前記隔壁部の後部に、前記オイル回収部と前記オイル貯留部とを連通する連通口が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の動力伝達装置の潤滑構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デフリングギヤ等のギヤの回転による掻き上げを利用して潤滑油の供給を行う場合、潤滑油の掻き上げ量は、ギヤの回転数とオイル貯留部の液面レベルとに依存する。
【0007】
そのため、車両が低速で走行する際、ギヤの回転数が低下して潤滑油の掻き上げ量が減少することになるが、この状態においても潤滑不足が生じないようにするためには、オイル貯留部の液面レベルをある程度高くする必要がある。
【0008】
一方で、撹拌抵抗および重量の低減を図る観点からは、動力伝達装置のケース内に貯留される潤滑油の量を低減することが求められるが、潤滑油の貯留量を少なくすると、低速走行時に潤滑不足になりやすくなる。特に、潤滑油を掻き上げるギヤから遠い要潤滑部で潤滑不足が生じやすくなる。
【0009】
そこで、本発明は、ギヤの回転により潤滑油を掻き上げて要潤滑部に供給する動力伝達装置の潤滑構造において、動力伝達装置のケース内における潤滑油の貯留量の低減を図りつつ、潤滑油を掻き上げるギヤの回転が低速であるときでも良好な潤滑を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る動力伝達装置の潤滑構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
第1ギヤが設けられた第1軸と、
該第1軸に平行に且つ該第1軸よりも高位置に配設され、前記第1ギヤに噛合する第2ギヤが設けられ、前記第1軸の回転時に該第1軸の回転数に比べて高速の回転数で回転する第2軸と、
前記第2軸に設けられ、外周面にパーキングポールの爪部が係合する複数の凹部を有し、該凹部がそれぞれ軸方向に延びる溝状に形成されたパーキングギヤと、
前記第1ギヤと第2ギヤとパーキングギヤとを収容するケースとを有し、
該ケースの底部に潤滑油を貯留するオイル貯留部が設けられて、前記第1ギヤの回転により前記オイル貯留部から掻き上げられた潤滑油が前記ケース内の要潤滑部に供給されるように構成された動力伝達装置の潤滑構造であって、
前記パーキングギヤは、第2ギヤに隣接して設けられ、
前記パーキングギヤの回転により該パーキングギヤから飛散される潤滑油を受けて前記要潤滑部に導くオイル供給路が、前記パーキングギヤの上部の回転時における移動方向前方側に設けら
れ、
前記第2軸に設けられた前記第2ギヤ及び前記パーキングギヤの下端は、前記第1軸の軸心よりも車体上方側に配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記オイル供給路において前記パーキングギヤから飛散される潤滑油を受けるパーキングギヤ用オイル受け部が、前記パーキングギヤに対して軸方向にオーバーラップして配設されていることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、
前記オイル供給路に、軸方向において前記パーキングギヤ用オイル受け部と前記パーキングギヤとがオーバーラップした位置において、下方に凹入したオイル溜まり部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、
軸方向において、第2ギヤは第2軸の中央部よりも一端側に配設され、前記パーキングギヤは第2ギヤよりも第2軸の他端側に配設され、
前記オイル供給路は、前記パーキングギヤから飛散される潤滑油を第2軸の前記他端側の要潤滑部に導くように配設されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、
前記オイル供給路は、第1ギヤから飛散される潤滑油を第2軸の前記他端側の要潤滑部に導く第1供給路であり、
該第1供給路とは別のオイル供給路として、第1ギヤから飛散される潤滑油を第2軸の前記一端側の要潤滑部に導く第2供給路が設けられ、
前記第1供給路および第2供給路の各上流端部に、第1ギヤから飛散される潤滑油を受ける第1ギヤ用オイル受け部が設けられ、
第1供給路および第2供給路の各第1ギヤ用オイル受け部は、第1ギヤに対して軸方向にオーバーラップする位置に軸方向に並べて配設され、
第1供給路の第1ギヤ用オイル受け部には、第1ギヤから供給された潤滑油を第1供給路の下流側へ案内する仕切壁が設けられ、
第2供給路の第1ギヤ用オイル受け部には、第1ギヤから供給された潤滑油を第2供給路の下流側へ案内する仕切壁が設けられていることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、
前記ケース内に給油するための給油口が、前記ケースにおいて前記オイル供給路の上流端部の上方に位置する部分に設けられていることを特徴とする。
【0017】
またさらに、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、
駆動源に連結された第3軸に第3ギヤが設けられ、
第2軸に、第3ギヤに噛合する第4ギヤが設けられ、
第2軸において、第2ギヤと第4ギヤとの間に前記パーキングギヤが配設されていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、
前記ケース内において潤滑に供された潤滑油を受けるオイルパンが、車両搭載状態で車両後方に向かって下側へ傾斜して且つ前記オイル貯留部と比べて車両前方側に設けられ、
前記ケース内において、潤滑に供された潤滑油を前記オイルパンで受けて回収するオイル回収部と、前記オイル貯留部とを隔てる隔壁部が設けられ、
車両搭載状態における前記隔壁部の後部に、前記オイル回収部と前記オイル貯留部とを連通する連通口が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、
第1軸の回転数に比べて高速の回転数で回転する第2軸において、第1軸上の第1ギヤに噛合する第2ギヤに隣接して設けられ、軸方向に延びる複数の溝状凹部が外周面に設けられたパーキングギヤに、第1ギヤの回転によりオイル貯留部から掻き上げられた潤滑油
を付着させることができ、更に該パーキングギヤから飛散される潤滑油を、パーキングギヤ上部の回転時における移動方向前方
側に設けられたオイル供給路を経由して、
ケース内の要潤滑部に供給することができる。
【0020】
そのため、低速走行時など第1ギヤの回転数が低いときに、第1ギヤからの潤滑油の飛散量が低下した場合でも、上記のようにパーキングギヤを利用して前記オイル供給路に潤滑油を供給することで、
ケース内の要潤滑部における良好な潤滑を実現することができる。
【0021】
また、オイル貯留部の液面レベルを高めに設定しておかなくても、上記のようにパーキングギヤを
ケース内の要潤滑部の潤滑に利用することで、第1ギヤの回転数が低いと
きの潤滑不足を補うことができるため、オイル貯留量の低減を図ることができる。
【0022】
さらに、請求項2に記載の発明によれば、オイル供給路のパーキングギヤ用オイル受け部が、パーキングギヤに対して軸方向にオーバーラップして配設されているため、パーキングギヤから飛散される潤滑油を、効率よくオイル供給路に供給することができる。
【0023】
また、請求項3に記載の発明を請求項2に記載の発明に適用すれば、オイル供給路に、軸方向においてパーキングギヤ用オイル受け部とパーキングギヤとがオーバーラップした位置にオイル溜まり部が設けられるため、パーキングギヤからパーキングギヤ用オイル受け部に供給された潤滑油がオイル供給路から溢れ出ることを抑制することができる。
【0024】
またさらに、請求項4に記載の発明によれば、第1ギヤに噛合する第2ギヤが第2軸の中央部よりも一端側に配設されている場合において、第1ギヤの回転により掻き上げられる潤滑油は、第1ギヤから遠い側の第2軸の他端側の要潤滑部に届かなくても、第2ギヤに対して第2軸の他端側に隣接して配設されたパーキングギヤに付着した後、該パーキングギヤとオイル供給路とを経由して第2軸の他端側の要潤滑部に導かれる。よって、第1ギヤから遠い第2軸の他端側においても、潤滑不足を抑制することができる。
【0025】
また、請求項5に記載の発明を請求項4に記載の発明に適用すれば、第1ギヤから飛散される潤滑油を第2軸の前記他端側の要潤滑部に導く第1供給路と、第1ギヤから飛散される潤滑油を第2軸の前記一端側の要潤滑部に導く第2供給路とが設けられ、第1供給路上流端部と第2供給路上流端部とにそれぞれ第1ギヤ用オイル受け部が設けられる。これら第1ギヤ用オイル受け部は、第1ギヤに対して軸方向にオーバーラップする位置に軸方向に並べて配設されているため、第1ギヤから飛散された潤滑油を確実に受けることができる。そして、第1ギヤから飛散されて第1供給路の第1ギヤ用オイル受け部で受けられた潤滑油を、該第1ギヤ用オイル受け部に設けられた仕切壁によって、第1供給路の下流側へ確実に導くことができ、第1ギヤから飛散されて第2供給路の第1ギヤ用オイル受け部で受けられた潤滑油を、該第1ギヤ用オイル受け部に設けられた仕切壁によって、第2供給路の下流側へ確実に導くことができる。よって、第1ギヤから第1供給路および第2供給路の各第1ギヤ用オイル受け部へ供給される潤滑油を、第2軸の一端側の要潤滑部と他端側の要潤滑部とへ安定的に供給することができる。
【0026】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、給油口からケース内に注入された潤滑油が、先ずオイル供給路の上流端部に落下し、このオイル供給路を通って
ケース内の要潤滑部に供給されるため、動力伝達装置の初期の潤滑不足を抑制することができる。
【0027】
さらにまた、請求項7に記載の発明によれば、第1ギヤの回転により掻き上げられて第2軸の第2ギヤと第4ギヤとの間に飛散された潤滑油を、第2ギヤと第4ギヤとの間に配設されたパーキングギヤに効率的に付着させることができ、該パーキングギヤからオイル供給路への潤滑油の供給量を効果的に確保することができる。
【0028】
また、請求項8に記載の発明によれば、オイルパンで受けられて回収されたオイル回収部内の潤滑油が、オイルパンの後下方への傾斜を利用してオイル回収部の後部に案内されて、該オイル回収部とオイル貯留部とを隔てる隔壁部の後部に設けられた連通口からオイル貯留部へ円滑に戻ることができ、これにより、オイル貯留部の液面レベルを効果的に維持することができる。また、潤滑に供されることにより高温となった潤滑油は、走行風等によりオイル回収部で冷却されてからオイル貯留部に戻されるため、オイル貯留部内の潤滑油の温度上昇を抑制することができる。そのため、潤滑油の潤滑作用を良好に発揮することができるとともに、潤滑油の劣化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0031】
図1及び
図2は、本実施形態に係る潤滑構造を備えた動力伝達装置1を示し、
図3は、この動力伝達装置1の要部を示す。
【0032】
この動力伝達装置1は、電気自動車に搭載されるものであり、
図1及び
図2に示すように、駆動源としてのモータ(図示せず)から入力した動力を減速させて出力する減速機5と、減速機5から入力した動力をさらに減速させて車軸54,56に伝達するディファレンシャル装置40と、減速機5及びディファレンシャル装置40の各構成部材を収容するケース2とを備える。
【0033】
なお、
図2の断面図では、前記モータの出力軸および該モータと減速機5とを結合するカップリングの図示を省略している。
【0034】
また、前記モータの出力軸は車幅方向に延設されているものとし、以下の説明では、車幅方向においてモータに接近する側を「フロント側」、モータから離反する側を「リヤ側」という。
【0035】
図2に示すように、動力伝達装置1のケース2は、前記カップリングを収容するフロント側ケース4と、該フロント側ケース4よりもリヤ側に配設されたリヤ側ケース3とを有し、フロント側ケース4とリヤ側ケース3とは複数のボルトで結合されている。
【0036】
動力伝達装置1の減速機5は、車幅方向に延設され、前記モータの出力軸に直列に連結された入力軸6と、該入力軸6に平行に配設された出力軸16とを有する。出力軸16は、入力軸6よりも車両後方側で且つ高位置に配設されている。
【0037】
入力軸6のフロント側端部はフロントベアリング10を介してフロント側ケース4に回転可能に支持され、入力軸6のリヤ側端部はリヤベアリング12を介してリヤ側ケース3に回転可能に支持されている。同様に、出力軸16のフロント側端部はフロントベアリング24を介してフロント側ケース4に回転可能に支持され、出力軸16のリヤ側端部はリヤベアリング26を介してリヤ側ケース3に回転可能に支持されている。
【0038】
入力軸6及び出力軸16を支持する各フロントベアリング10,24には、フロント側ケース4の壁内に形成されたフロント側壁内油路70から潤滑油が供給されるようになっている。なお、フロント側壁内油路70から入力軸6のフロントベアリング10に供給された潤滑油は、入力軸6の下方に配設されたオイルキャッチトレイ68(
図1及び
図6参照)で受けられ、このオイルキャッチトレイ68から溢れ出た潤滑油がオイルパン61(
図1参照)で受けられるようになっている。一方、入力軸6及び出力軸16を支持する各リヤベアリング12,26には、リヤ側ケース3の壁内に形成されたリヤ側壁内油路72から潤滑油が供給されるようになっている。
【0039】
入力軸6にはトランスファギヤ8が設けられ、該トランスファギヤ8に噛合し且つ該トランスファギヤ8よりも大径のトランスファギヤ18が出力軸16に設けられている。これにより、前記モータから入力軸6に入力された動力は、トランスファギヤ8,18を介して減速されながら出力軸16に伝達される。
【0040】
前記トランスファギヤ18は、出力軸16の軸方向略中央部に設けられ、出力軸16の軸方向中央部よりもフロント側に出力ギヤ20が設けられている。
【0041】
また、出力軸16の出力ギヤ20よりもリヤ側にパーキングギヤ22が設けられている。すなわち、該パーキングギヤ22は、出力軸16におけるトランスファギヤ18と出力ギヤ20との間に、これら両ギヤ18,20に隣接して設けられている。パーキングギヤ22の外周面には、パーキングポール30の爪部32が係合する複数の凹部28が設けられている。パーキングポール30の基端部は、車幅方向に延びる支軸36を介して、ケース2に固定されたブラケット34に回転可能に支持されている。運転者により車両の走行レンジがPレンジになるように操作されると、パーキングポール30が支軸36を中心として回転して、該パーキングポール30の爪部32がパーキングギヤ22のいずれか1つの凹部28に係合し、これにより、動力伝達系が機械的にロックされて、Pレンジが実現されるようになっている。
図3から明らかなように、凹部28は、軸方向に延びる溝状に形成されており、トランスファギヤ8,18、出力ギヤ20及びデフリングギヤ44の歯溝の幅に比べて広い溝幅を有する。
【0042】
動力伝達装置1のディファレンシャル装置40は、デフケース42と、該デフケース42の外周面に固定されたデフリングギヤ44とを有する。
【0043】
該デフリングギヤ44は、減速機5の出力ギヤ20に噛合しており、該出力ギヤ20よりも大径となっている。これにより、減速機5からディファレンシャル装置20へ動力が減速されながら伝達されるようになっている。
【0044】
デフケース42には、互いに対向する一対のピニオンギヤ46,48と、これらのピニオンギヤ46,48に噛合する一対のサイドギヤ50,52とが収容されており、各サイドギヤ50,52に車軸54,56がスプライン嵌合している。車軸54,56は、デフリングギヤ44の中心に一致するように、且つ、減速機5の入力軸6及び出力軸16よりも車両後方側で且つ低位置に配設されている。
【0045】
減速機5からディファレンシャル装置40に伝達された動力は、走行状況に応じた回転差となるように左右の車軸54,56に伝達され、これにより、各車軸54,56に連結された駆動輪(図示せず)が駆動される。
【0046】
図1に示すように、前記ケース2の底部には、デフリングギヤ44の下部が浸かるように潤滑油を貯留するデフ油槽60が設けられており、車両走行中のデフリングギヤ44の回転によりデフ油槽60から掻き上げられた潤滑油がケース2内の要潤滑部に供給されるようになっている。
【0047】
また、減速機5の出力軸16において、前記パーキングギヤ22は、デフリングギヤ44の回転により掻き上げられた潤滑油が付着可能なように前記出力ギヤ20に隣接して設けられ、しかも、出力ギヤ20とトランスファギヤ18との間に挟まれて配設されている。
さらに、上述のように、パーキングギヤ22の外周面の凹部28は、軸方向に延びる溝状に形成されており、トランスファギヤ8,18、出力ギヤ20及びデフリングギヤ44の歯溝の幅に比べて広い溝幅を有する。そして、デフリングギヤ44の回転により掻き上げられて出力ギヤ20とトランスファギヤ18との間に飛散された潤滑油がパーキングギヤ22に効率的に付着し、後述のように該パーキングギヤ22から飛散する潤滑油もケース2内の潤滑に利用できるようになっている。
【0048】
さらに、出力軸16のトランスファギヤ18にも、前記オイルキャッチトレイ68内の潤滑油が入力軸6のトランスファギヤ8を介して供給されるとともに、デフリングギヤ44やパーキングギヤ22から飛散する潤滑油も付着可能であるため、後述のように該トランスファギヤ18から飛散する潤滑油もケース2内の潤滑に利用することができる。
【0049】
ケース2内において潤滑に供された潤滑油を受けるオイルパン61は、車両搭載状態で車両後方に向かって下側へ傾斜して且つデフ油槽60と比べて車両前方側に設けられている。また、ケース2内には、潤滑に供された潤滑油をオイルパン61で受けて回収するオイル回収部62と、該オイル回収部62とデフ油槽60とを隔てる隔壁部64とが設けられている。隔壁部64には前記オイルキャッチトレイ68が固定されている。
【0050】
デフ油槽60とオイル回収部62とを連通する連通口66は、車両搭載状態における隔壁部64の後部に設けられている。これにより、オイルパン61で受けられて回収されたオイル回収部62内の潤滑油は、オイルパン61の後下方への傾斜を利用してオイル回収部62の後部に案内されて、隔壁部64の後部に設けられた連通口66からデフ油槽60へ円滑に戻ることができる。そのため、デフ油槽60の液面レベルを効果的に維持することができる。また、潤滑に供されることにより高温となった潤滑油は、走行風等によりオイル回収部62で冷却されてからデフ油槽60に戻されるため、デフ油槽60内の潤滑油の温度上昇を抑制することができる。そのため、潤滑油の潤滑作用を良好に発揮することができるとともに、潤滑油の劣化を抑制することができる。
【0051】
図3に示すように、デフリングギヤ44の上方には、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油をリヤベアリング12,26に導くためのリヤ側オイルパス80と、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油をフロントベアリング10,24に導くためのフロント側オイルパス100とがオイル供給路として設けられている。
【0052】
図4に示すように、リヤ側オイルパス80は、上流端から下流端に向かって徐々に低くなるように配設された底部81と、該底部81の幅方向両端部から立ち上がる一対の側壁部82,83とを備えた樋状部材である。
【0053】
また、リヤ側オイルパス80は、上流端から車幅方向リヤ側へ延びる上流部84と、該上流部84の下流端から車幅方向リヤ側に向かって車両前方へ傾斜した方向に延びる中間部85と、該中間部85の下流端から車幅方向リヤ側へ延びる下流部86とを有する。
【0054】
上流部84の上流端部における車両前方側の端部には、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油を受けるデフリングギヤ用オイル受け部90が、底部81から立ち上がるように設けられている。このデフリングギヤ用オイル受け部90は、デフリングギヤ44に対して軸方向にオーバーラップする位置に設けられており、これにより、デフリングギヤ44の回転により掻き上げられて該デフリングギヤ44から飛散する潤滑油を、デフリングギヤ用オイル受け部90で確実に受けることができるようになっている。
【0055】
デフリングギヤ用オイル受け部90の車幅方向両側の端部にはそれぞれ車両後方へ延びる仕切壁91,92が設けられており、これらの仕切壁91,92により、デフリングギヤ用オイル受け部90で受けられた潤滑油は、該デフリングギヤ用オイル受け部90から車幅方向両側に漏れ出ないように規制されながらリヤ側オイルパス80の底部81へ確実に案内される。
【0056】
特に、フロント側の仕切壁91は、デフリングギヤ用オイル受け部90で受けた潤滑油をリヤ側オイルパス80の下流側へ案内する機能を有する。また、このフロント側の仕切壁91は、デフリングギヤ用オイル受け部90の車幅方向フロント側に近接する空間に向かってデフリングギヤ44から飛散された潤滑油がリヤ側オイルパス80に入り込まないように規制して、リヤ側オイルパス80のフロント側に隣接するフロント側オイルパス100へ案内する機能も併せ持つ。
【0057】
さらに、上流部84の上流端は、車幅方向フロント側に開放した開放部93となっている。そのため、デフリングギヤ用オイル受け部90で受け取った潤滑油の余剰分が、上流部84の上流端開放部93から、該上流端開放部93の下方に位置するフロント側オイルパス100へ供給されるようになっている。
【0058】
このようなフロント側仕切壁91と上流端開放部93との機能により、デフリングギヤ44から飛散する潤滑油が、リヤ側オイルパス80又はフロント側オイルパス100の一方に偏って供給されることが抑制される。
【0059】
また、上流部84は、パーキングギヤ22の上部の回転時における移動方向前方で且つ出力軸16の軸線よりも上方の空間を通るように配設されており、デフリングギヤ44だけでなく、パーキングギヤ22から飛散される潤滑油もリヤベアリング12,26へ導くようになっている。この目的を効果的に果たすため、上流部84には、パーキングギヤ22から飛散される潤滑油を受けるパーキングギヤ用オイル受け部94が、パーキングギヤ22に対して軸方向にオーバーラップして配設されている。パーキングギヤ用オイル受け部94は、車両後方側の側壁部83を車両前方側の側壁部82の上端よりも高くなるように上方へ延長した部分で構成されている。このパーキング用オイル受け部94により、パーキングギヤ22から飛散する潤滑油を効果的に受けることができる。
【0060】
このパーキングギヤ用オイル受け部94は、出力軸16のトランスファギヤ18にも軸方向にオーバーラップして配設されており、これにより、トランスファギヤ18から飛散される潤滑油も効果的に受けることができるようになっている。
【0061】
また、リヤ側オイルパス80は、その底部81により、パーキングギヤ22及びトランスファギヤ18からパーキング用オイル受け部94の上方に向かって飛散されてケース2の内面を伝い落ちる潤滑油を受けることもできる。
【0062】
さらに、上流部84には、底部81を下方に凹入させてなるオイル溜まり部95が設けられている。このオイル溜まり部95の上流側端部は、軸方向においてデフリングギヤ用オイル受け部90とデフリングギヤ44とがオーバーラップした位置に配置され、オイル溜まり部95の下流側端部は、軸方向においてパーキングギヤ用オイル受け部94とパーキングギヤ22とがオーバーラップした位置に配置されている(
図6参照)。したがって、デフリングギヤ44及びパーキングギヤ22から前記の各オイル受け部90,94に同時に多くの潤滑油が供給されても、その一部の潤滑油を一時的にオイル溜まり部95に滞留させることができるため、リヤ側オイルパス80から潤滑油が溢れ出ることを抑制することができる。
【0063】
このようにして各ギヤ18,22,44からの飛散によりリヤ側オイルパス80の上流部84に供給された潤滑油は、底部81の下方への傾斜を利用して、中間部85を経由して下流部86へ流れる。
【0064】
リヤ側オイルパス80の下流部86は、前記リヤ側壁内油路72に連なるようにリヤ側ケース3の壁内に差し込まれている(
図6参照)。下流部86の下流端には、底部81に切欠部88が設けられており、リヤ側オイルパス80を下流端まで流れてきた潤滑油は、切欠部88から落下してリヤ側壁内油路72に供給されるようになっている。
【0065】
また、下流部86にも、底部81を下方に凹入してなるオイル溜まり部96が設けられており、同時に多くの潤滑油が下流部86に流れてきても、その一部の潤滑部を一時的にオイル溜まり部96に滞留させることで、リヤ側オイルパス80から潤滑油が溢れ出ることを抑制することができる。
【0066】
リヤ側オイルパス80の上流部84及び中間部85には、それぞれ車両後方側の側壁部83から突出する突出部98,99が設けられ、これら突出部98,99がボルトによりリヤ側ケース3に固定されている。
【0067】
図5に示すように、フロント側オイルパス100は、その上流端部において、略水平方向に沿って配設されたフロア部102と、該フロア部102の車幅方向フロント側端部から立ち上がる側壁部104と、フロア部102の車両前方側端部から立ち上がるデフリングギヤ用オイル受け部112と、フロア部102の車両前方側で且つ車幅方向フロント側のコーナー部に連なる樋部108とを有する。
【0068】
フロア部102は、上述したリヤ側オイルパス80の上流端開放部93及びフロント側仕切壁91の下方に配置されており、これら上流端開放部93及びフロント側仕切壁91から落下する潤滑油を受けることができるようになっている。
【0069】
側壁部104は、車両前後方向においてフロア部102の後端部から中間部にかけて設けられており、この側壁部104によって、フロア部102上に供給された潤滑油が車幅方向フロント側へ漏れ出ないように規制されている。側壁部104の上端部には上方に突出する突出部106が設けられており、この突出部106がフロント側ケース4にボルトで固定されている。
【0070】
デフリングギヤ用オイル受け部112は、デフリングギヤ44に対して軸方向にオーバーラップする位置に、リヤ側オイルパス80のデフリングギヤ用オイル受け部90と軸方向に並ぶように配設されている。これにより、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油をデフリングギヤ用オイル受け部112で効果的に受けて、フロント側オイルパス100を経由させてフロントベアリング10,24に潤滑油を供給することができる。
【0071】
デフリングギヤ用オイル受け部112の車幅方向リヤ側の端部には仕切壁114が設けられている。この仕切壁114は車両前後方向に沿って配設され、仕切壁114の車両前後方向の幅は、仕切壁114の上部116では略一定とされ、仕切壁114の下部118では下方に向かって徐々に大きくなっている。この仕切壁114により、デフリングギヤ44から供給された潤滑油が、車幅方向リヤ側に漏れ出ることなくフロント側オイルパス100の下流側の樋部108へ効果的に案内されるようになっている。
【0072】
樋部108は、側壁部104の車両前方側端部とデフリングギヤ用オイル受け部112の車幅方向フロント側端部との間の開放部分から車幅方向に延びる例えば断面半円形の樋状に形成されている。樋部108の底部は、フロア部102よりも低位置に配設され、フロア部102から落下する潤滑油が樋部108で受けられるようになっている。
【0073】
樋部108は、前記フロント側壁内油路70に連なるようにフロント側ケース4の壁内に差し込まれている(
図6参照)。樋部108の下流端には切欠部110が設けられており、フロント側オイルパス100を下流端まで流れてきた潤滑油は、切欠部110から落下してフロント側壁内油路70に供給されるようになっている。
【0074】
図6に示すように、ケース2内に給油するための給油口58は、ケース2においてリヤ側オイルパス80の上流端部とフロント側オイルパス100の上流端部とに跨る部分の上方に位置する部分に設けられている。そのため、給油口58からケース2内に注入された潤滑油は、リヤ側オイルパス80の上流端部とフロント側オイルパス100の上流端部とに直接落下して、各オイルパス80,100を通って各ベアリング10,12,24,26に供給されるようになっているため、初期の潤滑不足を抑制することができる。
【0075】
図6及び
図7を参照しながら、車両の通常走行時におけるケース2内の潤滑油の流れについて説明する。なお、本明細書では、車速5km/h以下での走行を「極低速走行」といい、極低速走行よりも高速での走行を「通常走行」というものとする。
【0076】
図6及び
図7に示すように、通常走行時においては、デフリングギヤ44が比較的高速で回転するため、デフリングギヤ44による潤滑油の掻き上げ量を十分に確保することができる。そのため、デフリングギヤ44の上方に位置するリヤ側オイルパス80及びフロント側オイルパス100に対して、デフリングギヤ44から飛散する潤滑油を十分に供給することができる。
【0077】
これにより、デフリングギヤ44からフロント側オイルパス100に供給された潤滑油は、フロント側壁内油路70を経由して減速機5の入力軸6及び出力軸16を支持する各フロントベアリング10,24に導かれ、これにより、これらのフロントベアリング10,24の潤滑を良好に実現することができる。
【0078】
一方、デフリングギヤ44からリヤ側オイルパス80に供給された潤滑油は、リヤ側壁内油路72を経由して減速機5の入力軸6及び出力軸16を支持する各リヤベアリング12,26に導かれ、これにより、これらのリヤベアリング12,26の潤滑を良好に実現することができる。
【0079】
なお、リヤ側オイルパス80には、デフリングギヤ44からの飛散だけでなく、減速機5の出力軸16に設けられたトランスファギヤ18及びパーキングギヤ22からの飛散によっても潤滑油が供給される。
【0080】
また、通常走行時において、デフリングギヤ44の比較的近くに配設されたフロントベアリング10,24には、フロント側オイルパス100とフロント側壁内油路70とを経由した潤滑油の供給だけでなく、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油を直接供給することも可能となっている。
【0081】
続いて、
図8及び
図9を参照しながら、車両の極低速走行時におけるケース2内の潤滑油の流れについて説明する。
【0082】
図8及び
図9に示すように、極低速走行時においては、デフリングギヤ44の回転数の低下に伴って、デフリングギヤ44による潤滑油の掻き上げ量も低下する。そのため、デフリングギヤ44から飛散する潤滑剤が、デフリングギヤ44の上方に位置するリヤ側オイルパス80及びフロント側オイルパス100に届き難くなる。
【0083】
したがって、極低速走行時には、フロント側オイルパス100とフロント側壁内油路70とを経由したフロントベアリング10,24への潤滑油の供給が不足しやすくなるが、フロントベアリング10,24はデフリングギヤ44の比較的近くに配設されているため、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油が直接供給されることで、フロントベアリング10,24の潤滑を良好に維持することができる。
【0084】
一方、リヤベアリング12,26はデフリングギヤ44から比較的遠く離れて配設されているため、デフリングギヤ44の回転数が著しく低下した状態では、デフリングギヤ44から飛散される潤滑油を直接供給することは困難である。しかしながら、本実施形態によれば、以下の理由により、極低速走行時におけるリヤベアリング12,26の潤滑も良好に維持することができる。
【0085】
まず、デフリングギヤ44の回転によりデフ油槽60から掻き上げられた潤滑油の一部は、デフリングギヤ44に対して軸方向に隣接するパーキングギヤ22に付着する。特に、パーキングギヤ22は、出力軸16においてトランスファギヤ18と出力ギヤ20とに挟まれてこれら両ギヤ18,20に隣接して配設されてい
る。また、上述のように、パーキングギヤ22の外周面の凹部28は、軸方向に延びる溝状に形成されており、トランスファギヤ8,18、出力ギヤ20及びデフリングギヤ44の歯溝の幅に比べて広い溝幅を有する。以上より、極低速走行時においても、デフリングギヤ44から飛散する潤滑油をパーキングギヤ22に効果的に付着させることができる。
【0086】
また、極低速走行時においても、デフリングギヤ44から飛散する潤滑油の一部はオイルキャッチトレイ68に供給され、このオイルキャッチトレイ68上の潤滑油は減速機5の入力軸6のトランスファギヤ8によって掻き上げられて、該トランスファギヤ8に噛合する出力軸16のトランスファギヤ18に供給される。
【0087】
さらに、減速機5の出力軸16の回転数はデフリングギヤ44の回転数の数倍程度であるため、極低速走行時であっても、出力軸16に設けられたパーキングギヤ22及びトランスファギヤ18は、デフリングギヤ44に比べて大きな回転数で回転する。
【0088】
したがって、極低速走行時であっても、パーキングギヤ22及びトランスファギヤ18から飛散する潤滑油をリヤ側オイルパス80に効果的に供給することができる。よって、軸方向においてデフリングギヤ44から比較的遠く離れて配設されたリヤベアリング12,26においても、パーキングギヤ22及びトランスファギヤ18からリヤ側オイルパス80とリヤ側壁内油路72とを経由した潤滑油の供給により、良好な潤滑を実現することができる。
【0089】
また、以上の構成により、極低速走行時においても良好な潤滑を実現できるため、デフ油槽60の液面レベルを高めに設定しておかなくても済み、オイル貯留量の低減を図ることができる。
【0090】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0091】
例えば、上述の実施形態では、オイル貯留部に貯留された潤滑油を掻き上げる第1ギヤとしてデフリングギヤを用いる構成について説明したが、本発明において、第1ギヤとして用いるギヤの種類は特に限定されるものでない。
【0092】
また、上述の実施形態では、電気自動車に搭載されてモータから入力した動力を伝達する動力伝達装置の潤滑構造について説明したが、本発明は、電気自動車以外の車両に搭載される動力伝達装置、すなわち、モータ以外の駆動源(例えば内燃機関)から入力した動力を伝達する動力伝達装置にも適用することができる。
【0093】
さらに、上述の実施形態では、変速機構を有さない動力伝達装置について説明したが、本発明は、変速機構を備えた動力伝達装置にも適用することができる。