(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクチュエータが、ケーブルを介して前記留め部材及び前記第二留め部材のそれぞれに接続され、前記衝撃を受けたときに前記ケーブルを巻き取って前記留め部材及び前記第二留め部材のそれぞれを外す
ことを特徴とする、請求項3記載の車両用ドア。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面により実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
本実施形態では、車両の左側のフロントドアを例に挙げ、このドアが支点を中心に外側にスイングして開閉するヒンジドアである場合を説明するが、右側のフロントドアや左右のリヤドアにも同様に適用可能であり、また、スライドドアにも適用可能である。
【0016】
[1.全体構造]
本実施形態に係る車両用ドアについて、
図1〜
図5を用いて説明する。以下の説明では、自動車(車両)の進行方向を前方とし、その逆を後方とし、前方を基準に左右を定める。また、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。また、車体の中心に向かう側を内側、その逆を外側として説明する。
【0017】
図1に示すように、ドア(車両用ドア)10は、ドアパネル11と、ドア内側のドアトリム12とを有する。ドアパネル11は、車両の外面を構成するアウタパネル11aと、アウタパネル11aの内側に設けられるインナパネル11bとからなり、アウタパネル11aの内面にインナパネル11bの外周端部が取り付けられたドア本体を構成するものである。インナパネル11bは、その外周端部からアウタパネル11aの内面に対して内側に立設された立設面11b
Sと、立設面11b
Sから屈曲形成されアウタパネル11aと略平行な平行面11b
Pとから構成された膨出形状の部材である。
【0018】
ドアパネル11は、インナパネル11bとアウタパネル11aとの間に形成される空間11cを有する。以下、インナパネル11bとアウタパネル11aとを特に区別しないときは、単にドアパネル11という。
ドアトリム12は、ドアパネル11の内側に設けられた内装部材であり、その外周端部がインナパネル11bの平行面11b
Pの内側の面に取り付けられ、インナパネル11bとドアトリム12との間に隙間12cが形成される。なお、この隙間12cには緩衝材等が内蔵されていてもよい。
【0019】
ドアパネル11の前端部11fは、ヒンジ(前側部材)20を介して、左前乗降口の前側の骨格部材であるフロントピラーロア(車体)13aに固定される。ここでいう前端部11fとは、インナパネル11bの立設面11b
Sのうち前方に向いた部分を意味する。この前端部11fにはヒンジ20の一方の部材が固定され、ヒンジ20の他方の部材がフロントピラーロア13aの外側の面(以下、外面という)に固定されることで、ヒンジ20を中心として外側に回動可能なドア10が構成される。なお、アウタパネル11aは、アウタパネル11aの前端部がインナパネル11bの立設面11b
Sよりも前方に突出して設けられ、ヒンジ20を外方から見えないように覆い隠す。
【0020】
ドアパネル11の後端部11rは、ロック機構(後側部材)30を介して、左前乗降口の後側の骨格部材であるセンターピラー(車体)13bに固定される。ここでいう後端部11rとは、インナパネル11bの立設面11b
Sのうち後方に向いた部分を意味する。この後端部11rには、ロック機構30の一方の部材であるラッチが固定されている。また、センターピラー13bの側面には、ロック機構30の他方の部材であるストライカが固定されており、ドア10が閉じられたときにラッチとストライカとが係合することで、ドア10の閉状態が維持される。なお、本実施形態では、ロック機構30は従来の構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0021】
ドア10の内側には、ドア10に衝撃が加わった際に、座席に着座する乗員1とドア10との間に膨張展開するエアバッグ装置(図示略)が備えられる。エアバッグ装置は、車両に対する衝突を検知する図示しない衝突検知センサに接続されたエアバッグECUと、例えば座席サイド部分等に内蔵されているサイドエアバッグ,ルーフライニングのサイド部分に内蔵されているカーテンエアバッグ等とを備える。エアバッグ装置は、衝突検知センサによって衝突が検知されたことがエアバッグECUに伝達されたら、エアバッグECUによりこの衝突が側方からの衝突(以下、側突という)であってエアバッグを展開させる必要があると判断されると、インフレータにてエアバッグを瞬時に膨張させる。
【0022】
次にヒンジ20の構造について、
図2及び
図3(a)〜(c)を用いて説明する。ヒンジ20は、フロントピラーロア13aの外面に固定される車体側部材21と、ドアパネル11の前端部11fに固定されるドア側部材22と、車体側部材21とドア側部材22とを回動可能に支持するヒンジピン23とを有する。以下の説明中で方向を示す場合は、
図2及び
図3(a)〜(c)に示すように、ヒンジ20がフロントピラーロア13aとドアパネル11の前端部11fとに固定され、且つ、ドア10が閉状態であることを前提とする。
【0023】
車体側部材21は、後方から見て外側が開口したコの字型(チャンネル型)の形状をした部材であり、フロントピラーロア13aの外面に接する面状の第一固定部21aと、第一固定部21aに直交する面状の二つの第一係合部21b,21bとを有するように屈曲形成されている。
【0024】
第一固定部21aは、外側から見て上下対称の形状に形成され、車体側部材21とフロントピラーロア13aとを締結する締結部材(例えばボルト)を装着するために穿孔された第一取付孔21dを複数(ここでは三つ)有する固定部分である。第一固定部21aの上下端部は、それぞれ外側に向かって屈曲形成されており、前部よりも後部の方が外側へ突出される長さが長くなっている。この後部の外側に突設された部分が第一係合部21bである。
【0025】
第一係合部21bは、第一固定部21aの後部の上下端部からそれぞれ外側に向かって屈曲形成され、ドア側部材22と係合される部分である。第一係合部21bは、第一固定部21aに対して(すなわち、フロントピラーロア13aの外面に対して)略直角に外方へ立設されており、上下二つの第一係合部21b,21bの面が対向するように設けられる。なお、車体側部材21は、二つの第一係合部21b,21bも含め上下対称の形状となっている。
【0026】
第一係合部21bの外側(第一固定部21aと反対の先端側)には、ヒンジピン23が挿通される第一孔部24が穿孔されている。第一孔部24は、車両前後方向(以下、単に前後方向という)に延びる長孔に形成され、その幅(車幅方向の長さ)24Wはヒンジピン23の軸部23aの外径と略同一であり、その長さ(前後方向の長さ)24Lはヒンジピン23の軸部23aの外径よりも大きく(外径の数倍の長さに)形成されている。
【0027】
ドア側部材22は、車体側部材21と係合する部材であり、外側から見て後側が開口した上下対称のハット型の形状をした部材である。ドア側部材22は、ドアパネル11の前端部11fに接する面状の上下二つの第二固定部22a,22aと、第二固定部22a,22aにそれぞれ直交する面状の上下二つの第二係合部22b,22bと、第二係合部22b,22bを連結する連結部22cとを有するように屈曲形成されている。
【0028】
上下二つの第二固定部22a,22aは、上下の二つの第二係合部22b,22bから上方又は下方に向かって略直角にそれぞれ屈曲形成され、ドア側部材22とドアパネル11とを締結する締結部材を装着するために穿孔された第二取付孔22dを一つずつ有する固定部分である。
【0029】
二つの第二係合部22b,22bは、車体側部材21の二つの第一係合部21b,21b間に設けられ、車体側部材21と係合される部分である。第二係合部22bは、第二固定部22aに対して(すなわち、前端部11fに対して)略直角に前方へ立設されている。上下二つの第二係合部22b,22bは、それぞれの面が対向するように設けられ、上側の第二係合部22bは車体側部材21の上側の第一係合部21bの下面に接し、下側の係合部22bは車体側部材21の下側の第一係合部21bの上面に接するように配置される。
【0030】
第二係合部22bは、車幅方向長さよりも前後方向長さの方が長く形成されており、前後方向長さは第一係合部21bの前後方向長さよりも長い。また、第二係合部22bには、車幅方向略中央に第一孔部24と連通し、ヒンジピン23が挿通される第二孔部25が穿孔されている。第二孔部25は、前後方向に延びる長孔に形成され、その幅(車幅方向の長さ)25Wはヒンジピン23の軸部23aの外径と略同一(すなわち第一孔部24の幅24Wと略同一)であり、その長さ(前後方向の長さ)25Lはヒンジピン23の軸部23aの外径よりも大きく(外径の数倍の長さに)形成されている。なお、第二孔部25の長さ25Lは、第一孔部24の長さ24Lと同一であってもよく、異なる長さであってもよい。
【0031】
連結部22cは、上下二つの第二係合部22bの前端部同士を結ぶ部分であり、第二係合部22bと直交し、第二固定部22aと略平行に延設されている。連結部22cの上下方向の長さは、車体側部材21の第一係合部21b,21bの間隔に応じて定まる。つまり、ドア側部材22の第二係合部22b,22bが、車体側部材21の第一係合部21b,21bに接するように連結部22cの長さが決定される。
【0032】
ヒンジピン23は、上下方向に延びる円柱状の軸部23aと、軸部23aの上下端部に設けられ軸部23aよりも大径の頂部23b,23bとから構成されるピン部材である。ヒンジピン23は、車体側部材21の第一孔部24とドア側部材22の第二孔部25とに挿通され、車体側部材21とドア側部材22とを回動可能に支持する。なお、上下の頂部23b,23bの少なくとも一方は、取外し可能に構成されている。ヒンジピン23は、軸部23aが第一孔部24の前縁24fに当接するように第一孔部24に挿通され、第二孔部25の後縁25rに当接するように第二孔部25に挿通される。
【0033】
第一孔部24及び第二孔部25には、ヒンジピン23の前後方向の移動を規制するための留め具が嵌め込まれている。第一孔部24には、ヒンジピン23が前縁24fに当接するように挿通されるため、ヒンジピン23よりも後側に第一留め具(留め部材)26a及び第三留め具26cが嵌め込まれる。また、第二孔部25には、ヒンジピン23が後縁25rに当接するように挿通されるため、ヒンジピン23よりも前側に第二留め具(留め部材)26bが嵌め込まれる。これらの留め具26a,26b,26cは、車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対位置を固定する。
【0034】
第一留め具26a及び第三留め具26cは、第一孔部24に挿通されたヒンジピン23の軸部23aと第一孔部24との隙間に嵌め込まれ、第一留め具26aにはケーブル41を介してアクチュエータ40が接続されている〔
図4(a)参照〕。つまり、第一留め具26aは、アクチュエータ40によりケーブル41が巻き取られると第一孔部24から引き抜かれ、外される仕組みになっている。一方、第三留め具26cは、ヒンジピン23の頂部23bの真下に位置し、軸部23aと第一留め具26aとの間に配設される補助的な留め具である。
【0035】
第二留め具26bは、第二孔部25に挿通されたヒンジピン23の軸部23aと第二孔部25との隙間に嵌め込まれ、ケーブル41を介してアクチュエータ40に接続されている。つまり、第二留め具26bは、第一留め具26aと同様、アクチュエータ40によりケーブル41が巻き取られると第二孔部25から引き抜かれ、外される仕組みになっている。
【0036】
第一留め具26a及び第二留め具26bは、同じアクチュエータ40によって同一のタイミングで第一孔部24及び第二孔部25から外され、これによりヒンジピン23の軸部23aは、第一孔部24及び第二孔部25の長手方向に移動可能となる。つまり、第一留め具26a及び第二留め具26bは、アクチュエータ40の作動により、車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対位置の固定を解除する(換言すると、車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対移動を許容する)。
【0037】
アクチュエータ40は、ここではエアバッグECUによって制御される。エアバッグECUは、衝突検知センサによって衝突が検知された場合、この衝突が側突であり、且つ、ドアパネル11に対してヒンジ20とロック機構30との間に衝撃を受けたと判断した場合に、アクチュエータ40に指令を発して作動させてケーブル41を巻き取らせる。つまり、エアバッグECUは、ドアパネル11を固定するヒンジ20とロック機構30との間、言い換えるとフロントピラーロア13aとセンターピラー13bとの間のドアパネル11に対して、狭い範囲の衝撃が加わった場合にアクチュエータ40を作動させる。これにより、ヒンジピン23の軸部23aが第一孔部24及び第二孔部25の長手方向に移動可能となる。
【0038】
なお、ここでいう狭い範囲の衝撃とは、前後方向の長さが短い物体(例えば、電柱,立ち木,ポール等の柱状静止物や歩行者等)に対して車両が衝突した場合に加わる衝撃や、建物,塀の角部に車両が衝突した場合に加わる衝撃や、二輪車,自動二輪車等が車両に対して衝突してきた場合に加わる衝撃等があり、以下、このような狭い範囲の衝撃を狭域衝撃という。また、狭域衝撃がドアパネル11に加わった場合(すなわち、車両が側突した場合)を、狭域側突という。
【0039】
[2.作用,効果]
次に、
図4(a)〜(d)及び
図5を用いて、本車両用ドア10が狭域側突した場合の動作について説明する。
図4(a)はドア10が狭域衝撃を受ける前の状態〔
図3(b)と同一〕、
図4(b)は狭域衝撃を受けた瞬間の状態、
図4(c)は狭域衝撃を受けた後の状態のヒンジ20の状態をそれぞれ示す。また、
図4(d)は、
図4(c)の状態のときのドア10の変形の模式図であり、実線が本車両用ドア10の場合、破線が従来構造の場合を示す。また、
図5は、実際に本車両用ドア10が活用される場面と動作とを説明するためのフローである。
【0040】
図5に示すように、ステップS10では衝突検知センサで衝突が検知されたか否かがエアバッグECUにより判断され、検知されていなければステップS10が繰り返し実施される。つまり、通常(すなわち衝突前)は、
図4(a)に示すように、第一留め具26a及び第二留め具26b(以下、単に留め具26a,26bともいう)が第一孔部24及び第二孔部25(以下、単に長孔24,25ともいう)に嵌め込まれているため、ヒンジピン23はがたつくことなく車体側部材21とドア側部材22との回動を許容する。これにより、ドア10はヒンジ20を介してスイングしながら開閉される。
【0041】
一方、ステップS10において衝突が検知されたら、ステップS20では衝突の形態が判別される。ここでは、車両のどの部分が衝突したか、及び、どのような衝突であったかが判断される。例えば、衝突した部分が車両の前面であるか、側面(右側面もしくは左側面)であるか、又は背面(後面)であるかが判別される。また、衝突した物体が他車両や建物,塀等であって車両の大部分の面に衝撃が加わったか(略全面に衝撃を受けたか)、又は、衝突した物体が柱状静止物等であって車両の一部分のみに衝撃が加わったか(狭域衝撃を受けたか)が判別される。
【0042】
続くステップS30では、ステップS20において判別された衝突形態が狭域側突である(ドアパネル11が狭域衝撃を受けた)か否かが判断される。狭域側突以外の衝突形態であると判断された場合は、NOルートへ進んでフローが終了される。つまり、この場合はアクチュエータ40は作動されない。一方、狭域側突であると判定された場合は、YESルートからステップS40へ進み、エアバッグECUによりアクチュエータ40が作動される。
【0043】
図4(b)に示すように、ステップS40においてアクチュエータ40が作動されると、瞬時にケーブル41が巻き取られ、第一孔部24及び第二孔部25に嵌め込まれていた第一留め具26a及び第二留め具26bが外される。これにより、ヒンジピン23が第一孔部24及び第二孔部25の長手方向に移動可能(摺動可能)な状態となる。なお、エアバッグECUは、アクチュエータ40の作動と略同時にインフレータにてエアバッグを瞬時に膨張させる。
【0044】
ところで、ドアパネル11は狭域衝撃を受けると、狭域衝撃を受けた位置(衝突位置)P
IMを中心に上面視で略くの字状に湾曲変形し、車幅方向内側にへこむ。このとき、ヒンジ20のヒンジピン23は長孔24,25の長手方向に移動可能(摺動可能)な状態になっているため、車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対移動が許容されている。そのため、ドアパネル11の前端部11fに固定されたドア側部材22は、ドアパネル11の湾曲変形に引張られて後方へ移動する(
図5のステップS50)。
【0045】
ドア側部材22が後方へ移動すると、ヒンジピン23は相対的に第二孔部25の前方へ移動し、第二孔部25の前縁25fに当接する。ドア側部材22がさらに後方へ移動し続けると、ドア側部材22と共にヒンジピン23も後方へ引張られ、ヒンジピン23は第一孔部24の後縁24rに当接する。これにより、ドアパネル11の前端部11fを衝突位置P
IMの方向(すなわち後方)へ移動させ、ドアパネル11をより湾曲変形し易くすることが可能となる。
【0046】
つまり、本車両用ドア10によれば、ヒンジ20とロック機構30との間に衝撃を受けた場合(狭域側突した場合)、留め具26a,26bが外れて車体側部材21とドア側部材22との相対移動が許容されるため、ヒンジ20のドア側部材22が衝突位置P
IMの方向に引張られて前後方向へ移動することができる。これにより、ドアパネル11は衝突位置P
IMを中心として湾曲変形し易くなり、ドアパネル11が衝撃(狭域衝撃)を吸収することができる。また、ドアパネル11によって衝撃が吸収されるので、その分だけドアパネル11の前端部11f及び後端部11rが固定される車体(フロントピラーロア13a及びセンターピラー13b)に作用する衝撃を軽減することができ、車体ごと車幅方向内側へ移動することを抑制することができる。
【0047】
図4(d)を用いて説明すると、例えば車両が側方から柱状静止物2に衝突した場合、ドアパネル11には狭域衝撃F
IMが加わる。このとき、従来のドアの場合は、破線で示すようにドアパネルが車幅方向内側へ移動すると共に、ドアパネルによって十分にその衝撃F
IMが吸収されないためドアパネルが固定される車体(ピラー等)も内側へ移動してしまう。これに対して、本車両用ドア10の場合は、実線で示すようにドアパネル11は衝突位置P
IMを中心に上面視で略くの字状に湾曲変形しながら衝撃を吸収するので、ドアパネル11が固定される車体13a,13bの部分が車室側へ移動することを防ぐことができる。
【0048】
そのため、例えば側突時にドアを外方へ移動させるような従来の構造に比べて大きな駆動力を必要とせず、ドア10と乗員1との間のスペース(空間)を確保することができる。これにより、ドア10が乗員1に接触するリスクを低減することができる。また、ここではドア10と座席との間で膨張展開するエアバッグ装置が備えられているため、ドア10と乗員1との間のスペースを確保することで、エアバッグによるエネルギー吸収量を増大させることができ、乗員1をより保護することができる。
【0049】
また、本実施形態では、ドアパネル11をフロントピラーロア13aに固定する前側の部材がヒンジ20であり、ヒンジ20の車体側部材21及びドア側部材22には、前後方向に延びる長孔(第一孔部24及び第二孔部25)が穿孔されている。そして、この長孔24,25には、それぞれ留め具26a,26bが嵌め込まれている。このような構成により、長孔24,25から留め具26a,26bが外されれば、長孔24,25に挿通されたヒンジピン23の前後方向への移動を許容することができる。
【0050】
つまり、留め具26a,26bが外されると、車体側部材21とドア側部材22とが前後方向に相対移動することができるようになり、狭域衝撃がドアパネル11に加わったときにヒンジ20ごと車幅方向内側へ移動することを防ぐことができる。そのため、ドアパネル11に狭域衝撃が加わったときに、ドア10と乗員1とのスペースを確保することができる。なお、通常はヒンジ20の長孔24,25には留め具26a,26bが嵌め込まれているため、ドア10のがたつきはなく、ドア10の開閉にも影響しない。また、狭域側突以外では留め具26a,26bが長孔24,25から外されないため、ヒンジ20の車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対位置は固定されたままとなり、本車両用ドア10による影響を排除することができる。
【0051】
さらにここでは、第一孔部24及び第二孔部25がいずれも長孔に形成されているため、より大きい移動量を確保することができる。つまり、車体側部材21及びドア側部材22にそれぞれ長孔を形成することで、一つの長孔の長手方向の長さをそれほど長くしなくても、大きな移動量を確保することができる。
【0052】
また、狭域衝撃を受けたときに留め具26a,26bを外すアクチュエータ40を備えるため、狭域衝撃を受けたときに迅速且つ確実に留め具26a,26bを外して、車体側部材21とドア側部材22との前後方向の相対移動を許容することができる。
さらに、アクチュエータ40が、ケーブル41を介して留め具26a,26bに接続され、狭域衝撃を受けたときにケーブル41を巻き取って留め具26a,26bを外すため、より確実に留め具26a,26bを外すことができる。
【0053】
[3.変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上記の実施形態では、前側部材であるヒンジ20に、長孔24,25と留め具26a,26bとが備えられたドア10の構成を説明したが、ドアパネル11の後端部11rをセンターピラー13bに固定する後側部材に留め部材が備えられたドア10であってもよい。留め部材を備えた後側部材であるロック機構30′,30″の構成について、
図6〜
図8を用いて説明する。
【0054】
図6(a)に示すように、このロック機構30′は、センターピラー13b(
車体)の外面に固定されるストライカ(
車体側部材)31と、ドアパネル11の後端部11rに固定されるラッチ(図示略)と、センターピラー13bをストライカ31とともに挟むように設けられた留め部材34とを備えている。
【0055】
ストライカ31は、センターピラー13bの前側の側面部(ラッチに近接する側の側面部)の前面に当接されてボルト32及びナット33で固定される固定部31aと、ラッチが係合される係合部31bとを有する。ボルト32は、ストライカ31の固定部31aとセンターピラー13bの前側の側面部とにそれぞれ穿孔された図示しない貫通孔にストライカ31側から挿通され、センターピラー13bの内側でナット33と螺合される。なお、ここでは、ボルト32及びナット33は、ストライカ31の上下の固定部31aにそれぞれ設けられる。
【0056】
留め部材34は、センターピラー13bの前側の側面部の後面(以下、単に後面という)に当接され、ストライカ31側から挿通されたボルト32とこのボルト32に螺合されるナット33とによりセンターピラー13bの後面に密着される。留め部材34は、
図6(a)に示す状態では、センターピラー13bとストライカ31との前後方向の相対位置を固定している(センターピラー13bに対してストライカ31が相対的に移動しないようになっている)。
【0057】
留め部材34は、
図6(b)に示すように、矩形状で所定の厚み34Wを有する部材であり、長手方向に直交する方向(短手方向)の略中央で二つに分割可能に構成される。留め部材34の短手方向略中央には、ボルト32が挿通される貫通孔34hが長手方向に二つ設けられる。また、留め部材34の短手方向両端部(又は両側面部)にはそれぞれケーブル41が接続され、さらにこのケーブル41はアクチュエータ40に接続される。
【0058】
留め部材34は、
図6(c)に示すように、アクチュエータ40でケーブル41,41が巻き取られると、二つに分離してナット33とセンターピラー13bの後面との間から引き抜かれて外される仕組みになっている。留め部材34が外されると、センターピラー13bとストライカ31との前後方向の相対位置の固定が解除されて、ストライカ31の前後方向への移動(センターピラー13bに対する相対移動)が許容される。
【0059】
次に、このように構成されたロック機構30′を有するドア10が狭域側突した場合の動作について説明する。なお、ロック機構30′以外の構成は、上記した実施形態と同様とする。
図6(a)に示すように、通常(すなわち衝突前)は、ストライカ31及び留め部材34がボルト32及びナット33によってセンターピラー13bに固定されており、通常のドア10の開閉や閉状態の維持(ロック)に何ら支障を与えることない。
【0060】
一方、車両が狭域側突した場合は、
図6(c)に示すようにアクチュエータ40が作動されてケーブル41が巻き取られる。これにより、留め部材34が二つに分離され、ナット33とセンターピラー13bの後面との間から外される。したがって、車両が狭域衝突すると、ストライカ31がボルト32に支持されながらセンターピラー13bに対して前後方向に移動可能(摺動可能)な状態となる。
【0061】
ドアパネル11は、狭域衝撃を受けると、
図7に示すように狭域衝撃を受けた位置(衝突位置)P
IMを中心に上面視で略くの字状に湾曲変形し、車幅方向内側にへこむ。これにより、ドアパネル11の後端部11rは前方へ移動し、後端部11rに固定されたラッチも前方へ引張られる。このとき、ストライカ31は、センターピラー13bに対して前後方向の相対移動が許容されているため、ラッチの移動とともにストライカ31も前方へ引張られて移動する。したがって、ドアパネル11の後端部11rを衝突位置P
IMの方向(すなわち前方)へ移動させ、ドアパネル11をより湾曲変形し易くすることが可能となる。
【0062】
つまり、このような構成の車両用ドア10によっても、ヒンジ20とロック機構30′との間に衝撃を受けた場合(狭域側突した場合)、ドアパネル11は衝突位置P
IMを中心として湾曲変形し易くなり、ドアパネル11が衝撃(狭域衝撃)を吸収することができる。また、ドアパネル11によって衝撃が吸収されるため、その分だけドアパネル11の前端部11f及び後端部11rが固定される車体(フロントピラーロア13a及びセンターピラー13b)に作用する衝撃を軽減でき、車体ごと車幅方向内側へ移動することを防ぐことができる。
【0063】
図7を用いて説明すると、例えば車両が側方から柱状静止物2に衝突した場合、ドアパネル11には狭域衝撃F
IMが加わる。このとき、従来のドアの場合は、上記の実施形態でも説明した通り、破線で示すようにドアパネルが衝撃F
IMを十分に吸収することができず、ドアパネルを固定する車体(ピラー等)ごとドアパネルが車幅方向内側へ移動してしまう。これに対して、本車両用ドア10の場合は、実線で示すようにドアパネル11が衝突位置P
IMを中心に上面視で略くの字状に湾曲変形し、ドアパネル11が固定される車体13a,13bの部分が車室側へ移動することを防ぐことができる。
【0064】
そのため、例えば側突時にドアを外方へ移動させるような従来の構造に比べて大きな駆動力を必要とせず、ドア10と乗員1との間のスペース(空間)を確保することができる。これにより、ドア10が乗員1に接触するリスクを低減することができる。また、ここではドア10と座席との間で膨張展開するエアバッグ装置が備えられていれば、ドア10と乗員1との間のスペースを確保することで、エアバッグによるエネルギー吸収量を増大させることができ、乗員1をより保護することができる。
【0065】
[3−2.ロック機構の第二実施形態]
図8(a)に示すように、このロック機構30″は、センターピラー13bの外面に固定されるストライカ(車体側部材)31と、ドアパネル11の後端部11rに固定されるラッチ(ドア側部材)35と、ストライカ31に係合された留め具(留め部材)36とを備えている。
【0066】
留め具36は、ラッチ35がストライカ31に係合された場合に、ラッチ35よりも前方に位置するようにストライカ31に係合されている。これにより、ストライカ31とラッチ35との前後方向の相対移動が規制される。また、留め具36には、ケーブル41を介してアクチュエータ40が接続されている。アクチュエータ40が作動されケーブル41が巻き取られると、
図8(b)に示すように留め具36がストライカ31から外され、ストライカ31とラッチ35との前後方向の相対位置の固定が解除される(相対移動が許容される)。
【0067】
次に、このように構成されたロック機構30″を有するドア10が狭域側突した場合の動作について説明する。なお、ロック機構30″以外の構成は、上記した実施形態と同様とする。
図8(a)に示すように、通常(すなわち衝突前)は、留め具36がストライカ31に固定されているため、ラッチ35は車幅方向への移動のみ許容され、通常のドア10の開閉や閉状態の維持(ロック)に何ら支障を与えることない。一方、車両が狭域側突した場合は、
図8(b)に示すようにアクチュエータ40が作動され、ケーブル41が巻き取られて留め具36がストライカ31から外される。これにより、ラッチ35がストライカ31と係合しながら前後方向に移動可能(摺動可能)な状態となる。
【0068】
ドアパネル11は、狭域衝撃を受けると、狭域衝撃を受けた位置(衝突位置)P
IMを中心に上面視で略くの字状に湾曲変形し、車幅方向内側にへこむ。このとき、ストライカ31とラッチ35との前後方向の相対移動が許容されているため、
図8(c)に示すように、ドアパネル11の後端部11rに固定されたラッチ35は、ドアパネル11の湾曲変形に引張られて前方へ移動する。これにより、ドアパネル11の後端部11rを衝突位置P
IMの方向(すなわち前方)へ移動させ、ドアパネル11をより湾曲変形し易くすることが可能となる。
つまり、このような構成の車両用ドア10によっても、ドアパネル11は
図7に実線で示すように変形し、上記した効果と同様の効果を得ることができる。
【0069】
[3−3.その他]
なお、上記したロック機構の第一,第二実施形態では、ヒンジ20とロック機構30′,30″とが、いずれも狭域側突時に前後方向へ移動可能となるように構成されているが、ロック機構30′,30″のみが狭域側突時に前後方向へ移動可能となるように構成され、ヒンジ20が従来と同様の構成であってもよい。つまり、ドアパネル11の前端部11f及び後端部11rをそれぞれ車体に固定する前側部材及び後側部材のうち、少なくとも一方が留め部材を有する構成であればよい。
【0070】
また、上記実施形態では、アクチュエータ40はエアバッグ装置に備えられたエアバッグECUによって制御されているが、衝突検知センサと直接接続され、コントローラを備えるアクチュエータであってもよい。また、車両に搭載される他のコントローラによって制御されるものであってもよい。なお、エアバッグ装置が備えられていない車両であってもよい。
【0071】
また、アクチュエータ40は、ケーブル41を巻き取る構成に限られず、留め部材を外すことができる構成であれば種々適用可能である。また、アクチュエータ40が設けられていなくてもよく、例えば留め部材にワイヤーが接続され、このワイヤーがドアパネル11に対して外部から狭域衝撃が加わったときにドアパネル11の変形に伴って引張られるような構成であれば、アクチュエータを備える必要がないため、コスト増を抑制することができる。
【0072】
また、上記実施形態で説明したヒンジ20の形状や構造は一例であって、これに限定されるものではない。さらに、ヒンジ20に設けられる第一孔部24及び第二孔部25のいずれか一方のみが長孔に形成されていてもよい。この場合、加工工程を減らすことができると共に、留め具の一方のみでよいため部品点数を減らすことができる。
【0073】
また、本車両用ドアをスイング式のリヤドアに適用する場合は、リヤドアの前端部をヒンジ20を介してセンターピラー13bに固定し、リヤドアの後端部をロック機構30を介してリヤピラー等の後側の骨格部材に固定する構成とすることができる。なお、前側部材はヒンジに限らず、例えばスライド式のドアであれば前側部材はロック機構とすることができ、反対に、後側部材にヒンジを用いたドアにも適用可能である。
【0074】
また、上述した車両用ドア10は全てサイドドアであったが、車両後面に設けられるバックドアが横開きの場合は、バックドアにも本車両用ドアの構成を適用可能である。つまり、横開きバックドアの場合、車両後方から見て、左右何れか一方の端部にはヒンジが設けられ、左右何れか他方の端部にはロック機構が設けられる。そのため、これらヒンジ及びロック機構の何れか一方又は双方に、留め部材を含めた上述の構成を適用することができる。これにより、車両後方から狭域衝撃を受けた場合にも、上記した効果と同様の効果を得ることができる。
なお、本車両用ドアは、自動車やトラック等の様々な車両のドアに適用可能である。