特許第5966639号(P5966639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966639
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】塩水淡水化装置および造水方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20160728BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20160728BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20160728BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   B01D61/12
   B01D61/58
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-130557(P2012-130557)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-252502(P2013-252502A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 亘
(72)【発明者】
【氏名】小島 令嗣
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−149284(JP,A)
【文献】 特開2009−119345(JP,A)
【文献】 特開2009−154070(JP,A)
【文献】 特開2009−131785(JP,A)
【文献】 特開2006−263542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/12
B01D 61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水を昇圧する供給ポンプと、
昇圧された前記塩水を逆浸透膜によって第1淡水と第1濃縮水とに分離する1段目逆浸透膜モジュールと、
前記第1淡水を逆浸透膜によって第2淡水と第2濃縮水とに分離する2段目逆浸透膜モジュールと、
一端が塩水供給ユニットに結合され、他端が前記供給ポンプに結合された第1塩水供給ラインと、
一端が前記供給ポンプに結合され、他端が前記1段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合された第2塩水供給ラインと、
一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1淡水排出口に結合され、他端が前記2段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合され、前記第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量を測定できる水質計、バイパスライン分岐部およびバイパスライン切替ユニットを有する第1淡水排出ラインと、
一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1濃縮水排出口に結合され、他端が濃縮水回収ユニットに結合された第1濃縮水排出ラインと、
一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2淡水排出口に結合され、他端が処理水回収ユニットに結合された処理水排出ラインと、
一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2濃縮水排出口に結合され、他端が前記第1濃縮水排出ラインに結合された第2濃縮水排出ラインと、
一端が前記バイパスライン分岐部に結合され、他端が前記処理水排出ラインに結合されたバイパスラインと、
前記水質計より得られた水質データに基づいて、前記バイパスライン切替ユニットを制御するバイパスライン制御ユニットと、
を備えた塩水淡水化装置。
【請求項2】
塩水を昇圧する供給ポンプと、
昇圧された前記塩水を逆浸透膜によって第1淡水と第1濃縮水とに分離する1段目逆浸透膜モジュールと、
前記第1淡水を逆浸透膜によって第2淡水と第2濃縮水とに分離する2段目逆浸透膜モジュールと、
一端が塩水供給ユニットに結合され、他端が前記供給ポンプに結合された第1塩水供給ラインと、
一端が前記供給ポンプに結合され、他端が前記1段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合された第2塩水供給ラインと、
一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1淡水排出口に結合され、他端が前記2段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合され、バイパスライン分岐部およびバイパスライン切替ユニットを有する第1淡水排出ラインと、
一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1濃縮水排出口に結合され、他端が濃縮水回収ユニットに結合された第1濃縮水排出ラインと、
一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2淡水排出口に結合され、他端が処理水回収ユニットに結合された処理水排出ラインと、
一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2濃縮水排出口に結合され、他端が前記第1濃縮水排出ラインに結合された第2濃縮水排出ラインと、
一端が前記バイパスライン分岐部に結合され、他端が前記処理水排出ラインに結合されたバイパスラインと、
を備えた塩水淡水化装置を用いて塩水を淡水化して処理水を得る造水方法であって、
前記第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量に基づいて、前記バイパスライン切替ユニットを制御することを特徴とする造水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜モジュールを用いて塩水から淡水を得る塩水淡水化装置および造水方法に関するものであって、詳しくは、処理水の水質に応じて最適な運転方法を決定する塩水淡水化装置および造水方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜法による海水淡水化及びかん水淡水化は、相変化無しに塩分や有害物質を分離除去でき、運転管理が容易でエネルギー的に有利であることから、飲料用或いは工業用の淡水を取得する分野で利用されている。逆浸透膜の透過性、分離性の低下を防ぐために、通常、海水やかん水を逆浸透膜に供給する前に、砂ろ過、凝集沈殿、加圧浮上、精密ろ過膜と限外ろ過膜のろ過などの方法を用いて前処理を行っている。
【0003】
逆浸透膜の透過原理から、海水またはかん水など、ある程度の塩分を含んだ供給水が逆浸透膜を透過するには、高圧ポンプなどを用いて供給水の圧力を浸透圧以上にする必要がある。浸透圧は塩分濃度と関係するが、例えば海水を逆浸透膜で分離する場合、最低3MPa程度以上、実用性を考慮すると少なくとも5MPa程度以上の圧力が必要となる。かん水の場合でも最低1MPa程度以上の圧力が必要となる。
【0004】
また生産水の目標水質に対し、1段の逆浸透膜モジュールのみで必要な処理水水質が得られない場合、1段目逆浸透膜モジュールの処理水を2段目逆浸透膜モジュールに供給して処理を行う2段処理を行うことがある。2段処理を行うことにより、1段の逆浸透膜モジュールのみでは得られなかった良好な処理水水質を得ることができる。一方で、2段処理を行う上でのデメリットとして、トータル回収率の低下が挙げられる。回収率とは、処理水量/供給水量の比を示し、1に近いほど同量の供給水から得られる処理水量が多いことを示す。トータル回収率とは、2段の逆浸透膜モジュールを備えた塩水淡水化装置における、2段目処理水量/1段目供給水量の比を示す。一般的なTDS(総溶存塩濃度)が35000mg/Lの海水を処理する場合、1段目逆浸透膜モジュールの回収率は30%〜60%程度であり、2段目逆浸透膜モジュールの回収率は70%〜90%程度とすることが多い。つまり、1段処理では30%〜60%程度の回収率で処理水を生産できていたが、2段処理とすることよってトータル回収率が21%〜54%に低下する。
【0005】
供給水が、あらかじめ塩分濃度が明確となっている水であれば、その供給水の塩分濃度にあわせて装置を設計することによって、必要な処理水水質、水量を得ることができるが、災害対策用などの様々な原水を供給水として使用しなければならない装置においては、供給水の塩分濃度が設計時から明らかになっておらず、1段処理で処理可能な低塩分濃度の水を2段処理してしまうと、無駄に処理水量を減らすことになってしまう。
【0006】
この問題を解決するため、様々な提案がなされている。特許文献1では原水が海水の場合は2段処理を行い、かん水の場合は1段処理できるよう2段目逆浸透膜モジュールをバイパスするラインを用いた造水方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−263542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、1段目逆浸透膜モジュールの処理水は原水が海水、かん水であるか、すなわち原水の塩分濃度以外にも様々な変動要因がある。
【0009】
例えば通常逆浸透膜は連続もしくは断続運転することによりは経時劣化するため、その脱塩処理能力も徐々に低下する。その結果、1段処理時に生産水基準を逸脱した処理水を生産してしまう問題を抱えている。また逆浸透膜の処理能力は供給水の温度によっても大きく左右され、例えば海水などの高塩分濃度を供給水とする場合、温度が低ければ供給水の粘度が上昇し1段目逆浸透膜の脱塩能力が向上し、1段処理で十分な水質にも関わらず、2段処理を行うことで無駄に生産水を減少させてしまう問題を抱えている。
【0010】
本発明の目的は、逆浸透膜モジュールを用いて海水やかん水などの塩水から淡水を得る塩水淡水化装置において、原水の塩分濃度、原水温度、1段目逆浸透膜モジュールの脱塩性能等によらず一定の処理水量、処理水質を確保することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本発明は、次の特徴を有するものである。
【0012】
(1)塩水を昇圧する供給ポンプと、昇圧された前記塩水を逆浸透膜によって第1淡水と第1濃縮水とに分離する1段目逆浸透膜モジュールと、前記第1淡水を逆浸透膜によって第2淡水と第2濃縮水とに分離する2段目逆浸透膜モジュールと、一端が塩水供給ユニットに結合され、他端が前記供給ポンプに結合された第1塩水供給ラインと、一端が前記供給ポンプに結合され、他端が前記1段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合された第2塩水供給ラインと、一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1淡水排出口に結合され、他端が前記2段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合され、前記第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量を測定できる水質計、バイパスライン分岐部およびバイパスライン切替ユニットを有する第1淡水排出ラインと、一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1濃縮水排出口に結合され、他端が濃縮水回収ユニットに結合された第1濃縮水排出ラインと、一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2淡水排出口に結合され、他端が処理水回収ユニットに結合された処理水排出ラインと、一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2濃縮水排出口に結合され、他端が前記第1濃縮水排出ラインに結合された第2濃縮水排出ラインと、一端が前記バイパスライン分岐部に結合され、他端が前記処理水排出ラインに結合されたバイパスラインと、前記水質計より得られた水質データに基づいて、前記バイパスライン切替ユニットを制御するバイパスライン制御ユニットと、を備えた塩水淡水化装置。
【0013】
(2)塩水を昇圧する供給ポンプと、昇圧された前記塩水を逆浸透膜によって第1淡水と第1濃縮水とに分離する1段目逆浸透膜モジュールと、前記第1淡水を逆浸透膜によって第2淡水と第2濃縮水とに分離する2段目逆浸透膜モジュールと、一端が塩水供給ユニットに結合され、他端が前記供給ポンプに結合された第1塩水供給ラインと、一端が前記供給ポンプに結合され、他端が前記1段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合された第2塩水供給ラインと、一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1淡水排出口に結合され、他端が前記2段目逆浸透膜モジュールの供給口に結合され、バイパスライン分岐部およびバイパスライン切替ユニットを有する第1淡水排出ラインと、一端が前記1段目逆浸透膜モジュールの第1濃縮水排出口に結合され、他端が濃縮水回収ユニットに結合された第1濃縮水排出ラインと、一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2淡水排出口に結合され、他端が処理水回収ユニットに結合された処理水排出ラインと、一端が前記2段目逆浸透膜モジュールの第2濃縮水排出口に結合され、他端が前記第1濃縮水排出ラインに結合された第2濃縮水排出ラインと、一端が前記バイパスライン分岐部に結合され、他端が前記処理水排出ラインに結合されたバイパスラインと、を備えた塩水淡水化装置を用いて塩水を淡水化して処理水を得る造水方法であって、前記第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量に基づいて、前記バイパスライン切替ユニットを制御することを特徴とする造水方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、逆浸透膜モジュールを用いて海水やかん水などの塩水から淡水を得る塩水淡水化装置において、原水の塩分濃度、原水温度、1段目逆浸透膜モジュールの脱塩性能等によらず1段目逆浸透膜モジュールの処理水水質を目標水質と比較し、2段目逆浸透膜モジュールのバイパスラインを切り替えることで一定の処理水量、処理水質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の造水方法に係る1段目逆浸透膜モジュールの処理水水質を計測可能とした塩水淡水化装置を示すフロー図である。
図2】1段目逆浸透膜モジュール、及び2段目逆浸透膜モジュールを有する従来の塩水淡水化装置を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を説明するために、まず、1段目逆浸透膜モジュール、及び2段目逆浸透膜モジュールを有する従来の塩水淡水化装置を比較例として説明する。
【0017】
従来の塩水淡水化装置は、図2に示すように、主に、供給ポンプ1、逆浸透膜(RO膜)からなる1段目逆浸透膜モジュール2、同じく逆浸透膜からなる2段目逆浸透膜モジュール3、2段目逆浸透膜モジュール3への通水ラインとバイパスライン16とを切り替えるための2段目逆浸透膜供給弁4、2段目逆浸透膜バイパス弁5、2段目逆浸透膜モジュール3への逆流を防止する2段目逆浸透膜モジュール淡水出口逆止弁6からなる。
【0018】
従来の塩水淡水化装置の塩水淡水化のフローは、典型的には次に述べるとおりである。前処理装置から導入された塩水が供給ポンプ1によって加圧され、1段目逆浸透膜モジュール2に供給される。1段目逆浸透膜モジュール2にて、逆浸透膜法により第1淡水、及び第1濃縮水に分離され、その第1淡水は2段目逆浸透膜モジュール3に供給される。2段目逆浸透膜モジュール3にて、逆浸透膜法により第2淡水、及び第2濃縮水に分離され、第2淡水は処理水として取り出される。1段目逆浸透膜モジュール2から排出される第1濃縮水、及び2段目逆浸透膜モジュール3から排出される第2濃縮水はいずれも濃縮水として系外に排出される。
【0019】
従来の塩水淡水化装置を用いた造水方法は、典型的には次に述べるとおりである。前処理装置に導入される塩水が海水の場合、1段目逆浸透膜モジュールの第1淡水を2段目逆浸透膜モジュール3に供給し処理水を得る。即ち、2段目逆浸透膜供給弁4を開とし、且つ2段目逆浸透膜バイパス弁5を閉止し、1段目逆浸透膜モジュール2で得られた第1淡水の全量を2段目逆浸透膜モジュール3に供給し、処理水を得る。前処理に供給される塩水がかん水の場合、1段目逆浸透膜モジュール2の第1淡水を2段目逆浸透膜モジュール3をバイパスして処理水を得る。即ち2段目逆浸透膜供給弁4を閉止し、且つ2段目逆浸透膜バイパス弁5を開とし、1段目逆浸透膜モジュール2で得られた第1淡水をそのまま処理水として系外に排出する。
【0020】
ここで、本発明に係る1段目逆浸透膜モジュール2および2段目逆浸透膜モジュール3に使用される逆浸透膜とは、供給液の一部の成分、例えば塩分を透過させ他の成分を透過させない半透性膜である。その素材には酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材が使用できる。膜形態には中空糸膜、平膜などがある。本発明では、逆浸透膜の素材、膜形態によらず利用することができる。いずれの膜素材及び、膜形態を使用した場合でも断続、もしくは連続的に脱塩処理を行うことで、その脱塩能力は経時的に低下する。そのため、従来の塩水淡水化装置を用いた造水方法では、かん水を供給水とする1段処理において生産水水質も経時的に低下し、その結果、生産水基準を逸脱する問題を抱えている。
【0021】
ここで本発明に係る1段目逆浸透膜モジュール2及び、2段目逆浸透膜モジュール3に使用される逆浸透膜は原水である塩水の粘度によりその脱塩能力は大きく左右される。つまり粘度が高ければ脱塩能力が向上し、粘度が低くなれば脱塩能力は低下する。また災害対策用の塩水淡水化装置などでは、原水となる塩水には北極圏などの0℃に近い海水から、中東の40℃を超える海水も対象となる。一般的に温度が低くなるにつれ塩水の粘度は上昇し、温度が高くなるにつれ塩水の粘度は低下する。即ち温度の低い塩水を脱塩処理する場合、脱塩能力は向上し、温度の高い塩水を脱塩処理する場合、脱塩能力は低下する。例えば塩水塩濃度(TDS)25,000mg/Lの場合、水温が30℃以上であれば1段目逆浸透膜モジュール処理後の処理水塩濃度(TDS)は200mg/L以上となり、水温が30℃未満であれば1段目逆浸透膜モジュール処理後の処理水塩濃度(TDS)は200mg/L未満となる。つまりは従来の塩水淡水化装置の造水方法では海水であれば必ず2段処理を行っているため温度の低い海水を処理する場合、必要以上に脱塩することにより回収率の低下を招き、結果生産水量を無駄に低下させている問題がある。
【0022】
また災害対策用の塩水淡水化装置などで処理する塩水とは塩分を含む水の総称であり、塩化物イオン濃度が300から15,000mg/L程度の一般的にかん水と呼称する比較的低濃度の塩水や、塩化物イオン濃度が15,000から40,000mg/L程度の一般的に海水と呼称する比較的高濃度の塩水などを指すが、海水とかん水には明確な区分けは無く、比較的低濃度の海水をかん水として扱っても良い。さらには塩水の取水場所によって、例えば海に近い河川などは、潮の満ち引き等により経時的に塩分濃度は変化する。従来の塩水淡水化装置においては前記のように経時的に塩分濃度が変化する塩水を処理することから2段目逆浸透膜モジュールのバイパス可否判断するにあたり困難である問題を抱えている。
【0023】
前記のような様々な問題を解決するための本発明では原水水質、温度、逆浸透膜の脱塩性能によらず一定の処理水質、処理水量を得ることができる造水方法を提案する。本発明に係る実施形態は図1に示す通りである。
図1に示すように、主に、塩水を昇圧する供給ポンプ1と、昇圧された前記塩水を逆浸透膜によって第1淡水と第1濃縮水とに分離する1段目逆浸透膜モジュール2と、前記第1淡水を逆浸透膜によって第2淡水と第2濃縮水とに分離する2段目逆浸透膜モジュール3と、一端が塩水供給ユニットに結合され、他端が供給ポンプ1に結合された第1塩水供給ライン9と、一端が供給ポンプ1に結合され、他端が1段目逆浸透膜モジュール2の供給口に結合された第2塩水供給ライン10と、一端が1段目逆浸透膜モジュール2の第1淡水排出口に結合され、他端が2段目逆浸透膜モジュール3の供給口に結合され、前記第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量を測定できる水質計7、バイパスライン分岐部11およびバイパスライン切替ユニットを有する第1淡水排出ライン12と、一端が1段目逆浸透膜モジュール2の第1濃縮水排出口に結合され、他端が濃縮水回収ユニットに結合された第1濃縮水排出ライン13と、一端が2段目逆浸透膜モジュール3の第2淡水排出口に結合され、他端が処理水回収ユニットに結合された処理水排出ライン14と、一端が2段目逆浸透膜モジュール3の第2濃縮水排出口に結合され、他端が第1濃縮水排出ライン13に結合された第2濃縮水排出ライン15と、一端がバイパスライン分岐部11に結合され、他端が処理水排出ライン14に結合されたバイパスライン16と、水質計7より得られた水質データに基づいて、前記バイパスライン切替ユニットを制御するバイパスライン制御ユニット8と、を備える。
【0024】
ここで1段目逆浸透膜モジュールの処理水水質を計測する水質計は塩分濃度を測定できるもの、若しくは塩分濃度と相関があって塩分濃度に換算可能な物理量である電気伝導度、塩化物イオン量、ナトリウムイオン量、総電解質量、屈折率、分光光度等であれば制約は無く、例えば電気伝導度計や塩分濃度計、TDS計、屈折率計、分光式濃度計などを使用することができる。
【0025】
例えば電気伝導度計を例に取ると、塩分濃度は被測定液体の電解質の量つまりは電気伝導度及び、温度と一定の相関係数を有した相関特性に依存して変化する。すなわち電気伝導度及び、温度を測定し前記相関特性を介して塩分濃度に換算することができる。また屈折率計を例に取ると、被測定液体と検出部であるプリズムの境界面にできる屈折率は塩分濃度、及び、温度と一定の相関係数を有した相関特性に依存して変化する。即ち、被測定液体の屈折率と温度を測定し前記相関特性を介して塩分濃度に換算することができる。
【0026】
またバイパスライン16への切り替え手段である2段目逆浸透膜供給弁4、2段目逆浸透膜バイパス弁5は送水ラインを切り替えるものであれば特に制約は無く、その形態はボール弁、バタフライ弁、グローブ弁等を使用することができる。その駆動方式は制御装置などから自動切り替え可能な駆動方式が望ましく、電気モータ駆動による電動弁や圧縮空気駆動によるエアー駆動弁、電磁コイルを駆動源とした電磁弁などを使用することができる。また水質比較演算制御部8は水質データを水質基準値と比較し、前記切り替え手段であるバルブへの切り替え指示を出力できるものであれば特に制約は無く、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)や分散型コントロールシステム(DCS)、ディジタル指示計、マイコンなどを使用することができる。
【0027】
また本発明の塩水淡水化装置は主に災害対策用等で使用されることを考慮し、取水場所への可搬性等から小スペースに設置可能なコンパクトな装置構成が必要である。そのため1段目逆浸透膜モジュール2の処理水ラインと2段目逆浸透膜モジュール3の供給水ラインは直接接続され、1段目処理水を貯留する中間タンクや前記中間タンクから2段目逆浸透膜モジュールへ供給するための供給ポンプは設置せず、1段目逆浸透膜モジュール2と2段目逆浸透膜モジュール3とが直結配置とされていることが好ましい。
【0028】
本発明の造水方法は、具体的には次の通り実施される。
【0029】
原水が海水、かん水に関わらず、いかなる水質、温度であっても、また1段目逆浸透膜の性能劣化具合に関わらず、塩水を1段目逆浸透膜モジュール2へ供給し、第1淡水と第2濃縮水に分離する。同時に1段目逆浸透膜モジュール2より得られた第1淡水の塩分濃度または塩分濃度に換算可能な物理量を水質計により計測し、計測した水質データを水質比較演算制御部にて水質基準値と比較演算を行う。この時、計測した水質データが水質基準値未満であれば、水質比較演算部からの切り替え指示により2段目逆浸透膜モジュール供給弁4を閉止し、且つ2段目逆浸透膜モジュールバイパス弁5を開とし、1段目逆浸透膜モジュール2で得られた第1淡水をそのまま生産水としてバイパスライン16を介し、系外に排出する。また計測した水質データが水質基準値以上であれば水質比較演算部からの切り替え指示により2段目逆浸透膜供給弁4を開とし、且つ2段目逆浸透膜バイパス弁5を閉止し、1段目逆浸透膜モジュール2で得られた第1淡水の全量を2段目逆浸透膜モジュール3に供給し、生産水を得る。
【0030】
ここで水質比較演算部にて比較する水質基準値は特に制約はなく、生産水の用途によって決定される閾値である。例えば、飲料水として使うので有れば世界保健機構(WHO)の水質基準値(TDS:500mg/L)や日本水質基準で規定されている基準値(TDS:200mg/L)を使用することが望ましい。また半導体等の工業用水として使用する超純水であれば用途的に高純度の水質が求められ、飲料水基準よりはるかに低い基準値を使用し、例えばTDS値で0.05mg/L程度とすることが望ましい。
【0031】
具体的な実施例は下記の通りである。
【0032】
前処理装置へ供給される塩水のTDS値が25,000mg/L、水温25℃、ポリアミドを膜素材とした逆浸透膜を使用し、第1淡水水質基準値をTDS値200mg/Lとしたとき、1段目逆浸透膜モジュール2の第1淡水の処理水水質はTDS値150mg/Lとなり、日本飲料水基準値200mg/Lを満足し、比較演算制御部からの指示によりバイパスライン16へ切り替えられ、第1淡水はバイパスライン16を経由して生産水として系外に排出された。
【0033】
一方で前処理装置へ供給される塩水のTDS値が25,000mg/L、水温36℃、ポリアミドを膜素材とした逆浸透膜を使用し、第1淡水水質基準値をTDS値200mg/Lとしたとき、1段目逆浸透膜モジュール2の第1淡水の処理水水質はTDS値350mg/Lとなり、日本飲料水基準値200mg/Lを満足せず、比較演算制御部からの指示により1段目逆浸透膜モジュール2から排出される第1淡水を2段目逆浸透膜モジュール3への送水ラインに切り替えられ、2段目逆浸透膜モジュール3より排出される第2淡水を生産水として系外に排出された。
【0034】
このように、本発明の造水方法に基づき、原水の塩分濃度、原水温度、1段目逆浸透膜モジュールの脱塩性能等によらず1段目逆浸透膜モジュールの処理水水質を水質基準値と比較し、2段目逆浸透膜モジュールのバイパスラインを切り替えることで一定の処理水量、処理水質を確保することができる。
【符号の説明】
【0035】
1:供給ポンプ
2:1段目逆浸透膜モジュール
3:2段目逆浸透膜モジュール
4:2段目逆浸透膜供給弁
5:2段目逆浸透膜バイパス弁
6:2段目逆浸透膜モジュール淡水出口逆止弁
7:水質計
8:バイパスライン制御ユニット
9:第1塩水供給ライン
10:第2塩水供給ライン
11:バイパスライン分岐部
12:第1淡水排出ライン
13:第1濃縮水排出ライン
14:処理水排出ライン
15:第2濃縮水排出ライン
16:バイパスライン
図1
図2