(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966633
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】タップの交換時期判定方法
(51)【国際特許分類】
B23G 1/16 20060101AFI20160728BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
B23G1/16 C
B23Q17/09 D
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-126839(P2012-126839)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-248717(P2013-248717A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】房安 浩二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大地
(72)【発明者】
【氏名】清水 功一
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−226551(JP,A)
【文献】
特開昭57−008053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/16
B23Q 17/09
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タップを使用してねじ孔の加工を行うに際し、主軸モータに電力計を取り付けて、得られた電力波形から前記タップの交換時期を判定する方法であって、
前記タップによる加工状態を複数の区間に分け、複数の区間は、不完全ネジ部の切込み中、前記不完全ネジ部全体が下穴通過中、前記不完全ネジ部が前記下穴通過完了後および前記タップを逆回転させてのタップ抜きを含んでおり、
前記不完全ネジ部が前記下穴通過完了後の区間の平均電力値/前記不完全ネジ部が前記下穴通過中の区間の平均電力値が所定の閾値以上となったときを前記タップの交換時期を判定することを特徴とするタップの交換時期判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タップの交換時期判定方法に関し、特に、主軸モータの電力値からタップの交換時期を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タップの交換時期判定方法として、モータの駆動電流の変動を測定し、これを、標準負荷曲線、上限負荷曲線および下限負荷曲線などと比較して、モータの駆動電流の変動が所定の閾値以上となったときを交換時期とすることが知られている(特許文献1)。
【0003】
電流に代えて、主軸モータに取り付けられた電力計で得られる電力波形からタップの交換時期を判定することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−239838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のタップの交換時期判定方法においては、電力波形のばらつきが大きいことから、交換時期の算出を精度よく行うことが困難であるという問題があった。そのため、安全を見越して早めにタップの交換を行う必要があり、タップ加工費用を低減することが困難であった。
【0006】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、タップの交換時期の算出を精度よく行うことを可能とし、これにより、タップ加工費用を低減することが可能なタップの交換時期判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるタップの交換時期判定方法は、タップを使用してねじ孔の加工を行うに際し、主軸モータに電力計を取り付けて、得られた電力波形から前記タップの交換時期を判定する方法であって、前記タップによる加工状態を複数の区間に分け、所要の区間内における電力波形データを使用して前記タップの交換時期を判定することを特徴とするものである。
【0008】
タップを使用してねじ孔の加工を行う場合、切込みが始まってから加工が完了するまでには、複数の加工状態がある。従来は、どのような加工状態にあるかを考慮せずに、電力波形に対して閾値が設定されて、タップの交換時期が判定されていた。この発明によるタップの交換時期判定方法においては、複数の加工状態のうちの例えば1つまたは2つの状態(例えば不完全ネジ部が下穴通過完了後など)の電力波形データを使用してタップの交換時期が判定される。これにより、電力波形のばらつきが小さくなり、タップの交換時期の算出を精度よく行うことができる。
【0009】
前記複数の区間は、不完全ネジ部の切込み中、前記不完全ネジ部全体が下穴通過中、前記不完全ネジ部が前記下穴通過完了後および前記タップを逆回転させてのタップ抜きを含んでおり、前記不完全ネジ部が前記下穴通過完了後の区間の平均電力値/前記不完全ネジ部が前記下穴通過中の区間の平均電力値が所定の閾値以上となったときをタップの交換時期とすることが好ましい。
【0010】
タップによる加工状態を複数の区間に分けると、不完全ネジ部が下穴通過中の区間においては、負荷電力がほぼ一定で推移し、加工数が所定数(交換時期に近い数)を超えても増加率がそれほど大きくならないのに対し、不完全ネジ部が下穴通過完了後においては、加工数が所定数を超えた時点で増加率が大きくなる。上記の不完全ネジ部が下穴通過完了後の区間(後述する区間C)の平均電力値/不完全ネジ部が下穴通過中の区間(後述する区間B)の平均電力値は、ワークのばらつきなどによって変動する絶対値ではなく比率とされていることで、ばらつきが抑えられ、しかも、加工数が所定数を超えた時点で増加率が大きくなる値になっている。したがって、この値に対して、閾値を設定することで、極めて精度よくタップの交換時期の算出を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明のタップの交換時期判定方法によれば、上記のように、タップの交換時期の算出を精度よく行うことができる。これに伴い、1本のタップによる加工数を多くすることが可能となり、タップ加工費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、この発明のタップの交換時期判定方法が使用されるねじ孔加工装置の1例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、タップによる加工状態を複数の区間に分ける例を示す図である。
【
図3】
図3は、所要の区間の電力値が加工数の増加に伴ってどのように変化するかを示すグラフである。
【
図4】
図4は、タップの交換時期を好適に判定することができる例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、タップの交換時期を好適に判定するために利用される他のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、この発明のタップの交換時期判定方法が使用されるねじ孔加工装置の1例を示す概略構成図である。
【0015】
ねじ孔加工装置(1)は、タップ(3)を使用してワーク(W)にねじ孔(S)の加工を行うもので、タップ(3)を回転させる主軸モータ(2)と、主軸モータ(2)を制御するモータ制御装置(4)と、主軸モータ(2)の電力を計測する電力計(5)と、電力計(5)で計測された電力のデータ処理を行うパソコン(6)とを備えている。
【0016】
主軸モータ(2)は、3相モータとされ、U相、V相、W相の3相への通電をインバータ制御して回転磁界を発生させ、モータ回転子を回転駆動するものとされている。
【0017】
図2に示すように、タップ(3)は、一定の外径を有する完全ネジ部(3a)と、完全ネジ部(3a)に連なり徐々に外径が小さくなるテーパ状とされた不完全ネジ部(3b)とからなる。
【0018】
ワーク(W)には、下穴(H)が設けられている。下穴(H)は、不完全ネジ部(3b)の先端径よりも大きい径に形成されている。下穴(H)内を不完全ネジ部(3b)が通過することで、下穴(H)が最終のねじ孔(S)に近い形状となり、これをさらに完全ネジ部(3a)が通過することで、ねじ孔(S)の加工が完了する。
【0019】
パソコン(6)には、電力波形からタップ(3)の交換時期を判定する判定プログラムを含むタップ交換時期算出手段(7)が設けられている。
【0020】
タップ交換時期算出手段(7)では、タップ(3)による加工状態を複数の区間に分け、それぞれの区間内での変化や区間同士を比較することで、タップ(3)の摩耗状態や破損状態を判別して、タップ(3)の交換時期を算出している。
【0021】
複数の区間は、
図2(a)に示す不完全ネジ部(3b)の切込み中(区間A)、
図2(b)に示す不完全ネジ部(3b)の下穴(H)通過中(区間B)、
図2(c)に示す不完全ネジ部(3b)が下穴(H)通過完了(区間C)および
図2(d)に示すタップ抜き(区間D)の4つとされている。
【0022】
図2(a)の不完全ネジ部(3b)の切込み中(区間A)は、ワーク(W)の下穴(H)内に不完全ネジ部(3b)の一部または全部が入っている状態をいう。
図2(b)の不完全ネジ部(3b)の下穴(H)通過中(区間B)は、不完全ネジ部(3b)の先端部が下穴(H)から徐々に出て行っている状態をいう。
図2(c)の不完全ネジ部(3b)が下穴(H)通過完了(区間C)は、不完全ネジ部(3b)の全てが下穴(H)から出て、完全ネジ部(3a)によってねじ孔(S)が形成されていく状態をいう。
図2(d)のタップ抜き(区間D)は、タップ(3)を正回転させてのねじ孔(S)の加工が完了し、タップ(3)を逆回転させて加工前の位置に戻している状態をいう。
【0023】
図2に示すように、タップ(3)を使用した1回のねじ孔(S)の加工において、区間Aでは、電力が増加し、区間Bでは、電力がほぼ一定となり、区間Cでは、電力が減少し、区間Dでは、電力は小さい値でほぼ一定となる。
【0024】
図3には、加工数の増加に伴って、区間Bにおける平均電力値(区間内のデータ数の平均値)および区間Cにおける平均電力値(区間内のデータ数の平均値)がどのように変化するかを示している。同図において、区間Bおよび区間Cにおける平均電力値は、加工数の増加とともに、いずれもその値が少しずつ増加している。すなわち、区間Bおよび区間Cにおける平均電力値と加工数とは相関があるので、区間Bおよび区間Cにおける平均電力値を利用して、加工数の限界値(タップ交換時期)の判定が可能である。また、区間Bにおける平均電力値は、増加率がほぼ一定であるのに対し、区間Cにおける平均電力値は、区間C/区間B≧60%と示している基準線を越えると、増加率が大きくなっている。このことから、区間Cの平均電力値/区間Bの平均電力値(=不完全ネジ部が下穴通過完了後の区間の平均電力値/不完全ネジ部が下穴通過中の区間の平均電力値)を使用して、タップ交換時期の判定が可能である。
【0025】
図4に、区間Cの平均電力値/区間Bの平均電力値を示す。同図において、(a)は、平均化処理を行わない場合を示し、(b)は、(a)のデータを平均化処理した場合を示している。平均化処理は、平均化数n=5、すなわち、第N回目の加工を行った際に、第(N−4)回目の加工から第N回目の加工までの5回分の平均値を求めるようにした。
図4から、平均化処理を行わない場合には、ばらつきが大きく、交換時期の算出精度に影響が出る可能性があるのに対し、平均化処理を行うことで、ばらつきが小さくなり、交換時期の算出精度が向上することが分かる。
【0026】
図3および
図4において、交換時期として、タップ(3)の有効径変化より算出した「有効径変化」が1つの基準になる。上記実施形態では、安全を見込んで、タップ交換の判定基準としては、例えば、区間Cの平均電力値/区間Bの平均電力値≧60%が使用される。上記のように、算出精度が向上していることで、不必要な安全を見込む必要はなく、この判定基準に基づいて、無駄のないタップ(3)交換が可能となる。閾値60%は、一例であり、判定基準を区間Cの平均電力値/区間Bの平均電力値≧70%や区間Cの平均電力値/区間Bの平均電力値≧80%とすることももちろん可能である。
【0027】
なお、図示省略するが、区間Dにおいても、区間Bや区間Cと同様に、加工数の増加に伴って、平均電力値が徐々に増加する。したがって、区間Dの平均電力値を使用しても、タップ交換時期の判定が可能である。すなわち、
図2に示すように、複数の区間に分けるとともに、各区間ごとの平均電力値の変化を見ることにより、各区間の平均電力値の変化の特徴に基づいた精度のよいタップ交換時期の判定が可能となる。
【0028】
上記のタップ交換時期の判定は、タップ(3)の摩耗による交換時期を算出するものであるので、加工中の突発的な異常(タップ(3)の折れや欠け)時には対応できない。この突発異常に対しては、
図5に示すように、全ての区間について、現在加工波形と1個前加工の波形から計算した上限値および1個前加工の波形から計算した下限値とを比較することで対応できる。例えば、
図5において、丸で囲んだような波形が出て、1個前加工波形の上限値を超えた場合、タップ(3)の突発異常との判定が可能であり、タップ(3)の交換時期の判定をさらに精度よく行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
(2):主軸モータ、(3):タップ、(3b):不完全ネジ部、(5):電力計